• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F21S
管理番号 1352841
審判番号 不服2018-10031  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-23 
確定日 2019-07-09 
事件の表示 特願2015-129276号「バックライトユニット、液晶表示装置、波長変換部材、および光硬化性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月12日出願公開、特開2016-146310号、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月26日(優先権主張 平成26年9月30日(JP)日本国 平成27年2月2日(JP)日本国)の出願であって、平成29年7月21日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年4月23日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年7月23日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1、6及び9に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基いて、請求項2?5、7及び10に係る発明は、引用文献1?3に基いて、請求項8及び11?13に係る発明は、引用文献1?4に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2013-544018号公報
2.特開2003-277473号公報
3.特開2014-137477号公報
4.国際公開第2014/109212号

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正(平成30年7月23日付けの手続補正)は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1、6及び8に「前記重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を更に含み、」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、当該事項は、願書に最初に添付した明細書(段落【0067】等)に記載された事項であり、新規事項を追加するものではない。
そして、以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?11に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1?11に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明11」という。)は、平成30年7月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
光源と、該光源から出射される光の光路上に位置する波長変換部材と、を含むバックライトユニットであって、
前記波長変換部材は、励起光により励起され蛍光を発光する量子ドットをマトリックス中に含む波長変換層を有し、
前記波長変換層は、光硬化性組成物を光照射により硬化させてなる光硬化層であり、
前記光硬化性組成物は、前記量子ドット、脂環式エポキシ化合物を少なくとも含む重合性化合物、および光重合開始剤を含み、
前記光重合開始剤は、ヨードニウム塩化合物であり、
前記重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を更に含み、
前記波長変換層のマトリックスにおける前記光源から出射される光の損失率は、厚み60μm換算で3%以下であるバックライトユニット。
【請求項2】
前記ヨードニウム塩化合物は、アニオン部として、気相酸性度が240?290kcal/molの範囲であるアニオン部を含む請求項1に記載のバックライトユニット。
【請求項3】
前記波長変換層は、光散乱粒子を0.20体積%以上含む請求項1または2に記載のバックライトユニット。
【請求項4】
前記光源は、青色光源である請求項1?3のいずれか1項に記載のバックライトユニット。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のバックライトユニットと、液晶セルと、を含む液晶表示装置。
【請求項6】
励起光により励起され蛍光を発光する量子ドットをマトリックス中に含む波長変換層を有し、
前記波長変換層は、光硬化性組成物を光照射により硬化させてなる光硬化層であり、
前記光硬化性組成物は、前記量子ドット、脂環式エポキシ化合物を少なくとも含む重合性化合物、および光重合開始剤を含み、
前記光重合開始剤は、ヨードニウム塩化合物であり、
前記重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を更に含み、
前記波長変換層のマトリックスにおける青色光損失率は、厚み60μm換算で3%以下である波長変換部材。
【請求項7】
前記ヨードニウム塩化合物は、アニオン部として、気相酸性度が240?290kcal/molの範囲であるアニオン部を含む請求項6に記載の波長変換部材。
【請求項8】
励起光により励起され蛍光を発光する量子ドットを含む光硬化性組成物であって、
前記量子ドット、脂環式エポキシ化合物を少なくとも含む重合性化合物、および光重合開始剤を含み、
前記光重合開始剤は、ヨードニウム塩化合物であり、
前記重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を更に含み、
前記光硬化性組成物を光照射により硬化させて得られる光硬化体の量子ドットを除く部分の青色光損失率が、厚み60μm換算で3%以下である、光硬化性組成物。
【請求項9】
前記ヨードニウム塩化合物は、アニオン部として、気相酸性度が240?290kcal/molの範囲であるアニオン部を含む請求項8に記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリレート化合物は、単官能(メタ)アクリレートを含む請求項8または9に記載の光硬化性組成物。
【請求項11】
光散乱粒子を固形分全量に対して体積基準で0.20体積%以上含む請求項8?10のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)。
(1a)
「【0003】
従来の照明装置は、制限された光色特性および不十分な照明効率を有する。高色純度、高効率、および改善された光色特性を示す、費用効率のよい照明方法および装置に対する必要性が存在する。」
(1b)
「【0007】
一実施形態において、本発明は、量子ドット(QD)フィルムバックライトユニット(BLU)を提供する。QD BLUは、好適には、青色発光ダイオード(LED)およびQDフィルムを備え、QDフィルムは、好適には、QD蛍光体材料層の上部側面および底部側面のそれぞれの上のバリア層の間に配置される、QD蛍光体材料のフィルムまたは層を含む。好適には、LEDは、導光パネル(LGP)に結合され、QDフィルムは、LGPと液晶ディスプレイ(LCD)パネルの光学フィルムとの間に配置される。LGPとLCDの光学フィルムとの間にQDフィルムを配置することにより、青色光の効率的な再利用、およびQDに対する青色光の光路距離の増加を可能にし、それによって、QD照明装置における十分な輝度の達成に必要なQD濃度の大幅な低下を可能にする。」
(1c)
「【0019】
ある特定の実施形態において、本発明は、ディスプレイ用途のためのバックライトユニット(BLU)を提供する。本発明のBLUは、放出調整可能な量子ドット(QD)、例えば寸法調整可能QDを、蛍光体材料として含む。一次光源を使用してQDを励起することにより、BLUは、均一な寸法分布を有するQD集団によって放出される純粋な飽和色の光、または異なる寸法の量子ドットの混合によって放出される異なる色の混合光を生成することができる。このQDの寸法調整可能性により、独自のスペクトル操作が、精密に画定された白色点を有するQD BLUによって達成される。以下にさらに詳細に記載されるように、QD BLUの白色点は、BLUの光色成分を放出する複数のQD集団の寸法分布を含む、QD特性を調整することによって、調節される。」
