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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1353140
異議申立番号 異議2018-700572  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-13 
確定日 2019-05-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6263244号発明「噴霧型日焼け止め化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6263244号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 訂正後の請求項〔1?8〕に係る特許を維持する。 
理由 [第1]主な手続の経緯
特許第6263244号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年10月6日(優先権主張 2015年10月9日)に出願され、平成29年12月22日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年7月13日に特許異議申立人高野千也子(以下「異議申立人」ということがある)により特許異議の申立てがされ、同年11月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年1月11日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。
なお、本件訂正の請求に対し、異議申立人に意見書提出の機会を与えたが、応答がなかった。


[第2]訂正請求について

1.訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第6263244号の特許請求の範囲を、次の訂正事項のとおり訂正後の請求項1?8について訂正することを求める、というものである。

(1)訂正事項:請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正
1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(C)前記(B)以外の油相増粘剤」とあるのを、「(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤」に訂正する。
2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「比率が0.04以上0.68未満である」とあるのを、「比率が0.04以上0.68未満である、紫外線散乱剤を含まない」に訂正する。
3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「油中水型乳化日焼け止め化粧料。」とあるのを、「噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1?3について
・訂正事項1は、訂正前の請求項1における成分(C)「前記(B)以外の油相増粘剤」を、本件明細書中の例えば「【0024】・・・ (C)油相増粘剤・・・は・・・(ただし、前記(B)成分に該当する物質以外)であり、・・・デキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、あるいは脂肪酸又はその塩等が好ましく、・・・ 【0026】 脂肪酸は、常温で固形のものを使用することができ・・・」との記載に基づき、特定の「デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤」に限定するものであり;
・訂正事項2は、本件明細書中の例えば「【0005】 ・・・紫外線散乱剤を含まない日焼け止め化粧料において優れた紫外線防御効果・・・を得るためには・・・」や「【0013】 本発明の日焼け止め化粧料は、紫外線散乱剤を実質的に含んでいないので・・・」との記載に基づき、訂正前の請求項1に係る化粧料が「紫外線散乱剤を含まない」ことを特定するものであり;
・訂正事項3は、本件明細書中の例えば 「【0010】 本発明は・・・噴霧型の日焼け止め化粧料であって・・・」との記載に基づき、訂正前の請求項1に係る化粧料を「噴霧型」に特定するものである;
から、これら訂正事項1?3を合わせた訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?8について訂正を認める。


[第3]訂正後の本件発明

本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下、順に「訂正発明1」?「訂正発明8」ということがあり、また、これらをまとめて単に「訂正発明」ということがある)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

『 【請求項1】
(A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤、
(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有し、
[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、紫外線散乱剤を含まない、噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項2】
(F)揮発性シリコーン油が揮発性ジメチコンである、請求項1に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項3】
噴霧して使用される、請求項1又は2に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項4】
(E)球状樹脂粉末が、球状有機樹脂粉末と球状シリコーン樹脂粉末の、3:1?1:3の混合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項5】
(A)紫外線吸収剤が、油溶性の紫外線吸収剤のみからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項6】
(A)紫外線吸収剤が、オクチルメトキシシンナメート、オクトクリレン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル及びポリシリコーン-15から選択される少なくとも一種である、請求項5に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項7】
(H)油溶性被膜剤をさらに含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項8】
(I)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンジアルキルエーテルをさらに含有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。 』

※合議体注:
以下、訂正発明1中の
「 [(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率 」
を、単に
「 [(B)+(C)]/[(G)] 」
ということがある。


[第4]異議申立理由の概要及び提出した証拠

1.異議申立理由の概要
異議申立人は、平成30年7月13日付けの特許異議申立書(以下単に「異議申立書」ということがある)と共に甲第1号証?甲第14号証を提出し、訂正前の請求項1?8に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明8」ということがあり、これらをまとめて単に「本件発明」ということがある)の特許は、以下の理由(1)?(4)により、いずれも取り消されるべきものである旨主張している。

(1)甲第1号証?甲第4号証のいずれかに基づく新規性否定又は進歩性否定の理由
(i) 本件発明1は、甲第1号証?甲第4号証のいずれかに記載された発明であるか、或いは、それらいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(ii) 本件発明2は、甲第3号証又は甲第4号証のいずれかに記載された発明であるか、或いは、それらいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(iii) 本件発明3は、甲第1号証?甲第4号証のいずれかに記載された発明であるか、或いは、それらいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(iv) 本件発明5は、甲第1号証又は甲第3号証のいずれかに記載された発明であるか、或いは、それらいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(v) 本件発明6は、甲第1号証又は甲第3号証のいずれかに記載された発明であるか、或いは、それらいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(vi) 本件発明7は、甲第1号証?甲第4号証のいずれかに記載された発明であるか、或いは、それらいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(vii) 本件発明8は、甲第1号証?甲第4号証のいずれかに記載された発明であるか、或いは、それらいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである;
から、本件発明1?8はいずれも特許法第29条第1項第3号に該当するか、或いは同法第29条第2項の規定に違反しており、よって、本件発明1?8に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)甲第3号証、甲第5号証のいずれかを主引用例とする進歩性否定の理由
(i) 本件発明1は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?9号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?9号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(ii) 本件発明2は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?9号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?9号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(iii) 本件発明3は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?10号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?10号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(iv) 本件発明4は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?12号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?12号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(v) 本件発明5は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?12号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?12号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(vi) 本件発明6は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?12号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?12号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(vii) 本件発明7は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?13号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?13号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
(viii) 本件発明8は、
<a> 甲第3号証記載の発明と甲第1、2、4?14号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり; また、
<b> 甲第5号証記載の発明と甲第1?4、6?14号証の記載とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである;
から、本件発明1?8はいずれも特許法第29条第2項の規定に違反しており、よって、本件発明1?8に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)(特許法第36条第6項第2号違反)
本件発明1には(C)成分について「(B)以外の油相増粘剤」と記載されているが、当該「油」には常温液状、常温半個体状、常温個体状、揮発性、不揮発性等様々な状態が存在しており、これらのどこまでを包含するのか、本件明細書中にその定義が何らなく、その外縁が明らかではない。また、それ故に「油相」を増粘するための「剤」、即ち「油相増粘剤」の外縁及びその範囲が不明であり、「(B)+(C)]/[G]の比率範囲の臨界的意義も不明確である。
よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2?8はいずれも明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定される明確性の要件に適合していないから、本件発明1?8に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)(特許法第36条第4項第1号違反、及び同法第36条第6項第1号違反)
本件発明1及びそれを引用する本件発明2?8については、次のA)?C)の点からみて、当業者が実施することができる程度の明確かつ十分な記載が本件明細書の発明の詳細な説明でなされていないから、本件発明1?8については本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件に適合していない。
また、同A)?C)の点からみて、本件発明1?8は本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから、本件発明1?8は同法第36条第6項第1号に規定されるサポート要件に適合していない。
よって、本件発明1?8に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

・A)本件発明1の(C)成分:「(B)以外の油相増粘剤」について
(C)成分については、本件明細書中で本件発明の具体的な効果を確認している表1及び表2において、実質ほぼ同じ成分のみが開示されているに過ぎず、「(B)以外の油相増粘剤」の外縁やどこまで包含するのかも不明確であり、当業者が実施できない。
また、本件明細書の表1及び表2で採用されているもの以外の(C)成分が、実施例と同等の効果を奏し本件発明の課題を解決し得るものであるかが不明である。

・B)本件発明1の(A)成分?(F)成分の組合せ及び[(B)+(C)]/[(G)]の比率、ならびにこれらの組合せについて
(A)成分?(F)成分の組合せについては、本件明細書中で本件発明の具体的な効果を確認している表1及び表2において、実質ほぼ同じ成分の組合せのみが開示されているに過ぎず、当業者が理解できる程度の具体的な説明があるとはいえない。しかも、本件明細書の【0045】の記載をみても、[(B)+(C)]/[(G)]の比率を「0.04以上0.68未満」の数値範囲とすることの臨界的意義を理解することができないし、[(B)+(C)]/[(G)]の分母である「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」自体不明確であるため、上記数値範囲の臨界的意義を再現することもできない。
また、本件明細書の表1及び表2で採用されている(A)成分?(F)成分の組合せ及び[(B)+(C)]/[(G)]の比率、ならびにこれらの組合せ以外の組合せ、比率ならびにそれらの組合せが、実施例と同等の効果を奏し本件発明の課題を解決し得るものであるかが不明である。

・C)本件発明の課題との関係について
本件発明の課題は、本件明細書の【0010】の記載のとおり、
「 本発明は、白さの原因となる紫外線散乱剤を実質的に含まずに塗布/噴霧直後から透明で、優れた紫外線防御効果を有するとともに使用感も良好な噴霧型の日焼け止め化粧料であって、なおかつ水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せず逆に効果が向上するという従来にない革新的な特性を有する噴霧型日焼け止め化粧料を提供することを目的とする。」
であるが、
C1)使用感に係る「べたつき・さらさら感」の評価について、本件明細書の表1の実施例1及び2では、評価が「C」となっている一方、比較例1?2では「A」となっているから、使用感に係る本件発明の目的は達成されておらず、課題は達成できていない。
C2)「紫外線散乱剤を実質的に含まずに塗布/噴霧直後から透明で」について、本件明細書には、「塗布/噴霧直後から透明」に関する評価を何ら行っておらず、またその評価方法の記載乃至示唆もないから、本件発明において塗布/噴霧直後から透明に関する試験の再現や実現を第三者が行うことができない。また、本件明細書の【発明の効果】(【0013】)には、「紫外線散乱剤を実質的に含んでいないので、」皮膚に噴霧した直後でも白くならない旨の記載がみられるが、本件発明1ではそのような限定が明確になされておらず、ここでいう「実質的に」の外縁も不明である。
C3)「紫外線防御効果」について、本件明細書の【0057】「3.紫外線防御効果の測定」をみるに、次の点で不備がある。
・どの測定波長でAbs積算値としたか記載されていない。
・水浴前の「15分乾燥」時、水浴後の「表面の水分がなくなるまで15分以上30分以内乾燥」時の各乾燥温度条件が記載されていない。
・JIS規格等の公的な測定方法を選択しておらず、自ら測定方法を設定していることから、不備を指摘されるごとに自身の有利な効果が得られるように実験データの解釈を変更したりするおそれがある。

2.証拠方法

(1)甲第1号証:特開2014-88369号公報
(2)甲第2号証:特開2000-63233号公報
(3)甲第3号証:特開2011-126832号公報
(4)甲第4号証:特開2011-153079号公報
(5)甲第5号証:特開平8-217618号公報
(6)甲第6号証:特開昭61-56115号公報
(7)甲第7号証:特開平8-277302号公報
(8)甲第8号証:桜井但他,FRAGRANCE JOURNAL,1999/5月号,79-83頁
(9)甲第9号証:田村健夫,香粧品科学 第3版,1978年6月10日,(社)日本毛髪科学協会,122-125頁
(10)甲第10号証:特開2007-332295号公報
(11)甲第11号証:特開2005-53846号公報
(12)甲第12号証:特開2013-194047号公報
(13)甲第13号証:特開平9-255543号公報
(14)甲第14号証:特開2012-197241号公報


[第5]取消理由通知書に記載した取消理由について

1.取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して平成30年11月9日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

[引用刊行物]
・刊行物1:特開2014-88369号公報 (特許異議申立人・高野千也子が平成30年7月13日付けで提出した特許異議申立書(以下単に「異議申立書」ということがある)に添付した甲第1号証)
・刊行物2:特開2000-63233号公報 (同甲第2号証)
・刊行物3:特開2011-126832号公報 (同甲第3号証)
・刊行物4:特開2011-153079号公報 (同甲第4号証)
・刊行物5:FRAGRANCE JOURNAL,(1999年)5月号 P.79-83 (同甲第8号証)
・刊行物6:田村健夫「香粧品科学」(1978年6月10日 第3版発行) (社)日本毛髪科学協会 122?125頁 (同甲第9号証)
・刊行物7:特開2007-332295号公報 (同甲第10号証)
・刊行物8:特開2012-197241号公報 (同甲第14号証)

(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号該当)、取消理由2(同法第29条第2項違反)について

(1-1)取消理由1-1(刊行物1を主引例とする取消理由)
(i) 本件発明1及び7は、刊行物1に記載された発明であり、また、刊行物1に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
(ii) 本件発明3及び7は、刊行物1と刊行物7との組合せに基づいて当業者が容易になし得た発明である。

(1-2)取消理由1-2(刊行物2を主引例とする取消理由)
(i) 本件発明1及び7は、刊行物2に記載された発明であり、また、刊行物2に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
(ii) 本件発明3及び7は、刊行物2と刊行物7との組合せに基づいて当業者が容易になし得た発明である。

(1-3)取消理由1-3(刊行物3を主引例とする取消理由)
(i) 本件発明1、2及び7は、刊行物3に記載された発明であり、また、刊行物3に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
(ii)ア.本件発明3は、刊行物3と刊行物7との組合せに基づいて、当業者が容易になし得た発明である。
イ.本件発明4は、刊行物3と刊行物2及び/又は7との組合わせに基づいて、当業者が容易になし得た発明である。
ウ.本件発明5及び6は、刊行物3に基づいて、もしくは、刊行物3と刊行物2及び/又は7との組合せに基づいて、当業者が容易になし得た発明である。
エ.本件発明8は、刊行物2、7及び/又は8との組合せに基づいて、当業者が容易になし得た発明である。

(1-4)取消理由1-4(刊行物4を主引例とする取消理由)
(i) 本件発明1、2及び7は、刊行物4に記載された発明であり、また、刊行物4に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
(ii)ア.本件発明3及び7は、刊行物4と刊行物7との組合せに基づいて、当業者が容易になし得た発明である。
イ.本件発明4及び7は、刊行物4に基づいて、もしくは、刊行物4と刊行物2及び/又は刊行物7との組合せに基づいて、当業者が容易になし得た発明である。
ウ.本件発明8は、刊行物4に基づいて、もしくは、刊行物4と刊行物2、7及び/又は8との組合せに基づいて、当業者が容易になし得た発明である。

(2)取消理由3(特許法第36条第6項第1号違反)、取消理由4(同法第36条第6項第2号違反)について

(2-1)取消理由3
本件特許出願当時の技術常識を併せ考慮したとしても、本件発明1?8のうち、(C)成分、もしくは(C)成分及び(G)成分の種類及び/又は配合割合の組合せ方について、本件明細書の実施例1?9で採用されているもの以外の任意の油中水型乳化日焼け止め化粧料の態様についてまで、本件明細書に記載された上記「水分との接触による紫外線防御効果の向上」効果がもたらされ、以て本件明細書記載の主要な技術課題が解決され得ると認識することはできないから、本件発明1?8は本件明細書の発明の詳細な説明で裏付けられている範囲を超えて特許請求するものである。

(2-2)取消理由4
本件発明1の(C)成分、即ち「前記(B)以外の油相増粘剤」とは、一体いかなる化学構造/名称のものがこれに該当し、またいかなる化学構造/名称のものがこれに該当しないのか、が、当業者といえども直ちに把握し得ない。また、当該(C)成分については、その「油相」に対する「増粘」作用の有無・程度は、当該「剤」(即ち(C)成分)の配合割合やその種類、及び/又は、「増粘」対象となる油相(これには(G)成分も含まれる)の組成により様々に異なるものと推測されることを踏まえると、[(B)+(C)]/[G)]の比率が0.04?0.68未満の範囲内である範囲内において「油相」に対し「増粘」作用を及ぼし得る「剤」として、一体いかなる化学構造/名称のものがこれに該当し、またいかなる化学構造/名称のものがこれに該当しないのか、について、当業者といえども明確に把握できるものとはいえない。
また、当該(C)成分と(G)成分とは、いずれも親油性のものであると推認される点で共通することが各名称から一応推測されるものであるところ、両者間の異同等の関係についてもまた、請求項中で具体的に規定されているわけでもなく、本件明細書中で技術常識を踏まえた合理的な説明がなされているわけでもない。
これらの点を踏まえると、本件発明1に規定される(C)成分に該当する成分の種類、ならびに(G)成分に該当する成分の種類は明確であるとはいえず、その結果、本件発明1に規定される「[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率」もまた、正確に算出できず、明確に把握し得ない。。
よって、本件発明1、及びその従属項である本件発明2?8は、その記載が明確とはいえない。

2.取消理由についての合議体の判断

(1)引用刊行物の記載事項(下線は合議体による)

(i)刊行物1(甲第1号証)
・摘示事項1a
『 【請求項1】 次の成分(A)?(D);
(A)25℃において99.5質量%エチルアルコール中に50質量%以上溶解する(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重合体
(B)水溶性ペプチド及び/又は水溶性タンパク質
(C)エチルアルコール
(D)水
を含有し、前記成分(A)が、下記(a)、(b)、(c)及び(d)のラジカル重合性モノマーを反応させて得られる重合体であることを特徴とする化粧料。
(a)下記一般式(I) ・・・

