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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1353013
審判番号 不服2018-5847  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-26 
確定日 2019-07-04 
事件の表示 特願2013-194773「カラーフィルター用赤色顔料分散組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月15日出願公開、特開2014- 89439〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2013-194773号(以下「本件出願」という。)は、平成25年9月20日(優先権主張 平成24年10月3日)の出願であって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年 6月29日付け:拒絶理由通知書
平成29年 8月30日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 1月19日付け:拒絶査定
平成30年 4月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成31年 2月28日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月 2日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明について
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである。

「【請求項1】
着色顔料、酸基を有する顔料分散助剤、塩基性基を有する高分子顔料分散剤、樹脂、及び有機溶剤を含有するカラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物であって、前記着色顔料が、C.I.ピグメントレッド177とC.I.ピグメントレッド179のみからなるか、又は赤色顔料としてさらにC.I.ピグメントレッド7、14、41、48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、122、123、146、168、178、184、185、187、190、200、202、208、210、246、254、255、264、270、272、279のいずれか1種以上のみを含み、
酸基を有する顔料分散助剤が、C.I.ピグメントレッド177に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤と、C.I.ピグメントレッド179に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤を含有し、
C.I.ピグメントレッド177に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤が、アントラキノン骨格を有する顔料及び/又は色素のスルホン化物並びにC.I.ピグメントレッド2のスルホン化物から選ばれる少なくとも1種であり、前記C.I.ピグメントレッド179に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤が、C.I.ピグメントレッド179のスルホン化物及び/又はC.I.ピグメントレッド2のスルホン化物であり、
色度xが0.674である塗膜としたときの、yが0.3057?0.3063、明度Yが12.68?14.21である、
白色有機EL光源を具備する表示装置のカラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物。」

第3 拒絶の理由
平成31年2月28日付けで当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?4に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1:特開2011- 89016号公報
引用文献2:特開2011-162722号公報
引用文献3:特開2004-285281号公報
引用文献4:特開2003-121838号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
当審の拒絶の理由で引用された引用文献1は、本件優先日前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタと白色有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子(以下、「OLED」ということがある。)を光源として有する(白色有機EL光源)カラー表示装置、該カラー表示装置に好ましく用いられるカラーフィルタおよび該カラーフィルタの形成に用いられる緑色着色組成物に関する。なお、白色とは、擬似白色を含めた広い概念を意味する。
【背景技術】
・・・(省略)・・・
【0009】
例えば冷陰極タイプの蛍光灯、無機LED光源などのバックライトでは、液晶表示装置としての表示性能やカラーフィルタとのマッチング、さらにバックライトの耐久性などの側面から、輝線スペクトルが設計されているものが多いが、OLED光源では、材料の特性から420?430nm近辺にピークが無く、460nm付近と600nm付近にピークを有している。またOLED光源の発光スペクトルは、従来の光源と比較して全体的にブロードなピークを有しているため、460nm近辺のピークを過ぎた後においても、500nm付近まで従来の光源よりスペクトルが高くなっている。これらの理由から、OLED光源を使用した表示装置に、現在使用されているカラーフィルタをそのまま用いることができないのが現状である。このためOLED光源に使用できる、最適な色相や透過率特性を持つカラーフィルタ材料の選択、開発が必要となっている。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0024】
・・・(省略)・・・
【0050】
[色素誘導体]
本発明の緑色着色組成物においては、着色剤の分散性を改善する目的で色素誘導体を用いることが可能である。色素誘導体は、有機色素に置換基を導入した化合物である。
・・・(省略)・・・
【0051】
[分散助剤]
着色剤を透明樹脂および/または有機溶剤などの着色剤担体中に分散する際には、適宜、樹脂型分散剤、界面活性剤等の分散助剤を用いることができる。分散助剤は、着色剤の分散に優れ、分散後の着色剤の再凝集を防止する効果が大きいので、分散助剤を用いて着色剤を着色剤担体中に分散してなる緑色着色組成物を用いた場合には、分光透過率の高いカラーフィルタが得られる。
【0052】
樹脂型分散剤は、着色剤に吸着する性質を有する着色剤親和性部位と、着色剤担体と相溶性のある部位とを有し、着色剤に吸着して着色剤の着色剤担体への分散を安定化する働きをするものである。
・・・(省略)・・・
【0065】
<カラーフィルタ>
本発明のカラーフィルタは、少なくとも1つの緑色フィルタセグメントと、少なくとも1つの赤色フィルタセグメントとおよび少なくとも1つの青色フィルタセグメントとを備えたカラーフィルタにおいて、少なくとも1つの緑色フィルタセグメントが、式(1)で表される構造を有する顔料(A)と黄色顔料(B)とを含む緑色着色組成物により形成されることを特徴とするものである。
・・・(省略)・・・
【0067】
[赤色フィルタセグメント]
本発明のカラーフィルタの赤色フィルタセグメントには、着色剤として、赤色顔料が含まれる。
・・・(省略)・・・
【0069】
また、本発明において、赤色フィルタセグメントが白色有機EL光源との最適化を考慮し高い明度と広い色表示領域を実現するためには、少なくともC.I.Pigment Red、177、C.I.Pigment Red 149、C.I.Pigment Red 179からなる郡から選ばれる少なくとも1種類以上の赤色顔料を含むことが好ましい。赤色フィルタセグメントにおいて、これら顔料の組み合わせが好ましい理由としては、それぞれの顔料の持つ高い着色力が広い色表示領域発現に効果的であることが挙げられる。
【0070】
本発明のカラーフィルタの赤色フィルタセグメントを形成するには、上記の如き赤色顔料および黄色顔料を、例えば、透明樹脂成分、溶剤、さらには必要に応じモノマーや重合開始剤、その他緑色着色組成物を形成する際に用いたと同様の材料を用い、緑色着色組成物の製造と同様の方法によって赤色着色組成物を製造し、この赤色着色組成物を用いて、緑色フィルタセグメントの形成と同様の方法により赤色フィルタセグメントを形成すればよい。」

