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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06K 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K |
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管理番号 | 1352771 |
審判番号 | 不服2018-5205 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-04-16 |
確定日 | 2019-07-09 |
事件の表示 | 特願2014- 56558「非接触通信カード、転写フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 8日出願公開、特開2015-179405、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成26年3月19日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 9月19日付け :拒絶理由の通知 平成29年11月27日 :意見書,手続補正書の提出 平成30年 1月11日付け :拒絶査定(原査定) 平成30年 4月16日 :審判請求書,手続補正書の提出 平成31年 2月27日付け :拒絶理由の通知(当審) 平成31年 4月11日 :手続補正書の提出 第2 本願発明 本願請求項1-5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は,平成31年4月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 外部との間で非接触通信するアンテナと, メタリック印刷層と,前記メタリック印刷層のカード表面側の一部に設けられた部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層とを備える印刷層と, を備え, 前記印刷層は,カード表面に露出しており, 前記メタリック印刷層の表面と前記微細印刷層の表面とは,同一平面にある非接触通信カード。」 なお,本願発明2-5の概要は以下のとおりである。 本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明である。 本願発明5は,本願発明1の「非接触通信カード」の製造に用いられる「転写フィルム」の発明であり,本願発明1における「メタリック印刷層」と「微細印刷層」とを備える「印刷層」,と同等の構成を含む発明である。 第3 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-250480号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下,同様。) A 「【0011】 以下,本発明を詳細に説明する。 図1は本発明のカードの一例を示す断面図である。図1において,コア基材2aと外装基材2bからなるカード基材2と,このカード基材2上に金属薄膜層3が形成され,金属薄膜層3上には保護層4が形成されている。金属薄膜層3には,細かい線状の凸部又は凹部が形成されている。 【0012】 本発明のカード基材としては,白色または光透過性の単層からなるカード基材,又は1層以上の白色または光透過性のコア基材と白色または光透過性の外装基材を積層したカード基材を用いることができる。 カード基材,コア基材,外装基材に用いる材料としては,塩化ビニル材料,塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体材料,テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールとの共重合体材料,または前述の共重合体とポリカーボネート及び/又はポリアリレートとのポリマーアロイからなる非晶質ポリエステル材料,ポリエチレンテレフタレート材料,ポリブチレンテレフタレート材料,アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS)材料,紙材料,含浸紙材料等を用いることができる。 【0013】 本発明では,カード基材上に金属薄膜層を有する。 金属薄膜層は,金属粒子と硬化性樹脂を含む組成物を用いる。 金属粒子としては,例えばアルミニウム,鉄,クロム,コバルト,ニッケル,金,銀やこれらの合金などがあげられる。 硬化性樹脂としては,熱硬化性樹脂,紫外線硬化性樹脂,電子線硬化性樹脂等を用いることができる。このような樹脂としては,ポリエステル系ポリオールやアクリル系ポリオールとポリイソシアネートからなるものやメラミン樹脂,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,アクリルモノマーに紫外線(UV)もしくは電子線硬化性の架橋剤からなる樹脂等を用いることができる。 金属薄膜層は詳細は後述するが印刷法により形成することができる。 【0014】 金属薄膜層は,平坦部と部分的に一定方向に並んだ線状の凸部又は凹部が形成されており,平坦部と凸部又は凹部の光の反射の違いによりヘアライン加工が施された金属調の質感をだすことができる。 