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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F24F
管理番号 1352774
審判番号 不服2018-5865  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-27 
確定日 2019-07-12 
事件の表示 特願2013-158293「飛散防止装置および飛散防止方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月12日出願公開、特開2015- 28405、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月30日の出願であって、その後の手続きは以下のとおりである。
・平成26年10月22日に手続補正書の提出
・平成29年6月22日付け拒絶理由通知
・平成29年8月7日に意見書及び手続補正書の提出
・平成30年1月26日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)
・平成30年4月27日に拒絶査定不服審判の請求

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?5及び7?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、また、本願の請求項6及び12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献1?3に記載された発明に基いて、それぞれ、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献一覧>
引用文献1:特開平11-51432号公報
引用文献2:特開2004-202485号公報
引用文献3:米国特許出願公開第2012/0040600号明細書

第3 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明12」という。)は、平成29年8月7日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
衣服に付着したハザード物質を水で湿化することにより飛散防止する飛散防止装置であって、
衣服の着用者が収容される室と、
当該室の内部に設けられて、圧縮空気と水とを混合して水ミストを噴霧するノズルと、
を備え、
当該ノズルから、液滴径が10μm以上500μm以下の水ミストを噴霧して、当該水ミストで前記衣服の全体を包み込むことで、当該水ミストで前記衣服の表面を一様に湿らせて、当該衣服の表面に付着したハザード物質を水で湿化することにより飛散防止することを特徴とする飛散防止装置。
【請求項2】
前記ノズルに対する水の供給圧力は、0.1MPa以上0.5MPa以下であり、
前記ノズルに対する圧縮空気の供給圧力は、0.15MPa以上0.55MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の飛散防止装置。
【請求項3】
前記ノズルに対する水の供給圧力を一定とし、圧縮空気を供給することで、水ミストを噴霧することを特徴とする請求項1または2に記載の飛散防止装置。
【請求項4】
前記ノズルは、二流体ノズルであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の飛散防止装置。
【請求項5】
水ミストの噴霧形状が、コーン状であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の飛散防止装置。
【請求項6】
前記室の内部には、押下されることにより前記ノズルから水ミストを噴霧するスイッチが設けられることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の飛散防止装置。
【請求項7】
ノズルから噴霧される水ミストを、水滴の粒子径10μm以上500μm以下でかつ衣服の着用者の全体を包み込む形状で噴霧することにより、衣服に付着したハザード物質を水で湿化して飛散防止することを特徴とする飛散防止方法。
【請求項8】
前記ノズルに対する水の供給圧力は、0.1MPa以上0.5MPa以下であり、
前記ノズルに対する圧縮空気の供給圧力は、0.15MPa以上0.55MPa以下であることを特徴とする請求項7に記載の飛散防止方法。
【請求項9】
前記ノズルに対する水の供給圧力を一定とし、圧縮空気を供給することで、水ミストを噴霧することを特徴とする請求項7または8に記載の飛散防止方法。
【請求項10】
前記ノズルは、二流体ノズルであることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の飛散防止方法。
【請求項11】
前記ノズルから噴霧される水ミストの噴霧形状が、コーン状であることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の飛散防止方法。
【請求項12】
前記ノズルが設けられる室の内部には、押下されることにより前記ノズルから水ミストを噴霧するスイッチが設けられることを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載の飛散防止方法。」