(1d)
「【0031】
本発明の1つの例示的な実施形態によると、図6Aおよび6Bに示されるように、照明装置600(例えば、ディスプレイBLU)は、2つのバリア層620と622との間に挟持または配置されるQD蛍光体材料604を含む、フィルムを含む、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602を備える。QDフィルムは、導光パネル(LGP)の上に配置され、少なくとも1つの一次光源610が、LGPに隣接して位置され、それによって、一次光源は、QD蛍光体材料との光通信状態にある。一次光614が、一次光源によって放出される際、一次光は、LGPを通じてQDフィルムに向かって進む。QDフィルムおよび一次光源は、一次光が、リモート蛍光体パッケージのQD蛍光体材料を通じて進み、QD蛍光体材料内のQDを励起し、それによって、QDフィルムからの二次光の放出をもたらすように配置される。リモート蛍光体パッケージおよび照明装置から放出される光は、蛍光体材料によって放出される二次光、QDフィルムを完全に通過する一次光、または好ましくはそれらの組み合わせを含む。図6Aおよび6Bに示される例示的な実施形態において、QDフィルムBLU600は、底部反射フィルムまたは層608、LGPの上部および/または底部の付近の1つ以上の光抽出層(図6には示されない)、ならびに、QDフィルムが、BEF(例えば、反射偏光フィルムもしくはプリズムフィルム)と、反射フィルムおよび1つ以上の光抽出層を有するLGPとの間に挟持または配置されるように、QDフィルムの上に配置される1つ以上の輝度強化フィルム601をさらに備える。
【0032】
図6A?6Cの例示の実施形態に示されるように、本発明の照明方法および装置は、量子ドットの下方変換層を、より好ましい位置に、好ましくは、LCD BLUの反射フィルム608とBEF601との間、例えば、LCD BLUの反射フィルム608とLGP606の間、またはLGP606とBEF601の間に配置される、QD蛍光体層604を含むQDフィルム層602の形状で、位置付けることを目的とする。好適には、QDフィルム602は、上部バリア620および底部バリア622を含み、これらのバリアは、QD蛍光体材料604を収容し、外部の環境条件からそれを保護する。QDフィルムを、LED610の付近よりも、LGPに隣接したこのような位置に配置することで、QD蛍光体材料内の光束および温度は、著しく低減され、結果として、QD蛍光体材料およびQD BLUに、より長い寿命をもたらす。さらに、フィルムアセンブリの導入が、簡略化され、機械的損傷問題が解決する。多数のさらなる利点が、以下により詳細に記載されるように、本発明のQDフィルム実施形態により達成される。」
(1e)
「【0089】
一般的に、ポリマーリガンドは、ナノ構造体の表面に結合する。しかしながら、組成物中の全てのリガンド材料が、ナノ構造体に結合する必要はない。ポリマーリガンドは、いくつかのリガンド分子がナノ構造体の表面に結合し、他のリガンド分子はナノ構造体の表面に結合しないように、過剰に提供されてもよい。過剰なリガンドは、任意で、ナノ構造体が中に埋め込まれる、マトリックス内に重合されてもよい。組成物は、このような組み込みを促進するために、溶媒、架橋剤、および/または開始剤(例えば、ラジカルまたはカチオン性開始剤)を含んでもよい。
【0090】
本発明の蛍光体材料は、QDが中に埋め込まれるか、またはそうでなければ配置される、マトリックス材料をさらに含む。マトリックス材料は、QDを収容することのできる、任意の好適なホストマトリックス材料であり得る。好適なマトリックス材料は、QDおよび任意の周囲パッケージ材料または層を含むBLUの構成要素と、化学的および光学的に適合性を有することになる。好適なマトリックス材料には、一次光および二次光の両方に透明であり、したがって、一次光および二次光の両方が、マトリックス材料を通じて伝送することを可能にする、非黄変光学材料が含まれる。好ましい実施形態において、マトリックス材料は、QDを完全に包囲し、酸素、湿気、および温度等の環境条件によってもたらされるQDの劣化を防ぐ、保護バリアを提供する。マトリックス材料は、可撓性または成形性のQDフィルムが望ましい場合の用途においては、可撓性であってもよい。あるいは、マトリックス材料は、高強度の非可撓性材料を含んでもよい。
【0091】
好ましいマトリックス材料は、低い酸素および湿気の透過性を有し、高い光および化学安定性を示し、好ましい屈折率を示し、QD蛍光体材料に隣接するバリアまたは他の層に接着し、それによって、QDを保護するための気密シールを提供するであろう。好ましいマトリックス材料は、ロールツーロール加工を促進するために、紫外線または熱硬化法で硬化可能である。熱硬化が、最も好ましい。
【0092】
本発明のQD蛍光体材料における使用に好適なマトリックス材料は、ポリマー、ならびに有機および無機の酸化物を含む。本発明のマトリックスにおける使用に好適なポリマーには、このような目的に使用可能である、当業者に既知の任意のポリマーが含まれる。好適な実施形態において、ポリマーは、実質的に半透明または実質的に透明である。好適なマトリックス材料には、エポキシ、アクリレート、ノルボルネン、ポリエチレン、ポリ(ビニルブチラール):ポリ(ビニルアセテート)、ポリ尿素、ポリウレタン;アミノシリコーン(AMS)、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリフェニルアルキルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジアルキルシロキサン、シルセスキオキサン、フッ化シリコーン、ならびにビニルおよび水素化物置換シリコーンを含むがこれらに限定されない、シリコーンおよびシリコーン誘導体;メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、およびラウリルメタクリレートを含むがこれらに限定されない、モノマーから形成される、アクリルポリマーおよびコポリマー;ポリスチレン、アミノポリスチレン(APS)、およびポリ(アクリルニトリルエチレンスチレン)(AES)等のスチレン系ポリマー;ジビニルベンゼン等、二官能性モノマーと架橋したポリマー;リガンド材料との架橋に好適な架橋剤、リガンドアミン(例えば、APSまたはPEIリガンドアミン)と結合してエポキシを形成するエポキシド等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
本発明に使用されるQDは、任意の好適な方法、例えば、ナノ結晶をポリマーに混合すること、フィルム成形すること、ナノ結晶をモノマーと混合し、それらを一緒に重合すること、ナノ結晶をゾルゲルに混合して酸化物を形成すること、あるいは、当業者に既知の任意の他の方法を使用して、ポリマーマトリックス(または他のマトリックス材料)に埋め込むことができる。本明細書に使用される際、「埋め込む」という用語は、発光性ナノ結晶を、マトリックスの大部分を占めるポリマー内に入れ込むか、または包み込むことを示して使用される。発光性ナノ結晶は、好適には、マトリックス全体にわたって均一に分布するが、さらなる実施形態においては、それらは、用途に特有の均一性分布関数に従って分布してもよいことに留意されたい。
【0094】
リガンドおよび/またはマトリックス材料はまた、例えば、マトリックス内へのリガンドおよびナノ構造体の組み込みのための、架橋剤および/または開始剤を含んでもよい。実施形態の1つの分類において、架橋剤は、エポキシ架橋剤である。
・・・
【0102】
いくつかの実施形態において、マトリックスは、QDをコーティングするリガンド材料から形成される。リガンド上の分子と反応させるために、架橋剤が提供されてもよい。同様に、開始剤(例えば、ラジカルまたはカチオン開始剤)が提供されてもよい。第2のマトリックス材料の他の前駆体が提供されない実施形態においては、マトリックスは、任意で、本質的に、第1の材料ポリマーリガンド、および/またはその架橋もしくはさらなる重合形態、ならびに、任意の残留溶媒、架橋剤、開始剤等から構成される。一実施形態において、QDは、AMSリガンドでコーティングされ、ポリ(アクリルニトリルエチレンスチレン)(AES)マトリックスは、架橋剤を使用してAMSリガンドを架橋することによって提供される。」

