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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1353194
異議申立番号 異議2019-700077  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-01 
確定日 2019-07-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6391205号発明「快削性銅合金加工材、及び、快削性銅合金加工材の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6391205号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6391205号(以下「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願(特願2017-567267)は,平成29年 8月15日(優先権主張 平成28年 8月15日)を国際出願日とする出願であって,平成30年 8月31日にその特許権の設定の登録がされ,同年 9月19日に特許掲載公報が発行された。その後,平成31年 2月1日に特許異議申立人 西野千明(以下「申立人」という。)により,請求項1?10に係る特許に対して,特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明は,各々,その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
冷間加工及び熱間加工のいずれか一方又は両方が施されてなる快削性銅合金加工材であって、
75.0mass%以上78.5mass%以下のCuと、2.95mass%以上3.55mass%以下のSiと、0.07mass%以上0.28mass%以下のSnと、0.06mass%以上0.14mass%以下のPと、0.022mass%以上0.25mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
76.2≦f1=[Cu]+0.8×[Si]-8.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]≦80.3、
61.5≦f2=[Cu]-4.3×[Si]-0.7×[Sn]-[P]+0.5×[Pb]≦63.3、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
25≦(κ)≦65、
0≦(γ)≦1.5、
0≦(β)≦0.2、
0≦(μ)≦2.0、
97.0≦f3=(α)+(κ)、
99.4≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f5=(γ)+(μ)≦2.5、
27≦f6=(κ)+6×(γ)^(1/2)+0.5×(μ)≦70、
の関係を有するとともに、
γ相の長辺の長さが30μm以下であり、μ相の長辺の長さが25μm以下であり、α相内にκ相が存在していることを特徴とする快削性銅合金加工材。
【請求項2】
さらに、0.02mass%以上0.08mass%以下のSb、0.02mass%以上0.08mass%以下のAs、0.02mass%以上0.30mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の快削性銅合金加工材。
【請求項3】
冷間加工及び熱間加工のいずれか一方又は両方が施されてなる快削性銅合金加工材であって、
75.5mass%以上78.0mass%以下のCuと、3.1mass%以上3.4mass%以下のSiと、0.10mass%以上0.27mass%以下のSnと、0.06mass%以上0.13mass%以下のPと、0.024mass%以上0.24mass%以下のPbと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
76.6≦f1=[Cu]+0.8×[Si]-8.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]≦79.6、
61.7≦f2=[Cu]-4.3×[Si]-0.7×[Sn]-[P]+0.5×[Pb]≦63.2、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
30≦(κ)≦56、
0≦(γ)≦0.8、
(β)=0、
0≦(μ)≦1.0、
98.0≦f3=(α)+(κ)、
99.6≦f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)、
0≦f5=(γ)+(μ)≦1.5、
32≦f6=(κ)+6×(γ)^(1/2)+0.5×(μ)≦62、
の関係を有するとともに、
γ相の長辺の長さが30μm以下であり、μ相の長辺の長さが15μm以下であり、α相内にκ相が存在していることを特徴とする快削性銅合金加工材。
【請求項4】
さらに、0.02mass%超え0.07mass%以下のSb、0.02mass%超え0.07mass%以下のAs、0.02mass%以上0.20mass%以下のBiから選択される1又は2以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の快削性銅合金加工材。
【請求項5】
κ相に含有されるSnの量が0.08mass%以上0.45mass%以下であり、κ相に含有されるPの量が0.07mass%以上0.24mass%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の快削性銅合金加工材。
【請求項6】
シャルピー衝撃試験値が14J/cm^(2)超え50J/cm^(2)未満、引張強さが530N/mm^(2)以上であり、かつ、室温での0.2%耐力に相当する荷重を負荷した状態で150℃で100時間保持した後のクリープひずみが0.4%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の快削性銅合金加工材。
【請求項7】
水道用器具、工業用配管部材、液体と接触する器具、自動車用部品、又は電気製品部品に用いられることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の快削性銅合金加工材。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された快削性銅合金加工材の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程の後に実施する焼鈍工程と、を有し、
前記焼鈍工程では、510℃以上575℃以下の温度で20分から8時間保持するか、又は575℃から510℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、
次いで、470℃から380℃までの温度領域を2.5℃/分超え、500℃/分未満の平均冷却速度で冷却することを特徴とする快削性銅合金加工材の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された快削性銅合金加工材の製造方法であって、
熱間加工工程を含み、熱間加工される時の材料温度が、600℃以上、740℃以下であり、
前記熱間加工として熱間押出を行う場合、冷却過程において、470℃から380℃までの温度領域を2.5℃/分超え、500℃/分未満の平均冷却速度で冷却し、
前記熱間加工として熱間鍛造を行う場合、冷却過程において、575℃から510℃までの温度領域を0.1℃/分以上、2.5℃/分以下の平均冷却速度で冷却し、470℃から380℃までの温度領域を2.5℃/分超え、500℃/分未満の平均冷却速度で冷却することを特徴とする快削性銅合金加工材の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された快削性銅合金加工材の製造方法であって、
冷間加工工程及び熱間加工工程のいずれか一方または両方と、前記冷間加工工程又は前記熱間加工工程後に実施する低温焼鈍工程と、を有し、
前記低温焼鈍工程においては、材料温度を240℃以上350℃以下の範囲とし、加熱時間を10分以上300分以下の範囲とし、材料温度をT℃、加熱時間をt分としたとき、150≦(T-220)×(t)^(1/2)≦1200の条件とすることを特徴とする快削性銅合金加工材の製造方法。」

