• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F
管理番号 1352573
審判番号 不服2018-7778  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-06 
確定日 2019-06-13 
事件の表示 特願2014-109793「ドラム式洗濯機」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 5日出願公開、特開2015- 42247〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成26年5月28日(優先権主張平成25年7月24日)の出願であって、平成29年8月7日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成29年8月22日)、これに対し、平成29年10月20日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年2月27日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成30年3月6日)、これに対し、平成30年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.特許請求の範囲
平成29年10月20日付の手続補正で特許請求の範囲は以下のように補正された。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】
水平または傾斜した回転軸により回転可能に支持された洗濯物を収容するドラムと、
前記ドラムを収容する水槽と、
前記ドラムを回転駆動する駆動モータと、
前記ドラムの端部に配設され、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサとを備え、
前記バランサは、前記環状容器の内周側側面に、前記流体に対して抗力を加える突起体を形成したことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
前記環状容器は、流体および転動体を収納する収納部と、前記収納部内面から側方に向かって膨出した空間となる膨出部を形成し、前記膨出部に前記流体に対して抗力を加える突起体を形成したことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
前記膨出部は、前記環状容器の内周面側から前記転動体の半径以下の範囲に形成したことを特徴とする請求項2記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
前記突起体は、前記膨出部底面から前記環状容器内側面までの寸法より小さく形成したことを特徴とする請求項2記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記流体に対する抗力と、前記後端部のバランサの前記流体に対する抗力を異ならせたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項6】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記突起体の前記流体に対する抗力と、前記後端部のバランサの前記突起体の前記流体に対する抗力を異ならせたことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項7】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記突起体と前記後端部のバランサの前記突起体は、前記ドラムの回転方向に対して異なる形状に形成したことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項8】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記突起体と前記後端部のバランサの前記突起体は、前記ドラムの回転方向に対する面積が異なる形状に形成したことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項9】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサに形成した前記突起体の数と、前記後端部のバランサに形成した前記突起体の数とを異ならせたことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項10】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記突起体間の容積と、前記後端部のバランサの前記突起体間の容積を異ならせたことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項11】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記流体と前記後端部のバランサの前記流体の液量を異ならせたことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項12】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記流体と前記後端部のバランサの前記流体との粘性を異ならせたことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項13】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記転動体と前記後端部のバランサの前記転動体の個数を異ならせたことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項14】
前記ドラムの前端部および後端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサを配設し、前記前端部のバランサの前記転動体と前記後端部のバランサの前記転動体の硬度を異ならせたことを特徴とする請求項5記載のドラム式洗濯機。
【請求項15】
前記ドラムの一方の端部に、流体および転動体を収納する環状容器を有する第1のバランサを配設するとともに、前記ドラムの他方の端部に、流体を収納する環状容器を有する第2のバランサを配設したことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。」


3.原査定の拒絶の理由
請求項1に対する原査定の拒絶の理由2の概要は以下のとおりである。
「この出願の請求項1に係る発明は、その出願(優先日)前に日本国内において頒布された引用例1(特開2008-157339号公報)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」


4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2008-157339号公報)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

