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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1353691
審判番号 不服2018-10744  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-06 
確定日 2019-08-06 
事件の表示 特願2014-188160「ICカードの製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月25日出願公開、特開2016- 62186、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成26年9月16日の出願であって,平成30年4月3日付けで拒絶の理由が通知され,同年6月4日に意見書と共に手続補正書が提出され,同年6月29日付けで拒絶査定(謄本送達日同年7月3日)がなされ,これに対して同年8月6日に審判請求がなされると共に手続補正がなされ,同年8月24日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ,令和元年5月15日付けで当審により拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年6月5日に意見書と共に手続補正書が提出され,また指定期間内である同年6月19日に意見書と共に手続補正書(以下,この手続補正を「本件補正」という。)が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年6月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1-5
・引用文献1-2

・請求項6
・引用文献1-3
<引用文献等一覧>
1.特開2011-116523号公報
2.特開2007-156589号公報
3.特開平02-307757号公報


第3 本願発明

本願請求項1乃至4に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明4」という。)は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
第1の基材と、ICチップを有するインレットと、第2の基材とからなる積層体を挟持してICカードを製造するICカードの製造装置において、
前記第1の基材と前記第2の基材との間に接着剤が介在され、
前記積層体を挟持する第1ラミネートローラおよび第2ラミネートローラと、
前記第1ラミネートローラおよび前記第2ラミネートローラの上流側に設けられ、前記接着剤を加熱保温する加熱保温手段とを備え、
前記第1ラミネートローラは、第1ローラ本体と、第1ローラ本体の両側に設けられた一対の第1当接ローラとを有し、
前記第2ラミネートローラは、第1ローラ本体との間で前記積層体を挟持する第2ローラ本体と、第2ローラ本体の両側に設けられた一対の第2傾斜ローラとを有し、
前記第1ラミネートローラの前記第1ローラ本体の両側に位置する各第1当接ローラは、前記第2ローラ本体の両側に位置する対応する前記第2ラミネートローラの第2傾斜ローラに当接して前記第1ローラ本体と前記第2ローラ本体の両側に当接部が形成され、
前記第2ラミネートローラの各第2傾斜ローラは、互いに同一方向に向うテーパ状の断面を有し、前記第1ラミネートローラを前記第2ラミネートローラに対して軸方向に沿って相対的に移動させることによって、前記第1ローラ本体と前記第2ローラ本体の両側に位置する当接部を移動させて、前記第1ローラ本体と、前記第2ローラ本体との間の隙間を調整し、
前記第1ラミネートローラの第1当接ローラがその軸線に平行な断面において円弧状断面を有することを特徴とするICカードの製造装置。
【請求項2】
前記第1ラミネートローラと前記第2ラミネートローラのうちの一方に、回転方向駆動機構が連結され、他方に軸方向駆動機構が連結されていることを特徴とする請求項1記載のICカードの製造装置。
【請求項3】
前記第1ラミネートローラと前記第2ラミネートローラのうちの他方に、軸方向駆動機構とともに、上下方向駆動機構が連結されていることを特徴とする請求項2記載のICカードの製造装置。
【請求項4】
前記第1ラミネートローラの各第1当接ローラまたは前記第2ラミネートローラの各第2傾斜ローラに加熱手段が設けられ、前記第1ラミネートローラの各第1当接ローラまたは前記第2ラミネートローラの各第2傾斜ローラを前記加熱手段によって加熱することにより、前記第1ローラ本体と前記第2ローラ本体の周速差を調整することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のICカードの製造装置。」


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項
当審拒絶理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2003-30618号公報(平成15年1月31日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は説明のために当審で付加。以下同様。)

A 「【0056】まず、図1乃至図3はICカードの製造方法により製造されるICカードを示し、図1はICカードの平面図、図2はICカードの断面図、図3はICカードの他の実施の形態の断面図である。
【0057】ICカードは、第1の基材1と第2の基材2の間に、ICチップ3a及びアンテナ3bを含む部品からなるICインレット3を介在させて接着剤4により貼合わせて製造される。」

