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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1353614
審判番号 不服2018-8263  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-15 
確定日 2019-08-13 
事件の表示 特願2017-518399「ポジショニング方法、装置、プログラム及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月24日国際公開、WO2016/183990、平成29年 8月 3日国内公表、特表2017-521681、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月23日(パリ条約による優先権主張 2015年5月19日、中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月18日付けで手続補正がされ、平成29年7月12日付けで拒絶理由が通知され、平成29年10月5日付けで手続補正がされたが、平成30年3月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成30年6月15日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされ、平成31年3月26日付けで拒絶理由が通知され、令和元年6月10日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ、本願発明1ないし13という。)は、令和元年6月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、次のとおりの発明である。

「【請求項1】
一家の複数の部屋における複数の無線設備に対してポジショニングする方法であって、
現在の空間内における前記無線設備の無線メッセージを収集するとともに分析して、前記現在の空間の第1の特徴パターンを取得するステップと、
前記現在の空間の第1の特徴パターンを予め設定された複数の空間の特徴パターンとマッチングするステップと、
前記現在の空間の第1の特徴パターンとマッチングする第2の特徴パターンがあると判定される場合、前記第2の特徴パターンに対応する空間情報を取得して、現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの部屋かを判定するステップと、
前記判定結果によって、前記判定された部屋に位置する無線設備に対して対応操作を行うステップと、を含み、
前記第1の特徴パターンは、無線設備の識別子と信号品質との対応関係を含み、
前記無線メッセージは、前記無線設備の間で互いに送信される無線メッセージ、又は前記無線設備がプロトコルの要求によって周期的にブロードキャストする無線メッセージである
ポジショニング方法。」

なお、本願発明2-5は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明6は、本願発明1に対応する「ポジショニング装置」の発明であり、本願発明1とはカテゴリー表現が異なるだけの発明である。
本願発明7-10は、本願発明6を減縮した発明である。
本願発明11は、「プロセッサーと、前記プロセッサーにより実行可能な命令を記憶するメモリと、を備え」る「ポジショニング装置」であって、本願発明6に係る「ポジショニング装置」が備える各「モジュール」を、該「プロセッサー」の処理として表現した点が異なるだけの発明である。
本願発明12は、プロセッサーに実行されることにより、本願発明1の「ポジショニング方法」を実現する、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録されたプログラムの発明であり、本願発明13は、本願発明12のプログラムが記録されたコンピュータ読取可能な記録媒体の発明である。

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-13
・引用文献等 1-3

1.特開2011-99859号公報
2.HEJC, Gerhard, et al.,”Seamless Indoor Outdoor Positioning using Bayesian Sensor Data Fusion on Mobile and Embedded Devices”,Proceedings of the 26th International Technical Meeting of The Satellite Division of the Institute of Navigation (ION GNSS+ 2013),2013年 9月20日,p.1
252-1259,ISSN 2331-5911
3.特開2011-109290号公報(周知技術を示す文献)」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献1(特開2011-99859号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。

「【0012】
また、上記の目的を達成すべく、本発明に係る無線LAN APを利用した無線デバイスのリアルタイム位置追跡方法は、位置を推定しようとする無線デバイスによって測定されたAP(以下、第1APとする)の目録、及び前記第1APの信号強度を含むAP観測データを提供されるステップと、位置、位置に対応するAP(以下、第2APとする)の目録、前記第2APの信号強度、前記第2APの信頼度を含む位置推定基盤データと、前記AP観測データと比較して、前記無線デバイスの位置を推定するステップとを含むことを特徴とする。」

「【0030】
「AP目録」は、少なくともAP(Access Point)信号の強度とAP識別情報とを含むデータを意味する。
【0031】
「KAS(Key AP Set)」は、特定室内と室外とを区分しうるAP目録であって、一つのKASは、一つの室内に対応し、少なくとも一つ以上のSKASからなるデータを意味する。」

「【0250】
図15は、本発明の一実施の形態に係る無線LAN基盤の室外及び室内間のシームレス位置追跡システムの構成ブロック図である。
【0251】
図15に示すように、本無線LAN基盤の室外及び室内間のシームレス位置追跡システム(以下、シームレス位置追跡システムとする)は、位置別AP情報格納部701、室外及び室内位置区分データ抽出部703、室外及び室内位置区分データ格納部707、AP観測データ収集器709、検証部711、室外及び室内位置判断部713、位置アプリケーション714、ディスプレイ部715、室外及び室内位置区分データアップローダー717を備える。」

