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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B24C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B24C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B24C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B24C |
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管理番号 | 1353111 |
異議申立番号 | 異議2018-700726 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-09-06 |
確定日 | 2019-05-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6289715号発明「金属線材連続処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6289715号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6289715号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6289715号の請求項1-4に係る特許についての出願は、平成29年7月4日に出願され、平成30年2月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年9月6日に特許異議申立人 杉浦健文(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年11月13日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年12月25日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、平成31年2月7日に意見書を提出した。 これを受けて、当審は平成31年2月25日付けで訂正拒絶理由を通知し、特許権者は平成31年3月28日に訂正請求書を対象とする手続補正書を提出するとともに、意見書を提出した。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、平成31年3月28日の手続補正により以下のアの訂正事項のみとされた。 ア 特許請求の範囲の請求項1に、「隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均を隣り合う前記ブラストガン同士の距離の平均で除算した単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の2倍以上となっていること」と記載されているのを、「前記金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度と見積もった場合に、隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均を隣り合う前記ブラストガン同士の距離の平均で除算した単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の2倍以上となっていること」に訂正する。(当審注:下線は訂正により加入された部分を指す。) 本件訂正請求は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 請求項1に係る訂正について 上記(1)の事項は、訂正前の請求項1に記載された「金属線材が単位距離走行する際の回転角度」に対して、係る回転角度の範囲を「30度?80度と見積もった場合」と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 次に、明細書の発明の詳細な説明には、「金属線材が単位距離走行する際の回転角度」として、【発明を実施するための形態】の【0040】に記載され、係る前提での各ブラストガンの配置例を、図11?16に図表として示し、図17に回転による影響の説明図として示している。よって、「金属線材が単位距離走行する際の回転角度」として「30度?80度と見積もった場合」とする発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1-4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線部は、訂正された箇所を示す。) 