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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1353469
審判番号 不服2018-5012  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-12 
確定日 2019-07-11 
事件の表示 特願2016-128894「ゲームシステム、ゲーム制御装置、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開、特開2018- 367〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年6月29日を出願日とする特願2016-128894号であって,平成29年9月25日付けで拒絶理由が通知され,同年12月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成30年1月12日付けで拒絶査定がなされ,同査定の謄本は同月23日に出願人に送達された。
これに対して,同年4月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,当該請求と同時に手続補正書が提出された。
その後,当審において,平成31年1月25日付けで拒絶理由が通知され,同年3月5日に意見書及び手続補正書の提出がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は,平成31年3月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりものであって,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)はつぎのとおりのものである。
「【請求項1】
ゲームに参加したユーザへの報酬を決定する報酬決定手段と,
前記報酬決定手段によって決定された報酬を前記ユーザの識別情報に関連付ける報酬関連付け手段と,
を含み,
前記ゲームは複数のユーザが参加するゲームであり,
前記報酬決定手段は,前記複数のユーザの各々の前記ゲームにおけるプレイ結果に関するプレイ結果情報に基づいて,前記複数のユーザ全体の報酬に関する値を決定し,当該複数のユーザ全体の報酬に関する値に,前記複数のユーザの各々の前記ゲーム開始時の前記ゲームにおける能力に関するゲーム能力情報に基づく値の比を乗じた値を,前記複数のユーザの各々に分配することによって,前記複数のユーザの各々への前記報酬を決定するものであり,前記ゲーム開始時の前記ユーザの前記ゲームにおける能力が高い場合には前記ゲーム開始時の前記ユーザの前記ゲームにおける能力が低い場合に比べて前記報酬の価値が高くなるようにして,前記報酬を決定する,
ゲームシステム。」

第3 引用文献
1 特開2003-325984号公報(以下,「引用文献1」という。)
(1)平成31年1月25日付けの当審による拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)において,刊行物1として引用され,本願出願前に出願公開がされた引用文献1には,つぎの事項が記載されている。(当審注:一部改行を省略して記載している。)
ア 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来のネットワークゲームでは,各プレイヤのプレイヤキャラクタが同じ世界を共有してはいるものの,この世界は,自己のプレイヤキャラクタか,せいぜい一緒にパーティを組んでいる他のプレイヤキャラクタの行動によってしか変化することがなかった。すなわち,本質的には各プレイヤキャラクタの単独行動によってゲームが進行するため,プレイ期間が進行するにつれてゲームが単調になる恐れがあるという問題があった。
【0005】また,各プレイヤキャラクタの行動は本質的には単独行動であるため,多くのプレイヤが共通の目的意識を持ってゲームを進行するという場面が希薄であった。このため,各プレイヤのプレイヤキャラクタが他のプレイヤキャラクタと協力して課題を解決していくことに必然性がなく,プレイヤ間のコミュニケーションを図るために十分な環境を提供しているとは言い難かった。プレイヤ間のコミュニケーションが十分に図れないということは,また,ネットワークゲームならではのゲームの内容の変化が望めない原因ともなっていた。
