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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1353441
審判番号 不服2018-7861  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-06 
確定日 2019-07-12 
事件の表示 特願2016- 27458「自立型セキュリティ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月24日出願公開、特開2017-147309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成28年2月16日の出願であって、平成29年11月22日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年1月22日に手続補正がされ、同年3月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正がされたものである。

そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年6月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
設置場所における設置工事を不要とした、各種緊急対応のための機器類を収容する自立型の移動可能なハウジングを備え、該ハウジングにはハウジング内部の温度調節、防水、調湿または防塵を可能とする機器類を備えるとともに、前記ハウジング内には温度調節、防水、調湿または防塵機能を有しない各種緊急対応のための機器類を収納可能とした自立型セキュリティ装置であって、前記各種緊急対応のための機器類は、種々の情報を表示するためのサイネージ機器、顔認証や監視のために使用する撮像カメラ、音楽や音声案内を流す音響機器を含み、前記機器を収容する自立型の移動可能なハウジングは、前記顔認証や監視のために使用する撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための映像機器、ルータ等を含む通信機器、ハウジング内外の温度・湿度・気圧・風速等の各種の気象情報を測定するための百葉箱に類似した測定機器類、パンフレット受け、および\または広告貼付部材を設置可能としたことを特徴とする自立型セキュリティ装置。」

おな、本願発明は、平成30年6月6日付け手続補正による補正前の請求項1を補正前の請求項2及び5の構成で限定したものであって、実質的に補正前の請求項5に相当するものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された、特開2015-14992号公報(以下「引用例1」という。)には、次の記載がある。

a.「【0001】
本発明は、1つのハウジング内に種々のセキュリティ手段を搭載したスタンドアローン型セキュリティ装置に関するものである。」(下線は、当審で付与。以下、同様。)

b.「【0013】
図1は本発明の1実施例の概略図、図2はその概念図である。
すなわち、本発明のスタンドアローン型セキュリティ装置10は、機器を収容するスタンドアローン型のハウジング11を備えている。このようにスタンドアローン型とすることにより、設置場所の環境の変化、例えば建築物の取り壊しや電柱、自動販売機等の配置換え等の際にも何ら影響を受けることがない。
【0014】
前記ハウジング11は、その内部に下記の入力手段や出力手段を制御するためのコントローラ21および充電器22が設置してあり、該コントローラ21には緊急通報ボタン23、対人・対物センサ24、監視カメラ25、集音器26や集音マイク27を含む入力手段(I)と、点滅灯31や回転灯32、スポットライトを含む警告灯33、警報音や言語による警告を発するスピーカ34、画像表示部35を含む出力手段(O)とが接続されている。
【0015】
例えば、入力手段(I)を構成する前記対人・対物センサ24は、人や動物と、木や葉の動きとを識別する機能を持つものであることが望ましい。前記監視カメラ25は、前記緊急通報ボタン23の操作により起動する。また、携帯電話やスマートフォン(多機能型携帯電話)、PDA等で前記監視カメラ25の映像確認のみならず、前記監視カメラ25そのものの操作をも行えるようにすることができる。
【0016】
また、出力手段(O)を構成する点滅灯31や回転灯32、スポットライトを含む警告灯33は前記緊急通報ボタン23によって、また前記対人・対物センサ24が人や動物を感知したことによって起動する。
前記集音器26や集音マイク27、警報音や言語による警告を発するスピーカ34は、契約した警備会社等とオンラインで、また警察や病院等の指定先と双方向で通話(会話)ができるように回線を接続しておくことが望ましい。警報音や言語による警告を発するスピーカ34には、あらかじめ警告や動物に嫌がる音声を登録しておき、必要に応じて警告を発するようにしておけばよい。
前記画像表示部35には、あらかじめ指定先名ボードを貼付しておくほか、液晶やプラズマ、有機EL等の基材を用いて文字や動画を表示することができる。そのような文字や動画は警備会社等と契約しておき、適宜の表示内容をオンラインで表示させることができる。」

c.「【0020】
本発明のスタンドアローン型セキュリティ装置10において、前記機器を収容するスタンドアローン型のハウジング11は、その基台11cの下面にキャスタ42等の移動手段が取り付けられている。
したがって、本発明のスタンドアローン型セキュリティ装置10は設置を希望する適宜位置に簡単に移動させることができ、もちろんその設置には何ら設置工事等の手間を要しない。」

