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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1353187
異議申立番号 異議2019-700147  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-25 
確定日 2019-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6386696号発明「半導体加工用粘着テープおよび半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6386696号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6386696号(以下,その特許明細書を「本件明細書」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は,平成30年8月17日にその特許権の設定登録がされ,平成30年9月5日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,平成31年2月25日に特許異議申立人 吉田雅子(以下,「申立人」という。)は,特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6386696号の請求項1ないし8の特許に係る発明(以下,「本件発明1ないし8」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
23℃におけるヤング率が1000MPa以上の基材と、当該基材の少なくとも一方の面側に設けられた緩衝層と、当該基材の他方の面側に設けられた粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記緩衝層の23℃における引張貯蔵弾性率(E_(23))が100?2000MPaであり、
前記緩衝層の60℃における引張貯蔵弾性率(E_(60))が20?1000MPaである、半導体加工用粘着テープ。
【請求項2】
前記緩衝層の-5?120℃における動的粘弾性のtanδの最大値が1.0以下である、請求項1に記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項3】
前記緩衝層の23℃における引張貯蔵弾性率(E_(23))及び前記緩衝層の60℃における引張貯蔵弾性率(E_(60))が、(E_(23))/(E_(60))≦90の関係を満たす、請求項1または2に記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項4】
前記緩衝層が、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成される層である、請求項1?3のいずれかに記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項5】
前記エネルギー線重合性化合物が、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーと多官能重合性化合物とを含む、請求項4に記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項6】
前記緩衝層がポリオレフィン樹脂フィルムを含む層である、請求項1?3のいずれかに記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項7】
前記粘着剤層の厚さが100μm未満である、請求項1?6のいずれかに記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載の半導体加工用粘着テープを、半導体ウエハの表面に貼付する工程と、
前記半導体ウエハの表面若しくは裏面から半導体ウエハ内部に改質領域を形成する工程と、
前記粘着テープが表面に貼付され、かつ前記改質領域が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、前記改質領域を起点として複数のチップに個片化させる工程と、
前記複数のチップから前記粘着テープを剥離する工程と、
を備える半導体装置の製造方法。」

第3 申立ての概要
申立人は,主たる証拠として特開2014-75560号公報(以下,「甲第1号証」という。)及び従たる証拠として特開2015-183008号公報(以下,「甲第2号証」という。),藤木時男 他2名,エチレン重合体側鎖の動的粘弾性に及ぼす影響,東洋曹達研究報告,第12巻第1号,1968年,p.24-28,東洋曹達株式会社(以下,「甲第3号証」という。)を根拠として,請求項1ないし3及び6ないし8に係る特許は特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし3及び6ないし8に係る特許は取り消すべきものである旨主張するとともに,主たる証拠として甲第2号証及び従たる証拠として甲第1号証を根拠として,請求項1ないし5及び7,8に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし5及び7,8に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証
甲第1号証(特開2014-75560号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの研削工程において好適な表面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高集積化に伴い、半導体チップの薄型化及び極小化の要求は激化している。極めて薄い半導体チップを得てデバイスに実装しようとする際、チップに分割する前の半導体ウエハ等のワーク(加工対象物)を研削することで薄型化する方法が採用されている。ただし、この場合、(1)薄型化したワークの取扱時の破損のリスクや、(2)ワークをチップに分割した後におけるチップの破損のリスクが存在する。
【0003】
上記(1)のリスクを回避する、ワークをチップへ分割する方法として、「先ダイシング法」と呼ばれるワークの分割方法が知られている。「先ダイシング法」とは、分割予定ラインに沿ってワークの表側に溝を形成し、ワークの裏面側から少なくとも溝に到達するまで、ワークを研削等の薄化処理を行ってチップに分割する方法である。
例えば、特許文献1には、シリコン基板の表面側にペレットの分割予定境界線に沿って溝を形成し、形成した溝の内壁面に樹脂膜を設け、シリコン基板の裏面側から溝に到達するまで、シリコン基板を切削して、シリコン基板を複数のペレットに分割させる方法が開示されている。
【0004】
このような方法は、ワークの薄化処理を行った後にチップへの分割を行う通常のプロセスに比べ、薄化処理したワークを取り扱う必要がないため、ワークの破損等のリスクを無くすことができる点で優れている。
【0005】
また、上記(2)のリスクに関しては、チップの抗折強度が劣ることが破損の要因となる。
チップの抗折強度を向上させるワークの分割方法として、特許文献2に開示されるような「ステルスダイシング(登録商標)」という方法が知られている。
ステルスダイシングとは、レーザ光によりワーク内部に改質領域を形成し、ワークに力を加えることで、当該改質領域が切断起点となってワークが切断してチップを作成する方法である。
より具体的には、ワークの一方の面に伸張性のフィルムを装着し、ワークの該フィルムが形成された面とは反対の面をレーザ光入射面として、ワークの内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより多光子吸収による改質領域を形成する。そして、この改質領域によって、ワークの切断予定ラインに沿って前記レーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成し、前記フィルムを伸張させることにより、前記切断起点領域を起点としてワークを複数の部分に、互いに間隔が空くようにワークを切断し、チップを得ることができる。
【0006】
このような方法は、回転ブレードによってワークを切削する処理を伴わないため、チップ端部に微小な欠けが発生する現象、いわゆるチッピングの発生を抑制でき、チップの抗折強度を向上させることができる。
【0007】
更に、上記(1)及び(2)のリスクを共に回避する方法として、特許文献3の方法が提案されている。
特許文献3には、上記のステルスダイシング(登録商標)を利用して、ワーク内部に改質領域を形成した後、ワークの裏面から研削を行って、ワークが薄くして割断されやすくした後、研削砥石等の加工圧力で割断して、個々のチップに分割する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06-085055号公報
【特許文献2】特開2003-334812号公報
【特許文献3】特開2004-111428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ワークの裏面研削工程は、研削時に発生する研削屑を洗い流すためにワークを超純水に曝しながら行われる。
特許文献3に開示の方法では、ワークの研削により改質領域が割断される(劈開させられる)と、割断された部分の間隙がごく狭いために、毛細管現象により割断された間隙に水(スラッジ)が比較的強い勢いで浸入することがある。ワークの研削面と逆側の面には、回路等が形成される場合があり、通常表面を保護するために、粘着剤層を有する粘着シートが貼付される。
しかしながら、研削時の振動により間隙に浸入した水(スラッジ)が、粘着剤層とワークの被保護表面との界面にまで浸入し、粘着剤が溶解した水により、被保護表面が汚染されてしまう場合がある。特許文献3には、このような被保護表面の汚染を抑制する方法については何ら検討されていない。
【0010】
本発明は、改質領域が形成されたワークの裏側研削工程の際に用いられる表面保護シートとして好適であって、ワークの裏面研削工程の際に、ワークが割断され形成される間隙からワークの被保護表面に、水の浸入(スラッジ浸入)を抑制して、ワークの被保護表面の汚染を防止し得る表面保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定の要件を満たす基材上に、特定の要件を満たす粘着剤層を形成した表面保護シートが上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、下記〔1〕?〔8〕を提供する。
〔1〕基材上に粘着剤層を有する表面保護シートであって、下記要件(a)?(d)を満たす、表面保護シート。
(a)前記基材のヤング率が、450MPa以上である
(b)前記粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率が、0.10MPa以上である
(c)前記粘着剤層の50℃における貯蔵弾性率が0.20MPa以下である
(d)前記粘着剤層の厚さが、30μm以上である
〔2〕前記粘着剤層が、エネルギー線硬化性粘着剤組成物からなる、上記〔1〕に記載の表面保護シート。
〔3〕前記基材の厚さが、5?250μmである、上記〔1〕又は〔2〕に記載の表面保護シート。
〔4〕前記基材が、樹脂フィルムとして、ポリエステル系フィルムを含む、上記〔1〕?〔3〕のいずれかに記載の表面保護シート。
〔5〕前記基材が、樹脂フィルムと、該樹脂フィルム上に積層された、厚さ10μm以下の非エネルギー線硬化性粘着剤組成物からなる第2の粘着剤層又は厚さ10μm以下の易接着層を有する、上記〔1〕?〔4〕のいずれかに記載の表面保護シート。
〔6〕前記表面保護シートが、改質領域が形成されたワークの研削工程において、該ワークの研削により改質領域を劈開させてワーク中に間隙を形成する際に、該ワークに貼付されるものである、上記〔1〕?〔5〕のいずれかに記載の表面保護シート。
〔7〕前記表面保護シートが、前記ワークの凹凸が形成された面に貼付される、上記〔6〕に記載の表面保護シート。
〔8〕前記表面保護シートが、40?80℃に加熱されたワークに貼付されるものである、上記〔6〕又は〔7〕に記載の表面保護シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面保護シートは、ワークの裏面研削工程の際に、ワークが割断され形成される間隙からワークの被保護表面に、水の浸入(スラッジ浸入)を抑制して、ワークの被保護表面の汚染を防止し得る。そのため、改質領域が形成されたワークの裏側研削工程の際に用いられる表面保護シートとして好適である。」

