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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1352875
審判番号 不服2018-5225  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-16 
確定日 2019-07-16 
事件の表示 特願2014- 94690「半導体装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開,特開2015-213110,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年5月1日に特許出願したものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成29年 9月 7日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年11月 6日:意見書,手続補正書
平成30年 1月 5日:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
平成30年 4月16日:手続補正書,審判請求
平成30年10月17日:上申書
平成31年 2月 8日:拒絶理由通知(起案日)
平成31年 4月 9日:意見書,手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 (理由2として)本願請求項1に係る発明は,本願出願前に頒布された以下の引用文献Aに記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

2 (理由3として)本願請求項1に係る発明は,本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献Aに記載された発明に基づいて,本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,本願請求項4に係る発明は,本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献Aおよび引用文献Bに基づいて,本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開平5-82508号公報
B.特開2000-82825号公報

第3 当審拒絶理由の概要
平成31年2月8日付け拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 本願請求項1に係る発明は,本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて,本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,本願請求項4に係る発明は,本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2013-251406号公報
2.特開2007-300145号公報
3.特開昭58-140139号公報
4.特開2000-82825号公報(拒絶査定時の引用文献B)

第4 本願発明
1 本願請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は,平成31年4月9日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
半導体基板に設けられた能動領域と,該能動領域の周囲に設けられたターミネーション領域とを含む半導体装置であって,該ターミネーション領域は,
該半導体基板の上に設けられた層間絶縁膜と,
該層間絶縁膜の上に設けられたフィールドプレートと,
該フィールドプレートを覆うように形成された表面絶縁膜とを含み,
該フィールドプレートの斜面は,該層間絶縁膜に接する第1斜面と,該第1斜面と該フィールドプレートの上面との間の第2斜面とを含み,
該第1斜面と該第2斜面は,該半導体基板の表面に対して互いに異なる傾斜角を有し,かつ,
該フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たすことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
半導体基板に設けられた能動領域と,該能動領域の周囲に設けられたターミネーション領域とを含む半導体装置であって,該ターミネーション領域は,
該半導体基板の上に設けられた層間絶縁膜と,
該層間絶縁膜の上に設けられたフィールドプレートと,
該フィールドプレートを覆うように形成された表面絶縁膜とを含み,
該フィールドプレートの該層間絶縁膜に接する斜面は,該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面であり,かつ,
該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たすことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
上記ターミネーション領域は,上記層間絶縁膜の上に設けられた複数のフィールドプレートを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
半導体基板に能動領域とターミネーション領域とを作製する半導体装置の製造方法であって,
半導体基板に能動領域を形成する工程と,
該半導体基板上に,該能動領域を囲むように層間絶縁膜を形成する工程と,
該層間絶縁膜の上に第1金属膜を形成する工程と,
エッチングマスクを用いて第1金属膜をエッチングし,上面と該層間絶縁膜に接する斜面とを有するフィールドプレートを該層間絶縁膜の上に形成する工程と,
該フィールドプレートを覆うように第2金属膜を形成する工程と,
第2金属膜をエッチングして,該層間絶縁膜を露出させるとともに,該フィールドプレートの斜面上に該第2金属膜を残すエッチング工程と,
該第2金属膜を備えた該フィールドプレートを覆うように,表面絶縁膜を形成する工程と,を含み,
該エッチング工程は,該層間絶縁膜側から上方に向かって該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面を有するように,該フィールドプレートの斜面上の該第2金属膜をエッチングし,該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たすようにする工程であることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
半導体基板に能動領域とターミネーション領域とを作製する半導体装置の製造方法であって,
半導体基板に能動領域を形成する工程と,
該半導体基板上に,該能動領域を囲むように層間絶縁膜を形成する工程と,
該層間絶縁膜の上に金属膜を形成する工程と,
エッチングマスクを用いて金属膜をエッチングし,上面と該層間絶縁膜に接する斜面とを有するフィールドプレートを該層間絶縁膜の上に形成する工程と,
該フィールドプレートを覆うように,表面絶縁膜を形成する工程と,を含み,
該エッチング工程は,
該エッチングマスクが該半導体基板の表面に対する該斜面の傾斜角が漸次減少することで,該金属膜は,該層間絶縁膜側から上方に向かって該半導体基板の表面に対する該斜面の傾斜角が漸次減少する曲面を有し,かつ,
該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たすように該金属膜がエッチングされることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
上記エッチングマスクは,フォトレジストマスクを熱変形させて,上記半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面を有する形状としたことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由に引用された引用文献1(特開2013-251406号公報,平成25年12月12日出願公開)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下,同じ。)。
「【請求項1】
第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板の表面に堆積された,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板よりも不純物濃度の低い第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1の第2導電型半導体領域と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層とショットキー接合を形成する金属膜と,前記第1の第2導電型半導体領域とで構成された素子構造と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられ,前記素子構造の周辺部を囲む第2の第2導電型半導体領域と,
前記第2の第2導電型半導体領域の周辺部を囲み接合終端構造を構成する,第3の第2導電型半導体領域と,
を備え,
前記第1または第2の第2導電型半導体領域は,所定以上のアクセプタ濃度を有することを特徴とする炭化珪素半導体装置。
<<途中省略>>
【請求項3】
