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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B65D 審判 全部申し立て 特174条1項 B65D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B65D |
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管理番号 | 1353128 |
異議申立番号 | 異議2018-700229 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-19 |
確定日 | 2019-05-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6197820号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6197820号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-2]について訂正することを認める。 特許第6197820号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6197820号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成23年2月14日に特許出願された特願2011-28784号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成27年4月3日に新たな特許出願としたものであって、平成28年3月18日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年10月18日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年3月30日付けで拒絶査定され、平成29年6月23日に拒絶査定不服審判(審判2017-9180号)が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成29年9月1日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成29年9月20日)がされた。 その後、請求項1及び2に係る特許について、平成30年3月19日に特許異議申立人土田裕介(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、平成30年7月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年9月5日に意見書の提出及び訂正の請求があり、同年同月7日に意見書(取消理由通知(決定の予告)の希望の追加)が提出され、平成30年9月19日付けで申立人に対し訂正の請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である平成30年10月19日に申立人より意見書が提出され、平成30年12月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成31年3月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があった。 なお、平成30年9月5日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。) ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも基材フィルムと、ヒートシール性フィルムからなる包装材用シーラントフィルムであって、 該ヒートシール性フィルムは、サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなり、 該α-オレフィンが、ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物であり、 該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有し、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用シーラントフィルム。」とあるのを、 「少なくとも基材フィルムと、ヒートシール性フィルムからなる包装材用積層フィルムであって、該ヒートシール性フィルムは、サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなり、該α-オレフィンが、ブテン-1であって、その含有量は1?15モル%であり、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有し、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用積層フィルム。」に訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載の包装材用シーラントフィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。」とあるのを、 「請求項1に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.一群の請求項 訂正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求による訂正は当該一群の請求項1?2に対し請求されたものである。 イ.訂正事項1について (ア)訂正事項1による訂正は、「少なくとも基材フィルムと、ヒートシール性フィルムからなる」ものが、訂正前の請求項1では「包装材用シーラントフィルム」であったところ、これを「包装材用積層フィルム」に訂正する(以下、「訂正事項1-1」という。)とともに、「α-オレフィン」が、訂正前の請求項1では「ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物」であったところ、これを「ブテン-1であって、その含有量は1?15モル%」に訂正する(以下、「訂正事項1-2」という。)ものである。 (イ)まず、訂正事項1-1に関し、本件特許の願書に最初に添付した明細書の段落【0005】には、「請求項1に記載の発明に係る包装材用シーラントフィルムは、ポリエチレン系樹脂からなるフィルムであって、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物である植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなるヒートシール性フィルムであることを特徴とする。」と記載されており、「包装材用シーラントフィルム」は、「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物である植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなるヒートシール性フィルム」であると説明されている。 (ウ)また、同明細書の段落【0013】には、「請求項4に記載の発明によれば、植物由来ポリエチレン系樹脂を含むポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルム(請求項1ないし3のいずれかに記載)を、基材フィルムと積層させた包装材用積層フィルムとするので・・・石油資源の節約および環境負荷を低減させたポリエチレン系樹脂からなる包装材用積層フィルムを提供することができる。」と記載されており、「植物由来ポリエチレン系樹脂を含むポリエチレン系樹脂からなる包装材用シーラントフィルム」、すなわち、上記段落【0005】に記載された「単層構成である」「包装材用シーラントフィルム」と「基材フィルム」と積層させたものが「包装材用積層フィルム」であると説明されている。 (エ)そして、この説明は、同明細書における他の記載、例えば、「本願では、上記気相重合法にて得られたサトウキビ(サトウキビに限定されず、その他直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の製造原料となる植物であればよい)由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる樹脂組成物1を用いて、図2に示すようなフィルムF1とすることができる。」(段落【0026】)、「この場合、上記樹脂組成物1を5?90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂2を10?95重量%とを、下記の(A)または(B)あるいは(C)の要領にてフィルムを構成した。まず(A)のフィルムF2として、図3に示すように、樹脂組成物1と、石油由来のポリエチレン系樹脂2とを混合した単層構成にすることができる。」(段落【0036】)、「また、(B)のフィルムF3として、図4に示すように、中間層を樹脂組成物1とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂2とした多層構成にすることもできる。」(段落【0037】)、「さらに、(C)のフィルムF4として、図5に示すように、中間層を樹脂組成物1と、石油由来ポリエチレン系樹脂2とを混合した層とし、外層および内層を石油由来ポリエチレン系樹脂2とした多層構成にすることもできる。」(段落【0038】)、「まず、積層フィルム3は、この図6に示すように、上記フィルムF1?F4のいずれかをシーラントフィルム4として、基材フィルム5と積層させる。」(段落【0041】)、「 以上詳述したように、この例のポリエチレン系樹脂からなるフィルムF1?F4は、気相重合法にて得られた直鎖状低密度の植物由来ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物1からなるものである。また、これらフィルムF1?F4をシーラントフィルムとし、基材フィルム5と積層させた積層フィルム3とするとともに、包装袋6は、この積層フィルム3からなるものである。」(段落【0063】)との記載とも整合するものである。 (オ)してみると、訂正前の請求項1の「包装材用シーラントフィルム」は、正しくは、「包装材用積層フィルム」と記載すべきものを誤記したものと解するのが相当であるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定された誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。 (カ)そして、訂正事項1-1による訂正は、上記したように、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (キ)次に、訂正事項1-2は、「α-オレフィン」が、訂正前の請求項1では「ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物」であったところ、これを「ブテン-1」に限定し、その含有量を1?15モル%を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (ク)そして、訂正事項1-2による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0049】における「スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)であるブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。・・・なお、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂に含まれるコモノマー種のブテン-1(C4)は石油由来のものであり、その含有量は1?15モル%(以下同様)である。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ.訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2において、訂正事項1と同様に誤記であることが明らかな「包装材用シーラントフィルム」を「包装材用積層フィルム」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定された誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に規定された特許請求の範囲の減縮及び同項第2号に規定された誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項括弧書き及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求が認められることにより、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 【請求項1】 少なくとも基材フィルムと、ヒートシール性フィルムからなる包装材用積層フィルムであって、該ヒートシール性フィルムは、サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなり、該α-オレフィンが、ブテン-1であって、その含有量は1?15モル%であり、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有し、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用積層フィルム。 【請求項2】 請求項1に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。 (2)取消理由(決定の予告)の概要 取消理由通知書(決定の予告)に記載した本件発明1及び2に係る特許に対する取消理由の概要は、以下のとおりである。 《理由1》 本件発明1及び2は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物甲1?10に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 《刊行物》 甲1.“メタロセン系LLDPE エボリュー 三井化学(株)”,「プラスチックフィルムレジン材料総覧1997/98」,株式会社加工技術研究会,1997年12月18日,p.15-17 甲2.“メタロセン系LLDPE樹脂 エボリュー (株)プライムポリマー”,「プラスチックフィルム・レジン材料総覧2008」,株式会社加工技術研究会,2008年1月31日,p.382-386 甲3.“最近のドライラミネートフィルムの動向?ヒートシール基材L-LDPEを中心に?”「食品包装用複合フィルム便覧」,日本食品出版株式会社,初版,1997年3月,p.64-70 甲4.杉山英路,外1名,“地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」”,コンバーテック,株式会社加工技術研究会,2009年8月15日,第37巻,第8号,通巻437号,p.63-67 甲5.杉山英路,“新しいバイオマスプラスチックの可能性?「サトウキビ由来のポリエチレン」の製品化から?”,高分子関連技術情報誌Polyfileポリファイル2009年12月号,株式会社大成社,2009年12月10日,p.28-30 甲6.特開2008-265115号公報 甲7.特開2009-149013号公報 甲8.柏典夫,外1名,“LLDPE製造法およびその触媒”,石油学会誌,社団法人石油学会,昭和60年9月1日,第28巻,第5号,p.355-362 甲9.小林愛,外5名,“直鎖状低密度ポリエチレン由来の包装臭成分の同定”,日本包装学会誌,日本包装学会,平成20年12月1日,第17巻,第6号,p.427-432 甲10.舊橋章,「製品開発に役立つプラスチック材料入門」,日刊工業新聞社,初版第1刷,2005年9月30日,p.26-36 甲11.特開2012-167172号公報(原出願の公開公報) 甲12.「広辞苑 第五版」,岩波書店,1998年11月11日,p.2766 (3)判断 ア.甲1?10の記載事項 (ア)甲1記載事項 a.「メタロセン系LLDPE エボリュー 三井化学(株)」(15頁左欄冒頭) b.「 」(17頁) c.「・・・エボリューの優れた耐ブロッキング性とヒートシール性は、フィルムの製袋加工速度の向上を実現する。・・・」(17頁左欄8?9行) d.「2.エボリューの用途展開 エボリューは現在、フィルム分野を中心に用途展開を図っている。前述の高速度を生かしたフィルム製品の薄肉化や生産性の向上(高速化)を武器にした包装用フィルム分野、低温シールヒート性などを生かしたラミ原反分野で展開をはじめている。 代表例として、東セロ(株)のLLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」のヒートシール性のデータを図10、11に示した。シーラントフィルム分野は、耐ブロッキング性と低温ヒートシール性等の品質要求が厳しく、従来の触媒の中でも組成分布が最も均一な、溶液法によるLLDPEが主に使用されてきた。 T.U.X-FCSでは主原料にエボリューを使用しており、従来の触媒によるT.U.X-FCDより優れた低温ヒートシール性、ホットタック性、密封性を評価していただいている。」(17頁左欄11行?右欄3行) e.「 」(17頁) f.上記図10は、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」のヒートシール性を示す図であって、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」と従来触媒による「T.U.X-FCD」の双方について、「フィルム構成(NY#15/DL/LL#50)」のものを作成し、ヒートシール温度とシール強度との関係を示したものと解されることを踏まえると、同図から、上記「フィルム構成(NY#15/DL/LL#50)」のものが看取される。 (イ)甲2記載事項 a.「メタロセン系LLDPE樹脂 エボリュー (株)プライムポリマー」(382頁左欄冒頭) b.「1.基本物性および特長 「エボリュー」は、メタロセン触媒を利用した当社独自の気相重合法により、エチレンとハイヤーαオレフィン(ヘキセン-1)を共重合した特殊なLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)である。 従来のチーグラー・ナッタ触媒を用いたLLDPEに比較して、強度、透明性、シール性が優れ、物性と成形性とのバランスが極めて優れるLLDPEとして、包材用途を中心に幅広く使用されている。エボリューの各銘柄の用途例と、グレードの位置付けを図1に示す。」(382頁1?8行) c.「 」(382頁) (ウ)甲3記載事項 a.「最近のドライラミネートフィルムの動向 ?ヒートシール基材L-LDPEを中心に?」(64頁冒頭) b.「ドライラミネーションは・・・基材に,・・・接着剤を均一に塗布し,乾燥機内を通して溶剤を蒸発,乾燥させる。更に,乾燥粘着状態になった接着剤層面に他基材を加熱ロールで圧着ラミネートし,冷却金属ロールを通過させて巻き取り貼り合わせる。」(65頁左欄末行?右欄7行) c.