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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1352738
審判番号 不服2018-10825  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-07 
確定日 2019-07-16 
事件の表示 特願2013-269226「生体電極」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 6日出願公開、特開2015-123198、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月26日の出願であって、平成29年9月26日付けで拒絶理由が通知され、同年11月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年4月24日付けで拒絶査定されたところ、同年8月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において平成31年2月28日付けで拒絶理由が通知され、令和元年5月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、当審において同年5月24日付けで拒絶理由が通知され、同年5月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、令和元年5月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
生体に装着する電極パッドと、一端を前記電極パッドに固定されるリード線部と、を有する生体電極であって、
前記リード線部は、前記一端に電極部を含む平板状の基材に、複数の層を形成した積層構造であり、
前記複数の層は、シールド層を含み、
前記基材の上面に配置されたシールド層は、接地される導電細線パターンと、前記基材の上面全体を前記導電細線パターンの上から覆うように形成された導電性物質からなる全面パターンとを有し、
前記導電細線パターンの導電率は、前記全面パターンの導電率よりも高く、
前記電極部における前記導電細線パターンは、二次元図形の外縁と、該外縁内に存在するとともに該外縁に接続される線状パターンとからなるメッシュ状のパターンであり、
前記電極部の下面には、生体電気信号を検出する検出電極が配置され、
前記二次元図形の外縁は、前記検出電極の外縁を包含することを特徴とする生体電極。」

そして、本願発明2及び3は、それぞれ、本願発明1を引用してさらに限定した発明である。

第3 引用文献等

1 引用文献1について

(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2008-212487号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引1-ア)
「【0010】
図1は、本発明の一実施の形態に係る生体情報測定用電極100の構成を示す分解斜視図である。なお、本実施の形態において、「上面」とは、生体情報測定用電極100の被検者への貼り付け面の反対の方向に向かう面を意味し、「下面」とは、生体情報測定用電極100の被検者への貼り付け面の方向に向かう面を意味する。
【0011】
図1において、生体情報測定用電極100は、主として、基材110と、電極部120と、ゲル層130と、銀膜140と、カーボン膜150と、レジスト膜160と、不織布170と、セパレータ180とを有する。不織布170の下面は、粘着剤171が塗布された粘着面となっている。
【0012】
基材110、電極部120、銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160は、それぞれ細長く延伸した延伸部分を有しており、この延伸部分は、被検者から検出された心電図信号を記録装置(図示せず)に伝送するリード線として機能する。
【0013】
基材110は、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethyleneterephtalate)などの膜状のフィルム材料から成り、上面と下面の一対の面を有する。基材110は、その下面に電極部120が設けられ、その上面に銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160が設けられており、生体情報測定用電極100のセンサ部およびリード線としての中核を成す。
【0014】
電極部120は、銀-塩化銀(Ag-AgCl)などの材料から成り、基材110の下面とゲル層130との間に配置される。電極部120は、ゲル層130から伝ってきた心電図信号を検出して、記録装置(図示せず)に伝送する。
【0015】
ゲル層130は、導電性、粘着性、吸湿膨張性を有するゲルの層である。ゲル層130は、その上面側ゲル部131と基材110の下面との間に電極部120を介在させ、かつ基材110の下面を覆った状態で、自身の粘着力によって基材110に接着される。ゲル層130の表面積は基材110の表面積よりも大きく、ゲル層130は、基材110の周縁部からはみ出した領域を有している。ゲル層130は、自身の粘着力によってその下面側ゲル部132が被検者の胸部に固定され、被検者の心臓の活動によって発生する微小な起電力である心電図信号(心臓の電気興奮)を電極部120に伝える。ゲル層130の上面側ゲル部131と下面側ゲル部132の間には、ゲル層130の形状を維持するために、極めて薄い網目状の不織布である中間基材133が設けられている。
【0016】
銀膜140は、基材110の上面の電極部120の対向位置に、例えば印刷形成によって設けられている。銀膜140は、生体情報測定用電極100の外部で発生する電磁波を遮蔽して、電磁波による電極部120へのノイズの影響を軽減する。銀膜140は極めて小さい電気抵抗値を有し、生体情報測定用電極100における静電気(帯電)を防止する。
【0017】
カーボン膜150は、基材110の上面に、銀膜140を被覆するように、つまり銀膜140の上面と側面を完全に覆うように、例えば印刷形成によって設けられている。カーボン膜150は、銀膜140よりも大幅に大きい電気抵抗値(1000倍程度)を有しており、銀膜140と同様に、電磁波を遮蔽して電極部120へのノイズの影響を軽減する。また、カーボン膜150は、銀膜140を被覆することにより、銀膜140が酸素や硫黄などの他の物質と化学的に結合して劣化するのを防止する。なお、カーボン膜150の代わりに、アルミや銅などの導電性材料の膜を形成してもよい。
【0018】
基材110の上面において、銀膜140の印刷面積はカーボン膜150の印刷面積よりも大幅に小さい。より具体的には、銀膜140は、基材110の上面の電極部120の対向位置に極めて細い細線状に印刷されており、カーボン膜150は、銀膜140を被覆して基材110の上面に塗りつけるように印刷されている。これにより、銀膜140が有する極めて高い電磁波の遮蔽能力と静電気防止能力をカーボン膜150に享受させることができる。つまり、カーボン膜150は、自身が単体で有するもの以上の電磁波の遮蔽能力と静電気防止能力を発揮することができる。このように、銀膜140とカーボン膜150は、基材110の上面に設けられた、電極部120の高性能な導電性シールド膜として機能する。
【0019】
レジスト膜160は、銀膜140とカーボン膜150から成るシールド膜を封止する。すなわち、レジスト膜160は、基材110の上面に、銀膜140とカーボン膜150から成るシールド膜の上面と側面を完全に覆って設けられている。レジスト膜160は、非導電性の絶縁膜であり、基材110の上面の側からの銀膜140およびカーボン膜150、ひいては電極部120への電気的導通を遮断する。
【0020】
不織布170は、基材110、電極部120、ゲル層130、銀膜140、カーボン膜150およびレジスト膜160の各部材を被覆してこれらを保護する。不織布170は、その下面に塗布された粘着剤171によって、生体情報測定用電極100を被検者の胸部に貼り付ける。
【0021】
セパレータ180は、水分を通さない樹脂製のフィルムから成り、使用前におけるゲル層130の下面と不織布170の下面を被覆して、乾燥による粘着力の低下を防止する。使用時には、セパレータ180を引き剥がすことにより、ゲル層130の下面および不織布170の下面を露出させ、これらの粘着力によって生体情報測定用電極100が被検者の胸部に貼り付けられて装着される。」