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、下線は、理解の一助として当審において付したものである。以下、同様。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、人体に直接的あるいは間接的に付着した粉塵を除去・回収して他を汚染するのを防ぐ粉塵除去用エアーシャワーシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、半導体工業、精密機械工業、食品工業、薬品工業等のクリーンルーム、バイオクリーンルーム及び準クリーンルーム(以下クリーンルーム等という)の出入口に、無塵衣等の衣服に付着した塵埃や菌を除去するエアーシャワー装置が設けられ、上記クリーンルーム等内にこれら塵埃や菌を持ち込まないようにしていることが知られている。これは、クリーンルーム等内で製造される製品に悪影響を及ばさないようにするためである。
【0003】一方、生産活動中に粉塵、特に有害粉塵が発生する作業環境下では、上記の場合とは逆に有害粉塵との接触がないようにしている。すなわち、この接触には大別して2種類あり、その一つは有害粉塵が外部に漏れて、外部環境に接触し汚染することであり、他は作業者に有害粉塵が直接触れ、健康障害を起こすことである。しかしながら、このような作業環境下で、従来前者は厳しい公害規制により、かなり高いレベルで、外部環境の汚染が防止されている。後者も、労働安全管理に関する厳しい指導により、宇宙服タイプの防塵作業衣を着用し、生産活動を行うようになっているから、生産活動中に作業者が直接有害粉塵に触れ、健康障害を起こすようなことは、あまり無いのが現状である。
【0004】そして、作業終了後、作業者はその現場で防塵作業衣に付着した有害粉塵を出来るだけ払い落とし、作業現場近くにある更衣室に行き、そこで防塵作業衣から通常の衣服に着替えて外部に出る。すなわち、作業者は、作業現場での作業時は防塵作業衣により、有害粉塵による汚染から自らを守り、更衣室で防塵作業衣から通常の衣服に着替えることで、外部に有害粉塵を持ち出すのを防いでいる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来例では、外部環境の汚染や生産活動中での作業者の健康障害に関しては、あまり問題となることはないものの、作業終了後、特に更衣室での作業者の脱衣時、注意しても防塵作業衣に付着した有害粉塵が飛散し易く、更衣室内を汚染したり、作業者に触れたりすることがままある。また、作業者が作業現場で防塵作業衣に付着した有害粉塵を充分払い落とした積もりであっても、作業現場から更衣室に行く道すがら、有害粉塵を結果的に撒き散らすことになってしまう。
【0006】そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、防塵作業衣に付着した粉塵、特に有害粉塵を撒き散らしたり、脱衣時作業者に触れたり、外部に持ち出すようになったりすることの無い粉塵除去用エアーシャワーシステムを提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ほぼ密封した箱体内に人体に直接的あるいは間接的に付着した粉塵を除去するエアーシャワー用の給気ノズルを設けると共に、前記箱体内にその中のエアーを吸引除去する排気口を設けてなり、前記給気ノズルからの供給エアー量よりも前記排気口からの排気エアー量を大に設定し、前記箱体内を負圧状態にすることを特徴とする。従って、この特徴によれば、人体に直接的あるいは間接的に付着した粉塵を給気ノズルからのエアーシャワーにより除去し、この粉塵を含んだエアーを排気口からエアーシャワー量より多く吸引除去するから、箱体内が負圧状態となり、排気口以外の箱体から粉塵が外に出ることは無い。」