「【0019】
<基材>
本発明で用いる基材は、上記要件(a)を満たすものであれば特に限定はされない。
当該基材は、1つの樹脂フィルムからなる単層フィルムからなるものでもよく、複数の樹脂フィルムが積層した複層フィルムからなるものでもよい。
また、ワークからチップ製造後に、表面保護シートをチップから剥離する際に、チップに表面保護シートの粘着剤が残着しない優れた剥離性を発現させる観点から、樹脂フィルムと、該樹脂フィルム上に、非エネルギー線硬化性粘着剤組成物からなる第2の粘着剤層(以下、単に「第2の粘着剤層」ともいう)又は易接着層とを有する基材としてもよい。
【0020】
本発明で用いる基材の厚みは、好ましくは5?250μm、より好ましくは10?200μm、更に好ましくは15?150μm、より更に好ましくは20?110μmである。基材の厚みが5μm以上であれば、高温での耐変形性(寸法安定性)に優れる。一方、基材の厚みが250μm以下であれば、ヤング率を所定値以上に調整することが容易となる。
なお、本発明において、「基材の厚み」とは、基材を構成する全体の厚みを示す。例えば、複数の樹脂フィルムが積層してなる基材については、積層する全ての樹脂フィルムの厚みの合計がその基材の厚みであり、樹脂フィルムと、上述の第2の粘着剤層又は易接着層とを有する基材については、樹脂フィルムと第2の粘着剤層又は易接着層の厚みの合計がその基材の厚みである。
【0021】
上記要件(a)で規定するとおり、本発明で用いる基材のヤング率は、450MPa以上、好ましくは500MPa以上、より好ましくは1000MPa以上、更に好ましくは1500MPa以上である。
基材のヤング率が450MPa未満であると、ワークの研削時の振動によって、ワークに貼付した表面保護シートが変形しやすく、ワークの被保護表面のスラッジ浸入を抑制することが困難となるため好ましくない。
なお、本発明で用いる基材のヤング率の上限値は特に制限は無いが、当該基材のヤング率は、好ましくは10000MPa以下、より好ましくは7000MPa以下である。
【0022】
なお、上記要件(a)で規定する基材のヤング率は、例えば、基材として用いる樹脂フィルムの種類、基材を樹脂フィルムの複層とする場合には、積層する樹脂フィルムの種類、厚み、及び層数、第2の粘着剤層又は易接着層を設ける場合の該層を形成する材料及び該層の膜厚等を適宜設定することで調整が可能である。
【0023】
基材のヤング率の調整法については、例えば、以下の(1)?(3)の傾向に基づいて調整することが可能である。なお、本発明において、基材のヤング率の調整法は、以下の傾向に基づく方法に限定されるものではなく、以下の傾向はあくまで例示である。
(1)ポリエステル系フィルムやポリカーボネート系フィルムのような主鎖中に環状構造を有する重合体に基づく樹脂からなる樹脂フィルムを含む基材であれば、基材のヤング率を所定値以上に調整しやすい傾向にある。
(2)低密度ポリエステル系フィルムを含む基材とすることで、基材のヤング率は低下する。
(3)主鎖中に環状構造を有する重合体に基づく樹脂からなる樹脂フィルムを含む基材においては、当該重合体の主鎖の直鎖構造の長さが短いほどヤング率が上昇する傾向がある。例えば、同じポリエステル系フィルムであっても、直鎖構造の長さが相対的に短いポリエチレンテレフタレートフィルムを含む基材は、直鎖状構造の長さが相対的に長いポリブチレンテレフタレートフィルムを含む基材よりもヤング率が高い。
【0024】
(樹脂フィルム)
本発明の基材に含まれる樹脂フィルムとしては、ワークを極薄にまで研削する際にもワークを安定して保持する観点から、厚みの精度が高いフィルムが好ましく、例えば、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルム等が挙げられる。
これらの中でも、上記観点、及び上記要件(a)を満たすように基材のヤング率を調整しやすいとの観点から、ポリエステル系フィルムが好ましい。
【0025】
ポリエステル系フィルムを構成するポリエステルとしては、例えば、芳香族二塩基酸又はそのエステル誘導体と、ジオール又はそのエステル誘導体とから重縮合して得られるポリエステルが挙げられる。
【0026】
具体的なポリエステル系フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフテレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等のポリエステルからなるフィルムが挙げられる。なお、上記のポリエステルの共重合体からなるフィルムであってもよく、上記のポリエステルと比較的少量の他樹脂との混合物からなるフィルム等であってもよい。
これらの中でも、入手が容易で、厚み精度の高く、また上記要件(a)を満たすように基材のヤング率を調整やすいとの観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0027】
なお、ポリエステル系フィルムのみからなる基材を用いて、ポリエステル系フィルム上にエネルギー線硬化性粘着剤からなる粘着剤層を形成した場合、エネルギー線照射による粘着剤の硬化の際に、粘着剤の体積収縮を生じ、基材と粘着剤層の界面密着性が低下し、基材と粘着剤層間に界面破壊が生じる恐れがある。そのため、表面保護シートの剥離性が低下する場合がある。
このような弊害を回避するために、ポリエステル系フィルム上に、低密度ポリスチレン系フィルム等の樹脂フィルムを積層し、複層フィルムとすることが好ましい。また、ポリエステル系フィルム上に、後述の第2の粘着剤層又は易接着層を設けてもよい。
【0028】
なお、樹脂フィルムには、上記要件(a)を満たす基材とする範囲内において、公知のフィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒等を含有させてもよい。
また、樹脂フィルムは、透明なものであっても、所望により着色又は蒸着されていてもよい。」