第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板の表面に,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板よりも不純物濃度の低い第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層を堆積する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板側に対して反対側の表面層に,第1の第2導電型半導体領域を選択的に形成する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層とショットキー接合を形成する金属膜と,前記第1の第2導電型半導体領域とで素子構造を形成する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の表面層に,前記第1の第2導電型半導体領域の周辺部を囲むように,第2の第2導電型半導体領域を選択的に形成する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の表面層に,前記第2の第2導電型半導体領域の周辺部を囲み接合終端構造を構成する,前記第2の第2導電型半導体領域よりも不純物濃度の低い第3の第2導電型半導体領域を選択的に形成する工程と,
を含み,
前記第1または第2の第2導電型半導体領域は,所定以上のアクセプタ濃度を有することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
この発明は,炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
<<途中省略>>
【0011】
この発明は,上述した従来技術による問題点を解消するため,順方向電流を十分大きくでき耐圧を高めることができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば,順方向電流を十分大きくでき耐圧を高めることができるという効果を奏する。」
「【0019】
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は,ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては,ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製された炭化珪素半導体装置について,接合障壁ショットキー(JBS:Junction Barrier Schottky)構造のダイオードを例に説明する。図1は,実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。図1に示すように,実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は,n^(+)型炭化珪素基板(ワイドバンドギャップ半導体基板)1の主面上にn型炭化珪素エピタキシャル層(ワイドバンドギャップ半導体堆積層)2が堆積されている。
【0020】
n^(+)型炭化珪素基板1は,例えば窒素(N)がドーピングされた炭化珪素単結晶基板である。n型炭化珪素エピタキシャル層2は,n^(+)型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で例えば窒素がドーピングされてなる低濃度n型ドリフト層である。以下,n^(+)型炭化珪素基板1単体,またはn^(+)型炭化珪素基板1とn型炭化珪素エピタキシャル層2とを併せて炭化珪素半導体基体とする。n型炭化珪素エピタキシャル層2のn^(+)型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体のおもて面側)の表面層には,リング状のp型領域3が設けられ,このp型領域3の外周にはp^(-)型領域4が設けられている。また,p型領域3の内周にはp^(+)型領域5が設けられている。
【0021】
p型領域3(第2の第2導電型半導体領域)は,活性領域周辺部に設けられ活性領域を囲む耐圧構造部に設けられている。耐圧構造部は,耐圧を保持する領域である。また,p型領域3は,ダイオードの素子構造が形成された活性領域側に設けられ,n型炭化珪素エピタキシャル層2とショットキー接合を形成するショットキー電極7に接する。ショットキー電極7については後述する。
【0022】
p型領域3は,p^(-)型領域4よりも高い不純物濃度で例えばアルミニウム(Al)がドーピングされてなる。p型領域3の不純物濃度は,後述するように,所定の濃度以上であることが好ましい。その理由は,本発明の効果が顕著にあらわれるからである。p型領域3は,n型炭化珪素エピタキシャル層2とショットキー電極7との接合端部の電界集中を回避する機能を有する。また,p^(-)型領域4は,活性領域の周辺部においてさらに電界を分散させる機能を有する。p^(+)型領域5およびp^(-)型領域4は,それぞれ例えばアルミニウムがドーピングされてなる。
【0023】
p^(+)型領域(第1の第2導電型半導体領域)5は,活性領域に所定の間隔で複数設けられ,JBS構造(素子構造)を構成する。また,p^(+)型領域5は,p型領域3と離れて設けられる。p^(-)型領域(第3の第2導電型半導体領域)4は,p型領域3の周辺部に接し,当該p型領域3を囲むように設けられ,接合終端(JTE)構造を構成する。すなわち,活性領域側から耐圧構造部へ向かって,p型領域3およびp^(-)型領域4の順で並列に配置されている。
【0024】
耐圧構造部上には,p型領域3のp^(-)型領域4側およびp^(-)型領域4を覆うように層間絶縁膜6が設けられている。n^(+)型炭化珪素基板1のn型炭化珪素エピタキシャル層2側に対して反対側の表面(炭化珪素半導体基体の裏面)には,n^(+)型炭化珪素基板1とオーミック接合を形成する裏面電極(オーミック電極)10が設けられている。裏面電極10は,カソード電極を構成する。n型炭化珪素エピタキシャル層2のn^(+)型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面(炭化珪素半導体基体のおもて面)には,アノード電極を構成するショットキー電極7が設けられている。ショットキー電極7は,活性領域から耐圧構造部の一部にわたって設けられている。
【0025】
具体的には,ショットキー電極7は,活性領域において露出するn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面(炭化珪素半導体基体のおもて面)全面を覆い,活性領域の周辺部においてp型領域3に接する。また,ショットキー電極7は,活性領域から耐圧構造部へと延在して設けられ,層間絶縁膜6上に張り出している。そして,ショットキー電極7は,層間絶縁膜6を介してp型領域3を覆う。すなわち,ショットキー電極7の最も耐圧構造部側の端部は,JTE構造用のp型領域3上で終端している。
【0026】
ショットキー電極7は,次の材料でできているのがよい。その理由は,本発明の効果が顕著にあらわれるからである。ショットキー電極7は,例えば,IVa族金属,Va族金属,VIa族金属,アルミニウムまたはシリコンでできているのがよい。または,ショットキー電極7は,IVa族金属,Va族金属,VIa族金属,アルミニウムおよびシリコンのうちの2元素または3元素を含む複合膜でできているのがよい。特に,ショットキー電極7は,チタン(Ti),アルミニウムまたはシリコンでできている,もしくは,チタン,アルミニウムおよびシリコンのうちの2元素または3元素を含む複合膜であるのが好ましい。さらに好ましくは,ショットキー電極7は,n型炭化珪素エピタキシャル層2とショットキー接合を形成する部分が例えばチタン(Ti)でできているのがよい。
【0027】
ショットキー電極7とn型炭化珪素エピタキシャル層2とのショットキー障壁高さは,実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を高耐圧半導体装置として使用する場合には,例えば1eV以上であるのが好ましい。また,ショットキー電極7のショットキー障壁高さは,実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を電源装置として使用する場合には,例えば0.5eV以上1eV未満であるのが好ましい。
【0028】
ショットキー電極7上には,例えばアルミニウムでできた電極パッド8が設けられている。電極パッド8は,活性領域から耐圧構造部へと延在し,かつその最も耐圧構造部側の端部はショットキー電極7上で終端している。JTE構造上には,ショットキー電極7および電極パッド8の最も耐圧構造部側の各端部を覆うように,例えばポリイミドからなるパッシベーション膜などの保護膜9が設けられている。保護膜9は,放電防止の機能を有する。」
「【0033】
4.p型領域3をp^(+)型領域としてもよい。
図4は,活性領域周辺部(エッジ部)に設けられる活性領域を囲む耐圧構造部のp^(+)型領域43を示す断面図である。図4に示すように,エッジにp^(+)型領域43,p型領域44,p^(-)型領域45を設けることにより,逆バイアス電圧V_(K)<V_(1)で正孔がp^(+)型領域43に流入する。エッジ部にp^(+)型領域43を設けない場合,活性領域に正孔が注入されるが,ショットキー電極7の終端にp^(+)型領域43を設けると,隣接するエッジ部のp型領域44,p^(-)型領域45に正孔が流れて,n型炭化珪素エピタキシャル層2への正孔注入領域が活性部とエッジ部の両方となる。これにより,伝導度変調効果がより大きな面積で得られるようになり,より低抵抗化できるようになる。この構成によれば,図2に示す0→Q→R-S-Cの軌跡の特性が得られる。そして,I_(3)=(V_(2)/V_(3))I_(2)>I_(2)となり,さらに順方向サージ電流I_(F,SM)を増加できる。」
「【図1】