(2)引用文献1に記載された発明

摘記(1b)及び(1d)から、「QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602」、「QDフィルム」、「QDフィルム602」及び「QDフィルム層602」は、実質的に同じ構成のものを意味していることが、明らかである。

上記ア及び「導光パネル(LGP)」(摘記(1d)の段落【0031】)から、摘記(1d)の段落【0031】には、一次光源610が、導光パネルに隣接し、一次光源610によって放出される一次光614が、導光パネルを通じて、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602のQD蛍光体材料604を通じて進み、QD蛍光体材料604内のQDを励起し、二次光の放出をもたらすように、配置され、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602を備える、ディスプレイBLU600が記載されていると認められる。

「QD蛍光体層604を含むQDフィルム層602」(摘記(1d)の段落【0032】)という記載と、上記アを踏まえると、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602は、QD蛍光体層604を含むことが、明らかである。

上記ア及びウに併せて、「QDフィルムは、好適には、QD蛍光体材料層の上部側面および底部側面のそれぞれの上のバリア層の間に配置される、QD蛍光体材料のフィルムまたは層を含む。」(摘記(1b)の段落【0007】)、及び、「QDフィルム602は、上部バリア620および底部バリア622を含み、これらのバリアは、QD蛍光体材料604を収容し、外部の環境条件からそれを保護する。」(摘記(1d)の段落【0032】)という記載を参照すると、QD蛍光体層604は、QD蛍光体材料604から形成されていると認められる。

(ア)
摘記(1e)の段落【0092】には、「QD蛍光体材料における使用に好適なマトリックス材料」について、「好適なマトリックス材料には、エポキシ、アクリレート」「を含む」と記載されていることから、QD蛍光体材料604は、使用されるマトリックス材料に、エポキシ、アクリレートを含んでもよいことが、明らかであり、QD蛍光体材料604は、使用されるマトリックス材料に、エポキシ、アクリレートを含むと認定できる。
(イ)
また、上記(ア)を踏まえると、摘記(1e)の段落【0094】の「マトリックス材料」は、QD蛍光体材料に使用される材料であることが明らかであり、摘記(1e)の段落【0094】の「マトリックス材料は」「開始剤を含んでもよい」ことは、QD蛍光体材料は、開始剤すなわちラジカルまたはカチオン開始剤((1e)の段落【0089】)を含んでいてもよいことが、明らかであり、QD蛍光体材料は、ラジカルまたはカチオン開始剤を含むと認定できる。
(ウ)
さらに、上記(ア)及び(イ)を踏まえると、摘記(1e)の段落【0091】の「好ましいマトリックス材料は」、「紫外線」「で硬化可能である」ことは、QD蛍光体材料は、紫外線で硬化可能であると認定できる。
(エ)
摘記(1e)の段落【0090】の「蛍光体材料」は、QD蛍光体材料であることが明らかであり、段落【0090】の「蛍光体材料は、QDが中に埋め込まれる」「マトリックス材料をさらに含む」ことは、QD蛍光体材料は、QDが中に埋め込まれるマトリックス材料をさらに含むと認定できる。
(オ)
したがって、引用文献1には、QD蛍光体材料604は、使用されるマトリックス材料に、エポキシ、アクリレートを含み、QDが中に埋め込まれるマトリックス材料をさらに含み、ラジカルまたはカチオン開始剤を含み、紫外線で硬化可能であることが記載されていると認められる。

