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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
管理番号 1353067
審判番号 不服2017-11702  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-04 
確定日 2019-07-03 
事件の表示 特願2016-501038「磁気センサの動的校正」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日国際公開、WO2014/150241、平成28年 5月19日国内公表、特表2016-514272〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年3月10日を国際出願日とする出願であって、平成28年8月23日付けで拒絶理由が通知され、平成28年11月30日付けで手続補正がなされ、平成29年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年8月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、当審において平成30年4月18日付けで拒絶理由が通知され、平成30年7月24日付けで手続補正がなされ、平成30年8月23日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成30年11月28日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成30年11月28日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年11月28日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項10の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項10】
計算デバイスの磁気センサを動的に校正する方法であって、
磁気センサを介して計算デバイスのセンサデータを収集するステップと、
前記計算デバイスのシステム状態を決定するステップであって、前記システム状態は前記計算デバイスのさまざまな個々のコンポーネントのシステム状態の和であるステップと、
前記計算デバイスの磁気センサを、前記センサデータと前記計算デバイスのシステム状態とに基づいて動的に校正するステップとを有し、
前記磁気センサを動的に校正するステップは、前記計算デバイスの決定された前記システム状態の個々のシステム状態変化イベントに対応する校正オフセット値を決定するステップを有し、前記方法は、前記校正オフセット値を合計することにより、結合された校正オフセット値を決定し、前記結合された校正オフセット値を用いて、前記磁気センサの出力の値から前記結合された校正オフセット値を減算することにより、前記センサデータを含む前記磁気センサの出力を補正するステップを有し、
前記校正オフセット値は、補正された磁気センサの出力と、結合された校正オフセット値とに基づき継続的に又は定期的に更新される、
方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年7月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項10の記載は、次のとおりである。
「【請求項10】
計算デバイスの磁気センサを動的に校正する方法であって、
磁気センサを介して計算デバイスのセンサデータを収集するステップと、
前記計算デバイスのシステム状態を決定するステップであって、前記システム状態は前記計算デバイスのさまざまな個々のコンポーネントのシステム状態の和であるステップと、
前記計算デバイスの磁気センサを、前記センサデータと前記計算デバイスのシステム状態とに基づいて動的に校正するステップとを有し、
前記磁気センサを動的に校正するステップは、前記計算デバイスの決定された前記システム状態の個々のシステム状態変化イベントに対応する校正オフセット値を決定するステップを有し、 前記方法は、前記校正オフセット値を合計することにより、結合された校正オフセット値を決定し、前記結合された校正オフセット値を用いて、前記磁気センサの出力の値から前記結合された校正オフセット値を減算することにより、前記センサデータを含む前記磁気センサの出力を補正するステップを有する
方法。」

2 補正の適否
上記補正は、補正前の請求項10に記載された発明を特定するために必要な事項である「校正オフセット値」について、「前記校正オフセット値は、補正された磁気センサの出力と、結合された校正オフセット値とに基づき継続的に又は定期的に更新される」との限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項10に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記「1」(1)に記載したとおりのものである。

(2)実施可能要件について
本件補正発明に対応する発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているか否か検討する。

ア 本件補正発明は、「個々のシステム状態変化イベントに対応する校正オフセット値」について、「前記校正オフセット値は、補正された磁気センサの出力と、結合された校正オフセット値とに基づき継続的に又は定期的に更新される」ことを、発明特定事項としている。

イ これに対し、発明の詳細な説明には、上記発明特定事項に関して、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「【0030】
センサハブ328は、磁気センサ306を介して収集されたセンサデータと、計算デバイス300の現在のシステム状態とに基づき、磁気センサ306を動的に校正するように構成されてもよい。さまざまな実施形態では、センサハブ328は、さらに図4を参照して説明するように、記憶されたバイアスバッファ330内に記憶された校正オフセット値を用いて、かかる動的校正手順を行う。また、センサハブ328は、図4を参照してさらに説明するように、磁気センサやシステム状態バッファ332に基づき、記憶されたバイアスバッファ330内の校正オフセット値を継続的に又は定期的に更新してもよい。」