d.「【0021】
本発明は1つのハウジング内に種々のセキュリティ手段を搭載したスタンドアローン型セキュリティ装置であるため、監視を必要とする事業所や公共機関、学校等の教育機関の屋内、屋外に配置することができ、該当場所で移動させるのみで設置が完了する。
設置できる例を挙げると以下の通りである。
1)土木建設現場、仮設事務所、資材置場
2)住宅建設中現場
3)駐車場、駐輪場、カーショップ
4)墓石等石材店、コンクリートブロック工場
5)オープン倉庫
6)製材所
7)農協、農家、収穫前畑、ビニールハウス
8)漁協、漁港、停泊中漁船、船舶
9)長期留守宅
10)一戸建住宅
11)終業後、休日のガソリンスタンド
12)開催前イベント会場
13)公園、動物園、釣り堀
14)園芸センター
15)ホームセンター外部展示場
16)学校等の窓ガラスを割る事件に対応
17)公民館
18)競技場、球場
19)神社、寺
20)スクールゾーン
21)美術館、博物館、展示場
22)その他 施設内外立ち入り禁止スペース
もちろん、その他適宜の用途に利用することができる。
【0022】
さらに、自動販売機や道路の近傍に設置されている各種の機器に並べて配置するだけで、自動販売機等の各種の機器の防犯用のみならず、道路上で発生する事故や各種の犯罪の監視にも利用することができる。」

これら引用例の記載及び関連する図面から、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「スタンドアローン型セキュリティ装置10は、機器を収容するスタンドアローン型のハウジング11を備え、
前記ハウジング11は、その内部に下記の入力手段や出力手段を制御するためのコントローラ21が設置してあり、
該コントローラ21には緊急通報ボタン23、監視カメラ25、を含む入力手段(I)と、警報音や言語による警告を発するスピーカ34、画像表示部35を含む出力手段(O)とが接続され、
前記監視カメラ25は、前記緊急通報ボタン23の操作により起動し、
前記警報音や言語による警告を発するスピーカ34は、契約した警備会社等とオンラインで、また警察や病院等の指定先と双方向で通話(会話)ができるように回線を接続しておくことが望ましく、警報音や言語による警告を発するスピーカ34には、あらかじめ警告や動物に嫌がる音声を登録しておき、必要に応じて警告を発するようにし、
前記画像表示部35には、液晶やプラズマ、有機EL等の基材を用いて文字や動画を表示することができ、そのような文字や動画は警備会社等と契約しておき、適宜の表示内容をオンラインで表示させ、
前記機器を収容するスタンドアローン型のハウジング11は、その基台11cの下面にキャスタ42等の移動手段が取り付けられ、設置を希望する適宜位置に簡単に移動させることができ、もちろんその設置には何ら設置工事等の手間を要しない、
1つのハウジング内に種々のセキュリティ手段を搭載したスタンドアローン型セキュリティ装置。」

原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された、特開2006-323522号公報(以下「引用例2」という。)には、次の記載がある。

e.「【0001】
本発明は、耐環境型ターミナル及び耐環境型情報管理システムに係り、特に多湿・粉塵環境下に好適な耐環境型ターミナル及び耐環境型情報管理システムに関する。」

f.「【0037】
図1には、本発明の一実施形態に係る耐環境型情報管理システム10の構成が示されている。本実施形態では、一例として、食品工場50に耐環境型情報管理システム10を適用した場合を説明する。
【0038】
食品工場50には、複数の加工現場52が設けられており、各加工現場52には、耐環境型ターミナル12(情報端末)が配置されている。この耐環境型ターミナル12は、各加工現場52において、加工履歴を調べたり、生産数などの進捗状況をまとめたりするのに使用される。
【0039】
耐環境型ターミナル12は、図2に示されるように、情報処理コンピュータ16を有して構成されており、この情報処理コンピュータ16は、収容ケース18に密閉状態で収容されている。収容ケース18は、防湿・防滴(必要に応じて防水も含む)・防塵構造・電磁波遮蔽構造となっており(保護等級IP-43適合)、鉄製でパネル表面に防カビ焼付け塗装が施されている。
【0040】
収容ケース18には、不図示の防水スイッチが設けられており、この防水スイッチを押操作すると、耐環境型ターミナル12全体が起動するようになっている。
【0041】
また、収容ケース18内には、温度調節装置20が備えられており、この温度調節装置20によって収容ケース18内が情報処理コンピュータ16の動作可能な温度に調節されるようになっている。」

g.「【0053】
そして、収容ケース18の上部には、ディスプレイ22(LCD)が設けられており、このディスプレイ22には、情報処理コンピュータ16で処理された情報の内容が表示されるようになっている。本実施形態では、ディスプレイ22が、防湿性、防滴性、防水性、防塵性を有するようにケースで覆われている。