「2 ドライラミネーション用材料 2-1 ドライラミネーション用基材 現存のあらゆるフィルムが対象になる。列挙すると, (1)ONY(二軸延伸ナイロンフィルム) (2)PET(二軸延伸ポリエステルフィルム) ・・・ (11)LDPE(低密度ポリエチレンフィルム) (12)HDPE(高密度ポリエチレンフィルム) ・・・ などの基材,およびこれらのポリマーコートフィルムがある。 一般にラミネートフィルムは数種のフィルムの組み合せであり,包装用途が多く,通常のドライラミネートフィルムはガスバリヤーなどの特性をもったナイロン,ポリエステルなどのベースフィルム(基材)と,ポリエチレンのようなヒートシート基材との組み合せで使用されることが多い。 (1)?(10)が前者で,(11)?(14)が後者といえる。・・・」(66頁左欄1行?下から3行)(合議体注:「丸数字」は「(数字)」で表記した。) d.「前述の如く,包装材料には多機能が要求されている。主なものは, a)バリヤー性 b)自動充填性(腰,ホットタック性) c)袋強度(ヒートシール強度,衝撃強度) である。 ・・・ b),c)について,LDPE(低酢ビ含む),L-LDPE,CPP,アイオノマーフィルムなどのヒートシール基材の選択が重要である。」(66頁右欄末行?67頁左欄33行) e.「昭和50年代に入り,三井石油化学(株)のL-LDPE「ウルトゼックス」を使用したタマポリ(株)の「UBシリーズ」,東セロ(株)の「TUXフィルム」が上市され,ドライラミ原反もしくはサンドラミ原反(押出ラミネ-ターを使用し,LDPEの溶融押出で貼り合せる)として,使用されている(表2参照)。 上記フィルムがラミネート用に使用されるのは (1)ホットタック性が非常に良く,夾雑物シール性が優れている。 (2)耐熱性があり,耐ボイル性に優れている。 (3)縦,横の強度バランスが良く,引裂抵抗が大きく,衝撃強度が優れている。 (4)ヒートシール強度が高く,特にシール基材として使用する場合,破袋強度が優れている。 など,フィルム基材として多くの特長を備えているためであり,今後,更に普及拡大していくであろう。」(67頁左欄下から5行?右欄13行) f.「L-LDPEはドライラミ原反市場で既に大きな地位を確立したが,今後は極めて狭い組成分布を可能にしたメタロセン触媒を用い,優れた品質を有する三井石化(株)の「エボリュー」,宇部興産(株)の「ユメリット」,三菱化学(株)の「カーネル」等を用いた,ラミ原反が市場拡大の鍵となることが予想される。 既に,東セロ(株)の「TUX-FCS, TCS」,タマポリ(株)の「SEシリーズ」,(株)興人の「メタロエース」等が上市されている。」(70頁左欄3?末行) (エ)甲4記載事項 a.「1.はじめに 私たち人類はあらゆる利便性を追求した結果、社会は豊かになった。しかしその反面、大量消費→大量廃棄した結果、(1)資源、エネルギーの不足、(2)CO_(2)(炭酸ガス)の増加による地球温暖化等の問題が明確になってきた。」(63頁左欄1?7行) b.「 ポリエチレン原料を従来の石油系原料から再生可能なサトウキビ(バイオマス系)に置き換えることは、植物の成育時のCO_(2)吸収と燃焼時の排出が同一(カーボンニュートラル)になり、地球上のCO_(2)を増やさないので地球環境にやさしく、また石油資源利用の節約にも貢献する。」(63頁左欄下から8?末行) c.「2.サトウキビ由来ポリエチレンの製造工程 サトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを図1に示す。サトウキビ畑より刈り取ったサトウキビを圧延ローラーで糖液を取り出し、その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液(廃糖蜜)を遠心分離器により分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌により発酵させエタノールを作る。次にバイオエタノールを300?400℃に加熱してアルミナ等の触媒により分子内脱水反応させると高い収率でエチレンが生成される。生成物にはエチレン以外に水分、有機酸、一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度までエチレンを精製して、次の工程のポリエチレン重合プラントへ導入する。ポリエチレン重合プラントで重合触媒によりエチレンを高分子化(重合)してポリエチレンを生産する。」(63頁中央欄1?下から6行) d.「3.サトウキビ由来ポリエチレンの同等性 当社とBraskem社は共同でトリウンフォ工場内の研究開発センターで図2にある試験設備により同等性を評価した。 (1)エチレン 試験設備にバイオマス由来エタノールを導入し、出来上がったエチレンの成分分析を行った結果、従来の石油由来エチレンとの品質同等性を確認した。 (2)ポリエチレン 試験重合機に石油系エチレンとバイオマス系エチレンをそれぞれ投入し、同1条件でポリエチレンを重合し、出来上がったポリマーの同等性を検討した。この結果を表1に示す。多少の数値上の差異はあるが、テスト重合機の条件設定に影響されていると考えられ、基本的にはいずれの用途グレードとも石油系、バイオマス系の品質は同等であることが確認できた。」(63頁右欄4?末行) e.「4.サトウキビ由来ポリエチレンの生産概要と生産予定グレード サトウキビ由来ポリエチレンはBraskem社のトリウンフォ工場で、2011年から高密度ポリエチレン(HDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を合わせて年間20万トン生産される計画である。」(64頁左欄1行?中央欄4行) f.「 」(64頁) g.「 」(64頁) h.「6.バイオマス度の判別法(^(14)Cによる分析手法) 今回開発されたサトウキビ由来ポリエチレンは植物由来の樹脂であるが、従来から生産されてきた石油由来ポリエチレンと外観、物性が同じあり、バイオマス度(カーボンの由来比)を数値化することが重要であると考え、^(14)C(放射性炭素年代測定)による分析手法により判別を行った。図6は、Braskem社の試験プラントで試作したサトウキビ由来のHDPEを米国のベータアナリティック社においてASTMD6866^(2))測定法に基づいて炭素分析した結果であるが、100%バイオベースであることが確認された。」(65頁左欄26行?中央欄10行) i.「 」(66頁) (オ)甲5記載事項 a.「1.はじめに 私たち人類はあらゆる利便性を追求した結果、社会は豊かになった。