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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1353497
審判番号 不服2018-7457  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-31 
確定日 2019-07-08 
事件の表示 特願2014-121402「電子デバイス装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月 7日出願公開,特開2016- 1685〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年6月12日の出願であって,平成29年12月7日付け拒絶理由通知に応答して平成30年1月24日に意見書,手続補正書が提出されたが,同年3月5日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年5月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。そして,当審において,平成31年1月29日付けで拒絶理由を通知し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,請求人からは何の応答もない。

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成30年1月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子デバイスが支持体上に固定された積層体を準備する工程Aと,
方向によって熱伝導率が異なる熱的異方性を有する窒化ホウ素の結晶を,等方性を有するように凝集させた二次凝集体を含有する封止用樹脂シートを準備する工程Bと,
前記封止用樹脂シートを前記積層体の前記電子デバイス上に配置する工程Cと,
前記電子デバイスを前記封止用樹脂シートに埋め込む工程Dと,
前記工程Dの後,前記積層体と前記封止用樹脂シートとを近づける方向に加圧した状態を維持しながら,前記封止用樹脂シートを加熱して第一次熱硬化させる工程Eと
を具備し,
前記工程Eの条件は,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の封止用樹脂シートの熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であることを特徴とする電子デバイス装置の製造方法。」

第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である,平成31年1月29日付け拒絶理由通知の理由は,概略,次のとおりのものである。
1 この出願は,請求項1に係る特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,出願人が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決を参照。) 。
以下,上記の観点に立って,本願のサポート要件について検討する。

2 前提となる事実関係等
(1)本願の特許請求の範囲の記載
本願発明は,上記第2のとおりである。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同じ。)
ア 発明が解決しようとする課題
「【発明が解決しようとする課題】
<<途中省略>>
【0006】
本発明は,前記問題点に鑑みてなされたものであり,その目的は,封止用樹脂シートの熱伝導性をより好適に発揮させることが可能な電子デバイス装置の製造方法を提供することにある。」

イ 課題を解決するための手段
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,窒化ホウ素の二次凝集体を含有した封止用樹脂シートを用いた電子デバイス装置の製造方法について鋭意研究した。その結果,窒化ホウ素の二次凝集体を含有した封止用樹脂シートに電子デバイスを埋め込んだ後,加圧した状態で封止用樹脂シートを熱硬化させると,驚くべきことに,加圧しない場合と比較して得られる電子デバイス装置の熱伝導性が向上することを発見し,本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち,本発明に係る電子デバイス装置の製造方法は,
電子デバイスが支持体上に固定された積層体を準備する工程Aと,
方向によって熱伝導率が異なる熱的異方性を有する窒化ホウ素の結晶を,等方性を有するように凝集させた二次凝集体を含有する封止用樹脂シートを準備する工程Bと,
前記封止用樹脂シートを前記積層体の前記電子デバイス上に配置する工程Cと,
前記電子デバイスを前記封止用樹脂シートに埋め込む工程Dと,
前記工程Dの後,前記積層体と前記封止用樹脂シートとを近づける方向に加圧した状態を維持しながら,前記封止用樹脂シートを加熱して第一次熱硬化させる工程Eと
を具備することを特徴とする。
【0009】
前記構成によれば,封止用樹脂シートには,方向によって熱伝導率が異なる熱的異方性を有する窒化ホウ素の結晶を,等方性を有するように凝集させた二次凝集体が含有されている。従って,封止用樹脂シートの熱伝導性を高めることができる。
また,電子デバイスを前記封止用樹脂シートに埋め込み(工程D),その後,積層体と封止用樹脂シートとを近づける方向に加圧した状態を維持しながら,前記封止用樹脂シートを加熱して第一次熱硬化させる(工程E)。
本発明者らは,工程Dの後,すなわち,電子デバイスを封止用樹脂シートに埋め込んだ後,仮に,前記圧力を加えないまま前記封止用樹脂シートを加熱して第一次熱硬化させた場合,封止用樹脂シートは,ほとんど熱硬化していない状態であるため,埋め込み時の圧力により薄くなるように変形した封止用樹脂シートの厚さが,少し厚くなる方向に戻った状態(スプリングバックした状態)で硬化していることをつきとめた。そして,このスプリングバックにより二次凝集体同士の距離が埋め込み時より離れてしまい,これに起因して熱伝導性の向上が阻害されていると推察した。
一方,前記構成によれば,電子デバイスを封止用樹脂シートに埋め込んだ後,スプリングバックを抑制するように,積層体と封止用樹脂シートとを近づける方向に加圧した状態を維持しながら,前記封止用樹脂シートを加熱して第一次熱硬化させる。従って,二次凝集体同士の距離が埋め込み時より離れてしまうことを抑制し,熱伝導性を向上させることができる。
なお,第一次熱硬化とは,第一次熱硬化後に前記加圧を解放してもスプリングバックしなくなるか,スプリングバックの影響が少ない程度の熱硬化をいい,完全な熱硬化でなくてもよい。
【0010】
前記構成において,前記工程Eの条件は,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の封止用樹脂シートの熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であることが好ましい。
【0011】
圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化という条件は,スプリングバックが発生しない程度の加圧条件において,封止用樹脂シートを完全に熱硬化させる場合を想定した条件である。
前記工程Eの条件が,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の封止用樹脂シートの熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であれば,スプリングバックしたとしても,熱伝導率は,スプリングバックが発生しない場合と比較して0.8以上とすることができる。従って,より好適に熱伝導性を向上させることができる。」