・・・(中略)・・・

【0062】
そして、各耐環境型ターミナル12に設けられた情報処理コンピュータ16と、事務管理部門に設けられたサーバ13には、無線LANのための送受信部28が設けられており、情報処理コンピュータ16は、通信手段としての無線LAN及びサーバ13を介して管理コンピュータ14と通信可能となっている。これにより、耐環境型ターミナル12は、管理コンピュータ14から送信された情報を受信してディスプレイ22に表示し、管理コンピュータ14は、情報処理コンピュータ16から送信された情報を受信して記憶するように構成されている。

・・・(中略)・・・

【0071】
さらに、ディスプレイ22には、テレビ電話、顔認識によるID情報入力用のカメラ46,47が設けられており、ディスプレイ22の下方には、スピーカ44とマイク48が設けられている。」

h.「【0074】
また、本実施形態では、耐環境型ターミナル12が現場における情報収集端末として使用されるように説明したが、本実施形態の耐環境型ターミナル12が操作者に対して通信手段(電話、IP電話、テレビ電話等)を提供する機能を有していても良い。さらに、携帯電話、PHS、IP携帯電話等の基地局としても良い。
【0075】
そして、本実施形態の耐環境型ターミナル12は、キャスター40により移動可能な自立型となっている。また、収容ケース18内には、除湿材及び調湿材の少なくともいずれかによる空気質調節材42が配置されている。この空気質調節材42とは、水分もしくは電子デバイス等の作動に有害なガスの少なくともいずれか一方を吸着などすることにより、収納ケース18内の濃度を低減する作用を有するもので、例えば、ゼオライト、活性炭など吸放湿材もしくは吸湿材を薄板状に収容ケース18内に設けることで、水分のバッファとなり、一時的な湿度上昇を緩和するものである。例えば、活性炭、グラフト重合高分子体などのガス吸着材料を薄板状に収容ケース18内に設けることで、有害ガスのバッファとなり、一時的なガス濃度上昇を緩和させることができる。
【0076】
次に、本実施形態に係る耐環境型情報管理システム10の作用及び効果について説明する。
【0077】
本実施形態に係る耐環境型ターミナル12では、情報処理コンピュータ16自体を密閉構造とするのではなく、情報処理コンピュータ16を収容ケース18に密閉状態で収容している。従って、情報処理コンピュータ16自体には、密閉構造が不要であるため、情報処理コンピュータ16には、密閉構造を有しない通常の市販のものを用いることができる。これにより、定期的に情報処理コンピュータ16の買い替え、機種交換等を行う必要が生じても、情報処理コンピュータ16の購入価格を低く抑えることができるので、耐環境型情報管理システム10の運営コストを低減できる。」

i.「【0098】
上記実施形態では、ディスプレイ22が収容ケース18の上部に設けられていたが、ディスプレイ22は、収容ケース18内に収容されていても良い。このとき、図4に示される耐環境型ターミナル54のように、収容ケース18には、ディスプレイ22が配置された位置にディスプレイ22を外部から視認可能とする窓部56が設けられ、窓部56は、収容ケース18の密閉状態を維持するように構成されていても良い。
【0099】
このように構成されていると、ディスプレイ22についても、密閉構造を有しない通常の市販のものを用いることができる。また、ディスプレイ22を収容ケース18で密閉することにより、ディスプレイ22についても多湿・粉塵環境下で動作させることが可能となる。さらに、収容ケース18内は、上述の如く、温度調節装置20によって情報処理コンピュータ16の動作可能な温度に調節される。従って、情報処理コンピュータ16と同様に、ディスプレイ22の誤作動及び故障も防止できる。」