イ 「【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の態様を図1、2に基づいて詳述する。図1は本発明の実施の態様を示す粉塵除去用エアーシャワーシステムのフロシート図である。図において、粉塵除去用エアーシャワーシステム1は、ほぼ密封した箱体2内に人体に直接的あるいは間接的に付着した粉塵、例えば有害粉塵を除去するエアーシャワー用の給気ノズル3を設けると共に、箱体2内にその中のエアーを吸引除去する排気口4を設けてなり、給気ノズル3からの供給エアー量よりも排気口4からの排気エアー量Qを大に設定し、箱体内2を負圧状態にするものである。
【0012】前記箱体2は、生産活動中に有害粉塵が発生する作業現場になるべく近い場所に設置するのが、作業者が作業現場から箱体2に移動中に有害粉塵を拡散しない観点から望ましい。そして、箱体2は、ほぼ2重構造となっており、内側のエアーシャワー室10及びその外側箱体11からなる。エアーシャワー室10及びその扉(不図示)のサイズは、作業者が防塵作業衣12を着ていても、楽に入れる大きさのものが好ましい。エアーシャワー室10の天井13及び側壁14にエアーシャワー用の給気ノズル3が多数取り付けられ、床15に排気口4がある。
【0013】給気ノズル3は、上述のように多数取り付けられ、防塵作業衣12に隈なくエアーシャワー出来るようになっている。この給気ノズル3から供給されるエアーは、外側箱体11にある供給口16からエアーが供給され、エアーシャワー室10の外側の給気室17内の送風機18により増圧され、更に中、高性能フィルタ19により不純物が除去されたクリーンエアーである。
【0014】前記排気口4は、グレーチングなどの多孔板20が張られ、防塵作業衣12から除去された有害粉塵をエアーシャワー室10から外側の排気室21に一旦出し、更に外側箱体11にある排出口22から外部にエアーと共に有害粉塵を出すものである。
【0015】そして、この排気口4は、排気室21、排出口22を経由して、ライン23により粉塵回収フィルタ24に接続される。この粉塵回収フィルタ24は、バッグフィルタ等が使用され、集塵回収した有害粉塵は下部タンク25に設けられたロータリーバルブ26から系外に出される。粉塵回収フィルタ24の排気口27は、ライン28によりフィルタ用送風機29に接続し、このフィルタ用送風機29のデリバリ側は、ライン30により前記供給口16に接続している。
【0016】更に、このフィルタ用送風機29のデリバリ側から、その吐き出しエアーの一部を排気ライン31により系外に出すことにより、給気ノズル3からの供給エアー量よりも排気口4からの排気エアー量Qを大に設定することを担保し、箱体2の内側のエアーシャワー室10内を常時負圧状態にしている。
【0017】なお、前記エアーシャワー室10内には吸気用マスク40が装備されている。この吸気用マスク40は、エアーシャワー室10内で、防塵作業衣12の着用者が、頭部分を外しても、有害粉塵を吸い込まないようにするためのものである。この吸気用マスク40は、フレキシブルホースに接続され、着用者が口部に当てることにより使用され、清浄化フィルタ41を介して清浄化用送風機42に接続され、外部箱体11の外からエアーが供給される。
【0018】次に上記構成になる粉塵除去用エアーシャワーシステム1の使用方法を説明する。まず、生産活動中に有害粉塵が発生する作業現場での作業者は、近い場所に設置してある本発明のシステム1に行き電源を入れ、送風機類、すなわち、送風機18、フィルタ用送風機29及び清浄化用送風機42を作動させる。例えば、送風機18の風量を30m^(3)/分とし、フィルタ用送風機29の風量を22m^(3)/分とし、更に清浄化用送風機42の風量を1m^(3)/分とすれば、排気ライン31から系外に吐き出す量を30-(22+1)=7m^(3)/分に調節し、エアーシャワー室10内を負圧状態にする。この状態で、作業者は、エアーシャワー室10の扉を開き中に入り、扉を閉じる。そして、作業者は、給気ノズル3からの供給エアーが防塵作業衣12に隈なく当たるように回ったり、特に付着の激しい箇所には重点的に風を当てて、防塵作業衣12から有害粉塵を完全払い落とすまでエアーシャワーする。防塵作業衣12から払い落とされた有害粉塵は、エアーと共に排気口4のグレーチングなどの多孔板20から排気室21に入り、排出口22からライン23により粉塵回収フィルタ24に入る。この粉塵回収フィルタ24で有害粉塵は回収され、下部タンク25に溜まり、一定量ごとにロータリーバルブ26から系外に出される。一方、有害粉塵が回収されたエアーは、その大半がフィルタ用送風機29により供給口16に送られ、送風機18により増圧されて、フィルタ19を通り給気ノズル3からエアーシャワー室10内に供給されて循環され、残りのエアーは上述のように排気ライン31により系外に出される。また、防塵作業衣12から有害粉塵3を払い落とす際、事情により防塵作業衣12の頭部分を外す時は、吸気用マスク40を引出し、口に当てて呼吸して有害粉塵を吸い込まないようにする。」