「【図4】



(2)引用装置発明1
上記(1)の記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用装置発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板の表面に堆積された,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板よりも不純物濃度の低い第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1の第2導電型半導体領域と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層とショットキー接合を形成する金属膜と,前記第1の第2導電型半導体領域とで構成された素子構造と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられ,前記素子構造の周辺部を囲む第2の第2導電型半導体領域と,
前記第2の第2導電型半導体領域の周辺部を囲み接合終端構造を構成する,第3の第2導電型半導体領域と,
を備え,
前記第1または第2の第2導電型半導体領域は,所定以上のアクセプタ濃度を有することを特徴とする炭化珪素半導体装置であって,
前記炭化珪素半導体装置は,n^(+)型炭化珪素基板(ワイドバンドギャップ半導体基板)1の主面上にn型炭化珪素エピタキシャル層(ワイドバンドギャップ半導体堆積層)2が堆積されていること,
p型領域3(第2の第2導電型半導体領域)は,活性領域周辺部に設けられ活性領域を囲む耐圧構造部に設けられ,耐圧構造部は,耐圧を保持する領域であること,
耐圧構造部上には,p型領域3のp^(-)型領域4側およびp^(-)型領域4を覆うように層間絶縁膜6が設けられ,n型炭化珪素エピタキシャル層2のn^(+)型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面(炭化珪素半導体基体のおもて面)には,アノード電極を構成するショットキー電極7が設けられ,ショットキー電極7は,活性領域から耐圧構造部の一部にわたって設けられていること,
具体的には,ショットキー電極7は,活性領域において露出するn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面(炭化珪素半導体基体のおもて面)全面を覆い,活性領域の周辺部においてp型領域3に接し,また,ショットキー電極7は,活性領域から耐圧構造部へと延在して設けられ,層間絶縁膜6上に張り出し,そして,ショットキー電極7は,層間絶縁膜6を介してp型領域3を覆う,すなわち,ショットキー電極7の最も耐圧構造部側の端部は,JTE構造用のp型領域3上で終端していること,
ショットキー電極7上には,例えばアルミニウムでできた電極パッド8が設けられ,電極パッド8は,活性領域から耐圧構造部へと延在し,かつその最も耐圧構造部側の端部はショットキー電極7上で終端しており,JTE構造上には,ショットキー電極7および電極パッド8の最も耐圧構造部側の各端部を覆うように,例えばポリイミドからなるパッシベーション膜などの保護膜9が設けられ,保護膜9は,放電防止の機能を有する,
炭化珪素半導体装置。」

