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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C21D 審判 全部申し立て 特39条先願 C21D |
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管理番号 | 1353188 |
異議申立番号 | 異議2018-701008 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-12-12 |
確定日 | 2019-07-01 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6343688号発明「超高強度被覆または非被覆鋼板を製造する方法および得られる鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6343688号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6343688号の請求項1ないし5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2014年(平成26年)7月3日(外国庁受理 国際事務局(IB))を国際出願日として特許出願され、平成30年5月25日に特許権の設定登録がされ、同年6月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年12月12日付けで特許異議申立人 渡辺広基 により請求項1ないし5に係る特許に対して特許異議の申立てがされたので、平成31年2月26日付けで取消理由を通知したところ、令和1年5月27日付けで意見書のみが提出されものである。 第2 本件発明 特許第6343688号の請求項1ないし5の特許に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも1470MPaの引張強度TSおよび少なくとも19%の全伸びTEを有する冷間圧延鋼板を製造する方法であって、以下の連続工程: - 重量%で、 0.34%≦C≦0.37% 1.50%≦Mn≦2.30% 1.50≦Si≦2.40% 0.35%<Cr≦0.45% 0.07%<Mo≦0.20% 0.01%≦Al≦0.08% を含有する化学組成を有し、 残部はFeおよび不可避不純物である鋼でできた冷間圧延鋼板を、鋼のAc3変態点を超える焼鈍温度ATにおいて焼鈍する工程、 - 鋼のMs変態点未満であり、且つ200℃と230℃の間である焼入れ温度QTまで、焼鈍された鋼板を冷却することにより焼入れする工程、および - 焼入れされた鋼板を350℃と450℃の間の分配温度PTにおいて再加熱し、鋼板を分配温度PTにおいて15秒と120秒の間の分配時間Ptの間維持することにより、分配処理する工程、 - 分配後、非被覆鋼板を得るために、鋼板を室温まで冷却する工程 を含む、方法。 【請求項2】 焼鈍温度ATが870℃と930℃の間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 少なくとも1470MPaの引張強度TSおよび少なくとも19%の全伸びTEを有する冷間圧延鋼板を製造する方法であって、以下の連続工程: - 重量%で、 0.34%≦C≦0.37% 1.50%≦Mn≦2.30% 1.50≦Si≦2.40% 0.35%<Cr≦0.45% 0.07%<Mo≦0.20% 0.01%≦Al≦0.08% を含有する化学組成を有し、 残部はFeおよび不可避不純物である鋼でできた冷間圧延鋼板を、鋼のAc3変態点を超える焼鈍温度ATにおいて焼鈍する工程、 - 鋼のMs変態点未満であり、且つ200℃と230℃の間である焼入れ温度QTまで、焼鈍された鋼板を冷却することにより焼入れする工程、および - 焼入れされた鋼板を350℃と450℃の間の分配温度PTにおいて再加熱し、鋼板を分配温度PTにおいて25秒と55秒の間の分配時間Ptの間維持することにより、分配処理する工程、 - 分配後、被覆鋼板を得るために、鋼板を亜鉛めっきし、次に室温まで冷却する工程 を含む、方法。 【請求項4】 重量%で: 0.34%≦C≦0.40% 1.50%≦Mn≦2.30% 1.50≦Si≦2.40% 0.35%<Cr≦0.45% 0.07%<Mo≦0.20% 0.01%≦Al≦0.08% を含有する化学組成有し、 残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできた非被覆鋼板であって、前記鋼板が、少なくとも60%のマルテンサイトおよび12%と15%の間の残留オーステナイトを含む組織を有し、前記鋼板が、降伏強度880MPaを超え、引張強度1520MPaを超え、且つ全伸び少なくとも20%を有する、非被覆鋼板。 【請求項5】 重量%で: 0.34%≦C≦0.40% 1.50%≦Mn≦2.30% 1.50≦Si≦2.40% 0.35%<Cr≦0.45% 0.07%<Mo≦0.20% 0.01%≦Al≦0.08% を含有する化学組成を有し、 残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできた被覆鋼板であって、前記鋼板が、少なくとも60%のマルテンサイトおよび12%と15%の間の残留オーステナイトを含む組織を有し、前記鋼板が、亜鉛めっきされたものであり、前記鋼板が、引張強度1510MPaを超え、且つ全伸び少なくとも20%を有する、被覆鋼板。」 第3 特許異議申立の概要 特許異議申立人は、証拠として後記する甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、以下の理由により、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1.申立理由1(取消理由として不採用) 本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 2.申立理由2(取消理由として不採用) 本件発明1?5は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 3.申立理由3(取消理由として不採用) 本件発明3及び5は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 4.申立理由4(取消理由として不採用) 本件発明3及び5は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 5.申立理由5(取消理由として不採用) 本件発明1?5は、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 6.申立理由6(取消理由として一部採用) 本件発明3及び5は、同一出願人が同日出願した甲第6号証に記載された発明(平成29年3月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された請求項1?19に係る発明、甲第6号証の公表特許公報17?20頁参照)と同一と認められるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。 <証拠> ○甲第1号証:特開2011-184756号公報 ○甲第2号証:特開2010-90475号公報 ○甲第3号証:特開2009-209450号公報 ○甲第4号証:国際公開第2014/020640号 ○甲第5号証:特表2014-518945号公報 ○甲第6号証:特願2016-575869号 (特表2017-527691号公報) (平成29年3月1日提出の手続補正書により補正された特許 請求の範囲に記載された請求項1?19に係る発明) 第4 取消理由について 1.