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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1353499
審判番号 不服2018-5083  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-12 
確定日 2019-07-30 
事件の表示 特願2016-537891「モノのインターネットイベント管理システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 5日国際公開、WO2015/031750、平成28年11月10日国内公表、特表2016-535359、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2014年8月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年8月29日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成28年3月24日に審査請求がなされると共に翻訳文,手続補正書が提出され,平成29年5月22日付けで拒絶の理由が通知され,同年8月25日に意見書と共に手続補正書が提出され,同年12月7日付けで拒絶査定(謄本送達日同年12月12日)がなされ,これに対して平成30年4月12日に審判請求がなされると共に手続補正がなされ,同年6月13日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ,平成31年3月6日付けで当審より拒絶の理由が通知され,令和元年6月11日に意見書と共に手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成29年12月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項1-3,6-10,13,14
・引用文献1-2

・請求項5,12
・引用文献1-3

<引用文献等一覧>
1.高田秀志ほか,有効期限に基づく時間的正当性を考慮した時間的オブジェクトモデルとその応用,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers,1996年 7月25日,第96巻 第176号,67-72ページ
2.特開2007-157149号公報
3.加藤悠一郎ほか,携帯電話を用いた異種ネットワークデバイス連携システムの開発,情報処理学会研究報告 平成21年度▲6▼ [DVD-ROM],日本,社団法人情報処理学会,2010年 4月15日,Vol.2010-UBI-25, No.22,1-6ページ


第3 本願発明

本願請求項1乃至16に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明16」という。)は,令和元年6月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
モノのインターネット(IoT)デバイスのためのイベント管理に関連する、複数のコンピューティングデバイスを含む通信ネットワーク内において、前記通信ネットワーク内のサービス層における前記複数のコンピューティングデバイスのうちのコンピューティングデバイスのプロセッサによって実行される方法であって、前記方法は、
前記通信ネットワーク内の前記サービス層において、イベントオブジェクトにおいて定義されているイベント式の条件が満たされていることを決定することであって、前記イベント式は、イベントに関連付けられており、前記イベント式は、前記通信ネットワーク内の少なくとも1つのリソースからの値を使用し、前記イベントオブジェクトは、前記サービス層において記憶されており、前記イベントオブジェクトは、前記イベントがどのように評価されるべきかを示す状態値を含む制御ハンドラを含み、
前記イベントオブジェクトは、前記イベント式を含むイベント定義を含み、
前記イベント定義は、トリガ優先順位を含み、前記トリガ優先順位は、少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す、ことと、
前記イベント式の条件が満たされていることを決定することに応答して、前記通信ネットワーク内の前記サービス層において、前記イベント式の条件が満たされていることを示すものを生成することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記イベント定義は、前記式のためのリソースデータをどのように取得するかを示すトリガ条件を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イベントオブジェクトは、式が真であると評価するときに何が起こるかを示す通知ハンドラを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イベントオブジェクトは、どのイベント機能性が前記コンピューティングデバイスによってサポートされているかを示すオブジェクト情報を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記サービス層は、前記通信ネットワークのサーバ、ゲートウェイまたは他のノードにおいて実装されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
モノのインターネット(IoT)デバイスのためのイベント管理に関連する、プロセッサとコンピュータ実行可能な命令を記憶しているメモリとを備えているデバイスであって、前記命令は、前記プロセッサによって実行されると、
通信ネットワークのサービス層のインスタンスの機能を実行することと、
前記サービス層において、イベントオブジェクトにおいて定義されているイベント式の条件が満たされていることを決定することであって、前記イベント式は、イベントに関連付けられており、前記イベント式は、前記通信ネットワーク内の少なくとも1つのリソースからの値を使用し、前記イベントオブジェクトは、前記サービス層において記憶されており、前記イベントオブジェクトは、前記イベントがどのように評価されるべきかを示す状態値を含む制御ハンドラを含み、
前記イベントオブジェクトは、前記イベント式を含むイベント定義を含み、
前記イベント定義は、トリガ優先順位を含み、前記トリガ優先順位は、少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す、ことと、
前記イベント式の条件が満たされていることを決定することに応答して、前記通信ネットワーク内の前記サービス層において、前記イベント式の条件が満たされていることを示すものを生成することと
を前記デバイスに行わせる、デバイス。
【請求項7】
前記イベント定義は、前記式のためのリソースデータをどのように取得するかを示すトリガ条件を含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記イベントオブジェクトは、式が真であると評価するときに何が起こるかを示す通知ハンドラを含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
前記イベントオブジェクトは、どのイベント機能性が前記デバイスによってサポートされているかを示すオブジェクト情報を含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスは、前記通信ネットワークのサーバ、ゲートウェイまたは他のノードを含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項11】
前記イベント式は、複数のリソースからのデータを用いる複合イベント式である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記リソースは、前記サービス層の外側に配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記イベント式は、前記サービス層の外側でアプリケーションによって動的に生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記イベント式は、複数のリソースからのデータを用いる複合イベント式である、請求項6に記載のデバイス。
【請求項15】
前記リソースは、前記サービス層の外側に配置されている、請求項6に記載のデバイス。
【請求項16】
前記イベント式は、前記サービス層の外側でアプリケーションによって動的に生成される、請求項6に記載のデバイス。」