「【0089】
実施例1?9、比較例1?6
表1に示す、製造例1?4のいずれかで調製した粘着剤組成物を、乾燥後の厚みが表1に示す値となるように、シリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(リンテック社製、商品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に塗布し、100℃で1分間乾燥し、粘着剤層を形成した。そして、当該粘着剤層と表1に示す基材を貼り合わせた後、PETフィルムを除去して、表面保護シートを作製した。
【0090】
実施例及び比較例で用いた基材は、以下のとおりである。
・複層基材A:LDPE(低密度ポリエチレン)/PET(ポリエチレンテレフタレート)/LDPE=27.5μm/25.0μm/27.5μmからなる、合計厚み80μmの複層樹脂フィルムのみからなる基材。
・複層基材B:LDPE/PET/LDPE=27.5μm/50.0μm/27.5μmからなる、合計厚み105μmの複層樹脂フィルム。
・単層基材C:25μmのPETフィルム(三菱樹脂社製、商品名「ダイアホイルT100-25」)からなる単層樹脂フィルム。
・単層基材D:75μmのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー#75T60」)からなる単層樹脂フィルム。
・単層基材E:80μmのPBT(ポリブチレンテレフタレート)フィルムからなる単層樹脂フィルム。
・粘着剤層付き基材F:PET/PSA(非エネルギー線硬化性のアクリル系粘着剤(第2の粘着剤層))=25μm/5μmからなる、合計厚み30μmの易接着層付き樹脂フィルム。
・易接着層付き基材G:PET/易接着層(アクリレート変性ポリエステルを主成分とするポリエステル系樹脂溶液にアジリジン系架橋剤を添加したアンカーコート層形成用組成物から形成された層)=25μm/2μmからなる、合計厚み27μmの易接着層付き樹脂フィルム。
・単層基材H:105μmのウレタンアクリレート硬化フィルムからなる単層樹脂フィルム」

「【0098】



上記記載から,甲第1号証には以下の事項が記載されていると認められる。

(1)表1(段落【0098】)の実施例3のPET=25μmからなる基材C,実施例6のPET=75μmからなる基材Dのヤング率は,それぞれ4600MPa,3981MPaであること。
(2)上記(1)から,表1(段落【0098】)の実施例2のLDPE/PET/LDPE=27.5μm/50.0μm/27.5μmからなる基材B中のPET=50μmのヤング率は,上記基材C,Dのヤング率を参照すると,基材Bのヤング率(2800MPa)より大きいこと。

そうすると,甲第1号証には,以下の発明(以下,「甲第1号証発明」という。)が記載されている。

「ワークの研削工程において好適な表面保護シートであって,
基材上に粘着剤層を有し,
基材は,LDPE/PET/LDPE=27.5μm/50.0μm/27.5μmからなり,
PETのヤング率は2800MPaより大きい,
表面保護シート。」