「【0264】
室外及び室内位置区分データ格納部707は、室外及び室内位置区分データ抽出部703により抽出されたKASデータを格納する。
【0265】
AP観測データ収集器707は、AP信号強度とAPの識別情報とを含んだAP観測データを収集する。本発明の一実施の形態によれば、AP観測データ収集器707は、位置アプリケーション714の要請があると、AP観測データを収集する。
【0266】
AP観測データは、例えば上述したように表2のように構成されることができる。
【0267】
表2には、観測した時間が含まれていないが、本発明の実施の形態によっては、観測時間も前記AP観測データにさらに含まれることができる。」

「【0275】
室外及び室内位置判断部713は、AP観測データ収集器709により収集されたAP観測データと室外及び室内位置区分データ抽出部703により抽出されたKASデータとを比較して、室外か室内かを判断する。」

「【0278】
本発明の一実施の形態によれば、室外及び室内位置判断部713は、AP観測データに含まれたAPをすべて含んでいるKASデータが存在すると、室内に進入したと判断する。例えば、AP観測データに含まれたAPがAP1、AP2、AP3で、A建物のKASデータがAP2、AP3、AP4で、B建物のKASデータが、AP1、AP2、AP3であり、C建物のKASデータがAP0、AP1、AP2、AP4、AP5である場合、室外及び室内位置判断部713は、B建物に進入したと判断する。
【0279】
本発明の一実施の形態によれば、室外及び室内位置判断部713は、室内に進入した後には、前記収集されたAP観測データに含まれたAPのうち、何れか一つでも前記KASデータに存在すると、依然として室内にいると判断することができる。前記例において、B建物に進入した以後、AP観測データがAP2、AP6、AP 7である場合でも依然としてB建物内にいると判断する。
【0280】
上述した「特定確率以上のAP」の意味をKOEXモールという場所を例に挙げて説明する。KOEXモールの(カ)地域に対するKASデータがA、B、C、D、E、Fという6個のAPからなっており、誤差しきい値(ここで、誤差しきい値が特定確率に該当する)を3/4と仮定しよう。仮に、AP観測データ収集器709で観測したAP目録がA、C、D、E、Fであると、誤差しきい値を満たすので、室外及び室内位置判断部713は、KOEXモールの(カ)地域に進入したと判断する。
【0281】
位置アプリケーション714は、位置を基盤とするアプリケーションであって、MAPのようなアプリケーションでありうる。位置アプリケーション714は、図示していない格納部に格納されてからメモリにロードされて動作し、AP観測データ収集器709にAP観測データを収集することを要請する。
【0282】
本発明の一実施の形態によれば、位置アプリケーション714は、室外及び室内位置判断部713の判断結果に基づいて、室内又は室外に応じる位置基盤サービスを提供できる。
【0283】
ディスプレイ部715は、液晶ディスプレイのようなモニターでありえ、位置アプリケーションにより提供されるサービスを表示できる。」

「【0288】
さらに他の例としては、室外及び室内位置区分データ格納部707、AP観測データ収集器709、検証部711、室外及び室内位置判断部713、位置アプリケーション714、ディスプレイ部715、室外及び室内位置区分データアップローダー717は、携帯電話のような無線デバイスで具現化され、残りの構成要素は、別途のサーバとして構築されることができる。
【0289】
また、さらに他の例としては、AP観測データ収集器709、位置アプリケーション714、ディスプレイ部715は、携帯電話のような無線デバイスで具現化され、残りの構成要素は、別途のサーバとして構築されることができる。
【0290】
また、さらに他の例としては、位置アプリケーション714がプッシュシステムのような独立したシステムとして存在し、AP観測データ収集器709、検証部711、室外及び室内位置判断部713、ディスプレイ部715、室外及び室内位置区分データアップローダー717は、携帯電話のような無線デバイスで具現化され、残りの構成要素は、別途のサーバとして構築されることができる。
【0291】
図16は、本発明の一実施の形態に係る無線LAN基盤の室外及び室内間のシームレス位置追跡方法のフローチャートである。
【0292】
図16に示すように、本無線LAN基盤の室外及び室内間のシームレス位置追跡方法(以下、シームレス位置追跡方法とする)において、位置アプリケーション714の要請によって、AP観測データ収集器709がAP信号の識別情報と信号の強度とからなるAP目録を収集する(S1001)。具体的に説明すると、ステップS301にてAP観測データ収集器709は、周囲の無線LAN信号とその強度とを収集し、収集した時間もAP目録に含めることができる。
【0293】
検証部711は、室外及び室内区分データ格納部707に格納されたKASデータと、AP観測データ収集器709により収集されたAP観測データとを互いに対照比較し(S1003)、収集されたAP観測データが意味のあるデータであるか否かをKASデータを参照して判断し、そして、収集されたAP観測データに基づいてKASデータにエラーがあるか否かを判断する(S1005)。
【0294】
検証部711が修正するKASデータが存在すると(S1007:はい)、KASデータを修正し(S1009)、室外及び室内位置判断部713がKASデータを利用して室外か室内かを判断する(S1011)。
【0295】
位置アプリケーション714は、位置判断部713の判断結果に基づいて位置基盤のサービスをディスプレイ部715を介して表示する(S1013)。」

