• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1353213
異議申立番号 異議2019-700008  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-10 
確定日 2019-07-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6355860号発明「残渣流中のHI濃度を制御する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6355860号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6355860号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2015年10月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年2月4日 米国(US) 2015年5月28日 米国(US))を国際出願日とするものであって、平成30年6月22日に特許権の設定登録がされ、平成30年7月11日にその特許公報が発行され、その後、平成31年1月10日に、特許異議申立人 千阪 実木(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審から平成31年3月14日付けで取消理由が通知され、特許権者から令和1年6月6日付けで意見書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、請求項1?16に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明16」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。

【請求項1】
a.メタノール、酢酸メチル、ジメチルエーテル、又はこれらの混合物、水、ロジウム触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルを含む反応物質供給流を含む反応媒体を反応器中でカルボニル化して酢酸を生成させ、当該反応媒体の一部をフラッシャに導入して、酢酸、水、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含む蒸気生成物流と、不揮発性物流とを生成させ、そして当該不揮発性物流を当該反応媒体へ戻すこと、
b.当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を第1の蒸留塔に導入し、当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を当該第1の蒸留塔内で蒸留して、更なる精製を行って生成物酢酸流を生成させる酢酸側部流と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第1のオーバーヘッド流とを得ること、
c.該第1のオーバーヘッド流を、ヨウ化メチル、酢酸、酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及び30重量%を超える水を含む軽質相と、水、酢酸、酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及び30重量%を超えるヨウ化メチルを含む重質相とに二相分離すること、
d.該軽質相の一部、該重質相、又はこれらの組み合わせを含むか又はそれに由来する第2の塔供給流を、蒸留域及び底部貯留域を有する第2の蒸留塔に導入すること、
e.水を含む頂部フラッシュ流を該第2の塔供給流の質量流量の0.1%又はそれを超える質量流量で該蒸留域に導入すること、
f.ヨウ化メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第2の塔オーバーヘッド流と、第2の塔残渣流であって該底部貯留域から該第2の塔外に流出し、水及び当該第2の塔残渣流の総量に対して10重量%又はそれを下回るHIを含む第2の塔残渣流とを生成させるのに十分な圧力と温度で該第2の塔供給流を蒸留すること、および
g.当該第2の蒸留塔から、酢酸メチルを含む第2の塔側部流を生成すること
を含む方法であって、
該第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量は、該蒸留塔に入るHIであって該第2の塔供給流中のHIが存在する場合には、そのHIの量よりも多い、前記方法。
【請求項2】
水、酢酸、またはその両方を含む底部フラッシュ流を該第2の塔供給流の質量流量の0.1%又はそれを超える質量流量で該蒸留域及び/又は該底部貯留域に導入することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該第2の蒸留塔の底部温度、該第2の蒸留塔の圧力、該頂部フラッシュ流の組成、該頂部フラッシュ流の質量流量、該底部フラッシュ流の組成、該底部フラッシュ流の質量流量、該蒸留域内の平均液相滞留時間、又はこれらの組み合わせを制御して、該第2の塔残渣流の総量に対して0.11重量%から0.9重量%のHIを含む該第2の塔残渣流を生成させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酢酸メチルを含む、当該蒸留塔からの当該側部流を、当該方法内へリサイクルする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該第2の塔オーバーヘッド流はジメチルエーテルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該第2の塔供給流は、該第2の塔供給流の総量に対して少なくとも10重量%の該軽質相と少なくとも10重量%の該重質相を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
カルボン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、及びこれらの混合物から成る群から選択されるリチウム化合物を該反応媒体に導入して、該反応媒体中の酢酸リチウム濃度を0.3?0.7重量%に維持することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リチウム化合物が酢酸リチウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
i.該反応器内のヨウ化水素濃度を0.1?1.3重量%に維持すること、
ii.該反応媒体中の該ロジウム触媒の濃度を該反応媒体の総重量に対して300?3000wppmに維持すること、
iii.該反応媒体中の水濃度を0.1?4.1重量%に維持すること、
iv.該反応媒体中の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持すること、又はこれらの組み合わせを更に含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
該酢酸生成物流から酢酸ブチルを直接除去せずに、該酢酸生成物流中の酢酸ブチル濃度を10wppm又はそれを下回る量に制御することを更に含み、該酢酸ブチル濃度の制御は、該反応媒体中のアセトアルデヒド濃度を1500ppm又はそれを下回る量に維持すること、該反応器内の温度を150?250℃に制御すること、該カルボニル化反応器内の水素分圧を0.3?2atmに制御すること、該反応媒体中のロジウム金属触媒濃度を該反応媒体の総重量に対して100?3000wppmに制御すること、又はこれらの組み合わせによって行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750wppm又はそれを下回る量に制御することを更に含み、該酢酸生成物流からプロピオン酸を直接除去しなくとも該酢酸生成物流に含まれるプロピオン酸は250wppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
i.該反応媒体中のヨウ化エチルと該酢酸生成物流中のプロピオン酸は3:1?1:2の重量比で存在し、
ii.該反応媒体中のアセトアルデヒドとヨウ化エチルは2:1?20:1の重量比で存在し、
iii.該反応器に導入されるメタノールは150wppm未満のエタノールを含み、
iv.該反応媒体中のヨウ化エチル濃度の制御は、該反応器内の水素分圧、該反応媒体中の酢酸メチル濃度、該反応媒体中のヨウ化メチル濃度、又はこれらの組み合わせを調整して行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
当該第2の塔残渣流は、当該第2の塔残渣流の総量に対して0.6重量%?0.9重量%のHIを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
当該第2の蒸留塔の該蒸留域内の平均液相滞留時間は1分?60分であり、
当該第2の蒸留塔内に存在する該液相は、第1の液相であって、存在する当該第1の液相の総量に対して50重量%を超える水を含む第1の液相と、第2の液相であって、存在する当該第2の液相の総量に対して50重量%を超えるヨウ化メチルを含む第2の液相を含み、
当該第2の蒸留塔の該蒸留域は複数の内部構成部品を含み、各構成部品は対応する成分液体保持容積を有し、
前記部品の各々において、該第1の液相の平均滞留時間と、該第2の液相の平均滞留時間とが30分未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1個の内部構成部品において、該第1の液相の平均滞留時間は該第2の液相の平均滞留時間と等しいか又はそれを超える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
酢酸の製造法であって、
a.メタノール、酢酸メチル、ジメチルエーテル、又はこれらの混合物、水、ロジウム触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルを含む反応物質供給流を含む反応媒体を反応器中でカルボニル化して酢酸を生成させ、当該反応媒体の一部をフラッシャに導入して、酢酸、水、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含む蒸気生成物流と、不揮発性物流とを生成させ、そして当該不揮発性物流を当該反応媒体へ戻すこと、
b.当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を第1の蒸留塔に導入し、当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を当該第1の蒸留塔内で蒸留して、更なる精製を行って生成物酢酸流を生成させる酢酸側部流と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第1のオーバーヘッド流とを得ること、
c.該第1のオーバーヘッド流を、ヨウ化メチル、酢酸、酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及び30重量%を超える水を含む軽質相と、水、酢酸、酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及び30重量%を超えるヨウ化メチルを含む重質相とに二相分離すること、
d.該軽質相の一部、該重質相、又はこれらの組み合わせを含むか又はそれに由来する第2の塔供給流を、蒸留域及び底部貯留域を有する第2の蒸留塔に導入すること、
e.水を含む頂部フラッシュ流を該第2の塔供給流の質量流量の0.1%又はそれを超える質量流量で該蒸留域に導入すること、
f.ヨウ化メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第2の塔オーバーヘッド流と、第2の塔残渣流であって該底部貯留域から該第2の塔外に流出し、水及び当該第2の塔残渣流の総量に対して10重量%又はそれを下回るHIを含む第2の塔残渣流とを生成させるのに十分な圧力と温度で該第2の塔供給流を蒸留すること、および
g.当該第2の蒸留塔から、酢酸メチルを含む第2の塔側部流を生成すること
を含み、
該第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量は、該蒸留塔に入るHIであって該第2の塔供給流中のHIが存在する場合には、そのHIの量よりも多い、前記方法。

第3 取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)請求項1,3?6,13,16に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

(2ア)請求項1?6,13?16に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2イ)請求項7?9に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2ウ)請求項10に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2エ)請求項11,12に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


甲第1号証:特表2008-539233号公報
甲第2号証:国際公開第2013/137236号
甲第3号証:DECLARATION OF DR.RONNIE MICHAEL HANES UNDER 37 C.F.R.1.68,2016年10月31日,米国特許審判部
甲第4号証:特開平10-231267号公報
甲第5号証:特表2007-526310号公報
甲第6号証:特開平8-20555号公報
甲第7号証:特表2004-523539号公報
甲第8号証:下記標目参照
甲第9号証:下記標目参照
甲第10号証:下記標目参照
甲第11号証:下記標目参照
甲第12号証:下記標目参照
甲第13号証:下記標目参照
甲第14号証:「KIRK-OTHMER ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY FOURTH EDITION(第16巻)」、アメリカ合衆国、A Wiley-Interscience Publication、1995年、p.537-556
甲第15号証:「IMPCA Methanol Reference Specifications」、ベルギー王国、International Methanol Producers & Consumers Association、2010年12月9日
甲第16号証:高純度ヨウ化水素ガス、合同資源産業株式会社、URL(http://www.godoshigen.co.jp/pdf/download03.pdf)


