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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和1行ケ10160 審決取消請求事件 判例 特許
令和1行ケ10067 審決取消請求事件 判例 特許
異議2021700592 審決 特許
無効2018800122 審決 特許
異議2019700557 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1353197
異議申立番号 異議2018-701011  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-13 
確定日 2019-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6343338号発明「医薬用又は食品添加用酸化マグネシウム顆粒」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6343338号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6343338号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成26年2月25日に特許出願され、平成30年5月25日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、平成30年12月13日に特許異議申立人アクシス国際特許業務法人により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6343338号の請求項1?13の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される下記のとおりのものである(以下、「本件発明1」?「本件発明13」、または、まとめて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
BET比表面積が7?50m^(2)/g、CAA80/CAA40が2?7であり、低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物である医薬用又は食品添加用の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項2】
BET比表面積が10?45m^(2)/g、且つ、CAA80/CAA40が2.2?6である請求項1に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項3】
かさ密度が700?1000g/Lである請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項4】
酸化マグネシウム顆粒の純分(Assay)が96%以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項5】
粒子径150μm未満の顆粒が、全体の10重量%以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項6】
前記酸化マグネシウム顆粒の重量中、Pbの含有量が20ppm以下、Asの含有量が4ppm以下である請求項1?5のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項7】
低活性酸化マグネシウムのBET比表面積が0.05?15m^(2)/gであり、中活性酸化マグネシウムのBET比表面積が20?80m^(2)/gである請求項1?6のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項8】
低活性酸化マグネシウムのCAA80が550?850秒、CAA40が250?550秒であり、中活性酸化マグネシウムのCAA80が100?300秒、CAA40が50?100秒である請求項1?7のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項9】
低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合比率が、重量%で、中活性酸化マグネシウム:低活性酸化マグネシウム=10:90?80:20である請求項1?8のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項10】
低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムを混合し、圧力をかけた後に粉砕する、請求項1?9のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒の製造方法。
【請求項11】
重量比で、中活性酸化マグネシウム:低活性酸化マグネシウムを10:90?80:20の割合で混合する工程、該混合物を加圧する工程、その後、混合物を粉砕する工程を含む、請求項1?9のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒の製造方法。
【請求項12】
請求項1?9のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を打錠することを特徴とする酸化マグネシウム錠剤の製造方法。
【請求項13】
請求項1?9のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する酸化マグネシウム錠剤。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人アクシス国際特許業務法人は、証拠としていずれも本件の出願日以前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第9号証(以下、「甲1」?「甲9」という。)を提出し、請求項1?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定、及び特許法第36条第6項第1号の規定にそれぞれ違反してされたものであるから、請求項1?13に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

第4 提出された証拠について
甲1?甲9には、それぞれ、次の記載がある。なお、下線は当合議体にて付加した。

甲1:特開2001-48792号公報
1a「【特許請求の範囲】
【請求項1】 BET(m^(2) /g)が21以上の酸化マグネシウムを有効成分とすることを特徴とする瀉下剤。
【請求項2】 酸化マグネシウムのBET(m^(2) /g)が21ないし50である請求項1記載の瀉下剤。
…(略)…
【請求項9】 剤形が、粉末または乾式造粒または湿式造粒によって得られた顆粒、あるいはさらにこれを打錠化した錠剤である請求項1ないし7のいずれか1記載の瀉下剤。」(特許請求の範囲)

1b「【0004】その後、前記特許出願を追試し、さらに総重量を少なくして飲みやすくし、効果的な瀉下剤を求めて研究を重ねた結果、特定のBET(単位:m^(2) /g,以下、単にBETという)を有する酸化マグネシウムを有効成分とするものが、酸反応性に優れ、選択的に優れた瀉下効果を示し、しかも、従来より、瀉下剤として一般に汎用されている製剤のように、直接腸を刺激することなく、かつ、長期間連用しても副作用を伴わずに、瀉下作用を促進する作用があることを知見し、この知見を元に本発明を完成させるに至った。
【0005】
【発明の目的】そこで、本発明の目的は、飲みやすく、かつ、少量の服用量で腸を刺激することなく瀉下作用を充分に発揮できる瀉下剤を提供することにある。
…(略)…
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記目的を達成するために提案されたものであり、瀉下剤の有効成分として、特定のBETを有する酸化マグネシウムを採択した点に重要な特徴を有する。
【0007】すなわち、本発明によれば、BETが21以上の酸化マグネシウムを有効成分とすることを特徴とする瀉下剤が提供される。上記酸化マグネシウムのBETは、とくに21ないし50の範囲にあるものが好ましい。
【0008】また、上記酸化マグネシウムのBETは、30ないし40であることが特に好ましい。」(段落【0004】?【0008】)

1c「【0018】
【発明の実施の形態】本発明の最大の技術的特徴は、瀉下剤の有効成分として、BETが21以上の酸化マグネシウムを採択した点にある。本発明における酸化マグネシウムは、BETが21以上のものであればよく、通常150程度までのBETのものが使用可能であるが、なかんずく、21ないし50の範囲のものが好ましく、30ないし40のものが特に好ましい。本発明でいうところのBETが21以上の酸化マグネシウムは、後述する実施例によって確認されたように、酸反応性に優れた活性を有していることにより優れた瀉下作用をもたらすものである。本願明細書においては、これを活性酸化マグネシウムという。」(段落【0018】)

1d「【0021】酸化マグネシウムのBETは、製造過程における水酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムの焼成温度でほぼ決まるものであり、焼成温度が800℃程度ではBETが50を超え、1000℃以上、例えば、1200℃程度ではBETが20以下のものになる(Chem.Pharm.Bull.24(2)330-336(1976)、とくに第1表参照)。
【0022】この水酸化マグネシウムを焼成する時の温度が低いと、多孔性で表面積の大きな軽質酸化マグネシウムとなり、これが、本発明において用いる酸化マグネシウムである。ちなみに、1000℃以上の高温で焼成した場合は、MgOが凝結して緻密構造の表面積の小さい重質酸化マグネシウムになり、酸反応性は低く、瀉下作用も低いものとなる。」(段落【0021】?【0022】)

1e「【0049】また、本発明の瀉下剤を製剤化する場合は、酸化マグネシウムが超微粉末で吸湿性が高く直打はできないが、乾式造粒によって打錠することができる。湿式造粒の場合は、アルコールを用いることにより湿式造粒が可能になる。また、錠剤は、この顆粒を打錠化することによって得ることができる。」(段落【0049】)

1f「【0054】
【実施例】以下、実施例・比較例に基づいて本発明を説明する。
実施例1
配合処方
活性酸化マグネシウム(BET40) 86.5重量%
カルボキシメチルセルロースカルシウム 10.0重量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0重量%
ステアリン酸マグネシウム(滑択剤) 2.5重量%
【0055】<製剤方法>上記処方において、ステアリン酸マグネシウム以外の粉末を押出し、攪拌造粒機を用いて99%アルコールで練り合わせ、0.7mmの金網で押出し造粒した後、80℃で一夜乾燥し、得られた顆粒を20?80メッシュで整粒し、これにステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、ロータリー打錠機で整錠したところ、外観の黒ずみもなく白色の錠剤を得た。得られた錠剤を試料Aとする。」(段落【0054】?【0055】)

1g「【0077】
実施例2 配合処方
酸化マグネシウム(BET30) 66.5重量%
カルボキシメチルセルロースカルシウム 8.0重量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.8重量%
ステアリン酸マグネシウム(滑択剤) 2.0重量%
有胞子乳酸菌と酵母エキスの混合物* 22.7重量%
*:有胞子乳酸菌として、有胞子アシドフィルス菌を1%含む酵母エキスとの混合物を用いた。
【0078】上記の配合物を、実施例1と同様にして顆粒を調製し、打錠機によって錠剤(440mg/1錠)を成形した。…(略)…
【0079】実施例3
実施例2で用いた有胞子アシドフィルス菌と酵母エキスに代えて、…(略)…をそれぞれ配合したものから同様にして錠剤を成形し、…(略)。」(段落【0077】?【0079】)