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,高田秀志ほか,有効期限に基づく時間的正当性を考慮した時間的オブジェクトモデルとその応用,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers,1996年 7月25日,第96巻 第176号,67-72ページ(以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「近年,プラント監視制御システムにおける機能の高度化や低価格化への要求から,従来の制御用計算機だけでなく,ワークステーションやパソコンなどの汎用計算機も統合してシステムが構築されるようになっている.プラント監視システムは,プラントから実時間性を確保してデータを収集し,それを操作員に理解しやすい形式で提供することが要求される.代表的なものとしては,例えば,プラント状態量の変化をグラフで表示したり,異常を検知して警報を発したりするオンラインの監視システムや,製品に不具合が見つかった場合に,その製品の製造履歴を見る製造管理システムなどがある.このようなシステムの構築を支援するためのデータベースシステムでは,時間的に絶えず変化するプラント状態量に関するデータと,それほど変更が頻繁でない設備などのデータを統合して扱う必要がある.この場合,プラントから収集される時間的なデータをどうモデル化し,それを設備などの非時間的なデータとどのように関連付けて管理するかが問題となる.」(68ページ左欄2乃至20行)

B 「本論文では,上記のような問題点を踏まえて,プラントから収集されるデータをオブジェクトとして扱うための時間的オブジェクトモデルを提案する.本モデルでは,プラントからの時間的データを,瞬時値,時系列値,事象値に分類し,それらをクラスとして提供する.また,オブジェクトとして表現されたプラントの状態量が,現実のプラントの状態と時間的に矛盾していないことを管理するために,時間的正当性という概念を定義する.さらに,オブジェクトとして表現された事象値をもとに,能動機構を実現する枠組みについて述べる.」(68ページ右欄3乃至13行)

C 「2 プラント監視システムの構成
プラントシステムは,制御系と情報系で構成される.制御系には,制御用計算機,センサ,アクチュエータなどが含まれ,これらがトークンリング方式などで実時間性を保証した制御系ネットワークで接続される.制御系ネットワークは一般に,転写メモリ(Reflective Memory)と呼ばれる一種の分散共有メモリによりノード間の通信を行う.一方,情報系には,生産管理や品質管理,帳票管理などの業務支援システムが含まれ,従来からの大型計算機に加えて,ワークステーションやパソコンなどの計算機が,イーサネットなどの汎用ネットワークで接続される.
このようなシステムを実現するために,我々は図1に示すような構成を採っている.この構成では,制御系ネットワークからのデータ獲得・格納処理を実時間性を保証して行うReal-Time Data Server(RTDS)と,RTDSで獲得されたデータをアプリケーションに適した形で利用できる環境を提供するReal-Time View Server(RTVS)に分けて,制御系と情報系の統合を実現している.」(68ページ右欄16乃至35行)

D 「2.1 Real-Time Data Server
RTDSの構成および機能については,[9][10][11]に詳しいので,ここでは概要のみを述べる.RTDSは,最新の時刻印付きデータの周期的な転送,任意の過去の期間のトレンドデータの検索,事象発生の通知の機能を有する.」(68ページ右欄下から4行乃至69ページ左欄上から2行)

E 「2.2 Real-Time View Server
RTVSは,一般のオブジェクト指向データベースが提供している永続オブジェクトに加えて,RTDSによって提供される時間的性質を持ったプラントデータを仮想的にオブジェクトとして扱えるデータベースサーバである.本論文では,プラントデータを扱うための仮想的なオブジェクトを時間的オブジェクトと呼ぶ.以下に,RTVSの構成および機能の概要を述べる.

…(中略)…

・RTDSの状態変化通知機能により通知された事象をアプリケーションに通知するためにイベントキューを設け,通知されたイベントに基づいて処理を自動的に起動できる能動機構を提供する.これについては,3.3章で詳しく述べる.」(69ページ左欄27行乃至右欄10行)

F 「3.1 時間的オブジェクトとその時間的正当性
時間的オブジェクトとは,時間的性質を持つオブジェクトである.プラント監視向けの時間的オブジェクトを定義するために,オブジェクトが持つ時間的性質によって,以下の3つに分類する.
・リアルタイムオブジェクト
オブジェクトとして表現されたある監視対象の現在の状態を表す.
・トレンドオブジェクト
オブジェクトとして表現されたある監視対象のある時区間での状態の列を表す.
・イベントオブジェクト
オブジェクトとして表現されたある監視対象における事象の発生を表す.」(69ページ右欄18乃至31行)

G 「3.1.3 イベントオブジェクト
イベントオブジェクトは,オブジェクトとして表現された監視対象の状態変化を,付随するパラメタ(例えば,投入された製品のロット番号など)と共に通知するためのものである.イベントオブジェクトもクライアントキャッシュ上に置かれるが,アプリケーションがイベントオブジェクトにアクセスした際,何らかの状態変化が通知されていれば読み出しを許可し,通知されていなければ読み出し処理をブロックするか,通知されていない旨を通知するかの制御を行う必要がある.従って,イベントオブジェクトに対しても,時間的正当性の概念は存在し,以下のように定義される.

