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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02G
管理番号 1353198
異議申立番号 異議2018-700769  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-25 
確定日 2019-07-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6303077号発明「結束紡績糸とこれを用いた繊維生地及び衣料用繊維製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6303077号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び証拠等
1 手続の経緯
(1)本件特許に係る出願は、平成29年8月24日(優先権主張 同年1月5日 日本国受理)を国際出願日とする特許出願であって、同年12月15日付けで拒絶理由が通知され、平成30年2月7日付けで意見書の提出と共に手続補正がされ、同年3月9日に特許権の設定登録がされ、同月28日に特許掲載公報が発行されたところ、同年9月25日に特許異議申立人 浜 俊彦(以下「申立人A」という。)により特許異議の申立て(以下「申立てA」という。)がされ、同月27日に特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立て(以下「申立てB」という。)がされ、同年10月17日に申立てA及び申立てBに係る特許異議申立書の副本が特許権者に送付されたものである。
(2)その後、当審は、平成30年11月22日付けで申立人A及び申立人Bの両者に対し、審尋を行い、同年12月20日に申立人Aから、同月26日に申立人Bから回答書が提出された。
(3)平成31年2月1日付で取消理由を通知したところ、同年4月4日に特許権者から意見書が提出された。
2 提出された証拠等について
以下、申立人A提出の甲第2号証を「甲A2」、申立人B提出の甲第2号証を「甲B2」などという。甲第1号証は、申立てA及び申立てBで共通であるので、「甲1」という。また、特許権者提出の乙第1号証を「乙1」などという。
(1)申立人A提出の証拠等
ア 異議申立書と共に提出
甲1:特開2014-189907号公報
甲A2:経済産業省作成「ポリエステル短繊維産業の現状について」
甲A3:ウェブサイト上のPDFファイルである「主要番手換算表」
イ 回答書と共に提出
別紙:バーベ方式平均繊維長計算例
(2)申立人B提出の証拠等
ア 異議申立書と共に提出
甲1:特開2014-189907号公報
甲B2:特開2016-166440号公報
甲B3:特開平1-260035号公報
甲B4:日本紡績協会業務調査部編、「繊維技術データ集」、昭和46年10月1日の改訂3版、66?67頁
甲B5:村田機械発行、ボルテックス精紡機「VORTEX III 870」と題するオンラインカタログのプリントアウト(2016年10月と表記)
イ 回答書と共に提出
参考資料1:一般財団法人カケン試験認証センター編集、ウールトップと題するウェブサイトのプリントアウト。
参考資料2:日本毛織、ウールについてと題するウェブサイトのプリントアウト。
参考資料3:特開昭63-28925号公報
参考資料4:特開平5-71003号公報
(3)特許権者提出の証拠等
参考資料1:ITEC Innocvation社作成、繊維長分布を示すデータ
乙1:繊維学会編、繊維便覧 加工編第2版第6刷、199?200頁、211?213頁及び1099?1105頁(平成3年7月10日)
乙2:日本繊維機械協会、繊維機械の説明と題するウェブサイトのプリントアウト

第2 本件発明について
1 本件発明の認定
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
獣毛繊維100%の結束紡績糸又は獣毛繊維と前記獣毛繊維以外の他の短繊維を含む混紡結束紡績糸であって、
前記獣毛繊維は、平均繊維長20?35mm、かつ最大繊維長55mm以下にカットされており、
前記紡績糸は表面に巻き付き繊維が巻き付くことにより糸形成していることを特徴とする結束紡績糸。
【請求項2】
前記獣毛繊維はウールである請求項1に記載の結束紡績糸。
【請求項3】
前記他の短繊維は、平均繊維長20?51mm、かつ最大繊維長55mm以下にカットされている請求項1又は2に記載の結束紡績糸。
【請求項4】
前記混紡結束紡績糸は、獣毛繊維90質量%:他の繊維10質量%?獣毛繊維10質量%:他の繊維90質量%の範囲である請求項1?3のいずれかに記載の結束紡績糸。
【請求項5】