・・・
(b)下記一般式(II) ・・・

・・・、及び、式(III) ・・・

・・・から選ばれる少なくとも1種
(c)下記一般式(IV) ・・・

・・・
(d)下記一般式(V) ・・・

・・・ 』
・摘示事項1b
『 【0002】 従来より、タンパク質やペプチドは・・・、皮膚の保湿性を高め、抗シワ作用やハリ低下抑制作用、美白作用等を期待して化粧料に配合されてきている。これらタンパク質やペプチドは、加水分解等により水に可溶にして用いていたが、溶解している水系のpHや、エチルアルコールの配合により、凝集・沈殿してしまうことがあった。
・・・
【0005】 ・・・、本発明者は鋭意検討した結果、特定の(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重合体を用いることで、エチルアルコールが共存しても、水溶性ペプチドや水溶性タンパク質の凝集沈殿を防ぐことができ、・・・、清涼感がありながらも保湿効果が向上し、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成するに至った。 』
・摘示事項1c
『 【0045】 本発明の化粧料には、上記成分(A)?(D)以外に、化粧料に通常使用される成分、高級アルコール、炭化水素油、エステル油、ワックス類等の油剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、紫外線吸収剤、水溶性高分子、多価アルコール、糖類、低級アルコール等の水性成分、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤、清涼剤、粉体、ビタミン類、美容成分、香料等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。
【0046】 油剤としては、例えば、・・・高級アルコール類、・・・、スクワラン、スクワレン、・・・等の炭化水素類、・・・エステル油類、・・・ロウ類、・・・動物油、・・・ラノリン誘導体、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸類、・・・シリコーン類等が挙げられる。
【0047】 界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤としては、・・・、ショ糖脂肪酸エステル、・・・等が挙げられる。
・・・
【0052】 粉体としては、通常化粧料原料として使用されるものであれば、板状、紡錘状、針状等の形状、煙霧状、微粒子級等の粒子径、多孔質、無孔質等の粒子構造等、特に限定されず用いることができる。具体的には、・・・無機粉体類、・・・有機粉体類、さらには、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の白色無機顔料、・・・等が挙げられ、・・・』
・摘示事項1d
『 【0057】 1 (メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重合体の製造
[参考製造例1]
3つ口フラスコ内、窒素雰囲気下で、イソプロパノール(注1)50gを攪拌下、70?80℃にて、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(注2)4g、片末端メタクリレート置換ジメチルポリシロキサン(X-22-174DX)(注3)40g、エチルアクリレート(注4)31g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(注5)27g、3-トリメチルアンモニウムプロピルメタクリルアミドクロライド(注6)4g、イソプロパノール(注1)170gを3?4時間かけて添加した。次いで、イソプロパノールに溶解したジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(注2)1gを添加し、70?80℃の温度範囲内で5時間反応させ、粘稠な溶液を得た。この溶液を精製水に注ぎ込み、グラフトポリマーを沈殿析出させた後、沈殿物を濾別し、80℃にて減圧乾燥させて透明ゴム状物を90g得た。
赤外吸収スペクトルにて、得られたゴム状物が目的とする(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重合体であることを確認した。
モノマーの仕込割合は以下のとおりである。
MAPTAC:EA:HEMA:X-22-174DX=2:31:27:40
・・・ 』
・摘示事項1e
『 【0090】 実施例12.油中水型リキッドファンデーション
(成分) (%)
1.トリエトキシカプリリルシラン処理微粒子酸化チタン(*17)10
2.デカメチルシクロペンタシロキサン 20
3.トリメチルシロキシケイ酸 5
4.トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル 3
5.ジカプリン酸プロピレングリコール 3
6.ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 3
7.ショ糖脂肪酸エステル 0.5
8.有機変性ベントナイト 1
9.パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 7
10.ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニル
トリアジン 0.5
11.オクトクリレン 2
12.酸化チタン 9
13.ベンガラ 0.6
14.黄色酸化鉄 2.1
15.黒酸化鉄 0.15
16.タルク 5
17.球状ポリメチルメタクリレート粉体(5μm) 0.5
18.セスキオレイン酸ソルビタン 1
19.ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(*18) 1
20.ポリオキシエチレン・アルキル変性シリコーン(*19) 1
21.参考製造例1の(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重体 1
22.エチルアルコール 1.5
23.パラオキシ安息香酸メチル 適量
24.プロピレングリコール 5
25.加水分解コラーゲン(*20) 0.3
26.精製水 残量
*17:OTS-3 JR-800(大東化成工業社製)
*18:KF-6017(信越化学工業社製)
*19:アビルEM-90(ゴールドシュミット社製)
*20:アバロンコラーゲン(PHUKET ABALONE FARM社製)(1%水溶液)
【0091】(製造方法)
A:成分4?8、10?11、19?20を加熱して溶解し、均一に混合し放冷した。
B:Aに成分9、12?18を加え、ロールミルにて均一混合した。
C:成分1?3にBを加え、均一に混合した。
D:成分21?22を均一混合した。
E:成分23?26を均一混合した。
F:EにCを攪拌しながら加え乳化し、Dを加えた後に広口瓶に充填して油中水型リキッドファンデーションとした。
実施例12の油中水型リキッドファンデーションについて、・・・、「経時安定性」・・・、「しっとり感」、「伸び広がりの良さ」について・・・評価し判定したところ、全てにおいて優れていることが確認された。 』

(ii)刊行物2(甲第2号証)
・摘示事項2a
『 【請求項1】 次の成分(a)、(b);
(a)下記一般式(1)及び/又は(2)で示される長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン
R^(1)_(a)R^(2)_(b)R^(3)_(c)SiO_((4-a-b-c)/2) …(1)
〔式中、R^(1)は同一又は異なってもよく、炭素数1?10のアルキル基、水素原子、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基を示し、R^(2)は-CmH2m-O-(C_(2)H_(4)O)_(d)-(C_(3)H_(6)O)_(e)-R^(4)で示される基(式中、mは1?5の整数、d、eは0以上の整数、且つ、d+e≧1?200であり、R^(4)は水素原子若しくは炭素数1?5の一価炭化水素基又はR^(5)-(CO)-で示される有機基、R^(5)は炭素数1?5の一価炭化水素基)であり、R^(3)は炭素数10?30の一価炭化水素基であり、a、b、cはそれぞれ1.0≦a≦2.5、0.001≦b≦1.5、0.001≦c≦1.5である。〕
R^(6)_(f)R^(7)_(g)R^(8)_(h)SiO_((4-f-g-h)/2) …(2)
〔式中、R^(6)は同一又は異なってもよく、炭素数1?10のアルキル基、水素原子、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基を示し、R^(7)は-C_(n)H_(2n)-O-(C_(2)H_(4)O)_(i)-(C_(3)H_(6)O)_(j)-R^(9)で示される基(式中、nは1?5の整数、i、jは0以上の整数、且つ、i+j≧1?200であり、R^(9)は水素原子若しくは炭素数1?5の一価炭化水素基又はR^(10)-(CO)-で示される有機基、R^(10)は炭素数1?5の一価炭化水素基)であり、R^(8)は-C_(p)H2_(p)-O-(C_(2)H_(4)O)_(k)-(C_(3)H_(6)O)_(l)-R^(11)(式中、pは1?5の整数、k、lは0以上の整数、且つ、200≧f+g>0であり、R11は炭素数10?30一価炭化水素基)であり、f、g、hはそれぞれ1.0≦f≦2.5、0.001≦g≦1.5、0.001≦h≦1.5である。〕
(b)部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体
を含有することを特徴とする油中水型化粧料。
【請求項2】 更に、成分(c)煙霧状疎水化シリカを含有する請求項1記載の油中水型化粧料。
【請求項3】 更に、成分(d)有機変性粘土鉱物を含有する請求項1又は2記載の油中水型化粧料。
・・・ 』
・摘示事項2b
『 【0002】 【従来の技術】従来、油中型化粧料には、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン等の界面活性剤が用いられおり、この油中水型化粧料の経時安定性を向上させる手段として、ワックス、有機変性粘土鉱物、部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体等の油ゲル化剤を配合する技術があった。
【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、界面活性剤として、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを用いた油中水型化粧料は、伸び広がりの滑らかさに欠け、粘度が低い場合は経時安定性が良好では無かった。油ゲル化剤として、ワックスを配合すると、・・・、この油中水型化粧料の粘度は温度により変化し、該ワックスの融点前後の温度では、使用感が異なる等の欠点があり、温度変化の激しい条件下での経時安定性は満足できる水準では無かった。有機変性粘土鉱物のみで安定化させた油中水型化粧料は、経時安定性はある程度向上するが、滑らかな伸びや膜薄感(肌負担感の無さ)といった使用感が満足できるもではなかった。更に、部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体のみで安定化させたもの・・・は、時安定性と使用感のいずれも満足できる水準にはなかった。
【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を克服すべく種々の検討を重ねた結果、特定の長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンと部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体を含有する油中水型化粧料が、経時安定性に優れ、更に、油っぽさが無くさっぱりとした感触で、滑らかな伸びを有し、膜薄感(肌負担感の無さ)といった使用感に優れることを見出し、本発明を完成させた。また更に、煙霧状疎水化シリカ及び/又は有機変性粘土鉱物を含有することにより、この油中水型化粧料の経時安定性及び、使用感が向上することを見出した。 』
・摘示事項2c
『 【0009】本発明に用いられる成分(b)の部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体は、特開平1-250306に開示されている様な、部分架橋型メチルポリシロキサン重合体、部分架橋型メチルフェニルポリシロキサン重合体等がが挙げられる。部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体は、シロキサンの結合が三次元網目構造をとっており、低粘度のシリコーン油を安定化するのに優れ、部分架橋型メチルフェニルポリシロキサン重合体は部分架橋型メチルポリシロキサン重合体と同様に三次元網目構造をとっているが、・・・、極性を有する油剤を安定化するのに優れるものである。・・・』
・摘示事項2d
『 【0014】本発明に用いられる成分(d)の有機変性粘土鉱物は、粘土鉱物をアルキル四級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤で有機変性して得られるものである。水膨潤性粘土鉱物としては、三層構造を有するコロイド性含水ケイ酸アルミニウムの一種で、一般に下記一般式(3)で表され、
(X,Y)_(23)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)Z・nH_(2)O ・・・(3)
・・・、経時安定性の観点より、モンモリロナイトがより好ましい。
・・・
【0016】成分(d)の有機変性粘土鉱物は、具体的には市販品として、ベントン27、38(NLインダストリー社製)等が挙げられる。これらは必要に応じて一種または二種を用いることができる。』
・摘示事項2e
『 【0018】本発明の油中水型化粧料には、上記必須成分の他に通常、化粧料に使用される成分、例えば、粉体、水性成分、成分(a)以外の界面活性剤、油性成分、成分(c)及び成分(d)以外の油ゲル化剤、水溶性高分子、紫外線吸収剤、アクリル-シリコーン共重合体やトリメチルシロキシケイ酸等の油溶性被膜形成剤、エタノール等の溶剤、パラオキシ安息香酸誘導体、フェノキシエタノール等の防腐剤、ビタミン類、美容成分、香料等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。』
・摘示事項2f
『 【0021】成分(a)以外の界面活性剤としては、例えば、・・・、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸及びそれらの無機及び有機塩、・・・等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。
【0022】油成分としては、例えば、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シリコーン類、25℃での粘度が5cs以下のジメチルポリシロキサンなどの揮発性シリコーン油、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、・・・等のアルコキシ変性シリコーン類、・・・、オリーブ油、ヒマシ油、ホホバ油、ミンク油等の油脂類、流動パラフィン、スクワラン、・・・等の炭化水素類、・・・ロウ類、・・・、ミリスチン酸イソプロピル、・・・等のエステル類、・・・等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。
【0023】成分(c)及び成分(d)以外の油ゲル化剤としては、デキストリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、デンプン脂肪酸エステル、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。 』
・摘示事項2g
『 【0035】 注2:アビルEM-90(ゴールドシュミット社製)
注3:下記一般式(5)で表される長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン
・・・
【0037】 ・・・
注6:ベントン38(NLインダストリー社製) 』
・摘示事項2h
『 【0048】
実施例14:日焼止め料
(処 方) (重量%)
1.デカメチルシクロペンタシロキサン 25
2.ジメチルポリシロキサン 3
3.部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体 0.15
4.長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン
変性オルガノポリシロキサン(注2) 2.5
5.ジグリセリンイソパルミチン酸エステル
セバシン酸混合物 5
6.モノオレイン酸ソルビタン 0.5
7.有機変性ベントナイト(注6) 2
8.ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 8
9.庶糖脂肪酸エステル 0.5
10.トリメチルシロキシケイ酸 1
11.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理微粒子酸化チタン(注10) 5
12.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理微粒子酸化亜鉛(注10) 3
13.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理セリサイト(注10) 5
14.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理球状ナイロン粉末(注10) 3
15.蒸留水 残部
16.アルキル変性カルボキシビニルポリマー 0.1
17.防腐剤 適量
18.美容成分 適量
※注10:特開平8-133928記載のパーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を粉体に対して5%処理したもの。
【0049】(製造方法)
A:1?14を混合分散する。
B:Aに、均一にした15?18を加え、ホモミキサーにて乳化し、日焼止め料を得た。
実施例14の日焼け止め料は、「油っぽさの無いさっぱり感」、「伸びの滑らかさ」、「膜薄感(肌負担感の無さ)」といった使用感の全ての項目で優れていた。また、この日焼け止め料の粘度値は、45000cPであり、経時安定性に優れていた。 』

(iii)刊行物3(甲第3号証)
・摘示事項3a
『 【請求項1】 35?75質量%の油相を含む油中水型乳化日焼け止め化粧料であって、前記油相が油相全量に対して10?50質量%の紫外線吸収剤および20?60質量%の揮発性油分を含み、さらに、デキストリン脂肪酸エステルおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを化粧料全量に対して0.5?2質量%含有することを特徴とする油中水型乳化日焼け止め化粧料。』
・摘示事項3b
『 【0002】 日焼け止め化粧料には通常、皮膚への紫外線照射を遮断して高いSPF(Sun Protection Factor)値を得るために、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤(二酸化チタン、酸化亜鉛等の無機系粉末)が配合されており、特に耐水性に優れた高SPFの日焼け止め化粧料として、紫外線吸収剤と紫外線散乱剤とを含有する油中水(WO)型組成物が知られている。・・・。しかしながら、従来技術における紫外線吸収剤および紫外線散乱剤を配合した油中水型組成物では、紫外線散乱剤により肌に塗布した際にきしみ感や白浮きが生じて使用感が悪いという問題があった。
【0003】 紫外線散乱剤を配合しないで高SPFの油中水型日焼け止め化粧料を作成しようとすると、紫外線吸収剤を高配合することが必要となり、油っぽさやべたつきが生じて使用性が悪くなる。・・・
・・・
【0007】 本発明者は、油中水型乳化日焼け止め化粧料において、・・・紫外線散乱剤を配合する必要なしに非常に高いSPF値を達成でき、かつ油っぽさやべたつきが少なく、使用感および使用性に優れた高SPFの油中水型乳化日焼け止め化粧料を調製できることの発見に基づくものである。・・・
【0008】 ・・・デキストリン脂肪酸エステルおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを配合することによって、油中水型乳化日焼け止め化粧料において紫外線吸収剤を高配合しても油っぽさやべたつきを抑制できることは全く知られていなかった。』
・摘示事項3c
『 【0014】
本発明で用いられる紫外線吸収剤は、油溶性紫外線吸収剤であり、化粧料に配合され得るものであれば特に限定されない。例えば、オクチルメトキシシンナメート、オクトクリレン、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ジメチコジエチルベンザルマロネート、ビスエチルへキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、エチルヘキシルトリアゾン、トリメトキシケイヒ酸メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ジメトキシケイヒ酸エチルヘキサン酸グリセリル、ジメチコジエチルベンジルマロネート(ポリシリコーン-15としても知られる)、2-ヒドロキシ-4メトキシベンゾフェノン(オキシベンゾン-3としても知られる)などが例示される。』
・摘示事項3d
『 【0022】 本発明の油中水型乳化日焼け止め化粧料は、上記紫外線吸収剤および揮発性油分と共に、化粧料全量に対して0.5?2質量%のデキストリン脂肪酸エステルおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含有する。斯かる量でデキストリン脂肪酸エステルおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを配合することによって、油中水型乳化日焼け止め化粧料において紫外線吸収剤を高配合しても油っぽさやべたつきを抑制することができる。配合量が、0.5質量%未満では油性感やべたつきが生じ、また2質量%を超えると粘度が高くなり使用性が悪くなる。』
・摘示事項3e
『 【0026】 本発明の油中水型乳化日焼け止め化粧料は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、酸化亜鉛、酸化チタン等の化粧料に使用される紫外線散乱剤をさらに含んでいてよいが、きしみ感や白浮き等の使用感の観点から、その配合量は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下であり、最も好ましくは紫外線散乱剤を含まない。』
・摘示事項3f
『 【0027】 本発明の油中水型乳化日焼け止め化粧料は、35?75質量%の油相、より好ましくは40?60質量%の油相を含む。斯かる範囲の油相を含むことにより、伸び広がりがよく、また耐水性および使用性に優れている。
【0028】 例えば、他の油性成分として、限定はされないが、パルミチン酸オクチル、2-エチルヘキサン酸セチル、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、ポリオキシブチレンポリオキシプロピレングリコール、8(または9)メチルヘプタデカン酸、セバシン酸ジイソプロピル、ジメチルポリシロキサン(6cs)などを本発明において好ましく用いることができる。
・・・
【0030】 本発明の油中水型乳化日焼け止め化粧料は、上記の成分の他に、通常化粧料に用いられる成分、例えば、界面活性剤、キレート剤、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、アルコール類、増粘剤、色剤、各種の粉末成分、各種の油性成分、各種の水性成分などを必要に応じて適宜配合して、常法により油中水型乳化組成物に調製することができる。 』
・摘示事項3g
『 【0041】 実施例9:油中水型乳化日焼け止め化粧料(サンスクリーン)
(成分) 配合量(質量%)
オクチルメトキシシンナメート(Parsol MCX(DSM社)) 7
ジメチルポリシロキサン(1.5cs) 3
環状アルキルポリシロキサン(DC246Fluid(東レ・ダウコーニング))
20
トリメチルシロキシケイ酸 3
パルミチン酸デキストリン(レオパールKL (千葉製粉)) 0.5
2-エチルヘキサン酸セチル 5
スクワラン 1
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 2
ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン 1
シリコーン樹脂粉末 5
タルク 2
球状ナイロン粉末 1
エデト酸塩 適量
グリセリン 1
1,3-ブチレングリコール 5
油溶性甘草エキス 0.5
パラベン 適量
フェノキシエタノール 適量
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 0.8
一般アルコール95度合成 6
イオン交換水 残余
・・・
【0044】 上記実施例の油中水型乳化日焼け止め化粧料はいずれも、高い紫外線防御効果(SPF値)を有し、かつ油っぽさがなくまた肌なじみもよく使用感および使用性に優れていた。 』