ウ 「【0020】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の粉塵除去用エアーシャワーシステムによれば、以下のような効果がある。請求項1の発明は、人体に直接的あるいは間接的に付着した粉塵を給気ノズルからのエアーシャワーにより除去し、この粉塵を含んだエアーを排気口からエアーシャワー量よりも多く吸引除去するから、箱体内が負圧状態となり、排気口以外の箱体内から粉塵が外に出ることは無い。従って、防塵作業衣等に付着した粉塵が有害なものであっても撒き散らしたり、脱衣時作業者に触れたり、外部に持ち出すようなことは無く、外部の安全は無論のこと、作業者の安全も万全となる。」

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア?ウ及び図1の記載によると、引用文献1には、粉塵除去用エアーシャワーシステム1又は粉塵除去方法が記載されていることが分かる。

イ 上記(1)イ及び図1の記載によると、粉塵除去用エアーシャワーシステム1は、防塵作業衣12の着用者が収容されるエアーシャワー室10と、当該エアーシャワー室10の内部に設けられて、クリーンエアを供給する給気ノズル3と、を備えることが分かる。

ウ 上記(1)ア?ウ及び図1の記載によると、粉塵除去用エアーシャワーシステム1又は粉塵除去方法において、給気ノズル3からクリーンエアを供給して防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることで、防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去することが分かる。

(3)引用発明
ア 引用発明1A
上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1A」という。)が記載されていると認められる。
「防塵作業衣12に付着した有害粉塵を払い落して除去する粉塵除去用エアーシャワーシステム1であって、
防塵作業衣12の着用者が収容されるエアーシャワー室10と、
当該エアーシャワー室10の内部に設けられて、クリーンエアを供給する給気ノズル3と、
を備え、
当該給気ノズル3からクリーンエアを供給して前記防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることにより、前記防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去する粉塵除去用エアーシャワーシステム1。」

イ 引用発明1B
上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1B」という。)が記載されていると認められる。
「給気ノズル3からクリーンエアを供給して防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることにより、前記防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去する粉塵除去方法。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
ごみ焼却、発電、製鉄、化学、石油等のプラント機器に付着する灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物を湿潤させる前処理工程と、
前記プラント機器から湿潤させた前記付着物を除去する除去工程とを備えることを特徴とするプラント機器の清掃方法。
【請求項2】
前記前処理工程では、前記付着物に水のみを噴射する一流体噴射法、又は水と空気とを混合させた霧状の流体を噴射する二流体噴射法が使用されることを特徴とする請求項1に記載のプラント機器の清掃方法。
【請求項3】
前記除去工程では、(1)前記付着物に研掃材を吹き付けるブラストによる除去、(2)前記付着物に水を噴射するジェットによる除去、(3)ケレン棒、振動工具、衝撃工具又はバキューム等を使用した手作業による除去の少なくとも一つが使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラント機器の清掃方法。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物を除去・清掃する必要がある、ごみ焼却、発電、製鉄、化学、石油等のプラント機器に関する。」

ウ 「【0008】
本発明は、除去すべき付着物が固く、機器との付着力が強く、さらに表面にブラスト疵をつけてはならない機器の清掃を安全に良い環境下で高効率でできるプラント機器の清掃方法を提供する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明について説明する。
【0010】
発明者は実験により、プラント機器に付着する灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物は、程度の差はあるものの吸湿性を持つ物質であり、それ自体は固くても水分を吸って湿潤状態になると軟らかくなり、付着力も弱くなる性質を持っていることを知見した。
【0011】
本発明はこのような付着物の性質を利用したもので、ごみ焼却、発電、製鉄、化学、石油等のプラント機器に付着する灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物を湿潤させる前処理工程と、前記プラント機器から湿潤させた前記付着物を除去する除去工程とを備えることを要旨とする。
【0012】
付着物を湿潤させる方法としては、前記付着物に水のみを噴射する一流体噴射法、又は水と空気とを混合させた霧状の流体を噴射する二流体噴射法が使用されるのが望ましい。
【0013】
湿潤させた付着物を除去する方法としては、(1)前記付着物に研掃材を吹き付けるブラストによる除去、(2)前記付着物に水を噴射するジェットによる除去、(3)ケレン棒、振動工具、衝撃工具、又はバキューム等を使用した手作業による除去の少なくとも一つが使用されるのが望ましい。上記(1)ブラスト及び(2)ジェットは、手作業によっても遠隔作業によってもよい。」