…(中略)…

ここで言うイベントキューとは,図1で示したアーキテクチャにおける,RTVSからアプリケーションへのキューのことである.これに基づいたイベントオブジェクトの時間的正当化処理は,アプリケーションがイベントオブジェクトの内容を読み出そうとした時点で,以下の手順により行われる.
Step 1:上記の評価に従って,クライアントキャッシュ上のイベントオブジェクトが正当であるかどうか判定する.
Step 2:正当であれば,終了する.
Step 3:正当でないならば,正当であるまで正当化処理をブロックするか,あるいは,正当でない旨をアプリケーションに通知する.このどちらを行うかは,イベントオブジェクト生成の際にアプリケーションが指定する.」(70ページ右欄42行乃至71ページ左欄21行)

H 「3.3 能動機構
イベントオブジェクトは,プラント内で発生した状態変化をアプリケーションが読み出すための受動的な機能に加えて,発生した状態変化に応じてあらかじめ登録されたメソッドを能動的に起動することにより,能動機構を実現する機能を提供している.このどちらの機能を利用するかは,アプリケーションが呼び出すイベントオブジェクト内のメソッドによって指定できる.能動機構は,ECA機構とも呼ばれ,ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行するというものである.
本オブジェクトモデル上で提供される能動機構は,以下のように対応する.
(1)プラントからのデータ獲得処理を周期的に起動するタイマからの割り込みを事象(Event)と見なす.
(2)獲得したデータに対して条件(Condition)を評価する.
(3)条件を満たせば,事象と条件の組に対してイベントオブジェクトにあらかじめ登録されたメソッドを,動作(Action)として実行する.
本機構により,例えば,製造ライン中のある設備の稼働状態を周期的に獲得し,状態変化を検知して製品の流れを管理することにより,製品データを自律的に構築していくなどの処理が可能となる.」(71ページ右欄1乃至26行)

2 引用発明

ア 上記記載事項Aの「プラント監視システムは,プラントから実時間性を確保してデータを収集し,それを操作員に理解しやすい形式で提供することが要求される.」との記載,及び「このようなシステムの構築を支援するためのデータベースシステムでは,時間的に絶えず変化するプラント状態量に関するデータと,それほど変更が頻繁でない設備などのデータを統合して扱う必要がある.」との記載から,引用例1には,“プラントから実時間性を確保してデータを収集し,それを操作員に理解しやすい形式で提供するプラント監視システムにおいては,時間的に絶えず変化するプラント状態量に関するデータと,それほど変更が頻繁でない設備などのデータを統合して扱う必要があ”ることが記載されているといえる。

イ 上記記載事項Bの「本論文では,上記のような問題点を踏まえて,プラントから収集されるデータをオブジェクトとして扱うための時間的オブジェクトモデルを提案する.本モデルでは,プラントからの時間的データを,瞬時値,時系列値,事象値に分類し,それらをクラスとして提供する.」との記載から,引用例1には,“プラントから収集されるデータをオブジェクトとして扱うための時間的オブジェクトモデルでは,プラントからの時間的データを,瞬時値,時系列値,事象値に分類し,それらをクラスとして提供する方法”について記載されているといえる。

ウ 上記記載事項Cの記載から,引用例1には,“プラントシステムは,制御系と情報系で構成され,前記制御系には,制御用計算機,センサ,アクチュエータなどが含まれ,これらが制御系ネットワークで接続され,前記制御系ネットワークは一種の分散共有メモリによりノード間の通信を行”うこと,“前記情報系には,従来からの大型計算機に加えて,ワークステーションやパソコンなどの計算機が,イーサネットなどの汎用ネットワークで接続され”ること,及び,“前記制御系ネットワークからのデータ獲得・格納処理を実時間性を保証して行うReal-Time Data Server(RTDS)と,前記RTDSで獲得されたデータをアプリケーションに適した形で利用できる環境を提供するReal-Time View Server(RTVS)に分けて,制御系と情報系の統合を実現”することが記載されているといえる。

エ 上記記載事項Dの「RTDSは,最新の時刻印付きデータの周期的な転送,任意の過去の期間のトレンドデータの検索,事象発生の通知の機能を有する.」との記載から,引用例1には,“前記RTDSは,最新の時刻印付きデータの周期的な転送,任意の過去の期間のトレンドデータの検索,事象発生の通知の機能を有”することが記載されているといえる。

