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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1353131
異議申立番号 異議2017-700778  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-09 
確定日 2019-05-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6087118号発明「ゼリー飲食品及びゼリー飲食品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6087118号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。 特許第6087118号の請求項2?5に係る特許を取り消す。 特許第6087118号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6087118号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成24年11月28日 出願
平成29年 2月10日 設定登録
同年 3月 1日 特許掲載公報発行
同年 8月 9日 特許異議申立人恒川朱美(以下「申立人A」という。)より特許異議の申立て(請求項1?5に対し)
同年 8月30日 特許異議申立人藤本美都起(以下「申立人B」という。)より特許異議の申立て(請求項1?5に対し)
同年12月27日 取消理由通知
平成30年 3月 6日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 4月13日 訂正請求書についての手続補正書(方式)、上申書(特許権者)
同年 5月28日 意見書(申立人A)
同年 5月29日 意見書(申立人B)
同年 9月26日 取消理由通知(決定の予告)
同年11月27日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年12月21日 意見書(申立人A)
同年12月28日 意見書(申立人B)
なお、平成30年11月27日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成30年3月6日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成30年11月27日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
請求項2について、請求項1との引用関係を解消するとともに、「均一に分散され」を「均一に分散され、ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%であり」に訂正し、「濃度が0.04wt%?0.16wt%」を「濃度が0.04wt%?0.09wt%」に、「粘度が1.5mPa・s?20.0mPa・sである」を「粘度が3.6mPa・s?20.0mPa・sであり、」に、「pHが5.0以下」を「pHが3.7?5.0」に、それぞれ訂正する。
(3)訂正事項3
請求項3の「請求項1又は2に記載の低粘性酸性ゼリー飲食品」を、「請求項2に記載の低粘性酸性ゼリー飲食品」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項4の「請求項1?3のいずれかに記載の低粘性酸性ゼリー飲食品」を、「請求項2又は3に記載の低粘性酸性ゼリー飲食品」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項5の「攪拌しながら」を「500?2000rpmの条件で攪拌して」に訂正し、「混合してなり、脱アシル化ジェランガムの濃度が」を、「混合してなり、pH3.7?5.0、脱アシル化ジェランガムの濃度が」に訂正し、「脱アシル化ジェランガムの濃度が0.03wt%?0.20wt%であり、粘度が1.5mPa・s?20.0mPa・sである」を、「脱アシル化ジェランガムの濃度が0.04wt%?0.09wt%であり、粘度が3.6mPa・s?20.0mPa・sである」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2は、引用関係を解消するとともに、「ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%であり」との事項を追加して限定し、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムの濃度の範囲を「0.04wt%?0.16wt%」から「0.04wt%?0.09wt%」へと狭め、低粘性酸性ゼリー飲食品の粘度の範囲を「1.5mPa・s?20.0mPa・s」から「3.6mPa・s?20.0mPa・s」へと狭め、pHの範囲を「5.0以下」から「3.7?5.0」へと狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項2を直接又は間接に引用する請求項3、4についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件特許明細書に、ゲル層について「ゲル層の容積が全体に対して100%の飲食品を得る」(【0018】)と記載されるとともに、「そして、飲料やソース、ドレッシングとした場合において、よりゼリー感が低減された自然な口当たりを感じることができるという効果を奏する。」(【0018】)と飲食時の性状に着目している旨が記載されており、また、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムの濃度の上限値に関し、「ゼリー飲食品中のゲル化された脱アシル化ジェランガムの濃度は・・・より好ましくは0.06wt%?0.09wt%となる。」(【0036】)と記載され、低粘性酸性ゼリー飲食品の粘度の下限値に関し、粘度3.6mPa・sの実施例1(No.1)が記載され(【表2】)、pHの範囲の下限値に関し、pH3.7の実施例4-1が記載されている(【表11】)から、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、実施例4-1は、訂正後の請求項2の実施例には該当しないが、当該実施例4-1の記載より、訂正前の請求項2に含まれ得るpHとして3.7が記載されていたことは明らかである。
(3)訂正事項3、4は、請求項1を削除したことに伴い、引用する請求項から請求項1を除いて、引用する請求項数を減らすものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項5は、攪拌の条件を「500?2000rpmの条件で」と限定し、pHについて「pH3.7?5.0」との条件を追加して限定し、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムの濃度の範囲を「0.03wt%?0.20wt%」から「0.04wt%?0.09wt%」へと狭め、低粘性酸性ゼリー飲食品の粘度の範囲を「1.5mPa・s?20.0mPa・s」から「3.6mPa・s?20.0mPa・s」へと狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書に、「500?2000rpmの回転速度で回転させることによる攪拌を行うことが必要である。」(【0030】)と記載され、pHの下限値に関し、上記(2)で検討したとおり【表11】に記載され、pHの上限値に関し、訂正前の【請求項2】に記載され、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムの濃度の下限値に関し、訂正前の【請求項1】に「0.04wt%?0.16wt%」と記載され、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムの濃度の上限値、及び、低粘性酸性ゼリー飲食品の粘度の下限値に関しては、上記(2)で検討したとおり、それぞれ、【0036】及び【表2】に記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)また、訂正前の請求項1?4は、請求項2?3が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
(6)したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項2?5に係る発明(以下、各発明を「本件発明2」?「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項2?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項2】
微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され、ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%であり、その濃度が0.04wt%?0.09wt%、かつ粘度が3.6mPa・s?20.0mPa・sであり、pHが3.7?5.0である低粘性酸性ゼリー飲食品。
【請求項3】
不溶性固形分を含有する請求項2に記載の低粘性酸性ゼリー飲食品。
【請求項4】
前記不溶性固形分が繊維質である請求項2又は3に記載の低粘性酸性ゼリー飲食品。
【請求項5】
脱アシル化ジェランガム含有酸性溶液とカルシウムイオン含有溶液を、脱アシル化ジェランガム1重量部に対してカルシウムを乳酸カルシウム換算にて0.8?1.5重量部となるように、500?2000rpmの条件で攪拌して、液温が40℃以下の状態で混合してなり、pH3.7?5.0、脱アシル化ジェランガムの濃度が0.15wt%?0.80wt%で、脱アシル化ジェランガムが微細ゲル化されてなり、ゲル層の容積が全体に対して100%の混合液を、呈味成分及び水と混合することを特徴とする、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが均一に分散され、脱アシル化ジェランガムの濃度が0.04wt%?0.09wt%であり、粘度が3.6mPa・s?20.0mPa・sである低粘性酸性ゼリー飲食品の製造方法。