(3)引用方法発明1
上記(1)の記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用方法発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板の表面に,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板よりも不純物濃度の低い第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層を堆積する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の,前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体基板側に対して反対側の表面層に,第1の第2導電型半導体領域を選択的に形成する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層とショットキー接合を形成する金属膜と,前記第1の第2導電型半導体領域とで素子構造を形成する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の表面層に,前記第1の第2導電型半導体領域の周辺部を囲むように,第2の第2導電型半導体領域を選択的に形成する工程と,
前記第1導電型ワイドバンドギャップ半導体堆積層の表面層に,前記第2の第2導電型半導体領域の周辺部を囲み接合終端構造を構成する,前記第2の第2導電型半導体領域よりも不純物濃度の低い第3の第2導電型半導体領域を選択的に形成する工程と,
を含み,
前記第1または第2の第2導電型半導体領域は,所定以上のアクセプタ濃度を有することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法であって,
前記製造方法により製造される炭化珪素半導体装置は,n^(+)型炭化珪素基板(ワイドバンドギャップ半導体基板)1の主面上にn型炭化珪素エピタキシャル層(ワイドバンドギャップ半導体堆積層)2が堆積されていること,
p型領域3(第2の第2導電型半導体領域)は,活性領域周辺部に設けられ活性領域を囲む耐圧構造部に設けられ,耐圧構造部は,耐圧を保持する領域であること,
耐圧構造部上には,p型領域3のp^(-)型領域4側およびp^(-)型領域4を覆うように層間絶縁膜6が設けられ,n型炭化珪素エピタキシャル層2のn^(+)型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面(炭化珪素半導体基体のおもて面)には,アノード電極を構成するショットキー電極7が設けられ,ショットキー電極7は,活性領域から耐圧構造部の一部にわたって設けられていること,
具体的には,ショットキー電極7は,活性領域において露出するn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面(炭化珪素半導体基体のおもて面)全面を覆い,活性領域の周辺部においてp型領域3に接し,また,ショットキー電極7は,活性領域から耐圧構造部へと延在して設けられ,層間絶縁膜6上に張り出し,そして,ショットキー電極7は,層間絶縁膜6を介してp型領域3を覆う,すなわち,ショットキー電極7の最も耐圧構造部側の端部は,JTE構造用のp型領域3上で終端していること,
ショットキー電極7上には,例えばアルミニウムでできた電極パッド8が設けられ,電極パッド8は,活性領域から耐圧構造部へと延在し,かつその最も耐圧構造部側の端部はショットキー電極7上で終端しており,JTE構造上には,ショットキー電極7および電極パッド8の最も耐圧構造部側の各端部を覆うように,例えばポリイミドからなるパッシベーション膜などの保護膜9が設けられ,保護膜9は,放電防止の機能を有する,
炭化珪素半導体装置の製造方法。」

2 引用文献Aについて
(1)引用文献Aの記載
拒絶査定に引用された引用文献A(特開平5-82508号公報,平成5年4月2日出願公開)には,図面とともに以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,半導体素体上に設けた金属層をエッチングによりパターニングして形成された電極を有する半導体素子の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
<<途中省略>>
【0005】本発明の目的は,そのような観点からパッシベーション膜を亀裂のないものにして,高温多湿の場所で使用しても信頼性の高い半導体素子の製造方法を提供することにある。」
「【0007】
【作用】パッシベーション膜に亀裂が発生する原因として,主に樹脂封止を行うときに樹脂から半導体素体に加わる応力が考えられる。この応力は半導体素体の外周部ほど強くかかること,また外周部には図2に示したように厚い電極4の側面があり,これを覆うパッシベーション膜3のステップカバレージが悪い場合,特に電極4の側面が図のようなオーバーハングしている場合,パッシベーション膜3に亀裂が入りやすい。この電極側面を側壁層で被覆し,オーバーハングを無くし,また側面の傾斜をゆるくすれば,パッシベーション膜のステップカバレージが改善され,亀裂の入ることが防止される。そして,電極側面を覆う側壁層をパッシベーション膜の材質を同じにすることは,内部応力の違いによる劣化をさけるために有効である。
【0008】
【実施例】図1は本発明の一実施例の半導体素子における半導体素体縁部近傍を示し,図2と共通の部分には同一の符号が付されている。図1の素子と異なる点はストッパ電極4のオーバーハング部が側壁層5で埋められていることである。その結果,パッシベーション膜3の被覆面はなめらかになっている。
【0009】図3(a) ,(b) ,(c) は図1の素子の製造工程の一部を示し,先ず半導体基板1の表面上にフィールドプレートとして働くPSG膜2のパターンを形成後,それを覆って3?5μmの厚さのAl膜を蒸着し,パターニングしてストッパ電極4を形成し,さらに全面をパッシベーション膜と同質の高抵抗窒化シリコン膜6で被覆する (図(a))。この膜の厚さは電極4の厚さの半分以上にする。次に反応ガスとしてCF_(4) とO_(2) の混合ガスを用いたドライエッチングによる異方性エッチングで窒化膜6をエッチングし,電極4の側面の上だけに残して側壁層5を形成する (図(b))。窒化膜6の厚さが薄いと良好な形状の側壁層ができない。そしてその上に耐湿にすぐれていて特性の劣化を防ぐためのファイナルパッシベーション膜として側壁層と同質で1.2 μm程度の厚さの窒化シリコン膜3を堆積し,不要部を除去するパターニングをフォトエッチングで行う (図(c))。図(b) においてAl電極4のオーバーハング部が側壁層5で埋められているので,パッシベーション膜3はAl電極4の上および側方ならびにPSG膜2の上を良好にカバーする。このあとストッパ電極4が外縁の近くに位置するよう基板を分割し,半導体素子の素体を得る。
【0010】
【発明の効果】本発明によれば,半導体素体上の電極のパターニングにより生ずるオーバーハングを埋めるような側壁層を形成することにより,その上を被覆するパッシベーション膜のステップカバレージが良好となり,樹脂封止を行うときに樹脂から半導体素体に応力が加わっても,その応力の強い素体外周部の電極上のパッシベーション膜に亀裂が生ずることがなくなった。従って高温多湿の場所でもパッシベーション膜を通じての水分の侵入を防止でき,信頼性の向上した半導体素子を製造することができた。」
「【図1】