上記ア?オ及び摘記(1a)?(1e)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「一次光源610が、導光パネルに隣接し、一次光源610によって放出される一次光614が、導光パネルを通じて、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602のQD蛍光体材料604を通じて進み、QD蛍光体材料604内のQDを励起し、二次光の放出をもたらすように、配置され、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602を備える、ディスプレイBLU600であって、
QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602は、QD蛍光体層604を含み、
QD蛍光体層604は、QD蛍光体材料604から形成され、
QD蛍光体材料604は、使用されるマトリックス材料に、エポキシ、アクリレートを含み、QDが中に埋め込まれるマトリックス材料をさらに含み、ラジカルまたはカチオン開始剤を含み、紫外線で硬化可能である、
ディスプレイBLU600。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)
「【請求項1】 下記(A)、(B)及び(C)成分を含有する、LED封止材用エポキシ樹脂組成物。
(A)成分;芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られるエポキシ当量が230?1000g/当量のエポキシ樹脂、及び/又は芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られるエポキシ樹脂と多価カルボン酸化合物とを反応させて得られるエポキシ当量が230?1000g/当量のエポキシ樹脂。
(B)成分;環状オレフィンをエポキシ化して得られる脂環式エポキシ樹脂、
(C)成分:酸無水物硬化剤又はカチオン重合開始剤。」
(2b)
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点を解決した、冷熱サイクルによるクラックの発生が改良され、耐光性に優れた樹脂を与えることができるLED封止材用エポキシ樹脂組成物、及びその組成物で封止されたLED装置を提供しようとするものである。」
(2c)
「【0038】これらの光及び熱カチオン重合開始剤の中で、オニウム塩が、取り扱い性及び潜在性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましく、その中で、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩及びホスホニウム塩が取り扱い性及び潜在性のバランスに優れるという点で特に好ましい。カチオン重合開始剤の使用量は、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の脂環式エポキシ樹脂の総和100質量部に対し、0.01?15質量部、より好ましくは0.05?5質量部の量で添加する。上記範囲を外れると、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなるため好ましくない。」
(2d)
「【0048】実施例1
製造例1より得られたエポキシ樹脂50g、脂環式エポキシ樹脂として前記式(9)で示される脂環式固形エポキシ樹脂(ダイセル化学社商品名「EHPE3150」)50g、硬化剤としてスルホニウム塩型カチオン重合開始剤(日本曹達社商品名「CI-2624」)1部、透明フィラーとしてガラスビーズ(日本フリット社製)33g、安定剤としてフェノール系酸化防止剤(BHT)0.3g及びリン系安定剤(三光化学社商品名「エポクリーン」)0.3gを配合するために、ミキシングロールを用い、50?80℃の温度で5分間溶融混合した。得られた溶融混合物はシート状に取り出し、粉砕して成形材料を得た。上記により得られた成形材料を、低圧トランスファー成形機を用い、金型温度175℃、成形時間180秒で成形して、各試験片を得、更に140℃で3時間ポストキュアーを行い無色透明な硬化物を得た。この硬化物の物性値を表1に示す。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3a)
「【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方の面に接着剤を介してシクロオレフィン系樹脂からなる第一の保護フィルムが貼合され、前記偏光フィルムのもう一方の面にアセチルセルロース系樹脂からなる第二の保護フィルムが接着剤を介して貼合されており、
前記第二の保護フィルムの偏光フィルムが貼合されている面と反対側に帯電防止機能を有する粘着剤層が設けられており、
前記接着剤は、第一の保護フィルム側及び第二の保護フィルム側とも、カチオン重合性化合物100重量部に対して、光カチオン重合開始剤が2重量部以下の割合で配合された光硬化性組成物から形成されている偏光板。
【請求項2】
前記光硬化性組成物を構成するカチオン重合性化合物は、分子内に少なくとも1個の脂環式エポキシ基を有するエポキシ化合物を含む請求項1に記載の偏光板。」
(3b)
「【0009】
そこで本発明の課題は、シクロオレフィン系樹脂からなる第一の保護フィルム、偏光フィルム及びアセチルセルロース系樹脂からなる第二の保護フィルムがこの順に積層されている偏光板において、第二の保護フィルムの表面(偏光フィルムと反対側)に帯電防止機能つき粘着剤層を設けたとき、熱による偏光フィルムの変色が抑制され、さらに耐湿熱性に優れる偏光板を提供することである。」
(3c)
「【0034】
[接着剤]
本発明の偏光板は、上記の偏光フィルムの一方の面に接着剤を介して第一の保護フィルムを貼合し、偏光フィルムのもう一方の面に上記の接着剤を介して第二の保護フィルムが貼合したものである。この接着剤は、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤が所定の割合で配合された光硬化性組成物から形成されるものである。
【0035】
(カチオン重合性化合物)
カチオン重合性化合物は、光硬化性組成物の主成分であり、重合硬化により接着力を与える成分となる。カチオン重合性化合物は、カチオン重合により硬化する化合物であればよく、特に分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含むことが好ましい。このエポキシ化合物として、例えば、分子内に芳香環を有する芳香族エポキシ化合物、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個が脂環式環に結合している脂環式エポキシ化合物、分子内に芳香環を有さず、エポキシ基とそれが結合する2個の炭素原子を含む環(通常はオキシラン環)の一方の炭素原子が別の脂肪族炭素原子に結合している脂肪族エポキシ化合物などが挙げられる。これらの中でも、特にカチオン重合性化合物として脂環式エポキシ化合物を主成分とするものが好ましい。脂環式エポキシ化合物を主成分とするカチオン重合性化合物を用いると、貯蔵弾性率の高い硬化物(接着剤層)を与え、その硬化物を介して保護フィルムと偏光フィルムが接着された偏光板において、偏光フィルムが割れにくくなる。