「【0302】
図18は、本発明の一実施の形態に係る無線LAN基盤の室外及び室内間のシームレス位置追跡システムを説明するために提供される図である。
【0303】
図18は、本発明に係る室外及び室内間のシームレス位置追跡システムが具現化された無線デバイスの所持者が経路AP1、AP2、...AP11、AP12に移動する場合を示したものである。ここで、KAS7_S1、KAS7_S2、KAS7_S3、又はKAS7_S4は、それぞれセグメント別に割り当てられたSKASであり、説明の便宜上、これらの全体をKAS7とする。
【0304】
無線デバイスの所持者がAP1の位置にいるとき、無線デバイスは、現在位置で収集したAP観測データと、KASデータとを比較して、室内であるか否かを判断する。ここで、比較対象になるKASデータは、KAS1、KAS3、KAS4、KAS5、KAS6、KAS7になることができる。本発明の一実施の形態によれば、比較の対象になるKASデータは、その間の無線デバイスの位置履歴に基づいて抽出されることができる。無線デバイスの現在位置から最も近いKASデータを比較するためである。
【0305】
無線デバイスに具現化された室外及び室内位置判断部は、AP1から収集されたAP目録とKAS1、KAS3、KAS4、KAS5、KAS6、KAS7とを比較する。
【0306】
このような方法で、AP2、AP3、AP4地点に順次移動しながら、AP5に入った瞬間、AP5から観測されたAP目録は、KAS7_S1に含まれるようになり、これにより、無線デバイスは、室内に進入したと判断する。以後、AP5からAP10まで移動しつつ、収集されたAP観測データに含まれたAPが一つでも、KAS7に含まれていると、依然として室内にいると判断する。
【0307】
無線デバイス所持者がAP11に移動する瞬間、AP観測データに含まれたAPは、如何なるものもKAS7に含まれなくなり、これで無線デバイスは、室外にいると判断する。」

よって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「無線LAN基盤の室外及び室内間のシームレス位置追跡方法(以下、シームレス位置追跡方法とする)において(段落【0292】より。以下、同様。)、
室外及び室内位置区分データ格納部707、AP観測データ収集器709、室外及び室内位置判断部713、位置アプリケーション714が、携帯電話のような無線デバイスで具現化され(【0288】)、
位置アプリケーション714の要請によって、AP観測データ収集器709がAP信号の識別情報と信号の強度とからなるAP目録を収集し、具体的に説明すると、AP観測データ収集器709は、周囲の無線LAN信号とその強度とを収集し(【0292】)、
「KAS(Key AP Set)」は、特定室内と室外とを区分しうるAP目録であって、一つのKASは、一つの室内に対応し(【0031】)、無線デバイスの所持者が経路AP1、AP2、...AP11、AP12に移動する場合(【0303】)、無線デバイスの所持者がAP1の位置にいるとき(【0304】)、無線デバイスに具現化された室外及び室内位置判断部は、AP1から収集されたAP目録とKAS1、KAS3、KAS4、KAS5、KAS6、KAS7(KAS7_S1、KAS7_S2、KAS7_S3、又はKAS7_S4全体をKAS7とする(【0303】)。)とを比較し(【0305】)、
このような方法で、AP2、AP3、AP4地点に順次移動しながら、AP5に入った瞬間、AP5から観測されたAP目録は、KAS7_S1に含まれるようになり、これにより、無線デバイスは、室内に進入したと判断し(【0306】)、
室外及び室内位置判断部713は、AP観測データ収集器709により収集されたAP観測データとKASデータとを比較して、室外か室内かを判断し(【0275】)、室外及び室内位置判断部713は、AP観測データに含まれたAPをすべて含んでいるKASデータが存在すると、室内に進入したと判断し(例えば、AP観測データに含まれたAPがAP1、AP2、AP3で、A建物のKASデータがAP2、AP3、AP4で、B建物のKASデータが、AP1、AP2、AP3であり、C建物のKASデータがAP0、AP1、AP2、AP4、AP5である場合、室外及び室内位置判断部713は、B建物に進入したと判断する。)(【0278】)、
位置アプリケーション714は、室外及び室内位置判断部713の判断結果に基づいて、室内又は室外に応じる位置基盤サービスを提供できる(【0282】)、
シームレス位置追跡方法(【0292】)。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、第1255頁右欄に、次の事項が記載されている。