これら引用例の記載及び関連する図面から、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「多湿・粉塵環境下に好適な耐環境型ターミナルであり、
耐環境型ターミナル12は、情報処理コンピュータ16を有して構成されており、この情報処理コンピュータ16は、収容ケース18に密閉状態で収容され、
収容ケース18の上部には、ディスプレイ22(LCD)が設けられており、このディスプレイ22には、情報処理コンピュータ16で処理された情報の内容が表示され、
ディスプレイ22が、防湿性、防滴性、防水性、防塵性を有するようにケースで覆われ、
さらに、ディスプレイ22には、テレビ電話、顔認識によるID情報入力用のカメラ46,47が設けられており、ディスプレイ22の下方には、スピーカ44が設けられ、
耐環境型ターミナル12は、キャスター40により移動可能な自立型となっている、耐環境型ターミナルにおいて、
収容ケース18は、防湿・防滴(必要に応じて防水も含む)・防塵構造・電磁波遮蔽構造となっており、
収容ケース18内には、温度調節装置20が備えられ、
また、収容ケース18内には、除湿材及び調湿材の少なくともいずれかによる空気質調節材42が配置されることにより、
耐環境型ターミナル12では、情報処理コンピュータ16自体を密閉構造とするのではなく、情報処理コンピュータ16を収容ケース18に密閉状態で収容し、情報処理コンピュータ16自体には、密閉構造が不要であるため、情報処理コンピュータ16には、密閉構造を有しない通常の市販のものを用いることができ、
ディスプレイ22は、収容ケース18内に収容されていても良く、ディスプレイ22についても、密閉構造を有しない通常の市販のものを用いることができる
多湿・粉塵環境下に好適な耐環境型ターミナル。」

原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された、特開2008-243095号公報(以下「引用例3」という。)には、次の記載がある。

j.「【0001】
この発明は、人の顔を検出する顔検出システム、および顔検出方法に係り、例えば、デパートやスーパーなどに入店する歩行者の顔を検出する顔検出システム、および顔検出方法に関する。」

k.「【0011】
システム1は、例えば、デパートやスーパーなどの店舗の入口2の近くに設置されたカメラ3(撮影装置)、顔照合端末4、およびディスプレイ5(表示装置)を含む。この他に、システム1は、ディスプレイ5で表示する画像を保持した顔照合サーバー6を含む。
【0012】
カメラ3は、店舗入口2に向かって通路を歩く歩行者Pからは見えない位置に設置されている。また、ディスプレイ5は、店舗入口2に近付いた歩行者Pがカメラ3に顔を向ける方向に設置されている。言い換えると、ディスプレイ5は、ディスプレイ5を見た歩行者Pがカメラ3の方向を向く位置に設置されている。なお、ここでは、カメラ3とディスプレイ5を別々に設置した例を示してあるが、カメラ3を一体に備えたディスプレイ5を用いても良い。」

l.「【0019】
また、このシステム1では、歩行者Pがディスプレイ5を介して表示されている画像に飽きないように、常に新しい画像(歩行者が注目を集めるであろう画像)を用意して顔照合サーバー6に登録し、顔検出率(顔照合率)の低い画像と取り替えて更新するようにしている。なお、ディスプレイ5を介して表示する画像には、例えば、その日の天気予報や特売品の広告などが考えられるが、店舗入口2に向かう歩行者Pに対する注目度の高い画像であればいかなる画像であっても良い。
【0020】
図2には、上記システム1のブロック図を示してある。ここで、図2を参照して、システム1の構成をより詳細に説明する。
カメラ3およびディスプレイ5を接続した顔照合端末4には、この他に、店舗入口2に向けて移動する歩行者Pを検知するための人感センサ7が接続されている。また、顔照合端末4は、当該店舗を利用する利用客、すなわち、当該システム1を利用する人物の顔画像、性別、年齢などの属性情報を会員情報として予め登録するためのキーボードやポインティングデバイスなどの入力装置11、この入力装置11を介して入力された会員の属性情報をデータベース12に書き込む書き込み装置13、カメラ3を介して撮影した人物の画像を処理して顔の領域を検出して顔の特徴を検出するとともに、周知の顔照合技術を用いて検出した顔画像をデータベース12にある顔画像と照合する画像処理装置14、および顔照合サーバー6との間で各種データを送受信するための通信装置15を有する。データベース12には、上述した属性情報の他に、当該店舗に対して好ましくない人物の属性情報を記憶したブラックリストが格納されている。なお、画像処理装置14は、この発明の顔検出装置および顔照合装置として機能する。」