本件発明1 「巻かれた金属線材を前記金属線材の軸回りに螺旋状にねじれた状態に引き出して、このねじれに基づいて前記金属線材を前記軸回りに回転させながら当該金属線材の軸方向に沿って走行させ、 前記軸回りに回転しながら前記軸方向に沿って走行する前記金属線材に連続的に処理を施す金属線材連続処理装置であって、 ウェットブラストにより、走行する前記金属線材からスケールを除去するスケール除去部と、 スケールが除去されて走行する前記金属線材に皮膜を形成する皮膜形成部とを備え、 前記スケール除去部は、液体と研磨剤との混合液を走行している前記金属線材に圧縮気体で噴射するブラストガンを、走行する前記金属線材の周囲で前記軸方向に沿って螺旋状の配列を成して複数並べて配置し、 全ての前記ブラストガンからの前記混合液の噴射が終わる所定の前記金属線材の走行位置において、走行方向の最後となるブラストガンの噴射時における前記各ブラストガンの前記金属線材に対する噴射位置が前記ブラストガン配列全体として前記金属線材の軸回りに略全周に渡って略均等に分散するように、前記ブラストガンが前記軸方向から見て前記金属線材のねじれに伴って前記軸回りで不均等な噴射角度間隔を成して配置され、 前記軸方向に沿って複数並べて配置された前記ブラストガンの前記噴射角度を、前記金属線材の前記軸回りの回転の回転角度の増加に応じて、並び順に前記噴射角度が増えるように異ならせ、 前記金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度と見積もった場合に、隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均を隣り合う前記ブラストガン同士の距離の平均で除算した単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の2倍以上となっていることを特徴とする金属線材連続処理装置。」 本件発明2 「前記単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の10倍以下となっていることを特徴とする請求項1に記載の金属線材連続処理装置。」 本件発明3 「前記スケール除去部によるスケール除去の前に、引き出された前記金属線材に曲げを加えて機械的にスケールを剥離させるベンディング部と、 前記ベンディング部を通過した前記金属線材を矯正して直線化して前記スケール除去部に送り出す矯正部とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属線材連続処理装置。」 本件発明4 「前記スケール除去部を通過した前記金属線材を連続的に伸線する連続伸線部と、 前記金属線材の外周面に凹みを形成するインデント加工部と、 前記金属線材を真直加工する矯正加工部と、 前記金属線材を熱処理する加熱部とを備えることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の金属線材連続処理装置。」 4 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が平成30年11月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア (実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明で共通する発明特定事項は、次の[1]ないし[5]であるところ、明細書の発明の詳細な説明には本件特許発明の共通する発明特定事項をすべて満足する具体的な例示がなく、特許発明の効果の確からしさを示す検証実験も伴っていないことが明らかであるから、当業者が特許発明の実施を試みる際に、個々のブラストガンの噴射角度と設置間隔を決める指針が不足しているというべきであるから、発明の詳細な説明の記載が明確かつ十分であるとはいえない。 よって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 [1]走行する金属線材に対してウエットブラストガンを複数螺旋状に並べて配置すること。 [2]金属線材は軸周りに回転しながら走行すること。 [3]各ブラストガンの噴射角度は、軸周りで不均等間隔にされていること。不均等な噴射角度間隔とは、複数のブラストガン全体で見たとき、金属線材に対する噴射位置が略全周に渡って略均等に分散するように決められていること。 [4]複数のブラストガンの噴射角度は、金属線材の回転角度の増加に応じて、並び順に噴射角度が増えること。 [5]隣り合うブラストガン同士の噴射角度の差の平均を、ブラストガン同士の距離の平均で除した値は、単位距離当たりの金属線材回転角度の2倍より大きいこと。 