前記混紡結束紡績糸は、獣毛繊維に比較して他の繊維のほうが多く混紡されている請求項1?3のいずれかに記載の結束紡績糸。
【請求項6】
前記混紡結束紡績糸を100質量%としたとき、獣毛繊維が15?45質量%であり、他の短繊維は85?55質量%である請求項1?5のいずれかに記載の結束紡績糸。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の結束紡績糸を用いた繊維生地であって、
前記結束紡績糸はメートル番手10?80番の単糸又は双糸であり、
前記繊維生地は織物又は編物であることを特徴とする繊維生地。
【請求項8】
前記繊維生地は織物であり、ユニホーム用生地である請求項7に記載の繊維生地。
【請求項9】
前記結束紡績糸は単糸であり、繊維生地は編物である請求項7に記載の繊維生地。
【請求項10】
請求項7?9のいずれかに記載の繊維生地を衣料用繊維製品としたことを特徴とする衣料用繊維製品。」
2 獣毛繊維の平均繊維長について
(1)はじめに
ア 合成繊維の長繊維のように、実質的に無限長の繊維をスクエアカットした場合には、繊維は両端で切断されるから、切断後の全ての繊維の長さは、均一にカットした長さになるといえる。
イ それに対して、本件明細書の段落【0025】に記載されたように、平均繊維長80mmのウールをスクエアカットした場合には、両端がカットされるとは限らないから、カットした長さの繊維とそれより短い繊維とが混在することになり、繊維長の分布が存在することになる。
(2)平均繊維長の計算方式について
ア 本件明細書の段落【0024】には、「JIS L 1081(2014) 7.2.1 A法(エレクトロニックマシンによる方法)に従って測定した。」と記載されている。
イ JIS規格の本文記載事項
(ア)「・・・試験試料を薄いプラスチックフィルムに鋏み,エレクトリックマシンに移し,一定速度でコンデンサを通して移動させ,繊維質量に比例した電気容量の変化を測定する。この測定値をコンピュータで変換して,平均繊維長(mm)及び変動係数(%)を求め,小数点以下1桁まで表す。」(イ)「なお,A法(エレクトリックマシンによる方法)の測定原理は,附属書Aを参照。」
ウ 附属書Aの記載事項
(ア)「A.1 概要
この附属書は,1998年に規定したJIS L 1081の7.2.1及び7.2.2をそのまま記載したものである。
現在,平均繊維長試験方法は7.2のA法(エレクトリックマシンによる方法)が適用されているが,測定原理を知るために必要である。」
(イ)「A.2 トップアナライザによる方法
A.2.1 操作
約1mのスライバを試料として,・・・
・・・・
集められた最長群の繊維及びフォーラ間隔10mmによって長さごとに分類され,レザーローラで集められた繊維群及び最後に手で集められた最短群の繊維のそれぞれの質量P_(0)-mg(0.1mg単位まで)を化学天びんで量り,表A.1又は表A.2の計算表に記入する。この場合、最短群の繊維長区分範囲はコームドスライバーについては16mm?26mm(平均長Lは21mm),アンコームドスライバーについては0mm?26mm(平均長Lは13mm)と」する。」
(ウ)「A.2.2 計算
トップ平均繊維長の計算及び表示の方法は,バーベ(Barbe)方式とホーター(Hauteur)方式の2種類とし,バーベ(Barbe)方式は表A.1,ホーター(Hauteur)方式は表A.2の計算手順によってそれぞれ平均繊維長,標準偏差,変動係数を求め,小数点1桁まで表す。」
(エ)「なお,バーベ(Barbe)方式の平均繊維長は単にB平均繊維長を表示することもあり,それぞれの繊維長群の質量比による加重比率RLから求める平均繊維長とする。また,ホーター(Hauteur)方式の平均繊維長は単にH平均繊維長と表示することもあり,それぞれの繊維長群の質量比をそれぞれの群の平均長で除して得られる繊維本数比率R/Lによって求められる平均繊維長とする。」
エ 乙1の1103頁の記載事項
(ア)11?13行
「b.平均繊維長測定法 各種のコームソータ,トップアナライザ(シュランベルガ型)またはエレクトロニクス測定機(アルメータ,WIRA繊維ダイアグラムマシン)などによって測定される.」
(イ)26?31行
「・・・平均繊維長の表示には、Barbe方式とHauteur方式と2種ある.Barbe方式はそれぞれの繊維長群の重量から直接に計算される平均繊維長であり,Hauteur方式はそれぞれの繊維長群の重量をそれぞれの群の中心長で除して得られる数値すなわち換算繊維本数から計算された平均繊維長である.わが国では他に規定のない限りBarbe方式を用いている.IWTOではエレクトロニクス測定機の採用とともにHauteur方式表示を先行させ,要求があればBarbe方式表示を併記することに規定している。」
オ 検討