甲2:特許第4015485号公報
2a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム粒子を有効成分とする錠剤であって、該錠剤は、
(i)その中に含まれる酸化マグネシウム粒子は、レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が0.5?10μmであり、
(ii)その中に含まれる酸化マグネシウム粒子の含有割合が88?97重量%であり、
(iii)結合剤として、結晶セルロースまたはデンプンを1?8重量%含有し、
(iv)崩壊剤として、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムおよびカルボキシスターチナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも一種を1?3.5重量%含有し、かつ
(v)崩壊時間が10秒以下である、
ことを特徴とする制酸・緩下用錠剤。
…(略)…
【請求項4】
該酸化マグネシウム粒子は、レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が1?10μmの水酸化マグネシウム粒子を700?1000℃の温度で焼成して得られたものである請求項1記載の制酸・緩下用錠剤。
…(略)…
【請求項7】
平均粒子径が0.25?0.40mmの顆粒状の酸化マグネシウム粒子から形成された請求項1記載の制酸・緩下用錠剤。
【請求項8】
見掛け密度が0.50?0.70g/mlの顆粒状の酸化マグネシウム粒子から形成された請求項1記載の制酸・緩下用錠剤。」(特許請求の範囲)

2b「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、胃酸過多もしくは胃酸分泌亢進症または便秘に用いられる制酸・緩下用錠剤に関するものであり、より詳しくは、打錠障害、錠剤の黒ずみおよび打錠斑が実質的に存在せず、酸化マグネシウム粒子の含有割合が高くかつ水と共に服用すると口中で速やかに崩壊するため服用しやすい酸化マグネシウム粒子含有錠剤に関する。さらに詳しくは、錠剤中の酸化マグネシウム粒子の含有量が88重量%以上で、かつ崩壊時間が10秒以下である制酸・緩下用酸化マグネシウム粒子含有錠剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の酸化マグネシウム粒子含有錠剤は、粒状の酸化マグネシウム粒子に賦形剤、結合剤、崩壊剤および滑沢剤などを配合し、直接打錠法により製した錠剤である。酸化マグネシウム粒子は硬いので、打錠機を摩耗し、錠剤の黒ずみや打錠斑の発生の原因となる。」(段落【0001】?【0002】)

2c「【0015】
打錠化に供する酸化マグネシウム粒子は、粉末状でよく、また顆粒状のいずれでもよいが、顆粒状の方が打錠機の摩耗防止効果に優れ、しかもより高含有量の錠剤を得ることができる。
【0016】
酸化マグネシウム粒子は通常水酸化マグネシウム粒子を焼成して得られるが、本発明者らの研究によれば、レーザー回折散乱法による平均2次粒子径が1?10μmの水酸化マグネシウムを700?1,000℃で焼成した酸化マグネシウム粒子を、錠剤にした場合、従来の酸化マグネシウム粒子のように硬くなく、打錠機を摩耗しないことも見出した。」(段落【0015】?【0016】)

2d「【0020】
本発明において、酸化マグネシウム粒子単味では乾式造粒時に高圧力で圧縮しなければ成形されない粉末を、前記添加剤(結合剤および崩壊剤)と共に配合した混合末にすることにより、低圧力で錠剤に成形可能となった。高圧力で成形した顆粒は堅く、これを用いて製錠すると錠剤の黒ずみ、打錠斑の発生の他にキャッピングや機械部品の摩耗が激しいが、本発明によれば、下記の如きこれらを防止できる製錠剤の製造方法が提供できた。
」(段落【0020】?【0021】)

2e「【0022】
すなわち、本発明によれば、
a.(1)レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が0.5?10μmの酸化マ
グネシウム粒子88?97重量%、
(2)結晶セルロースまたはデンプンよりなる結合剤1?10重量%および
(3)クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムおよびカルボキシスターチナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも一種の崩壊剤1?3.5重量%
よりなる混合物を調製し、
b.該混合物を、造粒して、平均粒径が0.25?0.4mmかつ見掛け密度が0.5?0.7g/mlである顆粒状粒子を得て、
c.次いでこの顆粒状粒子に、0.2?2重量%の滑沢剤を混合して打錠する、ことを特徴とする酸化マグネシウム粒子を有効成分とする錠剤の製造方法が提供される。」(段落【0022】)

甲3:特許第3980569号公報
3a「【請求項1】
Pb含有量が2×10^(-7)モル/モル以下で、かつ1.9×10^(-8)モル/モル以上である酸化マグネシウム。
【請求項2】
鉛または鉛化合物を含有する水酸化マグネシウムを、ハロゲン化物もしくはハロゲンガスであるハロゲン源の存在下に700?1300℃の温度で焼成して得たものである請求項1に記載の酸化マグネシウム。
【請求項3】
Pb含有量が1×10^(-7)モル/モル以下である請求項1もしくは2に記載の酸化マグネシウム。
【請求項4】
Pb含有量が0.5×10^(-7)モル/モル以下である請求項3に記載の酸化マグネシウム。
…(略)…
【請求項6】
請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の酸化マグネシウムからなる医薬品原料。」(特許請求の範囲)

3b「【0004】
また、水酸化マグネシウムを450?1300℃で焼成して得られる酸化マグネシウム(軽焼または仮焼マグネシアともいう。以下、単に酸化マグネシウムという)は、活性が比較的大きく、マグネシアセメント材料、あるいはミネラルの供給源として肥料、食品等の添加剤、制酸剤や下剤などの医薬品の原料、化粧品原料などに利用されている。
この酸化マグネシウムは肥料、食品等の添加剤、医薬品原料として、人体に直接あるいは間接的に摂取され、あるいは化粧品原料として人体に接触するものであるため、重金属の混入量がより少ないものが望まれている。」(段落【0004】)

3c「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鉛または鉛化合物を含有する水酸化マグネシウムを、ハロゲン化物もしくはハロゲンガスであるハロゲン源の存在下に焼成すると、酸化マグネシウム1モル中のPb含有量が2×10^(-7)モル以下(好ましくは1×10^(-7)モル以下、さらに好ましくは0.5×10^(-7)モル以下)の酸化マグネシウムを得ることができることを見出した。」(段落【0009】)

甲4:特許第5039624号公報
4a「【請求項1】
純度が99.9質量%以上であり、Pbの含量が0.1ppm未満である、水酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
Pbの含量が0.01ppm以下である、請求項1に記載の水酸化マグネシウム粉末。」(特許請求の範囲)

4b「【0002】
水酸化マグネシウム粉末及び酸化マグネシウム粉末は、種々の分野において、食品添加剤等の各種添加剤、燃料電池原料、電子部品用途、蛍光体原料、各種ターゲット材原料、超伝導薄膜下地用原料、トンネル磁気抵抗素子(TMR)用のトンネル障壁原料、PDP用保護膜原料、PDP用結晶酸化マグネシウム層原料、トナー電荷調整剤、トナー粒度調整剤、二次電子増倍電極の原料、紫外線発光半導体の原料、二次電池の原料、医薬品原料、化粧品原料等として使用され、きわめて広範な用途を持つ無機材料として注目されている。
【0003】
これらの粉末としては純度がより高いものが求められており、不純物のなかでも鉛(Pb)は人体に有害な元素であること、様々な用途において悪影響を及ぼす元素であることなどから、できるだけPb含量を低減することが望まれている。」(段落【0002】?【0003】)

4c「【0005】
特許文献1では、水酸化マグネシウムを700?1300℃の温度で焼成することにより、鉛の含有量が7ppm以下の酸化マグネシウム粉末を得ることが記載されている。鉛の含有量の最小値としては表1で0.3ppmが記載されている。」(段落【0005】)

