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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C10B
管理番号 1353683
審判番号 不服2018-10498  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-01 
確定日 2019-08-07 
事件の表示 特願2013- 98602「非・微粘結炭からの高強度・高反応性コークス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日出願公開、特開2014-218583、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年5月8日の出願であって、平成28年11月30日付で拒絶理由が通知され、平成29年1月19日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年6月6日付で拒絶理由(2回目)が通知され、同年8月10日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年9月15日付けで拒絶理由(3回目)が通知され、同年11月24日に意見書が提出されたが、平成30年4月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1?4に係る発明は、平成29年8月10日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。なお、以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」ともいう。

「【請求項1】
石炭の溶剤抽出物25?40wt%、非粘結炭60?75wt%、バインダー0?10wt%からなる混合物を乾留する、コークスの製造方法であって、前記溶剤抽出物を抽出する石炭は、無煙炭以外の非粘結炭及び微粘結炭から選択される1種又は2種以上であり、溶剤抽出物の100メッシュでの篩下粒子と、非粘結炭の30メッシュでの篩上粒子と、バインダーが存在する場合にはバインダーをも含め、混合し、その混合物を乾留する、コークスの製造方法。
【請求項2】
前記非粘結炭は、無煙炭、亜瀝青炭、褐炭から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載のコークスの製造方法。
【請求項3】
前記バインダーは、石炭又は石油由来のタール、ピッチ、それらの重質留分、高分子凝集剤、糖蜜、澱粉から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のコークスの製造方法。
【請求項4】
乾留温度800?1300℃で保持する乾留時間が5分間?24時間である、請求項1?3のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。」

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由(平成29年9月15日付で通知した拒絶理由(3回目))は、要するに、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1:Journal of the Japan Institute of Energy,2011年,Vol.90,No.9,853-858

第4 当審の判断

1 刊行物の記載

上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。

摘記1-A:
「1.緒言
近年,多くの高炉において,低還元材比,高出銑比での操業が求められ,その実現に向けて,より高品質(高強度・高反応性)のコークスが必要とされている。しかし,原料炭資源の枯渇から,粘結炭の使用量を減らし,配合炭中の非微粘結炭の配合比を多くした条件で,かつ高品質なコークスを製造するための技術が求められている。
一般に配合炭において非微粘結炭の割合を多くした場合,配合炭の軟化溶融性,膨張性の低下,あるいは乾留時の収縮量が粘結炭と異なることによる気孔や亀裂の形成により,コークス強度等の品質が低下する。また配合炭に用いる石炭は,多種多様な性状を有しており,軟化溶融性やコークス強度を制御するためには,石炭同士の化学的・物理的相互作用の十分な理解が重要である。
これまでの研究で,配合炭の軟化溶融性は,各単味炭の溶融温度域の重なりにより,石炭同士の相互溶融性が増加し,結果として全体の軟化溶融性が向上することを報告した。一方,石炭を熱時溶剤抽出して得られた無灰の抽出物(以下,ハイパーコールと呼ぶ)は,極めて高い流動性を有し,かつ軟化溶融温度域が広いことから,配合炭中の粘結炭の代わりにこのハイパーコールを配合することで,配合炭の軟化溶融性が大きく向上することが報告されている。さらに,ハイパーコールを粘結炭と振替えた配合炭から製造したコークスに対して,間接引張試験を行ったところ,その圧裂強度が増加することが分かっている。そこで本報では,異なる化学的性質を有する広範囲の石炭化度の石炭からハイパーコールを製造し,それを配合して製造したコークスの乾留過程における挙動変化から,ハイパーコール配合炭のコークス化性に及ぼす炭種の影響について調べた結果を報告する。(853頁左欄1行?右欄最下行)

摘記2-A:
「2. 実 験
2.1 試 料
配合炭用の炭素試料には、粘結炭であるグニエラ炭(GO),ネリュングリンスキーK9炭(K9),および微粘結炭であるエンシュウ炭(EN),興隆庄炭(KRS)を用いた。石炭試料は1.0mm以下まで粉砕し,80℃,12時間真空乾燥したものを用いた。配合炭は,各配合比(重量比)の石炭試料をメノウ乳鉢で均質に混合することで得られた。」(854頁左欄1?8行)