(当審訳:このアプローチ[14] は、正確な位置を知ることなしに利用可能なアクセス・ポイントの受信信号強度 (RSS) の測定に基づいています。これは、受信信号強度およびアクセス・ポイント・メディア・アクセス・コントロール(MAC)アドレスのデータベースを、測定が行われた位置と共にセットアップする訓練フェーズが要求されます。これらの、いわゆる指紋は、RSS値と、それらのMAC識別子を位置情報と関連付けるのに用いることができます。
オンラインフェーズでは、指紋データベースは、与えられたRSS測定のセットから、データベース相関の確からしさを用いて、ユーザの位置を予測することができます。)



(当審訳、なおベクトルrを、「r」のように下線を付して記載した。: 式(13)(省略)
ここで、RSS_(j)は、実際に測定された(スキャンされたアクセス・ポイントの数N_(A))であり、RSS’_(j)(r^((m))は、データベース中の参照ポイントr^((m))における指紋であり、それは、それらのMAC識別子に関する項におけるRSS_(j)に対応します。

RSSの値は1dBのビンで量られ、中央値はRSS^((n))であり、ここでnは各ビンのラベルです。

式(14)(省略)
積分範囲は、a_(j)^((n))=RSS_(j)^((n))-0.5dBおよびb_(j)^((n))=RSS_(j)^((n))+0.5dBで与えられます。ベイズ則によって、p(r^((m))|RSS^((n)))は、式(14)に関連付けることができます。

式(15)(省略)

所与のRSS測定から予測される位置を計算するために用いることができます。

時刻t_(k)における尤度関数は、次によって近似することができます。

式(16)(省略)

ここで、r^((m))=argmin{||r_(k)-r^((m))||}^(M )_(m=1) は、r_(k)に最も近い参照点です。)

したがって、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「アクセス・ポイントの受信信号強度 (RSS)値と、それらのMAC識別子を位置情報と関連付ける指紋データベースを用い、指紋データベースは、与えられたRSS測定のセットから、データベース相関の確からしさを用いて、ユーザの位置を予測することができる。」

3.引用文献3について
原査定において、周知技術を示す文献として新たに引用された引用文献3(特開2011-109290号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「【0001】
本発明は、移動体の状態、位置情報を無線LAN( Local Area Network )によって送受信する無線送受信装置と、移動体管理システムに関するものである。」

イ 「【0045】
図2によって、本発明の実施例1の無線送受信装置及び移動管理システムについて説明する。図2は、本発明の移動体管理システムの一実施例の構成を示す図である。200はインターネット、90は建物、61はデータサーバ、70は監視局、71は監視局70内に設置された監視用端末、81は携帯電話、11は被計測対象、40はアクセスポイントである。
【0046】
図2において、基本的な移動体管理システムの一実施例を説明する。建物90には、無線LANアクセスポイント40が1個または複数個設置されており、建物90内はどこでも無線LANアクセスポント範囲内となる。
この時、それぞれの無線LANアクセスポイント40は、任意のSSID( Service Set IDentifier )、チャンネル、暗号キーを有しており、無線送受信装置20は、接続したい無線LANクセスポイント40の情報をそれぞれ登録しておく。無線LANアクセスポイント40は、建物90内で有線LANにて接続され、ローカルエリアネットワークを構築し、インターネット200に接続される。
一方、データサーバ61もインターネット200に接続されている。データサーバ61は、インターネット200に接続されていれば、図2のように建物90外であっても、当建物90内に設置してあっても良い。」