(iv)刊行物4(甲第4号証)
・摘示事項4a
『 【請求項1】 フェニルベンズイミダゾールスルホン酸と、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオ-ルおよび/または2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールと、オクチルメトキシシンナメートとを含むことを特徴とする油中水型日焼け止め化粧料。 』
・摘示事項4b
『 【0003】 上記フェニルベンズイミダゾールスルホン酸は水酸化ナトリウムやトリエタノールアミンで中和塩にすることにより水溶となる数少ない有効な紫外線吸収剤であり、水含有化粧料に配合するのに適したものである。しかし、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸は・・・、油中水型日焼け止め化粧料において疎水化処理を施した紫外線散乱剤(酸化亜鉛、二酸化チタン等)と併用することにより経時で変色が発生するという問題が生じる。・・・
【0004】 紫外線は、波長が320?400nmの長波長紫外線(UVA)、290?320nmの中波長紫外線(UVB)及び290nm以下の短波長紫外線(UVC)に分類され、紫外線吸収剤の多くは、主にそれぞれの波長領域に対して効果を示すものがほとんどであるため、油中水型乳化日焼け止め化粧料には、UVAからUVBまで幅広い領域の紫外線を吸収することができるように、また他の紫外線吸収剤との併用による紫外線防止効果向上を期待して、複数種類の紫外線吸収剤を含有させることが試みられている。
【0005】 近年UVA吸収剤としてジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルやビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、UVB吸収剤としてオクチルトリアゾンなどが開発されているが、これらは室温で固形であり、エステル油や液状のケイ皮酸エステル系紫外線吸収剤(オクチルメトキシシンナメートなど)に溶解して配合する必要がある。
・・・
【0007】 ところが、本発明者らがトリエタノールアミンで中和塩としたフェニルベンズイミダゾールスルホン酸とエステル油で溶解したオクチルメトキシシンナメートとを組み合わせた油中水型乳化日焼け止め化粧料を調整したところ、経時により変臭が生じることがわかった。また、水酸化ナトリウムで中和塩としたフェニルベンズイミダゾールスルホン酸の場合には、変臭は生じないものの乳化安定性が悪いことがわかった。
【0008】 本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、変臭を生じることがなく、また乳化安定性に優れたフェニルベンズイミダゾールスルホン酸とオクチルメトキシシンナメートとを含有する油中水型乳化日焼け止め化粧料を提供することを目的とするものである。』
・摘示事項4c
『 【0014】 本発明の油中水型日焼け止め化粧料は、より幅広い領域の紫外線を吸収することができるようにするためUVA吸収剤を0.1?10質量%、好ましくは1?5質量%含有することがより好ましい。・・・。UVA吸収剤としては、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、UVB波長領域にも吸収を有するビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール等を好適に挙げることができる。・・・
・・・
【0017】 本発明の油中水型乳化日焼け止め化粧料には、オクチルメトキシシンナメート、上記で記載したUVA吸収剤の他に、その他の液状油溶性紫外線吸収剤を含んでいてもよい。具体的には、オクトクリレン(2-エチルヘキシル 2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート)、サリチル酸オクチル、サリチル酸ホモメンチル、ジメチコジエチルベンザルマロネート、およびトリメトキシケイ皮酸メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル等を含有させることができる。・・・
・・・
【0019】 本発明の油中水型日焼け止め化粧料には、上記成分の他に、本発明の目的・効果を損なわない限りにおいて、通常化粧品に用いられる他の成分を必要に応じて適宜配合することができる。このような成分としては、水溶性高分子、油溶性高分子、高分子粉末、乳化剤、ロウ類、アルコール類、液体油脂、エステル油(オクチルメトキシシンナメート以外)、炭化水素油、シリコーン油、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、薬剤、紫外線吸収剤(フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、オクチルメトキシシンナメート、上記で説明したUVA吸収剤以外)、紫外線散乱剤、有機変性粘土鉱物等が挙げられる。
・・・
【0023】 ・・・
乳化剤としては・・・シリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0024】 シリコーン系界面活性剤としては、油中水型乳化タイプに用いられ得るものであれば特に限定されるものでなく、・・・
・・・
【0033】 ・・・
有機変性粘土鉱物としては、第4級アンモニウム塩型カチオン変性粘土鉱物などが例示される。
【0034】 本発明の油中水型乳化日焼け止め化粧料は、乳液状製品やクリーム状の製品がある。これらの製品は、上記の必須成分および化粧料に通常配合される成分を混合して常法により製造することができる。』
・摘示事項4d
『 【0042】 下記表2に、本発明の油中水型日焼け止め化粧料の処方例を示す(表2に示す数値は質量部である)。処方例1?3に示す油中水型日焼け止め化粧料は、以下のようにして調整した。油溶性紫外線吸収剤、油分、被膜剤、界面活性剤を均一に溶解混合し、増粘剤、紫外線散乱剤、粉末を添加してホモミキサーで分散して油相を調整した。イオン交換水に中和剤を加え、水溶性紫外線吸収剤を加えて溶解するまで撹拌し、キレート剤、保湿剤、防腐剤、アルコールを加えて水相を調整した。油相に撹拌しながら水相を添加し、ホモミキサーにて撹拌して日焼け止め化粧料を調整した。得られた日焼け止め化粧料は、40℃で1ヶ月以上保存しても変臭は生じなかった。



(v)刊行物5(甲第8号証)
・摘示事項5a(79頁 標題)
『 特集 新しい紫外線防御剤の機能と開発 』
・摘示事項5b(80頁左欄16行?81頁左欄7行)
『 一方、無機系紫外線遮蔽材としては、代表的なものとして酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄等があげられる。・・・最近では粒子径が0.1μm以下のいわゆる超微粒子の無機系紫外線遮蔽材の利用が一般的になってきている。・・・酸化亜鉛と酸化チタンは同じ無機系紫外線遮蔽材として競合する面もあるが・・・相補的な役割を持つ・・・。 ・・・
3.無機系紫外線遮蔽材の透明性
通常、サンスクリーン剤の化粧品原料として使用される酸化亜鉛もしくは酸化チタンの一次粒子径は0.1μm以下であり、可視光線の波長(0.4?0.8μm)よりずっと小さい・・・酸化亜鉛は酸化チタンよりも入射光を散乱させる傾向が小さく、この結果、ビヒクルに分散させた時に高い透明性を示す。
また、・・・、酸化亜鉛の粒子径をたとえば0.05μm以下にするならば・・・屈折率の小ささと相まって本質的に極めて透明性の高いものになる。・・・。このような材料をサンスクリーン剤原料として用いる時、サンスクリーン剤は白っぽくならず透明感に優れたものとなる。』
・摘示事項5c(81頁左欄8行?右欄13行)
『 4.無機径紫外線遮蔽材の紫外線吸収性能
・・・
酸化亜鉛のEgは3.2eVであり、これと同等のエネルギーを有する光の波長は380nm付近にある。・・・。言い換えると電子の励起という現象を通して酸化亜鉛は380nm以下の波長の光を吸収することができる。
一方、酸化チタンは・・・ずっと低波長側である320nm付近より光の吸収が始まり、380nm付近の立ち上がりが緩やか・・・
・・・酸化チタンはUVBの遮蔽性能が高く、一方、酸化亜鉛はUVAの遮蔽性能が高いという特長を有することになる。
図3に各種無機系紫外線遮蔽材の紫外線遮蔽特性を示す。』
・摘示事項5d(図3)




(vi)刊行物6(甲第9号証)
・摘示事項6a(123頁4行?124頁13行)
『 界面活性剤は・・・使用目的によって乳化剤・・・、分散剤・・・、洗剤・・・、可溶化剤・・・などとよばれ香粧品原料に利用されている。このような使用目的に適合する界面活性剤の選定に当って、多数のしかも重要な非イオン界面活性剤の選定に当ってHLB・・・と称する数値で求めることが行われている^(97))。これは・・・界面活性剤分子中の親水性と親油性との相関関係を示すもので、0?20の数値であらわし、数値の大きなものほど親水性が大で、数値の小さなものほど親油性が大である。
・・・
HLBと用途との関係を次にあげると
15以上 可 溶 化 剤 13?15 洗 浄 剤
8?18 O/W 乳化剤 7? 9 浸 透 剤
3.5?6 W/O 乳化剤 1.5?3 消 泡 剤 』

(vii)刊行物7(甲第10号証)
・摘示事項7a
『 【請求項1】 ケイ素原子に結合した一般式(1)で表される有機基(-Y)及びケイ素原子に結合した炭素原子数9以上の置換もしくは非置換の一価炭化水素基(-Z)を分子中に有するオルガノポリシロキサンからなるゲル化剤。
一般式(1): ・・・
・・・
【請求項7】(A)請求項1?請求項6のいずれか1項に記載のゲル化剤 1?99重量%
および
(B)シリコーンオイル、非極性有機化合物または低極性有機化合物 99?1重量%
からなることを特徴とするゲル状組成物。
・・・
【請求項11】 請求項1?請求項6のいずれか1項に記載のゲル化剤を配合した化粧料。
【請求項12】 請求項7?請求項10のいずれか1項に記載のゲル状組成物を配合した化粧料。
・・・
【請求項20】 更に(h)紫外線防御成分を含有する請求項11?請求項19のいずれか1項に記載の化粧料。
・・・ 』
・摘示事項7b
『 【0088】 本発明の化粧料は、皮膚洗浄剤製品、スキンケア製品、メイクアップ製品、制汗剤製品、紫外線防御製品などの皮膚用化粧品;・・・が例示される。・・・
【0089】 前記の皮膚用化粧品は、・・・。具体的には、・・・皮膚洗浄剤製品;・・・スキンケア製品;・・・メイクアップ製品;・・・制汗剤;サンスクリーン剤、日焼け用薬剤(サンタン剤)等の紫外線防御製品が例示される。』
・摘示事項7c
『 【0091】 本発明にかかる化粧料および化粧品の形態は特に限定されるものではなく、液状、W/O乳液状、O/W乳液状、W/Oクリーム状、O/Wクリーム状、固体状、ペースト状、ゲル状、粉末状、多層状、ムース状、ミスト状、顆粒状、フレーク状、碎石状等に好ましく適用が可能である。特に本発明のゲル化剤は、O/W、W/Oの油層部分が増粘もしくはゲル化されているために、経日安定性に優れた乳液、クリーム状の化粧料を得ることができる。
【0092】 本発明にかかる化粧料および化粧品の容器についても特に限定されるものではなく、ジャー、ポンプ、チューブ、ボトル、圧力缶吐出容器、耐圧エアゾール容器、遮光容器、コンパクト容器、金皿、スティック容器、繰り出し容器、噴霧容器、混合液吐出口を備えた仕切り付き容器等の任意の容器に充填することができる。チューブは、通常のシリコーン系製剤では分離が起きやすい傾向があるが、本発明にかかる化粧料および化粧品は安定性に優れるため、かかるチューブ容器に充填されても安定に保管することが可能であるというメリットがある。』

(viii)刊行物8(甲第14号証)
・摘示事項8a
『 【請求項1】 固型状メーキャップ化粧料であって、化粧料全量に対して、33質量%以上の油分、および3?15質量%の保湿剤を含むことを特徴とする固型状メーキャップ化粧料。』
・摘示事項8b
『 【0022】 本発明の固型状化粧料は、化粧料全量に対して3?15質量%の保湿剤を含む。・・・
・・・
【0024】 本発明において好ましく使用される上記の条件を満たす保湿剤として、限定はされないが、グリセリン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジメチルエーテル、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、ジプロピレングリコール、キシリトール、トレハロース、エリスリトール、ヒアルロン酸および尿素等が挙げられ、それらから選ばれる一種または二種以上を組み合わせて使用できる。特に、高い保湿効果および使用感等の観点から保湿剤としてグリセリンを含むことが好ましい。』

(2)取消理由1、2を含む、刊行物1?刊行物4のいずれかを主引例とする訂正発明の新規性進歩性の判断について

以下の(2-1)?(2-4)では、本決定の記載内容をより理解しやすいものとするため、取消理由通知書で指摘した取消理由1、2についての判断と併せて、当該取消理由1、2以外の、異議申立理由のうち刊行物1(甲第1号証)?刊行物4(甲第4号証)のいずれかを主引例とする点で共通する新規性否定又は進歩性否定に係る部分[上記[第4]1(1)ならびに同(2)(i)?(viii)の各<a>の異議申立理由]についても、主引例が共通するものであることから、ここで併せて判断を示すこととする。

(2-1)取消理由1-1(刊行物1を主引例とする取消理由)について

(i)刊行物1に記載された発明
(1)(i)の摘示事項1a?1dを踏まえた摘示事項1eの記載によれば、刊行物1には、
「 次の成分(A)?(D);
(A)25℃において99.5質量%エチルアルコール中に50質量%以上溶解する(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重合体
(B)水溶性ペプチド及び/又は水溶性タンパク質
(C)エチルアルコール
(D)水
を含有し、前記成分(A)が、刊行物1の請求項1に規定される(a)、(b)、(c)及び(d)のラジカル重合性モノマーを反応させて得られる重合体であることを特徴とする化粧料 であって、以下の成分組成:
(成分) (%)
1.トリエトキシカプリリルシラン処理微粒子酸化チタン(*17)10
2.デカメチルシクロペンタシロキサン 20
3.トリメチルシロキシケイ酸 5
4.トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル 3
5.ジカプリン酸プロピレングリコール 3
6.ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 3
7.ショ糖脂肪酸エステル 0.5
8.有機変性ベントナイト 1
9.パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 7
10.ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニル
トリアジン 0.5
11.オクトクリレン 2
12.酸化チタン 9
13.ベンガラ 0.6
14.黄色酸化鉄 2.1
15.黒酸化鉄 0.15
16.タルク 5
17.球状ポリメチルメタクリレート粉体(5μm) 0.5
18.セスキオレイン酸ソルビタン 1
19.ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(*18) 1
20.ポリオキシエチレン・アルキル変性シリコーン(*19) 1
21.参考製造例1の(メタ)アクリルシリコーン系グラフト共重体 1
22.エチルアルコール 1.5
23.パラオキシ安息香酸メチル 適量
24.プロピレングリコール 5
25.加水分解コラーゲン(*20) 0.3
26.精製水 残量
*17:OTS-3 JR-800(大東化成工業社製)
*18:KF-6017(信越化学工業社製)
*19:アビルEM-90(ゴールドシュミット社製)
*20:アバロンコラーゲン(PHUKET ABALONE FARM社製)(1%水溶液)
の、油中水系乳化リキッドファンデーション 」
の発明(以下、「引用発明1」ということがある)が記載されているものと認められる。

(ii)対比・判断

(ii-1)訂正発明1について
新規性について
訂正発明1と引用発明1とを対比する。
ア1) 引用発明1における
・成分9:パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル(7%)、
・成分10:ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(0.5%)、
・成分11:オクトクリレン(2%)
は、この順に、本件明細書の【0015】で訂正発明の「(A)成分」の例として挙げられている「オクチルメトキシシンナメート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)」、「ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン」、「オクトクリレン」であって、またこの順に、本件明細書の実施例1?9の各化粧料中に配合されている「パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル」、「ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン」、「オクトクリレン」に対応するから、これら3成分はいずれも、訂正発明1における「(A)成分」即ち「紫外線吸収剤」に相当し;
引用発明1における
・成分1:トリエトキシカプリリルシラン処理微粒子酸化チタン(10%)
及び、
・成分12:酸化チタン(9%)
中の各酸化チタンは、例えば
・刊行物5の摘示事項5c及び5d や、
・日本化粧品技術者会編「化粧品事典」(平成17年4月25日第3刷発行) (株)丸善 503頁左欄「紫外線散乱剤」の項第2段落
「 紫外線散乱剤には・・・酸化チタン^(*)や酸化亜鉛^(*)(亜鉛華)などの超微粒子無機粉体^(*)が用いられている.これらの無機粉体は、紫外線を散乱させるだけでなく吸収することも知られており、化粧品において紫外線吸収剤としての役割も果たしている.・・・」(下線は合議体による)
の記載にみられるとおり、紫外線散乱剤であるものの、紫外線吸収剤としての性質も併せ持つものであるから、これまた訂正発明1における「(A)成分」即ち「紫外線吸収剤」に相当するものともいえ;
そして、引用発明1の上記成分9?11の3成分に成分1及び成分12を加えた5成分は、その合計量が28.5%であるから、訂正発明1における「(A)6?40質量%の紫外線吸収剤」に相当し;
ア2) 引用発明1における
・成分8:有機変性ベントナイト(1%)
は、訂正発明1における「(B)有機変性粘土鉱物」に相当し;
ア3) 引用発明1における
・成分7:ショ糖脂肪酸エステル(0.5%)
は、訂正発明1の(C)成分の選択肢中の「ショ糖脂肪酸エステル」であるから、訂正発明1における(C)成分の「油相増粘剤」に相当し;
ア4) 引用発明1における
・成分19:ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(KF-6017(信越化学工業社製)(1%)、
・成分20:ポリオキシエチレン・アルキル変性シリコーン(アビルEM-90(ゴールドシュミット社製))(1%)
は、この順に、本件明細書の【0029】、【0032】で訂正発明の「(D)成分」の例として挙げられている「KF-6017(・・・、信越化学工業株式会社製)」、「ABIL EM90(・・・、Evonik Goldschmidt社製)」であるから、訂正発明1における「(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤」に相当し;
ア5) 引用発明1における
・成分17:球状ポリメチルメタクリレート粉体(5μm)(0.5%)
は、本件明細書の【0036】で訂正発明の「(E)成分」の例として挙げられている「(メタ)アクリル酸エステル樹脂粉末」であるから、訂正発明1における「(E)球状樹脂粉末」に相当し;
ア6) 引用発明1における
・成分2:デカメチルシクロペンタシロキサン(20%)
は、本件明細書の【0041】で訂正発明1の「成分(F)」の例として挙げられている「揮発性シクロメチコン」(本件明細書【0040】の「デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)」に相当)であるから、訂正発明1における「(F)揮発性シリコーン油」に相当し;
ア7) 引用発明1における
・成分4:トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル(3%)
は、本件明細書の【0044】で訂正発明1の「(G)成分に含まれるが、(A)紫外線吸収剤には該当しない不揮発性液状油分」の例として挙げられている「トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル」であるから、訂正発明1における「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」に相当し;
引用発明1における
・成分5:ジカプリン酸プロピレングリコール(3%)、
・成分6:ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール(3%)
は、いずれも刊行物1の【0046】?【0047】(摘示事項1c)にいう油剤又は界面活性剤のいずれかに該当するものと解される成分であって、訂正発明1における「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」に相当し;
また、ア1)の引用発明1における
・成分9:パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル(7%)、
・成分11:オクトクリレン(2%)
は、いずれもその性状からみて本件明細書の【0043】にいう「(A)成分に該当する油溶性の紫外線吸収剤」であるから、訂正発明1において「成分(A)」に相当すると共に「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」にも相当し;
かつ、
ア8) 引用発明1において、
[ア2)の成分8とア3)の成分7との合計量]/[ア7)の成分4?6、成分9及び成分11の合計量]

