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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C
管理番号 1353597
審判番号 不服2018-8713  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-26 
確定日 2019-07-18 
事件の表示 特願2014- 53888「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 5日出願公開、特開2015-174594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月17日の出願であって、平成29年8月31日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年3月16日付けで拒絶査定がされ、同年6月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年10月2日に上申書が提出されたものである。

第2 平成30年6月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年6月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成30年6月26日付けの手続補正の内容
平成30年6月26日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成29年10月26日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正する事項を含むものである。なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、前記カーカスのタイヤ内腔側に配された空気不透過性のゴムからなるインナーライナーと、前記カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部にトレッド補強層とを具えた空気入りタイヤであって、
タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、前記サイドウォール部は、厚さが2.0mm以下の最薄部を含み、
前記サイドウォール部のタイヤ半径方向の外方領域であるバットレス領域には、前記インナーライナーと前記カーカスとの間に、インスレーション層が配されており、
前記インスレーション層は、前記インナーライナーよりも硬質であり、かつ、JISA硬さが50?98°のゴムからなり、
前記インスレーション層は、タイヤ半径方向の内端及び外端を有し、
前記インスレーション層の前記内端は、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向外側に位置し、
前記内端と前記タイヤ最大幅位置との間のタイヤ半径方向の距離が5?15mmであり、
前記インスレーション層の前記外端は、前記トレッド補強層のタイヤ軸方向の外縁よりもタイヤ軸方向内側に位置し、
前記外端と前記トレッド補強層の前記外縁とのタイヤ軸方向の距離が6?15mmであることを特徴とする空気入りタイヤ。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、前記カーカスのタイヤ内腔側に配された空気不透過性のゴムからなるインナーライナーと、前記カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部にトレッド補強層とを具えた空気入りタイヤであって、
タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、前記サイドウォール部は、厚さが2.0mm以下の最薄部を含み、
前記サイドウォール部のタイヤ半径方向の外方領域であるバットレス領域には、前記インナーライナーと前記カーカスとの間に、インスレーション層が配されており、
前記インスレーション層は、前記インナーライナーよりも硬質であり、かつ、JISA硬さが50?98°のゴムからなり、
前記インスレーション層は、タイヤ半径方向の内端及び外端を有し、
前記インスレーション層の前記内端は、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向外側に位置し、
前記内端と前記タイヤ最大幅位置との間のタイヤ半径方向の距離が5?15mmであり、
前記インスレーション層の前記外端は、前記トレッド補強層のタイヤ軸方向の外縁よりもタイヤ軸方向内側に位置し、
前記外端と前記トレッド補強層の前記外縁とのタイヤ軸方向の距離が6?15mmであり、
前記ビード部は、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に先細状にのびる硬質ゴムからなるビードエーペックスを具え、かつ、前記カーカス及び前記ビードエーペックスのタイヤ外面側にクリンチゴムが配されており、
前記クリンチゴムは、本体部と、前記本体部の外面を形成し、タイヤがリムに装着されたときにリムと接触する表層部を含み、
前記表層部は、前記本体部よりも硬質のゴムで形成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。」

2 本件補正の適否
(1)本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ビード部」について、「前記ビード部は、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に先細状にのびる硬質ゴムからなるビードエーペックスを具え、かつ、前記カーカス及び前記ビードエーペックスのタイヤ外面側にクリンチゴムが配されており、
前記クリンチゴムは、本体部と、前記本体部の外面を形成し、タイヤがリムに装着されたときにリムと接触する表層部を含み、
前記表層部は、前記本体部よりも硬質のゴムで形成されている」とさらに限定するものであるから、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、また、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野は同一であるといえる。
しかし、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明は、上記限定により、「操縦安定を維持しつつタイヤ質量を低減させる空気入りタイヤを提供する」という課題に加え、「走行時のビード部4の変形を抑制して操縦安定性を向上させ」るという課題及び「リムRとの摩擦による表層部25の損傷を効果的に抑制する」という課題を解決するものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、「操縦安定を維持しつつタイヤ質量を低減させる空気入りタイヤを提供する」という課題を解決するものではあるものの、「走行時のビード部4の変形を抑制して操縦安定性を向上させ」るという課題及び「リムRとの摩擦による表層部25の損傷を効果的に抑制する」という課題を解決するものではないから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の解決しようとする課題が同一であるとはいえない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除、同第3号に規定する誤記の訂正及び同第4号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものともいえない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。

(2)独立特許要件の検討
仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

ア 引用文献に記載された事項等
(ア)引用文献1に記載された事項及び引用発明
a 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内において、頒布された特開2001-138708号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の記載(以下、順に「記載事項1a」のようにいい、総称して「引用文献1に記載された事項」という。)がある。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