特許異議申立人は、参照すべき証拠として、甲第2,3,5,8?16号証を提出している。

(3)請求項8に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、請求項8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 当審が通知した取消理由の概要
請求項8,9に係る特許は、請求項8の「前記リチウム化合物が酢酸リチウムである、請求項7に記載の方法。」との記載について、引用元の請求項7は、「カルボン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、及びこれらの混合物から成る群から選択されるリチウム化合物を該反応媒体に導入して、該反応媒体中の酢酸リチウム濃度を0.3?0.7重量%に維持することを更に含む、請求項1に記載の方法。」(下線は、当審にて追加。以下同様。)と特定され、前記される「リチウム化合物」の選択肢には、酢酸リチウムが明記されておらず、結果として請求項8及び請求項8を引用する請求項9の発明の範囲が不明確となっているので、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、請求項8,9に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第3 当審の判断
当審は、請求項8,9に係る特許は、当審の通知した取消理由によっては取り消すことができず、請求項1?16に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

当審が通知した取消理由の判断

1 理由1(特許法第36条第6第2号)について
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第2号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)特許請求の範囲の記載
請求項7,8の記載は、前記第2の記載の以下のとおりである。
「【請求項7】
カルボン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、及びこれらの混合物から成る群から選択されるリチウム化合物を該反応媒体に導入して、該反応媒体中の酢酸リチウム濃度を0.3?0.7重量%に維持することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リチウム化合物が酢酸リチウムである、請求項7に記載の方法。」

(3)明細書の記載
「【0125】
[0139]ある態様では、酢酸を製造する方法は、反応器にリチウム化合物を導入して反応媒体中の酢酸リチウム濃度を0.3?0.7重量%に維持することを更に含んでもよい。ある態様では、所定量のリチウム化合物を反応器に導入して、反応媒体中のヨウ化水素濃度を0.1?1.3重量%に維持する。ある態様では、カルボニル化反応器内に存在する反応媒体の総重量に対し、反応媒体中のロジウム触媒濃度を300?3000wppmに維持し、反応媒体中の水濃度を0.1?4.1重量%に維持し、反応媒体中の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する。
【0126】
[0140]ある態様では、反応器に導入するリチウム化合物は、酢酸リチウム、カルボン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、他の有機リチウム塩、及びこれらの混合物から成る群から選択される。ある態様では、リチウム化合物は反応媒体に可溶である。ある態様では、酢酸リチウム二水和物をリチウム化合物の源として用いてもよい。
【0127】
[0141]酢酸リチウムは次の平衡反応(I)に従ってヨウ化水素と反応し、ヨウ化リチウムと酢酸が生成する。
LiOAc+HI←→LiI+HOAc(I)
[0142]酢酸リチウムは反応媒体に存在する他の酢酸エステル(例えば、酢酸メチル)に比べ、ヨウ化水素濃度の制御を向上させると考えられる。理論に束縛されるものではないが、酢酸リチウムは酢酸の共役塩基であるため、酸-塩基反応によりヨウ化水素に対する反応性が高い。この特性により反応(I)の平衡が、対応する酢酸メチルとヨウ化水素の平衡により生成する以上の反応生成物をもたらすと考えられる。この改良された平衡は、反応媒体中の水濃度が4.1重量%未満であると都合がよい。また、酢酸リチウムの揮発性は酢酸メチルに比べて相対的に低いため、揮発損失や蒸気粗生成物への少量の同伴を除き、酢酸リチウムを反応媒体中に残すことができる。これに対し、酢酸メチルの揮発性は比較的高いため、材料を蒸留して精製系にすることができるが、酢酸メチルの制御はより困難になる。本方法では、酢酸リチウムによって、容易にヨウ化水素は一定の低い濃度に維持・制御される。従って、反応媒体中のヨウ化水素濃度を制御するのに必要な酢酸メチルの量に比べて、使用する酢酸リチウムの量は相対的に少なくてもよい。ヨウ化メチルのロジウム[I]錯体への酸化的付加を促進する上で、酢酸リチウムは酢酸メチルに比べて少なくとも3倍有効であることが更に分かった。
【0128】
[0143]電位差滴定終点までの過塩素酸滴定によって酢酸リチウム濃度を求める際、ある態様では、反応媒体中の酢酸リチウム濃度を0.3重量%又はそれを超える量、0.35重量%又はそれを超える量、0.4重量%又はそれを超える量、0.45重量%又はそれを超える量、又は0.5重量%又はそれを超える量に維持し、及び/又は、ある態様では、反応媒体中の酢酸リチウム濃度を0.7重量%又はそれを下回る量、0.65重量%又はそれを下回る量、0.6重量%又はそれを下回る量、又は0.55重量%又はそれを下回る量に維持する。
【0129】
[0144]反応媒体中の酢酸リチウムが過剰であると、反応媒体中の他の化合物に悪影響を及ぼし、生産性が低下し得ることが分かった。逆に、反応媒体中の酢酸リチウム濃度が約0.3重量%未満であると、反応媒体内でヨウ化水素濃度に対する制御ができなくなることが分かった。」
「【0147】
・・・
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
・・・
[請求項15]
酢酸リチウム、カルボン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、及びこれらの混合物から成る群から選択されるリチウム化合物を該反応媒体に導入して、該反応媒体中の酢酸リチウム濃度を0.3?0.7重量%に維持することを更に含む、請求項8に記載の方法。」

(4)判断
上記(2)の特許請求の範囲請求項7の記載からみて、請求項8で「前記リチウム化合物」と引用されている「リチウム化合物」は、「カルボン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、及びこれらの混合物から成る群から選択される」ものであると記載自体から理解できる。
そして、請求項8の「前記リチウム化合物が酢酸リチウムである、請求項7に記載の方法」とは、酢酸リチウムがカルボン酸リチウムの一種であることは、当業者の技術常識であるから、該技術常識を考慮すると、請求項8に係る発明では、請求項7に係る発明におけるリチウム化合物の選択肢のうちの「カルボン酸リチウム」を選択し、その下位概念である「酢酸リチウム」にリチウム化合物を特定したものであると合理的に当業者が理解でき、その点で、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

また、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、【0126】や【0147】に酢酸リチウムとカルボン酸リチウムをリチウム化合物の別々の選択肢として表記されている点で特許請求の範囲の記載とは異なる記載は存在するものの、反応媒体中に酢酸リチウムを導入し、酢酸リチウム濃度を一定範囲に維持することを述べた一連の記載に関連して態様の一つとして記載されているものである。
そして、上記のとおり、特許請求の範囲の記載は、該記載自体及び当業者の技術常識から合理的に理解できるのであるから、発明の詳細な説明の記載において、リチウム化合物の選択肢の表記の仕方に相違があることをもって、請求項に係る発明の範囲が不明確になるとはいえず、請求項7に係る発明におけるリチウム化合物の選択肢のうちの「カルボン酸リチウム」には、下位概念である「酢酸リチウム」が含まれていると理解すべきであり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるともいえない。

(5)明確性要件のまとめ
したがって、上記の点において、請求項8,9に係る特許を受けようとする発明は明確である。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び同法第29条第2項(進歩性)について

(1)甲号証の記載
(1-1)甲第1号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第1号証には以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】
カルボニル化可能な反応体のカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)を低減および/または除去して、酢酸を含むカルボニル化生成物を製造する方法であって、
(a)カルボニル化生成物を分離して、酢酸を含む蒸気オーバーヘッド流と、より低揮発性の触媒相とを得るステップと、
(b)前記蒸気オーバーヘッド流を蒸留して、精製酢酸生成物と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチルおよび少なくとも1種のPRCを含む低沸点オーバーヘッド蒸気流とを生成するステップと、
(c)前記低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し2相に分離して、凝縮した重液相および凝縮した軽液相を形成するステップと、
(d)前記凝縮した軽液相を単一の蒸留塔内で蒸留して、第2の蒸気相流オーバーヘッドおよびより高沸点の液相残留物を形成するステップであって、前記第2の蒸気相流が、凝縮した軽液相と比較してPRCを多く含むステップと、
(e)前記第2の蒸気相流を凝縮し、水で凝縮流を抽出して、PRCを含む水性アセトアルデヒド流と、ヨウ化メチルを含むラフィネートとを得るステップと、
を含む方法。」