B 「【0064】接着剤4は、例えばホットメルト接着剤であり、特に反応性ホットメルト接着剤が好ましい。反応性ホットメルト接着剤は樹脂を溶融させて接着した後、湿気を吸収して樹脂が硬化するタイプの接着剤であり、通常のホットメルト接着剤と比較して接着可能時間が長く、かつ接着後に軟化温度が高くなるため耐久性に富み、低温での塗工に適している。通常のホットメルト接着剤では、塗工温度が樹脂の軟化温度と同じであるため耐熱性は塗工温度以上にはならず、そのため高耐熱性を要求する場合は、高い塗工温度が必要になる。一方、反応性ホットメルト接着剤は、塗工後に硬化するため耐熱温度は塗工温度より数十℃高くなるため、受像層の表面が高温でダメージを受けやすい素材である場合そのダメージを少なくすることができる。」

C 「【0085】貼合わせ工程Fでは、接着剤を塗工しICインレット3を載置した枚葉シート状の第1の基材1と、接着剤を塗工した第2の基材2をロール30,40でニップして貼合わせる。このニップロール30は第2に基材2への塗工用のロールを兼用しても良いし、また別個に設けても良い。
【0086】ニップロールは、金属対金属とする場合と一方をゴム被覆とする場合があり、ニップロールのギャップ設定、加圧力設定、またはその組合わせにより、総厚を整えたり、接着剤にICインレットを埋込んで平滑性を整える。
【0087】従って、第1の基材1及び第2の基材2ともに貼合わせる直前に、加熱保温手段41によりホットメルト接着剤を加熱保温することが好ましいが、基材の表面は高温によりダメージを受け易いため、図5に示すように、ホットメルト接着剤側は温度センサS1のホットメルト接着剤温度情報に基づき制御部42により赤外ヒータ等の加熱保温手段41を駆動して加熱保温する。一方、基材側はロール30内部に温調機43を介して熱媒を循環させ、温度センサS2のロール温度情報と温度センサS3の熱媒温度情報に基づき制御部44により温調機43を駆動して一定温度(例えば60℃)以上にならないよう保温することが好ましい。」

D

図4

2 引用発明

ア 上記記載事項Aの「まず、図1乃至図3はICカードの製造方法により製造されるICカードを示し、図1はICカードの平面図、図2はICカードの断面図、図3はICカードの他の実施の形態の断面図である。」との記載,及び「ICカードは、第1の基材と第2の基材の間に、ICチップ及びアンテナを含む部品からなるICインレットを介在させて接着剤により貼合わせて製造される。」との記載,及び上記記載事項Dの図4を参照して,引用例1には,“第1の基材と第2の基材の間に,ICチップ及びアンテナを含む部品からなるICインレットを介在させて接着剤により貼合わせて製造される,ICカードの製造装置”について記載されているといえる。

イ 上記記載事項Bの「接着剤4は、例えばホットメルト接着剤であり、特に反応性ホットメルト接着剤が好ましい。」との記載,及び上記アの認定から,引用例1には,“前記接着剤は,例えばホットメルト接着剤であ”ることが記載されているといえる。

ウ 上記記載事項Cの「貼合わせ工程Fでは、接着剤を塗工しICインレット3を載置した枚葉シート状の第1の基材1と、接着剤を塗工した第2の基材2をロール30,40でニップして貼合わせる。」との記載,同Cの「このニップロール30は第2に基材2への塗工用のロールを兼用しても良いし、また別個に設けても良い。」との記載,及び上記記載事項Dの図4から,「ロール30,40」は,「ニップロール30」及び「ニップロール40」を指し示しているといえ,さらに上記アの認定もあわせ,引用例1には,“貼合わせ工程では,前記接着剤を塗工し前記ICインレットを載置した枚葉シート状の前記第1の基材と,前記接着剤を塗工した前記第2の基材をニップロール30,40でニップして貼合わせ”ることが記載されているといえる。

エ 上記記載事項Cの「ニップロールは、金属対金属とする場合と一方をゴム被覆とする場合があり、ニップロールのギャップ設定、加圧力設定、またはその組合わせにより、総厚を整えたり、接着剤にICインレットを埋込んで平滑性を整える。」との記載,及び上記ウの認定から,引用例1には,“前記ニップロールは,前記ニップロールのギャップ設定,加圧力設定,またはその組合わせにより,総厚を整えたり,前記接着剤に前記ICインレットを埋込んで平滑性を整える”ことが記載されているといえる。

