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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01T
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01T
管理番号 1353113
異議申立番号 異議2018-700689  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-17 
確定日 2019-05-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6286606号発明「画像処理プログラム、画像処理装置、および画像処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6286606号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕、10、11、12、13について訂正することを認める。 特許第6286606号の請求項4ないし6、8、9、11、13に係る特許を維持する。 特許第6286606号の請求項1ないし3、7、10、12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6286606号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成29年9月14日に出願され、平成30年2月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年8月17日に特許異議申立人 山下 仁美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年11月22日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年1月24日に訂正請求を行い、同月25日に意見書を提出し、その訂正請求に対して、申立人は、平成31年3月25日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(7)のとおりである。(下線は、訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1?3、7、10及び12
特許請求の範囲の請求項1?3、7、10及び12を削除する。

(2)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を実行させる請求項3に記載の画像処理プログラム。」
と記載されているのを、独立形式に改め、
「三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求めるステップと、
を実行させ、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を実行させる画像処理プログラム。」
に、訂正する。
そして、請求項4に係る発明を直接的又は間接的に引用する請求項5、6及び9も同様に訂正する。

(3)訂正事項5及び6
特許請求の範囲の請求項5及び6に、「請求項1乃至4のいずれか」と記載されているのを、「請求項4」に訂正する。

(4)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「三次元核医学画像の画像処理を行うためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
2つ以上の異なる断面画像を並べて表示し、表示された断面画像上に前記骨転移領域を表示するステップと、
を実行させる画像処理プログラム。」
と記載されているのを、
「三次元核医学画像の画像処理を行うためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
2つ以上の異なる断面画像を並べて表示し、表示された断面画像上に前記骨転移領域を表示するステップと、
を実行させ、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を実行させる画像処理プログラム。」
に訂正する。
そして、請求項8に係る発明を直接的に引用する請求項9も同様に訂正する。

(5)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1乃至8のいずれか」と記載されているのを、「請求項4乃至6、及び8のいずれか」に訂正する。

(6)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11に、
「被験者の三次元核医学画像のデータを入力する画像データ入力部と、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出する骨領域抽出部と、
前記骨領域の画素値を正規化する正規化部と、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求める骨転移領域抽出部と、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求める指標値計算部と、
を備える画像処理装置。」
と記載されているのを、
「被験者の三次元核医学画像のデータを入力する画像データ入力部と、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出する骨領域抽出部であって、前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定し、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出し、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出する骨領域抽出部と、
前記骨領域の画素値を正規化する正規化部と、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求める骨転移領域抽出部と、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求める指標値計算部と、
を備える画像処理装置。」
に訂正する。

(7)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13に、
「三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるための方法であって、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求めるステップと、
を備える画像処理方法。」
と記載されているのを、
「三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるための方法であって、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求めるステップと、
を備え、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を備える画像処理方法。」
と訂正する。

2 一群の請求項について
訂正前の請求項9は、訂正前の請求項1?8を引用するから、訂正前の請求項1?9は一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?9に係る訂正請求は、一群の請求項〔1-9〕に対して請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1?3、7、10及び12に係る訂正について
訂正事項1?3、7、10及び12による請求項1?3、7、10及び12に係る訂正は、請求項1?3、7、10及び12を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項4に係る訂正について
訂正事項4による請求項4に係る訂正は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項3の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項3の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とし、訂正事項4は何ら実質的な内容の変更を伴うものでないから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項8、11及び13に係る訂正について
訂正事項8による請求項8に係る訂正は、訂正前の請求項8の「骨領域を抽出するステップ」が、「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、を実行させる」ステップであると、訂正事項11による請求項11に係る訂正は、訂正前の請求項11の「骨領域抽出部」が、「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定し、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出し、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出する骨領域抽出部と、前記骨領域の画素値を正規化する正規化部と、前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求める骨転移領域抽出部と、前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求める指標値計算部と、を備える」ものであると、訂正事項13による請求項13に係る訂正は、訂正前の請求項13の「骨領域を抽出するステップ」が、「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、を備える」ステップであると、それぞれ限定しているから、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、これらの訂正された事項は、いずれも訂正前の特許請求の範囲の請求項4に記載された事項であるから、訂正事項8、11及び13による請求項8、11及び13に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項5、6及び9に係る訂正について
訂正事項4による請求項5、6及び9に係る訂正は、上記(1)で検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、前記訂正事項5、6及び9による請求項5、6及び9に係る訂正は、引用する請求項を減ずるものであるから、前記訂正事項5、6及び9による請求項5、6及び9に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前記訂正事項5、6及び9による請求項5、6及び9に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕、10、11、12、13について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項4?6、8、9、11及び13に係る発明(以下「本件発明4」?「本件発明6」、「本件発明8」、「本件発明9」、「本件発明11」及び「本件発明13」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項4?6、8、9、11及び13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明4
「三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求めるステップと、
を実行させ、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を実行させる画像処理プログラム。」

本件発明5
「前記骨転移に関する指標を求めるステップは、被験者の全身の骨領域の体積に基づいて前記指標を計算する請求項4に記載の画像処理プログラム。」

本件発明6
「前記骨転移に関する指標を求めるステップは、被験者の一部の骨領域の体積に基づいて前記指標を計算する請求項4に記載の画像処理プログラム。」

本件発明8
「三次元核医学画像の画像処理を行うためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
2つ以上の異なる断面画像を並べて表示し、表示された断面画像上に前記骨転移領域を表示するステップと、
を実行させ、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を実行させる画像処理プログラム。」

本件発明9
「前記正規化するステップは、被験者の体重、骨重量、または骨ミネラル量に関するデータを用いて正規化を行う請求項4乃至6、及び8のいずれかに記載の画像処理プログラム。」

本件発明11
「被験者の三次元核医学画像のデータを入力する画像データ入力部と、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出する骨領域抽出部であって、前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定し、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出し、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出する骨領域抽出部と、
前記骨領域の画素値を正規化する正規化部と、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求める骨転移領域抽出部と、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求める指標値計算部と、
を備える画像処理装置。」