(1b)「【0012】
高純度酢酸の他の製造法に関する記載によれば、アセトアルデヒドを除去する蒸留を用いることにより、400ppm以下のアセトアルデヒド濃度が反応器内で維持されると明言されている。アセトアルデヒド除去のための処理に提案されている流れは、主に水、酢酸、および酢酸メチルを含有する軽質相と、主にヨウ化メチル、酢酸メチル、および酢酸を含有する重質相と、主にヨウ化メチルおよび酢酸メチルを含有するオーバーヘッド流と、または軽質相および重質相を合流させて形成される再循環流とを含む。」

(1c)「【0023】
本発明の精製法は、ロジウムなどのVIII族金属触媒およびハロゲン含有触媒プロモーターの存在下で、メタノール(または酢酸メチル、ギ酸メチル、ジメチルエーテル、またはこれらの混合物を含むがこれらに限らない、他のカルボニル化可能な反応体)を酢酸へとカルボニル化するのに使用するいかなる方法にも有用である。特に有用な方法は、米国特許第5001259号に例示の、ロジウム触媒によるメタノールから酢酸への低水分カルボニル化プロセスである。」

(1d)「【0027】
水は、反応媒体に含まれるが、含有濃度は、かつて十分な反応速度を達成するために実用的と考えられていた濃度より相当低い濃度が望まれる。例えば米国特許第3769329号で以前教示したように、本発明で記述している種類の、ロジウム触媒によるカルボニル化反応において、水の添加は反応速度に有利な効果をもたらす。したがって商業稼動における通常の水濃度は少なくとも約14重量%である。よって、そのように比較的高い水濃度で達成される反応速度と実質的に等しい、またはそれを超える反応速度が、14重量%未満さらに約0.1重量%という低い水濃度で達成できることは誰も予測していなかった。
【0028】
本発明による酢酸を製造するのに最も有用なカルボニル化プロセスによると、所望するカルボン酸と、アルコール、望ましくはカルボニル化に使用したアルコールとのエステル、ならびにヨウ化水素として存在するヨウ化物イオン以外の、追加のヨウ化物イオンを反応媒体内に維持することによって、所望する反応速度が、低い水濃度でも達成できる。望ましいエステルは酢酸メチルである。追加のヨウ化物イオンは望ましくはヨウ化物塩であり、中でもヨウ化リチウムが好ましい。例えば米国特許第5001259号によると、酢酸メチルおよびヨウ化リチウムは、水濃度が低い状態で、これら各成分が比較的高濃度で存在する場合にのみ反応速度促進剤として機能し、これら成分が同時に存在する場合には反応はさらに促進することが判明した。当該好ましいカルボニル化反応系の反応媒体で維持するヨウ化物イオンの濃度は非常に高いと考えられるのに対して、この種の反応系においてハロゲン化物塩の使用を扱う従来技術は少ししか存在しない。ヨウ化物イオン含有物の絶対濃度によって本発明の有用性は制限されない。
【0029】
メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化反応は、メタノール原料と、ロジウム触媒、ヨウ化メチルプロモーター、酢酸メチルおよび追加の可溶性ヨウ化物塩を含有する酢酸溶媒反応媒体中に気泡化した一酸化炭素の気体とを、カルボニル化生成物の形成に適切な温度および気圧条件下で接触させることにより行われる。
・・・酢酸メチルが通常約0.5?約30重量%の量で存在し、ヨウ化メチルが通常約5?20重量%の量で存在するような量で触媒溶液中に存在する。ロジウム触媒は通常約200?約2000パーツパーミリオン(ppm)の量で存在する。」

(1e)「【0031】
本発明に従い、ヨウ化物で反応を促進し、ロジウム触媒によりメタノールから酢酸へカルボニル化を行うのに使用される典型的な反応および酢酸回収系を図1に示すが、これには、液相カルボニル化反応器、フラッシャー、ヨウ化メチル酢酸軽留分塔(「軽留分塔」)14が含まれている。本プロセスにおいて、反応器内に生成されたカルボニル化生成物は、フラッシャーに供給され、そこで酢酸を含む揮発性(蒸気)オーバーヘッド流と、揮発性のより低い触媒相(触媒含有溶液)が形成される。酢酸を含む該揮発性オーバーヘッド流は、流れ26から低留分分離塔14へ供給され、そこで蒸留によって側流17から取り出される精製酢酸生成物およびオーバーヘッド蒸留流28(以下「低沸点オーバーヘッド蒸気流」と称す)が生成する。側流17から取り出される酢酸は、水から酢酸を選択分離する乾燥分離塔などで、さらに精製することができる。
【0032】
反応器およびフラッシャーは図1に図示していない。これらは、カルボニル化プロセス技術において現在では周知の標準装置であると考えられている。カルボニル化反応器は、通常撹拌槽型または気泡塔型で、これら装置内では反応液またはスラリー含有量は自動的に一定に維持される。この反応器へは、継続的に未使用のメタノール、一酸化炭素、反応媒体中に少なくとも水の限られた濃度を維持するのに必要なだけ十分な水が導入される。また反応器へ導入されるのは、フラッシャー底面などから再循環した触媒溶液、再循環したヨウ化メチル相、再循環した酢酸メチル相、および再循環した水性酢酸相である。再循環相は、これら成分の1種または複数の種類を含んでもよい。
・・・
【0034】
液体生成物は、反応器内を一定濃度に維持するのに十分な比率で、カルボニル化反応器から排出され、フラッシャーへ導入される。フラッシャーでは、触媒含有溶液(触媒相)が基流(主に酢酸、さらにロジウムおよびヨウ化物塩、ならびにより少量の酢酸メチル、ヨウ化メチルおよび水を含む)として回収され、酢酸を含む蒸気オーバーヘッド流はオーバーヘッドへ退く。酢酸を含む蒸気オーバーヘッド流はまた、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよび水も含む。反応器から流出し、フラッシャーに流入する溶存気体は、一酸化炭素の一部分を含み、メタン、水素、二酸化炭素などの気体副生物をも含み得る。そのような溶存気体はオーバーヘッド蒸気流の一部としてフラッシャーから流出する。オーバーヘッド蒸気流は、気流26として軽留分塔14へと向かう。」

(1f)「【0035】
米国特許第6143930号および第6339171号では、分離塔14から流出する高沸点残渣流に比べ、分離塔14から流出する低沸点オーバーヘッド蒸気流28の方がより高濃度のPRC、特にアセトアルデヒド分を含むことを開示した。よって、本発明に従い、PRCを含む低沸点オーバーヘッド蒸気流28に対して、存在するPRCの量を低減および/または除去する追加の処理を行う。したがって、低沸点オーバーヘッド蒸気流28を凝縮し、オーバーヘッド受液デカンター16へと誘導する。PRCに加え、低沸点オーバーヘッド蒸気流28は通常ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸および水を含有している。低沸点オーバーヘッド蒸気流28が、デカンター16へ入ると、軽質相および重質相へと分離するよう、該方法の条件を維持することが望ましい。一般的に、低沸点オーバーヘッド蒸気流28は、凝縮可能なヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、および他のカルボニル成分と水との2相に凝縮、分離するのに十分な程度に低い温度に冷やす。気流28の一部は、二酸化炭素、水素などの凝縮不可能な気体を含んでもよく、これらの気体は、図1で気流29として示すように放出することができる。
【0036】
デカンター16内の凝縮軽質相は通常、水、酢酸およびPRCならびにある量のヨウ化メチルおよび酢酸メチルを含む。デカンター16内の凝縮重質相は通常、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよびPRCを含む。」

(1g)「【0039】
図1で開示する本発明に従い、低沸点オーバーヘッド蒸気流28は、ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドのようなPRC、および場合により他のカルボニル成分を含む。該低沸点オーバーヘッド蒸気流28はまた水およびいくらかの量の酢酸も含む。
【0040】
低沸点オーバーヘッド蒸気流28は、その後凝縮、分離されて(容器16内で)、より大きな比率のヨウ化メチルに加え、PRCをも含む凝縮した重液相と、特にPRC、水および酢酸に加え、概して少量のヨウ化メチルおよび酢酸メチルの両方を含む、凝縮軽液相(流れ30として引き出される)とを形成する。
【0041】
軽留分オーバーヘッド、すなわち低沸点オーバーヘッド蒸気流28のうちのいずれかの相をその後に処理して、流れの中のPRCおよび主にアセトアルデヒド成分を除去してもよいが、本発明においては、PRCは凝縮した軽液相30から除去される。
【0042】
よって、デカンター16内の凝縮された重液相は、好都合には、直接的にせよ、間接的にせよ、反応器(図1には示されていない)へ再循環させることができる。例えば、この凝縮した重液相の一部は反応器に再循環させることができるが、この場合、一般的には少量の後流、例えば重液相の25体積%、好ましくは約20体積%未満の量を、カルボニル処理プロセスへと誘導する。重液相のこの後流は、本発明に従い、個々に処理するか、または凝縮軽液相30と一緒にしてさらに蒸留し、カルボニル不純物を抽出してもよい。
【0043】
本発明に従い、凝縮軽液相30は蒸留塔18へ誘導され、そこで第2の蒸気相36を形成することになるが、この第2の蒸気相36は、PRC、特にアセトアルデヒデドを多く
含むばかりでなく、ヨウ化メチルおよびアセトアルデヒドの沸点が近似しているため、ヨウ化メチルをも含有している。第2の蒸気相36は凝縮され、水で抽出されることにより、PRC、特にアセトアルデヒデドを低減および/または除去する。好ましい実施形態においては、この凝縮相36の一部が、蒸留塔18へ還流として供給される。これは、図1で示すように、凝縮流36をオーバーヘッド受液器20へ供給し、そこから凝縮流36の一部が流れ40によって抽出工程(一般に70で示す)へ供給され、凝縮流36の他の一部が流れ42によって蒸留塔18へ還流として供給されることによって達成することができる。」