「【図3】



(2)引用装置発明A
上記(1)の記載から,引用文献Aには,次の発明(以下「引用装置発明A」という。)が記載されているものと認められる。
「先ず半導体基板1の表面上にフィールドプレートとして働くPSG膜2のパターンを形成後,それを覆って3?5μmの厚さのAl膜を蒸着し,パターニングしてストッパ電極4を形成し,さらに全面をパッシベーション膜と同質の高抵抗窒化シリコン膜6で被覆し,この膜の厚さは電極4の厚さの半分以上にし,次に反応ガスとしてCF_(4) とO_(2) の混合ガスを用いたドライエッチングによる異方性エッチングで窒化膜6をエッチングし,電極4の側面の上だけに残して側壁層5を形成し,そしてその上に耐湿にすぐれていて特性の劣化を防ぐためのファイナルパッシベーション膜として側壁層と同質で1.2 μm程度の厚さの窒化シリコン膜3を堆積し,不要部を除去するパターニングをフォトエッチングで行い,ここでAl電極4のオーバーハング部が側壁層5で埋められているので,パッシベーション膜3はAl電極4の上および側方ならびにPSG膜2の上を良好にカバーし,このあとストッパ電極4が外縁の近くに位置するよう基板を分割し,半導体素子の素体を得ること,
で製造される半導体素子。」

(3)引用方法発明A
上記(1)の記載から,引用文献Aには,次の発明(以下「引用方法発明A」という。)が記載されているものと認められる。
「先ず半導体基板1の表面上にフィールドプレートとして働くPSG膜2のパターンを形成後,それを覆って3?5μmの厚さのAl膜を蒸着し,パターニングしてストッパ電極4を形成し,さらに全面をパッシベーション膜と同質の高抵抗窒化シリコン膜6で被覆し,この膜の厚さは電極4の厚さの半分以上にし,次に反応ガスとしてCF_(4) とO_(2) の混合ガスを用いたドライエッチングによる異方性エッチングで窒化膜6をエッチングし,電極4の側面の上だけに残して側壁層5を形成し,そしてその上に耐湿にすぐれていて特性の劣化を防ぐためのファイナルパッシベーション膜として側壁層と同質で1.2 μm程度の厚さの窒化シリコン膜3を堆積し,不要部を除去するパターニングをフォトエッチングで行い,ここでAl電極4のオーバーハング部が側壁層5で埋められているので,パッシベーション膜3はAl電極4の上および側方ならびにPSG膜2の上を良好にカバーし,このあとストッパ電極4が外縁の近くに位置するよう基板を分割し,半導体素子の素体を得る,
半導体素子の製造方法。」

3 その他の引用文献について
(1)引用文献2について
当審拒絶理由に引用された引用文献2(特開2007-300145号公報,平成19年11月15日出願公開)には,図面とともに以下の記載がある。
「【0038】
さらに第2の層間絶縁膜としてポリイミドでなる膜114をスピンコート法によって成膜する。層間絶縁膜としてポリイミドを利用した場合,その表面を平坦なものとすることができる。」

(2)引用文献3について
当審拒絶理由に引用された引用文献3(特開昭58-140139号公報,昭和58年8月19日出願公開)には,図面とともに以下の記載がある。
「第1図は本発明の一実施例にかかる主な工程を説明したものである。第1図において,半導体基板上に半導体素子の配線パターン1を形成後,シリコンナイトライド2を堆積する。膜厚は100nm?1.0μmである。続いてポリイミド3よりなる層をスピンコート塗布する。膜厚は300nm?2.0μmである。このときほぼポリイミド3の表面は平担になっている。」(第2ページ右上欄第5行目ないし第12行目)