本件発明13
「三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるための方法であって、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求めるステップと、
を備え、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を備える画像処理方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3、5?13に係る特許に対して、当審が平成30年11月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項7?9に係る発明は、甲1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項7?9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)請求項1-3、5、6、9-13に係る発明は、甲1号証に記載された発明及び電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、請求項1-3、5、6、9-13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 当審の判断
訂正前の請求項4に係る発明に対しては、上記取消理由は通知されていない。そして、本件訂正により、請求項8、11及び13は、上記取消理由が存在しない訂正前の請求項4の技術事項を備えたものとなり、請求項5、6は、該請求項4を引用するものとなり、請求項9は、該請求項4、該請求項4を引用する請求項5及び6、該請求項4の技術事項を備えた請求項8のいずれかを引用するものとなったから、訂正後の請求項5、6、8、9、11及び13に対しての上記取消理由には、理由がないと判断する。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項4に係る発明は、甲1?3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張する。

1 甲号証の記載
(1)甲1号証に記載の事項
甲1号証(特開2014-174654号公報)には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「【0022】
図1は、本明細書で開示される様々な処理を実行するためのシステム100の主な構成を描いた図である。図1に描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102,主記憶装置104,補助記憶装置106,ディスプレイ・インタフェース108,周辺機器インタフェース109,ネットワーク・インタフェース110などを備えることができる。CPU102は主記憶装置104よりもさらに高速なアクセスを提供するキャッシュメモリ103を搭載していることができる。システム100は、単一の筐体にほぼ全ての構成要素が搭載される装置として提供されてもよいし、物理的に異なる複数の筐体から構成されるものであってもよい。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、補助記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやフラッシュメモリ、SSDなどを用いることができる。実施形態によっては、補助記憶装置106は、物理的に異なる複数の記憶装置から構成されている場合や、システム100とは物理的に異なる筐体に収められてシステム100と適当なインタフェースで接続された記憶システムである場合もある。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インタフェース108を介して接続される。またシステム100には、情報入力のためのユーザ・インタフェースを接続することができ、これは周辺機器インタフェース109を介して接続される。かかるユーザ・インタフェースは、例えばキーボードやマウス、タッチパネルであることができる。また周辺機器インタフェース109は、例えばUSBインタフェースであることができる。ネットワーク・インタフェース110は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いられることができる。システム100の最も基本的な機能は、補助記憶装置106に格納されるオペレーティングシステム122がCPU102に読み込まれて実行されることにより提供される。また、補助記憶装置106に格納される各種のプログラムがCPU102に読み込まれて実行されることにより、オペレーティングシステム122で提供される機能以外の機能が提供される。」

(甲1b)「【0038】
ステップ200は処理の開始を示す。ステップ202は、プログラム124による処理の対象となる画像データへのアクセスを開始する段階である。このときCPU102は、データ読み込みモジュール125の命令に従って、補助記憶装置106から画像データ130の少なくとも一部を主記憶装置104へとロードしてもよい。(なおこのとき、プログラム124自体も既に主記憶装置104へロードされているだろう。)
【0039】
プログラム124による処理の対象となる画像データ130は、前述のように、骨組織用の放射性トレーサーを被験者に投与して撮影された3次元骨SPECT画像を表すデータであり、各画素がガンマ線のカウント数に対応した値を有する3次元の画像データである。骨組織用の放射性トレーサーとしては、99mTc-HMDP(ヒドロキシメチレンジホスホン酸テクネチウム)や99mTc-MDP(メチレンジホスホン酸テクネチウム)がよく知られている。99mTc-HMDPや99mTc-MDPは、投与後主に骨組織に集積し、血液や内臓等からは速やかに消失するという性質を有するため、骨組織のSPECT画像を得るために非常に適している。SPECT装置で撮影された画像データのオリジナルの画素数は、SPECT装置の性能に起因して、横断面(axial)スライスあたり64×64や128×128であることが多いが、本実施例で処理の対象となる画像データ130は、補間処理により画素数を増やされたものであってもよい。」

(甲1c)「【0043】
ステップ210からステップ220のループでは、画像データ130の各画素が一つずつ処理されて正規化骨取込量が計算される。図2では、画像データ130のx,y,z方向の画素数を仮にI,J,K個とし、各画素を画素ijkと表記している。ステップ212では、ある画素ijkの画素値がキャッシュメモリ103又は主記憶装置104へロードされる(すなわち記憶される)。この画素値は、通常、カウント値(カウント数)を反映した値となっている。ステップ214では、このカウント値に換算係数143を乗じることにより、カウント値を単位容積当たりの放射能量(放射能濃度)に変換する。変換後の値も改めてキャッシュメモリ103又は主記憶装置104に記憶される。この変換処理は、放射能濃度換算モジュール126の命令によってCPU102が行う処理であってもよい。実施形態によっては、画像データ130が既に、各画素の画素値が放射能濃度に変換されている場合もあり、そのような場合には、ステップ214は省略されるであろう。ステップ216では、ステップ214で計算された放射能濃度と、ステップ204及び206でそれぞれ読み込まれた被験者の体重及び放射能投与量を用いて、前述の正規化骨取込量が計算される。正規化骨取込量の計算式を再掲する。
[式1]



(甲1d)「【0045】
上述のように、画像データ130は、主に骨組織に集積する放射性トレーサーを用いて得られたデータであるため、一定以上の画素値を有する画素は、その多くが骨領域に由来するガンマ線のカウント値を画素値とした画素であると考えられる。従って、骨領域由来画素の特定は、画素値についての適当な閾値を用いて画素を分別することにより、比較的容易に特定することができる。もちろん、骨領域以外の場所にも閾値を超える画素値を有する画素は存在することがあるので、形態的な情報を併せて利用することにより、より高精度に骨領域由来の情報を有する画素を抽出することができる。X線CTは骨領域をより正確に特定できるので、その情報を用いて骨領域由来画素の特定を行ってもよい。実施形態によっては、ステップ214,216は、骨領域に由来するガンマ線カウントデータを有していない画素については、画素値を単に0とする処理に置き換えてしまってもよい。
フローチャートには現れていないが、正規化骨取込量計算モジュール127はさらに、計算した正規化骨取込量を、時間による放射能量の減弱などを考慮した値とするために、情報144を用いて上記正規化骨取込量を補正するようにCPU102を動作させてもよい。ステップ218は、計算された正規化骨取込量がキャッシュメモリ103や主記憶装置104、補助記憶装置106のいずれかに記憶される段階を表す。ステップ210からステップ220のループが終了し、画像データ130の全画素について正規化骨取込量の計算が終わったとき、図1に示されるように、補助記憶装置106には、各画素が画素値として正規化骨取込量を有する3次元画像データ150が構築されていてもよい。ステップ222は正規化骨取込量計算処理の終了を示す」