3 申立理由の概要
申立人は,主たる証拠として甲第1号証(以下「甲1」という。),及び従たる証拠として甲第2号証(以下「甲2」という。),甲第3号証(以下「甲3」という。),甲第4号証(以下「甲4」という。)を提出し,請求項1?4に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に規定に違反してされたものであり,また,請求項5?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1?10に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(証拠)
甲第1号証:再公表特許第2012/057055号公報
甲第2号証:平成17年 9月12日改正日本伸銅協会技術標準 JCBA T204:2005「鉛レス快削黄銅棒」日本伸銅協会発行
甲第3号証:特表2009-509031号公報
甲第4号証:特開2000-119775号公報

4 引用文献の記載
(1)甲1について
ア 甲1の記載
甲1には,耐圧耐食性銅合金,ろう付け構造体,及びろう付け構造体の製造方法(発明の名称)に関して,次の記載がある。なお,下線は当審が付した。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、他材とろう付けされた耐圧耐食性銅合金であって、高い耐圧性と優れた耐食性を備えた耐圧耐食性銅合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者は、銅合金の組成や金属組織について検討した。その結果、所定の組成の銅合金において、金属組織の各相の面積率を所定の範囲内にすることにより、高い耐圧性と優れた耐食性が得られるという知見を得た。
【0010】
具体的には、73.0?79.5mass%のCuと、2.5?4.0mass%のSiと、を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなる合金組成であり、Cuの含有量[Cu]mass%と、Siの含有量[Si]mass%との間に、62.0≦[Cu]-3.6×[Si]≦67.5の関係を有し、前記銅合金のろう付け部分の金属組織は、α相マトリックスに少なくともκ相を含み、α相の面積率「α」%と、β相の面積率「β」%と、γ相の面積率「γ」%と、κ相の面積率「κ」%と、μ相の面積率「μ」%との間に、30≦「α」≦84、15≦「κ」≦68、「α」+「κ」≧92、0.2≦「κ」/「α」≦2であり、β≦3、μ≦5、β+μ≦6、0≦「γ」≦7、0≦「β」+「μ」+「γ」≦8の関係を有する場合に、高い耐圧性と優れた耐食性が得られるという知見を得た。尚、ろう付け部分とは、ろう付けされたときに、700℃以上に加熱された部分をいう。」

「【0012】
好ましくは、0.015?0.2mass%のP、0.015?0.2mass%のSb、0.015?0.15mass%のAs、0.03?1.0mass%のSn、0.03?1.5mass%のAlのいずれか1種以上を更に含有し、Cuの含有量[Cu]mass%と、Siの含有量[Si]mass%と、Pの含有量[P]mass%と、Sbの含有量[Sb]mass%と、Asの含有量[As]mass%と、Snの含有量[Sn]mass%と、Alの含有量[Al]mass%との間に、62.0≦[Cu]-3.6×[Si]-3×[P]-0.3×[Sb]+0.5×[As]-1×[Sn]-1.9×[Al]≦67.5の関係を有する。
【0013】
P、Sb、As、Sn、Alのいずれかを有するので、更に耐食性が良くなる。
【0014】
好ましくは、0.015?0.2mass%のP、0.015?0.2mass%のSb、0.015?0.15mass%のAsのいずれか1種以上、及び0.3?1.0mass%のSn、0.45?1.2mass%のAlのいずれか1種以上を更に含有し、Cuの含有量[Cu]mass%と、Siの含有量[Si]mass%と、Pの含有量[P]mass%と、Sbの含有量[Sb]mass%と、Asの含有量[As]mass%と、Snの含有量[Sn]mass%と、Alの含有量[Al]mass%との間に、63.5≦[Cu]-3.6×[Si]-3×[P]-0.3×[Sb]+0.5×[As]-1×[Sn]-1.9×[Al]≦67.5の関係を有する。
【0015】
Snを0.3mass%以上、又はAlを0.45mass%以上含有するので、耐エロージョンコロージョン性が良くなる。
【0016】
好ましくは、0.003?0.25mass%のPb、0.003?0.30mass%のBiのいずれか1種以上を更に含有し、Cuの含有量[Cu]mass%と、Siの含有量[Si]mass%と、Pの含有量[P]mass%と、Sbの含有量[Sb]mass%と、Asの含有量[As]mass%と、Snの含有量[Sn]mass%と、Alの含有量[Al]mass%と、Pbの含有量[Pb]mass%と、Biの含有量[Bi]mass%との間に、62.0≦[Cu]-3.6×[Si]-3×[P]-0.3×[Sb]+0.5×[As]-1×[Sn]-1.9×[Al]+0.5×[Pb]+0.5×[Bi]≦67.5の関係を有する。
【0017】
Pb、Biのいずれかを有するので、被削性が良くなる。」

「【実施例】
【0052】
上述した第1発明合金乃至第4発明合金及び比較用の組成の銅合金を用いて、試料L、M、Nを作成した。表1は、試料として作成した第1発明合金乃至第4発明合金及び比較用の銅合金の組成を示す。