イ (明確性) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、請求項1に記載された「前記ブラストガンが前記軸方向から見て(前記金属線材のねじれに伴って)前記軸回りで不均等な噴射角度間隔を成して配置」の事項が、金属線材の回転する割合に何らかの制限が課されるとの前提条件を伴わない状況を考えた場合、現実に固定設置される全ブラストガンの噴射角度を単に不均等にしただけでは、技術的な観点から見てなんら合理性が見いだせない事項の特定がなされているというべきであり、願望ないし目標に挙げた噴射の略均等との関係において、技術的見地から見て明瞭であるとは認められず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 ウ (サポート要件) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明で開示された事項が、特許請求の範囲の記載に合致しない関係にあることに加え、必要な前提条件の複数を削除し一般化された記載が本件の特許請求の範囲の記載には発生していることから、本件特許の各請求項の記載が、発明の詳細な説明に記載されているとは認められず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (2)当審の判断 ア (実施可能要件)特許法第36条第4項第1号について 本件の明細書の発明の詳細な説明及び添付図面には、【0007】-【0020】に示す解決しようとする課題及び解決手段に関する説明として、【0023】以降に説明がなされている。特に、課題が解決したことを示す図として【図17】が示され、課題を示す図とされた図10と比較すると、図10のプロットが、投射位置中心の数値が30°から180°にかけてプロットがない領域が見られ、投射が偏っているのに対し、図17では比較的すべての角度で均等にムラなくプロットがなされているさまが確認できる。 図17の結果は、金属線材が1mの単位距離を走行する際に該金属線材が回転する角度を、30°、40°、50°、60°、70°、80°である場合に、図11-16に示すとおりの位置と角度に投射ガン12機を配置することによってムラの無い投射を達成した例とされるので、本件の課題を解決できた例を1例示したことが理解できる。 特許請求の範囲の記載と、これら達成した実施例との関係が整合するかどうかを見てみる。 ブラストガンの配置について、請求項1では「走行方向の最後となるブラストガンの噴射時における前記各ブラストガンの前記金属線材に対する噴射位置が・・・前記軸方向から見て前記金属線材のねじれに伴って前記軸回りで不均等な噴射角度間隔を成して配置され」ている点、及び、「前記ブラストガンの前記噴射角度を、前記金属線材の前記軸回りの回転の回転角度の増加に応じて、並び順に前記噴射角度が増えるように異ならせ」については、図11の最下段のガンNo.1?12の間隔を見ると、+36°、+39°、+37°、+36°、+38°、+37°、+39°、+37°、+38°、+36°、+37°とされ、角度は常に増加方向にされつつ、不均等間隔であることが理解できる。また、図12?16の最下段の数値の変遷も同様に満足している。 次に、本件発明1の「前記金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度と見積もった場合に、隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均を隣り合う前記ブラストガン同士の距離の平均で除算した単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の2倍以上となっている」点についても検討すると、金属線材の軸回りの回転が、30°/mである図11の例では、噴射角度の差の平均は、上記列挙した11個の平均の37.27になり、隣り合うブラストガンの距離間隔平均は、図11の最終ガンまでの距離値2460mmを11で除算した223.6mm(mに換算すると0.2236m)であり、37.27/0.2236=166.68(°/m)≫30(°/m)*2となり、本件発明1の発明特定事項を満足している。 最後に、本件発明2の「前記単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の10倍以下となっている」点について検討すると、166.68(°/m)≪30(°/m)*10となり、やはり本件発明2の発明特定事項を満足している。 そして、本件発明3及び4は、いずれも各ブラストガンの配置と直接関係しない事項を追加的に特定したものであるから、同様に発明の詳細な説明に記載した実施例との間でなんら不整合を生じないものである。 よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1-4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 なお、平成30年11月13日付けで通知した取消理由1の説示は、請求項1に係る発明の発明特定事項の整理を上記[1]?[5]と整理した前提で、実施例での各ブラストガンの配置角度を[3]とした場合、配置されたブラストガンのうち、第2ブラストガン?