a「回転軸を中心に回転自在に取り付けられた回転体に備えられるバランシング装置において、
前記回転軸と同心に設けられた環状形状でなるレースと、当該レースの内部に収容された転動体と、この転動体とともに前記レース内に収容された粘性流体と、を備え、
前記レースの内周面には、この内周面から内方に向けて突出するとともに前記レースの長手方向に対して交差する方向に延びる突起部と、この突起部よりも一段大きく突出して前記転動体と前記突起部との間に隙間が生じるように前記転動体を案内するガイド部と、が設けられている
ことを特徴とするバランシング装置。」(【請求項1】)
b「この構成のバランシング装置においては、レースの内周面に、この内周面から内方に向けて突出するとともに前記レースの長手方向に対して交差する方向に延びる突起部が設けられているので、レース内に収容された粘性流体はこの突起部によってレースの長手方向に向けて押し出されてその流動が促進される。この粘性流体の流動に伴って転動体の移動も促進され、比較的低い回転数においてこれら粘性流体及び転動体の移動が開始される。これにより、転動体が一気に移動することがなくなり、異常振動の発生を防止できる。」(【0010】)
c「本発明の第1の実施形態であるバランシング装置40を備えた洗濯機10は、洗濯工程、脱水工程を行うことが可能なドラム式洗濯機である。この洗濯機10は、図1に示すように、筐体11と、筐体11の内部に配置されたタブ12と、タブ12の内部に回転自在に設けられたスピンバスケット20(回転体)と、このスピンバスケット20を回転軸L回りに回転させるモータ30とを備えている。
タブ12は、有底円筒状をなしており、その中心軸が重力の方向に交差するように水平面と略平行に配置されて前方側(図1において右側)に開口部が配置されている。このタブ12は、筐体11内部において複数のバネ13やダンパ14によって支持されている。また、タブ12の底面には、後述するスピンバスケット20の主軸24を支持する軸受15が設けられている。
このタブ12の内部に配置されたスピンバスケット20は、円筒状の側面板21とこの側面板21の前後面にそれぞれ結合される前面板22及び後面板23とを有している。前面板22には開口部が形成されており、スピンバスケット20の内部に洗濯物を出し入れできるように構成されている。
また、後面板23の後方側(図1において左側)には、スピンバスケット20を回転軸L回りに回転可能とする主軸24が設けられており、この主軸24がタブ12の軸受15に軸支されている。これにより、スピンバスケット20の回転軸Lとタブ12の中心軸とが一致するように配置される。」(【0012】-【0014】)
d「そして、本実施形態であるバランシング装置40は、スピンバスケット20の前面板22及び後面板23にそれぞれ設けられている。このバランシング装置40は、図2に示すように、スピンバスケット20の回転軸Lを中心として同心状に形成された環状形状のレース41と、このレース41の内部に収容される複数のボール42と、このボール42とともに収容される粘性流体としてのシリコンオイル43とを備えている。このレース41は、その長手方向に沿ってスピンバスケット20とともに回転され、レース41の回転方向と長手方向とが一致するように構成されている。また、ボール42は、比重が高い金属(例えば、鋼材)で形成されている。
レース41は、図4及び図5に示すように断面概略矩形状をなしており、断面コの字状をなして底部と2つの側壁部とを有するレース本体41Aと、レース本体41Aの開口部を封止する蓋部41Bとを備えている。そして、レース本体41Aの底部の内周面には、レース41の内方に向けて突出してレース41の長手方向に対して交差する方向に延びる突起部41Cと、この突起部41Cよりも一段大きく突出してボール42と突起部41Cとの間に隙間を生じるようにボール42を案内するボールガイド部41Dとが設けられている。」(【0017】-【0018】)
e「第2の実施形態においては、図6に示すように、レース41の内周面に形成された突起部41Cの形状が異なっている。
このレース41の幅方向(図6において左右方向)中央部には、周方向(図6において上下方向)に沿って延びるボールガイド部41Dが設けられている。そして、このボールガイド部41Dの側方に複数の突起部41Cが周方向に間隔をあけて配設されている。なお、ボールガイド部41Dの突出高さは、突起部41Cよりも一段大きく設定されている。
ここで、この突起部41Cは、レース41の長手方向に対して交差する方向に延びてボールガイド部41Dから幅方向両端に向かうにしたがいレース41の回転方向T前方側に向かうように傾斜した羽根形状をなしている。この突起部41Cが左右対称に配設されることで、突起部41C及びボールガイド部41Dはレース41の回転方向T前方側に向けて広がるV字状を呈している。
このような構成とされたバランシング装置40によれば、レース41内に収容されたシリコンオイル43をかき上げて流動を促進する突起部41Cが羽根形状とされ、レース41の回転方向T前方側に向けて広がるV字状を呈しているので、周方向に隣接する突起部41C同士の間に画成された空隙部41Eに入り込んでいるシリコンオイル43を効率的に流動させることができ、低い回転数でシリコンオイル43の流動を開始することが可能となる。これにより、ボール42もさらに低い回転数で移動を開始することになり、急激なボール42の移動を抑制することができ、低回転運転時における異常振動の発生を確実に防止することができる。」(【0027】-【0028】)

上記記載及び図6を参照すると、突起部はレースの底部の内周面の中央部の側方に配設されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「水平面と略平行に配置されたタブの中心軸と一致する回転軸周りに回転するスピンバスケットと、
前記スピンバスケットを内部に配置した前記タブと、
前記スピンバスケットを回転させるモータと、
前記スピンバスケットの前面板及び後面板にそれぞれ設けられ、粘性流体および転動体を収容するレースを備えるバランシング装置とを備え、
前記バランシング装置は、前記レースの底部の内周面の中央部の側方に、前記粘性流体が前記レースの長手方向に向けて押し出されて流動が促進される突起部が配設されるドラム式洗濯機。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


