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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B29B
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29B
審判 一部申し立て 2項進歩性  B29B
管理番号 1353126
異議申立番号 異議2018-700608  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-23 
確定日 2019-05-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6265270号発明「繊維強化樹脂材料、成形品、繊維強化樹脂材料の製造方法及び製造装置、並びに繊維束群の検査装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6265270号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第6265270号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6265270号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2016年6月24日(優先権主張 平成27年6月24日 同年8月14日 同年12月24日)を国際出願日とする出願であって、平成30年1月5日にその特許権の設定登録(請求項の数16)がされ、同年1月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月23日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされ、同年10月9日に取消理由が通知され、同年11月26日に特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年12月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成31年2月22日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年3月1日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月2日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
平成31年2月22日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、」とあるのを、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を直接引用する請求項3についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、」とあるのを、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項2を直接引用する請求項3についても、請求項2を訂正したことに伴う訂正をする。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「分散された繊維束」とされていたのを、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」と、不織布を除いたものに限定するものである。
これは、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2において、「分散された繊維束」とされていたのを、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」と、不織布を除いたものに限定するものである。
これは、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2は、それぞれ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項3は訂正前の請求項1又は2を直接引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし3は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1及び2は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし3に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、平成31年2月22日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、前記樹脂が熱硬化性樹脂であり、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である、繊維強化樹脂材料。
【数1】

ただし、前記式中、f(φ_(i))は、下式(2)で表される、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ_(i))の輝度(I(φ_(i)))から平均の輝度を差し引いた輝度であり、dφは、X線回折測定のステップ幅である。I(φ_(i))は、下式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。
【数2】

【請求項2】
分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、前記樹脂が熱硬化性樹脂であり、
繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である、繊維強化樹脂材料。
【数3】

ただし、前記式(4)中、aは、式(5)で表される配向係数である。I(φ_(i))は、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ_(i))の輝度であり、式(6)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂材料の成形品であって、
成形品の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、
それぞれの方向に沿った曲げ弾性率[GPa]の比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)が、0.8?1.2であり、
それぞれの方向に沿った曲げ弾性率の変動係数(CV)(0°曲げ弾性率のCV及び90°曲げ弾性率のCV)[%]が何れも5?15である、成形品。」

第4 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要及び平成30年12月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
1 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要
平成30年7月23日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立て理由の概要は次のとおりである。なお、該申立て理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3に対するものである。

(1)申立て理由1(実施可能要件)本件特許の請求項1及び3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立て理由2(サポート要件)本件特許の請求項1及び3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立て理由3(進歩性)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(甲第1ないし5号証のそれぞれを主引用文献とする理由である。)。
(4)証拠方法
甲第1号証:特開2014-15706号公報
甲第2号証:国際公開第2013/191073号
甲第3号証:国際公開第2007/020910号
甲第4号証:特開2009-62474号公報
甲第5号証:THE INFLUENCE OF FIBER TOW SIZE ON THE PERFORMANCE OF CHOPPED CARBON FIBER REINFORCED COMPOSITES、Jeffrey S. Dahl, Glen L. Smith, Daniel Q. Houston、37th International SAMPE Technivcal Conference 2005. Seattle, WA.、発行日:2005年、第1?16頁
甲第6号証:甲第5号証に記載の表A4および表A5を整理した新たな表を示す参考資料
甲第7号証:X線回折によるCNFの配向評価、岩蕗 仁、岡山県工業技術センター報告第34号「岡山県工業技術センター」に収載、2008年7月、表紙、奥付
甲第8号証:2014年度実施状況報告書、名城大学、2016年5月27日発行)、科学研究費助成事業データベースのウェブサイト(https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-26630014/266300142014hokoku/)より入手可能
甲第9号証:科学研究費助成事業 研究成果報告書、2016年10月17日公開
なお、文献名等の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
また、特許異議申立書の第1ページの「(1)申立ての理由の要約」及び第69ページの「(5)むすび」においては、実施可能要件違反及びサポート要件違反は、請求項2も対象としているが、請求項2については、実質的な主張は何らされていないので、請求項2については対象としていないものと判断した。

2 平成30年12月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
平成30年12月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は、次のとおりである。なお、該取消理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3に対するものである。また、該取消理由のうち、進歩性の取消理由は、特許異議申立書に記載した甲1を主引用文献とする進歩性の申立て理由とおおむね同旨である。

(1)(新規性)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)(進歩性)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 当審の判断
1 取消理由(決定の予告)について
(1)甲1の記載事項、甲1発明及び甲1成形品発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項(以下、「甲1の記載事項」という。)が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

・「【請求項1】
炭素繊維の短繊維が二次元ランダムに分散している不織布であって、該炭素繊維の繊維軸方向の引張弾性率が400GPa以上で、繊維軸方向の熱伝導率が60W/mK以上であり、かつ、該炭素繊維のうち、繊維長が5?50mmのものの重量割合が60wt%以上であることを特徴とする炭素繊維不織布。
・・・(略)・・・
【請求項3】
炭素繊維の短繊維を湿式抄紙してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維不織布。
・・・(略)・・・
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布に樹脂を複合化させてなることを特徴とする炭素繊維強化樹脂シート。
【請求項7】
該炭素繊維不織布に樹脂の融液または溶液を含浸させてなる請求項6に記載の炭素繊維強化樹脂シート。
【請求項8】
請求項4または5に記載の炭素繊維不織布または該炭素繊維不織布を複数枚積層してなる積層体を加熱加圧成形してなることを特徴とする炭素繊維強化樹脂シート。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素繊維不織布と樹脂フィルムとを積層し、加熱加圧成形してなることを特徴とする炭素繊維強化樹脂成形体。」

・「【0042】
炭素短繊維から不織布を製造する方法としては様々な方法があり、例えば、乾式法による不織布の作製方法としては、針や凹凸のついたロール間に繊維を通して機械的に叩解・解繊してシート化するカード法、あるいは、繊維を気流中で浮遊・解繊した後にスクリーン上に吸引してシート化するエアレイ法などがある。また、湿式法による作製方法としては、繊維を溶媒中に分散させ、製紙工業で使われるビーター、パルパーなどの装置を使用して解繊させた後に網上に抄き上げ、付着した溶媒を乾燥除去してシート化する所謂湿式抄紙法などがある。」

・「【0043】
不織布の製造に使用する炭素短繊維の繊維長さとしては、5?50mm、特に10?30mmであることが好ましい。」

・「【0049】
{目付}
本発明の炭素繊維不織布における炭素短繊維の目付、すなわち単位面積あたりの炭素短繊維の重量(Fiber Areal Weight、以下FAWと記す)は20?500g/m^(2)、特に100?250g/m^(2)であることが好ましい。FAWの小さいものは、所望の厚さの成形体を得るためには、後述する成形工程で不織布および/または炭素繊維強化樹脂シートの積層枚数を多くする必要があり、製造工程が煩雑となる。逆にFAWの大きいものは、樹脂の含浸性が悪く、樹脂の複合化が困難となる。」

・「【0050】
{炭素短繊維の長さ}
炭素繊維不織布にあっては、不織布を作製する過程で炭素繊維が損傷して折れてしまうことが多いため、不織布の作成に用いた炭素短繊維の長さがそのまま保持されない場合が多い。このため、最終的に得られる成形体で、用いた炭素短繊維が有する優れた特性を十分に発現させるためには、不織布の状態で、それに含まれる炭素短繊維のうち、繊維長が5?50mmのものの重量割合が60wt%以上、好ましくは75wt%以上となるように、不織布の製造工程における操作を工夫することが重要である。」

・「【0055】
本発明において、炭素繊維と複合化する樹脂については特に制限はなく、各種の硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が挙げられ、硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂が挙げられる。」

・「【0063】
なお、上記の炭素繊維強化樹脂シートとしては、この炭素繊維強化樹脂シートと積層する炭素繊維不織布や樹脂フィルムの有無などによってもその炭素繊維含有率は異なるが、通常、炭素繊維含有率10?60vol%、特に30?55vol%、重量割合として15?75wt%、特に45?70wt%、樹脂含有率が25?85wt%、特に30?55wt%で、その厚さが0.1?1mm程度のものが好ましく用いられる。」

・「【0066】
{特性}
本発明の炭素繊維強化樹脂成形体は、好ましくは、嵩密度が1.8g/cm^(3)以下であり、かつ、面内方向の特性が等方性であり、面内方向の曲げ弾性率が40GPa以上、面内方向の熱伝導率が20W/mK以上、面内方向の線膨張係数が3×10^(-6)/℃以下である。
【0067】
ここで、成形体の面内方向(この面内方向とは、成形体に含まれる不織布の不織布面方向である。)の特性が等方性であるとは、当該成形体について、曲げ弾性率、熱伝導率、線膨張係数を測定した場合、面内方向のどの方向で測定しても、その測定値の方向別の平均値の差が15%以内であることを言う。この等方性を正確に把握するためには、成形体の面内方向について全方向360°に対して、各特性値を評価する必要があるが、一般的には、面内方向の一方向についての測定値と、この方向に対して直交する方向についての測定値とを比較すれば、おおまかな等方性を評価することができる。」

「【0081】
[実施例1]
繊維長さ方向の引張弾性率640GPa、熱伝導率140W/mK、平均繊維径11μmのピッチ系炭素繊維を長さ30mmに切断加工して得られた短繊維(三菱樹脂(株)製ダイアリード「K6371T」)を使用し、これを水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって、FAW250g/m^(2)の炭素繊維不織布を作製した。この不織布に、未硬化のエポキシ樹脂(三菱樹脂(株)製「C333E」)をメチルエチルケトン溶媒に溶かして含浸させ、乾燥して溶剤を除去して樹脂含有率45wt%の炭素繊維強化樹脂シートを得た。これを8枚積層し、125℃に加熱した熱盤プレスで挟み込み、60kg/cm^(2)の圧力をかけて20分間保持し、エポキシ樹脂を硬化させて、厚さ2mm、炭素繊維含有率45vol%、樹脂含有率45wt%の炭素繊維強化樹脂成形体を得た。
この炭素繊維強化樹脂成形体の評価結果を表1に示す。」

・「【0086】
【表1】



・「【0087】
表1より、本発明の炭素繊維強化樹脂成形体は、面内方向の熱伝導率、曲げ弾性率および線膨張係数が等方的に良好で、各種用途に有用であることが分かる。」

イ 甲1発明
甲1の記載事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「繊維長さ方向の引張弾性率640GPa、熱伝導率140W/mK、平均繊維径11μmのピッチ系炭素繊維を長さ30mmに切断加工して得られた短繊維(三菱樹脂(株)製ダイアリード「K6371T」)を水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって、作製したFAW250g/m^(2)の炭素繊維不織布に、未硬化のエポキシ樹脂(三菱樹脂(株)製「C333E」)をメチルエチルケトン溶媒に溶かして含浸させ、乾燥して溶剤を除去して樹脂含有率45wt%の炭素繊維強化樹脂シートを得、これを8枚積層し、125℃に加熱した熱盤プレスで挟み込み、60kg/cm^(2)の圧力をかけて20分間保持し、エポキシ樹脂を硬化させて得た厚さ2mm、炭素繊維含有率45vol%、樹脂含有率45wt%の炭素繊維強化樹脂成形体。」

