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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60W
管理番号 1352710
審判番号 不服2018-9656  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-12 
確定日 2019-07-02 
事件の表示 特願2016-4814「車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年7月20日出願公開、特開2017-124729、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月13日の出願であって、平成30年1月4日付け(発送日:同年1月16日)で拒絶の理由が通知され、同年2月7日に手続補正がされたが、同年6月12日付け(発送日:同年6月19日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して同年7月12日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1に対して:引用文献1
請求項2-5に対して:引用文献1及び2
請求項6に対して:引用文献1ないし3

引用文献等一覧
1.特開2007-118726号公報
2.再公表特許第2012/032605号
3.特開2010-254102号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成30年7月12日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定された、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
走行用駆動力源として用いられる電動機と、
該電動機と駆動輪との間に配設された自動変速機と、
前記電動機の電源回路に設けられた充放電が可能な蓄電装置と、
を有する車両の制御装置において、
前記蓄電装置は、バッテリおよび該バッテリよりも急速な充放電が可能な急速蓄電装置を備えており、
前記車両の制御装置は、
前記自動変速機の変速時に、力行制御中の前記電動機のトルクを力行トルクの範囲内で低下させるトルクダウン制御を行なうトルクダウン制御部と、
前記自動変速機の変速時に前記トルクダウン制御が行なわれる前の変速前状態か否かを判断する変速前判断部と、
前記変速前状態と判断された場合に、前記トルクダウン制御による前記電動機の消費電力の急減に対して前記バッテリの出力の変化が追従できずに前記電源回路に生じる余剰電力を前記急速蓄電装置を用いて吸収するために、該急速蓄電装置に所定の空き容量を確保する空き確保制御部と、
を有し、前記空き確保制御部は、前記トルクダウン制御により前記消費電力の急減に伴って生じる余剰電力量を予め運転状態に基づいて予測し、該余剰電力量に応じて前記急速蓄電装置に所定の空き容量を確保する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
車速および要求駆動力をパラメータとして定められた変速線に隣接して設定された変速前領域のマップを備えており、
前記変速前判断部は、前記変速前領域の範囲内の場合に前記変速前状態と判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記空き確保制御部は、前記空き容量を確保するために前記急速蓄電装置の蓄電可能上限値を引き下げる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記空き確保制御部は、前記空き容量を確保するために前記急速蓄電装置から放電する
ことを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記蓄電装置は、前記バッテリおよび前記急速蓄電装置の他に第3蓄電装置を備えており、
前記空き確保制御部は、前記電源回路の余剰電力を前記第3蓄電装置および前記急速蓄電装置を併用して吸収するため、該第3蓄電装置の充電性能および空き容量に基づいて該急速蓄電装置の空き容量を設定する
ことを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の車両の制御装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-118726号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「動力伝達装置の制御装置」に関して、図面(特に、図1、3及び6を参照。)とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)

(1)「【0025】
つぎにこの発明を図に示す具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする動力伝達装置について説明すると、図3は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車用の駆動装置の一部を構成する変速機10を説明するスケルトン図である。図3において、この発明の駆動系統に相当する変速機10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接にあるいは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部11と、その無段変速部11と駆動輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する有段変速部20と、この有段変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接にあるいは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪(図示せず)との間に設けられている。なお、変速機10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図3のスケルトン図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0026】
無段変速部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有するいわゆるモータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。」

(2)「【0035】
図5は、差動部あるいは第1変速部として機能する無段変速部11と変速部(自動変速部)あるいは第2変速部として機能する有段変速部20とから構成される変速機10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図5の共線図は、各遊星歯車装置24,26,28,30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Neを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。」