(1+0.5)/(3+3+3+7+2)=1.5/18=0.083
であるから、訂正発明1の「[(B)+(C)]/[(G)]が「0.04以上0.68未満である」に相当する。
[ なお、ア7)で挙げた引用発明1の成分のうち、
・成分5:ジカプリン酸プロピレングリコール(3%)、
・成分6:ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール(3%)
は、いずれも非水系増粘剤として使用され得る成分であること(この点については、要すればインターネットでアクセス可能な以下のURL:
・https://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=906
・https://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=5460
の各「配合目的」の欄を参照のこと)、を踏まえると、訂正発明1における「(G)成分」ではなくむしろア3)の「(C)前記(B)以外の油相増粘剤」に相当するものとも解されるが、仮にそのように解釈したとしても、引用発明1における
[ア2)の成分8とア3)の成分5?7との合計量]/[ア7)の成分4、成分9及び成分11の合計量]
は、
(1+(3+3+0.5))/(3+7+2)=7.5/12=0.625
であって、やはり訂正発明1の[(B)+(C)]/[(G)]が「0.04以上0.68未満である」に相当する。]
ア9) また、引用発明1は、他にも種々の成分を含むものであるが、訂正発明1は、(A)?(G)成分を含有することの規定はあるものの、他の成分が含まれることを排除するものではないから、当該種々の成分が引用発明1に含まれていることは、訂正発明1と引用発明1との相違点にはならない。

ア10) さらに、刊行物1には、引用発明1の化粧料が「日焼け止め」用であることの文言上の記載こそ認められないが、当該引用発明1はリキッドファンデーションとして顔等の皮膚に適用されるものであり、上のア1)で述べたとおり、その成分9?11は紫外線吸収剤であり、成分1、12は紫外線吸収剤としての性質をも併せ持つ紫外線散乱剤であるから、これら成分1、9?12を含む、皮膚にリキッドファンデーションとして適用される引用発明1の化粧料が、紫外線の吸収や散乱により「日焼け止め」としての役割をも果たす化粧料であることは、上記技術常識を踏まえつつ、当業者により自明な事項として把握し得たことである。

そうすると、両者は、
「 (A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤、
(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有し、
[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、油中水型乳化日焼け止め化粧料。 」
の点で一致するが、
<1> 訂正発明1が「紫外線散乱剤を含まない」ものであるのに対し、
引用発明1は紫外線散乱剤である
・成分1:トリエトキシカプリリルシラン処理微粒子酸化チタン(10%)
及び
・成分12:酸化チタン(9%) を含む点
<2> 訂正発明1が「噴霧型」のものであるのに対し、引用発明1ではそのような限定はない点
(以下、順に、相違点1、相違点2ということがある)において、相違する。

これらの相違点により、訂正発明1と引用発明1は相違し、したがって、訂正発明1は、刊行物1に記載された発明ではない。

進歩性について

イ1)相違点1及び2に係る要件の容易想到性について

(a) 刊行物1には、引用発明1のリキッドファンデーションにおいて、紫外線散乱剤を取り除くことも、また、紫外線散乱剤に代えて紫外線散乱剤ではない紫外線吸収剤を配合することについても、記載も示唆もされていない。また、そのような紫外線散乱剤を含まないものとした上で噴霧型とすることの記載も示唆も見出せない。
そして、そのような紫外線散乱剤を含まない噴霧型の化粧料とすることで、後述するイ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供し得ることについての記載乃至示唆を、刊行物1中に見出すことはできない。この点、他の引用刊行物2?8やそれら以外の甲第5?7、11?13号証の記載を併せ参酌しても同様である。
以下、(b)で詳述する。

(b)b1) 上のア1)でも述べたとおり、引用発明1における
・成分1:トリエトキシカプリリルシラン処理微粒子酸化チタン(10%)、
ならびに、
・成分12:酸化チタン(9%)
は、いずれも紫外線散乱剤であるところ、刊行物1には、引用発明1における紫外線吸収剤相当成分である成分1、9?12の中から、特に上記成分1及び12の紫外線散乱剤を取り除くことも、また、成分1及び12に代えて紫外線散乱剤に該当しない紫外線吸収剤を配合することについても、記載も示唆もされていない。

「紫外線散乱剤を含まない」ものとすることに関し、刊行物3には、同刊行物に係る油中水型乳化日焼け止め化粧料(摘示事項3a)について、きしみ感や白浮き等の使用感の観点から紫外線散乱剤の配合量は好ましくは5質量%以下、最も好ましくは含まないようにすることの記載(摘示事項3b,3d)がみられる。
しかしながら、かかる刊行物3の記載は、引用発明1に係る特定の組成のリキッドファンデーションにおいて、紫外線散乱剤を取り除くことを動機付けるものではない。
また、刊行物3には、上記成分1、12のような紫外線散乱剤を含まないものとすることで、後述のイ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供することについての記載も示唆も認められない。

b2) また、刊行物1には、引用発明1の化粧料を噴霧型として使用することについての記載乃至示唆も認めることはできない。

「噴霧型」の化粧料とすることに関し、刊行物7には、同刊行物のゲル化剤配合化粧料(摘示事項7a)について、「・・・紫外線防御製品などの皮膚用化粧品・・・が例示される。」、「・・・サンスクリーン剤・・・等の紫外線防御製品が例示される。」との用途の列挙記載があり、また、「・・・形態は特に限定されるものではなく・・・、W/O乳液状、・・・等に好ましく適用が可能である。」との記載と共に「・・・容器についても特に限定されるものではなく・・・、噴霧容器、・・・等の任意の容器に充填することができる。」(摘示事項7b、7c)との形態の列挙記載があるが、これらの記載は、当該ゲル化剤配合化粧料が採り得る様々な化粧料としての用途、形態として挙げられているにとどまり、特に引用発明1に係る特定の成分組成のリキッドファンデーションにおいて、紫外線散乱剤である成分1及び12を取り除き、かつそれを噴霧型とすることの動機付けとなるものではない。この点、他の引用刊行物2?6、8や甲第5?7、11?13号証にも、引用発明1のリキッドファンデーションから紫外線散乱剤を取り除いて噴霧型とすること等を動機付けるような記載はないから、これらの刊行物及び証拠の記載を併せ参照しても同様である。

(c) したがって、引用発明1において、さらに上記相違点1及び2に係る要件を併せ具備せしめることが、刊行物1の記載に基づくことにより、もしくは、刊行物1の記載とそれ以外の引用刊行物2?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組み合わせに基づくことにより、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

イ2)訂正発明の効果について
訂正発明の効果に関し、本件明細書の【0061】?【0062】には、
・訂正発明1に係る化粧料の例である実施例1?9の組成の各化粧料;
ならびに
・比較例1、2の各化粧料[パルミチン酸デキストリン((C)成分に相当)の含有割合が「-」(0%)(比較例1)又は「0.01」%(比較例2)であることから、[(B)+(C)]/[(G)]が「0.04」未満であって訂正発明1の「0.04以上0.68未満」の要件を満たしていない];
について、同【0056】?【0060】記載の条件下にて測定した次の評価項目1?6について評価したところ、下の表1、表2の試験結果が得られたことが記載されている。

1.原液の粉末沈降及び固化
[ 評価基準:
良好:化粧料の原液中で粉末の沈降及び固化が生じなかった。
不良:化粧料の原液中で粉末の沈降及び固化が生じた。 ](本件明細書【0056】)
2.粉末再分散性(エアゾール容器に充填した状態で12時間静置した後)
[ 評価基準:
良好:容器を振ることにより粉末が良好に再分散した。
不良:容器を振っても凝集した粉末が再分散しなかった。 ](本件明細書【0056】)
3.紫外線防御効果[紫外線の吸光度(Abs)変化率(%)]
[ 「 Sプレート(5×5cmのV溝PMMA板、SPFMASTER-PA01)に各例の化粧料(サンプル)を2mg/cm2の量で滴下し、60秒間指で塗布し、15分間乾燥した後、その吸光度を株式会社日立製作所社製U-3500型自記録分光光度計にて測定した。紫外線吸収のないグリセリンをコントロールとし、吸光度(Abs)を以下の式で算出した。
Abs=-log(T/To)
T:サンプルの透過率、To:グリセリンの透過率
測定したプレートを硬度50?500の水に十分に浸し、30分間そのまま水に浸漬した。その後、表面の水滴がなくなるまで15?30分程度乾燥させ、再び吸光度を測定し、水浴前後のAbs積算値からAbs変化率(以下の式)を紫外線防御能向上効果として算出した。
紫外線防御能向上効果:
Abs変化率(%)=(水浴後のAbs積算値)/(水浴前のAbs積算値)×100
本発明においては、前記Abs変化率が100(%)を超えた場合に、紫外線防御効果が向上したものと定義する。」(本件明細書【0057】?【0058】) ]
4.べたつきのなさ及びさらさら感
5.のびの軽さ及び被膜感のなさ
[ 4、5の各評価基準:10名の専門パネル中、
A:良好であると評価したパネルが7名以上
B:良好であると評価したパネルが5?6名
C:良好であると評価したパネルが4名以下 ](本件明細書【0059】)
6.総合評価
[ 評価基準:
+++:Abs変化率が100(%)を超え、他の評価項目4つ全てが良好またはAである。
++:Abs変化率が100(%)を超え、他の評価項目中3つが良好またはAである。
+:Abs変化率が100(%)を超え、他の評価項目中1?2が良好またはAである。
-:Abs変化率が100(%)を超えない。 ](本件明細書【0060】)

【表1】


【表2】


(b) これら表1、表2の試験結果によれば、訂正発明1に係る化粧料の例である実施例1?9の組成の各化粧料が、そのいずれにおいても、
・原液中で粉末の沈降及び固化を生じることなく;
・エアゾール容器に充填した状態で12時間静置後に容器を振ることによる粉末の良好な再分散性を示す;
と共に、
・比較例1、2((B)+(C)]/[(G)]が「0.04以上0.68未満」であることの要件を満たさない)の各化粧料に比して、予想外の優れた紫外線防御効果をもたらす; 即ち、Sプレート(5×5cmのV溝PMMA板、SPFMASTER-PA01)へ滴下・塗布して乾燥した後の紫外線の吸光度(Abs)の変化率が、比較例1、2では100%未満(「84.8」%)であったのに対し、いずれも100%を超える吸光度をもたらす、;
ものであることが、具体的に示されているといえる。

即ち、これらの試験結果から、訂正発明1は、成分(A)?(F)を含有しつつ、[(B)+(C)]/[(G)]を「0.04以上0.68未満」とし、かつ、上記相違点1及び2に係る要件を併せ具備してなる噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料とすることにより、それら実施例1?9に係る化粧料について上記表1、表2のデータに示されるとおり、
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
という、当業者が予測し得ない優れた噴霧型油中水系乳化日焼け止め化粧料を提供するものと理解できる。

イ3)小括
上記イ1)?イ2)での検討のとおりであるから、訂正発明1は、刊行物1の記載に基づくことにより、また、刊行物1の記載とそれ以外の引用刊行物2?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組み合わせに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

イ4)(a) なお、特許権者は、取消理由通知書に対する訂正請求書と同日付けで提出された意見書(以下、単に「意見書」ということがある)において、2つの試験結果の表を提示している。

(意見書14頁)


(意見書16頁)


(b) これら2つの表で示される試験結果(試験例1?18)は、訂正発明1に係る化粧料の例であって上記実施例1?9と一部組成の異なるものも、上記イ2)で実施例1?9について述べたのと同様の、本件明細書記載の優れた効果をもたらすことを示すものである。
意見書14頁の表では、(C)相当成分として、本件明細書表1、表2で用いられているパルミチン酸デキストリンと同等の成分として本件明細書【0024】?【0026】に例示されている、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、ステアリン酸マグネシウムを用いた場合も、上記イ2)で述べた本件明細書の表1、表2の実施例の化粧料と同等の優れた効果をもたらすことを示すものである。
また、同16頁の表では、[(B)+(C)]/[(G)]が「0.724」であって訂正発明1の「0.04以上0.68未満」の要件を満たさないもの(「比較試験例1」)は、その他の訂正発明1規定の要件を全て満たしていても、Abs変化率に実質的な増加は認められない(「100.1」%)、即ち、紫外線防御効果の向上がみられないことが示されている。したがって、それら「比較試験例1」及び「試験例1」?「試験例18」の各Abs変化率に係る試験結果は、上記イ2)の本件明細書表1、表2の試験結果と同様に、[(B)+(C)]/[G]を「0.04以上0.68未満」とすることの技術的意義に係る、本件特許明細書の
「 【0045】 ・・・当該比率が0.04未満又は0.68以上では、水分との接触による紫外線防御効果の向上がみられなくなる。」
との記載に、本件特許出願時から具体的かつ合理的な裏付けが確かに存在していたことを示すものである。

(ii-2)訂正発明2?8について
訂正発明2?8は、いずれも訂正発明1を直接又は間接的に引用してなる従属発明であるから、訂正発明1について(i)で述べたのと同様の相違点1及び2に係る発明特定事項を併せ具備するものである。
よって、訂正発明2?8についてはいずれも、上記相違点1及び2以外の相違点の有無ならびに当該相違点の容易想到性等について検討するまでもなく、訂正発明1について(ii-1)で述べたのと同様の理由により、刊行物1の記載に基づくことにより、また、刊行物1の記載とそれ以外の引用刊行物2?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(2-2)取消理由1-2(刊行物2を主引例とする取消理由)について

(i)刊行物2に記載された発明
(1)(ii)の摘示事項2a?2gを踏まえた摘示事項2hの記載によれば、刊行物2には、
「 次の成分(a)、(b);
(a)下記一般式(1)及び/又は(2)で示される長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン
R^(1)_(a)R^(2)_(b)R^(3)_(c)SiO_((4-a-b-c)/2) …(1)
〔式中、R^(1)は同一又は異なってもよく、炭素数1?10のアルキル基、水素原子、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基を示し、R^(2)は-CmH2m-O-(C_(2)H_(4)O)_(d)-(C_(3)H_(6)O)_(e)-R^(4)で示される基(式中、mは1?5の整数、d、eは0以上の整数、且つ、d+e≧1?200であり、R^(4)は水素原子若しくは炭素数1?5の一価炭化水素基又はR^(5)-(CO)-で示される有機基、R^(5)は炭素数1?5の一価炭化水素基)であり、R^(3)は炭素数10?30の一価炭化水素基であり、a、b、cはそれぞれ1.0≦a≦2.5、0.001≦b≦1.5、0.001≦c≦1.5である。〕
R^(6)_(f)R^(7)_(g)R^(8)_(h)SiO_((4-f-g-h)/2) …(2)
〔式中、R^(6)は同一又は異なってもよく、炭素数1?10のアルキル基、水素原子、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基を示し、R^(7)は-C_(n)H_(2n)-O-(C_(2)H_(4)O)_(i)-(C_(3)H_(6)O)_(j)-R^(9)で示される基(式中、nは1?5の整数、i、jは0以上の整数、且つ、i+j≧1?200であり、R^(9)は水素原子若しくは炭素数1?5の一価炭化水素基又はR^(10)-(CO)-で示される有機基、R^(10)は炭素数1?5の一価炭化水素基)であり、R^(8)は-C_(p)H2_(p)-O-(C_(2)H_(4)O)_(k)-(C_(3)H_(6)O)_(l)-R^(11)(式中、pは1?5の整数、k、lは0以上の整数、且つ、200≧f+g>0であり、R11は炭素数10?30一価炭化水素基)であり、f、g、hはそれぞれ1.0≦f≦2.5、0.001≦g≦1.5、0.001≦h≦1.5である。〕
(b)部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体
及び、更に 成分(c):煙霧状疎水化シリカ 及び成分(d):有機変性粘土鉱物 を含有し、25℃での粘度値が25000cP以下である油中水型化粧料
であって、以下の成分組成:
(処 方) (重量%)
1.デカメチルシクロペンタシロキサン 25
2.ジメチルポリシロキサン 3
3.部分架橋型オルガノポリシロキサン重合体 0.15
4.長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン
変性オルガノポリシロキサン(注2) 2.5
5.ジグリセリンイソパルミチン酸エステル
セバシン酸混合物 5
6.モノオレイン酸ソルビタン 0.5
7.有機変性ベントナイト(注6) 2
8.ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 8
9.庶糖脂肪酸エステル 0.5
10.トリメチルシロキシケイ酸 1
11.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理微粒子酸化チタン(注10) 5
12.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理微粒子酸化亜鉛(注10) 3
13.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理セリサイト(注10) 5
14.パーフルオロポリエーテル
リン酸エステル処理球状ナイロン粉末(注10) 3
15.蒸留水 残部
16.アルキル変性カルボキシビニルポリマー 0.1
17.防腐剤 適量
18.美容成分 適量
※注2:アビルEM-90(ゴールドシュミット社製)
※注6:ベントン38(NLインダストリー社製)
※注10:特開平8-133928記載のパーフルオロポリエーテルリン酸エステル化合物を粉体に対して5%処理したもの。
の、油中水型乳化日焼け止め化粧料 」
の発明(以下、「引用発明2」ということがある)が記載されているものと認められる。