(3)「【実施例】
【0112】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下において、特にことわりがない限り、「部」とは「重量部」を意味する。
・・・(省略)・・・
【0119】
<アクリル樹脂溶液の調製>
[アクリル樹脂溶液1の調製]
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌装置を取り付けた反応容器に、シクロヘキサノン70.0部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管よりn-ブチルメタクリレート13.3部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート4.6部、メタクリル酸4.3部、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM110」)7.4部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、固形分30重量%、重量平均分子量26000のアクリル樹脂の溶液を得た。
室温まで冷却した後、樹脂溶液約2gをサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に合成した樹脂溶液に不揮発分が20重量%になるようにシクロヘキサノンを添加してアクリル樹脂溶液1を調製した。
【0120】
[アクリル樹脂溶液2の調製]
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌装置を取り付けた反応容器に、シクロヘキサノン520.0部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管よりメタクリル酸7.0部、ベンジルメタクリレ-ト32.0部、2-ヒドロキシエチルメタクリレ-ト101.0部、メチルメタクリレ-ト11.0部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル2.0部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、アゾビスイソブチロニトリル1.0部をシクロヘキサノン50部に溶解させたものを添加し、さらに80℃で1時間反応を続けて、共重合体溶液を得た。次に得られた共重合体溶液337部に対して、2-メタクロイルエチルイソシアネ-ト33.0部、ラウリン酸ジブチル錫0.4部、シクロヘキサノン130.0部の混合物を70℃の条件で3時間かけて滴下した。
室温まで冷却した後、樹脂溶液約2gをサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に合成した樹脂溶液に不揮発分が20重量%になるようにシクロヘキサノンを添加して感光性樹脂溶液であるアクリル樹脂溶液2を調製した。得られた感光性樹脂の重量平均分子量は約37000、二重結合当量は460であった。
【0121】
<微細化処理顔料の製造方法>
[赤色処理顔料(PR-1)の製造]
赤色顔料C.I.Pigment Red 177(チバ・ジャパン社製「CROMOPHTAL RED A2B」)152部、表5に示す色素誘導体A-2を8部、塩化ナトリウム1600部、およびジエチレングリコール(東京化成社製)190部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、60℃で10時間混練した。次に、この混合物を約5リットルの温水に投入し、約70℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間撹拌してスラリー状とした後、濾過、水洗して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除き、80℃で24時間乾燥し、156部の赤色処理顔料(PR-1)を得た。
【0122】
[赤色処理顔料(PR-2)の製造]
赤色顔料C.I.Pigment Red 179顔料(BASFジャパン株式会社社製「パリオゲン マルーン L-3920」)500部、塩化ナトリウム500部、およびジエチレングリコール250部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所製)に仕込み、120℃で8時間混練した。次にこの混練物を5リットルの温水に投入し、70℃に加熱しながら1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除いた後、80℃で一昼夜乾燥し、490部の赤色処理顔料(PR-2)を得た。
・・・(省略)・・・
【0131】
<顔料分散体の製造方法>
[顔料分散体(DR-1、2、DG-1?5、DY-1?4、DB-1、2、DV-1)の作製]
表5記載の色素誘導体、顔料、アクリル樹脂溶液1、樹脂型分散剤および有機溶剤の混合物を表6、7記載の組成、配合量で均一に撹拌混合した後、直径1mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミル(アイガージャパン社製「ミニモデルM-250 MKII」)で5時間分散した。その後プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMAcと略記することがある)を30.0部加えた後、5μmのフィルタで濾過し、それぞれの顔料分散体を作製した。
【0132】
【表5】