取消理由の概要 申立理由1?5を通知せず、申立理由6の一部を取消理由として採用して通知した。 すなわち、取消理由は、本件発明5は、同一出願人が同日出願した甲第6号証に記載された発明(平成29年3月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された請求項1?19に係る発明、甲第6号証の公表特許公報17?20頁参照)と同一と認められるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない、としたものである。 より詳細には次のようになる。 甲第6号証の平成29年3月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された請求項15に係る発明(甲第6号証の公表特許公報19頁参照)(以下、「先願発明15」という。)は次のものである。 「【請求項15】 重量%で: 0.34%≦C≦0.40% 1.50%≦Mn≦2.30% 1.50≦Si≦2.40% 0.35%<Cr≦0.45% 0.07%≦Mo≦0.20% 0.01%≦Al≦0.08%および 0%≦Nb≦0.05% を含有する化学組成を有し、 残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできた被覆鋼板であって、被覆鋼板が、少なくとも60%のマルテンサイトおよび12%と15%の間の残留オーステナイトを含む組織を有し、被覆鋼板が、亜鉛めっきされたものであり、被覆鋼板が、引張強度少なくとも1510MPa、且つ全伸び少なくとも20%を有する、被覆鋼板。」 本件発明5と先願発明15とを対比すると、本件発明5は「Nb」を含まないのに対して、先願発明15は「0%≦Nb≦0.05%」とする点で一応相違する。 しかしながら、先願発明15は、Nbを含まない発明(「先願発明15a」という。)と、Nbを含む発明(「先願発明15b」という。)という互いに別個の二つの発明を含むものであるところ、本件発明5は先願発明15aと何ら差異はないから、本件発明5と先願発明15aとは同一発明であるといえる。 したがって、本件発明5は、同一出願人が同日出願した甲第6号証に記載された発明と同一と認められるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.令和1年5月27日付け意見書の対応 この取消理由に対して、本件特許権者は、令和1年5月27日付け意見書において、甲第6号証に係る特許出願(特願2016-575869号)は、特許査定(平成31年4月23日発送)されたが、特許料納付期限(令和1年5月23日)までに納付手続を行わなかったので、特許法第18条第2項により出願却下処分となり、特許法第39条第5項により甲第6号証に係る特許出願に先願の地位はなくなるから、取消理由は解消する旨を釈明した。 当審はこの釈明を是として、取消理由は解消したと判断する。 なお、先願を原出願とする分割出願(特願2019-93514号)は令和1年5月17日付け手続補正書により補正され、その請求項15に係る発明は、 「【請求項15】 重量%で: 0.34%≦C≦0.40% 1.50%≦Mn≦2.30% 1.50≦Si≦2.40% 0.35%<Cr≦0.45% 0.07%≦Mo≦0.20% 0.01%≦Al≦0.08%および 0%<Nb≦0.05% を含有する化学組成を有し、 残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできた被覆鋼板であって、 被覆鋼板が、少なくとも60%のマルテンサイトおよび 12%と15%の間の残留オーステナイトを含む組織を有し、 被覆鋼板が、亜鉛めっきされたものであり、 被覆鋼板が、引張強度少なくとも1510MPa、 且つ全伸び少なくとも20%を有する、 被覆鋼板。」であり、Nbを含むものだから、Nbを含まない本件発明5とは異なる発明であることは明らかである。 第5 取消理由として採用しなかった特許異議申立理由についての判断 取消理由として採用しなかった特許異議申立理由は、上記「第3」でみた申立理由1?5及び申立理由6の一部であるが、まず、申立理由6の一部を判断し、次に申立理由1?5を判断する。 1.申立理由6の一部について 申立理由6の一部は、本件発明3は、同一出願人が同日出願した甲第6号証に記載された発明(平成29年3月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された請求項1?19に係る発明、甲第6号証の公表特許公報17?20頁参照)と同一と認められるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。 しかし、上記「第4 2.」でみたように、甲第6号証に係る特許出願(特願2016-575869号 以下、「先願」ということがある。)は、出願却下処分となり、特許法第39条第5項により甲第6号証に係る特許出願に先願の地位はなくなるから、申立理由は解消するものである。 なお、先願を原出願とする分割出願(特願2019-93514号)は令和1年5月17日付け手続補正書により補正され、その請求項1に係る発明は、 「【請求項1】 少なくとも1470MPaの引張強度TSおよび少なくとも16%の全伸びTEを有する被覆鋼板を製造する方法であって、以下の連続工程: - 重量%で、 0.34%≦C≦0.40% 1.50%≦Mn≦2.30% 1.50≦Si≦2.40% 0.35%<Cr≦0.45% 0.07%≦Mo≦0.20% 0.01%≦Al≦0.08%および 0%≦Nb≦0.05% を含有する化学組成を有し、 残部はFeおよび不可避不純物である鋼でできた冷間圧延鋼板を、鋼のAc3変態点を超える焼鈍温度ATにおいて焼鈍する工程、 - 鋼のMs変態点未満であり、且つ200℃と230℃の間である焼入れ温度QTまで、焼鈍された鋼板を冷却することにより焼入れする工程、および - 焼入れされた鋼板を350℃と450℃の間の分配温度PTにおいて再加熱し、焼入れされた鋼板をこの温度において25秒と55秒の間の分配時間Ptの間維持することにより、分配処理する工程、 - 分配後、被覆鋼板を得るために、鋼板を亜鉛めっきする工程、次に、鋼板を室温まで冷却する工程 を含む、方法。」であり、「少なくとも16%の全伸びTEを有する」点で「少なくとも19%の全伸びTEを有する」本願発明1とは異なる発明であることは明らかである。 2.申立理由1?5について 2-1.合金の一般的な考え方について 一般に、合金は、所定の含有量を有する合金元素の組み合わせが一体のものとして技術的意義を有するのであって、所与の特性が得られる組み合わせについては、実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮してはじめて理解され、合金を構成する元素が同じであっても配合量や製造方法に差違があれば、金属組織が異なり性質が異なることになり、それらは予測が困難である、という技術常識があるといえる。 (要すれば、平成29年(行ケ)第10121号を参照。) そこで、上記の合金の一般的な考え方に照らして、以下に申立理由1?5について検討する。 2-2.申立理由1について 2-2-1.甲第1号証の記載 甲第1号証には以下のことが記載されている。 (1ア)「【請求項1】 質量%で C:0.30%以上0.73%以下、 Si:3.0%以下、 Al:3.0%以下、 Si+Al:0.7%以上、 Cr:0.2%以上8.0%以下、 Mn:10.0%以下、 Cr+Mn:1.0%以上、 P:0.1%以下、 S:0.07%以下および N:0.010%以下 を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、 鋼板組織として、マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が15%以上90%以下、残留オーステナイト量が10%以上50%以下、該マルテンサイトのうち50%以上が焼戻しマルテンサイトであり且つ該焼戻しマルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以上、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以下(0%を含む)を満足し、引張強さが1470MPa以上、引張強さ×全伸びが29000MPa・%以上であることを特徴とする高強度鋼板。 【請求項9】 請求項1?8のいずれか1項に記載の鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を具えることを特徴とする、高強度鋼板。 【請求項10】 請求項1?8のいずれか1項に記載の成分組成になる鋼片を、熱間圧延後、冷間圧延により冷延鋼板とし、ついで該冷延鋼板を、オーステナイト単相域で15秒以上1000秒以下焼鈍した後、マルテンサイト変態開始温度Msに対してMs-150℃以上Ms未満の第1温度域まで平均冷却速度:3℃/s以上で冷却し、その後、340℃以上520℃以下の第2温度域に昇温し、引き続き該第2温度域に15秒以上1000秒以下保持することを特徴とする、高強度鋼板の製造方法。」 (1イ)「【0011】 本発明は、これまで高強度ゆえに加工性の確保が困難であった点を有利に解決したもので、引張強さ(TS)が1470MPa以上でしかも延性に優れる高強度鋼板を、その有利な製造方法とともに提供することを目的とする。 また、本発明の高強度鋼板には、鋼板の表面に溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを施した鋼板を含むものとする。 なお、本発明において、加工性に優れるとは、引張強さ(TS)×全伸び(T.EL)の値が29000MPa・%以上であることを意味する。」 (1ウ)「【0036】 次に、本発明において、鋼板の成分組成を上記のように限定した理由について述べる。なお、以下の成分組成を表す%は質量%を意味するものとする。 C:0.30%以上0.73%以下 Cは鋼板の高強度化および安定した残留オーステナイト量を確保するのに必要不可欠な元素であり、マルテンサイト量の確保および室温でオーステナイトを残留させるために必要な元素である。C量が0.30%未満では、鋼板の強度と加工性を確保することが難しい。一方、C量が0.73%を超えると、溶接部および溶接熱影響部の硬化が著しく溶接性が劣化する。従って、C量は0.30%以上0.73%以下の範囲とする。好ましくは、0.34%超0.69%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.39%以上である。」 (1エ)「【0040】 Cr:0.2%以上8.0%以下 Crは本発明において必須の元素であり、焼鈍温度からの冷却時にフェライトおよびパーライトの生成を抑制する作用を有すると同時に、マルテンサイトの加工性を向上させる。そのメカニズムは明確ではないが、炭化物の生成状態などを変化させることによって、硬質で高強度なマルテンサイトであっても、加工性が優れる状態が実現されているものと考えられ、その効果はCr量が0.2%以上で得られる。好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上である。一方、Cr量が8.0%を超えると、硬質なマルテンサイトの量が過大となり、必要以上に高強度となる場合や十分な延性が得られない場合がある。このため、Cr量は8.0%以下とする。好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下である。」 (1オ)「【0066】 表1に示す成分組成の鋼を溶製して得た鋼片を、1200℃に加熱し、870℃で仕上げ熱間圧延した熱延鋼板を650℃で巻き取り、次いで熱延鋼板を酸洗後、65%の圧延率(圧下率)で冷間圧延し、板厚:1.2mmの冷延鋼板とした。得られた冷延鋼板を、表2に示す条件で熱処理を施した。なお、表2中の冷却停止温度:T1とは、焼鈍温度から鋼板を冷却する際に、鋼板の冷却を停止する温度とする。」 (1カ)「【0069】 また、一部の冷延鋼板については、溶融亜鉛めっき処理あるいは合金化溶融亜鉛めっき処理を施した。ここで、溶融亜鉛めっき処理は、めっき浴温度:463℃、目付け量(片面あたり):50g/m^(2)となるように両面めっきを施した。また、合金化溶融亜鉛めっき処理は、同じくめっき浴温度:463℃、目付け量(片面あたり):50g/m^(2)として合金化度(Fe質量%(Fe含有量))が9質量%となるように合金化温度:550℃以下で合金化条件を調整して両 面めっきを施した。なお、溶融亜鉛めっき処理および合金化溶融亜鉛めっき処理は、表2中に示すT1℃まで一旦冷却した後に行った。」 (1キ)溶製した鋼の成分組成を【表1】(【0067】)に、熱処理を【表2】(【0068】)、熱処理後の鋼の物性を【表3】(【0076】)に示す。 2-2-2.甲第1号証に記載の発明 i)上記「2-1.」でみた合金の一般的な考え方に照らし、甲第1号証の実施例をみると、甲第1号証の記載事項(1キ)の表1の実施例には、「鋼種」A?Uが示され、本件発明1?5と鋼の構成元素の組合せが一致するのは鋼種Nであるところ、質量%で、鋼種Nは、C:0.68%、Si:1.07%、Mn:1.20%、Al:1.18%、Cr:0.31%、Mo:0.01%、P:0.011%、S:0.0042%、N:0.0023%、Si+Al:2.25%、Cr+Mn:1.51%を含むものである。 ii)また、同(1オ)から、鋼種Nは、熱間圧延後に冷間圧延され、同(1キ)の表2(No.27)と同(1ア)の【請求項10】と同(1カ)から、920℃で180秒間焼鈍した後、マルテンサイト変態開始温度Ms=200℃に対してMs-150℃=50℃未満の第1温度域まで平均冷却速度10℃/sで冷却し、溶融亜鉛めっきがなされ、その後、410℃の第2温度域に昇温し、引き続き該第2温度域に90秒保持される。 iii)この熱処理の結果、同(1キ)の表3(No.27)と同(1ア)の【請求項1】から、鋼種Nは熱処理後に、鋼板組織として、マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が42%、残留オーステナイト量が22%、該マルテンサイトのうち100%が焼戻しマルテンサイトであり且つ該焼戻しマルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が42%、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が0%で、引張強さが1777MPa、引張強さ×全伸びが42648MPa・%、全伸びT・ELが24%の溶融亜鉛めっき鋼板となっているものといえる。 iv)すると、本件発明5の特定事項に則して整理すれば、甲第1号証には、 「質量%で C:0.68%、 Mn:1.20% Si:1.07%、 Cr:0.031% Mo:0.01% Al:1.18%、 Si+Al:2.25%、 Cr+Mn:1.51%、 P:0.011%、 S:0.0042%および N:0.0023% を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなり、 鋼板組織として、マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が42%、残留オーステナイト量が22%、該マルテンサイトのうち100%が焼戻しマルテンサイトであり且つ該焼戻しマルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が42%、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が0%で、引張強さが1777MPa、引張強さ×全伸びが42648MPa・%、全伸び24%である、亜鉛めっき鋼板。」