(引1-イ)図1


(引1-ウ)図2


(2)引用発明
上記(1)の記載及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「基材110と、電極部120と、ゲル層130と、銀膜140と、カーボン膜150と、レジスト膜160と、不織布170とを有し、不織布170の下面は、粘着剤171が塗布された粘着面となっている生体情報測定用電極100であって、
基材110、電極部120、銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160は、それぞれ細長く延伸した延伸部分を有しており、この延伸部分は、リード線として機能し、
基材110は、膜状のフィルム材料から成り、上面と下面の一対の面を有し、基材110は、その下面に電極部120が設けられ、その上面に銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160が設けられており、
電極部120は、基材110の下面とゲル層130との間に配置され、電極部120は、ゲル層130から伝ってきた心電図信号を検出し、
ゲル層130は、自身の粘着力によってその下面が被検者の胸部に固定され、
銀膜140は、基材110の上面の電極部120の対向位置に設けられ、
カーボン膜150は、基材110の上面に、銀膜140を被覆するように設けられ、
カーボン膜150は、銀膜140よりも大幅に大きい電気抵抗値(1000倍程度)を有しており、
銀膜140とカーボン膜150は、基材110の上面に設けられた、電極部120の高性能な導電性シールド膜として機能し、
レジスト膜160は、基材110の上面に、銀膜140とカーボン膜150から成るシールド膜の上面と側面を完全に覆って設けられ、
不織布170は、その下面に塗布された粘着剤171によって、生体情報測定用電極100を被検者の胸部に貼り付ける、
生体情報測定用電極100。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特表2010-524620号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引2-ア)
「【0025】
図3aおよび図3bには、1つの可能な方法が概略的に描かれており、ベッドシーツ1におけるセンサー10によって生理学的パラメータが測定される人の下のベッド(いずれも図示していない)の中に、導電性遮蔽体20が層として組み込まれている。導電性遮蔽体20は、例えば、金属板、金属薄板の網構造、または導電糸の網構造とすることができる。導電性遮蔽体20は、繊維織物に含まれている1つのデバイスとして設けることができ、このデバイスは、ベッドの中に配置されている、あるいは、マットレス(図示していない)またはベッドシーツに組み込まれている。別の実施例によると、ベッドシーツ1は、導電性遮蔽層20と、1つまたは複数の絶縁層30と、センサー10を有する検出層と、を含んでいる層構造を備えている。導電性遮蔽体20は、等電位化部12(本実施例においては接地部12)に接続されていることが好ましい。導電性遮蔽体20は、必ずしも閉じた領域である必要はなく、導電性要素(例えば、導電糸)の網構造として配置することもできる。導電糸は、格子または蛇行状として配置することができるが、完全な面を形成することもできる。」