しかし,その反面,資源・エネルギーの不足とCO_(2)の増加による地球温暖化等の問題が表面化してきた。そして現在,世界は脱石油社会を要望している。 豊田通商(株)は,ブラジルのBraskem社と共同で,ポリオレフィンを従来の石油由来から再生可能な植物由来にするため,2006年より技術開発に着手し2007年にパイロットプラントによる技術検証が完了した。」(28頁左欄1?9行) b.「サトウキビ由来ポリエチレンの商業生産は,まだ少し先のことであり,また,価格は石油系と比べて高価であるにもかかわらず,欧米・日本・韓国などのグローバル企業や業界トップ企業の関心は高く,商業生産前に取引契約を進める企業が多い。日本では既に(株)資生堂が採用を公表しており,環境省が進める「エコファースト制度」の認定においても当ポリエチレンへの切り替えをコミットしている。引き合い用途においては,化粧品やシャンプー等のボトル・チューブ類,レジ袋・ゴミ袋,レジカゴ,食品包装材,衛生用品,物流資材,電線被服材,人工芝・シート類,自動車部品など多種多様である。」(28頁左欄19行?右欄8行) c.「3.生産スキーム 2011年初旬より,Braskem社はトリウンフォ工場でHDPEとLLDPEを合わせて年間20万トンの規模で生産する計画である。エタノールをエチレンに変換するプラントを新設して,重合は,既存のスラリー法と気層法の設備をそれぞれ流用する。今回の生産スキームのメリットは,既存の重合機を流用することにより,生産初期トラブルを防ぐことができ,各グレード生産の立上げ,品質確保が早く実現できることである。」(28頁12?20行) d.「 」(28頁) e.「5.サトウキビ由来ポリエチレンの製造工程 図1にサトウキビ由来ポリエチレンの製造フローを示す。まず,サトウキビから糖液を取り出し,その糖液を加熱濃縮して結晶化する粗糖分(砂糖原料)と残糖液(廃糖蜜)を分離する。この廃糖蜜を適切な濃度まで水で希釈して酵母菌によりエタノールを発酵させて,蒸留によりエタノールを得る。尚,サトウキビから糖液を絞り出す際に大量の絞りかす(バガス)が発生する。ブラジルでは,このバガスを燃料として蒸気を発生させ,砂糖・バイオエタノールに必要な熱・電気エネルギーの全てを賄うことができ,また,その余剰電力がブラジルの重要な電力源となっている。このように生産されたエタノールは,Braskem社工場に運ばれ,エチレンに加工される。エタノールを300?400℃に加熱し,特別に開発されたアルミナ触媒により分子内脱水反応をさせることでエチレンが高い収率で生成する。生成物にはエチレン以外に水分,有機酸,一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度まで精製する。最後にこの精製エチレンを重合プラントにおいて触媒重合しポリエチレンを得る。」(29頁左欄4?22行) f.「7.バイオマス度の判別法 バイオマス度は^(14)C(放射性炭素)の分析により測定することができる。原料となるバイオマスには,一定比率で^(14)Cを含むのに対し,一方で石油・ガス・石炭に含まれるカーボンは,全て^(12)Cであり,その差を測定することで,バイオマス度を測定する。図4にBraskem社の試験プラントで試作したサトウキビ由来のHDPEを米国のベータアナリティック社がASTM-D6866^(2))測定法に基づき炭素分析した結果であり、100%バイオマス由来であることが確認された。」(29頁右欄8?17行) (カ)甲6記載事項 a.「【0001】 本発明は、多層積層フィルムに関し、更に詳しくは、ポリ乳酸樹脂を主体とし、包装用シ-ラント材料としての機能を果たすと共に遮光性等を有し・・・主に、食品・・・その他等を充填包装するに有用な多層積層フィルムに関するものてある。」 b.「【0007】 また、上記の特許文献2、3に係る多層積層樹脂フィルムについては、包装用シ-ラント材料としての機能を果たすと共に遮光性等を有し、密閉性に優れている共に内容物保護適性等に優れているものではあるが、化石原料を主原料としたポリエチレン、ポリプロピレン等の既存のプラスチック等を使用すると、CO_(2)増加につながることから、単に、分別、リサイクル等の対策・検討だけでは、環境負荷の軽減には不十分であるという問題点を有するものである。 そこで本発明は、アルミニウム箔等が担っていた遮光機能を代替えでき、かつ、分別・リサイクルに貢献でき、また、化石原料を使わずに植物由来原料を使用することにより、CO_(2)の削減に貢献でき、更に、包装用シ-ラント材料としての機能を十分に果たし、密閉性に優れている共に内容物保護適性に優れ、かつ、廃棄処理適性に優れ、主に、食品、スナック菓子類、油脂類、冷凍食品、化成品、医療品、その他等を充填包装するに有用な多層積層フィルムを提供することである。」 c.「【0010】 ・・・ また、本発明に係る多層積層フィルムは、ポリ乳酸樹脂を使用し、これを主材として多層積層フィルムを構成していることから、それ自身で生分解性を備え、自然環境中で分解するという利点を有するものである。 ・・・」 (キ)甲7記載事項 a.「【請求項1】 基材と、該基材の少なくとも片面に、バイオマス樹脂と合成樹脂を含む樹脂層を有する積層体において、前記バイオマス樹脂が微生物産生系ポリエステル及び/又は脂肪族ポリエステルであり、前記樹脂層のバイオマス樹脂と合成樹脂の配合割合が質量基準で50?90:50?10であり、保香性に優れることを特徴とする積層体。」 b.「【請求項2】 請求項1に記載の積層体であって、上記バイオマス樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、上記合成樹脂がポリオレフィン系樹脂であり、かつ、前記積層体の樹脂層へオレンジジュースが接していても、香りと風味を損ないにくく保香性に優れることを特徴とする積層体。」 c.「【0001】 本発明は、積層体に関し、さらに詳しくは、保香性に優れ、かつ、環境への負荷を低減し、さらには省資源、循環型社会、地球温暖化防止、農業の活性化などのために、バイオマス樹脂を用いた積層体に関するものである。」 d.「【0003】 (主なる用途)本発明の積層体から製造されてなるパウチやスタンドパウチなどの軟包装袋の主なる用途としては・・・環境への負荷を低減し、さらには省資源、循環型社会、地球温暖化防止、農業の活性化なども標榜したものである。しかしながら、保香性に優れ、かつ、環境への負荷を低減し、さらには省資源、循環型社会、地球温暖化防止、農業の活性化などを必要とし、ポリオレフィン系樹脂と同程度のヒートシール性も必要とする用途であれば、特に限定されるものではない。」 