• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
管理番号 1353207
異議申立番号 異議2017-700758  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-01 
確定日 2019-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6074088号発明「アルミニウム容器にパッケージされたワイン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6074088号の請求項1?9に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6074088号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成29年1月13日付けでその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報発行日:平成29年2月1日)、その後、平成29年8月1日に特許異議申立人野口真里(以下、「申立人」という。)により請求項1?9に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、平成29年11月20日付けで取消理由が通知され、平成30年2月20日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年2月26日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年4月18日に特許権者から意見書の提出がされ、平成30年7月13日に申立人から意見書の提出がされ、平成30年8月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成30年11月7日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年12月13日に申立人から意見書の提出がされたものである。
なお、平成30年2月20日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求
1.訂正の内容
平成30年11月7日の訂正の請求は、「特許第6074088号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について一群の請求項ごとに訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を次のように訂正するものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「ワインを含む充填アルミニウム容器」と記載されているのを、「ワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正し、さらに、末尾の「前記容器」と記載されているのを、「前記ワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「充填アルミニウム容器」、「アルミニウム容器」及び「容器」と記載されているのを、いずれも「アルミニウム容器」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「1CFU未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワイン」と記載されているのを、「1コロニー形成単位/100mL未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワイン」に訂正するとともに、「ここで、多段精密ろ過処理が使用され、ろ過孔径が、第一段ろ過ハウジングにおいて1.0μm以下であり、そして少なくとも1つの後段ろ過ハウジングにおいて0.20μm?0.45μmの間である、」という記載を追加する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2において、「充填アルミニウム容器」と記載されているのを、「ワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項3に記載の充填アルミニウム容器」と記載されているのを、「請求項1に記載のワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6において、「請求項5に記載の充填アルミニウム容器」と記載されているのを、「請求項1に記載のワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7において、「請求項1?6のいずれか1項に記載の充填アルミニウム容器」と記載されているのを、「請求項1、2、4及び6のいずれか1項に記載のワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8において、「充填アルミニウム容器」と記載されているのを、「ワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9において、「請求項1?8のいずれか1項に記載の充填アルミニウム容器」と記載されているのを、「請求項1、2、4、6、7及び8のいずれか1項に記載のワインがパッケージされたアルミニウム容器」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正は、訂正事項1?11により、本件訂正前の請求項1及び請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2?9を訂正するものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。

(2)訂正事項について
ア.事案に鑑み、まず訂正事項3について検討する。訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項1の「1CFU未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワイン」という記載を、「1コロニー形成単位/100mL未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワイン」とする訂正を含むものである。この訂正は、「CFU」を同義の「コロニー形成単位」に代えるとともに、訂正前の記載では前記「1CFU」すなわち「1コロニー形成単位」が何mLあたりであるか単位容量が特定されておらず不明確であるところ、この単位容量が「100mL」という特定の値であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
しかしながら、本件訂正前の本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面において、上記「1CFU」または「1コロニー形成単位」について、単位容量が100mLであることは、記載ないし示唆されていない。また、本件特許の優先日当時において、CFU(コロニー形成単位)の数値の程度を表すにあたり、単位容量が100mLであることがワイン製造の技術分野において技術常識であったとはいえない。
そして、単位容量の違いによって、その中に存在する総生菌の数値の技術的意味は異なってしまうことは、当業者にとって自明である。そうすると、1CFU(コロニー形成単位)について、100mLの単位容量のものであるとすることは、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、訂正事項3は、本件訂正前の本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

イ.この点について、特許権者は、平成30年11月7日に提出した訂正請求書の7.(3)イ(ウ)cにおいて、「本訂正請求書と同日に提出する意見書に添付した乙第4号証の第80頁の表1(当審注:この「1」はローマ数字の表記である。)にも示されるとおり、当業界において、「CFU」の表記は「コロニー形成単位/100mL」を意味することは技術常識であるものと思料する。当業界において、「コロニー形成単位/100mL」なる単位は、酵母や細菌などの微生物が十分に除去されているか否かを示す指標として用いられている。実際に、刊行物1(国際公開第2006/026801号)の第7頁第20?第21行においても、ワイン中の細菌数及び酵母数の単位として、「100mLあたり」のコロニー形成単位が用いられている」と主張している。
この主張について検討してみると、特許権者が提出した乙第4号証(「EFFECTS OF STERILISING FILTRATION ON MICROBIOLOGICAL STABILITY, CHEMICAL COMPOSITION AND SENSORY PROPERTIES OF RED WINE」、Sara Canas等著、Ciencia Tec. Vitiv. 26(2)77-83.2011)(当審注:「Cientia」の「e」は上側に「^」が付された表記であり、「Tec」の「e」は上側に「'」が付された表記である。)の第80頁の「TABLE1」(当審注:この「1」はローマ字の表記である。)には「CFU - Colony forming units/100 mL」(当審訳:「CFU-コロニー形成単位/100mL」)と記載されており、申立人が提出した刊行物1(国際公開第2006/026801号)の第7頁第19?21行には「We have found best results are achieved when the bacteria count is < 10 CFU per 100ml and the yeast count is < 10 CFU per 100ml. CFU refers to colony forming unit.」(当審訳:「本発明者らは、細菌数が100mlあたり<10CFUであり、酵母数が100mlあたり<10CFUである場合に、最良の結果が達成されることを見出した。CFUはコロニー形成単位を指す。)と記載されている。
まず、刊行物1の上記記載に示されているとおり、「CFU」という表記は「コロニー形成単位/100mL」という「100mL当たり」のいう意味までも含んだものではなく、単に「コロニー形成単位」という意味であることが技術常識である。そして、乙第4号証及び刊行物1の上記記載は、CFU(コロニー形成単位)の数値の程度を表すにあたり、単位容量を100mLで測定・検討した事例が示されているものと解するのが相当であり、CFU(コロニー形成単位)の数値の程度を表すにあたり、単位容量が当然に100mLであることがワイン製造の技術分野の技術常識であることを示したものとはいえない。
このことは、申立人が提出した甲第11号証(特開2011-45356号公報)の【0046】、【0047】及び【0064】には、ワイン製造の技術分野において、生菌についての「cfu」が「/mL」(1mL当たり)で測定・検討されている事例があり、むしろ、CFUをどのような単位容量で測定・検討するかは、事例に応じて適宜に設定されているといえる。