の発明(以下、「甲1物発明」という。)が記載されていると認められる。 v)また、本件発明3の特定事項に則して整理すれば、甲第1号証には、「1777MPaの引張強度および24%の全伸びを有する冷間圧延鋼板を製造する方法であって、以下の連続工程、 質量%で C:0.68%、 Mn:1.20% Si:1.07%、 Cr:0.031% Mo:0.01% Al:1.18%、 Si+Al:2.25%、 Cr+Mn:1.51%、 P:0.011%、 S:0.0042%および N:0.0023% を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなる冷間圧延鋼板を、 920℃で180秒間焼鈍した後、 マルテンサイト変態開始温度Ms=200℃に対してMs-150℃=50℃未満の第1温度域まで平均冷却速度10℃/sで冷却し、 溶融亜鉛めっきがなされ、 その後、410℃の第2温度域に昇温し、引き続き該第2温度域に90秒保持される、ことを含む方法。」の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。 2-2-3.本件発明との対比 (1)本件発明5と甲1物発明との対比 i)甲1物発明の「C:0.68%、Mn:1.20%、Si:1.07%、Cr:0.031%、Mo:0.01%、Al:1.18%、Si+Al:2.25%、Cr+Mn:1.51%」と、本件発明5の「重量%で:0.34%≦C≦0.40%、1.50%≦Mn≦2.30%、1.50≦Si≦2.40%、0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.01%≦Al≦0.08%」(1.51≦Si+Al≦2.48、1.85≦Cr+Mn≦2.75)とは、「C、Mn、Si、Cr、Mo、Al」を含有する点で共通する。 ii)甲1物発明の「残部はFeおよび不可避不純物の組成からな」る「亜鉛めっき鋼板」は、本件発明5の「残部がFeおよび不可避不純物」である「亜鉛めっきされた」「鋼でできた被覆鋼板」にあたる。 iii)甲1物発明の「引張強さが1777MPa、引張強さ×全伸びが42648MPa・%、全伸び24%である」ことは、本件発明5の「引張強度1510MPaを超え、且つ全伸び少なくとも20%を有する」ことにあたる。 iv)甲1物発明の「マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が42%、残留オーステナイト量が22%、」と、本件発明5の「少なくとも60%のマルテンサイトおよび12%と15%の間の残留オーステナイトを含む組織を有」することとは、金属組織が「マルテンサイトと残留オーステナイトを含む」点で共通する。 v)以上から、本件発明5と甲1物発明とは、 「重量%で:C、Mn、Si、Cr、Mo、Alを含有する化学組成を有し、 残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできた被覆鋼板であって、前記鋼板が、マルテンサイトおよび残留オーステナイトを含む組織を有し、前記鋼板が、亜鉛めっきされたものであり、前記鋼板が、引張強度1510MPaを超え、且つ全伸び少なくとも20%を有する、被覆鋼板。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点本5vs甲1物-1> C、Mn、Si、Cr、Mo、Alを含有する化学組成について、本件発明5では「重量%で:0.34%≦C≦0.40%、1.50%≦Mn≦2.30%、1.50≦Si≦2.40%、0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.01%≦Al≦0.08%(1.51≦Si+Al≦2.48、1.85≦Cr+Mn≦2.75)を含有する化学組成を有」するのに対して、甲1物発明では「C:0.68%、Mn:1.20%、Si:1.07%、Cr:0.031%、Mo:0.01%、Al:1.18%、Si+Al:2.25%、Cr+Mn:1.51%、P:0.011%、S:0.0042%およびN:0.0023%を含有」する点。 <相違点本5vs甲1物-2> マルテンサイトおよび残留オーステナイトを含む組織について、本件発明5では「少なくとも60%のマルテンサイトおよび12%と15%の間の残留オーステナイトを含む組織を有」するのに対して、甲1物発明では「マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が42%、残留オーステナイト量が22%」である点。 <相違点本5vs甲1物-3> マルテンサイトと焼き戻しマルテンサイトの関係及びポリゴナルフェライトについて、本件発明5では不明であるのに対して、甲1物発明では「マルテンサイトのうち100%が焼戻しマルテンサイトであり且つ該焼戻しマルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が42%、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が0%」である点。 (2)本件発明3と甲1方法発明との対比 i)甲1方法発明の「C:0.68%、Mn:1.20%、Si:1.07%、Cr:0.031%、Mo:0.01%、Al:1.18%、Si+Al:2.25%、Cr+Mn:1.51%」と、本件発明3の「重量%で:0.34%≦C≦0.37%、1.50%≦Mn≦2.30%、1.50≦Si≦2.40%、0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.01%≦Al≦0.08%」(1.51≦Si+Al≦2.48、1.85≦Cr+Mn≦2.75)とは、「C、Mn、Si、Cr、Mo、Al」を含有する点で共通する。 ii)甲1方法発明の「残部はFeおよび不可避不純物の組成から」なる「溶融亜鉛めっき」がなされた「冷間圧延鋼板」は、本件発明5の「残部はFeおよび不可避不純物である鋼」でできた「鋼板を亜鉛めっき」した「冷間圧延鋼板」にあたる。 iii)甲1方法発明の「1777MPaの引張強度および24%の全伸びを有する冷間圧延鋼板を製造する方法」は、本件発明3の「少なくとも1470MPaの引張強度TSおよび少なくとも19%の全伸びTEを有する冷間圧延鋼板を製造する方法」にあたる。 iv)本件明細書の【表2】(【0043】)、【表3】(【0044】)には全ての実験例で「焼鈍温度AT」(【0027】)が900℃又は920℃であることが記載されており、本件発明3の「鋼のAc3変態点を超える焼鈍温度AT」は最大で920℃と考えられる。 したがって、甲1方法発明の「920℃で180秒間焼鈍した」は、本件発明3の「鋼のAc3変態点を超える焼鈍温度ATにおいて焼鈍する工程」にあたるといえる。 v)甲1方法発明の「マルテンサイト変態開始温度Ms=200℃に対してMs-150℃=50℃未満の第1温度域まで平均冷却速度10℃/sで冷却」することと、本件発明3の「鋼のMs変態点未満であり、且つ200℃と230℃の間である焼入れ温度QTまで、焼鈍された鋼板を冷却することにより焼入れする工程」とは、「鋼のMs変態点未満」の温度まで冷却により焼き入れする点で共通する。 