第6ブラストガンの間隔が、全て42°である点が整合しないとしたものであるが、[3]の整理が、請求項1に記載された「走行方向の最後となるブラストガンの噴射時における前記各ブラストガンの前記金属線材に対する噴射位置が」との事項を入れておらず、図11?16の表の4段目の数値を採り上げたことによる不整合であって、当該事項を考慮した場合、採り上げる数値は最終段の「最終ガン投射時の各投射位置(°)」とするのが相当であった。上記検討は、数値の見直しを反映したものである。 イ (明確性)特許法第36条第6項第2号について 平成30年11月13日付けで通知した取消理由2の説示は、請求項1の記載には、金属線材のねじれの特定がなされていないことによる技術的見地上の不合理を指摘したものであるが、特許権者がした訂正請求により、指摘した金属線材のねじれが、上記2(1)アに示すとおり、「前記金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度と見積もった場合に」とする事項を加入する訂正を行ったため、当該不合理とする通知の不備は解消された。 よって、特許請求の範囲の記載が指摘の点で明瞭でないとする取消理由2はない。 ウ (サポート要件)特許法第36条第6項第1号について 平成30年11月13日付けで通知した取消理由3の説示は、課題を解決した実施例は、金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度とした場合の開示に留まり、かかる前提条件の特定が特許請求の範囲になされていないとするもの、及び、12台のブラストガンの噴射角度の設置例を、図11?16内の第3段に記載の「投射角度」とした場合、請求項1の発明特定事項である、「軸方向から見て前記金属線材のねじれに伴って前記軸回りで不均等な噴射角度間隔を成して配置され」たものではないとするもの、の2点を指摘したものである。 最初の指摘については、特許権者がした訂正請求により、指摘した金属線材のねじれが、上記2(1)アに示すとおり、「前記金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度と見積もった場合に」とする事項を加入する訂正を行ったため、当該指摘によるサポート要件欠如の不備は解消された。 また、2つ目の指摘については、上記アで示したとおり、特許請求の範囲に記載した発明特定事項に適う実施例の数値を見た場合、発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載とは相違しないことが確認できたので、当該不備も解消された。 よって、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす。 エ 申立人の意見について 申立人は、上記アないしウに係る当審で通知した取消理由に関し、特許異議申立書(以下、単に「申立書」ともいう。)にて以下の点を、また、平成31年2月7日に提出した意見書にて以下の点を各々主張する。 (申立書の主張) 申立書24?36ページの「(4-4)記載不備(実施可能要件違反、サポート要件違反および明確性違反)について」のところで述べた関係する主張は概略以下のとおり。(符号は申立書で用いられた符号を指す) (ア)「ねじれた状態」との請求項1の記載は、走行1m当たりの回転角度が30度?80度とした課題を達成した範囲を特定していない不備がある。 (意見書の主張) 本件特許の明細書に記載した実施例でのガンの数、投射角度、噴射角度間隔を同じとした条件で、最終ガンまでの距離とガン同士の距離を様々変更した3例(試行例1-1?1-3)と、最終ガンまでの距離とガン同士の距離を本件特許明細書の実施例と同じくし、各ガンの噴射角度をガン毎にばらばらにした3例(試行例2-1?2-3)とを示し、本件の図17の下段図と同じ噴射のばらつきを確認した結果を見たところ、“金属線材の軸回りに略全周に渡って略均等に分散する”を果たしていないから、本件は、発明の詳細な説明が、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 しかしながら、申立人の申立書で挙げた主張は、訂正により「前記金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度と見積もった場合に」が加入されたことによって、上記アないしウで示したとおり不備が解消したため、もはや記載不備によって本件特許を取り消すべきとはいえない。 また、申立人の意見書で挙げた主張は、根拠とした全ての試行例中に「走行方向の最後となるブラストガンの噴射時における前記各ブラストガンの前記金属線材に対する噴射位置」を表す数値が導入されておらず、噴射角度の差の数値が本件特許発明で指すものと相違した関係にあるから、試行例1-1?2-3の結果が不均等であることを示しても、本件特許が所望の効果を奏しない場合を含むとはいえない。 