これら引用例の記載及び関連する図面から、引用例3には次の技術事項が記載されているものと認められる。

「カメラ3を介して撮影した人物の画像を処理して顔の領域を検出して顔の特徴を検出するとともに、周知の顔照合技術を用いて検出した顔画像をデータベース12にある顔画像と照合する画像処理装置14を有し、データベース12には、好ましくない人物の属性情報を記憶したブラックリストが格納されているシステムにおいて、ディスプレイ5は、ディスプレイ5を見た歩行者Pがカメラ3の方向を向く位置に設置すること」

本願の出願日前に頒布された、特開平11-167680号公報(以下「引用例4」という。)には、次の記載がある。

m.「【0001】
【技術分野】本発明は,スーパーマーケット,コンビニエンスストア等の各種店舗,各種自動販売機,キャッシュディスペンサー等に設置する防犯装置システムに関する。」

n.「【0053】実施形態例4
本例は図6,図7に示すごとく,本発明にかかる防犯装置システム1を設けた自動販売機について説明する。図6(b)に示すごとく,自動販売機6は,本体部60とその内部に設けた集金部66,商品受取口69及び商品保管庫68とこれらを制御する回路部67とよりなる。また,上記回路部67には後述する感圧センサ640からの信号を基に投影器12を制御する制御装置64が設けてある。
【0054】図6(a)に示すごとく,上記自動販売機6の上部にはタッチパネル62が嵌め込まれ,該タッチパネル62の背面側には防犯装置システム1におけるホログラムスクリーン11が設けてある。なお,タッチパネル62とホログラムスクリーン11とは実施形態例3と同様の機能を有し,自動販売機6における商品選択メニューとして機能する。
【0055】そして,図6(b)に示すごとく,防犯装置システム1における投影器12,監視装置13は本体部60の内部に設けてある。投影器12からの映像光はホログラムスクリーン11に照射される。また,自動販売機6の正面には板状の感圧センサ640が設けてあり,客8が自動販売機6の正面に到来したこと,あるいは離脱したことを検知するよう構成されている。その他は実施形態例1と同様である。また,本例にかかる自動販売機6の作動の機構は,実施形態例3にかかるキャッシュディスペンサーと同様である。
【0056】本例にかかる自動販売機6においては,監視装置13が客8及び自動販売機6の周囲の人間より完全に隠蔽されることとなる。このため,客8の心象を損なうことなく充分な監視を行うことができる。また,図6(b)に示すごとく,監視装置13を客8の真正面に設けることが可能となるため,客8の接写が可能となり,不審人物等の確認が非常に容易となる。また,監視映像も鮮明なものを得ることができる。
【0057】更に,ホログラムスクリーン11と投影器12とを組合わせることにより,フルカラーの動画等が表示された美しいメニュー画面を容易に構築することができるため,見栄がよく広告効果を持った自動販売機6を得ることができる。
【0058】更に,本例にかかる自動販売機6においては監視装置13を隠すために上記ホログラムスクリーン11に常時映像が表示されている。このため,通行人の注意や関心を引き易く,つまり自動販売機6は高い集客効果を得ることができる。その他は実施形態例1と同様の作用効果を有する。」

これら引用例の記載及び関連する図面から、引用例4には次の技術事項が記載されているものと認められる。

「自動販売機6の上部にはタッチパネル62が嵌め込まれ、該タッチパネル62の背面側には防犯装置システム1におけるホログラムスクリーン11が設けてあり、タッチパネル62とホログラムスクリーン11とは自動販売機6における商品選択メニューとして機能し、防犯装置システム1における投影器12、監視装置13は本体部60の内部に設け、監視装置13が客8及び自動販売機6の周囲の人間より完全に隠蔽され、このため、客8の心象を損なうことなく充分な監視を行うことができ、監視装置13を客8の真正面に設けることが可能となるため,客8の接写が可能となり、不審人物等の確認が非常に容易となり、また、監視映像も鮮明なものを得ることができること」