試料Lは、表1の組成の鋳塊(外径100mm、長さ150mmの円柱形状のもの)を670℃に加熱し、外径17mmの丸棒状に押出加工した(押出材)。
試料Mは、表1の組成の鋳塊(外径100mm、長さ150mmの円柱形状のもの)を670℃に加熱し、外径35mmの丸棒状に押出加工し、その後、670℃に加熱し、横置きにして17.5mmの厚みに熱間鍛造した。この熱間鍛造材を、切削により外径17mmの丸棒材に仕上げた(熱間鍛造材)。
試料Nは、表1の組成の溶湯を直径35mm、深さ200mmの金型に鋳込み、鋳込んだ後、試料Lと同じサイズになるよう旋盤で切削し、外径17mmの丸棒とした(鋳造材)。
【0053】
各試料に次の試験1又は2を行った。
試験1:各試料を、ろう付け時においてバーナーによって加熱された状態に相当させるために、800℃の塩浴(NaClとCaCl_(2)を約3:2に混合したもの)に、約100秒間浸漬した。塩浴に浸漬することにより、試料は、約10秒間、約800℃保持される。そして、試料を取り出し、氷水への水冷、10℃の水冷、60℃の湯水冷、強制空冷A、B、C(強制空冷のファンの速度はA、B、Cの順で速い)の条件で冷却した。また、より遅い冷却速度を実現させるため、試料に対して不活性雰囲気中で昇温と降温を連続的に行える連続炉(炉内ろう付け炉)を用いて800℃に加熱し、1分間保持後に2条件で炉冷却した(条件D、E)。
各種の条件で実施したときの700℃から300℃の平均冷却速度は、氷水への水冷が70℃/秒、10℃の水冷が50℃/秒、60℃の湯水冷が35℃/秒、強制空冷Aが6.0℃/秒、強制空冷Bが2.5℃/秒、強制空冷Cが1.2℃/秒、炉冷却の条件Dが0.15℃/秒、炉冷却の条件Eが0.02℃/秒であった。
【0054】
試験2:試料L、M、Nが他材とろう付けされた後のろう付け部の引張強度を測定するために次のろう付けを行った。
他材として外径25mmの銅棒を準備し、銅棒の端面の中央に切削により内径18mm、深さ50mmの穴をあけ、各試料L、M、Nを穴に挿入し、試料と銅棒にフラックスを付け、銅棒の予熱も含めバーナーにて加熱することでフラックスを溶融し、ろう材をぬれ易くする。その直後、Cu-7%P(B-CuP2)のりん銅ろうを用い、約800℃の温度にろう材、試料および銅棒を加熱することによりりん銅ろうを溶融し、接合部にりん銅ろうが完全に溶着したのを確認してろう付けを終了した。その直後に、試験1と同様の方法で冷却した。
【0055】
試料L、M、Nの試験1又は試験2の後に、脱亜鉛腐蝕性、耐エロージョンコロージョン性、引張強度、耐力、伸び、衝撃強さの評価を次のようにして行った。
【0056】
脱亜鉛腐蝕性は、ISO 6509に準じて下記のように行った。
実験1の方法によって作られた試験材から切り出された試料を、試料Lについては暴露試料表面が当該押出材の押出し方向に対して直角となるようにしてフェノール樹脂材に埋込み、試料M及び資料Nについては暴露試料表面が当該熱間鍛造材、又は鋳物の長手方向に対して直角となるようにしてフェノール樹脂材に埋込み、試料表面をエメリー紙により1200番まで研磨した後、これを純水中で超音波洗浄して乾燥した。その後、各試料を、1.0%の塩化第2銅2水和塩(CuCl_(2)・2H_(2)O)の水溶液(12.7g/L)中に浸漬し、75℃の温度条件下で24時間保持した後、水溶液中から取出して、その脱亜鉛腐蝕深さの最大値(最大脱亜鉛腐蝕深さ)を測定した。
試料は暴露表面が押出し方向に対して直角を保つように、フェノール樹脂材に再び埋め込まれ、次に最も長い切断部が得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨し、100倍から500倍の金属顕微鏡を用い、顕微鏡の視野10ヶ所にて、腐食深さを観察した。最も深い腐食ポイントが最大脱亜鉛腐食深さとして記録された。なお、ISO 6509の試験を行ったとき、最大腐食深さが、200μm以下であれば、実用上の耐食性に関し、問題ないレベルとされており、特に優れた耐食性が求められる場合は、100μm以下、さらには、50μm以下が望まれている。
【0057】
耐エロージョンコロージョン性の評価を次のように行った。
試験1の方法によって作られた試験材から切り出された試料を、耐エロージョンコロージョン性の評価に使用した。エロージョン・コロージョンテストは、口径2mmのノズルを使用して、試料に40℃の3%食塩水を11m/秒の流速で当て、168時間経過した後に断面を観察し、最大の腐食深さを測定した。
水道水供給用のバルブ等に使用される銅合金は、逆流やバルブの開閉によって生じる水流速度の突然の変化にさらされるため、通常の耐食性だけでなく、エロージョンコロージョンに対する耐性も必要である。
【0058】
引張試験によって引張強度、耐力、伸びを測定した。
引張試験の試験片の形状は、JIS Z 2201の標点距離が、(試験片平行部の断面積の平方根)×5.65の14A試験片で実施した。
試験2によって銅棒と試料とをろう付けにより接合した試料については、ろう付けされた銅棒と試料をつかみそのまま引張試験した。伸びは未測定であるが、破断荷重を破断部の断面積で除し、引張強さを求めた。このろう付けされた銅棒と試料の引張試験では、試験片は全てろう付け部から10mm以上離れた試料側で破断した。
【0059】
金属組織は、試料の横断面を研鏡し、過酸化水素とアンモニア水の混合液でエッチングし、α相、κ相、β相、γ相、μ相の面積率(%)を画像解析により測定した。すなわち、200倍または、500倍の光学顕微鏡組織を画像処理ソフト「WinROOF」で2値化することにより、各相の面積率を求めた。面積率の測定は3視野で行い、その平均値を各相の相比率とした。
相の同定が困難な場合は、FE-SEM-EBSP(Electron Back Scattering diffraction Pattern)法によって、相を特定し、各相の面積率を求めた。FE-SEMは日本電子株式会社製JSM-7000F、解析には株式会社TSLソリューションズ製OIM-Ver.5.1を使用し、解析倍率500倍と2000倍の相マップ(Phaseマップ)から求めた。
【0060】
衝撃試験は、試験1のソルトバスで熱処理した試料から衝撃試験片(JIS Z 2242に準じたVノッチ試験片)を採取し、シャルピー衝撃試験を行い、衝撃強さを測定した。
被削性の評価は、旋盤を用いた切削試験で評価し、次の方法で行われた。
直径17mmの押出し試料、熱間鍛造試料又は鋳造試料を乾式下にて、ポイントノーズ・ストレート工具、特にチップブレーカーの付いていないタングステン・カーバイド工具の付いた旋盤を用い、すくい角-6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度100(m/min)、切削深さ1.0mm、送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削した。工具に取り付けられた3部分から成る動力計から発せられるシグナルが、電気的電圧シグナルに変換され、レコーダーに記録された。次にこれらのシグナルは切削抵抗(N)に変換された。従って、当該合金の被削性は切削抵抗、特に切削の際に最も高い値を示す主分力を測定することにより評価した。
【0061】
上記の各試験の結果を表2乃至表11に示す。各表は、表2と表3、表4と表5、表6と表7、表8と表9、表10と表11、表12と表13とが組になって各試験の結果を表している。被削性については、試験1の加熱前の状態で評価したので、各合金の試料L、M、N毎に結果を記載している。表中の冷却速度の欄の1?8の数字は、1が氷水への水冷(70℃/秒)、2が10℃の水冷(50℃/秒)、3が60℃の湯水冷(35℃/秒)、4が強制空冷A(6.0℃/秒)、5が強制空冷B(2.5℃/秒)、6が強制空冷C(1.2℃/秒)、7が炉冷却の条件D(0.15℃/秒)、8が炉冷却の条件E(0.02℃/秒)を表す。図1(a),(b),(c)は、それぞれ試験No.A11L2、A21L7、A26L4の試験1後の金属組織を示し、図1(c)は、試験No.A11L6の試験2後のろう付け部分の金属組織を示す。