【0133】
【表6】


・・・(省略)・・・
【0135】
[実施例1?17、比較例1?4]
(緑色着色組成物(アルカリ現像型着色レジスト材)(RG-1?21)の作製)
表8?10に示す混合物を均一になるように攪拌混合した後、1μmのフィルタで濾過して、緑色着色組成物(アルカリ現像型着色レジスト材)を得た。
・・・(省略)・・・
【0145】
(カラーフィルタの作製)
(青色着色組成物(RB-1)、赤色着色組成物(RR-1)の作製)
表12および表13に示すような組成、配合量(重量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして青色着色組成物(RB-1)、赤色着色組成物(RR-1)を作製した。
・・・(省略)・・・
【0147】
【表13】


【0148】
表12および表13中の略語について以下に示す。
・光重合開始剤;チバ・ジャパン社製「イルガキュア OXE-01」
・モノマー;東亞合成株式会社製「アロニクスM402」
・レベリング剤溶液;東レ・ダウコーニング社製「FZ-2122」(不揮発分100重量%))1部をシクロヘキサノン99部で希釈した溶液
【0149】
ガラス基板上にブラックマトリクスをパターン加工し、該基板上にスピンコーターで赤色着色組成物(RR-1)を白色有機EL光源(EL-1)において(以下、緑色、青色にも用いる)着色被膜を形成した。該被膜にフォトマスクを介して、超高圧水銀ランプを用いて300mJ/cm^(2)の紫外線を照射した。次いで0.2重量%の炭酸ナトリウム水溶液からなるアルカリ現像液によりスプレー現像して未露光部分を取り除いた後、イオン交換水で洗浄し、この基板を230℃で20分加熱することにより、x=0.665、y=0.326となる赤色フィルタセグメントを形成した。」

2 引用発明
前記1からみて、引用文献1には、「カラーフィルタと白色有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子(以下、「OLED」ということがある。)を光源として有する(白色有機EL光源)カラー表示装置、該カラー表示装置に好ましく用いられるカラーフィルタおよび該カラーフィルタの形成に用いられ」る「赤色着色組成物(RR-1)」として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 カラーフィルタと白色有機EL素子を光源として有するカラー表示装置用カラーフィルタの形成に用いられる赤色着色組成物(RR-1)であって、
以下に示す顔料分散体DR-1が32.4重量部、以下に示す顔料分散体DR-2が32.4重量部、以下に示すアクリル樹脂溶液2が2.4重量部、アロニクスM402が5.0重量部、イルガキュアOXE-01が1.6重量部、レベリング剤溶液が1.0重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが25.2重量部を均一になるように攪拌混合した後、1μmのフィルタで濾過して得た赤色着色組成物(RR-1)。
<顔料分散体DR-1>
以下(1)?(4)の混合物を均一に撹拌混合した後、フィルタで濾過し、顔料分散体DR-1を作製した。
(1)以下に示す顔料PR-1:10.8重量部
(2)以下に示す色素誘導体A-2:1.2重量部
(3)以下に示すアクリル樹脂溶液1:40.0重量部
(4)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:18.0重量部
<顔料分散体DR-2>
以下(A)?(D)の混合物を均一に撹拌混合した後、フィルタで濾過し、顔料分散体DR-2を作製した。
(A)以下に示す顔料PR-2:10.8重量部
(B)以下に示す色素誘導体A-1:1.2重量部
(C)以下に示すアクリル樹脂溶液:40.0重量部
(D)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:18.0重量部
<アクリル樹脂溶液2>
反応容器に、シクロヘキサノン520.0部を仕込み、メタクリル酸7.0部、ベンジルメタクリレ-ト32.0部、2-ヒドロキシエチルメタクリレ-ト101.0部、メチルメタクリレ-ト11.0部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル2.0部の混合物を滴下し、更にアゾビスイソブチロニトリル1.0部をシクロヘキサノン50部に溶解させたものを添加して、共重合体溶液を得、得られた共重合体溶液337部に対して、2-メタクロイルエチルイソシアネ-ト33.0部、ラウリン酸ジブチル錫0.4部、シクロヘキサノン130.0部の混合物を滴下し、合成した樹脂溶液に不揮発分が20重量%になるようにシクロヘキサノンを添加して、感光性樹脂溶液であるアクリル樹脂溶液2を調製した。
<顔料PR-1>
赤色顔料C.I.Pigment Red 177(チバ・ジャパン社製「CROMOPHTAL RED A2B」)152部、以下に示す色素誘導体A-2を8部、塩化ナトリウム1600部、ジエチレングリコール(東京化成社製)190部を混練し、温水に投入してスラリー状とした後、濾過、水洗して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除き、乾燥して、赤色処理顔料(PR-1)を得た。
<色素誘導体A-2>