本願の出願日前に頒布された、登録実用新案第3151781号公報(以下「引用例5」という。)には、次の記載がある。

o.「【0001】
本考案は、従来よりある街角に設置された広告板や町内案内板でなく、太陽光発電装置を装着したモバイルパネルで、該パネルにインターネットを利用した映像表示モニター及び装置機器を装着して、無線により地域情報や広告情報を受信して表示をし、その他に照明器具を用いて夜間の防犯灯とし、地域住民に利便を与え、且つ、広告宣伝をして収益を図るものである。」

p.「【0004】
上記課題を解決するために、本考案のモバイルパネルは、パネル上部に太陽光発電装置を装着させ、該パネルにインターネットを利用したウェブカメラ付映像表示モニターを併設し、該モニター等を稼働さすために携帯電話機能機器やパーソナルコンピューター機器等の情報受信装置を内蔵させ、該モニターに広告を表示して広告宣伝をする他にウェブカメラで防犯の効果を高め、更に、外壁を透明性の高いプラスティック板等を併設して内側に照明機器を装設して夜間の防犯灯とし、又、モニター以外の部分に差し替え自在の広告板を併設してより広告効果を高めたモバイルパネルとする。
【考案の効果】
【0005】
本考案の効果は、該パネルを防犯灯として、又、ウェブカメラを使用して防犯効果を高め、広告を映像受信して該モニターに広告宣伝をし、別に外周部分を差し替え自在の広告板として使用し広告効果を高め、更に太陽光発電装置により通常電気を節電する効果を持つモバイルパネルである。」

これら引用例の記載及び関連する図面から、引用例5には次の技術事項が記載されているものと認められる。

「モバイルパネルにインターネットを利用したウェブカメラ付映像表示モニターを併設し、該モニターに広告を表示して広告宣伝をする他にウェブカメラで防犯の効果を高めること」

よって、上記引用例3?5に記載された技術事項によれば、「各種防犯装置において、カメラに顔が向くようにするために映像機器を設けること」は本願出願前周知技術であるといえる。

3.対比
本願発明と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
(1)引用発明1の「スタンドアローン型セキュリティ装置10」は、「その設置には何ら設置工事等の手間を要しない」ものであるから、設置場所における設置工事を不要としたものである。
引用発明1の「スタンドアローン型セキュリティ装置10」は、「機器を収容するスタンドアローン型のハウジング11を備え」、「ハウジング11」内部に「緊急通報ボタン23、監視カメラ25、を含む入力手段(I)と、警報音や言語による警告を発するスピーカ34、画像表示部35を含む出力手段(O)とが接続され」た「コントローラ21が設置」してあるから、各種緊急対応のための機器類を収容するハウジングを備えるものといえる。
引用発明1の「スタンドアローン型セキュリティ装置10」は、「機器を収容するスタンドアローン型のハウジング11を備え」、「ハウジング11は、その基台11cの下面にキャスタ42等の移動手段が取り付けられ、設置を希望する適宜位置に簡単に移動させることができ」るから、自立型の移動可能なハウジングを備えるものといえる。
したがって、引用発明1の「スタンドアローン型セキュリティ装置10」と本願発明の「自立型セキュリティ装置」とは、「設置場所における設置工事を不要とした、各種緊急対応のための機器類を収容する自立型の移動可能なハウジングを備え、前記ハウジング内には各種緊急対応のための機器類を収納可能とした自立型セキュリティ装置」である点で共通するといえる。
ただし、本願発明は、「ハウジングにはハウジング内部の温度調節、防水、調湿または防塵を可能とする機器類を備えるとともに、前記ハウジング内には温度調節、防水、調湿または防塵機能を有しない各種緊急対応のための機器類を収納可能とした」ものであるのに対し、引用発明1は、「ハウジング内部の温度調節、防水、調湿または防塵を可能とする機器類」を備えるものではなく、ハウジング内部に設置される監視カメラ25、警報音や言語による警告を発するスピーカ34、画像表示部35等が「温度調節、防水、調湿または防塵機能を有しない」ものであると特定されていない点で相違する。

