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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60B
管理番号 1353019
審判番号 不服2018-7651  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-05 
確定日 2019-07-04 
事件の表示 特願2014-159489号「車両用ホイール」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月22日出願公開、特開2016- 37061号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月5日に出願されたものであって、平成29年9月27日付けで拒絶理由が通知され、同年12月4日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年2月26日付けで拒絶査定がされ、同年6月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年6月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成30年6月5日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をすることを含むものであって、補正前と補正後の特許請求の範囲の請求項1を示すと以下のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。
〔補正前〕
「【請求項1】
ホイール固定部とリム部とがディスク部で接続されてなる金属製のホイール基部(A)と、繊維強化樹脂からなるディスク補強部材(B)とが、引張破断伸度が1%以上の接着剤(C)を介して接着されてなり、
前記ホイール基部(A)の、少なくとも前記ディスク補強部材(B)との被接着面に、陽極酸化被膜(D)が形成されている車両用ホイール。」

〔補正後〕
「【請求項1】
ホイール固定部とリム部とがディスク部で接続されてなる金属製のホイール基部(A)と、繊維強化樹脂からなるディスク補強部材(B)とが、引張破断伸度が1%以上の接着剤(C)を介して接着されてなり、
前記接着剤(C)の厚みが0.2?2mmであり、
前記ホイール基部(A)の、少なくとも前記ディスク補強部材(B)との被接着面に、陽極酸化被膜(D)が形成されている車両用ホイール。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
上記請求項1に対する補正は、発明の詳細な説明の段落【0049】の記載に基いて、「接着剤(C)」の厚みが「0.2?2mm」であることを特定するものであり、限定的減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではない。
したがって、本件補正の請求項1に対する補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の属する産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 引用文献1の記載事項等
(ア)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された特開昭62-199501号公報(以下、原査定と同様に「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付加した。以下同様。また、それぞれを「記載事項(1a)」等という。)。
(1a)「2.特許請求の範囲
アルミニウム合金製ホイールデイスクに炭素繊維強化合成樹脂板を補強して成るホイールにおいて、該ディスクと該板との間に接着剤層を介在させたものであって、該層の接着剤がアクリロニトリル・ブタジエンゴムを1?30重量%含む常温硬化タイプのエポキシ系樹脂であり、かつ、該層の接着剤存在量が50?700g/m^(2)であることを特徴とする炭素繊維強化合成樹脂補強アルミニウム合金製自動車用ホイール。」(第1頁左下欄第4?13行;なお、「アルミニウム合金製ホイールデイスク」は、「アルミニウム合金製ホイールディスク」の誤記と認める。)

(1b)「(従来技術と問題点)
従来の自動車用ホイールは鉄製が主であり、近年、足まわりの軽量化を目的としたアルミニウム合金製ホイールが登場してきた。
更に、最近では軽量かつ剛性の改善を図るため、アルミニウム合金製ホイールに炭素繊維強化熱硬化性樹脂(以下「CFRP」と略記)を貼り付けた、いわゆるCFRP補強アルミニウム合金製ホイールも見られる。
そして、これまでのCFRP補強アルミニウム合金製ホイールは、CFRPの硬化とアルミニウム合金製ホイールディスクとの接着を同時に実施する、いわゆるコキュア(co-cure)製品である。コキュアはCFRPの硬化と接着を同時に行なえるため工程が少なくなり合理的な方法である。
しかしながら、コキュアはCFRPの硬化のためにアルミニウム合金製ホイールディスクに密着させた状態での加熱、加圧が必要である。このためCFRPとアルミニウムが直接接触し電食を起す。更に、CFRPとアルミニウム合金の熱膨張率の差により、ホイールの変形や接着面での剥離が問題になる。これらの問題を解決するため、従来はCFRPとアルミニウム合金の層間にガラス繊維強化熱硬化性樹脂(以下「GFRP」と略記)を介在させている。
しかしながら、GFRPは比重が2.0程度でCFRPの1.55、接着剤の1.24と較べて大きくホイールの重量増加につながる。」(第1頁右下欄第1行?第2頁左上欄第9行)

(1c)「アクリロニトリル・ブタジエンゴムが1重量%未満では充分な剥離強度が得られない。30重量%超では硬化物が柔らかくなりすぎ、本発明には適さない。」(第2頁右下欄第2?5行)

