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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1353008
審判番号 不服2017-16667  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-08 
確定日 2019-07-04 
事件の表示 特願2014- 57260「歪検出素子,圧力センサ,マイクロフォン,血圧センサ及びタッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 8日出願公開,特開2015-179779〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年3月19日の出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成29年 5月12日付け:拒絶理由通知
平成29年 6月14日 :意見書
平成29年 6月14日 :手続補正書
平成29年 9月15日付け:拒絶査定
平成29年11月 8日 :審判請求
平成29年11月 8日 :手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
平成31年 1月 7日付け:拒絶理由通知
なお,当審において通知した拒絶理由に対して,請求人からは何らの応答もなかったものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
支持部と,
前記支持部に支持された変形可能な膜部と,
前記膜部に設けられた歪検出素子と
を有し,
前記歪検出素子は,
磁化方向が可変な第1の磁性層と,
前記膜部と前記第1の磁性層との間に設けられた第2の磁性層と,
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた中間層と,
前記第1の磁性層の第1方向に配置され,前記第1の磁性層に接する絶縁層と
を備え,
前記第1方向は,前記第2の磁性層,前記中間層及び前記第1の磁性層の積層方向と交差し,
前記膜部の変形に応じて,前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間の電気抵抗値が変化し,
前記第1の磁性層の面積は,前記第2の磁性層の面積よりも大きく,
前記中間層の面積は,前記第2の磁性層の面積よりも大きく,
前記中間層はマグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含む
圧力センサ。」

第3 拒絶の理由
平成31年1月7日付けで当審が通知した拒絶理由は,概略,次のとおりのものである。
1(明確性要件)本願の請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし8に係る発明の「支持部」及び「支持部に支持された変形可能な膜部」は,発明の詳細な説明を参酌しても明確に理解することができないから,この出願の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2(進歩性)この出願の請求項1-8に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1-3に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

1.特開2013-72712号公報
2.特開2003-298145号公報
3.特開2011-244938号公報

第4 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
「圧力センサ」に係る発明である本願の請求項1に係る発明は,「支持部」及び「支持部に支持された変形可能な膜部」を発明特定事項として含むところ,「圧力センサ」における,どのような部材までを,前記「支持部」及び「支持部に支持された変形可能な膜部」として,認定することができるのか,発明の詳細な説明の記載からは,その外縁を明確に理解することができない。
すなわち,本願の請求項1の「支持部」及び「支持部に支持された変形可能な膜部」は,発明の詳細な説明を参酌しても明確に理解することができない。

例えば,本願明細書の【0110】-【0127】及び図18-図19には,「歪検出素子200」の製造方法として,「歪検出素子200A」の製造方法が説明されており,前記記載から,「歪検出素子200」が,基板110,膜部120,絶縁層125,下部電極204,下地層205,ピニング層206,第2磁化固定層207,磁気結合層208,第1磁化固定層209,中間キャップ層260,中間層203,磁化自由層210,キャップ層211,キャップ層211,上部電極212,及び,保護層215等を備えた構造を有することが理解される。
一方,本願の請求項1には,「圧力センサ」が,支持部と,支持部に支持された変形可能な膜部と,前記膜部に設けられた「歪検出素子」とを有することが記載されている。
そうすると,前記【0110】-【0127】及び図18-図19の記載を前提とすれば,本願の請求項1の「圧力センサ」に係る発明は,支持部と,支持部に支持された変形可能な膜部と,前記膜部に設けられる【0110】-【0127】の方法によって製造された「基板110,膜部120,・・・第2磁化固定層207,磁気結合層208,第1磁化固定層209・・・保護層215等を備えた歪検出素子」とを有する構造を備えることとなり,本願の請求項1に係る発明は,前記「基板110」及び「膜部120」とは別に,「支持部」と「支持部に支持された変形可能な膜部」を有することを要するものと解されるが,このような理解で正しいのか不明である。

あるいは,本願明細書の【0110】-【0127】及び図18-図19に記載された説明の「基板110」及び「膜部120」が,それ自体として,本願の請求項1に記載された発明の「支持部」及び「支持部に支持された変形可能な膜部」に該当すると理解すべきか不明である。