オ 上記記載事項Cの「従って、第1の基材1及び第2の基材2ともに貼合わせる直前に、加熱保温手段41によりホットメルト接着剤を加熱保温することが好ましいが、基材の表面は高温によりダメージを受け易いため、図5に示すように、ホットメルト接着剤側は温度センサS1のホットメルト接着剤温度情報に基づき制御部42により赤外ヒータ等の加熱保温手段41を駆動して加熱保温する。」との記載,及び上記ア及びウの認定から,引用例1には,“前記第1の基材及び前記第2の基材ともに貼合わせる直前に,加熱保温手段によりホットメルト接着剤を加熱保温する”ことが記載されているといえる。

カ 以上上記ア乃至オより,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「第1の基材と第2の基材の間に,ICチップ及びアンテナを含む部品からなるICインレットを介在させて接着剤により貼合わせて製造される,ICカードの製造装置であって,
前記接着剤は,例えばホットメルト接着剤であり,
貼合わせ工程では,前記接着剤を塗工し前記ICインレットを載置した枚葉シート状の前記第1の基材と,前記接着剤を塗工した前記第2の基材をニップロール30,40でニップして貼合わせ,
前記ニップロールは,前記ニップロールのギャップ設定,加圧力設定,またはその組合わせにより,総厚を整えたり,前記接着剤に前記ICインレットを埋込んで平滑性を整えるものであり,
前記第1の基材及び前記第2の基材ともに貼合わせる直前に,加熱保温手段によりホットメルト接着剤を加熱保温する
ICカードの製造装置。」

3 引用例2に記載された事項
当審拒絶理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,米国特許第4958558号明細書(1990年9月25日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

E “BACKGROUND OF THE INVENTION
In a double-belt press, each of two belts is guided along respective arrays of support rollers and the material to be subjected to the pressing or conveying operation of the double-belt system is engaged between the belts and conveyed in succession between the rolls of the support roll pairs.
The adjustment of the gap width of the press and hence the spacing between pairs of support rolls has been effected in accordance with known techniques by relative adjustment of the upper and lower machine frames upon which the support rolls were mounted and/or by individual adjustments of the support rolls.
In the case of a plurality of support roll pairs, where each roll pair must be adjusted under load to the correct gap width, it has been necessary to provide extensive measurement and control devices and procedures for such adjustment.
If one abandons the effort to adjust the individual gap widths of each individual roll pair and merely monitors the final thickness of the pressed produce and adjusts the gap widths in a feedback response, the machine may not operate in its most efficient and optimum manner since the various roll pairs themselves may not operate at optimum working points.”(1欄16乃至41行)
(当審仮訳:
発明の背景
二重ベルトプレス,すなわち2本のベルトの各々が,対応する支持ローラと材料のアレイに沿って案内され,それによって搬送動作またはプレス動作にさらされる二重ベルトシステムでは,材料が当該ベルトの間で係合され,支持ロールと対のロールとの間に,連続して搬送される。
プレスのギャップ幅とそのため支持ロール対の間の間隔の調節は,支持ロールがその上に搭載された機械の上側及び下側フレームの相対的な調整によって,および/または支持ロールの個々の調整によって,既知の技術に従って行われた。
複数の支持ロール対の各ロール対は,正しいすき間の幅に調整しなければならない場合,広範な測定を提供すること,及びこのような調整のためのデバイスおよび手順を制御する必要があった。
一つは,個々のロール対の個々のギャップ幅を調整するための努力を放棄し,単にプレス工程の最終の厚さを監視し,フィードバックに応じてギャップ幅を調整する場合,種々のロール対自体は,最適の動作点で動作することができないので,機械はその最も効率的かつ最適に動作しないことがある。)