「【0038】

さまざまな実施形態では、補正磁気センサ出力414は、計算デバイス300に実行されるいくつのアプリケーションにでも、計算デバイス300の周囲磁場416として提供できる。また、さまざまな実施形態では、補正磁気センサ出力414及び結合された校正オフセット値410は、磁気センサ・システム状態バッファ332に提供され得る。磁気センサ・システム状態バッファ332は、記憶されたバイアスバッファ330の校正オフセットテーブル406内の校正オフセット値を更新するために用い得る。具体的に、磁気センサ・システム状態バッファ332は、過去の補正磁気センサ出力と、対応する結合された校正オフセット値とをリストするテーブル418を含んでいてもよい。さまざまな実施形態では、テーブル418は、現在の補正磁気センサ出力414と現在の結合された校正オフセット値410で継続的に更新され得る。
【0039】
さまざまな実施形態では、現在の補正磁気センサ出力414と現在の結合校正オフセット値410は、及び更新されたテーブル418に関する情報は、動的磁気センサ校正モジュール420に送られ得る。動的磁気センサ校正モジュール420は、次いで、記憶されたバイアスバッファ330の校正オフセットテーブル406内の校正オフセット値のリアルタイム更新を介して、計算デバイス300の磁気センサ306を動的に校正できる。具体的に、現在の補正磁気センサ出力414と現在の結合校正オフセット値410とは既存の校正オフセット値と比較され、対応するシステム状態変化イベントのいずれかの銃剣(当審注:「条件」の誤記と認められる。以下、「条件」と記す)が変化したことをデータが示す場合、既存の校正オフセット値は記憶されたバイアスバッファ330の校正オフセットテーブル406において変更又は置換され得る。」

「【0046】
さまざまな実施形態では、システム状態変化イベントの校正オフセット値は、計算デバイスのブートアップシーケンスの間に決定され得る。さらに、校正オフセット値は、リアルタイムで更新され、これは現在の補正磁気センサ出力と現在の結合校正オフセット値とを既存の校正オフセット値と比較して、対応するシステム状態変化イベントの状態が変化したことをデータが示す場合、既存の校正オフセット値を変更又は置換することにより行うことができる。」(平成29年8月4日付け手続補正書参照。)

ウ しかし、図4、及び発明の詳細な説明における上記記載をみても、
(ア)「対応するシステム状態変化イベントのいずれかの条件が変化したこと」を「データが示す場合」(段落【0039】)とは、具体的には、何のデータがどのようなことを示す場合に、システム状態変化イベントの「条件が変化した」とするのか不明である。

(イ)上記(ア)のように「対応するシステム状態変化イベントのいずれかの条件が変化した」場合に、「動的磁気センサ校正モジュール420」は、「テーブル418」に「リスト」された「現在の補正磁気センサ出力414と現在の結合校正オフセット値410」及び「過去の補正磁気センサ出力と、対応する結合された校正オフセット値」に基づいて、一体どのようなアルゴリズムや数式によって、(個々のシステム状態変化イベントに対応する)更新された「校正オフセット値」を求め、「バイアスバッファ330の校正オフセットテーブル406内の校正オフセット値のリアルタイム更新」し、「既存の校正オフセット値を変更又は置換する」のか、不明である。

エ 従って、発明の詳細な説明には、本件補正発明における発明特定事項である、「個々のシステム状態変化イベントに対応する校正オフセット値」について「前記校正オフセット値は、補正された磁気センサの出力と、結合された校正オフセット値とに基づき継続的に又は定期的に更新される」ことをどのように実施すればよいか、明確かつ十分に記載されているものと認めることはできない。

オ よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

カ 以上のとおり、本件補正発明に対応する発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのまとめ
上記「2」(2)のとおり、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年11月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-19に係る発明は、平成30年7月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。再掲すれば、次のとおり。
「【請求項10】
計算デバイスの磁気センサを動的に校正する方法であって、
磁気センサを介して計算デバイスのセンサデータを収集するステップと、
前記計算デバイスのシステム状態を決定するステップであって、前記システム状態は前記計算デバイスのさまざまな個々のコンポーネントのシステム状態の和であるステップと、
前記計算デバイスの磁気センサを、前記センサデータと前記計算デバイスのシステム状態とに基づいて動的に校正するステップとを有し、
前記磁気センサを動的に校正するステップは、前記計算デバイスの決定された前記システム状態の個々のシステム状態変化イベントに対応する校正オフセット値を決定するステップを有し、 前記方法は、前記校正オフセット値を合計することにより、結合された校正オフセット値を決定し、前記結合された校正オフセット値を用いて、前記磁気センサの出力の値から前記結合された校正オフセット値を減算することにより、前記センサデータを含む前記磁気センサの出力を補正するステップを有する
方法。」