摘記2-B:
「また、ハイパーコール試料には,原料炭のK9,GO,グレゴリー炭(Grg),ワークワース炭(WW),カルチカ炭(KA),一般炭のグニュンバヤン炭(GN),亜瀝青炭のパシール炭(Pa),褐炭のヤルーン炭(YL),ムリア炭(MUL)を用いて,それぞれ360℃,380℃,400℃で1メチル-ナフタレンを用いて熱時抽出して得られた抽出物(HPC)を用いた。ハイパーコールは,120℃,12時間真空乾燥し,0.15mm以下に粉砕して使用した。」(854頁左欄8?15行)

摘記2-C:
「2.2 動的粘弾性測定
配合炭の軟化溶融性は,TA Instruments 社のレオメーター(ARES)を使用し,動的粘弾性測定により評価した。測定は,窒素下,周波数1Hz,ひずみ0.1%,40℃から550℃まで3℃/minの昇温下で行った。また,550℃まで測定後に試料の状態を観察し,軟化溶融時の膨張性を推定した。」(854頁左欄17行?右欄4行)

摘記2-D:
「2.3 ハイパーコール粘結性及び浸透性評価
Fig. 1(a)に示すように,ステンレス管を用いてKRS原炭でGrgHPC,PaHPC各0.25gを上部2g,下部2gで挟み込み,それを上述と同様の乾留処理を行い,得られたコークス試料を中心部で横方向に切断し,それぞれ切断面の状態を観察することで,ハイパーコール接触面での粘結性に与える影響を調べた。また,同様の方法で(Fig. 1(b)),粒径1.0?1.4mmのガラスビーズでハイパーコールを挟み込み,350℃,500℃まで昇温速度3℃/minにてマッフル炉内で昇温し,その温度に到達後に加熱を止めて炉から取り出し,ハイパーコールの流動性,膨張性と周囲のガラスビーズへの浸透性を調べた。」(854頁右欄5?15行)

摘記2-E:
「2.4 コークス強度測定
コークス強度測定では,直径20mmのステンレス管を用い,それに所定の重量比で石炭およびハイパーコールを嵩密度800[kg/m^(3)]となるように充填し,マッフル炉を用いて1000℃,30min乾留処理してコークスを調製した。その際,試料の自由膨張を防ぐ目的で,ステンレス管内の試料の上に蓋(0.29kPa)を載せて乾留した。得られたコークス試料を5mm厚に切断し,同様のサンプル6検体について島津製作所製のオートグラフAG-IS(5kN)を用いて圧裂試験を行い,強度を測定した。いずれの試料においても標準偏差は3.5以内であった。」(854頁右欄下から2行?855頁左欄9行)

摘記3-A:
「3. 結果と考察
3.1 軟化溶融性と膨張性
本研究で使用したすべての石炭化度由来のハイパーコールに対して,動的粘弾性測定を行った結果をFig.2に示す。原料炭由来の4種のハイパーコールの結果がFig.2(a),一般炭,亜瀝青炭,褐炭由来の結果がFig.2(b)である。石炭化度に因らず,いずれのハイパーコールでも極めて高い溶融性を有することが確認された。図中軟化溶融性の指標となる縦軸tanδ値が激しく振動しているのは,軟化溶融状態において装置の粘性値の測定限界を超えているためであり,極めて軟化溶融性が高い状態を示している。また,軟化溶融温度域で見ると原料炭から製造したハイパーコールが約200?500℃であるのに対して,一般炭,亜瀝青炭,褐炭からのハイパーコールでは,150?480℃で見られた。原料炭由来のハイパーコールでは,親炭に比べて軟化開始温度は低いが,固化温度はほぼ同程度であった。一方,一般炭,亜瀝青炭,褐炭由来のものでは,親炭は軟化溶融性を示さないが,ハイパーコールにすることで高い軟化溶融性が発現し,原料炭に比べてかなり低温域から溶融して,若干低い温度で固化する性状を有することが分かった。粘弾性測定終了時のGrgHPCとPaHPCの状態をFig.3に示す。GrgHPCでは,餅のように膨らみそのまま固化していることから,親炭由来で高い膨張性を有していることが分かる。一方,亜瀝青炭由来のPaHPCでは,溶融して測定冶具から流れ出していることから,溶融状態において粘性が低いため,あまり膨張せずに固化していることが見受けられる。従って,原料炭から製造したハイパーコールと,一般炭,亜瀝青炭,褐炭から製造したハイパーコールでは,軟化溶融性,膨張性に差が生じ,他の配合炭に添加した際の効果とその機構において多少異なることが推測される。」(855頁左欄10行?右欄12行)

