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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1352564
審判番号 不服2017-14855  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-05 
確定日 2019-06-13 
事件の表示 特願2013- 53631「電流リード」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日出願公開,特開2014-179526〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年3月15日に出願された特願2013-53631号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成28年 6月10日付け:拒絶理由通知
平成28年 8月 9日 :意見書
平成28年 8月 9日 :手続補正書
平成29年 1月17日付け:最後の拒絶理由通知
平成29年 3月13日 :意見書
平成29年 3月13日 :手続補正書
平成29年 7月 3日付け:補正の却下の決定(平成29年3月13日付けの手続補正)
平成29年 7月 3日付け:拒絶査定
平成29年10月 5日:審判請求
平成29年10月 5日:手続補正書
平成30年10月 9日:拒絶理由通知
平成30年12月17日:意見書
平成30年12月17日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「【請求項1】
テープ状をなしており,且つ超電導体で構成された超電導層を有する部材である超電導テープ線材と,
前記超電導テープ線材の長手方向に並行して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち一方の面に結合されて前記超電導層と電気的に接続されている導体であり,当該超電導層を迂回して電流を流すことが可能なバイパス導体と,
を有し,
前記超電導テープ線材は,前記超電導テープ線材の長手方向に前記超電導層と隣接して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち当該超電導層を有する側の表面を構成しており,空気中の水分から当該超電導層を保護するための金属製の保護層を含み,
前記超電導テープ線材の長手方向に前記超電導層と並行して延びており,当該超電導テープ線材の前記保護層と前記バイパス導体との間に挟まれており,半田で構成されている半田層を,さらに有し,
前記超電導層は,前記保護層及び前記半田層を介して前記バイパス導体と電気的に接続されており,
前記超電導テープ線材,前記半田層及び前記バイパス導体の前記長手方向の外側に配置された金属製の金属電極を,さらに有し,
前記超電導テープ線材,前記半田層及び前記バイパス導体は,
前記超電導層においてクエンチが生じた場合に,この超電導層を流れていた電流は,超電導層のクエンチが生じた領域を迂回し,前記保護層及び前記半田層を通って前記バイパス導体に流れるように,これらの長手方向の両端に,前記金属電極が結合されていることを特徴とする電流リード。」

第3 拒絶の理由
平成30年10月9日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由4は,本願発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし8に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特開2003?324013号公報
引用文献2.特開2009?48987号公報
引用文献3.特開2012?4029号公報
引用文献4.特開2012?160331号公報
引用文献5.特表2011?522380号公報
引用文献6.特開2011?165625号公報
引用文献7.特開2012?59468号公報
引用文献8.特開2011?211110号公報

第4 引用文献と周知例の記載及び引用発明
(1)引用文献の記載と引用発明
ア 引用文献1
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2003?324013号公報(引用文献1)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付した。以下同じ。)。

