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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B66B
管理番号 1353572
審判番号 不服2018-10330  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-30 
確定日 2019-07-30 
事件の表示 特願2014-249968号「エレベータ用調速装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月20日出願公開、特開2016-108142号、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月10日の出願であって、平成30年2月21日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年3月13日に意見書が提出されたが、平成30年7月5日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。これに対して、平成30年7月30日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)。
「【請求項1】
ガバナロープが掛けられるガバナシーブと、
前記ガバナシーブの回転に伴って回転する第1の回転軸を有し、当該第1の回転軸の回転速度から第1の過速度を検出する第1の調速機と、
第2の回転軸を有し、当該第2の回転軸の回転速度から前記第1の過速度よりも遅い第2の過速度を検出する第2の調速機と、
前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に対し、当該第1の回転軸が第1の向きに回転し前記第2の過速度の検出が不要なときは遮断し、前記第1の向きとは反対の第2の向きに回転し前記第2の過速度の検出が必要なときは伝達するように構成された主クラッチ装置と、
前記第2の回転軸に対し、前記主クラッチ装置によって前記第2の向きの回転が伝達されて回転する向きの回転は許容し、これとは反対向きの回転を禁止する副クラッチ装置と、
を備えることを特徴とするエレベータ用調速装置。
【請求項2】
前記第2の調速機は、台座に設置されており、
前記副クラッチ装置は、
前記第2の回転軸が挿入されたワンウェイクラッチと、
前記ワンウェイクラッチを前記台座に固定する固定手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項3】
前記主クラッチ装置はワンウェイクラッチであることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項4】
前記主クラッチ装置は、
外周に歯が形成され、前記第2の回転軸と同軸上に設けられて、当該第2の回転軸と一体的に回転する爪車と、
前記第1の回転軸に対し、当該第1の回転軸の軸心を中心として、前記第1の回転軸と一体的に公転すると共に、前記爪車の径方向外方において前記第1の回転軸の径方向に変位自在に取り付けられた掛合部材と、
前記掛合部材を、前記第1の回転軸の径方向、前記爪車の外周面に向かって付勢する弾性部材と、
を有し、
前記第1の回転軸が前記第1の向きに回転すると、公転する前記掛合部材が、前記爪車の前記外周面を摺動した後、当該掛合部材に作用する遠心力により前記弾性部材の付勢力に抗して、前記爪車の前記外周面から離間し、
前記第1の回転軸が前記第2の向きに回転すると、前記掛合部材が、当該掛合部材に作用する遠心力によって前記爪車の外周面から離間する前に前記歯にかみ合って、前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に伝達するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項5】
前記掛合部材は、長さ方向が前記爪車の径方向と交差する向きとなる姿勢で設けられた軸体であり、
前記歯は、前記第2の回転軸の軸心からの径方向における距離が前記第1の向きに漸増するように傾斜した斜面部と、前記斜面部の前記第1の向きにおける終端部の、前記第2の回転軸の軸心方向内側に形成された鉤状部とを有し、
前記第1の回転軸が前記第1の向きに回転すると、前記掛合部材が前記爪車の前記外周面を摺動する間は、前記終端部を摺動して前記掛合部材が前記鉤状部を通過し、
前記第1の回転軸が前記第2の向きに回転すると、前記掛合部材が前記鉤状部と掛合す
ることにより、当該鉤状部を含む前記歯にかみ合うよう構成されていることを特徴とする請求項4に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項6】
前記鉤状部は、
前記爪車の周方向、前記第2の向きに切り込まれた第1の切込部と、当該第1の切込部の奥部からさらに前記第2の回転軸の径方向外方に切り込まれた第2の切込部を含み、
前記第1の回転軸が前記第2の向きに回転すると、前記掛合部材は、前記第1の切込部の奥部に当接した後、当該掛合部材に作用する遠心力によって第2の切込部の奥部まで変位して、前記鉤状部に掛合することを特徴とする請求項5に記載のエレベータ用調速装置。
【請求項7】
前記ガバナシーブと前記爪車とは、対向配置されており、
前記掛合部材は、前記ガバナシーブに設けられていることを特徴とする請求項4?6のいずれか1項に記載のエレベータ用調速装置。」

第3 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?3に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特許第4306014号公報

第4 当審の判断
1.引用文献1に記載の発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特許第4306014号公報)には、「調速装置」に関し図面とともに【請求項1】等の記載がされているところ、それらの記載内容からみて引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
[引用発明]
「調速用ロープと、
当該調速用ロープが巻き掛けられ、この調速用ロープの移動により回転する綱車と、
当該綱車の回転速度を調速し第1の過速度を検出する第1調速機構と、
前記綱車と前記綱車の回転を伝達する伝達機構を介して接続されており、当該伝達機構により前記綱車が正転する際には前記綱車の回転が伝達され前記第1の過速度よりも小さい第2の過速度を検出し、前記綱車が逆転する際には前記第2調速機構への前記綱車の回転が伝達解除され調速を停止する第2調速機構と
を有する調速装置。」