オ 上記記載事項Eの「RTVSは,一般のオブジェクト指向データベースが提供している永続オブジェクトに加えて,RTDSによって提供される時間的性質を持ったプラントデータを仮想的にオブジェクトとして扱えるデータベースサーバである.本論文では,プラントデータを扱うための仮想的なオブジェクトを時間的オブジェクトと呼ぶ.」との記載から,引用例1には,“前記RTVSは,一般のオブジェクト指向データベースが提供している永続オブジェクトに加えて,前記RTDSによって提供される時間的性質を持ったプラントデータを仮想的にオブジェクトとして扱えるデータベースサーバであり,プラントデータを扱うための仮想的なオブジェクトを時間的オブジェクトと呼”ぶことが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Eの「RTDSの状態変化通知機能により通知された事象をアプリケーションに通知するためにイベントキューを設け,通知されたイベントに基づいて処理を自動的に起動できる能動機構を提供する.」との記載から,引用例1には,“前記RTDSの状態変化通知機能により通知された事象をアプリケーションに通知するためにイベントキューを設け,通知されたイベントに基づいて処理を自動的に起動できる能動機構を提供”することが記載されているといえる。

カ 上記記載事項Fの「プラント監視向けの時間的オブジェクトを定義するために,オブジェクトが持つ時間的性質によって,以下の3つに分類する.
…(中略)…
・イベントオブジェクト
オブジェクトとして表現されたある監視対象における事象の発生を表す.」との記載から,引用例1には,“前記時間的オブジェクトには,オブジェクトとして表現されたある監視対象における事象の発生を表すイベントオブジェクトが定義され”ることが記載されているといえる。

キ 上記記載事項Gの「イベントオブジェクトは,オブジェクトとして表現された監視対象の状態変化を,付随するパラメタ(例えば,投入された製品のロット番号など)と共に通知するためのものである.」との記載から,引用例1には,“前記イベントオブジェクトは,オブジェクトとして表現された監視対象の状態変化を,付随するパラメタと共に通知するためのもの”であることが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Gの「これに基づいたイベントオブジェクトの時間的正当化処理は,アプリケーションがイベントオブジェクトの内容を読み出そうとした時点で,以下の手順により行われる.
Step 1:上記の評価に従って,クライアントキャッシュ上のイベントオブジェクトが正当であるかどうか判定する.
Step 2:正当であれば,終了する.
Step 3:正当でないならば,正当であるまで正当化処理をブロックするか,あるいは,正当でない旨をアプリケーションに通知する.」との記載から,引用例1には,“前記イベントオブジェクトの時間的正当化処理において,アプリケーションがイベントオブジェクトの内容を読み出そうとした時点で,前記イベントオブジェクトが正当であるかどうか判定し,正当でないならば,正当であるまで正当化処理をブロックするか,あるいは,正当でない旨をアプリケーションに通知”することが記載されているといえる。

ク 上記記載事項Hの「イベントオブジェクトは,プラント内で発生した状態変化をアプリケーションが読み出すための受動的な機能に加えて,発生した状態変化に応じてあらかじめ登録されたメソッドを能動的に起動することにより,能動機構を実現する機能を提供している.このどちらの機能を利用するかは,アプリケーションが呼び出すイベントオブジェクト内のメソッドによって指定できる.能動機構は,ECA機構とも呼ばれ,ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行するというものである.」との記載から,引用例1には,“前記イベントオブジェクトは,発生した状態変化に応じてあらかじめ登録されたメソッドを能動的に起動することにより,ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行するという能動機構を実現する機能を提供”することが記載されているといえる。
同じく上記記載事項Hの「本オブジェクトモデル上で提供される能動機構は,以下のように対応する.
(1)プラントからのデータ獲得処理を周期的に起動するタイマからの割り込みを事象(Event)と見なす.
(2)獲得したデータに対して条件(Condition)を評価する.
(3)条件を満たせば,事象と条件の組に対してイベントオブジェクトにあらかじめ登録されたメソッドを,動作(Action)として実行する.」との記載から,引用例1には,“獲得したデータに対して条件(Condition)を評価し,条件を満たせば,事象と条件の組に対して前記イベントオブジェクトにあらかじめ登録されたメソッドを,動作(Action)として実行する”ことが記載されているといえる。