(ア)「【請求項1】酸化物超電導体と,該酸化物超電導体の両端に接続された電極端子とからなる酸化物超電導体電流リードにおいて,前記酸化物超電導体の端面以外の一面と前記電極端子の端面以外の一面とを電気的に接続する接続部を有する電流リードであって,前記電極端子が,前記接続部の断面積よりも大きな断面積を有する部位を有する電極端子であることを特徴とする酸化物超電導体電流リード。
・・・
【請求項4】 前記酸化物超電導体の端面も前記電極端子に電気的に接続されている請求項1?3のいずれかに記載の酸化物超電導体電流リード。
【請求項5】 前記酸化物超電導体電流リードの少なくとも酸化物超電導体及び酸化物超電導体と電極端子との接続部が,補強支持体で補強されてなる請求項1?4のいずれかに記載の酸化物超電導体電流リード。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,超電導マグネット等の極低温機器に電流を供給するための電流リードに関する。
【0002】
【従来の技術】電流リードとは,室温の電流供給源から極低温の超電導マグネットに電流を供給する導体のことである。
・・・
【0003】酸化物超電導体を電流リードとして利用するためには,酸化物超電導体に外部と接続するための電極端子を取り付ける必要がある。酸化物超電導体電流リードの電極端子構造や接続方法の従来例としては,例えば,特開平7-297025号公報に記載されているようなものがあり,その簡略化した構造断面図を図5に従来例として示すように,酸化物超電導体1の片面が,断面積が一様な電極端子10の片面と電気的に接続している。 ・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,断面積の一様な電極端子を有する酸化物超電導体電流リードには,臨界電流が低くなるという問題があった。すなわち,酸化物超電導体自身には抵抗がなくジュール発熱は生じないが,酸化物超電導体と電極端子の接続部分には接触抵抗が存在し,接続部分のジュール発熱によって酸化物超電導体の温度が局部的に上昇し,臨界電流が低くなるのである。この問題を防ぐためには,接続部分のジュール発熱を速やかに抜熱する必要がある。抜熱だけなら,単に一様な断面積の電極端子の厚さを厚くすればよいが,電流リード全体が大型化してかさばったものになり,さらに必要以上に厚くすると機械的強度が小さい酸化物超電導体への機械的負担が大きくなり,酸化物超電導体が割れやすくなるという別の問題が生じる。本発明は,上記の問題を解決し,組立が簡便で,小型で,臨界電流が大きい酸化物超電導体電流リードを提供することである。」

「【0011】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて詳述する。図1は,本発明に基づいた酸化物超電導体電流リードの一実施形態を示す構造断面図である。図1では,酸化物超電導体1の両端に電極端子2が接続しており,機械的強度改善のため補強支持体3でカバーされている。酸化物超電導体1と電極端子2は端面以外の1つの面で接続されている。電極端子は段差を有する構造となっており,電極端子の段差の低い部分で酸化物超電導体と電極端子が電気的に接続している。図1では,電極端子の外部と接続する部分で再び段差が低くなっている。電極端子の外部接続部分は,冷媒または冷凍機によって直接冷却される部分であり,電流容量から要求される電極端子の断面積に戻してもよいことから段差を再び低くしている。図1のような構造の酸化物超電導体電流リードにすることによって,図5に示す従来例の酸化物超電導体電流リードに比べて,外見上は同じサイズであるのに,酸化物超電導体と電極端子の接続部分の抜熱効果を高め,臨界電流を高くできる。
【0012】本発明に用いる酸化物超電導体は,酸化物超電導体であればよく,Y系,Bi系等適宜用いることができるが,ピンニング力の強い酸化物超電導体の方がより強い漏洩磁場中でも動作可能であるので好ましい。ピンニング力の強い酸化物超電導体の例としては,QMG材と呼ばれるもので,単結晶状のREBa_(2)Cu_(3)O_(x)相(REはYまたは希土類元素およびその組み合わせ)中にRE_(2)BaCuO_(5)相が微細分散している酸化物超電導体がある。
【0013】また,本発明に用いる電極端子としては,CuやAg等の電気的良導体が好ましく,半田付け作業を簡便にするため表面をSnやNi等でメッキしたものが好ましい。また,図1に示した補強支持体は必ず必要なものではないが,機械的強度改善のためには補強支持体を用いた方が好ましい。補強支持体としては,剛性があり熱伝導率が比較的小さいものであればよく,繊維強化プラスチック,ステンレス,チタンおよびチタン合金,銅合金,フィラー配合樹脂,ベークライト等が好ましい。
・・・
【0015】図3は,本発明に基づいた電流リードの別の実施形態を示す構造断面図である。図1では酸化物超電導体1と電極端子2は端面以外の1つの面で接続されているが,図3では電極端子2の段差を利用して酸化物超電導体1の端面も電極端子に接続されている。電極端子の段差を利用することで,片側から押し付けながら半田付け等の電気的接続作業を行うことができるという組立作業の簡便性を維持しながら,2つの面で接続することで,接続部で生じるジュール発熱の抜熱効果を高めるとともに,酸化物超電導体と電極端子の接続部の接触抵抗を小さくしジュール発熱自体を小さくすることができるという利点がある。
・・・
【0017】本発明の効果を調べるため,図1に示した本発明の酸化物超電導体電流リード(試料A)と,図5に示した従来例の酸化物超電導体電流リード(試料B)に関して,臨界電流を比較した。試料Aと試料Bの製作においては,酸化物超電導体としてはY系酸化物超電導体を用い,電極端子としては無酸素銅を用い,補強支持体としてはGFRPを用いた。また,酸化物超電導体と電極端子との接続は半田付けで行った。酸化物超電導体1のサイズは,幅3mm,厚さ2mm,長さ40mmであった。試料B用の電極端子10のサイズは,幅4mm,厚さ2mm,長さ30mmであった。試料A用の電極端子2のサイズは,段差の高い部分は長さ10mm,厚さ4mmで,それ以外は試料B用の電極端子と同じであった。」