F “Referring first to FIG. 3, it can be seen that a double-belt press 30, in principle, comprises a multiplicity of pairs 31-35 of support rolls which are juxtaposed with one another and can correspond to the pairs 1 and 2 of the support rolls shown in FIGS. 1 and 2.
Belts 36 and 37 pass along the support rolls and can engage an article or material to be pressed in a continuous manner through the system. Additional rollers 38 can be provided to complete the guide paths for the belts. The double-belt press shown in FIG. 3 has an idealized form, but it will be understood the invention is generally applicable to double-belt systems using support roll pairs in the manner described herein.
The mutually cooperating support rolls 1 and 2 (FIG. 1) are formed at their ends with conical formations 3 and 4' and 4 and 3', respectively, which roll against one another and, to reduce frictional contact, can be outwardly convex as shown at 3a and 4a for the rolls 1a and 2a in FIG. 2 and which otherwise are similar to the rolls 1 and 2 of FIG. 1. The stubs 5a, 6a and the bearings 7a and 8a have also been illustrated in FIG. 2.
At their ends, the rolls 1 and 2 carry shaft stubs 5, 5' and 6, 6' upon which the bearing in 7, 8 are formed. The latter are arranged in the bearings 9 and 10.
The bearings 9 and 10 are fixed in bearing carriers 11 and 12 which are shiftable in the frame members 13 and 14.
The two shifting systems can be a cylinder arrangement 20 as can be seen diagrammatically in FIG. 1 or a cylinder arrangement 21, respectively connected to the bearing carriers 11 and 12 for displacing these bearing carriers in the direction represented by the arrows 23 and 24, respectively.
For example, the axial shifting cylinder 21 can displace the roll 2 of the left while the cylinder 20 allows the roll 1 to move upwardly and thereby increase the width of the gap 15. Conversely a displacement of the roll 2 to the right, coupled with forcing of the roll 1 downwardly so that the conical formations 3, 4 and 4', 3' continue to engage, will reduce the width of the gap. After the width of the gap 15 has been set, further adjustments are possible using the cylinders 20 and 21.”(2欄51行乃至3欄26行)
(当審仮訳:
まず図3を参照すると,二重ベルトプレス30は基本的に,相互に並べて配置された支持ローラの対31-35の多重度を含み,図1及び図2に示す支持ロールの対1および2に対応することがわかる。
ベルト36,37は,支持ロールを通過して,システムを通って連続的に押圧されるべき物品又は材料を係合することができる。付加的なローラ38はベルト用の案内経路を完成させるために提供することができる。図3に示されるダブルベルトプレスは,理想的な形状を有しているが,本発明は,本明細書に一般的に記載されているように支持ロール対を用いた二重ベルトシステムにも適用可能であることが理解されよう。
互いに協働する支持ロール1及び2(図1)の端部は,円錐構造体3と4’,4及び3’によって形成され,各々は,互いに対して転動し,摩擦接触を低減するために,図2のロール1a,2aの3a,4aで示すように凸状にすることができ,そうでなければ,図1のロール1,2と同様にすることができる。スタブ5a,6aと軸受7a,8aは,図2にも示されている。
その端部で,ロール1および2は,シャフトスタブ5,5’,6,6’を担持し,7,8,の軸受けが形成されている。後者は,軸受9,10が配置されている。
軸受9及び10は,軸受けキャリア11,12に固定されていて,フレーム部材13および14に対して移動可能に支持されている。
2つの移動システムは,図1に図示されるシリンダー装置20,或いはシリンダー装置21であり得,各々は,矢印23と24に示される方向への軸受けの移動のために,当該軸受けキャリア11と12に接続される。
例えば,軸方向移動シリンダー21はロール2を左へ移動できる一方で,シリンダー20はロール1を上方向へ移動させて,ギャップ15の幅を増加する。反対に,ロール2の右への移動は,ロール1に対面し対になって下方へ圧迫することによって円錐構造体3,4と4’,3’の結合が継続され,前記ギャップの幅を減らすであろう。ギャップ15の幅がセットされた後,シリンダー20と21を使ってさらなる調整が可能である。)

G

図1

H

図2

以上上記記載事項E乃至Hから,引用例2には次の技術(以下,「引用例2記載技術」という。)が記載されているものと認められる。

「一対の支持ロール1及び2の端部に設けられた円錐構造体3,4’及び4,3’によって,当該ロール1及び2の間のギャップの幅を調整するものにおいて,当該円錐構造体は,互いに凸状とすることができること。」

4 引用例3に記載された事項
当審拒絶理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2013-76888号公報(平成25年4月25日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(なお,当審拒絶理由の「特開2003-76888号公報」は誤記。)