(1d)「接着剤の塗布量(存在量)は両面合せて50?700g/m^(2)の厚みが適当である。塗布量が50g/m^(2)未満では、塗布斑によりCFRP板とアルミニウム合金製ホイールディスクが完全に密着し接着させることが難しい。また、700g/m^(2)超になると接着剤層が厚くなりずぎ、良好な接着力が得られない。」(第3頁左上欄第7?14行)

(1e)「CFRP板とアルミニウム合金製ホイールディスクを接着させた場合の剥離或いは破壊の仕方には、次の4タイプがある。
即ち、○1アルミニウム合金製ホイールディスクと接着剤の界面で剥離する。○2CFRPと接着剤の界面で剥離する。○3接着剤層が破壊する。○4アルミニウム合金製ホイールディスク又はCFRP板が破壊するの4タイプである。そして接着剤が不適当である場合は、主に○1、○2の剥離パターンを示し、また接着剤層が厚過ぎると○3のパターンを示す場合が多い。適正な接着剤の場合は○4のパターンである。」(第3頁左上欄第15行?同頁右上欄第6行;なお、○囲みの1は「○1」とする等代用表記とした。)

(1f)「本発明はアルミニウム合金製ホイールディスクとCFRP板を固着させるに際し、常温硬化タイプの接着剤を塗布量で50?700g/m^(2)(約40?550μm厚さ)介在させて接着させるため、アルミニウム合金とCFRP板の熱膨張率の差によって通常発生する接着物の反りや剥離が発生しない。更にアルミニウム合金とCFRPが直接接触しないため電食も発生しない。」(第3頁右上欄第9?16行)

(イ)記載された発明
上記(ア)の各記載事項からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「アルミニウム合金製ホイールディスクに炭素繊維強化合成樹脂板を補強して成るホイールにおいて、該ディスクと該板との間に接着剤層を介在させたものであって、該接着剤層の接着剤がアクリロニトリル・ブタジエンゴムを1?30重量%含む常温硬化タイプのエポキシ系樹脂であり、かつ、該接着剤層の接着剤存在量が50?700g/m^(2 )、約40?550μm厚さである炭素繊維強化合成樹脂補強アルミニウム合金製自動車用ホイール。」

イ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
a 後者の「炭素繊維強化合成樹脂補強アルミニウム合金製自動車用ホイール」は前者の「車両用ホイール」に相当し、以下同様に、「アルミニウム合金製ホイールディスク」は「ディスク部」に、「炭素繊維強化合成樹脂板」は「繊維強化樹脂からなるディスク補強部材(B)」に、「接着剤」は「接着剤(C)」にそれぞれ相当する。

b 引用文献1には、前者の「ホイール固定部」、「リム部」に相当する事項について直接的な文言の記載はないが、自動車用ホイールであるから、引用発明もそれら事項を実質的に有しているのは、技術常識から明らかである。
そして、前者の「ホイール基部(A)」が「ホイール固定部とリム部とがディスク部で接続されてなる」ものであることを踏まえると、後者の「アルミニウム合金製ホイールディスクに炭素繊維強化合成樹脂板を補強して成るホイールにおいて、該ディスクと該板との間に接着剤層を介在させたものであ」るという事項と、前者の「ホイール固定部とリム部とがディスク部で接続されてなる金属製のホイール基部(A)と、繊維強化樹脂からなるディスク補強部材(B)とが、引張破断伸度が1%以上の接着剤(C)を介して接着されてな」るという事項とは、「ホイール固定部とリム部とがディスク部で接続されてなる金属製のホイール基部と、繊維強化樹脂からなるディスク補強部材とが、接着剤を介して接着されてな」るという限度で一致するといえる。

c 以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「ホイール固定部とリム部とがディスク部で接続されてなる金属製のホイール基部と、繊維強化樹脂からなるディスク補強部材とが、接着剤を介して接着されてなる車両用ホイール。」