・・・
【0058】
(光カチオン重合開始剤)
以上のようなカチオン重合性化合物に、光カチオン重合開始剤を配合して光硬化性組成物とする。光硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射によってカチオン重合が進行し、硬化して接着剤層を与える。光カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、又は電子線の如き活性エネルギー線の照射によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、カチオン重合性化合物の重合反応を開始するものであればよい。光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、カチオン重合性化合物に混合してもその保存安定性や作業性に影響を与えない。光カチオン重合開始剤として、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、鉄-アレーン錯体などを挙げることができる。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。
(4a)
「[請求項1] 脂環式エポキシ化合物(A)とアクリル樹脂(B)とを含む組成物であって、
アクリル樹脂(B)が、アクリル系単量体及びスチレン系単量体を必須の単量体成分として含有し、なおかつ側鎖にエポキシ基を有する重合体であることを特徴とする硬化性エポキシ樹脂組成物。」
(4b)
「[0008] 従って、本発明の目的は、透明性、耐熱性、耐熱衝撃性(熱衝撃が加えられた場合にもクラック等の不具合を生じにくい特性)、及び接着性に優れた硬化物を形成できる硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、透明性、耐熱性、耐熱衝撃性、及び接着性に優れた硬化物を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、光半導体装置の高温における通電特性、耐リフロー性(リフロー工程を経た場合にも封止材へのクラック発生や光半導体装置の光度低下などの不具合を生じにくい特性)、及び耐熱衝撃性を向上させることができる光半導体封止用樹脂組成物(光半導体素子の封止剤)を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、透明性、耐熱性、耐熱衝撃性、及び接着性に優れ、特に光半導体装置におけるダイアタッチペースト剤として使用することにより、光半導体装置の光取り出し効率、耐熱衝撃性、及び耐熱性を向上させることができる接着剤用樹脂組成物(接着剤)を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、光取り出し効率が高く、高温における通電特性、耐リフロー性、及び耐熱衝撃性に優れた光半導体装置を提供することにある。」
(4c)
「[0024]<硬化性エポキシ樹脂組成物>
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物(A)とアクリル樹脂(B)とを少なくとも含む組成物(硬化性組成物)である。本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物(A)やアクリル樹脂(B)以外にも必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。
[0025][脂環式エポキシ化合物(A)]
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物における脂環式エポキシ化合物(A)は、分子内(一分子中)に脂環(脂肪族炭化水素環)構造とエポキシ基とを少なくとも有する化合物である。脂環式エポキシ化合物(A)としては、具体的には、(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(脂環エポキシ基)を有する化合物、(ii)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物、(iii)脂環とグリシジル基とを有する化合物などが挙げられる。但し、脂環式エポキシ化合物(A)には、アクリル樹脂(B)は含まれないものとする。」
(4d)
「[0042][アクリル樹脂(B)]
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物におけるアクリル樹脂(B)は、アクリル系単量体及びスチレン系単量体を必須の単量体成分として含有し、なおかつ側鎖にエポキシ基を有する重合体(共重合体)である。即ち、アクリル樹脂(B)は、アクリル系単量体に由来する構成単位及びスチレン系単量体に由来する構成単位を必須の構成単位として含み、なおかつ側鎖にエポキシ基を有する重合体である。」
(4e)
「[0108] 実施例1
まず、表2に示す配合割合(単位:重量部)で、商品名「セロキサイド2021P」(脂環式エポキシ化合物、(株)ダイセル製)、及び製造例1で得られたアクリル樹脂(B1)を、自公転式攪拌装置(商品名「あわとり練太郎AR-250」、(株)シンキー製)を使用して均一に混合し、脱泡して、脂環式エポキシ化合物とアクリル樹脂の混合物を作製した。
次に、表2に示す配合割合(単位:重量部)となるように、上記で得た混合物と、製造例6で得られた硬化剤組成物とを自公転式攪拌装置(商品名「あわとり練太郎AR-250」、(株)シンキー製)を使用して均一に混合し、脱泡して、硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
さらに、上記で得た硬化性エポキシ樹脂組成物を図1に示す光半導体のリードフレーム(InGaN素子、3.5mm×2.8mm)に注型した後、120℃のオーブン(樹脂硬化オーブン)で5時間加熱することで、上記硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物により光半導体素子が封止された光半導体装置を得た。なお、図1において、100はリフレクター(光反射用樹脂組成物)、101は金属配線(電極)、102は光半導体素子、103はボンディングワイヤ、104は硬化物(封止材)、105は接着材(ダイアタッチペースト材)を示す。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比