摘記3-B:
「3.2 浸透性
3種のハイパーコール(GrgHPC,GNHPC,PaHPC)を用いてガラスビーズに挟み込んだ試料を350℃,500℃まで昇温した時のハイパーコールの挙動をFig.4に示す。350℃では GrgHPC,GNHPCに比べて,石炭化度の低いPaHPCにおいて中心部のハイパーコールに由来する黒い領域が減り,周囲に広がっていることが読み取れる。これらの差は,Fig.2で示したように,軟化開始温度がPaHPC では150℃程度のより低温から起きていることと,上述の通り,溶融状態における粘性が低く流動性が高いために,より周囲へ浸透したことによるものと考えられる。この結果から,通常の配合炭へハイパーコールを混合した際,配合炭の軟化溶融が始まる前の温度域からハイパーコールが隣接する石炭粒子間へ浸透し,相互溶融するものと考えられる。また,再固化温度を過ぎた500℃では,PaHPCにおいて茶色の領域がビーズ全体に拡大している様子が読み取れる。従って,このハイパーコールでは,軟化溶融温度域において,単に揮発して上部からガスとして排出されるだけではなく,十分周囲のガラスビーズへ拡散浸透していたものと考えられる。これに対して原料炭由来のGrgHPCでは,下部に比べて上部に茶色の領域が多く存在していることが分かる。これはGrgHPCが溶融した状態での粘性が高く,膨張することにより,挟み込んだ部分で膨らみ,あまり周囲のガラスビーズへ拡散していなかったためではないかと考えられる。その後GrgHPC中の揮発成分が上部へ抜ける過程で上部に茶色の領域が広がったのではないかと思われる。一般炭由来のGNHPCでは,これらGrgHPC,PaHPCの中間的な挙動を示している。
Table 2には,各処理温度でのビーズ面とハイパーコール部位の幅の変化を示している(Fig.1参照)。350℃ではGNHPCとPaHPCにおいてハイパーコールの領域が拡大するとともに上ビーズ面がより低下していることから,ハイパーコールがビーズ間へ拡散することで,ビーズが若干沈んだことが分かる。一方,500℃では固体として存在するハイパーコール部位で違いが見られ,GrgHPCでは拡大しているのに対して,他の2つのHPCでは始めの状態と比べて狭くなっている。このことはGrgHPCでは挟み込んだ部位で膨張して再固化したものの割合が多く,一方,GNHPC,PaHPCでは周囲のビーズへ拡散浸透したものが多かったためと考えられる。この結果は,Fig.3で示した粘弾性測定終了時の変化とも一致している。」(855頁右欄13行?856頁左欄下から3行)

摘記3-C:
「3.3 コークス化性
Fig.5は,EN炭,GO炭,K9炭の基準配合炭(EN(25%)-GO(35%)-K9(40%))と,そのGO炭の振替としてGNHPCを5%混合した試料を,300?800℃の各温度まで室温から3℃/minで昇温し,各温度に達した後に冷却して取り出した時の写真を示している。すでに300℃,400℃において,GNHPCを5%添加した試料では一部が塊状となっていることが分かる。この結果は,上記の軟化溶融性,浸透性試験の結果と関連し,こうした低い温度から周囲の配合炭へ拡散浸透して粒子間を融着する働きがあったことを示唆している。また,再固化後の500?800℃での見かけ密度の値が,GNHPC配合炭ではいずれも若干高くなっており,300?400℃での融着の効果が,こうした乾留途中での試料の緻密化にも影響を与えていることを示唆している。」(856頁左欄下から2行?右欄12行)