(甲1e)「【0051】
図4は、ステップ304で生成された信号により、ディスプレイ・インタフェース108に接続されるディスプレイなどに表示されうる画面と、基準ROIの設定の手法の一例を説明するための図である。画面401,402,403は、それぞれ、画像データ150の特定のaxial,coronal,sagittalスライスである。画像の濃淡は正規化骨取込量の大小を反映している。いずれも骨組織が綺麗に映し出されていることが分かる。画面404は、MIP (Maximum Intensity Projection) 処理した3次元表示したもので、あたかも2次元のシンチグラフィで投影された他方向から観察可能な画像になっている。しかしながら、通常の2次元シンチグラフィでは、coronal方向の撮影しか行わないので、画面404のようなsagittal方向の透視画像やaxial方向の透視画像を作ることはできないことに注意されたい。」

(甲1f)「【0055】
ステップ310では、プログラム124(ROI設定モジュール128)が、基準ROIの情報と検出パラメータを用いて病変候補画素を特定するようにCPU102を動作させる。基準ROIの情報は、例えば、基準ROIにおける正規化骨取込量の平均値と標準偏差(σ)であってもよい。検出パラメータは、例えば2σ、すなわち基準ROIにおける正規化骨取込量平均値から2σ以上大きな値を有する画素を、病変候補画素とすることとしてもよい。もちろん2σというのは例示であり、実施形態によっては例えば3σや4σを用いてもよいし、上述のようにユーザが任意に設定できるように構成されることが好ましい。しかし、発明者が調べたところによると、2σの条件を用いることで、多くの例において良好に病変部位を特定できるようである。
【0056】
特定された病変候補画素は画面上に表示されることが好ましい。図5はそのような例を示した図であり、図4の画面のそれぞれのスライス上に、特定された病変候補画素が421?424のように黒塗りで示されている。この例における病変候補画素の検出条件は、基準ROIにおける正規化骨取込量平均値から2σ以上大きな値を有する画素というものであった。図5のように病変候補画素が自動的に表示されれば、画像診断を行う者が病変部位の特定を行う際に有用な助けとなるであろう。」

(甲1g)「【0062】
上に紹介した実施形態では、他の骨SPECT画像との相互比較を行うために式1で定義した正規化骨取込量を用いたが、本発明の実施形態には、発明の概要の欄で説明した骨正規化骨取込量を利用する実施形態も存在する。骨正規化骨取込量とは次のような量であった。
[式2]


【0063】
骨正規化骨取込量を利用する実施形態は、SPECTと一緒にX線CTも実施する場合に好適に適用されうる。現在は、SPECTとX線CTを一体化した装置が発売されており、放射性トレーサーが骨組織に取り込まれるのに必要な時間を利用してSPECTの施行前にX線CTを施行することにより、被験者を動かさずに一回のルーチンでSPECTとCTの両方の撮像を行うことができるようになっている。このような装置はSPECT画像とCT画像とを重ね合わせることができるようになっていることが多いので、CT画像の情報を利用して、SPECT画像のどの画素が骨領域に属するのかを判別することができる。また、CT画像からは骨領域を高い精度で抽出することができるので、その情報を用いて被験者の骨重量を推定することができる。骨正規化骨取込量を利用する場合、システム100の補助記憶装置106などの記憶装置には、骨SPECT画像データ130に対応するCT画像データ160が格納されていてもよい。また、CT画像データ160から推定した被験者の骨重量の情報162も格納されていてもよい。」

(甲1h)「【0064】
次に、図7を用いて骨正規化骨取込量を求める実施形態の処理の流れを説明する。
【0065】
図7は、骨画像変換処理プログラム124がCPU102に実行されることによりシステム100が遂行しうる処理の一部であって、3次元骨SPECT画像データの画素値を骨正規化骨取込量に変換する処理を説明するためのフローチャートである。ステップ700は処理の開始を示す。ステップ702は、プログラム124による処理の対象となる画像データ130へのアクセスを開始する段階であり、図2のステップ202と同様である。ステップ704は、画像データ130を取得するために被験者に投与された放射能量のデータ142を読み込む段階であり、図2のステップ204と同様である。
【0066】
ステップ706では、骨SPECT画像データ130に対応するCT画像データ160が開かれる。ステップ708では被験者の骨重量情報162が読み込まれる。ステップ710では、骨組織に属する画素のカウント値を放射能濃度に変換する換算因子が読み込まれる。このステップは図2のステップ208と同様である。
【0067】
ステップ712からステップ726のループでは、画像データ130の各画素が一つずつ処理されて骨正規化骨取込量が計算される。図2の例と同様、画像データ130の各画素を画素ijkと表記している。ステップ714では、ある画素ijkの画素値がキャッシュメモリ103又は主記憶装置104へロードされる。ステップ716では、画素ijkが骨領域に属する画素か否かの判定が行われる。この判定は、ステップ706でロードされたCT画像160を利用して行われる。例えば、画素ijkに対応するCT画像160の画素の画素値が所定の閾値以上であれば、画素ijkを骨領域とみなすこととしてもよい。他にも様々な方法で画素ijkが骨領域に属するか否かを判定してもよい。画素ijkが骨領域に属すると判断された場合、ステップ718において当該画素の画素値を、ステップ710で読み込んだBCFを用いて放射能濃度に変換し、ステップ720で、式2のように骨正規化骨取込量を計算する。ステップ722では、計算した骨正規化骨取込量が保存される。
【0068】
一方、ステップ716において、画素ijkは骨領域に属さないと判定された場合、当該画素の骨正規化骨取込量は、例えば0としてしまってもよい。
【0069】
全ての画素ijkについて上記の処理を終えたら、ステップ712から726のループを抜けて、骨正規化骨取込量の計算処理が終了する(ステップ728)。
【0070】
このような計算処理により、各画素値が骨正規化骨取込量に変換された3次元骨SPECT画像データが得られる。この画像データについても、例えば図4-6を用いて説明したような手法で、骨組織中で病変を含む可能性のある部位の候補を自動的に抽出し表示したり、注意すべき領域を病変ROIとして表示したりするために用いることができる。また骨正規化骨取込量は、発明の概要の欄で説明したように、骨組織均一分布仮定という共通条件からのずれという値であるため、他の骨SPECT画像との相互比較が可能な量である。従って本実施形態によっても、異なる測定に基づく複数の骨SPECT画像の相互比較が可能となる。」