(3)「【0041】
上記の第1電動機M1を制御するための第1コントローラ31と、第2電動機M2を制御するための第2コントローラ32とが設けられている。これらのコントローラ31,32は、例えばインバータを主体として構成され、それぞれに対応する電動機M1,M2とを電動機として機能させ、あるいは発電機として機能させるように制御し、併せてそれぞれの場合における回転数やトルクを制御するように構成されている。また、各電動機M1,M2は、各コントローラ31,32を介して蓄電装置33に接続されている。この蓄電装置33は、各電動機M1,M2に電力を供給し、また各電動機M1,M2が発電機として機能した場合に、その電力を充電して蓄える装置であって、二次電池(バッテリ)およびキャパシタから構成されている。
【0042】
図6は、そのバッテリ33aとキャパシタ33bとの制御系統を説明するためのブロック図であって、それぞれコントローラ31(もしくは32)に接続されている。また、これらのコントローラ31,32を介してバッテリ33aとキャパシタ33bとが接続され、両者の間で適宜に電力を授受できるようになっている。前述した各電動機M1,M2は、電動機として動作するように制御され、また発電機として動作するように制御されるので、バッテリ33aとキャパシタ33bとには、これらの電動機M1,M2のいずれかから電力が充電され、またいずれかの電動機M1,M2に電力を供給(放電)するようになっている。そして、上記の駆動装置が所定の変速比で定常的に動力を伝達しているいわゆる非変速時と、動力の伝達状態が変化する変速時とのいずれにおいても、いずれかの電動機M1,M2が発電し、また電力を消費する。図6には非変速時に授受される電力を変速外エネルギと記し、変速時に授受される電力を変速時エネルギと記してある。」

(4)「【0051】
上記の変速機10では、無段変速部11の変速を第1電動機M1の回転数を変化させて実行し、また有段変速部20の変速の際には、無段変速部11を同時に変速させ、さらに変速の過渡時には、第2電動機M2によってトルクを付加し、あるいはエネルギ回生を行って負のトルクを与える。これらの制御は、電動機M1,M2に電力を供給し、あるいは発電した電力を蓄電装置33に充電することにより行われる。しかしながら、蓄電装置33からの電力の持ち出し(放電)や蓄電装置33への充電は、常時、同等に行えるわけではなく、条件に応じて電力の入出力性が変化する。その条件の一例は温度であって、図10に蓄電装置33の温度特性を模式的に示してある。この図10に示すように、所定の温度範囲を超えると、取り出し得る電力WOUTおよび充電できる電力WINが低下する。なお、温度以外にも、充電量(SOC)や劣化の程度などによっても放電電力WOUTや充電電力WINが低下することがある。このような一般的な特性は、バッテリ33aおよびキャパシタ33bのいずれもほぼ同様であるが、上記のような制約があってもキャパシタ33bの電力の入出力性が、バッテリ33aより優れている。
【0052】
この発明の制御装置は、蓄電装置33についての上記のような特性による変速制御への影響を回避もしくは低減するために、図1に示す制御を行うように構成されている。図1において、先ず、変速前の状態か、もしくは非変速中か否かが判断される(ステップS1)。変速は、前述した図8の変速線図および車両の走行状態に基づいて電子制御装置40によって判断されるから、その判断の成立の有無によってステップS1の判断を行うことができる。なお、変速前の判断、すなわち変速の予測も同様にして行うことができる。
【0053】
このステップS1で否定的に判断された場合、すなわち変速中の場合には、特に制御を行うことなくリターンし、これとは反対に肯定的に判断された場合には、変速制御に使用する蓄電装置33としてキャパシタ33bが選択されることに伴い、その充電容量が許容範囲内か否かが判断される(ステップS2)。ここで許容範囲とは、変速制御の際に前記いずれかの電動機M1,M2で必要とする電力を出力できる充電量(SOC)、いずれかの電動機M1,M2から充電できる余裕のある充電量(SOC)である。なお、これは、キャパシタ33b単独について判断してもよく、あるいはバッテリ33aの充電量(SOC)と合算した場合に許容範囲に入るか否かを判断することとしてもよい。
【0054】
このステップS2で肯定的に判断された場合には、その状態で変速制御を実行できるので、蓄電装置33について特に制御を行うことなくリターンする。これに対して肯定的(審決注:「否定的」の誤記。)に判断された場合には、この発明の第1蓄電装置に相当するバッテリ33aとこの発明の第2蓄電装置に相当するキャパシタ33bとの間で電力を授受できるか否かが判断される(ステップS3)。バッテリ33aからキャパシタ33bに電力を供給する場合にはバッテリ33aの充電量が十分あること、反対にバッテリ33aにキャパシタ33bから充電する場合には、バッテリ33aが電力を受容できる程度にその充電量に余裕があること、時間が制限されている場合にはその制限時間内に電力の授受が可能であることなどが条件となり、ステップS3ではこれらの条件が成立しているか否かが判断される。
【0055】
バッテリ33aとキャパシタ33bとの間で電力を授受できることによりステップS3で肯定的に判断された場合には、キャパシタスタンバイ制御が実施される(ステップS4)。すなわち、キャパシタ33bの充電量が許容範囲内となるように、バッテリ33aからキャパシタ33bに電力が移動させられる。ついでリターンする。
【0056】
一方、ステップS3で否定的に判断された場合には、通常過渡制御が実施不可であることが決定される(ステップS5)。すなわち、変速時に必要とする電力の供給あるいは発電した電力の充電が制約されるため、前述した有段変速部20の変速に対応した無段変速部11の変速に遅れが生じる。したがってこの場合、有段変速部20の変速速度を遅くするように油圧を制御し、あるいは無段変速部11の変速の遅れをそのままにしてエンジン回転数の変化を許容する。
【0057】
図2は、上記の制御を行った場合のタイムチャートを示しており、変速前の状態がt1時点に判断されると、その時点のキャパシタ33bの充電量が検出され、許容範囲より少ないことにより、バッテリ33aからキャパシタ33bに電力が移動させられる。その結果、キャパシタ33bの充電量が許容範囲内に入り、かつ許容範囲の中央値程度になると(t2時点)、その充電量に維持される。そして、変速出力(例えば有段変速部20を第1速から第2速にアップシフトする変速出力)があると(t3時点)、所定時間後(t4時点)に有段変速部20の入力軸回転数すなわち前記伝動部材18およびこれと一体の第2リングギヤR2の回転数が低下し始める。これと同時に第1電動機M1の回転数が増大させられて、無段変速部11が有段変速部20の変速に同期してダウンシフトされる。その場合の無段変速部11の変速制御にはキャパシタ33bが使用され、その結果、キャパシタ33bの電力の入出力性がバッテリ33aよりも優れていることにより、無段変速部11の変速制御を遅れを生じさせることなく実行できる。
【0058】
無段変速部11をこのように変速制御することにより、有段変速部20の変速の進行と同期して無段変速部11の変速が進行し、両者の変速がほぼ同時に終了する(t5時点)。そのために、エンジン回転数が変速中に低下するなどの事態が生じることないので、変速ショックが良好になる。これに対して、第1電動機M1の回転数の制御を所期通りに行えずに、無段変速部11の変速に遅れが生じると、図2に鎖線で示すように、有段変速部20のアップシフトに起因してエンジン回転数が引き下げられ、変速ショックが悪化することがある。
【0059】
なお、上述した制御例は、キャパシタ33bなどの蓄電装置33から電力を放電する場合の制御例であるが、車両の減速時に動力源ブレーキ力を効かせる場合には、例えば第2電動機M2の回生トルクを増大させてその発電量を増大させることがあり、このような場合には、キャパシタ33bの充電量を低下させておくことになる。したがってその場合には、キャパシタスタンバイ制御としてキャパシタ33bからバッテリ33aに電力を移動させることになる。」