4d「【0027】
以上のようにして得られる本発明の高純度水酸化マグネシウム粉末をおよそ1000?1500℃で焼成することにより、本発明の高純度酸化マグネシウム粉末を得ることができる。」(段落【0027】)

4e「【0032】
実施例1
無水塩化マグネシウム(MgCl_(2))をイオン交換水に溶解して、約3.5mol/lの塩化マグネシウム水溶液を調製した。…(略)…水熱処理した水酸化マグネシウムスラリーをろ過、水洗、乾燥して、水酸化マグネシウム粉末を得た。
【0034】
得られた水酸化マグネシウム粉末を電気炉で1300℃、60分間焼成することによって、酸化マグネシウム粉末を得た。」(段落【0032】?【0034】)

甲5:特開平10-88244号公報
5a「【特許請求の範囲】
【請求項1】 水酸化マグネシウムを、ロータリキルンを用い焼成して得られる方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤用のMgOであって、(1) 該焼成MgO粉末を2種類以上混合すること、(2) 混合に際し、下記に示すA種目標値からの±偏差量に応じて該焼成MgOの配合割合を調整し混合すること、あるいは下記に示すA種目標値とB種目標値群とF種許容量上限値から選ばれる1種以上の目標値または/および許容量上限値に加えて、同じく下記に示すC種目標値とD種目標値群とE種許容量上限値群から選ばれる1種以上の目標値または/および許容量上限値について、該焼成MgOの配合割合を上記選定した所定目標値または/および許容量上限値からの±偏差量に応じて調整し混合すること、(3) 混合後のMgOとして、A種目標値については各目標値の±20%以内の値に、
B種目標値群については各目標値の±30%以内の値に、C種目標値については目標値の±50%以内の値に、D種目標値群については各目標値の±90%以内に、さらに許容量上限値については各種許容上限値以下に調整すること、をそれぞれ満足することを特徴とする方向性電磁鋼板製造時における焼鈍分離剤用のMgO。

・A種目標値
活性度または活性度分布としての酸との所定割合の反応における反応時間目標値
・B種目標値群
比表面積の目標値
平均1次粒子径の目標値
Ig.loss の目標値
・C種目標値
CaO含有量目標値
・D種目標値群
CO_(2) 含有量目標値
SO_(3) 含有量目標値
・E種許容量上限値群
K,Naの合計含有量許容量上限値
Bの含有量許容量上限値
・F値許容量上限値
F,Clの合計含有量許容量上限値
…(略)…
【請求項3】 請求項1または2において、鋼中にAlを 0.010?0.040 wt%含有する方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤用のMgOについて、選ばれた目標値または許容量上限値からの±偏差量に応じて2種以上の焼成MgOを混合するに際し、各種目標値および許容量上限値を下記の各種目標値範囲および各種許容量上限値範囲から選び設定することを特徴とする、方向性電磁鋼板製造時における焼鈍分離剤用のMgO。

・各種目標値範囲
活性度分布のとして40%CAA の目標値範囲として72?108 秒間、80%CAA の目標値範囲として 250?420 秒間
CaOの目標値範囲として0.20?0.60wt%、 CO_(2) の目標値範囲として0.05?0.3 wt%、SO_(3) の目標値範囲として0.10?0.40wt%
比表面積の目標値範囲として12?20 m^(2)/g
レーザー回折式粒度分布測定による50%累積重量平均粒子径の目標値範囲として 0.5?3μm
Ig.loss の目標値範囲として 0.8?1.3 wt%
・各種許容量上限値範囲
KとNaの合計含有量の許容量上限値範囲として 0.001?0.007 wt%
B含有量の許容量上限値範囲として0.05?0.35wt%
FとClの合計含有量の許容量上限値範囲として0.02?0.07wt%」(特許請求の範囲)

5b「【0020】
【発明の実施の形態】以下、この発明を由来するに至った実験について述べる。…(略)…この時、焼鈍分離剤としては、いずれもMgO:100 重量部に対し、TiO_(2):8重量部とSnO_(2):2重量部を配合したものを用いたが、MgOについては下記(A)から(K)の11種類のものを使用した。すなわち、イオン苦汁を出発原料として、これと石灰乳とを反応させることによって水酸化マグネシウムを作り、この水酸化マグネシウムを焼成してMgOを製造したが、その焼成法および混合法を下記に示すように変化させた。なお、MgO(B)とMgO(C)の配合量は、MgO(A)に合わせて活性度分布が広くなるように設定したものである。
【0021】
MgO種類 焼成方法および混合方法
・MgO(A) マッフル炉で焼成
(従来法) 昇温4時間、最高温度 950℃、30分間維持
・MgO(B) ロータリキルンを用い
(比較例) 下記の条件で焼成した第1回目のMgOを下記の配合割合で
混合
850 ℃、15分間焼成したもの:3割
900 ℃、15分間焼成したもの:6割
950 ℃、15分間焼成したもの:1割
・MgO(C) ロータリキルンを用い
(比較例) 下記の条件で焼成した第2回目のMgOを下記の配合割合で
混合
850 ℃、15分間焼成したもの:3割
900 ℃、15分間焼成したもの:6割
950 ℃、15分間焼成したもの:1割
・MgO(D) ロータリキルンで
(比較例) 910 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第1番の焼成品
・MgO(E) ロータリキルンで
(比較例) 910 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第2番の焼成品
・MgO(F) ロータリキルンで
(比較例) 910 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第3番の焼成品
・MgO(G) ロータリキルンで
(比較例) 910 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第4番の焼成品
・MgO(H) 下記MgOの混合品
(適合例) MgO(D):2割
MgO(E):5割
MgO(F):3割
・MgO(I) 下記MgOの混合品
(比較例) MgO(D)、MgO(E)およびMgO(F)を均等量混合
・MgO(J) 下記MgOの混合品
(適合例) MgO(E):4割
MgO(F):2割
MgO(G):4割
・MgO(K) 下記MgOの混合品
(比較例) MgO(E)、MgO(F)およびMgO(G)を均等量混合」(段落【0020】?【0021】)

5c「【表1】


」(【表1】)

5d「【0027】さて、一定範囲に調整すべきMgOの特性としては、CAA 活性度や活性度分布、比表面積だけでなく、MgOの平均1次粒子径、Ig.loss や製造時に混入する各種不純物等があること、そしてこれらの範囲についてもそれぞれ適正値が存在することが判明した。このうち、不純物については、多くのものが原料の水酸化マグネシウムの段階でバラツキを低減しておくことが必要であることはいうまでもないが、この発明の方法によって適宜MgOを混合することによって一定の目標範囲に収めることが可能となる。また、水酸化マグネシウムは、苦汁もしくは海水中に石灰乳を投入して生成した水酸化マグネシウムを沈降分離して得たり、MgOを水和させて得るが、その結晶粒子径は焼成後のMgOの特性に大きな影響を及ぼすことから、この発明の効果をさらに高めるためには、その結晶粒子径を一定に揃えることが好適であり、特にa軸方向の粒子径を 0.2?20μm とすることが良好であることの知見を得た。以上の実験と調査に基づいて、この発明は完成されたものである。」(段落【0027】)

5e「【0029】ロータリキルンは、回転する円筒炉の中に水酸化マグネシウムを通入、移動させながら短時間で焼成する方法で、温度分布がマッフル炉に比較して均一であるので粒度分布や活性度分布の狭い均一なMgOを得ることができる反面、焼鈍時間が短いので焼成チャンスが異なる場合品質が大きく変化する傾向がある。このようなロータリキルンで焼成したMgO粉について2種以上を配合して混合することがこの発明の特徴で、特にこの配合方法に工夫を加え、所定目標値からの±偏差量に応じて配合割合を調整して混合する点に、この発明の第1の特徴がある。」(段落【0029】)

