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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1352862
審判番号 不服2018-12277  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-12 
確定日 2019-06-21 
事件の表示 特願2014-141510「食品成形装置および食品成形装置用巻き簾」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 1日出願公開、特開2016- 15934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月9日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月 7日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 8月 2日付け:拒絶査定
平成30年 9月12日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年9月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年9月12日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「食品成形装置であって、
板状の食品を巻いて棒状に成形するための巻き簾を載せることができ、前記食品成形装置に対して前後に進退可能に連結されるベースと、
食材を線状に連続成形しながら上記ベースの上面に載せた上記巻き簾の上に供給することにより上記食材を板状の食品に成形する成形部と、を有し、
上記ベースと上記巻き簾は、相互間で上下方向に引き合う吸引力を発生する吸引力発生部材を有し、
上記ベースの上面は平坦面で、
上記巻き簾は、巻き方向の端部に上記吸引力発生部材を有している食品成形装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年3月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「食品成形装置であって、
板状の食品を巻いて棒状に成形するための巻き簾を載せることができ、前記食品成形装置に対して前後に進退可能に連結されるベースと、
食材を線状に連続成形しながら上記ベースに載せた上記巻き簾の上に供給することにより上記食材を板状の食品に成形する成形部と、を有し、
上記ベースは、上記巻き簾との間で上下方向に引き合う吸引力を発生する吸引力発生部材を有している食品成形装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ベース」、及び「巻き簾」について、上記のとおり限定を付加する補正を含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された引用文献である、特開2003-189806号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審による。)。
「【請求項1】 米飯を撹拌した後、圧縮しながら移送して所定の長さに切断する米飯供給装置と、
スダレ及び海苔シートが積層状態で載置可能となっており、前記米飯供給装置の供給終端に対して進退自在な受板と、
受板上に設けられ、積層状態のスダレ及び海苔シートの端部を受板上に押さえて固定するクランプと、を備えていることを特徴とする半自動海苔巻き機。
【請求項2】 前記受板は、手動によって進退されることを特徴とする請求項1記載の半自動海苔巻き機。
【請求項3】 前記クランプは、
先端部分に押え片、後端部分に係合片が形成されると共に、受板と平行な支軸に回動可能に取り付けられており、前記押え片が積層状態のスダレ及び海苔シートを受板上に押さえつける押え具と、
前記押え片が積層状態のスダレ及び海苔シートを受板上に押さえつける方向に回動するように押え具を付勢するばねと、
前記係合片が入り込むことが可能な逃げ凹部が形成されると共に、前記受板上で旋回可能となっており、当該旋回により前記係合片に係合してばねの付勢力に抗して押え片の押さえつけ状態を解除する一方、前記逃げ凹部に係合片が入り込んだとき、押え片による押さえつけを許容するハンドルと、を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の半自動海苔巻き機。」

「【0037】さらに、請求項3の発明によれば、請求項1及び2の発明の効果を有するのに加えて、ハンドルへの旋回操作によって、スダレ及び海苔シートの押さえつけ及び解除を行うことができるため、これらの受板へのセット及び取り外しを簡単に行うことができ、海苔巻きを迅速に製造することができる。」

「【0027】次に、この実施の形態の作動を説明する。
【0028】図1に示すように、米飯供給装置2の前方に引き出された受板3上にスダレ5、海苔シート6を順次載せて、これらを積層状態とする。そして、ハンドル43を旋回させて、その脚部43aがスダレ5と交差した状態とする。この旋回により、図5及び図6に示すように、ハンドル43の逃げ凹部43cが押え具41の係合片41bと一致した位置となるため、ばね42の付勢力によって押え具41が受板3の方向に回動して、係合片41bが逃げ凹部43c内に入り込む。これにより、押え具41先端部分の押え片41aが積層状態のスダレ5及び海苔シート6の端部を受板3上に押さえつけて固定する。
【0029】その後、受板3を開口部26から米飯供給装置2の内部に進入させる。そして、受板3が米飯カッター24の下方に位置したとき、米飯カッター24によって所定量に切断された米飯が海苔シート6上に落下する。
【0030】米飯の落下の後、受板3を米飯供給装置2から引き出し、米飯の中央部分に対し、具を長さ方向に沿って載せる。その後、ハンドル43を旋回操作して、その脚部43aがスダレ5と平行となるようにする。これにより、図3及び図4に示すように、ハンドル43が係合片41bと係合するため、押え具41がばね42の付勢力に抗して回動し、押え片41aが積層状態のスダレ5及び海苔シート6から離れて、これらの押さえつけが解除される。その後、スダレ5を手作業で巻き込むことにより、海苔巻きを成形する。」

