(5)キャパシタ33bがバッテリ33aよりも急速な充放電が可能であることは、技術常識である。

上記記載事項及び技術常識並びに図面の図示内容からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「走行用駆動力源として用いられる第2電動機M2と、
該第2電動機M2と駆動輪との間に配設された有段変速部20と、
前記第2電動機M2の電源回路に設けられた充放電が可能な蓄電装置33と、
を有する動力伝達装置の制御装置において、
前記蓄電装置33は、バッテリ33aおよび該バッテリ33aよりも急速な充放電が可能なキャパシタ33bを備えており、
前記車両の制御装置は、
前記有段変速部20の変速時に、前記第2電動機M2によってトルクを付加し、あるいはエネルギ回生を行って負のトルクを与える制御部と、
前記有段変速部20の変速時に変速前状態か否かを判断する変速前判断部と、
前記変速前状態と判断された場合に、キャパシタ33bの充電量が許容範囲内となるように、キャパシタ33bとバッテリ33aとの間で電力を移動させるキャパシタスタンバイ制御を行う制御部と、
を有する、
動力伝達装置の制御装置。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された再公表特許第2012/032605号(以下、「引用文献2」という。)には、図面(特に、図1、4及び5を参照。)とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0019】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両8(以下、「車両8」という)に用いられる車両用駆動装置10(以下、「駆動装置10」という)を説明するための概略構成図である。図1において、駆動装置10は、主駆動源である第1駆動源12と、出力部材として機能する車輪側出力軸14(以下、「出力軸14」という)と、差動歯車装置16と、第2電動機MG2と、自動変速機22とを備えている。駆動装置10では、車両8において、第1駆動源12のトルクが出力軸14に伝達され、その出力軸14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。また、この駆動装置10には、走行のための駆動力を出力する力行制御およびエネルギを回収するための回生制御を選択的に実行可能な第2電動機MG2が自動変速機22を介して動力伝達可能に出力軸14に連結されている。したがって、第2電動機MG2から出力軸14へ伝達される出力トルクがその自動変速機22で設定される変速比γs(=第2電動機MG2の回転速度Nmg2/出力軸14の回転速度Nout)に応じて増減されるようになっている。」