ウ 発明を実施するための形態
「【0058】
[中空パッケージの製造方法]
図2A?図2Eは,本発明の一実施形態に係る電子デバイス装置の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
本実施形態では,電子デバイス装置が中空パッケージである場合について説明する。具体的には,プリント配線基板12上に搭載されたSAWチップ13を樹脂シート11により中空封止して中空パッケージを製造する場合について説明する。ただし,本発明はこの例に限定されず,中空部を有さない電子デバイス装置の製造にも同様の方法を採用することができる。
【0059】
(SAWチップ搭載基板準備工程)
本実施形態に係る中空パッケージの製造方法では,まず,図2Aに示すように,複数のSAWチップ13がプリント配線基板12上に搭載された積層体15を準備する(工程A)。
SAWチップ13は,本発明の電子デバイスに相当する。また,プリント配線基板12は,本発明の支持体に相当する。
SAWチップ13は,所定の櫛形電極が形成された圧電結晶を公知の方法でダイシングして個片化することにより形成できる。SAWチップ13のプリント配線基板12への搭載には,フリップチップボンダーやダイボンダーなどの公知の装置を用いることができる。SAWチップ13とプリント配線基板12とはバンプなどの突起電極13aを介して電気的に接続されている。また,SAWチップ13とプリント配線基板12との間は,SAWフィルタ表面での表面弾性波の伝播を阻害しないように中空部14を維持するようになっている。SAWチップ13とプリント配線基板12との間の距離(中空部の幅)は適宜設定でき,一般的には10?100μm程度である。
【0060】
(樹脂シート準備工程)
また,本実施形態に係る中空パッケージの製造方法では,樹脂シート11を準備する(工程B)。上述したように樹脂シート11は,方向によって熱伝導率が異なる熱的異方性を有する窒化ホウ素の結晶を,等方性を有するように凝集させた二次凝集体を含有している。
【0061】
(樹脂シート配置工程)
次に,図2Bに示すように,下側加熱板41上に積層体15をSAWチップ13が搭載されている面を上にして配置するとともに,SAWチップ13面上に樹脂シート11を配置する(工程C)。この工程においては,下側加熱板41上にまず積層体15を配置し,その後,積層体15上に樹脂シート11を配置してもよく,積層体15上に樹脂シート11を先に積層し,その後,積層体15と樹脂シート11とが積層された積層物を下側加熱板41上に配置してもよい。なお,セパレータ11aはこの段階では剥がさない方が好ましい。
【0062】
(埋め込み工程)
次に,図2Cに示すように,下側加熱板41と上側加熱板42とにより熱プレスして,SAWチップ13を樹脂シート11に埋め込む(工程D)。なお,埋め込み工程とは,SAWチップ13の埋め込みを開始してからSAWチップ13が全て埋め込まれるまでの工程をいう。
【0063】
SAWチップ13を樹脂シート11に埋め込む際の熱プレス条件としては,SAWチップ13を樹脂シート11に好適に埋め込むことができる程度であることが好ましく,温度が,例えば,40?150℃,好ましくは60?120℃であり,圧力が,例えば,0.1?10MPa,好ましくは0.5?8MPaである。
また,樹脂シート11のSAWチップ13及びプリント配線基板12への密着性および追従性の向上を考慮すると,減圧条件下においてプレスすることが好ましい。前記減圧条件としては,例えば,0.1?5kPa,より好ましくは,0.1?100Paである。
【0064】
(第一次熱硬化工程)
埋め込み工程の後,積層体15と樹脂シート11とを近づける方向に加圧した状態を維持しながら,樹脂シート11を加熱して第一次熱硬化させる(工程E)。これにより封止体16を得る。
本発明者らは,工程Dの後,すなわち,電子デバイスを封止用樹脂シートに埋め込んだ後,仮に,前記圧力を加えないまま前記封止用樹脂シートを加熱して第一次熱硬化させた場合,樹脂シート11は,ほとんど熱硬化していない状態であるため,埋め込み時の圧力により薄くなるように変形した樹脂シート11の厚さが,少し厚くなる方向に戻った状態(スプリングバックした状態)で硬化していることをつきとめた。そして,このスプリングバックにより二次凝集体同士の距離が埋め込み時より離れてしまい,これに起因して熱伝導性の向上が阻害されていると推察した。
一方,本実施形態によればSAWチップ13を樹脂シート11に埋め込んだ後,スプリングバックを抑制するように,積層体15と樹脂シート11とを近づける方向に加圧した状態を維持しながら,樹脂シート11を加熱して第一次熱硬化させる。従って,二次凝集体同士の距離が埋め込み時より離れてしまうことを抑制し,熱伝導性を向上させることができる。
なお,第一次熱硬化とは,第一次熱硬化後に前記加圧を解放してもスプリングバックしなくなるか,スプリングバックの影響が少ない程度の熱硬化をいい,完全な熱硬化でなくてもよい。
第一次熱硬化工程における加圧は,前記埋め込み工程時の加圧を一旦開放し,その後,改めて加圧してもよく,前記埋め込み工程時の加圧を開放することなく,そのまま,第一次熱硬化工程における加圧を行なってもよい。
第一次熱硬化工程(工程E)の条件は,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の樹脂シート11の熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であることが好ましく,0.85以上となる条件であることがより好ましい。
圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化という条件は,スプリングバックが発生しない程度の加圧条件において,封止用樹脂シートを完全に熱硬化させる場合を想定した条件である。
前記工程Eの条件が,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の樹脂シート11の熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であれば,スプリングバックしたとしても,熱伝導率は,スプリングバックが発生しない場合と比較して0.8以上とすることができる。従って,より好適に熱伝導性を向上させることができる。
前記工程Eの各条件の具体的数値としては,樹脂シート11の構成材料に応じて適宜設定できるが,圧力条件としては,例えば,0.01?20MPaが好ましく,0.05?18MPaがより好ましい。また,前記工程Eの温度条件としては,例えば,50?200℃が好ましく,60?180℃がより好ましい。また,前記工程Eの熱硬化時間は,例えば,10秒?3時間が好ましく,20秒?2時間がより好ましい。」