第4 当審拒絶理由の概要
当審において平成30年8月23日付けで通知した最後の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
「 (最後の拒絶理由)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-19
・引用文献1

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2005-291934号公報」

第5 最後の拒絶理由に対する当審の判断
1 引用文献1、引用発明等
特開2005-291934号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、地理的方位を測定するための地磁気センサを備えた携帯電話機等の携帯通信端末と、その地磁気センサの誤差補正方法に関するものである。」

「【0008】
一方、地磁気センサの検出値には、携帯電話機内の部品によって発生する静的な磁界の誤差(オフセット誤差)が含まれる。このオフセット誤差は、例えば、磁気を帯びた物の上に携帯電話機を置いた場合などにおいても変化するため、ナビゲーション機能の利用中に定期的に補正を行う必要がある。」

「【0022】
以下、ナビゲーション機能や撮像機能を有する多機能型の携帯電話機に本発明を適用した場合の一実施形態について、図面を参照しながら述べる。」

「【0035】
図6は、本発明の実施形態に係る携帯電話機100の構成例を示すブロック図である。
図6に例示する携帯電話機100は、無線通信部150と、GPS信号受信部151と、記憶部152と、開閉判定部153と、キー入力部154と、表示部155と、音声入出力部156と、撮像部157と、地磁気センサ158と、メモリカード部159と、制御部160とを有する。
無線通信部150は、本発明の無線通信手段の一実施形態である。
GPS信号受信部151は、本発明のGPS信号受信手段の一実施形態である。
GPS信号受信部151および無線通信部150は、本発明の位置情報取得手段の一実施形態である。
開閉判定部153は、本発明の作動状態判定手段の一実施形態である。
表示部155は、本発明の表示手段の一実施形態である。
地磁気センサ158は、本発明の地磁気センサの一実施形態である。
メモリカード部159は、本発明の記憶媒体装着手段の一実施形態である。
制御部160は、本発明の制御手段の一実施形態である。」

「【0038】
記憶部152は、制御部160において実行されるプログラムや、制御部160の処理で用いられる定数データ、一時的に記憶が必要な変数データ、撮像画像データなどを記憶する。」

「【0044】
地磁気センサ158は、方位の算出に用いる地磁気を検出する。
例えば図5に示すように、地磁気センサ158は、メイン基板37上の固定された位置において、互いに直交する3つの方向の地磁気を検出する。すなわち、メイン基板37上に設定された所定の3軸の座標系を基準として、その各軸方向の地磁気を検出する。地磁気の検出には、例えばコイルの励磁を利用する方法や、ホール効果を利用する方法、磁気抵抗素子を利用する方法など、種々の方法が用いられる。
【0045】
本実施形態では、一例として、地磁気センサ158がアナログ-デジタル変換器を搭載しており、上述のような方法で得られる地磁気のアナログ信号を8ビットのデジタル信号に変換して出力するものとする。すなわち、3方向の地磁気の検出値を、それぞれ‘0’から‘255’までの整数値として出力するものとする。
【0046】
制御部160は、記憶部152に格納されるプログラムに基づいて処理を実行するコンピュータを有しており、携帯電話機100の全体的な動作に関わる種々の処理を行う。」

「【0047】
また、制御部160は、ナビゲーション機能に関連する処理として、地磁気センサ158の検出値に基づいて地理的方位を算出する処理や、GPS信号受信部151で受信したGPS信号の情報をGPSサーバ装置401に送信して現在地の位置情報を取得する処理、この位置情報をナビゲーションサーバ装置402に送信して現在地周辺の地図の情報を取得する処理、基地局300からの測位用信号と方位の算出結果とに基づいて現在地を割り出す処理、方位の算出結果に応じて表示部155の表示画面上における地図の向きを制御する処理(ヘディングアップ表示処理)などを行う。」