(甲1i)「【図5】



(2)甲1号証に記載された発明
(ア)上記(甲1h)には、図7を用いた実施形態として、以下の実施形態が記載されている。

「骨画像変換処理プログラム124がCPU102に実行されることによりシステム100が遂行しうる処理であって、3次元骨SPECT画像データの画素値を骨正規化骨取込量に変換する処理であり、
該処理は、
対象となる画像データ130へのアクセスを開始する、図2のステップ202と同様であるステップ702と、
骨SPECT画像データ130に対応するCT画像データ160が開かれるステップ706と、
骨組織に属する画素のカウント値を放射能濃度に変換する換算因子(BCF)が読み込まれるステップ710と、
画像データ130の各画素である画素ijkが骨領域に属する画素か否かの判定が、ステップ706でロードされたCT画像160を利用して、画素ijkに対応するCT画像160の画素の画素値が所定の閾値以上であれば、画素ijkを骨領域とみなすこととして行われるステップ716と、
画素ijkが骨領域に属すると判断された場合、当該画素の画素値を、ステップ710で読み込んだBCFを用いて放射能濃度に変換するステップ718と、
式2のように骨正規化骨取込量を計算するステップ720と、
計算した骨正規化骨取込量が保存されるステップ722とを有し、
ステップ716において、画素ijkは骨領域に属さないと判定された場合、当該画素の骨正規化骨取込量は、0とし
各画素値が骨正規化骨取込量に変換された3次元骨SPECT画像データについて、図4-6を用いて説明したような手法で、骨組織中で病変を含む可能性のある部位の候補を自動的に抽出し表示する
骨画像変換処理プログラム124。
[式2]



(イ)上記実施形態において、「対象となる画像データ130へのアクセスを開始する」「ステップ702」は、「図2のステップ202と同様であ」り、「ステップ202は、プログラム124による処理の対象となる画像データへのアクセスを開始する」ステップであって、「処理の対象となる画像データ130は」、「骨組織用の放射性トレーサーを被験者に投与して撮影された3次元骨SPECT画像を表すデータであ」るから(甲1b)、「対象となる画像データ130へのアクセスを開始する」「ステップ702」は、「骨組織用の放射性トレーサーを被験者に投与して撮影された3次元骨SPECT画像を表すデータであ」る「対象となる画像データ130へのアクセスを開始する」ステップであると認められる。

(ウ)上記(甲1f)より、「ステップ310」において、「正規化骨取込量平均値から2σ以上大きな値を有する画素を、病変候補画素とすること」により、「病変候補画素を特定し」ており、「図5は」、「図4の画面のそれぞれのスライス上に、特定された病変候補画素が」「黒塗りで示され」た図である。
すると、上記実施形態の「各画素値が骨正規化骨取込量に変換された3次元骨SPECT画像データについて」、「骨組織中で病変を含む可能性のある部位の候補を自動的に抽出し表示する」「図4-6を用いて説明したような手法」は、「各画素値が骨正規化骨取込量に変換された3次元骨SPECT画像データについて」、「正規化骨取込量平均値から2σ以上大きな値を有する画素を、病変候補画素とすること」により「病変候補画素を特定する」「ステップ310」を有する手法であると認められる。

(エ)以上(ア)?(ウ)より、甲1号証には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「CPU102に実行されることによりシステム100が処理を遂行しうる骨画像変換処理プログラム124であって、
該処理は、3次元骨SPECT画像データの画素値を骨正規化骨取込量に変換する処理であり、
骨組織用の放射性トレーサーを被験者に投与して撮影された3次元骨SPECT画像を表すデータである対象となる画像データ130へのアクセスを開始するステップ702と、
骨SPECT画像データ130に対応するCT画像データ160が開かれるステップ706と、
骨組織に属する画素のカウント値を放射能濃度に変換する換算因子(BCF)が読み込まれるステップ710と、
画像データ130の各画素である画素ijkが骨領域に属する画素か否かの判定が、ステップ706でロードされたCT画像160を利用して、画素ijkに対応するCT画像160の画素の画素値が所定の閾値以上であれば、画素ijkを骨領域とみなすこととして行われるステップ716と、
画素ijkが骨領域に属すると判断された場合、当該画素の画素値を、ステップ710で読み込んだBCFを用いて放射能濃度に変換するステップ718と、
式2のように骨正規化骨取込量を計算するステップ720と、
計算した骨正規化骨取込量が保存されるステップ722と、
各画素値が骨正規化骨取込量に変換された3次元骨SPECT画像データについて、正規化骨取込量平均値から2σ以上大きな値を有する画素を、病変候補画素とすることにより病変候補画素を特定するステップ310と、
を有し、
ステップ716において、画素ijkは骨領域に属さないと判定された場合、当該画素の骨正規化骨取込量は、0とする
骨画像変換処理プログラム124。
[式2]



(3)甲2号証に記載された事項
甲2号証(Lindgren Belal et al.、3D skeletal uptake of ^(18)F sodium fluoride in PET/CT images is associated with overall survival in patients with prostate cancer、EJNMMI Research (2017) 7:15、2017.02.16発行[online])には、以下の事項が記載されている。

(甲2a)「Conclusions: PET/CT indices based on NaF PET/CT are correlated to BSI and significantly associated with overall survival in patients with prostate cancer.」(1頁Abstract下から3-2行、当審訳:「結論:NaF PET/CTに基づくPET/CT指数はBSIと相関があり、前立腺癌患者の全生存期間と有意に関連していた。」)

(甲2b)「Study group PET/CT data were obtained by a Discovery VCT PET/CT scanner (GE Healthcare). All patients received an injection of 3 MBq NaF per kg body weight after having fasted for 6 h. Image acquisition started approximately 60 min after tracer injection. A diagnostic contrast-enhanced CT scan (64-slice helical, 120 kV, “smart mA” maximum 400 mA) was obtained from the base of the skull to the mid-thigh. The CT slice thickness used in the analysis was 3.75 mm. A PET scan with an acquisition time of 2.5 min per bed position was obtained from the same region.」(2頁右欄下から6行?3頁左欄5行、当審訳:「研究グループ PET/CTデータは、ディスカバリーVCT PET/CTスキャナー(GE Healthcare)によって得られた。すべての患者は、6時間絶食させた後、体重1kgあたり3MBqのNaFの注射を受けた。画像収集は、トレーサー注射後約60分後に開始した。頭蓋骨の基部から大腿部の中央まで、診断造影CTスキャン(64スライスヘリカル、120kV、「スマートmA」最大400mA)が得られた。分析に使用したCTスライス厚さは3.75mmであった。ベッド位置当たり2.5分の獲得時間を有するPETスキャンが同じ領域から得られた。」)