<アクリル樹脂溶液1>
反応容器に、シクロヘキサノン70.0部を仕込み、n-ブチルメタクリレート13.3部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート4.6部、メタクリル酸4.3部、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM110」)7.4部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合物を滴下し、アクリル樹脂の溶液を得た後、合成した樹脂溶液に不揮発分が20重量%になるようにシクロヘキサノンを添加してアクリル樹脂溶液1を調製した。
<顔料PR-2>
赤色顔料C.I.Pigment Red 179顔料(BASFジャパン株式会社社製「パリオゲン マルーン L-3920」)500部、塩化ナトリウム500部、およびジエチレングリコール250部を混練し、温水に投入してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除いた後、乾燥し、赤色処理顔料(PR-2)を得た。
<色素誘導体A-1>



3 引用文献2の記載
当審の拒絶の理由で引用された引用文献2は、本件優先日前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー液晶表示装置や撮像素子等に用いられるカラーフィルターの製造を可能にするカラーフィルター用赤色顔料分散物及びそれを含有するカラーフィルター用顔料分散レジスト組成物に関する。
【背景技術】
・・・(省略)・・・
【0005】
しかし、これらの分野で使用されている有機顔料は一般に高級顔料であり、もともと高級有機顔料は他の顔料と比較して分散安定性が乏しい上に、微細化すればするほど、凝集を起こしやすくなり、安定な分散体を得ることは困難という欠点を有していた。
・・・(省略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、顔料分散性、分散安定性に優れるカラーフィルター用赤色顔料分散物、その製造方法、及び、高コントラスト化と高透過率化が可能なカラーフィルター用顔料分散レジスト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の点を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、有機顔料として、特定の方法により微粒子化処理されたものと、顔料分散助剤として、特定量の上記有機顔料と同一の骨格をもつ化合物のスルホン化物及び特定の構造を有する化合物のスルホン化物と、塩基性顔料分散剤とを用いて顔料を分散させることを特徴とする。
上記の2種類の顔料分散助剤を用いることにより、顔料の微細分散性とその後の分散安定性が向上し、優れた色特性と高い透過度、コントラストを実現可能にする。発明者らはこのような技術を用いてカラーフィルター用赤色顔料分散物とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
また、上記有機顔料として、未処理有機顔料と、上記有機顔料と同一の骨格をもつ化合物のスルホン化物である顔料分散助剤とを混合して微粒子化処理されたものを使用することにより、良好な性能が得られ、上記課題を高いレベルで解決し得ることを見出したのである。」

(2)「【0025】
<本発明の顔料分散物において使用する構成材料>
(有機顔料)
本発明の顔料分散物は、有機顔料を含有する。
本発明の顔料分散物において、上記有機顔料は、特定の方法で微粒子化処理されたものである。このような微粒子化処理された有機顔料を使用することにより、本発明の顔料分散物をレジスト化した際に、液晶カラーフィルターの明度Y値とコントラスト比とを高くすることができる。
・・・(省略)・・・
【0028】
本発明の顔料分散物においては、後述する顔料分散助剤(A)を添加した状態で未処理有機顔料の微粒子化処理を行い、得られた有機顔料を使用するのである。
本発明の顔料分散物を製造するにあたっては、このようにあらかじめ顔料分散助剤(A)を添加して未処理有機顔料を微粒子化処理し、これらの混合物に、後述する顔料分散剤、顔料分散助剤(B)及び有機溶剤を添加する。
・・・(省略)・・・
【0034】
まず、本発明で使用する顔料分散助剤(A)は、有機顔料と同一の骨格をもつ化合物のスルホン化物である。「有機顔料と同一の骨格」とは、例えば、本発明の顔料分散物を製造する際に使用する未処理有機顔料を特徴付ける骨格構造と同一であることをいい、具体的には、例えば、未処理有機顔料がジケトピロロピロール系顔料の場合は、「ジケトピロロピロール骨格」のことを、未処理有機顔料が縮合アゾ系顔料の場合は、「縮合アゾ骨格」のことを、未処理有機顔料がアントラキノン系顔料の場合は、「アントラキノン骨格」のことをいう。
・・・(省略)・・・
【0036】
上記顔料分散助剤(A)の好ましい具体例としては、例えば、ジケトピロロピロール系顔料であるC.I.ピグメントレッド254を使用する場合は、上記顔料分散助剤(A)としては、ジケトピロロピロール骨格を有する顔料であるC.I.ピグメントレッド254、255、264、272、C.I.ピグメントオレンジ71、73のスルホン化物等が挙げられる。また、縮合アゾ系顔料であるC.I.ピグメントレッド242を使用する場合は、上記顔料分散助剤(A)としては、縮合アゾ骨格を有する顔料であるC.I.ピグメントレッド144、166、242のスルホン化物等が挙げられ、縮合アゾ系顔料であるC.I.ピグメントレッド177を使用する場合は、上記顔料分散助剤(A)としては、アントラキノン骨格を有する顔料であるC.I.ピグメントレッド177のスルホン化物、特開2002-22922号公報に記載のアントラキノン誘導体等が挙げられる。
・・・(省略)・・・
【0043】
このような顔料分散助剤(B)は、例えば、下記式(3)?(30)のモノアゾ化合物を従来公知のスルホン化処理を行うことにより製造することができる。
・・・(省略)・・・
【0049】
(顔料分散剤)
本発明における顔料分散剤としては、塩基性基を含有する顔料分散剤が好ましく、さらに塩基性高分子顔料分散剤が好ましく、例えば、以下のものが挙げられる。
・・・(省略)・・・
【0054】
このようにして得られた顔料分散物は、必要に応じて各種バインダー樹脂、界面活性剤、その他の各種添加剤と混合させた後、印刷インキ、塗料、液晶カラーフィルター用レジスト、インクジェット用インキ、筆記具用インキ、リボンインキ、液体現像剤等の用途で好適に利用されることになる。
・・・(省略)・・・
【発明の効果】
【0073】
本発明の顔料分散物は、2種類の顔料分散助剤と顔料分散剤と併用することにより優れた顔料分散性を発揮するものである。また、そのような顔料分散助剤を使用することにより、有機顔料を微細に分散した状態においても、良好な流動性と分散安定性を有する顔料分散物が得られる。この顔料分散物は、明度、彩度に優れるので、各種印刷用インキのほか、インクジェットプリンター用インキにも好適に使用することができる。更に、そのような顔料分散物を液晶カラーフィルター用レジストに使用することにより、高い明度Y値やコントラスト比を有する液晶カラーフィルターを実現することが可能になる。」