(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 図1の記載及び段落【0028】の「米飯供給装置2の前方に引き出された受板3」との記載からみて、引用発明の受板は、半自動海苔巻き機を正面にすると、「前後」に動くものである。
b 段落【0028】の「受板3上にスダレ5、海苔シート6を順次載せて、これらを積層状態とする。」という記載からみて、スダレは、受板上面に載せるものであり、さらにその上に海苔シートが載ったものである。
c 段落【0029】及び【0030】の記載からみて、スダレには、所定量に切断された米飯が供給され、それを巻いて海苔巻きを成形するものである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「半自動海苔巻き機であって、
所定量に切断された米飯を巻いて海苔巻きを成形するためのスダレ及びその上に海苔シートを載せることができ、前記半自動海苔巻き機に対して前後に進退可能な受板と、
米飯を圧縮しながら移送して、所定の長さに切断して、受板上面に載せた上記スダレ及び上記海苔シートの上に供給することにより米飯を成形する米飯供給装置とを有し、
上記スダレ及び海苔シートの端部を受板上に押さえて固定するクランプを有する、半自動海苔巻き機。」

イ 引用文献2
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された特開2003-222122号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】回転ローラの端部中央の対向位置に、端部に磁力吸着板を固定した軸受を介在して回転かつ横移動自在に軸受した支軸を係・脱自在に設け、さらにこの支軸の端部に、前記磁力吸着板に吸着可能な磁石体を配設すると共に、該磁石体を支軸端部に一体的に連結保持したホルダーを設けたことを特徴とする回転ローラの軸承装置。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海苔巻成形機などに使用される回転ローラの軸承装置に関する。」

「【0004】本発明は、前記した従来の技術の有する問題点に鑑みなされたもので、回転ローラの端部を、軸受部分の支軸に磁石を使って固定し、回転可能に形成する一方、磁石を吸着板から引き剥がすことにより支軸から回転ローラをワンタッチで簡単に取り外したり、再度装着することが可能な操作性の優れた回転ローラの軸承装置を提供することを目的とする。」

「【0024】
【発明の効果】本発明は、以上のとおり構成されるものであるから、請求項1の発明によれば、ホルダーを外方に引っ張り、軸受と一体の磁力吸着板に吸着された磁石体を引き剥がすことで回転ローラを支持した支軸から離脱することができるため、回転ローラの洗浄、故障、交換等に際してその脱着操作をワンタッチで簡単に行うことができ、きわめて作業性に優れている。」









ウ 引用文献3
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された特開昭58-81748号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
1.回転軸に対して放射状に複数の筒状体を配設して成るロータを基板上を回転と停止とを繰り返しながら摺動させ、筒状体内には上下方向に摺動自在な成型用上型を収納すると共に筒状体の停止する少なくとも一つの位置において成型用上型を筒状体内に下降させて飯等を成型する成型装置であって、基板における筒状体の停止位置の一つに対応する部分に透孔を形成すると共にこの透孔の下方にはエアシリンダ等の上下動するロッドを配設し、ロッド先端を透孔内を通過させて筒状体内に上昇させることによって成型用下型を押し上げ、成型用下型が押し上げられた状態で成型された飯等などを取り出すようにしたことを特徴とする飯等の成型装置。」