ケ 以上上記ア乃至クより,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「プラントから実時間性を確保してデータを収集し,それを操作員に理解しやすい形式で提供するプラント監視システムにおいては,時間的に絶えず変化するプラント状態量に関するデータと,それほど変更が頻繁でない設備などのデータを統合して扱う必要があり,
プラントから収集されるデータをオブジェクトとして扱うための時間的オブジェクトモデルでは,プラントからの時間的データを,瞬時値,時系列値,事象値に分類し,それらをクラスとして提供する
方法であって,
プラントシステムは,制御系と情報系で構成され,前記制御系には,制御用計算機,センサ,アクチュエータなどが含まれ,これらが制御系ネットワークで接続され,前記制御系ネットワークは一種の分散共有メモリによりノード間の通信を行い,
前記情報系には,従来からの大型計算機に加えて,ワークステーションやパソコンなどの計算機が,イーサネットなどの汎用ネットワークで接続され,
前記制御系ネットワークからのデータ獲得・格納処理を実時間性を保証して行うReal-Time Data Server(RTDS)と,前記RTDSで獲得されたデータをアプリケーションに適した形で利用できる環境を提供するReal-Time View Server(RTVS)に分けて,制御系と情報系の統合を実現し,
前記RTDSは,最新の時刻印付きデータの周期的な転送,任意の過去の期間のトレンドデータの検索,事象発生の通知の機能を有し,
前記RTVSは,一般のオブジェクト指向データベースが提供している永続オブジェクトに加えて,前記RTDSによって提供される時間的性質を持ったプラントデータを仮想的にオブジェクトとして扱えるデータベースサーバであり,プラントデータを扱うための仮想的なオブジェクトを時間的オブジェクトと呼び,
前記RTDSの状態変化通知機能により通知された事象をアプリケーションに通知するためにイベントキューを設け,通知されたイベントに基づいて処理を自動的に起動できる能動機構を提供し,
前記時間的オブジェクトには,オブジェクトとして表現されたある監視対象における事象の発生を表すイベントオブジェクトが定義され,
前記イベントオブジェクトは,オブジェクトとして表現された監視対象の状態変化を,付随するパラメタと共に通知するためのものであり,
前記イベントオブジェクトの時間的正当化処理において,アプリケーションがイベントオブジェクトの内容を読み出そうとした時点で,前記イベントオブジェクトが正当であるかどうか判定し,正当でないならば,正当であるまで正当化処理をブロックするか,あるいは,正当でない旨をアプリケーションに通知し,
前記イベントオブジェクトは,発生した状態変化に応じてあらかじめ登録されたメソッドを能動的に起動することにより,ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行するという能動機構を実現する機能を提供し,
獲得したデータに対して条件(Condition)を評価し,条件を満たせば,事象と条件の組に対して前記イベントオブジェクトにあらかじめ登録されたメソッドを,動作(Action)として実行する
方法。」

3 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,特開2007-157149号公報(平成19年6月21日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

I 「【0003】
さまざまな協働する異種のデバイス(例えば、PDA、スマートフォン、センサデバイス、RFIDタグ、埋込みデバイス、PC類、サーバ、GPS衛星、コンピューティングネットワーク、電話、テレビなど)、またはサービス(例えば、様々なソフトウェアプログラム、ルーチン、プラットフォーム、および実行可能コード)の形態で実行される高度に分散化されたアプリケーションによるユビキタスコンピューティングアプリケーション環境においては、様々な異なる通信技術およびプロトコルを使用して、それらのコンピューティング能力を生かす。個々のデバイスは、より複雑なサービスまたはアプリケーションへと組み合せることができる、すなわち、「組み立て」可能なコンポーネントまたはサービスを実行する。このようなコンポーネントベースまたはサービスベースのユビキタスアプリケーション開発方法は、利用可能なデバイスの集合への機能の分散をサポートし、異なった/新規のアプリケーションにおけるコンポーネントのより良い再利用を可能にし、別々に開発およびテストできる明確に定義されたインタフェースで、機能全体を複数のコンポーネントに分割することによって、ユビキタスアプリケーションの開発をサポートする。」

J 「【0022】
図1は、組み立てモデルと検証スキームとが利用できるスマートアイテムインフラストラクチャ100のブロック図である。スマートアイテムインフラストラクチャ100は、デバイス層102、デバイスレベルサービス層104、ビジネスプロセスブリッジ層106、システム接続層108および企業アプリケーション層110を含む。デバイス層102は、様々な異なるハードウェアとソフトウェアと通信プロトコルとを使用して、多数のグループ、ローカルネットワーク、および/または物理的位置にわたって通信する様々なデバイスを含むとみなすことができる。一方、106、108、110層は、ビジネスデータ処理システムもしくはサービスの一部か、またはそれらに関連付けられているとみなすことができる。