また、特許権者は同訂正請求書の7.(3)イ(ウ)cにおいて、「本件特許発明においても同様に、「CFU」なる単位は、ワインから細菌や酵母が十分に除去されていることを示す指標として用いられていることは明らかである。例えば、明細書の段落[0018]には、「本発明の精密ろ過において、充填前にワインから細菌や酵母を除去するために、(好ましくは滅菌グレード)精密ろ過が用いられる。精密ろ過は一般に、1.0μm以下の孔サイズを使用するろ過として理解される。好ましくは、微生物細胞の除去は、ワイン中に見出される可能性が高いがワインの完全性は損傷させない、すべての酵母および細菌を除去するのに充分に小さい孔を有するグレードを使用して、多段階インライン無菌グレード膜ろ過システムを実施することにより、最もよく達成される。この目的のための好適な孔径は、第1段ろ過ハウジングでは約0.60μmであり、少なくとも1つ後段のろ過ハウジングでは0.20μm?0.45μmである。」と記載されている。明細書の段落[0043](当審注:この「段落[0043]」は「段落[0044]」の誤記と認める。)には、「この目的のために好ましい滅菌グレードフィルタの孔径は、アルミニウム容器内のワインのこれらの微生物問題を制御するための統合ワインパッケージングシステムの本発明の一部として、0.30?0.45μmである。好ましくは、総生菌数、酵母やカビ、及び乳酸菌のレベルは、全て1CFU未満である。」と記載されている。明細書の段落[0047]には、「微生物細胞の除去は、ワインで発見される可能性が高い酵母と細菌とを除去するのに十分に小さい孔を有する滅菌グレードを使用する(膜)ろ過により達成される。」と記載されている。明細書の段落[0050]には、「好ましくは、アルミニウム容器最終製品内のワインに発生する微生物問題を防止するために、充填前に、0.30?0.45μmの滅菌グレードフィルタがワインの以後のろ過で使用される。第2のステージ(0.30?0.45μm)は、細菌および酵母細胞が完全に除去され、アルミニウム容器中に充填されたワインに発生する2次発酵と腐敗の可能性が排除される無菌性を保証することである。」と記載されている。」、「すなわち、本件特許発明における、「1CFU未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワイン」とは、減菌グレードの多段精密ろ過処理を用いることによって、細菌や酵母が十分に除外されたワイン、すなわち、「1コロニー形成単位/100mL未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワイン」を意味することは、上記明細書の記載からも明らかである。」と主張している。
しかしながら、本件特許の明細書の上記記載には、多段精密ろ過を行うことにより、ワインから生菌が除去されることが示されているものの、CFU(コロニー形成単位)の数値の程度を表すにあたっての単位容量は依然として不明であり、ましてや、当該単位容量が100mLであることを示したものであるとはいえない。
よって、特許権者の主張は当を得たものではなく、採用することができない。

ウ.したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

3.小括
以上のとおり、本件訂正に係る訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。よって、他の訂正事項について検討するまでもなく、一群の請求項に対して請求された本件訂正は認められず、よって、訂正後の請求項[1-9]についての訂正は認められない。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1?9」という。)は、本件特許に係る願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
1CFU未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワインを含む充填アルミニウム容器であって、ヘッドスペースの最大酸素含量が1v/v%であり、アルミニウム容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持され、そして最終的な溶存CO_(2)レベルが、前記アルミニウム容器に充填前に、白ワイン及びスパークリングワインに関して少なくとも50ppmであり、かつ赤ワインに関して50ppm?400ppmであり、前記充填アルミニウム容器中のワインが0.4?0.8mg/Lの二酸化硫黄分子含量を有する、前記容器。
【請求項2】
前記溶存CO_(2)レベルが、無発泡性白ワインに関して、50ppm?1200ppmである、請求項1に記載の充填アルミニウム容器。
【請求項3】
多段精密ろ過処理が使用される、請求項1又は2に記載の充填アルミニウム容器。
【請求項4】
前記多段精密ろ過処理が2段精密ろ過処理である、請求項3に記載の充填アルミニウム容器。
【請求項5】
ろ過孔径が、第一段ろ過ハウジングにおいて1.0μm以下であり、そして少なくとも1つの後段ろ過ハウジングにおいて0.20μm?0.45μmの間である、請求項3又は4に記載の充填アルミニウム容器。
【請求項6】
前記ろ過孔径が、第一段ろ過ハウジングにおいて0.60μm以上である、請求項5に記載の充填アルミニウム容器。
【請求項7】
前記ヘッドスペースが密閉された容器の容積の1%未満である、請求項1?6のいずれか1項に記載の充填アルミニウム容器。
【請求項8】
前記ヘッドスペースが、窒素80?97v/v%及び二酸化炭素2?20v/v%の組成を含む、請求項7に記載の充填アルミニウム容器。
【請求項9】
アルコール含量が9v/v%未満であり、ソルビン酸が90mg/L超のレベルで存在する、請求項1?8のいずれか1項に記載の充填アルミニウム容器。」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
平成30年8月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、以下の理由を含むものである。
[理由1]本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
[理由2]本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 取消理由(決定の予告)についての判断
1.理由1(特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第2号)について
(1)本件発明1は、「1CFU未満の総生菌数を伴う精密ろ過されたワイン」との構成を有している。
ここで、「CFU」はコロニー形成単位であり、一般に、ある量の微生物を、それが生育する固体培地上に播種した時に生じるコロニーの数を意味すると考えられるが、通常、単位容量あたりの数値とともに表記されるのが技術常識である(例えば、上記第2の2.(2)イ.で示した刊行物1の記載参照。当該刊行物1には単位容量として100mlを採用した事例が記載されている。)。
しかしながら、本件発明1の記載からでは、「CFU」が何mLあたりの数値であるか単位容量が不明である。また、本件特許の明細書の記載を参酌しても、前記単位容量は特定されていないし、示唆する記載もない。また、本件特許の優先日当時において、前記単位容量が特定の値として定まっていることの技術常識もないことは、上記第2の2.(2)に示したとおりである。よって、本件発明1の上記構成について、総生菌数を明確に特定することができない。よって、本件発明1は、特定しようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえない。
また、上記本件発明1を引用する本件発明2?9についても同様である。
また、このため、本件特許の明細書の記載は、当業者が本件発明1?9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものともいえない。よって、本件特許の明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

(2)本件発明1は「アルミニウム容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持され」との構成を有している。
しかしながら、本件特許の明細書等や本件優先日での技術常識を考慮しても、一般的な技術常識からして、短時間の工程にすぎないアルミニウム容器充填工程を通して溶存酸素レベルを最大で0.5mg/Lまでに維持することで、充填されたワインの品質、安定性、貯蔵寿命に対し、いかなる具体的影響があるか不明であるから、本件発明1の上記構成が本件発明1の「ワインを含む充填アルミニウム容器」という「物」のどのような構造又は特性を表しているかは明らかであるとはいえない。
ゆえに、本件発明1は、物の発明として明確であるとはいえない。