第4 取消理由の概要
1 訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、平成29年12月27日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
(理由1)特許法第36条第6項第2号
本件特許の請求項1?5に記載された発明は、以下の点で明確でないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(a)請求項1の「脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され」の意味が明確でない。
(b)請求項1?4の記載と明細書の実施例、比較例の記載が整合していない。
(c)請求項5の「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが均一に分散され」の意味や実現手段が明確でない。
(理由2)特許法第36条第6項第1号
本件特許の請求項1?5に係る発明は、以下の点で発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(a)請求項1?4について、水の量、乳酸Caの配合量、pH、クエン酸の配合量、製造条件を、実施例で確認した以外の範囲にまで拡張ないし一般化できず、「安定して均一に分散され」ることに関し、「製造後飲食するまでの間、通常の環境下において、目視で確認できる程度に均一に分散された状態を維持すること」にまで拡張ないし一般化できないから、請求項1?4に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
(b)請求項5について、水の量、乳酸Caの配合量、pH、クエン酸の配合量、製造条件を、実施例で確認した以外の範囲にまで拡張ないし一般化できず、撹拌条件や温度条件も特定されていないから、請求項5に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
(理由3)特許法第29条第1項第3号
本件特許の請求項1?4に係る発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由4)特許法第29条第2項
本件特許の請求項1?5に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2?引用例6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用例一覧>
引用例1:大和谷和彦、「飲料・デザート市場へのジェランガムの新利用」、月刊フードケミカル、株式会社食品化学新聞社、平成12年3月1日、Vol.16、No.3、p.32-38(申立人Bが提出した甲第1号証)
引用例2:「ジェランガムの基礎と食品への応用」、FFIジャーナル、FFIジャーナル編集委員会、2004年10月1日、Vol.209、No.10、p.910-918(同甲第2号証)
引用例3:新田陽子、西成勝好、「ジェランガム」、FFIジャーナル、FFIジャーナル編集委員会、2003年11月1日、Vol.208、No.11、p.930-934(同甲第3号証)
引用例4:特開2007-222035号公報(同甲第4号証)
引用例5:特開2002-17272号公報(同甲第5号証)
引用例6:特開2001-95493号公報(同甲第6号証)