「第9図および第10図に(ト)の位置における要部の縦断面図を示すが、図のように装置本体(A)の内の(ト)の位置の筒状体(17)の直下には1本のエアシリンダ(50)が配設されており、そのロッド(51)の先端部には円板状の押上げ部材(52)を介して板状のマグネット(53)が取り付けられている。そして装置本体(A)の上面カバー(54)および下部基板(11)のエアシリンダ(50)に対応する部分にはそれぞれ円形の透孔(55)(56)が穿設されており、ロッド(51)の上昇によりその先端部の押上部材(52)およびマグネット(53)がこれら透孔(55)(56)を挿通して筒状体(17)内へと突出するようなされている。一方、下部ロータ(32)の筒状体(17)内に配置されている成型用下型(34)は前記のように筒状体(17)内において上下方向に摺動自在となされているが、その下面には図のように鋼板、板状マグネット等の磁性材料より成るプレート(57)が取着されている。したがって、エアシリンダ(50)のロッド(51)先端のマグネット(53)が下部基板(11)の透孔(56)を超えて上昇した際にマグネット(53)がプレート(57)に吸着し、それ以後はマグネット(53)によって成型用下型(34)を固定した状態でさらに押し上げることになる。」(3頁右下欄10行?4頁左上欄13行)

「さらにロッド(51)の先端のマグネット(53)および成型用下型(34)下面に設けた磁性材料より成るプレート(57)も省略してもよいが、ただこれらマグネット(53)とプレート(57)とを設けた場合には、成型用下型(34)が押し上げられる際に固定されることになるので安定し、飯を取り出す作業および飯を取り出した後で成型用下型(34)を再び筒状体(17)内に収納する作業に便利である。」(4頁左下欄下から6行?同頁右下欄2行)





エ 引用文献4
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された特開2011-10553号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】
米飯成形体を形成する米飯成形装置であって、
原料となる米飯を解しながら送り出す米飯供給部と、
該米飯供給部から排出された米飯を圧縮しながら搬送する圧縮搬送部と、
該圧縮搬送部から供給された米飯を押圧成形する成形部と、を有し、
前記成形部は、複数の成形型と、該成形型内に充填された米飯を押圧する1又は複数の押圧機構と、成形した米飯成形体を上昇させる昇降機構とを備え、
前記押圧機構と前記昇降機構とが連動駆動し、一の成形型において米飯を押圧しているときに、他の成形型内の米飯成形体を上昇させる米飯成形装置。
【請求項2】
前記押圧機構は、成形型内の米飯を押圧する上型と、前記上型を支持する支持部材と、を備えると共に、
前記昇降機構は、磁力によって前記成形型の底部に着脱可能に持着する支承部材を備え、
前記支持部材が上昇しているとき前記支承部材は下降し、前記支承部材が上昇しているとき前記支持部材は下降することを特徴とする請求項1に記載の米飯成形装置。」

「【0034】
例えば、成形を開始するときは、図7(a)に示すように、ベルト48により回転体47a,47bを回転させて、昇降棒49を上昇させると共に、支持体44cを下降させる。このとき、「仕上げ・回収領域」においては、昇降棒49がターンテーブル45に設けられた貫通孔45a及び外型41の貫通孔41aを通過して上昇し、その上端に取り付けられた磁石50が底型42の金属板43に磁着する。これにより、底型42は昇降棒49に固定され、昇降棒49の上昇により、上方に押し上げられる。一方、「成形領域」においては、支持体44bが下降し、上型42aにより米飯5が押圧される。
【0035】
そして、「仕上げ・回収領域」において完成したしゃり玉6を回収し、「成形領域」での成形が完了すると、図7(b)に示すように、ベルト48により回転体47a,47bを回転させて、支持体44cを上昇させると共に、昇降棒49を下降させる。このとき、「仕上げ・回収領域」においては、昇降棒49は、外型41の貫通孔41a及びターンテーブル45の貫通孔45aを通過して下降する。そして、底型42の底面が外型41の凹部41aの底面の位置まで達すると、底型42はそれ以上降下することができなくなるため、昇降棒49の磁石50と底型42の金属板43とが分離する。また、支持体44c上昇に伴い、上型45aも外型41の凹部41aから外れ、上方に移動する。これにより、ターンテーブル45の回転が可能となる。」