4 引用文献3の記載
当審の拒絶の理由で引用された引用文献3は、本件優先日前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、顔料分散能とバインダー機能とを併せ持つ分散補助ポリマー、当該ポリマーを用いて調製した顔料分散液及び感光性着色組成物、当該感光性着色組成物を用いて作製したカラーフィルターに関する。
・・・(省略)・・・
【0048】
このカラーフィルターは、液晶表示装置やELデバイス等の各種表示装置のカラーフィルターとして好適に用いることができ、広い色再現域を必要とする分野、例えばテレビジョンの分野やマルチメディアの分野に対応することが可能である。」

(2)「【0217】
次に、赤色画素を形成する場合には、顔料として基本的には赤色顔料と黄色顔料を組み合わせて調色され、その場合には、xy色度座標のx値は被膜中の顔料濃度の増加と共に大きくなるが、y値は赤色顔料と黄色顔料の種類と配合割合によって変動し易い傾向があり、x値が増大すれば色再現域が広がる。従って、本発明の感光性着色組成物に赤色顔料と黄色顔料を組み合わせて配合する場合には顔料の総濃度を高くしてx値を大きくすることができ、その結果、色再現域の大きい赤色画素を形成できる。
【0218】
具体的には、本発明の感光性着色組成物に顔料として、少なくともC.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド254又はC.I.ピグメントイエロー139のいずれか1種を配合し、又は必要に応じて組み合わせて配合して、ポストベーク後の最終膜厚が2μm以下、好ましくは1.9μm以下の硬化膜を形成する場合には、C光源により測定されるxy色度座標(x,y)が、例えば(0.646, 0.342)、(0.643, 0.328)、(0.648, 0.336)又は(0.650, 0.317)等の分光が測定された。また、同様の顔料を組み合わせて、ポストベーク後の最終膜厚が2.7μm以下、好ましくは2.6μm以下の硬化膜を形成する場合には、C光源により測定されるxy色度座標(x,y)が、例えば(0.684, 0.306)、(0.675, 0.321)又は(0.688, 0.307)等の分光が測定された。
【0219】
以上の実測値に基き、本発明の感光性着色組成物に顔料として、少なくともC.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド254又はC.I.ピグメントイエロー139のいずれか1種を配合し、又は必要に応じて組み合わせて配合する場合には、これらの顔料のいずれかを少なくとも含有し、ポストベーク後の最終膜厚が2μm以下、好ましくは1.9μm以下であり、C光源で測定したxy色度座標のx値が0.63以上、好ましくは0.64以上、さらに好ましくは0.65以上であるか、或いは、(x,y)座標表示領域で表した時に、y値が、0.29≦y≦0.36で、且つ、x値が上記範囲となる硬化膜を形成できる。
【0220】
また、同様の顔料を1種又は2種以上組み合わせて配合する場合には、これらの顔料のいずれかを少なくとも含有し、ポストベーク後の最終膜厚が膜厚2.7μm以下、好ましくは2.6μm以下であり、C光源で測定したxy色度座標のx値が0.63以上、好ましくは0.66以上、さらに好ましくは0.68以上であるか、或いは、(x,y)座標表示領域で表した時に、y値が、且つ、0.29≦y≦0.36で、且つ、x値が上記範囲となる硬化膜を形成できる。
・・・(省略)・・・
【0227】
なお、本発明に係るカラーフィルターについて、液晶表示装置用カラーフィルターを代表例として説明したが、本発明は、他方式の表示装置用のカラーフィルター、例えばEL(エレクトロルミネッセンス)デバイスのカラーフィルターにも適用可能である。
・・・(省略)・・・
【0228】
ELデバイスにカラーフィルターを組み込む方式には幾つかある。例えば、図3a及び図3bに示すように白色発光するEL素子15Wの光取り出し側にカラーフィルター16を配置する方式がある。」