(【表4】?【表9】 略)

(【表12】?【表13】 略)」

「【産業上の利用可能性】
【0078】
上述したように、本発明に係る耐圧耐食性銅合金は、高い耐圧性と優れた
耐食性を備えるので、高圧ガス設備、空調設備、給水・給湯設備等の容器、器具、部材としては、高圧バルブ、プラグバルブ、フードバルブ、ダイヤフラムバルブ、べローズバルブ、コントロールバルブを始めとする種々のバルブや、管継手、T字継手、チーズ管、エルボ管等の各種の継手や、冷温水弁、低温弁、減圧弁、高温弁、安全弁等の各種の弁や、ジョイント、シリンダー等の油圧容器や、ノズル、スプリンクラー、水栓金具等のろう付けを施される容器、器具、部材に最適である。」

イ 甲1に記載された発明
(ア)一般に,合金は,所定の含有量を有する合金元素の組み合わせが一体のものとして技術的意義を有するのであって,所与の特性が得られる組み合わせについては,実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮してはじめて理解され,合金を構成する元素が同じであっても配合量や製造方法に差違があれば,金属組織が異なり性質が異なることになり,それらは予測が困難である,という技術常識があるといえる。
(要すれば,平成29年(行ケ)第10121号を参照。)

(イ)そこで,上記アの摘示のうち,本件請求項1,3に係る発明の合金組成に最も近似している具体的な合金「A43」を参照すると,「A43」は,次の組成を有する(表1)。
Cu:77.7 mass%
Si: 3.3 mass%
P : 0.08 mass%
Sb: 0.05 mass%
Sn: 0.42 mass%
Zr: 0.005mass%
Zn: Rem.(残部)
また,この組成に基づく関係式f1,f2の算出結果は,次のとおりである。
f1=[Cu]+0.8×[Si]-8.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]=76.9
f2=[Cu]-4.3×[Si]-0.7×[Sn]-[P]+0.5×[Pb]=63.1
そして,合金「A43」を用いた鋳造材である「A43N4」の金属組織の面積割合,及び,関係式f3?f6の算出結果は,次のとおりである(表10)。
α相: 59.2%
κ相: 39.1%
γ相: 1.7%
β相: 0 %
μ相: 0 %
f3=(α)+(κ)=98.3
f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)=100
f5=(γ)+(μ)=1.7
f6=(κ)+6×(γ)^(1/2)+0.5×(μ)=46.9
ここで,表10によれば,「A43N4」は,試料「N」であり,表1の説明によれば,組成の溶湯を金型に鋳込んだ後,旋盤で切削し,丸棒とした鋳造材であることを表す。また,冷却速度「4」であり,【0061】の記載から強制空冷(6.0℃/秒)であることを表す。
また,甲1【0053】の記載から,ろう付け時においてバーナーによって加熱された状態に相当させるために,塩浴に浸漬することにより,試料は,約10秒間,約800℃保持され,その後冷却したとされている。
さらに,甲1【0060】の記載から,合金の被削性は切削抵抗(主分力)を測定することにより評価したとされているが,合金「A43」についての切削抵抗(主分力)は記載されていない(表11)。