さらに,本願明細書の【0111】には,歪検出素子200の製造に際して,「基板110自体を最終的に変形可能とする場合,基板110と別に膜部120を必ずしも設けなくともよい。」と記載されているところ,このように「膜部120」を設けない圧力センサにおいては,「基板110」と,「第1磁化固定層209」との間に存在する,「絶縁層125」,「下部電極204」,「下地層205」,「ピニング層206」,「第2磁化固定層207」,「磁気結合層208」のうちの任意の層(例えば,「下部電極204」)が,本願の請求項1に係る発明の「支持部に支持された変形可能な膜部」に相当すると理解すべきであるのか明確に理解することができない。

また,単純に,圧力センサにおいて,「第1磁化固定層209」に「中間層203,磁化自由層210」が形成される方向とは反対側の方向に形成される複数の層のうち,「第1磁化固定層209」に遠い側の層を「支持部」と呼び,近い側の層を「支持部に支持された変形可能な膜部」と呼ぶことができるのか,明確に理解することができない。

以上のとおり,この出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許を受けようとする発明を明確に記載したものではないから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は,歪検知装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小領域でも高感度に歪を測定することができる歪センサが必要とされている。例えば,圧力変動を振動により検出する音響検出部を有する半導体センサチップと制御回路チップとをボンディングワイヤで電気的に接続する構成がある。しかしながら,この構成においては,装置の小型化が困難であり,微小領域で歪を高感度に測定することが困難である。」