(ii)対比・判断
(ii-1)訂正発明1について
新規性について
訂正発明1と引用発明2とを対比する。
ア1) 引用発明2における
・成分11:パーフルオロポリエーテルリン酸エステル処理微粒子酸化チタン(5%)
・成分12:パーフルオロポリエーテルリン酸エステル処理微粒子酸化亜鉛(3%)
中の微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛は、(2-1)(ii)(ii-1)ア1)で述べたとおり、いずれも紫外線散乱剤であるものの紫外線吸収剤としての性質も併せ持つものであるから、訂正発明1における「(A)成分」即ち「紫外線吸収剤」に相当するものともいえ;
それら成分11及び成分12は、その合計量が8%であるから、これら2成分は、訂正発明1における「(A)6?40質量%の紫外線吸収剤」に相当し;
ア2) 引用発明2における
・成分7:有機変性ベントナイト(ベントン38(NLインダストリー社製))(2%)
は、本件明細書の【0022】で「成分(B)」の例として挙げられている「ベントン38」であるから、訂正発明1における「(B)有機変性粘土鉱物」に相当し;
ア3) 引用発明2における
・成分9:庶糖脂肪酸エステル(0.5%)
は、訂正発明1の(C)成分の選択肢中の「ショ糖脂肪酸エステル」であるから、訂正発明1における(C)成分の「油相増粘剤」に相当し;
ア4) 引用発明2における
・成分4:長鎖アルキル含有ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン(アビルEM-90(ゴールドシュミット社製))(2.5%)
は、本件明細書の【0032】で訂正発明1の「(D)成分」の例として挙げられている「ABIL EM90(・・・、Evonik Goldschmidt社製)」であるから、訂正発明1における「(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤」に相当し;
ア5) 引用発明2における
・成分14:パーフルオロポリエーテルリン酸エステル処理球状ナイロン粉末(3%)
は、訂正発明1における「(E)球状樹脂粉末」に相当し;
ア6) 引用発明2における
・成分1:デカメチルシクロペンタシロキサン(25%)
は、本件明細書の【0041】で訂正発明1の「成分(F)」の例として挙げられている「揮発性シクロメチコン」(本件明細書【0040】の「デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)」に相当)であるから、訂正発明1における「(F)揮発性シリコーン油」に相当し;
ア7) 引用発明2における
・成分5:ジグリセリンイソパルミチン酸エステルセバシン酸混合物(5%)
は、訂正発明1における「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」に相当し;
かつ、
ア8) 引用発明2において、
[ア2)の成分7とア3)の成分9との合計量]/[ア7)の成分5の合計量]
は、
[2+0.5]/[5]=2.5/5=0.5
であるから、訂正発明1の「[(B)+(C)]/[(G)]が「0.04以上0.68未満である」に相当する。
ア9) また、引用発明2は、他にも種々の成分を含むものであるが、訂正発明1は、(A)?(G)成分を含有することの規定はあるものの、他の成分が含まれることを排除するものではないから、当該種々の成分が引用発明2に含まれていることは、訂正発明1と引用発明2との相違点にはならない。

そうすると、両者は、
「 (A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤、
(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有し、
[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、油中水型乳化日焼け止め化粧料。 」
の点で一致するが、
<1’> 訂正発明1が「紫外線散乱剤を含まない」ものであるのに対し、引用発明2は紫外線散乱剤である 成分11:パーフルオロポリエーテルリン酸エステル処理微粒子酸化チタン(5%) 及び 成分12:パーフルオロポリエーテルリン酸エステル処理微粒子酸化亜鉛(3%) を含む点
<2’> 訂正発明1が「噴霧型」のものであるのに対し、引用発明2ではそのような限定はない点
(以下、順に、相違点1’、相違点2’ということがある)において、相違する。

これらの相違点により、訂正発明1と引用発明2は相違し、したがって、訂正発明1は、刊行物2に記載された発明ではない。

進歩性について

イ1) 相違点1’及び2’に係る要件の容易想到性について

(a) 刊行物2には、引用発明2の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤を取り除くことも、また、紫外線散乱剤に代えて紫外線散乱剤ではない紫外線吸収剤を配合することについても、記載も示唆もされていない。また、そのような紫外線散乱剤を含まないものとした上で噴霧型とすることの記載も示唆も見出せない。
そして、そのような紫外線散乱剤を含まない噴霧型の化粧料とすることで、上述の(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供し得ることについての記載乃至示唆を、刊行物2中に見出すことはできない。この点、他の引用刊行物1、3?8やそれら以外の甲第5?7、11?13号証の記載を併せ参酌しても同様である。
以下、(b)で詳述する。

(b)b1) 上のア1)でも述べたとおり、引用発明2における
・成分11:パーフルオロポリエーテルリン酸エステル処理微粒子酸化チタン(5%)
・成分12:パーフルオロポリエーテルリン酸エステル処理微粒子酸化亜鉛(3%)
は、いずれも紫外線散乱剤であるところ、刊行物2には、引用発明2においてそれら成分11及び12を取り除くことも、また、成分11及び12に代えて紫外線散乱剤に該当しない紫外線吸収剤を配合することについても、記載も示唆もされていない。

「紫外線散乱剤を含まない」ものとすることに関し、刊行物3には、同刊行物に係る油中水型乳化日焼け止め化粧料(摘示事項3a)について、きしみ感や白浮き等の使用感の観点から紫外線散乱剤の配合量は好ましくは5質量%以下、最も好ましくは含まないようにすることの記載(摘示事項3b,3d)がみられる。
しかしながら、かかる刊行物3の記載は、引用発明2に係る特定の組成の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤を取り除くことを動機付けるものではない。
また、刊行物3には、上記成分11、12のような紫外線散乱剤を含まないものとすることで、上述の(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供することについての記載も示唆も認められない。

b2) また、刊行物1には、引用発明1の化粧料を噴霧型として使用することについての記載乃至示唆も認めることはできない。

「噴霧型」の化粧料とすることに関し、刊行物7には、同刊行物のゲル化剤配合化粧料(摘示事項7a)について、(2-1)(ii)(ii-1)イ1)b2)で摘示した用途及び形態の列挙記載がある(摘示事項7b、7c)が、これらの記載は、当該ゲル化剤配合化粧料が採り得る様々な化粧料としての用途、形態として挙げられているにとどまり、特に引用発明2に係る特定の成分組成の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤である成分11及び12を取り除き、かつそれを噴霧型とすることの動機付けとなるものではない。この点、他の引用刊行物1、3?6、8や甲第5?7、11?13号証にも、引用発明2の日焼け止め化粧料から紫外線散乱剤を取り除いて噴霧型とすること等を動機付けるような記載はないから、これらの刊行物及び証拠の記載を併せ参照しても同様である。

(c) したがって、引用発明2において、さらに上記相違点1’及び2’に係る要件を併せ具備せしめることが、刊行物2の記載に基づくことにより、もしくは、刊行物2の記載とそれ以外の引用刊行物1、3?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組み合わせに基づくことにより、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

イ2)訂正発明の効果について
そして、訂正発明1は、成分(A)?(F)を含有しつつ、[(B)+(C)]/[(G)]を「0.04以上0.68未満」とし、かつ、上記相違点1’及び2’に係る要件を併せ具備してなる噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料とすることにより、(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
のとおりの、当業者が予測し得ない本件明細書に記載された優れた効果をもたらす噴霧型油中水系乳化日焼け止め化粧料を提供するものである。

イ3)小括
上記イ1)?イ2)での検討のとおりであるから、訂正発明1は、刊行物2の記載に基づくことにより、また、刊行物2の記載とそれ以外の引用刊行物1、3?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(ii-2)訂正発明2?8について
訂正発明2?8は、いずれも訂正発明1を直接又は間接的に引用してなる従属発明であるから、訂正発明1について(i)で述べたのと同様の相違点1’及び2’に係る発明特定事項を併せ具備するものである。
よって、訂正発明2?8についてはいずれも、上記相違点1’及び2’以外の相違点の有無ならびに当該相違点の容易想到性等について検討するまでもなく、訂正発明1について(ii-1)で述べたのと同様の理由により、刊行物2の記載に基づくことにより、また、刊行物2の記載とそれ以外の引用刊行物1、3?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(2-3)取消理由1-3(刊行物3を主引例とする取消理由)について

(i)刊行物3に記載された発明
(1)(iii)の摘示事項3a?3fを踏まえた摘示事項3gの記載によれば、刊行物3には、
「 35?75質量%の油相を含み、前記油相が油相全量に対して10?50質量%の紫外線吸収剤及び20?60質量%の揮発性油分を含み、さらに、デキストリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルを化粧料全量に対して0.5?2質量%含有することを特徴とする油中水型乳化日焼け止め化粧料 であって、以下の成分組成:
(成分) 配合量(質量%)
オクチルメトキシシンナメート(Parsol MCX(DSM社)) 7
ジメチルポリシロキサン(1.5cs) 3
環状アルキルポリシロキサン(DC246Fluid(東レ・ダウコーニング))
20
トリメチルシロキシケイ酸 3
パルミチン酸デキストリン(レオパールKL (千葉製粉)) 0.5
2-エチルヘキサン酸セチル 5
スクワラン 1
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 2
ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン 1
シリコーン樹脂粉末 5
タルク 2
球状ナイロン粉末 1
エデト酸塩 適量
グリセリン 1
1,3-ブチレングリコール 5
油溶性甘草エキス 0.5
パラベン 適量
フェノキシエタノール 適量
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 0.8
一般アルコール95度合成 6
イオン交換水 残余
の、油中水型乳化日焼け止め化粧料(サンスクリーン) 」
の発明(以下、「引用発明3」ということがある)が記載されているものと認められる。

(ii)対比・判断

(ii-1)訂正発明1について

新規性について
訂正発明1と引用発明3とを対比する。
ア1) 引用発明3における
・オクチルメトキシシンナメート(Parsol MCX(DSM社))(7%)
は、油溶性の紫外線吸収剤であって(刊行物3の摘示事項3c)、本件明細書の【0015】で訂正発明の「(A)成分」の例として挙げられている「オクチルメトキシシンナメート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)」であるから、訂正発明1における「成分(A)」即ち「紫外線吸収剤」に相当し;
また、引用発明3における
・ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%)
は、これに含まれる酸化チタンは(2-1)(ii)(ii-1)ア1)で刊行物5の摘示事項5c等を引用して示したとおり、紫外線散乱剤であるものの紫外線吸収剤としての性質も併せ持つ成分であるから、訂正発明1における「成分(A)」即ち「紫外線吸収剤」に相当するものともいえ;
そして、引用発明3の上記オクチルメトキシシンナメート及びステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタンの合計量は8%であるから、これら2成分は、訂正発明1における「(A)6?40質量%の紫外線吸収剤」に相当し;
ア2) 引用発明3における
・ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト(0.8%)
は、訂正発明1における「(B)有機変性粘土鉱物」に相当し;
ア3) 引用発明3における
・パルミチン酸デキストリン(レオパールKL (千葉製粉))(0.5%)
は、本件明細書の【0024】で訂正発明1の成分(C)の選択肢中の「デキストリン脂肪酸エステル」の例として挙げられている「パルミチン酸デキストリン」であるから、訂正発明1における(C)成分の「油相増粘剤」に相当し;
ア4) 引用発明3における
・ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(2%)
は、本件明細書の【0029】?【0030】で「(D)成分」の例として挙げられているポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤に相当し;
ア5) 引用発明3における
・球状ナイロン粉末(1%)、
・シリコーン樹脂粉末(5%)
は、この順に、本件明細書の【0036】?【0038】で「(E)成分」の例として挙げられている「球状有機樹脂粉末」、「球状シリコーン粉末」であって、いずれも訂正発明1における「(E)球状樹脂粉末」に相当し;
ア6) 引用発明3における
・ジメチルポリシロキサン(1.5cs)(3%)、
・環状アルキルポリシロキサン(DC246Fluid(東レ・ダウコーニング))(20%)
は、この順に、本件明細書の【0040】?【0041】で「(F)成分」の例として挙げられている「揮発性の直鎖状シリコーン油(揮発性ジメチコン)」、「揮発性の環状シリコーン油(揮発性シクロジメチコン)」であって、いずれも訂正発明1における「(F)揮発性シリコーン油」に相当し;
ア7) 引用発明3における
・2-エチルヘキサン酸セチル(5%)、
・スクワラン(1%)
は、この順に、本件明細書の【0044】で「(G)成分に含まれるが、(A)紫外線吸収剤には該当しない不揮発性液状油分」の例として挙げられている「オクタン酸セチル等のオクタン酸エステル」、「スクワラン等の炭化水素油」であって、いずれも訂正発明1における「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」に相当し;
また、ア1)の引用発明3における
・オクチルメトキシシンナメート(Parsol MCX(DSM社))(7%)
は、油溶性の紫外線吸収剤であって(刊行物3の摘示事項3c)、本件明細書の【0043】にいう「(A)成分に該当する油溶性の紫外線吸収剤」であるから、訂正発明1において「成分(A)」に相当すると共に「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」にも相当し;
かつ、
ア8) 引用発明3における
[ア2)の成分と(ア3)の成分の合計量]/[ア7)の成分の合計量]
は、
[0.8+0.5]/[5+1+7]=0.1
であるから、訂正発明1の[(B)+(C)]/[(G)]が「0.04以上0.68未満である」に相当する。
ア9) また、引用発明3は、他にも種々の成分を含むものであるが、訂正発明1は、(A)?(G)成分を含有することの規定はあるものの、他の成分が含まれることを排除するものではないから、当該種々の成分が引用発明3に含まれていることは、訂正発明1と引用発明3との相違点にはならない。

そうすると、両者は、
「 (A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤、
(D)’ポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有し、
[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、油中水型乳化日焼け止め化粧料」
の点で一致するが、
<1’’> 訂正発明1が「紫外線散乱剤を含まない」ものであるのに対し、引用発明3は紫外線散乱剤である ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%) を含む点
<2’’> 訂正発明1が「噴霧型」のものであるのに対し、引用発明1ではそのような限定はない点
<3’’> 「ポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤」について、訂正発明1が「HLBが8未満」であるのに対し、引用発明1ではそのようなHLBに関する限定はない点
(以下、順に、「相違点1’’」、「相違点2’’」、「相違点3’’」ということがある)において、相違する。

これらの相違点により、訂正発明1と引用発明3は相違し、したがって、訂正発明1は、刊行物3に記載された発明ではない。

進歩性について

イ1) 相違点1’’及び2’’に係る要件の容易想到性について

(a) 刊行物3には、引用発明3の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤を取り除くこと、もしくは、紫外線散乱剤に代えて紫外線散乱剤ではない紫外線吸収剤を配合することについての具体的な記載乃至示唆はない。また、そのような紫外線散乱剤を含まないものとした上で噴霧型とすることの記載も示唆も見出せない。
そして、そのような紫外線散乱剤を含まない噴霧型の化粧料とすることで、上述の(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供し得ることについての記載乃至示唆を、刊行物3中に見出すことはできない。この点、他の引用刊行物1、2、4?8やそれら以外の甲第5?7、11?13号証の記載を併せ参酌しても同様である。
以下、(b)で詳述する。

(b)b1) 上のア1)でも述べたとおり、引用発明3における
・ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%)
は紫外線散乱剤であるところ、刊行物3には、引用発明3における紫外線吸収剤相当成分である オクチルメトキシシンナメート(Parsol MCX(DSM社))(7%)、及びステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%) の中から、特にステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%)を取り除くことも、また、ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%)に代えて紫外線散乱剤に該当しない紫外線吸収剤を配合することについても、具体的な記載も示唆はない。

「紫外線散乱剤を含まない」ものとすることに関し、刊行物3には、引用発明3を含む同刊行物に係る油中水型乳化日焼け止め化粧料(摘示事項3a)について、きしみ感や白浮き等の使用感の観点から紫外線散乱剤の配合量は好ましくは5質量%以下、最も好ましくは含まないようにすることの記載(摘示事項3b,3d)がみられる。
しかしながら、かかる刊行物3の記載は、引用発明3に係る特定の組成の日焼け止め化粧料において上記ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%)を取り除くことを具体的に示唆するものではない。
そして、刊行物3には、当該ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%)を含まないものとすることで、上述の(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供することについての記載も示唆も認められない。

b2) また、刊行物3には、引用発明3の日焼け止め化粧料を噴霧型として使用することについての記載乃至示唆も認めることはできない。

「噴霧型」の化粧料とすることに関し、刊行物7には、同刊行物のゲル化剤配合化粧料(摘示事項7a)について、(2-1)(ii)(ii-1)イ1)b2)で摘示した用途及び形態の列挙記載がある(摘示事項7b、7c)が、これらの記載は、当該ゲル化剤配合化粧料が採り得る様々な化粧料としての用途、形態として挙げられているにとどまり、特に引用発明3に係る特定の成分組成の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤であるステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1%)を取り除き、かつそれを噴霧型とすることの動機付けとなるものではない。この点、他の引用刊行物1、2、4?6、8や甲第5?7、11?13号証にも、引用発明3の日焼け止め化粧料から紫外線散乱剤を取り除いて噴霧型とすること等を動機付けるような記載はないから、これらの刊行物及び証拠の記載を併せ参照しても同様である。