「【0077】
図12は、携帯電話機100における方位算出処理の第1の例を図解したフローチャートである。
【0078】
キー入力部154におけるキー入力操作等によってナビゲーション処理の開始が選択されると(ステップST202)、制御部160は、所定のイベントが発生しているか否かを調べる(ステップST204)。
【0079】
ここで所定のイベントとは、表示部155において方位の情報(ヘディングアップ表示の地図や方位を示すコンパスなど)を表示しているときに、携帯電話機100内の回路や処理系において、地磁気センサ158の検出値に変化を生じさせるような磁界を発生させるイベントである。
この所定のイベントは、例えば、図8のステップST146においてナビゲーションサーバ装置402から地図を取得する場合や、着信処理、メール受信処理を行う場合などにおいて、無線通信部150を動作させるイベントを含む。
また、キー入力操作、方位の情報の変化、地図の表示の更新などに応じて表示部155における表示輝度を変化させるイベントや、音声処理部156を動作させてスピーカから音声を出力させるイベントなどを含んでも良い。
表示部155がLCDパネルを有する場合は、例えば、LCDバックライトとしての光源をオンオフさせたり、光源の発光強度を変化させるイベントを含んでも良い。
【0080】
このような所定のイベントの発生を検知すると、制御部160は、検知したイベントに対応して予め用意された地磁気検出値の補正用データを記憶部152から読み出して、現在使用中の補正用データを変更する。
【0081】
図13は、補正用データの一例を示す図である。
図13の例において、補正用データは、地磁気センサ158の3方向(X軸、Y軸、Z軸)の検出値に対応する3つの補正値によって構成される。例えば、無線通信部150を動作させる通信処理が実行される場合、制御部160は、X軸、Y軸、Z軸の地磁気検出値に対応する‘-1’,‘0’,‘-1’の補正値を記憶部152から読み出す。
記憶部152は、例えばこのような補正用データを、複数のイベントにそれぞれ対応付けて記憶する。補正用データの各補正値は、例えば、それぞれのイベントが発生している場合と発生していない場合とにおける地磁気検出値の変動量を予め測定することにより決定される。
【0082】
制御部160は、記憶部152から読み出した補正用データに基づいて、地磁気センサ158の検出値を補正する(ステップST208)。すなわち、地磁気センサの3方向の検出値に、補正用データの対応する補正値をそれぞれ加算する。そして、この補正後の地磁気検出値を用いて、上述した算出方法により、方位を算出する(ステップST210)。
制御部160は、ナビゲーション処理が実行されている間、上述したステップST204?ST210の処理を繰り返す(ステップST212)。
【0083】
なお、ステップST204において複数のイベントの発生を検知した場合、制御部160は、検知したイベントに対応する補正用データの補正値を3方向の地磁気検出値にそれぞれ加算する。
例えば、図13の例において、通信処理と音声出力処理とが共に発生している場合、X軸の補正値は‘-1’+‘-1’=‘-2’、Y軸の補正値は‘0’+‘0’=‘0’、Z軸の補正値は‘-1’+‘0’=‘-1’になる。
【0084】
また、ステップST204においてあるイベントの終了を検知した場合、制御部160は、終了したイベントに対応する補正用データの補正値を、現在の値から減算する。
例えば、現在のX軸、Y軸、Z軸の補正値が‘-2’、‘-1’、‘1’の状態で図13に示す通信処理が終了した場合、X軸の補正値は‘-2’-‘-1’=‘-1’、Y軸の補正値は‘-1’-‘0’=‘-1’、Z軸の補正値は‘1’-‘-1’=‘2’に変更される。
【0085】
以上のように、図12に示す方位算出処理の第1の例によれば、方位の情報を表示部155に表示させているときに、携帯電話機100内部の磁界を変動させる所定のイベントの発生(イベントの終了を含む)が制御部160によって監視され、該所定イベントの発生が検知された場合に、方位の情報が補正される。
したがって、イベントの発生によって地磁気センサ158の検出値が変動し、表示部155に表示される方位の情報の精度が低下しても、イベントの発生を検知して方位の情報を補正することにより、方位の情報の精度を回復させることができる。
また、イベントごとに予め決定されて記憶部152に記憶される補正用データを用いて方位の情報の補正が行われるため、発生するイベント毎に精度良く方位の情報を補正することができる。」