vi)甲1方法発明の「410℃の第2温度域に昇温し、引き続き該第2温度域に90秒保持」することと、本件発明3の「焼入れされた鋼板を350℃と450℃の間の分配温度PTにおいて再加熱し、鋼板を分配温度PTにおいて25秒と55秒の間の分配時間Ptの間維持することにより、分配処理する工程」とは、両者で再加熱温度が重複し、両者共に当該再加熱時間を一定時間維持するから、甲1方法発明の「410℃」「90秒」は「分配温度PT」「分配時間Pt」にあたるといえるので、「焼入れされた鋼板を350℃と450℃の間の分配温度PTにおいて再加熱し、鋼板を分配温度PTにおいて一定の分配時間Ptの間維持することにより、分配処理する工程」である点で共通するといえる。 vii)甲1方法発明での「マルテンサイト変態開始温度Ms=200℃に対してMs-150℃=50℃未満の第1温度域まで平均冷却速度10℃/sで冷却し、溶融亜鉛めっきがなされ」ること、すなわち、焼入れ冷却の後に「溶融亜鉛めっきがなされ」ることと、本件発明3での熱処理後に「鋼板を亜鉛めっきし、次に室温まで冷却する工程」とは、「亜鉛めっき」がなされる点で共通する。 viii)以上から、本件発明3と甲1方法発明とは、 「少なくとも1470MPaの引張強度TSおよび少なくとも19%の全伸びTEを有する冷間圧延鋼板を製造する方法であって、以下の連続工程: 重量%で:C、Mn、Si、Cr、Mo、Alを含有する化学組成を有し、 残部がFeおよび不可避不純物である鋼でできた冷間圧延鋼板を、 - 鋼のAc3変態点を超える焼鈍温度ATにおいて焼鈍する工程、 - 鋼のMs変態点未満の温度まで冷却により焼入れする工程、および - 焼入れされた鋼板を410℃の分配温度PTにおいて再加熱し、鋼板を分配温度PTにおいて一定の分配時間Ptの間維持することにより、分配処理する工程、 - いずれかの工程後、被覆鋼板を得るために、鋼板を亜鉛めっきし、次に室温まで冷却する工程 を含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点本3vs甲1方法-1> C、Mn、Si、Cr、Mo、Alを含有する化学組成について、本件発明3では「重量%で:0.34%≦C≦0.37%、1.50%≦Mn≦2.30%、1.50≦Si≦2.40%、0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.01%≦Al≦0.08%(1.51≦Si+Al≦2.48、1.85≦Cr+Mn≦2.75)を含有する化学組成を有」するのに対して、甲1方法発明では「C:0.68%、Mn:1.20%、Si:1.07%、Cr:0.031%、Mo:0.01%、Al:1.18%、Si+Al:2.25%、Cr+Mn:1.51%、P:0.011%、S:0.0042%およびN:0.0023%を含有」する点。 <相違点本3vs甲1方法-2> 「鋼のMs変態点未満」の温度まで冷却により焼き入れすることについて、本件発明3では「200℃と230℃の間である焼入れ温度QT」まで冷却して焼入れするのに対して、甲1方法発明では「マルテンサイト変態開始温度Ms=200℃に対してMs-150℃=50℃未満の第1温度域まで平均冷却速度10℃/sで冷却」する点。 <相違点本3vs甲1方法-3> 分配温度410℃を維持する一定の分配時間Ptについて、本件発明3では「25秒と55秒の間」であるのに対して、甲1方法発明では「90秒」である点。 <相違点本3vs甲1方法-4> 亜鉛めっきのなされる順序について、本件発明3では各熱処理工程の最後になされるのに対して、甲1方法発明では焼入れ冷却の後である点。 2-2-4.相違点の検討 (1)本件発明5と甲1物発明との相違点の検討 i)本件発明5と甲1物発明とは、上記「2-2-3.(1)」でみたように<相違点本5vs甲1物-1>?<相違点本5vs甲1物-3>の点で相違する。 ii)<相違点本5vs甲1物-1>について検討するに、C、Mn、Si、Cr、Mo、Alの含有量(重量%)について、以下のように、本件発明5と甲1物発明とでは全ての元素について相違している。 <本件発明5> <甲1物発明> 0.34%≦C ≦0.40% C :0.68% 1.50%≦Mn≦2.30% Mn:1.20% 1.50%≦Si≦2.40% Si:1.07% 0.35%<Cr≦0.45% Cr:0.031% 0.07%<Mo≦0.20% Mo:0.01% 0.01%≦Al≦0.08% Al:1.18% iii)そうすると、上記「2-1.」でみた合金の一般的考え方に照らすならば、実際に作製された具体的な合金組成である実施例は、本件発明5と比べて、合金を構成する元素が同じであっても、配合量(や製造方法)に差違があれば、金属組織が異なり性質が異なることになると考えられるから、本件発明5と各成分の含有量が異なる甲1物発明から、何らの指針もなく、本件発明5を導出することは困難であるといえる。 したがって、甲1物発明に基いて<相違点本5vs甲1物-1>に係る本件発明5の特定事項に想到することは困難であるといえる。 iv)以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は甲1物発明に基いて容易に発明をすることはできない。 (2)本件発明3と甲1方法発明との相違点の検討 i)本件発明3と甲1方法発明とは、上記「2-2-3.(2)」でみたように<相違点本3vs甲1方法-1>?<相違点本3vs甲1方法-4>の点で相違する。 ii)<相違点本3vs甲1方法-1>と<相違点本5vs甲1物-1>は、本件発明3と本件発明5とでC(炭素)の上限の数値が異なる(0.37、0.40)だけで、他は同じ内容の相違点である。 したがって、上記(1)と同様の理由により、甲1方法発明に基いて<相違点本3vs甲1方法-1>に係る本件発明3の鋼の成分組成に想到することは困難であるといえる。 iv)以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は甲1方法発明に基いて容易に発明をすることはできない。 (3)本件発明1及び2と甲1方法発明との相違点の検討 i)本件発明1は、「分配時間」が「15秒と120秒の間」であり、亜鉛めっきがされていないのに対して、本件発明3は、「分配時間」が「25秒と55秒の間」であり、亜鉛めっきがされている点で、両者は相違する。 ii)したがって、本件発明1は甲1方法発明と対比すると、少なくとも<相違点本3vs甲1方法-1>と同じ点で相違する。 iii)すると、上記(2)と同様の理由により、甲1方法発明に基いて<相違点本3vs甲1方法-1>に係る本件発明1の鋼の成分組成に想到することは困難であるといえる。 iv)以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1方法発明に基いて容易に発明をすることはできない。 本件発明2は本件発明1を引用するから、本件発明2についても同様である。 (4)本件発明4と甲1物発明との相違点の検討 i)本件発明4は、「降伏強度880MPaを超え」て「引張強度1520MPaを超え」るものであり、亜鉛めっきがされていないのに対して、本件発明5は、降伏強度の規定はなく、「引張強度1510MPaを超え」るものであり、亜鉛めっきがされている点で、両者は相違する。 ii)したがって、本件発明4は、甲1方法発明と対比すると、少なくとも<相違点本5vs甲1物-1>と同じ点で相違する。 iii)すると、上記(1)と同様の理由により、甲1物発明に基いて<相違点本5vs甲1物-1>に係る本件発明4の鋼の成分組成に想到することは困難であるといえる。 iv)以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は甲1物発明に基いて容易に発明をすることはできない。 2-2-5.