細かい線状の凸部又は凹部は一定方向に揃っている。また,カードの短辺または長辺の特定の辺に対する各々の線状凸部又は凹部の成す角度の標準偏差が15°以下,好ましくは5°以下であるとよい。ばらついているとヘアライン上の質感とはならずにマット調になってしまうが,この範囲であればヘアライン上の質感を有するものとなる。なお,線状凸部又は凹部が非直線形状となる場合は,自乗平均により導き出される近似直線を用いた標準偏差が上記範囲内に入っていることが好ましい。 線状凹凸は,カード全域に形成されていることがよい。具体的には,1cm2あたりの線数は20?100の範囲内であることが好ましい。 線状の凸部又は凹部が平坦部の1.2?10倍又は0.1?0.8倍の範囲内の範囲内であることが好ましい。 なお,本発明の平坦部と凸部を有する金属薄膜層は,後述するように別途用意した転写箔に細かい線状の凹凸を有する金属薄膜層を形成して,その後カード基材上に転写し,さらにフィルム状保護層を転写形成することで形成することができる。」 B 「【0015】 本発明では金属薄膜層上にフィルム状保護層を設ける。 保護層としてフィルムを用いることで,コーティング膜等に比べ,耐久性が高いものとすることができる。 フィルム状保護層に用いる樹脂としては,熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,紫外線硬化性樹脂,電子線硬化性樹脂などを用いることができる。例えば塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体,ポリビニルアルコール,ポリエステル系樹脂,ポリウレタン系樹脂,アクリル系樹脂やそれらの共重合体,ポリマーアロイや,ポリエステル系ポリオールにイソシアネートを添加したアクリルUV樹脂等があげられるがこの限りでない。 また,これらの樹脂には添加剤を加えても良い。添加剤としては,ポリエチレンワックスやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ワックス等のワックス類,マイカ,タルク,シリカなどがあげられる。 保護層の厚みとしては,0.5μm?5μm程度である。 【0016】 保護層の表面は平滑であってもよい。平滑であれば,下層の金属薄膜層のヘアライン上の凸部又は凹部を有しながら,表面光沢を有する,高意匠性のカードとすることができる。保護層の表面側の表面粗さRaは0.2μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば光沢を得ることができる。」 C 「【0021】 次に図5(b)に示すように,剥離層または剥離性転写基材上には金属薄膜層を設ける。 金属薄膜層は,前述のように金属粒子と樹脂を含む組成物からなる。 金属粒子としては例えば,アルミニウム,鉄,クロム,コバルト,ニッケル,金,銀やこれらの合金を用いることができる。 金属薄膜層に含まれる樹脂としては,フィルム状保護層に用いる樹脂よりもTgが10℃以上高い熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂,紫外線硬化性樹脂,電子線硬化性樹脂等の硬化性樹脂を用いることができる。 このような樹脂としては,アクリル樹脂,ポリエステル系ポリオールとポリイソシアネートからなるものや,メラミン樹脂,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,アクリルモノマーにUVもしくは電子線硬化性の架橋剤からなる樹脂等を用いることができる。 金属薄膜層は,金属粒子と樹脂と溶剤を含むインキを用いて,印刷法により形成することができる。印刷時に転写基材に形成された凹部又は凸部の形状に沿った形状となり,金属薄膜層に細かい線状の凹凸を形成できる。 インキに用いる溶剤としては,公知のものを用いることができ,例えば,メチルエチルケトン,シクロヘキサノン,イソホロン,トルエン,キシレン,ミネラルスピリット,γ-ブチロラクトン,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート,ブチルセロソルブ,イソプロピルアルコールなどがあげられる。また,適宜添加剤を加えても良い。 金属薄膜層を印刷した後,必要に応じて,加熱,紫外線照射,電子線照射などの硬化処理を行っても良い。 金属薄膜層の膜厚は5nm?500nm程度であることが好ましい。 【0022】 また,金属薄膜層は,磁気カードや接触式のICカードとする場合等機械に挿入して使う場合や,非接触式のICカードなど電磁的な通信を行う場合,低導電性であることが好ましい。また低導電性であると生産時の粉塵の付着や機械のスパークの発生を抑止することができる点でも好ましい。 具体的には,表面抵抗値が107Ω以上,好ましくは108Ω以上が適している。このようなものとしては,海島状の網点形状に印刷する方法などが挙げられる。」 D 「【0030】 本発明のカードには,接触及び/又は非接触のIC機能を持たせても良い。 非接触のICカードとする場合は,複数のコアカード基材を用いて,アンテナとICを有するインレットを挟み込んだ構成をもちいることができる。 接触式のICカードとする場合は,反射層や保護層を設けたカード基材の最表面に接触端子付きICをザグリ加工により形成した開口部に埋設配置したものを用いることができる。」 