「【0120】
次に、オフセット誤差補正処理について述べる。
【0121】
オフセット誤差補正処理は、携帯電話機100内部の磁界発生源によって生じる定常的な地磁気検出値の誤差を補正するための処理である。
携帯電話機100内部で発生する静的な磁界は、携帯電話機100を向ける方位に依らない定常的な誤差を地磁気センサ158の検出値にもたらす。これに対し、地磁気自体の検出値は、携帯電話機100を向ける方位に応じて変化する。したがって、例えば携帯電話機100を回転させながら地磁気の検出を行い、携帯電話機100の回転に応じた地磁気のベクトルの軌跡を求めることによって、地磁気センサ158の検出値に含まれるオフセット誤差を容易に算出することできる。
【0122】
制御部160は、例えばナビゲーション処理を開始する際、ユーザに対して携帯電話機100を回転するように促す指示を表示部155に表示させる。ユーザがこの指示に従って携帯電話機100を回転させると、制御部160は、回転の途中で地磁気センサ158の検出値を複数取得する。そして、取得した地磁気検出値のベクトル軌跡からオフセット誤差を算出して、地磁気センサ158の検出値から差し引く。これにより、オフセット誤差が補正された地磁気検出値が得られる。
制御部160は、上述のようなオフセット誤差補正処理によって算出されるオフセット誤差を、オフセット誤差補正用データとして制御部160の所定のレジスタに格納する。
【0123】
また、制御部160は、ナビゲーション処理を実行している間にも、例えば一定時間毎に、上述したオフセット誤差補正処理を行う。」

「【0191】
ここまで、本発明の好ましい実施形態について述べてきたが、本発明は上述した形態にのみ限定されるものではなく、種々のバリエーションを含む。
【0192】
上述の実施形態では、方位算出処理として第1?第6の例、オフセット誤差補正処理として第1?第3の例、外部磁場の影響により地磁気検出値に誤差が生じる場合の処理として第1?第8の例を示したが、本発明の実施形態には、これらの処理例の少なくとも一部を任意に組み合わせた形態が含まれる。
【0193】
上述の実施形態では、地磁気センサ158において3方向の地磁気が検出される例を示したが、これに限らず、例えば2方向でも良い。」

「【0202】
上述の実施形態では、制御部160の処理がコンピュータによってプログラムに基づいて実行される例を示したが、これらの処理の少なくとも一部をコンピュータによらずにハードウェアで実行させることも可能である。
逆に、制御部160以外の他のユニットにおける少なくとも一部の処理を、制御部160のコンピュータにおいて実行させても良い。
【0203】
また、本発明の携帯通信端末は携帯電話機に限定されない。例えば、PDA(personal digital assistants)など、通信機能を有する携帯型の端末装置に本発明は広く適用可能である。」

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「地磁気センサを備えた携帯通信端末と、その地磁気センサの誤差補正方法(段落【0001】より。以下、同様。)であって、
携帯電話機100は、無線通信部150と、GPS信号受信部151と、記憶部152と、開閉判定部153と、キー入力部154と、表示部155と、音声入出力部156と、地磁気センサ158と、メモリカード部159と、制御部160とを有し(【0035】)、
記憶部152は、制御部160において実行されるプログラムや、制御部160の処理で用いられる定数データ、一時的に記憶が必要な変数データなどを記憶し(【0038】)、
地磁気センサ158は、地磁気を検出し、地磁気のアナログ信号をデジタル信号に変換して出力し(【0044】、【0045】)、
制御部160は、記憶部152に格納されるプログラムに基づいて処理を実行するコンピュータを有しており(【0046】)、
所定のイベントの発生(イベントの終了を含む)が制御部160によって監視され(【0085】)、制御部160は、所定のイベントが発生しているか否かを調べ(ステップST204)(【0078】)、
このような所定のイベントの発生を検知すると、制御部160は、検知したイベントに対応して予め用意された地磁気検出値の補正用データを記憶部152から読み出して、現在使用中の補正用データを変更し(【0080】)、
補正用データは、地磁気センサ158の検出値に対応する補正値によって構成され、
記憶部152は、このような補正用データを、複数のイベントにそれぞれ対応付けて記憶し(【0081】)、
制御部160は、記憶部152から読み出した補正用データに基づいて、地磁気センサ158の検出値を補正し(ステップST208)、すなわち、地磁気センサの検出値に、補正用データの対応する補正値を加算し(ステップST210)、制御部160は、上述したステップST204?ST210の処理を繰り返し(ステップST212)(【0082】)、
ステップST204において複数のイベントの発生を検知した場合、制御部160は、検知したイベントに対応する補正用データの補正値を地磁気検出値にそれぞれ加算し(【0083】)、
また、ステップST204においてあるイベントの終了を検知した場合、制御部160は、終了したイベントに対応する補正用データの補正値を、現在の値から減算する(【0084】)、
地磁気センサを備えた携帯通信端末と、その地磁気センサの誤差補正方法(【0001】)。」