上記エ(イ)におけるIWTOとは、国際羊毛機構のことであり、羊毛業界の関係者の代表で構成された世界レベルでの非営利団体である。そして、特許権者がその会員であること及び本件特許が国際特許出願されていることから、IWTOの規定にしたがって、Hauteur方式表示を用いていると当業者であれば読み取れるといえる。
(3)本件紡績糸との関係
ア 本件発明1は、あくまで紡績糸を対象とするものである。そして、その本件発明1に係る紡績糸に含まれる獣毛繊維の平均繊維長が20?35mmと特定されているのであるから、その平均繊維長が20?35mmである獣毛繊維の集合体は、紡績糸に実際に含まれる獣毛繊維の集合体を指していると解される。
イ 前記アから、本件特許明細書に明示はないものの、平均繊維長を測定するためのサンプリングの対象は、紡績直前の繊維束であると解するほかない。本件明細書においては、段落【0025】の(3)において、「練條スライバー」とされた状態と認められる。

第3 取消理由通知について
1 取消理由の概要
平成31年2月1日付の取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
「(1)明確性要件
本件特許の請求項1?10に係る発明における「平均繊維長」の定義が曖昧であって、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たさないものである。したがって、本件発明1?10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)予備的理由1
本件特許に係る発明における「平均繊維長」がバーベ方式によるものであることが自明であるとの立証が成立する場合。
ア 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。(引用文献:甲1)
イ 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記(4)の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)予備的理由2
本件特許における「平均繊維長」がホーター方式によるものであることが自明であるとの立証が成立する場合。
ア 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。(引用文献:甲1)
イ 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記(4)の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(4)引用刊行物
1.甲1
2.甲B2
3.甲B3」
2 明確性要件について
上記第2、2(2)で検討したように、本件発明1において特定された「平均繊維長」は、ホーター方式によるものと認められるから、前記1(1)に示した明確性要件による取消理由は解消している。
3 新規性進歩性について
(1)予備的理由2
特許権者による、「平均繊維長」がホーター方式によるものであることが自明であるとの立証が成立したため、上記1(3)における予備的理由2について検討する。
(2)甲1の記載事項
本件優先日前に頒布された甲1には、次の記載がある。
ア 【技術分野】、段落【0001】
「本発明は、動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸、およびその紡績糸を用いた布帛に関し、抗ピル性が初期だけではなく、耐久性が非常に高い布帛を提供できる。また動物繊維を改質することなく、通常の動物繊維を用いることでコスト高になるのを防ぎ、また長い間着用しても、毛羽のももけやフロスティングで色落ちがなくナチュラルな外観を保つ布帛に関する。」
イ 段落【0002】
「従来から、動物繊維は、保温性が高いことから秋冬のコート用などアウター用途によく用いられている。またユニフォーム用途にも多く用いられており、ユニフォーム用途の場合、一般的なカジュアルやファッション素材とは異なり、流行がないため、長期間の着用することが多い。・・・」
ウ 段落【0013】(当審注:(ア)?(カ)を付加した。)
「・・・
(ア)本発明の動物繊維を少なくとも一部に用いてなる紡績糸でありながら、少ない毛羽数(A)および毛羽数(B)を兼ね備えた紡績糸を作製する紡績方法としては、空気流の作用により短繊維を結束させて紡績糸を形成する汎用の空気精紡機が好ましく、特に好ましいのは、“ムラタ・ボルテックス・スピナー”(村田機械社製:以下、MVSと記す)を用いる方法である。空気流の旋回気流によって短繊維は渦巻状に加撚され、単繊維の一端が紡績糸断面の中心に撚り込まれて鞘繊維を形成するため、毛羽を形成する際にも毛羽の一端が鞘繊維に巻き込まれる。そのため、毛羽の長さは短くなり、かつ、毛羽数(B)が高くなる。・・・