「【0008】
(第1の実施形態)
図1は,第1の実施形態に係る歪検知装置の構成を例示する模式的斜視図である。
図1では,図を見やすくするために,絶縁部分を省略し,導電部分が主に描かれている。
【0009】
図1に表したように,本実施形態に係る歪検知装置310は,半導体回路部110と,検知部120と,を含む。
【0010】
半導体回路部110は,半導体基板111と,トランジスタ112と,を有する。
・・・
【0012】
検知部120は,半導体回路部110の上に設けられる。
【0013】
検知部120は,空洞部70と,非空洞部71と,を有する。空洞部70は,トランジスタ112の上方に設けられる。空洞部70は,少なくとも,素子領域111bの上に設けられる。非空洞部71は,主面111aに対して平行な平面内で空洞部70と並置される。
・・・
【0017】
検知部120は,可動梁60と,歪検知素子部50と,第1埋め込み配線61cと,第2埋め込み配線62cと,を含む。
【0018】
可動梁60は,固定部分63と,可動部分64と,を有する。可動梁60は,第1配線層61と,第2配線層62と,を含む。
【0019】
固定部分63は,非空洞部71に固定される。可動部分64は,固定部分63から空洞部70に延びる。可動部分64は,トランジスタ112と離間している。可動部分64とトランジスタ112との間の距離が可変である。第1配線層61及び第2配線層62は,固定部分63から可動部分64に向けて延びる。
【0020】
この例では,可動梁60は,X軸方向(X-Y平面内の1つの方向)に沿って延びる。すなわち,固定部分63から可動部分64に向かう方向は,X軸方向に沿っている。X軸方向に対して垂直でZ軸方向に対して垂直な軸をY軸方向とする。
【0021】
歪検知素子部50は,可動部分64に固定されている。歪検知素子部50の一端は,第1配線層61と電気的に接続されている。歪検知素子部50の他端は,第2配線層62と電気的に接続されている。歪検知素子部50は,後述する第1磁性層を含む。
【0022】
第1埋め込み配線61cは,非空洞部71に設けられる。第1埋め込み配線61cは,第1配線層61の固定部分63側の端と半導体回路部110とを電気的に接続する。
【0023】
第2埋め込み配線62cは,非空洞部71に設けられる。第2埋め込み配線62cは,第2配線層62の固定部分63側の端と半導体回路部110とを電気的に接続する。
【0024】
例えば,第1埋め込み配線61cと第2埋め込み配線62cとは,Z軸方向に沿う部分を有する。
【0025】
本実施形態に係る歪検知装置310においては,可動部分64とトランジスタ112との間の距離が変化可能である。この距離の変化に応じて,歪検知素子部50に加わる歪の量が変化し,その歪量の変化に応じて,第1磁性層の磁化方向が変化する。この磁化方向の変化に伴って,歪検知素子部50の一端と他端との間の電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化は,例えばMR効果に基づく。これにより,微小領域で歪を高感度に検知することができる。
【0026】
この例では,可動部分64は,第1配線層61と積層されたダイアフラム部61bを有している。この例では,ダイアフラム部61bの一部の上に第1配線層61が延びている。
【0027】
本願明細書において,積層されている状態は,直接重ねられる状態に加え,間に別の要素が挿入された状態で重ねられる状態を含む。また,上に設けられている状態は,接して上に配置される状態に加え,間に別の要素が挿入されて上に配置される状態を含む。
【0028】
ダイアフラム部61bの面積は,第1配線層61の面積よりも大きい。ダイアフラム部61bを設けることで,外部からの外力が効率よく歪検知素子部50に伝わる。これにより,歪検知の感度が高くなる。また,ダイアフラム部61bを設けることで,形状が規定された構造物の上での歪検知が可能になるので,外力と歪との関係が一定となる。例えば,歪量から外力への換算が一意となり,使い易くなる。
【0029】
また,この例では,歪検知素子部50に,歪抵抗変化部50sと,バイアス磁界を歪抵抗変化部50sに印加するバイアス層55a及び55b(例えばハードバイアス層)と,が設けられている。バイアス層55a及び55bは,必要に応じて設けられ,場合によっては省略できる。バイアス層55a及び55bについては後述する。以下,歪抵抗変化部50sについて説明する。