2 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比・判断する。
ア 対比
(ア)引用発明における「携帯通信端末」は、引用文献1の段落【0203】に記載のとおり、「PDA(personal digital assistants)など、通信機能を有する携帯型の端末装置」も含むものであるから、本願発明における「計算デバイス」に相当する。

(イ)引用発明における「制御部160」が、「地磁気センサの誤差補正」に関する「ステップST204?ST210の処理を繰り返」すことは、地磁気センサの誤差補正がリアルタイムで行われていることを意味するから、本願発明における「計算デバイスの磁気センサを動的に校正する」ことに相当する。

(ウ)次に、引用発明における「地磁気センサ158」は、「地磁気を検出し、地磁気のアナログ信号をデジタル信号に変換して出力し」、「制御部160」は、「記憶部152から読み出した補正用データに基づいて、地磁気センサ158の検出値を補正し(ステップST208)」ているから、「制御部160」が、「地磁気センサ158」から「地磁気」の「デジタル信号」、つまりデータを収集していることは明らかである。
よって、引用発明において、「制御部160」が、「地磁気センサ158」から「地磁気」の「デジタル信号」、つまりデータを収集することが、本願発明における「磁気センサを介して計算デバイスのセンサデータを収集するステップ」に相当する。

(エ)引用発明における「イベント」とは、引用文献1の段落【0079】に記載されているように、「無線通信部150を動作させるイベント」、「表示部155における表示輝度を変化させるイベントや、音声処理部156を動作させてスピーカから音声を出力させるイベント」、「LCDバックライトとしての光源をオンオフさせたり、光源の発光強度を変化させるイベント」などであるから、「無線通信部150」の「動作」、「表示部155」の「輝度」、「音声処理部156」の「動作」、「LCDバックライト」の「オンオフ」や「発光強度」といった、「携帯通信端末」の個々のコンポーネントのシステム状態を変化させる「イベント」である。
よって、引用発明における個々の「イベント」の発生の有無は、「携帯通信端末」の個々のコンポーネントのシステム状態に対応するものであって、本願発明における「計算デバイスのさまざまな個々のコンポーネントのシステム状態」に相当するといえる。

(オ)上記「(エ)」を踏まえると、引用発明において、「制御部160」が「所定のイベントの発生(イベントの終了を含む)」を「監視」し、「所定のイベントが発生しているか否かを調べ(ステップST204)、このような所定のイベントの発生を検知する」処理を行ない、「ステップST204において複数のイベントの発生を検知し」たり、「また、ステップST204においてあるイベントの終了を検知」する処理が、本願発明における「前記計算デバイスのシステム状態を決定するステップであって、前記システム状態は前記計算デバイスのさまざまな個々のコンポーネントのシステム状態の和であるステップ」に相当するといえる。

(カ)引用発明における「制御部160」が、「検知したイベントに対応して予め用意された地磁気検出値の補正用データを記憶部152から読み出して、現在使用中の補正用データを変更し」、「地磁気センサの誤差補正」をし、「地磁気センサの誤差補正」に関する「ステップST204?ST210の処理を繰り返」すことが、本願発明における「前記計算デバイスの磁気センサを、前記センサデータと前記計算デバイスのシステム状態とに基づいて動的に校正するステップ」に相当する。

(キ)引用発明において、「制御部160」が「検知したイベントに対応して予め用意された地磁気検出値の補正用データを記憶部152から読み出」す際、その「検知したイベントに対応」する「補正用データ」を決定していることは明らかである。
よって、引用発明の「制御部160」が、「ステップST204?ST210の処理を繰り返」して「地磁気センサの誤差補正」を行うステップ(上記「(イ)」で述べたのと同様に、本願発明における「前記磁気センサを動的に校正するステップ」に相当する。)において、「検知したイベントに対応して予め用意された地磁気検出値の補正用データを記憶部152から読み出して現在使用中の補正用データを変更」する際、「検知したイベントに対応」する「補正用データ」を決定することが、本願発明における「前記磁気センサを動的に校正するステップは、前記計算デバイスの決定された前記システム状態の個々のシステム状態変化イベントに対応する校正オフセット値を決定するステップ」に相当するといえる。