(2)「【0021】
上記第1駆動源12は、主動力源としてのエンジン24と、第1電動機MG1と、これらエンジン24と第1電動機MG1との間でトルクを合成もしくは分配するための動力分配機構(差動機構)としての遊星歯車装置26とを主体として構成されている。上記エンジン24は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体としエンジン制御用の制御装置(E-ECU)としての機能を有する電子制御装置28によって、スロットル弁開度や吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御されるように構成されている。
【0022】
上記第1電動機MG1(本発明の差動用電動機に相当)は、例えば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とを選択的に生じるように構成され、第1インバータ30を介して蓄電装置32(図4参照)に接続されている。そして、前記電子制御装置28はモータジェネレータ制御用の制御装置(MG-ECU)としての機能も有しており、電子制御装置28によってその第1インバータ30が制御されることにより、第1電動機MG1の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。本実施例では第1電動機MG1および第2電動機MG2が、蓄電装置(電動機用電源)32にインバータ30,44を介して接続された本発明の1以上の電動機に対応する。」

(3)「【0034】
図4は、第1電動機MG1および第2電動機MG2に電力供給するための電源制御回路60の概略構成図であり、また、電子制御装置28の制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
【0035】
駆動装置10は、電子制御装置28、第1インバータ30、第2インバータ44、および電源制御回路60も備えている。図4に示すように、その電源制御回路60は、第1インバータ30および第2インバータ44の各々に接続されており、蓄電装置32(本発明の電動機用電源に相当)、電圧変換器62、蓄電装置側の平滑コンデンサ64、インバータ側の平滑コンデンサ66(本発明のインバータ平滑コンデンサに相当。以下、「インバータ平滑コンデンサ66」という)、及び放電抵抗68を備えている。第1インバータ30と第2インバータ44とは本発明のインバータに対応する。」

(4)「【0059】
図4に示すように、前記ハイブリッド駆動制御手段84は、トルクダウン制御部としてのトルクダウン制御手段90を備えている。そのトルクダウン制御手段90は、自動変速機22の変速中に第2電動機MG2の出力トルクTmg2(以下、「第2電動機トルクTmg2」という)を変速開始前に対して一時的に低下させるトルクダウン制御を行う。このトルクダウン制御は、有段変速機の変速中に行われる一般的に知られた制御であり、自動変速機22のダウンシフトおよびアップシフトの何れでも行われる。例えば上記トルクダウン制御が自動変速機22の変速中に実行されることにより、変速ショックが低減され、或いは第2電動機MG2の高回転化が抑えられる。」