【0030】
図2は,第1の実施形態に係る歪検知装置の一部の構成を例示する模式的斜視図である。
図2に表したように,歪抵抗変化部50s(歪検知素子部50)は,例えば,第1磁性層10と,第2磁性層20と,第1磁性層10と第2磁性層20との間に設けられた中間層30と,を含む。中間層30は,非磁性層である。
【0031】
この例では,第1磁性層10は,磁化自由層である。第2磁性層20は,例えば,磁化固定層または磁化自由層である。
【0032】
以下では,歪検知素子部50の動作の例について,第2磁性層20が磁化固定層であり,第1磁性層10が磁化自由層である場合について説明する。歪検知素子部50において,強磁性体が有する「逆磁歪効果」と,歪抵抗変化部50sで発現する「MR効果」と,が利用される。
【0033】
「MR効果」は,磁性体を有する積層膜において,外部磁界が印加されたときに,磁性体の磁化の変化によって積層膜の電気抵抗の値が変化する現象である。GMR(Giant magnetoresistance)効果,TMR(Tunneling magnetoresistance)効果などがある。歪抵抗変化部50sに電流を流すことで,磁化の向きの相対角度の変化を電気抵抗変化として読み取ることで,MR効果は発現する。例えば,歪検知素子部50に加わる応力に基づいて,歪抵抗変化部50sに引っ張り応力が加わる。第1磁性層10(磁化自由層)の磁化の向きと,第2磁性層20に加わる引っ張り応力の方向と,が異なるときに,逆磁歪効果によりMR効果が発現する。低抵抗状態の抵抗をRとし,MR効果によって変化する電気抵抗の変化量をΔRとしたときに,ΔR/Rを「MR変化率」という。
【0034】
図3(a)?図3(c)は,第1の実施形態に係る歪検知装置の動作を例示する模式的斜視図である。
これらの図は,歪検知素子部50の状態を例示している。これらの図は,歪検知素子部50における磁化の方向と,引っ張り応力の方向と,の関係を例示している。
【0035】
図3(a)は,引っ張り応力が印加されていない状態を示す。このとき,この例では,第2磁性層20(磁化固定層)の磁化の向きは,第1磁性層10(磁化自由層)の磁化の向きと,同じである。
【0036】
図3(b)は,引っ張り応力が印加された状態を示している。この例では,X軸方向に沿って引っ張り応力が印加されている。例えば,可動部分64の変形により,例えばX軸方向に沿った引っ張り応力が印加される。すなわち,引っ張り応力は,第2磁性層20(磁化固定層)及び第1磁性層10(磁化自由層)の磁化の向き(この例では,Y軸方向)に対して直交方向に印加される。このとき,引っ張り応力の方向と同じ方向になるように,第1磁性層10(磁化自由層)の磁化が回転する。これを「逆磁歪効果」という。このとき,第2磁性層20(磁化固定層)の磁化は固定されている。よって,第1磁性層10(磁化自由層)の磁化が回転することで,第2磁性層20(磁化固定層)の磁化の向きと,第1磁性層10(磁化自由層)の磁化の向きと,の相対角度が変化する。
【0037】
この図には,第2磁性層20(磁化固定層)の磁化の方向が一例として図示されており,磁化の方向は,この図に示した方向でなくても良い。
【0038】
逆磁歪効果においては,強磁性体の磁歪定数の符号によって磁化の容易軸が変化する。大きな逆磁歪効果を示す多くの材料は,磁歪定数が正の符号を持つ。磁歪定数が正の符号である場合には,上述のように引っ張り応力が加わる方向が磁化容易軸となる。このときには,上記のように,第1磁性層10(磁化自由層)の磁化は,磁化容易軸の方向に回転する。
【0039】
例えば,第1磁性層10(磁化自由層)の磁歪定数が正である場合には,第1磁性層10(磁化自由層)の磁化の方向は,引っ張り応力が加わる方向とは異なる方向に設定する。
【0040】
一方,磁歪定数が負である場合には,引っ張り応力が加わる方向に垂直な方向が磁化容易軸となる。
図3(c)は,磁歪定数が負である場合の状態を例示している。この場合には,第1磁性層10(磁化自由層)の磁化の方向は,引っ張り応力が加わる方向(この例ではX軸方向)に対して垂直な方向とは異なる方向に設定する。
この図には,第2磁性層20(磁化固定層)の磁化の方向が一例として図示されており,磁化の方向は,この図に示した方向でなくても良い。
【0041】
