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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G11B
管理番号 1353702
審判番号 無効2016-800135  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-12-09 
確定日 2018-11-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第4157412号発明「磁気テープおよびその製造方法、サーボライタ、ならびにサーボバンドの識別方法および装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件審判

1.本件特許

本件特許第4157412号に係る出願は、平成15年4月15日に出願され、平成20年7月18日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。

2.請求の趣旨

特許第4157412号の請求項1、6および8に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

3.答弁の趣旨

本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

第2 手続の経緯

手続の概要は以下のとおりである。

無効審判請求 :平成28年12月 9日
手続補正 :平成29年 1月 5日
証拠説明書 :平成29年 1月 5日
答弁書 :平成29年 3月21日
上申書 :平成29年 4月11日
審理事項通知 :平成29年 5月15日(起案日)
口頭審理陳述要領書(請求人) :平成29年 7月10日
口頭審理陳述要領書(被請求人):平成29年 7月10日
口頭審理 :平成29年 7月24日
上申書(請求人) :平成29年 7月31日
上申書(請求人) :平成29年 7月31日
上申書(被請求人) :平成29年 7月31日
証拠説明書 :平成29年 7月31日
手続補正 :平成29年 8月10日
上申書(被請求人) :平成29年 8月10日

第3 当事者の主張

1.請求人の主張の概要

(1)本件特許の請求項1に係る発明は、ア.甲第1号証および甲第2号証に記載されている各発明、イ.甲第3号証、甲第2号証および甲第4号証に記載されている各発明、あるいはウ.甲第2号証に記載されている発明、甲第4号証に記載されている発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
本件特許の請求項6および8に係る発明は、いずれも、上記公知技術および周知技術、並びに甲第5号証に記載されている発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(2)請求人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:ISO/IEC 22050:2002(E)
甲第2号証:特表2002-502533号公報
甲第3号証:特開2002-74631号公報
甲第4号証:特開2001-67847号公報
甲第5号証:特開平10-334435号公報
甲第6号証:特開平8-30942号公報
甲第7号証:特開平11-273040号公報
甲第8号証:特開平11-288568号公報
甲第9号証:特開2000-36112号公報
甲第10号証:特開2000-48431号公報
甲第11号証:特開2001-319453号公報
甲第12号証:特開2002-269711号公報
甲第13号証:JIS X 6175:2006
甲第14号証:米国特許第6239939号明細書
(以上、審判請求書に添付)

2.被請求人の主張の概要

(1)甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証に記載された発明を主引用発明として、当該主引用発明に他の証拠に記載された事項を組み合わせたとしても当業者は本件特許の請求項1に係る発明に到達し得ない。
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明からも、甲第3号証、甲第2号証および甲第4号証に記載された発明からも、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明および周知技術からも容易に想到し得ない。
本件特許の請求項6および8は請求項1を引用するから、本件特許の請求項1に係る発明と同様に、本件特許の請求項6および8に係る発明は、甲第1ないし4号証に記載された発明および周知技術と、甲第5号証に記載された発明とを組み合わせても容易に想到し得ない。

(2)被請求人が提出した証拠は、次のとおりである。
乙第1号証:"Current & Future Recording Technology - Data Storage Solutions for Government Operations" Agenda
乙第2号証:Tape Technology 2000
(以上、平成29年7月31日付け上申書に添付)

第4 本件特許発明

本件特許の請求項1、6および8に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明6」および「本件特許発明8」という。)は、特許請求の範囲の請求項1、6および8に記載された事項により特定されるものであるところ、次のとおりのものである。