ウ 甲1成形品発明
甲1の【0087】の記載によると、甲1発明は、各種用途に使用されるものであるといえるから、甲1には、次の発明(以下、「甲1成形品発明」という。)が記載されていると認める。

「甲1発明の成形品。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって、作製したFAW250g/m^(2)の炭素繊維不織布」は、当該「炭素繊維不織布」の「繊維長さ方向の引張弾性率640GPa、熱伝導率140W/mK、平均繊維径11μmのピッチ系炭素繊維を長さ30mmに切断加工して得られた短繊維(三菱樹脂(株)製ダイアリード「K6371T」)」とは、短繊維束(当審注:三菱樹脂(株)製ダイアリード「K6371T」は、チョップドファイバーであり、チョップドファイバーが短繊維束であることは当業者に明らかである。)であって、当該短繊維束を水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって作製されたものであり、「炭素繊維不織布」は原料のチョップドファイバーが分散した状態といえるから、「炭素繊維不織布」であるとしても「分散された繊維束」であるといえるので、本件特許発明1における「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」と、「分散された繊維束」という限りにおいて、一致する。
また、甲1発明における「未硬化のエポキシ樹脂(三菱樹脂(株)製「C333E」)」は、本件特許発明1における「熱硬化性樹脂」に相当し、以下、同様に、「これを8枚積層し、125℃に加熱した熱盤プレスで挟み込み、60kg/cm^(2)の圧力をかけて20分間保持し、エポキシ樹脂を硬化させて得た厚さ2mm、炭素繊維含有率45vol%、樹脂含有率45wt%の炭素繊維強化樹脂成形体」は「繊維強化樹脂材料」に相当する。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、前記樹脂が熱硬化性樹脂である、繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点1-1>
「分散された繊維束」に関して、本件特許発明1においては、「分散された繊維束(ただし不織布を除く。)」であるのに対して、甲1発明においては、「水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって、作製したFAW250g/m^(2)の炭素繊維不織布」である点。

<相違点1-2>
本件特許発明1においては、「X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である」(当審注:式の表記は省略する。以下、同様。)と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、まず、相違点1-1について検討する。
本件特許発明1においては、「分散された繊維束(ただし不織布を除く。)」と「不織布を除く」ことが特定されているのに対して、甲1発明においては、「水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって、作製したFAW250g/m^(2)の炭素繊維不織布」、すなわち「不織布」そのものであるから、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲1発明において、「水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって、作製したFAW250g/m^(2)の炭素繊維不織布」から、「不織布を除く」と繊維強化樹脂成形体でなくなってしまい、そうすることには阻害要因があるといえるから、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲1発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、前記樹脂が熱硬化性樹脂である、繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点2-1>
「分散された繊維束」に関して、本件特許発明2においては、「分散された繊維束(ただし不織布を除く。)」であるのに対して、甲1発明においては、「水に分散させて、製紙用の湿式解繊装置によって、作製したFAW250g/m^(2)の炭素繊維不織布」である点。

<相違点2-2>
本件特許発明2においては、「繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点2-1について検討する。
相違点2-1は、相違点1-1と同じであるから、相違点1-1と同様に、相違点2-1は実質的な相違点であり、また、甲1発明において、相違点2-1に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1成形品発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1又は2と甲1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、前記樹脂が熱硬化性樹脂である、繊維強化樹脂材料の成形品。」

そして、両者は、相違点1-1及び1-2(請求項1を引用する本件特許発明3に対して。)又は相違点2-1及び2-2(請求項2を引用する本件特許発明3に対して。)に加え、次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明3においては、「成形品の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、
それぞれの方向に沿った曲げ弾性率[GPa]の比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)が、0.8?1.2であり、
それぞれの方向に沿った曲げ弾性率の変動係数(CV)(0°曲げ弾性率のCV及び90°曲げ弾性率のCV)[%]が何れも5?15である」と特定されているのに対し、甲1成形品発明においては、そのようには特定されていない点。

そして、上記ア及びイで検討したとおり、相違点1-1及び2-1は、実質的な相違点であり、また、甲1成形品発明において、それらの相違点に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1成形品発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、平成31年4月2日提出の意見書において、おおむね次の主張をしている。
(ア)本件特許の優先日前の技術常識を示す甲10?甲13の記載とを参酌すれば、甲1発明における「炭素繊維不織布」は、「ウェブを形成した後に結合または接着工程を経た不織布」ではなく、「ウェブの段階に相当するもの」と解釈することが妥当である。
また、本件特許発明1における「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」も、本件特許の優先日前の技術常識(甲10?甲13発明)を参酌すれば、ウェブの段階のものに相当するといえる。
以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料」という構成において差異がない。
その結果、本件特許発明1は、依然として甲1発明?甲9発明に基づき進歩性がない。
本件特許発明2及び3に関しても同様である。

(イ)証拠方法
甲第10号証:繊維の百科事典、丸善株式会社、平成14年3月25日発行、第170頁?第177頁、表紙、奥付
甲第11号証:不織布の製造と応用、株式会社シーエムシー、2000年4月30日 普及版第1刷発行、第48頁?第69頁、表紙、奥付
甲第12号証:炭素繊維の最先端技術<<普及版/Popular Edition>>、株式会社シーエムシー出版、2013年4月8日 普及版第1刷発行、第20頁?第21頁、表紙、奥付
甲第13号証:特開2012-162835号公報
なお、文献名等の表記は平成31年4月2日提出の意見書の記載に従った。

イ 特許異議申立人の主張についての判断
甲1発明及び甲1成形品発明は、「炭素繊維不織布」をその発明特定事項としていて、「不織布」を発明特定事項とすることは明らかである。
また、本件特許発明1ないし3における「分散された繊維束」が、不織布が除かれていることも明らかである。
したがって、本件特許発明1と甲1発明及び甲1成形品発明とは、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料」という構成において差異があることは明らかであり、差異がないとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(4)取消理由(決定の予告)についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないので、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は取消理由(決定の予告)によっては、取り消すことはできない。

2 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立て理由について
(1)申立て理由1(実施可能要件)について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人の主張は、おおむね次のとおりである。

本件特許発明1は、以下の構成要件1Dを具備することを必須とする。
(構成要件1D)
X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である。
【数1】
・・・(略)・・・
ただし、前記式中、f(φ_(i))は、下式(2)で表される、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ_(i))の輝度(I(φ_(i)))から平均の輝度を差し引いた輝度であり、dφは、X線回折測定のステップ幅である。I(φ_(i))は、下式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。
【数2】
・・・(略)・・・
しかしながら、発明の詳細な説明には、本件特許発明1の具体例である実施例では、構成要件1D(粗さ度βが0.5?4.5)を具備する発明として、粗さ度β=3.7であるわずか一例が開示されているのみである。
ここで、本件特許明細書には、粗さ度βを0.5?4.5の範囲において調整するための方法に関して何ら開示も示唆もない。
そして、出願時の技術常識を考慮したとしても、粗さ度βを調整する方法が広く知られていたといった事情も認められない。
そのため、粗さ度βに関して具体例が一例しか開示されておらず、かつ、粗さ度の調整方法について開示も示唆もない本件特許明細書によれば、いかに当業者であっても、構成要件1Dの範囲(粗さ度βが0.5?4.5)を具備する本件特許発明1を実施するためには過度の試行錯誤を要されることは明らかである。
したがって、構成要件1Dを必須の発明特定事項とする本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づいて実施可能でない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明3も同様である。

イ 申立て理由1についての判断
(ア)実施可能要件の判断基準
物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。

(イ)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

・「【背景技術】
【0002】
成形品の機械特性に優れるとともに、三次元形状などの複雑形状の成形に適した成形材料としては、SMC(Sheet Molding Compound)やスタンパブルシートが知られている。SMCは、例えば、ガラス繊維やカーボン繊維などの強化繊維を裁断した繊維束の間に、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させた、シート状の繊維強化樹脂材料である。また、スタンパブルシートは、例えば上記の裁断した繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させた、シート状の繊維強化樹脂材料である。
【0003】
SMCは、成形品を得るための中間材料である。SMCを成形加工する際は、金型を用いてSMCを加熱しながら圧縮(プレス)成形する。このとき、繊維束と熱硬化性樹脂とが一体に流動しながら金型のキャビティ内に充填された後、熱硬化性樹脂が硬化される。したがって、このSMCを用いて、部分的に肉厚の異なるもの、リブやボスなどを有するものなど、各種形状の成形品を得ることが可能である。また、スタンパブルシートの成形品は、一度赤外線ヒーターなどで熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、所定の温度の金型にて冷却加圧することによって得ることができる。
【0004】
ところで、上述したSMC(繊維強化樹脂材料)の製造においては、搬送されるシート(キャリア)の上に熱硬化性樹脂を含むペーストを塗工した後に、長尺の繊維束を裁断機で所定の長さに裁断して、ペーストの上に散布することが行われる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
しかしながら、従来の製造方法では、ペーストの上に散布された繊維束の向きがある決まった方向に揃い易く、製造されたSMCの強度に方向性が生じてしまうことがある。具体的に、裁断機から裁断されて落下する繊維束は、搬送されるシートの上に着地した際に、シートの搬送方向に倒れ込み易く、このシートの搬送方向に沿った向きに揃う傾向がある。また、裁断された繊維束の長さが長くなる又はシートの搬送速度が速くなるほど、この傾向が顕著に現れる。
【0006】
このため、従来の製造方法により得られるSMCでは、シートの搬送方向(長さ方向)において強度が強くなり、シートの搬送方向と直交する方向(幅方向)において強度が弱くなるといった方向性が生じ易い。したがって、SMCを製造する際は、上述したSMCの強度に方向性が生じないように、ペーストの上に散布される繊維束の向きを不規則(ランダム)にする必要がある。例えば、シートの搬送速度を遅くすることによって、この強度の方向性を軽減させることは可能であるが、この場合はSMCの生産性が損なわれてしまう。これは、スタンパブルシートの場合においても同様である。
【0007】
この繊維束の向きを不規則にするための対策として、下記特許文献1には、裁断機から裁断されて落下する繊維束を回転ドラムで叩くことによって、繊維束を方向性無く均一に分散させる方法が開示されている。しかしながら、この方法を用いた場合、回転ドラムにより叩かれた繊維束から毛羽(繊維屑)が発生してしまう。特に、繊維束をほぐすため、回転ドラムの回転数を上げるほど、毛羽の発生が多くなる。また、回転ドラムを回転駆動するための駆動源が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-17557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、強度の方向性が少なく生産性にも優れた繊維強化樹脂材料、及び成形品を提供することを目的とする。また、本発明は、裁断した繊維束の間に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の繊維強化樹脂材料を製造する際に、裁断された繊維束を方向性無く均一に分散させることを可能とした繊維強化樹脂材料の製造方法及び製造装置、並びに、上記の繊維強化樹脂材料を安定して連続的に製造するために使用することができる繊維束群の検査装置を提供することを目的とする。」