E 「【図1】 」 F 「【図2】 」 G 「【図3】 」 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「 コア基材2aと外装基材2bからなるカード基材2と, 前記カード基材2上に形成された金属薄膜層3と, 前記金属薄膜層3上に形成された保護層4と, を備え, 前記金属薄膜層3は,金属粒子と硬化性樹脂を含むインキを用いて印刷法により形成されるとともに,平坦部と凸部又は凹部の光の反射の違いによりヘアライン加工が施され,平坦部と部分的に一定方向に並んだ線状の凸部又は凹部が形成され, 前記保護層4は,表面が平滑で,フィルムを用いたフィルム状保護層により形成され, 前記カード基材2は,複数のコアカード基材を用いて,アンテナとICを有するインレットを挟み込んで構成された非接触のICカード。」 2 引用文献2について また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2000-211234号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 H 「【0016】 【実施例】図1は本発明にかかるメタル仕上げ模様印刷の第1の実施例説明図である。図1において記号1はガラス板,プラスチック板等からなる被印刷板で,平面部を印刷に支障のない程度に平滑に形成されている。図において,まず被印刷板1の表面に不透明で隠ぺい力の優れた白色顔料等を用いたインキでベタ刷りを施し,隠ぺい層4を形成する。ここで隠ぺい層4の上面にブロンズ粉,アルミ粉を顔料に用いた金インキ,銀インキあるいは,雲母に酸化チタンや酸化鉄をコーテイングした顔料を用いたパールインキ等のメタリックインキでベタ刷りを施し,メタル地色層2を形成する。この時被印刷板1の裏面12の側からメタル地色層2の地色は,透明な被印刷板1を用いた場合にあっても,隠ぺい層4により隠ぺいされ隠ぺい層4の色のみが見え,裏面12側の美観を表現する。メタル地色層2の上面には,ヘアーライン,梨地,ラップ仕上げ模様等の金属表面の仕上げ加工模様等を印刷したデザイン層3を形成する。デザイン層3は刷版を用い独自の調色によるインキを用い仕上げ加工模様を表現する。たとえばインキとしてメジウムと墨インキ等を混練し,光沢や透明度を増したスモークインキにしメタル地色層2の上面に印刷する。この時,インキが透明になっていることからメタル地色層2の色彩は,スモークインキの墨色により曇りを生じて再現され,さらにスモークインキの印刷部分で生じるわずかの凹凸により色彩,光沢が変化しメタル仕上げ模様が表現される。」 J 「【図1】 」 したがって,上記引用文献2には,「被印刷板1の表面に不透明で隠ぺい力の優れた白色顔料等を用いたインキでベタ刷りを施し,隠ぺい層4を形成し,隠ぺい層4の上面にメタリックインキでベタ刷りを施し,メタル地色層2の上面に,ヘアライン等が印刷されたデザイン層3を形成する」という周知の技術的事項が記載されていると認められる。 3 引用文献3について また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2011-66814号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 K 「【0002】 図1は,AMスクリーニングとFMスクリーニングの印刷イメージ,及びドットゲインの概念を示す図である。従来,オフセット印刷等のように,インキが載るか載らないかの2つの状態で画像を表現する印刷方法では,カラー印刷物やグレースケール印刷物等の多値画像の階調を表現するために,多値画像を,微小な2値の点(ドット)の集まりである網点画像に変換する。この方法はスクリーニングと呼ばれ,ドットの配置の仕方(ドットの大きさ,個数,密度)を変えることで多値画像の階調を表現する。そして,この網点画像を印刷版(以下,刷版と称する。)に焼き付けて,この刷版を用いて紙などに網点画像を印刷する。これにより,印刷物は,マクロに見れば多値画像に見えるようになる。」 L 「【図1】 」 したがって,上記引用文献3には,「AMスクリーニングFMスクリーニングを用いて,ドットの配置の仕方(ドットの大きさ,個数,密度)を変えることで多値画像の階調を表現して印刷を行う」という技術的事項が記載されていると認められる。 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明の「非接触ICカード」において,「カード基材2」に挟み込まれた「インレット」に含まれる「アンテナ」は,“外部との間で非接触通信する”ために用いられることは明らかであるから,引用発明の「アンテナ」は本願発明1の「アンテナ」に相当するといえる。 イ 引用発明の「金属薄膜層3」は,「金属粒子と硬化性樹脂を含むインキを用いて印刷法により形成される」ところ,金属粒子を含むインキを印刷することにより形成された層であると解される。 それに対し,本願発明1の「メタリック印刷層」は,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】の「メタリック印刷層42は,アルミニウム粉等の金属粉を含むインクによって印刷された層である。