(1h)「【0048】
よって、図1に示す本発明の一つの実施形態によると、低沸点オーバーヘッド蒸気流28はオーバーヘッド受液デカンター16で凝縮され、2相に分離し、凝縮された重液相および凝縮された軽液相30を形成する。凝縮された軽液相30は、流れ30/32を介して蒸留塔18へ供給される。本発明の本実施形態、および別の実施形態において、流れ30の一部は、還流34として、軽留分塔14へ戻すことができる。
【0049】
蒸留塔18において、第2の蒸気相流36オーバーヘッドおよびより高い沸点の液相残留物の流れ38が形成される。第2の蒸気相流36のオーバーヘッド流は、凝縮軽液相30と比較して、PRC、特にアセトアルデヒドを多く含む。第2の蒸気相流36オーバーヘッドは、前記凝縮軽液相30に比較して、酢酸メチル、メタノールおよび/または酢酸(望ましくはこれら3種全て)が不足している。より高い沸点の液相残留物の流れ38は、前記第2の蒸気相流36と比較して、酢酸メチル、メタノールおよび/または酢酸(望ましくはこれら3種全て)を多く含む。第2の蒸気相流36オーバーヘッド流は、より高い沸点の液相残留物の流れ38と比較して、PRC、特にアセトアルデヒドを多く含むことが望ましい。より高い沸点の液相残留物の流れ38は本プロセス内に保持することが可能であり、好ましい。
【0050】
本開示の利益を有する当業者は、蒸留塔を設計および操作して、本発明の所望の結果を達成することができる。そのような努力は、手間がかかり複雑ともなり得るが、本開示の利益を有する当業者にとっては普通の仕事ともなろう。したがって本発明の実施は、必ずしも特定の蒸留塔の特定の性質、またはその操作特性、例えば総工程数、供給点、還流比、供給温度、還流温度、分離塔温度プロファイルなどに限定されない。」

(1i)「【0054】
図1にも例示している本発明の第2の実施形態によると、低沸点オーバーヘッド蒸気流28はデカンター16で凝縮され、そこで2相に分離され、凝縮重液相および凝縮軽流相30を形成する。凝縮した軽流相30は、流れ30/32を介して蒸留塔18に供給される。再び本発明のこの実施形態および別の実施形態に従うと、流れ30の一部は、還流34として軽流分塔14へ戻すことができる。蒸留塔18において、第2の蒸気相流36オーバーヘッドおよびより高い沸点の液相残留物の流れ38が形成する。また、酢酸メチルを含む側流80も得られる。
【0055】
側流80は、第2の蒸気相流36内でより高い濃度のアセトアルデヒドを得るのに望ましい条件下で蒸留塔18を操作することを可能にする一方、酢酸メチル除去を行い、酢酸メチルが蒸留塔18の中央部に堆積したり、第2の蒸気相流36オーバーヘッドへ追いやられたりすることのない機構を提供する。酢酸メチルを含む側流80は該プロセス内に保持することが好ましい。」

(1j)「【0061】



(1k)「



(1-2)甲第2号証
(2a)「 【0098】
棚段塔の場合、理論段は、特に制限されず、分離成分の種類に応じて、5?50段、好ましくは7?35段、さらに好ましくは8?30段程度である。また、蒸留塔で、アセトアルデヒドを分離するため、理論段を、10?80段、好ましくは20?60段、さらに好ましくは25?50段程度にしてもよい。さらに、蒸留塔において、還流比は、前記理論段数に応じて、例えば、0.5?3000、好ましくは0.8?2000程度から選択してもよく、理論段数を多くして、還流比を低減してもよい。」

(2b)「 【0115】
(比較例1)
図2に示す酢酸の連続製造プロセスにおいて、メタノールと一酸化炭素とをカルボニル化反応器で連続的に反応させ、前記反応器からの反応混合物をフラッシャーに連続的に供給し、フラッシュ蒸留により、低揮発相成分(ロジウム触媒、ヨウ化リチウム、酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、およびヨウ化水素を少なくとも含む缶出成分)と、揮発相成分(液化したガス状成分、液温135℃)とに分離し、この揮発相成分を第1の蒸留塔に供給した。なお、補給ライン34bおよび35bは利用しなかった。また、揮発相成分の組成は、ヨウ化メチル(MeI)38.2重量%、酢酸メチル(MA)0.3重量%、水(H_(2)O)6.5重量%、ヨウ化水素(HI)5000ppm(重量基準)、酢酸54.5重量%を含んでいる(なお、酢酸の含有量は、100重量%から酢酸以外の成分組成の総和を減算することにより算出した。以下同じ)。
【0116】
揮発相成分100重量部を第1の蒸留塔(実段:20段、仕込段:下から2段)に供給し、ゲージ圧150KPA、塔底温度140℃、塔頂温度115℃、軽質相還流比3で蒸留し、デカンタで分液した水相(軽質相)5重量部及び有機相(重質相)38重量部を反応器にリサイクルした。なお、第1の蒸留塔の塔頂組成(オーバーヘッドの組成)は、ヨウ化メチル(MeI)63.8重量%、酢酸メチル(MA)0.6重量%、水(H_(2)O)23.3重量%、ヨウ化水素(HI)440ppm、酢酸12.3重量%であり、水相(軽質相)の組成は、ヨウ化メチル(MeI)2.6重量%、酢酸メチル(MA)0.3重量%、水(H_(2)O)67.0重量%、ヨウ化水素(HI)900ppm、酢酸30.0重量%であり、有機相(重質相)の組成は、ヨウ化メチル(MeI)96重量%、酢酸メチル(MA)0.7重量%、水(H_(2)O)0.3重量%、ヨウ化水素(HI)200ppm、酢酸3.0重量%であった。」

(2c)「 【0124】




(1-3)甲第3号証
(3a)「Zinobileにはヨウ化水素がオーバーヘッド留出ストリームに存在するものとして具体的に記載されていないが、2010年12月以前に、当業者は、ヨウ化水素が必然的にストリーム中に存在したことを容易に理解し把握したであろう。」(22頁[51])

(3b)「ヨウ化水素はCH_(3)OH+HI⇔CH_(3)I+H_(2)O(決定注:原文では、両矢印は一重の両矢印)の反応式で表されるようにヨウ化メチルと水との反応によって生産され、この反応は、’958特許の優先日以前に当該分野で周知であった。」(22?23頁[51])

(3c)「1?1000ppmというヨウ化水素の量、及び、とりわけ少なくとも約10ppmを超える量は当業者の一般常識と一致する。当業者の知識とも一致する私個人の酢酸製造における工業上の経験に基づけば、1?2重量%のヨウ化メチルレベルと約70重量%の含水レベルが存在する場合、1?1000ppmというヨウ化水素の濃度は、どの点であっても酢酸製造プロセスで予期されたであろう。」(29頁[67])

(1-4)甲第4号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第4号証には以下の記載がある。
(4a)「【請求項1】 カルボニル化反応用原料を反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素とカルボニル化反応させるカルボニル化反応工程を含む有機カルボン酸の製造方法において、
(i)該カルボニル化反応用触媒として窒素を含む不溶性樹脂担体に固定化したロジウム触媒を用いること、
(ii)該反応系に存在する水の量が、反応混合物中0.5?10重量%であること、
(iii)該反応系における水素分圧が0.1?5kg/cm^(2)及び一酸化炭素分圧が7?30kg/cm^(2)であり、かつ該反応温度が140?250℃であること、
(iv)該カルボニル化反応で得られた有機カルボン酸を含む反応生成液のカルボニル化度が0.5?0.9であり、かつ該反応生成液中に含まれる水の量が10重量%以下であること、を特徴とする有機カルボン酸の製造方法。」

(4b)「【0020】本発明で用いるカルボニル化反応における水素分圧は、0.1?5kg/cm^(2)、好ましくは1?3kg/cm^(2)である。反応原料として用いる一酸化炭素には、通常、0.5?5容量%、特に、約1?2容量%の水素が含まれており、また、カルボニル化反応器においても、副反応により水素が副生する。従って、カルボニル化反応器内の気相部には水素が存在する。本発明では、この水素分圧を5kg/cm^(2)以下、より好ましくは3kg/cm^(2)に規定する。この水素分圧の規定により、製品カルボン酸からの分離困難で、製品カルボン酸の品質を低下させるアセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、プロピオン酸、酢酸エチル等のアルデヒド及びその誘導体、並びにヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ペンチル、ヨウ化ヘキシル等のヨウ化物からなる不純物量を減少させることができる。水素分圧は、気相部のガスの一部を圧力調節弁を介して外部へパージすることによってコントロールし得る他、反応原料として使用する一酸化炭素に含まれる水素量を調節することによってコントロールすることができる。」