2.対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「調速用ロープ」は、本願発明1の「ガバナロープ」に相当する。
b.引用発明の「綱車」は、「調速用ロープが巻き掛けられ、この調速用ロープの移動により回転する」ものであるから、本願発明1の「ガバナシーブ」に相当する。
c.引用発明の「第1調速機構」は、「当該綱車の回転速度を調速し第1の過速度を検出する」ものであるところ、綱車が機構上回転軸を有することは自明であり、当該回転軸の回転速度から第1の過速度を検出するものであるといえるから、引用発明の「当該綱車の回転速度を調速し第1の過速度を検出する第1調速機構」は、本願発明1の「前記ガバナシーブの回転に伴って回転する第1の回転軸を有し、当該第1の回転軸の回転速度から第1の過速度を検出する第1の調速機」に相当する。
d.引用発明の「第1の過速度よりも小さい第2の過速度」は、当該第2の過速度が第1の過速度よりも遅いということと同じである。また、引用発明の「第2の調速機構」が機構上回転軸を有することは自明である。
したがって、上記c.をも踏まえると、引用発明の「前記綱車と前記綱車の回転を伝達する伝達機構を介して接続されており、当該伝達機構により前記綱車が正転する際には前記綱車の回転が伝達され前記第1の過速度よりも小さい第2の過速度を検出」する「第2調速機構」は、本願発明1の「第2の回転軸を有し、当該第2の回転軸の回転速度から前記第1の過速度よりも遅い第2の過速度を検出する第2の調速機」に相当する。
e.引用発明の「伝達機構」は、「前記綱車が正転する際には前記綱車の回転が伝達され」、「前記綱車が逆転する際には前記第2調速機構への前記綱車の回転が伝達解除され」るものであり、これによって、第2の調速機構により第2の過速度を検出、すなわち、第2の過速度の検出が必要な場合には、回転を伝達し、逆に、第2の調速機構による調速を停止、すなわち、第2の過速度の検出が不要な場合回転の伝達を解除するものである。
したがって、引用発明の、「前記綱車と前記綱車の回転を伝達する伝達機構」は、本願発明1の「主クラッチ」に相当し、引用発明の「当該伝達機構により前記綱車が正転する際には前記綱車の回転が伝達され前記第1の過速度よりも小さい第2の過速度を検出し、前記綱車が逆転する際には前記第2調速機構への前記綱車の回転が伝達解除され調速を停止する」ことは、本願発明1の「前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に対し、当該第1の回転軸が第1の向きに回転し前記第2の過速度の検出が不要なときは遮断し、前記第1の向きとは反対の第2の向きに回転し前記第2の過速度の検出が必要なときは伝達する」ことに相当する。
f.引用発明の「調速装置」は、本願発明1の「エレベータ用調速装置」に相当する。
g.以上のとおりであるから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「ガバナロープが掛けられるガバナシーブと、
前記ガバナシーブの回転に伴って回転する第1の回転軸を有し、当該第1の回転軸の回転速度から第1の過速度を検出する第1の調速機と、
第2の回転軸を有し、当該第2の回転軸の回転速度から前記第1の過速度よりも遅い第2の過速度を検出する第2の調速機と、
前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に対し、当該第1の回転軸が第1の向きに回転し前記第2の過速度の検出が不要なときは遮断し、前記第1の向きとは反対の第2の向きに回転し前記第2の過速度の検出が必要なときは伝達するように構成された主クラッチ装置と、
を備えるエレベータ用調速装置。」
[相違点]
本願発明1が、「主クラッチ装置」に加え、「前記第2の回転軸に対し、前記主クラッチ装置によって前記第2の向きの回転が伝達されて回転する向きの回転は許容し、これとは反対向きの回転を禁止する副クラッチ装置と」「を備える」のに対して、引用発明では、かかる「副クラッチ装置」に相当する構成を備えていない点。

イ 判断
本願発明1において、「副クラッチ装置」を備えたのは、「前記第1の回転軸の回転を前記第2の回転軸に対し、当該第1の回転軸が第1の向きに回転し前記第2の過速度の検出が不要なときは遮断し」た際にも、第2の回転軸が不用意に回転することを抑制するためであるところ(明細書段落【0010】?【0014】を参照。)、このような、いわば、一方向クラッチによって第1の回転軸から第2の回転軸への回転が遮断された場合にも、第2の回転軸が不用意に回転する(一方向クラッチによって完全には回転を遮断することができず、僅かながら回転を伝達してしまう)ことを抑制するという課題及び、その課題を解決するための手段、すなわち、引用発明の「伝達機構」において、綱車から第2調速機構への回転が遮断された際に、第2調速機構の回転を禁止するクラッチ装置を更に備える点については、引用文献1には記載も示唆もされていない。
また、上記のような、一方向クラッチの課題及びその課題を解決するためにクラッチ手段をさらに付加することが当業者において周知であるともいえない。
したがって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
よって、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明2?7について
本願発明2?7は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定構成を付加するものである。そして、本願発明1は、上記(1)イに説示のとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本願発明2?7も同様の理由により引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?7は、引用文献1に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2014-249968(P2014-249968)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B66B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎羽月 竜治  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 尾崎 和寛
小関 峰夫
発明の名称 エレベータ用調速装置  
代理人 浅野 哲平  
代理人 森 優  

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