2 平成30年9月26日付け取消理由通知(決定の予告)の概要は、上記理由1及び理由2により、請求項2?5に係る特許を取り消すべきというものである。

第5 取消理由についての判断
1 理由1について
請求項2の「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され」の意味について検討する。
本件特許明細書には、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散されることの意味を直接に説明する記載は見当たらないが、関連する説明として以下の記載が認められる。
「実施例1及び実施例2によると、得られた飲食品のゲル層の比率は均一に分散されて100%となり、飲食品の全てにおいてゲル層が形成された。そして、低粘度で均一なゲル層となり、ジャムを添加した実施例2においてもジャムの繊維分が均一に分散された。
他方、比較例1-No.2、3、5、6によると、ゲル層が64%や65%に留まり、得られた飲食品全ての層においてゲル化したものではない。しかもジャムを添加した比較例1-No.5及び6によると、ジャムの繊維分はゲル層内には均一に分散されているが、やはりゲル層自体が飲食品全体に形成されていないので、飲食品としては繊維分が均一に分散されていないものとなる。」(【0048】)
上記記載によれば、ゲル層が均一であることと、繊維分が均一であることが区別されているといえ、本件発明の実施例とされているものは、ゲル層の比率が100%である一方、比較例とされているものは、ゲル層が64%や65%に留まるというのであるから、ゲル層の比率によって、本件発明に該当するか否かが区別されているといえる。そして、脱アシル化ジェランガムがゲル化してゲル層を形成すると考えられることから、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に「均一に分散され」は、具体的には、飲食品に対してゲル層の比率が100%となることを意味していると解するのが相当である。
ところが、本件特許明細書には、ゲル層の比率を、有効数字2桁の精度で測定した結果が記載されているものの、その測定方法については何も記載されていないし、ゲル層の比率を測定することが当業者の技術常識であるとも認められない。よって、ゲル層の比率をどのようにして決定すれば良いかを理解できず、飲食品に対してゲル層の比率が100%となった状態というのが、いかなる状態を意味しているのかを理解することができない。したがって、「均一に分散され」の意味が明確であるとはいえない。
加えて、脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に「安定して」均一に分散されたというのが、どの程度の安定性を意味しているかも明確でない。
本件特許明細書の上記【0048】の記載によれば、ゲル層の比率の測定時期についての明記はないが、飲食品を製造してから所定時間放置する旨が特記されていないことに照らせば、飲食品の製造直後に測定したものと解される。しかし、「安定して」の文言の一般的な意味を踏まえると、製造直後に「均一に分散され」ていることが、「安定して均一に分散され」ていることを意味しているとは解されないから、上記「安定して」の意味が明確であるとはいえない。
以上の点は、請求項2の「ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%であり」との特定事項を考慮しても同様である。