申立理由1についての結言 以上から、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでなく、取り消されるべきものでない。 2-3.申立理由2について i)申立理由2は上記「第3 2.」でみたように、甲第2号証に記載された発明に基づく本件発明1?5の容易想到性に関するものである。 ii)甲第2号証には「加工性、とりわけ延性と伸びフランジ性に優れる引張強さ(TS)が980MPa以上の高強度鋼板を、その有利な製造方法とともに提供することを目的」(【0014】)とする発明が記載されている。 そして、甲第2号証の【表1】(【0069】)、【表4】(【0082】)には、「高強度鋼板」の「鋼種」の成分組成について次のように記載されている。 iii)上記「2-1.」でみた合金の一般的考え方に照らして、甲第2号証において実際に作製された具体的な合金組成である実施例に基いて甲第2号証に記載された発明(以下、「甲2発明」という。)を認定するところ、合金組成を含む本件発明1?5の甲第2号証に基づく容易想到性を検討するから、甲2発明は具体的な合金組成に関する特定事項(以下、「特定事項W」という。)を含むものになる。 そこで、特定事項Wについて検討するために上記表1及び2をみると、本件発明の必須元素であるCrを含むものは「鋼種J」のみであり、同じく「Mo」を含むものは「鋼種L」のみであるところ、他の必須元素(Si,Mn,Al)について本件発明1?5と重複するものとして「鋼種J」に着目すれば、「鋼種J」は「質量%」で「C:0.263」、「Si:1.50」、「Mn:2.29」、「Al:0.039」、「P:0.011」、「S:0.0010」、「N:0.0036」、「Cr:0.9」を含むものであり、本件発明1?5の合金組成と対応する元素について比較すると次のようになり、本件発明1?5では「0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.34%≦C ≦0.40%又は0.34%≦C ≦0.37%」であるのに対して、甲2発明では「Cr:0.9%、Mo:0 %、C :0.263%」である点で、少なくとも両者は相違する(以下、「相違点甲2」という。)といえる。 <本件発明1?5> <特定事項W> 1.50%≦Mn≦2.30% Mn:2.29% 1.50%≦Si≦2.40% Si:1.50% 0.35%<Cr≦0.45% Cr:0.9% 0.07%<Mo≦0.20% Mo:0 % 0.01%≦Al≦0.08% Al:0.039% 0.34%≦C ≦0.40% C :0.263% 又は 0.34%≦C ≦0.37% を含有する P :0.011% S :0.0010% N :0.0036% iv)甲第2号証には、「また、本発明では上記した基本成分の他、以下に述べる成分を適宜含有させることができる。 C:0.17%以上0.3%未満の場合において,Cr:0.05%以上5.0%以下、V:0.005%以上1.0%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下のうちから選ばれる1種または2種以上 高強度鋼板の用途によっては、溶接性を確保しつつ高強度化が必要な場合、或いは、伸びフランジ性を重視する必要がある場合が想定されるが、C含有量が増加するにつれ伸びフランジ性や溶接性は劣化する。一方、伸びフランジ性や溶接性を確保すべく単にC含有量を低減すると鋼板の強度が低下するため、鋼板の用途に見合った強度を確保することが困難となる場合がある。そこで、かかる問題を解決すべく本発明者らが鋼板の成分組成について検討したところ、C含有量を0.3%未満に低減することにより良好な伸びフランジ性や溶接性が得られることを確認した。また、C含有量の低減に伴い鋼板強度も低下するが、焼鈍温度からの冷却時にパーライトの生成を抑制する作用を有する元素であるCr、V、Moの何れかを所定量含有させることにより、鋼板強度の向上効果が得られることを確認した。上記効果は、Cr:0.05%以上、V:0.005%以上およびMo:0.005%以上で得られる。一方、Cr:5.0%、V:1.0%およびMo:0.5%を超えると、硬質なマルテンサイトの量が過大となり、必要以上に高強度となる。従って、Cr、VおよびMoを含有させる場合には、Cr:0.05%以上5.0%以下、V:0.005%以上1.0%以下およびMo:0.005%以上0.5%以下の範囲とする。」(【0049】)と記載されている。 この記載から、甲2発明の特定事項Wにおいて、「Mo:0.005%以上0.5%以下」「Cr:0.05%以上5.0%以下」とできたとしても、それは「C:0.17%以上0.3%未満の場合」を前提条件とするものであるから、この前提条件なしに「C :0.263%」を「0.34%≦C ≦0.40%又は0.34%≦C ≦0.37%」とすることができるといえない。 v)以上から、特定事項Wを有する甲2発明から、相違点甲2に係る本件発明1?5の鋼の成分組成を導出することは困難であるといえる。 したがって、甲2発明に基いて本件発明1?5の鋼の成分組成に想到することはできないといえる。 iv)以上から、本件発明1?5は、甲2発明に基いて容易に発明をすることはできない。 2-4.申立理由3について i)申立理由3は上記「第3 3.」でみたように、甲第3号証に記載された発明に基づく本件発明3及び5の容易想到性に関するものである。 ii)甲第3号証には「引張強度TSが1200MPa以上、伸びElが13%以上で、かつ伸びフランジ性の指標である穴拡げ率が50%以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法」(【0001】)に関する発明が記載されている。 そして、甲第3号証の【表1】(【0053】)には、「高強度溶融亜鉛めっき鋼板」を構成する鋼の成分組成が「鋼種」毎に次のように記載されている。 iii)上記「2-1.」でみた合金の一般的な考え方に照らし、甲第3号証において実際に作製された具体的な合金組成である実施例に基いて甲第3号証に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)を認定するところ、合金組成を含む本件発明3及び5の甲第3号証に基づく容易想到性を検討するから、甲3発明は具体的な合金組成に関する特定事項(以下、「特定事項X」という。)を含むものになる。 そこで、特定事項Xについて検討するために上記表1をみると、本件発明の必須元素であるCrを含むものは「鋼種D」のみであり、同じく「Mo」を含むものは「鋼種E」のみであるところ、他の必須元素(Si,Mn,Al)について本件発明3及び5と重複するものとして「鋼種E」に着目すれば、「鋼種E」は「質量%」で「C:0.25」、「Si:2.0」、「Mn:2.0」、「Al:0.036」、「P:0.025」、「S:0.003」、「Mo:0.30」を含むものであり、本件発明3及び5の合金組成と対応する元素について比較すると次のようになり、本件発明3及び5では「0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.34%≦C ≦0.40%又は0.34%≦C ≦0.37%」であるのに対して、甲3発明では「Cr:0 %、Mo:0.30%、C :0.25%」である点で、少なくとも両者は相違する(以下、「相違点甲3」という。)といえる。 <本件発明3及び5> <特定事項X> 1.50%≦Mn≦2.30% Mn:2.0% 1.50%≦Si≦2.40% Si:2.0% 0.35%<Cr≦0.45% Cr:0 % 0.07%<Mo≦0.20% Mo:0.30% 0.01%≦Al≦0.08% Al:0.036% 0.34%≦C ≦0.40% C :0.25% 又は 0.34%≦C ≦0.37% を含有する P :0.025% S :0.003% iv)(ア)甲第3号証には、「1)成分組成 C:0.05?0.5% Cは、マルテンサイトや焼戻しマルテンサイトなどの第2相を生成させてTSを上昇させるために必要な元素である。