5f「【0055】
【実施例】
実施例1
…(略)…
【0056】この時、焼鈍分離剤はいずれも、MgO:100 重量部に対し、TiO_(2):8重量部とSnO_(2):2重量部を配合したものを用いたが、MgOについては下記(L)から(U)までの10種類のものを使用した。すなわち、イオン苦汁を出発原料として、これと石灰乳とを反応させることにより水酸化マグネシウムを作り、この水酸化マグネシウムを焼成してMgOを製造したが、その焼成法および混合法を下記に示すように変化させた。なお、MgO(M)とMgO(N)の配合量はMgO(L)に合わせて活性度分布が広くなるように設定したものである。
【0057】
MgO種類 焼成方法および混合方法
・MgO(L) マッフル炉で焼成
(従来法) 昇温4時間、最高温度950 ℃、30分間維持
・MgO(M) ロータリキルンを用い
(比較例) 下記の条件で焼成した第1回目のMgOを下記の配合割合で 混合
850 ℃、15分間焼成したもの:2割
900 ℃、15分間焼成したもの:6割
950 ℃、15分間焼成したもの:2割
・MgO(N) ロータリキルンを用い
(比較例) 下記の条件で焼成した第2回目のMgOを下記の配合割合で 混合
850 ℃、15分間焼成したもの:2割
900 ℃、15分間焼成したもの:6割
950 ℃、15分間焼成したもの:2割
・MgO(O) ロータリキルンで
(比較例) 900 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第1番の焼成品
・MgO(P) ロータリキルンで
(比較例) 900 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第2番の焼成品
・MgO(Q) ロータリキルンで
(比較例) 900 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第3番の焼成品
・MgO(R) ロータリキルンで
(比較例) 900 ℃、15分間焼成したMgO
ロット第4番の焼成品
・MgO(S) 下記MgOの混合品
(適合例) MgO(O),MgO(P),MgO(Q)の80%CAA 値を測定し,
目標値を 325秒間とし、目標値からのずれの逆数の比率で
配合量を分配し下記の割合で混合した。
MgO(O):8.6 %
MgO(P):78.6%
MgO(Q):12.8%
・MgO(T) 下記MgOの混合品
(比較例) MgO(O),MgO(P)およびMgO(Q)を均等量混合
・MgO (U) 下記MgOの混合品
(適合例) MgO(O),MgO(P),MgO(Q)の80%CAA 値を測定し,
目標値を 325秒間とし、目標値からのずれの逆数の比率で
配合量を分配し下記の割合で混合した。
MgO(P):79.0%
MgO(Q):12.9%
MgO(R): 8.1%」(段落【0055】?【0057】)

甲6:特許第5245277号公報
6a「【請求項1】
方向性電磁鋼板の製造に用いる焼鈍分離剤用マグネシアであって、
苦汁、かん水または海水を原料として製造した水酸化マグネシウムを、最終段階で直火または間接式ロータリーキルンにより焼成したマグネシアの2種以上の混合物からなり、
そのうちの少なくとも1種のマグネシアとして、BET比表面積が36?50 m^(2)/g、不純物のCl濃度が0.02?0.04%、CAA40%が35?65秒、CAA80%が80?160秒のものを、10mass%以上配合し、
かつ、2種以上の混合物からなるマグネシアの平均特性が、BET比表面積:20?35 m^(2)/g、不純物のCl濃度:0.01?0.04%、CaO濃度:0.25?0.70%、B濃度:0.05?0.15%、SO_(3)濃度:0.05?0.50%、CAA40%:55?85秒、CAA80%:100?250秒および20℃,60分の水和試験による水和量:1.5?3.5mass%を満足することを特徴とする焼鈍分離剤用のマグネシア。」(特許請求の範囲)

6b「【0020】
しかしながら、ロータリーキルン焼成品で反応性を高くするために、例えば低温で焼成するなどして比表面積を大きくすると、水和量が多くなりすぎて、逆に点状被膜欠陥の発生を招いてしまう。例えば、特許文献7では、比表面積が35m^(2)/gを超える、またはCAA40%が40秒より短いと、多数の点状被膜欠陥が発生すると記されている。
但し、マッフル炉焼成品で観察された微細な一次粒子径(結晶子径)を有するマグネシアが、全体に占める割合そのものは多くなかったので、非常に高活性な、すなわち反応性が極めて高いマグネシアの量は比較的少量であればよいと考えられる。
【0021】
そこで、最終的に使用するマグネシアを、ロータリーキルンで焼成したマグネシアの2種以上の混合物とし、その1種について、非常に反応性の高いマグネシアを必要量だけ配合することを検討した。
その結果、混合に用いるマグネシアの1種としては、BET比表面積が36?50m^(2)/g、不純物のCl濃度が0.02?0.04%、CAA40%が35?65秒、CAA80%が80?160秒のものを用いて、それを10mass%以上配合すれば、反応性の高いマグネシアの必要量は満たされることを新規に見出した。
【0022】
なお、2種以上混合したマグネシアの平均特性としては、従来の知見どおり、あまりに高活性であるのは、かえって被膜欠陥の発生を招いて好ましくない。
すなわち、ロータリーキルンで粉体特性の異なるマグネシアを2種以上製造し、そのうちの1種については、かなり反応性の高いマグネシアとし、かつ、平均的には、それより反応性の低い特性にすればよいことが新たに知見されたのである。
この場合、粉体特性の均一性の良さというロータリーキルン焼成の長所は、混合前のマグネシア各単品の特性を制御する点で、極めて有効に作用する。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。」(段落【0020】?【0022】)

6c「【0027】
以下、本発明を由来するに至った実験結果について説明する。なお、鋼板の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
(実験1)
…(略)…
【0028】
このとき、焼鈍分離剤用のマグネシアは次のようにして製造した。…(略)…最後に、直火式ロータリーキルンで最終焼成を行い、表1に示す6種類の粉体(記号A?F)を製造した。
【0029】
その後、表2に示す配合で各粉体を混合して、焼鈍分離剤用マグネシアとした。なお、一部は、混合せずに、単品のままで実験に供した。そして、実験に供する焼鈍分離剤用マグネシアとしては表2に示す粉体特性をもつ15種類のマグネシア(No.1?15)を用いた。
…(略)…」(段落【0027】?【0029】)

6d「表1



(【表1】)

6e「表2



(【表2】)

甲7:特許第3539938号公報
7a「【請求項1】
苦汁及び/又は海水を原料として得られた水酸化マグネシウムを最終段階で直火式ロータリーキルンにより焼成して得られたMgOの1種又は2種以上の混合物からなり、物性として熱伝導率が0.07W/m・K以上であり、且つ、BET法比表面積(以下、比表面積と記載)が6?16m^(2)/gであることを特徴とする焼鈍分離剤。」(特許請求の範囲)

7b「【0017】
また、CAA値は、通常のクエン酸活性試験によるものであり、0.4Nクエン酸、30℃の測定によるものである。」(段落【0017】)

7c「【0021】
本発明では、焼成前のMg(OH)_(2)としては苦汁法、海水法の単独或いは両者の2種以上の原料を混合原料として焼成し製造される。また、焼成後において2種以上のMgO製品を混合して本発明の物性値を有する焼鈍分離剤を調整しても良い。」(段落【0021】)

7d「【0043】
この鋼板上に、表2に示す、苦汁からMg(OH)_(2)を調整し、直火式ロータリーキルンで焼成したMgO(A)と海水からMg(OH)_(2)を調整し、直火式ロータリーキルンで焼成したMgO(B)を表3に示すような割合で配合した焼鈍分離剤のMgO 100質量部に対し、TiO_(2) 4質量部、Na_(2)B_(4)O_(7) 0.3質量部と更に、HClを用いてCl量の総和が350ppmになるようにスラリーを調整し、塗布し、乾燥後、実施例1と同様に1200℃×20Hrの仕上げ焼鈍と絶縁被膜剤の焼付け処理を行った。この際の焼鈍分離剤の塗布状況、グラス被膜形成状況及び磁気特性の結果を表4に示す。」(段落【0043】)