(4c)「【0023】アルデヒド誘導体、ヨウ素化物の生成反応ルートは以下のごとく考えられる。
1. CH_(3)COOH+H_(2) → CH_(3)CHO+H_(2)O
2. CH_(3)CHO+H_(2) → CH_(3)CH_(2)OH
3. CH_(3)CH_(2)OH+HI → CH_(3)CH_(2)I+H_(2)O
4. CH_(3)CH_(2)I+CO → CH_(3)CH_(2)COI
5. CH_(3)CH_(2)COI+H_(2)O → CH_(3)CH_(2)COOH+HI
6. 2CH_(3)CHO → CH_(3)CH=CHCHO+H_(2)O
(クロトンアルデヒド)
7. CH_(3)CH=CHCHO+CH_(3)CHO → CH_(3)CH=C(C_(2)H_(5))CHO+H_(2)O
(2-エチルクロトンアルデヒド)
8. CH_(3)CH_(2)OH+CH_(3)COOH → CH_(2)COOCH_(2)CH_(3)+H_(2)O
9. CH_(3)CH=CHCHO+2H_(2) → CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH
10. CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH+HI → CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)I+H_(2)O」

(4d)「【0035】蒸留塔2の塔底からライン15を通って抜出された液体留分(有機カルボン酸留分)の一部は、ライン16を通ってリボイラー4に入り、ここで加熱された後、ライン18を通って蒸留塔2の下部に戻され、一方、残部はライン17を通って第2蒸留塔3に供給される。ライン17を通る流れは、水分が少なくとも0.3wt%以下及びヨウ化物の大部分が除去された粗精製酢酸である。
【0036】第2蒸留塔3においては、第1蒸留塔2からの塔底物の蒸留が行われる。その塔頂からライン27を通って抜出された蒸気状の留分は、コンデンサー8に入り、ここで凝縮された後、凝縮液槽9に入る。凝縮液槽9における気体成分はライン30を通ってライン202を通じて回収系Bに導入される。一方、液体成分はライン29を通って蒸留塔頂部に還流される。第2蒸留塔3の塔底からライン23を通って抜出された液体留分(有機カルボン酸留分)の一部は、ライン24を通ってリボイラー7に入り、ここで加熱された後、ライン26を通って蒸留塔2の下部に戻され、一方、残部はライン25を通って外部へ抜出される。」

(4e)「【0045】
【表2】



(4f)「【0048】
【表4】



(1-5)甲第5号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第5号証には以下の記載がある。
(5a)「【0039】
しかしながら、米国特許第6,339,171号に開示されているように、反応中、塔22を加熱すると、より高分子量のアセトアルデヒドポリマーが形成されることが発見されている。これらの高分子量ポリマー(分子量約1000超)は、軽質相の処理時に形成されると考えられ、粘稠でチキソトロピック(揺変性)である。系に熱を印加すると、それらは硬化し塔壁に付着しやすく、塔壁からのその除去は厄介である。いったん重合すると、それらは有機溶媒にも水性溶媒にも難溶で、系からは機械的手段によってしか除去することができない。従って、これらの不純物、すなわちメタアルデヒド及びパラアルデヒド並びに高分子量のアセトアルデヒドポリマー(AcH)の形成を削減するための阻害剤が、好ましくは塔22に必要となる。阻害剤は、一般的にC1-10アルカノール、好ましくはメタノール;水;酢酸などからなり、個別に又は互いに組み合わせて又は一つ以上のその他の阻害剤と共に使用される。塔18の残渣の一部及びストリーム38のスリップストリームであるストリーム46は、水及び酢酸を含有するので阻害剤として働くことができる。図1に示されているように、ストリーム46は分岐してストリーム48と50を形成する。ストリーム50は塔22に添加されてメタアルデヒド及びパラアルデヒド不純物並びに高分子量ポリマーの形成を阻害する。第二の塔22の残渣は反応器にリサイクルされるので、添加される阻害剤はいずれも反応化学と適合性がなければならない。少量の水、メタノール、酢酸、又はそれらの組合せは反応化学を妨害せず、アセトアルデヒドのポリマーの形成を実質的に排除することが分かった。ストリーム50も、この材料は反応器の水収支を変えないので、阻害剤として好適に使用される。水は阻害剤として特に好適なわけではないが、以下に説明するとおり、塔22に水を添加することによってその他の重要な利益も得られる。」

(5b)「【0046】
前述の多段階抽出に伴う一つの潜在的問題は、それぞれの水抽出でアセトアルデヒドだけでなく測定可能な量のヨウ化メチルも除去されてしまうことである。上記説明の通り、ヨウ化メチルは反応系の特に高価な成分なので、プロセスから廃棄物として除去されるヨウ化メチルの量を最小限化して、反応器に供給しなければならない新鮮なヨウ化メチルの量を削減することは非常に望ましい。しかしながら、本出願人らは、抽出器27への供給流にジメチルエーテル(DME)を添加すると、抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制されることを発見した。DMEの存在はヨウ化メチルの水中溶解度を削減するので、水性抽出物ストリーム64及び70中に抽出され、廃棄物処理で失われるヨウ化メチルの量が削減される。例えば、出願人らはストリーム64中のヨウ化メチル濃度が、DMEが存在しない場合の約1.8%からDMEが存在する場合の約0.5%に降下することを観察した。従って本発明の更なる側面は、DMEを抽出器27の上流のプロセス、例えばストリーム62に注入し、水性抽出物ストリーム64及び70中へのヨウ化メチルの喪失を削減するステップを含む。ストリーム62に必要な量のDMEは、水を塔22、例えば供給流40又は還流50に添加することによって得ることができる。本発明を実施するに当たって塔22におけるDME形成の正確な機構を理解する必要はないが、この水が塔22で酢酸メチル及び/又はヨウ化メチルと反応してメタノールを形成し、次にこれが酸触媒(例えばHI)の存在下で脱水されてDMEを形成すると考えられる。水性抽出物ストリーム64及び70中に抽出されないDMEがあれば、反応系に直接又は間接的にリサイクルされ、そこで一酸化炭素及び水と反応して酢酸を形成する。」

(1-6)甲第6号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第6号証には以下の記載がある。
(6a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ロジウム触媒の存在下でのメタノール、酢酸メチル、ジメチルエーテルの内少なくとも一成分をカルボニル化することによって形成される酢酸および/または無水酢酸の新規な製造方法に関する。・・・ 」

(6b)「【0018】本方法において、反応促進剤として、4級化されたアミン化合物やホスフィン化合物などのヨウ化物塩、ヨウ化リチウム、酢酸リチウムなどのリチウム化合物、アルミニウムやクロミウム化合物などのルイス酸性金属化合物が添加される。・・・」

(1-7)甲第7号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第7号証には以下の記載がある。
(7a)「【0070】
実施例6?9
上記の如く、通常、1.5リットルの反応容量で操作する4リットル反応器を備えた連続パイロットプラントを使用して、メタノールをカルボニル化する間の副生成物の生成における水素分圧の影響について詳しく調べた。操作条件及び結果を以下の表2に示す。「カラム残渣不純物」とは、粗な酢酸生成物中の不純物を指し、「H2pp」とは、反応容器中の水素分圧(絶対ポンド/平方インチ:pounds per square inch absolute)を指す。
【0071】
【表2】

以上のように、不純物プロフィールは、反応器中の低水素分圧で向上した。
【0072】
上記実施例はクロトンアルデヒドなどの減少について示したものであるが、ロジウム触媒を使用するカルボニル化系での他の不純物及び副生成物としては、ブタン、ブタノール、酢酸ブチル、ヨウ化ブチル、エタノール、酢酸エチル、ヨウ化エチル、ヨウ化ヘキシル及び高沸点不純物が挙げられることを当業者は理解するだろう。本発明はこれらの不純物の生成も同様に最小化するようである。」

(1-8)甲第8号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第8号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(8a)「メタノールカルボニル化による酢酸製造におけるプロピオン酸含量の制御 」(タイトル)

(8b)「2.3 CH_(3)CH_(2)OHの由来と制御
CH_(3)CH_(2)OHの由来も2つあり、一つは、原料メタノールからの持ち込み、2つ目は酢酸還元による生成。酢酸還元とは、酢酸がH_(2)と反応してCH_(3)CH_(2)OHを生成して、それからCH_(3)CH_(2)OHとCOが反応して、プロピオン酸を生成する。CH_(3)CH_(2)OHが中間体であるため、H_(2)がプロピオン酸含量に対する影響に帰属する。よって、CH_(3)CH_(2)OH由来は主に原料メタノールの持ち込みによるものである。メタノールが自家製であり、メタノールの品質が確保され、毎日厳格的にサンプリングする。品質問題があれば、ポンプで精留系に送れ、100%の優等品の産出までする。メタノールの制御指標が表2を参照する。」(51頁右欄4?13行)