エ 実施例
「【0069】
以下に,この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。ただし,この実施例に記載されている材料や配合量などは,特に限定的な記載がない限りは,この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0070】
実施例及び比較例で使用した成分について説明する。
エポキシ樹脂:新日鐵化学社製のYSLV-80XY(ビスフェノールF型エポキシ樹脂,エポキン当量:200g/eq.,軟化点:80℃)
フェノール樹脂:群栄化学社製のLVR8210DL(ノボラック型フェノール樹脂,水酸基当量:104g/eq.,軟化点:60℃)
熱可塑性樹脂:根上工業社製のME-2000M(カルボキシル基含有のアクリル酸エステル系ポリマー,重量平均分子量:約60万,Tg:-35℃,酸価:20mgKOH/g)
カーボンブラック:三菱化学社製の#20
フィラー1:窒化ホウ素の二次凝集体(水島合金鉄社製,製品名:HP-40(平均粒径:40μm,最大粒径:180μm))
フィラー2:アルミナ(アドマテックス社製,製品名:AE-9104SME(平均粒径:3μm,最大粒径:10μm))
硬化促進剤1:四国化成工業社製の2P4MHZ-PW(2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール)
【0071】
[封止用樹脂シートの作製]
(製造例1)
表1に記載の配合比に従い,各成分を溶剤としてのメチルエチルケトンに溶解,分散させ,濃度90重量%のワニスを得た。このワニスを,シリコーン離型処理した厚さが38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後,110℃で3分間乾燥させた。このシートを積層させて厚さ220μmの熱硬化性樹脂シートを得た。
【0072】
【表1】