よって、本件請求項1-4に係る発明は、申立人が挙げた主張によっては当該発明に係る特許を取り消すべきとはいえない。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、 ア 本件特許発明1、2は、甲第1号証(特開2016-203192号公報)に実質記載されているから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであり、取り消されるべきものである。 イ 本件特許発明1、2は、甲第1号証に記載された発明、本件特許出願時の技術常識である甲第2号証(特開2003-275962号公報)および参考資料1(特開昭51-87155号公報)、2(「引抜き-棒線から管までのすべて-」、一般社団法人日本塑性加工学会、株式会社コロナ社、2017年5月26日初版第1刷発行、第83-84ページ)の記載に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。 本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明、本件特許出願時の技術常識である甲第2号証および参考資料1、2の記載、ならびに甲第3号証(特開昭48-101351号公報)に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。 本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明、本件特許出願時の技術常識である甲第2号証および参考資料1、2の記載、甲第3号証および甲第4号証(特開平5-69033号公報)に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、取り消されるべきものである。 ウ 請求項1の「略全周に渡って略均等に分散する」の記載は、明細書と図面の記載を参酌したとしても比較例との区別がつかないから明確でなく、実施可能要件も満たさない(申立書の(イ))、「前記ブラストガンが・・不均等な噴射角度を成して配置され」の記載は、何と何が均等でないのか不明であり、実施可能要件も満たさない(同じく(ウ))、請求項1の「隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均」は、文言通りの算出と、発明の詳細な説明に記載の算出とで値が相違しているため、明確でないし、実施可能要件も満たさない(同じく(エ))、本件特許の全請求項に係る発明は、ブラストガン同士の間隔の特定がなく、発明の詳細な説明には特殊なガン間隔以外の開示がないため、サポート要件を満たしていない(同じく(オ))、請求項1の「前記軸方向に沿って複数並べて配置された前記ブラストガンの前記噴射角度を、前記金属線材の前記軸回りの回転の回転角度の増加に応じて、並び順に前記噴射角度が増えるように異ならせ、」の記載は、2通りの解釈ができ、明確でない(同じく(カ))、本件特許発明1は、ブラストガンの噴射時の広がり角度と、金属線材からブラストガンまでの距離が特定されておらず、サポート要件違反である(同じく(キ))、本件実施例以外の試行例として2-1?2-3での効果を見たところ、その結果は金属線材の軸回りに略均等に分散された結果とならなかったので、発明の詳細な説明がその物を作れるように記載されているとは言えず、実施可能要件を満たさない(同じく(ク))。 旨を主張する。 しかしながら、上記ア?ウの主張は以下に示すとおり成り立たない。 (1) 特許法第29条第1項第3号(上記主張のア)について 申立人は、甲第1号証の図19及び【0024】に、金属線材Wを巻き出すサプライスタンド3と、サプライスタンド3から巻き出された金属線材Wに対してデスケーリングを行うデスケール部1と、デスケール部1により酸化スケールが除去された金属線材Wを巻き取る巻取装置5とを含む設備の記載があるとし、参考資料1に示すように一般的なサプライスタンドとされる二方式の一つは線材を回転させながら巻戻す方式であり、もう一つはデッドサプライ(固定サプライ)と呼ばれ、引き出された線材は1巻きにつき1回転(360度)の割合でねじれがかかることが参考資料1に記載のごとく明らかであり、図19の図示は参考資料2の表3.13の上取り式の固定サプライと解るから、これらの記載は請求項1の構成要件Aに相当し、甲第1号証の【0009】及び【0025】の記載は、請求項1の構成要件Bに相当し、甲第1号証の【0024】の記載は、請求項1の構成要件Cに相当し、甲第1号証の【0009】、【0057】の記載は、構成要件Dに相当するといえ、甲第1号証の図5の図示は、請求項1の構成要件E及びFに相当するといえ、甲第1号証の図5に示すノズル配置は、甲第2号証に示すノズル間隔や甲第1号証の【0056】に記載の線材の直径値と参考資料1に記載の巻取り釜径の関係を参考にした単位距離当たりの回転角度の算出値を勘案すれば、請求項1の構成要件G及びHを満たす蓋然性が高いとし、甲第1号証に記載の発明と本件特許発明1、2とは実質同一であるとしたものである。 