1a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、硬度の高いゴムにより部分的にカーカス層が補強された空気入りタイヤに関し、特に、タイヤのサイドウォール部を薄肉化して軽量化するための技術として有用である。
【0002】
【従来の技術】近年、環境問題等の理由より、タイヤを軽量化することが望まれており、一般にはタイヤを薄肉化して対応する方法がとられている。その際、サイドウォール部やその周辺に対して、厚みを薄くすることが行われている。しかし、サイドウォール部等を薄くすると、特に横力に対するタイヤ剛性が低下し、このため操縦安定性が損なわれるという欠点があった。一方、高速使用されるハイパフォーマンスタイヤでは、有機材料補強層をサイドウォール部に配置してカーカス剛性を高めているなど、カーカス剛性の向上に対する要求もある。つまり、サイドウォール部の薄肉化とカーカス剛性の向上とは相反する関係にあり、サイドウォール部を薄くしながら、操縦安定性を十分維持するには、如何にして効率の良い補強を部分的に行うかが重要なポイントであった。
【0003】このような部分補強に関して、例えば特開平5-32104号公報には、第1ベルト層の端部近傍からサイドウォール部側にかけて(バットレス部近傍)、カーカス層の外側面にショア硬度65?75°の補強ゴムパッドを配置したタイヤが開示されている。
【0004】また、特開平7-1914号公報には、ベルト層の両端部を覆いつつ端部がカーカス層の上面にまで延びた高硬度ゴムシートを配置したタイヤが開示されている。更に、特開平7-25205号公報には、ベルト層とカーカス層との間にJISA硬度70?85°の補強ゴム層を配置したタイヤが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の如き従来技術は、何れも補強ゴム層をカーカス層の外側に配置するものであり、本発明者らの検討によると、このような補強のみでは、サイドウォール部の薄肉化したタイヤで、横力に対する十分なカーカス剛性を維持できないことが判明した。
【0006】なお、特開平3-157210号公報には、ビード部からベルト層端部の中央側のかなり広い範囲にかけて、カーカス層の内側に高硬度ゴムを配置して補強した空気入りラジアルタイヤが開示されているが、タイヤの軽量化のために効率良く部分補強を行い得るものではない。
【0007】そこで、本発明の目的は、効率良くカーカス層を補強することができ、サイドウォール部を薄くした場合でも、操縦安定性を十分維持することができる空気入りタイヤを提供することにある。」

1b 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく、高硬度ゴムによる部分的な補強について鋭意研究したところ、カーカス層の特定範囲の内側と外側の両側に高硬度ゴムを配置して補強することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

1c 「【0013】[作用効果]本発明によると、実施例の結果が示すように、カーカス層の特定範囲の内側と外側の両側に高硬度ゴムを配置して補強することにより、効率良くカーカス層を補強することができ、サイドウォール部を薄くした場合でも、操縦安定性を十分維持することができる。その理由の詳細は明確ではないが、次のように推測される。
【0014】横力に対してカーカス剛性を高めるには、バットレス部近傍でのカーカス層の曲げ(曲率変化)に対する剛性を高めること、バットレス部近傍での隣接する有機繊維(コード)の間隔の開き(以下、「目開き」という)を少なくすること、ベルト層による補強効果をベルト層の端部近傍で高めること、などが有効であるが、本発明における内側と外側の補強ゴムは、これらのいずれに対しても効果的である。つまり、横力によるタイヤへの剪断力は、カーカス層の曲げを生じさせるが、旋回内側の場合、高硬度の補強ゴムにより曲げ反力を大きくすることができ、特に内側補強ゴムでは圧縮反力も付加されるので、より有効に曲げに対するカーカス剛性を高めることができる。一方、旋回外側についても、外側に高硬度ゴムを配置することにより、曲げ反力を大きくすることができ、圧縮反力も付加されるので、より有効に引張りに対するカーカス剛性を高めることができる。また、カーカス層のバットレス部近傍では、走行中に目開きが生じることとなるが、特にその状態で横力が負荷されると、カーカス層による補強効果が小さくなるところ、高硬度の補強ゴムをバットレス部近傍に配置することで、目開きを抑制してカーカス層による補強効果を向上させることができる。更に、ベルト層の端部近傍では、繊維配列との関係でカーカス層に対する補強効果(タガ効果)が十分でなく、その部分で横力に対するカーカス剛性が不十分となるところ、その部分の内側に高硬度の補強ゴムを配置することで、横力に対するカーカス剛性を向上させることができる。また更に、カーカス層を両側から挟むように補強ゴムが配置されるため、上記の曲げ力が各補強ゴムの圧縮力と引張り力に効果的に変換されるので、厚みの薄い補強ゴムであっても有効な補強が行え、特にタイヤの軽量化に有利になる。
【0015】そして、上記のように補強ゴムを配置するのが有効な場所は、タイヤ赤道よりベルト層の最大幅の1/4だけベルト層端部側の位置からタイヤ最大幅の位置の範囲内に相当する。また、補強ゴムのJISA硬度を65?97°とすることで、上記のような補強効果が得られるが、硬度が高すぎると疲労特性や破壊特性が劣りタイヤ故障を発生させる。また、タイヤ構造によっては乗り心地も悪化して実用に供しない。」