【0073】
(第一次熱硬化条件における熱硬化後の熱伝導率の測定)
製造例1にて製造した封止用樹脂シートについて,表2に示した第一次熱硬化条件でプレスしながら加熱し,熱硬化させた。なお,実施例,比較例は,第一次熱硬化条件を変更した以外は同じであり,製造例1で製造した封止用樹脂シートを用いた。
次に,熱硬化後のこれらの封止用樹脂シートの熱伝導率の測定を行なった。熱伝導率は下記の式から求めた。結果を表2に示す。
(熱伝導率)=(熱拡散係数)×(比熱)×(比重)
【0074】
<熱拡散係数>.
封止用樹脂シートをそれぞれ,表2に示した第一次熱硬化条件で加熱した。このサンプルを用いて,キセノンフラッシュ法熱測定装置(ネッチジャパン社製,LFA447 nanoflashを用いて熱拡散係数を測定した。
【0075】
<比熱>
DSC(TA instrument製,Q-2000)を用いてJIS-7123の規格に沿った測定方法によって求めた。
【0076】
<比重>
電子天秤(株式会社島津製作所製,AEL-200)を用いてアルキメデス法によって測定した。
【0077】
(熱伝導率評価)
実施例1の圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化という条件は,スプリングバックが発生しない程度の加圧条件において,封止用樹脂シートを完全に熱硬化させる場合を想定した条件である。
そこで,同じ組成の封止用樹脂シートを用い,第一次熱硬化条件のみを変更した場合に,熱伝導率が実施例1に比較してどの程度となるかを評価した。具体的に,実施例1,すなわち,第一次熱硬化において封止用樹脂シートを完全に熱硬化させた場合に比較して,熱伝導率が0.8倍以上である場合を〇,0.8倍よりも小さい場合を×として評価した。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】



3 検討
(1)本願発明の課題について
発明の詳細な説明の記載(前記2(2)ア)から,本願発明の課題は,「封止用樹脂シートの熱伝導性をより好適に発揮させることが可能な電子デバイス装置の製造方法を提供すること」にあると理解される。

(2)発明の詳細な説明について
ア 本願発明は,特許請求の範囲の記載(前記2(1))からみて,「前記積層体と前記封止用樹脂シートとを近づける方向に加圧した状態を維持しながら,前記封止用樹脂シートを加熱して第一次熱硬化させる工程E」の「条件」として,「圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の封止用樹脂シートの熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であ」ると特定するのみである。しかしながら,熱硬化の態様が,封止用樹脂シートを構成する樹脂の種類,含有量,添加材料の有無及び添加量等の組成の違いによって異なることは技術常識である。そうすると,前記技術常識に照らして,封止用樹脂シートの組成によっては,加圧した状態を維持しながら,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化し,その後,前記加圧を除いた際に,スプリングバックが生じる場合もあるものと認められる。