(ウ)以上より,本件請求項1の記載に即して整理すると,甲1には,次の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。

「鋳造材を、約10秒間、約800℃保持した後、700℃から300℃の平均冷却速度6.0℃/秒で強制空冷したものである、銅合金であって、
77.7mass%のCuと、3.3mass%のSiと、0.08mass%のPと、0.05mass%のSbと、0.42mass%のSnと、0.005mass%のZrと、Znと、を含み、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
f1=[Cu]+0.8×[Si]-8.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]=76.9、
f2=[Cu]-4.3×[Si]-0.7×[Sn]-[P]+0.5×[Pb]=63.1、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
(κ)=39.1、
(γ)=1.7、
(β)=0、
(μ)=0、
f3=(α)+(κ)=98.3、
f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)=100、
f5=(γ)+(μ)=1.7、
f6=(κ)+6×(γ)^(1/2)+0.5×(μ)=46.9、
の関係を有する、銅合金。」

(2)甲2について
甲2は,鉛レス快削黄銅棒(鉛0.1%以下で,銅を主成分とする亜鉛との合金に,ビスマス(0.5?4.0%)又はけい素(2.0?4.0%)等を添加して被削性を改良した銅合金棒。)の技術標準に関するものであって,その「表2 化学成分」には,次の記載がある。
「表2



(3)甲3について
甲3には,鉛を超低量含む快削銅合金(発明の名称)に関して,次の記載がある。なお,下線は当審が付した。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅71.5?78.5重量%と、シリコン2.0?4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満を含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であって、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61-50Pb≦X-4Y≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項2】
銅71.5?78.5重量%と、シリコン2.0?4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満と、更にリン0.01?0.2重量%、アンチモン0.02?0.2重量%、ヒ素0.02?0.2重量%、スズ0.1?1.2重量%及びアルミニウム0.1?2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であり、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61-50Pb≦X-4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウムから選択された元素の量であり、aは選択された元素の係数であって、当該選択元素がリンの場合は-3、アンチモンの場合は0、ヒ素の場合は0、スズの場合は-1、アルミニウムの場合は-2である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項3】
銅71.5?78.5重量%と、シリコン2.0?4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満と、更にリン0.01?0.2重量%、アンチモン0.02?0.2重量%、ヒ素0.02?0.15重量%、スズ0.1?1.2重量%及びアルミニウム0.1?2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素と、更にマンガン0.3?4重量%及びニッケル0.2?3.0重量%から選択された少なくとも一つの元素をマンガンとニッケルの総重量%が0.3?4.0重量%の間になるように含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であり、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61-50Pb≦X-4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン、ニッケルから選択された元素の量であり、aは選択された元素の係数であって、当該選択元素がリンの場合は-3、アンチモンの場合は0、ヒ素の場合は0、スズの場合は-1、アルミニウムの場合は-2、マンガンの場合は2.5、ニッケルの場合は2.5である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項4】
当該合金がビスマス0.01?0.2重量%、テルル0.03?0.2重量%、及びセレン0.03?0.2重量%からなる群から選択された少なくとも一つの元素を含むことを特徴とする、請求項1?3の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項5】
当該合金が0.5重量%を超えない鉄を不純物として含むことを特徴とする、請求項1?4の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項6】
当該合金に460℃から600℃で20分から6時間熱処理を施す方法を含むプロセスによって製造されることを特徴とする、請求項1?5の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項7】
当該合金が(a)α相からなるマトリックス、及び(b)γ相及びκ相からなる群から選択された一つまたはそれ以上の相を含むことを特徴とする、請求項1?6の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項8】
γ相及びκ相から選択された一つ/又はそれ以上の相がマトリックス内に均一に分散されることを特徴とする、請求項1?7の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項9】
次の各関係:
当該合金の総相面積において0%≦β相≦5%であり、
当該合金の総相面積において0%≦μ相≦20%であり、かつ、
当該合金の総相面積において18-500(Pb)%≦κ相+γ相+0.3μ相-β相≦56+500(Pb)%
をさらに満たすことを特徴とする、請求項1?8の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項10】
当該合金の押出し棒または鋳造から形成された丸棒試験片を、乾式下にて、チップブレーカーの無いタングステン・カーバイド工具を用い、すくい角-6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度60m/minから200m/min、切削深さ1.0mm、及び送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削したとき、アーチ状型、針状型、及び板状型からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずることを特徴とする、請求項1?9の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項11】
当該合金の押出し棒/又は鋳造から形成された丸棒試験片を、乾式下にて、直径10mm長さ53mmのスチールグレードのドリルを用い、ねじれ角32度、ポイントアングル118度、切削速度80m/min、ドリル深さ40mm、及び送り速度0.20mm/revにてドリル切削したとき、アーチ状型及び針状型からなる群から選択された一つ、/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずることを特徴とする、請求項1?9の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、被削性向上元素としてごく少量の鉛(0.005重量%以上0.02重量%未満)を含む快削銅合金を提供することにある。鉛を多く含有する従来の快削性銅合金の安全な代替となることができ、なお被削性に優れた合金を提供することが目的であり、また、切屑のリサイクルが可能であると同時に、環境衛生上の問題を生じることのない快削銅合金を提供し、よって鉛含有製品の制限に関して増大する要望への、時宜にかなった回答を提供することである。本発明は、κ相、γ相びμ相と微量の鉛添加との相乗効果を利用することにより、このような結果を達成するに至る。