7e「表2



(【表2】)

7f「表3



(【表3】)

甲8:国際公開第2000/56287号
8a「1.少なくとも、有効成分を含む顆粒と、賦形剤を含む顆粒とを含む錠剤であって、
前記有効成分を含む顆粒の粒径と、前記賦形剤を含む顆粒の粒径とが概ね?致しており、且つ、
前記有効成分を含む顆粒と、 前記賦形剤を含む顆粒との配合物を均一に混合した混合物を圧縮成形した、錠剤。 」(特許請求の範囲)

8b「この錠剤では、上記したように、有効成分を含む顆粒と、賦形剤剤を含む顆粒の 粒径として、互いに、粒径が概ね?致しているものを用いている。
これにより、混合機を用いて、有効成分を含む顆粒と、賦形剤を含む顆粒とを配合して、混合すると、混合機により与えられる外部的な力に対し、有効成分を含む顆粒と、賦形剤を含む顆粒とが同じ挙動を示すため、自己形成的に、均一に混合される。
また、打錠機を用いて、有効成分を含む顆粒と賦形剤を含む顆粒との混合物を打錠する際に、打錠機より与えられる外部的な力に対し、有効成分を含む顆粒と、賦形剤を含む顆粒とが同じ挙動を示すため、混合物中に、有効成分を含む顆粒が偏析するという現象が生じない。」(8頁17?26行)

甲9:特開2009-249359号公報
9a「【0001】
本発明は、混合原料粉粒体を造粒して中間顆粒を製造し、それを打錠して錠剤を製造する場合、混合原料粉粒体の各成分を均一に分散させた中間顆粒の製造を可能とし、割れや欠けの無い硬度の高い、成分均一性の高い錠剤を製造する方法と装置に関する。」(段落【0001】)

9b「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流動層転動造粒中の混合原料粉粒体の表面水分量を一定値に保持しながら流動層転動造粒するので、粒径や比重が異なり、含水量や流動性なども異なる複数種類の種々の原料を混合してなる混合原料粉粒体を造粒する場合であっても、種々の原料を均一に混合しながら造粒できるので、成分均一性の優れた均質な造粒物を得ることができる効果がある。また、均一混合ができるので流動層転動造粒装置の内部に混合原料粉粒体の成分の一部のみが残留するなどの問題が生じ難いので、原料を無駄なく全て造粒物に含ませることができる結果として、原料の無駄のない、収率の高い生産ができる特徴を有する。…(略)…」(段落【0011】)

9c「【0012】
組成均一性の優れた造粒物である中間顆粒を得るとともに、この中間顆粒から打錠して錠剤を得ることにより、打錠時に効率良く固化できる結果として、強度の高い錠剤を得ることができる。また、混合原料粉粒体から得た中間顆粒中の崩壊剤が均一なため、錠剤に液体が侵入し易くなり崩壊性にも優れ、また錠剤とした場合の錠剤内部におけるバインダーの分散均一性も優れるので、錠剤強度が高い錠剤を提供できる。…(略)…」(段落【0012】)

第5 当審の判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
1.1 本件発明1について
1.1.1 甲1に記載された発明
上記1a?1cより、甲1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「瀉下剤の有効成分であって、BET(m^(2) /g)が21ないし50である酸化マグネシウム顆粒。」

1.1.2 対比
引用発明の「BET(m^(2) /g)」と記載される特性がいわゆるBET比表面積をいうことは技術常識から明らかであり、その「21ないし50」という数値範囲は本件発明1の「7?50」という数値範囲に包含されるから、引用発明の「BET(m^(2) /g)が21ないし50」は本件発明1の「BET比表面積が7?50m^(2)/g」に相当する。また、引用発明の「瀉下剤」が医薬であることも明らかであり、引用発明の「瀉下剤の有効成分」であることは本件発明1の「医薬用又は食品添加用」であることに相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、「BET比表面積が7?50m^(2)/gである医薬用又は食品添加用の酸化マグネシウム顆粒」である点で一致し、本件発明1では酸化マグネシウム顆粒が「CAA80/CAA40が2?7であり、低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物である」と特定されるのに対して、引用発明1ではそのように特定されない点(以下「相違点」という。)で互いに相違する。

1.1.3 検討
上記の相違点について検討する。

ア)本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「本発明において、水酸化マグネシウムを焼成温度約1000℃?約2000℃で焼成して得られる酸化マグネシウムを「低活性酸化マグネシウム」といい、焼成温度約450℃?約900℃で焼成して得られる酸化マグネシウムを「中活性酸化マグネシウム」という。」と記載されており(段落【0028】)、本件発明1の「低活性酸化マグネシウム」、「中活性酸化マグネシウム」は、それぞれ、焼成温度を約1000℃?約2000℃、約450℃?約900℃として得られるものと認められる。「CAA80/CAA40」については、「CAA」が酸化マグネシウムの活性度を示す指標であることが記載され(段落【0018】)、「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」のそれぞれについてBET比表面積、CAA80及びCAA40の好ましい範囲が記載されている(段落【0029】)。

イ)一方、甲1には、酸化マグネシウムのBET比表面積について「製造過程における水酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムの焼成温度でほぼ決まる」、「焼成温度が800℃程度ではBETが50を超え、1000℃以上、例えば、1200℃程度ではBETが20以下のものになる」、「この水酸化マグネシウムを焼成する時の温度が低いと、多孔性で表面積の大きな軽質酸化マグネシウムとなり、これが、本発明において用いる酸化マグネシウムである。」と記載されている(1d)。そして、ここに示される焼成温度とBET比表面積との対応は、本件明細書に記載された内容とも整合している。
甲1の上記の記載事項に照らせば、引用発明の「酸化マグネシウム」は、800℃を超え1000℃未満の温度で焼成することによって、BET比表面積を21?50m^(2 )/gの範囲としたものといえる。この焼成温度は、800?900℃の範囲で本件発明1の「中活性酸化マグネシウム」の焼成温度と重複するが、約1000℃以上という本件発明1の「低活性酸化マグネシウム」の焼成温度とは重複しない。
さらに、甲1には「ちなみに、1000℃以上の高温で焼成した場合は、MgOが凝結して緻密構造の表面積の小さい重質酸化マグネシウムになり、酸反応性は低く、瀉下作用も低いものとなる。」とも記載されている(1d)。すると、甲1の記載に触れた当業者は、引用発明の「瀉下剤」である「酸化マグネシウム」について、焼成温度が約1000℃以上であるような本件発明1の「低活性酸化マグネシウム」に相当するものは好適でないと理解する。
また、甲1には、瀉下剤の製剤化に際し、酸化マグネシウムを乾式造粒や湿式造粒によって顆粒化してから打錠することが記載され(1a、1e)、具体例として1種類の酸化マグネシウムを他の材料とともにアルコールを用いて攪拌造粒したことが記載されている(1f、1g)。錠剤の製造において造粒を行うことは周知慣用の技術に過ぎず、甲2にも記載されるように(2b、2c)、酸化マグネシウムを用いる場合であっても格別のことではないが、甲1には複数の種類の酸化マグネシウムを混合してから造粒することは記載されていない。