【0006】本発明は,ネットワークゲームの内容に変化を与えると共にプレイヤ間のコミュニケーションを円滑に行えるようにすることで,長期間のプレイによってもゲームが単調にならないようにしたネットワークゲームシステム等を提供することを目的とする。」
イ 「【0029】
【発明の実施の形態】以下,添付図面を参照して,本発明の実施の形態について説明する。
【0030】図1は,この実施の形態にかかるネットワークゲームシステムの構成を示すブロック図である。図示するように,このネットワークゲームシステムは,複数(ここでは,4つ)のビデオゲーム装置100と,ゲームサーバ装置200とから構成される。ビデオゲーム装置100は,それぞれゲームサーバ装置200にネットワーク151を介して接続される。
【0031】このシステムで提供されるネットワークゲームでは,ゲームに参加するプレイヤは,自己のプレイヤキャラクタが所属する国家を予め選択しておく。ゲームを進行していくうちで,プレイヤキャラクタが単独で,または他のプレイヤキャラクタとのパーティにより敵キャラクタとのバトルを行う場合がある。バトルに勝利すると,当該バトルに参加していたキャラクタに経験値が付与されるが,各プレイヤキャラクタが獲得した経験値に対応したポイントを国家毎に集計する。そして,集計したポイントにより国家毎の優劣を定め,これによりゲームの内容を変化させるものである。」
ウ 「【0055】図7は,ゲームサーバ装置200の制御部(ROM)内に予め設けられた経験値算出テーブルを示す図である。この経験値算出テーブル430は,プレイヤキャラクタ(単数または複数のパーティ)が敵キャラクタとのバトルに勝利した場合に,バトルに参加した各プレイヤキャラクタに配分する経験値の元となる基本経験値を算出するために用いられるものである。複数の敵キャラクタとのバトルに勝利した場合には,それぞれの敵キャラクタについて経験値算出テーブル430から基本経験値が取得され,その合計に基づいて各プレイヤキャラクタに経験値が配分されるものとなる。
【0056】経験値算出テーブル430は,バトルに参加したプレイヤキャラクタのうちの最高レベルの値と,敵キャラクタのレベル(最高値)とプレイヤキャラクタのレベル(最高値)とのレベル差に従って,基本経験値を算出するようにしたものである。例えば,2体のプレイヤキャラクタ(レベル25と23)からなるパーティが,敵キャラクタ(レベル28)とのバトルに勝利した場合には,プレイヤキャラクタの最高レベルは21?30の範囲,レベル差は+3となるので,基本経験値としては160が取得されることとなる。」
エ 「【0068】図9は,ゲームサーバ装置200で実行されるバトル終了時処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は,プレイヤキャラクタ(単数または複数のパーティ)と敵キャラクタとのバトルが終了したときに,これに続けて実行されるものである。なお,説明を簡単にするため,この実施の形態におけるバトルは,プレイヤキャラクタがバトルに勝利するか,全てのプレイヤキャラクタが戦闘不能になった場合に終了するものとし,これ以外のバトルからの逃走などによって終了することはないものとする。
【0069】バトルが終了すると,制御部203は,そのバトルが行われたエリアを含むリージョンR1?R8についてコンクエストテーブル420に登録されているバトル回数を1だけ加算する(ステップS201)。次に,制御部203は,当該バトルの終了時において戦闘不能の状態となっていたプレイヤキャラクタが1つでも存在したかどうかを判定する(ステップS202)。戦闘不能の状態となっていたプレイヤキャラクタが存在していなかったら,ステップS207の処理に進む。
【0070】戦闘不能の状態となっていたプレイヤキャラクタが存在していた場合には,制御部203は,そのバトルが行われたエリアを含むリージョンR1?R8についてコンクエストテーブル420に登録されている戦闘不能回数を1だけ加算する(ステップS203)。また,制御部203は,戦闘不能となったプレイヤキャラクタについてプレイヤキャラクタテーブル410に登録されている経験値を所定の料(当審注:「料」は「量」の誤記と認める。)だけ減算し(ステップS204),この経験値の減算によって必要が生じた場合には,当該プレイヤキャラクタについてプレイヤキャラクタテーブル410に登録されているレベルをダウンさせる(ステップS205)。」