エ 「【0017】
図1はボイラの断面図を示し、図中(A)は前処理工程中のボイラを示し、図中(B)は除去工程中のボイラを示す。ボイラは、例えば1パス1a、2パス1b、3パス1cの燃焼ガス通路を有し、1パス1a及び2パス1bの周壁は、水管2を有する水管壁から構成される。3パス1cには、燃焼ガスが流れる方向に対して直交する方向に水管が伸びる熱交換器3…及び周壁の水管壁が配置される。ごみ焼却炉の燃焼ガスが1パス1a、2パス1b及び3パス1cを通過する際、多数の水管2…を通る水が管の外から燃焼ガスで加熱され、蒸気になる。ボイラ1の焼却炉側には、焼却炉に水分がいかないようにシール板4が設けられ、ボイラ1の排出側の排ガスダクト1dには、図示しない集塵機等に水分(この水分は付着物を湿潤させる水又は付着物を除去するジェットの水である)がいかないようにシール板5が設けられる。ボイラ1中で溜まる灰はダストシュート1eから取り出される。
【0018】
ボイラ1の水管壁や熱交換器3の水管自体には、ごみ焼却炉で燃焼させた灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物(以下ダスト等付着物)が付着する。以下ダスト等付着物の除去方法について説明する。まず図中(A)に示すように、ダスト等付着物を霧又は少量の水で湿潤させて軟らかくまた付着力を弱くさせる。水管壁や水管自体に付着するダスト等付着物は、程度の差はあるものの、吸湿性を持つ物質であり、それ自体は固くても水分を吸って湿潤状態になると、軟らかくなり、機器との付着面まで湿潤すると、付着力も弱くなる性質を持っている。
【0019】
ダスト等付着物を湿潤させる方法としては、ダスト等付着物に水のみを噴射する一流体噴射法と、水と空気を混合させた霧状の流体を噴射する二流体噴射法とがある。吸湿速度が速く、使用水量(使用後の水処理の量を少なくする意味からも)を少なくできるのは後者である。この実施形態では、水ポンプ7と空気コンプレッサ8とを併用して、二流体ノズル9…から水と空気が混合した流体を噴射する二流体噴射法が使用されている。空気との二流体霧の水粒子径は100μm以下、好ましくは70μm以下が高効率であり、これは市販の二流体ノズル9…を使用することで10μm程度迄実施可能である。さらに二流体霧の温度は活性度(ダストの吸湿力)から10℃以上、好ましくは20℃以上が望ましい。ダスト等付着物を湿らせた後は、ダスト等付着物が水を吸収するまで時間をおく(この時間を「湿化時間」と定義する)。なお、この前処理工程で使用する水は少量なので、ボイラ下部の耐火物の耐水吸湿対策も軽微なもので済む。
【0020】
次工程である清掃装置による除去工程において、軟質研掃材もしくはジェット噴射水によるダスト等付着物の除去を容易にするためには、ダスト等付着物に吸収させる水分(質量%)としては7?15%が適切である。水分が7%未満だと、ダスト等付着物の軟らかさが不十分であり、逆に15%を超えると、粘土にブラストするみたいになり、ダスト等付着物が剥離し難くなる。図3はダスト等付着物に吸収される水分(質量%)と湿化時間との関係を示す。ダスト室内の任意のA?C地点で測定している。湿潤の方法にもよるが、1?数時間以内でダスト等付着物の水分を7?15%にすることができる。
【0021】
次に図中(B)に示すように、ボイラ1の水管壁又は水管自体から湿潤させたダスト等付着物を除去する。この除去工程では、ダスト等付着物に研掃材を吹き付けるブラスト、ダスト等付着物に水を噴射するジェット、又はケレン棒、振動工具、又はバキューム等を使用した手作業によるダスト等付着物の除去の少なくとも一つが使用される。」