オ 引用文献5
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された特開2006-151596号公報(以下、「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
「【0023】
先ず、用紙の記録面を下向きにして用紙を堆積する場合について説明する。
図3の(B)は用紙60の記録面を下面にして堆積させる状態である。ここで用紙60の記録面を実線、その裏面を破線で表している。図1に示したように、サーマルヘッド1部分を通過して画像記録が行われた用紙は搬送ローラ24,25を経由して鉛直方向に搬送され、搬送ローラ25を用紙の後端部が通過した後、その用紙は矢印M1で示すように通常用紙排出部40へ落下する。その際、矢印M2で示すように用紙60の先端(下端)が排出ガイド部41に案内されて、用紙60は、その記録面を斜め下方に向けて落下する。」

「【0026】
次に、用紙の記録面を上向きにして用紙を堆積する場合について説明する。
図3の(C)は用紙60の記録面を上面にして堆積させる状態である。(B)に示した場合と異なり、排出ガイド部41の位置を、用紙60がほぼ鉛直方向に落下または搬送されてくる位置より図における右側(用紙60の記録面とは反対側)寄りの位置に配置し、且つ用紙60の裏面(非記録面)が斜め下方に向いて落下または搬送する向きに配置している。また、可動部材43が用紙の下面を支える傾斜面を成すように配置している。」

「【0029】
図3に示した例は、傾斜面部材44と鉛直面部材45とは単一の金属板の板金加工により成型したものであり、その傾斜面部材44に可動部材43をネジ止め固定することによってトレイ42を構成している。」

「【0033】
以上に示した例では、ネジ46を用いて傾斜面部材44の所定位置に可動部材43を取り付けるようにし、排出ガイド41もネジによってプリント装置の筐体に取り付けるようにしたが、ネジの代わりにマグネットを用いてもよい。そのことにより、可動部材43と排出ガイド41の取り付け方向と位置を必要に応じて直ちに切り換えることができる。」





カ 引用文献6
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された実開平5-27091号公報(以下、「引用文献6」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】 複数の刺繍針群(44)を有する刺繍装置本体(10)の被加工物搬入側に被動軸(16)を有する送出部材(18)が設けられ、刺繍装置本体(10)の被加工物搬出側に駆動軸(26)を有する巻取部材(28)が設けられ、刺繍装置本体(10)の被加工物搬入側および被加工物搬出側に送りローラー(36)および送りローラー(38)がそれぞれ設けられ、この送りローラー(36)および送りローラー(38)にそれぞれ帯状連続物用調整ガイド(40)を、送りローラー(36)および送りローラー(38)の軸方向に移動自在に装着させてなる帯状連続物の刺繍装置。」

「【0018】
各送りローラー36,38に帯状連続物用調整ガイド40を、各送りローラー36,38の軸方向に移動自在に装着させてある。本実施例の帯状連続物用調整ガイド40は円板リングであり、複数の帯状連続物用調整ガイド40を各送りローラー36,38に、各送りローラー36,38の軸方向に対して移動自在とし、ねじ、磁石等の固定手段により送りローラー36,38に固定させるものである。
【0019】
従って、各送りローラー36,38に軸着された複数の帯状連続物用調整ガイド40の隣接する間隔は各帯状連続物12の個々の幅に対応させることができ、幅を異にする帯状連続物12の各幅に対応させて支持することができる。」