ウ)「低活性酸化マグネシウム」および「中活性酸化マグネシウム」について、甲2?甲4に記載される事項を確認する。
甲2は酸化マグネシウム粒子を有効成分とする制酸・緩下用錠剤に関するものであり(2a、2b)、甲3及び甲4は医薬品原料や食品添加剤を含む多様な用途に用いられる酸化マグネシウムに関するものである(3a、3b、4b)。
甲2には、打錠障害や打錠機の摩耗に起因する錠剤の黒ずみ、打錠斑等を防止する上で(2b)、酸化マグネシウム粒子を700?1000℃で焼成して得られたものとすることが記載され(2a、2c)、甲3には、従来450?1300℃の焼成で得られている酸化マグネシウムにおいて、焼成をハロゲン源の存在下で行うことによりPb含有量を小さくすることが記載されている(3b、3c)。甲4には、高純度水酸化マグネシウム粉末をおよそ1000?1500℃で焼成することにより、高純度酸化マグネシウム粉末を得ることが記載され(4d)、実施例1として、水酸化マグネシウムを1300℃、60分の条件で焼成したことが記載されている(4e)。
焼成温度からみると、甲2に記載の酸化マグネシウムは焼成温度が900℃以下の場合に本件発明1の「中活性酸化マグネシウム」に相当し、甲4に記載の酸化マグネシウムは本件発明1の「低活性酸化マグネシウム」に相当する。甲3に記載の酸化マグネシウムは焼成温度が900℃以下の場合には本件発明1の「中活性酸化マグネシウム」、1000℃以上の場合には「低活性酸化マグネシウム」に相当する。
しかしながら、甲2?4のいずれにも、450?900℃で焼成された「低活性酸化マグネシウム」と1000?2000℃で焼成された「中活性酸化マグネシウム」とを混合することは記載されていない。酸化マグネシウムの「CAA80/CAA40」についても記載されておらず、その数値範囲を2?7に調整することにも言及はないし、酸化マグネシウムのBET比表面積についても記載はない。

エ)以上をまとめると、イ)より、引用発明において「低活性酸化マグネシウム」を用いる動機付けはないし、医薬用または食品添加用の酸化マグネシウムを顆粒とすること自体は周知であるものの、ウ)のとおり、甲2?甲4には「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」との混合物から「酸化マグネシウム顆粒」を形成することが記載されているともいえない。
すると、甲1?甲4に記載の事項から、引用発明の酸化マグネシウムを「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムの混合物である・・・顆粒」とし、その「CAA80/CAA40」を2?7とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

オ)次に、甲5?甲7に記載される事項を確認する。
甲5には、方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムにおいて、焼成酸化マグネシウムを2種類混合し、「40%CAA」を72?108秒間、「80%CAA」を250?420秒間、比表面積を12?10m^(2)/g に調整することが記載されており(5a)、甲5に記載される「40%CAA」、「80%CAA」は本件発明1の「CAA40」、「CAA80」にそれぞれ相当する。甲5には具体例として複数の酸化マグネシウムの混合物が示されているが(5b、5c、5f)、「適合例」とされる試料(H、J、S、U)はいずれも焼成温度と焼成時間が同じでロットの異なる酸化マグネシウムを混合して活性度等を調整したものであって、ロットによる活性のばらつきがあるとしても、上記ア)に照らせば、本件発明1の「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物」に相当するものとはいえない。「比較例」のうち混合物である試料(B、C、M、N)も、焼成温度850℃、900℃、950℃でそれぞれ得た酸化マグネシウムの混合物であって、いずれも、上記ア)に照らせば本件発明1の「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物」に相当するとはいえない。なお、試料H、Jについては表1に「80%CAA」と「40%CAA」の値が示されており(5c)、その数値に基づき「CAA80/CAA40」を算出するとその値は3.4?3.6の間にあり、本件発明1の範囲に入る。
甲6には、方向性電磁鋼板の製造に用いる焼鈍分離剤用酸化マグネシウム(甲6では酸化マグネシウムの慣用名である「マグネシア」が用いられている。)において、2種以上の混合物からなり、そのうち1種の酸化マグネシウムはBET比表面積36?50m^(2) /g、「CAA40%」が35?65秒、「CAA80%」が80?160秒であり、かつ、2種以上の混合物である酸化マグネシウムの平均特性がBET比表面積20?35m^(2) /g、「CAA40%」が55?85秒、「CAA80%」が100?250秒であることが記載されており(6a)、甲6の「CAA40%」、「CAA80%」は本件発明1の「CAA40」、「CAA80」にそれぞれ相当する。甲6には、具体例として、BET比表面積が20?50m^(2) /gの範囲にある酸化マグネシウム(6c、6d)を複数配合して全体のBET比表面積を22?32とした混合物が記載され、その「CAA40%」と「CAA80%」が示されている(6e、表2のNo.5?15)。それらの混合物について「CAA80/CAA40」を算出すると、その値は全て2?3の間にあり、本件発明1の範囲内に入る。甲6には配合に用いた酸化マグネシウム単品それぞれの焼成温度は記載されていないが、上記イ)で検討した甲1の記載事項(1d)を参照すれば、20?50m^(2) /gというBET比表面積の値からみて、いずれも800℃?1000℃程度で焼成されたものである蓋然性が高く、甲6の表2に記載される上記混合物は、いずれも本件発明1の「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物」に相当するとはいえない。
甲7には、酸化マグネシウムの1種又は2種以上の混合物からなる焼鈍分離剤において、BET比表面積が6?16m^(2) /gであり、CAA40%値が80?400秒、CAA70%値が250?750秒であること(7a)、焼成後において2種以上の酸化マグネシウム製品を混合し、上記の物性値を有するものとしてよいこと(7c)が記載されている。そして、実施例として、比表面積がそれぞれ21m^(2) /g、5.7m^(2) /gである2種類の酸化マグネシウムを混合して焼鈍分離剤を調製したことが記載されている(7d?7f)。特に、表3には比表面積21m^(2) /gのMgO(A)と5.7m^(2) /gのMgO(B)とを比を変えて混合した混合物の物性値が記載されており(7f、「本発明1」?「本発明4」、「比較例2」)、混合物の比表面積の値は8.8?17.9m^(2) /gの範囲にある。これらの混合物は、上記イ)の甲1の記載事項に照らして混合前の酸化マグネシウムのBET比表面積からそれぞれの焼成温度を推測すれば、本件発明1の「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物」に相当するといえるが、「CAA80」の値が示されておらず、「CAA80/CAA40」が本件発明1の範囲にあるのかは明らかでない。

カ)甲5?甲7についてまとめると、まず、甲5?甲7はいずれも焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムに関するものであって、「医薬用又は食品添加用の酸化マグネシウム顆粒」に関する記載はない。
そして、甲5、甲6には複数の酸化マグネシウムとして本件発明1の「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」とを混合することは記載されていない。甲7には「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物」に相当するといえるものが記載されているものの、「CAA80/CAA40」の値は不明である。
すると、酸化マグネシウム一般において全体の特性を調整するために複数種の酸化マグネシウムを混合することが周知であるとしても、特定の「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」を混合することが「医薬用又は食品添加用の酸化マグネシウム顆粒」の製造工程において周知の技術であるとはいえない。また、仮に、甲7に記載の混合物の「CAA80/CAA40」が本件発明1の範囲にあるとしても、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの特性を瀉下剤の有効成分である引用発明の酸化マグネシウムに適用する動機付けは見出せない。

キ)また、甲8、甲9には、顆粒を圧縮、打錠する工程を含む、一般的な錠剤の製造方法について記載されているものの、酸化マグネシウムについての特段の記載はない。

ク)以上のとおり、引用発明において、酸化マグネシウム顆粒を「CAA80/CAA40が2?7であり、低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物」とすることは、甲1?甲9に記載の事項を参照しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ケ)次に、効果について検討する。
本件明細書の段落【0044】?【0048】によれば、900℃で2時間焼成して得たBET比表面積51m^(2)/gの「中活性酸化マグネシウム」と、1100℃で2時間焼成して得たBET比表面積3m^(2)/gの「低活性酸化マグネシウム」とを量比を変えて混合し、圧縮、粉砕、篩別を行って実施例1?5の酸化マグネシウム顆粒を作製するとともに、「中活性酸化マグネシウム」、「低活性酸化マグネシウム」の単独のものをそれぞれ比較例1及び比較例2、BET比表面積22m^(2)/gの酸化マグネシウムを比較例3として、物性や打錠障害の有無などを検討した結果が表1に次のとおり示されている。