e.「【0007】 そこで、本発明は上記のような問題点を解消するために、本発明者らは鋭意研究を進め、本発明の完成に至ったものである。その目的は、保香性に優れ、環境への負荷を低減し、さらには省資源、循環型社会へ近づくバイオマス樹脂を用いても、該バイオマス樹脂を含む層の加工性がよくより高速で積層体とすることができ、またパウチやスタンディングパウチなどの製造ではヒートシール性に優れるので、従来設備で容易に製造でき、液体用のパウチやスタンディングパウチなどの軟包装にも用いることのできる積層体を提供することである。」 f.「【0014】 (樹脂層)樹脂層としてはバイオマス樹脂と合成樹脂の混練物からなる樹脂組成物であり、質量基準でバイオマス樹脂:合成樹脂=50?90:50?10とする。合成樹脂成分としては特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、該ポリオレフィン系樹脂としてはLDPE、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体やカルボン酸をグラフト重合した酸変性ポリオレフィン、アイオノマーなどが混練性のよい点で好ましい。さらに好ましくは安価でヒートシール性のよいLDPEである。生分解性や強度に優れるポリ乳酸系樹脂と安価でヒートシール性に優れるポリオレフィン系樹脂の組み合わせである。また、樹脂層を構成するバイオマス樹脂と合成樹脂からなる樹脂組成物に加えて、着色剤、顔料、体質顔料、充填剤、滑剤、可塑剤、界面活性剤、増量剤などの添加剤を加えてもよい。」 g.「【0015】 (バイオマス樹脂)バイオマス樹脂としては、澱粉、ポリ乳酸系樹脂、微生物産生ポリエステル、脂肪族又は芳香族ポリエステルなどがあるが、微生物産生ポリエステル及び/又は脂肪族ポリエステルを用いる。バイオマス樹脂には生分解するもの、生分解しないものなどがあるが、いずれでもよく、好ましくは生分解性の樹脂であり、特に好ましくは生分解性や強度の点でポリ乳酸系樹脂である。」 h.「【0017】 (合成樹脂)バイオマス樹脂に混合する合成樹脂としては限定されないが、ヒートシール性のあるポリオレフィン系樹脂、又はその変性体が好ましい。・・・その中で、LDPE、リニア低密度ポリエチレン(L?LDPE)、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体、酸変性ポリオレフィン、アイオノマーのいずれか又はその組み合わせがより好ましい。」 (ク)甲8記載事項 a.「3.LLDPE製造技術の比較 LLDPE製造技術には,以下の方法がある。 (1)気相法,(2)スラリー法,(3)高圧法,(4)溶液法」(355頁右欄5?7行)(合議体注:「丸数字」は「(数字)」で表記した。) b.「 」(359頁) (ケ)甲9記載事項 a.「 」(428頁) (コ)甲10記載事項 a.「直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE) (a)製法と構造 HDPEの密度を調節する目的で、α-オレフィンを共重合させることを紹介してきたが、そのα-オレフィンの量を増やして密度を0.91程度まで低下させたコポリマーがL-LDPEと呼ばれるポリエチレンになる。このL-LDPEは、高圧LDPEと異なり、分岐の長さや量を目的の密度に合わせて任意に調節してつくられたポリマーである。・・・ ・・・ L-LDPEのもう一つの問題は、コモノマーとして使われたα-オレフィンの組成にある。α-オレフィンとして使われているコモノマーには、図3-3に示すようなものがあり、これらのコモノマーは、L-LDPEの構造の中では、それぞれ異なる長さの分岐をつくる。例えば、ブテン-1では-CH_(2)-CH_(3)のエチル基の分岐となるが、オクテン-1では-(CH_(2))_(5)-CH_(3)のヘキシル基の分岐となる。 ・・・ L-LDPEの分岐の数は、主鎖の1000CH_(2)当たり10?30個とされている・・・」(34頁3?末行) b.「 」(35頁) イ.本件発明1について (ア)甲1発明 上記甲1記載事項からみて、甲1には以下の甲1発明が記載されている。 《甲1発明》 主原料に、エボリューを使用している、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」を用いた、 フィルム構成(NY#15/DL/LL#50)のもの (イ)対比、一致点、相違点 甲1発明における「NY」、「DL」は、各々、Nylon、Dry Laminateの略号であり、「#」は番手、すなわち、厚みを意味し、「/」は、フィルムを構成する層の境界を意味することが、当業者に明らかである。 また、甲1発明における「フィルム構成(NY#15/DL/LL#50)のもの」は、上記「T.U.X-FCS」のヒートシール性を評価するために作成されたものと解されることから、甲1発明における「LL」は、「主原料に、エボリューを使用している、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」」であると解するのが自然である。 そして、甲3は「食品包装用複合フィルム便覧」であることを踏まえると、上記甲3記載事項から、ONY(二軸延伸ナイロンフィルム)等をドライラミネーション用のベースフィルム(基材)とし、LLDPEをヒートシール基材としてドライラミネーションすることは、本件特許の原特許出願日前に技術常識であったといえることを踏まえると、上記「フィルム構成(NY#15/DL/LL#50)のもの」は、包装用フィルム分野、低温シールヒート性などを生かしたラミ原反分野での展開が図られたエボリュー(甲1記載事項(d)を参照)を使用している、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」を、ナイロンフィルムにドライラミネーションにより積層したフィルムといえる。 ゆえに、甲1発明の「NY」、「LL」、「フィルム構成(NY#15/DL/LL#50)のもの」は、各々、本件発明1の「基材フィルム」、「ヒートシール性フィルム」、「包装材用積層フィルム」に相当する。 してみると、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。 《一致点》 少なくとも基材フィルムと、ヒートシール性フィルムからなる包装材用積層フィルム。 