もっとも、本件発明1の上記構成、すなわち、「アルミニウム容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持され」との構成は、「ワインを含む充填アルミニウム容器」という物に含まれるワインの製造方法を記載したものと一応いえるから、本件優先日時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するといえるときには、特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合する余地がある(最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、同2658号参照)。
この点、特許権者は、平成30年11月7日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)の5.(3)イにおいて、「「アルミニウム容器充填工程を通して」とは、ワインの最終発酵からアルミニウム容器に密封するまでのワイン製造の全工程を意味するものであり、本件発明1は、安定性を確保するために、ワインの最終発酵からアルミニウム容器に密封するまでのワイン製造の全工程にわたって、溶存酸素を0.5mg/L以下に維持することにより、ワインの品質(例えば、外観、芳香、風味)を損なうことなく、最大2年以上の安定した貯蔵寿命をもたらすことが可能となる(明細書の段落【0011】)。・・・したがって、本発明における特殊性に鑑みれば、請求項1の「アルミニウム容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持され」という構成は、極めて重要な技術的特徴を規定するものであり、このような特定に不可能・非実際的事情が存在することは明らかである。」と主張している。
しかしながら、「アルミニウム容器充填工程を通して」とは、一般的な技術常識に鑑みると、充填施設においてある貯蔵体からアルミニウム容器に内容物を充填する工程を通して、という意味に理解するのが相当である。また、本件特許の明細書において、「アルミニウム容器充填工程」が「ワインの最終発酵からアルミニウム容器に密封するまでのワイン製造の全工程」を指すとの説明はない。そうすると、特許権者の上記主張は請求項の記載に基づかないものであり、失当である。そして、本件発明1の「アルミニウム容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持され」という構成は、一般的な技術常識からして、短時間の工程にすぎない、充填施設においてある貯蔵体からアルミニウム容器に内容物を充填する工程を通して、溶存酸素レベルを最大で0.5mg/Lまでに維持する技術的特徴を表すにすぎないところ、当該構成による技術的事項はアルミニウム容器に充填されたワインの溶存酸素レベルとして直接特定することが十分に可能なものといえる。よって、特許権者の上記主張は、「不可能・非実際的事情」が存在することを示したものとはいえず、失当である。
よって、本件発明1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2?9についても同様である。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件発明1?9に係る請求項1?9の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2.理由2(特許法第29条第2項)について
(1)刊行物に記載された事項及び発明・技術的事項
本件特許異議申立書で甲1号証として引用され、当審の平成30年8月7日付け取消理由通知書(決定の予告)(以下、「取消理由通知書(決定の予告)」という。)で刊行物1として引用された、国際公開第2006/026801号を、本決定でも、以下、刊行物1という。
本件特許異議申立書で甲6号証として引用され、取消理由通知書(決定の予告)で刊行物6として引用された、Dr. Bruce Zoecklein, “Enology Notes #122, December 20, 2006”, 2006年12月20日を、本決定でも、以下、刊行物6という。
本件特許異議申立書で甲9号証として引用され、取消理由通知書(決定の予告)で刊行物9として引用された、A. Tromp and W. A. Agenbach, “Sorbic Acid as a Wine Preservative?Its Efficacy and Organoleptic Threshold”, South African Journal for Enology and Viticulture, 1981年, Vol.2 No.1, p.1-5を、本決定でも、以下、刊行物9という。
本件特許異議申立書で甲10号証として引用され、取消理由通知書(決定の予告)で刊行物10として引用された、George M. Cooke, Vol.1,“Review of Basics on Sulfur Dioxide”, Enology Brief, 1982年2月/3月, No.1, p.2-3を、本決定でも、以下、刊行物10という。

ア.刊行物1について
(ア)刊行物1には、以下の記載がある。なお、括弧内の日本語訳は、当審が付した。
a.第3頁第16行?第4頁第14行
「Summary of the Invention
This invention provides in one form an improved method of packaging still wine in aluminium containers・・・wherein the equilibrium head space composition after packaging has the composition:
Nitrogen: at least 95% w/w
Carbon Dioxide: less than 5% w/w
Oxygen: less than 2% w/w, ・・・」
(発明の概要
本発明は、アルミニウム容器内に非発泡ワインをパッケージングする改良された方法であって・・・パッケージ後の平衡ヘッドスペース組成物が
窒素:少なくとも95%w/w
二酸化炭素:5%w/w未満
酸素:2%w/w未満・・・)

b.第6頁第8行?14行
「We have found that it is desirable to can the wine under conditions that introduce essentially only nitrogen into the head space during the canning operation. We have also found it desirable to make still wines that lead to relatively low levels of dissolved carbon dioxide. This contrasts to carbonated wines where it is desirable to have high levels of carbon dioxide in the wine so that when the pressure is reduced by pulling the ring tab on the can, bubbles are formed from the release of dissolved carbon dioxide. 」
(本発明者らは、缶詰作業中に、ヘッドスペースに本質的に窒素のみを導入する条件下で、ワインを缶詰することが望ましいことを見出した。また、本発明者らは、比較的低いレベルの溶解した二酸化炭素をもたらす非発泡ワインを製造することが望ましいことを見出した。これは、缶のリングタブを引っ張って圧力を下げた場合、溶解した二酸化炭素の放出によって気泡が形成されるように、ワイン中に高レベルの二酸化炭素を有することが望ましい発泡ワインとは対照的である。)

c.第7頁第3?6行
「It is also important that sources of carbon dioxide are kept to a minimum. One potential source is the use of carbon dioxide in the wine production. A second potential source is the wine canning process. A third source is secondary fermentation after canning.」
(二酸化炭素の発生源を最小限に抑えることも重要である。第1の潜在的な発生源は、ワイン生産に二酸化炭素を使用することである。第2の潜在的な発生源は、ワインを缶詰する方法である。第3の発生源は、缶詰後の二次発酵である。)