(3)引用文献4(引用文献B)について
当審拒絶理由に引用された引用文献4(拒絶査定に引用された引用文献B)(特開2000-82825号公報,平成12年3月21日出願公開)には,図面とともに以下の記載がある。
「【0014】
【発明の実施の形態】以下,図に基づいて本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は本発明の第1の実施の形態にかかるダイオードの要部断面を模式的に示しており,このダイオードは,カソード電極1が接続されるカソード領域となるN型基板2に,P型拡散領域3が形成され,このP型拡散領域3上にはアノード電極4に接続されるアルミニウム等からなる第1の導電層5が形成されている。N型基板2上には,表面絶縁膜6を介して前記第1の導電層5と絶縁されたアルミニウム等からなる第2の導電層7が形成されている。この第2の導電層7はEQRを構成するものである。そして第1の導電層5,表面絶縁膜6及び第2の導電層7は,封止層であるPV膜8によって被覆されている。なお図中の9はグリットライン端部である。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用文献1を主引例とした対比・判断
ア 対比
本願発明1(上記第4の1)と,引用装置発明1(上記第5の1(2))とを対比すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用装置発明1の「n^(+)型炭化珪素基板(ワイドバンドギャップ半導体基板)1」,「活性領域」,「耐圧構造部」はそれぞれ,本願発明1の「半導体基板」,「能動領域」,「耐圧構造部」に相当する。
(イ)引用装置発明1の「層間絶縁膜6」は,本願発明1の「層間絶縁膜」に相当する。
(ウ)引用装置発明1の「ショットキー電極7」は,「活性領域から耐圧構造部へと延在して設けられ,層間絶縁膜6上に張り出し」,そしてその「最も耐圧構造部側の端部は,JTE構造用のp型領域3上で終端している」こと,さらに,「ショットキー電極7上には,例えばアルミニウムでできた電極パッド8が設けられ,電極パッド8は,活性領域から耐圧構造部へと延在し,かつその最も耐圧構造部側の端部はショットキー電極7上で終端して」いることから,「層間絶縁膜6上」に,「ショットキー電極7」及び「電極パッド8」とが設けられていること,及び,「層間絶縁膜6上」に張り出している「ショットキー電極7」及び「電極パッド8」とが,その構造上,フィールドプレートとして機能するものであることは自明である。したがって,引用装置発明1の「ショットキー電極7」及び「電極パッド8」は,本願発明1の「フィールドプレート」に相当する。
(エ)引用装置発明1の「保護膜9」は,本願発明1の「表面絶縁膜」に相当する。
(オ)上記(ア)ないし(エ)より,引用装置発明1の「炭化珪素半導体装置」は,本願発明1の「半導体装置」に相当する。
(カ)したがって,本願発明1と,引用装置発明1とは,下記(キ)の点で一致し,下記(ク)の点で相違する。
(キ)一致点
「半導体基板に設けられた能動領域と,該能動領域の周囲に設けられたターミネーション領域とを含む半導体装置であって,該ターミネーション領域は,
該半導体基板の上に設けられた層間絶縁膜と,
該層間絶縁膜の上に設けられたフィールドプレートと,
該フィールドプレートを覆うように形成された表面絶縁膜とを含む,ことを特徴とする半導体装置。」
(ク)相違点
a 相違点1
本願発明1においては「該フィールドプレートの斜面は,該層間絶縁膜に接する第1斜面と,該第1斜面と該フィールドプレートの上面との間の第2斜面とを含み,該第1斜面と該第2斜面は,該半導体基板の表面に対して互いに異なる傾斜角を有し,かつ,該フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」のに対して,引用装置発明1においては,電極パッド及びショットキー電極とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分の斜面が第1斜面および第2斜面の二つの斜面を含むのか否かが不明であり,かつ,フィールドプレートとして機能する電極パッドの上面と層間絶縁膜に接する電極パッド及びショットキー電極とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分の斜面との間の角度,及び,電極パッド及びショットキー電極の上面と斜面とを覆う保護膜の上面と斜面との間の角度に対して,それぞれどのような関係を有するのかが特定されていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記相違点1(上記ア(ク)a)について,検討をする。
a 引用文献1においては,「ショットキー電極7」及び「電極パッド8」とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分について,その斜面を「該層間絶縁膜に接する第1斜面と,該第1斜面と該フィールドプレートの上面との間の第2斜面とを含み,該第1斜面と該第2斜面は,該半導体基板の表面に対して互いに異なる傾斜角を有し,かつ,該フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」ように形成することは記載も示唆もなく,また,そのようにするための動機付けも認めがたい。
b また,引用文献2ないし4,Aの記載を検討しても,上記技術的事項が周知な設計変更とも認められない。
c してみれば,引用装置発明1において,本願発明1のように「ショットキー電極7」及び「電極パッド8」とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分について,その斜面を「該層間絶縁膜に接する第1斜面と,該第1斜面と該フィールドプレートの上面との間の第2斜面とを含み,該第1斜面と該第2斜面は,該半導体基板の表面に対して互いに異なる傾斜角を有し,かつ,該フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」ように形成することは,当業者が容易になし得たこととはいえない。
d そして,本願発明1は,上記相違点1に係る構成を備えることによって,本願の発明の詳細な説明に記載された,「フィールドプレート7aの上端部の角部11を角取りすることで,その上に形成する表面絶縁膜2の上端部の角部8の角度βが大きくなり,この結果,電界強度が低くなり火花放電を抑制できる。」(本願明細書,段落【0034】)という顕著な効果を奏するものと認められる。
(イ)したがって,本願発明1は,引用装置発明1,引用文献2ないし4,Aに記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)引用文献Aを主引例とした対比・判断
ア 対比
本願発明1(上記第4の1)と,引用装置発明A(上記第5の2(2))とを対比すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用装置発明Aの「半導体基板1」,「PSG膜2」,「ストッパ電極4」は,それぞれ本願発明1の「半導体基板」,「層間絶縁膜」,「フィールドプレート」に相当する。
(イ)引用装置発明Aにおいては,「Al電極4のオーバーハング部が側壁層5で埋められ」,かつ,「パッシベーション膜3はAl電極4の上および側方」「を良好にカバーし」ているものであるので,引用装置発明Aの「側壁層5」と「パッシベーション膜3」は,本願発明1の「表面絶縁膜」に相当する。
(ウ)上記(ア),(イ)より,引用装置発明Aの「半導体素子」は,本願発明1の「半導体装置」に相当する。