〔相違点1〕
「接着剤」に関し、本願補正発明が「引張破断伸度が1%以上」であるのに対し、引用発明は引張破断伸度の特定がない点。

〔相違点2〕
「接着剤」の厚みに関し、本願補正発明が「0.2?0.55mm」であるのに対し、引用発明は「約40?550μm」である点。

〔相違点3〕
本願補正発明が「前記ホイール基部の、少なくとも前記ディスク補強部材(B)との被接着面に、陽極酸化被膜(D)が形成されている」という事項を有しているのに対し、引用発明は当該事項の特定がない点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
a 相違点1について
(a)引用文献1の記載事項(1c)に「アクリロニトリル・ブタジエンゴムが1重量%未満では充分な剥離強度が得られない。30重量%超では硬化物が柔らかくなりすぎ、本発明には適さない。」と、同記載事項(1d)に「接着剤の塗布量(存在量)は両面合せて50?700g/m^(2)の厚みが適当である。塗布量が50g/m^(2)未満では、塗布斑によりCFRP板とアルミニウム合金製ホイールディスクが完全に密着し接着させることが難しい。また、700g/m^(2)超になると接着剤層が厚くなりずぎ、良好な接着力が得られない。」と、同記載事項(1e)に「CFRP板とアルミニウム合金製ホイールディスクを接着させた場合の剥離或いは破壊の仕方には、次の4タイプがある。即ち、○1アルミニウム合金製ホイールディスクと接着剤の界面で剥離する。○2CFRPと接着剤の界面で剥離する。○3接着剤層が破壊する。○4アルミニウム合金製ホイールディスク又はCFRP板が破壊するの4タイプである。そして接着剤が不適当である場合は、主に○1、○2の剥離パターンを示し、また接着剤層が厚過ぎると○3のパターンを示す場合が多い。適正な接着剤の場合は○4のパターンである。」と、同記載事項(1f)に「本発明はアルミニウム合金製ホイールディスクとCFRP板を固着させるに際し、常温硬化タイプの接着剤を塗布量で50?700g/m^(2)(約40?550μm厚さ)介在させて接着させるため、アルミニウム合金とCFRP板の熱膨張率の差によって通常発生する接着物の反りや剥離が発生しない。」と記載されている様に、接着剤の物性や塗布量を適切に選択することは、基本的な設計事項である。

(b)原査定において、周知技術の例示文献として示した特開2010-235816号公報(原査定の引用文献2)の段落【0063】に「本発明の接着部材は、上述の接着剤を硬化して得られる硬化物からなる。接着部材は、典型的には恒久的な接着処理に用いられる部材であるため、物理的外力や温度変化等によって容易に剥離せず破壊されない特性が求められる。特に、接着部材が硬すぎると、接着処理をすべき領域を構成している接着対象物が比較的柔軟性に富む場合には、物理的な外力を加えたときに接着部材が容易に剥離し、あるいは応力の集中により接着材が破壊される場合がある。具体的には、接着部材のヤング率は、50?1,000MPa、さらには100?500MPaが好ましい。破断強度は、1?50MPa、さらには10?30MPaが好ましい。破断伸びは、50?300%、さらには80?200%が好ましい。」と記載され、同特表2008-516833号公報(原査定の引用文献3)の段落【0006】に「本発明は、部材が、ポリオレフィンの外側スキンで構成されている外観部品およびスキンの膨張係数より小さな膨張係数を有する構造部品を備え、その2つの部品が、その2つの部品の一方の表面で他方の部品の表面に面している表面上に配設された接着剤のビードによって結合され、接着剤が、20%から800%の範囲にある破断伸び、その破断伸びの一部にわたる純粋な弾性伸び、および0.5メガパスカル(MPa)から300MPaの範囲にあるヤング率を与え、接着剤のビードが、接着後、0.8mmから3mmの範囲にある呼び厚さを与えるオープニングパネルを提供する。」と記載されているように、引張破断伸度は接着剤の使用において考慮されるべき周知の物性であって、接着剤において「引張破断伸度が1%以上」なる値も分野を問わずごく普通の値といえ、周知技術であるといえる。
また、アルミニウムと炭素繊維強化合成樹脂とを接着する接着剤においても、「引張破断伸度が1%以上」のものは、例えば、特開2006-213312号公報の段落【0051】に「また、この強化繊維複合材料の強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリエステル繊維等を挙げることができる。」、同【0057】に「管状部材11とシート状部材12とを接着している接着層13を構成する接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系やフェノール樹脂系等の接着剤を挙げることができる。この接着剤は、5?200[%]の伸度を有しており、好ましくは10?100 [%]の伸度を有している。接着剤を高伸度とすることにより、ドアガードビーム10eに対して車外側から荷重が印加された際に、接着層13が脆性破壊し難くなり、ドアガードビーム10eのエネルギ吸収量が低下するのを防止することができる。」、同【0058】に「この接着層13は、350[μm]?1[mm]の厚さを有している。接着層13が肉厚化されていることにより、アルミニウム等から構成される管状部材11の局所的な変形を吸収することができる。」と記載され、また、特開2009-51944号公報の段落【0015】に「さらに、本発明のラジカル硬化型接着剤組成物は、高張力鋼(High Tensile Steel)間の接着、高張力鋼と炭素繊維やガラス繊維で強化したプラスチック(CFRP、GFRP)間の接着、アルミニウム合金と炭素繊維やガラス繊維で強化したプラスチック(CFRP、GFRP)間の接着でも好適な接着剤として強靱な接着力を発揮する。」と記載され、【表2】として以下に示されるように、「引張破断伸度が1%以上」はごく普通の値といえ、周知技術といえる。


