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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1353125
異議申立番号 異議2018-700506  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-20 
確定日 2019-05-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6251622号発明「吐出キャップ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6251622号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5]について訂正することを認める。 特許第6251622号の請求項1?3、5に係る特許を維持する。 特許第6251622号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6251622号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年 3月28日に特許出願され、平成29年12月 1日にその特許権の設定登録(特許掲載公報平成29年12月20日発行)がされた。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 6月20日 :特許異議申立人太田千香子(以下、「申立 人」という。)による特許異議の申立て
平成30年 9月12日付け:取消理由通知書
平成30年11月19日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
平成30年12月19日 :申立人による意見書の提出
平成31年 1月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成31年 3月25日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)
なお、平成30年11月19日の訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
本件訂正の内容は次の訂正事項1?3のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記案内部は、前記連通孔からの内容物を、この案内部の径方向の内側に向けて導くことを特徴とする」
とあるのを、
「前記案内部は、前記連通孔からの内容物を、この案内部の径方向の内側に向けて導き、
前記案内部は、この案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部を備えており、
前記案内部は、外周側に平坦部を備え、
該平坦部は前記傾斜部と連続していることを特徴とする」
と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2、請求項3、請求項5も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1から4のいずれか1項に記載の吐出キャップ。」
とあるのを、
「請求項1から3のいずれか1項に記載の吐出キャップ。」
と訂正する。
2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の追加の有無及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
本件訂正の訂正事項1は、「案内部」について「前記案内部は、この案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部を備えており、前記案内部は、外周側に平坦部を備え、該平坦部は前記傾斜部と連続している」と、その形状をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、本件訂正前の本件特許明細書の【0041】には、「案内部40には、突条部41と、平坦部42と、傾斜部43と、を備えている。・・・平坦部42は、案内部40における外周縁部に設けられている。・・・」と記載されており、同【0042】には、「傾斜部43は、径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びている。・・・傾斜部43は、・・・突条部41と平坦部42とを、周方向の全周にわたって連結している。」と記載されていることからすると、案内部が、この案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部を備えており、前記案内部は、外周側に平坦部を備え、該平坦部は前記傾斜部と連続していることは明らかである。ゆえに、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
本件訂正の訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