メタリック印刷層42は,アルミニウムやステンレス等の板材表面のような金属光沢を有する。メタリック印刷層42は,シルクスクリーン印刷等によって設けられる。」との記載からすると,金属粉を含むインクによって印刷された層であると認められる。 そうすると,引用発明の「金属薄膜層3」は本願発明1の「メタリック印刷層」に対応するといえる。 ウ また,引用発明の「金属薄膜層3」は,「平坦部と凸部又は凹部の光の反射の違いによりヘアライン加工が施され,平坦部と部分的に一定方向に並んだ線状の凸部又は凹部が形成され」るところ,「線状の凸部又は凹部」は,異なる印刷層により形成されるものではないものの,「ヘアライン加工」によりカード表面側に「部分的に」形成されると解されるから,“カード表面側の一部に設けられた微細な線”であるといえる。 一方,本願発明1の「メタリック印刷層」は,「メタリック印刷層のカード表面側の一部に設けられた部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層とを備える」ところ,「カード表面側の一部」に「微細な線」が設けられることから,“カード表面側の一部に設けられた微細な線を備える”といえる。 したがって,上記イでの検討を踏まえると,引用発明の「金属薄膜層3」と本願発明1の「メタリック印刷層」とは,後記する点で相違するものの,“カード表面側の一部に設けられた微細な線を備えるメタリック印刷層”である点で共通するといえる。 エ 引用発明の「非接触ICカード」は,「金属薄膜層3上に形成された保護層4」を備え,「保護層4」は「表面が平滑で,フィルムを用いたフィルム状保護層により形成され」るところ,「非接触ICカード」の「表面」は,「平滑」な「フィルム状保護層」により形成されると解することができるから,引用発明の「非接触ICカード」の“カード表面は平面である”といえる。 それに対し,本願発明1の「非接触通信カード」では,「印刷層は,カード表面に露出しており,前記メタリック印刷層の表面と前記微細印刷層の表面とは,同一平面にある」ところ,「カード表面」は,「メタリック印刷層」の一部に「微細印刷層」が同一平面に形成されると解することができるから,「非接触通信カード」の“カード表面は平面である”といえる。 そうすると,上記ウでの検討を踏まえると,引用発明の「非接触ICカード」の「表面」と本願発明1の「非接触通信カード」の「表面」とは,後記する点で相違するものの,“カード表面は平面である”点で共通するといえる。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「 外部との間で非接触通信するアンテナと, カード表面側の一部に設けられた微細な線を備えるメタリック印刷層と, を備え, カード表面は平面である非接触通信カード。」 (相違点) (相違点1) メタリック印刷層の微細な線に関し,本願発明1では,微細な線が「部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層」であるのに対して, 引用発明では,微細な線が「金属薄膜層3」に「ヘアライン加工」が施されて形成された「平坦部と部分的に一定方向に並んだ線状の凸部又は凹部」であるものの,異なる印刷層により形成されることは特定されていない点。 (相違点2) カード表面に関し,本願発明1は,「印刷層は,カード表面に露出しており,前記メタリック印刷層の表面と前記微細印刷層の表面とは,同一平面にある」のに対して, 引用発明では,「金属薄膜層3上に形成された保護層4」がカードの表面に平滑に形成されているものの,カード表面に「金属薄膜層3」は形成されておらず,「金属薄膜層3」の表面は平面ではない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1について 上記相違点1について検討すると,引用発明では,「金属薄膜層3」が印刷法により形成され,層の表面がヘアライン加工された「平坦部と部分的に一定方向に並んだ線状の凸部又は凹部」として形成されるところ,「金属薄膜層3」それ自体の表面に線状の凸部又は凹部を形成することに代えて,「金属薄膜層3」のカード表面側の「平坦部と部分的に一定方向に並んだ線状の凸部又は凹部」を,部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層のような,異なる印刷層により形成することへの動機付けがあるとはいえない。 加えて,非接触ICカードにおいて,メタリック印刷層のカード表面側の一部に,部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層を設ける旨の技術は,上記引用文献2-3には記載されておらず,本願出願前に当該技術分野において周知技術であったとまではいえず,当業者が適宜に選択し得た設計的事項であるとすることもできない。 そうすると,引用発明において,メタリック印刷層それ自体の表面に線状の凸部又は凹部を形成することに代えて,メタリック印刷層のカード表面側の一部に,部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層を設けること,すなわち,本願発明1の上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。 