「【0093】
(金属構成)
本発明による銅合金の別の重要な特性として、金属のマトリックスであり、複数相の統合によって形成され、当該銅合金の構成相を生み出す金属の構成が挙げられる。具体的には、当業者であれば認識するように、ある合金はそれが製造されたときの環境によって異なる特性を持つことがある。例えば、スチールを焼戻す際に熱を利用することは良く知られている。ある合金が、鍛造時の条件によって異なる反応をするという事実は、その金属の構成素が統合し、/又は変換して別の相状態となることに因る。表1及び表2に示されているように、本発明による銅合金はすべてα相を含んでおり、本発明を実施するためには総相面積のおよそ30%かそれ以上となる。これは、α相が唯一、合金にある程度の冷間加工性を与えるためである。金属構成における相の関係を示すために、本発明合金に従い、186倍及び364倍で拡大した顕微鏡写真が図2に示されている。ここに写されている合金は第1発明合金であり、表1のNo.2合金に当たる。顕微鏡写真から分かるように、金属構成にはα相のマトリックスと、その中で分散されているγ相及び/又はκ相のどちらか、/又は両方が含まれている。これらの写真には見られないが、この金属構成にはμ相のような別の相が含まれる可能性もある。当業者であれば理解するであろうが、α相が金属の総相面積の30%以下であるとき、そのような銅合金は冷間加工性に欠き、いかなる実践的方法によっても、それ以上切削による加工は不可能である。従って、本発明合金はすべて、α相マトリックスに他の相が供された相構成である金属構成を有している。
【0094】
上述のように、本発明銅合金におけるシリコンの存在により被削性が改善されるが、これは一つにはシリコンがγ相を生じさせるためである。銅合金のγ相、κ相及びμ相のいずれかにおけるシリコン濃度は、α相におけるシリコン濃度の1.5倍から3.5倍の高さとなっている。さまざまな相におけるシリコン濃度は高い方から順にμ≧γ≧κ≧β≧αである。γ相、κ相及びμ相には、α相よりも硬くて脆いという共通する特徴もあり、当該合金が被削性を有するように、また図1に関して記述されていたとおり、切削によって生成される切屑が切削工具を傷めることのないように、当該合金に適度な硬さを与えている。従って、本発明を実施するには、当該合金に適度な硬さを与えるため、γ相、κ相及びμ相のうち少なくとも一つ、/又はこれら3つの相による任意の組合せを、α相の中に有する必要がある。」

(4)甲4について
甲4には,無鉛快削性銅合金(発明の名称)に関して,次の記載がある。なお,下線は当審が付した。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅69?79重量%及び珪素2.0?4.0重量%を含有し、且つ残部が亜鉛からなる合金組成をなすことを特徴とする無鉛快削性銅合金。
【請求項2】
錫0.3?3.5重量%、燐0.02?0.25重量%、アンチモン0.02?0.15重量%及び砒素0.02?0.15重量%から選択された1種以上の元素を更に含有することを特徴とする、請求項1に記載する無鉛快削性銅合金。
【請求項3】
銅70?80重量%と、珪素1.8?3.5重量%と、錫0.3?3.5重量%、アルミニウム1.0?3.5重量%及び燐0.02?0.25重量%から選択された1種以上の元素とを含有し、且つ残部が亜鉛からなる合金組成をなすことを特徴とする無鉛快削性銅合金。
【請求項4】
銅62?78重量%と、珪素2.5?4.5重量%と、錫0.3?3.0重量%、アルミニウム0.2?2.5重量%及び燐0.02?0.25重量%から選択された1種以上の元素と、マンガン0.7?3.5重量%及びニッケル0.7?3.5重量%から選択された1種以上の元素とを含有し、且つ残部が亜鉛からなる合金組成をなすことを特徴とする無鉛快削性銅合金。
【請求項5】
ビスマス0.02?0.4重量%、テルル0.02?0.4重量%及びセレン0.02?0.4重量%から選択された1種以上の元素を更に含有することを特徴とする、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載する無鉛快削性銅合金。
【請求項6】
銅69?79重量%、珪素2.0?4.0重量%、アルミニウム0.1?1.5重量%及び燐0.02?0.25重量%を含有し、且つ残部が亜鉛からなる合金組成をなすことを特徴とする無鉛快削性銅合金。
【請求項7】
クロム0.02?0.4重量%及びチタン0.02?0.4重量%から選択された1種以上の元素を更に含有することを特徴とする、請求項6に記載する無鉛快削性銅合金。
【請求項8】
ビスマス0.02?0.4重量%、テルル0.02?0.4重量%及びセレン0.02?0.4重量%から選択された1種以上の元素を更に含有することを特徴とする、請求項6又は請求項7に記載する無鉛快削性銅合金。
【請求項9】
400?600℃で30分?5時間熱処理したことを特徴とする、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7又は請求項8に記載する無鉛快削性銅合金。」