オ 「【0071】その後,戦闘不能となったプレイヤキャラクタが存在していたものの,結果的には敵キャラクタが倒されて,プレイヤキャラクタ側の勝利でバトルが終了したかどうかを制御部203が判定する(ステップS206)。全てのプレイヤキャラクタが戦闘不能となってバトルが終了した場合には,このフローチャートの処理を終了する。プレイヤキャラクタ側の勝利でバトルが終了した場合には,ステップS207の処理に進む。
【0072】ステップS207では,制御部203は,バトルに参加したプレイヤキャラクタのレベル(複数の場合は,その最高値)を取得する。制御部207(当審注:「制御部207」は,「制御部203」の誤記と認める。)は,さらに当該バトルに参加していた敵キャラクタのレベルを取得する(ステップS208)。制御部203は,ステップS207及びS208で取得したプレイヤキャラクタ及び敵キャラクタのレベルに従って経験値算出テーブル430から基本経験値を取得する。バトルによって複数の敵キャラクタに勝利した場合には,各敵キャラクタに応じて経験値算出テーブル430の基本経験値を取得し,その合計を次にプレイヤキャラクタに経験値を配分するための基本経験値とする(ステップS209)。
【0073】次に,制御部203は,取得した基本経験値に応じて,バトル終了時に戦闘不能でなかったプレイヤキャラクタに経験値を配分する。ここで,プレイヤキャラクタが単数であれば,基本経験値がそのまま経験値として当該プレイヤキャラクタに配分される。プレイヤキャラクタが複数であれば,まず,基本経験値の値をプレイヤキャラクタの数で除算する。レベルが最も高いプレイヤキャラクタには,この値が経験値として配分される。それ以外のプレイヤキャラクタには,この値に対して,当該プレイヤキャラクタのレベルの最高レベルに対する比を乗算した値が経験値として配分される。配分された経験値は,プレイヤキャラクタテーブル410に登録されている各プレイヤキャラクタの経験値に加算される(ステップS210)。この経験値の加算によって必要が生じた場合には,当該プレイヤキャラクタについてプレイヤキャラクタテーブル410に登録されているレベルをアップさせる(ステップS211)。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の記載を総合すると,引用文献1には,つぎの発明が記載されているものと認められる。
「プレイヤキャラクタ複数のパーティと敵キャラクタとのバトルが終了したときに,これに続けて実行されるものであって,プレイヤキャラクタ複数のパーティと敵キャラクタとのバトルが終了し,プレイヤキャラクタ側の勝利でバトルが終了した場合に,バトルに参加した複数のプレイヤキャラクタのレベルの最高値と当該バトルに参加していた敵キャラクタのレベルを取得し,取得したプレイヤキャラクタ及び敵キャラクタのレベルに従って経験値算出テーブルから取得した基本経験値に応じて,バトル終了時に戦闘不能でなかったプレイヤキャラクタに経験値を配分するようにされており,基本経験値の値をプレイヤキャラクタの数で除算し,レベルが最も高いプレイヤキャラクタには,この値が経験値として配分され,それ以外のプレイヤキャラクタには,この値に対して,当該プレイヤキャラクタのレベルの最高レベルに対する比を乗算した値が経験値として配分され,配分された経験値は,各プレイヤキャラクタの経験値に加算されるバトル終了時処理を実行する制御部を備えたゲームサーバ装置」の発明(以下,「引用発明1」という。)

2 特開2013-202218号公報(以下,「引用文献2」という。)
(1)当審拒絶理由通知において,刊行物2として引用され,本願出願前に出願公開がされた引用文献2には,つぎの事項が記載されている。(当審注:一部改行を省略して記載している。)
ア 「【0006】 本発明はこうした事情を鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,複数のプレーヤによる敵キャラクタとの戦闘を盛り上げる仕組みを提供することである。」
イ 「【0007】 上記課題を解決するための第1の形態は,各プレーヤ端末での操作入力に基づいて,各プレーヤと,各プレーヤに共通の敵キャラクタとの戦闘を制御してゲームを進行制御するサーバシステム(例えば,図1,図11のゲームサーバ1000)であって,前記戦闘によって変化させ,所定の勝利条件を満たす値となった場合にプレーヤ側の勝利が決定する前記敵キャラクタのパラメータ値(例えば,実施形態におけるボス敵キャラクタ30の体力値)を管理する敵キャラパラメータ管理手段(例えば,図13のボス敵キャラ情報334)と,各プレーヤの前記戦闘に係るプレイ履歴を管理するプレイ履歴管理手段(例えば,図13の参加プレーヤ情報335)と,前記パラメータ値が前記勝利条件を満たした場合に,各プレーヤに,当該プレーヤの前記プレイ履歴に応じた所与の特典を付与する特典付与手段(例えば,図11の特典付与部224)と,を備えたサーバシステムである。