・・・
(イ)本発明は、動物繊維を少なくとも一部に用いているが、動物繊維の種類は特に限定されることはなく、ウール、カシミヤ、モヘア、アルパカなども容易に適用できるが、繊維長や繊度からウールが好ましい。
(ウ)動物繊維の紡績糸中に占める割合は、特に限定されないが重量比率で70重量%以下であることが好ましく、より好ましくは50重量%以下である。これは70重量%を越えると紡績糸を形成する工程である空気精紡機で静電気の発生が激しくなり、毛羽の発生が多くなり、毛羽のループが崩れる場合があるためである。
(エ)また紡績糸を構成する他の繊維としては、特に限定されることはなく、通常のあらゆる合成繊維はもとより、天然繊維の木綿、絹あるいはセルロース系繊維なども容易に適用することができる。
(オ)本発明の紡績糸の繊度は、特に限定されるものではないが、英式番手で10?100番手であることが好ましく、より好ましくは20?80番手、さらに好ましくは30?60番手である。番手が上記範囲より太い場合、断面繊維本数が多くなりすぎて、毛羽数の増加しピリングが低下する場合がある。また、上記範囲より細い場合、断面繊維本数が少なくなりすぎて、均整度の悪化しいては太糸、細糸の増加を招く。細い部分が弱いため、長い間着用すると、ピリングの原因となるので好ましくない。
(カ)また本発明の紡績糸は、本発明の紡績糸の特徴を損なわない限り、フィラメントと複合しても構わないが、紡績糸中に占める割合は、重量比率で60重量%以下であることが好ましく、より好ましくは50重量%以下である。これは60重量%を超えると短繊維の断面繊維本数が少なくなりすぎて、フィラメントとズレが生じる所謂ヌードヤーンが発生するため、長い間着用すると、ピリングの原因となる場合がある。」
エ 段落【0014】
「本発明の紡績糸は、これを100重量%用いて織編物等の布帛にすることはもちろん、他の繊維糸条と交織、交編して使用することができる。本発明の紡績糸を交編や交織して使用する場合においても、動物繊維の特徴である保温性などの機能性を満足させるためには布帛重量に対して、本発明の紡績糸を少なくとも30重量%以上含むことが好ましい。」
オ 段落【0015】
「本発明は、上記の紡績糸を用いることにより、長い間着用されても抗ピリング性に優れた紡績糸および布帛を得ることができる。布帛としては、織物、編物、不織布のいずれとしても好適に用いることができる。」
カ 段落【0021】
「・・・
(実施例1)
動物繊維として38mmのギロチンカットしたウール64’S、獣毛繊維の混用相手としてポリエチレンテレフタレート短繊維(T301、0.8dtex×35mm、東レ(株)製)を使用し、表1に示す重量%で混打綿にて混紡し、通常の紡績方式を経て4.0g/mの太さのスライバーを作製した。
スライバーをMVSに仕掛け、表1に示す条件にて綿方式の番手で30’sの紡績糸を得た。糸切れの発生も少なく、紡績性は良好であった。また、得られた紡績糸について、毛羽数(A)および毛羽数(B)を評価した。
得られた紡績糸をタテ糸とヨコ糸として、通常のレピア織機を用いて、織組織を平とした織物を得た。得られた布帛について、各評価を行った結果、表1に示すように、洗濯50回後の抗ピル性も優れたものであった。
(実施例2,3)
表1に示したMVSの条件にて綿方式の番手で30‘sの紡績糸を得た以外は、実施例1と同様にした。
(比較例1)
実施例1と同様に4.0g/mの太さのスライバーを作成した。得られたスライバーを通常の粗紡機に仕掛け0.6g/mの粗糸を作製し、通常の精紡機に仕掛け撚り係数3.4で綿方式の番手で30’sの紡績糸を得た。糸切れの発生も少なく、紡績性は良好であった。また、得られた紡績糸について、毛羽数(A)および毛羽数(B)を評価した。」
キ 【表1】



ク 図面関連
(ア)【符号の説明】段落【0026】
「1:紡績糸
2:紡績糸表面
3:毛羽の両端が紡績糸断面の中心付近に撚り込まれている毛羽
4:毛羽の一端のみ紡績糸断面の中心付近に撚り困れている毛羽」
(イ)【図1】



(3)甲B2の記載事項
本件優先日前に頒布された甲B2には、次の記載がある。
ア 段落【0024】
「・・・一般的な羊毛繊維の平均長さは60mmから100mmである」
イ 段落【0050】
「なお、本発明に適用することができる獣毛繊維として代表的なものは羊毛であるが、カシミヤ、モヘヤ、キャメル、アンゴラなども本発明に適用することができる。これらの獣毛繊維束1としては、あらかじめ複数の単繊維を引き揃えた無撚りの獣毛繊維束(トップスライバー)を使用することができる。なお、このような獣毛繊維束は、一般的に市販されている。また、獣毛繊維の平均長さは20mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがより好ましい。」