(イ)上記(ア)の記載を参酌すれば,図3から,電流リードの以下の構造を見て取ることができる。
a.酸化物超電導体1が,テープ状の部材であり,
b.前記酸化物超電導体1の長手方向の外側に配置された電極端子2を有し,
c.前記酸化物超電導体1は,この長手方向の両端に,前記電極端子2が結合されていること。

(ウ)さらに,上記(ア)の記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a.引用文献1に記載された発明は,極低温機器に電流を供給するための電流リードに関するものであること。
b.酸化物超電導体自身には抵抗がなくジュール発熱は生じないが,酸化物超電導体と電極端子の接続部分には接触抵抗が存在し,接続部分のジュール発熱によって酸化物超電導体の温度が局部的に上昇し,臨界電流が低くなること。
c.電極端子としては,CuやAg等の電気的良導体が好ましいこと。
d.酸化物超電導体と電極端子を端面以外の1つの面で接続することに加えて,電極端子の段差を利用して酸化物超電導体の端面も電極端子に接続することで,片側から押し付けながら半田付け等の電気的接続作業を行うことができるという組立作業の簡便性を維持しながら,2つの面で接続することで,接続部で生じるジュール発熱の抜熱効果を高めるとともに,酸化物超電導体と電極端子の接続部の接触抵抗を小さくしジュール発熱自体を小さくすることができるという利点があること。

(エ)上記(ア)?(ウ)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸化物超電導体が,テープ状の部材であり,前記酸化物超電導体の長手方向の外側に配置された電極端子を有し,前記酸化物超電導体の長手方向の両端に,前記電極端子が結合されている電流リード。」

イ 引用文献2
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2009?48987号公報(引用文献2)には,図面とともに,次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
酸化物超電導体層の表面に銀からなるコーティング層が設けられた酸化物超電導テープと安定化材テープとを,ハンダを介して接合して安定化材複合酸化物超電導テープを製造する方法であって,
酸化物超電導テープと安定化材テープとをハンダを挟んで重ね合わせた被複合化材を,一対の加熱・加圧ロールのみによって加圧して安定化材複合酸化物超電導テープを製造することを特徴とする安定化材複合酸化物超電導テープの製造方法。」

「【0001】
本発明は,酸化物超電導体層の表面に銀からなるコーティング層が設けられた酸化物超電導テープと安定化材テープとを,ハンダを介して接合して安定化材複合酸化物超電導テープを製造する方法に関し,・・・
・・・
【0002】
酸化物超電導テープは,テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングすることによって作製される。この酸化物超電導テープは,電気的な安全性を確保するため,表面に低抵抗金属をコーティングしてあるが,このコーティング材としては,酸化物超電導薄膜との界面が化学的に安定な銀が主に用いられている(例えば,特許文献1,2参照。)。
酸化物超電導テープの超電導特性が向上するにつれて,安定化材として必要な銀の厚さは厚くなり,現段階では100?200μmの厚さが必要となるといわれている。これを全て銀で構成すると,酸化物超電導テープが非常に高価になるため,銀は数μm以下の厚さに抑え,その上に銅を積層し,十分な厚さの安定化材を複合化した安定化材複合酸化物超電導テープを構成することが検討されている。
【0003】
このような厚さに銅を積層する方法として,メッキ等の湿式法によるコーティング,又はテープ状の金属銅をハンダで貼り合わせる方法が検討されている。メッキの場合は,銅が若干硬くなってしまうので,得られる安定化材複合酸化物超電導テープのフレキシビリティに影響を与える可能性が懸念される。一方,金属銅テープをハンダで貼り合わせた構造については,既に市販が開始されている(例えば,非特許文献1参照。)。」