1d 「【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、第1実施形態では、カーカス層の内側と外側に面状の補強ゴムを配置する例を、第2実施形態では、カーカス層の外側の補強ゴムとして断面三日月状のものを配置する例を示す。
【0020】〔第1実施形態〕本発明の空気入りタイヤは、図1に示すように、一対の環状のビード部1間を略半径方向に配列した有機繊維で補強するカーカス層5と、トレッド部4付近のカーカス層5の外側に配置されるベルト層6とを有してなる。図1に示す例では、カーカス層5は、ビード部1に配置されたビードワイヤーの集合体であるビードコア1aにて外側に折り返され係止されている。このカーカス層5は、略半径方向(ラジアル又はセミラジアル)に配列した有機繊維と、それを被覆するゴムからなり、単層又は複数層で構成される。但し、軽量化を図るには、単層(1プライ)の方が好ましい。
【0021】ベルト層6は、タイヤ赤道方向から傾斜(例えば20°前後)して配列したスチールコード等と、それを被覆するゴムからなり、通常コードの配列方向(又は補強方向)が対称になるように複数層で構成される。図1に示す例では、内側ベルト層6aと、それより若干幅の狭い外側ベルト層6bとを備える。なお、トレッドゴム4aの内側のベルト層6の外側面には、更にベルト補強層などが適宜形成される。
【0022】本発明は、上記のようなタイヤにおいて、タイヤ赤道P1よりベルト層6の最大幅Wbの1/4だけベルト層端部側の位置P2からタイヤ最大幅Wの位置P3の範囲内の少なくとも一部に対し、カーカス層5の内側にJISA硬度65?97°の内側補強ゴム10を配置してあることを特徴とする。
【0023】内側補強ゴム10のJISA硬度が65°未満では、前述のような補強効果が十分とならず、JISA硬度が97°を超えると、乗り心地の悪化や故障が発生し実用に供しない。かかる観点から、好ましくはJISA硬度65?90°、更に好ましくはJISA硬度70?85°である。
【0024】内側補強ゴム10としては、カーボンブラック等の添加剤の種類又は量を調節するなど、公知の方法により硬度調整したゴム材料を用いればよい。なお、ゴムの種類としては、カーカス層5の被覆ゴムやインナーライナー7との接合性を考慮した選択が通常行われる。
【0025】また、内側補強ゴム10を配置する場所としては、位置P2から位置P3の範囲内の一部又は全部(更に広い部分を補強する場合を含む)であればよく、位置P2から位置P3の範囲の中央の位置P4を中心として、上記範囲内の30?70%の範囲を補強してあるのが好ましい。なお、内側補強ゴム10はカーカス層5に内接させるのが好ましい。
【0026】内側補強ゴム10の幅は20?70mm程度が好ましく、厚みは0.3?1.5mm程度が好ましい。なお、内側補強ゴム10としては、曲げ反力を効果的に向上させつつ、両端部での応力集中を防止する観点から、その断面形状が、中央又はその付近から両端にかけて厚みが漸減するものが好ましい。
【0027】第1実施形態では、位置P2から位置P3の範囲内の少なくとも一部に対し、カーカス層5の外側面に沿うようにJISA硬度65?97°の面状の外側補強ゴム11を配置してある。ここで、面状とは、シート状やシート状に近い形状を指しており、厚み一定のシート状物に限定しない趣旨である。
【0028】外側補強ゴム11のJISA硬度は、内側補強ゴム10と同様の理由から、好ましくはJISA硬度65?90°、更に好ましくはJISA硬度70?85°である。また、面状の外側補強ゴム11を配置する場所も、内側補強ゴム10と同様の理由から、位置P4を中心として、上記範囲内の30?70%の範囲とするのが好ましい。但し、ベルト層側の端部は、ベルト層6の内側に配置するのが好ましい。なお、外側補強ゴム11の幅は20?70mm程度が好ましく、厚みは0.3?3mm程度が好ましい。
【0029】前記カーカス層5の有機繊維を被覆するゴムは、JISA硬度60°以上であるのが好ましく、JISA硬度65°以上であるのがより好ましい。有機繊維としては、ポリエステル、ナイロン等が好ましく使用される。なお、カーカス層5のビード部1近傍には、適宜、その他の補強層が形成される。
【0030】本発明では、サイドウォール部2の外側ゴム、即ち、サイドウォールゴム2a及びカーカス層5の被覆ゴムの厚みが、3.0mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下がより好ましい。このようなサイドウォール部の薄肉化により、タイヤの軽量化を行うことができる。なお、上記で説明した以外のタイヤ構造、材料等については、従来公知の技術が何れも採用できる。」

1e 「【0037】
【実施例】以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0038】実施例1-1?4及び比較例1
概ね図2に示す構造のタイヤにおいて、パッド状の外側補強ゴムの硬度、内側補強ゴムの硬度、カーカス層の被覆ゴムの硬度、及びサイドウォール総厚みが表1に示す値となるように、サイズ205/55R16の空気入りタイヤを作製した。その際、内側補強ゴムの厚みを1.0mm、幅を50mmとし、外側補強ゴムの最大厚みを2.5mm、幅を30mmとした。また、比較例として、外側補強ゴムの硬度、及び内側補強ゴムの硬度を高めていない空気入りタイヤを作製した。なお、硬度は何れもJISA硬度であり、タイヤからカッターナイフでなるべく平滑になるようにサンプルを切り出し、計測面と平行になるように裏面をバフ研磨して計測用サンプルを調製し、WALLACE製のミクロハードネステスターを用いて測定した。
【0039】これらの空気入りタイヤを後輪駆動の排気量2500ccの国産乗用車に装着し、一周3.7kmのテストコース(一般的なラップタイムが一周120秒前後のサーキットコース)にて、ラップタイムの測定と操縦安定性とを評価した。なお、ラップタイムは短い程良好であり、-1.0秒はかなり良好な値である。また、操縦安定性は、コーナリング走行安定性等を含めたドライバーのフィーリングで10段階評価したものであり、点数が高いほど良好で、1点差は一般人でも判別できる。」