(ア)
引用発明の「一次光源610」及び「一次光源610によって放出される一次光614」は、それぞれ、本願発明1の「光源」及び「該光源から出射される光」に相当する。
(イ)
引用発明の「QD」は、量子ドットであるから(摘記(1c)参照)、本願発明1の「量子ドット」に相当する。
(ウ)
引用発明の「ディスプレイBLU600」は、「一次光614が」、「QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602のQD蛍光体材料604を通じて進み、QD蛍光体材料604内のQDを励起し、二次光の放出をもたらすように、配置され」ている。
このことから、引用発明の「QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602」は、「一次光614」すなわち該光源から出射される光(上記(ア))の光路上に位置して、「一次光614」により、「QD」すなわち量子ドット(上記(イ))が励起されて、「二次光」を「放出」する部材であるといえるから、引用発明の「QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602」は、本願発明1の「該光源から出射される光の光路上に位置する波長変換部材」に相当する。
(エ)
引用発明の「ディスプレイBLU600」は、「BLU」がバックライトユニットであるから(摘記(1b)及び(1c)参照)、本願発明1の「バックライトユニット」に相当する。
(オ)
したがって、引用発明の「一次光源610が、導光パネルに隣接し、一次光源610によって放出される一次光614が、導光パネルを通じて、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602のQD蛍光体材料604を通じて進み、QD蛍光体材料604内のQDを励起し、二次光の放出をもたらすように、配置され、QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602を備える、ディスプレイBLU600」は、本願発明1の「光源と、該光源から出射される光の光路上に位置する波長変換部材と、を含むバックライトユニット」に相当する。