特許権者は、脱アシル化ジェランガムの微細化ゲルが安定して均一に分散された状態とは、目視にて判断できる旨を主張する(平成30年4月13日付け上申書3頁)。
しかし、本件特許明細書の【0003】に「マイクロゲルとは、・・・色も透明であるので、見た目にも違和感なく利用できる。」と記載され、引用例3の【0030】に「『1mm^(3)以下』のゲルとは、目視ではゲルの存在を確認できないようなゲルを指す。」と記載され、以下に示す参考資料1の162頁に「ジェランガムのゲルは非常に透明性に優れ,ゼリー入り飲料を作るとゼリーと飲料の区別ができないぐらい透明度が高い.糖類の添加,pHの低下により透明度はさらに高まる.」と記載されているように、脱アシル化ジェランガムの微細化ゲルは透明であり、ゲル層と水との境界を目視にて明確に判別することはできないと認められるから、当該主張は採用できない。
・参考資料1:國崎尚道、外1名、「食品多糖類 乳化・増粘・ゲル化の知識」、株式会社幸書房、2005年8月30日 (申立人Aの平成30年5月28日付け意見書に添付された参考資料1参照。)

また、特許権者は、「本発明による効果の一つは、不溶性固形分を沈殿や浮遊させることがないことです。このような沈殿や浮遊は目視にて確認できるものです。」(同上申書3?4頁)とも主張するが、沈殿や浮遊を目視にて確認することと、ゲル層を目視にて確認することが同じであるとはいえないし、本件特許明細書において、不溶性固形分を添加していないNo.1?No.3等の組成についてゲル層の測定値が記載されていることとも整合しないから、当該主張は採用できない。
特許権者は、申立人Aが撹拌後2分間後において判断することを理解していることから、本件発明が明確である旨を主張するが(同上申書4頁)、本件特許明細書には、脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に均一に分散されたことを、撹拌後2分間後に判断する旨の記載はないから、当該主張は採用できない。
なお、本件特許明細書の【0051】には、一旦製造した飲食品を、さらに攪拌した2分後に、粘度とマイクロゲルの径を測定したことが記載されているが、脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に均一に分散されたことを判断しているわけではない。
また、特許権者は、平成28年12月27日に請求した拒絶査定不服審判の審判請求書において「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散された状態とは、製造後飲食するまでの間、通常の環境下において、目視で確認できる程度に均一に分散された状態を維持することを意味します。」と主張していたが、本件特許明細書に、そのような説明は見当たらないから、当該主張は採用できない。

さらに特許権者は、ゲル層の比率は、全体の容積に対するゲル層が均一に分散してなる部分の容積であること、目視によりゲル層と水層が分離しているかどうかを確認することで本件発明の飲食品か否かを認識できること、ゲル化された食品において、製造後、保管時及び輸送時においてゲルが崩壊することはないこと、平成29年12月27日付け取消理由通知で示した引用例1、引用例2における食品は、製造後、保管時及び輸送時において物性に変化がないことを前提としており、製造直後から消費者が当該飲食品を飲食するまで、物性が著しく変化しない商品を販売するのは当業者の常識であること、別紙1及び2に示す写真より、本件発明により、安定して均一に分散され、ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%となることが分かること、を主張する(平成30年11月27日付け意見書4?6頁)。
しかし、「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され」ることは、本件特許明細書の記載を参照しても、ゲル層と水層が分離していないことと同義であるとはいえないから、目視によりゲル層と水層が分離しているかどうかを確認することで本件発明の飲食品か否かを認識できる旨の主張は理由がない。また、上記意見書の別紙1及び2に示す写真によれば、各区分の濁り具合が異なることは見て取れるものの、濁っている部分がゲル層であるということは、本件特許明細書に記載がなく、技術常識ということもできないから、目視によりゲル層と水層を判別できると認めることもできない。仮に、濁っている部分がゲル層だとしても、濁った部分と透明な部分の境界は必ずしも明瞭でなく、特許権者が本件発明の実施例に相当するという区分4についても、濁り具合は均一とはいえず、別紙1(製造直後)と別紙2(製造10日後)とで濁り具合に変化も認められるから、これをもって「安定して均一に分散され」た状態を理解することはできない。また、飲食品自体が不透明であれば、濁りを判別することもできない。
さらに、ゲル化された食品において、製造後、保管時及び輸送時においてゲルが崩壊することはないとの主張も根拠がなく、ゲルが崩壊しないこととゲル層が安定であることとの関係も不明である。本件特許明細書には、背景技術として、脱アシル化ジェランガムのマイクロゲルが、水に近い流動性があり、ゲル同士の間隙に固形分を安定分散させることが可能であること、飲料中の果肉の分散安定に有効であり、増粘剤のような粘りがなく、色も透明であるので、見た目にも違和感なく利用できることが記載されており(【0003】)、このような背景技術を前提とした上で、安定して一定の性質を示し、不溶性固形分を安定して分散させる飲食品を得、容器を振ることによる攪拌を不要として飲食品の使用性を向上させることを課題として掲げ(【0016】)、本件発明が上記課題を解決できることを効果として記載している(【0018】)。そうすると、本件発明でいう安定性は、上記背景技術以上の安定性を意味すると解されるから、本件発明のゲル層が安定であることの根拠として、上記背景技術に属するといえる引用例1、引用例2(特に、引用例2は、本件特許明細書に先行技術文献として記載されている。)における食品が、製造後、保管時及び輸送時において物性に変化がないことをいう主張は採用できない。