本件訂正の訂正事項3は、「請求項1から4のいずれか1項」を引用していた本件訂正前の請求項5について、上記訂正事項2により請求項4を削除することに伴い、「請求項1から3のいずれか1項」を引用するものとして、引用請求項の整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?5は、請求項2?5がそれぞれ請求項1を引用する関係にあり、上記訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正の訂正事項1?3は、当該一群の請求項1?5に対して請求されたものである。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

第3 申立人の意見書提出の機会
本件訂正後の請求項1に係る発明は、平成30年11月19日にされた訂正請求における請求項1を引用した請求項4に係る発明と同じものである。そして、当該請求項4についてはすでに意見書を提出する機会を与えたものである。
したがって、特許法120条の5第5項ただし書の特別の事情があると認め、本件訂正請求に関し、申立人に対して意見書を提出する機会を与えなかった。

第4 本件発明
前記第2のとおり本件訂正請求は認容されるから、本件特許の請求項1?3、5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3、5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
内容物が吐出される吐出孔と、前記吐出孔と容器本体内とを連通し、かつ前記吐出孔に、キャップ軸に沿う上下方向の容器本体側である下側から対向する連通孔と、が形成されるとともに、前記連通孔を開閉する弁体を備える吐出キャップであって、
前記弁体は、前記吐出孔と前記連通孔とを連通する連通空間内で、前記吐出孔に対して接近、離反するように上下方向に弾性変位することで、前記連通孔を開閉し、
前記連通空間には、前記弁体の外周縁に、上下方向の反容器本体側である上側から対向する環状の案内部が設けられ、
前記案内部は、前記連通孔からの内容物を、この案内部の径方向の内側に向けて導き、
前記案内部は、この案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部を備えており、
前記案内部は、外周側に平坦部を備え、
該平坦部は前記傾斜部と連続していることを特徴とする吐出キャップ。
【請求項2】
前記案内部の内部は全域にわたって前記弁体に上側から対向していることを特徴とする請求項1記載の吐出キャップ。
【請求項3】
前記連通空間は、下端部内に前記連通孔が設けられた大径部と、前記大径部から上側に向けて延び、上端部内に前記吐出孔が設けられた小径部と、を備え、
前記案内部は、前記大径部の内周面と前記小径部の内周面とを接続する段部により形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の吐出キャップ。
【請求項5】
前記弁体において前記案内部の軸線上に位置する部分には、上側に向けて突出する突出部が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の吐出キャップ。

第5 取消理由の概要
(1)本件訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、平成30年 9月12日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、当該取消理由は、申立人が本件特許異議申立書(以下、「申立書」という。)で主張した全ての申立理由を含むものとなっている。
<刊行物一覧>
刊行物1:特開2011-230840号公報
刊行物2:特開2013-71753号公報
刊行物3:特開2012-192975号公報
刊行物4:特開平7-17552号公報
刊行物5:特許第3631321号公報
刊行物1?5は、それぞれ、申立書に添付された甲第1号証?甲第5号証である。
(取消理由1)請求項1?3に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。
(取消理由2)請求項1?3に係る発明は、刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。
(取消理由3)請求項1?5に係る発明は、刊行物3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。
(取消理由4)請求項4に係る発明は、刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明及び刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。
(取消理由5)請求項5に係る発明は、刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明及び刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。
(2)また、取り下げられたものとみなされる平成30年11月19日の訂正の請求による訂正後の請求項1?5に係る特許に対して、平成31年 1月18日付けで特許権者に通知した取消理由通知書(決定の予告)の結論は、当該訂正の請求による訂正を認めると共に、請求項1?3、5に係る特許を取り消し、同請求項4に係る特許を維持するものであって、当該請求項1?3、5に係る特許についての取消理由の概要は以下のとおりである。
ア.請求項1?3に係る発明は、刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。(上記取消理由2)