1f 「【図1】



b 引用発明
引用文献1に記載された「内側補強ゴム10」がタイヤ半径方向の内端及び外端を有することは、明らかである。
したがって、引用文献1に記載された事項を、特に実施形態1に関して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「トレッド部4からサイドウォール部2を経てビード部1のビードコア1aに至るカーカス層5と、カーカス層5のタイヤ内腔側に配されたインナーライナー7と、カーカス層5の半径方向外側かつ前記トレッド部4の内部にベルト層6とを具えた空気入りタイヤであって、
タイヤ赤道P1よりベルト層6の最大幅Wbの1/4だけベルト層端部側の位置P2からタイヤ最大幅Wの位置P3の範囲内の少なくとも一部に対し、カーカス層5とインナーライナー7の間にJISA硬度65?97°のタイヤ半径方向の内端及び外端を有する内側補強ゴム10を配置し、位置P2から位置P3の範囲内の少なくとも一部に対し、カーカス層5の外側面に沿うようにJISA硬度65?97°の面状の外側補強ゴム11を配置している空気入りタイヤ。」

(イ)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内において、頒布された特開2013-241043号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【0016】
本発明の空気入りタイヤ1は、図1に示すように、左右一対のビード部2に埋設したビードコア3の外周側にビードフィラー4を配置し、ビードコア3の周囲をタイヤ軸方向内側から外側に向けてビードフィラー4を包み込むように折り返した少なくとも1層(図では1層)のカーカス層5を備えると共に、カーカス層5に隣接するタイヤ軸方向外側にビード部2のタイヤ軸方向外側で露出し、かつタイヤ径方向内側から外側に向けて延在するリムクッション6を配置し、リムクッション6のタイヤ軸方向外側にリムクッション6の露出部のタイヤ径方向上端からタイヤ径方向外側に向けて延在するブラックサイドウォール7を積層させている。
【0017】
そして、本発明では、リムクッション6の上端6aの高さHr(図2参照)をタイヤ周方向に沿ってタイヤ断面高さSHの0.5?0.7倍の範囲内で波状に変化させると共に、リムクッション6の上端6aの平均高さをタイヤ断面高さSHの0.6倍以下とし、かつブラックサイドウォール7を構成するゴムの硬さKsとリムクッション6を構成するゴムの硬さKrとビードフィラー4を構成するゴムの硬さKfとの関係をKs<Kr<Kfにしている。なお、図3はリムクッション6の上端6aの高さHrがタイヤ周方向に沿って波状に変化した状態を示すタイヤ側面から見たイメージ図である。
・・・(略)・・・
【0021】
また、リムクッション6を構成するゴムの硬さKrをビードフィラー4を構成するゴムの硬さKfよりも大きくした場合には、転がり抵抗性が悪化することになり、リムクッション6を構成するゴムの硬さKrをブラックサイドウォール7を構成するゴムの硬さKsよりも小さくした場合には、サイド剛性が不足して操縦安定性が低下することになる。
【0022】
このような観点から、本発明の空気入りタイヤ1では、ブラックサイドウォール7を構成するゴムには20℃におけるJISA硬さが40?60、リムクッション6を構成するゴムには20℃におけるJISA硬さが70?85、ビードフィラー4を構成するゴムには20℃におけるJISA硬さが80?95、のゴムをそれぞれ使用することが好ましい。」

・「



(ウ)引用文献6に記載された事項
本願の出願前に日本国内において、頒布された特開2011-105076号公報(以下、「引用文献6」という。)には、「重荷重用空気入りタイヤ及びその製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【0001】
本発明は、ビード耐久性を維持しつつ、成形不良を抑制しうる重荷重用空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。」