【0008】 この第1の形態によれば,各プレーヤが共通の敵キャラクタと戦闘するゲームにおいて,敵キャラクタのパラメータ値が勝利条件を満たす値となった場合に,各プレーヤに当該プレーヤのプレイ履歴に応じた所与の特典が付与される。従って,オーバーキルといった最後の一撃のみが特典付与の対象となるのではなく,プレイ履歴に基づく任意の攻撃が対象となるため,比較的公平な特典付与が図られることになる。その結果,“我こそは”と思うプレーヤが積極的に敵キャラクタにダメージを与えることになり,共通の敵キャラクタとの戦闘における連帯感・共闘の意識を向上させることができる。」
ウ 「【0039】 本実施形態の特徴として,ボス敵キャラクタ30との戦闘(ボス敵戦闘イベント)には特典付与参照期間が存在する。ボス敵キャラクタ30を倒してプレーヤ側が勝利した場合,この特典付与参照期間にボス敵キャラクタ30に与えたダメージに応じて,プレーヤに所与の特典が付与される。
【0040】 図5は,特典付与参照期間を説明する図である。特典付与参照期間は,ボス敵キャラクタ30の体力値をもとに設定され,具体的には,ボス敵キャラクタ30の体力値が所定条件(例えば,最大値の5%以下)を満たした時点から,ゼロになるまで(すなわち,倒すまで)の期間として設定される。
【0041】 また,特典付与参照期間の間は,戦闘画面W5において,特典付与参照期間であることをプレーヤに知らせる何らかの識別表示がなされる。例えば,ボス敵キャラクタ30の体力ゲージ32に所定の装飾表示をしたり,所定のメッセージを表示したり,ボス敵キャラクタ30に所定のアイコンを付加したり,ボス敵キャラクタ30の表示態様を変更したりする。
【0042】 図6は,特典の付与を説明する図である。本実施形態では,特典として,複数種類のアイテムが用意されている。特典として用意されるアイテムには,武器や防具等の装備品,体力値や行動パラメータを回復するためのアイテム等があり,また,アイテムにはレア度(重要度)が設定されている。
【0043】 基本的には,各参加プレーヤが特典付与参照期間の間にボス敵キャラクタ30に与えたダメージ(与ダメージ)の総数に基づいて,特典が付与される。詳細には,各参加プレーヤそれぞれについて,与ダメージ総数をもとに貢献ポイントが決定される。この貢献ポイントの決定は,与ダメージ総数そのままの値としても良いし,与ダメージ総数に所定係数を乗じた値としても良い。
【0044】 次いで,全ての参加プレーヤの貢献ポイントの総和に対する一の参加プレーヤの貢献ポイントの割合が,該一の参加プレーヤの貢献ポイント比率とされる。そして,この貢献ポイント比率に従って,付与する特典が決定される。具体的には,貢献ポイント比率が高いほど,付与されるアイテムの数や種類が多かったり,よりレア度の高いアイテムが付与されるように決定される。」

(2)上記(1)の記載を総合すると,引用文献2には,つぎの技術事項が記載されている。
「複数のプレーヤが共通の敵キャラクタと戦闘するゲームにおいて,敵キャラクタのパラメータ値が勝利条件を満たす値となった場合に,各参加プレーヤに当該プレーヤのプレイ履歴に応じた所与の特典が付与されるものにおいて,各参加プレーヤが特典付与参照期間の間にボス敵キャラクタに与えたダメージの総数に基づいて,各参加プレーヤそれぞれについて,貢献ポイントが決定され,全ての参加プレーヤの貢献ポイントの総和に対する一の参加プレーヤの貢献ポイントの割合に従って,付与する特典が決定される」こと。

第4 当審の判断
1 本願発明1と引用発明1との対比
(1)引用発明1は,「プレイヤキャラクタ複数のパーティと敵キャラクタとのバトルが終了したときに,これに続けて実行される」ものであるから,引用発明1の「ゲームサーバ装置」は,「プレイヤキャラクタ複数のパーティと敵キャラクタとのバトル」が実行されるものであるところ,引用発明1の「プレイヤキャラクタ複数のパーティと敵キャラクタとのバトル」は,本願発明1の「複数のユーザが参加するゲーム」に相当する。