《相違点》 ヒートシール性フィルムが、本件発明1では、「サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなり、 該α-オレフィンが、ブテン-1であって、その含有量は1?15モル%であり、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有し、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体である」のに対し、甲1発明では、「LL」、すなわち、「主原料に、エボリューを使用している、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」」である点。 (ウ)相違点の判断 まず、上記甲4記載事項a.及びb.、上記甲5記載事項a.及びb.、上記甲6記載事項a.及びb.、甲7記載事項a.?e.を参照すると、プラスチック材料への石油資源の使用量の低減は、本件特許の原特許出願日前においても、包装材用シーラントフィルムを含むプラスチック材料における周知の課題であり、その解決のために植物由来原料を使用することも周知の事項であったといえる。 一方、甲4の表2(甲4記載事項g.を参照)及び甲5の表1(甲5記載事項d.を参照)の「種類」が「LLDPE」であって、「グレード」が「LL-118」欄における「コモノマー」欄の「C_(4)」は、「ブテン-1」という「α-オレフィン」であることは、甲9記載事項及び甲10記載事項にあるように、本件特許の原特許出願前の技術常識である。 また、甲4及び甲5には、上記「C_(4)」の由来について、植物由来であるとの記載がないことから、上記「C_(4)」は、従来から慣用されている石油由来のものであると解するのが自然である。そして、これらのコモノマーを含まないサトウキビ由来のHDPEは、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が100%であったことが把握される(甲4記載事項h.及び甲5記載事項f.を参照)ことを踏まえると、甲4の表2(甲4記載事項g.を参照)及び甲5の表1(甲5記載事項d.を参照)の「種類」が「LLDPE」であって、「グレード」が「LL-118」欄に記載されたものは、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であるといえる。 さらに、甲5には「2011年初旬より,Braskem社はトリウンフォ工場でHDPEとLLDPEを合わせて年間20万トンの規模で生産する計画である。エタノールをエチレンに変換するプラントを新設して,重合は,既存のスラリー法と気層法の設備をそれぞれ流用する。」(上記ア.(オ)c.を参照。なお、下線は当審にて付与。)と記載されていることから、甲4の表2及び甲5の表1の「種類」が「LLDPE」であって、「グレード」が「LL-118」欄に記載されたものは、「サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂によるフィルム」であると解するのが自然である。 ゆえに、甲4の表2及び甲5の表1の「種類」が「LLDPE」であって、「グレード」が「LL-118」欄には、「サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂によるフィルムからなり、 該α-オレフィンが、ブテン-1であり、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.916または0.918g/cm^(3)、メルトフローレートが1.0、2.3または2.7g/10分の物性を有し、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が100%未満である、エチレン-α-オレフィン共重合体」(以下、「甲4共重合体」という。)が記載されているといえる。 ここで、一般に「LLDPE」は、ヒートシール性がある樹脂であって、ヒートシール基材としても用いられることは、例えば、甲3記載事項d.や甲7記載事項h.にもみられるように、本件特許の原出願前に周知の事項である。 また、包装材用積層フィルムを設計する際に、基材フィルムと積層するフィルムを単層構成とするか、複数層構成とするかは、当該包装材用積層フィルムに求められる性能や製造コスト等を勘案し、当業者が適宜決定し得た設計的な事項である。 そして、上記甲4共重合体は、Braskem社製であって、「コモノマー」が「C_(4)」で「グレード」が「LL-118」であるところ、同共重合体からなるフィルムは、本件特許明細書の段落【0049】における「スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)であるブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。・・・なお、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂に含まれるコモノマー種のブテン-1(C4)は石油由来のものであり、その含有量は1?15モル%(以下同様)である。」との記載からみて、含まれるコモノマー種のブテン-1(C4)の含有量が1?15モル%であると解するのが自然である。 してみると、上記周知の課題を解決するために、甲1発明における「LL」(「主原料に、エボリューを使用している、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」」)に代えて、甲4共重合体からなるフィルムを単層構成で採用することにより、上記相違点に掲げた本件発明1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。 なお、特許権者は、平成31年3月8日付け意見書において、甲4の「・・・生成物にはエチレン以外に水分、有機酸、一酸化炭素等の不純物が含まれるので必要な純度までエチレンを精製して、次の工程のポリエチレン重合プラントへ導入する・・・」との記載(上記ア.(エ)c.を参照。)や同意見書に添付された乙第1号証(特開2015-189160号公報)の段落【0008】の「現在、植物由来のポリエチレンは、Braskem社から製造販売されているのみであり、当該製造販売されているLLDPE及びHDPEのグレードが石油由来のポリエチレンほど細分化されていない。このため、当該LLDPE及びHDPEを用いて製品の量産化を行う場合には、既存のシーラントフィルムにおいて、石油由来のポリエチレンを、密度及びメルトフローレートなどの物性が一致する植物由来のポリエチレンにそのまま置き換えることができないことがあり、所望のフィルム特性を達成することが容易ではない。」