(甲2c)「PET/CT index
1. Segmentation of skeleton
Step 1: Convolutional neural network-based landmark detection
A convolutional neural network [17, 18] was trained to detect a number of anatomical landmarks, and a second network to detect center lines for the humeri, ribs, clavicles, and femurs (Fig. 1).
Step 2: Geometric model fitting
Partly due to the limited training set, the convolutional neural network-based detectors produced a number of false positives but very few false negatives. To handle this, geometric models were used to prune false landmark detections and determine rough positions for the relevant anatomical structures. Essentially two types of models were used. The first was an iterative technique to track elongated bones such as ribs and clavicles. The second type was a classical active shape models used to find plausible positions for groups of landmarks.
Step 3: Convolutional neural network-based pixel-wise segmentation
The final step of the automated segmentation technique was the application of another convolutional neural network trained to perform pixel-wise segmentation of the CT image. The input to the network was not only the CT image but also a second channel with a rough segmentation based on an atlas registered using the aligned landmarks.
An automated segmentation of the following bones was performed in the CT scans: The thoracic and lumbar spines, sacrum, pelvis, ribs, scapulae, clavicles, and sternum. The slice thickness of the CT images of 3-4 mm made it difficult to segment the cervical vertebrae and they were therefore not included. In addition, the skull, humeral, femoral, and other appendicular bones were not segmented since they were not always completely included in the CT scans.
A total of 49 bones were segmented, comprising approximately 33% of the total skeletal volume [13].
The automated segmentation method was developed using the separate training set of CT scans. Three experienced readers manually segmented the skeleton in these CT scans using the TurtleSeg software [14-16]. After the training process, the automated method was applied to the CT scans of the study group. The segmentation process can be divided into three steps:」(3頁右欄1行?4頁左欄17行、当審訳:「PET/CT指数
1.骨のセグメンテーション
ステップ1:畳み込みニューラルネットワークに基づくランドマーク検出
畳み込みニューラルネットワーク[17,18]は解剖学的ランドマークの検出、そして第2のネットワークは上腕骨、肋骨、鎖骨および大腿骨の中心線を検出するように設定された(図1)。
ステップ2:幾何学モデルの適合
トレーニングセットが限られていることもあり、畳み込みニューラルネットワークベースの検出器は偽陽性が多く出たが、偽陰性は非常に少なかった。これを処理するために、幾何学的モデルを使用して、誤ったランドマーク検出を剪定し、関連する解剖学的構造の概略位置を決定した。本質的に2つのタイプのモデルが使用された。1つ目は、肋骨や鎖骨のような細長い骨を追跡する反復技術。2つ目は、ランドマークのグ、ループのためのもっともらしい位置を見つけるために使用される古典的なアクティブシェイプモデルであった。
ステップ3:畳み込みニューラルネットワークに基づくピクセル単位のセグメンテーション
自動セグメンテーション手法の最後のステップは、CT画像のピクセル単位のセグメンテーションを実行するように設定された別の畳み込みニューラルネットワークを適用することであった。ネットワークへの入力は、CT画像だけでなく、整列されたランドマークを使用して登録されたアトラスに基づく粗いセグメンテーションを伴う第2のチャネルでも行った。
CTスキャンでは、胸部および腰椎、仙骨、骨盤、肋骨、肩甲骨、鎖骨および胸骨の自動骨セグメンテーションが行われた。3-4mmのCT画像のスライス厚は、頚椎を分割することを困難にしたため、それらは含まれていなかった。さらに、頭蓋骨、上腕骨、大腿骨および他の付属骨は、CTスキャンに必ずしも完全に含まれていなかったので、セグメント化されなかった。総骨格体積の約33%を占める合計49個の骨がセグメント化された[13]。自動セグメンテーション法は、CTスキャンの別個のトレーニングセットを使用して開発された。3人の経験豊富な読影者が、TurtleSegソフトウェア[14-16]を使用して、これらのCTスキャンで骨格を手動で分割した。訓練プロセスの後、自動化された方法が研究グループのCTスキャンに適用された。セグメンテーションプロセスは、3つのステップに分けることができる。」)

(甲2c)「2. Hotspot detection and classification
Volumes in the PET images with uptake above a given standard uptake value (SUV) were defined as hotspots. Two separate methods were used to select this given SUV value and hotspots for inclusion in the PET/CT index.
Manual: With this method, we aimed to reflect the clinical interpretations of the PET/CT scans as closely as possible. For each individual patient first, an optimal SUV threshold for detection of hotspots was selected, based on the visual interpretation of a nuclear medicine specialist who was blinded to the patients’ bone scans, BSI values, and survival data. The choice of threshold was made so that all hotspots interpreted as caused by metastatic disease by the nuclear medicine specialist were delineated. After selecting a threshold, each detected hotspot was manually classified as caused by metastatic disease or not, based on the interpretation of the nuclear medicine specialist. Hotspots believed to originate from degeneration, inflammation, or fractures were excluded from the analysis. Selected thresholds ranged between SUV 6-9.
Automated: In a completely automated method, a SUV threshold of 15 was used to detect hotspots. This threshold was used in a recent study by Lin et al [19]. No manual selection was done.
To avoid an unmanageable number of hotspots, smoothing with a Gaussian filter (standard deviation 2 mm) was performed before defining the hotspots. Hotspots that had no overlap with the segmented bone from the CT scans were removed.」(4頁左欄18?下から6行、当審訳:「2.ホットスポット検出および分類
一定の標準取り込み値(SUV)を超える集積を伴うPET画像のボリュームをホットスポットと定義した。PET/CT指数に含めるSUVの値とホットスポットを選択するには、2つの別々の方法を使用した。
マニュアル:この方法では、PET/CTスキャンの臨床的解釈を可能な限り厳密に反映することを目指した。個々の患者について最初に、患者の骨スキャン、BSI値および生存データを知らされていない核医学専門家の視覚的解釈に基づいて、ホットスポットの検出のための最適なSUV閾値を選択した。閾値の選択は、核医学専門家による転移性疾患によって引き起こされるとみなされる全てのホットスポットが描写されるようになされた。閾値を選択した後、検出された各ホットスポットは、核医学の専門家の解釈に基づいて、転移性疾患に起因するものとして手動で分類された。変性、炎症、または骨折に由来すると考えられるホットスポットは分析から除外した。選択された閾値は、SUV6-9であった。
自動化:完全に自動化された方法では、ホットスポットを検出するためにSUVの閾値15を使用した。この閾値はLinら[19]による最近の研究で用いられた。手動による選択は行われなかった。管理不能なホットスポットを避けるために、ホットスポットを定義する前に、ガウスフィルタ(標準偏差2mm)によるスムージングを実行した。CTスキャンからのセグメント化された骨領域と重複しないホットスポットが除去された。」)