第1磁性層10の磁化と第2磁性層20の磁化との間の角度に応じて,歪検知素子部50(歪抵抗変化部50s)の電気抵抗が,例えば,MR効果によって変化する。
【0042】
磁歪定数(λs)は,外部磁界を印加して強磁性層をある方向に飽和磁化させたときの形状変化の大きさを示す。外部磁界がない状態で長さLであるときに,外部磁界が印加されたときにΔLだけ変化したとすると,磁歪定数λsは,ΔL/Lで表される。この変化量は磁界の大きさによって変わるが,磁歪定数λsは十分な磁界が印加され,磁化が飽和された状態のΔL/Lとしてあらわす。
【0043】
例えば,第2磁性層20が磁化固定層である場合,第2磁性層20には,例えば,CoFe合金,CoFeB合金及びNiFe合金等を用いることができる。第2磁性層20の厚さは,例えば2ナノメートル(nm)以上6nm以下である。
【0044】
中間層30には,金属または絶縁体を用いることができる。金属としては,例えば,Cu,Au及びAg等を用いることができる。金属の場合,中間層30の厚さは,例えば1nm以上7nm以下である。絶縁体としては,例えば,マグネシウム酸化物(MgO等),アルミ酸化物(Al_(2)O_(3)等),チタン酸化物(TiO等),及び,亜鉛酸化物(ZnO等)を用いることができる。絶縁体の場合,中間層30の厚さは,例えば0.6nm以上2.5nm以下である。
・・・
【0047】
例えば,中間層30が金属の場合は,GMR(Giant Magnetoresistance)効果が発現する。中間層30が絶縁体の場合は,TMR(Tunneling Magnetoresistance)効果が発現する。例えば,歪検知素子部50においては,例えば,歪抵抗変化部50sの積層方向に沿って電流を流すCPP(Current Perpendicular to Plane)-GMR効果が用いられる。
・・・
【0054】
例えば,中間層30としてMgOのような酸化物が用いられる。MgO層上の磁性層は,一般的にプラスの磁歪定数を有する。例えば,中間層30の上に第1磁性層10を形成する場合,第1磁性層10として,CoFeB/CoFe/NiFeの積層構成の磁化自由層を用いる。最上層のNiFe層をNiリッチにすると,NiFe層の磁歪定数はマイナスでその絶対値が大きくなる。酸化物層上のプラスの磁歪が打ち消されることを抑制するために,最上層のNiFe層のNi組成は,一般的に用いられるNi_(81)Fe_(19)のパーマロイ組成と比較して,Niリッチにしない。具体的には,最上層のNiFe層におけるNiの比率は,80原子パーセント(atomic%)未満とすることが好ましい。第1磁性層10を磁化自由層とする場合には,第1磁性層10の厚さは,例えば,1nm以上20nm以下が好ましい。
【0055】
第1磁性層10が磁化自由層である場合において,第2磁性層20は,磁化固定層でも磁化自由層でも良い。第2磁性層20が磁化固定層である場合,外部から歪が加えられても第2磁性層20の磁化の方向は実質的に変化しない。そして,第1磁性層10と第2磁性層20との間での相対的な磁化の角度によって電気抵抗が変化する。電気抵抗の違いによって歪の有無が検知される。
・・・
【0063】
歪検知素子部50のX軸方向に沿った長さは,歪検知素子部50のY軸方向に沿った長さと同じでも良く,異なっても良い。歪検知素子部50のX軸方向に沿った長さが,歪検知素子部50のY軸方向に沿った長さと異なるときに,形状磁気異方性が生じる。これにより,ハードバイアス層で得られる作用と同様の作用を得ることもできる。
・・・
【0065】
図5は,第1の実施形態に係る歪検知装置の一部の構成を例示する模式的斜視図である。
図5に表したように,この例では,歪検知素子部50は,バイアス層55a及び55b(ハードバイアス層)をさらに含む。バイアス層55a及び55bは,歪抵抗変化部50sに対向して設けられる。
【0066】
この例では,第2磁性層20が磁化固定層である。バイアス層55a及び55bは,第2磁性層20に並置される。バイアス層55a及び55bの間に,歪抵抗変化部50sが配置される。バイアス層55aと歪抵抗変化部50sとの間に絶縁層54aが設けられる。バイアス層55bと歪抵抗変化部50sとの間に絶縁層54bが設けられる。
・・・
【0078】
本実施形態によれば,スピン歪センサ技術を用いることで,高い歪感度が得られ,例えば,演算回路を混載した歪・圧力センサの実現が可能となる。」