C量が0.05%未満では、焼戻しマルテンサイトを面積率で60%以上確保することが難しい。一方、C量が0.5%を超えると、Elやスポット溶接性が劣化する。したがって、C量は0.05?0.5%、好ましくは0.1?0.3%とする。」(【0019】)と記載されている。 当該記載からは、「C量」は「好ましくは0.1?0.3%」であるから、甲3発明の特定事項Xにおいてすでに好ましい「C :0.25%」が包含されているから、これを敢えてより好ましくない「0.34%≦C ≦0.40%又は0.34%≦C ≦0.37%」とする強い動機付けは見いだせない。 iv)(イ)また、甲第3号証には、「Cr、Mo、V、Ni、Cu:それぞれ0.005?2.00% Cr、Mo、V、Ni、Cuは、マルテンサイトなどの第2相の生成に有効な元素である。こうした効果を得るには、Cr、Mo、V、Ni、Cuから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量を0.005%にする必要がある。一方、Cr、Mo、V、Ni、Cuのそれぞれの含有量が2.00%を超えると、その効果が飽和し、コストアップを招く。したがって、Cr、Mo、V、Ni、Cuの含有量はそれぞれ0.005?2.00%とする。」(【0026】)と記載されている。 当該記載からは、「Cr、Mo、V、Ni、Cuから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量を0.005%」にすれば「第2相の生成に有効」であるといえるが、甲3発明の特定事項Xにおいてすでに「Mo:0.30%」を包含しているところ、これを0.07%より多く0.20%以下に減らした上で、さらに「Cr、V、Ni、Cu」の中から敢えて「Cr」を選択し、且つ、その量を「0.35%<Cr≦0.45%」とする動機付けは見いだせない。 v)一方、本件発明3及び5に想到するためには前記(ア)(イ)の点が同時に満たされる必要があるから、強い動機付けがない中で、特定事項Xを有する甲3発明に基いて、前記(ア)と(イ)の点を同時に満たすものとして、相違点甲3に係る本件発明3及び5の鋼の成分組成を導出することは困難であるといえる。 vi)したがって、甲3発明に基いて本件発明3及び5の鋼の成分組成に想到することはできないといえる。 vii)以上から、本件発明3及び5は、甲3発明に基いて容易に発明をすることはできない。 2-5.申立理由4について i)申立理由4は上記「第3 4.」でみたように、甲第4号証に記載された発明に基づく本件発明3及び5の容易想到性に関するものである。 ii)甲第4号証には「引張強さ(TS):1180MPa以上、全伸び(EL):14%以上、穴拡げ率(λ):30%以上かつ降伏比(YR):70%以下である成形性及び形状凍結性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、並びにその製造方法を提供することを目的とする」([0004])ことが記載されている。 そして、甲第4号証の[表1]([0057])には、「合金化溶融亜鉛めっき鋼板」([0056])を構成する「鋼」の成分組成が「鋼種」毎に次のように記載されている。 iii)上記「2-1.」でみた合金の一般的な考え方に照らして、甲第4号証において実際に作製された具体的な合金組成である実施例に基いて甲第4号証に記載された発明(以下、「甲4発明」という。)を認定するところ、合金組成を含む本件発明3及び5の甲第4号証に基づく容易想到性を検討するから、甲4発明は具体的な合金組成に関する特定事項(以下、「特定事項Y」という。)を含むものになる。 そこで、特定事項Yについて検討するために上記表1をみると、本件発明の必須元素であるCrを含むものは「鋼種E」のみであり、同じく「Mo」を含むものは「鋼種F」のみであるところ、他の必須元素(Si,Mn,Al)について本件発明3及び5と重複するものとして「鋼種E」に着目すれば、「鋼種E」は「質量%」で「C:0.24」、「Si:1.5」、「Mn:2.3」、「Al:0.035」、「P:0.022」、「S:0.002」、「Mo:0」、「N:0.001」、「Cr:0.5」を含むものであり、本件発明3及び5の合金組成と対応する元素について比較すると次のようになり、本件発明3及び5では「0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.34%≦C ≦0.40%又は0.34%≦C ≦0.37%」であるのに対して、甲3発明では「Cr:0.5%、Mo:0 %、C :0.24%」である点で、少なくとも両者は相違する(以下、「相違点甲4」という。)といえる。 <本件発明3及び5> <特定事項Y> 1.50%≦Mn≦2.30% Mn:2.3% 1.50%≦Si≦2.40% Si:1.5% 0.35%<Cr≦0.45% Cr:0.5% 0.07%<Mo≦0.20% Mo:0 % 0.01%≦Al≦0.08% Al:0.035% 0.34%≦C ≦0.40% C :0.24% 又は 0.34%≦C ≦0.37% を含有する P :0.022% S :0.002% N :0.001% iv)(ア)甲第4号証には、「1)成分組成 C:0.10?0.35% Cは、マルテンサイトや焼戻しマルテンサイトなどの低温変態相を生成させてTSを上昇させるために必要な元素である。C量が0.10%未満では、焼戻しマルテンサイトを面積率で30%以上かつマルテンサイトを5%以上確保することは難しい。一方、C量が0.35%を超えると、ELやスポット溶接性が劣化する。したがって、C量は0.10?0.35%、好ましくは0.15?0.3%とする。」([0019])と記載されている。 当該記載からは、「C量」は「好ましくは0.15?0.3%」であるから、甲4発明の特定事項Yにおいてすでに好ましい「C :0.24%」が包含されているから、これを敢えてより好ましくない「0.3%」を超える「0.34%≦C ≦0.40%又は0.34%≦C ≦0.37%」とする強い動機付けは見いだせない。 iv)(イ)また、甲第4号証には、「Cr、Mo、V、Ni、Cuはマルテンサイトなどの低温変態相の生成に有効な元素である。こうした効果を得るには、Cr、Mo、V、Ni、Cuから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量を0.005%にする必要がある。一方、Cr、Mo、V、Ni、Cuのそれぞれの含有量が2.00%を超えると、その効果が飽和し、コストアップを招く。したがって、Cr、Mo、V、Ni、Cuの含有量はそれぞれ0.005?2.00%とする。」([0026])と記載されている。 当該記載からは、「Cr、Mo、V、Ni、Cuから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量を0.005%」にすれば「マルテンサイトなどの低温変態相の生成に有効」であるといえるが、甲4発明の特定事項Yにおいてすでに「Cr:0.5%」を包含しているところ、これを0.35%より多く0.45%以下に減らした上で、さらに「Mo、V、Ni、Cu」の中から敢えて「Mo」を選択し、且つ、その量を「0.07%<Mo≦0.20%」とする動機付けは見いだせない。 v)一方、本件発明3及び5に想到するためには前記(ア)(イ)の点が同時に満たされる必要があるから、強い動機付けがない中で、特定事項Yを有する甲4発明に基いて、前記(ア)と(イ)の点を同時に満たすものとして、相違点甲4に係る本件発明3及び5の鋼の成分組成を導出することは困難であるといえる。 