(c) したがって、相違点3’’について検討するまでもなく、引用発明3においてさらに上記相違点1’’及び2’’に係る要件を併せ具備せしめることが、刊行物3の記載に基づくことにより、もしくは、刊行物3の記載とそれ以外の引用刊行物1、2、4?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組み合わせに基づくことにより、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

イ2)訂正発明の効果について
そして、訂正発明1は、成分(A)?(F)を含有しつつ、[(B)+(C)]/[(G)]を「0.04以上0.68未満」とし、かつ、上記相違点1’’?3’’に係る要件を併せ具備してなる噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料とすることにより、(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
のとおりの、当業者が予測し得ない本件明細書に記載された優れた効果をもたらす噴霧型油中水系乳化日焼け止め化粧料を提供するものである。

イ3)小括
上記イ1)?イ2)での検討のとおりであるから、訂正発明1は、刊行物3の記載に基づくことにより、また、刊行物3の記載とそれ以外の引用刊行物1、2、4?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(ii-2)訂正発明2?8について
訂正発明2?8は、いずれも訂正発明1を直接又は間接的に引用してなる従属発明であるから、訂正発明1について(i)で述べたのと同様の相違点1’’?3’’に係る発明特定事項を併せ具備するものである。
よって、訂正発明2?8についてはいずれも、上記相違点1’’及び2’’以外の相違点の有無ならびに当該相違点の容易想到性等について検討するまでもなく、訂正発明1について(ii-1)で述べたのと同様の理由により、刊行物3の記載に基づくことにより、また、刊行物3の記載とそれ以外の引用刊行物1、2、4?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。


(2-4)取消理由1-4(刊行物4を主引例とする取消理由)について

(i)刊行物4に記載された発明
(1)(iv)の摘示事項4a?4cを踏まえた摘示事項4dの記載によれば、刊行物4には、
「 フェニルベンズイミダゾールスルホン酸と、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオ-ルおよび/または2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールと、オクチルメトキシシンナメートとを含むことを特徴とする油中水型日焼け止め化粧料 であって、以下の成分組成:
(分類) (原料名) (質量部)
油溶性紫外線吸収剤 オクチルメトキシシンナメート 7
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル
安息香酸ヘキシル 0.5
ビスエチルヘキシルオキシフェノール
メトキシフェニルトリアジン 1
水溶性紫外線吸収剤 フェニルベンズイミダゾールスルホン酸 3
油分 ジメチルポリシロキサン 1.5cs 3
環状アルキルポリシロキサン 15
2-エチルヘキサン酸セチル 5
C12?15アルキルベンゾエート 5
スクワラン 1
皮膜剤 トリメチルシロキシケイ酸 3
パルミチン酸デキストリン 0.5
界面活性剤 ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン
共重合体 2
増粘剤 ジメチルジステアリルアンモニウム
ヘクトライト 0.8
紫外線散乱剤 ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン 1
粉末 シリコーン樹脂粉末 5
タルク 2
球状ナイロン粉末 1
水 イオン交換水 残余
中和剤 2-アミノ-2-メチル-1,3-
プロパンジオール 1.2
キレート剤 エデト酸塩 適量
保湿剤 グリセリン 1
1,3-ブチレングリコール 5
薬剤 油溶性甘草エキス 0.5
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
防腐剤 パラベン 適量
フェノキシエタノール 適量
アルコール エタノール 6
の、油中水型乳化日焼け止め化粧料 」
の発明(以下、「引用発明4」ということがある)が記載されているものと認められる。

(ii)対比・判断

(ii-1)訂正発明1について
新規性について
訂正発明1と引用発明4とを対比する。
ア1) 引例発明4において「油溶性紫外線吸収剤」として配合されている
・オクチルメトキシシンナメート(7部)、
・ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(0.5部)、
・ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキリフェニルトリアジン(1部)、
ならびに、「水溶性紫外線吸収剤」に分類されている
・フェニルベンズイミダゾールスルホン酸(3部)
は、いずれも訂正発明1における「(A)紫外線吸収剤」に相当し;
また、「紫外線散乱剤」として配合されている
・ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1部)
は、これに含まれる酸化チタンは(2-1)(ii)(ii-1)ア1)で刊行物5の摘示事項5c等を引用して示したとおり、紫外線散乱剤であるものの紫外線吸収剤としての性質も併せ持つ成分であるから、訂正発明1における「成分(A)」即ち「紫外線吸収剤」に相当するものともいえ;
そして、引用発明4の上記オクチルメトキシシンナメート(7部)、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(0.5部)、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(1部)、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸(3部)、及びステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1部)の合計量は12.5部、即ち12.5%であるから、これらは訂正発明1における「(A)6?40質量%の紫外線吸収剤」に相当し;
ア2) 引用発明4において「増粘剤」として配合されている
・ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト(0.8部)
は、第4級アンモニウム塩型カチオン変性粘土鉱物であって刊行物4【0033】(摘示事項4c)にいう有機変性粘土鉱物であるから、訂正発明1における「(B)有機変性粘土鉱物」に相当し;
ア3) 引用発明4において「皮膜剤」として配合されている
・パルミチン酸デキストリン(0.5部)
は、本件明細書の【0024】で訂正発明1の成分(C)の選択肢中の「デキストリン脂肪酸エステル」の例として挙げられている「パルミチン酸デキストリン」であるから、訂正発明1における(C)成分の「油相増粘剤」に相当し;
ア4) 引用発明4において「界面活性剤」として配合されている
・ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(2部)
は、本件明細書の【0029】?【0030】で「(D)成分」の例として挙げられているポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤に相当し;
ア5) 引用発明4において「粉末」として配合されている
・シリコーン樹脂粉末(5部)、
・球状ナイロン粉末(1部)
は、この順に、本件明細書の【0036】?【0038】で「(E)成分」の例として挙げられている「球状シリコーン粉末」、「球状有機樹脂粉末」であって、いずれも訂正発明1における「(E)球状樹脂粉末」に相当し;
ア6) 引用発明4において「油分」として配合されている成分のうち
・ジメチルポリシロキサン 1.5cs(3部)、
・環状アルキルポリシロキサン(15部)
は、この順に、本件明細書の【0040】?【0041】で「(F)成分」の例として挙げられている「揮発性の直鎖状シリコーン油(揮発性ジメチコン)」、「揮発性の環状シリコーン油(揮発性シクロジメチコン)」であって、いずれも訂正発明1における「(F)揮発性シリコーン油」に相当し;
ア7) 引用発明4において「油分」として配合されている成分のうち
・2-エチルヘキサン酸セチル(5部)、
・C12?15アルキルベンゾエート(5部)、
・スクワラン(1部)
はいずれも訂正発明1における「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」に相当し;
また、ア1)の「油溶性紫外線吸収剤」として配合されている成分のうちオクチルメトキシシンナメート(7部)は、本件明細書の【0043】にいう「(A)成分に該当する油溶性の紫外線吸収剤」であるから、訂正発明1において「成分(A)」に相当すると共に「(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分」にも相当し;
かつ、
ア8) 引用発明4において、[2)と3)の成分の合計量]/[7)の成分の合計量]は、[0.8+0.5]/[5+5+1+7]=0.07であるから、訂正発明1の[(B)+(C)]/[(G)]が「0.04以上0.68未満である」に相当する。
ア9) また、引用発明4は、他にも種々の成分を含むものであるが、訂正発明1は、(A)?(G)成分を含有することの規定はあるものの、他の成分が含まれることを排除するものではないから、当該種々の成分が引用発明4に含まれていることは、訂正発明1と引用発明4との相違点にはならない。

そうすると、両者は、
「 (A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤、
(D)’ポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有し、
[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、油中水型乳化日焼け止め化粧料」
の点で一致するが、
<1’’’> 訂正発明1が「紫外線散乱剤を含まない」ものであるのに対し、引用発明4は紫外線散乱剤である ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1部) を含む点
<2’’’> 訂正発明1が「噴霧型」のものであるのに対し、引用発明4ではそのような限定はない点
<3’’’> 「ポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤」について、訂正発明1が「HLBが8未満」であるのに対し、引用発明4ではそのようなHLBに関する限定はない点
(以下、順に、「相違点1’’’」、「相違点2’’’」、「相違点3’’’」ということがある)において、相違する。

これらの相違点により、訂正発明1と引用発明4は相違し、したがって、訂正発明1は、刊行物4に記載された発明ではない。

進歩性について

イ1) 相違点1’’’及び2’’’に係る要件の容易想到性について

(a) 刊行物4には、引用発明4の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤を取り除くことも、また、紫外線散乱剤に代えて紫外線散乱剤ではない紫外線吸収剤を配合することについても、記載も示唆もされていない。また、そのような紫外線散乱剤を含まないものとした上で噴霧型とすることの記載も示唆も見出せない。
そして、そのような紫外線散乱剤を含まない噴霧型の化粧料とすることで、上述の(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供し得ることについての記載乃至示唆を、刊行物4中に見出すことはできない。この点、他の引用刊行物1?3、5?8やそれら以外の甲第5?7、11?13号証の記載を併せ参酌しても同様である。
以下、(b)で詳述する。

(b)b1) 上のア1)でも述べたとおり、引用発明4における
・ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1質量部)
は紫外線散乱剤であるところ、刊行物4には、引用発明4における紫外線吸収剤相当成分である オクチルメトキシシンナメート(7質量部)、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(0.5質量部)、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキリフェニルトリアジン(1質量部)、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸(質量3部)及びステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1質量部) の中から、特にステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1質量部)を取り除くことも、また、ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1質量部)に代えて紫外線散乱剤に該当しない紫外線吸収剤を配合することについても、記載も示唆もされていない。

「紫外線散乱剤を含まない」ものとすることに関し、刊行物3には、同刊行物に係る油中水型乳化日焼け止め化粧料(摘示事項3a)について、きしみ感や白浮き等の使用感の観点から紫外線散乱剤の配合量は好ましくは5質量%以下、最も好ましくは含まないようにすることの記載(摘示事項3b,3d)がみられる。
しかしながら、かかる刊行物3の記載は、引用発明4に係る特定の組成の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤を取り除くことを動機付けるものではない。
また、刊行物3には、上記ステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1質量部)のような紫外線散乱剤を含まないものとすることで、上述の(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
といった優れた日焼け止め化粧料を提供することについての記載も示唆も認められない。

b2) また、刊行物4には、引用発明4の化粧料を噴霧型として使用することについての記載乃至示唆も認めることはできない。

「噴霧型」の化粧料とすることに関し、刊行物7には、同刊行物のゲル化剤配合化粧料(摘示事項7a)について、(2-1)(ii)(ii-1)イ1)b2)で摘示した用途及び形態の列挙記載がある(摘示事項7b、7c)が、これらの記載は、当該ゲル化剤配合化粧料が採り得る様々な化粧料としての用途、形態として挙げられているにとどまり、特に引用発明4に係る特定の成分組成の日焼け止め化粧料において、紫外線散乱剤であるステアリン酸アルミニウム被覆酸化チタン(1質量部)を取り除き、かつそれを噴霧型とすることの動機付けとなるものではない。この点、他の引用刊行物1?3、5、6、8や甲第5?7、11?13号証にも、引用発明4の日焼け止め化粧料から紫外線散乱剤を取り除いて噴霧型とすること等を動機付けるような記載はないから、これらの刊行物及び証拠の記載を併せ参照しても同様である。

(c) したがって、相違点3’’’について検討するまでもなく、引用発明4においてさらに上記相違点1’’’及び2’’’に係る要件を併せ具備せしめることが、刊行物4の記載に基づくことにより、もしくは、刊行物4の記載とそれ以外の引用刊行物1?3、5?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組み合わせに基づくことにより、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

イ2)訂正発明の効果について
そして、訂正発明1は、成分(A)?(F)を含有しつつ、[(B)+(C)]/[(G)]を「0.04以上0.68未満」とし、かつ、上記相違点1’’’?3’’’に係る要件を併せ具備してなる噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料とすることにより、(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
のとおりの、当業者が予測し得ない本件明細書に記載された優れた効果をもたらす噴霧型油中水型乳化日焼け止め組成物を提供するものである。

イ3)小括
上記イ1)?イ2)での検討のとおりであるから、訂正発明1は、刊行物4の記載に基づくことにより、また、刊行物4の記載とそれ以外の引用刊行物1?3、5?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(ii-2)訂正発明2?8について
訂正発明2?8は、いずれも訂正発明1を直接又は間接的に引用してなる従属発明であるから、訂正発明1について(i)で述べたのと同様の相違点1’’’?3’’’に係る発明特定事項を併せ具備するものである。
よって、訂正発明2?8についてはいずれも、上記相違点1’’’及び2’’’以外の相違点の有無ならびに当該相違点の容易想到性等について検討するまでもなく、訂正発明1について(ii-1)で述べたのと同様の理由により、刊行物4の記載に基づくことにより、また、刊行物4の記載とそれ以外の引用刊行物1?3、5?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(3)取消理由3を含むサポート要件、ならびに取消理由4について

以下の(3-1)?(3-2)では、まず訂正発明における取消理由4について判断を示し((3-1))、その後、取消理由通知書で指摘した点を含め訂正発明におけるサポート要件について判断を示す((3-2))。
なお、サポート要件の判断については、一部取消理由通知書では通知していない異議申立理由に係るものも、本決定の判断をより理解しやすいものとするため、併せて示している。

(3-1)取消理由4について
(i) 上述のとおり、訂正発明1における(C)成分の「油相増粘剤」は、訂正前の
「(C)前記(B)以外の油相増粘剤」
から、
「(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤」
に訂正されている。
そして、訂正発明1に規定されるこれら「デキストリン脂肪酸エステル」、「ショ糖脂肪酸エステル」、及び「常温で固形の脂肪酸又はその塩」の3種の成分については、本件明細書の【0024】?【0026】に例示される成分を含め、それぞれに該当する化学構造を有する油相増粘剤成分として、当業者であればその範囲を明確に把握し得るものである。
(ii) また、、訂正発明1の(G)成分である「シリコーン油以外の不揮発性液状油分」については、本件明細書の【0043】で説明されているとおりの「常温(25℃)・常圧(1気圧(9.8×10^(4)Pa))で揮発性を示さず(例えば、常圧での沸点が約200℃以上の油分が含まれる)、常温・常圧で流動性を有し、固形でない液状の油分」を包含するものであって、この範囲に包含される成分は、同【0043】?【0044】に例示される成分を含め、当業者であればその範囲を明確に把握し得るものである。
さらに、上の(i)での(C)成分についての検討を併せ踏まえると、当該(C)成分と(G)成分との間の異同もまた、両者の各化学構造及び物性の対比から、当業者にとり明確に把握され得る範囲内の事項といえる。
(iii) そして、そうであれば、請求項1の「[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率」もまた、当業者により正確に算出し得る事項である。
(iv) したがって、訂正発明1は、その記載が明確でない、とはいえず、よって取消理由4については理由がない。
訂正発明1を直接又は間接的に引用する訂正発明2?8についても同様である。

(3-2)取消理由3を含むサポート要件について

(i) 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(ii)(ii-1) (i)の点を踏まえつつ、本件明細書の記載をみるに、本件明細書中には次の記載がある(下線は合議体による)。
『 【背景技術】
【0002】 紫外線の害から皮膚を守ることはスキンケア、ボディケアにおける重要な課題の一つであり、紫外線が皮膚に与える悪影響を最小限に抑えるために種々のUVケア化粧料が開発されている。UVケア化粧料の1種である日焼け止め化粧料(サンスクリーン化粧料)は、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤を配合することによりUVA及びUVBの皮膚への到達を遮り、紫外線の害から皮膚を保護する(非特許文献1)。
【0003】 日焼け止め化粧料として、容器に収容された乳液を手にとって皮膚に塗布する剤型のものや、皮膚に直接噴霧する剤型のもの等が知られており、各剤型に応じて様々な性能が要求される。例えば噴霧型の日焼け止め化粧料では、紫外線散乱剤等の粉末成分が凝集してノズルの詰まりを生じることを防止する必要がある。
【0004】 特許文献1には、エアゾールタイプの日焼け止め化粧料において、特定の親油性溶媒(エステル油)とアルコールと紫外線吸収剤とを含む油性液体に紫外線散乱剤等の無機酸化物粉体を分散させることにより、粉体の分散性を向上させたことが記載されている。しかしながら、乳液タイプの日焼け止め化粧料は手で塗りのばすために白さが緩和されるが、エアゾール等の噴霧型日焼け止め化粧料は皮膚に噴霧した後に塗りのばさないことが多いため、噴霧直後から透明であることが求められる。そのため、白さの原因となる紫外線散乱剤を配合しないのが好ましい。
【0005】 しかしながら、紫外線散乱剤を含まない日焼け止め化粧料において優れた紫外線防御効果(高SPF(Sun Protection Factor)及び高PA(Protection Grade of UVA))を得るためには、UVA及びUVB領域の紫外線吸収剤を多配合する必要があり、それら紫外線吸収剤を溶解するための油性溶媒(極性油等)の配合量も必然的に増加する結果、使用感が油っぽくなったり、べたついたりするという問題があった。
【0006】 特許文献2には、紫外線散乱剤等の粉末成分を実質的に含まず、紫外線吸収剤でUVAからUVB領域の紫外線を防御するスプレータイプの日焼け止め化粧料が開示されており、低級アルコールの配合量を80?85質量%とし、シリコーン及び水の配合量を約5質量%以下とすることにより、清涼感を持続し、きしみを生じさせない化粧料が得られることが記載されている。しかしながら、多量に配合されたアルコールで全ての紫外線吸収剤を溶解することは困難であり、経時的な紫外線吸収剤の析出といった問題が危惧される。
【0007】 一方、皮膚に塗布された日焼け止め化粧料が水や汗と接触すると、塗布した化粧料から紫外線吸収剤や紫外線散乱剤が流出し、紫外線防御効果が低下することが避けられない。例えば、化粧料に耐水性を付与するための樹脂や被膜剤を多配合しても、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤等の流出を完全に阻止することは難しかった。また、たとえ紫外線吸収剤等の流出を完全に阻止できた場合であっても、得られる紫外線防御効果は塗布直後を上回ることはないと考えられていた。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】 本発明は、白さの原因となる紫外線散乱剤を実質的に含まずに塗布/噴霧直後から透明で、優れた紫外線防御効果を有するとともに使用感も良好な噴霧型の日焼け止め化粧料であって、なおかつ水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せず逆に効果が向上するという従来にない革新的な特性を有する噴霧型日焼け止め化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】 本発明者等は、前記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、有機変性粘土鉱物及び油相増粘剤を、シリコーン油を除く不揮発性液状油分に対して所定の質量比となるように配合し、特定の粉末成分と揮発性油分を配合することにより、前記目的とする新規な特性を有する日焼け止め化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
(A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)前記(B)以外の油相増粘剤、
(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有し、
[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、
油中水型乳化日焼け止め化粧料を提供するものである。
本発明の日焼け止め化粧料はスプレー等で噴霧して使用するのに特に適している。
【発明の効果】
【0013】 本発明の日焼け止め化粧料は、紫外線散乱剤を実質的に含んでいないので、皮膚に噴霧した直後でも白くならず、紫外線吸収剤によって優れた紫外線防御効果を発揮する。一方、配合された粉末の分散性が改善され、粉末沈降や固化を起こさず、油っぽさやべたつきを感じさせずに軽くさらさらとした感触を与えることもできる。
さらに、本発明の日焼け止め化粧料は、水や汗等と接触した後の紫外線防御効果が、化粧料を肌に塗布した直後よりも顕著に向上する。即ち、本発明に係る油中水型乳化日焼け止め化粧料は、従来の日焼け止め化粧料において効果劣化の原因とされていた水分との接触により紫外線防御効果が向上するという、従来の常識とは逆の特性を有する革新的な日焼け止め化粧料である。 』