(2)引用文献2に記載された事項
上記(1)及び図1の記載によれば、引用文献2には次の事項が記載されていると認められる。
「ごみ焼却、発電、製鉄、化学、石油等のプラント機器の清掃方法において、灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物を除去する除去工程の前処理工程として、水ポンプ7と空気コンプレッサ8とを併用して、二流体ノズル9から水と空気が混合した水粒子径が10μm程度以上100μm以下の霧状の流体を噴射する二流体噴射法を使用して、前記付着物を湿潤させる工程を行うこと。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面と共に次の記載がある。

ア 「FIG. 1 illustrates a person wearing a clean room suit 100 according to an exemplary embodiment of the invention and standing within a clean room lock 150 according to an exemplary embodiment of the invention.」(段落[0109])
<当審仮訳>
「図1は、本発明の一実施形態に係るクリーンルームスーツ100を着用して本発明の一実施形態に係るクリーンルーム150内に立っている人を示す図である。」

イ 「A gas jet system is provided which comprises nozzle rows each having eight nozzles 224 for blowing a gas towards the cabin 202, thereby also directing a gas flow around an exterior of the clean room suit 100.」(段落[0118])
<当審仮訳>
「ガス噴射システムは、室202に向かってガスを吹き出すための8個のノズル224を有するノズル列から構成されており、クリーンルームスーツ100の外部の周りにガス流を向けている。」

ウ 「A user interface 246 at the clean side 236 allows a user to control an operation mode of the cleaning procedure, allows for a control of the ultraviolet decontamination and may house a central control unit for controlling the system 100, 150. A further user interface 248 is provided as well at the unclean side 238. A display panel 250 which, inter alia, includes a start button and an emergency stop and exit button is shown in the cabin 202 as well.」(段落[0122])
<当審仮訳>
「清浄側236におけるユーザインタフェース246は、ユーザが、洗浄手順の動作モードを制御することを可能にし、紫外線の浄化の制御を可能にし、また、システム100、150を制御するための中央制御ユニットを収容することができる。さらに、ユーザインタフェース248は、不浄側238で同様に設けられている。特に、スタートボタン、緊急停止及び終了ボタンを有する表示パネル250は、室202においても示されている。」

(2)引用文献3に記載された事項
上記(1)並びに図1、2及び4の記載によれば、引用文献3には、次の事項が記載されていると認められる。
「クリーンルーム150の室202の内部に、ノズル224からのガスの吹き出しを開始するスタートボタンを設けること。」

第5 原査定についての判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1Aとを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「防塵作業衣12」は、前者の「衣服」に相当し、以下同様に、「有害粉塵」は「ハザード物質」に、「防塵作業衣12の着用者」は「衣服の着用者」に、「エアーシャワー室10」は「室」に、それぞれ相当する。

・後者の「防塵作業衣12に付着した有害粉塵を払い落して除去する粉塵除去用エアーシャワーシステム1」は、前者の「衣服に付着したハザード物質を水で湿化することにより飛散防止する飛散防止装置」に、「衣服に付着したハザード物質を処理する処理装置」という限りにおいて一致する。

・後者の「防塵作業衣12の着用者が収容されるエアーシャワー室10」は、前者の「衣服の着用者が収容される室」に相当する。

・後者の「当該エアーシャワー室10の内部に設けられて、クリーンエアを供給する給気ノズル3」は、前者の「当該室の内部に設けられて、圧縮空気と水とを混合して水ミストを噴霧するノズル」に、「当該室の内部に設けられて、所定の流体を供給するノズル」という限りにおいて一致する。