5 引用文献4の記載
当審の拒絶の理由で引用された引用文献4は、本件優先日前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

(1)「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の液晶表示装置は、少なくとも赤、緑、青の3色の画素を有するカラーフィルターとバックライト光源とを組み合わせて使用される。
【0007】本発明に使用されるバックライト光源としては、505nmから535nmの範囲にスペクトルピークを持つことが重要であり、上記特性を満たすものであれば、冷陰極放電管、熱陰極放電管、発光ダイオード、有機エレクトロルミネッセンス光源、無機エレクトロルミネッセンス光源、平面蛍光ランプ、メタルハライドランプなど光源全般を使用することができる。上記光源が3波長型の光源である場合は、色再現範囲をより向上させることができることからより好ましい。」

(2)「【0010】エレクトロルミネッセンス光源を用いる場合でも、カラーフィルターとしては、C光源を使用して測定した、XYZ表色系色度図における色度座標(x、y)が0.20≦x≦0.30、0.59≦y≦0.65の各式を満たすことが緑色画素を含むことが好ましく、0.20≦x≦0.28、0.61≦y≦0.65の各式を満たすことがより好ましい。
・・・(省略)・・・
【0012】赤色画素については、C光源を使用して測定した色度(x、y)が0.635≦x≦0.675、0.29≦y≦0.35の各式を満たすことが好ましい。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)赤色顔料分散レジスト組成物
引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、「カラーフィルタの形成に用いられる」ものである。また、「赤色着色組成物(RR-1)」は、その組成からみて、「顔料分散体DR-1」、「顔料分散体DR-2」、「アクリル樹脂溶液2」、及び「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」を含有するものである。加えて、引用発明の「顔料分散体DR-1」は、「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」を含み、引用発明の「顔料分散体DR-2」は、「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」を含むものである。
ここで、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、その用途及び組成からみて、「カラーフィルタ用」の「赤色顔料分散」「組成物」ということができる。また、技術常識に鑑みると、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、「レジスト組成物」ともいえる(引用文献1の段落【0149】の記載からも確認できる事項である。)。加えて、引用発明の「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」、「アクリル樹脂溶液2」、並びに、「プロピレングリコールモノメチルエーテル」は、その機能からみて、それぞれ、「着色顔料」、「樹脂」、及び「有機溶剤」といえる。
そうしてみると、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、本願発明の「着色顔料」、「樹脂、及び有機溶剤を含有するカラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物」に相当する。

(2)着色顔料
引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、その組成からみて、「着色顔料」として、「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」のみを含有する。
ここで、引用発明でいう「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」が、それぞれ、本願発明でいう「C.I.ピグメントレッド177」及び「C.I.ピグメントレッド179」であることは明らかである。
したがって、引用発明の「着色顔料」は、本願発明の「C.I.ピグメントレッド177とC.I.ピグメントレッド179のみからなるか、又は赤色顔料としてさらにC.I.ピグメントレッド7、14、41、48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、122、123、146、168、178、184、185、187、190、200、202、208、210、246、254、255、264、270、272、279のいずれか1種以上のみを含み」という要件を満たす。

(3)白色有機EL光源を具備する表示装置のカラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物
引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、「カラーフィルタと白色有機EL素子を光源として有するカラー表示装置用カラーフィルタに用いられる」ものである。
ここで、引用発明でいう「白色有機EL素子」、「カラーフィルタ」、及び「カラー表示装置」が、それぞれ、本願発明でいう「白色有機EL光源」、「カラーフィルター」、及び「表示装置」であることは明らかである。
そうしてみると、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、本願発明の「白色有機EL光源を具備する表示装置のカラーフィルター用」という要件を満たす。