(8c)「

」(51頁右欄表2)

(1-9)甲第9号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第9号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(9a)「メタノール中のエタノール生成の制御」(タイトル)

(9b)「メタノールは特に川下製品の酢酸の製造原料とした場合に、国家規格に満足する以外に、メタノール中のエタノール含量を≦100×10^(-6)にしなければならない。そうならないと酢酸製品に大量のプロピオン酸が生成してしまう。多くの外国メーカー特に大手メーカーは、メタノール中のエタノールの含量を(70?80)×10^(-6)以下と要求する。エタノール生成機構と原因を分析することにより、当社は、メタノール合成及び精留の工程において、有効な措置を採用して制御を行い、メタノール中のエタノール含量を50×10^(-6)以下に低下し、酢酸中のプロピオン酸生成を大きく減少できた。」(21頁左欄8?16行)

(1-10)甲第10号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第10号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(10a)「精製メタノール中のエタノール含量を低下する措置について」
(タイトル)

(10b)「エタノールは精製メタノールの品質にあまり影響しないが、メタノールは川下製品の酢酸の製造原料とした場合に、国家規格GB338-2004または米国AA specを満足する以外に、メタノール中のエタノール含量が100mg/kgを超えない、さらにそれより以下にする必要がある。そうしないと、酢酸などの川下製品に大量の不純物が生成してしまう。外国のメーカー、特に大手メーカーはメタノール中のエタノール含量が30?60mg/kg以下であることを要求している。」(225頁左欄2?9行)

(1-11)甲第11号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第11号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(11a)「メタノール製品中のエタノール含量のスペックについて」(タイトル)

(11b)「例えば、わが国の初営業運転のメタノールカルボニル化による酢酸製造装置において、BP社が要求したメタノール中のエタノール含量が≦100×10^(-6)であることに対して、メタノール工場内部で≦50×10^(-6)を制御することは、比較的に妥当だと思う。メタノール蒸留にとって、正しい設計と細かく注意を払う操作であれば、エナルギー消耗を増えないことと高い収率を保持することの運転状況で達成でき、酢酸製造にとって許容できる。」(53頁左欄14?20行)

(1-12)甲第12号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第12号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(12a)「メタノール生産の四塔精留プロセスの検討」(タイトル)

(12b)「メタノール法による酢酸製造に専用する国産年20万トンメタノール装置の四塔精留プロセスは、二塔精留プロセスの特徴を利用して、更なる改良・改善した先進なものである。メタノールカルボニル化による酢酸製造プロセスにおいて、メタノール中エタノール含量を厳しく要求されて、エタノール質量分数を<0.001%にする。」(21頁左欄1?5行)

(1-13)甲第13号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第13号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(13a)「粗メタノールの精留について」(タイトル)

(13b)「例えば、カルボニル化による酢酸の合成法は、現在世界最先端の酢酸合成法であり、この合成方法の主原料がメタノールと一酸化炭素とであり、この方法において、要求されるメタノール中のエタノール含量が非常に低い(<100ppm。低いほどよい)。それは、エタノールと一酸化炭素とが反応してプロピオン酸の生成による酢酸の品質低下を避けるためである。外国から技術導入のカルボニル化による酢酸合成装置がすでに製造が開始され、もちろんエタノール含有量の低い精製メタノールが要求されている。」(2頁左欄24行?右欄3行)。

(13c)「

」(2頁表2)

(1-14)甲第14号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第14号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(14a)「化学技術百科事典(第4版第16巻)」(タイトル)

(14b)「仕様
メタノール市場は、一般的な製品基準なしで、多くの地方の基準で発展した。一般調達局によるメタノールの政府購入により発展した連邦仕様書O-M-232が、一般的に受け入れられる基準となった。仕様は、グレードAのメタノールの要求は溶媒としての仕様向けであり、グレードAAは水素や二酸化炭素の発生向けであるとした。グレードAAは、主に、エタノール、水、アセトンの含有量の許容量がグレードAとは異なる。ASTM D1152もまたメタノールの基準を提供する。これら3つの仕様をTable3にまとめた。」(554頁9?17行)

(14c)「

」(554頁Table3)

(1-15)甲第15号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第15号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(15a)「IMPCAメタノールの参照仕様」(タイトル)

(15b)「

」(1頁)

(1-16)甲第16号証
電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった電子的技術情報であると認められる甲第16号証には以下の記載がある。

(16a)「高純度ヨウ化水素ガス」(標題)

(16b)「[物理的性質]・・・
ヨウ化水素(HI)は、・・・水に良く溶解し、ヨウ化水素酸と呼ばれる水溶液になります。・・・ヨウ化水素酸は57%で共沸混合物となり、沸点は127℃です。」(左欄下から6行?右欄3行)

(2)甲第1号証に記載された発明
上記摘記事項(1a)には、カルボニル化可能な反応体のカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)を低減および/または除去して、酢酸を含むカルボニル化生成物を製造する方法であって、
(a)カルボニル化生成物を分離して、酢酸を含む蒸気オーバーヘッド流と、より低揮発性の触媒相とを得るステップと、
(b)前記蒸気オーバーヘッド流を蒸留して、精製酢酸生成物と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチルおよび少なくとも1種のPRCを含む低沸点オーバーヘッド蒸気流とを生成するステップと、
(c)前記低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し2相に分離して、凝縮した重液相および凝縮した軽液相を形成するステップと、
(d)前記凝縮した軽液相を単一の蒸留塔内で蒸留して、第2の蒸気相流オーバーヘッドおよびより高沸点の液相残留物を形成するステップであって、前記第2の蒸気相流が、凝縮した軽液相と比較してPRCを多く含むステップと、
(e)前記第2の蒸気相流を凝縮し、水で凝縮流を抽出して、PRCを含む水性アセトアルデヒド流と、ヨウ化メチルを含むラフィネートとを得るステップと、
を含む方法が記載され、請求項の記載に対応した具体的記載として、上記摘記事項(1d)には、メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化反応は、メタノール原料と、ロジウム触媒、ヨウ化メチルプロモーター、酢酸メチルおよび追加の可溶性ヨウ化物塩を含有する酢酸溶媒反応媒体中に気泡化した一酸化炭素の気体とを、カルボニル化生成物の形成に適切な温度および気圧条件下で接触させることにより行われることが記載され、追加のヨウ化物イオンを反応媒体内に維持することによって、所望する反応速度が、低い水濃度でも達成でき、追加のヨウ化物イオンは望ましくはヨウ化物塩であり、中でもヨウ化リチウムが好ましいことが記載され、上記摘記事項(1e)には、液相カルボニル化反応器、フラッシャー、ヨウ化メチル酢酸軽留分塔(「軽留分塔」)14が含まれ、反応器内に生成されたカルボニル化生成物は、フラッシャーに供給され、そこで酢酸を含む揮発性(蒸気)オーバーヘッド流と、揮発性のより低い触媒相(触媒含有溶液)が形成され、酢酸を含む該揮発性オーバーヘッド流は、流れ26から低留分分離塔14へ供給され、そこで蒸留によって側流17から取り出される精製酢酸生成物およびオーバーヘッド蒸留流28(以下「低沸点オーバーヘッド蒸気流」と称す)が生成し、側流17から取り出される酢酸は、水から酢酸を選択分離する乾燥分離塔などで、さらに精製することができること、フラッシャー底面などから再循環した触媒溶液が反応器へ導入されることが記載され、上記酢酸を含む蒸気オーバーヘッド流はまた、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよび水も含むことも記載されている。
また、上記摘記事項(1f)には、PRCを含む低沸点オーバーヘッド蒸気流28に対して、存在するPRCの量を低減および/または除去する追加の処理を行うので、低沸点オーバーヘッド蒸気流28を凝縮し、オーバーヘッド受液デカンター16へと誘導すること、PRCに加え、低沸点オーバーヘッド蒸気流28は通常ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸および水を含有していることが記載されている。
そして、デカンター16内の凝縮軽質相は通常、水、酢酸およびPRCならびにある量のヨウ化メチルおよび酢酸メチルを含み、デカンター16内の凝縮重質相は通常、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよびPRCを含むことが記載されている。
さらに、上記摘記事項(1g)には、凝縮軽液相30は蒸留塔18へ誘導され、そこで第2の蒸気相36を形成し、この第2の蒸気相36は、PRC、特にアセトアルデヒデドを多く含むばかりでなく、ヨウ化メチルをも含有していること、この凝縮相36の一部が、蒸留塔18へ還流として供給されることも記載されている。
また、上記摘記事項(1h)には、蒸留塔18において、第2の蒸気相流36オーバーヘッドおよびより高い沸点の液相残留物の流れ38が形成されることも記載されている。