・「【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の繊維強化樹脂材料及び成形品は、強度の方向性が少なく、生産性にも優れるものであり、特にSMCとして好適に使用できるものである。また、本発明の繊維強化樹脂材料の製造方法及び製造装置によれば、裁断機から裁断されて樹脂の上に散布される繊維束のうち、第1のシートの搬送方向とは異なる方向に倒れ込む繊維束の比率を高めることができる。そのため、繊維束からの毛羽(繊維屑)の発生を抑えつつ、繊維束を方向性無く均一に分散させることが可能である。その結果、製造される繊維強化樹脂材料の強度を全方向においてより均一に保つことが可能となる。また、本発明の繊維束群の検査装置を用いれば、製造ライン内において繊維束群の繊維配向状態を検査しつつ繊維強化樹脂材料を製造できるため、製造される繊維強化樹脂材料の強度を全方向においてより安定して均一に保つことが可能となる。」

・「【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法などは一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
本発明の繊維強化樹脂材料の製造装置及び製造方法は、裁断した繊維束の間に樹脂を含浸させたシート状の繊維強化樹脂材料を製造するためのものである。本発明で得られる繊維強化樹脂材料は、SMCやスタンパブルシートとして好適に使用できる。
繊維束は複数の強化繊維を束ねたものである。強化繊維としては、カーボン繊維が好ましい。なお、強化繊維としては、カーボン繊維には限定されず、ガラス繊維などのカーボン繊維以外の強化繊維を用いてもよい。
【0021】
樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。樹脂としては、熱硬化性樹脂のみを用いてもよく、熱可塑性樹脂のみを用いてもよく、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の両方を用いてもよい。本実施形態の繊維強化樹脂材料をSMCとして用いる場合、樹脂としては熱硬化性樹脂が好ましい。本実施形態の繊維強化樹脂材料をスタンパブルシートとして用いる場合、樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」

・「【0024】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0025】
(繊維強化樹脂材料の製造装置)
第1の実施形態の繊維強化樹脂材料の製造装置の一例として、カーボン(炭素)繊維からなる長尺の繊維束を裁断した繊維束の間に、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を含むペーストを含浸させたシート状のSMCを製造する場合を例に挙げて説明する。
【0026】
図1は、本実施形態の繊維強化樹脂材料の製造装置の構成を示す側面図である。また、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。
【0027】
本実施形態の繊維強化樹脂材料の製造装置11(以下、単に製造装置11という。)は、図1に示すように、繊維束供給部110と、第1のシート供給部111と、第1の塗工部112と、裁断部113と、散布部142と、第2のシート供給部114と、第2の塗工部115と、含浸部116とを備えている。
【0028】
繊維束供給部110は、長尺のカーボン繊維からなる繊維束CFを複数のボビン117から引き出しながら、複数のガイドローラ118を介して1つの繊維束CFとし、この繊維束CFを裁断部113に向けて供給する。
【0029】
第1のシート供給部111は、第1の原反ロールR11から巻き出された長尺の第1のシート(キャリアシート)S11を第1の塗工部112に向けて供給する。製造装置11は、第1のシートS11を所定の方向(+X軸方向)(以下、搬送方向という。)に搬送する第1の搬送部119を備えている。
【0030】
第1の搬送部119は、ガイドローラ120と、一対のプーリ121a,121bの間に無端ベルト122を掛け合わせたコンベア123とを備えている。ガイドローラ120は、回転しながら第1のシート供給部111から供給された第1のシートS11をコンベア123に向けて案内する。コンベア123は、一対のプーリ121a,121bを同一方向に回転させることによって無端ベルト122を周回させながら、この無端ベルト122の面上において、第1のシートS11を図1中の+X軸方向(水平方向の右側)に向けて搬送する。
【0031】
第1の塗工部112は、ガイドローラ120に近接した一方のプーリ121aの直上に位置し、熱硬化性樹脂を含むペーストP1を供給する供給ボックス124を備えている。供給ボックス124は、底面に形成されたスリット(図示せず。)からコンベア123により搬送される第1のシートS11の面上にペーストP1を所定の厚みで塗工する。
【0032】
なお、ペーストP1には、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂の他にも、炭酸カルシウムなどの充填剤や、低収縮化剤、離型剤、硬化開始剤、増粘剤などを混合したものを用いることができる。
【0033】
裁断部113は、第1の塗工部12よりも搬送方向の下流側(+X軸側)に位置して、繊維束供給部110から供給される繊維束CFを裁断機113Aで裁断してペーストP1の上に散布する。裁断機113Aは、コンベア123により搬送される第1のシートS11の上方に位置し、ガイドローラ125と、ピンチローラ126と、カッターローラ127とを備えている。
【0034】
ガイドローラ125は、回転しながら繊維束供給部110から供給された繊維束CFを下方に向けて案内する。ピンチローラ126は、ガイドローラ125との間で繊維束CFを挟み込みながら、ガイドローラ125とは逆向きに回転することによって、ガイドローラ125と協働しながら、複数のボビン117から繊維束CFを引き出す。カッターローラ127は、回転しながら繊維束CFを所定の長さとなるように裁断する。裁断された繊維束CFは、ガイドローラ125とカッターローラ127との間から落下し、第1のシートS11上に塗工されたペーストP1)の上に散布される。
【0035】
第2のシート供給部114は、第2の原反ロールR12から巻き出された長尺の第2のシート(キャリアシート)S12を第2の塗工部115に向けて供給する。製造装置11は、第2のシートS12を含浸部116に向けて搬送する第2の搬送部128を備えている。
【0036】
第2の搬送部128は、コンベア123により搬送される第1のシートS11の上方に位置して、複数のガイドローラ129を備えている。第2の搬送部128は、第2のシート供給部114から供給された第2のシートS12を図1中の-X軸方向(水平方向の左側)に向けて搬送した後、回転する複数のガイドローラ129によって第2のシートS12が搬送される方向を下方から図1中の+X軸方向(水平方向の右側)に向けて反転させる。
【0037】
第2の塗工部115は、図1中の-X軸方向(水平方向の左側)に向けて搬送される第2のシートS12の直上に位置して、ペーストP1を供給する供給ボックス130を有している。供給ボックス130は、底面に形成されたスリット(図示せず。)から第2のシートS12の面上にペーストP1を所定の厚みで塗工する。
【0038】
含浸部116は、裁断部113よりも搬送方向の下流側に位置して、貼合機構131と、加圧機構132とを備えている。貼合機構131は、コンベア123の他方のプーリ121bの上方に位置して、複数の貼合ローラ133を有している。
【0039】
複数の貼合ローラ133は、ペーストP1が塗工された第2のシートS12の背面に接触した状態で搬送方向に並んで配置されている。また、複数の貼合ローラ133は、第1のシートS11に対して第2のシートS12が徐々に接近するように配置されている。
【0040】
貼合機構131では、第1のシートS11の上に第2のシートS12が重ね合わされる。また、第1のシートS11と第2のシートS12とは、その間に繊維束CF及びペーストP1を挟み込みながら、互いに貼合された状態で加圧機構132側へと搬送される。以下、繊維束CF及びペーストP1を挟み込みながら、互いに貼合された第1のシートS11及び第2のシートS12を貼合シートS13という。
【0041】
加圧機構132は、第1の搬送部119(コンベア123)の下流側に位置して、一対のプーリ134a,134bの間に無端ベルト135aを掛け合わせた下側コンベア136Aと、一対のプーリ134c,134dの間に無端ベルト135bを掛け合わせた上側コンベア136Bとを備えている。
【0042】
下側コンベア136Aと上側コンベア136Bとは、互いの無端ベルト135a,135bを突き合わせた状態で、互いに対向して配置されている。加圧機構132は、下側コンベア136Aの一対のプーリ134a,134bを同一方向に回転させることによって無端ベルト135aを周回させる。また、加圧機構132は、上側コンベア136Bの一対のプーリ134c,134dを同一方向に回転させることによって無端ベルト135bを無端ベルト135aと同じ速さで逆向きに周回させる。これにより、無端ベルト135a,135bの間に挟み込まれた貼合シートS13を図1中の+X軸方向(水平方向の右側)に向けて搬送する。
【0043】
下側コンベア136Aには、無端ベルト135aに加わる張力を調整するための一対のテンションプーリ137a,137bが配置されている。同様に、上側コンベア136Bには、無端ベルト135aに加わる張力を調整するための一対のテンションプーリ137c,137dが配置されている。これらのテンションプーリ137a,137b,137c,137dは、無端ベルト135a,135bの突合せ部分とは反対側に設けられている。
【0044】
加圧機構132は、複数の下側ローラ138aと、複数の上側ローラ138bとを備えている。複数の下側ローラ138aは、無端ベルト135aの突合せ部分の背面に接触した状態で搬送方向に並んで配置されている。同様に、複数の上側ローラ138bは、無端ベルト135bの突合せ部分の背面に接触した状態で搬送方向に並んで配置されている。また、複数の下側ローラ138aと複数の上側ローラ138bとは、貼合シートS13の搬送方向に沿って互い違いに並んで配置されている。
【0045】
加圧機構132では、無端ベルト135a,135bの間を貼合シートS13が通過する間に、第1のシートS11と第2のシートS12との間に挟み込まれたペーストP1及び繊維束CFを複数の下側ローラ138a及び複数の上側ローラ138bにより加圧する。このとき、ペーストP1は、繊維束CFを挟んだ両側から繊維束CFの間に含浸される。
【0046】
これにより、繊維束CFの間に熱硬化性樹脂を含浸させたSMCの原反R1を得ることができる。また、SMCの原反R1は、所定の長さで切断されることによって、最終的にシート状のSMC(繊維強化樹脂材料)として出荷される。なお、第1のシートS11及び第2のシートS12は、SMCの成形前にSMCから剥離される。
【0047】
本発明の繊維強化樹脂材料の製造装置においては、含浸部は、この例のように、繊維束が散布された第1のシートの上に、さらに、樹脂が塗工された第2のシートを重ね合わせた後、第1のシートと第2のシートとの間に挟み込まれた樹脂及び繊維束群を加圧して、繊維束の間に樹脂を含浸させる含浸部であることが好ましい。これにより、樹脂が塗工された第2のシートを重ね合わせない態様の含浸部に比べて、樹脂が充分に含浸された機械特性に優れた繊維強化樹脂材料を得ることができる。
なお、含浸部は、繊維束が散布された第1のシートの上に、樹脂が塗工された第2のシートをさらに重ね合わせることなく樹脂及び繊維束群を加圧して、繊維束の間に樹脂を含浸させる含浸部であってもよい。
【0048】
ところで、本実施形態の製造装置11は、図1?3に示すように、裁断機13Aの下方に散布部142を備えている。散布部142は、支持ロッド141と、第1のシートS11の搬送方向に沿って延長された複数のロッド140とを備えている。
【0049】
複数のロッド140は、図3に示すように、平面視したときに互いに重ならないように、第1のシートS11の幅方向(Y軸方向)に互いに間隔Dを空けた状態で互いに平行に並んで配置されている。すなわち、複数のロッド140は、その長さ方向が第1のシートS11の長さ方向(X軸方向)となるように、平面視で第1のシートS11の幅方向(Y軸方向)に互いに間隔Dを空けて平行に並んで配置されている。また、各ロッド140は、第1のシートS11の幅方向に沿って延長された支持ロッド141に、それぞれの基端側(-X軸側)が取り付けられることによって、片持ち支持されている。
【0050】
また、各ロッド140は、図4Aに示すように、円形の断面形状を有している。なお、各ロッド140の直径は、0.1?10mm程度である。また、ロッド140の断面形状については、図4Aに示す円形(楕円を含む。)に限らず、例えば図4Bに示す菱形(四角形)や、図4Cに示す多角形(本例では七角形)など、適宜変更を加えることが可能である。
【0051】
複数のロッド140は、図2に示すように、第1のシートS11を断面視したときに、互いに同一高さで第1のシートS11に対して平行に配置されている。また、複数のロッド140は、裁断機113Aから下方に少なくとも150mm以上の距離(高さ)Hhiだけ離れた位置に配置することが好ましい。一方、複数のロッド140は、第1のシートS11から上方に少なくとも200mm以上の距離(高さ)Hloだけ離れた位置に配置することが好ましい。
【0052】
以上のような構成を有する製造装置11では、裁断機113Aから裁断されて落下する繊維束CFのうち、散布部142のロッド140に接触した繊維束CFを第1のシートS11の搬送方向とは異なる方向に倒れ込み易くすることができる。これにより、裁断機113Aの下方にロッド140を複数配置するといった簡易な方法を用いて、繊維束CFからの毛羽(繊維屑)の発生を抑えつつ、繊維束CFを方向性無く均一に分散させることが可能である。
【0053】
なお、本発明の繊維強化樹脂材料の製造装置は、前記した製造装置11には限定されない。例えば、複数のロッド140を備える散布部142の代わりに、裁断されて落下する繊維束CFに空気などの気体を吹き付ける気体散布機を備える散布部を設置してもよい。裁断されて落下する繊維束CFに所定の条件で気体を吹き付けることによっても、繊維束CFを方向性無く均一に分散させることが可能である。」