イ.請求項1?3、5に係る発明は、刊行物3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。(上記取消理由3)
ウ.請求項5に係る発明は、刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明及び刊行物5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができず、取り消されるべきものである。(上記取消理由5)

第6 刊行物の記載事項、技術的事項ないし発明
1.刊行物1について
(1)刊行物1の【0011】?【0032】、【図1】?【図3】には、注出キャップ部材16の具体的構成が記載されている。
(2)刊行物1の【0020】の「弁本体26は、・・・嵌合筒35にヒンジ部29aを介して連結されてこの嵌合筒35内と基板部材25の接続孔24とを連通、遮断する板状の開閉弁29と、を備えている。・・・」との記載、【0026】の「そして、前述の押圧を解除すると、逆止弁20の弁本体26の開閉弁29が、ヒンジ部29aの復元変形によってヒンジ部29a回りに下方に向けて回動して基板部材25の接続孔24を上方から閉塞し、注出口15と内容器11内との連通が遮断される・・・。」との記載、及び【図1】?【図3】の図示から、開閉弁29は、注出口15と接続孔24とを連通する空間内で、ヒンジ部29a周りに回動し、回動方向に弾性変位することで、前記接続孔24を開閉することが読み取れる。
(3)刊行物1の図1の開示から、注出キャップ部材16が、開閉弁29の外周縁に上側から対向する環状の壁部(図1における注出筒19cの内部下端から外周に向かう部分)を有することは明らかである。また、図2、3に示されるように、開閉弁29が開いて内容物Wが注出されるとき、当該内容物Wが容器軸Oと同軸に配置された注出口15に向けて導かれることも明らかである。
(4)上記(1)?(3)を踏まえると、刊行物1には、次の刊行物1発明が記載されている。
<刊行物1発明>
「内容物Wが吐出される注出口15と、前記注出口15と容器本体13内とを連通し、かつ前記注出口15に、容器軸Oに沿う上下方向の容器本体13側である下側から対向する接続孔24と、が形成されるとともに、前記接続孔24を開閉する開閉弁29を備える注出キャップ部材16であって、
前記開閉弁29は、前記注出口15と前記接続孔24とを連通する空間内で、回動方向に弾性変位することで、前記接続孔24を開閉し、
前記空間には、前記開閉弁29の外周縁に、上下方向の反容器本体13側である上側から対向する環状の壁部(図1における注出筒19cの内部下端から外周に向かう部分)が設けられ、
開閉弁29が開いて内容物Wが注出されるとき、当該内容物Wを容器軸Oと同軸に配置された注出口15に向けて導く注出キャップ部材16。」
2.刊行物2について
(1)刊行物2の【0016】?【0051】、【図1】?【図4】には、吐出キャップ17及び弁部材19からなる部材の具体的構成が記載されている。
(2)刊行物2の【0033】の「また吐出弁38は、前記容器軸Oと同軸に配置されるとともに前記連通口14よりも大径な弁本体41と、弁本体41と前記固定リング部40とを連結する弾性連結片42と、を備えている。・・・」との記載、【0036】の「・・・そして、この減容変形に伴い内容器11の内圧が正圧となり、この正圧が、前記連通口14を通して吐出弁38の弁本体41に作用することで、吐出弁38の弾性連結片42が弾性変形する。このとき、弁本体41が、基筒部18の前記下端部18a内を上方に移動して中栓15から離間することで連通口14が開放され・・・」との記載、【0037】の「その後、例えば容器本体13のスクイズ変形を停止する等して内容器11の内圧を低下させると、吐出弁38が復元変形することで連通口14が閉塞され・・・」との記載、【0047】の「また吐出弁38は、前記実施形態に示したものに限られず、例えばいわゆる三点弁など、弾性連結片42が弁本体41に周方向に間隔をあけて複数連設された構成などを採用することも可能である。つまり吐出弁38は、中栓15上に、連通口14を上方(吐出キャップの頂壁部側)から閉塞するように載置されるとともに、上方に弾性変形する他の構成に、適宜変更することが可能である。」との記載、及び【図1】?【図4】の図示から、弁本体41は吐出口16と連通口14とを連通する空間内で、前記吐出口16に対して接近、離反するように上下方向に弾性変位することで、前記連通口14を開閉することが示されているといえる。
(3)刊行物2において、弁本体41が開いて内容物が吐出されるとき、当該内容物が容器軸Oと同軸に配置された小径の上端部18bに向けて導かれることは明らかである。
(4)上記(1)?(3)を踏まえると、刊行物2には、次の刊行物2発明が記載されている。
<刊行物2発明>
「内容物が吐出される吐出口16と、前記吐出口16と容器本体13内とを連通し、かつ前記吐出口16に、容器軸Oに沿う上下方向の容器本体13側である下側から対向する連通口14と、が形成されるとともに、前記連通口14を開閉する弁本体41を備える吐出キャップ17及び弁部材19からなる部材であって、
前記弁本体41は、前記吐出口16と前記連通口14とを連通する空間内で、前記吐出口16に対して接近、離反するように上下方向に弾性変位することで、前記連通口14を開閉し、
前記空間には、前記弁本体41の外周縁に、上下方向の反容器本体14側である上側から対向する中間部18cが設けられ、
弁本体41が開いて内容物が吐出されるとき、当該内容物を容器軸Oと同軸に配置された小径の上端部18bに向けて導く吐出キャップ17及び弁部材19からなる部材。」