「【0029】
以下,図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は,本発明の安定化材複合酸化物超電導テープの製造方法の一実施形態を説明する製造装置の構成図である。図1中,符号1は安定化材テープ,2は酸化物超電導テープ,3は予熱炉,4は加熱・加圧ロール,5は安定化材複合酸化物超電導テープ,6は被複合化材である。
【0030】
安定化材テープ1は,銅等の低抵抗金属テープ,あるいは真鍮,Ni-Cu合金,ステンレス鋼等の高抵抗の金属テープで,厚さは50μmから200μm程度である。本実施形態において,安定化材テープ1の片側にハンダ(スズに微量のCu,銀等を添加したもの,融点230℃)を2μmから10μm程度の厚さにメッキしてある。このように,予め安定化材テープ1の片面に,ハンダを薄くコーティングしてあるため,銀をコーティングした酸化物超電導テープ2の表面全体にハンダが接触した形を保つことができる。このような方法であれば,ハンダに対する濡れ性がさほど良くない金属表面であっても,フラックスを使わずに薄くハンダを伸ばすことができ,ハンダが厚すぎることによる機械的特性の悪化を防ぐことができる。
【0031】
酸化物超電導テープ2は,テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングし,さらに酸化物超電導薄膜上に,銀からなるコーティング層が設けられた構造になっている。
【0032】
本実施形態の製造方法は,安定化材テープ1のハンダメッキ面と酸化物超電導テープ2の銀コーティング面とを向かい合わせにした状態で,予熱炉3内に搬送し,これらのテープ1,2をハンダ溶融温度以上に加熱し(250℃以上),この被複合化材6を一対の加熱・加圧ロール4を通過させ,加圧すると共に,ハンダ溶融温度以下に冷却し(ロール表面で160-220℃),加圧下でハンダを凝固させ,安定化材複合酸化物超電導テープを高速で連続生産することが可能である。」

(イ)上記(ア)から,引用例2には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
a.酸化物超電導テープにおいて,電気的な安全性を確保するために,
テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングしたものの表面に,前記酸化物超電導薄膜との界面が化学的に安定な銀を,厚さが数μm以下となるように抑えてコーティングしたものと,金属銅テープとを,ハンダで貼り合わせた構造を有するものとした安定化材複合酸化物超電導テープが,既に市販されていること。(【0002】,【0003】)

b.テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングし,さらに酸化物超電導薄膜上に,銀からなるコーティング層が設けられた構造になっている酸化物超電導テープ2と,銅等の低抵抗金属テープである安定化材テープ1の片側にハンダをメッキしたものとを,安定化材テープ1のハンダメッキ面と酸化物超電導テープ2の銀コーティング面とを向かい合わせにした状態で加熱して,安定化材複合酸化物超電導テープを生産する方法。(【0029】-【0032】)

(2)周知例の記載と周知技術
ア 周知技術1
(ア)引用文献3
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2012?4029号公報(引用文献3)には,図面とともに,次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,超電導線材の金属端子接合構造体,および超電導線材と金属端子の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・酸化物超電導体を線材として製造する方法として,高強度で耐熱性もあり,線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工し,この金属基材上に酸化物超電導体を薄膜状に形成する方法が研究されている。酸化物超電導体を線材として得るためには,酸化物超電導薄膜(超電導層)上に銀や銅のような良導電性の金属層よりなる安定化層を設けるのが一般的である。安定化層は,超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に,該超電導層の電流を転流させるバイパスとして機能する。
【0003】このような酸化物超電導導体を,線材として実用機器に応用するには,外部電源や回路と酸化物超電導線材を電気的に接続するための金属端子と酸化物超電導線材の接続技術の確立が不可欠である。」