・「【0055】
(繊維強化樹脂材料の製造方法)
次に、第1実施形態の繊維強化樹脂材料の製造方法の一例として、製造装置11を用いたSMCの製造方法について具体的に説明する。本実施形態のSMCの製造方法は、下記の塗工ステップ、裁断ステップ、散布ステップ及び含浸ステップを有する。
塗工ステップ:第1の搬送部119によって搬送される第1のシートS11の上にペーストP1を塗工する。
裁断ステップ:長尺の繊維束CFを裁断機113Aで裁断する。
散布ステップ:裁断された繊維束CFを散布部142で分散させ、第1のシートS11上に塗工したペーストP1の上に散布する。
含浸ステップ:第1のシートS11上のペーストP1と散布された繊維束群F1を加圧して、繊維束CFの間にペーストP1を含浸させる。
【0056】
<塗工ステップ>
第1のシート供給部111により、第1の原反ロールR11から長尺の第1のS11を巻き出して第1の搬送部119へと供給し、第1の塗工部112によりペーストP1を所定の厚みで塗工する。第1の搬送部119により第1のシートS11を搬送することにより、第1のシートS11上に塗工されたペーストP1を走行させる。第1のシートS11の面上に塗工したペーストP1の厚みは、特に限定されない。
【0057】
<裁断ステップ>
繊維束供給部110により、長尺の繊維束CFを複数のボビン117から引き出して裁断部113へと供給し、裁断機113Aにおいて所定の長さとなるように繊維束CFを連続的に裁断する。
【0058】
<散布ステップ>
裁断機113Aにより裁断された繊維束CFを、裁断機113Aの下方に複数並べて配置されたロッド140に向けて落下させ、それらロッド140によって繊維束CFを分散させ、塗工したペーストP1の上に散布する。これにより、塗工されたペーストP1上にシート状の繊維束群Fが形成される。
【0059】
本実施形態では、裁断機113Aの下方に、第1のシートS11の搬送方向に沿って延長されたロッド140を複数並べて配置することによって、ロッド140に接触した繊維束CFを第1のシートS11の搬送方向とは異なる方向に倒れ込み易くする。
【0060】
ここで、ロッド140に接触した繊維束CFの挙動について、図5A?図5Cを参照して説明する。なお、図5Aは、ロッド140に接触した繊維束CFの挙動を説明するためにその挙動を模式的に示した平面図であり、図5Bはその正面図、図5Cはその側面図である。
【0061】
裁断機113Aで裁断された繊維束CFは、下方(-Z軸方向)に自然落下する。このとき、繊維束CFは、ある程度の幅(バンドル幅)を有するため、ロッド140に接触した後に、ロッド140の周回方向に旋回しながら、第1のシートS11の上に落下する。
【0062】
この場合、第1のシートS11上のペーストP1の上に着地した繊維束CFは、第1のシートS11の幅方向(Y軸方向)に倒れ込み易くなる。一方、ロッド140に接触しないまま、第1のシートS11上のペーストP1の上に着地した繊維束CFは、上述したように第1のシートS11の搬送方向(X軸方向)に倒れ込み易い。これにより、第1のシートS11の面上のペーストP1上で倒れ込む繊維束CFの向きを不規則(ランダム)にすることができる。
【0063】
したがって、本実施形態のSMCの製造方法では、裁断機113Aの下方にロッド140を複数配置するといった簡易な方法を用いて、繊維束CFからの毛羽(繊維屑)の発生を抑えつつ、繊維束CFを方向性無く均一に分散させることが可能である。その結果、製造されたSMCの強度を全方向において均一に保つことが可能である。
【0064】
本発明では、図3に示す隣り合うロッド140の間隔Dを裁断機113Aから落下する繊維束CFの長さよりも大きくすることで、ロッド140の間に繊維束CFが堆積することを防ぐことが可能である。
【0065】
しかしながら、ロッド140の間隔Dが広すぎると、ロッド140に接触する繊維束CFが減ってしまうため、上述した効果が弱くなる。一方、ロッド140の間隔Dが狭すぎると、ロッド140の間に繊維束CFが跨った状態で堆積してしまうおそれがある。
【0066】
したがって、本発明では、第1のシートS11を平面視したときの互いに隣り合うロッド140の間隔Dを、裁断機113Aで裁断された繊維束CFの平均長さに対して0.9?1.6倍とすることが好ましい。これにより、繊維束CFを方向性無く均一に分散させることが可能である。
【0067】
なお、繊維束CFは、裁断中に繊維束CFの一部が切断されずに繋がったものや、繰り返し切断されて短くなったものなどが発生する。このため、裁断された繊維束CFの長さには、バラツキが生じるものの、上述した繊維束CFの平均長さについては、このような例外的に長さが異なるものを除外して求めることができる。
【0068】
また、本発明では、図6に示すように、第1のシートS11の搬送方向(+X軸方向)に向かって複数のロッド140が下方(-Z軸方向)に傾斜している構成としてもよい。すなわち、複数のロッド140は、支持ロッド141に取り付けられた基端側(-X軸側)に対して先端側(+X軸側)を下方(-Z軸方向)に傾斜させた状態で配置してもよい。この場合、第1のシートS11と平行な面に対して複数のロッド140の傾斜する角度θAは、0°超え、40°以下とすることが好ましい。
【0069】
これにより、上述したロッド140の間に繊維束CFが跨った状態で堆積することを防ぐことができ、このロッド140の傾斜に沿って繊維束CFを第1のシートS11の面上に確実に落下させることができる。
【0070】
なお、このような構成に限らず、第1のシートS11の搬送方向とは逆方向(-X軸方向)に向かって複数のロッド140が下方(-Z軸方向)に傾斜している構成とすることも可能である。この場合、複数のロッド140は、支持ロッド141に取り付けられた基端側を+X軸側とし、先端側(-X軸側)を下方(-Z軸方向)に傾斜させた状態で配置すればよい。
【0071】
また、本発明では、図7A及び図7B中の矢印で示すように、複数のロッド140を振動させる構成としてもよい。なお、図7Aは、複数のロッド140を振動させる動作を説明するためにその動作を模式的に示した平面図であり、図7Bはその側面図である。
【0072】
この場合、複数のロッド140を振動させる方向については、長さ方向(X軸方向)と、幅方向(Y軸方向)と、高さ方向(Z軸方向)とのうち、何れの方向であってもよい。また、複数の方向に複数のロッド140を振動させる構成としてもよい。さらに、複数のロッド140は、支持ロッド141を中心に揺動させることも可能である。
【0073】
これにより、上述したロッド140の間に繊維束CFが跨った状態で堆積することを防ぐだけでなく、第1のシートS11の面上に確実に落下する繊維束CFを方向性無くより均一に分散させることが可能である。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
具体的に、複数のロッド140は、上述した片持ち支持されたものに限らず、例えば図8に示すように、第1のシートS11の幅方向に沿って延長された一対の支持ロッド141a,141bの間で、それぞれの両端が支持ロッド141a,141bに取り付けられることによって、両持ち支持された構成としてもよい。
【0075】
また、複数のロッド140は、図9に示すように、上述した第1のシートS11の幅方向(Y軸方向)に間隔Dを空けて配置した構成に加えて、更に高さ方向(Z軸方向)に間隔Hを空けた状態で配置した構成としてもよい。
【0076】
複数のロッド140は、高さ方向(Z軸方向)において多段状に配置にすることができる。この場合、複数のロッド140の高さ方向の間隔Hは、裁断機113Aから落下する繊維束CFの長さよりも大きくすることが好ましい。
【0077】
なお、複数のロッド140は、第1のシートS11の搬送方向(X軸方向)に沿って延長された構成となっているが、ロッド140を第1のシートS11の搬送方向(X軸方向)に対して平行に配置する場合に限らず、ロッド140を第1のシートS11の搬送方向(X軸方向)に対して斜めに配置することも可能である。
【0078】
なお、このような繊維束を分散させる方法としては、国際公開第2014/017612号に記載のように、ネットの下部から吸引しつつ繊維束を供給することによっても可能であるが、繊維束を樹脂上に落下させることが必要な繊維強化樹脂材料の製造に適用するためには、更なる工夫が必要である。また、シートの搬送速度を低くすることによって、繊維束を方向性無くより均一に分散させる種々の方法はあるが、その場合、生産性をある程度犠牲にする必要がある。
【0079】
<含浸ステップ>
第2のシート供給部114により、第2の原反ロールR12から長尺の第2のシートS12を巻き出して第2の搬送部128へと供給する。第2の塗工部115により、第2のシートS12の上にペーストP1を所定の厚みで塗工する。第2のシートS12の面上に塗工したペーストP1の厚みは、特に限定されない。
【0080】
第2のシートS12を搬送することでその上に塗工したペーストP1を走行させ、含浸部116において、貼合機構131によりシート状の繊維束群F1上に第2のシートS12を貼り合わせる。そして、加圧機構132によりシート状の繊維束群F1及びペーストP1を加圧し、ペーストP1を繊維束群F1の繊維束CFの間に含浸させる。これにより、繊維強化樹脂材料が第1のシートS11と第2のシートS12で挟持された原反R1が得られる。
【0081】
本発明の製造方法における含浸ステップは、この例のように、繊維束が散布された第1のシートの上に、樹脂が塗工された第2のシートを重ね合わせた後、第1のシートと第2のシートとの間に挟み込まれた樹脂及び繊維束群を加圧して、繊維束の間に樹脂を含浸させるステップであることが好ましい。これにより、樹脂が塗工された第2のシートを重ね合わせない態様の含浸ステップに比べて、樹脂が充分に含浸された機械特性に優れた繊維強化樹脂材料を得ることができる。
なお、含浸ステップは、繊維束が散布された第1のシートの上に、樹脂が塗工された第2のシートをさらに重ね合わせることなく樹脂及び繊維束群を加圧して、繊維束の間に樹脂を含浸させる含浸ステップであってもよい。
【0082】
以上のように、本実施形態のSMCの製造方法では、上述した簡易な方法を用いて、裁断された繊維束CFを方向性無く均一に分散させることができる。その結果、製造されたSMCの強度を全方向において均一に保つことが可能であり、SMCの生産性も向上させることが可能である。
【0083】
なお、本発明の繊維強化樹脂材料の製造方法は、製造装置11を用いる方法には限定されない。例えば、散布部142の代わりに、散布ステップが、裁断されて落下する繊維束に空気などの気体を吹き付けて分散させて散布するステップである方法であってもよい。裁断されて落下する繊維束CFに所定の条件で気体を吹き付けることによっても、繊維束CFを方向性無く均一に分散させることが可能である。
【0084】
本発明の繊維強化樹脂材料の製造方法は、熱硬化性樹脂の代わりに熱可塑性樹脂を用い、スタンパブルシートに用いる繊維強化樹脂材料を製造する方法であってもよい。」