3.刊行物3について
(1)刊行物3の【0030】?【0086】、図1?15には、「吐出キャップ15」の具体的構成が記載されている。
(2)刊行物3の【0047】の「そして本実施形態では、連通孔43内には、容器軸O方向に沿って摺動可能に嵌合され、容器軸O方向に沿って弾性変位して当該連通孔43を開閉する弁体部44が配設されている。・・・弁体部44の底面は、・・・貫通孔42の上端開口面上に位置し、貫通孔42と連通孔43との連通を遮断している。」との記載、【0048】の「また弁体部44の上端は、連通筒部22の上端よりも上側に位置しており、図2および図3に示すように、弁体部44の上端(図9に示す実施形態では、弁体部44のフランジ部44a)には、弁体部44と外嵌筒部40とを連結する弾性連結片45の一端が連結されている。・・・」との記載、【0049】の「弾性連結片45は、弾性変形することによって、弁体部44が容器軸O方向に沿って変位することを許容する(なお、本明細書では、このように弾性連結片45が弾性変形しつつ弁体部44が変位することを弾性変位と表現している)。・・・」との記載、【0053】の「すると、内容器11内の圧力が上昇し、内容器11内の内容物Mが貫通孔42を通して弁体部44を押圧することとなり、弾性連結片45が弾性変形させられて弁体部44が容器軸O方向に沿って内容器11の外側に向けて弾性変位させられて、連通孔43が開放される。これにより、内容器11内の内容物Mが、貫通孔42、連通孔43、外嵌筒部40内および吐出口14を通して外部に吐出される。」との記載、【0054】の「その後、吐出容器10の押し込みを停止したり解除したりすることで、内容器11内の内容物Mによる弁体部44への押圧力を弱めると、弾性連結片45の弾性復元力により、弁体部44が、容器軸O方向に沿って内容器11の内側に復元変位させられる。」との記載、及び【図1】?【図15】の図示から、弁体部44は、吐出口14と貫通孔42とを連通する空間内で、前記吐出口14に対して接近、離反するように上下方向に弾性変位することで、前記貫通孔42を開閉することが示されているといえる。
(3)刊行物3の【0063】の「例えば、図6に示す吐出容器50のように、吐出口14を容器軸Oと同軸に配置してもよい。」との記載に基づいて吐出キャップ15を構成した際には、弁体部44が開いて内容物Mが吐出されるとき、当該内容物Mが容器軸Oと同軸に配置された吐出口14に向けて導かれることは明らかである。
(4)上記(1)?(3)を踏まえると、刊行物3には、次の刊行物3発明が記載されている。
<刊行物3発明>
「内容物Mが吐出される吐出口14と、前記吐出口14と容器本体13内とを連通し、かつ前記吐出口14に、容器軸Oに沿う上下方向の容器本体13側である下側から対向する貫通孔42と、が形成されるとともに、前記貫通孔42を開閉する弁体部44を備える吐出キャップ15であって、
前記弁体部44は、前記吐出口14と前記貫通孔42とを連通する空間内で、前記吐出口14に対して接近、離反するように上下方向に弾性変位することで、前記貫通孔42を開閉し、
前記空間には、前記弁体部44の外周縁に、上下方向の反容器本体13側である上側から対向する環状の壁部(図6における上板部32の下面と補助筒部51、図11、14、15における上板部32の下面と変位量規制部23c)が設けられ、
前記壁部は、下側に向けて延びる補助筒部51または変位量規制部23cを備えており、
弁体部44が開いて内容物Mが吐出されるとき、当該内容物Mを容器軸Oと同軸に配置された吐出口14に向けて導く吐出キャップ15。」
4.刊行物4について
(1)刊行物4の【0020】?【0032】、【図1】?【図6】には、「主キャップ1」の具体的構成が記載されている。
(2)刊行物4の図1における頂壁3から注出筒4にかけての弁片10に対向する部分は、弁片10が開いて内容液が注出筒4に向かうとき、当該内容液を径方向の内側に向けて導く作用があるといえる。そして、刊行物4の図1から、上記頂壁3から注出筒4にかけての弁片10に対向する部分において、注出筒4の内部下端に下側に向けて延びる突出部が備えられていることが読み取れる。
(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、刊行物4には次の刊行物4事項が記載されている。
<刊行物4事項>
「案内部(図1における頂壁3から注出筒4にかけての弁片10に対向する部分)は、下側に向けて延びる突出部を備えている。」
5.刊行物5について
(1)刊行物5の【0008】?【0016】、図1、2には、「キャップ14」の具体的構成が記載されており、特に【0013】、図1、2には「弁板12」に「棒状突起13」を備える構成が記載されている。
(2)上記(1)を踏まえると、刊行物5には、次の刊行物5事項が記載されている。
<刊行物5事項>
「注出口8を開閉する弁板12を備え、当該弁板12における中央部分に、上側に向けて突出する棒状突起13を設け、弁板12で注出口8下端開口を閉塞した状態では棒状突起13は注出口8内に挿入しており、その状態から棒状突起13が下降すると、注出口8内の空間の容積が増大して注出口8内の液が吸引される。」

第7 当審の判断
1.取消理由1について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「内容物W」、「注出口15」、「容器本体13」、「容器軸O」、「接続孔24」、「開閉弁29」、「注出キャップ部材16」、「前記注出口15と前記接続孔24とを連通する空間」は、それぞれ、本件発明1における「内容物」、「吐出孔」、「容器本体」、「キャップ軸」、「連通孔」、「弁体」、「吐出キャップ」、「連通空間」に相当する。