(c)本願補正発明において、「引張破断伸度が1%以上」としたことの技術的意義は、「接着剤(C)の引張破断伸度が1%未満だと、半径方向負荷耐久試験および回転曲げ疲労試験(JIS D4103「自動車部品-ディスクホイール-性能及び表示」)において、接着剤(C)からなる層にクラックや剥離が生じ易くなる。」(本願の明細書の段落【0047】)という問題を防ぐことにあるものと認められる。一方、引用発明において、接着剤にアクリロニトリル・ブタジエンゴムを含ませることの技術的意義は、熱膨張差による接着面での剥離を防止(記載事項(1c)、(1f)参照。)することにあるものと認められ、着目した発生原因の違いはあれど剥離防止という意味では近似する課題を有しているといえる。そして、恒久的な接着処理に用いられる接着剤は、物理的外力や温度変化等によって容易に剥離せず破壊されない特性が求められるのは技術常識であるところ(例えば、上記(b)の特開2010-235816号公報の段落【0063】の摘記の最初の下線部を参照。)、特に記載事項(1d)、(1f)より、接着剤に適度な柔らかさを持たせ、アルミニウム合金製ホイールディスクと炭素繊維強化合成樹脂板との間の熱膨張率の差によって生じる問題を接着剤層により吸収することによって剥離防止という課題を解決していることが示唆されているといえ、そのようなものであるなら、引張破断伸度もある程度の大きさをもつことは自明といえる(小さすぎては接着剤層が破壊してしまうか、各部材と接着剤層が剥離してしまうか、あるいは、破壊ないし剥離が生じなくとも接着物に反りが生じるおそれがあると解される。記載事項(1e)、(1f)も参照。)。
そうすると、引用発明において、接着剤において広く知られた値である「引張破断伸度が1%以上」と特定することに、格段の創意工夫を要したしたものとはいえず、当業者であれば所望により適宜設定し得た程度のことにすぎない。また、本願の明細書や図面をみても、本願補正発明において「引張破断伸度が1%以上」としたことに臨界的意義があることは窺えず、単に好適な数値範囲を特定したにすぎないものと認められる。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

b 相違点2について
(a)引用発明の「約40?550μm厚さ」は、ミリに換算すれば、「約0.04?0.55mm厚さ」ということになる。
そうすると、接着剤の厚みについて、本願補正発明の「0.2?2mm」と、引用発明の「約0.04?0.55mm」とは、少なくとも「0.2?0.55mm」の範囲で共通するものである。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点とはいえない。