(ク)引用発明における「制御部160」が、「記憶部152から読み出した補正用データに基づいて、地磁気センサ158の検出値を補正し(ステップST208)、すなわち、地磁気センサの検出値に、補正用データの対応する補正値を加算し(ステップST210)」、「ステップST204において複数のイベントの発生を検知した場合、制御部160は、検知したイベントに対応する補正用データの補正値を地磁気検出値にそれぞれ加算し」、また、「ステップST204においてあるイベントの終了を検知した場合、制御部160は、終了したイベントに対応する補正用データの補正値を、現在の値から減算する」ことと、本願発明における「前記校正オフセット値を合計することにより、結合された校正オフセット値を決定し、前記結合された校正オフセット値を用いて、前記磁気センサの出力の値から前記結合された校正オフセット値を減算することにより、前記センサデータを含む前記磁気センサの出力を補正するステップ」とは、「前記磁気センサの出力の値と、複数の前記校正オフセット値とを用いて、前記センサデータを含む前記磁気センサの出力を補正するステップ」の点で共通する。

(ケ)引用発明における、「地磁気センサの誤差補正方法」が、本願発明における「磁気センサの出力を補正するステップを有する方法」に相当する。

よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「計算デバイスの磁気センサを動的に校正する方法であって、
磁気センサを介して計算デバイスのセンサデータを収集するステップと、 前記計算デバイスのシステム状態を決定するステップであって、前記システム状態は前記計算デバイスのさまざまな個々のコンポーネントのシステム状態の和であるステップと、
前記計算デバイスの磁気センサを、前記センサデータと前記計算デバイスのシステム状態とに基づいて動的に校正するステップとを有し、
前記磁気センサを動的に校正するステップは、前記計算デバイスの決定された前記システム状態の個々のシステム状態変化イベントに対応する校正オフセット値を決定するステップを有し、
前記方法は、前記磁気センサの出力の値と、複数の前記校正オフセット値とを用いて、前記センサデータを含む前記磁気センサの出力を補正するステップを有する
方法。」

(相違点)
本願発明では、「前記校正オフセット値を合計することにより、結合された校正オフセット値を決定し、前記結合された校正オフセット値を用いて、前記磁気センサの出力の値から前記結合された校正オフセット値を減算することにより、前記センサデータを含む前記磁気センサの出力を補正する」のに対し、引用発明では、「複数のイベントの発生を検知した場合、制御部160は、検知したイベントに対応する補正用データの補正値を地磁気検出値にそれぞれ加算し」、「あるイベントの終了を検知した場合、制御部160は、終了したイベントに対応する補正用データの補正値を、現在の値から減算し」して、「地磁気センサの誤差補正」を行っている点。

(2)判断
上記相違点について検討すると、引用文献1の段落【0083】に「例えば、図13の例において、通信処理と音声出力処理とが共に発生している場合、X軸の補正値は‘-1’+‘-1’=‘-2’、Y軸の補正値は‘0’+‘0’=‘0’、Z軸の補正値は‘-1’+‘0’=‘-1’になる。」と記載されているとおり、補正値を「合計」して、1つの「補正用データ」の「補正値」とすることは周知の事項である。
また、補正値を「加算」することも、これと符号が反転している補正値を「減算」することも、共に周知の事項である。
よって、引用発明に上記周知の事項を適用し、引用発明において、「補正用データ」の「補正値」の符号を反転しておき、「複数のイベントの発生を検知した場合」や「あるイベントの終了を検知した場合」に、現在発生しているイベントに対応する補正用データの補正値を「合計」して、1つの「補正用データ」の「補正値」(本願発明における「結合された校正オフセット値」に相当する。)とし、地磁気センサの検出値に、前記「合計」された1つの「補正用データ」の「補正値」を「減算」して、地磁気センサの誤差補正を行い、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-01-24 
結審通知日 2019-01-29 
審決日 2019-02-18 
出願番号 特願2016-501038(P2016-501038)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G01R)
P 1 8・ 536- WZ (G01R)
P 1 8・ 121- WZ (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 仁之川瀬 正巳  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
清水 稔
発明の名称 磁気センサの動的校正  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
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