(5)「【0061】
領域判断手段94は、車速VLおよびアクセル開度Accで表される車両状態が予め設定された発電変動抑制領域A01内に属するか否かを判断する。その発電変動抑制領域A01は、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の発電電力の急増(電動機出力の急減を含む)を自動変速機22の変速開始前(変速判断前)に抑えることができるように、言い換えれば、その発電電力の変化を自動変速機22の変速開始時(変速判断時)には緩やかなものにできるように予め実験的に設定された領域であり、例えばアクセル開度Accと車速VLとをパラメータとして設定されている。具体的に、その発電変動抑制領域A01は、図5に示すようにアップシフト線L_(UP)の低車速側に隣接したアップシフト側発電変動抑制領域A01_(UP)とダウンシフト線L_(DN)の高車速側に隣接したダウンシフト側発電変動抑制領域A01_(DN)とから構成されており、そのため、変速制御手段86が図5の変速線図から変速判断をする前に上記車両状態が発電変動抑制領域A01内に属することになる。なお、アップシフト側発電変動抑制領域A01_(UP)とダウンシフト側発電変動抑制領域A01_(DN)とを特に区別しない場合には発電変動抑制領域A01と表す。
【0062】
発電変動抑制制御手段96は、自動変速機22の変速制御中であると変速制御中判断手段92により判断された場合、又は、領域判断手段94により車両状態が発電変動抑制領域A01内に属すると判断された場合に、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の全発電電力の増加率を予め定められた発電電力増加率制限値LT_(GN)以下に抑制する発電変動抑制制御を実行する。・・・(省略)・・・」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献2には次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「走行用駆動力源として用いられる第1電動機MG1及び第2電動機MG2と、
該第2電動機MG2と駆動輪18との間に配設された自動変速機22と、
前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の電源制御回路60に設けられた充放電が可能な蓄電装置32と、
を有する車両用駆動装置において、
前記電源制御回路60はインバータ平滑コンデンサ66を備えており、
前記車両用駆動装置は、
前記自動変速機の変速時に、力行制御中の前記電動機のトルクを低下させるトルクダウン制御を行なうトルクダウン制御部と、
前記自動変速機の変速時に発電変動抑制領域A01内に属するか否かを判断する領域判断手段94と、
前記発電変動抑制領域A01内に属すると判断された場合に、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の全発電電力の増加率を予め定められた発電電力増加率制限値LT_(GN)以下に抑制する発電変動抑制制御を実行する発電変動抑制制御手段96と、
を有する車両用駆動装置。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-254102号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面(特に、図1を参照)とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0018】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに減速ギヤ35を介して接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、充放電可能なマスタバッテリ50と、マスタバッテリ50からの電力を昇圧してインバータ41,42に供給するマスタ側昇圧回路55と、マスタバッテリ50とマスタ側昇圧回路55との接続や接続の解除を行なうシステムメインリレー56と、充放電可能なスレーブバッテリ60,62と、スレーブバッテリ60,62からの電力を昇圧してインバータ41,42に供給するスレーブ側昇圧回路65と、スレーブバッテリ60,62の各々とスレーブ側昇圧回路65との接続や接続の解除を各々に行なうシステムメインリレー66,67と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。以下、説明の都合上、マスタ側昇圧回路55およびスレーブ側昇圧回路65よりインバータ41,42側を高電圧系といい、マスタ側昇圧回路55よりマスタバッテリ50側を第1低電圧系といい、スレーブ側昇圧回路65よりスレーブバッテリ60,62側を第2低電圧系という。」

(2)「【0021】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42やマスタ側昇圧回路55を介してマスタバッテリ50と電力のやりとりを行なうと共にインバータ41,42やスレーブ側昇圧回路65を介してスレーブバッテリ60,62と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とマスタ側昇圧回路55とスレーブ側昇圧回路65とを接続する電力ライン(以下、高電圧系電力ラインという)54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献3には次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「走行用駆動力源として用いられるモータMG1及びモータMG2と、前記モータMG1及びモータMG2と電力のやりとりを行う充放電が可能なマスタバッテリ50及びスレーブバッテリ60,62を備えているハイブリッド車。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「第2電動機M2」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「電動機」に相当し、以下同様に、「有段変速部20」は「自動変速機」に、「蓄電装置33」は「蓄電装置」に、「バッテリ33a」は「バッテリ」に、「キャパシタ33b」は「急速蓄電装置」に、それぞれ相当する。
引用発明における「第2電動機M2によってトルクを付加し、あるいはエネルギ回生を行って負のトルクを与える制御部」と、本願発明1の「力行制御中の前記電動機のトルクを力行トルクの範囲内で低下させるトルクダウン制御を行なうトルクダウン制御部」とは、「前記電動機のトルクを制御する制御部」という限りにおいて一致し、同様に、「キャパシタ33bの充電量が許容範囲内となるように、キャパシタ33bとバッテリ33aとの間で電力を移動させるキャパシタスタンバイ制御を行う制御部」と「前記トルクダウン制御による前記電動機の消費電力の急減に対して前記バッテリの出力の変化が追従できずに前記電源回路に生じる余剰電力を前記急速蓄電装置を用いて吸収するために、該急速蓄電装置に所定の空き容量を確保する空き確保制御部」とは、「急速蓄電装置の空き容量が所定量となるように制御する制御部」という限りにおいて一致している。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「走行用駆動力源として用いられる電動機と、
該電動機と駆動輪との間に配設された自動変速機と、
前記電動機の電源回路に設けられた充放電が可能な蓄電装置と、
を有する車両の制御装置において、
前記蓄電装置は、バッテリおよび該バッテリよりも急速な充放電が可能な急速蓄電装置を備えており、
前記車両の制御装置は、
前記自動変速機の変速時に、前記電動機のトルクを制御する制御部と、
前記自動変速機の変速時に変速前状態か否かを判断する変速前判断部と、
前記変速前状態と判断された場合に、急速蓄電装置の空き容量が所定量となるように制御する制御部
を有する、車両の制御装置。」