また,引用発明1の「バトルに参加した複数のプレイヤキャラクタのレベルの最高値と当該バトルに参加していた敵キャラクタのレベルを取得し,取得したプレイヤキャラクタ及び敵キャラクタのレベルに従って経験値算出テーブルから取得した基本経験値に応じて,バトル終了時に戦闘不能でなかったプレイヤキャラクタに経験値を配分するようにされて」いることは,本願発明1の「複数のユーザの各々の前記ゲームにおけるプレイ結果に関するプレイ結果情報に基づいて,前記複数のユーザ全体の報酬に関する値を決定」していることに相当する。
(2)引用発明1の「取得した基本経験値に応じて,バトル終了時に戦闘不能でなかったプレイヤキャラクタに経験値を配分するようにされており,基本経験値の値をプレイヤキャラクタの数で除算し,レベルが最も高いプレイヤキャラクタには,この値が経験値として配分され,それ以外のプレイヤキャラクタには,この値に対して,当該プレイヤキャラクタのレベルの最高レベルに対する比を乗算した値が経験値として配分」することは,「基本経験値」という「報酬」として与えられる経験値に関する値を用いて,報酬としての「経験値」を複数のプレイキャラクタに配分するよう決定しているものといえる。
そして,引用文献1の段落【0073】に「経験値の加算によって必要が生じた場合には,当該プレイヤキャラクタについてプレイヤキャラクタテーブル410に登録されているレベルをアップさせる」と記載されていることからみて,引用発明1の「プレイヤキャラクタのレベル」は,バトル開始時のレベルであることは,技術常識に照らせば明らかである。
してみると,本願発明1の「当該複数のユーザ全体の報酬に関する値に,前記複数のユーザの各々の前記ゲーム開始時の前記ゲームにおける能力に関するゲーム能力情報に基づく値の比を乗じた値を,前記複数のユーザの各々に分配することによって,前記複数のユーザの各々への前記報酬を決定する」ことと,上記引用発明1の「基本経験値の値をプレイヤキャラクタの数で除算し,レベルが最も高いプレイヤキャラクタには,この値が経験値として配分され,それ以外のプレイヤキャラクタには,この値に対して,当該プレイヤキャラクタのレベルの最高レベルに対する比を乗算した値が経験値として配分」することとは,「当該複数のユーザ全体の報酬に関する値に,前記複数のユーザの各々の前記ゲーム開始時の前記ゲームにおける能力に関するゲーム能力情報に基づいて前記複数のユーザの各々に分配することによって,前記複数のユーザの各々への前記報酬を決定する」ものである点において共通するものといえるし,「前記ゲーム開始時の前記ユーザの前記ゲームにおける能力が高い場合には前記ゲーム開始時の前記ユーザの前記ゲームにおける能力が低い場合に比べて前記報酬の価値が高くなるようにして,前記報酬を決定」していることにおいても共通するものといえる。
(3)引用発明1の「配分された経験値」が,「各プレイヤキャラクタの経験値に加算される」ように処理することは,本願発明1の「ゲームに参加したユーザ」に「決定された報酬を前記ユーザの識別情報に関連付ける」ことに相当する。

2 一致点・相違点
上記1の対比を踏まえれば,本願発明1と引用発明1とは,つぎの一致点で一致し,各相違点で相違するものである。

<一致点>
「ゲームに参加したユーザへの報酬を決定し,決定された報酬を前記ユーザの識別情報に関連付けるようにする処理を実行するゲームシステムであって,前記ゲームは複数のユーザが参加するゲームであり,前記複数のユーザの各々の前記ゲームにおけるプレイ結果に関するプレイ結果情報に基づいて,前記複数のユーザ全体の報酬を決定し,当該複数のユーザ全体の報酬を,前記複数のユーザの各々の前記ゲーム開始時の前記ゲームにおける能力に関するゲーム能力情報に基づいて前記複数のユーザの各々に分配することによって,前記複数のユーザの各々への前記報酬を決定するものであり,前記ゲーム開始時の前記ユーザの前記ゲームにおける能力が高い場合には前記ゲーム開始時の前記ユーザの前記ゲームにおける能力が低い場合に比べて前記報酬の価値が高くなるようにして,前記報酬を決定するゲームシステム。」である点

<相違点1>
本願発明1が「ゲームに参加したユーザへの報酬を決定する報酬決定手段」と「報酬関連付け手段」とを含む「ゲームシステム」であるのに対して,引用発明1は,「制御部を備えるゲームサーバ装置」である点

<相違点2>
本願発明1が「当該複数のユーザ全体の報酬に関する値に,前記複数のユーザの各々の前記ゲーム開始時の前記ゲームにおける能力に関するゲーム能力情報に基づく値の比を乗じた値を,前記複数のユーザの各々に分配することによって,前記複数のユーザの各々への前記報酬を決定する」ものであるのに対して,引用発明1は「基本経験値の値をプレイヤキャラクタの数で除算し,レベルが最も高いプレイヤキャラクタには,この値が経験値として配分され,それ以外のプレイヤキャラクタには,この値に対して,当該プレイヤキャラクタのレベルの最高レベルに対する比を乗算した値が経験値として配分」するものである点