d.第7頁第17行?第8頁第8行
「The third source is controlled in conventional wine making processes by the addition of sulfur dioxide and control of pH. It is also controlled by the levels of bacteria and yeast in the wine. We have found best results are achieved when the bacteria count is < 10 CFU per 100ml and the yeast count is < 10 CFU per 100ml. CFU refers to colony forming unit. A CFU is a single microorganism or a cluster of microorganisms which when cultured on a suitable nutrient will form a visible colony with an impregnant on the surface of or distributed throughout the adsorbent or carrier. We have found that very low levels of oxygen in the head space reduce the likelihood of further yeasts growing and leading to additional fermentation. Preferably the dissolved level of oxygen in the wine is less than 1 ppm and more preferably less than 0.5 ppm. For canning wine it is required to use relatively low levels of sulfur dioxide. ・・・
It is desirable to avoid pasteurisatiaon with wine and we have found that by using sterilisation filters that this step may be avoided. Suitable filtration products are supplied by Cuno, and include Zeta Plus○R (0.5 μm) and BevASSURETM (0.45 μm) filters. These remove suspended yeasts and ensure microbiological stability. Best results are achieved where a sterile-grade filter pad is followed by final filtration with a membrane filter.」(当審注:上記では、「○R」と表記したが、本文では、○の中にRが記載された表記である。)
(第3の発生源は、従来のワイン製造プロセスにおいて、二酸化硫黄の添加及びpHの制御によって制御される。ワイン中の細菌及び酵母のレベルによっても制御される。本発明者らは、細菌数が100mlあたり<10CFUであり、酵母数が100mlあたり<10CFUである場合に、最良の結果が達成されることを見出した。CFUはコロニー形成単位を指す。CFUは、単一の微生物又は微生物群であり、それらは、適切な栄養素で培養すると、吸着剤又は担体の表面にある、又は、吸着剤又は担体の全体にわたって分散された含浸剤を用いて可視コロニーを形成する。本発明者らは、ヘッドスペース内の酸素のレベルが非常に低いことにより、さらなる酵母が成長し、さらなる発酵に至る可能性を低減させることを見出した。好ましくは、ワイン中の溶解した酸素のレベルは1ppm未満であり、より好ましくは0.5ppm未満である。缶詰ワインの場合、比較的低いレベルの二酸化硫黄を使用することが必要である。・・・
ワインでの低温殺菌を避けることが望ましく、本発明者らは殺菌フィルターを使用することにより、この工程を避けることができることを見出した。適切なろ過製品は、Cunoによって供給され、Zeta Plus(登録商標)(0.5μm)及びBevASSURE(商標)(0.45μm)フィルターを含む。これらは懸濁酵母を除去し、微生物学的安定性を保証する。減菌グレードのフィルターパッドに続いてメンブレンフィルターを使用した最終的なろ過が行われる場合、最良の結果が得られる。)

e.第8頁第18?23行
「The preferred containers for the process of the present invention are two-piece aluminium cans.・・・ Other suitable containers for the present invention include "bottle cans". These are essentially an aluminium can with a screw cap. 」
(本発明の方法のための好ましい容器は、2ピースアルミニウム缶である。・・・本発明のための他の適切な容器には、「ボトル缶」が含まれる。これらは、本質的にスクリューキャップ付きアルミニウム缶である。)

f.第8頁第28行?第9頁第29行
「The invention will be further described by reference to a preferred, non-limiting, example.
Example
In this example, a wine is prepared and canned according to the invention and compared to a wine produced and canned according to the process described in WO 03/029089. A white chardonnay wine was produced from chardonnay grapes grown in South Eastern Australia from the 2003 vintage. The wine was produced according to the general wine making techniques described in WO 03/029089. The wine had the following characteristics:
Nitrite mg/L 0.1
Nitrate mg/L 3.2
Sulfate mg/L 430
Phosphate mg/L 70
Cl 46
pH 3.44
Free SO_( 2) (mg/L) 20.0
Total SO_( 2) (mg/L) 134.7
Ethanol (v/v) 13.5
Titratable Acidity (g/L as Tartaric Acid) 6.8
The wine was produced by generally excluding oxygen and removing the carbon dioxide produced from fermentation. Nitrogen blankets were used in the handling and maturation of the wine. The wine so produced had a dissolved carbon dioxide level of 0.6 g/litre and a dissolved oxygen level of 0.7 g/litre. The wine was filtered using a Zeta Plus 6OH filter (0.5 μm) and a bev ASSURE 0.45 μm filter. The wine was then canned at 10°C using carbon dioxide free filling line to produce a canned wine with 0.6 g/litre of carbon dioxide and a head space in the can of 96% nitrogen, and less than 1% oxygen. Liquid nitrogen (99.5% grade) was added before closure to produce a gauge pressure of 175 kPa.
The can of wine stored at 10°C was poured into a glass and the amount of bubbles formed was negligible. 」
(本発明は、好ましい非限定的な実施例を参照してさらに説明される。
実施例
本実施例では、本発明に従ってワインを調製して、缶詰し、WO03/029089に記載された方法に従って生産し、缶詰したワインと比較される。白いシャルドネワインは、2003年ヴィンテージの南東オーストラリアで栽培されたシャルドネのブドウから生産された。ワインは、WO03/029089に記載された一般的なワイン製造技術に従って生産された。ワインは以下の特徴を有していた。
亜硝酸塩 mg/L 0.1
硝酸塩 mg/L 3.2
硫酸塩 mg/L 430
リン酸塩 mg/L 70
Cl 46
pH 3.44
遊離SO_(2)(mg/L) 20.0
総SO_(2)(mg/L) 134.7
エタノール(v/v) 13.5
滴定可能な酸度(酒石酸としてのg/L) 6.8
ワインは、一般に酸素を排除し、発酵から生成された二酸化炭素を除去することによって生産された。窒素ブランケットは、ワインの取り扱いと熟成に使用された。このように生産されたワインは、溶解した二酸化炭素レベルが0.6g/リットル、溶解した酸素レベルが0.7g/リットルを有した。ワインは、Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過した。ワインはその後、二酸化炭素を含まない充填ラインを使用して10℃で缶詰され、0.6g/リットルの二酸化炭素を有し、缶の中のヘッドスペースが96%の窒素と1%未満の酸素である缶入りワインを生産した。液体窒素(99.5%グレード)を、閉じる前に添加して、175kPaのゲージ圧を生成した。 10℃で保存したワインの缶をグラスに注ぐと、形成された気泡の量はごくわずかであった。)