したがって、甲第1号証には、「カルボニル化可能な反応体のカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)を低減および/または除去して、酢酸を含むカルボニル化生成物を製造する方法であって、
(a)カルボニル化生成物を分離して、酢酸を含む蒸気オーバーヘッド流と、より低揮発性の触媒相とを得るステップと、
(b)前記蒸気オーバーヘッド流を蒸留して、精製酢酸生成物と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチルおよび少なくとも1種のPRCを含む低沸点オーバーヘッド蒸気流とを生成するステップと、
(c)前記低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し2相に分離して、凝縮した重液相および凝縮した軽液相を形成するステップと、
(d)前記凝縮した軽液相を単一の蒸留塔内で蒸留して、第2の蒸気相流オーバーヘッドおよびより高沸点の液相残留物を形成するステップであって、前記第2の蒸気相流が、凝縮した軽液相と比較してPRCを多く含むステップと、
(e)前記第2の蒸気相流を凝縮し、水で凝縮流を抽出して、PRCを含む水性アセトアルデヒド流と、ヨウ化メチルを含むラフィネートとを得るステップと、
を含む方法として、メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化反応は、メタノール原料と、ロジウム触媒、ヨウ化メチルプロモーター、酢酸メチルおよび追加の可溶性ヨウ化物塩を含有する酢酸溶媒反応媒体中に気泡化した一酸化炭素の気体とを、カルボニル化生成物の形成に適切な温度および気圧条件下で接触させることにより行い、液相カルボニル化反応器、フラッシャー、ヨウ化メチル酢酸軽留分塔(「軽留分塔」)14が含まれ、反応器内に生成されたカルボニル化生成物は、フラッシャーに供給され、そこで酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよび水を含む揮発性(蒸気)オーバーヘッド流と、揮発性のより低い触媒相(触媒含有溶液)が形成され、酢酸を含む該揮発性オーバーヘッド流は、流れ26から低留分分離塔14へ供給され、そこで蒸留によって側流17から取り出される精製酢酸生成物およびオーバーヘッド蒸留流28(以下「低沸点オーバーヘッド蒸気流」と称す)が生成し、側流17から取り出される酢酸は、水から酢酸を選択分離する乾燥分離塔で、さらに精製され、フラッシャー底面などから再循環した触媒溶液は反応器へ導入される方法であって、PRCを含む低沸点オーバーヘッド蒸気流28に対して、存在するPRCの量を低減および/または除去する追加の処理を行うため、低沸点オーバーヘッド蒸気流28を凝縮し、オーバーヘッド受液デカンター16へと誘導し、低沸点オーバーヘッド蒸気流28はPRCに加え、ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸および水を含有しており、デカンター16内の凝縮軽質相は、水、酢酸およびPRCならびにある量のヨウ化メチルおよび酢酸メチルを含み、デカンター16内の凝縮重質相は、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよびPRCを含み、凝縮軽液相30は蒸留塔18へ誘導され、そこで第2の蒸気相36及び液相残留物の流れ38を形成し、この第2の蒸気相36は、PRC、特にアセトアルデヒデドを多く含み、かつヨウ化メチルをも含有しており、凝縮相36の一部が、蒸留塔18へ還流として供給される方法」(以下、「引用発明」という。)が開示されているといえる。

(3)対比・判断
(3-1)本件特許発明1について
ア 対比
引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、
引用発明の「カルボニル化可能な反応体のカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)を低減および/または除去して、酢酸を含むカルボニル化生成物を製造する方法」であって、「メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化反応は、メタノール原料と、ロジウム触媒、ヨウ化メチルプロモーター、酢酸メチルおよび追加の可溶性ヨウ化物塩を含有する酢酸溶媒反応媒体中に気泡化した一酸化炭素の気体とを、カルボニル化生成物の形成に適切な温度および気圧条件下で接触させることにより行い、液相カルボニル化反応器」「が含まれ、反応器内に生成されたカルボニル化生成物」を得ている方法は、本件特許発明1の「a.メタノール、酢酸メチル、ジメチルエーテル、又はこれらの混合物、水、ロジウム触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルを含む反応物質供給流を含む反応媒体を反応器中でカルボニル化して酢酸を生成させ」る「方法」に該当する。
また、引用発明の「フラッシャー」「が含まれ、反応器内に生成されたカルボニル化生成物は、フラッシャーに供給され、そこで酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよび水を含む揮発性(蒸気)オーバーヘッド流と、揮発性のより低い触媒相(触媒含有溶液)が形成され、」「フラッシャー底面などから再循環した触媒溶液は反応器へ導入される」ことは、引用発明が、「過マンガン酸還元性化合物(PRC)を低減および/または除去して、酢酸を含むカルボニル化生成物を製造する方法」である以上、揮発性(蒸気)オーバーヘッド流に、過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含んでいることは明らかであるので、本件特許発明1の「当該反応媒体の一部をフラッシャに導入して、酢酸、水、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含む蒸気生成物流と、不揮発性物流とを生成させ、そして当該不揮発性物流を当該反応媒体へ戻すこと」に該当する。
また、引用発明の「(b)前記蒸気オーバーヘッド流を蒸留して、精製酢酸生成物と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチルおよび少なくとも1種のPRCを含む低沸点オーバーヘッド蒸気流とを生成するステップ」が、「ヨウ化メチル酢酸軽留分塔(「軽留分塔」)14が含まれ、」「揮発性オーバーヘッド流は、流れ26から低留分分離塔14へ供給され、そこで蒸留によって側流17から取り出される精製酢酸生成物およびオーバーヘッド蒸留流28(以下「低沸点オーバーヘッド蒸気流」と称す)が生成し、側流17から取り出される酢酸は、水から酢酸を選択分離する乾燥分離塔で、さらに精製され」ることであることは、本件特許発明1の「b.当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を第1の蒸留塔に導入し、当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を当該第1の蒸留塔内で蒸留して、更なる精製を行って生成物酢酸流を生成させる酢酸側部流と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第1のオーバーヘッド流とを得ること」に該当する。
さらに、引用発明の「(c)前記低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し2相に分離して、凝縮した重液相および凝縮した軽液相を形成するステップ」が、「デカンター16内の凝縮軽質相は、水、酢酸およびPRCならびにある量のヨウ化メチルおよび酢酸メチルを含み、デカンター16内の凝縮重質相は、ヨウ化メチル、酢酸メチルおよびPRCを含」むことは、本件特許発明1の「c.」の「該第1のオーバーヘッド流を、ヨウ化メチル、酢酸、酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及び」「水を含む軽質相と、」「酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及びヨウ化メチルを含む重質相とに二相分離すること」に相当する。
また、引用発明の「(d)前記凝縮した軽液相を単一の蒸留塔内で蒸留」することは、蒸留塔内には蒸留域と底部貯留域が形成されるのは明らかであるから、本件特許発明1の「d.」の「該軽質相の一部、該重質相、又はこれらの組み合わせを含むか又はそれに由来する第2の塔供給流を、蒸留域及び底部貯留域を有する第2の蒸留塔に導入すること」に該当する。
また、引用発明の「凝縮軽液相30は蒸留塔18へ誘導され、そこで第2の蒸気相36及び液相残留物の流れ38を形成し、この第2の蒸気相36は、PRC、特にアセトアルデヒデドを多く含み、かつヨウ化メチルをも含有しており」は、本件特許発明1の「ヨウ化メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第2の塔オーバーヘッド流と、」「第2の塔残渣流とを生成させ」「第2の塔供給流を蒸留すること」に相当する。
さらに、引用発明の「凝縮相36の一部が、蒸留塔18へ還流として供給される」ことは、本件特許発明1の「e.」の「頂部フラッシュ流を」「該蒸留域に導入する」ことに相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明とは、「a.メタノール、酢酸メチル、ジメチルエーテル、又はこれらの混合物、水、ロジウム触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルを含む反応物質供給流を含む反応媒体を反応器中でカルボニル化して酢酸を生成させ、当該反応媒体の一部をフラッシャに導入して、酢酸、水、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物(PRC)を含む蒸気生成物流と、不揮発性物流とを生成させ、そして当該不揮発性物流を当該反応媒体へ戻すこと、
b.当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を第1の蒸留塔に導入し、当該フラッシャからの当該蒸気生成物流を当該第1の蒸留塔内で蒸留して、更なる精製を行って生成物酢酸流を生成させる酢酸側部流と、ヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第1のオーバーヘッド流とを得ること、
c.該第1のオーバーヘッド流を、ヨウ化メチル、酢酸、酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及び水を含む軽質相と、酢酸メチル、少なくとも1種のPRC、及びヨウ化メチルを含む重質相とに二相分離すること、
d.該軽質相の一部、該重質相、又はこれらの組み合わせを含むか又はそれに由来する第2の塔供給流を、蒸留域及び底部貯留域を有する第2の蒸留塔に導入すること、
e.頂部フラッシュ流を該蒸留域に導入すること、
f.ヨウ化メチル及び少なくとも1種のPRCを含む第2の塔オーバーヘッド流と、第2の塔残渣流であって該底部貯留域から該第2の塔外に流出し、該第2の塔供給流を蒸留する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:第1のオーバーヘッド流を二相分離した軽質相と重質相の組成について、本件特許発明1は、軽質相の水が30重量%を超えることと、重質相のヨウ化メチルが30重量%を超えることと、重質相が水、酢酸も含むことが特定されているのに対して、引用発明は、そのような軽質相と重質相の成分組成が特定されていない点