イ そして,発明の詳細な説明の記載(前記2(2)ウ)には,「圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化」という条件が,「スプリングバックが発生しない程度の加圧条件において,封止用樹脂シートを完全に熱硬化させる場合を想定した条件である。」と説明されており,さらに,発明の詳細な説明の記載(前記2(2)エ)には,上記(1)の課題を達成する具体物として,製造例1として「表1に記載の配合比に従い,各成分を溶剤としてのメチルエチルケトンに溶解,分散させ,濃度90重量%のワニスを得」,「このワニスを,シリコーン離型処理した厚さが38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後,110℃で3分間乾燥させ」,「このシートを積層させて厚さ220μmの熱硬化性樹脂シートを得」(段落【0071】),「製造例1にて製造した封止用樹脂シートについて,表2に示した第一次熱硬化条件でプレスしながら加熱し,熱硬化させた」(段落【0073】)実施例1ないし3,比較例1のみが記載されている。
さらに,本願明細書の段落【0078】の【表2】には,
(ア)実施例1の第一次熱硬化条件として,温度が150℃,圧力が3MPa,時間が1時間という条件が設定され,熱硬化後の熱伝導率として5.1W/m・Kという実験値が示され,
(イ)また,温度150℃,圧力1MPa,1時間の熱硬化の条件で実施例2が,温度90℃,圧力3MPa,0.1時間の熱硬化の条件で実施例3が行われ,熱硬化後の熱伝導率として4.6W/m・Kという実験値が示されている。
(ウ)また,比較例1として,圧力をかけない第一時熱硬化条件として,温度150℃,圧力0MPa,1時間の熱硬化の条件で熱硬化させ,硬化後の熱伝導率として3.9W/m・Kという実験値が示されている,
しかしながら,発明の詳細な説明,実施例には,これら以外の具体物は記載されていない。

(3)判断
ア 発明の詳細な説明に記載された発明においては,「前記工程Eの条件は,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の封止用樹脂シートの熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であること」という発明特定事項は,その前提として,「実施例1の圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化という条件は,スプリングバックが発生しない程度の加圧条件において,封止用樹脂シートを完全に熱硬化させる場合を想定した条件」(段落【0077】)を規定し,比較例1(前記(2)イ(ウ))との比率で,少なくとも,「0.78」(実施例1の熱伝導率に対する比率)を超える比率,すなわち「0.8以上」であれば,従来に比し,「封止用樹脂シートの熱伝導性をより好適に発揮させることが可能な電子デバイス装置の製造方法を提供すること」(前記(1))という効果が達成できるものとしてその数値範囲を特定しているものと認められる。
イ しかしながら,特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項においては,「前記工程Eの条件は,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の封止用樹脂シートの熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であること」と特定されるにとどまり,「前記工程Eの条件が,圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化させた後の樹脂シート11の熱伝導率を1としたときに,0.8以上となる条件であれば,スプリングバックしたとしても,熱伝導率は,スプリングバックが発生しない場合と比較して0.8以上とすることができる。従って,より好適に熱伝導性を向上させることができる。」(段落【0064】)という本願発明の作用機序の説明からも明らかな,その発明の前提として必須な「圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化という条件」が,「スプリングバックが発生しない程度の加圧条件において,封止用樹脂シートを完全に熱硬化させる場合を想定した条件」であるということが特定されていない。
ウ そうすると,「封止用樹脂シート」が,加圧した状態を維持したまま,「圧力3MPa,温度150℃で1時間熱硬化」し,その後,前記圧力を除いた際にスプリングバックが生じるような組成を有する場合には,そのようなスプリングバックが生じた封止用樹脂シートの熱伝導率を1として基準となし,当該基準となる値に対して0.8以上となる条件で第一次熱硬化を行ったとしても,このような第一次熱硬化後の封止用樹脂シートには,スプリングバックが発生していることは明らかであるから,そのような場合においてまで,前記発明の課題(前記(1))である「封止用樹脂シートの熱伝導性をより好適に発揮させること」を解決できるとはいえないと考えるべきである。
エ すなわち,本願の発明の詳細な説明の記載からは,本願の請求項1に記載された発明において特定される範囲においてまで,本願の課題が解決されることを,発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識からは理解することができない。

4 当審の判断のむすび
したがって,特許請求の範囲の請求項1の記載は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。

第5 むすび
以上のとおり,請求項1に係る特許請求の範囲の記載は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきであるから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-13 
結審通知日 2019-05-14 
審決日 2019-05-27 
出願番号 特願2014-121402(P2014-121402)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 英敏堀江 義隆  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 鈴木 和樹
恩田 春香
発明の名称 電子デバイス装置の製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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