2 甲第2号証
甲第2号証(特開2015-183008号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関し、より詳しくは、例えば、半導体ウエハの研削加工のバックグラインドシートとして用いた際に半導体ウエハの割れを防止し得る、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末機器の薄型化、小型化、多機能化が急速に進む中、それらに搭載される半導体チップも同様に、薄型化、高密度化が求められている。従来は、厚さが350μm程度であった半導体チップを、厚さ50?100μmあるいはそれ以下まで薄くする必要が生じている。このような半導体チップの薄型化の要望に対応するために、半導体ウエハの裏面を研削して、薄型化することが行われている。
【0003】
近年では、表面に、高さ30μm?100μm程度のはんだ等からなるバンプ(電極)が形成され、凹凸部分を有する半導体ウエハの裏面を研削することがある。このようなバンプ付き半導体ウエハを裏面研削する場合、バンプ部分の表面を保護するために、バンプ部分が形成された表面に、専用の粘着シート(バックグラインドシート(BGシート))が貼付される。
【0004】
例えば、特許文献1には、ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、このウエハの裏面側から研削を行う「先ダイシング法」において、ウエハの表面側を保護するために使用される粘着シートが開示されている。特許文献1に開示の粘着シートは、剛性基材の一方の面に振動緩和層を設け、他方の面に粘着剤層を設けた構成を有している。
この特許文献1に開示の粘着シートは、剛性基材の厚さとヤング率、及び振動緩和層の厚さと動的粘弾性のtanδの最大値を所定の範囲に調整したため、先ダイシング法でBGシートとして使用した場合、極薄で欠けや変色の無い半導体チップを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-343997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体ウエハの裏面の切削加工において、BGシートを貼付した半導体ウエハの当該BGシートを、ウエハ裏面切削機のチャックテーブル上に設置した際、当該チャックテーブル上に付着した異物が原因で、半導体ウエハの切削加工により、半導体ウエハに割れが生じる場合がある。
つまり、異物が付着したチャックテーブル上に、BGシート付きの半導体ウエハのBGシートを設置すると、BGシートは当該異物の厚みだけ、当該異物とは反対側が盛り上がり、半導体ウエハの裏面には凸部が形成される。この状態で、半導体ウエハの裏面を切削すると、半導体ウエハの裏面に形成された凸部付近は、他よりも厚さが薄くなるため、割れが生じやすい。
なお、特許文献1では、このようなチャックテーブル上の異物によるウエハの割れについての検討はされていない。
そのため、このような半導体ウエハの切削加工に用いる粘着シートには、異物が付着したテーブル上に当該粘着シートを設置しても、当該異物とは反対側の盛り上がりを抑え得る程の異物吸収性が求められる。
【0007】
本発明は、異物吸収性に優れており、例えば、半導体ウエハの研削加工のBGシートとして用いた際に、半導体ウエハの割れを防止し得る、粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ヤング率が所定値以上の剛性基材の一方の面側に緩衝層、他方の面側に粘着剤層を有し、当該緩衝層が、所定の形状の圧子を当該緩衝層に押し込んだ際の圧縮荷重が2mNに到達するのに必要な押し込み深さが所定値以上である粘着シートが、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記〔1〕?〔9〕を提供するものである。
〔1〕ヤング率が1000MPa以上の剛性基材と、当該剛性基材の一方の面側に設けられた緩衝層と、当該剛性基材の他方の面側に設けられた粘着剤層とを有する粘着シートであって、
前記緩衝層が、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成されてなる層であり、且つ、先端曲率半径100nm及び稜間角115°の三角錘形状圧子の先端を10μm/分の速度で、当該緩衝層に押し込んだ際の圧縮荷重が2mNに到達するのに必要な押し込み深さ(X)が2.5μm以上である、粘着シート。
〔2〕前記緩衝層形成用組成物が、前記エネルギー線重合性化合物として、ウレタン(メタ)アクリレート(a1)、環形成原子数6?20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)、及び官能基を有する重合性化合物(a3)を含む、上記〔1〕に記載の粘着シート。
〔3〕前記緩衝層形成用組成物中の成分(a2)と成分(a3)との含有量比〔(a2)/(a3)〕が0.5?3.0である、上記〔2〕に記載の粘着シート。
〔4〕成分(a2)が、脂環基含有(メタ)アクリレートである、上記〔2〕又は〔3〕に記載の粘着シート。
〔5〕成分(a3)が、水酸基含有(メタ)アクリレートである、上記〔2〕?〔4〕のいずれか一項に記載の粘着シート。
〔6〕前記緩衝層の厚さが5?100μmである、上記〔1〕?〔5〕のいずれか一項に記載の粘着シート。
〔7〕前記緩衝層の-5?120℃における動的粘弾性のtanδの最大値が0.5以上である、上記〔1〕?〔6〕のいずれか一項に記載の粘着シート。
〔8〕前記剛性基材と前記緩衝層との間、及び前記剛性基材と前記粘着剤層との間の少なくとも一方に、易接着剤層を有する、上記〔1〕?〔7〕のいずれか一項に記載の粘着シート。
〔9〕半導体ウエハの切削加工において、半導体ウエハの表面側を保護するバックグラインドシートとして用いられる、上記〔1〕?〔8〕のいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粘着シートは、異物吸収性に優れている。そのため、本発明の粘着シートは、例えば、半導体ウエハの研削加工のBGシートとして用いた際に、半導体ウエハの割れを防止し得る。」

「【0015】
<剛性基材>
本発明の粘着シートが有する剛性基材は、ヤング率が1000MPa以上の剛性基材である。ヤング率が1000MPa未満の基材を用いた場合、得られる粘着シートを半導体ウエハに貼付した際に、当該基材の伸びが大きいため、応力が発生し易く、当該粘着シートを貼付後の半導体ウエハの反りが生じやすいため好ましくない。
そこで、本発明の粘着シートでは、ヤング率が1000MPa以上の剛性基材を用いることで、半導体ウエハに貼付した場合においても、基材の伸びが小さいため、反りの発生を抑制することができる。これは、例えば、半導体ウエハの表面に有機膜が設けられたような反りが生じやすい構成においても、粘着シート全体が剛性を有するために、半導体ウエハの反りを抑え込むことが可能となる。
【0016】
本発明で用いる剛性基材のヤング率としては、得られる粘着シートを半導体ウエハに貼付した際に、当該半導体ウエハの反りを抑制する観点、並びに、当該粘着シートを半導体ウエハに貼付する際の作業性(機械適性)を良好とする観点から、好ましくは1000?30000MPa、より好ましくは1300?20000MPa、更に好ましくは1600?15000MPa、より更に好ましくは1800?10000MPaである。
なお、本発明の剛性基材のヤング率は、実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0017】
剛性基材の厚さは、剛性基材のヤング率が上記範囲であれば特に制限はされないが、本発明の粘着シートを半導体ウエハに貼付する際の作業性(機械適性)を良好とする観点、並びに、粘着シートを半導体ウエハ(チップ)から剥離する際の応力を少なくする観点から、好ましくは10?1000μm、より好ましくは20?400μm、更に好ましくは25?150μm、より更に好ましくは30?120μmである。
【0018】
本発明で用いる剛性基材としては、ヤング率が上記範囲であれば特に制限はされないが、耐水性及び耐熱性の観点から、樹脂フィルムが好ましい。
当該樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、二軸延伸ポリプロピレン等が挙げられる。
これらの樹脂の中でも、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、二軸延伸ポリプロピレンから選ばれる1種以上が好ましく、ポリエステルがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートが更に好ましい。
なお、本発明で用いる剛性基材は、上記の樹脂から選ばれる1種又は2種以上の樹脂からなる樹脂フィルムの単層フィルムであってもよく、これらの樹脂フィルムを2種以上積層した積層フィルムであってもよい。」