・「【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されたベルト層7と、前記カーカス6の内側に配されるインナーライナ9とを具える。
【0023】
前記カーカス6は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る本体部6aと、該本体部6aに連なりかつ前記ビードコア5の周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを有する1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。
【0024】
また、本実施形態のカーカスプライ6Aは、カーカスコードがタイヤ赤道Cに対して70?90度の角度で配列されたラジアル構造を有する。前記カーカスコードとしては、スチールコードが好適に使用される。
【0025】
本実施形態のベルト層7は、スチールコードを用いたベルトコードをタイヤ赤道Cに対して例えば60±10度程度の角度で配列した最内のベルトプライ7Aと、タイヤ赤道Cに対して30度以下の小角度で配列したベルトプライ7B、7C、7Dとの4層構造を具える。各ベルトプライ7A、7B、7C、7Dは、例えばベルトコードがプライ間で互いに交差する箇所を1箇所以上設けて重置される。
【0026】
前記インナーライナ9は、例えばブチル系ゴム等を主体とした空気不透過性ゴム材から形成される。また、本実施形態のインナーライナ9のタイヤ半径方向の内端部9iは、ビードコア5よりもタイヤ半径方向内側へのびるとともに、ビードトウ4tの近傍にてタイヤ軸方向外側に折れ曲がり、ビードコア5のタイヤ半径方向の内側領域(ビードコア5をタイヤ半径方向内方に投影した領域)内で終端する内端9ieを有する。このようなインナーライナ9は、ビード底面S2側からもビードコア5を覆って、ビードコア5への空気及び水分の透過を効果的に防ぐことができ、ビード耐久性の向上に役立つ。
【0027】
また、インナーライナ9とカーカスプライ6Aの本体部6aとの間には、インナーライナ9よりも粘着性に優れるゴム材からなる内側インスレーションゴム層11が配される。この内側インスレーションゴム層11のタイヤ半径方向の内端部11iは、インナーライナ9の内端9ieをタイヤ軸方向外側に超えて前記ビードコア5の内方領域内で終端している。このような内側インスレーションゴム層11は、インナーライナ9とカーカス6の本体部6aとを接着力を高め、かつ、両者のせん断歪を吸収するのに役立つ。
【0028】
ここで、前記「粘着性」とは、未加硫状態におけるゴム材料同士の付着力を意味する。このような粘着性を発揮しうるゴムとしては、例えば、ゴム成分100質量部中に、天然ゴム(NR)を60質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上配合させたNR系ゴムを採用するのが好ましい。
【0029】
また、本実施形態のビード部4には、図2に拡大して示されるように、カーカスプライ6Aのタイヤ半径方向の内端でU字状に覆うビード補強コード層12と、ビード外側面S1をなすクリンチゴム13と、クリンチゴム13の内端に連なりビード底面S2を形成するチェーファ14とが設けられる。さらに、カーカスプライ6Aの折返し部6bのタイヤ軸方向外側かつクリンチゴム13のタイヤ軸方向内側には、タイヤ半径方向内、外にのびるインナーサイドウォールゴム層15が設けられる。
【0030】
前記ビード補強コード層12は、ビードコア5を包むように、その廻りで折り返された断面略U字状に形成され、例えばスチールコード又は有機繊維コードを並列した1枚のプライからなる。また、ビード補強コード層12は、タイヤ軸方向内側に配される内の巻き上げ部12aと、タイヤ軸方向外側に配される外の巻き上げ部12bとを有して形成される。このようなビード補強コード層12は、ビード部4の曲げ剛性を高め、歪を軽減するのに役立つ。
【0031】
なお、ビード補強コード層12の外の巻き上げ部12bの外端12beとカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beとの長さL3は、適宜設定することができるが、小さすぎると、各外端12be及び6beが近接して大きな剛性段差が生じるおそれがある。このような観点より、ビード補強コード層12の外の巻き上げ部12bの外端12beとカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beとの長さL3は、好ましくは6mm以上、より好ましくは8mm以上、さらに好ましくは10mm以上が望ましい。
【0032】
前記クリンチゴム13は、サイドウォールゴム3Gのタイヤ半径方向の内端に連なり、ビードヒール4h近傍までタイヤ半径方向内側にのびている。また、クリンチゴム13は、サイドウォールゴム3Gよりも硬質のゴムからなり、ゴム硬度が、例えば70?85度の範囲に設定される。このようなクリンチゴム13は、ビード部4のビード外側面S1において、リムと接触による摩耗や損傷を防止するのに役立つ。
【0033】
なお、本明細書において、ゴム硬度は、JIS-K6253に準拠し、23℃の環境下でのデュロメータータイプAによる硬さとする。
【0034】
本実施形態において、前記チェーファ14は、ビードヒール4h近傍からビードトウ4tまでのびて終端する。また、本実施形態のチェーファ14には、硬質のゴムが採用され、好ましくはゴム硬度が70?85度の範囲で設定される。このようなチェーファ14は、リムに対して高くかつ安定した嵌合圧を発揮するとともに、ビード部4のビード底面S2においてリムとの接触による損傷を確実に防止しうる。
【0035】
また、チェーファ14のビードトウ4t側の端部には、インナーライナ9のタイヤ軸方向内側面9sに沿ってタイヤ半径方向外側へ向かって厚さを漸減しながら延在し、断面略三角形状をなすトウ内側ゴム層16が設けられている。このトウ内側ゴム層16は、ゴム硬度が、例えば70?85度の硬質のゴムからなり、チェーファ14と同様に、リムに対して安定した嵌合圧を発揮しうる。
【0036】
本実施形態のインナーサイドウォールゴム層15は、カーカスプライ6Aの折返し部6bとクリンチゴム13との間を、タイヤ半径方向内外にのびている。該インナーサイドウォールゴム層15は、クリンチゴム13よりも粘着性に優れるとともに、ゴム硬度が、クリンチゴム13よりも小、とりわけ50?65度の軟質ゴムから構成される。これにより、インナーサイドウォールゴム層15は、走行中における折返し部6bとクリンチゴム13との間に生じる歪を広範囲に亘って緩和、吸収しうる。従って、その歪に起因するクリンチゴム13の界面に沿った亀裂等を長期に亘って抑制でき、ビード耐久性を向上させ得る。」