I 「【0068】
長尺の像担持体61と、像担持体61に向けて付勢部材(この例では金属ばね)105aにより付勢されかつ像担持体61と平行に保持される、導電性支持体105と電気抵抗調整層104とにより構成される長尺の本体部とこの本体部の両端付近に設けられかつ像担持体61に当接して上記本体部を像担持体61の表面から間隔をあけた状態に保つ空隙保持部材103とにより構成された帯電部材と、を有するプロセスカートリッジであり、2つの空隙保持部材103の本体部の長さ方向のうちの一方側(この例では図中右側)の面が、それぞれ本体部の長さ方向に対して同じ角度(鋭角)で斜めとなる斜面部(円錐台部)103aがそれぞれ設けられ(図7(a)、及び、図7(b)参照)、前記像担持体61は、前記2つの空隙保持部材が接する部分に、斜面部103aと平行でかつ該2つの斜面部103aとそれぞれ接する斜面61bを備えて突出して設けられた2つの接触凸部61aを有し、かつ、帯電部材101がその本体部の長さ方向(図中左右方向)に移動可能に保持されている。
【0069】
このような構成により圧子106により図中左方向に帯電部材101を移動させる(図6(a)→図6(b)→図6(c)、及び図7、(c)参照)ことにより帯電部材101(の本体部)と像担持体61と間の空隙を小さく(この例では80μmを45μmに)することができる。」

5 引用例4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2011-116523号公報(平成23年6月16日公開。以下,これを「引用例4」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

J 「【0040】
図3に示すように、上記上載せローラ軸16の軸方向他端部には第2の上載せ用軸受26によって回転可能に支持されている。この第2の上載せ用軸受26はホルダ27に収容されていて、このホルダ27は上記第1のブラケット18に一端が連結されたL字状の第2のブラケット28の上端にねじ止め固定されている。
【0041】
なお、上記第2の上載せ用軸受26は上記第1の上載せ用軸受17と軸芯が同じ高さになるよう上記第2のブラケット28に取り付けられる。
【0042】
上記搬送軸4の上記基板Wの幅方向端部よりも外方に位置する部分には第1の荷重調整ローラ31が軸方向に移動可能に設けられている。上記上載せローラ軸16の軸方向中途部で、上記第1の荷重調整ローラ31と対応する位置には第2の荷重調整ローラ32が軸方向に移動可能に設けられている。」

K 「【0051】
図3に示すように、傾斜方向下方の末端に位置する位置決め線37aに第2の荷重調整ローラ32の第2の傾斜面35の軸方向一端を合わせたとき、上記端部支持ローラ5aの外周面と、上記上載せローラ25の外周面との間隔が所定の間隔、たとえば0.3mmになるよう、上記第1、第2の傾斜面34,35の傾斜角度が設定されている。
【0052】
そして、上載せローラ25を上記位置決め線37a?37nの1つ分の間隔で移動させることで、上記上載せローラ25の外周面と、上記端部支持ローラ5aの外周面の間隔が0.1mmずつ大きくなるように設定されている。
【0053】
したがって、上記位置決め線37a?37nによって第1の荷重調整ローラ31の第1の傾斜面34と、第2の荷重調整ローラ32の第2の傾斜面35との軸方向の接触度合を調整すれば、上記端部支持ローラ5aの外周面と、上記上載せローラ25の外周面との間隔を所望する精度で設定することができるようになっている。」

6 引用例5に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2007-156589号公報(平成19年6月21日公開。以下,これを「引用例5」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

L 「【0001】
この発明は、片面に接着剤層を有する一対のシート材の接着剤層同士を対向した間に、基材上にICチップ及びアンテナが実装されてなるモジュール基板を挟み込んで貼り合せる電子情報記録カードの製造方法及び電子情報記録カードの製造装置に関するものである。」

M 「【0035】
ICカードの製造装置には、ロール状の第2のシート材20を送り出す送出軸50が設けられ、この第2のシート材20はガイドローラ51,52に案内されて搬送される。この送出軸50から送り出される第2のシート材20に接着剤を塗布する接着剤塗布装置41が配置されている。この接着剤塗布装置41から第2のシート材20上に接着剤を供給して塗布し、その後にモジュール基板2を供給する。
【0036】
また、ICカードの製造装置には、ロール状の第1のシート材10を送り出す送出軸21が設けられ、この第1のシート材10はガイドローラ53,54,55に案内されて搬送される。この送出軸21から送り出される第1のシート材10に接着剤を塗布する接着剤塗布装置43が配置されている。この接着剤塗布装置43から第1のシート材10上に接着剤を供給して塗布する。
【0037】
このように第2のシート材20の接着剤上にモジュール基板2を載置し、第1のシート材10上に接着剤を塗布しながら対のラミネートローラ27により第1のシート材10と第2のシート材20とを搬送経路100に搬送しながら貼り合わせる。
【0038】
このICカードの製造装置には、搬送経路100上に加圧部72、塗布部90、塗布液乾燥部95、切断部74及び打抜部73が搬送方向に沿って配置されている。
【0039】
加圧部72には、対のラミネートローラ72aが複数配置されている。この複数の対のラミネートローラ72aの間を貼り合わされた第1のシート材10と第2のシート材20が搬送される。この対のラミネートローラ72aによって貼り合わされた第1のシート材10と第2のシート材20に所定の圧力がかかり密着される。」