また、刊行物1発明において、「開閉弁29が開いて内容物Wが注出されるとき、当該内容物Wを容器軸Oと同軸に配置された注出口15に向けて導く」際に、「環状の壁部」(図1における注出筒19cの内部下端から外周に向かう部分)は、その構成からみて、内容物Wを径方向の内側に向けて案内する作用を有するといえる。したがって、刊行物1発明の「環状の壁部」は、本件発明1の「連通孔からの内容物を、この案内部の径方向の内側に向けて導」く「環状の案内部」に相当する。
イ.そうすると、本件発明1と刊行物1発明とは、次の<相違点1>及び<相違点2>で相違する。
<相違点1>弁体について、本件発明1では、吐出孔に対して接近、離反するように上下方向に弾性変位するのに対して、刊行物1発明では、開閉弁29は、回動方向に弾性変位する点。
<相違点2>案内部の形状について、本件発明1では、案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部と、外周側に平坦部を備え、該平坦部は前記傾斜部と連続しているのに対し、刊行物1発明では、そのように特定されていない点。
そして、上記<相違点1>は、弁体の具体的な動作態様の差異であり、また上記<相違点2>は、案内部の具体的な形状についての特定の有無であるから、両相違点は、実質的な相違点である。したがって、本件発明1は刊行物1発明であるとはいえない。
(2)本件発明2及び本件発明3について
本件発明2及び本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、それぞれ刊行物1発明と対比すると、少なくとも上記(1)イ.の<相違点1>及び<相違点2>で相違する。よって、本件発明2及び本件発明3は刊行物1発明であるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3は、いずれも、刊行物1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものではなく、その特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として取り消されるべきものとはいえない。

2.取消理由2について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明における「内容物」、「吐出口16」、「容器本体13」、「容器軸O」、「連通口14」、「弁本体41」、「吐出キャップ17及び弁部材19からなる部材」、「前記吐出口16と前記連通口14とを連通する空間」は、それぞれ、本件発明1における「内容物」、「吐出孔」、「容器本体」、「キャップ軸」、「連通孔」、「弁体」、「吐出キャップ」、「連通空間」に相当する。
また、刊行物2発明において、「弁本体41が開いて内容物が吐出されるとき、当該内容物を容器軸Oと同軸に配置された小径の上端部18bに向けて導く」際に、「中間部18c」は、その構成からみて、内容物を径方向の内側に向けて案内する作用を有するといえる。したがって、刊行物2発明の「中間部18c」は、本件発明1の「連通孔からの内容物を、この案内部の径方向の内側に向けて導」く「環状の案内部」に相当する。
イ.そうすると、本件発明1と刊行物2発明とは、次の<相違点>で相違する。
<相違点>案内部の形状について、本件発明1では、案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部と、外周側に平坦部を備え、該平坦部は前記傾斜部と連続しているのに対し、刊行物2発明では、そのように特定されていない点。
そして、上記<相違点>は、案内部の具体的な形状についての特定の有無であるから、実質的な相違点である。したがって、本件発明1は刊行物2発明であるとはいえない。
(2)本件発明2及び本件発明3について
本件発明2及び本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、それぞれ刊行物2発明と対比すると、少なくとも上記(1)イ.の<相違点>で相違する。よって、本件発明2及び本件発明3は刊行物2発明であるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3は、いずれも、刊行物2発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものではなく、その特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として取り消されるべきものとはいえない。

3.取消理由3について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と刊行物3発明とを対比すると、刊行物3発明における「内容物M」、「吐出口14」、「容器本体13」、「容器軸O」、「貫通孔42」、「弁体部44」、「吐出キャップ15」、「前記吐出口14と前記貫通孔42とを連通する空間」は、それぞれ、本件発明1における「内容物」、「吐出孔」、「容器本体」、「キャップ軸」、「連通孔」、「弁体」、「吐出キャップ」、「連通空間」に相当する。