「【0020】
<緩衝層>
本発明の粘着シートが有する緩衝層は、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成されてなる層であり、先端曲率半径100nm及び稜間角115°の三角錘形状圧子の先端を10μm/分の速度で、当該緩衝層に押し込んだ際の圧縮荷重が2mNに到達するのに必要な押し込み深さ(X)(以下、単に「押し込み深さ(X)」ともいう)が2.5μm以上となるように調整された層である。
緩衝層は、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成されてなる層であるため、緩衝層形成用組成物の組成の選択によって粘弾性を調整することが比較的容易である。そのため、例えば、粘着シートをBGシートとして用いた場合に、半導体ウエハの研削による振動が緩和されずに、半導体ウエハに割れや欠けが生じたり、粘着シート背面が真空テーブルから浮いてしまったりする等の問題の発生を抑制することができる。
また、本発明者らは、粘着シートの構成において、上記の押し込み深さ(X)を2.5μm以上となるように調整された緩衝層を設けることで、異物吸収性を向上させ、例えば、本発明の粘着シートを半導体ウエハの研削加工のBGシートとして用いた際に、半導体ウエハの割れを効果的に防止し得ることを見出した。
一方、当該押し込み深さ(X)が2.5μm未満である緩衝層を有する粘着シートの場合、異物吸収性が十分に向上せず、当該粘着シートを半導体ウエハの研削加工のBGシートとして用いた際に、半導体ウエハの割れが生じやすくなる傾向にある。
【0021】
上記の押し込み深さ(X)は、得られる粘着シートの異物吸収性を向上させる観点から、好ましくは2.5?20.0μm、より好ましくは2.8?15.0μm、更に好ましくは3.0?10.0μm、より更に好ましくは3.2?7.0μmである。
なお、本発明において、当該押し込み深さ(X)は、実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
また、当該押し込み深さ(X)は、緩衝層を形成する緩衝層形成用組成物中に含まれる成分の種類や含有量、緩衝層の硬化の程度等を適宜変えることで、上記範囲に属するように調整することが可能である。
【0022】
緩衝層の-5?120℃における動的粘弾性のtanδの最大値(以下、単に「tanδの最大値」ともいう)は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは1.0以上、より更に好ましくは1.2以上である。
緩衝層のtanδの最大値が0.5以上であれば、先ダイシング法において、得られる粘着シートをチップ群に貼付し、当該チップ群の裏面の研削加工する際に、砥石の振動や衝撃を緩衝層が吸収する効果がより高いため、チップ群を100μm以下になるまで研削しても、角が欠けたり、研削面が変色したりすることを抑制することができる。
なお、tanδは損失正接と呼ばれ、「損失弾性率/貯蔵弾性率」で定義され、動的粘弾性測定装置により対象物に与えた引張り応力やねじり応力等の応力に対する応答によって測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
また、この緩衝層のtanδの最大値は、上述の押し込み深さ(X)とは依存しない。
【0023】
本発明の粘着シートが有する緩衝層は、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成されてなる層である。
当該緩衝層形成用組成物中に含まれるエネルギー線重合性化合物としては、押し込み深さ(X)を上述の範囲となる緩衝層を形成できる化合物であれば特に制限はなく、例えば、光硬化性樹脂又はモノマー等を用いることができる。
ただし、押し込み深さ(X)を上述の範囲となるように調整する観点から、エネルギー線重合性化合物として、ウレタン(メタ)アクリレート(a1)、環形成原子数6?20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2)、及び官能基を有する重合性化合物(a3)を含む緩衝層形成用組成物が好ましい。
また、緩衝層形成用組成物は、光重合開始剤を含有することが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤や樹脂成分を含有してもよい。
以下、緩衝層形成用組成物中に含まれる各成分について説明する。
【0024】
(ウレタン(メタ)アクリレート(a1))
本発明で用いるウレタン(メタ)アクリレート(a1)としては、少なくとも(メタ)アクリロイル基及びウレタン結合を有する化合物であり、エネルギー線照射により重合硬化する性質を有するものである。
ウレタン(メタ)アクリレート(a1)は、オリゴマー、高分子量体、又はこれらの混合物のいずれであってもよいが、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
【0025】
成分(a1)の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000?100,000、より好ましくは2,000?60,000、更に好ましくは3,000?20,000である。
また、成分(a1)中の(メタ)アクリロイル基数(以下、「官能基数」ともいう)としては、単官能、2官能、もしくは3官能以上でもよいが、単官能又は2官能であることが好ましい。
【0026】
成分(a1)は、例えば、ポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得ることができる。
なお、成分(a1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
成分(a1)の原料となるポリオール化合物は、ヒドロキシ基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されない。
具体的なポリオール化合物としては、例えば、アルキレンジオール、ポリエーテル型ポリオール、ポリエステル型ポリオール、ポリカーボネート型ポリオール等が挙げられる。
これらの中でも、ポリエステル型ポリオールが好ましい。
なお、ポリオール化合物としては、2官能のジオール、3官能のトリオール、4官能以上のポリオールのいずれであってもよいが、2官能のジオールが好ましく、ポリエステル型ジオールがより好ましい。
【0028】
多価イソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアネートジメチルシクロヘキサン等の脂環族系ジイソシアネート類;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート類等が挙げられる。
これらの中でも、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0029】
上述のポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させてウレタン(メタ)アクリレート(a1)を得ることができる。
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、少なくとも1分子中にヒドロキシ基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば、特に限定されない。
【0030】
具体的なヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシシクロオクチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリルアミド;ビニルアルコール、ビニルフェノール、ビスフェノールAのジグリシジルエステルに(メタ)アクリル酸を反応させて得られる反応物等が挙げられる。
これらの中でも、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0031】
末端イソシアネートウレタンプレポリマー及びヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させる条件としては、必要に応じて添加される溶剤、触媒の存在下、60?100℃で、1?4時間反応させる条件が好ましい。
【0032】
緩衝層形成用組成物中の成分(a1)の含有量は、押し込み深さ(X)が上述の範囲となる緩衝層を形成する観点から、緩衝層形成用組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは10?70質量%、より好ましくは20?60質量%、更に好ましくは25?55質量%、より更に好ましくは30?50質量%である。