(イ)上記(ア)の摘記事項から、刊行物1には、以下の技術的事項が記載されている。
a.上記(ア)f.で摘記した刊行物1の「実施例」には、「缶」が「アルミニウム缶」であることが明記されていない。しかしながら、上記(ア)a.によると、本発明はアルミニウム容器内にワインをパッケージングする方法であり、さらに、上記(ア)e.によると、本発明の方法のための好適な容器は、2ピースアルミニウム缶やスクリューキャップ付きアルミニウム缶であるとされている。刊行物1の「実施例」は「本発明」の一例であるから、「実施例」における「缶」は「アルミニウム缶」を指すと理解するのが相当である。

b.上記(ア)a.で摘記した刊行物1の「発明の概要」によると、「本発明」は「非発泡ワインをパッケージングする」方法であり、この「本発明」の「実施例」である、上記(ア)f.で摘記した「実施例」には、ワインとして「白いシャルドネワイン」が挙げられており、「10℃で保存したワインの缶をグラスに注ぐと、形成された気泡の量はごくわずかであった。」と記載されていることから、「実施例」におけるワインは非発泡白ワインであるといえる。

c.上記(ア)f.で摘記した刊行物1の「実施例」には、「缶の中のヘッドスペースが96%の窒素と1%未満の酸素である缶入りワインを生産した。」と記載されているが、ここでの「%」が体積を基準とする割合(v/v%)を意味するのか、重量を基準とする割合(w/w%)を意味するのか不明である。この点、上記(ア)a.で摘記した刊行物1の「発明の概要」において、「平衡ヘッドスペース組成物が・・・酸素:2%w/w未満」と記載されていることに鑑みると、上記刊行物1の「実施例」における「%」は、重量を基準とする割合(w/w%)を意味するものと解するのが相当である。そうすると、上記(ア)f.で摘記した刊行物1の「実施例」には、ヘッドスペースの酸素含量が1w/w%未満であることが記載されているといえる。

d.上記(ア)f.で摘記した刊行物1の「実施例」には、「生産されたワインは、溶解した二酸化炭素レベルが0.6g/リットル・・・を有した。」、「ワインはその後、二酸化炭素を含まない充填ラインを使用して10℃で缶詰され、0.6g/リットルの二酸化炭素を有し、・・・缶入りワインを生産した。」と記載されていることから、非発泡白ワインは缶に充填される前の最終段階で0.6g/リットルの二酸化炭素を溶存しているといえる。ここで、一般に、水溶液の濃度について、「mg/L=ppm」として扱うのが通常であるから、上記0.6g/リットルは600ppmであるといえる。そうすると、上記(ア)f.で摘記した刊行物1の「実施例」には、最終的なCO_(2)レベルが、缶に充填前に、非発泡白ワインに関して600ppmであることが記載されているといえる。

e.上記(ア)f.で摘記した刊行物1の「実施例」には、「ワインは以下の特徴を有していた。・・・pH 3.44 遊離SO_(2)(mg/L) 20.0」と記載されている。また、一般に、二酸化硫黄分子含量は、後記するエ.のように、刊行物10に記載されている次式から算出される。
[二酸化硫黄分子含量]=[遊離SO_(2)]/[1+10^((pH-1.8))]
そうすると、上記(ア)f.で摘記した刊行物1の「実施例」には、非発泡白ワインが0.45mg/Lの二酸化硫黄分子含量を有していることが記載されているといえる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、刊行物1の実施例には、以下の刊行物発明1が記載されている。
「Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過された非発泡白ワインを含む充填アルミニウム缶であって、ヘッドスペースの酸素含量が1w/w%未満であり、最終的な溶存CO_(2)レベルが、前記アルミニウム缶に充填前に、非発泡白ワインに関して600ppmであり、前記充填アルミニウム缶中の非発泡白ワインが0.45mg/Lの二酸化硫黄分子含量を有する、前記缶。」

イ.刊行物6について
(ア)刊行物6には、以下の記載がある。なお、括弧内の日本語訳は、当審が付した。

第3頁第6?24行
「Managing Oxygen During Bottling
There have been some recent concerns about oxygen pick-up during bottling. This is an extremely important issue influencing wine quality, stability, and longevity.
The concentration of molecular oxygen should be measured in the wine before bottling begins, and should be less than 0.5mg/L. If the concentration of oxygen is greater than 0.5 mg/L, it can generally be lowered by sparging with nitrogen gas.
Just prior to bottling, air should be eliminated from all hoses, filter housing pumps, and the fill bowl by using displacement gas (nitrogen, carbon dioxide, or argon). Feed tanks should be blanketed with nitrogen or CO_(2), or lightly CO_(2) srrayed.
Bottles should be completely free of particulate matter, which can occlude oxygen, and flushed with displacement gas just prior to filling. Any oxygen which remains in the bottle will result in an oxygen concentration increase. Any increase above 0.2 mg/L dissolced oxygen indicates excessive pick-up.
The loss of free sulfur dioxide in wine is proportional to the dissilved oxygen content.
Producers not using vacuum filters, corkers, or bottle gas flushing can have up to 5 mL of air in the headspace of their bottled wine (750 mL). This amounts to approximately 1 mL (1.4mg) of oxygen. Four mg of sulfur dioxide are needed to neutralize the effects of one mg of oxygen.
Using this ralationship, an additional 5-6 mg of free sulfur dioxide is needed to reduce molecular oxygen in the head space.」
(充填中の酸素管理
充填中の酸素取り込みについて最近いくつかの懸念があった。これはワインの品質、安定性及び寿命に影響を与える極めて重要な論点である。
ワイン中の分子状酸素の濃度は充填開始前に測定すべきであり、それは0.5mg/Lよりも低くすべきである。もし酸素濃度が0.5mg/Lを超えるのであれば、一般的には窒素ガスを用いたスパージングによってその濃度を低下させることができる。
充填の直前に、置換ガス(窒素、二酸化炭素又はアルゴン)を用いて、すべてのホース、フィルターハウジングポンプ及び充填ボールから空気を取り除くべきである。供給タンクは、窒素又はCO_(2)でブランケットするか、あるいは、軽くCO_(2)スプレイをすべきである。
ボトルは、酸素を収蔵する可能性がある微粒子物質を完全に取り除くべきであり、充填直前に置換ガスでフラッシュすべきである。ボトル中に残存しているいずれかの酸素は酸素濃度を上昇させる。0.2mg/Lを超える溶存酸素の増加は、過剰な取り込みを示している。
ワイン中の遊離した二酸化硫黄の損失は溶存酸素含有量に比例する。
真空フィルタ、コーカーまたはボトル・ガス・フラッシングを使用しない生産者は、ボトル・ワイン(750ml)のヘッドスペースに最大5mlの空気を入れることができる。これは、約1ml(1.4mg)の酸素に相当する。1mgの酸素の影響を中和するためには、4mgの二酸化硫黄が必要である。この関係を利用して、ヘッドスペースの酸素分子を減少させるために、5?6mgの遊離二酸化硫黄がさらに必要となる。)

(イ)上記(ア)の摘記事項によると、ワインは充填開始前に酸素濃度が0.5mg/Lより低くされ、充填に用いる機器から空気を取り除くことで空気中の酸素がワインに混入するのが防止され、また、ボトル中の既存の酸素も排除されている。そうすると、刊行物6には、次の技術が記載されているといえる。
「容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持する。」