(引2-イ) 図3a、図3b


3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2013-248139号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引3-ア)
「【0016】
生体情報取得用電極10は、基材20と、カーボン電極部32と、カーボンリード部34と、カーボン電極部32をシールドするカーボン電極シールド部42と、カーボンリード部34をシールドするカーボンリードシールド部44と、を有する。
・・・
【0023】
カーボン電極部32の上面には、ゲル層33が設けられている。ゲル層33は、導電性、粘着性、吸湿膨張性を有するゲルの層である。ゲル層33は、カーボン電極部32を覆うように、基材本体部22の下面(第1面)に自身の粘着力によって接着される。ゲル層33は、自身の粘着力によって被検者の胸部に固定され、被検者の心臓の活動によって発生する微小な起電力である心電図信号(心臓の電気興奮)をカーボン電極部32に伝える。このゲル層33とカーボン電極部32とが電極部30を構成している。」

4 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特表2011-510735号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引5-ア)
「【0010】
図4は、接続する患者電極33にわたり位置づけられる図2及び図3のシールドされた電極コネクタ10の断面図である。この実施例において、導電体22のメス型スナップコネクタ30aへの電気的接続は、プラスチック絶縁体スリーブ18内に含まれ、これは幾つかの実施例では必須でないものとすることができる。同軸ケーブル20の外側シールド26は、銅圧着リング16によって電極シールド12に電気的に接続される。コネクタ10の中心におけるドーム状空間は、スナップコネクタ30aが配される空間を取り巻く硬質プラスチックリング又はキャップにより剛性に形成可能である。
・・・
【0012】
使用において、電極コネクタ10がECG電極33に嵌められるとき、静電シールド12は、接続部30a,30b及びECG電極の接触電極34に重なりこれをカバーすることが分かる。このようにしてシールド12は、外部の静電ハザードから当該接続部及びECG電極を全体的に遮蔽する。したがって、ECG信号は、この遮蔽のために、よりノイズフリーなものとなる。」

5 引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(特開2013-236922号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引6-ア)
「【0034】
図1に示すように、生体電極100は、電極ユニット20と、未使用時に電極ユニット20の人体側を覆うカバー10と、電極ユニット20及び図示しない外部装置を相互に電気的に接続するケーブル11とを備える。ケーブル11の一端は電極ユニット20と接触し、他端には外部装置との接続用のコネクタ12が設けられている。
【0035】
図2,3に示すように、電極ユニット20は、基材1と、不織布2と、導電体3と、絶縁体4と、アースゲル5と、受信体6と、両面接着テープ7と、スポンジ8と、含水ゲル9とを備える。
・・・
【0037】
基材1の反人体側の面に不織布2が設けられる(接着される)。不織布2は基材1の面垂直方向から見て基材1と略同形状である。基材1の人体側の面に導電体3が設けられる(全面的に塗布される)。導電体3の人体側の面に絶縁体4が設けられる(接着される)。絶縁体4は人体側の面にも粘着性を有する。受信体6は、絶縁体4の人体側の面に設けられる(絶縁体4の粘着力で接着される)。含水ゲル9は、単体では形が定まらないので、スポンジ8に染み込ませておく。含水ゲル9を染み込ませたスポンジ8は、受信体6の人体側に設けられる。スポンジ8と受信体6との接着は両面接着テープ7が行う。すなわち、両面接着テープ7は、スポンジ8の反人体側の面に接着されて当該面の中央部を囲む環状(ここではドーナツ状)であり、スポンジ8と受信体6とを接着する。両面接着テープ7は、好ましくはスポンジ8の反人体側の面の外周縁ないしその近傍を周回する。アースゲル5は、導電体3の人体側の面であって絶縁体4とは異なる位置に設けられる。」