(甲2d)「3. PET/CT index calculation
The volume of each hotspot classified as metastasis and localized in the skeleton in the corresponding CT scan was calculated. A PET/CT index was then calculated by dividing the sum of all such hotspots with the volume of the segmented bones, i.e., the thoracic and lumbar spines, sacrum, pelvis, ribs, scapulae, clavicles, and sternum. Two indices were calculated from each patient’s PET/CT scan: one based upon the manual method (manual PET index) and one based upon the automated method using the SUV threshold of 15 (automated PET15 index). The BSI is defined as the fraction of the total skeleton that is involved by tumor, and skeletal parts not included in the analysis were assumed to have no metastases. Accordingly, both PET/CT indices were multiplied by 0.33 since the bones included in the PET/CT indices comprised 33% of the total skeletal volume [13].」(4頁左欄下から5行?右欄14行、当審訳:「3. PET/CT指数の計算
転移として分類され、対応するCTスキャンで骨格内に局在した各ホットスポットの体積を計算した。そのようなすべてのホットスポットの合計をセグメント化された骨、すなわち胸部および腰椎、仙骨、骨盤、肋骨、肩甲骨、鎖骨および胸骨の体積で割ることによってPET/CT指数を計算した。各患者のPET/CTスキャンから、手動法(手動PET指数)に基づくものとSUV閾値15(自動PET15指数)を用いた自動化法に基づくものとの2つの指数を計算した。BSIは、腫瘍の存在する全骨格の割合として定義され、分析に含まれない骨格部分は転移がないと仮定された。したがって、PET/CT指数に含まれる骨は総骨格容積の33%を占めていたため、PET/CT指数の両方に0.33が乗じられた[13]。」)

(4)甲2号証に記載された技術事項
甲2号証の各計算等は、コンピュータが実行するプログラムにより行われることは自明であるから、甲2号証には、各計算をコンピュータに実行させるプログラムが開示されているといえる。
そうすると、上記(甲2a)?(甲2d)より、甲2号証には、以下の技術事項(以下、「技術事項2」という。)が記載されていると認められる。

「PET/CTデータは、ディスカバリーVCT PET/CTスキャナーによって得られ、
患者の画像収集は、診断造影CTスキャンと、PETスキャンとが同じ領域から得られ、
CTスキャンでは、胸部および腰椎、仙骨、骨盤、肋骨、肩甲骨、鎖骨および胸骨の自動骨セグメンテーションが行われ、
一定の標準取り込み値(SUV)を超える集積を伴うPET画像のボリュームをホットスポットと定義し、
ホットスポットを検出するためにSUVの閾値15を使用し、
CTスキャンからのセグメント化された骨領域と重複しないホットスポットが除去され、
転移として分類され、対応するCTスキャンで骨格内に局在した各ホットスポットの体積を計算し、
そのようなすべてのホットスポットの合計を胸部および腰椎、仙骨、骨盤、肋骨、肩甲骨、鎖骨および胸骨の体積で割ることによってPET/CT指数を計算するコンピュータにより実行されるプログラム。」

(5)甲3号証に記載された事項
甲3号証(特開2016-142665号公報)には、以下の事項が記載されている。

(甲3a)「【0005】
骨シンチグラムは、定性的(視覚的)に異常病変を検出することが可能であるが、排泄経路である腎臓や膀胱にも集積し、解析の妨げとなる場合がある。
【0006】
かかる課題を解決すべく、本願発明者は、核医学画像データの解析技術に関する次のような発明を開示する。この発明は、
・ 当該核医学画像データとの位置合わせ済みのCT画像データから骨領域を抽出することと;
・ 前記核医学画像データのうち、前記抽出した骨領域に重なる領域のデータについては表示することと;
・ 前記核医学画像データのうち、前記抽出した骨領域に重ならない領域のデータについては表示しないことと;
を特徴とする。
【0007】
例えば骨シンチグラムの解析において、従来から用いられてきた、所定の閾値以上の領域を病変として抽出する手法を用いる場合、生理的集積である腎臓、膀胱といった臓器まで高集積部位として表示・抽出されてしまう。これに対して上記の発明によれば、核医学画像データのうち、骨領域に重ならない領域のデータについては表示されないため、正常な生理的理由による集積の影響を除外して、核医学画像データの観察及び解析を行うことが可能になる。」

(6)甲3号証に記載された技術事項
甲3号証には以下の技術事項(以下、「技術事項3」という。)が記載されている。

「骨シンチグラムは、排泄経路である腎臓や膀胱にも集積し、解析の妨げとなる場合があり、骨シンチグラムの解析において、所定の閾値以上の領域を病変として抽出する手法を用いる場合、生理的集積である腎臓、膀胱といった臓器まで高集積部位として表示・抽出されてしまうが、当該核医学画像データとの位置合わせ済みのCT画像データから骨領域を抽出することと、前記核医学画像データのうち、前記抽出した骨領域に重なる領域のデータについては表示することと、前記核医学画像データのうち、前記抽出した骨領域に重ならない領域のデータについては表示しないこととにより、核医学画像データのうち、骨領域に重ならない領域のデータについてが表示されないため、正常な生理的理由による集積の影響を除外して、核医学画像データの観察及び解析を行うことが可能になる。」

2 当審の判断
(1)対比
本件発明4と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「3次元骨SPECT画像」は、本件発明4の「三次元核医学画像」に相当する。

イ 引用発明の「骨正規化骨取込量」は、「病変候補画素を特定する」ためのものであるから、本件発明4の「骨転移に関する指標」に相当する。そして、引用発明の「骨画像変換処理プログラム124」は、「3次元骨SPECT画像データの画素値を骨正規化骨取込量に変換」しているから、本件発明4の「三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるためのプログラム」に相当する。

ウ 引用発明の「骨組織用の放射性トレーサーを被験者に投与して撮影された3次元骨SPECT画像を表すデータである対象となる画像データ130へのアクセスを開始するステップ702」は、本件発明4の「被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップ」に相当する。

エ 引用発明の「画像データ130の各画素である画素ijkが骨領域に属する画素か否かの判定が、ステップ706でロードされたCT画像160を利用して、画素ijkに対応するCT画像160の画素の画素値が所定の閾値以上であれば、画素ijkを骨領域とみなすこととして行われるステップ716」は、「CT画像160の画素の画素値が所定の閾値以上」の領域を「骨領域」と判定し、該「骨領域」を「画像データ130の各画素である画素ijk」に対応させていることから、「画素ijk」を「画像データ130」に基づいて「骨領域とみな」しているといえる。すると、引用発明の「ステップ716」は、本件発明4の「前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップ」に相当する。