ウ.刊行物9について
(ア)刊行物9には、以下の記載がある。なお、括弧内の日本語訳は、当審が付した。

第1頁第1?5行
「Sorbic acid was added to wines in different concentrations to determine its effect on the inhibition of yeasts in semi sweet wines. Sorbic acid proved to be an effective inhibitor of yeast growth when used at a concentration of 200 mg/l in conjunction with a concentration of 100 mg SO_(2)/l. As the sorbic acid does not kill the yeast cells but only inhibits them it is imperative that the wine should still be filtered as sterfle as possible.」
(ソルビン酸を異なる濃度でワインに添加し、セミスイートワイン中の酵母の阻害における効果を測定した。ソルビン酸は、200mg/Lの濃度で、100mgSO_(2)/Lの濃度とともに使用するとき、酵母の成長の効果的な阻害剤であることが証明された。ソルビン酸は酵母の細胞を殺さず、それらを阻害するだけなので、可能な限り無菌にするために、依然としてワインをろ過することが欠かせない。)

(イ)上記(ア)の摘記事項から、刊行物9には、次の技術が記載されているといえる。
「ソルビン酸を添加することで、酵母の成長を阻害する」

エ.刊行物10について
刊行物10には、以下の記載がある。なお、括弧内の日本語訳は、当審が付した。

第2頁第19?29行(ただし、化学式、数式については1行として数えた。)
「Attmpting to regulate SO_(2) levels through measurement of total SO_(2) alone, or free SO_(2) without reference to pH, is of little value. Free SO_(2) in solution is distributed int three species as follws:

The retative abundance of these species is a function of pH, and the pKa's are the ph's at which adjacent species are present in equal amounts.
By far the most important form of SO_(2) for antimicrobial effect is the undissociated o molecular portion of the free fraction. This is the only form in which SO_(2) is volati and can be smelled.The approximate concentration of this species is given by:

(pHに関係なく、総SO_(2)単独の測定、あるいは遊離SO_(2)の測定を通して、SO_(2)レベルを調整しようとする試みは、価値がない。溶液中の遊離SO_(2)は、以下のように、三種に分配される:)
(三種の相対存在度は、pHの関数であり、pKaは、隣接種が等しい量で存在するpHである。
これまでの抗菌効果に最も重要な形態のSO_(2)は、遊離分画の非解離分子部分である。これはSO_(2)が揮発性であり、匂いがある唯一の形態である。
この種の適切な濃度は次式により与えられる:)

(2)判断
ア.本件発明1について
(ア)本件発明1と刊行物発明1を対比すると、刊行物発明1における「Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過された」、「非発泡白ワイン」、「缶」、「溶存CO_(2)レベルが・・・600ppm」、「0.45mg/Lの二酸化硫黄分子含量」は、それぞれ、本件発明1における「精密ろ過された」、「ワイン」及び「白ワイン」、「容器」、「溶存CO_(2)レベルが・・・少なくとも50ppm」、「0.4?0.8mg/Lの二酸化硫黄分子含量」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明1と刊行物発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「精密ろ過されたワインを含む充填アルミニウム容器であって、最終的な溶存CO_(2)レベルが、前記アルミニウム容器に充填前に、白ワインに関して少なくとも50ppmであり、前記充填アルミニウム容器中のワインが0.4?0.8mg/Lの二酸化硫黄分子含量を有する、前記容器。」

<相違点1>
本件発明1では、ワインが1CFU未満の総生菌数を伴うのに対して、刊行物発明1では、ワインの総生菌数が明らかではない点。

<相違点2>
本件発明1では、ヘッドスペースの最大酸素含量が1v/v%であるのに対して、刊行物発明1では、ヘッドスペースの酸素含量が1w/w%未満である点。

<相違点3>
本件発明1では、アルミニウム容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持されるのに対して、刊行物発明1では、アルミニウム容器充填工程での溶存酸素レベルが明らかではない点。

(ウ)相違点についての検討
a.<相違点1>について
本件発明1では、ワインが1CFU未満の総生菌数を伴うとされているところ、上記1.(1)で示したように、「CFU」が何mLあたりの数値であるかその単位容量が不明であるから、本件発明1について、ワイン中の総生菌数を明確に特定できない。
もっとも、本件特許明細書の【0047】?【0050】に、0.60μmのフィルタ及び0.30?0.45μmのフィルタを用いたろ過によりワイン中の生菌を除去することが示されていることに鑑みると、本件発明1のワインの総生菌数は、不明確ながら、このようなろ過を経た結果含まれる程度の総生菌数と解される。
刊行物1発明では、ワインは、Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過されている。そして、当該フィルターによるろ過は、本件特許明細書に記載された上記フィルタによるろ過と同等以上のものであることが把握できる。そうすると、刊行物1発明のワインの総生菌数は、本件発明1のワインの総生菌数に相当するといえる。
したがって、上記<相違点1>は、実質的な相違点であるとはいえない。

b.<相違点2>について
刊行物発明1において、ヘッドスペースの酸素含量が1w/w%未満とするのは、酵母の成長を妨げ発酵がさらに進行するのを防止するためである(上記(1)ア.(ア)d.の摘記事項参照)。
ヘッドスペースの酸素含量が少ないほど、酵母の成長を妨げ発酵がさらに進行するのを防止する効果が期待できるから、刊行物発明1についてヘッドスペースの酸素含量を可及的に減少させる動機があるといえる。また、刊行物1には、缶詰作業中に、ヘッドスペースに本質的に窒素のみを導入するという技術的手段が示されているから(上記(1)ア.(ア)b.の摘記事項参照)、ヘッドスペースの酸素含量を可及的に減少させる技術的な阻害要因はないといえる。
そうすると、刊行物発明1について、ヘッドスペースの酸素含量を可及的に減少させることで、ヘッドスペースの最大酸素含量が1v/v%という条件を満たすこと、すなわち、上記<相違点2>に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

c.<相違点3>について
刊行物1には、酵母の成長を妨げ発酵がさらに進行するのを防止するために、ヘッドスペース内の酸素を減少させるだけでなく、ワイン中の溶解した酸素を減少させることが示されており、「好ましくは、ワイン中の溶解した酸素のレベルは1ppm未満であり、より好ましくは0.5ppm未満である。」とされている(上記(1)ア.(ア)d.の摘記事項参照)。
そうすると、刊行物発明1について、ワイン中の溶存酸素レベルを可及的に低下させる技術的課題があるといえ、そのためには、アルミニウム容器充填工程でワイン中に酸素が混入しないように配慮することは当業者であれば通常なし得たことといえる。したがって、刊行物6に記載された「容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持する」技術(上記(1)イ.(イ)の摘記事項参照)を採用する動機があるといえる。また、刊行物発明1について、上記刊行物6に記載された技術を適用する技術的な阻害要因はないといえる。
したがって、刊行物発明1について、上記刊行物6に記載された技術を適用し、上記<相違点3>に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

d.そして、上記<相違点1>?<相違点3>を総合的に考慮しても、本件発明1の奏する作用効果は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(エ)よって、本件発明1は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ.本件発明2について
本件発明2と刊行物発明1を対比すると、刊行物発明1における「非発泡白ワイン」、「溶存CO_(2)レベルが・・・600ppm」は、本件発明2における「無発泡性白ワイン」、「溶存CO_(2)レベルが・・・50ppm?1200ppm」に相当する。
そうすると、本件発明2と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。
よって、本件発明2は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ウ.本件発明3について
刊行物発明1では、非発泡白ワインは、Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過されており、多段精密ろ過処理がされているといえる。
そうすると、本件発明3と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。
よって、本件発明3は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