・「【0159】
[繊維強化樹脂材料]
次に、本発明の一実施形態に係る繊維強化樹脂材料として、上述した繊維強化樹脂材料の製造方法により製造された繊維強化樹脂材料について具体的に説明する。
【0160】
本発明の一実施形態の繊維強化樹脂材料は、分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である。
【0161】
【数4】
・・・(略)・・・
ただし、前記式中、f(φ_(i))は、下式(2)で表される、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ_(i))の輝度(I(φ_(i)))から平均の輝度を差し引いた輝度であり、dφは、X線回折測定のステップ幅である。I(φi)は、下式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。
【0162】
【数5】
・・・(略)・・・
【0163】
粗さ度βは、繊維強化樹脂材料のX線回折測定における繊維配向に由来するプロファイルから求められる値であって、以下の方法で測定される。
長手方向に連続する繊維強化樹脂材料を幅方向でカットした2枚のサンプルを長手方向が同一になるように重ねたシート状の繊維強化樹脂材料における縦300mm×横300mmの範囲内から、縦15mm×横15mmの試験片を等間隔で25個切り出す(N=25)。X線装置を用い、前記試験片に透過法でX線を照射しながら、前記試験片をその厚さ方向を軸に回転させ、回折角2θ=25.4°に配置した検出器で回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φ_(i))における輝度(I(φ_(i)))を測定する。ただし、I(φ_(i))は、式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものとする。
次いで、式(2)で表されるように、輝度(I(φ_(i)))から平均の輝度を引いた輝度f(φ_(i))を定義し、輝度f(φ_(i))を用いて導かれる式(1)から、25個の試験片それぞれについて粗さ度を求め、それらの平均値を粗さ度βとする。
【0164】
粗さ度βは、ゼロに近いほど繊維束の配向に乱れが少ないことを示している。
粗さ度βが0.5以上であれば、繊維束の配向の均一性が高くなりすぎることなく、SMCやスタンパブルシートとして成形加工する際の樹脂の流動性が損なわれて成形性が低下することを抑制できる。また、繊維強化樹脂材料の生産ラインの速度を過度に下げる必要がなく、充分な生産性を確保できる。粗さ度βは、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、2.5以上が特に好ましい。
【0165】
粗さ度βが4.5以下であれば、シート状の繊維強化樹脂材料を成形して得た成形品の各部位における物性の異方性(例えば、長さ方向と幅方向の曲げ弾性率の差)が高くなりすぎることを抑制できる。粗さ度βは、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。
【0166】
本発明の一実施形態の繊維強化樹脂材料は、分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である。
【0167】
【数6】
・・・(略)・・・
【0168】
ただし、式(4)中、aは、式(5)で表される配向係数である。I(φ_(i))は、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ_(i))の輝度であり、式(6)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。
【0169】
繊維束の結晶配向度は、繊維強化樹脂材料にX線を照射することによって生じる回折像から算出される結晶配向度から求められる値であり、以下の方法で測定される。
粗さ度βの測定方法と同様に、シート状の繊維強化樹脂材料から25個の試験片を切り出し(N=25)、X線装置を用いて回折角2θ=25.4°の回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φ_(i))における輝度(I(φ_(i)))を測定する。ただし、I(φ_(i))は、式(6)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものとする。次いで、測定したI(φ_(i))を用いて、25個の試験片それぞれについて式(5)により配向係数aを求める。さらに、得られた配向係数aを用いて、25個の試験片それぞれについて式(4)により結晶配向度f_(a)を求め、それらの平均値と標準偏差を算出する。
【0170】
繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05以上であれば、繊維束の配向の均一性が高くなりすぎることなく、SMCやスタンパブルシートとして成形加工する際の樹脂の流動性が損なわれて成形性が低下することを抑制できる。また、繊維強化樹脂材料の生産ラインの速度を過度に下げる必要がなく、充分な生産性を確保できる。
繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値は、0.06以上が好ましく、0.08以上がより好ましい。
【0171】
繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.13以下であれば、繊維強化樹脂材料を成形した成形品の長さ方向及び幅方向の各部位間における物性のバラツキ(CV値)が大きくなりすぎることを抑制できる。
繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値は、0.12以下が好ましく、0.11以下がより好ましい。
【0172】
以上のように、本発明の繊維強化樹脂材料では、上述した繊維強化樹脂材料の製造方法を用いて、裁断された繊維束を方向性無く均一に分散させることができるため、強度が全方向において均一に保たれる。また、本発明の繊維強化樹脂材料は、成形加工する際の樹脂の流動性に優れるので、成形性に優れる。
【0173】
[成形品]
本発明の成形品は、分散された繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料の成形品である。本発明の成形品では、成形品の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、それぞれの方向に沿った曲げ弾性率[GPa]の比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)が、0.8?1.2である。また、本発明の成形品では、0°方向と90°方向のそれぞれの方向に沿った曲げ弾性率の変動係数(CV)(0°曲げ弾性率のCV及び90°曲げ弾性率のCV)[%]が何れも5?15である。
【0174】
比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)は、成形品中の繊維束の配向方向の均一性を示す値である。比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)は、0.8?1.2であり、0.9?1.1が好ましく、0.95?1.05がより好ましい。比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)が前記範囲内であれば、成形品の物性の異方性が充分に低く、実用上問題がない。
【0175】
0°曲げ弾性率の変動係数(CV)は、5?15であり、5?12が好ましく、7?9がより好ましい。0°曲げ弾性率の変動係数(CV)が下限値以上であれば、繊維束の配向の均一性が高くなりすぎ、SMCやスタンパブルシートとして成形加工する際の樹脂の流動性が損なわれて成形性が低下することを抑制できる。また、繊維強化樹脂材料の生産ラインの速度を過度に下げる必要がなく、充分な生産性を確保できる。0°曲げ弾性率の変動係数(CV)が上限値以下であれば、成形品の長さ方向の各部位間における物性のバラツキ(CV値)が充分に小さい。
【0176】
90°曲げ弾性率の変動係数(CV)は、0°曲げ弾性率の変動係数(CV)と同様の理由から、5?15であり、5?12が好ましく、7?9がより好ましい。90°曲げ弾性率の変動係数(CV)が上限値以下であれば、成形品の幅方向の各部位間における物性のバラツキ(CV値)が充分に小さい。」