イ まとめ したがって,相違点2について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2-4について 本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の 「メタリック印刷層と,前記メタリック印刷層のカード表面側の一部に設けられた部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層とを備える印刷層」(以下,「相違点1に係る構成」という。) と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明5について 本願発明5は,本願発明1の「非接触通信カード」の製造に用いられる「転写フィルム」の発明であり,本願発明1の「相違点1に係る構成」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は,請求項1-6について上記引用文献1-3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 しかしながら,平成31年4月11日付け手続補正により補正された請求項1-5は,それぞれ「相違点1に係る構成」に対応する構成を有するものとなっており, 上記のとおり,本願発明1-5は,引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。 したがって,原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について <特許法第36条第6項第2号について> 1 当審では,請求項1の「微細印刷層」について,「前記メタリック印刷層の上に設けられた部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年4月11日付けの手続補正により,「前記メタリック印刷層のカード表面側の一部に設けられた部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 また,請求項1を引用する請求項2-5についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。 2 当審では,請求項1の「厚さ方向において,前記メタリック印刷層の表面の高さと,前記微細印刷層の表面の高さとは,同じであって,前記メタリック印刷層の表面と前記微細印刷層の表面とは,同一平面にある」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年4月11日付けの手続補正により,請求項1が「前記メタリック印刷層の表面と前記微細印刷層の表面とは,同一平面にある」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 また,請求項1を引用する請求項2-5についても同様に,補正によりこの拒絶の理由は解消した。 3 当審では,請求項5の「転写フィルム」の「印刷層」について,「基材上に設けられた部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層と,前記微細印刷層の上から設けられたメタリック印刷層とを有し,」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年4月11日付けの手続補正により,請求項5が「基材上に設けられた部分的にドットで表現される微細な線からなる微細印刷層と,前記微細印刷層に対して,基材と反対側に設けられたメタリック印刷層とを有し,」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 4 当審では,請求項5の「転写フィルム」の「印刷層」について,「厚さ方向において,前記メタリック印刷層の前記基材側の表面の高さと,前記微細印刷層の前記基材側の表面の高さとは,同じであって,前記メタリック印刷層の前記基材側の表面と前記微細印刷層の前記基材側の表面とは,同一平面にある印刷層」が特定する事項が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年4月11日付けの手続補正により,請求項5が「前記メタリック印刷層の前記基材側の表面と前記微細印刷層の前記基材側の表面とは,同一平面にある印刷層」のように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明1-5は,当業者が引用発明,引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-06-24 |
出願番号 | 特願2014-56558(P2014-56558) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G06K)
P 1 8・ 121- WY (G06K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 梅沢 俊 |
特許庁審判長 |
仲間 晃 |
特許庁審判官 |
須田 勝巳 辻本 泰隆 |
発明の名称 | 非接触通信カード、転写フィルム |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 芝 哲央 |