〔相違点1〕
電動機のトルクを制御する制御部に関して、本願発明1においては、「力行制御中の前記電動機のトルクを力行トルクの範囲内で低下させるトルクダウン制御を行なうトルクダウン」制御部であるのに対して、引用発明においては、第2電動機M2によってトルクを付加し、あるいはエネルギ回生を行って負のトルクを与える制御部である点。

〔相違点2〕
変速前判断部に関して、本願発明1においては、「トルクダウン制御が行なわれる前の」変速前状態か否かを判断するものであるのに対して、引用発明においては、変速前状態か否かを判断するものである点。

〔相違点3〕
本願発明1においては、「トルクダウン制御による前記電動機の消費電力の急減に対して前記バッテリの出力の変化が追従できずに前記電源回路に生じる余剰電力を前記急速蓄電装置を用いて吸収するために、該急速蓄電装置に所定の空き容量を確保する空き確保制御部を有し、前記空き確保制御部は、前記トルクダウン制御により前記消費電力の急減に伴って生じる余剰電力量を予め運転状態に基づいて予測し、該余剰電力量に応じて前記急速蓄電装置に所定の空き容量を確保する」のに対して、引用発明においては、キャパシタ33bの充電量が許容範囲内となるように、キャパシタ33bとバッテリ33aとの間で電力を移動させるキャパシタスタンバイ制御を行うものである点。

事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
引用文献2記載事項は「走行用駆動力源として用いられる第1電動機MG1及び第2電動機MG2と、該第2電動機MG2と駆動輪18駆動輪との間に配設された自動変速機22と、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の電源制御回路60に設けられた充放電が可能な蓄電装置32と、を有する車両用駆動装置において、前記電源制御回路60はインバータ平滑コンデンサ66を備えており、前記車両用駆動装置は、前記自動変速機の変速時に、力行制御中の前記電動機のトルクを低下させるトルクダウン制御を行なうトルクダウン制御部と、前記自動変速機の変速時に発電変動抑制領域A01内に属するか否かを判断する領域判断手段94と、前記発電変動抑制領域A01内に属すると判断された場合に、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の全発電電力の増加率を予め定められた発電電力増加率制限値LT_(GN)以下に抑制する発電変動抑制制御を実行する発電変動抑制制御手段96と、を有する車両用駆動装置。」というものであり、引用文献3記載事項は「走行用駆動力源として用いられるモータMG1及びモータMG2と、前記モータMG1及びモータMG2と電力のやりとりを行う充放電が可能なマスタバッテリ50及びスレーブバッテリ60,62を備えているハイブリッド車。」というものであり、上記相違点3に係る本願発明1の特定事項を開示ないし示唆するものではない。
また、上記相違点3に係る本願発明1の特定事項は、本願の出願時において周知の技術でもない。
そうすると、引用発明に、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を参酌しても、上記相違点3に係る本願発明1の特定事項とすることはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2ないし5について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし5は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接的に又は間接的に引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし5は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし5は、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.小括
したがって、本願発明1ないし5は、原査定の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2016-4814(P2016-4814)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 将一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
齊藤 公志郎
発明の名称 車両の制御装置  
代理人 池田 光治郎  
代理人 池田 治幸  

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