(ii-2) これらの(ii-1)で摘示した記載により、本件明細書から、次の事項1)、2)を把握することができる。
1) 本件特許出願前には次の(ア)?(オ):
・(ア) 「・・・噴霧型の日焼け止め化粧料では、紫外線散乱剤等の粉末成分が凝集してノズルのつまりを生じる・・・」(本件明細書【0003】);
・(イ) 「・・・噴霧型日焼け止め化粧料は皮膚に噴霧した後に塗り延ばさないことが多いため、噴霧直後から透明であることが求められる。そのため、白さの原因となる紫外線散乱剤を配合しないのが好ましい。」(同【0004】);
・(ウ) 「・・・紫外線散乱剤を含まない日焼け止め化粧料において優れた紫外線防御効果・・・及び高PA・・・を得るためには、UVA及びUVB領域の紫外線吸収剤を多配合する必要があり、それら・・・を溶解するための油性溶媒(極性油等)の配合量も必然的に増加する結果、使用感が油っぽくなったり、べたついたりする・・・」(同【0005】);
・(エ) 「・・・低級アルコールの配合量を80?85質量%とし、シリコーン及び水の配合量を約5質量%以下とすることにより、清涼感を持続し、きしみを生じさせない化粧料が得られる・・・しかしながら、多量に配合されたアルコールで全ての紫外線吸収剤を溶解することは困難であり、経時的な紫外線吸収剤の析出といった問題が危惧される。」(同【0006】);
・(オ) 「・・・塗布された日焼け止め化粧料が水や汗と接触すると・・・紫外線吸収剤や紫外線散乱剤が流出し、紫外線防御効果が低下することが避けられない。・・・たとえ紫外線吸収剤等の流出を完全に阻止できた場合であっても、得られる紫外線防御効果は塗布直後を上回ることはないと考えられていた。」(同【0007】);
といった技術背景が存在していたことに基づき、解決されるべき技術課題は、【0010】に記載されるとおりの
『 ・・・白さの原因となる紫外線散乱剤を実質的に含まずに塗布/噴霧直後から透明で、優れた紫外線防御効果を有するとともに使用感も良好な噴霧型の日焼け止め化粧料であって、なおかつ水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せず逆に効果が向上するという従来にない革新的な特性を有する噴霧型日焼け止め化粧料を提供すること』
にある。
2) そして、訂正発明1は、かかる技術課題の解決手段として、次の<1>?<3>:
<1> 「 (A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤、
(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油 を含有し」;
<2> 「 [(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である 」
<3> 「紫外線散乱剤を含まない、噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料」
の要件を併せ満たす、日焼け止め化粧料を提供するものである。

(iii) そこで、本件明細書の発明の詳細な説明から、訂正発明1における上述の(ii-2)2)の解決手段により同1)の技術課題を解決することができると当業者が認識し得るか否かについて、以下検討する。

ア.本件明細書には、訂正発明1中に規定される成分(A)?(F)に関し、
・成分(A)については、【0015】?【0017】において、
・成分(B)については【0018】?【0023】において、
・成分(C)については【0024】?【0027】において、
・成分(D)については、【0028】?【0035】において、
・成分(E)については、【0036】?【0038】において、
・成分(F)については、【0041】?【0042】において、
それぞれ該当する典型的な成分の例や好ましい化粧料全量中の配合割合を含めて説明されている。
[ 併せて、
・訂正発明7の成分(H):「(H)油溶性被膜剤」については【0046】?【0048】において、
・訂正発明8の成分(I):「(I)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンジアルキルエーテルについては【0049】?【0050】において、
それぞれ任意成分として、また、それぞれ該当する典型的な成分の例や好ましい化粧料全量中の配合割合を含めて説明されている。 ]

イ.また、
・成分(G)については、【0043】?【0044】において、
該当する典型的な成分の例を含めて説明されており、併せて、[(B)+(C)]/[G]を「0.04以上0.68未満」の範囲内とすることについても、【0045】においてその臨界的意義と共に記載されている。

ウ. さらに、必要に応じ、それら成分(A)?(G)[及び任意成分(H)、(I)]以外の化粧料に通常用いられる成分を適宜配合し得ることや、紫外線散乱剤を実質的に配合しないことで噴霧時の白さを抑制し得ること(【0051】)と共に、本発明の組成の化粧料を原液とし当該原液を噴射剤と共にエアゾール容器に充填して噴霧型とし得ること(【0052】?【0053】)、ならびに、油中水型乳化状の日焼け止め化粧料とするための製造工程例の概要が記載されている(【0055】)。

エ.エ1) そして、実施例の項では、これらア?ウの記載を踏まえつつ、表1及び表2に例示される成分組成[特に、(C)成分として「デキストリン脂肪酸エステル」の例であるパルミチン酸デキストリンを採用]の油中水型乳化日焼け止め化粧料(実施例1?9)及び同化粧料をエアゾール容器中に充填したものを製造し、それらを評価項目1?6[上述の(2)(2-1)(ii)(ii-1)イ2)参照]について評価したところ、表1、表2の試験結果が得られたことが記載されている。
エ2) これら表1、表2の試験結果によれば、訂正発明1に係る化粧料の例である実施例1?9の組成の各油中水型乳化日焼け止め化粧料が、そのいずれにおいても、
・紫外線散乱剤を含まないことから、同剤による噴霧時のノズルの詰まりや白さが生じないことが明らかであり;
また、
・原液中で粉末の沈降及び固化を生じることなく;
・エアゾール容器に充填した状態で12時間静置後に容器を振ることによる粉末の良好な再分散性を示す;
と共に、
・Sプレート(5×5cmのV溝PMMA板、SPFMASTER-PA01)へ滴下・塗布して乾燥した後の紫外線の吸光度(Abs)の変化率が、比較例1、2では100%未満(「84.8」%)であったのに対し、いずれも100%を超える吸光度をもたらす、という優れた紫外線防御効果をもたらす;
日焼け止め化粧料であることを認識することができる。
エ3) 即ち、当業者は、上記表1、表2の試験結果から、(ii-2)2)の解決手段の提供により、
・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
・使用感を格別に損なうことなく;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線吸収をもたらす;
という優れた油中水型乳化日焼け止め化粧料がもたらされ、以て、上述の(ii-2)1)の技術課題が解決され得ることを認識し得るといえる。
また、上のア.?ウ.の本件明細書の記載をも併せ踏まえれば、例えば成分(A)?(F)の種類・配合割合、及び/又は[(B)+(C)]/[(G)]において上記実施例1?9の化粧料と異なる成分組成のものであっても、(ii-2)2)の要件<1>?<3>を併せ具備する訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料の範囲内のものであれば、表1、表2に示された実施例1?9による諸効果と同様の効果をもたらし得、以て実施例1?9の化粧料と同様に、(ii-2)1)の技術課題を解決し得る、と当業者であれば理解するであろうところ、これに対し特段の妨げとなる事情を見出すこともできない。

オ.以上ア.?エ.のとおりであるから、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明から、(ii)2)<1>?<3>の要件を併せ満たす訂正発明1の日焼け止め化粧料の提供により、(ii)1)の本件明細書【0010】に記載された技術課題を解決することができると認識し得るといえる。

カ.カ1) なお、特許権者は、意見書において、2つの試験結果の表を提示している[上述の(2)(2-1)(ii)(ii-1)イ4)(a)参照]。
カ2) そして、(2)(2-1)(ii)(ii-1)イ4)(b)で述べたとおり、それら2つの表で示される試験結果は、訂正発明1に係る日焼け止め化粧料の例であって本件明細書の実施例1?9と一部異なる成分組成のものもまた、同実施例1?9と同様の優れた効果をもたらすことを示すものである。即ち、
・意見書14頁の表では、(C)相当成分として、本件明細書表1、表2で用いられているパルミチン酸デキストリンと同等の成分として、ショ糖脂肪酸エステル(訂正発明1における(C)成分中の「ショ糖脂肪酸エステル」に相当)」、ステアリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、ステアリン酸マグネシウム((C)成分の例として本件明細書【0024】?【0026】に例示されている)を用いた場合も、本件明細書の実施例1?9の化粧料と同様の優れた効果をもたらし得ることを示すものである。
・また、同16頁の表では、[(B)+(C)]/[(G)]が「0.724」であって訂正発明1の「0.04以上0.68未満」の要件を満たさないもの(「比較試験例1」)は、その他の訂正発明1規定の要件を全て満たしていても、Abs変化率に実質的な増加は認められない(「100.1」%)ことが示されている。したがって、それら「比較試験例1」及び「試験例1」?「試験例18」の各Abs変化率に係る試験結果は、本件明細書表1、表2の試験結果と同様に、[(B)+(C)]/[G]を「0.04以上0.68未満」とすることの格別な技術的意義に係る、本件特許明細書の
「 【0045】 ・・・当該比率が0.04未満又は0.68以上では、水分との接触による紫外線防御効果の向上がみられなくなる。」
との記載に、本件特許出願時から具体的かつ合理的な裏付けが確かに存在していたことを示すものである。

キ.キ1) ところで、本件明細書の表1では、実施例1、2の各化粧料において「べたつき感・さらさら感」(べたつきのなさ及びさらさら感)の評価結果が「C」(10名の専門パネルのうち良好であると評価したパネルが4名以下)であり、同表2では、実施例5の化粧料においても「のびの軽さ、被膜感」(のびの軽さ及び被膜感のなさ)の評価結果も「C」であったことが示されている。
また、意見書の16頁の表においても、試験例17、18の各化粧料が、「べたつき・さらさら感」及び「のびの軽さ、被膜感」のいずれの評価結果も「C」であったことが示されている。
キ2) しかしながら、それら実施例ならびに試験例の使用感に係る「C」の評価結果は、それら実施例ならびに試験例の各成分組成の化粧料が、訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化「日焼け止め化粧料」として、その紫外線防御効果においておよそ使用に耐えない(有用ではない)ということを示すものではなく、また、訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化「日焼け止め化粧料」としての裏付けを欠くことを示すものでもない。このことは、各表において、それら実施例ならびに試験例の各化粧料のいずれについても、上述の訂正発明の解決しようとする課題に関して
・原液の粉末の沈降及び固化、及び粉末再分散性の観点で「良好」であって、「紫外線散乱剤」を含まないことから、噴霧時のノズルの詰まりを生ずることなく、「噴霧型」の化粧料として良好に噴霧して使用し得るものといえること;
かつ、
・Abs変化率が100%超であることから、紫外線防御効果、即ち「日焼け止め」効果において優れた性質を有するものであることの開示及び裏付けがなされているといえること;
から、明らかである。
キ3) よって、これら実施例ならびに試験例における使用感に関する各「C」の評価結果に係る記載は、訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料が本件明細書の発明の詳細な説明で十分な裏付けを以て記載されている、との判断を妨げるものとはいえない。
キ4) なお、キ1)の評価結果に関し、本件明細書には併せて、実施例1の化粧料における「べたつき・さらさら感」は、「球状樹脂粉末の配合量の増加及び球状有機樹脂粉末と球状シリコーン樹脂粉末との配合量比の調整にとって使用感が改善された」こと(【0063】、表1)、及び、「 揮発性シクロメチコンを配合した実施例5、それを揮発性ジメチコンに置換した実施例6?9は、いずれも使用性(べたつき・さらさら感)及び粉末分散性ともに良好であり、水分と接触した際に紫外線防御効果が向上するという特性が得られ」、「特に、揮発性シリコーン油として揮発性ジメチコンを配合した実施例6?9は、のびが軽くなり被膜感のない感触に改善された」こと(【0064】、表2)も記載されており、これらの記載を併せ考慮すれば、表1及び表2の評価項目に係る使用感の実施例間の差異は、訂正発明1に係る化粧料の配合成分の種類及び/又は配合割合の調整により適宜調整し得る範囲の事項ともいえる。

ク. 以上の検討のとおりであるから、訂正発明1は、(ii-2)2)の<1>?<3>の技術手段を併せて提供することにより、本件明細書の【0010】に記載された技術課題を解決し得るものと理解することができる。
即ち、当業者は、訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料により、
・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず噴霧直後から透明なものとし;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
・格別に使用感を損なうことなく;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る優れた紫外線防御効果をもたらす
噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料を提供することができ、以て(ii-2)1)の技術課題が解決され得ることを、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から認識し得るといえる。

(iv)小括
したがって、訂正発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するものである。
訂正発明2?8についても、訂正発明1について上述したのと同様の理由から、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するものである。


[第6]特許異議申立理由について

1.異議申立理由(1)について

(i) 異議申立人による異議申立理由(1)の趣旨の概要は、要するに、特許発明1?8は、いずれも、甲第1号証?甲第4号証のいずれかに記載された発明であり、或いは、甲第1号証?甲第4号証のいずれかの記載に基づいて当業者が容易になし得た発明である、というものである。

(ii) しかしながら、訂正発明1?8が、
・甲第1号証(刊行物1)、甲第2号証(刊行物2)、甲第3号証(刊行物3)、甲第4号証(刊行物4)のいずれにも記載された発明でなく;
また、
・甲第1?4号証のいずれかの記載に基づいて、また、甲第1?4号証のいずれかの記載とそれ以外の甲号証の記載との組合せに基づいて、容易になし得た発明であるともいえない;
ことは、上の[第5]2.(2)(2-1)?(2-4)中の各(ii)(ii-1)?(ii-2)にて検討したとおりである。
よって、異議申立理由(1)には、理由がない。

2.異議申立理由(2)について

(i)申立人による異議申立理由(2)の趣旨の概要は、要するに、特許発明1?8のいずれも、
<a> 甲第3号証を主引用例とし、当該甲3号証の記載と、それ以外の甲第1、2、4?13及び/又は14号証の記載との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり;
<b> 甲第5号証を主引用例とし、当該甲5号証の記載と、それ以外の甲第1?4、6?13及び/又は14号証の記載との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである;
というものである。

(ii) しかしながら、以下のア.?イ.に述べるとおりであるから、訂正発明1?8に対するそれら異議申立理由(i)<a>及び<b>は、いずれも理由がない。

ア.(i)<a>について
[第5]2.(2)(2-3)中の(ii)(ii-1)イ?(ii-2)にて検討したとおりであるから、訂正発明1?8はいずれも、甲第3号証(刊行物3)の記載と、それ以外の引用刊行物1、2、4?8及び甲第5?7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.(i)<b>について