との記載を根拠として、一般にLLDPEにはヒートシール性があるとされていても、そのことだけでは包装材料用のフィルムのシーラントフィルムとして実用に耐えうる強度を達成できるかどうかまで予測することは困難である旨を主張している。 しかしながら、甲4の上記記載は、必要な純度までエチレンを精製するというごく当たり前なことの記載にすぎず、上記甲4共重合体からなるフィルムは、必要な純度まで精製されたエチレンを重合したものであって、同フィルムは、従来からある石油由来のポリエチレンを重合したものと比して遜色のないものと解するのが自然である。 また、上記乙第1号証は、本件特許の出願後に出願されたものであり、本件特許出願時に「既存のシーラントフィルムにおいて、石油由来のポリエチレンを、密度及びメルトフローレートなどの物性が一致する植物由来のポリエチレンにそのまま置き換えることができないことがあり、所望のフィルム特性を達成することが容易ではない。」との技術常識が存在したことを示すものではないから、乙第1号証の上記記載は、包装材料用のフィルムのシーラントフィルムとして実用に耐えうる強度を達成できるかどうかまで予測することは困難であるとすることや、甲1発明における「LL」(「主原料に、エボリューを使用している、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」」)に代えて、甲4共重合体からなるフィルムを採用することが困難であるとすることの根拠にはならない。 したがって、上記主張は採用できない。 ウ.本件発明2について 包装材用シーラントフィルムを用いて包装袋を構成することは周知技術である(例示が必要であれば、一例としての甲6の段落【0006】、【0024】、【0025】、【図7】及び【図8】を参照)ことを踏まえると、甲1発明における「LL」(「主原料に、エボリューを使用している、LLDPEシーラントフィルム「T.U.X-FCS」」)に代えて、甲4共重合体からなるフィルムを採用したものを用いて包装袋を構成することは、当業者が容易になし得る事項である。 エ.特許異議申立のその他の理由について 申立人が主張する以下の《理由2》及び《理由3》については、平成30年12月27日付け取消理由(決定の予告)の3.(3)イ.及びウ.に示したとおり、理由2については理由がなく、理由3については、本件訂正請求が認められたことにより、理由がないものとなった。 《理由2》 本件発明1における「ヒートシール性フィルムは、サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなり」なる事項は、甲12記載事項を踏まえると、本件特許に係る出願の原出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、記載されていなかった事項を含むものというべきであるから、本件特許に係る出願は、分割要件、すなわち、前記原出願の一部を新たな特許出願としたものであることを満たしていないから、本件特許に係る出願は、平成27年4月3日を出願日とするものである。 そして、本件発明1及び2は、前記原出願の公開公報である甲11に記載された発明である。 《理由3》 本件発明1について、平成28年12月20日付け手続補正書による補正により発明特定事項となった「少なくとも基材フィルムと、ヒートシール性フィルムからなる包装材用シーラントフィルム」は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には記載されていないから、上記補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものとはいえない。 オ.まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲1?10に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1及び2に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由《理由1》によって取り消されるべきである。 したがって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも基材フィルムと、ヒートシール性フィルムからなる包装材用積層フィルムであって、該ヒートシール性フィルムは、サトウキビ由来エチレンと石油由来α-オレフィンとの気相重合物であるサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂による単層構成のフィルムからなり、該α-オレフィンが、ブテン-1であって、その含有量は1?15モル%であり、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910?0.925g/cm^(3)、メルトフローレートが0.5?4.0g/10分の物性を有し、放射性炭素年代測定^(14)Cの測定値から算定するバイオマス度が80?100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用積層フィルム。 【請求項2】 請求項1に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-03-27 |
出願番号 | 特願2015-77247(P2015-77247) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZAA
(B65D)
P 1 651・ 55- ZAA (B65D) P 1 651・ 113- ZAA (B65D) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 加藤 信秀、谿花 正由輝 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
蓮井 雅之 渡邊 豊英 |
登録日 | 2017-09-01 |
登録番号 | 特許第6197820号(P6197820) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋 |
代理人 | 結田 純次 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 結田 純次 |