(2)引用発明1の「画像表示部35」は、「液晶やプラズマ、有機EL等の基材を用いて文字や動画を表示する」ものであるから、本願発明の「種々の情報を表示するためのサイネージ機器」に相当する。
引用発明1の「監視カメラ25」は、本願発明の「顔認証や監視のために使用する撮像カメラ」に相当する。
引用発明1の「警報音や言語による警告を発するスピーカ34」は、本願発明の「音楽や音声案内を流す音響機器」に相当する。
したがって、引用発明1の「ハウジング11は、その内部に下記の入力手段や出力手段を制御するためのコントローラ21が設置してあり、該コントローラ21には緊急通報ボタン23、監視カメラ25、を含む入力手段(I)と、警報音や言語による警告を発するスピーカ34、画像表示部35を含む出力手段(O)とが接続され」ることは、本願発明の「前記各種緊急対応のための機器類は、種々の情報を表示するためのサイネージ機器、顔認証や監視のために使用する撮像カメラ、音楽や音声案内を流す音響機器を含」むことに相当する。

(3)本願発明は、「前記機器を収容する自立型の移動可能なハウジングは、前記顔認証や監視のために使用する撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための映像機器、ルータ等を含む通信機器、ハウジング内外の温度・湿度・気圧・風速等の各種の気象情報を測定するための百葉箱に類似した測定機器類、パンフレット受け、および\または広告貼付部材を設置可能とした」ものであるのに対し、引用発明1は、そのような構成を有するものではない点で相違する。


したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。

〈一致点〉
「設置場所における設置工事を不要とした、各種緊急対応のための機器類を収容する自立型の移動可能なハウジングを備え、前記ハウジング内には各種緊急対応のための機器類を収納可能とした自立型セキュリティ装置であって、前記各種緊急対応のための機器類は、種々の情報を表示するためのサイネージ機器、顔認証や監視のために使用する撮像カメラ、音楽や音声案内を流す音響機器を含む自立型セキュリティ装置。」

〈相違点1〉
本願発明は、「ハウジングにはハウジング内部の温度調節、防水、調湿または防塵を可能とする機器類を備えるとともに、前記ハウジング内には温度調節、防水、調湿または防塵機能を有しない各種緊急対応のための機器類を収納可能とした」ものであるのに対し、引用発明1は、「ハウジング内部の温度調節、防水、調湿または防塵を可能とする機器類」を備えるものではなく、ハウジング内部に設置される監視カメラ25、警報音や言語による警告を発するスピーカ34、画像表示部35等が「温度調節、防水、調湿または防塵機能を有しない」ものであると特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明のハウジングは、「前記顔認証や監視のために使用する撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための映像機器、ルータ等を含む通信機器、ハウジング内外の温度・湿度・気圧・風速等の各種の気象情報を測定するための百葉箱に類似した測定機器類、パンフレット受け、および\または広告貼付部材を設置可能とした」ものであるのに対し、引用発明1のハウジングは、その旨の特定がされていない点。

4.判断
〈相違点1〉について
以下の事情を勘案すると、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
(1)引用発明1は、「ハウジング11」内部に「コントローラ21」等を設置し、「キャスタ42」等の移動手段が取り付けられた、「スタンドアローン型」情報処理端末ともいい得るものであり、引用発明2は、「収容ケース18」に「情報処理コンピュータ16」等を収容し、「キャスター40により移動可能な自立型」の「耐環境型ターミナル」であるから、引用発明1と引用発明2とは共に、移動可能な自立型の情報処理端末という共通の技術分野に関するものである。
そして、引用発明2の「収納ケース18」は、「情報処理コンピュータ16」、「ディスプレイ22」を収納するものであるから、引用発明1の「ハウジング11」に相当するものである。
(2)屋外で使用される機器に防水、防塵等の機能を持たせることは、当業者が当然に検討する事項であることを考慮すれば、引用例1の段落【0021】-【0022】(上記摘記事項「d.」参照)に記載されるように、道路上等の屋外に設置することも想定されたものである引用発明1に、引用発明2で採用されているような、情報処理コンピュータ等を収納する収納ケースを防湿・防滴・防塵構造とし、収納ケース内に、温度調節装置、除湿剤及び調湿材による空気質調節材を備え、情報処理コンピュータ等には密閉構造を有しない通常の市販のものを用いる構成が有用かつ採用可能であることは、当業者に明らかである。また、引用発明1において、そのような構成を採用することを妨げる事情はない。
(3)以上のことは、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の構成を採用することが、当業者にとって容易であったことを意味している。