オ 引用発明の「画素ijkが骨領域に属すると判断された場合、当該画素の画素値を、ステップ710で読み込んだBCFを用いて放射能濃度に変換するステップ718と、式2のように骨正規化骨取込量を計算するステップ720と」は、本件発明4の「前記骨領域の画素値を正規化するステップ」及び「骨転移に関する指標を求めるステップ」に相当する。

カ 引用発明の「各画素値が骨正規化骨取込量に変換された3次元骨SPECT画像データについて、正規化骨取込量平均値から2σ以上大きな値を有する画素を、病変候補画素とすることにより病変候補画素を特定するステップ310」は、本件発明4の「前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップ」に相当する。

キ 引用発明の「骨画像変換処理プログラム124」は、「CPU102に実行されることによりシステム100が処理を遂行しうる」ものであり、「システム100」は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様のものである(上記(甲1a)参照。)から、本件発明4の「コンピュータに」、各ステップを、「実行させる画像処理プログラム」に相当する。

ク 以上ア?キより、本件発明4と引用発明との間には、次の一致点及び相違点がある。

(一致点)
「三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
骨転移に関する指標を求めるステップと、
を実行させる画像処理プログラム。」

(相違点1)骨転移に関する指標が、本件発明4は「前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて」求められるものであるのに対し、引用発明1は、「式2」により計算される「骨正規化骨取込量」である点。

(相違点2)前記骨領域を抽出するステップが、本件発明4は「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、を実行させる」のに対し、引用発明は、「画像データ130の各画素である画素ijkが骨領域に属する画素か否かの判定が、ステップ706でロードされたCT画像160を利用して、画素ijkに対応するCT画像160の画素の画素値が所定の閾値以上であれば、画素ijkを骨領域とみなす」、すなわち、本願発明は、三次元核医学画像から特定された放射性医薬品の生理学的集積部位を、三次元核医学画像から抽出された所定の閾値以上の画素値を有する画素(骨領域と生理的集積部位を含む)から除外することにより、三次元核医学画像中の骨領域を抽出するのに対して、引用発明は、三次元核医学画像と対応するCT画像から骨領域を抽出して、CT画像中の骨領域に対応する三次元核医学画像中の領域を骨領域とする点。

(2)判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
甲1号証には、「骨領域以外の場所にも閾値を超える画素値を有する画素は存在することがあるので、形態的な情報を併せて利用することにより、より高精度に骨領域由来の情報を有する画素を抽出することができる。」(甲1d)と記載されているものの、「形態的な情報を併せて利用すること」について、「画像データ130の各画素である画素ijkが骨領域に属する画素か否かの判定が、ステップ706でロードされたCT画像160を利用して、画素ijkに対応するCT画像160の画素の画素値が所定の閾値以上であれば、画素ijkを骨領域とみなすこと」が開示されているのみである。
そして、技術事項3は、「骨シンチグラムは、排泄経路である腎臓や膀胱にも集積し、解析の妨げとなる場合があり、骨シンチグラムの解析において、所定の閾値以上の領域を病変として抽出する手法を用いる場合、生理的集積である腎臓、膀胱といった臓器まで高集積部位として表示・抽出されてしまう」という課題を認識して、その解決手段として、「当該核医学画像データとの位置合わせ済みのCT画像データから骨領域を抽出することと、前記核医学画像データのうち、前記抽出した骨領域に重なる領域のデータについては表示することと、前記核医学画像データのうち、前記抽出した骨領域に重ならない領域のデータについては表示しないことと」により、「正常な生理的理由による集積の影響を除外して、核医学画像データの観察及び解析を行うことが可能になる」ものである。
すると、引用発明に、技術事項3を適用した場合、骨領域の特定方法は同じものであって、さらに、引用発明は、「ステップ710で読み込んだBCFを用いて放射能濃度に変換する」画素が、「CT画像160」により「骨領域」であると特定された画素であって、既に「生理的集積である腎臓、膀胱といった臓器」が除外されているから、引用発明も、技術事項3と同様に「正常な生理的理由による集積の影響を除外して、核医学画像データの観察及び解析を行うことが可能になる」ものであるといえる。
したがって、引用発明及び技術事項3より、本件発明4の相違点2に係る構成を導き出すことはできない。
また、本件発明4の相違点2に係る構成は、甲2号証には何ら記載されていない。なお、本件発明4の相違点2に係る構成は、甲4及び5号証にも何ら記載されていない。
すると、本件発明4の相違点2に係る構成は、引用発明,甲2号証及び甲3号証に記載された技術事項から、当業者が容易に想到できたものであるとはいえないから、本件発明4は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明、甲2号証及び甲3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件訂正により、相違点2に係る本件発明4の発明特定事項に対応する技術事項を備えるものとした、請求項8、11及び13、本件発明4を引用する請求項5及び6、本件発明4、本件発明4を引用する請求項5及び6、相違点2に係る本件発明4の発明特定事項に対応するの技術事項を備えるものとした請求項8のいずれかを引用する請求項9は、本件発明4と同様の理由により、引用発明、甲2号証及び甲3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 申立人の意見について
(1)申立人は、本件発明4の「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、を実行させる」事項に関して、平成31年3月25日に提出した意見書において、以下のように主張している。

ア 甲1号証には、「画像データ130は、主に骨組織に集積する放射性トレーサーを用いて得られたデータであるため、一定以上の画素値を有する画素は、その多くが骨領域に由来するガンマ線のカウント値を画素値とした画素であると考えられる。従って、骨領域由来画素の特定は、画素値についての適当な閾値を用いて画素を分別することにより、比較的容易に特定することができる。」(甲1d)と記載されていることから、三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素(骨領域由来画素)を抽出することが記載されている。
また、甲1号証には、「骨領域以外の場所にも閾値を超える画素値を有する画素は存在することがあるので、形態的な情報を併せて利用することにより、より高精度に骨領域由来の情報を有する画素を抽出することができる。」(甲1d)と記載されていることから、骨領域を抽出するにあたっては、三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出する方法のみだと、骨領域以外の場所も抽出することがあるため、骨領域由来の画素を抽出する方法としては精度が低いことが記載されている。