・「【0178】
[第1の実施例]
第1の実施例では、図1に例示した製造装置11を用いて、隣り合うロッド140の間隔Dを変更したときの第1のシートS11の面上において、第1のシートS11の搬送方向(0°方向とする。)に沿って堆積した繊維束CFの数と、第1のシートS11の幅方向(90°方向とする。)に沿って堆積した繊維束CFの数と、その差(0°-90°)を測定した。この差の絶対値が小さいほど、繊維束CFを方向性無く均一に分散できたと判断することが可能である。なお、本実施例における第1のシートS11の搬送速度を5m/分とした。
【0179】
また、ロッド140の傾斜する角度θAについても変更して測定を行った。その測定結果をまとめたものを表1に示す。また、表1に示す測定結果をグラフ化したものを図17に示す。
【0180】
【表1】
・・・(略)・・・
【0181】
なお、本測定における繊維束CFの繊維長の平均値は25.4mmであった。また、本測定では、第1のシートS11の面上に堆積した繊維束CFを撮像し、得られた画像の中から、第1のシートS11の搬送方向(0°方向)に沿って堆積した繊維束CFと、第1のシートS11の幅方向(90°方向)に沿って堆積した繊維束CFとを抽出して、それぞれの数(pixel)をカウントした。また、本測定では、比較例として、ロッド140を配置しない場合についても同様の測定を行った。なお、その測定結果については、表1及び図17の左側に示す。
【0182】
表1及び図17に示すように、裁断機113Aの下方の複数のロッド140を配置し、その間隔D及び傾斜する角度θAを調整することで、第1のシートS11の搬送方向(0°方向)に沿って堆積した繊維束CFと、第1のシートS11の幅方向(90°方向)に沿って堆積した繊維束CFとの割合を変更することが可能である。
【0183】
また、ロッド140の間隔D及び傾斜する角度θAによっては、第1のシートS11の搬送方向(0°方向)に沿って堆積した繊維束CFよりも、第1のシートS11の幅方向(90°方向)に沿って堆積した繊維束CFの割合が大きくなることがわかる。この場合、上述した第1のシートS11の搬送速度を上げることによって、第1のシートS11の搬送方向(0°方向)に沿って堆積した繊維束CFの割合を上げることができる。
【0184】
したがって、ロッド140の間隔D及び傾斜する角度θAの他に、第1のシートS11の搬送速度を調整することによっても、第1のシートS11の搬送方向(0°方向)に沿って堆積した繊維束CFと、第1のシートS11の幅方向(90°方向)に沿って堆積した繊維束CFとの割合を変更することが可能である。
【0185】
[第2の実施例]
第2の実施例では、図1に例示した製造装置11を用いて、隣り合うロッド140の間隔D等の条件を下記表2中に示す条件に変更した以外は、第1の実施例と同様にしてSMCを製造した。なお、本実施例における第1のシートS11の搬送速度を5m/分とした。
【0186】
繊維束CFとしては、三菱レイヨン社製の炭素繊維(製品名:TR50S15L)を用いた。また、ペーストP1は以下のように調製した。
【0187】
すなわち、熱硬化性樹脂として、エポキシアクリレート樹脂(製品名:ネオポール8051、日本ユピカ社製)100質量部に対して、硬化剤として、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンの75%溶液(製品名:パーヘキサC-75(EB)、日本油脂株式会社製)0.5質量部と、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの74%溶液(製品名:カヤカルボンBIC-75、化薬アクゾ株式会社製)0.5質量部とを添加し、内部離型剤として、リン酸エステル系誘導体組成物(製品名:MOLD WIZ INT-EQ-6、アクセルプラスチックリサーチラボラトリー社製)0.35質量部を添加し、増粘剤として、変性ジフェニルメタンジイソシアネート(製品名:コスモネートLL、三井化学株式会社製)15.5質量部を添加し、安定剤として、1,4-ベンゾキノン0.02質量部を添加し、炭素繊維ミルドファイバー(商品名:MP30X、重量平均繊維長95μm、350μm以下の繊維の含有率95%、日本ポリマー産業社製)5質量部を添加して、これらを十分に混合撹拌しペーストP1を得た。
【0188】
そして、製造されたSMC(繊維束CFの含有率49質量%)を成形して得られた成形板に対して、その強度等(曲げ強度、曲げ弾性率)についての評価を行った。
【0189】
具体的に、本評価試験では、先ず、ロッド140を配置しない場合(比較例1)と、ロッド140の間隔Dが32mm及び傾斜する角度θAが15°の場合(実施例1)と、ロッド140の間隔Dが32mm及び傾斜する角度θAが25°の場合(実施例2)で、SMCの製造を行った。
【0190】
次に、SMCの製造後に1週間、25±5℃の温度でSMCを養生した後に、端部に嵌合部を有するパネル成形用金型(300mm×300mm×2mm、表面クロムめっき仕上げ)に、SMCを230mm×230mmに切断し、SMC製造装置でのSMCの搬送方向(MD方向)を揃えて、2枚を金型中央に投入した。そして、金型内でSMCを140℃、8MPa、5分の条件で加熱加圧し、SMCの成形板を得た。なお、SMCは、約150gの2枚のSMCを同方向に積層して約300gとした。
【0191】
次に、SMCの成形板の曲げ強度と曲げ弾性率とを測定するため、SMCの成形板から、図19に示した配置に従って、SMCの搬送方向(0°方向)と幅方向(90°方向)に沿って、長さ110mm、幅25mmの試験片をそれぞれ6枚切り出した。そして、5kNインストロン万能試験機を用いて、L/D=40、クロスヘッド速度5mm/分で3点曲げ試験を各試験片に対して行い、それぞれの曲げ強度と曲げ弾性率とを測定し、それぞれの平均値を求めた。さらに、その差分(0°-90°)、比(0°/90°)を計算した。その評価結果をまとめたものを表2に示す。また、表2に示す測定結果をグラフ化したものを図18に示す。
【0192】
【表2】
・・・(略)・・・
【0193】
表2及び図18に示すように、ロッド140を配置した場合は、ロッド140を配置しない場合に比べて、製造されたSMCの強度(曲げ強度、曲げ弾性率)に方向性が少ないことがわかる。このことから、ロッド140を配置した場合は、繊維束を方向性無く均一に分散させることが可能であることが明らかとなった。
【0194】
(第3の実施例)
第3の実施例では、SMC製造装置において、ロッド140の間隔Dを32mm、ロッド140の角度θAを25°、第1のシートS11の搬送速度を3m/分とし、ペーストP1の調製時に炭素繊維ミルドファイバーを添加しなかった以外は、第2の実施例と同様にして、SMC(繊維束CFの含有率53質量%)を作製した。
【0195】
そして、このSMCを用いて、第2の実施例と同様にしてSMCの成形板を得た。また、第2の実施例と同様に曲げ試験片を切り出し、第2の実施例と同様に曲げ試験を行った。ただし、第3の実施例における試験条件は、下記表3のとおりである。
【0196】
【表3】
・・・(略)・・・
【0197】
さらに、SMCの成形板の引張強度と引張弾性率を測定するため、SMCの成形板から、図20A及び図20Bに示した配置に従って、SMCの搬送方向(0°方向)と幅方向(90°方向)に沿って、図21に図示した試験片をそれぞれ6枚切り出した。そして、100kNインストロン万能試験機を用いて、下記表4の試験条件で引張試験を行った。
【0198】
【表4】
・・・(略)・・・
【0199】
そして、得られた評価結果をまとめたものを下記表5及び表6に示す。なお、90°方向の試験については、測定温度を変えて行い、同じ表に合わせて示した。
【0200】
【表5】
・・・(略)・・・
【0201】
【表6】
・・・(略)・・・
【0202】
また、下記式を用いて、表5及び表6中の標準偏差、CV(変動係数)を算出した。
【0203】
【数7】
・・・(略)・・・
【0204】
表5及び表6に示すように、SMCの長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、それぞれの方向に沿った曲げ弾性率[GPa]の比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)が、0.8?1.2であり、それぞれの方向に沿った曲げ弾性率の変動係数(CV)(0°曲げ弾性率のCV及び90°曲げ弾性率のCV)[%]が、何れも5?15であるSMCでは、強度(曲げ強度、曲げ弾性率)に方向性が少なく、その強度を全方向においてより均一に保つことが可能であることが明らかとなった。すなわち、このSMCは、上記の第3の実施例にも示されているとおり、成形加工時の樹脂の流動性に優れ、成形品の物性の異方性やバラツキが低減されるものであった。」

・「【0211】
[粗さ度βの測定]
粗さ度βは、以下の方法で測定した。
製造後の繊維強化樹脂材料(SMC)を25±5℃の温度で1週間養生した後、この養生したSMCをローリングカッターで縦300mm、横300mmのサイズに2枚切り出し、これら約250gのSMCの長手方向が同一になるように積層した。この約500gの切り出した材料の中心を基準に、左右2列と上下2列から30mm間隔で縦15mm、横15mmのサイズの試験片を25個切り出した。
次いで、X線装置を用い、前記試験片に透過法でX線を照射しながら、前記試験片をその厚さ方向を軸に回転させ、回折角2θ=25.4°に配置した検出器で回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φ_(i))における輝度(I(φ_(i)))を測定した。ただし、I(φ_(i))は積分強度が10000になるように規格化されたものとした。
この粗さ度βの測定に際しては、X線回折装置としてPANalytical社製Empyreanを用い、管電圧を45kVとし管電流は40mAとした。また、入射側にはダブルクロススリットを取り付け、上流及び下流のスリットの縦及び横の幅をすべて2mmにセットした。さらに、受光側にはパラレルプレートコリメータを取り付け、検出器にはプロポーショナルカウンターを取り付けた。測定データを0.04度間隔で取り込むことにより、前記試験片の結晶配向を評価した。
なお、上記の測定条件はあくまで一例であり、粗さ度βの測定の趣旨が変わらない範囲で適宜変更して実施することができる。
次いで、測定したI(φ_(i))から式(2)によりf(φ_(i))を求め、さらに式(1)を用いて、25個の試験片の測定値の平均値として粗さ度βを求めた。
【0212】
[繊維配向度f_(a)の平均値と標準偏差の測定]
粗さ度βの測定方法と同様にして、25個の試験片について輝度(I(φ_(i)))を測定した。ただし、I(φ_(i))は積分強度が10000になるように規格化されたものとした。次いで、測定したI(φ_(i))を用いて、25個の試験片それぞれについて式(5)により配向係数aを求めた。さらに、得られた配向係数aを用いて、25個の試験片それぞれについて式(4)により結晶配向度f_(a)を求め、それらの平均値と標準偏差を算出した。
【0213】
[実施例B1]
上述の第3の実施例と同様にしてSMCを製造した。得られたSMCの粗さ度βは3.7であり、繊維配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値は0.11であった。このSMCは、上記の第3の実施例にも示されているとおり、成形加工時の樹脂の流動性に優れ、成形品の物性の異方性やバラツキが低減されるものであった。」

・「



(ウ)判断
発明の詳細な説明の記載は、上記第5 2(1)ウのとおりであって、【0182】ないし【0184】には、「ロッド140の間隔D及び傾斜する角度θAの他に、第1のシートS11の搬送速度を調整すること」によって「第1のシートS11の搬送方向(0°方向)に沿って堆積した繊維束CFと、第1のシートS11の幅方向(90°方向)に沿って堆積した繊維束CFとの割合を変更することが可能である」ことが記載されている。
そして、【0164】によると、「粗さ度β」は繊維束の配向の乱れの程度を表すものである。
したがって、発明の詳細な説明には、「粗さ度β」の調整方法が記載されているといえるので、粗さ度βに関して具体例が一例(β=3.7)しか開示されていないとしても、当業者であれば、過度の試行錯誤なく、粗さ度βを0.5?4.5の範囲を実施することができるといえる。
よって、本件特許発明1及び3について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。

ウ 申立て理由1についてのまとめ
したがって、申立て理由1は理由がない。

(2)申立て理由2(サポート要件)について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人の主張は、おおむね次のとおりである。

(ア)サポート要件違反について(その1)
具体的に本件特許発明の課題を解決できることが示された例は、β=3.7である具体例の一例のみであり、この一例は、構成要件1Dにおける粗さ度βのほぼ中間における一例に過ぎない。
また、本件特許明細書には、比較例として、β=5.7の例が開示されているに過ぎない。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、粗さ度βを0.5?4.5の範囲において調整するための方法に関して何ら開示も示唆もなく、かつ、粗さ度βの調整方法が技術常識であったとの事情も認められない。
さらにまた、本件特許明細書の実施例の開示(粗さ度β=3.7)は、他の粗さ度βを採る場合においても同様に本件特許発明の課題を解決し得ると当業者が理解できるような拡張ないし一般化できる開示にも当たらない。
加えて、発明の詳細な説明に記載や示唆が無くとも、当業者であれば構成要件1Dの粗さ度βの範囲を具備させ得る場合に本件特許発明の課題を解決し得ると判断し得るに足りる技術常識は見当たらない。
その結果、粗さ度βの調整方法が規定されておらず、かつ、実施例において粗さ度βが一例しか開示されていない本件特許発明1は、発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えている。
本件特許発明1を引用する本件特許発明3も同様である。

(イ)サポート要件違反について(その2)
本件特許発明1は、以下の構成要件1A?1Cを具備することを必須とする。
(構成要件1A)
分散された繊維束の間に、
(構成要件1B)
樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、
(構成要件1C)
前記樹脂が熱硬化性樹脂である。
すなわち、本件特許発明1は、繊維の種類、熱硬化性樹脂の種類及びそれらの配合割合等に関して何ら特定されていない。
しかしながら、本件特許発明1の具体例である実施例において具体的に作製された繊維強化樹脂材料は、実施例B1(及び比較例B1?B2)として開示されているように、「第3の実施例」と同様の繊維(炭素繊維)及び熱硬化性樹脂(エポキシアクリレート樹脂)を用い、繊維含有率が49質量%となるよう用いた例のみである。
ここで、繊維束割合が多過ぎる場合、得られる繊維強化樹脂材料は、配向調整が困難になりやすい。一方、繊維束割合が少な過ぎる場合、樹脂含浸時の樹脂流動に沿って繊維束が配向しやすくなる等の影響が見られる。また、含浸させる樹脂の粘度によって、繊維束の流動しやすさ(換言すれば樹脂の含浸しやすさ)が異なる。
そのため、繊維束を均一分散させるためには、繊維束、含浸させる樹脂ともに制御すべき因子が多数存在する。
そうすると、繊維及び樹脂の種類や配合割合に関して何ら特定されていない本件特許発明1は、繊維として炭素繊維を使用し、熱硬化性樹脂としてエポキシアクリレート樹脂を使用して、繊維束含有率が49質量%となるよう調整した場合以外であっても、本件特許発明の課題(特に細断された繊維束を方向性無く均一に分散させるという課題)を解決できるかどうか定かでない。
そのため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に開示されている範囲を超えている。
本件特許発明1を引用する本件特許発明3も同様である。

イ 申立て理由2についての判断
(ア)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(イ)特許請求の範囲の記載
本件特許発明1及び3に関する特許請求の範囲の記載は、上記第3の請求項1及び3のとおりである。