5.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「スピンバスケット」、「タブ」、「モータ」、「粘性流体」、「レース」、「バランシング装置」、「突起部」は、本願発明の「ドラム」、「水槽」、「駆動モータ」、「流体」、「環状容器」、「バランサ」、「突起体」に相当する。
引用発明の「水平面と略平行に配置されたタブの中心軸と一致する回転軸周りに回転するスピンバスケット」は、本願発明の「水平または傾斜した回転軸により回転可能に支持された洗濯物を収容するドラム」に相当し、引用発明の「前記スピンバスケットを内部に配置した前記タブ」は、本願発明の「前記ドラムを収容する水槽」に相当し、引用発明の「前記スピンバスケットを回転させるモータ」は、本願発明の「前記ドラムを回転駆動する駆動モータ」に相当する。
引用発明の「前記スピンバスケットの前面板及び後面板」はスピンバスケットの端部を意味するから、引用発明の「前記スピンバスケットの前面板及び後面板にそれぞれ設けられ、粘性流体および転動体を収容するレースを備えるバランシング装置」は、本願発明の「前記ドラムの端部に配設され、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサ」に相当する。
引用例1の図2のバランシング装置において、引用発明のレースは、底部が、回転軸Lを中心とする半径方向の外側にあるか内側にあるかの何れかであるから、引用発明の「前記レースの底部の内周面の中央部の側方」と、本願発明の「前記環状容器の内周側側面」は、「前記環状容器の内面の側面」で一致する。
引用発明の「前記粘性流体が前記レースの長手方向に向けて押し出されて流動が促進される突起部が配設される」と、本願発明の「前記流体に対して抗力を加える突起体を形成した」は、「前記流体に対して作用する突起体を形成した」で一致する。

したがって、両者は、
「水平または傾斜した回転軸により回転可能に支持された洗濯物を収容するドラムと、
前記ドラムを収容する水槽と、
前記ドラムを回転駆動する駆動モータと、
前記ドラムの端部に配設され、流体および転動体を収納する環状容器を有するバランサとを備え、
前記バランサは、前記環状容器の内面の側面に、前記流体に対して作用する突起体を形成したドラム式洗濯機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
環状容器の内面の側面に関し、本願発明は、環状容器の内周側側面であるのに対し、引用発明は、レースの底部の内周面の中央部の側方である点。
〔相違点2〕
突起体に関し、本願発明は、流体に対して抗力を加えるのに対し、引用発明は、流体がレースの長手方向に向けて押し出されて流動が促進される点。


6.判断
相違点1について
引用発明において、突起体が設けられるレースの底部の内周面の中央部の側方は、図2のバランシング装置において、底部が、回転軸Lを中心とする半径方向の外側にあるか内側にあるかの何れかであるから、突起体を環状容器の内周側側面に設けることは当業者が適宜なし得ることと認められる。

相違点2について
抗力に関し、本願明細書には以下の記載がある。
A「次に、図4は、本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の環状容器81と環状容器81内の転動体9と粘性流体23とを近似的に短い区間の距離の直線として表したものを示している。粘性流体23は、突起体11により進行方向に掻きあげられながら推進力110を発生させ、その推進力110が抗力111となって転動体9を進行方向へ移動させる。
抗力111は、環状容器81と、転動体9と、粘性流体23と、粘性流体23の流速とによって決定され、下記の近似式(1)によって表現される。
Dp=Cd・S・(ρ・V^(2))/2・・・・・(1)
Dpは抗力111の値、Cdは粘性流体23の粘性係数、Sは転動体9の投影面積、ρは摩擦抵抗、Vは流速である。抗力111の値Dpが流速Vの二乗に比例していることから抗力111の大きさは、粘性流体23の流速により決まり、流速は転動体9と環状容器81の隙間および粘性流体23の粘性により決まる。」(【0045】-【0046】)
B「突起体11は、ドラム軸背面側Bの突起体B点111Bの高さをドラム軸正面側Aの突起体A点111Aの高さより高い形状にしているが、逆であってもよい。転動体9に加わる抗力111の大きさは、粘性流体23の流速で決まるため、突起体11の高さを調整することによって、粘性流体23の流速を最適化することができる。
図12に示すように、隣接する突起体11間の粘性流体23を突起体11が進行方向に押し上げることで、粘性流体23の流速Vを加速することができる。その結果、加速された流速Vにより、抗力111が近似式(1)に示したDp値となって発生し、転動体9は、その抗力111に押されることで進行方向への推進力が増すこととなる。
本実施の形態3においても、突起体11は、環状容器81の内周側に形成しているので、ドラム3の回転が増大した後は、ボールバランサ8の粘性流体23が環状容器81外周側に移動し、突起体11に接触しなくなる。従って、突起体11における抗力が粘性流体23に働かないため、粘性流体23の転動体9に対する抗力が弱くなり、粘性流体23と転動体9がアンバランスを打ち消すように力学現象通りに自由に移動可能となる。」(【0103】-【0105】)
上記記載より、ドラムの回転により突起体が流体を掻きあげて推進力を発生させ、その推進力が抗力となることとなり、抗力Dpは(1)式によって決定される値となる。
引用発明において、突起体は流体がレースの長手方向に向けて押し出されて流動が促進されるものであり、当該流体の移動に伴って転動体の移動も促進されるから(b参照)、突起体は流体に対して抗力を加えることとなる。
そうすると、引用発明の「前記粘性流体が前記レースの長手方向に向けて押し出されて流動が促進される突起部が配設される」は、本願発明の「前記流体に対して抗力を加える突起体を形成した」に相当し、相違点2に関し引用発明と本願発明に差異は認められない。