(ア)
引用発明の「QD蛍光体材料604」は、「QDが中に埋め込まれるマトリックス材料を」「含」むから、引用発明の「QD蛍光体材料604から形成され」る「QD蛍光体層604」も、「QDが中に埋め込まれるマトリックス材料を」「含」むものである。
このことと、上記ア(ウ)の「QD」すなわち量子ドットに関する事項を踏まえると、引用発明の「QD蛍光体材料604から形成され」る「QD蛍光体層604」は、「一次光」により「QD」すなわち量子ドットが励起されて「二次光」を「放出」する層であるといえる。
そして、引用発明の「一次光」及び「二次光」は、それぞれ、本願発明1の「励起光」及び「蛍光」に相当する。
したがって、引用発明の「QD蛍光体層604」は、本願発明1の「励起光により励起され蛍光を発光する量子ドットをマトリックス中に含む波長変換層」に相当する。
(イ)
上記(ア)及びア(ウ)を踏まえると、引用発明の「QDフィルムリモート蛍光体パッケージ602は、QD蛍光体層604を含」む構成は、本願発明1の「前記波長変換部材は、励起光により励起され蛍光を発光する量子ドットをマトリックス中に含む波長変換層を有」する構成に相当する。

(ア)
引用発明の「QD蛍光体材料604」が、「紫外線で硬化可能である」ことは、「QD蛍光体材料604」に「紫外線」を照射して、「QD蛍光体材料604」の「マトリックス材料」を重合させることで、「QD蛍光体材料604」が「硬化可能である」ということを意味している。
したがって、本願発明1の「QD蛍光体材料604」及び「マトリックス材料」は、それぞれ、本願発明1の「光硬化性組成物」及び「重合性化合物」に相当する。
(イ)
引用発明の「QD蛍光体層604」は、「QD蛍光体材料604から形成され」るから、上記(ア)を踏まえると、「QD蛍光体材料604」すなわち光硬化性組成物を「紫外線」すなわち光の照射により「硬化」させてなる光硬化層である。
(ウ)
したがって、上記(イ)及びイ(ア)を踏まえると、引用発明の「QD蛍光体層604は、QD蛍光体材料604から形成され」る構成は、本願発明1の「前記波長変換層は、光硬化性組成物を光照射により硬化させてなる光硬化層であ」る構成に相当する。

(ア)
引用発明の「ラジカルまたはカチオン開始剤」は、紫外線に反応して重合を開始させるのか、熱などに反応して重合を開始させるのか特定することはできないが(摘記(1e)の段落【0091】及び【0102】等)、引用発明の「ラジカルまたはカチオン開始剤」と本願発明1の「光重合開始剤」とは、「重合開始剤」の限りでは共通している。
(イ)
したがって、上記(ア)、ア(イ)及びウ(ア)を踏まえると、引用発明の「QD蛍光体材料604は、使用されるマトリックス材料に、エポキシ、アクリレートを含み、QDが中に埋め込まれるマトリックス材料をさらに含み、ラジカルまたはカチオン開始剤を含」む構成と、本願発明1の「前記光硬化性組成物は、前記量子ドット、脂環式エポキシ化合物を少なくとも含む重合性化合物、および光重合開始剤を含」む構成とは、「前記光硬化性組成物は、前記量子ドットを少なくとも含む重合性化合物、および重合開始剤を含」む構成の限りで共通している。