「【0045】
第1?第12発明合金は珪素等の被削性改善元素を添加したものであり、かかる元素の添加により優れた被削性を有するものであるが、特に、銅濃度が高く、α,β,γ,δ相以外の相(主としてκ相)が多い場合には、熱処理により、κ相がγ相に相変化して、γ相が微細に分散析出することにより、被削性が更に改善されることがある。例えば、銅濃度が高いものでは、マトリックスの延性が高くγ相の絶対量が少ないことから、冷間加工性に優れるが、カシメ等の冷間加工と切削加工が必要な場合、上記した熱処理が極めて有効となる。すなわち、第1?第12 発明合金における銅濃度が高いものであって、γ相が少なく且つκ相が多いもの(以下「高銅濃度合金」という)については、熱処理によりκ相がγ相に変化して、γ相が微細に分散析出することにより、被削性が更に改善される。また、実際の鋳物,展伸材,熱間鍛造品の製造を想定した場合、鋳造条件や熱間加工(熱間押出,熱間鍛造等)後の生産性,作業環境等の条件によって、それらの材料が強制空冷,水冷される場合がある。かかる場合、第1?第12発明において、銅濃度が低いもの(以下「低銅濃度合金」という)では、γ相が若干少なく且つβ相を含んでいるが、熱処理を施すと、これによりβ相がγ相に変化すると共にγ相が微細に分散析出することになり、被削性が改善される。実験により確認したところでは、銅及び珪素と他の添加元素(亜鉛を除く)Aとの配合比が67≦Cu-3Si+aAとなるような組成の高銅濃度合金又は64≧Cu-3Si+aAとなるような組成の低銅濃度合金において、熱処理による効果が特に著しい。なお、aは添加元素Aによって異なる係数であり、例えば、錫:a=-0.5、アルミニウム:a=-2、燐:a=-3、アンチモン:a=0、砒素:a=0、マンガン:a=+2.5、ニッケル:a=+2.5である。」

5 当審の判断
当審は,申立人が提示した特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?10に係る特許を取り消すことはできないと判断する。その理由は次のとおりである。

(1)請求項1に係る発明について
ア 引用発明との対比
本件特許の請求項1に係る発明(上記2のとおり。)と,引用発明(上記4(1)イのとおり。)とを対比する。
引用発明の「銅合金」は,「鋳造材を、約10秒間、約800℃保持した後、700℃から300℃の平均冷却速度6.0℃/秒で強制空冷したもの」であるから,請求項1に係る発明の「銅合金加工材」に相当する。
引用発明における合金の成分組成のうち,Cuの含有量,Siの含有量,Pの含有量,関係式f1及び関係式f2の値は,いずれも,請求項1に係る発明におけるCuの含有量,Siの含有量,Pの含有量,関係式f1及び関係式f2の範囲で重複している。
引用発明における金属組織の構成相のうち,面積率(κ),面積率(β),面積率(μ),関係式f3,関係式f4,関係式f5及び関係式f6の値は,いずれも,請求項1に係る発明における面積率(κ),面積率(β),面積率(μ),関係式f3,関係式f4,関係式f5及び関係式f6の範囲で重複している。
よって,両者は,次の一致点,及び,相違点を有する。

(一致点)
「銅合金加工材であって、
77.7mass%のCuと、3.3mass%のSiと、Snと、0.08mass%のPと、Znと、を含み、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Snの含有量を[Sn]mass%、Pの含有量を[P]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%とした場合に、
f1=[Cu]+0.8×[Si]-8.5×[Sn]+[P]+0.5×[Pb]=76.9、
f2=[Cu]-4.3×[Si]-0.7×[Sn]-[P]+0.5×[Pb]=63.1、
の関係を有するとともに、
金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、β相の面積率を(β)%、γ相の面積率を(γ)%、κ相の面積率を(κ)%、μ相の面積率を(μ)%とした場合に、
(κ)=39.1、
(β)=0、
(μ)=0、
f3=(α)+(κ)=98.3、
f4=(α)+(κ)+(γ)+(μ)=100、
f5=(γ)+(μ)=1.7、
f6=(κ)+6×(γ)^(1/2)+0.5×(μ)=46.9、
の関係を有する、銅合金加工材。」である点。

(相違点1)
合金の成分組成に関して,請求項1に係る発明は,「0.07mass%以上0.28mass%以下のSn」及び「0.022mass%以上0.25mass%以下のPb」を含み,かつ,「不可避不純物であるFe,Mn,Co,及びCrの合計量は、0.08mass%未満」であるのに対し,引用発明は,Snが0.42mass%であり,Pbを含有しておらず,かつ,Fe,Mn,Co,及びCrの合計量が不明である点。

(相違点2)
金属組織の構成相に関して,請求項1に係る発明は,「0≦(γ)≦1.5」であり,「γ相の長辺の長さが30μm以下」であり,「μ相の長辺の長さが25μm以下」であり,かつ,「α相内にκ相が存在している」のに対し,引用発明は,「(γ)=1.7」であり,γ相及びμ相の長辺の長さが不明であり,かつ,α相内にκ相が存在しているかどうか不明である点。

(相違点3)
銅合金加工材に関して,請求項1に係る発明は,「冷間加工及び熱間加工のいずれか一方又は両方が施されてなる快削性銅合金加工材」であるのに対し,引用発明は,冷間加工又は熱間加工が施されてなるかどうか不明であり,また,快削性であるかどうか不明である点。