摘記3-D:
「Fig.6には,微粘結炭であるKRS炭でGrgHPCとPaHPCを挟み込んで1000℃で乾留処理した後のハイパーコールの切断片の写真を示している。GrgHPCではハイパーコールが接触していた部分に大きな気孔が見られ,GrgHPCの膨張により生成したものと思われる。ただし接触面から離れた部位では金属光沢が見られ,ハイパーコールの効果によりコークス化が進んだと考えられる。一方,PaHPCでは,昇温過程において膨張せずに周囲へ拡散浸透することから,接触面には気孔は見られずに全体として緻密なコークスが生成している。この結果は,上記のガラスビーズを用いた場合と同様に,PaHPCの溶融過程での低い粘性と高い流動性に起因しているものと考えられる。また,KRS炭で挟み込んだ場合には,ガラスビーズの場合と異なり,乾留過程での炭素化(化学変化)にもハイパーコールが関与していることが予想される。そこでそれぞれの切断片を横方向にさらに3つに切断し(上部,中間部,下部),それぞれのコークス試料を元素分析で調べた。その結果をTable3にまとめて示す。ハイパーコールと接触していた上部(下)と下部(上)の試料において,H/C,O/C原子数比が周囲よりも低い傾向が見られる。この結果は,ハイパーコール近傍において相互溶融がより起こることにより,多環芳香族への炭素化がより進んだためと思われ,ハイパーコールの共存により,浸透性等の物理的効果に加えて,化学的にも影響していることが確認された。なお,ハイパーコールやそのモデル物質である多環芳香族を配合炭に添加して製造したコークスの組織観察の結果では,それらを添加することで相互溶融し,結果として全体の異方性組織の割合が添加割合以上に向上することが報告されている。」(856頁右欄13行?857頁左欄18行)

摘記3-E:
「Fig.7には基準配合炭(EN(25%)-GO(35%)-K9(40%))に対して,GO炭の振替として7種のハイパーコールを1,3,5,7%添加した時の圧裂強度を示している。1%,3%の振替の場合,K9HPCを除くすべてのハイパーコールにおいて基準配合炭よりも高い圧裂強度を示した。一方,振替率5%では,粘結炭であるK9炭,GO炭,Grg炭から製造したハイパーコールでは,基準配合炭に比べて低い圧裂強度となった。さらに7%の振替では,低石炭化度炭であるPa炭,MUL炭を除く石炭から製造したハイパーコールでは,基準炭と同程度以下となった。全体として粘結炭よりも一般炭,亜瀝青炭,褐炭からのハイパーコールの方が,本研究のような実験室レベルでの圧裂強度試験では,高い強度を与える傾向が見られた。この結果はこれまで述べてきたようなハイパーコールの性状の違いに起因するものと考えられる。すなわち,低石炭化度炭から製造したハイパーコールは粘性が低く,高い流動性を有するため,軟化溶融前の低い温度域から周囲の配合炭粒子内へ拡散浸透する。その結果として振替量に応じて相互溶融が起こる領域が増え,高い振替率でも高い圧裂強度を与えたものと考えられる。一方,粘結炭から製造したハイパーコールは,高い膨張性を有するため,高い振替率では膨張により大きな気孔が生成し,それが強度を低下させたものと推定される。ただし,ここで得られた結果は,試料量が少ないために,試料による荷重や壁圧などがほとんどない条件で製造されたコークス試料であるので,実炉での高い圧力がかかった状態での挙動とは異なることが予想される。実際に300kgでのコークス試験炉で製造したコークス試料のドラム指数(DI,コークス強度を表す指標)では,一般炭,微粘結炭から製造したいずれのハイパーコールでも,振替率10%までコークス強度(DI)が増加することが確認されている。


」(857頁左欄19行?右欄最下行)

摘記3-F:
「7種の石炭から異なる温度で製造したハイパーコールを試料として,基準配合炭(EN(25%)-GO(35%)-K9(40%))に対して,GO炭の振替として5%添加して乾留した際の重量減少率と,得られたコークスの圧裂強度とのプロットをFig.8に示す。ばらつきは見られるが,概ね原料炭からのハイパーコール添加では,基準配合炭に比べて重量減少率の増加は約1%以下であったのに対して,亜瀝青炭,褐炭からのハイパーコールではそれが1?3%と高くなった。これは,後者が酸素官能基等の分解され易い部位を多く有するためと思われる。しかしながら,振替で添加した量5%に比べると,いずれも多くの部分が揮発されずにコークスに残留していることから,配合炭との相互溶融および共炭化の作用により,比較的歩留まりが高くなったものと考えられる。一方,圧裂強度で比較すると,重量減少率の高かった亜瀝青炭,褐炭由来のハイパーコール方が相対的に高くなっていることが分かる。このことは,揮発分により歩留まりは低下するものの,上記の軟化溶融性,拡散浸透性の効果が顕著に表れたため,より強度の高いコークスが製造されたものと結論される。」(858頁左欄1?18行)