6 引用文献7について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7(特開2013-188277号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引7-ア)
「【0015】
次に、電極構成部3の心電図電極7、絶縁層9及びシールド層11について説明する。心電図電極7及びシールド層11は導電性を有する素材からなり、絶縁層9は絶縁性を有する素材からなり、これら心電図電極7、絶縁層9及びシールド層11は、平織り等に代表される織布やニット編に代表される編布の形態をとり伸縮性と通気性を有している。
【0016】
シールド層11の面寸法は心電図電極7の面寸法と同等以上であり、絶縁層9の面寸法は心電図電極7とシールド層11が電気的に短絡しない範囲での面寸法を持っている。例えば、図1では、心電図電極7、絶縁層9及びシールド層11は、いずれも長方形であって、絶縁層9及びシールド層11は互いにほぼ同等の大きさの長方形、心電図電極7は、絶縁層9及びシールド層11によりも縦横寸法が小さい長方形としている。」

第4 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ゲル層130」と「不織布170」は、「生体情報測定用電極100を被検者の胸部に貼り付ける」ためのパッドであるから、本願発明1の「生体に装着する電極パッド」に相当する。
また、引用発明の「不織布170」によって「被検者の胸部に貼り付け」られる「基材110、電極部120、銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160」は、「リード線として機能」する「それぞれ細長く延伸した延伸部分を有」するから、本願発明1の「一端を前記電極パッドに固定されるリード線部」に相当する。
よって、引用発明の「ゲル層130」と「不織布170」、及び、「不織布170」によって「被検者の胸部に貼り付け」られる「基材110、電極部120、銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160」からなる「生体情報測定用電極100」は、本願発明1の「生体に装着する電極パッドと、一端を前記電極パッドに固定されるリード線部と、を有する生体電極」に相当する。

イ 引用発明の「基材110」の「その下面に電極部120が設けられ」る部分が、本願発明1の「電極部」に相当する。
そして、引用発明の「細長く延伸した延伸部分を有」し、「膜状のフィルム材料から成り、上面と下面の一対の面を有」する「基材110」は、「その下面に電極部120が設けられ」部分を含ことから、本願発明1の「前記一端に電極部を含む平板状の基材」に相当する。
よって、引用発明の「細長く延伸した延伸部分を有」し、「膜状のフィルム材料から成り、上面と下面の一対の面を有」する「基材110は、その下面に電極部120が設けられ、その上面に銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160が設けられ」る構造であることは、本願発明1の「前記リード線部は、前記一端に電極部を含む平板状の基材に、複数の層を形成した積層構造であ」ることに相当する。

ウ 引用発明の「導電性シールド膜として機能」する「銀膜140とカーボン膜150」は、本願発明1の「シールド層」に相当する。
よって、引用発明の「基材110、電極部120、銀膜140、カーボン膜150、レジスト膜160」が、「導電性シールド膜として機能」する「銀膜140とカーボン膜150」を含むことは、本願発明1の「前記複数の層は、シールド層を含」むことに相当する。

エ 引用発明の「銀膜140」と、本願発明1の「接地される導電細線パターン」とは、「導電パターン」の点で共通する。
また、引用発明の「基材110の上面に、銀膜140を被覆するように設けられ」る「カーボン膜150」と、本願発明1の「前記基材の上面全体を前記導電細線パターンの上から覆うように形成された導電性物質からなる全面パターン」とは、「前記基材の上面を前記導電パターンの上から覆うように形成された導電性物質からなる面パターン」の点で共通する。
よって、引用発明の「基材110の上面に設けられた」「導電性シールド膜」は、「銀膜140」と、「基材110の上面に、銀膜140を被覆するように設けられ」る「カーボン膜150」とを有することと、本願発明1の「前記基材の上面に配置されたシールド層は、接地される導電細線パターンと、前記基材の上面全体を前記導電細線パターンの上から覆うように形成された導電性物質からなる全面パターンとを有」することとは、「前記基材の上面に配置されたシールド層は、導電パターンと、前記基材の上面を前記導電パターンの上から覆うように形成された導電性物質からなる面パターンとを有」する点で共通する。

オ 引用発明の「カーボン膜150は、銀膜140よりも大幅に大きい電気抵抗値(1000倍程度)を有」することと、本願発明1の「前記導電細線パターンの導電率は、前記全面パターンの導電率よりも高」いこととは、「前記導電パターンの導電率は、前記面パターンの導電率よりも高」い点で共通する。