ウ 「【0056】
図4は、本発明の無線LANアクセスポイントリストと位置特定方法の一実施例を説明するための図である。図4は、無線送受信装置20からインターネットを介してデータサーバに送信される様子と、無線送受信装置内に登録されている無線LANアクセスポイントリストと、データサーバ内に登録されている無線LANアクセスポイントリストを示している。
図4(a)及び図4(c)において、無線送受信装置20は、スキャンした結果からRSSIが一番大きい無線LANアクセスポイント40に認証及び接続し、その接続している無線LANアクセスポイントの情報(MACアドレス)をデータパケットに含めてデータサーバ61へ送信する。
【0057】
この図4の場合には、送受信装置20は、無線送受信装置20が接続しているの無線LANアクセスポイントを AP7 とすると、アクセスポイント AP7 のMACアドレス「 00:00:00:00:00:07 」を送信パケットに含めて、データサーバ61に、アクセスポイント AP7 及びインターネット200を介して送信する。
この時、図4(b)に示すように、データサーバ61内には、無線送受信装置20内に登録されている無線LANアクセスポイント情報(図4(c))と同じ情報を共有しており、データサーバ61内で無線LANアクセスポイント情報と、無線LANアクセスポイントが設置してある場所情報を対応させておくことができる。
【0058】
図4(b)では、場所情報として部屋の名前が登録されており、アクセスポイント AP7 は部屋7に設置されていると登録されていることから、無線送受信装置20は部屋7に存在しているということが把握できる。
これにより、建物90内のどの無線LANアクセスポイントに接続しているかによって、無線送受信装置20が屋内に存在してGPSにより位置情報が取得できない場合でも、無線送受信装置20が建物90内の、どの部屋にいるかが把握できる。また、GPSにより位置情報が取得可能であっても、無線LANアクセスポイント範囲内であれば、GPSによる位置情報取得は行わない。従って、GPSの稼動による消費電力増大を防ぎ、GPSの欠点である建物の階の違いなどの高さ方向位置の取得が可能となる。」

したがって、引用文献3には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「移動体管理システムであって(「ア」より。)、建物90には、無線LANアクセスポイント40が1個または複数個設置されており、建物90内はどこでも無線LANアクセスポント範囲内となり、 無線LANアクセスポイント40は、建物90内で有線LANにて接続され、ローカルエリアネットワークを構築し、インターネット200に接続され、一方、データサーバ61もインターネット200に接続され(「イ」より。)、
無線送受信装置20は、スキャンした結果からRSSIが一番大きい無線LANアクセスポイント40に接続し、その接続している無線LANアクセスポイントの情報(MACアドレス)をデータパケットに含めてデータサーバ61へ送信し、データサーバ61内で無線LANアクセスポイント情報と、無線LANアクセスポイントが設置してある場所情報として部屋の名前が登録されており、建物90内のどの無線LANアクセスポイントに接続しているかによって、無線送受信装置20が建物90内の、どの部屋にいるかが把握できる(「ウ」より。)、
移動体管理システム(「ア」より。)。

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比(引用発明1を主引用例とした場合)
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1における「室外及び室内間のシームレス位置追跡方法」は、「現在の空間のポジショニング結果を獲得」するものであるから、本願発明1における「一家の複数の部屋における複数の無線設備に対してポジショニングする方法」とは、「複数の区分空間における複数の無線設備に対してポジショニングする方法」の点で共通する。

イ 引用発明1における「AP観測データ収集器40は、Wi-Fi受信機30からAPの信号強度とMACアドレスとを提供され」、「AP観測データ収集器709は、周囲の無線LAN信号とその強度とを収集し」、「AP信号の識別情報と信号の強度とからなるAP目録を収集」することが、本願発明1における「現在の空間内における前記無線設備の無線メッセージを収集するとともに分析して、前記現在の空間の第1の特徴パターンを取得するステップ」に相当する。

ウ 引用発明1における「室外及び室内位置判断部713は、AP観測データ収集器709により収集されたAP観測データとKASデータとを比較」すること、具体的には、「無線デバイスの所持者がAP1の位置にいるとき、無線デバイスに具現化された室外及び室内位置判断部は、AP1から収集されたAP目録とKAS1、KAS3、KAS4、KAS5、KAS6、KAS7(KAS7_S1、KAS7_S2、KAS7_S3、又はKAS7_S4全体をKAS7とする)とを比較」することが、本願発明1における「前記現在の空間の第1の特徴パターンを予め設定された複数の空間の特徴パターンとマッチングするステップ」に相当する。