(b)あるいは、引用文献1の記載事項(1d)より、接着剤の厚さが薄くなれば確実な接着ができないおそれがあり、厚くなれば良好な接着力が得られないおそれがあることが理解できるので、引用発明において、アルミニウム合金製ホイールディスクと炭素繊維強化合成樹脂板との確実な接着と良好な接着力を得るべく、接着剤の厚みとして「0.2?0.55mm」の範囲を選択することは、当業者であれば容易になし得た程度のことである。
したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

c 相違点3について
(a)引用発明は、炭素繊維強化合成樹脂板が接着されるホイールディスクの箇所が陽極酸化被膜されているかどうかは明らかではないが、原査定において、周知技術の例示文献として示した特開平10-81997号公報(原査定の引用文献4)の段落【0013】に「酸化皮膜厚さは耐食性及び光輝性に影響を及ぼす。膜厚が厚いほど耐食性は優れる傾向にあるが、光輝性は低下し光沢度が低くなってしまう。」と記載され、同【0016】に「JIS A5052アルミニウム合金材(2.5%Mg)を常法によりホイール形状に成形し、・・・150?500Å膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。」と記載されるように、ホイール基部に陽極酸化皮膜を形成することは、車両用ホイールにおける周知技術といえるものである。
そして、引用発明において、アルミニウム合金そのままの表面にすれば、耐食性に劣るものとなることは自明のことであるから、引用発明の「ホイール基部」に相当するもの(上記ア(b)参照。)に対し、上記周知技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。その場合、「少なくとも炭素繊維強化合成樹脂板との被接着面」に相当する箇所に陽極酸化被膜が形成されることになる。
したがって、引用発明において、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(b)なお、陽極酸化皮膜を形成したことに関し、請求人は、審判請求書の「(4)(b)(ウ)」において、「一般に、金属製ホイールに接着される補強部材が繊維強化樹脂からなる場合、電食が原因で腐食が発生するという問題がある(例えば、特開平5-193047号公報の段落0005,0006等を参照)。これに対し、本願請求項1発明においては、上記相違点に示したように、金属製のホイール基部(A)における、繊維強化樹脂製のディスク補強部材(B)との被接着面に陽極酸化被膜(D)が形成された構成を採用することで、接着箇所における耐食性を向上させている(本願出願時明細書の段落0024等を参照)。これにより、本願請求項1発明によれば、ホイール基部(A)とディスク補強部材(B)との接着箇所において、上記のような電食による腐食が生じるのを防止することが可能になるという、従来に無い優れた効果が得られる。」と主張する。
しかしながら、「ディスク補強部材」の材質に関し、本願の請求項1には単に「繊維強化樹脂」とだけ特定されており、それがホイール基部との間で電食を生じさせないもの(例えば、繊維等が導電性を有さないもの)まで含んでおり、上記主張は本願の請求項1の記載に基づくものではない。
仮に、炭素繊維を用いたもの等そのままでは電食を生じさせ得るものであったとしても、引用発明も接着剤層による電食防止を考慮したもの(記載事項(1b)、(1e)参照。)であるところ、陽極酸化皮膜により一層の電食を防止することは、例えば、特開2002-302072号公報の段落【0034】に「アルミニウム表面に3?40μmの酸化皮膜を形成して、導電性を低下させることも、CFRP表面との電気腐食を防止する上で効果的である。具体的な処理としては、陽極酸化によるバリアー型被膜とポーラス型被膜が挙げられる。」と、同【0057】に「より一層電気腐食防止するために接着剤層の厚みは5?500μmであることが好ましい。接着剤層の厚みが5μm未満であると絶縁性が不足する場合があり、500μmより大きいと形材の強度が低下することがあるためである。」と記載されているように、従前周知のことであり、請求人が主張する電食防止の効果は、引用発明に陽極酸化被膜を適用した際の当業者にとって予測可能な効果にすぎない。

(ウ) まとめ
上記(イ)のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成29年12月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1〔補正前〕」の請求項1に記載されたとおりのものである。

第4 引用文献とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、その記載事項及び記載された発明並びに周知技術は、上記「第2 2(2)ア」及び上記「第2 2(2)イ(イ)」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から「前記接着剤(C)の厚みが0.2?2mmであり、」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)イ」で述べたとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該限定事項を有さない本願発明も、上記「第2 2(2)イ」で説示したとおりの理由により、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-26 
結審通知日 2019-05-07 
審決日 2019-05-23 
出願番号 特願2014-159489(P2014-159489)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
氏原 康宏
発明の名称 車両用ホイール  
代理人 大浪 一徳  
代理人 大浪 一徳  
代理人 伏見 俊介  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 伏見 俊介  
代理人 田▲崎▼ 聡  

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