〈相違点2〉について
一般に、「A、B、および\またはC」との記載は、「A、B、Cの少なくともいずれか1つ」の構成を有することを表しているものであるから、本願発明の上記相違点2に係る構成は、ハウジングを、「映像機器」、「通信機器」、「測定機器類」、「パンフレット受け」、「広告添付部材」の少なくともいずれか1つを設置可能としたものと解釈できる。
そうすると、上記「2.引用例」の欄に記載したように、各種防犯装置において、カメラに顔が向くようにするために映像機器を設けることは、本願出願前周知技術であり、「スタンドアローン型セキュリティ装置10」である引用発明1に上記周知技術を適用し、引用発明1の「ハウジング11」を「監視カメラ25」に顔が向くようにするための映像機器を設置可能なものとして、上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明1、引用発明2及び上記周知技術から当業者が予測し得ない格別顕著なものであるとも認められない。

ここで、請求人は、審判請求の理由において、
「2)しかしながら、引用文献1に記載の発明において、『「撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするため」の構成を適用することは、周知技術の単なる付加であって、当該周知技術が本来備えている効果を上回る格別の効果を奏することではないから、当業者が容易になし得ることである。』との指摘は本願発明には該当していません。
すなわち、本願発明は「設置場所における設置工事を不要とした、各種緊急対応のための機器類を収容する自立型の移動可能なハウジングを備え、該ハウジングにはハウジング内部の温度調節、防水、調湿または防塵を可能とする機器類を備えるとともに、前記ハウジング内には温度調節、防水、調湿または防塵機能を有しない各種緊急対応のための機器類を収納可能とした自立型セキュリティ装置」に関するものであって、そのようなハウジング内に「撮像カメラおよび撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための構成を適用する」ことについては何も示されていません。
3)しかも、前記ハウジング内に「撮像カメラおよび撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための構成を適用する」ことにより、以下のような顕著な作用効果を奏するのであります。
a.自立型の移動可能なハウジング内に、撮像カメラおよび撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための構成を適用したことにより、撮像カメラのカモフラージュや撮像カメラに顔が向くようにするための構成が一段と目立たなくなり、よりカモフラージュや顔を向かせる機能が向上した。
b.温度調節、防水、調湿または防塵機能を備えた自立型の移動可能なハウジング内に、撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための構成を撮像カメラとともに適用したことにより、撮像カメラ等の設置が極めて簡単に行うことができるようになり、しかも長期間メンテナンスが不要で、より撮像精度の高い画像データを得ることができるようになった。
c.温度調節、防水、調湿または防塵機能を備えた自立型の移動可能なハウジング内に、撮像カメラを設置するようにしたことにより、撮像カメラ等の設置が極めて簡単に行うことができるようになり、しかも通常スペックの撮像カメラが使用可能であるため、低コストでより撮像精度の高い画像データを得ることができるようになった。」
旨主張している。
しかしながら、上述したように、各種防犯装置において、カメラに顔が向くようにするために映像機器を設けることは本願出願前周知技術であり、「スタンドアローン型セキュリティ装置10」である引用発明1において、引用発明1の「ハウジング11」を「監視カメラ25」に顔が向くようにするための映像機器を設置可能なものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、「撮像カメラおよび撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための構成」は、元々撮像カメラを目立たないようにするためのものであり、「自立型の移動可能なハウジング」に適用することにより、「自立型の移動可能なハウジング」以外のものに当該構成を適用したものに比して、当該構成が一段と目立たなくなるものとは認められない。
また、「撮像カメラ等の設置が極めて簡単に行うことができるようになり、しかも長期間メンテナンスが不要で、より撮像精度の高い画像データを得ることができ」、「通常スペックの撮像カメラが使用可能であるため、低コストでより撮像精度の高い画像データを得ることができる」のは、「温度調節、防水、調湿または防塵機能を備えた自立型の移動可能なハウジング内」に撮像カメラを収容したことによるものであり、当該ハウジングに「撮像カメラおよび撮像カメラのカモフラージュのため、もしくは撮像カメラに顔が向くようにするための構成を適用する」ことによるものとは認められない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。

5.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-17 
結審通知日 2019-05-20 
審決日 2019-05-31 
出願番号 特願2016-27458(P2016-27458)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 大介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
五十嵐 努
発明の名称 自立型セキュリティ装置  
代理人 土橋 博司  

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