7 引用例6に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開平2-307757号公報(平成2年12月20日公開。以下,これを「引用例6」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

N 「今、第2図に示すようにイエロー、マゼンタ、シアン共に印字部38がC側に高い発色率で存在している時、キャプスタンローラ5の半径はみかけ上インクの厚さだけ太くなるため、用紙25は、キャプスタンローラ5の周速差のためD側にスキューすることになる。そこでCPU36dは、データを工I/O36eに転送し、ヒータコントローラ34を動作させ、ヒータ32を加熱させることにより、キャプスタンローラ5を熱膨張させて周速差をなくし、スキューを減少させることができる。」(3ページ右上欄1乃至11行)


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(あ)引用発明の「第1の基材」,「第2の基材」,「ICチップ」,「ICインレット」,「接着剤」,「加熱保温手段」及び「ICカードの製造装置」は,それぞれ本願発明1の,「第1の基材」,「第2の基材」,「ICチップ」,「インレット」,「接着剤」,「加熱保温手段」及び「ICカードの製造装置」に相当する。

(い)引用発明の「第1の基材と第2の基材の間に,ICチップ及びアンテナを含む部品からなるICインレットを介在させて接着剤により貼合わせて製造される,ICカード」は,本願発明1の「第1の基材と、ICチップを有するインレットと、第2の基材とからなる積層体を挟持」した「ICカード」といえ,上記(あ)における認定を踏まえれば,引用発明と本願発明1とは,“第1の基材と,ICチップを有するインレットと,第2の基材とからなる積層体を挟持してICカードを製造するICカードの製造装置”である点で共通する。

(う)引用発明は,「第1の基材と第2の基材の間に,ICチップ及びアンテナを含む部品からなるICインレットを介在させて接着剤により貼合わせて製造される,ICカードの製造装置」であるから,上記(あ)の認定を踏まえ,引用発明と本願発明1とは,“前記第1の基材と前記第2の基材との間に接着剤が介在され”る点で一致する。

(え)引用発明は,「貼合わせ工程では,前記接着剤を塗工し前記ICインレットを載置した枚葉シート状の前記第1の基材と,前記接着剤を塗工した前記第2の基材をニップロール30,40でニップして貼合わせ」るものであり,そのうち「ニップロール30,40」と本願発明1の「第1ラミネートローラ」及び「第2ラミネートローラ」は,下記の点(相違点1)で相違するものの,“前記積層体を挟持する第1ローラおよび第2ローラ”である点で一致する。

(お)引用発明の「加熱保温手段」は,「前記第1の基材及び前記第2の基材ともに貼合わせる直前」に,当該「加熱保温手段によりホットメルト接着剤を加熱保温する」ものであり,上記(あ)及び(え)の認定を踏まえ,引用発明と本願発明1とは,“前記第1ローラおよび前記第2ローラの上流側に設けられ,前記接着剤を加熱保温する加熱保温手段”を備える点で一致する。

(か)引用発明の「ニップロール30,40」は,「第1の基材」と「第2の基材」とを「ニップし」,「前記ニップロールのギャップ設定,加圧力設定,またはその組合わせにより,総厚を整えたり,前記接着剤に前記ICインレットを埋込んで平滑性を整えるもの」であり,本願発明1の「第1ラミネートローラ」及び「第2ラミネートローラ」とはそれぞれ,少なくとも“第1ローラ本体”及び“第1ローラ本体との間で前記積層体を挟持する第2ローラ本体”に相当する構成を有する点で共通するといえるから,引用発明と本願発明1とは,下記の点(相違点2)で相違するものの,“前記第1ローラは,第1ローラ本体を有”する点,及び“前記第2ローラは,第1ローラ本体との間で前記積層体を挟持する第2ローラ本体を有する”点で一致するといえる。