イ1)甲第5号証の記載事項、及び甲5発明
甲第5号証には、
・(甲5a)『 【請求項1】 紫外線防止剤を含有し、更に、有機変性粘土鉱物、揮発性成分、および球状樹脂粉末を含有することを特徴とする油中水型乳化化粧料。』; について記載され、
・(甲5b) 当該請求項1の化粧料において、従来の油中水型(W/O型)乳化系であって紫外線吸収剤が高配合される傾向にある近年のサンスクリーン剤は、乳化技術の開発により安定性を確保し得ても使用感はむしろ損なわれる傾向にあったところ、更に有機変性粘土鉱物、揮発性成分及び球状樹脂粉末を配合することにより、安定性及び使用性における問題を共に解決するものであること(【0001】?【0003】、【0025】);
・(甲5c) 揮発性成分について、『・・・使用される揮発性成分は、低沸点の炭化水素もしくはシリコーン油である。・・・低沸点のシリコーン油としては、沸点260℃以下(大気圧下)のもので、例としては、メチルポリ(n=5)シロキサン等のジメチルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、・・・等のシクロジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。・・・揮発性成分の配合量は、20?60重量%である。・・・』こと(【0005】);
・(甲5d) 有機変性粘土鉱物について、『水膨潤性粘土鉱物を第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で予め処理した市販品のカチオン変性粘土鉱物』を用い得ること(【0006】);
・(甲5e) 球状樹脂粉末としては、ポリアミド樹脂粉末(ナイロン粉末)等が用いられること(【0012】);
・(甲5f) 紫外線防止剤としては、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤であって化粧品に使用することができるものが用いられ、紫外線吸収剤としては、『・・・安息香酸系紫外線吸収剤、・・・、アントラニル酸系紫外線吸収剤、・・・サリチル酸系紫外線吸収剤、・・・、オクチル-p- メトキシシンナメート(2- エチルヘキシル-p- メトキシシンナメート) ・・・、シリコーン系桂皮酸誘導体等の桂皮酸系紫外線吸収剤、・・・、2-ヒドロキシ-4- メトキシベンゾフェノン、・・・等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、・・・』(【0013】)が挙げられること; 紫外線散乱剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄等があり、各種表面処理が施されていてもよいこと(【0014】);
・(甲5g) 乳化剤として、好ましくは2?16、特に好ましくは3?12のHLB値をの非イオン界面活性剤を用いること(【0015】);
等が記載され、併せて、
・(甲5h) 上記請求項1のW/O型乳化化粧料の例として、
次の成分(1)?(16):
(1) デカメチルシクロペンタシロキサン 28重量%
(2) セチルイソオクタノエート 2 〃
(3) ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 2 〃
(4) オクチルメトキシシンナメート 7 〃
(5) 2-ヒドロキシ4-メトキシベンゾフェノン 0.5 〃
(6) 4-tert-ブチル
-4’-メトキシベンゾイルメタン 0.5 〃
(7) ビタミンEアセテート 0.05 〃
(8) パラベン 適量
(9) 香料 適量
(10) 有機変性粘土鉱物(商品名:ベントン38) 0.5 〃
(11) 疎水化処理酸化チタン 2 〃
(12) ナイロンパウダー(球状粉末) 8 〃
(13) 疎水化処理タルク -
(14) ジプロピレングリコール 5 〃
(15) EDTA・3Na・2H_(2)O 0.1 〃
(16) 精製水 残余
からなるW/Oクリーム
を調製したこと(5頁実施例1);、
・(甲5i) 上記実施例1のW/Oクリームについては、0℃、室温、50℃下で各1カ月放置しても全く分離が見られず;専門パネル10名を用いた使用性の評価(のび・べたつき)を行ったところ、10名中8名以上からのびが良好、かつ、べたつきもなく良好との回答を得たこと(【0018】?【0020】);
等が記載されている。
これらの摘示事項甲5a?甲5g、甲5iを踏まえた摘示事項甲5hの記載によれば、甲第5号証には
「 紫外線防止剤を含有し、更に、有機変性粘土鉱物、揮発性成分、および球状樹脂粉末を含有することを特徴とする油中水型乳化化粧料 であって、以下の成分組成:
(1) デカメチルシクロペンタシロキサン 28重量%
(2) セチルイソオクタノエート 2 〃
(3) ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 2 〃
(4) オクチルメトキシシンナメート 7 〃
(5) 2-ヒドロキシ4-メトキシベンゾフェノン 0.5 〃
(6) 4-tert-ブチル
-4’-メトキシベンゾイルメタン 0.5 〃
(7) ビタミンEアセテート 0.05 〃
(8) パラベン 適量
(9) 香料 適量
(10) 有機変性粘土鉱物(商品名:ベントン38) 0.5 〃
(11) 疎水化処理酸化チタン 2 〃
(12) ナイロンパウダー(球状粉末) 8 〃
(13) 疎水化処理タルク -
(14) ジプロピレングリコール 5 〃
(15) EDTA・3Na・2H_(2)O 0.1 〃
(16) 精製水 残余
からなるW/Oクリームである、油中水型乳化サンスクリーン化粧料」
の発明(以下、「甲5発明」ということがある)が記載されているものと認められる。

イ2)対比・判断
(a)a1) 訂正発明1と甲5発明とを対比するに、
・甲5発明の成分(4)、(5)及び(6)はいずれも訂正発明1の「紫外線吸収剤」に相当し; 成分(11)は、これに含まれる酸化チタンは(2-1)(ii)(ii-1)ア1)で刊行物5の摘示事項5c等を引用して示したとおり、紫外線散乱剤であるものの紫外線吸収剤としての性質も併せ持つ成分であるから、これまた訂正発明1の「紫外線吸収剤」に相当するものともいえ; そして、これら4成分の合計量は27+0.5+0.5+2=30%であるから、当該4成分は訂正発明1の「(A)6?40質量%の紫外線吸収剤」に相当し;
・甲5発明の成分(10)は、訂正発明1の「(B)有機変性粘土鉱物」に相当し;
・甲5発明の成分(3)は、本件明細書の【0029】?【0030】で「(D)成分」の例として上げられているポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤に相当し;
・甲5発明の成分(12)は訂正発明1の「(E)球状樹脂粉末」に相当し;
・甲5発明の成分(1)は訂正発明1の「(F)揮発性シリコーン油」に相当する;
ことを踏まえると、両者は
「 (A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(D)’ポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有する、油中水型乳化日焼け止め化粧料」
の点で一致するが、
I. 訂正発明1が「(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤をも含み、かつ、[(B)+(C)]/[(G)]が「0.04以上0.68未満」であるのに対し、甲5発明ではそのような(C)成分を含むことの限定はなく、[(B)+(C)]/[(G)]に係る限定もない点
II. 訂正発明1が「紫外線散乱剤」を含まない」ものであるのに対し、甲5発明は紫外線散乱剤である成分(11):疎水化処理酸化チタン(2重量%)を含む点
III. 訂正発明1が「噴霧型」のものであるのに対し、甲5発明ではそのような限定はない点
IV. 「ポリオキシアルキレン変性シリコーン系界面活性剤」について、訂正発明1が「HLBが8未満」であるのに対し、甲5発明ではそのような限定はない点
(以下、順に、「相違点I」?「相違点IV」ということがある)において、相違する。

a2) 以下、上記相違点について検討する。
まず、相違点Iに関し、刊行物5には、甲5発明の化粧料において、デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤を併せて配合することの記載も示唆もみられない。また、そうであれば、甲5発明の化粧料において、[成分(4)等の「シリコーン油以外の不揮発性液状油分」に相当する成分の合計量]に対する[成分(10)と上記3者のうちいずれかの油相増粘剤との合計量]の比率を0.04以上0.68未満とすることの示唆を見出し得るはずもない。この点、他の引用刊行物1?8や甲第6、7、11?13号証にも、甲5発明の化粧料において、上記3者のうちいずれかの油相増粘剤と併せて配合し、かつ、その際の上記比率を0.04以上0.68未満とすることを動機付けるような記載はないから、これらの刊行物及び証拠の記載を併せ参照しても同様である。
また、相違点II及びIIIに関し、刊行物5には、甲5発明の化粧料において紫外線散乱剤である成分(11):疎水化処理酸化チタン(2重量%)を取り除くことも、もしくは、成分(11)に代えて紫外線散乱剤ではない紫外線吸収剤を配合することについても、記載も示唆もされていないし、そのような紫外線散乱剤を含まないものとした上で噴霧型とすることの記載も示唆も見出せない。他の引用刊行物1?8や甲第6、7、11?13号証にも、甲5発明の化粧料において、成分(11)を取り除いて噴霧型とすること等を動機付けるような記載はないから、これらの刊行物及び証拠の記載を併せ参酌しても同様である。
したがって、相違点IVについて検討するまでもなく、甲5発明においてさらに上記相違点I?IIIに係る要件を併せ具備せしめることが、甲第5号証の記載に基づくことにより、もしくは、甲第5号証の記載とそれ以外の引用刊行物1?8及び甲第6、7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

a3) そして、訂正発明1は、上記相違点I?IVに係る要件を併せ具備してなる噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料とすることにより、(2-1)(ii)(ii-1)イ2)の
※『・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず、噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線防御効果をもたらす』
のとおりの、当業者が予測し得ない本件明細書に記載された優れた効果をもたらす噴霧型油中水型乳化日焼け止め組成物を提供するものである。

a4) したがって、訂正発明1は、甲第5号証の記載とそれ以外の引用刊行物1?8及び甲第6、7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(b) 訂正発明2?8は、いずれも訂正発明1を直接又は間接的に引用してなる従属発明であるから、訂正発明1について(a)a1)で述べたのと同様の相違点I?IVに係る発明特定事項を併せ具備するものである。
よって、訂正発明2?8はいずれも、上記相違点I?III以外の相違点の有無ならびに当該相違点の容易想到性等について検討するまでもなく、訂正発明1について(a)a2)?a3)で述べたのと同様の理由により、甲第5号証の記載とそれ以外の引用刊行物1?8及び甲第6、7、11?13号証のいずれかの記載との組合せに基づくことにより、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

3.異議申立理由(3)について

[第5]2.(3)(3-1)で述べたとおり、訂正発明1における(C)成分の「油相増粘剤」は、訂正前の
「(C)前記(B)以外の油相増粘剤」
から、
「(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤」
に訂正されており、かかる訂正発明1においては、(C)成分である「デキストリン脂肪酸エステル」、「ショ糖脂肪酸エステル」、及び「常温で固形の脂肪酸又はその塩」に該当する各成分の範囲は当業者にとり明確に把握し得る事項であり、また、「 [(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率 」もまた、当業者により正確に算出し得る事項である。
よって、これら(C)成分及び「[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率」について、訂正発明1及びそれを直接又は間接的に引用する訂正発明2?8の記載は明確ではない、とはいえず、訂正発明1?8に対する異議申立理由(3)は理由がない。

4.異議申立理由(4)について

本項では、まず、以下の(1)?(2)で、訂正発明1?8について本願明細書の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件を満たしていること((1))、及び、訂正発明1?8が同法同条第6項第1号に規定されるサポート要件を満たしていること((2))を検討・総括し、その後、異議申立人の異議申立理由([第4]1.(4))について検討する((3))。

(1)実施可能要件について
(i) 訂正発明1について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしている;
とは、
本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が訂正発明1を実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされている;
ということであり、これは、いいかえれば、
当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料を作ることができ、かつ使用することができる;
といえることに他ならない。

(ii) そこで、(i)の観点を踏まえつつ、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料を作ることができ、かつ使用することができるか否か、について以下検討する。

(ii-1) [第5]2.(3)(3-1)(iii)ア.?エ.で述べたとおり、本件明細書には、
ア.訂正発明1中に規定される成分(A)?(F)に関し、それぞれ該当する典型的な成分の例や好ましい化粧料全量中の配合割合を含めて説明されており; また、
イ.成分(G)について、該当する典型的な成分の例が、[(B)+(C)]/[G]を「0.04以上0.68未満」の範囲内とすることの臨界的意義と併せて記載されており;
ウ.必要に応じそれら以外の化粧料に通常用いられる成分を適宜配合し得ることや、紫外線散乱剤を実質的に配合しないことで噴霧時の白さを抑制し得ることと共に、噴霧型とするには本発明の化粧料を原液とし当該原液を噴射剤と共にエアゾール容器に充填すればよいこと、ならびに、油中水型乳化状の日焼け止め化粧料とするための製造工程の概要が記載されており;
エ.エ1) 実施例の項では、それらの記載を踏まえつつ、表1及び表2に例示される成分組成[特に、(C)成分として「デキストリン脂肪酸エステル」の例であるパルミチン酸デキストリンを採用]の油中水型乳化日焼け止め化粧料(実施例1?9)及び同化粧料をエアゾール容器中に充填したものを製造し、それらを評価項目1?6([第5]2.(2)(2-1)(ii)(ii-1)イ2)参照]について評価したところ、表1、表2の試験結果が得られたことが記載されており;
エ2) これら表1、表2の試験結果によれば、訂正発明1に係る化粧料の例である実施例1?9の組成の各油中水型乳化日焼け止め化粧料が、そのいずれにおいても、
・噴霧時の目詰まりの原因となりまた白さの原因となる紫外線散乱剤粉末を含まず噴霧直後から透明で;
・原液中で粉末成分の沈降及び固化が生じず、再分散性が良好であり;
・使用感を格別に損なうことなく;
かつ、
・水や汗等と接触しても紫外線防御効果が低下せずむしろ皮膚への噴霧直後を上回る紫外線吸収をもたらす;
ことが、具体的に示されているといえる。

(ii-2) そして、これら本件明細書の記載に基づき、当業者は、実施例1?9のような、もしくはそれ以外の、訂正発明1の要件を全て満たす噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料を、作ることができ、また日焼け止め化粧料として有利に使用することができることを、理解し得たといえる。[なお、意見書の14頁、16頁の各表の試験結果([第5]2.(2)(2-1)(ii)(ii-1)イ4))は、当業者がそのような理解を本件明細書の記載から確かになし得たことを示すものである。]
即ち、訂正発明1に係る噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料は、それら本件明細書の記載に基づき、当業者が作ることができまた使用することができたものである。

(ii-3) してみれば、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正発明1を実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされているものといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定される要件に適合するものである。訂正発明2?8についても同様である。
よって、実施可能要件に係る異議申立人による異議申立理由もまた、理由がない。

(2)サポート要件について
[第5]2.(3)(3-2)で検討したとおり、訂正発明1?8はいずれも、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内のものであって、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしている。
よって、サポート要件違反に係る異議申立人による異議申立理由もまた、理由がない。

(3)[第4]1.(4)における異議申立人の主張について
(i) 異議申立人は、異議申立理由(4)に関連して、本件発明1?8が実施可能要件及びサポート要件に適合しないことの根拠として、[第4]1.(4)のA)?C)の点で不備であることを挙げている。

(ii) しかしながら、A)及びB)の点については、上の[第5]2.(3)(3-2)、及び本項[第6]の4.(1)?(2)で検討・説示したとおりであるから、いずれも採用できない。

(iii) また、C)C1)?C3)についても、それぞれ以下に述べるとおりであり、いずれも採用できない。

・C1)について
[第5]2.(3)(3-2)(iii)キ.で説示したとおりである。

・C2)について
訂正発明1は、「紫外線散乱剤を含まない、」噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料であることの限定がなされていることから、訂正前の請求項1?8において当該限定がなされていないことに基づくC2)の指摘は、もはやその前提を欠くものとなっている。

・C3)について
異議申立人は、本件明細書の実施例における紫外線防御効果の測定試験について、紫外線の測定波長等の試験条件が明記されていないことを述べているが、例えば次の(i)及び(ii)の点:
(i) 紫外線の測定波長に関し、紫外線が、波長が320?400nmの長波長紫外線(UVA)、290?320nmの中波長紫外線(UVB)及び290nm以下の短波長紫外線(UVC)に分類され、化粧料分野においては特にUVAからUVBまでの幅広い波長領域が防御対象となることは、例えば上述の刊行物4(甲第4号証)の【0004】(2.(1)(iv)の摘示事項4b)の記載にみられるとおり当業者にとり周知であるから、かかる波長領域内の紫外線を測定対象に設定することは、当業者が当然に検討しかつ行い得たといえること;
(ii) また、乾燥時の温度に関し、訂正発明に係る日焼け止め化粧料が通常屋外環境にて使用されるものである以上、当該化粧料を本件明細書【0057】記載のような紫外線防御効果の試験に供するに際し、水分(水や汗)で濡れる前後の乾燥時の温度を、例えば当該屋外環境条件を模した、或いは同環境条件に準じた、相応の温度とすることもまた、当業者が通常検討しかつ採用し得た範囲内の事項といえること;
を考慮すれば、本件明細書中の【0057】の試験において採用されたUVの測定波長や乾燥時の温度等の条件が明記されていないからといって、そのような【0057】の条件下で試験されたAbs変化率の試験結果を以ては、訂正発明に係る化粧料が「日焼け止め」用化粧料として(即ち、紫外線防御効果をもたらす化粧料として)開示されていないとか裏付けられていない、とまでいうことはできない。

なお、本件明細書の紫外線防御効果の測定(【0057】)において用いられている「SPFMASTER-PA01」(資生堂医理化テクノロジー株式会社)のような皮膚の代替となる塗布基板が、化粧料等のサンプルの紫外線防御効果に関する例えばSPF値をin vitroで測定するために用いられることは、次の
・文献1:特開2013-210366号公報
・文献2:特許第4454695号公報
・文献3:特開2008-111834号公報
の記載(文献1の【0006】?【0008】、【0165】;文献2の特許請求の範囲、実施例【0086】?【0128】;文献3の実施例【0074】?【0085】)にみられるとおり、本件特許出願当時既に技術常識であったと認められ、またその際の照射光の測定波長を上記UVA?UVB領域を含む波長領域としたり、水分(水や汗)で濡れる前後の乾燥時の乾燥温度を例えば25℃とすることも、例えば上記文献2の【0094】や文献3の実施例1【0075】の記載からみて、当業者が適宜採用し得た範囲内の事項である。


[第7]むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)6?40質量%の紫外線吸収剤、
(B)有機変性粘土鉱物、
(C)デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、常温で固形の脂肪酸又はその塩から選択される油相増粘剤、
(D)HLBが8未満のシリコーン系界面活性剤、
(E)球状樹脂粉末、及び
(F)揮発性シリコーン油を含有し、
[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、紫外線散乱剤を含まない、噴霧型油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項2】
(F)揮発性シリコーン油が揮発性ジメチコンである、請求項1に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項3】
噴霧して使用される、請求項1又は2に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項4】
(E)球状樹脂粉末が、球状有機樹脂粉末と球状シリコーン樹脂粉末の、3:1?1:3の混合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項5】
(A)紫外線吸収剤が、油溶性の紫外線吸収剤のみからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項6】
(A)紫外線吸収剤が、オクチルメトキシシンナメート、オクトクリレン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル及びポリシリコーン-15から選択される少なくとも一種である、請求項5に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項7】
(H)油溶性被膜剤をさらに含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項8】
(I)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンジアルキルエーテルをさらに含有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の油中水型乳化日焼け止め化粧料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-21 
出願番号 特願2016-198402(P2016-198402)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 駒木 亮一  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 大久保 元浩
冨永 みどり
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6263244号(P6263244)
権利者 株式会社 資生堂
発明の名称 噴霧型日焼け止め化粧料  
代理人 内田 直人  
代理人 内田 直人  

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