また、刊行物3発明において、「弁体部44が開いて内容物Mが吐出されるとき、当該内容物Mを容器軸Oと同軸に配置された吐出口14に向けて導く」際に、「環状の壁部」(図6における上板部32の下面と補助筒部51、図11、14、15における上板部32の下面と変位量規制部23c)は、その構成からみて、内容物Mを径方向の内側に向けて案内する作用を有するといえる。したがって、刊行物3発明の上記「環状の壁部」は、本件発明1の「連通孔からの内容物を、この案内部の径方向の内側に向けて導」く、「環状の案内部」に相当する。
イ.そうすると、本件発明1と刊行物3発明とは、次の<相違点>で相違する。
<相違点>案内部の形状について、本件発明1では、案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部と、外周側に平坦部を備え、該平坦部は前記傾斜部と連続しているのに対し、刊行物3発明では、そのように特定されていない点。
そして、上記<相違点>は、案内部の具体的な形状についての特定の有無であるから、実質的な相違点である。したがって、本件発明1は刊行物3発明であるとはいえない。
(2)本件発明2、本件発明3及び本件発明5について
本件発明2、本件発明3及び本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、それぞれ刊行物3発明と対比すると、少なくとも上記(1)イ.の<相違点>で相違する。よって、本件発明2、本件発明3及び本件発明5は刊行物3発明であるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3、5は、いずれも、刊行物3発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものではなく、その特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として取り消されるべきものとはいえない。

4.取消理由4について
(1)取消理由4の対象となる請求項について
取消理由4は、訂正前の請求項4についてのものであるところ、本件訂正によって請求項4に係る発明特定事項は全て本件発明1に含まれるものとなり、請求項4は削除された。
したがって、本件発明1が取消理由4により取り消されるものか否かについて以下検討する。
(2)本件発明1について
ア.本件発明1と刊行物1発明及び刊行物2発明の各々とを対比すると、上記1.(1)イ.及び2.(1)イ.で指摘した内容からみて両者は次の<相違点>で少なくとも相違する。
<相違点>案内部の形状について、本件発明1では、案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部と、外周側に平坦部を備え、該平坦部は前記傾斜部と連続しているのに対し、刊行物1発明及び刊行物2発明の各々は、そのように特定されていない点。
イ.上記<相違点>について検討する。
刊行物1及び刊行物2には、本件発明1の上記<相違点>に係る構成について記載されておらず、これを示唆する記載もない。また、刊行物3?5にも、本件発明1の上記<相違点>に係る構成が記載されておらず、これを示唆する記載もない。
そして、本件発明1は、上記<相違点>に係る構成を備えることにより、案内部が内容物を案内部の径方向の内側に導くときに、この内容物を案内部上に留めさせ易くすることができ、もって、内容物を効果的に集約し、案内部の内部を通過する内容物の流量についての位置のばらつきを確実に小さく抑えることができるという、格別な効果を奏する(本件特許明細書の【0013】、【0048】参照)。
ゆえに、刊行物1発明又は刊行物2発明において、本件発明1の上記<相違点>に係る構成を備えることは、当業者であっても容易であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物1発明又は刊行物2発明、及び刊行物3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1発明又は刊行物2発明、及び刊行物3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、その特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として取り消されるべきものとはいえない。

5.取消理由5について
(1)本件発明5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記「4.取消理由4について」で本件発明1について述べたのと同様の理由により、刊行物1発明又は刊行物2発明、及び刊行物3?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)小括
以上のとおりであるから、本件発明5は、刊行物1発明又は刊行物2発明、及び刊行物3?5事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、その特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として取り消されるべきものとはいえない。

第8 申立人の主張について
申立人は、平成30年12月19日に提出した意見書において、本件発明1?3、5の「案内部は、この案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部を備えており、前記案内部は、外周側に平坦部を備え、該平坦部は前記傾斜部と連続している」構成が、刊行物3及び刊行物4に記載されていると主張する。