【0033】
(環形成原子数6?20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(a2))
本発明で用いる成分(a2)は、環形成原子数6?20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物であり、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。この成分(a2)を用いることで、得られる緩衝層形成用組成物の成膜性を向上させることができる。
【0034】
成分(a2)が有する脂環基又は複素環基の環形成原子数は、好ましくは6?20であるが、より好ましくは6?18、更に好ましくは6?16、より更に好ましくは7?12である。
当該複素環基の環構造を形成する原子としては、例えば、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。
なお、本発明において、環形成原子数とは、原子が環状に結合した構造の化合物の当該環自体を構成する原子の数を表し、環を構成しない原子(例えば、環を構成する原子に結合した水素原子)や、当該環が置換基によって置換される場合の置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。
【0035】
具体的な成分(a2)としては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレート等の脂環基含有(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート等の複素環基含有(メタ)アクリレート;等が挙げられる。
なお、成分(a2)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、脂環基含有(メタ)アクリレートが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0036】
緩衝層形成用組成物中の成分(a2)の含有量は、押し込み深さ(X)が上述の範囲となる緩衝層を形成する観点、及び得られる緩衝層形成用組成物の成膜性を向上させる観点から、緩衝層形成用組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは10?70質量%、より好ましくは20?60質量%、更に好ましくは25?55質量%、より更に好ましくは30?50質量%である。
【0037】
(官能基を有する重合性化合物(a3))
本発明で用いる成分(a3)は、水酸基、エポキシ基、アミド機、アミノ基等の官能基を含有する重合性化合物であり、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。
成分(a3)は、成分(a1)との相溶性が良好であり、緩衝層形成用組成物の粘度を適度は範囲に調整し、当該組成物から形成される緩衝層の弾性率も適度な範囲とすることができる。そのため、この成分(a3)を用いることで、押し込み深さ(X)が上述の範囲となる緩衝層を形成することができる。
成分(a3)としては、例えば、水酸基含有(メタ)アクリレート、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、アミド基含有化合物、アミノ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェニルヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
アミド基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、第1級アミノ基含有(メタ)アクリレート、第2級アミノ基含有(メタ)アクリレート、第3級アミノ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、成分(a3)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
これらの中でも、押し込み深さ(X)が上述の範囲となる緩衝層を形成する観点から、水酸基含有(メタ)アクリレートが好ましく、フェニルヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の芳香環を有する水酸基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0040】
緩衝層形成用組成物中の成分(a3)の含有量は、押し込み深さ(X)が上述の範囲となる緩衝層を形成する観点、及び得られる緩衝層形成用組成物の成膜性を向上させる観点から、緩衝層形成用組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは5?40質量%、より好ましくは7?35質量%、更に好ましくは10?30質量%、より更に好ましくは13?25質量%である。
【0041】
また、緩衝層形成用組成物中の成分(a2)と成分(a3)との含有量比〔(a2)/(a3)〕は、好ましくは0.5?3.0、より好ましくは1.0?3.0、更に好ましくは1.3?3.0、より更に好ましくは1.5?2.8である。
当該含有量比が0.5以上であれば、得られる緩衝層形成用組成物の成膜性を良好とすることができる。一方、当該含有量比が3.0以下であれば、押し込み深さ(X)が上述の範囲となる緩衝層を形成することができる。
【0042】
(成分(a1)?(a3)以外の重合性化合物)
緩衝層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記の成分(a1)?(a3)以外のその他の重合性化合物を含有してもよい。
その他の重合性化合物としては、例えば、炭素数1?20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のビニル化合物:等が挙げられる。
なお、これらのその他の重合性化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
緩衝層形成用組成物中のその他の重合性化合物の含有量は、好ましくは0?20質量%、より好ましくは0?10質量%、更に好ましくは0?5質量%、より更に好ましくは0?2質量%である。
【0044】
(光重合開始剤)
緩衝層形成用組成物には、緩衝層を形成する際、光照射による重合時間の短縮及び光照射量の低減の観点から、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光重合開始剤、アミンやキノン等の光増感剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等が挙げられる。
これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
緩衝層形成用組成物中の光重合開始剤の含有量は、エネルギー線重合性化合物の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05?15質量部、より好ましくは0.1?10質量部、更に好ましくは0.3?5質量部である。
【0046】
(その他の添加剤)
緩衝層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。
その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。
これらの添加剤を配合する場合、緩衝層形成用組成物中の各添加剤の含有量は、エネルギー線重合性化合物の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01?6質量部、より好ましくは0.1?3質量部である。
【0047】
(樹脂成分)
緩衝層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、樹脂成分を含有してもよい。
樹脂成分としては、例えば、ポリエン・チオール系樹脂や、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、及びスチレン系共重合体等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
緩衝層形成用組成物中のこれらの樹脂成分の含有量は、好ましくは0?20質量%、より好ましくは0?10質量%、更に好ましくは0?5質量%、より更に好ましくは0?2質量%である。」