…(中略)…

【0027】
デバイスレベルサービス層104は、デバイス層102によって使用される配置可能なサービスを管理する。従って、デバイスレベルサービス層104は、サービスマッパー140、システムモニタ142、サービスレポジトリ144aおよびデバイスレポジトリ114bを含む。
【0028】
サービスレポジトリ144aとデバイスレポジトリ114bは、少なくとも2種類のサービスとデバイス、すなわち複合およびアトミックサービスと、複合およびアトミックデバイスを格納することができる。複合サービスは、通常、それらのタスクを満たすために別のサービスに依存し、それ自身の直接実行可能なコードを持たなくてもよい。むしろ、複合サービスは、対応するサービスの記述に格納される実行可能なサービスの組み立て記述を含むことができる。従って、複合サービスは、1つのサービス実行可能性すなわちサービス組み立て記述を有することができる。逆に、アトミックサービスは、通常、別のサービスを使用せず、それ自身で直接実行可能なコードを有する。また、アトミックサービスは異なるプラットフォームに配置可能であってよいので、アトミックサービスは、複数のサービス実行可能性を有することができ、たとえば、異なるプラットフォームの各々に関連付けられたサービスを有することができる。同様に、アトミックデバイスは、通常、スタンドアロンのデバイスであり、一方で、複合デバイスは、複数の構成アトミックデバイスから組み立てられる。
【0029】
サービスレポジトリとデバイスレポジトリ144は、サービスおよびデバイスメタデータとを記憶することもでき、このようなサービスメタデータは、詳細に記述され、サービスあるいはデバイス名、識別子、バージョン、あるいはベンダを含むことができ、またはサービスあるいはデバイスの実行時の要件を記述することもでき、実行時要件には、例えば、技術的な配置要件(例えば、高帯域または必要な最低処理電力)、意味構造的な要件(例えば、受信デバイスが、直列接続を有し、通常の送電線電力および/または近くの多数のデバイスに対するバッテリーバックアップを有すること)、および空間的要件(例えば、受信デバイスは地階または特定の建物の南側にあること)が含まれる。
【0030】
実行時、システムモニタ142は、現在のシステム状態を監視する。サービス状態の任意の部分がシステムモニタに向けられるかどうか、またどのように向けられるかは、設計時にサービスの開発者によって設定することができる。この状態利用可能性情報は、その後、システムアドミニストレーターとサービスマッパー140コンポーネントの両方に利用可能である。また、上述のように、サービスマッパー140は、配置要件を受信し、その後、例えば、サービスメタデータをデバイスメタデータに一致させることによって、対応するサービスをどのデバイス上に配置すべきかを決定し、デバイスメタデータは、スマートアイテムデバイスおよび関連するローカルネットワークの現在の状態を含むことができる。また、本書に説明するように、サービスマッパー140は、(システムモニタ142によって認識されるように)ネットワーク状態の変化を含むあるイベントまたは条件に反応することができ、その後、所与の配置要求/要件をより満たすために、サービスを再マッピングするか、サービスのインスタンスを追加または除去するかを決定することができる。

…(中略)…

【0033】
ルールプロセッサ120は、データレポジトリ122を使用して、関心のある全ての物理的オブジェクトを追跡することができる。例えば、所与の追跡してきたオブジェクトの現在の状態、位置、タイムスタンプ、または関連するビジネス取引の追跡を続け、ならびに予測される将来の行動を追跡することができる。データレポジトリ122から集積された情報は、定期的に、例えば日毎または月毎に、報告することができる。」

4 引用例3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の第一国出願前に既に公知である,加藤悠一郎ほか,携帯電話を用いた異種ネットワークデバイス連携システムの開発,情報処理学会研究報告 平成21年度▲6▼(当審注:○の中に6) [DVD-ROM],日本,社団法人情報処理学会,2010年 4月15日,Vol.2010-UBI-25, No.22,1-6ページ(以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

K 「3.1 システム構成要素
ユーザデバイス センサや家電などのデバイス情報の参照や,センサイベントと家電のアクションの関係を設定するための端末である.PUCCプロトコルを採用しているため,PUCCノードとなる.このため,ユーザアプリケーションはPUCCプロトコルのミドルウェアAPIの提供する各種メソッドを利用して任意の場所からセンサデバイス発見,イベント検知サービス,家電の操作などが実行可能である.
センサゲートウェイ 超小型センサノードは処理能力が低く,PUCCプラットフォームの実相が困難であるため,センサネットワークの統合にはセンサゲートウェイを用いることで,様々なセンサの処理を行う.センサゲートウェイは,自身の担当するセンサネットワークについてデータをデータベースに蓄積するとともに,複合イベント検知などのセンササービスを提供するのが役割である.また,PUCCプロトコルを採用し,ユーザデバイスと同様PUCCノードとなる.このため,ユーザデバイスと同様PUCCプロトコルのミドルウェアAPIの提供する各種メソッドを利用可能である.」(3ページ右欄5乃至17行)

L 「3.2.1 イベントツリーを用いた複合イベント検知
まず,登録フェーズについて述べる.ユーザアプリケーションはまず任意のノード(ここではセンサGWを指す)を選択し,Create Composite Deviceサービスを実行する.このサービスは仮想的なデバイスを作成し,ユーザにそのURIを提示する.次にあらかじめ得た任意のセンサネットワークのメタデータの情報を元に単一イベントを組み合わせて複合イベント条件式を作成し,先に選択したデバイスに対して複合イベントの条件式を含めたSubscribeメッセージを送信する.これにより先ほどの仮想デバイスはそのアプリケーションより提示された独自の複合イベントを検知できるデバイスとなると共に,イベントが発生したときにはアプリケーションに対して通知できる.」(4ページ左欄22乃至30行)


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(あ)引用発明の「情報系」に「接続され」る,「従来からの大型計算機」や「ワークステーションやパソコンなどの計算機」は,本願発明1の「複数のコンピューティングデバイス」に相当し,また,当該「情報系」の「イーサネットなどの汎用ネットワーク」は,本願発明1の「通信ネットワーク」に相当する。