以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「光源と、該光源から出射される光の光路上に位置する波長変換部材と、を含むバックライトユニットであって、
前記波長変換部材は、励起光により励起され蛍光を発光する量子ドットをマトリックス中に含む波長変換層を有し、
前記波長変換層は、光硬化性組成物を光照射により硬化させてなる光硬化層であり、
前記光硬化性組成物は、前記量子ドットを少なくとも含む重合性化合物、および重合開始剤を含む、
バックライトユニット。」
<相違点>
本願発明1は、光硬化性組成物を光照射により硬化させてなる光硬化層である、波長変換層が、「前記光硬化性組成物は、前記量子ドット、脂環式エポキシ化合物を少なくとも含む重合性化合物、および光重合開始剤を含み、前記光重合開始剤は、ヨードニウム塩化合物であり、前記重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を更に含み、前記波長変換層のマトリックスにおける前記光源から出射される光の損失率は、厚み60μm換算で3%以下である」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えておらず、「QD蛍光体材料604は、使用されるマトリックス材料に、エポキシ、アクリレートを含み、QDが中に埋め込まれるマトリックス材料をさらに含み、ラジカルまたはカチオン開始剤を含」む構成を備える点。

(2)相違点についての判断

本願の明細書には、課題に関して、「一方、波長変換部材の生産性向上の観点からは、熱硬化と比べてマトリックスの硬化を短時間で行うことのできる光硬化が好ましい。そこで本発明者らが、波長変換部材を製造するにあたり、波長変換層のエポキシマトリックスを光硬化により形成することを試みたところ、量子ドットを含む波長変換部材の利点の1つは高輝度の白色光を得ることができる点であるにもかかわらず、製造される波長変換部材を組み込んだ液晶表示装置において、輝度が低下する現象が見られた。」(段落【0006】)、「そこで本発明の目的は、光硬化により形成されたエポキシマトリックス中に量子ドットを含む波長変換層を有する波長変換部材を備えた液晶表示装置において、輝度向上を達成することにある。」(段落【0007】)と記載されている。
これらの記載のとおり、本願は、「量子ドットを含む波長変換層を有する波長変換部材」の採用を前提として、「生産性向上」に寄与しつつ「輝度向上」を達成することを課題としており(段落【0184】も参照)、本願発明1は、その課題を解決するために、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えるものであると理解できる。
補足すると、上記の構成のとおり、「脂環式エポキシ化合物」、「ヨードニウム塩化合物」及び「(メタ)アクリレート化合物」という特定の材料を重合性化合物ないし光重合開始剤として選定して、光重合を行うことで(それらの材料を採用することによる作用効果は、段落【0059】、【0066】、【0067】及び【0073】等参照)、量子ドットを含む「前記波長変換層のマトリックスにおける前記光源から出射される光の損失率は、厚み60μm換算で3%以下である」という物性値を実現することができ、上記の課題が解決できるものと理解できる。

そして、上記相違点に係る本願発明1の構成(特に、「重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物を」「含み」、「前記波長変換層のマトリックスにおける前記光源から出射される光の損失率は、厚み60μm換算で3%以下である」という構成)は、引用文献1?4のいずれにも、記載も示唆もされていない。
また、他に、この構成が本願優先日前において周知であったといえる根拠も無い。
さらに、上記アの課題も、引用文献1?4のいずれにも、記載も示唆もされていない(摘記(1a)、(2b)、(3b)及び(4b)等参照。)。

上記イのとおりであるから、引用発明の「エポキシ、アクリレートを含」む「QD蛍光体材料604」に、「脂環式エポキシ化合物」や「ヨードニウム塩化合物」を採用することについて検討するまでもなく、当業者であっても、上記相違点に係る本願発明1の構成を想到することは、容易になし得たとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明6及び8について
本願発明6の「波長変換部材」の「波長変換層」は、本願発明1が有する「前記波長変換層のマトリックスにおける前記光源から出射される光の損失率」を、「前記波長変換層のマトリックスにおける青色光損失率」としたものであり、本願発明1が有する「波長変換層」と実質的に同様の構成を備えるものであるから、実質的に上記相違点に係る本願発明1の構成を備えている。
また、本願発明8の「光硬化性組成物」は、重合することにより、本願発明6の「波長変換部材」となる組成物であって、実質的に上記相違点に係る本願発明1の構成を備えている。
したがって、本願発明1と同様の理由により、本願発明6及び8は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明2?5、7及び9?11について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであり、本願発明7は、本願発明6の発明特定事項を全て備えるものであり、本願発明9?11は、本願発明8の発明特定事項を全て備えるものである。
そして、本願発明1については、上記1のとおりであり、本願発明6及び8については、上記2のとおりである。
したがって、本願発明2?5、7及び9?11も、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?11は、上記相違点に係る本願発明1の構成を有するものとなっており、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2015-129276(P2015-129276)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F21S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野木 新治松本 泰典  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 出口 昌哉
一ノ瀬 覚
発明の名称 バックライトユニット、液晶表示装置、波長変換部材、および光硬化性組成物  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