摘記4-A:
「4. 結 言
褐炭,亜瀝青炭,一般炭,原料炭の広範囲の石炭化度の石炭からハイパーコールを製造し,その軟化溶融性,膨張性,浸透性,およびそれを配合炭へ添加した際のコークス化性を調べた。その結果,いずれの石炭種でもその親炭の粘結性に関係なく,すべてのハイパーコールが高い軟化溶融性を示すことが明らかとなった。特に一般炭,亜瀝青炭,褐炭由来のハイパーコールでは150?200℃の低い温度から溶融することが分かった。また,それらのハイパーコールでは,溶融状態での粘性が低く,膨張性が低いことから流動性が高く,周囲への拡散性が高いことが分かった。そうした性状に起因して,他の配合炭に添加した際のコークス化性では,隣接する配合炭粒子への拡散浸透が低い温度から起こり,配合炭との相互溶融が促進されることにより,添加しない場合に比べて,高い強度のコークスが製造できることが明らかとなった。一方,原料炭由来のハイパーコールでは,溶融状態における高い膨張性のため,添加量が増えてくると部分的に大きな気孔が生成し,実験室レベルでの圧裂試験では強度が低下する傾向が見られた。
ハイパーコールはその極めて高い軟化溶融性から,配合炭系内の流動補填材としての位置付けが第一に考えられるが,本論で述べてきたように,低い温度から周囲の配合炭の粒子細孔内に浸透して溶融することから,粒子間隙を埋めて融着させる作用や溶融成分を増加させる作用があると思われ,非微粘結炭の割合をさらに増やした配合でのコークス製造が可能ではないかと考えられる。また,再固化後の600?800℃での乾留途中においてすでに見掛け密度等に違いが見られることから,乾留時間の短縮化も期待できる。また,それ以上に大きなメリットとして,褐炭,亜瀝青炭,一般炭からハイパーコールが製造可能であるので,原料炭の資源の多様化と供給の安定化に大きく貢献できるものと期待している。」(858頁左欄19行?右欄15行)

2 引用発明

刊行物1(摘記3-E)には、基準配合炭(EN(25%)-GO(35%)-K9(40%))に対して、GO炭の振替として7種のハイパーコールのいずれかをそれぞれ1、3、5、7%添加したものを乾留してコークスを製造したこと及びその圧裂強度が記載されている。

そうすると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「基準配合炭(EN(25%)-GO(35%)-K9(40%))に対して、GO炭の振替として7種のハイパーコールのいずれかを1、3、5、7%のいずれかの配合割合で添加したものを乾留してコークスを製造する方法。」

3 対比

本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「基準配合炭」を構成する「EN」、「GO」、「K9」は、それぞれ、「微粘結炭であるエンシュウ炭」、「粘結炭であるグニエラ炭」、「粘結炭であるネリュングリンスキーK9炭」の略号である(摘記2-A)。
したがって、引用発明の「基準配合炭」は、「微粘結炭であるエンシュウ炭」が25%、「粘結炭であるグニエラ炭」が35%、「粘結炭であるネリュングリンスキーK9炭」が40%からなる配合炭であるから、本願発明の「非粘結炭」と、石炭である点で一致する。