「【0025】
超電導層13上に積層されている保護層14はAgなどの良電導性かつ超電導層13と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。保護層14の厚さは1?30μmとすることが好ましい。保護層14は,公知の方法で形成することができるが,中でもスパッタ法で形成することが好ましい。
【0026】
超電導テープ1の保護層14上に積層されているハンダ付き安定化材テープ2は,安定化材テープ21と,安定化材テープ21の一方の面にメッキされた第1ハンダ21Aと,安定化材テープ21の他方の面にメッキされた第2ハンダ21Bとで構成されている。ハンダ付き安定化材テープ2は,超電導テープ1の保護層14上に,第1ハンダ21A,安定化材テープ21,第2ハンダ21Bの順となるよう積層されている。
【0027】
安定化材テープ21は,長尺テープ状である良導電性の金属材料からなり,超電導層13が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに,保護層14とともに,超電導層13の電流が転流するバイパスとして機能する。
長尺テープ状の安定化テープ21を構成する金属材料としては,・・・,中でも高い導電性を有し,安価であることから銅がより好ましい。」

(イ)引用文献4
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2012?160331号公報(引用文献4)には,図面とともに,次の記載がある。

「【0080】
本実施形態の酸化物超電導線材10Cは,前記第1実施形態の酸化物超電導線材10の構成に加え,超電導積層体5の上面(すなわち,酸化物超電導層3の上面)に形成された銀層7と化成皮膜9との間に金属安定化層8が介在された構成となっている。図5及び図6(a)において,上記第1実施形態の酸化物超電導線材10と同一の構成要素には同一の符号を付し,説明を省略する。
【0081】
銀層7のうち,酸化物超電導層3上の銀層7P上に積層された金属安定化層8は,良導電性の金属材料からなり,酸化物超電導層3が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に,銀層7とともに,酸化物超電導層3の電流が転流するバイパスとして機能する。
金属安定化層8を構成する金属材料としては,良導電性を有するものであればよく,特に限定されないが,・・・,中でも高い導電性を有し,安価であることがら銅製が好ましい。」

(ウ)引用文献5
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特表2011?522380号公報(引用文献5)には,図面とともに,次の記載がある。

「【0022】
安定化層18は,一般に超伝導性層14の上に横たわるように,かつ特に図1に示される特定の実施形態においては,キャップ層16の上に横たわり,かつ直接接触するように組み入れられている。安定化層18は,厳格な環境条件および超伝導性クェンチに対する安定性を向上する保護/分路層として機能する。この層は一般に稠密であり,かつ熱的に,かつ電気的に伝導性であり,かつ超伝導性層の失敗の場合には,あるいはもし超伝導性層の臨界電流を超えたときは電流をバイパスするように機能する。それは,プリフォームされた銅ストリップを超伝導性テープ上に積層することによる,半田のような中間のボンディング材料を用いることによる等の種々の厚膜および薄膜形成技術の任意の1つにより形成され得る。・・・」

(エ)引用文献6
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2011?165625号公報(引用文献6)には,図面とともに,次の記載がある。

「【0026】
超電導層113上には,第1安定化層114が成膜されている。
・・・
【0029】
この要請に応えるため,第1安定化層114の上に,第2安定化テープ120を積層して,第1安定化層114を薄く形成しても,超電導層113が性能劣化しない構造となっている。
【0030】
第2安定化テープ120は,導電性を有するテープ状材であって,ここでは,銅等の抵抗の低い低抵抗金属テープである。・・・
・・・
【0032】
第2安定化テープ120の厚さについて,酸化物超電導体が常電導転移した場合のバイパス回路となるような厚さであれば特に限定されないが,厚さは50μmから200程度が好ましい。・・・」