なお、請求人は、審判請求書で、
「加えて、空隙部41Eに設けられた突起部41Cは、ボールガイド部41Dと交差して両側に設けられ、低い回転数でシリコンオイル43の流動を開始することが可能となることが記載されています。そして、段落0036には、「突起部やボールガイド部を、レース本体の底部に形成したものとして説明したが、突起部及びボールガイド部は、蓋部、側壁部、底部の内周面の少なくとも1つに設けられていればよい。」と記載されています。
ここに記載されるように、突起部が蓋部または側壁部に形成された構成では、ドラムの回転数が低い場合は粘性流体に突起部の効力が働くのはもちろんのことですが、回転数が高くなって、粘性流体が遠心力で外周側に広がった状態の場合でも粘性流体が突起部に触れることになり、粘性流体に突起部の効力が働きます。すなわち、ドラムの回転数が高い場合にも粘性流体に突起部の効力が働くことになり、粘性流体と転動体とがドラム内のアンバランスを打ち消すように移動しようとしても、力学現象通りに自由に移動することができません。
つまり、引用文献1の実施の形態1は本願発明で言うところの「環状容器の外周側側面に、前記流体に対して抗力を加える突起体を形成した」ことに相当します。そして、段落[0036]の「突起部及びボールガイド部は、蓋部、側壁部、底部の内周面の少なくとも1つに設けられていればよい」という記載は、ドラムの回転数が高くなって、粘性流体が遠心力で外周側に広がった状態の場合に粘性流体が突起部に触れることについて、課題として認識していませんし、環状容器の内周側側面だけに突起体を形成することによる格別な効果も示唆されていません。」
と主張するが、同時に審判請求書では、
「引用文献1(特開2008-157339号公報)には、確かに、水平または傾斜した回転軸により回転可能に支持された洗濯物を収容するドラムと、前記ドラムを収容する水槽と、前記ドラムを回転駆動する駆動モータと、前記ドラムの端部に配設され、流体(シリコンオイル(粘性流体))および転動体(ボール(転動体))を収納する環状容器を有するバランサとを備え、前記バランサの前記環状容器は、流体および転動体を収納する収納部と、前記環状容器の内周面側から前記転動体の半径以下の範囲に内周側に向かって膨出する膨出部(空隙部41E)を形成し、前記膨出部に前記流体に対して抗力を加える突起体(突起部41C)を形成し、前記突起体は、前記膨出部底面から前記環状容器内側面までの寸法より小さく形成することが記載されています。」
と、引用例1には「前記環状容器の内周面側から前記転動体の半径以下の範囲に内周側に向かって膨出する膨出部(空隙部41E)を形成し、前記膨出部に前記流体に対して抗力を加える突起体(突起部41C)を形成し、前記突起体は、前記膨出部底面から前記環状容器内側面までの寸法より小さく形成することが記載されて」いること、即ち本願発明の「前記環状容器の内周側側面に、前記流体に対して抗力を加える突起体を形成した」点が記載されていることを認めており、又、引用例1に、突起体を蓋部、側壁部の内周面に設けても良い旨記載されていても、底部の内周面に突起体を設けることが記載されているので、この点に関し上述のように引用発明と本願発明に差異は認められないから、請求人の上記主張は採用できない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に考えられたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


7.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に考えられたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-29 
結審通知日 2019-04-02 
審決日 2019-04-23 
出願番号 特願2014-109793(P2014-109793)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村山 睦  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 柿崎 拓
堀川 一郎
発明の名称 ドラム式洗濯機  
代理人 野村 幸一  
代理人 鎌田 健司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