また、引用発明の「7種のハイパーコール」は、具体的には「K9HPC」、「GOHPC」、「GrgHPC」、「KAHPC」、「GNHPC」、「PaHPC」、「MULHPC」を指し(Fig.7)、それぞれ、ハイパーコールの原料として、「粘結炭であるネリュングリンスキーK9炭(K9)」、「粘結炭であるグニエラ炭(GO)」、「原料炭のグレゴリー炭(Grg)」、「原料炭のカルチカ炭(KA)」、「一般炭のグニュンバヤン炭(GN)」、「亜瀝青炭のパシール炭(Pa)」、「褐炭のムリア炭(MUL)」を用い、1メチル-ナフタレンを用いて熱時抽出して得られた抽出物(HPC)である(摘記2-B)。したがって、例えば、K9HPCは、粘結炭であるネリュングリンスキーK9炭を用い、1メチル-ナフタレンを用いて熱時抽出して得られた抽出物を意味するものである。
そうすると、引用発明の「7種のハイパーコール」は、いずれも、石炭を用い、1メチル-ナフタレンを用いて熱時抽出して得られた抽出物であるから、本願発明の「石炭の溶剤抽出物」に相当する。また、引用発明の「基準配合炭(EN(25%)-GO(35%)-K9(40%))に対して、GO炭の振替として7種のハイパーコールのいずれかを1、3、5、7%のいずれかの配合割合で添加したもの」は、EN、GO、K9及び7種のハイパーコールのいずれか1つとの混合物であると解することができる。

そうすると、本願発明と引用発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。
<一致点>
「石炭の溶剤抽出物及び石炭からなる混合物を乾留する、コークスの製造方法であって、溶剤抽出物と石炭を混合し、その混合物を乾留する、コークスの製造方法。」

<相違点1>
混合物を構成する成分である石炭の溶剤抽出物の配合割合について、本願発明は、「25?40wt%」と特定されているのに対し、引用発明は、「1、3、5、7%のいずれか」と特定されている点。
<相違点2>
混合物を構成する成分である石炭の溶剤抽出物を抽出する石炭の種類について、本願発明は、「無煙炭以外の非粘結炭及び微粘結炭から選択される1種又は2種以上」と特定されているのに対し、引用発明は、「K9」、「GO」、「Grg」、「KA」、「GN」、「Pa」、「MUL」である点。
<相違点3>
混合物を構成する成分である石炭の配合割合について、本願発明は、「60?75wt%」であると特定されているのに対し、引用発明の「基準配合炭」の配合割合は、全体(100%)から、「7種のハイパーコールのいずれか」の配合割合(1、3、5、7%のいずれか)を差し引いた残部であるから、99、97、95、93%のいずれかである点。
<相違点4>
混合物を構成する成分である石炭の種類について、本願発明は、「非粘結炭」に特定されているのに対し、引用発明は、基準配合炭(EN(25%)-GO(35%)-K9(40%))であり、「EN」、「GO」、「K9」は、それぞれ、微粘結炭、粘結炭、粘結炭であるから、微粘結炭と粘結炭の混合物(非粘結炭ではないもの)である点。

<相違点5>
混合物を構成する成分である石炭の溶剤抽出物及び石炭の粒径について、本願発明は、それぞれ、「100メッシュでの篩下粒子」、及び、「30メッシュでの篩上粒子」と特定されているのに対し、引用発明は、当該粒径について何ら特定されていない点。
<相違点6>
混合物を構成する成分について、本願発明は、さらに、「バインダー」を「0?10wt%」の配合割合で含みうることが特定されているのに対し、引用発明は、そのような特定を備えていない点。

4 相違点の検討

(1) 相違点1、3、4について

刊行物1の(摘記3-E)には、「すなわち,低石炭化度炭から製造したハイパーコールは粘性が低く,高い流動性を有するため,軟化溶融前の低い温度域から周囲の配合炭粒子内へ拡散浸透する。その結果として振替量に応じて相互溶融が起こる領域が増え,高い振替率でも高い圧裂強度を与えたものと考えられる。一方,粘結炭から製造したハイパーコールは,高い膨張性を有するため,高い振替率では膨張により大きな気孔が生成し,それが強度を低下させたものと推定される。ただし,ここで得られた結果は,試料量が少ないために,試料による荷重や壁圧などがほとんどない条件で製造されたコークス試料であるので,実炉での高い圧力がかかった状態での挙動とは異なることが予想される。実際に300kgでのコークス試験炉で製造したコークス試料のドラム指数(DI,コークス強度を表す指標)では,一般炭,微粘結炭から製造したいずれのハイパーコールでも,振替率10%までコークス強度(DI)が増加することが確認されている。」との記載があり、当該記載に接した当業者は、引用発明におけるハイパーコールの添加量(GO炭の振替率)は、せいぜい10%までであり、10%を超えるとかえってコークス強度が低下して高品質なコークスを製造することができないと考えるのが合理的である。
したがって、上記相違点1に係る配合割合に関し、引用発明の「1、3、5、7%のいずれか」を、本願発明の「25?40wt%」にすることは、当業者といえども容易になし得た事項であるとはいえない。