(オ)引用文献7
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2012?59468号公報(引用文献7)には,図面とともに,次の記載がある。

「【0034】
この超電導層163上には,銀,金,白金等の貴金属,あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属である安定化層(キャップ層ともいう)164が設けられている。・・・
【0035】
なお,安定化層164の上に,銅等の抵抗の低い低抵抗金属テープ等で第2安定化層を形成してもよい。・・・なお,第2安定化層となるテープの厚さについて,超電導層163が常電導転移した場合のバイパス回路となるような厚さであれば特に限定されないが,50μmから200μm程度が好ましい。・・・」

(カ)そして,引用文献3の上記(ア)の「超電導層13が超電導状態から常電導状態に遷移」,及び,「『超電導テープ1の保護層14上に,第1ハンダ21A,安定化材テープ21』の順となるよう積層されている,『超電導層13の電流が転流するバイパスとして機能する』『長尺テープ状である良導電性の金属材料からな』る『銅がより好ましい』『安定化材テープ21』」は,それぞれ,「超電導層においてクエンチが生じた場合」,及び,「『超電導層を流れていた電流』が,『超電導層のクエンチが生じた領域を迂回し,前記保護層及び前記半田層を通って』流れる『前記バイパス導体』」であるといえる。
また,引用文献4の上記(イ)の「金属安定化層8」,引用文献5の上記(ウ)の「安定化層18」,引用文献6の上記(エ)の「第2安定化テープ120」,及び,引用文献7の上記(オ)の「第2安定化層」は,いずれも,超電導層においてクエンチが生じた場合に,超電導層を流れていた電流が,前記超電導層のクエンチが生じた領域を迂回して流れるバイパス導体としての機能を有するといえる。
そうすると,上記(ア)?(オ)から,以下の技術的事項(以下,「周知技術1」という。)は周知であるものと認められる。

「長手方向に延びており,超電導体薄膜と電気的に接合している導体である銅は,当該超電導体薄膜を迂回して電流を流すことが可能なバイパス導体となること。」

イ 周知技術2
(ア)引用文献4には,上記ア(イ)の記載に加え,図面とともに,次の記載がある。
「【0053】
本実施形態の酸化物超電導線材10は,超電導積層体5の外周側に,超電導積層体5の上面および側面を覆うように銀層7および化成皮膜9が形成されている構成であるため,酸化物超電導層3を含む超電導積層体5の上面及び側面が外部から遮蔽された構成が実現できる。このような構成にすることで,酸化物超電導層3への水分の浸入を抑え,酸化物超電導層が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。」

(イ)本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2011?211110号公報(引用文献8)には,図面とともに,次の記載がある。

「【0008】
高温超電導層が水等と反応させないための保護や,常伝導転移時のバイパス回路を形成させるための安定化のため,高温超電導層の表面に数μm程度の金属保護層が形成されている。・・・
【0009】
しかしながら,この金属保護層は金や銀や鉛,錫,インジウム等の金属やそれらの合金で構成されるハンダ材料に溶け込みやすいため,ハンダ付け工程の際に金属保護層が消失してしまい,結果的に電流通電時の電気抵抗が大きくなり,電流リードが焼損する課題が生じる。・・・」

「【0021】
この中間層2の上には,酸化物超電導層13が形成されている。そしてこの酸化物超電導層13の上には,湿分などから酸化物超電導層13を保護するため,厚さ2μmのAgで構成された保護層15が形成されている。また,中間層12と酸化物超電導層13との間,または配向層11bを有するテープ状基板11と中間層12との間に,テープ状基板11の走行方向と,蒸着源の面の方向とを一致させて成膜したキャップ層を配置してもよい。このようなキャップ層の配置により線材製造方法の多様性を向上させることができる。」

(ウ)上記(ア),(イ)から,以下の技術的事項(以下,「周知技術2」という。)は周知であるものと認められる。

「銀からなる金属製の保護層は,空気中の水分から超電導層を保護すること。」

第5 対比
ア 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用文献1の「本発明に用いる電極端子としては,CuやAg等の電気的良導体が好ましく」(【0013】),及び,「電極端子としては無酸素銅を用い」(【0017】)との記載に照らして,引用発明の「電極端子」は,「金属製の金属電極」といえる。
したがって,引用発明の「電極端子」は,本願発明の「金属製の金属電極」に相当する。