エ.本件発明4について
刊行物発明1では、ワインは、Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過されており、2段精密ろ過処理がされているといえる。
そうすると、本件発明4と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。
よって、本件発明4は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

オ.本件発明5について
刊行物発明1では、ワインは、Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過されており、ろ過孔径は、第一段ろ過ハウジングにおいて1.0μm以下であり、そして少なくとも1つの後段ろ過ハウジングにおいて0.20μm?0.45μmの間であるといえる。
そうすると、本件発明5と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。
よって、本件発明5は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

カ.本件発明6について
刊行物発明1では、ワインは、Zeta Plus 60Hフィルター(0.5μm)及びbevASSURE 0.45μmフィルターを用いてろ過されている。
刊行物発明1について、ワイン中の細菌を減菌するためのフィルターは、充填するワインの状態や充填環境、コスト等に応じて当業者であれば適宜変更し得たものである。
そうすると、刊行物発明1について、第一段ろ過ハウジングにおいて、ろ過孔径が0.60μm程度以上とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、本件発明6と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。
よって、本件発明6は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

キ.本件発明7について
刊行物発明1では、ヘッドスペースの酸素含量が1w/w%未満である。刊行物発明1について、このようにヘッドスペースの酸素含量を制限するのは、酵母の成長を妨げさらなる発酵が進行するのを防止するためである(上記(1)ア.(ア)d.参照)。
ヘッドスペースの酸素含量を制限した上で、ヘッドスペースの体積自体を小さくすれば、容器内の酸素量が少なくなり、酵母の成長を妨げさらなる発酵が進行するのを防止するという目的を確実に達成することができることは、当業者であれば容易に認識し得たことといえる。
そうすると、刊行物発明1について、ヘッドスペースを密閉された容器の容積の1%未満程度とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、本件発明7と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。
よって、本件発明7は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ク.本件発明8について
刊行物1には、ヘッドスペースが、窒素が少なくとも95w/w%、二酸化炭素が5w/w%未満、及び酸素が2%w/w未満の組成であることが記載されている(上記(1)ア.(ア)a.参照)。この組成は、ヘッドスペース内の気体の大部分が窒素であり、その残りの多くを二酸化炭素が占め、酸素がほとんど存在しない状態を示し、ヘッドスペース内の酸素のレベルが非常に低いことにより酵母の成長が阻害されさらなる発酵が進行するのを防止する環境(上記(1)ア.(ア)d.参照)をもたらしているといえる。
刊行物発明1について、上記のような状態を実現するため、ヘッドスペースの組成を、窒素80?97v/v%及び二酸化炭素2?20v/v%程度とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、本件発明8と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。さらに、本件発明8は本件発明7を引用しているが、上記キ.で示したとおり、刊行物発明1について、本件発明7に記載された事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
よって、本件発明8は、刊行物発明1及び刊行物6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ケ.本件発明9について
一般に、アルコール含量が9v/v%未満である、低アルコールワインは、一般的なものである。
また、刊行物発明1において、酵母の成長を阻害する技術的課題があるから(上記(1)ア.(ア)d.の摘記事項参照)、刊行物9に記載された「ソルビン酸を添加することで、酵母の成長を阻害する」技術(上記(1)ウ.(イ)参照)を採用する動機がある。そして、上記技術的課題の下、当該ソルビン酸の量を好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
そうすると、刊行物発明1において、アルコール含量を9v/v%未満とするとともに、刊行物9に記載された上記技術を採用し、もって本件発明9の「アルコール含量が9v/v%未満であり、ソルビン酸が90mg/L超のレベルで存在する」という構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、本件発明9と刊行物発明1とは、上記<相違点1>?<相違点3>で相違するが、これら相違点の判断は上記ア.(ウ)で示したとおりである。
よって、本件発明9は、刊行物発明1及び刊行物6、9に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)特許権者の主張について
ア.上記(2)ア.(ウ)b.に関して、特許権者は、平成30年11月7日に提出した意見書の5.(4)アにおいて、刊行物発明1の「ワインがパッケージされたアルミニウム容器中の総酸素量(以下、「総パッケージ酸素量」という。)」は「0.298mg?0.458mg(0.9mg/L?1.39mg/L)」となる一方、「本件発明1の総パッケージ酸素量は、0.145mg?0.195mg(0.58mg/L?0.78mg/L)」となり、「このように、刊行物発明1では、本件発明1と比較して、ヘッドスペースに55%?140%も多いO_(2)を有することがわかる。すなわち、充填後の缶の中に残るO_(2)の量(すなわち、総パッケージ酸素量)に関して、本件発明1と刊行物発明1には、極めて重要かつ明確な相違が存在することは明らかである。」(当審注:ここでの「ヘッドスペース」は「充填後の缶」の誤記といえる。)と主張し、刊行物発明1について、「具体的なヘッドスペース内の最大酸素レベルや総パッケージ酸素量については、まったく教示も示唆もされていない。」と主張している。
しかしながら、上記第3で示した本件発明1の記載からでは、容器中の酸素に関し、ヘッドスペース及びワイン中の酸素の割合について示唆されているものの、ヘッドスペース及びワインの容量が明らかでないから、総パッケージ酸素量を算出することはできない。ゆえに、本件発明1は総パッケージ酸素量を特定するものではない。したがって、本件発明1と刊行物発明1との間で、総パッケージ酸素量について、相違点があると認定することができない。また、上記(2)ア.(ウ)b.で示したとおり、刊行物発明1について、ヘッドスペースの酸素含量を可及的に減少させることで、ヘッドスペースの最大酸素含量が1v/v%という具体的な条件を満たすことは、当業者であれば容易になし得たことである。
よって、上記特許権者の主張は採用することができない。