(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「半自動海苔巻き機」は食品を成形する装置であるから、本件補正発明の「食品成形装置」に相当する。
(イ)引用発明における「所定量に切断された米飯」は、本件補正発明の「板状の食品」に相当し、引用発明の「海苔巻き」は「棒状」であるといえ、引用発明の「スダレ」は、本件補正発明の「巻き簾」に相当するから、引用発明の「所定量に切断された米飯を巻いて海苔巻きを成形するためのスダレ」は、本件補正発明の「板状の食品を巻いて棒状に成形するための巻き簾」に相当する。
(ウ)本件補正発明の「前記食品成形装置に対して前後に進退可能に連結されるベース」に関して、本件明細書をみると、段落【0020】に、「ベース3は、食品成形装置1の底部に、水平面内においてスライド移動可能に組み込まれている。」と記載されていることから、本件補正発明の「連結」は、組み込まれていることを意味していると解される。そして、引用発明の受板は半自動海苔巻き機に組み込まれているといえるから、引用発明の「前記半自動海苔巻き機に対して前後に進退可能な受板」は、本件補正発明の「前記食品成形装置に対して前後に進退可能に連結されるベース」に相当する。
(エ)引用発明において「米飯を圧縮しながら移送」して、「所定の長さに切断」することは、米飯を「線状の連続成形」しながら、「板状の食品に成形」することであるといえる。そうすると、引用発明の「米飯を圧縮しながら移送して、所定の長さに切断して、受板上面に載せた上記スダレの上に供給することにより米飯を成形する米飯供給装置」は、本件補正発明の「食材を線状に連続成形しながら上記ベースの上面に載せた上記巻き簾の上に供給することにより上記食材を板状の食品に成形する成形部」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「食品成形装置であって、
板状の食品を巻いて棒状に成形するための巻き簾を載せることができ、前記食品成形装置に対して前後に進退可能に連結されるベースと、
食材を線状に連続成形しながら上記ベースの上面に載せた上記巻き簾の上に供給することにより上記食材を板状の食品に成形する成形部と、を有する食品成形装置。」

【相違点1】
巻き簾をベースに固定する手段に関して、本件補正発明は、「上記ベースと上記巻き簾は、相互間で上下方向に引き合う吸引力を発生する吸引力発生部材を有し」、かつ、「上記巻き簾は、巻き方向の端部に上記吸引力発生部材を有している」のに対し、引用発明は、巻き簾の端部をベース上に押さえて固定するクランプを有するものである点。

【相違点2】
本件補正発明は、「上記ベースの上面は平坦面」であるのに対し、引用発明のベースは、クランプを有しており平坦ではない点。

【相違点3】
引用発明は、巻き簾の上に海苔シートが載っているのに対し、本件補正発明では、そのような特定はない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1の段落【0037】には、「ハンドルへの旋回操作によって、スダレ及び海苔シートの押さえつけ及び取り外しを簡単に行うことができ、海苔巻きを迅速に製造することができる」と記載されていることから、当該技術分野において、ベースへの巻き簾のセット及び取り外しを簡単にそして迅速に行うなどの作業性を向上することは、自明の課題である。
そして、引用発明において、巻き簾に食材が供給された後は、クランプによる押さえつけを解除して、手作業で巻き込むことにより海苔巻きを成形するものであるから(引用文献1の段落【0030】)、巻き簾はベースからの着脱を要する部材である。そして、上記引用文献2?6の記載からみて、着脱を要する部材の固定を、磁石と磁性体の相互間で引き合う吸引力を発生する吸引力発生部材により行うことは、周知技術であることを考慮すれば、引用発明において作業性を向上するために、着脱を要する部材である巻き簾のベースへの固定手段として、ベースに設置したクランプに代えて、磁石と磁性体の相互間で引き合う吸引力を発生する吸引力発生部材を用いることは当業者が容易に想起することであって、その際、クランプで押さえるのと同じ方向、すなわち、上下方向に引き合う吸引力を発生するように吸引力発生部材をベースと巻き簾に設置すること、及びクランプで押さえるのと同じ位置である巻き簾の巻き方向の端部に吸引力発生部材を設けることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について
上記アで説示したとおり、引用発明において、巻き簾のベースへの固定を、磁石と磁性体の相互間で引き合う吸引力を発生する吸引力発生部材を用いて行うことは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際、ベースと巻き簾のどちらを磁石とし、もう一方を磁性体とするかは、当業者が適宜選択し得る事項である。そして、ベースの全面を磁性体で構成した場合は、ベースの上面は当然に平坦面となるものであるし、ベースに磁石を設置した場合であっても、磁石をベースに埋め込むように設置して、ベースの上面を平坦面とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 相違点3について
本件明細書の段落【0025】には、「ベース3の上面31に載せた巻き簾の上には、ホッパー11に投入する食材とは別のシート状の食材を載せることができる。シート状の食材の例として代表的なものは海苔である。」と記載されるように、本件補正発明は、巻き簾の上にシート状の海苔を載せることを排除するものではないから、この相違点3は実質的な相違点ではない。