(エ)したがって,本願発明1と,引用装置発明Aとは,下記(オ)の点で一致し,下記(カ)の点で相違する。
(オ)一致点
「半導体装置であって,
半導体基板の上に設けられた層間絶縁膜と,
該層間絶縁膜の上に設けられたフィールドプレートと,
該フィールドプレートを覆うように形成された表面絶縁膜とを含む,
ことを特徴とする半導体装置。」
(カ)相違点
a 相違点2
本願発明1においては,「半導体装置」は「半導体基板に設けられた能動領域と,該能動領域の周囲に設けられたターミネーション領域とを含む」ものであり,「該ターミネーション領域」に「層間絶縁膜」と,「フィールドプレート」と,「表面絶縁膜」とを含んでいるのに対して,引用装置発明Aにおいては,「PSG膜2」,「ストッパ電極4」,「側壁層5」と「パッシベーション膜3」とが,「半導体基板に設けられた」「能動領域の周囲に設けられたターミネーション領域」に含まれているのかが特定されていない点。
b 相違点3
本願発明1においては,「該フィールドプレートの斜面は,該層間絶縁膜に接する第1斜面と,該第1斜面と該フィールドプレートの上面との間の第2斜面とを含み,該第1斜面と該第2斜面は,該半導体基板の表面に対して互いに異なる傾斜角を有し,かつ,該フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」のに対して,引用装置発明Aにおいては,「ストッパ電極4」は「オーバーハング部」を有しているものの,前記のような第1,2斜面とを含んではいない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について,判断する。
(ア)相違点3について
事案に鑑み,相違点3(上記ア(カ)b)について,検討をする。
a 引用文献Aにおいては,「本発明によれば,半導体素体上の電極のパターニングにより生ずるオーバーハングを埋めるような側壁層を形成することにより,その上を被覆するパッシベーション膜のステップカバレージが良好となり,樹脂封止を行うときに樹脂から半導体素体に応力が加わっても,その応力の強い素体外周部の電極上のパッシベーション膜に亀裂が生ずることがなくなった。従って高温多湿の場所でもパッシベーション膜を通じての水分の侵入を防止でき,信頼性の向上した半導体素子を製造することができた」(上記第5の2(1),引用文献Aの段落【0010】)と明記されているように「電極」に「オーバーハング」が発生することを前提として,そのオーバーハング部分に「側壁層」を形成することを,発明の要部とするものである。
b そして,引用装置発明Aにおいて,「ストッパ電極4」から「オーバーハング」部を無くすようにすること自体は,引用文献Aに記載されている(上記第5の2(1)段落【0007】)が,これは「電極側面を側壁層で被覆し」,「側壁層をパッシベーション膜の材質を同じに」し,「内部応力の違いによる劣化をさける」ことと同時に開示されている(同所)のであるから,引用装置発明Aにおいて,「ストッパ電極4」から「オーバーハング」部を無くす際に,側壁層を電極と同じ材料とし,本願発明1のように「フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度α」につき「α>90°」とするように変更することは,内部応力の違いによる劣化をさけられず,結局,水分の侵入を防止できなくなるから,阻害要因があるものと認められる。
c また,引用文献1ないし4の記載を検討しても,上記のような設計変更をすべき動機付けを認めることはできない。
d さらに,「フィールドプレート7aの上端部の角部11を角取りすることで,その上に形成する表面絶縁膜2の上端部の角部8の角度βが大きくなり,この結果,電界強度が低くなり火花放電を抑制できる。」(本願明細書,段落【0034】,上記(1)イ(ア)d)という顕著な効果を奏するものと認められる。
e すなわち,引用装置発明Aにおいて,本願発明1のように「該フィールドプレートの斜面は,該層間絶縁膜に接する第1斜面と,該第1斜面と該フィールドプレートの上面との間の第2斜面とを含み,該第1斜面と該第2斜面は,該半導体基板の表面に対して互いに異なる傾斜角を有し,かつ,該フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」ようにすることは,当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)したがって,本願発明1は,相違点2(上記ア(カ)a)についての判断をするまでもなく,引用装置発明A,引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
(1)引用文献1を主引例とした対比・判断
ア 対比
(ア)本願発明2は,本願発明1の半導体装置の「該フィールドプレートの斜面は,該層間絶縁膜に接する第1斜面と,該第1斜面と該フィールドプレートの上面との間の第2斜面とを含み,該第1斜面と該第2斜面は,該半導体基板の表面に対して互いに異なる傾斜角を有し,かつ,該フィールドプレートの上面と,該第1斜面との間の角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」という構成のみを,「該フィールドプレートの該層間絶縁膜に接する斜面は,該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面であり,かつ,該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」と置き換えたものである。
(イ)してみれば,本願発明1と引用装置発明1との対比(上記1(1)ア)での検討と同様に,上記1(1)ア(キ)の「一致点」で一致し,下記(ウ)の点で相違する。
(ウ)相違点
a 相違点4
本願発明2においては「該フィールドプレートの該層間絶縁膜に接する斜面は,該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面であり,かつ,該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」のに対して,引用装置発明1においては,電極パッド及びショットキー電極とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分の斜面が「該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面」ではなく,かつ,「フィールドプレートと表面主電極との接点」が不明であり,かつ,フィールドプレートとして機能する電極パッドの上面と層間絶縁膜に接する電極パッド及びショットキー電極とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分の斜面との間の角度,及び,電極パッド及びショットキー電極の上面と斜面とを覆う保護膜の上面と斜面との間の角度に対して,それぞれどのような関係を有するのかが特定されていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点4について
上記相違点4(上記ア(ウ)a)について,検討をする。
a 引用文献1においては,「ショットキー電極7」及び「電極パッド8」とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分について,その斜面を「該フィールドプレートの該層間絶縁膜に接する斜面は,該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面であり,かつ,該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」ように形成することは記載も示唆もなく,また,そのようにするための動機付けも認めがたい。