・「



イ 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「トレッド部4」は本願補正発明における「トレッド部」に相当し、以下、同様に、「サイドウォール部2」は「サイドウォール部」に、「ビード部1」は「ビード部」に、「ビードコア1a」は「ビードコア」に、「カーカス層5」は「カーカス」に、「ベルト層6」は「トレッド補強層」に、それぞれ相当する。
また、空気入りタイヤにおけるインナーライナーが、空気不透過性のゴムからなることは技術常識であるから、引用発明における「インナーライナー7」は本願補正発明における「空気不透過性のゴムからなるインナーライナー」に相当する。
さらに、引用発明における「タイヤ赤道P1よりベルト層6の最大幅Wbの1/4だけベルト層端部側の位置P2からタイヤ最大幅Wの位置P3の範囲内の少なくとも一部」は本願補正発明における「バットレス領域」に相当する。
さらにまた、引用文献1には、「JISA硬度」について定義されていないものの、通常、当業者は「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-」を規定する「JIS-K6253」及び「ゴム-物理試験方法通則」を規定する「JIS-K6250」に従うと解するものであるから、引用文献1の「JISA硬度」は、「JIS-K6253に基づく23℃の環境下で測定されたデュロメータタイプAによる硬さ」(本願明細書の【0026】)で定義される本願補正発明の「JISA硬さ」と同じものであるといえるので、引用発明における「JISA硬度65?97°の内側補強ゴム10」は本願補正発明における「JISA硬さが80?98°のゴム」からなる「インスレーション層」に相当する。

したがって、両者は、
「トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、前記カーカスのタイヤ内腔側に配された空気不透過性のゴムからなるインナーライナーと、前記カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部にトレッド補強層とを具えた空気入りタイヤであって、
前記サイドウォール部のタイヤ半径方向の外方領域であるバットレス領域には、前記インナーライナーと前記カーカスとの間に、インスレーション層が配されており、
前記インスレーション層は、JISA硬さが50?98°のゴムからなり、
前記インスレーション層は、タイヤ半径方向の内端及び外端を有する空気入りタイヤ。」
である点で一致する。

そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願補正発明においては、「前記インスレーション層は、前記インナーライナーよりも硬質であり」と特定されているのに対して、引用発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2>
本願補正発明においては、「タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、前記サイドウォール部は、厚さが2.0mm以下の最薄部を含み」と特定されているのに対して、引用発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3>
本願補正発明においては、「前記インスレーション層の前記内端は、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向外側に位置し、
前記内端と前記タイヤ最大幅位置との間のタイヤ半径方向の距離が5?15mmであり、
前記インスレーション層の前記外端は、前記トレッド補強層のタイヤ軸方向の外縁よりもタイヤ軸方向内側に位置し、
前記外端と前記トレッド補強層の前記外縁とのタイヤ軸方向の距離が6?15mmであり」と特定されているのに対して、引用発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点4>
本願補正発明においては、「前記ビード部は、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に先細状にのびる硬質ゴムからなるビードエーペックスを具え」と特定されているのに対して、引用発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点5>
本願補正発明においては、「前記カーカス及び前記ビードエーペックスのタイヤ外面側にクリンチゴムが配されており、
前記クリンチゴムは、本体部と、前記本体部の外面を形成し、タイヤがリムに装着されたときにリムと接触する表層部を含み、
前記表層部は、前記本体部よりも硬質のゴムで形成されている」と特定されているのに対して、引用発明においては、そのようには特定されていない点。

なお、引用発明においては、「JISA硬度65?97°の面状の外側補強ゴム11」を配置することが特定されているのに対し、本願補正発明においては、「JISA硬度65?97°の面状の外側補強ゴム11」に相当する部材を配置することが特定されていないが、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、本願補正発明は「JISA硬度65?97°の面状の外側補強ゴム11」に相当する部材を配置することを排除していないので、「JISA硬度65?97°の面状の外側補強ゴム11」に相当する部材を具えるかどうかの点は、本願補正発明と引用発明との対比に際し、相違点とはならない。