(き)以上,(あ)乃至(か)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
第1の基材と,ICチップを有するインレットと,第2の基材とからなる積層体を挟持してICカードを製造するICカードの製造装置において,
前記第1の基材と前記第2の基材との間に接着剤が介在され,
前記積層体を挟持する第1ローラおよび第2ローラと,
前記第1ローラおよび前記第2ローラの上流側に設けられ,前記接着剤を加熱保温する加熱保温手段とを備え,
前記第1ローラは,第1ローラ本体を有し,
前記第2ローラは,第1ローラ本体との間で前記積層体を挟持する第2ローラ本体を有する
ICカードの製造装置。

〈相違点1〉
「積層体を挟持する」ローラが,本願発明1は,「第1ラミネートローラおよび第2ラミネートローラ」であるのに対し,引用発明は,「ニップロール30,40」である点。

〈相違点2〉
本願発明1の「第1ラミネートローラ」は「第1ローラ本体の両側に設けられた一対の第1当接ローラ」を有すると共に,「第2ラミネートローラ」は「第2ローラ本体の両側に設けられた一対の第2傾斜ローラ」を有するのに対し,引用発明の「ニップロール30,40」は,当該「当接ローラ」及び「傾斜ローラ」に相当する構成を有することが特定されていない点。

〈相違点3〉
本願発明1が,「前記第1ラミネートローラの前記第1ローラ本体の両側に位置する各第1当接ローラは、前記第2ローラ本体の両側に位置する対応する前記第2ラミネートローラの第2傾斜ローラに当接して前記第1ローラ本体と前記第2ローラ本体の両側に当接部が形成され」,「前記第2ラミネートローラの各第2傾斜ローラは、互いに同一方向に向うテーパ状の断面を有し、前記第1ラミネートローラを前記第2ラミネートローラに対して軸方向に沿って相対的に移動させることによって、前記第1ローラ本体と前記第2ローラ本体の両側に位置する当接部を移動させて、前記第1ローラ本体と、前記第2ローラ本体との間の隙間を調整」すると共に,「前記第1ラミネートローラの第1当接ローラがその軸線に平行な断面において円弧状断面を有する」ものであるのに対し,引用発明は,そのような構成を有しない点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑み,先に相違点3について検討する。
上記引用例2には,上記第4の3で認定した,引用例2記載技術が記載されているものの,引用発明の「ニップロール30,40」は,とりわけその端部における構造については明らかではなく,また,引用例2の上記記載事項Hの図2を参照しても,とりわけ,「前記第1ラミネートローラの前記第1ローラ本体の両側に位置する各第1当接ローラ」が,「互いに同一方向に向うテーパ状の断面を有」する,「前記第2ローラ本体の両側に位置する対応する前記第2ラミネートローラの第2傾斜ローラに当接」すると共に,当該「第1当接ローラ」が「その軸線に平行な断面において円弧状断面を有する」構造までは,引用例2には記載されておらず,また当該構成については,上記第4の4において示した引用例3にも記載が無く,また当業者にとって周知な構成ともいえない。
したがって,上記その余の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至4について
本願発明2乃至4は,請求項1を引用するものであって,上記相違点3に係る構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由の概要

<特許法29条2項について>

当審より,本件補正前の請求項1,2及び4に係る発明は,上記引用例1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである旨の当審拒絶理由を通知したが,本件補正により,上記第3に示したとおりに補正されることによって,本拒絶理由は解消した。


第7 原査定についての判断

本件補正により,本件補正後の請求項1乃至4は,上記相違点3に係る構成を有するものとなった。当該構成は,原査定における引用文献1乃至3(上記第4の5乃至7で引用した引用例4乃至6)には記載されておらず,また,上記第5の1(2)で示したとおり,引用例1乃至3にも記載されておらず,本件出願前における周知技術でもないので,本願発明1乃至4は,当業者であっても,原査定における引用文献1乃至3に基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-24 
出願番号 特願2014-188160(P2014-188160)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 須田 勝巳
山崎 慎一
発明の名称 ICカードの製造装置  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  

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