カ 引用発明の「心電図信号を検出」する「電極部120」は、本願発明1の「生体電気信号を検出する検出電極」に相当する。
また、上記イに示したとおり、引用発明の「基材110」の「その下面に電極部120が設けられ」る部分が、本願発明1の「電極部」に相当するから、引用発明の「基材110は、その下面に電極部120が設けられ」ることは、本願発明1の「前記電極部の下面には、生体電気信号を検出する検出電極が配置され」ることに相当する。

(2)一致点、相違点
してみると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「生体に装着する電極パッドと、一端を前記電極パッドに固定されるリード線部と、を有する生体電極であって、
前記リード線部は、前記一端に電極部を含む平板状の基材に、複数の層を形成した積層構造であり、
前記複数の層は、シールド層を含み、
前記基材の上面に配置されたシールド層は、導電パターンと、前記基材の上面を前記導電パターンの上から覆うように形成された導電性物質からなる面パターンとを有し、
前記導電パターンの導電率は、前記面パターンの導電率よりも高く、
前記電極部の下面には、生体電気信号を検出する検出電極が配置される、
生体電極。」

(相違点1)
導電パターンが、本願発明1では、「接続される」のに対し、引用発明では、その特定がない点。

(相違点2)
面パターンが、本願発明1では、基材の上面「全体」を覆う「全」面パターンであるのに対し、引用発明では、「レジスト膜160は、基材110の上面に、銀膜140とカーボン膜150から成るシールド膜の上面と側面を完全に覆って設けられ」るから、「カーボン膜150」は、「基材110の上面」全体を覆っていない点。

(相違点3)
シールド層が、本願発明1では、「二次元図形の外縁と、該外縁内に存在するとともに該外縁に接続される線状パターンとからなるメッシュ状のパターン」である「細線パターン」と、その上面の「面パターン」とを有するのに対し、引用発明では、「銀膜140」と、その上面の「カーボン膜150」とを有する点。
すなわち、シールド層について、本願発明1は、メッシュ状パターンとその上面の面パターンとの二層構造であるのに対し、引用発明は、面パターン(「銀膜140」) とその上面の面パターン(「カーボン膜150」)との二層構造である点。

(相違点4)
本願発明1では、「前記二次元図形の外縁は、前記検出電極の外縁を包含する」のに対し、引用発明では、「銀膜140」と「電極部120」との大小関係の特定はない点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。

シールド層を、メッシュ状パターン又は面パターンの一層構造とすることは、例えば、上記引用文献2(第3 2を参照。)に記載されているように周知技術であるといえるものの、引用発明において、二層構造のうちの全面パターンである「銀膜140」のみをメッシュ状パターンとして、上記相違点3に係る本願発明1の構成、すなわち、メッシュ状パターンと、その上面の面パターンとの二層構造にすることの動機付けは見当たらない。
また、上記相違点3に係る本願発明1の構成は、上記引用文献2、3、5?7(第3 2?6を参照。)に記載も示唆もされておらず、周知技術といえる証拠もない。
したがって、本願発明1は、その他の相違点について検討するまでもなく、引用発明、及び、引用文献2、3、5?7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、それぞれ、本願発明1を引用してさらに限定した発明であるから、上記1と同じ理由により、引用発明、及び、引用文献2、3、5?7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1、3?6に係る発明は、上記引用文献1?3、5?7から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により、特許を受けることができない、というものである。
しかしながら、上記のとおり、本願発明1?3は、引用発明、及び、引用文献2、3、5?7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について

1 特許法第36条第6項第2号について
当審では、平成31年2月28日付けの拒絶理由によって、請求項1の「平板状の基材」、「シールド層」、「全面パターン」、「二次元図形状」、「電極部」などに関する記載、請求項2の「前記線状パターン」に関する記載、令和元年5月24日付けの拒絶理由によって、請求項1の「外縁」に関する記載が明確とはいえない、との拒絶の理由を通知しているが、補正により本願発明1?3となったことから、これらの拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第1号について
当審では、平成31年2月28日付けの拒絶理由によって、請求項1?4の検出電極と導電細線パターンまで拡張ないし一般化できる根拠は見当たらないから、請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない、との拒絶の理由を通知しているが、令和元年5月7日付け意見書において、本願発明1?3の検出電極と導電細線パターンまで拡張ないし一般化できる根拠を、本願出願時の技術常識を踏まえて述べていることから、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-01 
出願番号 特願2013-269226(P2013-269226)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A61B)
P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼見 重雄
発明の名称 生体電極  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 高柳 司郎  

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