相違点2:本件特許発明1は、「水を含む頂部フラッシュ流を該第2の塔供給流の質量流量の0.1%又はそれを超える質量流量で該蒸留域に導入すること」と特定されているのに対して、引用発明は、そのような頂部フラッシュ流の第2の塔供給流の質量流量に対する特定のない点

相違点3:本件特許発明1は、「第2の塔オーバーヘッド流と、第2の塔残渣流であって該底部貯留域から該第2の塔外に流出し、水及び当該第2の塔残渣流の総量に対して10重量%又はそれを下回るHIを含む第2の塔残渣流とを生成させるのに十分な圧力と温度で該第2の塔供給流を蒸留すること」との特定があるのに対して、引用発明においては、第2の塔オーバーヘッド流と第2の塔残渣流に関して、そのような第2の塔供給流を蒸留する圧力と温度条件の水及び第2の塔残渣流の総量に対するHIの割合に基づく特定がなされていない点

相違点4:本件特許発明1は、「第2の蒸留塔から、酢酸メチルを含む第2の塔側部流を生成することを含む方法であって、該第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量は、該蒸留塔に入るHIであって該第2の塔供給流中のHIが存在する場合には、そのHIの量よりも多い」との特定があるのに対して、引用発明においては、第2の蒸留塔から、酢酸メチルを含む第2の塔側部流を生成することの特定や、第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量と第2の蒸留塔に入るHIとの関係の特定がなされていない点

相違点の判断
以下、事案に鑑み相違点3,4について検討する。
(ア)相違点3の判断について
本件特許発明1の「第2の塔残渣流であって該底部貯留域から該第2の塔外に流出し、水及び当該第2の塔残渣流の総量に対して10重量%又はそれを下回るHIを含む第2の塔残渣流とを生成させるのに十分な圧力と温度で該第2の塔供給流を蒸留すること」は、引用発明の方法において、優先日時点での技術常識とはいえず、記載されているに等しい事項ではないので、実質的な相違点であるといえる。

また、甲第1号証には、水及び当該第2の塔残渣流の総量に対して10重量%又はそれを下回るHIを含む第2の塔残渣流とを生成させるのに十分な圧力と温度で該第2の塔供給流を蒸留することに関しては、上述のとおり記載がなく、そのような水及び第2の塔残渣流の総量との関係でHIの割合を特定の範囲にすることに着目し、第2の塔残渣流とを生成させる十分な圧力と温度で蒸留することを特定しなければならない動機付けはない。
したがって、引用発明において、「第2の塔残渣流であって該底部貯留域から該第2の塔外に流出し、水及び当該第2の塔残渣流の総量に対して10重量%又はそれを下回るHIを含む第2の塔残渣流とを生成させるのに十分な圧力と温度で該第2の塔供給流を蒸留すること」を特定することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

特許異議申立人は、特許異議申立書39?40頁において、甲第16号証におけるヨウ化水素酸の共沸混合物組成や沸点の記載や甲第3号証の宣誓書におけるヨウ化メチルと水の反応によりヨウ化水素が生産される反応の平衡式の記載や、当業者の工業上の経験に基づく記載に基づき甲第1号証の液相残留物の流れにおけるHIの濃度に関する主張をしているが、いずれも明らかでない条件によって変化しうるHIの濃度を推測しているにすぎず、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(イ)相違点4の判断について
本件特許発明1の「第2の蒸留塔から、酢酸メチルを含む第2の塔側部流を生成することを含む方法であって、該第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量は、該蒸留塔に入るHIであって該第2の塔供給流中のHIが存在する場合には、そのHIの量よりも多い」ことは、引用発明の方法において、優先日時点での技術常識とはいえず、記載されているに等しい事項ではないので、実質的な相違点であるといえる。

また、甲第1号証には、第2の蒸留塔から、酢酸メチルを含む第2の塔側部流を生成することを含む方法であることや、該第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量は、該蒸留塔に入るHIであって該第2の塔供給流中のHIが存在する場合には、そのHIの量よりも多いことに関しては、上述のとおり記載がなく、そのような第2の塔側部流を生成することを含む方法であることや第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量と第2の塔供給流中のHIの関係に着目して特定しなければならない動機付けはない。
したがって、引用発明において、「第2の蒸留塔から、酢酸メチルを含む第2の塔側部流を生成することを含む方法であって、該第2の蒸留塔から出るHIであって該第2の塔オーバーヘッド流、該第2の塔側部流、及び該第2の塔残渣流中のHIの総量は、該蒸留塔に入るHIであって該第2の塔供給流中のHIが存在する場合には、そのHIの量よりも多い」を特定することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

特許異議申立人は、特許異議申立書40?41頁において、甲第1号証の表2とヨウ化メチルと水の反応によりヨウ化水素が生産される反応の平衡式の記載から蒸留塔18内でヨウ化水素が生成して濃度が高くなる旨主張をしているが、いずれも明らかでない条件によって変化しうるHIの濃度の変化を推測しているにすぎず、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(ウ)効果について
本件特許発明1は、【0037】【0084】【0089】【0098】【0104】【0122】の記載からみて、蒸留塔内でのHIの量を低減及び制御してDMEを有用成分として生成するとともに、蒸留塔の腐食も抑えるという効果を奏しているといえる。
甲第1号証に記載の発明においては、PRC成分、特にアセトアルデヒドの除去が重要であるとの認識であり、本件特許発明1で特定された質量流量や蒸留条件やHIの量の特定に関する認識や蒸留塔内でのHIの量を低減及び制御してDMEを有用成分として生成することに関する着目がされていないのであるから、本件特許発明1の上記効果は当業者の予測を超える顕著なものといえる。

ウ 小括
本件特許発明1は、その他の相違点について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-2)本件特許発明2?6,13?15について
本件特許発明2?6,13?15は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、さらに技術的に限定した発明であり、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-3)本件特許発明7?9について
本件特許発明7?9は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、さらに技術的に限定した発明であり、リチウム化合物を反応媒体に導入して、反応媒体中の酢酸リチウムの濃度を特定範囲に維持することを特定としてさらに含む発明である。
酢酸の製造方法における反応促進剤としてリチウム化合物が使用できることが、甲第6号証に記載されているものの、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明7?9は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-4)本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、さらに技術的に限定した発明であり、酢酸生成物流中の酢酸ブチル濃度を一定以下に制御すること及びその制御パラメータを特定としてさらに含む発明である。
酢酸の製造方法において、水素分圧、反応温度の特定条件で、酢酸ブチル等の不純物が減少したことが、甲第7号証に記載されているものの、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明10は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-5)本件特許発明11,12について
本件特許発明11は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、さらに技術的に限定した発明であり、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を一定濃度以下に制御することと酢酸生成物流からプロピオン酸を直接除去しなくともプロピオン酸を一定未満であることを特定としてさらに含む発明である。
酢酸の製造方法において、反応生成液中のヨウ化エチルの濃度や製品酢酸性状としてのプロピオン酸の濃度の例が甲第4号証に記載されているものの、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明11は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。
また、本件特許発明12は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、本件特許発明11を直接引用して、さらに技術的に限定した発明であり、反応媒体中のヨウ化エチルと酢酸生成物中のプロピオン酸の重量比や反応器に導入されるメタノールが150wppm未満のエタノールを含んでいること等を特定としてさらに含む発明である。
酢酸の製造方法において、反応生成液中のヨウ化エチルの濃度や製品酢酸性状としてのプロピオン酸の濃度の例が甲第4号証に記載され、酢酸の製造にあたり原料として要求されるメタノール中のエタノール含有量が100ppm以下であることが甲第8号証?甲第15号証に示されているものの、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明12は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-6)本件特許発明16について
本件特許発明16は、前記第2のとおり、本件特許発明1において、「方法」が「酢酸の製造方法」である特定事項を追加したものであるが、本件特許発明1においても「反応媒体を反応器中でカルボニル化して酢酸を生成させ」る「方法」であることは特定されているため両者は実質的に異なるものとはいえず、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明16は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?16号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(4)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、本件請求項1?16に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-08 
出願番号 特願2017-551591(P2017-551591)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C07C)
P 1 651・ 121- Y (C07C)
P 1 651・ 113- Y (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 冨永 保
瀬良 聡機
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6355860号(P6355860)
権利者 セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション
発明の名称 残渣流中のHI濃度を制御する方法  
代理人 梶田 剛  
代理人 横田 晃一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