「【0048】
<粘着剤層>
本発明の粘着シートが有する粘着剤層を形成する粘着剤としては、半導体ウエハ等の被着体に対して、適度な再剥離性がある粘着剤であれば、その粘着剤の種類は限定されない。
このような粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤、加熱発泡型粘着剤、水膨潤型粘着剤等が挙げられる。
これらの粘着剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
なお、エネルギー線硬化型粘着剤としては、例えば、特開昭60-196956号公報、特開昭60-223139号公報等に記載されている粘着剤が挙げられ、紫外線硬化型粘着剤が好ましい。
これらの粘着剤に含まれる樹脂の質量平均分子量(Mw)としては、好ましくは2万?150万、より好ましくは5万?120万、更に好ましくは10万?100万である。
また、これらの粘着剤には、必要に応じて、エネルギー線硬化型樹脂、硬化剤、架橋剤、光重合開始剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等を含有してもよい。
【0050】
粘着剤層の厚さは、被着体となる半導体ウエハのバンプの形状、表面状態及び研磨方法等の条件により適宜設定されるが、好ましくは5?500μm、より好ましくは10?300μm、更に好ましくは15?100μmである。」

上記記載から,甲第2号証には,以下の発明(以下,「甲第2号証発明」という。)が記載されている。

「半導体ウエハの研削加工のバックグラインドシートとして用いた際に半導体ウエハの割れを防止し得る,異物吸収性に優れた粘着シートであって,
ヤング率が1000MPa以上の剛性基材と、当該剛性基材の一方の面側に設けられた緩衝層と、当該剛性基材の他方の面側に設けられた粘着剤層とを有し,
前記緩衝層は,エネルギー線重合性化合物を含み,
前記エネルギー線重合性化合物は,ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(a1)と,環形成原子数6?20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物であり,少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物(a2)と,官能基を有する重合性化合物(a3)を含む,
粘着シート。」

3 甲第3号証
甲第3号証(藤木時男 他2名,エチレン重合体側鎖の動的粘弾性に及ぼす影響,東洋曹達研究報告,第12巻第1号,1968年,p.24-28,東洋曹達株式会社)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「1.まえがき
エチレン重合体の側鎖が固体動的粘弾性に及ぼす影響について研究した。一般にpolymerの側鎖は結晶化度や溶融体の流動挙動,希釈溶液の極限粘度に影響を与え側鎖を有するpolymerの物性を大きく支配している。特に,固体物性に及ぼす影響については,側鎖は結晶化度に直接関与し,その結果としてpolymerの機械的性質-柔軟性や破断強さ等に間接的に作用を及ぼしている。エチレン重合体の場合にはその使用温度域が丁度分散,結晶分散の現れる温度域に相当するので,それぞれの分子運動様式に対応する力学的緩和機構における側鎖の役割を調べることは,エチレン重合体の物性を基本的に考える上で非常に重要なことである。本研究では,ポチエチレンおよび酢酸ビニル共重合体の側鎖が固体中の分子運動のモードに及ぼす影響を動的粘弾性の面から調べた。
2.実験
[1]試料
本研究で用いた樹脂の特性をTable I に表した。」(第24頁左欄1行乃至右欄2行)

「3.結果
Fig.1に各資料の110c/sにおける貯蔵弾性率E’および損失角のtanδの温度分散を示した。」(第25頁左欄13行乃至15行)

上記記載から,甲第3号証には,以下の事項(以下,「甲第3号証記載事項」という。)が記載されている。
「メルトインデックス(MI)が2.7の低密度ポリエチレンの23℃および60℃における貯蔵弾性率E’が約400MPaおよび約150MPaであり,
メルトインデックス(MI)が0.3の低密度ポリエチレンの23℃および60℃における貯蔵弾性率E’が約280MPaおよび約90MPaであること。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)甲第1号証発明を引用発明とする検討
ア 対比
(ア)甲第1号証発明の「粘着剤層」及び「表面保護シート」は,それぞれ本件発明1の「粘着剤層」及び「半導体加工用粘着テープ」に相当する。
(イ)本件特許明細書段落【0156】に「実施例5」として記載されたLDPE/PET/LDPEの順に積層された積層体は,基材の両面に緩衝層を積層した基材と緩衝層との積層体であるから,甲第1号証発明の,同じく「LDPE/PET/LDPE」からなる「基材」は,基材と緩衝層とからなる積層体であるといえる。
そうすると,甲第1号証発明の「PET」は,本件発明1の「基材」に相当し,甲第1号証発明の「LDPE/PET/LDPE」の「粘着剤層」を有さない面の「LDPE」は,本件発明1の「緩衝層」に相当する。
(ウ)上記(イ)から,甲第1号証発明のヤング率が「2800MPaより大きい」「PET」と,本件発明1の「23℃におけるヤング率が1000MPa以上の基材」とは,「ヤング率が1000MPa以上の基材」である点で共通する。
(エ)そうすると,本件発明1と甲第1号証発明は以下の点一致し,また,相違する。
[一致点]
「ヤング率が1000MPa以上の基材と、当該基材の少なくとも一方の面側に設けられた緩衝層と、当該基材の他方の面側に設けられた粘着剤層とを有する粘着テープである、半導体加工用粘着テープ」

[相違点1]
「基材」について,本件発明1は「23℃におけるヤング率が1000MPa以上の基材」であるのに対して,甲第1号証発明は,ヤング率が1000MPa以上であるものの,そのヤング率が如何なる温度でのものであるのか,不明である点。