(イ)引用発明の「酸化物超電導体」は,電極端子に結合されたテープ状の部材である。そして,前記「酸化物超電導体」が,「超電導体で構成された超電導層」以外の層を備えているか否かはともかくとして,少なくとも「超電導体で構成された超電導層を有する」ことは明らかである。
一方,本願発明において,「『超電導体で構成された超電導層を有』し,『超電導テープ線材の長手方向に前記超電導層と隣接して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち当該超電導層を有する側の表面を構成しており,空気中の水分から当該超電導層を保護するための金属製の保護層を含』む,『超電導テープ線材』」,「『超電導テープ線材の長手方向に並行して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち一方の面に結合されて前記超電導層と電気的に接続されている導体であ』る『バイパス導体』」及び「前記超電導層を,前記保護層を介して前記バイパス導体と電気的に接続する『半田層』」からなる部材は,テープ状の形状をしており,かつ,テープ状の形状をしている当該部材の長手方向の両端には金属電極が結合されているものである。
してみると,本願発明と,引用発明は,いずれも,長手方向の両端に金属電極が結合されている,超電導体で構成された超電導層を有するテープ状の部材を有する点で一致する。

イ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「超電導体で構成された超電導層を有するテープ状の部材と,
前記超電導体で構成された超電導層を有するテープ状の部材の長手方向の外側に配置された金属製の金属電極を有し,
前記超電導体で構成された超電導層を有するテープ状の部材の長手方向の両端に,前記金属電極が結合されている電流リード。」

【相違点】
「超電導体で構成された超電導層を有するテープ状の部材」が,本願発明では,
「超電導テープ線材の長手方向に並行して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち一方の面に結合されて前記超電導層と電気的に接続されている導体であり,当該超電導層を迂回して電流を流すことが可能なバイパス導体と,
を有し,
前記超電導テープ線材は,前記超電導テープ線材の長手方向に前記超電導層と隣接して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち当該超電導層を有する側の表面を構成しており,空気中の水分から当該超電導層を保護するための金属製の保護層を含み,
前記超電導テープ線材の長手方向に前記超電導層と並行して延びており,当該超電導テープ線材の前記保護層と前記バイパス導体との間に挟まれており,半田で構成されている半田層を,さらに有し,
前記超電導層は,前記保護層及び前記半田層を介して前記バイパス導体と電気的に接続されており」という積層構造を備えたテープ状の部材であって,
当該積層構造を備えたテープ状の部材を構成する層のうち,超電導テープ線材,半田層及びバイパス導体が,「前記超電導層においてクエンチが生じた場合に,この超電導層を流れていた電流は,超電導層のクエンチが生じた領域を迂回し,前記保護層及び前記半田層を通って前記バイパス導体に流れる」ように,これらの長手方向の両端に,金属電極に結合されているという,金属電極との結合構造を有するのに対して,引用発明は,当該構成について特定されていない点。

第6 判断
ア 上記相違点について,判断する。
(ア)上記(1)イ(イ)a.及びb.のとおり,引用文献2には,酸化物超電導テープにおいて,電気的な安全性を確保するために,テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングしたものの表面に,前記酸化物超電導薄膜との界面が化学的に安定な銀を,厚さが数μm以下となるように抑えてコーティングしたものと,金属銅テープとを,ハンダで貼り合わせた構造を有するものとした安定化材複合酸化物超電導テープが,既に市販されていること,及び,当該構造を有する安定化材複合酸化物超電導テープの生産方法が記載されている。