(い)引用発明の「制御系ネットワークからのデータ獲得・格納処理を実時間性を保証して行うReal-Time Data Server(RTDS)」で獲得されたデータを「アプリケーションに適した形で利用できる環境を提供するReal-Time View Server(RTVS)」には,本願発明1の「コンピューティングデバイスのプロセッサ」に対応する構成を有することは自明であり,引用発明の「方法」は,当該RTVSを含む「情報系」の環境で実行されることは明らかであるから,上記(あ)の認定も踏まえ,引用発明と本願発明1とは,“複数のコンピューティングデバイスを含む通信ネットワーク内において,前記通信ネットワーク内の前記複数のコンピューティングデバイスのうちのコンピューティングデバイスのプロセッサによって実行される方法”である点で一致する。

(う)引用発明の「時間的オブジェクト」には,「オブジェクトとして表現されたある監視対象における事象の発生を表すイベントオブジェクトが定義され」,当該「イベントオブジェクト」は,「オブジェクトとして表現された監視対象の状態変化を,付随するパラメタと共に通知するためのもの」であり,「発生した状態変化に応じてあらかじめ登録されたメソッドを能動的に起動することにより,ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行するという能動機構を実現する機能を提供」するものである。すると,引用発明の「イベントオブジェクト」には,「ある事象(Event)」の「発生」と「条件(Condition)」との間に何らかの関係式が設定され,「動作(Action)を実行」するという機能があることが理解され,当該関係式は,本願発明1の「イベント式」に相当するといえることから,引用発明の「イベントオブジェクト」は,本願発明1の,「イベント式」が「定義」されている「イベントオブジェクト」に相当するものといえ,また引用発明の「イベントオブジェクト」は,本願発明1の「イベントオブジェクト」と,“イベント式”が“イベントに関連付けられて”いる点で一致するといえる。
また,引用発明の「イベントオブジェクト」は,上記のとおり「発生した状態変化に応じてあらかじめ登録されたメソッドを能動的に起動することにより,ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行するという能動機構を実現する機能を提供」するものであるが,「プラントシステム」の「制御系」には,「センサ,アクチュエータなどが含まれ,これらが制御系ネットワークで接続され」ており,当該「制御系」には,「制御系ネットワークからのデータ獲得・格納処理を実時間性を保証して行うReal-Time Data Server(RTDS)」が設けられ,当該「RTDS」は,「最新の時刻印付きデータの周期的な転送」や「事象発生の通知の機能を有し」ていて,上記「イベントオブジェクト」が「ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行するという能動機構を実現」する際には,「最新の時刻印付きデータ」を用いて「事象発生の通知」を行っていることは明らかであり,当該「最新の時刻印付きデータ」は,本願発明1の「前記通信ネットワーク内の少なくとも1つのリソースからの値」に相当するといえる。そして,上記「イベントオブジェクト」が「ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価」するに際しては,本願発明1の「イベントがどのように評価されるべきかを示す状態値」に相当する値を用いていることは明らかであるから,引用発明と本願発明1とは,“前記通信ネットワーク内の少なくとも1つのリソースからの値を使用し,前記イベントオブジェクトは,前記イベントがどのように評価されるべきかを示す状態値を含”む点で一致するといえる。
さらに,引用発明は,「ある事象(Event)が発生したとき,条件(Condition)を評価し,満たしていれば動作(Action)を実行」することから,本願発明1の「イベントオブジェクトにおいて定義されているイベント式の条件が満たされていることを決定する」点においても一致するといえるから,以上総合して,引用発明と本願発明1とは,“イベントオブジェクトにおいて定義されているイベント式の条件が満たされていることを決定することであって,前記イベント式は,イベントに関連付けられており,前記イベント式は,前記通信ネットワーク内の少なくとも1つのリソースからの値を使用し,前記イベントオブジェクトは,前記イベントがどのように評価されるべきかを示す状態値を含”む点で一致する。

(え)引用発明は,「獲得したデータに対して条件(Condition)を評価し,条件を満たせば,事象と条件の組に対して前記イベントオブジェクトにあらかじめ登録されたメソッドを,動作(Action)として実行する」ものであるが,当該「動作(Action)」を「実行」するにあたり,何らかの値が生成されることは自明であるから,上記(う)での認定も踏まえ,引用発明と本願発明1とは,“前記イベント式の条件が満たされていることを決定することに応答して,前記イベント式の条件が満たされていることを示すものを生成する”点で一致する。

(お)以上,(あ)乃至(え)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
複数のコンピューティングデバイスを含む通信ネットワーク内において,前記通信ネットワーク内の前記複数のコンピューティングデバイスのうちのコンピューティングデバイスのプロセッサによって実行される方法であって,前記方法は,
イベントオブジェクトにおいて定義されているイベント式の条件が満たされていることを決定することであって,前記イベント式は,イベントに関連付けられており,前記イベント式は,前記通信ネットワーク内の少なくとも1つのリソースからの値を使用し,前記イベントオブジェクトは,前記イベントがどのように評価されるべきかを示す状態値を含み,
前記イベント式の条件が満たされていることを決定することに応答して,前記イベント式の条件が満たされていることを示すものを生成することと
を含む,方法。