(4)甲B3の記載事項
本件優先日前に頒布された甲B3には、次の記載がある。
ア 2頁左下欄5?8行
「結束紡績糸の素材は、天然繊維、再生繊維、ポリエステル繊維などの合成繊維、半合成繊維などいずれのものでもよい」
イ 2頁左下欄下4行?右下欄2行
「また、その平均繊維長は、好ましくは25?60mm、さらに好ましくは30?55mmが良い。25mm未満になると、糸強力が低くなり、製織時の糸切れが増加するので、他方60mmをこえると毛羽密度が低下し、フィラメントライクな風合いとなるので好ましくない。」
(5)当審の判断
ア 甲1発明
甲1には、「空気流の旋回気流によって短繊維が渦巻状に加撚され、単繊維の一端が紡績糸断面の中心に撚り込まれて鞘繊維を形成する(上記(2)ウ(ア))結束紡績糸であって、38mmのギロチンカットされたウール30%及びポリエステル短繊維70%を用いた混紡結束紡績糸」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
イ 対比
本件発明1と甲1発明とは、少なくとも次の点で相違する。
ホーター方式の平均繊維長について、本件発明1においては「20?35mm」であるのに対して、甲1発明においては、ウールは38mmのギロチンカットされたものであるが、その平均繊維長は明らかでない点。
ウ 検討
(ア)38mmのギロチンカットされたウールについて
前記(3)アの記載から、カットされる前のウールは、60?100mmであると認められる。そして、前記第2、2(1)イで検討したように、38mm幅でカットした場合に、全ての切断片が38mmになるわけではなく、繊維長の分布が生じることになる。
(イ)しかしながら、前記(2)カに摘記したように、甲1の「38mmのギロチンカットされたウール」は、その後、「混打綿にて混紡し、通常の紡績方式を経て4.0g/mの太さのスライバーを作製した。」というのであるから、スライバー作製時のコーマの処理(乙1、乙2)により短繊維は除去されることが読み取れる。また、短繊維がどの程度除去されるかは、甲1からは把握することができない。
(ウ)そうすると、甲1発明における混紡結束紡績糸に含まれるウールのホーター方式による平均繊維長が20?35mmになると認めるに足りる証拠はない。
(エ)したがって、前記イの相違点は、実質的な相違点でないということはできず、本件発明1は、甲1発明であると認めることはできない。したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するといえない。
(オ)また、甲1発明において、ギロチンカットの38mmという間隔を変化させて、平均繊維長を20?35mmにしようとする動機も見あたらないから、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(カ)なお、前記(3)イに摘記した甲B2の記載は、獣毛繊維をカットするものではないから、前記オの動機づけにはなり得ないし、前記(4)イに摘記した甲B3の記載は、平均繊維長の上限及び下限とも「20?35mm」の範囲を超えるものであって、なんら動機づけになり得ない。
(キ)本件発明2?10は、本件発明1を包含し、さらに限定する発明であるから、本件発明1と同様に新規性進歩性を有することになる。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1?10は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲B2、甲B3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明とはいえない。したがって、本件発明1?10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

第4 取消理由に採用しなかった異議申立て理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
(1)申立人Aは、本件発明1?10は、発明の詳細な説明において、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさず、特許法第113条第4号に該当すると主張する。
(2)申立人Aの主張の概要
本件特許出願時において、混紡比、繊維の種類、混紡繊維の平均繊維長、最大繊維長等が糸欠点及び糸切れの発生しやすさに影響しないという技術常識はないので、本件発明1?10に含まれるものであっても、次に例示するものなどは、本件発明1?10の「公知の結束紡績法をウールに適用しても、糸欠点及び糸切れが多く発生しないようにすること」という課題を解決できることを当業者が認識できない。
ア 混紡比が「獣毛繊維30%、他の繊維70%」以外のもの
イ 獣毛繊維は、メリノ種ウール以外のもの