2 一致点
以上のことから、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「 着色顔料、樹脂、及び有機溶剤を含有するカラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物であって、前記着色顔料が、C.I.ピグメントレッド177とC.I.ピグメントレッド179のみからなるか、又は赤色顔料としてさらにC.I.ピグメントレッド7、14、41、48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、122、123、146、168、178、184、185、187、190、200、202、208、210、246、254、255、264、270、272、279のいずれか1種以上のみを含む、
白色有機EL光源を具備する表示装置のカラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物。」

3 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(1) 相違点1
「カラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物」について、本願発明は、「酸基を有する顔料分散助剤」、「塩基性基を有する高分子顔料分散剤」を含有し、「酸基を有する顔料分散助剤が、C.I.ピグメントレッド177に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤と、C.I.ピグメントレッド179に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤を含有し」、「C.I.ピグメントレッド177に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤が、アントラキノン骨格を有する顔料及び/又は色素のスルホン化物並びにC.I.ピグメントレッド2のスルホン化物から選ばれる少なくとも1種であり、前記C.I.ピグメントレッド179に対して使用する酸基を有する顔料分散助剤が、C.I.ピグメントレッド179のスルホン化物及び/又はC.I.ピグメントレッド2のスルホン化物」であるのに対して、引用発明は、このように特定されたものを含まない点。

(2) 相違点2
「カラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物」について、本願発明は、「色度xが0.674である塗膜としたときの、yが0.3057?0.3063、明度Yが12.68?14.21である」と特定されているのに対して、引用発明は、これが、明らかではない点。

第6 判断
1 相違点1について
(1) 引用文献2の段落【0014】には、「顔料分散助剤として、特定量の上記有機顔料と同一の骨格をもつ化合物のスルホン化物及び特定の構造を有する化合物のスルホン化物と、塩基性顔料分散剤とを用いて顔料を分散させること」、及び「顔料分散助剤を用いることにより、顔料の微細分散性とその後の分散安定性が向上し、優れた色特性と高い透過度、コントラストを実現可能にする。発明者らはこのような技術を用いてカラーフィルター用赤色顔料分散物とする」ことが記載されている。

(2) また、引用文献2の段落【0049】には、「顔料分散剤としては、塩基性基を含有する顔料分散剤が好ましく、さらに塩基性高分子顔料分散剤が好まし」いことが記載されている。

(3) 加えて、引用文献2の段落【0073】には、「顔料分散助剤と顔料分散剤と併用することにより優れた顔料分散性を発揮する」こと、「そのような顔料分散物を液晶カラーフィルター用レジストに使用することにより、高い明度Y値やコントラスト比を有する液晶カラーフィルターを実現することが可能になる」ことが記載されている。

(4) ここで、引用発明と引用文献2に記載された技術は、いずれもカラーフィルタ用赤色顔料分散物の技術分野に属するものである点で共通する。そして、引用文献1の段落【0051】に「着色剤の分散に優れ、分散後の着色剤の再凝集を防止する」と記載されているとおり、「顔料の微細分散性とその後の分散安定性が向上」するようにすることは、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」にも求められることである。

(5) したがって、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」において、「着色剤の分散に優れ、分散後の着色剤の再凝集を防止する」ことを勘案した当業者が、引用文献2の記載事項に基づき、「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」と同一の骨格をもつ化合物のスルホン化物である「顔料分散助剤」、及び「塩基性高分子顔料分散剤」を、引用発明の「色素誘導体A-2」又は「色素誘導体A-1」に替えて採用し、相違点1に係る本願発明の構成を具備するものとすることは、通常の創意工夫の範囲内の事項である。

2 相違点2について
(1) カラーフィルタ用の赤色顔料分散物の色度x及びyを、それぞれ0.635≦x≦0.675程度、及び0.29≦y≦0.35程度として、色再現域の大きい赤色画素を形成することは、例えば、引用文献3(段落【0219】、【0220】及び【0228】)及び引用文献4(段落【0004】、【0010】及び【0012】)に記載されるとおり、周知技術である。

(2) そして、引用文献1の段落【0069】に「赤色フィルタセグメントが白色有機EL光源との最適化を考慮し高い明度と広い色表示領域を実現する」と記載されているとおり、「色再現域」を大きくすることは、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」にも求められることである。

(3) したがって、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」において、「色再現域」を勘案した当業者が、引用発明の「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」の比率を調整する等の手段により、色度xとyの関係を、「色度xが0.674である塗膜としたとき」「yが0.3057?0.3063」の範囲を満たすものに調製することは、上記周知技術の色度x及びyの範囲が示唆する創意工夫にとどまるものである。