ウ 相違点についての判断
そこで、相違点について、以下に検討する。
(ア)相違点1について
記載事項1c(【0014】)によると、引用発明における「内側補強ゴム10」は、バットレス部近傍でのカーカス層の曲げ(曲率変化)に対する剛性を高めることによって、横力に対するカーカス剛性を向上させるために設けられた「高硬度の補強ゴム」であるから、「インナーライナー7」よりも硬質である蓋然性は高く、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、バットレス部近傍でのカーカス層の曲げ(曲率変化)に対する剛性を高めることによって、横力に対するカーカス剛性を向上させるために、「高硬度の補強ゴム」である「内側補強ゴム10」を「インナーライナー7」よりも硬質のものとして、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
記載事項1a(【0001】、【0002】及び【0007】)及び記載事項1c(【0013】)によると、引用発明は、「サイドウォール部2」を薄くして、タイヤの軽量化を図ることを前提とするものである。
また、記載事項1d(【0030】)によると、タイヤの軽量化を行うために、引用発明においては、「サイドウォール部2の外側ゴム、即ち、サイドウォールゴム2a及びカーカス層5の被覆ゴムの厚み」が「2.5mm以下がより好ましい」とされている。
さらに、本願明細書の記載からみて、本願補正発明における「タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において、前記サイドウォール部は、厚さが2.0mm以下の最薄部を含み」の「2.0mm以下」という数値限定には、厚みが薄いという技術的意味しかなく、「2.0mm以下」という数値限定の内と外とで、効果に顕著性があるとはいえないので、「2.0mm以下」という数値限定には、臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明において、タイヤの軽量化を図るために、「サイドウォール部2の外側ゴム、即ち、サイドウォールゴム2a及びカーカス層5の被覆ゴムの厚み」を「2.5mm」よりさらに薄くし、「サイドウォール部2」が、「タイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面において」、「厚さが2.0mm以下の最薄部を含」むようにして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)相違点3について
記載事項1f(【図1】)によると、引用発明における「内側補強ゴム10」のベルト層側の端部は、「外側補強ゴム11」のベルト層側の端部と同様にベルト層6の内側に配置されていることが看取され、記載事項1d(【0028】)によると、引用発明における「外側補強ゴム11」のベルト層側の端部は、ベルト層6の内側に配置するのが好ましいとされている。してみると、引用発明における「内側補強ゴム10」のベルト層側の端部についても、ベルト層6の内側に配置するものが記載されていると当業者は理解する。
また、記載事項1d(【0025】)によると、引用発明における「内側補強ゴム10」が配置される場所は、タイヤ赤道P1よりベルト層6の最大幅Wbの1/4だけベルト層端部側の位置P2からタイヤ最大幅Wの位置P3の範囲の中央の位置P4を中心として、位置P2から位置P3の範囲内の30?70%の範囲が好ましいとされている。
さらに、記載事項1a(【0001】、【0002】及び【0007】)によると、引用発明は、空気入りタイヤにおいて、効率良くカーカス層を補強して、サイドウォール部を薄くした場合でも、操縦安定性を十分維持することを目的とするものであるから、その目的に応じて、「内側補強ゴム10」を配置する範囲を適宜最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であるといえる。
したがって、上記の好ましいとされる位置に、引用発明における「内側補強ゴム10」を配置しようとして、また、効率良くカーカス層を補強して、サイドウォール部を薄くした場合でも、操縦安定性を十分維持するという目的を達成するように、引用発明における「内側補強ゴム10」の配置する範囲を最適化して、引用発明における「内側補強ゴム10」の内端を、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向外側で、前記内端と前記タイヤ最大幅位置との間のタイヤ半径方向の距離が「5?15mm」となる位置とし、「内側補強ゴム10」の外端を、「ベルト層6」のタイヤ軸方向の外縁よりもタイヤ軸方向内側で、前記外端と前記「ベルト層6」の前記外縁とのタイヤ軸方向の距離が「6?15mm」となる位置として、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(エ)相違点4について
記載事項1f(【図1】)から、引用発明には、「ビードコア1a」からタイヤ半径方向外側に先細状にのびる本願補正発明における「ビードエーペックス」に相当する部材があることが看取される。
他方、引用文献3には、転がり抵抗性や操縦安定性を高めるために、空気入りタイヤにおいて、「ビードエーペックス」に相当する部材を硬質ゴムとすることが好ましいことが記載されている。
したがって、引用発明において、転がり抵抗性や操縦安定性を高めるために、引用文献3に記載された事項を適用して、「ビードエーペックス」に相当する部材を硬質ゴムとするようにして、相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(オ)相違点5について
記載事項1f(【図1】)から、引用発明には、「カーカス層5」及び上記「ビードエーペックス」に相当する部材のタイヤ外面側に本願補正発明における「クリンチゴム」に相当する部材があることが看取される。
他方、引用文献6には、リムとの接触による摩耗や損傷を防止するために、「カーカスプライ6Aの折り返し部6b」の外側に、「クリンチゴム13」及び「インナーサイドウォールゴム層15」を設け、リムに装着されたときにリムと接触する「クリンチゴム13」をリムと接触しない「インナーサイドウォールゴム層15」よりも硬質にすることが記載されている。
したがって、引用発明において、引用文献6に記載された事項を適用して、「クリンチゴム」に相当する部材を、リムに装着されたときにリムと接触する部分をリムと接触しない部分よりも硬質のゴムで形成するようにして、相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(カ)効果について
本願明細書の【0015】の「以上のように、本発明の空気入りタイヤは、操縦安定性を維持しつつ、タイヤ質量を低減させることができる。」、【0041】の「このようなインスレーション層20は、タイヤ質量の増加を最小限に抑制しつつ、バットレス領域14の剛性を効果的に高める。」、【0043】の「このようなインスレーション層20は、タイヤ質量の増加を最小限に抑制しつつ、外端20oを起点としたインスレーション層20の剥離を効果的に抑制する。」及び【0048】の「このようなクリンチゴム23は、走行時のビード部4の変形を抑制して操縦安定性を向上させ、しかも、リムRとの摩擦による表層部25の損傷を効果的に抑制する。」という記載によると、本願補正発明の奏する効果は「操縦安定性を維持しつつ、タイヤ質量を低減させる」こと、「バットレス領域14の剛性を効果的に高める」こと、「インスレーション層20の剥離を効果的に抑制する」こと、「走行時のビード部4の変形を抑制して操縦安定性を向上させ」ること及び「リムRとの摩擦による表層部25の損傷を効果的に抑制する」ことである。なお、「インスレーション層20の剥離を効果的に抑制する」こと及び「リムRとの摩擦による表層部25の損傷を効果的に抑制する」ことという効果を奏することは、本願明細書においては、実際には確認されてはいない。
そして、「操縦安定性を維持しつつ、タイヤ質量を低減させる」、「バットレス領域14の剛性を効果的に高める」及び「インスレーション層20の剥離を効果的に抑制する」という効果については、記載事項1d、1c及び1fによると、引用発明も同様の効果を奏するといえるし、「走行時のビード部4の変形を抑制して操縦安定性を向上させ」るという効果は、引用文献3に記載された事項から当業者が予測できるものであり、「リムRとの摩擦による表層部25の損傷を効果的に抑制する」という効果は、引用文献6に記載された事項から当業者が予測できるものである。
したがって、本願補正発明の奏する効果は、引用発明並びに引用文献3及び6に記載された事項からみて格別顕著なものとはいえない。