そこで、まず刊行物3について検討すると、申立人は、刊行物3の図11を根拠として、変位量規制部23cの外周が「傾斜部」に相当すると主張する。しかし、刊行物3において、上記変位量規制部23cは、弁体部44の変位量を規制する複数の突起として記載されているから(【0083】参照)、当該変位量規制部23cを含めた部分は、「環状」であるとはいえず、本件発明の「環状の案内部」に相当するものではない。また、一般に特許文献の図面は設計図面とは異なり正確な形状や寸法関係を表すものではないから、刊行物3の図面において変位量規制部23cの外周下端部にわずかな丸みが看取できることのみをもって、これが本件発明の「傾斜部」に相当するものと認めることもできない。さらに、仮にこれが「傾斜部」に相当すると認められるとしても、刊行物3の図11、14、15は、変位量規制部23cが平坦部(上板部32の下面)から下方向に延びる外周面を経て、その下端近傍に丸みを有することを示しているから、「該平坦部は前記傾斜部と連続している」ものとはいえない。よって、刊行物3の記載及び本件出願当時の技術常識を考慮しても、本件発明に係る上記の構成を刊行物3において採用する動機付けがない。
また、刊行物4について検討すると、申立人は、刊行物4の図1を根拠として、注出筒4の内部下端の段部が「傾斜部」に相当すると主張する。しかし、刊行物4には、当該段部の具体的な形状については何ら言及されていない。また、一般に特許文献の図面は設計図面とは異なり正確な形状や寸法関係を表すものではないから、刊行物4の図面において当該段部の外周が鉛直方向からわずかに傾いた線分で描かれていることのみをもって、これが本件発明の「傾斜部」に相当すると認めるに足りるものではない。また、仮に当該部分に傾斜部を有することが認められるとしても、その傾斜部が技術的にどのような貢献をもたらすものか、刊行物4の記載及び本件出願当時の技術常識から当業者が把握し得たものとは認められないから、この傾斜部を刊行物1発明や刊行物2発明等に組み合わせる動機付けがない。
よって、申立人の上記主張は、当を得たものではなく、採用できない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?3、5に係る特許を取り消すことができない。また、他に本件発明1?3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、上記第2のとおり本件訂正が認められることにより、請求項4は削除され、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。よって、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物が吐出される吐出孔と、前記吐出孔と容器本体内とを連通し、かつ前記吐出孔に、キャップ軸に沿う上下方向の容器本体側である下側から対向する連通孔と、が形成されるとともに、前記連通孔を開閉する弁体を備える吐出キャップであって、
前記弁体は、前記吐出孔と前記連通孔とを連通する連通空間内で、前記吐出孔に対して接近、離反するように上下方向に弾性変位することで、前記連通孔を開閉し、
前記連通空間には、前記弁体の外周縁に、上下方向の反容器本体側である上側から対向する環状の案内部が設けられ、
前記案内部は、前記連通孔からの内容物を、この案内部の径方向の内側に向けて導き、
前記案内部は、この案内部の径方向の内側に向かうに従い漸次下側に向けて延びる傾斜部を備えており、
前記案内部は、外周側に平坦部を備え、
該平坦部は前記傾斜部と連続していることを特徴とする吐出キャップ。
【請求項2】
前記案内部の内部は全域にわたって前記弁体に上側から対向していることを特徴とする請求項1記載の吐出キャップ。
【請求項3】
前記連通空間は、下端部内に前記連通孔が設けられた大径部と、前記大径部から上側に向けて延び、上端部内に前記吐出孔が設けられた小径部と、を備え、
前記案内部は、前記大径部の内周面と前記小径部の内周面とを接続する段部により形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の吐出キャップ。
【請求項4】
(削 除)
【請求項5】
前記弁体において前記案内部の軸線上に位置する部分には、上側に向けて突出する突出部が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の吐出キャップ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-17 
出願番号 特願2014-69542(P2014-69542)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 正宗  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 西尾 元宏
佐々木 正章
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6251622号(P6251622)
権利者 株式会社吉野工業所
発明の名称 吐出キャップ  
代理人 仁内 宏紀  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 三義  
代理人 仁内 宏紀  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  

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