「【表1】



上記表1によれば、「中活性酸化マグネシウム」と「低活性酸化マグネシウム」とを混合し、BET比表面積とCAA80/CAA40を本件発明1の範囲に調整した実施例1?5では打錠障害がない。他方、「中活性酸化マグネシウム」又は「低活性酸化マグネシウム」単独、かつ、BET比表面積とCAA80/CAA40がいずれも範囲外の比較例1および比較例2、BET比表面積は本件発明1の範囲にあるが酸化マグネシウムは混合物でなく、CAA80/CAA40が本件発明1の下限値をわずかに下回る比較例3では、いずれも打錠障害が発生している。
このことから、「中活性酸化マグネシウム」と「低活性酸化マグネシウム」との混合である酸化マグネシウムにおいて、そのBET比表面積とCAA80/CAA40が特定の範囲にある場合に、打錠障害が発生しないという特有の効果を得られることが確認できる。
提出された証拠のうち、甲2、甲8、甲9には打錠障害の防止について記載されており、甲2は上記ウ)のとおり酸化マグネシウムに関するものである。しかしながら、甲2の酸化マグネシウムは1000℃以下で焼成することによって「従来の酸化マグネシウム粒子のように硬くなく、打錠機を摩耗しない」ものとし(2c)、また、添加剤とともに造粒した顆粒状粒子として、低圧力での錠剤成形を可能とすることでも摩耗を防止する(2a、2d、2e)ものである。本件発明1の酸化マグネシウム顆粒はその製法を限定されるものではないが、上記ア)で見たとおり、本件明細書には2種の酸化マグネシウムを混合して加圧した後に粉砕する方法が好ましいことが記載され、そのようにして作製された実施例も示されている(段落【0031】、【0044】?【0045】)。また、実施例の打錠方法については、酸化マグネシウム顆粒に結合剤を添加して打錠工程に供することが記載されている(【0043】)。すると、上記の本件発明1の効果は、添加剤とともに造粒した顆粒ではなく、酸化マグネシウムの混合物のみからなる顆粒で得られたものといえ、甲2の、高温で焼成された「硬い」粒子である「低活性酸化マグネシウム」は含まず、さらには、添加剤とともに造粒して得た粒子である「顆粒」を用いた結果から予測できるものとはいえない。甲8、甲9には原料を造粒して粒径や各成分の分散性が揃った顆粒とすることにより打錠障害を防止することが記載されているものの(8a、8b、9a?9c)、酸化マグネシウムを用いることの記載がなく、甲8、甲9からも本件発明1の効果を予測することはできない。

コ)異議申立人は、概ね下記のように述べ、本件発明1は、甲3、4、8、9を参酌すると、甲1、2、5?7の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張する。
低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムを混合して平均的な活性を所望の範囲に調整しつつ、用途に合致するように特性を制御することは甲5?7に記載のように、本件出願前に既に周知であった。すると、引用発明においても、医薬用途に合致するように、所望の活性であるBET比表面積が21?50m^(2)/gとなるように低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムを混合することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、通常の原料や方法で水酸化マグネシウムを焼成して得られる低活性酸化マグネシウムと中活性マグネシウムを混合して、BET比表面積を21?50m^(2)/gとした混合物のCAA80/CAA40が2?3の範囲であることは、甲5?7に記載される周知の技術事項である。
そうすると、本件発明1は、引用発明に、低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムを混合して活性を所望の範囲にするという周知技術を適用することにより、当業者が容易になし得たものである。
また、本件発明1は、2種の酸化マグネシウムの混合比率が限定されず、ほぼいずれか一方のみである場合を包含するところ、混合物でない比較例3は、BET比表面積が7?50にあるもののCAA80/CA40が本件発明1の範囲外であり、打錠障害が生じている。この結果から、本件発明1の効果は、BET比表面積とCAA80/CAA40とを特定の範囲にすることによって達成されるものと理解される。しかし、甲6、7によれば、通常の原料や方法で水酸化マグネシウムを焼成して得られるBET比表面積21?50m^(2)/gの酸化マグネシウムは、CAA80/CAA40が2?3に入るのであるから、本件発明1の効果は、BET比表面積21?50m^(2)/gの酸化マグネシウムである引用発明においても奏される効果である。さらに、本件発明1の効果は、甲2の、700?1000℃で焼成した酸化マグネシウム粒子の顆粒で打錠機の摩耗等を解消できるという記載内容からも予測できる程度のものに過ぎないし、中間顆粒を製造してから打錠して錠剤を製造することによる打錠障害や錠剤強度の改善は、甲8、甲9にも示される良く知られた効果に過ぎない。

サ)異議申立人の上記主張について検討する。
まず、上記カ)に説示のとおり、複数種の酸化マグネシウムを混合して全体の特性を調整することが周知であったとしても、医薬用の酸化マグネシウムについて本件発明1の特定の「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」とを混合することが周知であったとまでは、提出された証拠からは認めることができない。甲7には、確かに「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」との混合物であって、比表面積が本件発明1の範囲にある酸化マグネシウムが記載されてはいるが、甲7に記載の焼鈍分離剤に関する事項を医薬である引用発明に適用する動機付けがないことも、上記カ)のとおりである。
また、上記イ)に説示のとおり、甲1の記載からみて本件発明1の「低活性酸化マグネシウム」は引用発明において好適なものではないと解されるところ、引用発明の酸化マグネシウムの特性を調整するために敢えて「低活性酸化マグネシウム」を混合する理由も見当たらない。甲2?甲4にも、医薬用又は食品添加用の酸化マグネシウムを、特定の「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」との混合物とすることは記載されておらず、示唆もない。
したがって、引用発明において「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムとの混合物」としてBET比表面積を調整することは、周知技術に基いて当業者が容易に想到するものとはいえない。
次に、本件明細書に記載される酸化マグネシウムの「CAA80/CAA40」と「BET比表面積」の値は、いずれも、多数の粒子を含む粒子群の平均値であり、個々の粒子の特性のばらつきなどを含めた粒子群の特徴の全てを表すものではない。本件発明1の酸化マグネシウム顆粒は、特性の異なる2種類の酸化マグネシウムの混合物であるため、一種類の酸化マグネシウムに比べて、粒子群全体としては個々の粒子の特性の分散がより広いものとなっている可能性がある。技術常識からみて、そのような粒子群としての特性の寄与は無視できないと考えられ、一種類の酸化マグネシウムの場合にも、CAA80/CAA40とBET比表面積が本件発明1の範囲にあれば、直ちに本件発明1の混合物と同様の効果を得られる、といえる根拠は見出せない。すると、本件発明1の効果が単にCAA80/CAA40とBET比表面積の値によって決まるという解釈は、妥当ではない。
また、上記ケ)のとおり、本件発明1の効果は甲2、甲8、甲9から予測できるともいえない。
以上のとおり、上記コ)の異議申立人の主張には理由がない。

1.1.4 小括
よって、本件発明1は甲1?甲9に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1.2 本件発明2?13について