よって、請求項2の「脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され」は、明確とはいえないから、請求項2に記載された発明、及び、請求項2を直接又は間接に引用する請求項3、4に記載された発明は明確でない。
また、請求項5の「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが均一に分散され」についても、同様に明確とはいえないえないから、請求項5に記載された発明は明確でない。
したがって、請求項2?5についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 理由2について
本件発明が解決すべき課題は、本件特許明細書の【0016】の記載によれば、以下のとおりである。
(1)バッチ間、製造工程にて使用されるタンク等の容器内における組成物の箇所間においても、安定して一定の性質を示し、製造後の攪拌の程度や、振とうの有無によらず粘度変化が小さく、かつ低粘度となるように調整可能で、不溶性固形分を沈殿あるいは上層に浮遊させることなく、安定して分散させることが可能な飲食品を得ること。
(2)飲料やソース、ドレッシングとした場合において、ゼリー感が低減された、より自然な口当たりを感じるようにすること。
(3)飲料やソースにした場合には粘度が上昇することによる不自然な口当たりを解消すること。
(4)ソース、たれ、ドレッシングを使用する前の、容器を振ることによる攪拌を不要とすることにより、これらの飲食品の使用性を向上させること。

しかし、上記課題のうち、少なくとも、「バッチ間、製造工程にて使用されるタンク等の容器内における組成物の箇所間においても、安定して一定の性質を示し」、及び、「ソース、たれ、ドレッシングを使用する前の、容器を振ることによる攪拌を不要とすることにより、これらの飲食品の使用性を向上させること」については、実施例においても確認されていない。また、実施例以外の記載を踏まえても、発明の詳細な説明には、当該課題を解決できると認識できるような記載はなく、また、技術常識に照らして当該課題を解決できることが理解されるともいえない。
そして、本件発明2?4は、「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され」ることを発明特定事項とし、本件発明5は「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが均一に分散され」ることを発明特定事項とするものであるが、上記1でも検討したように、「安定して均一に分散され」るとは、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「製造後飲食するまでの間、通常の環境下において、目視で確認できる程度に均一に分散された状態を維持する」との意味に解せるものではない。よって、本件発明2?5が、上記発明特定事項を備えているからといって、「ソース、たれ、ドレッシングを使用する前の、容器を振ることによる攪拌を不要とすることにより、これらの飲食品の使用性を向上させる」という課題を解決できるものとはいえない。
また、仮に、本件特許明細書に記載された各実施例のものが、上記課題を解決できるものであるとしても、各実施例は、特定のゲル化剤、所定濃度の乳酸Ca、所定濃度のクエン酸、所定濃度のクエン酸三Naを配合したものであるのに、請求項2?5には、これらの特定はない。そして、実施例の結果を、請求項2?5に記載された発明の範囲にまで拡張ないし一般化できる根拠は認められない。