イ.また、上記(2)ア.(ウ)c.に関して、刊行物1について、「「好ましくは、ワイン中の酸素の溶解レベルは1ppm未満であり、より好ましくは0.5ppm未満である。」なる記載は、「缶詰プロセス後」における、ワインの二酸化炭素の原因となる2次発酵を最小にするために好ましい溶存酸素レベルを教示するものであり、「アルミニウム容器の充填工程を通した溶存酸素レベル」に関する記載ではない。」、「刊行物6には、溶存酸素レベルを0.5mg/Lまでに維持しなければならないことについて何ら教示も示唆もされていない。さらに、総パッケージ酸素量は、本件発明1を有意に上回るものと考えられる。・・・刊行物6の「充填中の酸素管理」のセクションには、溶存O_(2)レベルを0.5mg/l以下に減らすことの重要性について説明しているが、これは瓶詰めを開始する前に行っている。すなわち、「充填中の酸素管理」のセクションは、缶の中にワインを充填する過程において実際にワインが0.5mg/l以下でないことを示すものである。・・・刊行物6は、瓶詰めの間及び瓶ヘッドスペースに保持された空気から酸素の摂取が起こるので、瓶詰め後にガラス瓶の溶存酸素レベルが増加することを説明している(刊行物6の第3頁第6?18行)。刊行物6には、瓶詰めで少なくとも0.2mg/lとヘッドスペースで1.4mg/lの合計1.6mg/lの溶存酸素の最小増加分、溶存酸素レベルが上昇することが記載されている。これは、瓶詰め後、ワイン中に少なくとも2.1mg/lの溶存酸素が存在することを意味する。・・・このように、刊行物6には、「アルミニウム容器の充填工程を通した溶存酸素レベ(当審注:ここでの「溶存酸素レベ」は「溶存酸素レベル」の誤記といえる。)が最大で0.5mg/Lまでに維持される」ことに対する阻害要因が存在することから、刊行物6は、本件発明1に想到するための動機付けとはなり得ないものである。」と主張している。
しかしながら、刊行物1の「好ましくは、ワイン中の酸素の溶解レベルは1ppm未満であり、より好ましくは0.5ppm未満である」なる記載が、「缶詰プロセス後」におけるワインの好ましい溶存酸素レベルを教示するならば、このような低い溶存酸素レベルを実現すべく、上記(2)ア.(ウ)c.で示したとおり、アルミニウム容器充填工程でワイン中に酸素が混入しないように配慮することは当業者であれば通常なし得たことといえるから、刊行物6に記載された技術を採用する動機があるといえる。
また、刊行物6には、「ワイン中の分子状酸素の濃度は充填開始前に測定すべきであり、それは0.5mg/Lよりも低くすべきである。もし酸素濃度が0.5mg/Lを超えるのであれば、一般的には窒素ガスを用いたスパージングによってその濃度を低下させることができる。」と記載されており、ワインを充填する前にワイン中の溶存酸素レベルを0.5mg/Lよりも低くすることが示されている。さらに、刊行物6には、「充填の直前に、置換ガス(窒素、二酸化炭素又はアルゴン)を用いて、すべてのホース、フィルターハウジングポンプ及び充填ボールから空気を取り除くべきである。供給タンクは、窒素又はCO_(2)でブランケットするか、あるいは、軽くCO_(2)スプレイをすべきである。」、「ボトルは、酸素を収蔵する可能性がある微粒子物質を完全に取り除くべきであり、充填直前に置換ガスでフラッシュすべきである。」と記載されており、充填に用いる機材及びボトルから酸素が除去されることが示されているから、容器充填工程でワイン中に新たに酸素が混入することが防止されるといえる。ゆえに、刊行物6には、容器充填工程を通して溶存酸素レベルが最大で0.5mg/Lまでに維持する技術が示されている。また、上記ア.で示したとおり、本件発明1は総パッケージ酸素量を特定するものではないから、本件発明1と刊行物6の技術との間で総パッケージ酸素量を比較することができない。
また、刊行物6の「ボトルは、酸素を収蔵する可能性がある微粒子物質を完全に取り除くべきであり、充填直前に置換ガスでフラッシュすべきである。ボトル中に残存しているいずれかの酸素は酸素濃度を上昇させる。0.2mg/Lを超える溶存酸素の増加は、過剰な取り込みを示している。」という記載は、文脈からすると、ワインの充填前にボトルから完全に酸素を取り除くべきであるにもかかわらず、ボトル中に酸素が残存していると、溶存酸素が0.2mg/Lを超える増加を示す程度に、ワインに酸素が過剰に取り込まれてしまうことを意味するものであって、容器充填工程でワインに酸素が混入しないようにする技術を用いると、溶存酸素が0.2mg/L増加することを示しているものではない。
さらに、刊行物6の「真空フィルタ、コーカーまたはボトル・ガス・フラッシングを使用しない生産者は、ボトル・ワイン(750ml)のヘッドスペースに最大5mlの空気を入れることができる。これは、約1ml(1.4mg)の酸素に相当する。」という記載は、「真空フィルタ、コーカーまたはボトル・ガス・フラッシングを使用しない」場合、すなわち、容器充填工程で酸素が混入し得る場合、ヘッドスペースに1.4mgの酸素が入ることを示すのであって、容器充填工程でワインに酸素が混入しないようにする技術を用いると、溶存酸素が1.4mg/L増加することを示しているものではない。
したがって、刊行物6には、容器充填工程でワインに酸素が混入しないようにする技術について、「少なくとも0.2mg/lとヘッドスペースで1.4mg/lの合計1.6mg/lの溶存酸素の最小増加分、溶存酸素レベルが上昇する」ことが示されているとはいえない。
ゆえに、上記特許権者の主張は、採用できない。

なお、特許権者は、意見書の項目5.(3)イにおいて、「「アルミニウム容器充填工程を通して」とは、ワインの最終発酵からアルミニウム容器に密封するまでのワイン製造の全工程を意味する」と主張している。
しかしながら、上記1.(2)で検討したように、「アルミニウム容器充填工程を通して」とは、一般的な技術常識に鑑みると、充填施設においてある貯蔵体からアルミニウム容器に内容物を充填する工程を通して、という意味に理解するのが相当である。
ゆえに、特許権者の上記主張も、採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許の明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件発明1?9に係る請求項1?9の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。また、本件発明1?9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲
 
異議決定日 2019-02-19 
出願番号 特願2016-55278(P2016-55278)
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (C12G)
P 1 651・ 536- ZB (C12G)
P 1 651・ 121- ZB (C12G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 田中 佑果西堀 宏之  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 西藤 直人
千壽 哲郎
登録日 2017-01-13 
登録番号 特許第6074088号(P6074088)
権利者 バロークス プロプライアタリー リミテッド
発明の名称 アルミニウム容器にパッケージされたワイン  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 池田 達則  
代理人 中島 勝  
代理人 武居 良太郎  
代理人 三橋 真二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