b また,引用文献2ないし4,Aの記載を検討しても,上記技術的事項が周知な設計変更とも認められない。
c してみれば,引用装置発明1において,本願発明2のように「ショットキー電極7」及び「電極パッド8」とで構成されるフィールドプレートとして機能する部分について,その斜面を「該フィールドプレートの該層間絶縁膜に接する斜面は,該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面であり,かつ,該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」ように形成することは,当業者が容易になし得たこととはいえない。
d そして,本願発明2は,上記相違点4に係る構成を備えることによって,本願の発明の詳細な説明に記載された,「曲率を持ったフィールドプレートの方が,より表面絶縁膜2の上端部の角部8の角度を大きくすることができる。このように,曲率を有するフィールドプレート7aの方がより表面絶縁膜の上端部の角部8を大きくすることができるため,火花放電を抑制できる。」(本願明細書,段落【0045】)という顕著な効果を奏するものと認められる。
(イ)したがって,本願発明2は,引用装置発明1,引用文献2ないし4,Aに記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)引用文献Aを主引例とした対比・判断
ア 対比
本願発明2は,上記(1)ア(ア)にて説示したように,本願発明1のフィールドプレートの斜面についての構成要件を変更したものであるので,本願発明2と引用装置発明Aとを対比すると,本願発明1での対比と同様に,上記1(2)ア(オ)の「一致点」で一致し,上記1(2)ア(カ)aの「相違点2」で相違し,さらに,下記(ア)aの点でも相違する。
(ア)相違点
a 相違点5
本願発明2においては,「該フィールドプレートの該層間絶縁膜に接する斜面は,該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面であり,かつ,該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」のに対して,引用装置発明Aにおいては,「ストッパ電極4」は「オーバーハング部」を有しているものの,前記のような曲面を含んではいない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について,判断する。
(ア)相違点5について
事案に鑑み,相違点5(上記ア(ア)a)について,検討をする。
a 上記1(2)イ(ア)における本願発明1の相違点3についての検討でも説示したように,引用文献Aにおいては,オーバーハング部分に「側壁層」を形成することを発明の要部としており,当該オーバーハング部分を「曲面」にする等,「オーバーハング」部を無くす際に側壁層を電極と同じ材料とするように変更することには阻害要因があるものと認められる。
b また,引用文献1ないし4の記載を検討しても,上記のような設計変更をすべき動機付けを認めることはできない。
c すなわち,引用装置発明Aにおいて,本願発明2のように「該フィールドプレートの該層間絶縁膜に接する斜面は,該層間絶縁膜側から上方に向かって,該半導体基板の表面に対する傾斜角が漸次減少する曲面であり,かつ,該フィールドプレートと表面主電極との接点と,該フィールドプレートと該層間絶縁膜との接点との双方における,該フィールドプレートの表面に対する接線が交差する角度αが,該フィールドプレートの上面と斜面とを覆う該表面絶縁膜の上面と斜面との間の角度βに対して,α>90°,β>90°,およびα<βの関係を満たす」ようにすることは,当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)したがって,本願発明2は,他の相違点についての判断をするまでもなく,引用装置発明A,引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明3ないし6について
(1)本願発明3は半導体装置の発明であって,本願発明1または本願発明2の発明特定事項を全て有するものであるので,本願発明3もまた,本願発明1または2と同じ理由により,引用装置発明1,引用文献2ないし4,Aに記載された技術的事項に基づいて,または,引用装置発明A,引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(2)本願発明4ないし6は,本願発明2の半導体装置の製造方法の発明であって,本願発明2の発明特定事項に対応する構成(「エッチング工程」)を有するものであるので,本願発明4ないし6もまた,本願発明2と同じ理由により,引用方法発明1(上記第5の1(3)),引用文献2ないし4,Aに記載された技術的事項に基づいて,または,引用方法発明A(上記第5の2(3)),引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 当審拒絶理由について
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
当審では,当審拒絶理由において,本願請求項1に係る発明は上記引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて,本願請求項4に係る発明は上記引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである旨の拒絶の理由を通知しているが,本件補正により,この拒絶の理由は解消した。

第8 原査定についての判断
原査定は,請求項1について,上記引用文献Aに記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないというものであり,請求項1について上記引用文献Aに基づいて,請求項4について上記引用文献A,Bに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,本件補正後の請求項1ないし6はそれぞれ,上記第6の1(2),第6の2(2),第6の3にて検討したように,引用文献Aに記載された発明,引用文献1ないし3,引用文献4(引用文献B)に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえないものであるので,本願発明1ないし6は,上記引用文献Aに記載された発明ではなく,また,上記引用文献A,Bに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであったとは認められない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-01 
出願番号 特願2014-94690(P2014-94690)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 儀同 孝信  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 鈴木 和樹
小田 浩
発明の名称 半導体装置およびその製造方法  
代理人 中野 晴夫  
代理人 山田 卓二  

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