本件発明2?9は、いずれも酸化マグネシウム顆粒の発明であって、本件発明1を引用しており、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
したがって、上記1.1に説示のとおり、甲1?甲9に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明10、11は、本件発明1?9の酸化マグネシウム顆粒の製造方法であって、「低活性酸化マグネシウムと中活性酸化マグネシウムを混合し、圧力をかけた後に粉砕する」と特定するものであるから、本件発明1の特定事項を全て有した上で製造工程を特定するものである。
したがって、上記1.1に説示のとおり、甲1?甲9に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明12は、本件発明1?9の酸化マグネシウム顆粒を用いる酸化マグネシウム錠剤の製造方法であるから、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
したがって、上記1.1に説示のとおり、引用発明及び甲1?甲9に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明13は、本件発明1?9の酸化マグネシウム顆粒を含有する酸化マグネシウム錠剤であるから、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
したがって、上記1.1に説示のとおり、甲1?甲9に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、本件発明2?13についての異議申立人の主張は、いずれも本件発明1が甲1?甲9に基いて容易に発明をすることができたものであるという前提に立っており、その前提において誤りである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する条件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、酸化マグネシウム錠剤が多岐に使用されていること(段落【0002】)、錠剤の製造においては種々の打錠障害が知られ、純度の高い酸化マグネシウムを原材料とする場合には打錠障害や品質特性異常が発生しやすいこと(段落【0003】?【0006】)、食品等の添加剤や医薬品の原料などに使用される、焼成温度450?1300℃で得られ活性の比較的大きい酸化マグネシウムでは純度の高いものが望まれていること(段落【0007】、【0008】)を挙げた上で、「本発明は、医薬用又は食品添加用として好適に使用できる酸化マグネシウムを提供することを主な課題とする。」と記載され、続いて、「具体的には、」として、打錠障害並びに錠剤の品質特性異常を低減でき、重金属の混有量が低く酸化マグネシウムの純度の高い酸化マグネシウム顆粒を提供することが記載されている(段落【0010】)。
以上の記載からみて、本件発明の課題は、打錠障害並びに錠剤の品質特性異常を低減でき、重金属の混有量が低く純度の高い、医薬用又は食品添加用として使用できる酸化マグネシウム顆粒の提供であると認められる。
この課題を解決する手段として、本件発明1では酸化マグネシウムのBET比表面積及びCAA80/CAA40の範囲を特定し、さらに「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」の混合物である「顆粒」であることを特定している。
そして、上記1.1.3 ケ)で述べたとおり、本件明細書には、2種の酸化マグネシウムを種々の比率で混合した実施例1?5と、2種のうちいずれか一方の酸化マグネシウムであってBET比表面積とCAA80/CAA40がともに本件発明1の範囲外の比較例1及び比較例2、先の2種とは別の酸化マグネシウムであってBET比表面積は本件発明1の範囲内にあるもののCAA80/CAA40が範囲を外れる比較例3、合計8種の試料のそれぞれによる試験結果が示されている。それらの結果によれば、特性に差がある2種の酸化マグネシウムを混合してBET比表面積を22m^(2)/gに調整した実施例3では打錠障害が起こらないが、BET比表面積が22m^(2)/gであっても一種類の酸化マグネシウムである比較例3では打錠障害が発生し、また、CAA80/CAA40が実施例3は3.7、比較例3は1.9である。
この試験結果によれば、2種の酸化マグネシウムの混合物であってBET比表面積とCAA80/CAA40の値が本件発明1に特定される範囲にあるものは、医薬用または食品添加用に好適に使用できるといえる。また、それらの特性を満たすものであっても医薬用または食品添加用に好適に使用できるとはいえない場合が明らかに存在するという論理的または具体的な根拠も見出せない。

異議申立人は、概略、次の2点を挙げて、本件はいわゆるサポート要件を満たしていない旨を主張する。
(i)本件発明で特定される数値範囲について、何故その数値範囲内であれば本件発明の課題が解決できるのかについて合理的な説明がないため、特に、例示のない、CAA80/CAA40が3?7の場合にも課題が解決できるのか、当業者が理解できるとはいえない。
(ii)本件発明の「低活性酸化マグネシウム」は「焼成温度約1000℃?約2000℃で焼成して得られる酸化マグネシウム」と定義され、一方で明細書には「水酸化マグネシウムを1500℃以上の温度で焼成したものは、活性がほとんどなく、高温耐火性能を有し、耐火物材料として塩基性耐火れんがや不定形耐火物の原料などに利用されている。また、水酸化マグネシウムを450?1300℃で焼成して得られる酸化マグネシウムは、活性が比較的大きく、・・・食品等の添加剤、制酸剤や下剤等の医薬品の原料などに利用されている。」と記載されている。そうすると、本件発明1の「低活性酸化マグネシウム」にはほとんど不活性のものも包含されるところ、本件発明1を引用し「中活性酸化マグネシウム:低活性酸化マグネシウム=10:90?80:20である」と特定される本件発明9でも課題を解決できるのか不明である。

まず、主張(i)について検討するに、表1に示されたCAA80/CAA40として、実施例2は「4.5」、実施例3は「3.7」の値が示されており、申立人の主張のうち「CAA80/CAA40が3?7」について実証がない、という点は誤りである。
実施例1?5からは、少なくとも、「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」を混合した例において、BET比表面積が8?42の場合に、CAA80/CAA40が2.2から4.5までの範囲で打錠障害が発生していないことは理解できる。そして、異議申立人の提出した証拠を検討しても、CAA80/CAA40が4.5を超えると全く効果が期待できない、と認められるような理論的又は具体的な根拠は見出せない。
次に、主張(ii)について検討する。
本件発明は、「低活性酸化マグネシウム」を含むものであり、異議申立人の述べるように「低活性酸化マグネシウム」の大部分あるいは全てが「活性がほとんどない」ものである場合を排除するものではない。しかし、その場合にも、より活性の大きい「中活性酸化マグネシウム」と混合することが必須であって、活性の全くない酸化マグネシウムのみを本件発明の「酸化マグネシウム顆粒」とするものではない。
2種の酸化マグネシウムを混合する点についても、本件発明1はその混合比を特定しておらず、「酸化マグネシウム顆粒」の大部分が「低活性酸化マグネシウム」であるものを包含しているといえる。しかし、本件発明1は同時に活性度やBET比表面積の範囲を特定するものである。そして、甲1にも記載されるように、酸化マグネシウムの焼成温度とBET比表面積や活性とはある程度の相関があることを考慮すれば、焼成温度が1500℃以上の「活性がほとんどない」ものがほぼ全体を占めるといった極端な場合に、混合物全体のBET比表面積やCAA80/CAA40が本件発明1の範囲内にあり得るのかは明らかでない。この点につき上記表1を見ると、「低活性酸化マグネシウム」が90%含まれる実施例5は、BET比表面積の値は下限値に近くなっているものの、打錠障害は発生していない。すると、単に活性の低い酸化マグネシウムが多いからといって、本件発明の効果が得られないとまではいえない。
異議申立人の指摘する本件発明9は、「低活性化酸化マグネシウム」を「中活性化酸化マグネシウム」10重量%に対して90重量%含む態様をも包含するものであるところ、仮に、本件明細書の段落【0007】に活性がほとんどないことが記載されるような、水酸化マグネシウムを1500℃以上の高温で焼成したものが全体の90重量%を占めたとしても、10重量%として「中活性酸化マグネシウム」を含むものである。そして、このように得られた本件発明9の酸化マグネシウム顆粒についても、BET比表面積およびCCA80/CCA40が本件発明9の範囲にある場合に打錠障害ならびに錠剤の品質特性異常を低減することが可能であろうことは上記説示のとおりであり、「低活性酸化マグネシウム」と「中活性酸化マグネシウム」の混合物において、全体の90重量%が「活性がほとんどない」「低活性酸化マグネシウム」である場合には課題を解決できない、などという具体的な根拠も見出せない。
したがって、異議申立人の上記主張には理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-26 
出願番号 特願2016-504889(P2016-504889)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 光本 美奈子
特許庁審判官 淺野 美奈
穴吹 智子
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6343338号(P6343338)
権利者 神島化学工業株式会社
発明の名称 医薬用又は食品添加用酸化マグネシウム顆粒  
代理人 岩谷 龍  

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