3 相違点についての検討
(1)相違点1について
一般に,コンピュータなどによりゲームに関する手順を実行するにあたって,複数の機能を一つの実行手段により実行するよう構成するか,複数の機能実現手段により実行するよう構成するかは,装置の具体化にあたり適宜選択される設計的要素にすぎないから,引用発明1の「ゲームサーバ装置」の「制御部」で実行している処理のうち,「基本経験値」に基づき「複数のプレイヤキャラクタ」に「配分する」「経験値」を決定する処理を実行する実行手段,すなわち,本願発明1の「報酬決定手段」に相当する手段で実行するようにし,「配分された経験値」を「プレイヤキャラクタテーブルに登録されている各プレイヤキャラクタの経験値に加算」する処理を実行する実行手段,すなわち,本願発明1の「報酬関連付け手段」に相当する手段により実行するように構成することで,相違点1に係る本願発明1の構成の如く構成するようにすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことにすぎない。

(2)相違点2について
ア 引用発明1は,「基本経験値の値をプレイヤキャラクタの数で除算し,レベルが最も高いプレイヤキャラクタには,この値が経験値として配分され,それ以外のプレイヤキャラクタには,この値に対して,当該プレイヤキャラクタのレベルの最高レベルに対する比を乗算した値が経験値として配分」するものであるところ,これにより,本願発明1と同様に,「ゲーム開始時のユーザの前記ゲームにおける能力が高い場合には前記ゲーム開始時の前記ユーザの前記ゲームにおける能力が低い場合に比べて前記報酬の価値が高くなるよう」配分するという目的を果たすことができるものであることは明らかであるから,引用発明1に接した当業者は,報酬である基本経験値の配分をレベルに応じて行うようにすれば,本願発明1のような効果を奏することができると認識し得るものといえる。
イ そして,複数のプレイヤキャラクタに対して,各プレイヤキャラクタのレベルに応じて報酬を配分するにあたり,本願発明1のように,基本経験値に直接各プレイヤキャラクタのレベルの比率を適用して分配するか,あるいは,基本経験値を複数のプレイヤキャラクタで等分し,その後に各プレーヤのレベルの比率を適用して分配するかは,配分する報酬にレベルの比率を反映させるかの計算手法の相違にすぎず,どちらを選択するかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得ることというべきである。
ウ また,第3の2(2)のとおり,引用文献2には,「複数のプレーヤが共通の敵キャラクタと戦闘するゲームにおいて,敵キャラクタのパラメータ値が勝利条件を満たす値となった場合に,各参加プレーヤに当該プレーヤのプレイ履歴に応じた所与の特典が付与されるものにおいて,各参加プレーヤが特典付与参照期間の間にボス敵キャラクタに与えたダメージの総数に基づいて,各参加プレーヤそれぞれについて,貢献ポイントが決定され,全ての参加プレーヤの貢献ポイントの総和に対する一の参加プレーヤの貢献ポイントの割合に従って,付与する特典が決定される」ことが記載されているように,本願出願前において,複数の参加プレーヤに対して分配する報酬を決定するにあたって,「参加プレーヤ」それぞれの貢献ポイントを総和し,その貢献ポイントの総和に対する「一の参加プレーヤの貢献ポイントの割合」にしたがって付与する特典を決定することは,公知のものである。
してみると,引用発明1の基本経験値を配分するにあたって,レベルの比に応じて配分する際に,プレイヤキャラクタのレベルの総数に対する一の参加プレーヤのレベルの割合にしたがって,基本経験値を配分するようにすることも,当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことであるといえる。
したがって,引用発明1に引用発明2に記載の技術事項を適用して,相違点2に係る本願発明1の構成のようにすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことともいえる。