また、上記相違点3に係る石炭の配合割合についてみても、引用発明の「基準配合炭」の配合割合は、全体(100%)から、「7種のハイパーコールのいずれか」の配合割合を差し引いた残部であるが、上述のとおり、引用発明の「7種のハイパーコール」の配合割合について、「1、3、5、7%のいずれか」を本願発明の「25?40wt%」にすることは、当業者といえども容易になし得た事項であるとはいえないから、その残部、すなわち、引用発明の「基準配合炭」の配合割合を、「60?75wt%」とすることも、当業者といえども容易になし得た事項であるとはいえない。

さらに、刊行物1を子細にみても、引用発明の「基準配合炭」(微粘結炭と粘結炭の混合物)を、非粘結炭とすることを示唆する記載は見当たらないから、上記相違点4に係る本願発明の構成も容易想到の事項とは認められない。

そして、本願発明は、上記相違点1?6に係る構成を具備することにより、「標準コークスと同等かそれ以上の破壊強度やガス化反応性を有するコークスを製造することができるため、高炉製鉄用等に効果的に使用することができる。また、強粘結炭を一切使用しないで製造することができるので、製造される高強度・高反応性コークスのコストを低減することが可能であり、乾留前に予め石炭を煩雑な事前処理やブリケット化等の成形を行う必要がないので、コークス製造コストをさらに低減することが可能である。」(【0018】)という本願明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。

(2) 小括

以上のとおりであるから、その余の相違点についてさらに検討するまでもなく、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 原査定について

ここで原査定における引用発明について触れておく。
原査定では、刊行物1の摘記3-Dの記載に基づいて、以下の発明が認定されている。
「亜瀝青炭を熱時溶剤抽出して得られた無灰の抽出物であるハイパーコールで、微粘結炭を挟み込み、30分間、1000℃で乾留処理する、全体として緻密なコークスの製造方法。」
そこで、当該記載を精査すると、確かに、摘記3-DのFig.6には、微粘結炭であるKRS炭でGrgHPCとPaHPCを挟み込んで1000℃で乾留処理した後のハイパーコールの切断片の写真が記載され、特にPaHPCでは、接触面には気泡は見られず全体として緻密なコークスが生成していることが示されている。しかしながら、当該Fig.6に係る実験は、摘記2-Dのとおり、ハイパーコールの粘結性(浸透性)を評価するためのものであって、実際に、配合炭にハイパーコールを添加してコークスを製造することを意図したものではない。
したがって、摘記3-Dの記載から上記発明を認定することは妥当でない。
また、仮に上記発明を認定することができたとしても、上記Fig.6の実験結果は、摘記3-Dに記載のとおり、PaHPCの溶融過程での低い粘性と高い流動性、及び、当該PaHPCがKRS炭の乾留過程での炭素化(化学変化)に関与していることを示唆するにとどまり、実際のコークスの製造における適正な態様(例えば、本願発明のように配合炭として非粘結炭のみを使用し、これにハイパーコールを25?40wt%添加する態様など)についてまで教示するものではない。事実、刊行物1には、配合炭として非粘結炭のみを用いたものは記載されていないし、上記摘記3-Dに記載のとおり、コークス強度が確認されているのは、せいぜいハイパーコールの振替率10%までである。
そうすると、上記発明が、本願発明のような態様までを想定していないことは明らかであるから、このような発明に基づいて本願発明が容易想到のものということもできない。

6 本願の請求項2?4に係る発明について

本願の請求項2?4に係る発明は、本願発明を直接又は間接的に引用し、されに限定したものであるが、以上検討したとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、本願の請求項2?4に係る発明も本願発明と同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 結び

以上の検討のとおり、本願の請求項1?4に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-24 
出願番号 特願2013-98602(P2013-98602)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C10B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齊藤 光子村松 宏紀  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 蔵野 雅昭
木村 敏康
発明の名称 非・微粘結炭からの高強度・高反応性コークス製造方法  

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