・後者の「当該給気ノズル3からクリーンエアを供給して防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることで、前記防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去する」は、前者の「当該ノズルから、液滴径が10μm以上500μm以下の水ミストを噴霧して、当該水ミストで前記衣服の全体を包み込むことで、当該水ミストで前記衣服の表面を一様に湿らせて、当該衣服の表面に付着したハザード物質を水で湿化することにより飛散防止する」に、「当該ノズルから、所定の流体を前記衣服に供給することにより、当該衣服の表面に付着したハザード物質を処理する」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明1と引用発明1Aとの間には、次の一致点、相違点があるといえる。
[一致点]
「衣服に付着したハザード物質を処理する処理装置であって、
衣服の着用者が収容される室と、
当該室の内部に設けられて、所定の流体を供給するノズルと、
を備え、
当該ノズルから、所定の流体を前記衣服に供給することにより、当該衣服の表面に付着したハザード物質を処理する処理装置。」

[相違点A]
本願発明1は、「衣服に付着したハザード物質を水で湿化することにより飛散防止する飛散防止装置」であって、「室の内部に設けられて、圧縮空気と水とを混合して水ミストを噴霧するノズル」を備え、「当該ノズルから、液滴径が10μm以上500μm以下の水ミストを噴霧して、当該水ミストで前記衣服の全体を包み込むことで、当該水ミストで前記衣服の表面を一様に湿らせて、当該衣服の表面に付着したハザード物質を水で湿化することにより飛散防止する」のに対して、引用発明1Aは、「防塵作業衣12に付着した有害粉塵を払い落して除去する粉塵除去用エアーシャワーシステム1」であって、「エアーシャワー室10の内部に設けられて、クリーンエアを供給する給気ノズル3」を備え、「当該給気ノズル3からクリーンエアを供給して前記防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることにより、前記防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去する」点(以下、「相違点A」という。)。

(2)相違点Aについての検討
上記相違点Aについて検討する。
引用発明1Aは、粉塵除去用エアーシャワーシステム1であって、給気ノズル3からクリーンエアを供給して防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることにより、前記防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去するものであり、「防塵作業衣に付着した粉塵、特に有害粉塵を撒き散らしたり、脱衣時作業者に触れたり、外部に持ち出すようになったりすることの無い粉塵除去用エアーシャワーシステムを提供する」(段落【0006】)ことを課題とするものである。
一方、引用文献2に記載された事項は、ごみ焼却、発電、製鉄、化学、石油等のプラント機器の清掃方法に関するものであって、二流体ノズル9から水と空気が混合した水粒子径が10μm程度以上100μm以下の霧状の流体を噴射する二流体噴射法を使用して、付着物を湿潤させるものの、ごみ焼却、発電、製鉄、化学、石油等のプラント機器に付着する灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物を除去する除去工程の前処理工程として、付着物を軟らかくして、付着物の機器との付着力を弱くすることを課題とするものである。
そうすると、引用発明1Aと引用文献2に記載された事項とは、技術分野及び課題が異なるから、引用発明1Aに引用文献2に記載された事項を適用することの動機付けは認められない。
仮に、引用発明1Aに引用文献2に記載された事項を適用することができたとしても、そもそも、引用発明1A及び引用文献2に記載された事項は、ノズルから噴霧する水ミストで衣服の全体を包み込むことで、前記衣服の表面に付着したハザード物質を水で湿化することにより飛散防止する構成を備えるものではないから、引用発明1Aにおいて、上記相違点Aに係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことではない。