[相違点2]
本件発明1は「前記緩衝層の23℃における引張貯蔵弾性率(E_(23))が100?2000MPaであり、前記緩衝層の60℃における引張貯蔵弾性率(E_(60))が20?1000MPaである」のに対して,甲第1号証発明は,それぞれの温度における「粘着剤層」を有さない面の「LDPE」の引張貯蔵弾性率が如何なる値であるのか不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア)[相違点2]について
LDPEは,LDPEを構成するポリエチレンの枝構造の数や長さの割合,分子量分布により物性が変化することは周知の事項であり,甲第1号証発明の「粘着剤層」を有さない面の「LDPE」について,LDPEを構成するポリエチレンの枝構造の数や長さの割合,分子量分布が甲第1号証には記載されていないことから,その23℃における引張貯蔵弾性率(E_(23))を100?2000MPaとし、60℃における引張貯蔵弾性率(E_(60))を20?1000MPaであることが,自明の事項であるとはいえない。
また,甲第2号証発明および甲第3号証記載事項にも,半導体加工用粘着テープにおける「緩衝層」の23℃における引張貯蔵弾性率(E_(23))を100?2000MPaとし、60℃における引張貯蔵弾性率(E_(60))を20?1000MPaとすることによって,裏面研削時の応力を吸収・緩和すること(本件明細書段落【0029】),即ち,特定温度における引張貯蔵性率と裏面研削時の応力に対する挙動との関係(以下,「本件関係」という。)を利用するという技術思想は記載されていないから,甲第1号証発明の「粘着剤層」を有さない面の「LDPE」を,[相違点2]に係る構成とすることが容易であるとはいえない。
そして,本件発明1は,[相違点2]に係る構成を有することで,「本発明に係る半導体加工用粘着テープは、裏面研削時の応力により変形しにくく、かつ、該応力を適度に緩和する。そのため、裏面研削時のチップの振動または移動を抑制し、チップ同士の衝突を防止できる。その結果、半導体チップにおけるクラックの発生を低減できる。」(本件明細書段落【0018】)という格別の効果を有するものである。
(イ)申立人の主張について
申立人は,[相違点2]について,具体的な引張貯蔵弾性率の記載がなくても,素材の名称が同じであれば特殊なLDPEであることを窺わせる記載でもない限り基本的に同様な物性を有するものである旨主張している。しかしながら,上記(ア)で検討したように,LDPEは,LDPEを構成するポリエチレンの枝構造の数や長さの割合,分子量分布により物性が変化することは周知の事項であるから,かかる主張には理由がない。
また,申立人は,甲第3号証記載事項から,甲第1号発明のLDPEも,[相違点2]に係る程度の値と考えられる旨主張している。しかしながら,甲第3号証記載事項のLDPEは,半導体加工用粘着テープにおける「緩衝層」に用いられるLDPEでないから,甲第3号証記載事項から,甲第1号証発明のLDPEが,[相違点2]と同様の値であるとはいえない。

ウ 本件発明1についての,甲第1号証発明を引用発明とする検討のまとめ
そうすると,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第1号証発明ではなく,また,甲第1号証発明,甲第2号証発明及び甲第3号証記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲第2号証発明を引用発明とする検討
ア 対比
(ア)甲第2号証発明の「剛性基材」,「緩衝層」,「粘着剤層」,「粘着シート」は,それぞれ本件発明1の「基材」,「緩衝層」,「粘着剤層」,「半導体加工用粘着テープ」に相当する。
(イ)甲第2号証の「ヤング率が1000MPa以上の剛性基材」と,本件発明1の「23℃におけるヤング率が1000MPa以上の基材」は,「ヤング率が1000MPa以上の基材」である点で共通する。

(エ)そうすると,本件発明1と甲第2号証発明は以下の点一致し,また,相違する。
[一致点]
「ヤング率が1000MPa以上の基材と、当該基材の少なくとも一方の面側に設けられた緩衝層と、当該基材の他方の面側に設けられた粘着剤層とを有する粘着テープである、半導体加工用粘着テープ」

[相違点3]
「基材」について,本件発明1は「23℃におけるヤング率が1000MPa以上の基材」であるのに対して,甲第2号証発明は,ヤング率が1000MPa以上であるものの,そのヤング率が如何なる温度でのものであるのか,不明である点。

[相違点4]
本件発明1は「前記緩衝層の23℃における引張貯蔵弾性率(E_(23))が100?2000MPaであり、 前記緩衝層の60℃における引張貯蔵弾性率(E_(60))が20?1000MPaである」のに対して,甲第2号証発明は,それぞれの温度における「緩衝層」の引張貯蔵弾性率が如何なる値であるのか不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア)[相違点4]について
甲第1号証発明および甲第3号証記載事項には,本件関係は記載されていないから,甲第2号証発明の「緩衝層」を,[相違点4]に係る構成とすることが容易であるとはいえない。
そして,本件発明1は,[相違点4]に係る構成を有することで,「本発明に係る半導体加工用粘着テープは、裏面研削時の応力により変形しにくく、かつ、該応力を適度に緩和する。そのため、裏面研削時のチップの振動または移動を抑制し、チップ同士の衝突を防止できる。その結果、半導体チップにおけるクラックの発生を低減できる。」(本件明細書段落【0018】)という格別の効果を有するものである。
(イ)申立人の主張について
申立人は,[相違点4]について,甲第2号証発明の「エネルギー線重合性化合物」含む「緩衝層」は,本件発明1の「緩衝層」と構成樹脂が同じである旨主張している。しかしながら,本件発明1の「緩衝層」を構成する樹脂であるウレタン(メタ)アクリレート(段落【0038】)及び甲第2号証発明の「エネルギー線重合性化合物」に含まれる「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(a1)」は,ポリオールの構造と分子量,イソシアネートの種類,ヒドロキシアクリレートの種類,アクリル基の数などにより物性が異なるものであり,上記分子量等が同じであるとの記載は認められないから,申立人の上記主張には理由がない。

ウ 本件発明1についての,甲第2号証発明を引用発明とする検討のまとめ
そうすると,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第2号証発明,甲第1号証発明及び甲第3号証記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2ないし8について
本件発明2ないし4並びに6及び7は,それぞれ本件発明1に対して,さらに「前記緩衝層の-5?120℃における動的粘弾性のtanδの最大値が1.0以下である」,「前記緩衝層の23℃における引張貯蔵弾性率(E_(23))及び前記緩衝層の60℃における引張貯蔵弾性率(E_(60))が、(E_(23))/(E_(60))≦90の関係を満たす」,「前記緩衝層が、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成される層である」,「前記緩衝層がポリオレフィン樹脂フィルムを含む層である」及び「前記粘着剤層の厚さが100μm未満である」との技術的事項を追加したものであり,本件発明5は本件発明4に対してさらに「前記エネルギー線重合性化合物が、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーと多官能重合性化合物とを含む」との技術的事項を追加したものである。
また,本件発明8は,本件発明1の「半導体加工用粘着テープ」を用いた,「半導体装置の製造方法」である。
よって,上記1に示した理由と同様の理由により,本件発明2,3,6ないし8は,甲第1号証発明ではなく,また,本件発明2ないし8は,甲第1号証発明,甲第2号証発明及び甲第3号証記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-20 
出願番号 特願2018-530176(P2018-530176)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 湯川 洋介内田 正和  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 小田 浩
恩田 春香
登録日 2018-08-17 
登録番号 特許第6386696号(P6386696)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 半導体加工用粘着テープおよび半導体装置の製造方法  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  

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