〈相違点1〉
本願発明1が,「モノのインターネット(IoT)デバイスのためのイベント管理に関連する」ものであって,「前記通信ネットワーク内のサービス層における前記複数のコンピューティングデバイスのうちのコンピューティングデバイスのプロセッサによって実行される方法」であって,「イベントオブジェクトにおいて定義されているイベント式の条件が満たされていることを決定する」のが,「前記通信ネットワーク内の前記サービス層」であり,「イベントオブジェクト」が「サービス層において記憶されて」おり,「前記イベント式の条件が満たされていることを示すものを生成する」のが,「前記通信ネットワーク内の前記サービス層」であるのに対し,引用発明は,モノのインターネット(IoT)デバイスのためのイベント管理に関連することやサービス層についての特定がなされていない点。

〈相違点2〉
本願発明1の「イベントオブジェクト」は,「前記イベントがどのように評価されるべきかを示す状態値を含む制御ハンドラを含」むのに対し,引用発明は,制御ハンドラを含むことが特定されていない点。

〈相違点3〉
本願発明1が,「前記イベントオブジェクトは、前記イベント式を含むイベント定義を含み」,「前記イベント定義は、トリガ優先順位を含み、前記トリガ優先順位は、少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す」ものであるのに対し,引用発明は,イベントオブジェクトにイベント式を含むイベント定義を含み,当該イベント定義にトリガ優先順位を含み,前記トリガ優先順位が,少なくとも1つのリソースからの値が取得され,かつ,前記値が前記式の要件を部分的に満たした後,前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示すことが特定されていない点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑み,先に相違点3について検討する。
「イベントオブジェクト」に,「イベント定義を含」むことや,「前記イベント定義」が「トリガ優先順位を含」むこと,さらに当該「トリガ優先順位」に,「少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す」ことなどは,上記第4の3及び4に示した引用例2及び引用例3には記載も示唆もされておらず,当該事項は本願第一国出願前に周知であったともいえない。
したがって,上記その余の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至5について
本願発明2乃至5は,請求項1を引用するものであって,本願発明1の「前記イベントオブジェクトは、前記イベント式を含むイベント定義を含み」,「前記イベント定義は、トリガ優先順位を含み、前記トリガ優先順位は、少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明6について
本願発明6は,本願発明1とカテゴリー表現のみ異なるものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明7乃至16について
本願発明7乃至16は,請求項6を引用するものであって,本願発明6と同じ理由により,当業者であっても,引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由の概要

<特許法36条6項1号について>
当審より,特許請求の範囲に特定された事項によれば,本件明細書の記載のうち,サービス層にイベントオブジェクトを実装するものであることを特定するものと解される一方,本件明細書には,「モノのインターネット(IoT)デバイスのためのイベント管理」に関する記述があるのみであって,広く,いわゆるIoTに係らない分野における,イベント管理に関する記述は一切無く,出願時の技術常識に照らしても,請求項1乃至20に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず,請求項1乃至20に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない旨の拒絶理由を通知したが,令和元年6月11日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)により,本件補正後の請求項1及び6に,「モノのインターネット(IoT)デバイスのためのイベント管理に関連する」ことが特定されることによって,本拒絶理由は解消した。

<特許法29条2項について>
当審より,上記引用例1に記載された発明に基づいて,請求項1乃至20に係る発明は当業者が容易になし得た旨の拒絶理由を通知したが,本件補正により,本件補正後の請求項1及び6に,「前記イベントオブジェクトは、前記イベント式を含むイベント定義を含み」、「前記イベント定義は、トリガ優先順位を含み、前記トリガ優先順位は、少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す」ことが特定され,上記第5の1(2)で示したとおり,本拒絶理由は解消した。


第7 原査定についての判断

本件補正により,本件補正後の請求項1及び6は,「前記イベントオブジェクトは、前記イベント式を含むイベント定義を含み」,「前記イベント定義は、トリガ優先順位を含み、前記トリガ優先順位は、少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す」という技術的事項を有するものとなった。当該「前記イベントオブジェクトは、前記イベント式を含むイベント定義を含み」,「前記イベント定義は、トリガ優先順位を含み、前記トリガ優先順位は、少なくとも1つのリソースからの値が取得され、かつ、前記値が前記式の要件を部分的に満たした後、前記式のための他のリソースに対するリソースデータをいつ取得するべきかを示す」は,原査定における引用文献1乃至3(当審拒絶理由における引用例1乃至3)には記載されておらず,本願第一国出願前における周知技術でもないので,本願発明1乃至16は,当業者であっても,原査定における引用文献1乃至3に基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-17 
出願番号 特願2016-537891(P2016-537891)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 幸雄  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 須田 勝巳
山崎 慎一
発明の名称 モノのインターネットイベント管理システムおよび方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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