エ 審判請求人は,意見書において,「引用発明1は,基本経験値をプレイヤキャラクタの数で除算(即ち,等分)した後で,この除算した値にプレイヤキャラクタのレベルの比を乗じるものであり,本願発明1のように,複数のユーザ全体の報酬に関する値をユーザの人数で等分せずに,この値に各ユーザのゲーム能力情報に基づく値の比を乗じた値を各ユーザに分配することではなく,本願発明1は,複数のユーザ全体の報酬に関する値に各ユーザのゲーム能力情報に基づく値の比を乗じた値を各ユーザに分配するので,ゲームに参加した各ユーザに分配される報酬に関する値の合計が,各ユーザのゲーム能力情報によって変わらないようにできるのに対し,引用発明1は,「ゲームに参加した各ユーザに分配される報酬に関する値(経験値)の合計が,各ユーザのゲーム能力情報(レベル)によって変わらないようにする」を実現し得るものではないし,このようにすることの課題についてすら刊行物1には記載されていないため,相違点2に係る本願発明1の構成は,当業者が刊行物1に基づいて容易に想到し得た事項ではない旨主張する。
しかしながら,上記イで述べたように,本願発明1のように,基本経験値に直接各プレイヤキャラクタのレベルの比率を適用して分配するか,あるいは,基本経験値を複数のプレイヤキャラクタで等分し,その後に各プレーヤのレベルの比率を適用して分配するかは,配分する報酬にレベルの比率を反映させるかの計算手法の相違にすぎず,どちらを選択するかは,当業者が必要に応じて適宜選択し得ることであり,その際,直接各プレイヤキャラクタのレベルの比率を適用して分配すれば,各プレイヤキャラクタに分配される経験値の合計がレベルに応じて変動しないようになることも,当業者が予測し得る程度のことにすぎない。
オ 審判請求人は,意見書において,「引用文献2には,複数のユーザ全体の報酬に関する値を,各ユーザがボス敵キャラクタに与えたダメージの全体に対する比率に従って当該各ユーザに付与する特典を決定するものであり,各ユーザのゲーム能力情報に基づく値の比率に従って当該各ユーザに付与する特典を決定することは記載されておらず,そもそも,各ユーザのゲーム能力情報に基づいて各ユーザの貢献ポイントを決定することも記載されていないことから,引用発明1に引用文献2の記載事項を適用しても,相違点2に係る本願発明1の構成は容易に想到し得た事項ではない旨主張する。
たしかに,引用文献2には,各ユーザのゲーム能力情報に基づく値の比率に従って当該各ユーザに付与する特典を決定することは記載されてはいないが,請求人も認めるように,複数のユーザ全体の報酬に関する値を,各ユーザがボス敵キャラクタに与えたダメージの全体に対する比率に従って当該各ユーザに付与することが記載されており,「複数のユーザ全体の貢献ポイントに対する一のユーザの貢献ポイントの比率に基づいて報酬の分配を行う方法」が把握できるのであるから,当該分配方法を引用発明1に適用した場合には,プレイヤキャラクタのレベルの総数に対する一の参加プレーヤのレベルの割合にしたがって,基本経験値を配分するよう構成されることは明らかであるし,その場合には,各プレイヤキャラクタに分配される経験値の合計がレベルに応じて変動しないようになるものといえる。
カ 上記のとおりであるから,上記相違点2は,当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項にすぎない。

4 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明1に基づいて,又は引用発明1に引用文献2に記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
上記のとおり,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,上記の結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-08 
結審通知日 2019-05-14 
審決日 2019-05-27 
出願番号 特願2016-128894(P2016-128894)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇佐田 健二  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 尾崎 淳史
畑井 順一
発明の名称 ゲームシステム、ゲーム制御装置、及びプログラム  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  

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