エ 効果について
本件明細書の段落【0015】、【0033】、【0035】及び【0038】の記載によれば、本件補正発明は、(i)ベースへの巻き簾の装着及び取り外しが容易であること、(ii)巻き簾はベースの適正位置に配置されるため、位置ずれによる食材のはみ出しが防止できること、(iii)巻き簾の端部がめくれ上がることなく安定して保持されること、及び(iv)ベースの上面の突起物をなくすことができるため、ベースに食材が付着しにくく、衛生的であり、清掃作業が容易であり、ベース上での作業が容易になり、ベースを保存するスペースが節約できること、という効果を奏するものであるところ、上記(i)の効果については、引用文献2の、磁力吸着板に吸着された磁石体を引き剥がす脱着操作をワンタッチで簡単に行うことができ、作業性に優れている旨の記載から当業者が予測し得るものである。また、上記(ii)及び(iii)については、磁石と磁性体を用いてベースと巻き簾を固定したことにより、当然予測される効果である。さらに、上記(iv)については、上記イで説示したように、ベースの上面を平坦面とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるところ、そのような構成を採択したことにより自ずと奏される効果であって、格別顕著なものということはできない。

オ 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年9月12日付け審判請求書において、(ア)本件補正発明の特徴的な構成である、a.巻き簾を載せるベースの上面は平坦であること、及びb.巻き簾は、巻き方向の端部に吸引力発生部材を有していることは、どの引用文献にも記載がないから、引用文献1に記載されているクランプ機構に代えて、引用文献2?6に記載されている磁気吸引力発生手段を採用したとしても、前記構成a.及びb.を備えた本願補正発明に想到することはできないこと、及び(イ)本願補正発明は、ベースの上面は平坦面であるから、食材の付着がなく、成形作業後の成形装置の清掃が容易であるという効果を奏するものであり、また、巻き簾は、巻き方向の端部に吸引力発生部材を有しているため、ベースに容易に装着でき、容易に取り外すことができるという効果を奏するものであって、これらの効果は当業者が予測できるものではない旨主張する。
しかしながら、上記(ア)については、上記ア及びイで説示したとおり、当業者が容易に想到し得ることであるし、上記(イ)については、上記エで説示したとおり、装着性の良さは引用文献2の記載から当業者が予測し得る程度のものであるし、清掃の容易性は、ベースの上面を平坦面とすることにより、自ずと奏される効果である。
よって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

カ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2?6に示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年9月12日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年3月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?14に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に示された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2003-189806号公報
引用文献2:特開2003-222122号公報
引用文献3:特開昭58-81748号公報
引用文献4:特開2011-10553号公報
引用文献5:特開2006-151593号公報
引用文献6:実開平5-27091号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし6及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「ベース」及び「巻き簾」に付加された限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2?6に示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2?6に示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-25 
結審通知日 2019-04-26 
審決日 2019-05-10 
出願番号 特願2014-141510(P2014-141510)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤澤 雅樹  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 神野 将志
冨永 みどり
発明の名称 食品成形装置および食品成形装置用巻き簾  
代理人 石橋 佳之夫  

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