「【0094】
図6(c)に表したように,第1配線層61と第2配線層62との間には,絶縁層65(例えばSiO_(2)層など)が設けられる。また,第1配線層61の可動部分64側の端部と,第2配線層62の可動部分64側の端部とに接して絶縁層66(例えばSiO_(2)層など)が設けられる。」

「【0104】
本実施形態に係る歪検知装置310においては,外部から何らかの作用が可動部分64(例えばダイアフラム部61b)に与えられ,可動部分64(例えばダイアフラム部61b)の形状が変化する。この形状の変化に伴って歪検知素子部50に歪みが発生し,この歪みを電気抵抗の変化として検知する。歪検知装置310は,例えば圧力センサとして用いることができる。さらに,歪検知装置310は,加速センサとして用いることができる。さらに,歪検知装置310は,温度センサとして用いることができる。温度センサとして用いる場合には,温度に応じて可動部分64(例えばダイアフラム部61b)は伸縮し,これによる歪が検知される。例えば,温度膨張係数が大きい材料を可動部分64(例えばダイアフラム部61b)として用いることで,高感度の温度センサを提供することができる。」

(2) したがって,上記記載から,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「半導体回路部110と,検知部120と,を含む,圧力センサとして用いることができる歪検知装置310であって,
前記半導体回路部110は,半導体基板111と,トランジスタ112と,を有し,
前記検知部120は,前記半導体回路部110の上に設けられ,
前記検知部120は,空洞部70と,非空洞部71と,を有し,
前記検知部120は,可動梁60と,歪検知素子部50と,を含み,
前記可動梁60は,固定部分63と,可動部分64と,を有し,前記可動梁60は,第1配線層61と,第2配線層62と,を含むものであり,
前記固定部分63は,前記非空洞部71に固定され,前記可動部分64は,前記固定部分63から前記空洞部70に延びるものであり,
前記歪検知素子部50は,前記可動部分64に固定されており,前記歪検知素子部50の一端は,前記第1配線層61と電気的に接続され,前記歪検知素子部50の他端は,前記第2配線層62と電気的に接続され,さらに前記歪検知素子部50は,第1磁性層を含むものであり,
前記歪検知素子部50のX軸方向に沿った長さは,歪検知素子部50のY軸方向に沿った長さと異なっており,
前記歪検知装置310においては,前記可動部分64と前記トランジスタ112との間の距離が変化可能であり,この距離の変化に応じて,前記歪検知素子部50に加わる歪の量が変化し,その歪量の変化に応じて,前記第1磁性層の磁化方向が変化し,この磁化方向の変化に伴って,歪検知素子部50の一端と他端との間の電気抵抗が変化するものであり,
前記可動部分64は,前記第1配線層61と積層されたダイアフラム部61bを有しており,前記ダイアフラム部61bの一部の上に前記第1配線層61が延びているものであり,
前記歪抵抗変化部50s(歪検知素子部50)は,前記第1磁性層10と,第2磁性層20と,前記第1磁性層10と前記第2磁性層20との間に設けられた中間層30と,を含むものであり,前記中間層30は,非磁性層であり,
前記第1磁性層10は,磁化自由層であり,前記第2磁性層20は,磁化固定層であり,
前記中間層30には,絶縁体を用いることができ,前記絶縁体としては,マグネシウム酸化物(MgO等)を用いることができるものであり,
前記中間層30としてMgOのような酸化物を用いた場合,MgO層上の磁性層は,一般的にプラスの磁歪定数を有するので,中間層30の上に第1磁性層10を形成する場合,第1磁性層10として,CoFeB/CoFe/NiFeの積層構成の磁化自由層を用いるものであり,
ここで,最上層のNiFe層をNiリッチにすると,NiFe層の磁歪定数はマイナスでその絶対値が大きくなるので,酸化物層上のプラスの磁歪が打ち消されることを抑制するために,最上層のNiFe層のNi組成は,一般的に用いられるNi_(81)Fe_(19)のパーマロイ組成と比較して,Niリッチにせず,具体的には,最上層のNiFe層におけるNiの比率は,80原子パーセント(atomic%)未満とすることが好ましいものであり,
前記歪検知素子部50は,バイアス層55a及び55b(ハードバイアス層)をさらに含み,前記バイアス層55a及び55bは,歪抵抗変化部50sに対向して設けられるものであり,前記バイアス層55a及び55bは,前記第2磁性層20に並置され,前記バイアス層55a及び55bの間に,前記歪抵抗変化部50sが配置されるものであり,
前記バイアス層55aと前記歪抵抗変化部50sとの間に絶縁層54aが設けられ,前記バイアス層55bと前記歪抵抗変化部50sとの間に絶縁層54bが設けられ,
前記第1配線層61と前記第2配線層62との間には,絶縁層65(例えばSiO_(2)層など)が設けられ,また,前記第1配線層61の可動部分64側の端部と,前記第2配線層62の可動部分64側の端部とに接して絶縁層66(例えばSiO_(2)層など)が設けられる,
圧力センサとして用いることができる歪検知装置310。」

2 引用文献2の記載
(1)引用文献2には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
磁化自由層と,この磁化自由層に接して積層された絶縁体層と,この絶縁体層に接して積層された磁化固着層の積層構造を含む強磁性トンネル接合部を1重または2重以上有し,前記磁化固着層の平面積が前記磁化自由層の平面積より小さいことを特徴とする磁気抵抗効果素子。」

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述のような記憶原理上,TMR素子をMRAMに用いる場合には,出力となる磁気抵抗変化率が大きいということはもちろん,書き込む際の反転磁場(スイッチング磁場)と比例関係にある磁化自由層の保磁力が小さいということが望まれる。しかし,保磁力すなわちスイッチング磁場は,素子サイズ,形状,強磁性材料の磁化,膜厚などに依存しており,一般に記憶セルのサイズが小さくなるとスイッチング磁場は大きくなる。このことはMRAMの書き込みに大きな電流磁場を必要とし,消費電力が大きくなるということを意味する。さらに,MRAMの高集積化を考えた場合は,消費電力の増大がより一層顕著になるという点で大きな問題である。従って,MRAMの記憶セルに用いられる磁化自由層の保磁力を低減することは,高集積化MRAMを実現する上で重要な課題である。
【0007】現在,MRAMの記憶セルにTMR素子を用いる場合,素子の平面形状を長方形にすることが考えられている。これは,TMR素子を長方形にすると,形状異方性のために磁化自由層の長手方向が磁化容易軸となり,読み出し時の磁化状態を安定化できるためである。すなわち,長方形の磁化自由層の内部磁化は,中央付近で磁気異方性と交換相互作用の効果から,磁化容易軸方向に沿って平行に揃っている状態が最も安定である。
【0008】しかし,素子サイズが小さくなると,長方形の磁化自由層では,両端に生じた磁極による反磁場の影響により,短辺の長さの逆数に比例してスイッチング磁場が増大することが知られている。また,長方形の磁化自由層の両端部には,磁極発生に伴う静磁エネルギーを減少させようとして,中央部と異なる磁化方向を持つ磁区(エッジドメイン)が形成される。このエッジドメインは磁化反転の引き金の役割を果たし,残留磁化すなわち出力となる磁気抵抗変化率を低下させる。エッジドメインの大きさは,素子サイズが小さくなっても,長方形のアスペクト比(短辺:長辺)が同じであれば,それほど変化しない。このため,エッジドメインの影響は,素子サイズが小さくなると相対的に大きくなり,出力を低下させる方向に作用する。」