(ウ)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載は、上記第5 2(1)イ(イ)のとおりである。

(エ)判断
a 発明の課題
発明の詳細な説明の記載(【0001】ないし【0009】等)によると、本件特許発明1及び3の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「強度の方向性が少なく生産性にも優れた繊維強化樹脂材料、及び成形品を提供すること」である。

b 「サポート要件違反について(その1)」について
本件特許発明1及び3の発明特定事項である「繊維束」については【0020】に、「熱硬化性樹脂材料」については【0022】に、「式(1)?(3)により求められる粗さ度β」については【0160】ないし【0165】に、「粗さ度β」の測定方法については【0211】に、「成形品の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、それぞれの方向に沿った曲げ弾性率[GPa]の比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)」及び「それぞれの方向に沿った曲げ弾性率の変動係数(CV)(0°曲げ弾性率のCV及び90°曲げ弾性率のCV)[%]」については【0173】ないし【0176】に、「成形品の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、それぞれの方向に沿った曲げ弾性率[GPa]の比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)」及び「それぞれの方向に沿った曲げ弾性率の変動係数(CV)(0°曲げ弾性率のCV及び90°曲げ弾性率のCV)[%]」の測定方法については、【0188】ないし【0192】、【0202】及び【0203】に、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料」の製造に使用する装置については【0024】ないし【0053】に、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料」の製造方法については、【0055】ないし【0081】に、それぞれ詳細に記載されている。
特に、【0161】ないし【0163】の記載から、「粗さ度β」の技術的意味は理解でき、同じく【0164】及び【0165】の記載から、「0.5?4.5」という数値範囲の意味も理解できる。
そして、【0082】には、「裁断された繊維束CFを方向性無く均一に分散させることができる。その結果、製造されたSMCの強度を全方向において均一に保つことが可能であり、SMCの生産性も向上させることが可能である。」ことが記載されている。
さらに、【0178】ないし【0204】及び【0213】には、具体的な実施例B1が記載され、当該実施例B1が「成形加工時の樹脂の流動性に優れ、成形品の物性の異方性やバラツキが低減される」という効果を奏することも記載されている。
したがって、実施例において粗さ度β=3.7の一例しか開示されていないとしても、当業者であれば、「粗さ度βが0.5?4.5である」という発明特定事項を有する本件特許発明1及び3が、発明の課題を解決することができると認識できる範囲のものであると理解する。
なお、上記第5 2(1)エ(イ)で検討したように、発明の詳細な説明には、「粗さ度β」の調整方法も記載されている。

c 「サポート要件違反について(その2)」について
発明の詳細な説明の【0020】の記載から、「繊維」としては、カーボン繊維が好ましいが、それに限定されず、ガラス繊維などのカーボン繊維以外の繊維を用いてもよいことが理解できる。
また、同じく【0022】の記載から、「熱硬化性樹脂」としては、エポキシアクリレート樹脂以外に、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂及びシアネート樹脂を用いてもよいことが理解できる。
そして、本件特許発明1及び3は、粗さ度βによる特定があるものの、物としては、繊維に樹脂が含浸されただけのものであるから、粗さ度βが同じ値であれば、炭素繊維以外の繊維でも炭素繊維と同様のことが起こることが予測されるし、粗さ度βが同じ値であれば、エポキシアクリレート樹脂以外の熱硬化性樹脂でもエポキシアクリレート樹脂を同様のことが起こることが予測されるし、さらに、粗さ度βが同じ値であれば、樹脂の含浸率が多少変化しても、同様のことが起こることが予測できる。
したがって、発明の詳細な説明に、炭素繊維及びエポキシアクリレート樹脂を用い、繊維含有率が49質量%となるよう用いた例のみしか記載されていないとしても、当業者であれば、繊維及び樹脂の種類や配合割合に関して何ら特定されていない本件特許発明1及び3が、発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであると理解する。

d まとめ
したがって、本件特許発明1及び3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

ウ 申立て理由2についてのまとめ
したがって、申立て理由2は理由がない。

(3)申立て理由3(進歩性)について
ア 甲2に基づく進歩性
(ア)甲2発明
甲2に記載された事項([0010]、[0021]、[0029]、[0030]、[0034]、[0050]ないし[0053]、[0061]、[0062]、[請求項1]、[請求項5]及び[請求項7])を整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「繊維長5?100mmの炭素繊維からなり、1枚あたりの目付が5?50g/m^(2)である異方性連続ウェブを複数枚重ねて接合し、擬似等方性を有するように積層してなる炭素繊維束で構成される炭素繊維マットとマトリックス樹脂からなる炭素繊維複合材料。」

(イ)対比・判断
a 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲2発明との相違点1-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明1においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲2発明との相違点1-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲2発明との相違点1-3>
本件特許発明1においては、「X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、甲2発明との相違点1-3について検討する。
甲2発明における「炭素繊維マット」は、異方性連続ウェブを複数枚重ねて接合し、擬似等方性を有するように積層してなるものであるから、その表面の層は異方性のウェブである。
そして、本件特許発明1における「粗さ度β」は、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出して求めるものであるから、甲2発明において、表面が異方性のウェブである以上、「粗さ度β」が0.5?4.5の範囲内にある蓋然性が高いとはいえないし、甲2発明は、複数枚重ねることによって、擬似等方性を有するようにするものであって、1枚1枚を等方性にするものではないから、「粗さ度β」を0.5?4.5の範囲内にする動機付けもない。
また、他の証拠にも、甲2発明において、「粗さ度β」を0.5?4.5の範囲内にする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、甲2発明との相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

b 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲2発明との相違点2-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明2においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲2発明との相違点2-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明2においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲2発明との相違点2-3>
本件特許発明2においては、「繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、甲2発明との相違点2-3について検討する。
甲2発明における「炭素繊維マット」は、異方性連続ウェブを複数枚重ねて接合し、擬似等方性を有するように積層してなるものであるから、その表面の層は異方性のウェブである。
そして、本件特許発明2における「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」は、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出して求めるものであるから、甲2発明において、表面が異方性のウェブである以上、「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」が0.05?0.13の範囲内にある蓋然性が高いとはいえないし、甲2発明は、複数枚重ねることによって、擬似等方性を有するようにするものであって、1枚1枚を等方性にするものではないから、「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」を0.05?0.13の範囲内にする動機付けもない。
また、他の証拠にも、甲2発明において、「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」を0.05?0.13の範囲内にする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、甲2発明との相違点2-3に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 本件特許発明3について
本件特許発明3は、請求項1又は2を引用するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明1又は2と同様に、本件特許発明3は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)甲2に基づく進歩性のまとめ
したがって、本件特許発明1ないし3は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲3に基づく進歩性
(ア)甲3発明
甲3に記載された事項([0001]、[0002]、[0010]、[0013]ないし[0017]、[請求項1]及び[請求項3])を整理すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「熱可塑性樹脂と強化繊維とからなるチョップドストランド・プリプレグであって、該プリプレグの繊維体積含有率(Vf)が20?50%であり、該プリプレグの繊維軸方向の長さが15?45mmであり、そして該プリプレグの厚さが0.13mm以下のものが、繊維配向がランダムになるように積層された積層物を、加熱・加圧してシート状に成形してなる等方性の繊維強化熱可塑性樹脂シート。」

(イ)対比・判断
a 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲3発明との相違点1-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明1においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲3発明との相違点1-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲3発明においては、「熱可塑性樹脂」である点。

<甲3発明との相違点1-3>
本件特許発明1においては、「X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、甲3発明との相違点1-2について検討する。
甲3発明は、「熱可塑性樹脂と強化繊維とからなるチョップドストランド・プリプレグ」が積層された「繊維強化熱可塑性樹脂シート」であるが、甲3の[0002]の「従来、マトリックス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されてきた。しかし、特に航空宇宙分野では、これらのマトリックス樹脂は、脆く、耐衝撃性に劣るという欠点を有するため、その改善が求められてきた。また、熱硬化性樹脂の場合、これをプリプレグとしたとき、樹脂のライフタイムが短いためにプリプレグの保存管理上に問題があること、製品形状に対して追従性が乏しいこと、成形時間が長く生産性が低いこと等の問題もあった。」という記載からみて、「マトリックス樹脂」として「熱硬化性樹脂」を使用した場合に問題があり、その問題を解決するために、「熱硬化性樹脂」に代えて「熱可塑性樹脂」を「マトリックス樹脂」として用いたものであるといえることから、「熱可塑性樹脂」を「熱硬化性樹脂」にすることには阻害要因があるといえる。
なお、甲3の[0010]には「また、用途によっては、一部熱硬化性樹脂と混合して用いることもできる。」と記載されているが、「熱硬化性樹脂」を用いることができるのは、あくまでも「一部」であり、本件特許発明1のように、すべてを「熱硬化性樹脂」とすることにはやはり阻害要因があるといえる。
したがって、甲3発明において、甲3発明との相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

b 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲3発明との相違点2-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明2においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲3発明との相違点2-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明2においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲3発明においては、「熱可塑性樹脂」である点。

<甲3発明との相違点2-3>
本件特許発明3においては、「繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、甲3発明との相違点2-2について検討する。
甲3発明は、上記のとおり、「熱可塑性樹脂」を「熱硬化性樹脂」にすることには阻害要因があるといえる。
したがって、甲3発明において、甲3発明との相違点2-2に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 本件特許発明3について
本件特許発明3は、請求項1又は2を引用するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明1又は2と同様に、本件特許発明3は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)甲3に基づく進歩性のまとめ
したがって、本件特許発明1ないし3は、甲3発明、すなわち甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 甲4に基づく進歩性
(ア)甲4発明
甲4に記載された事項(【請求項1】、【請求項4】、【0040】、【0044】、【0057】、【0059】、【0061】、【0064】、【0082】、【0084】及び図面)を整理すると、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「繊維長が5?100mmの範囲内である強化繊維が実質的に一方向に引き揃えられた、フィラメント本数が10,000?700,000本の範囲内であるチョップド繊維束がマトリックス樹脂で一体化された成形材料であって、成形材料中におけるチョップド繊維束の平均幅Wmと平均厚みtmとの比率(Wm/tm)が70?1,000の範囲内であり、かつ、チョップド繊維束の平均幅Wmが2?50mmの範囲内、平均厚みtmが0.02?0.1mmの範囲内である成形材料であって、チョップド繊維束が複数層の積層構造を有しており、各層におけるそれぞれのチョップド繊維束の繊維方向が実質的に同一であり、かつ、隣り合う層におけるチョップド繊維束の繊維方向が異なる成形材料。」