特許権者は、脱アシル化ジェランガムのゲルは、通常一旦生成したものが分解することはない旨、及び、ゲルが不安定で撹拌により破壊されやすいかどうかは、2分間でおおよそ確認できる旨を主張する(平成30年4月13日付け上申書5頁)。
しかし、上記主張については、根拠が示されていない上、本件特許明細書には、ゲルが不安定で撹拌により破壊されやすいかどうかを2分間で確認した旨の記載もない。さらに、本件特許明細書には、「粘度低下を目的に水などを添加すると静置後に水が分離する傾向もある。」(【0010】)と記載されていることからも、一旦生成したゲルが分解しないとはいえない。むしろ、本件発明は、請求項5の記載や、実施例の記載に照らし、ゲル溶液に水を添加したものと認められるから、本件特許明細書の記載によれば、静置後に水が分離する傾向のあるものである。よって、上記特許権者の主張は採用できない。
特許権者は、ゲル化された食品において、製造後、保管時及び輸送時においてゲルが崩壊することはないこと、平成29年12月27日付け取消理由通知で示した引用例1、引用例2における食品は、製造後、保管時及び輸送時において物性に変化がないことを前提としており、製造直後から消費者が当該飲食品を飲食するまで、物性が著しく変化しない商品を販売するのは当業者の常識であること、別紙1及び2に示す写真より、本件発明により、安定して均一に分散され、ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%となることが分かること、を主張し(平成30年11月27日付け意見書5?6頁)、本件発明の微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムは安定なものであるから、保存により分離することはないと主張する(同意見書7頁)。
しかし、上記主張が採用できないことは、前記1で述べたとおりである。むしろ、別紙1(製造直後)と別紙2(製造10日後)を参照すると、本件発明の実施例とされる区分4が、製造10日後に上部に透明部分が分離しているように見えることから、「使用する前の、容器を振ることによる攪拌を不要とする」との課題を解決できるとはいい難い。
特許権者は、ゲル化剤の濃度、乳酸Caの濃度、クエン酸濃度、クエン酸三Na濃度が実施例に記載されたものでなくても良い旨を主張するが(同意見書7頁)、例えば、本件特許明細書の表1?表3にも示されるように、配合により粘度が大きく変化するから、配合が安定性にも影響しないとは限らない。そうすると、仮に、本件特許明細書に記載された各実施例のものが課題を解決できるとしても、配合を変更した場合にも課題を解決できるとは限らないから、上記特許権者の主張は採用できない。

以上によれば、本件発明2?5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
したがって、請求項2?5についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 むすび
以上のとおり、請求項2?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
また、請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、請求項1についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在せず、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法120条の8で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され、ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%であり、その濃度が0.04wt%?0.09wt%、かつ粘度が3.6mPa・s?20.0mPa・sであり、pHが3.7?5.0である低粘性酸性ゼリー飲食品。
【請求項3】
不溶性固形分を含有する請求項2に記載の低粘性酸性ゼリー飲食品。
【請求項4】
前記不溶性固形分が繊維質である請求項2又は3に記載の低粘性酸性ゼリー飲食品。
【請求項5】
脱アシル化ジェランガム含有酸性溶液とカルシウムイオン含有溶液を、脱アシル化ジェランガム1重量部に対してカルシウムを乳酸カルシウム換算にて0.8?1.5重量部となるように、500?2000rpmの条件で攪拌して、液温が40℃以下の状態で混合してなり、pH3.7?5.0、脱アシル化ジェランガムの濃度が0.15wt%?0.80wt%で、脱アシル化ジェランガムが微細ゲル化されてなり、ゲル層の容積が全体に対して100%の混合液を、呈味成分及び水と混合することを特徴とする、微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが均一に分散され、脱アシル化ジェランガムの濃度が0.04wt%?0.09wt%であり、粘度が3.6mPa・s?20.0mPa・sである低粘性酸性ゼリー飲食品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-29 
出願番号 特願2012-260377(P2012-260377)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (A23L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 厚田 一拓  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 井上 哲男
紀本 孝
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6087118号(P6087118)
権利者 ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
発明の名称 ゼリー飲食品及びゼリー飲食品の製造方法  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 山田 泰之  
代理人 山田 泰之  
代理人 長谷部 善太郎  

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