「【0022】本発明の実施形態においては,エッジドメインの影響を低減するために,磁化固着層の平面積を磁化自由層の平面積より小さく設計し,TMR素子のセンシング部(磁化自由層と磁化固着層との重なり部分)がエッジドメインに重ならないようにする。
【0023】上記のシミュレーションによれば,エッジドメインの影響による出力の低下を抑制するには,磁化固着層の平面積を磁化自由層の平面積の87%より小さくすることが好ましいことがわかる。さらに,磁化自由層の長辺端部に生じる形状の揺らぎを考慮して,エッジドメインの影響を避けるには,磁化固着層の平面積を磁化自由層の平面積の70%より小さくするのがより好ましい。このような条件を満たしていれば,無磁場での出力の低下が少なく,安定した出力を示すTMR素子を得ることができる。
【0024】図3(a)および(b)に,本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子(TMR素子の断面図および平面図を示す。図3(a)に示すように,このTMR素子は,下部電極層11上に,バッファ層12,磁化自由層13,トンネルバリア層14,磁化固着層15,反強磁性層16,表面保護層17を積層した構造を有する。このTMR素子では,トンネルバリア層14より下の各層の面積よりも,磁化固着層15より上の各層の面積を小さくしている。このように磁化自由層13と磁化固着層15との間に,磁化固着層15よりも面積の大きく磁化自由層13とほぼ同じ面積でトンネルバリア層14を残すようにすると,側面におけるエッチング残渣の付着によるリークの問題を確実に防止できる。なお,磁化自由層13より下の各層の面積よりも,トンネルバリア層14より上の各層の面積を小さくするように加工してもよい。図3(b)には,このTMR素子の磁化自由層13および磁化固着層15の大きさを示している。このようなTMR素子は,フォトリソグラフィーによりマスクを形成し,イオンミリングまたは反応性イオンエッチング(RIE)で所定の層をエッチングする工程を2回繰り返すことにより加工することができる。」

(2)したがって,上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。
・素子の平面形状が長方形の場合,素子サイズが小さくなると,エッジドメインの影響が相対的に大きくなり,出力を低下させる方向に作用すること。

・磁化固着層の平面積を磁化自由層の平面積より小さく設計し,TMR素子のセンシング部(磁化自由層と磁化固着層との重なり部分)がエッジドメインに重ならないようにすることで,エッジドメインの影響が低減されること。

・磁化自由層と磁化固着層との間に,磁化固着層よりも面積の大きく磁化自由層とほぼ同じ面積でトンネルバリア層を残すようにすると,側面におけるエッチング残渣の付着によるリークの問題を確実に防止できること。

3 引用文献3の記載
(1)引用文献3には,図面とともに,以下の記載がある。
「【0013】
図1は,第1の実施形態に係る血圧センサ10を用いた図である。」

「【0018】
血圧センサ10は,基板20上に電極30が設けられ,電極30上に磁化が一方向に向いている磁化固着層40が設けられている。磁化固着層40上には非磁性層50が設けられ,非磁性層50上には磁化の向きが可変な磁化自由層60が設けられている。磁化自由層60上には電極70が設けられている。磁化固着層40と磁化自由層60との配置が入れ替わっても良い。磁化固着層40と磁化自由層60は強磁性体である。電極30,磁化固着層40,非磁性層50,磁化自由層60,電極70を含む構成を磁気抵抗効果素子(以下,MR素子と称する)15という。MR素子から,電極30,70を除いたものをMR膜という。基板20と電極30との間にアルミ酸化物等の絶縁層を設けてもよい。」

(2)したがって,上記記載から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されていると認められる。
・磁気抵抗効果素子が,血圧センサに用いられること。