エ 請求人の主張について
請求人は、平成30年10月2日に提出された上申書において、「先ず、引用発明は、軽量化を目指した乗用車用の空気入りタイヤである(「0001」、「0039」)のに対し、引用文献6に係る発明は、重荷重用空気入りタイヤであります(「請求項1」)。とりわけ、引用発明の空気入りタイヤは、カーカス層が有機繊維で補強される(「請求項1」)のに対し、引用文献6の重荷重用空気入りタイヤのカーカスには、スチールコードが使用されています(「0024」)。したがいまして、引用発明の空気入りタイヤと、引用文献6の重荷重用空気入りとは、全く別のカテゴリーに分類されるものであり、技術分野の関連性がありません。
次に、引用文献6に係る発明は、ビード耐久性を維持しつつ、成形不良を抑制することを課題としている(「0007」)のに対し、引用文献1には、上記課題について何も記載されていません。仮に、ビード部の耐久性の向上がタイヤの技術分野において周知の課題であったとしても、引用発明は、サイドウォール部を薄くして軽量化を図ることを前提としている(「0001」)以上、引用発明にとって、ビード部の耐久性の向上という課題は、上記の前提とはむしろ背反している課題です。このため、引用発明の空気入りタイヤと、引用文献6の重荷重用空気入りタイアとは、課題の共通性がありません。
さらに、引用文献1及び引用文献6には、これらを組み合わせる示唆もありません。
以上のように、引用発明と引用文献6に係る発明とは、技術分野の関連性及び課題の共通性が無く、引用文献1及び引用文献6に示唆が無い以上、引用発明に引用文献6に記載された構成を適用する動機付けがなく、前審関与審査官の上記指摘は、妥当でないものと確信致します。」旨主張する。
そこで、上記主張について検討する。
引用文献1には、重荷重用空気入りタイヤを排除する記載はないことからみて、引用発明は、重荷重用空気入りタイヤを排除するものではないので、引用発明と引用文献6に記載された事項は技術分野の関連性はあるといえる。
また、ビード部の耐久性の向上という課題は、ビード部を有する空気入りタイヤであれば、当然要求される課題であるから、引用発明においても内在する課題であり、引用発明と引用文献6に記載された事項は課題の共通性もあるといえる。
さらに、上記のとおり、引用文献6に記載された事項の課題(ビードの耐久性の向上という課題)は引用発明においても内在する課題であるから、引用発明と引用文献6に記載された事項を組み合わせる動機付けはあるといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

オ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに引用文献3及び6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。
また、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、平成29年10月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)のとおりである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、おおむね、この出願の請求項1ないし4及び6に係る発明は、本願の出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

引用文献1.特開2001-138708号公報
引用文献2.特開2012-176694号公報
引用文献3.特開2013-241043号公報
引用文献4.特開2013-129346号公報

3 引用文献1に記載された事項等
引用文献1に記載された事項並びに引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア(ア)のとおりである。

4 対比・判断
上記第2[理由]2(1)で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項である「ビード部」について、「前記ビード部は、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に先細状にのびる硬質ゴムからなるビードエーペックスを具え、かつ、前記カーカス及び前記ビードエーペックスのタイヤ外面側にクリンチゴムが配されており、
前記クリンチゴムは、本体部と、前記本体部の外面を形成し、タイヤがリムに装着されたときにリムと接触する表層部を含み、
前記表層部は、前記本体部よりも硬質のゴムで形成されている」という限定を加えたものである。すなわち、本願発明は、本願補正発明から上記限定を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明を対比するに、両者は、上記第2(2)イの本願補正発明と引用発明との対比において、一致するとした点で一致し、相違点1ないし3の点で相違するとした点で相違する。
そして、相違点1ないし3については、上記第2(2)ウ(ア)ないし(ウ)のとおり、引用発明において、当業者が容易に想到することができたものであり、本願発明の効果も、上記第2(2)ウ(カ)のとおり、格別顕著なものとはいえない。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結語
上記第3のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-20 
結審通知日 2019-05-21 
審決日 2019-06-03 
出願番号 特願2014-53888(P2014-53888)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60C)
P 1 8・ 121- Z (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 昌大  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
加藤 友也
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 住友 慎太郎  

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