ところが、甲第1号証に記載された、複数のガンそれぞれの配置に関する記載は、巻き出される金属線材Wが走行中に回転することを前提とされていない。また、様々なノズル8の配置を提示してはいるものの、【0045】に記載されているように、金属線材Wの表面を均一にデスケーリングするために選ばれた配置の態様は、ノズル8同士の間隔を等間隔とした場合に、各ノズル8の噴射領域が協働して金属線材Wの周方向360°全域を占めるように配置するとし、具体例として噴射領域が60°であれば周方向に60°の均等間隔で6本配置するとしているため、請求項1の各構成要件の特定事項に照らすと、明らかに構成要件Eの「金属線材のねじれに伴って前記軸回りで不均等な噴射角度間隔を成して配置され」を満足しない。 よって、申立人が申立書で主張する取消理由1は成立しない。 (2) 特許法第29条第2項(上記主張のイ)について 申立人は、本件特許発明1、2と、甲第1号証に記載された発明とは、構成要件Gにおける「隣り合う前記ブラストガン同士の距離」が甲第1号証では不明な点、また、結果として「隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均を隣り合う前記ブラストガン同士の距離の平均で除算した単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の2倍以上」について相違する点、ブラストガンが「金属線材のねじれに伴った不均等な噴射角度間隔を成して配置」されるとした点は相違するものの、ブラストガンの距離は甲第2号証に記載の投射領域の間隔を参照し200mmとする程度のことは当業者が適宜選択する事項と主張し、構成要件Gの大小関係については、当業者が通常実施している態様を数値的範囲で示したにすぎず、ねじれの方向に合わせてノズルを配置する程度のことは、当業者が通常実施することにすぎないと主張する。 しかしながら、上記(1)に示したとおり、甲第1号証は金属線材Wが走行中に回転することを前提しておらず、走行中の回転を加味したノズル配置を採用したことについて、甲第2号証や参考資料1、2はいずれもなんら記載されていないのであるから、ねじれの方向に合わせてノズルを配置することが、当業者が通常実施することであるという証拠が見当たらない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1、2を、申立人が主張するように当業者が容易に発明できたとすることができない。 また、本件特許発明1、2の進歩性欠如が成り立たない以上、これらを引用する請求項3、4に係る発明に対する進歩性欠如との申し立て理由が成り立たないのは同様である。 (3) 特許法第36条第4項第1号、同条第6項第2号、同条第6項第1号(上記主張のウ)について 申立書の符号ごとに示す。 (イ)請求項1の「略全周に渡って略均等に分散する」との記載は、それ自体で、およそ全周に渡っておよそ均等に分散するという内容を把握でき、明確である。また、明細書中に略全周、略均等を定義したところはなく、定義上の矛盾はない。また、略均等の確認は、比較例である図10と実施例である図17のグラフを、同じマーク種(◆、●、■、×等)同士で縦軸に沿う向きにプロットが0°?360°の範囲にどのように分散しているか、違いが確認できれば、略均等が指す程度を確認できると理解できる。そして、実施例を示した図17のプロットは、図10に比してより全域に塩梅よく散らばっていることが見てとれるため、申立人が申立書で「本件特許発明1は比較例との区別がつかず」とした事実はなんら認められないから、申立人の係る主張は、明確性欠如が成り立たない。また、本件の特許明細書の記載が実施可能要件を満たさないとするもう一つの申し立て理由も当然に成り立たない。 なお、申立人がいう、図10の30度の場合と、80度の場合を比較したときに、30度の方が均等に分散しているように見えることは、特許発明の実施例である図17と比べて判明する状態に該当しないため、明確性欠如を形成するものではなく、比較例の図10内で、試験してもいない10度や20度の場合を想定することが、明確性欠如を考えた場合何の根拠にもならないのは当然のことである。 (ウ)請求項1の「前記ブラストガンが・・不均等な噴射角度を成して配置され」との記載は、「前記」にて「走行する前記金属線材の周囲で前記軸方向に沿って螺旋状の配列を成して複数並べて配置」されたことを指すことを勘案すると、並べられた複数のブラストガン同士がなす噴射角度を意味することが前記された文言から十分理解できるので、当該記載は明確である。よって、本件明細書を参酌するまでもなく、申立人の主張は成り立たない。 (エ)申立人は、請求項1の構成要件G、Hに記載された「隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均」は文言通りに解されるとしつつ、これに対応する本件明細書の【0040】の記載では、例示された数値が、実施例で採用されている12機のブラストガンの配置から算出された数値でなく、ブラストガン同士の距離の平均で例示した数値も、同様に12機のブラストガンから算出された数値でないから、請求項1の算出と明細書に記載の算出とが矛盾することを理由に、請求項1の記載を不明確とし、かつ、発明の詳細な説明の記載も実施可能要件を満たさないと主張している。 そこで、特に発明の詳細な説明を検討してみたが、申立人が主張で挙げた【0040】の例示した2箇所の数値は、いずれも括弧書きを付しつつ、「例えば、42.5度」、「例えば、172mm」とされており、どの部分の数値をどのように計算したのかは当該段落からは直ちに窺い知れない。それ以前の説明も見てみたが、例示された数値と同じ数値の記述は無く、わずかに【0038】に「言い換えれば、前半と、後半とでそれぞれ6個のブラストガン31を略45度間隔(実際には42?43度程度)で配置し」とした記述が、上述の括弧書きでの例示の1つ目に近く、【0033】に「また、各ブラストガン31は、前半の6つと・・・隣り合うブラストガン31同士の間隔が例えば160?180mmであり、・・・160?200mmであり、・・・」とした記述が、同じく括弧書きの例示の2つ目に近いとは言える。 しかしながら、かかる記載箇所すべてを見渡しても、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲で特定された算出規則と確実に異なることを示す記載は見当たらない。よって、申立人が挙げた2つの例示された数値の記載のみをもって、発明の詳細な説明で、特許請求の範囲の特定事項と異なる算出規則が開示されているということはできないし、上記「(2)当審の判断」のアで試算したとおり、実施例として発明の詳細な説明及び図面に記載ないし図示された12機のブラストガンの配置は、請求項1の構成要件G、Hで特定された事項を満足することも確認できるため、申立人が主張する請求項1の記載が不明確であるとか、発明の詳細な説明の記載も実施可能要件を満たさないなどということはできない。 (オ)申立人は、ブラストガンの配置についての開示が1例しかないことをもって、課題を達成できない範囲を含んでいると主張しているが、課題が達成できない例示を伴った主張となっていないため、憶測の域を出ない主張と認められるから、かかる主張のみをもって本件特許発明がサポート用件を満たしていないとすることはできない。 (カ)申立人は、文言解釈ではブラストガンの配置噴射角度を増加させるとした解釈(申立書30ページ(カ)(I))と、ブラストガンの配置噴射角度“間隔”を増加させるとした別解釈(同上の(II))の2通りができると主張しているが、本件の請求項1の構成要件Fの箇所の記載は、「噴射角度が増えるように」と記載されているのであるから、噴射角度間隔が増えるように、との解釈が許されることはない。 よって、申立人の当該主張は別様の解釈が働く余地がありえず、成り立たない。 (キ)申立人は、本件明細書の【0007】および【0008】の記載から、本件発明の課題をスケールの残存をなくすことであるとし、スケール残存の程度は、噴射位置に加え、ブラストガンから噴射される混合液の噴射時の広がり角度と、金属線材からブラストガンまでの距離にも影響を受けるとの考えを示し、本件の特許請求の範囲には「ブラストガンから噴射される混合液の噴射時の広がり角度」および「金属線材からブラストガンまでの距離」の特定が必要であるにもかかわらず、記載されていないことをもって、サポート要件を満たしていないとするものであるが、本件明細書の【0007】-【0008】の記載では、スケール残存の程度を直接示唆する記載は全くなく、スケールがまだらに残る虞があることへの原因は、金属線材の軸回りの回転にあるとしている。 とすれば、これら【0007】-【0008】の記載から認識される課題は、金属線材の周方向にまだらにスケールが残存する可能性があると認識すべきであり、スケールが除去された箇所もあるとの認識が働く。部分的にスケールの除去が働く状況下で、申立人が考慮している広がり角度やガン-金属線材間距離の設定は、適切になされていない可能性は皆無であるから、申立人の当該主張は、前提の認識において誤っているというほかない。 よって、申立人の当該主張は、成り立たない。 (ク)申立人は、試行例2-1?2-3を示しつつ、金属線材の略全周に渡って略均等な分散が果たせなかったとしているが、どの試行例を見ても、最終ガン投射時の各投射位置の角度値が示されていないため、本件の請求項1にて特定した「全ての前記ブラストガンからの前記混合液の噴射が終わる所定の前記金属線材の走行位置において、走行方向の最後となるブラストガンの噴射時における前記各ブラストガンの前記金属線材に対する噴射位置」に対して、「前記ブラストガンが前記軸方向から見て前記金属線材のねじれに伴って前記軸回りで不均等な噴射角度間隔を成して配置」するとした事項でありかつ、「隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均を隣り合う前記ブラストガン同士の距離の平均で除算した単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の2倍以上となっている」を満たす試行であるかの立証が、申立書で示されていない。 