(4) ここで、本件明細書に記載された段落【0064】【表2】及び段落【0071】【表4】の実施例7を参照すると、C.I.ピグメントレッド177とC.I.ピグメントレッド179の含有割合が50/50であって、C.I.ピグメントレッド177の顔料分散助剤としてC.I.ピグメントレッド177のスルホン化物、C.I.ピグメントレッド179の顔料分散助剤としてC.I.ピグメントレッド179のスルホン化物、顔料分散剤として塩基性基を有する高分子顔料分散剤、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有するカラーフィルター用赤色顔料分散組成物は、「色度xが0.674である塗膜としたとき」「yが0.3057?0.3063」の範囲を満たすものに調製すると、明度Yが12.68になると認められる。

(5) そして、引用文献1の段落【0069】に「赤色フィルタセグメントが白色有機EL光源との最適化を考慮し高い明度と広い色表示領域を実現する」と記載されているとおり、カラーフィルターの「明度」を高めるという課題は、引用発明にも内在するものである。また、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」の含有比率が50/50である。加えて、引用文献2の段落【0025】に「微粒子化処理された有機顔料を使用することにより、・・・、液晶カラーフィルターの明度Y値とコントラスト比とを高くすることができる」と記載されており、引用文献2の段落【0073】に「良好な流動性と分散安定性を有する顔料分散物」は、「明度、彩度に優れる」と記載されているとおり、組成物の明度は顔料の分散安定性や粒径等に依存するものである。そうしてみると、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」において、引用文献2の記載事項に基づき、「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」と同一の骨格をもつ化合物のスルホン化物である「顔料分散助剤」、及び「塩基性高分子顔料分散剤」を採用するとともに、十分な微細化処理を施して分散安定性等を向上させたものは、明度について本願発明の「明度Yが12.68?14.21である」という要件を満たすと考えられる。
あるいは、カラーフィルタの「明度」を高めることを勘案した当業者が、上述のような創意工夫により、本願発明の明度Yの範囲を満たす赤色顔料組成物を調製することは、容易に発明ができたものである。

(6) また、前記(4)に記載のとおり、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」は、「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」の含有比率が、本件明細書の実施例7に記載のカラーフィルター用赤色顔料分散レジスト組成物と同じく50/50であるから、引用発明の「赤色着色組成物(RR-1)」において、引用文献2の記載事項に基づき、「赤色顔料C.I.Pigment Red 177」及び「赤色顔料C.I.Pigment Red 179」と同一の骨格をもつ化合物のスルホン化物である「顔料分散助剤」、及び「塩基性高分子顔料分散剤」を採用して分散安定性を向上させたものは、「色度xが0.674である塗膜としたときの、yが0.3057?0.3063」、及び「明度Yが12.68?14.21」という要件を満足する蓋然性が高いものである。

4 本願発明の効果について
本件明細書の【0006】の記載からみて、本願発明の「カラーフィルター用赤色顔料分散組成物」は、「白色有機EL光源を具備する表示装置のカラーフィルターに使用できる高い着色力及び高い輝度を有するカラーフィルター用赤色顔料分散組成物を提供すること」という効果を奏するものと認められる。
しかしながら、前記「1」?「3」で述べたとおり、本願発明の奏する作用効果は、引用発明および引用文献2?4に記載の技術の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

5 意見書について
(1) 出願人は平成31年4月2日提出の意見書(以下「意見書」という。)において、以下のとおり主張する。

(2) 「4.本発明の技術的意義
本発明において使用される顔料と顔料分散助剤の組合せは、C.I.ピグメントレッド177と、アントラキノン骨格を有する顔料及び/又は色素のスルホン化物並びにC.I.ピグメントレッド2のスルホン化物から選ばれる少なくとも1種であり、さらにC.I.ピグメントレッド179と、C.I.ピグメントレッド179のスルホン化物及び/又はC.I.ピグメントレッド2のスルホン化物です。
本発明は、このような組合せを採用することにより、特定のx、y、Y値を示します。」

(3) 「本発明は、上記のようにC.I.ピグメントレッド177と179を含有することによって、塗膜の厚さと明度のバランスに優れるという顕著な効果を発揮することができます。特に、引用文献2に記載の発明による明度Yの値よりもより高い優れた結果を得ることができます。」

(4) しかしながら、前記「3」及び「4」のとおり、顔料と顔料分散助剤について上記のとおり組み合わせ、色度及び明度について本願発明の要件を満足するように設定することは、当業者の通常の創作工夫の範囲内の事項であるし、本願発明の要件を満足するように設定することの効果について、格別顕著なものということはできない。

(5) そして、その余の出願人の主張についても検討したが、採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-26 
結審通知日 2019-05-07 
審決日 2019-05-20 
出願番号 特願2013-194773(P2013-194773)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 博之  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
発明の名称 カラーフィルター用赤色顔料分散組成物  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 山田 泰之  

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