イ 相違点について
事案に鑑み,相違点2について検討する。
甲1には,金属組織の構成相として,γ相やμ相の面積率を制御することは記載されているが,γ相やμ相の長辺の長さを制限することについては記載されていない。
一方,甲2は技術標準に関するものであり,金属組織の構成相については記載されていない。
また,甲3【0011】には,γ相びμ相と微量の鉛添加との相乗効果を利用することが記載され,甲4【0045】には,熱処理によりγ相が微細に分散析出することが記載されているが,いずれも,γ相やμ相の長辺の長さを制限することについては,記載も示唆もされていない。
よって,甲1?甲4のいずれにも,γ相及びμ相の長辺の長さを制限することは,記載も示唆もされていない。
すると,引用発明において,甲1ないし甲4に記載も示唆もない,「γ相の長辺の長さが30μm以下」かつ「μ相の長辺の長さが25μm以下」という技術的事項を考慮することは,当業者といえども容易になし得たことではない。
そして,本件請求項1に係る発明は,快削性銅合金の金属組織として,γ相及びμ相の長辺の長さを特定することで,本件特許明細書【0175】に記載のとおり,被削性,耐食性,衝撃特性,高温特性等のバランスを備えるようにしたものであって,このような効果は,当業者が容易に予測できたものではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は,甲1には,【0010】,【0012】及び【0016】に合金組成が記載され,表2の「A11L7」及び「A21L4」に金属組織の構成相が記載されており,これらは,請求項1に係る発明と一致している旨主張している(特許異議申立書11?12頁)。
そこで検討するに,甲1の「A11L7」及び「A21L4」における金属組織の構成相(表2)は,一応,本件請求項1に係る発明と重複しているが,それらの合金組成(表1)は,合金「A11」はCu,Si,残部Znであり,合金「A21」はCu,Si,P,残部Znであって,いずれも,本件請求項1に係る発明の合金組成とは異なっている。
そして,上記4(1)イ(ア)に記載したように,一般に,合金は,所定の含有量を有する合金の組み合わせが一体のものとして技術的意義を有するのであって,所与の特性が得られる組み合わせについては,実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮してはじめて理解され,合金を構成する元素が同じであっても配合量や製造方法に差違があれば,金属組織が異なり性質が異なることになり,それらは予測が困難である,という技術常識があるので,これを勘案すると,合金「A11」又は合金「A21」の合金組成を,請求項1に係る発明における合金組成に変えることは,当業者にとって容易になし得たとはいえないから,申立人の上記主張は採用できない。

エ 請求項1に係る発明についてのまとめ
以上によれば,上記相違点1,3について検討するまでもなく,本件請求項1に係る発明は,甲1に記載された発明ではなく,また,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は,請求項1を引用して,さらにSb,As及びBiから選択される1又は2以上を含有するという技術的事項を付加したものである。
よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,請求項2に係る発明は,甲1に記載された発明ではなく,また,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。

(3)請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明(上記2のとおり。)は,独立形式請求項であるが,その発明特定事項は,本件請求項1に係る発明の発明特定事項に比べ,Cu,Si,Sn,P,Pbの各組成,関係式f1,f2の範囲,κ,γ,β,μ各相の面積率,関係式f3?f6の範囲,μ相の長辺の長さの全てにおいて,減縮されたものとなっている。
よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,請求項3に係る発明は,甲1に記載された発明ではなく,また,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。

(4)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は,請求項3を引用して,さらにSb,As及びBiから選択される1又は2以上を含有するという技術的事項を付加したものである。
よって,上記(3)に示した理由と同様の理由により,請求項4に係る発明は,甲1に記載された発明ではなく,また,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。

(5)請求項5?10に係る発明について
ア 請求項5に係る発明は,請求項1?4を引用して,さらにκ相に含有されるSi,Pの量という技術的事項を付加したものである。
よって,上記(1)又は(3)に示した理由と同様の理由により,請求項5に係る発明は,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 請求項6に係る発明は,請求項1?5を引用して,さらにシャルピー衝撃試験値,引張強さ及びクリープひずみに係る技術的事項を付加したものである。
よって,上記(1)又は(3)に示した理由と同様の理由により,請求項6に係る発明は,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

ウ 請求項7に係る発明は,請求項1?6を引用して,さらに快削性銅合金加工材の用途を付加したものである。
よって,上記(1)又は(3)に示した理由と同様の理由により,請求項7に係る発明は,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

エ 請求項8?10に係る発明は,いずれも,請求項1?7を引用して,快削性合金加工材の製造方法を規定したものである。そして,既に検討したとおり,請求項1?7に係る発明は甲1に記載された発明ではなく,また,甲1?4の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものでもないから,そのような快削性銅合金加工材の製造方法についても同様に,当業者が容易に発明できたものではない。

(6)まとめ
以上のとおり,本件特許の請求項1?4に係る発明は,甲第1号証に記載された発明ではなく,また,本件特許の請求項1?10に係る発明は,甲第1号証ないし甲第4号証の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
したがって,申立人が提示した特許異議申立ての理由及び証拠によって,請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-28 
出願番号 特願2017-567267(P2017-567267)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川口 由紀子  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 平塚 政宏
土屋 知久
登録日 2018-08-31 
登録番号 特許第6391205号(P6391205)
権利者 三菱伸銅株式会社
発明の名称 快削性銅合金加工材、及び、快削性銅合金加工材の製造方法  
代理人 松沼 泰史  
代理人 大浪 一徳  
代理人 寺本 光生  
代理人 細川 文広  

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