イ 技術事項3によれば、骨シンチグラムは、肝臓や膀胱にも集積し、解析の妨げとなる場合があり、骨シンチグラムにおいて所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出すると、高集積部位として生理的集積である肝臓、膀胱を抽出されることが記載されている。そして、核医学画像データのうち、骨領域に重ならない領域のデータについては表示せず、正常な生理的理由による集積の影響を除外することで、核医学画像データの観察及び解析を行うことが可能となることも記載されている。

ウ 参考資料1(日本放射線技術学会雑誌 Vol.70 No.9、2014年9月発行、P1028-1029)には、以下の記載がある。

「351骨シンチグラフィ全身像における高集積膀胱の自動検出
松本 俊^(1)、白石順二^(2)
1)熊本大学大学院 保険学教育部
2)熊本大学大学院 生命科学研究部
【目的】骨シンチグラフィ全身像において、画像表示や定量化に影響を及ぼす膀胱の高集積部位を補正することを目的とし、その第1段階として、高集積膀胱を自動で検出する手法を開発する.
【方法】骨シンチグラフィ全身前後面像200症例400画像(256×1024マトリクスサイズ)を本研究の画像データベースとする.膀胱の自動検出プログラムは、まず全身長と解剖学的位置より骨盤領域を決定する.次に決定した骨盤領域に対して差分フィルタ処理を行い、大津の二値化により候補領域を抽出する.そして候補領域の面積、位置、縦横比の3つの特徴量にて判定し、膀胱の位置を決定する.
【結果】初期検討の結果、候補の位置と面積と縦横比の3つの特徴量を利用した場合、高集積膀胱を含む334画像のうち303画像(91%)で正確に位置検出された.また、高集積の無かった66画像で誤検出はなかった.」(1028頁右欄下から8行-1029頁左欄10行)

上記記載から、参考資料1には、骨シンチグラフィ全身像における放射線医薬品の生理的集積部位を特定する方法が記載されており、骨シンチグラフィ全身像は二次元核医学画像であるが、当業者であれば、三次元核医学画像ににも同様に適用することに困難はないから、参考資料1には、実質的に、三次元核医学画像においても同様の方法で放射線医薬品の生理的集積部位を特定する方法が開示されている。

エ 上記アより、甲1号証には、本件発明4の、「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、を実行させる」事項のうち、「前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップ」は記載されているものの、それ以外の、「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップ」と、「前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップ」は、記載されていない。
しかしながら、上記ア及びイにおける甲1号証及び甲3号証に記載されている事項を考慮すれば、三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出した場合に、膀胱等の生理的集積部位が抽出されてしまうと解析精度が低下するため、抽出した画素に当該集積部位が含まれないようにすることは周知の課題であるから、三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出する際に、当該周知の課題を解決するために、骨シンチグラフィ全身像において高集積膀胱を自動で検出し補正することが記載されている、参考資料1の記載に基づいて、「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップ」と、「前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップ」を有する構成は、当業者が容易に想到することである。

(2)上記主張について検討すると、例え、三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出した場合に、膀胱等の生理的集積部位が抽出されてしまうと解析精度が低下するため、抽出した画素に当該集積部位が含まれないようにすることが、甲1号証及び甲3号証の記載から周知の課題であったとしても、上記2(2)で検討したとおり甲1号証及び甲3号証には、いずれも、三次元核医学画像と対応するCT画像から骨領域を抽出して、CT画像中の骨領域に対応する三次元核医学画像中の領域を骨領域とする方法が開示されるのみであって、また、参考文献1に記載の構成も骨シンチグラフィ全身像における放射線医薬品の生理的集積部位である膀胱を特定する構成であって高集積膀胱を特定した後に、骨シンチグラフィ全身像において、画像表示や定量化への影響を及ぼす膀胱の高集積部位の補正に関して具体的な構成が記載されていないから、三次元核医学画像のみに基づいて、上記「前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップ」と、「前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップ」を有する構成を導き出すことはできない。
よって、申立人の主張は、採用されない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項4?6、8、9、11及び13に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項4?6、8、9、11及び13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、請求項1?3、7、10及び12に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1?3、7、10及び12に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求めるステップと、
を実行させ、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を実行させる画像処理プログラム。
【請求項5】
前記骨転移に関する指標を求めるステップは、被験者の全身の骨領域の体積に基づいて前記指標を計算する請求項4に記載の画像処理プログラム。
【請求項6】
前記骨転移に関する指標を求めるステップは、被験者の一部の骨領域の体積に基づいて前記指標を計算する請求項4に記載の画像処理プログラム。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
三次元核医学画像の画像処理を行うためのプログラムであって、コンピュータに、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
2つ以上の異なる断面画像を並べて表示し、表示された断面画像上に前記骨転移領域を表示するステップと、
を実行させ、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を実行させる画像処理プログラム。
【請求項9】
前記正規化するステップは、被験者の体重、骨重量、または骨ミネラル量に関するデータを用いて正規化を行う請求項4乃至6、及び8のいずれかに記載の画像処理プログラム。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
被験者の三次元核医学画像のデータを入力する画像データ入力部と、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出する骨領域抽出部であって、前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定し、前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出し、前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出する骨領域抽出部と、
前記骨領域の画素値を正規化する正規化部と、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求める骨転移領域抽出部と、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求める指標値計算部と、
を備える画像処理装置。
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
三次元核医学画像に基づいて骨転移に関する指標を求めるための方法であって、
被験者の三次元核医学画像のデータを入力するステップと、
前記三次元核医学画像に基づいて少なくとも一部の骨領域を抽出するステップと、
前記骨領域の画素値を正規化するステップと、
前記骨領域において所定の閾値以上の画素値を有する骨転移領域を求めるステップと、
前記骨領域の体積と前記骨転移領域の体積とに基づいて、骨転移に関する指標を求めるステップと、
を備え、
前記骨領域を抽出するステップは、
前記三次元核医学画像における放射性医薬品の生理的集積部位を特定するステップと、
前記三次元核医学画像において所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出するステップと、
前記抽出された画素で構成される領域から、前記放射性医薬品の生理的集積部位を除外した領域を、骨領域として抽出するステップと、
を備える画像処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-23 
出願番号 特願2017-177062(P2017-177062)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G01T)
P 1 651・ 121- YAA (G01T)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀澤 智博  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 福島 浩司
渡戸 正義
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6286606号(P6286606)
権利者 日本メジフィジックス株式会社
発明の名称 画像処理プログラム、画像処理装置、および画像処理方法  
代理人 鈴木 守  
代理人 鈴木 守  

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