エ 引用発明1における「室外及び室内位置判断部713は、AP観測データに含まれたAPをすべて含んでいるKASデータが存在すると、室内に進入したと判断」すること、具体的には、「AP観測データに含まれたAPがAP1、AP2、AP3で、A建物のKASデータがAP2、AP3、AP4で、B建物のKASデータが、AP1、AP2、AP3であり、C建物のKASデータがAP0、AP1、AP2、AP4、AP5である場合、室外及び室内位置判断部713は、B建物に進入したと判断」することと、本願発明1における「前記現在の空間の第1の特徴パターンとマッチングする第2の特徴パターンがあると判定される場合、前記第2の特徴パターンに対応する空間情報を取得して、現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの部屋かを判定するステップ」とは、「前記現在の空間の第1の特徴パターンとマッチングする第2の特徴パターンがあると判定される場合、前記第2の特徴パターンに対応する空間情報を取得して、現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの区分空間かを判定するステップ」の点で共通する。

オ 引用発明1における「位置アプリケーション714は、室外及び室内位置判断部713の判断結果に基づいて、室内又は室外に応じる位置基盤サービスを提供」するとと、本願発明1における「前記判定結果によって、前記判定された部屋に位置する無線設備に対して対応操作を行うステップ」とは、「前記判定結果によって、所定の処理を実行するステップ」の点で共通する。

カ 引用発明1における「AP観測データ収集器709」が「収集」する「AP目録」が、「AP信号の識別情報と信号の強度とからなる」ことが、本願発明1における「前記第1の特徴パターンは、無線設備の識別子と信号品質との対応関係を含」むことに相当する。

キ 引用発明1における「周囲の無線LAN信号」が「AP」から「無線LAN信号」であることと、本願発明1における「前記無線メッセージは、前記無線設備の間で互いに送信される無線メッセージ、又は前記無線設備がプロトコルの要求によって周期的にブロードキャストする無線メッセージである」こととは、「無線メッセージは、前記無線設備から送信される無線メッセージである」点で共通する。

ク 引用発明1における「位置追跡方法」が、本願発明1における「ポジショニング方法」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
複数の区分空間における複数の無線設備に対してポジショニングする方法であって、
現在の空間内における前記無線設備の無線メッセージを収集するとともに分析して、前記現在の空間の第1の特徴パターンを取得するステップと、
前記現在の空間の第1の特徴パターンを予め設定された複数の空間の特徴パターンとマッチングするステップと、
前記現在の空間の第1の特徴パターンとマッチングする第2の特徴パターンがあると判定される場合、前記第2の特徴パターンに対応する空間情報を取得して、現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの区分空間かを判定するステップと、
前記判定結果によって、所定の処理を実行するステップと、を含み、
前記第1の特徴パターンは、無線設備の識別子と信号品質との対応関係を含み、
前記無線メッセージは、前記無線設備から送信される無線メッセージである
ポジショニング方法。」

(相違点1)
本願発明1では、「一家の複数の部屋における複数の無線設備」に対してポジショニングする方法であって、「現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの部屋かを判定」し、「前記判定結果によって、前記判定された部屋に位置する無線設備に対して対応操作を行う」のに対し、引用発明1は、「室外及び室内」(具体的には、「A建物」、「B建物」または「C建物」に「進入した」か否か)の「位置追跡方法」であって、「室外及び室内位置判断部713は、AP観測データに含まれたAPをすべて含んでいるKASデータが存在すると、室内に進入したと判断」(具体的には、「室外及び室内位置判断部713は、B建物に進入したと判断」)し、「位置アプリケーション714は、室外及び室内位置判断部713の判断結果に基づいて、室内又は室外に応じる位置基盤サービスを提供」しているものの、「一家の複数の部屋」の「どの部屋」に「進入した」かを判断するものではなく、また「位置基盤サービス」が「無線設備に対して対応操作を行う」ものであることも示されていない点。