(イ)対比・判断
a 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲4発明との相違点1-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明1においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲4発明との相違点1-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲4発明との相違点1-3>
本件特許発明1においては、「X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、甲4発明との相違点1-3について検討する。
甲4発明における「チョップド繊維束がマトリックス樹脂で一体化された成形材料」は、チョップド繊維束が複数層の積層構造を有しており、各層におけるそれぞれのチョップド繊維束の繊維方向が実質的に同一であり、かつ、隣り合う層におけるチョップド繊維束の繊維方向が異なるものであるから、その表面の層の繊維束の繊維方向は、実質的に同一、すなわち異方性を有するものである。
そして、本件特許発明1における「粗さ度β」は、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出して求めるものであるから、甲4発明において、表面が異方性を有するものである以上、「粗さ度β」が0.5?4.5の範囲内にある蓋然性が高いとはいえないし、甲4発明は、隣り合う層の繊維方向を異ならせるものであり、1枚1枚を等方性にするものではないから、「粗さ度β」を0.5?4.5の範囲内にする動機付けもない。
また、他の証拠にも、甲4発明において、「粗さ度β」を0.5?4.5の範囲内にする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲4発明において、甲4発明との相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

b 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲4発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲4発明との相違点2-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明2においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲4発明との相違点2-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明2においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲4発明との相違点2-3>
本件特許発明2においては、「繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、甲4発明との相違点2-3について検討する。
甲4発明における「チョップド繊維束がマトリックス樹脂で一体化された成形材料」は、チョップド繊維束が複数層の積層構造を有しており、各層におけるそれぞれのチョップド繊維束の繊維方向が実質的に同一であり、かつ、隣り合う層におけるチョップド繊維束の繊維方向が異なるものであるから、その表面の層の繊維束の繊維方向は、実質的に同一、すなわち異方性を有するものである。
そして、本件特許発明2における「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」は、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出して求めるものであるから、甲4発明において、表面が異方性を有するものである以上、「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」が0.05?0.13の範囲内にある蓋然性が高いとはいえないし、甲4発明は、隣り合う層の繊維方向を異ならせるものであり、1枚1枚を等方性にするものではないから、「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」を0.05?0.13の範囲内にする動機付けもない。
また、他の証拠にも、甲4発明において、「繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値」を0.05?0.13の範囲内にする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲4発明において、甲4発明との相違点2-3に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 本件特許発明3について
本件特許発明3は、請求項1又は2を引用するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明1又は2と同様に、本件特許発明3は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)甲4に基づく進歩性のまとめ
したがって、本件特許発明1ないし3は、甲4発明、すなわち甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 甲5に基づく進歩性
(ア)甲5発明
甲5の記載(第3ページ第2及び3行、同ページのTable 1、同ページの第14ないし16行、同ページの第24及び25行、第4ページの第19ないし22行、第7ページのFigure6及びFigure7並びに第16ページのTableA4及びTable A5)を整理すると、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人が引用した箇所は、相互の関係が不明であるから、甲5発明として、特許異議申立人が認定したような発明は認定できず、当審で適切と考える発明を認定した。

「炭素繊維束を原料として製造された35%の繊維体積含有率にて炭素繊維を含有するプリフォーム。」

(イ)対比・判断
a 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸された繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲5発明との相違点1-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明1においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲5発明との相違点1-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明1においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲5発明との相違点1-3>
本件特許発明1においては、「シート状」の「繊維強化樹脂材料」であるのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲5発明との相違点1-4>
本件特許発明1においては、「X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である」と特定されているに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
甲5には、甲5発明において、甲5発明との相違点1-1ないし1-4のいずれに係る本件特許発明1の発明特定事項についても、それらを採用する動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲5発明において、甲5発明との相違点1-1ないし1-4のいずれに係る本件特許発明1の発明特定事項について、それらを採用する動機付けとなる記載はない。
したがって、甲5発明において、甲5発明との相違点1-1ないし1-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

b 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲5発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維束の間に樹脂が含浸された繊維強化樹脂材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<甲5発明との相違点2-1>
「繊維束」に関して、本件特許発明2においては、「分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)」であるのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲5発明との相違点2-2>
「樹脂」に関して、本件特許発明2においては、「熱硬化性樹脂」であるのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲5発明との相違点2-3>
本件特許発明2においては、「シート状」の「繊維強化樹脂材料」であるのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<甲5発明との相違点2-4>
本件特許発明2においては、「繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である」と特定されているに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
甲5には、甲5発明において、甲5発明との相違点2-1ないし2-4のいずれに係る本件特許発明2の発明特定事項についても、それらを採用する動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲5発明において、甲5発明との相違点2-1ないし2-4のいずれに係る本件特許発明2の発明特定事項について、それらを採用する動機付けとなる記載はない。
したがって、甲5発明において、甲5発明との相違点2-1ないし2-4に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明2は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 本件特許発明3について
本件特許発明3は、請求項1又は2を引用するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明1又は2と同様に、本件特許発明3は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)甲5に基づく進歩性のまとめ
したがって、本件特許発明1ないし3は、甲5発明、すなわち甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 結語
上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立て理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、前記樹脂が熱硬化性樹脂であり、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)?(3)により求められる粗さ度βが0.5?4.5である、繊維強化樹脂材料。
【数1】

ただし、前記式中、f(φ_(i))は、下式(2)で表される、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ_(i))の輝度(I(φ_(i)))から平均の輝度を差し引いた輝度であり、dφは、X線回折測定のステップ幅である。I(φ_(i))は、下式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。
【数2】

【請求項2】
分散された繊維束(ただし、不織布を除く。)の間に樹脂が含浸されたシート状の繊維強化樹脂材料であって、前記樹脂が熱硬化性樹脂であり、
繊維強化樹脂材料の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(4)?(6)により求められる、0°方向を基準にした前記繊維束の結晶配向度f_(a)の平均値と標準偏差の合計値が0.05?0.13である、繊維強化樹脂材料。
【数3】

ただし、前記式(4)中、aは、式(5)で表される配向係数である。I(φ_(i))は、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ_(i))の輝度であり、式(6)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂材料の成形品であって、
成形品の長さ方向を0°方向とし、幅方向を90°方向としたときに、
それぞれの方向に沿った曲げ弾性率[GPa]の比(0°曲げ弾性率/90°曲げ弾性率)が、0.8?1.2であり、
それぞれの方向に沿った曲げ弾性率の変動係数(CV)(0°曲げ弾性率のCV及び90°曲げ弾性率のCV)[%]が何れも5?15である、成形品。
【請求項4】
裁断した繊維束の間に樹脂を含浸させたシート状の繊維強化樹脂材料を製造する繊維強化樹脂材料の製造方法であって、
所定の方向に搬送される第1のシートの上に樹脂を塗工する塗工ステップと、
長尺の繊維束を裁断機で裁断する裁断ステップと、
裁断された繊維束を分散させ、前記樹脂の上に散布する散布ステップと、
前記第1のシート上の前記樹脂と散布された繊維束群を加圧して、前記繊維束の間に前記樹脂を含浸させる含浸ステップと、を含み、前記散布ステップが、前記裁断機の下方にロッドを複数並べて配置し、それら複数のロッドに向けて裁断された繊維束を落下させて前記繊維束を分散させ、前記樹脂の上に散布するステップである、繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項5】
前記含浸ステップが、前記繊維束が散布された第1のシートの上に、前記樹脂が塗工された第2のシートを重ね合わせた後、前記第1のシートと前記第2のシートとの間に挟み込まれた前記樹脂及び前記繊維束群を加圧して、前記繊維束の間に前記樹脂を含浸させるステップである、請求項4に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項6】
前記塗工ステップが、前記第1のシート上に熱硬化性樹脂を含むペーストを塗工するステップである、請求項4又は5に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項7】
前記の複数のロッドとして、前記第1のシートの搬送方向に沿って延長されたロッドを用いる、請求項4?6の何れか一項に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項8】
裁断した繊維束の間に樹脂を含浸させたシート状の繊維強化樹脂材料を製造する繊維強化樹脂材料の製造方法であって、
所定の方向に搬送される第1のシートの上に樹脂を塗工する塗工ステップと、
長尺の繊維束を裁断機で裁断する裁断ステップと、
裁断された繊維束を分散させ、前記樹脂の上に散布する散布ステップと、
前記第1のシート上の前記樹脂と散布された繊維束群を加圧して、前記繊維束の間に前記樹脂を含浸させる含浸ステップと、を含み、
さらに、前記樹脂上に散布された繊維束群の繊維配向状態を検査する検査ステップを含む、繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項9】
前記検査ステップが、
前記繊維束群に対して、平面視で互いに交差する方向の第1の光及び第2の光を斜め上方から別々に照射し、前記第1の光又は第2の光が照射された状態の前記繊維束群の上面の静止画をそれぞれ撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで撮像された静止画から得た輝度情報に基づき、前記第1の光が照射された状態の輝度と、前記第2の光が照射された状態の輝度との輝度差又は輝度比を算出し、前記繊維束群の繊維配向状態を判定する配向判定ステップと、
を含む、請求項8に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記検査ステップの検査結果に基づいて前記散布ステップの条件を変更し、前記繊維束群の繊維配向状態を制御する制御ステップを含む、請求項8又は9に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項11】
前記制御ステップにおいて、前記検査ステップの検査結果に基づいて前記第1のシートの搬送速度を変更して、前記繊維束群の繊維配向状態を制御する、請求項10に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項12】
前記散布ステップが前記の複数のロッドを用いるステップであり、
前記制御ステップにおいて、前記検査ステップの検査結果に基づいて前記の複数のロッドの水平方向に対する傾斜角度を変更して、前記繊維束群の繊維配向状態を制御する、請求項10又は11に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項13】
前記散布ステップが前記の複数のロッドを用いるステップであり、
前記制御ステップにおいて、前記検査ステップの検査結果に基づいて前記の複数のロッドの振動数を変更して、前記繊維束群の繊維配向状態を制御する、請求項10?12の何れか一項に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。
【請求項14】
裁断した繊維束の間に樹脂を含浸させたシート状の繊維強化樹脂材料を製造する繊維強化樹脂材料の製造装置であって、
所定の方向に搬送される第1のシートの上に樹脂を塗工する塗工部と、 長尺の繊維束を裁断機で裁断する裁断部と、
裁断された前記繊維束を分散させ、前記樹脂の上に散布する散布部と、
前記第1のシート上の前記樹脂と散布された繊維束群を加圧して、前記繊維束の間に前記樹脂を含浸させる含浸部と、を備え、
前記散布部が、前記裁断機の下方にロッドが複数並べて配置され、裁断された繊維束がそれら複数のロッドに向けて落下して分散される散布部である、繊維強化樹脂材料の製造装置。
【請求項15】
前記含浸部が、前記繊維束が散布された第1のシートの上に、さらに、前記樹脂が塗工された第2のシートを重ね合わせた後、前記第1のシートと前記第2のシートとの間に挟み込まれた前記樹脂及び前記繊維束群を加圧して、前記繊維束の間に前記樹脂を含浸させる含浸部である、請求項14に記載の繊維強化樹脂材料の製造装置。
【請求項16】
前記の複数のロッドが、前記第1のシートの搬送方向に沿って延長されたロッドである、請求項14又は15に記載の繊維強化樹脂材料の製造装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-14 
出願番号 特願2016-546859(P2016-546859)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B29B)
P 1 652・ 536- YAA (B29B)
P 1 652・ 537- YAA (B29B)
P 1 652・ 113- YAA (B29B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
加藤 友也
登録日 2018-01-05 
登録番号 特許第6265270号(P6265270)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 繊維強化樹脂材料、成形品、繊維強化樹脂材料の製造方法及び製造装置、並びに繊維束群の検査装置  
代理人 伏見 俊介  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 高橋 詔男  
代理人 伏見 俊介  
代理人 高橋 詔男  
代理人 大浪 一徳  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 鈴木 三義  
代理人 大浪 一徳  
代理人 志賀 正武  
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