(3)まとめ
そして、本願発明1は、「本発明によれば、ノズルから水ミストを噴霧して、水ミストで衣服の全体を包み込むことで、水ミストで衣服の表面を一様に湿らせて、衣服の表面に付着したハザード物質を失活させる。・・・したがって、ハザード物質を扱う室から退出する際に、ハザード物質の失活化作業を迅速に実行できるので、作業効率が低下するのを防止できる。」(本願明細書の段落【0023】)という所期の効果を奏するものである。
したがって、本願発明1は、引用発明1A及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2?6について
本願の請求項2?6は、本願の請求項1の記載を発明特定事項を置き換えることなく引用するものであり、本願発明2?6は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本願発明2?5は、本願発明1についてと同じ理由により、引用発明1A及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、引用文献3に記載された事項は、本願の請求項6に記載された「前記室の内部には、押下されることにより前記ノズルから水ミストを噴霧するスイッチが設けられる」という事項に対応するものであって、上記相違点1Aに係る本願発明1の構成を示すものでないから、本願発明6は、本願発明1についてと同じ理由により、引用発明1A並びに引用文献2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明7について
(1)対比
本願発明7と引用発明1Bとを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「防塵作業衣12」は、前者の「衣服」に相当し、以下同様に、「有害粉塵」は「ハザード物質」に、それぞれ相当する。

・後者の「給気ノズル3」は、前者の「ノズル」に、「ノズル」という限りにおいて一致する。
そして、後者の「給気ノズル3からクリーンエアを供給して防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることにより、前記防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去する」は、前者の「ノズルから噴霧される水ミストを、水滴の粒子径10μm以上500μm以下でかつ衣服の着用者の全体を包み込む形状で噴霧することにより、衣服に付着したハザード物質を水で湿化して飛散防止する」に、「ノズルから所定の流体を衣服に供給することにより、前記衣服に付着したハザード物質を処理する」という限りにおいて一致する。

・後者の「粉塵除去方法」は、前者の「飛散防止方法」に、「ハザード物質処理方法」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明7と引用発明1Bとの間には、次の一致点、相違点があるといえる。
[一致点]
「ノズルから所定の流体を衣服に供給することにより、前記衣服に付着したハザード物質を処理するハザード物質処理方法。」

[相違点B]
本願発明7は、「ノズルから噴霧される水ミストを、水滴の粒子径10μm以上500μm以下でかつ衣服の着用者の全体を包み込む形状で噴霧することにより、衣服に付着したハザード物質を水で湿化して飛散防止する」「飛散防止方法」であるのに対して、引用発明1Bは、「給気ノズル3からクリーンエアを供給して防塵作業衣12に隈なくエアーシャワーすることにより、前記防塵作業衣12から有害粉塵を払い落して除去する粉塵除去方法」である点(以下、「相違点B」という。)。

(2)相違点Bについての検討
上記相違点Bに係る本願発明7の構成は、実質的に、上記1(1)で示した相違点Aに係る本願発明1の構成に含まれている。
そうすると、上記1(2)の相違点Aについての検討を踏まえると、同様の理由により、引用発明1Bにおいて、上記相違点Bに係る本願発明7の構成とすることは当業者が容易になし得たことではない。

(3)まとめ
そして、本願発明7は、「本発明によれば、ノズルから水ミストを噴霧して、水ミストで衣服の全体を包み込むことで、水ミストで衣服の表面を一様に湿らせて、衣服の表面に付着したハザード物質を失活させる。・・・したがって、ハザード物質を扱う室から退出する際に、ハザード物質の失活化作業を迅速に実行できるので、作業効率が低下するのを防止できる。」(本願明細書の段落【0023】)という所期の効果を奏するものである。
したがって、本願発明7は、引用発明1B及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本願発明8?12について
本願の請求項8?12は、本願の請求項7の記載を発明特定事項を置き換えることなく引用するものであり、本願発明8?12は、本願発明7の発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本願発明8?11は、本願発明7についてと同じ理由により、引用発明1B及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明12は、本願発明7についてと同じ理由により、引用発明1B並びに引用文献2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-02 
出願番号 特願2013-158293(P2013-158293)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F24F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安島 智也  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山崎 勝司
槙原 進
発明の名称 飛散防止装置および飛散防止方法  
代理人 黒岩 久人  
代理人 黒岩 久人  
代理人 黒岩 久人  

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