(相違点2)
本願発明1では、前記無線メッセージは、「前記無線設備の間で互いに送信される無線メッセージ、又は前記無線設備がプロトコルの要求によって周期的にブロードキャストする無線メッセージ」であるのに対し、引用発明1では、「AP観測データ収集器40」が収集する「無線LAN信号」が、「周囲」の「AP」(Access Point)からの「無線LAN信号」であることは示されているものの、具体的にどのようなメッセージであるかは、示されていない点。

(2)判断
まず、相違点1について判断する。
引用発明1における「位置基盤サービス」は、「室外及び室内」の「位置追跡方法」であるが、具体的には、どの建物(「A建物」、「B建物」または「C建物」)に「進入した」か否か判断するためのものであるから、引用発明1において、本願発明1のように「一家」(つまり1つの建物)の「複数の部屋」のどの部屋に「進入した」か否か判断するようなこと(「一家の複数の部屋における複数の無線設備」に対してポジショニングする方法とすること)は、当業者といえども、動機付けられないことである。
また、仮に、引用発明1に引用文献3に記載された技術的事項を適用し、引用発明1における「携帯電話のような無線デバイス」が「建物90内の、どの部屋にいるかが把握できる」ようすることが動機付けられたとしても、本願発明1では、「現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの部屋かを判定」するだけでなく、さらに進んで「前記判定結果によって、前記判定された部屋に位置する無線設備に対して対応操作を行う」構成を備えるのであるから、上記相違点1に係る本願発明の構成は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項から容易に想到し得たことでない。
よって、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3)対比(引用発明2を主引用例とした場合)
次に、本願発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2には、上記相違点1に係る本願発明1の構成について、記載も示唆もなされていない。
よって、本願発明1は、上記「(2)判断」で述べたのと同様の理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2-13について
ア 本願発明2-5は、本願発明1を減縮した発明であるから、上記相違点1に係る本願発明1の構成を備えるものである。
よって、本願発明2-5は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願発明6は、本願発明1に対応する「ポジショニング装置」の発明であり、本願発明1とはカテゴリー表現が異なるだけの発明であり、上記相違点1に係る本願発明1の構成と同様の構成を備えるものである。
よって、本願発明6は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本願発明7-10は、本願発明6を減縮した発明であるから、上記「イ」で述べたのと同様の理由により、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

エ 本願発明11は、「プロセッサーと、前記プロセッサーにより実行可能な命令を記憶するメモリと、を備え」る「ポジショニング装置」であって、本願発明6に係る「ポジショニング装置」が備える各「モジュール」を、該「プロセッサー」の処理として表現した点が異なるだけの発明である。
よって、本願発明11は、上記「イ」で述べたのと同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

オ 本願発明12は、プロセッサーに実行されることにより、本願発明1の「ポジショニング方法」を実現する、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録されたプログラムの発明であるから、上記相違点1に係る本願発明1の構成と同様の構成を備えるものである。
よって、本願発明12は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

カ 本願発明13は、本願発明12のプログラムが記録されたコンピュータ読取可能な記録媒体の発明であるから、上記「オ」で述べたのと同様の理由により、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

第5 原査定についての判断
原査定は、請求項1-13について、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるか、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、令和元年6月10日付けの手続補正により補正された請求項1、6、11は、「一家の複数の部屋における複数の無線設備」に対してポジショニングする方法(装置)であって、「現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの部屋かを判定」し、「前記判定結果によって、前記判定された部屋に位置する無線設備に対して対応操作を行う」構成を備えるものとなっており、上記のとおり、本願発明1-13は、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、請求項1、6、11における「部屋」と「空間」の関係(異同)、及び「対応操作」が行われる「前記無線設備」の意味が不明瞭であり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知した。
これに対し、令和元年6月10日付けの手続補正により、請求項1が「前記現在の空間の第1の特徴パターンとマッチングする第2の特徴パターンがあると判定される場合、前記第2の特徴パターンに対応する空間情報を取得して、現在の空間のポジショニング結果を獲得し、これにより現在の空間がどの部屋かを判定するステップと、前記判定結果によって、前記判定された部屋に位置する無線設備に対して対応操作を行うステップと、を含み」と補正され、請求項6、11についても同様の補正がされた結果、この拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-13は、当業者が引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、上記のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-30 
出願番号 特願2017-518399(P2017-518399)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01S)
P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 説志櫻井 健太  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
清水 稔
発明の名称 ポジショニング方法、装置、プログラム及び記録媒体  
代理人 家入 健  

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