vi)したがって、甲4発明に基いて本件発明3及び5の鋼の成分組成に想到することはできないといえる。 vii)以上から、本件発明3及び5は、甲4発明に基いて容易に発明をすることはできない。 2-6.申立理由5について i)申立理由5は上記「第3 5.」でみたように、甲第5号証に記載された発明に基づく本件発明1?5の容易想到性に関するものである。 ii)甲第5号証には「本発明の目的は、特に非常に良い曲げ挙動の形で表される、さらなる最適化機械的特性を有する高強度鋼板製品を示す」こと(【0014】)、「さらに該鋼板製品の製造方法を示すものとする。特に、鋼板製品の溶融コーティングのプロセスにこの方法を組み入れるものとする。」(【0015】)ことが記載されている。 そして、甲第5号証の【表1】(【0093】)には、「冷延圧延鋼ストリップ」(【0088】)を構成する「鋼」の成分組成が「鋼」毎に次のように記載されている。 iii)上記「2-1.」でみた合金の一般的な考え方に照らして、甲第5号証において実際に作製された具体的な合金組成である実施例に基いて甲第5号証に記載された発明(以下、「甲5発明」という。)を認定するところ、合金組成を含む本件発明1?5の甲第5号証に基づく容易想到性を検討するから、甲5発明は具体的な合金組成に関する特定事項(以下、「特定事項Z」という。)を含むものになる。 そこで、特定事項Zについて検討するために上記表1をみると、本件発明の必須元素であるCrを含むものは「鋼J、K、L」のみであり、同じく「Mo」を含むものは「鋼N」のみであるところ、他の必須元素(Si,Mn,Al)について本件発明1?5と重複するものとして「鋼J」に着目すれば、「鋼J」は「重量%」で「C:0.150」、「Si:1.51」、「Mn:2.01」、「Al:0.010」、「P:0.009」、「S:0.0010」、「Mo:0」、「N:0.0060」、「Cr:0.25」、「Ti:0.042」、「B:0.0015」を含むものであり、本件発明1?5の合金組成と対応する元素について比較すると次のようになり、本件発明1?5では「0.35%<Cr≦0.45%、0.07%<Mo≦0.20%、0.34%≦C ≦0.40%又は0.34%≦C ≦0.37%」であるのに対して、甲3発明では「Cr:0.25%、Mo:0 %、C :0.150%」である点で、少なくとも両者は相違する(以下、「相違点甲5」という。)といえる。 <本件発明1?5> <特定事項Z> 1.50%≦Mn≦2.30% Mn:2.01% 1.50%≦Si≦2.40% Si:1.51% 0.35%<Cr≦0.45% Cr:0.25% 0.07%<Mo≦0.20% Mo:0 % 0.01%≦Al≦0.08% Al:0.010% 0.34%≦C ≦0.40% C :0.150% 又は 0.34%≦C ≦0.37% を含有する Ti:0.042% B :0.0015% P :0.009% S :0.0010% N :0.0060% iv)甲第5号証には、「本発明の鋼板製品の鋼のC含量は0.10?0.50重量%の値に制限される。炭素は、本発明の鋼板製品にいくつかの面で影響を与える。まず第1にCはオーステナイトの形成及びAc3温度の低減で主要な役割を果たす。従って十分な濃度のCは、Ac3温度を高めるAl等の元素が同時に存在する場合でさえ≦960℃の温度で完全なオーステナイト化を可能にする。Cの存在を通じて、焼入れも残留オーステナイトを安定化する。この効果は分配工程中も継続する。安定な残留オーステナイトは、最大伸び領域をもたらし、この領域ではTRIP(変態誘起塑性(TRansformation Induced Plasticity))効果が幅を利かせている。さらにマルテンサイトの強度はその最大でそれぞれのC含量によって影響される。過剰含量のCは、本発明の鋼板製品の作製を甚だしく困難にするような、マルテンサイト開始温度のさらに低い温度への大きなシフトにつながる。さらに、過剰なC含量は溶接性にマイナスの効果を及ぼす恐れがある。」(【0025】)と記載され、「クロムはより有効なパーライト抑制元素であり、強くするので、本発明の鋼板製品の鋼に0.5重量%まで添加してよい。0.5重量%を超えると、明白な粒界酸化の危険がある。Crのプラス効果を明確に利用するためには、Cr含量を0.1?0.5重量%に設定することができる。」(【0034】)、「Crのように、モリブデンもパーライト形成を抑制するのに非常に有効な元素である。この有利な効果を有効に利用するため、本発明の鋼板製品の鋼に0.1?0.3重量%添加することができる。」(【0035】)と記載されている。 したがって、C:0.10?0.50重量%、Cr:0.1?0.5重量%、Mo:0.1?0.3重量%の添加が可能であるといえる。 他方で、甲第5号証には、「炭素当量CEは、溶接性を表すのに重要なパラメーターである。本発明の鋼板製品の鋼のためにCEは0.35?1.2、特に0.5?1.0の範囲内でなければならない。炭素当量CEを計算するためにここでは米国溶接協会(AWS)によって開発され、非特許文献1の刊行物に公表された下記式を利用する。 【数1】 CE=%C+(%Mn+%Si)/6+(%Cr+%Mo+%V)/5+(%Ni+%Cu)/15 式中、%C:鋼のC含量 %Mn:鋼のMn含量 %Si:鋼のSi含量 %Cr:鋼のCr含量 %Mo:鋼のMo含量 %V:鋼のV含量 %Ni:鋼のNi含量 %Cu:鋼のCu含量」(【0038】)と記載され、さらに、上記表1の「CE」欄から、「鋼J」の「CE」は「0.79」であることがみてとれる。 しかしながら、甲5発明の特定事項Zから本件発明1?5の合金の成分組成にするためには、特定事項Zの、Cを0.19%増加し(=0.34-0.15)、Crを少なくとも0.10%増加し(=0.35-0.25)、Moを新たに少なくとも0.07%添加(=0.07-0)する成分組成の変更が必要で、C及びCrを増加し、かつ、Moを新たに添加するための動機付けは見当たらない。 また、そのような成分組成の変更を行えたとしても、上記の溶接性を示す炭素当量CEはCE=1.014となり、これは成分組成の変更前の0.79という溶接性が良いとされる0.5?1.0の範囲内であったものが当該範囲を出てしまい、溶接性がCE=0.79のときよりも不良になることを意味する。 よって、甲5発明の特定事項Zから本件発明1?5の合金の成分組成にすることを当業者が合理的に指向するとは考え難い。 v)以上から、特定事項Zを有する甲5発明から、相違点甲5に係る本件発明1?5の鋼の成分組成を予測することは困難であるといえる。 したがって、甲5発明に基いて本件発明1?5の鋼の成分組成に想到することはできないといえる。 iv)以上から、本件発明1?5は、甲5発明に基いて容易に発明をすることはできない。 第6 むすび したがって、以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-06-20 |
出願番号 | 特願2016-575858(P2016-575858) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C21D)
P 1 651・ 4- Y (C21D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 陽一 |
特許庁審判長 |
亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判官 |
中澤 登 松本 要 |
登録日 | 2018-05-25 |
登録番号 | 特許第6343688号(P6343688) |
権利者 | アルセロールミタル |
発明の名称 | 超高強度被覆または非被覆鋼板を製造する方法および得られる鋼板 |
代理人 | 特許業務法人川口國際特許事務所 |