(イ)そして,電気を用いる製品において,「電気的な安全性を確保」することは,常に考慮すべき一般的な課題であると認められる。
すなわち,引用文献2に接した当業者には,テープ状の酸化物超電導体を用いた電流リードに係る引用発明において,前記一般的な課題であると認められる「電気的な安全性を確保」という課題を解決するという動機付けがあるから,引用発明において,「『テープ状の部材』である『酸化物超電導体』」として,引用文献2に記載される,テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングしたものの表面に,前記酸化物超電導薄膜との界面が化学的に安定な銀を,厚さが数μm以下となるように抑えてコーティングしたものと,金属銅テープとを,ハンダで貼り合わせた構造を有する安定化材複合酸化物超電導テープを用いることは,容易になし得たことである。

(ウ)ここで,引用発明に係る「電流リード」は,「酸化物超電導体の長手方向の両端に,前記電極端子が結合されている」という構造を有するものであり,しかも,上記(1)ア(ウ)d.のとおり,引用文献1において,酸化物超電導体の端面と電極端子に接続が,片側から押し付けながら半田付け等の電気的接続作業を行うことによってなされることが示されているから,上記(イ)のとおりに,引用発明の「『テープ状の部材』である『酸化物超電導体』」に替えて,引用文献2に記載された,テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングしたものの表面に,前記酸化物超電導薄膜との界面が化学的に安定な銀を,厚さが数μm以下となるように抑えてコーティングしたものと,金属銅テープとを,ハンダで貼り合わせた構造を有する安定化材複合酸化物超電導テープを用いた場合に,前記安定化材複合酸化物超電導テープを構成する前記「テープ状金属基板の上に,イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングしたものの表面に,前記酸化物超電導薄膜との界面が化学的に安定な銀を,厚さが数μm以下となるように抑えてコーティングしたもの」,「金属銅テープ」及び「ハンダ」の長手方向の両端に,金属電極が結合されることとなるのは自明である。

(エ)さらに,このような結合構造を有する電流リードにおいて,「酸化物超電導体の薄膜」にクエンチが生じた場合に,この「酸化物超電導体の薄膜」を流れていた電流が,前記「酸化物超電導体の薄膜」のクエンチが生じた領域を迂回し,前記「銀」の層,及び,前記「ハンダ」の層を通って,前記「金属銅テープ」に流れることは,上記周知技術1及び技術常識に照らして明らかである。

(オ)また,上記周知技術2に照らして,引用文献2に記載された安定化材複合酸化物超電導テープの前記「銀」が,「空気中の水分から当該超電導層を保護する」という機能を奏することは明らかである。

(カ)すなわち,上記(ア)ないし(オ)に照らして,引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用した場合において,前記「イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜」,「前記酸化物超電導薄膜との界面が化学的に安定な銀を,厚さが数μm以下となるように抑えてコーティングしたもの」,「ハンダ」及び「金属銅テープ」は,それぞれ本願発明の「超電導体で構成された超電導層」,「前記超電導テープ線材の長手方向に前記超電導層と隣接して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち当該超電導層を有する側の表面を構成しており,空気中の水分から当該超電導層を保護するための金属製の保護層」,「前記超電導テープ線材の長手方向に前記超電導層と並行して延びており,当該超電導テープ線材の前記保護層と前記バイパス導体との間に挟まれており,半田で構成されている半田層」及び「前記超電導テープ線材の長手方向に並行して延びており,且つ当該超電導テープ線材のうち一方の面に結合されて前記超電導層と電気的に接続されている導体であり,当該超電導層を迂回して電流を流すことが可能なバイパス導体」に相当するから,引用発明において,引用文献2に記載された技術的事項を適用して,上記相違点について本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことといえる。

イ そして,本願発明の奏する作用効果は,引用発明,引用文献2に記載された技術,及び,周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内ものであり,格別顕著であるということはできない。

ウ したがって,本願発明は,引用発明,引用文献2に記載された技術,及び,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし8に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-02 
結審通知日 2019-04-09 
審決日 2019-04-22 
出願番号 特願2013-53631(P2013-53631)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 達也小川 将之  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 小田 浩
加藤 浩一
発明の名称 電流リード  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
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