ウ 獣毛繊維と混紡する獣毛以外の他の繊維が「単繊度1.45dtexのポリエステル(PET)長繊維トウを38mmのスクウエアカットし、平均繊維長を38mmとしたもの」以外のもの
エ 獣毛繊維の最大繊維長が平均繊維長より長く55mm以下のもの
(3)当審の判断
ア 申立人Aは、混紡比、繊維の種類、混紡繊維の平均繊維長、最大繊維長などが糸欠点及び糸切れの発生しやすさに影響することで、「公知の結束紡績法をウールに適用しても、糸欠点及び糸切れが多く発生しないようにすること」という課題が解決できなくなるということを、証拠に基いて立証していない。
イ 一方、本件特許明細書には、本件発明1?10の要件を満たす発明が上記課題を解決し得ることを、実施例を示すことで説明している。
ウ よって、申立人Aの主張は採用できない。
2 特許法第17条の2第3項について
(1)申立人Bは、平成30年2月7日付の手続補正のうち手続補正2(以下「本件補正」という。)が、新規事項を追加するものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないものであるので、特許法第113条第1号に該当すると主張する。
(2)申立人Bの主張の概要
ア 本件補正により、本件特許明細書の段落【0025】の記載は、「平均直径21.5μm、平均繊維長80mmのメリノ種ウールの繊維束(20g/m)を38mmのスクウエアカットし、平均繊維長28mmとした。」という記載から、「平均直径21.5μm、平均繊維長80mmのメリノ種ウールの繊維束(20g/m)を平均繊維長28mmにスクウエアカットした。」という記載に補正された。
イ この補正は、「誤記の訂正」に該当するとはいえない。
ウ また、スクウエアカットの切断間隔が特定されなくなったため、範囲を拡張するものである。
(3)当審の判断
ア 前記(2)イの主張について
(ア)誤記の訂正に該当するかどうかは、本件補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすかどうかの判断には、直ちには、関係がないが、争点であるため検討する。
(イ)平成31年2月1日付取消理由通知と共に特許権者に審尋をおこなったところ、スクウエアカットの間隔は正しくは28mmであったとの回答を得た。したがって、28mmと記載すべきを誤って38mmと記載したものと推認できる。
(ウ)したがって、本件補正は、誤記を訂正するものであったといえる。申立人Bの主張は失当である。
イ 前記(2)ウの主張について
(ア)特許法第17条の2第3項に規定する要件は、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書、図面(以下「当初明細書等」という。)の範囲内で補正することである。
(イ)一般的に、特許請求の範囲の発明特定事項を削除する補正は、特許請求の範囲を拡張することになるから、当初明細書等の範囲内での補正とされないことはあり得る。
(ウ)しかしながら、本件補正は、特許請求の範囲ではなく、明細書のみに記載された数値を削除する補正であり、特許請求の範囲が拡張しているわけではないから、新規事項の追加とはなり得ず、当初明細書等の範囲内での補正であって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。また、本件補正は、それにより平均繊維長(28mm)を変更するようなものではないから、当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである場合ともいえない。申立人Bの主張は成り立たない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-28 
出願番号 特願2017-561787(P2017-561787)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D02G)
P 1 651・ 113- Y (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 春日 淳一  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 門前 浩一
渡邊 豊英
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6303077号(P6303077)
権利者 日本毛織株式会社
発明の名称 結束紡績糸とこれを用いた繊維生地及び衣料用繊維製品  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  
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