そうすると、かかる試行例で所望の効果を奏さなかったことをもって、直ちに本件の請求項1ないし4にかかる発明が、実施可能要件を満たさないとはいえない。 したがって、申立人のかかる主張は、いずれも採用することができない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1-4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 巻かれた金属線材を前記金属線材の軸回りに螺旋状にねじれた状態に引き出して、このねじれに基づいて前記金属線材を前記軸回りに回転させながら当該金属線材の軸方向に沿って走行させ、 前記軸回りに回転しながら前記軸方向に沿って走行する前記金属線材に連続的に処理を施す金属線材連続処理装置であって、 ウェットブラストにより、走行する前記金属線材からスケールを除去するスケール除去部と、 スケールが除去されて走行する前記金属線材に皮膜を形成する皮膜形成部とを備え、 前記スケール除去部は、液体と研磨剤との混合液を走行している前記金属線材に圧縮気体で噴射するブラストガンを、走行する前記金属線材の周囲で前記軸方向に沿って螺旋状の配列を成して複数並べて配置し、 全ての前記ブラストガンからの前記混合液の噴射が終わる所定の前記金属線材の走行位置において、走行方向の最後となるブラストガンの噴射時における前記各ブラストガンの前記金属線材に対する噴射位置が前記ブラストガン配列全体として前記金属線材の軸回りに略全周に渡って略均等に分散するように、前記ブラストガンが前記軸方向から見て前記金属線材のねじれに伴って前記軸回りで不均等な噴射角度間隔を成して配置され、 前記軸方向に沿って複数並べて配置された前記ブラストガンの前記噴射角度を、前記金属線材の前記軸回りの回転の回転角度の増加に応じて、並び順に前記噴射角度が増えるように異ならせ、 前記金属線材が単位距離走行する際の回転角度を30度?80度と見積もった場合に、隣り合う前記ブラストガン同士の前記噴射角度の差の平均を隣り合う前記ブラストガン同士の距離の平均で除算した単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の2倍以上となっていることを特徴とする金属線材連続処理装置。 【請求項2】 前記単位距離当たりの噴射角度差の値が走行する前記金属線材の単位走行距離当たりの前記軸回りの回転角度の10倍以下となっていることを特徴とする請求項1に記載の金属線材連続処理装置。 【請求項3】 前記スケール除去部によるスケール除去の前に、引き出された前記金属線材に曲げを加えて機械的にスケールを剥離させるベンディング部と、 前記ベンディング部を通過した前記金属線材を矯正して直線化して前記スケール除去部に送り出す矯正部とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属線材連続処理装置。 【請求項4】 前記スケール除去部を通過した前記金属線材を連続的に伸線する連続伸線部と、 前記金属線材の外周面に凹みを形成するインデント加工部と、 前記金属線材を真直加工する矯正加工部と、 前記金属線材を熱処理する加熱部とを備えることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の金属線材連続処理装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-04-23 |
出願番号 | 特願2017-131303(P2017-131303) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B24C)
P 1 651・ 113- YAA (B24C) P 1 651・ 121- YAA (B24C) P 1 651・ 536- YAA (B24C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池ノ谷 秀行 |
特許庁審判長 |
平岩 正一 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 西村 泰英 |
登録日 | 2018-02-16 |
登録番号 | 特許第6289715号(P6289715) |
権利者 | 日鉄住金SGワイヤ株式会社 |
発明の名称 | 金属線材連続処理装置 |
代理人 | 新田 修博 |
代理人 | 栗林 三男 |
代理人 | 新田 修博 |
代理人 | 栗林 三男 |
代理人 | 栗林 和輝 |
代理人 | 栗林 和輝 |