第6 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
1 引用発明の「非空洞部71」,「『ダイアフラム部61bを有』する『可動部分64』」,「歪検知素子部50」は,それぞれ,本願発明の「支持部」,「変形可能な膜部」,「歪検出素子」に相当する。

2 引用発明の「『磁化自由層であ』る『第1磁性層10』」,「第2磁性層20」,「『マグネシウム酸化物(MgO等)を用い』た『中間層30』」は,それぞれ,本願発明の「磁化方向が可変な第1の磁性層」,「第2の磁性層」,「『マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含む』『中間層』」に相当する。
そして,引用発明において,「第1磁性層10」は,「中間層30の上に」形成されるのであり,かつ,前記「中間層30」は「前記第1磁性層10と前記第2磁性層20との間に設けられ」るのであるから,引用発明の「第2磁性層20」は,「第1磁性層10」及び「中間層30」の下に設けられていること,すなわち,引用発明の「第2磁性層20」が,「第1磁性層10」と「可動部分64」との間に設けられていることは明らかである。

3 引用発明の「絶縁層54a」,「絶縁層54b」,「絶縁層65(例えばSiO_(2)層など)」及び「絶縁層66(例えばSiO_(2)層など)」は,いずれも,本願発明の「前記第1の磁性層の第1方向に配置され,前記第1の磁性層に接する絶縁層」に相当する。

そうすると,引用文献1には,以下の範囲で,本願発明と,一致及び相違する発明が記載されている。

<一致点>
「支持部と,
前記支持部に支持された変形可能な膜部と,
前記膜部に設けられた歪検出素子と
を有し,
前記歪検出素子は,
磁化方向が可変な第1の磁性層と,
前記膜部と前記第1の磁性層との間に設けられた第2の磁性層と,
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた中間層と,
前記第1の磁性層の第1方向に配置され,前記第1の磁性層に接する絶縁層と
を備え,
前記第1方向は,前記第2の磁性層,前記中間層及び前記第1の磁性層の積層方向と交差し,
前記膜部の変形に応じて,前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間の電気抵抗値が変化し,
前記中間層はマグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含む
圧力センサ。」

<相違点>
本願発明が,「前記第1の磁性層の面積は,前記第2の磁性層の面積よりも大きく,前記中間層の面積は,前記第2の磁性層の面積よりも大きく」という構成を備えるのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。

第7 判断
上記相違点について,判断する。
上記第5の2(2)のとおり,引用文献2には,素子の平面形状が長方形の場合,素子サイズが小さくなると,エッジドメインの影響が相対的に大きくなり,出力を低下させる方向に作用すること。
磁化固着層の平面積を磁化自由層の平面積より小さく設計し,TMR素子のセンシング部(磁化自由層と磁化固着層との重なり部分)がエッジドメインに重ならないようにすることで,エッジドメインの影響が低減されること。及び,
磁化自由層と磁化固着層との間に,磁化固着層よりも面積の大きく磁化自由層とほぼ同じ面積でトンネルバリア層を残すようにすると,側面におけるエッチング残渣の付着によるリークの問題を確実に防止できることが記載されている。

一方,引用文献1の【0002】に,「微小領域でも高感度に歪を測定することができる歪センサが必要とされている。」と記載されているように,素子の微細化は一般的な課題である。

そうすると,「X軸方向に沿った長さは,歪検知素子部50のY軸方向に沿った長さと異なって」いる「歪検知素子部50」を備えた引用発明に係る「圧力センサとして用いることができる歪検知装置」を微細化するにあたり,出力の低下を抑制するために,引用発明の「磁化自由層」である「第1磁性層10」の面積を,「磁化固定層」である「第2磁性層20」の面積よりも大きくするとともに,「絶縁体を用いる」「中間層30」の面積を,「磁化固定層」である「第2磁性層20」の面積よりも大きくすること,すなわち,上記相違点について本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことであり,その効果も当業者が予測する範囲内のものといえる。

第8 むすび
以上のとおり,この出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許を受けようとする発明を明確に記載したものではないから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
さらに,本願の請求項1に係る発明は,この出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1-3に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-23 
結審通知日 2019-05-07 
審決日 2019-05-20 
出願番号 特願2014-57260(P2014-57260)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 俊哉  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 加藤 浩一
小田 浩
発明の名称 歪検出素子、圧力センサ、マイクロフォン、血圧センサ及びタッチパネル  
代理人 きさらぎ国際特許業務法人  

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