「【請求項1】
磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が複数のサーボバンド上にそれぞれ書き込まれた磁気テープであって、
各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータがそれぞれ埋め込まれ、
前記各サーボ信号は、一つのパターンが非平行な縞からなり、各データは、前記縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれていることを特徴とする磁気テープ。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気テープの製造方法であって、
サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする第一工程と、
第一工程でエンコードしたデータを記録パルス電流に変換する第二工程と、
前記記録パルス電流をサーボ信号書込ヘッドに供給して、磁気テープの所定のサーボバンドに所定のエンコードされたデータが埋め込まれたサーボ信号を書き込む第三工程と、を有することを特徴とする磁気テープの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気テープの製造に使用するサーボライタであって、
送出リールから送り出した磁気テープを巻取リールで巻き取って走行させる磁気テープ走行系と、
走行する前記磁気テープと摺接して、前記磁気テープのサーボバンド上にサーボ信号を書き込むサーボ信号書込ヘッドと、
サーボバンドを特定するためのデータをエンコードする制御装置と、
前記制御装置から出力されるエンコードされたデータを記録パルス電流に変換し、この記録パルス電流を前記サーボ信号書込ヘッド内のコイルに供給するパルス発生回路と、を備えたことを特徴とするサーボライタ。」

第5 本件特許発明1(甲第1号証を主引用例とする場合)について

1.甲第1および2号証

甲第1号証(ISO/IEC 22050:2002(E))(訳:甲第13号証(JIS X 6175:2006))には、「Information technology - Data interchange on 12,7 mm, 384-track magnetic tape cartridges - Ultrium-1 format」「(訳)情報技術-情報交換用12.7mm幅,384-トラック磁気テープカートリッジ-ウルトリウム1様式」について、図表と共に、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。)

(1)「1 Scope
This International Standard specifies the physical and magnetic characteristics of magnetic tape cartridges, using magnetic tape 12,65 mm wide so as provide physical interchange of such cartridges betweendrives. It also specifies the quality of the recorded signals, the recording method and the recorded format, thereby allowing data interchange between drives by means of such cartridges. The format supports variable length Logical Records, high speed search, and the use of a registered algorithm for data compression.」
「(訳)1.適用範囲 この規格は,12.7mm幅の磁気テープを用い,装置間での物理的互換性をとりデータ交換を可能にするために磁気テープカートリッジの物理的特性,磁気的特性,記録信号品質,記録方式及び記録様式について規定する。この様式は,可変長の論理レコード,高速検索及びデータ圧縮用の登録アルゴリズムの使用を可能とする。」

(2)「11.1 General
There shall be five servo bands pre-recorded on the tape. Multiple servo locations are defined within each servo band. The servo locations shall be used for track following while the cartridge is being operated in the cartrigde drive. The servo bands shall be written prior to the cartrigde being usable for data storage and retrieval. All servo locations shall be located at specific distances from the Tape Reference Edge.
(略)
Each servo band shall contain servo frames consisting of 18 servo stripes. Servo frames are encoded as LPOS words to provide longitudinal position down the length of the tape. Longitudinal shifts of servo frames among the servo bands uniquely identify the servo bands. The details of the servo bands are shown in figures 25, 26, and 28.」
「(訳)11.1 概要 テープは,5本のサーボバンドをあらかじめ記録し,それぞれのサーボバンドに複数のサーボ位置を定める。サーボ位置は,カートリッジがカートリッジ装置内で作動中にトラック追随のために用いる。サーボバンドは,カートリッジにデータの記録及び再生に使用する前に書き込み,すべてのサーボ位置は,テープ基準縁から特定の距離に位置する。
(略)
各サーボバンドは,18本のサーボストライプからなりサーボフレームを含む。サーボフレームは,テープの長さに沿って長手方向の位置を表すLPOSワードを符号化する。サーボバンドに沿ってサーボフレームを長手方向に移動することによって,サーボバンドを一意に識別する。サーボバンドの詳細は,図25,図26及び図28に示す。」

(3)「11.2 Servo bands
The five servo bands shall be numbered 0 to 4. Data tracks shall be recorded between pairs of servo bands, see figure 25. Servo bands comprise recorded servo stripes.」
「(訳)11.2 サーボバンド 5サーボバンドは,0?4の番号とする。デートラックは,サーボバンド対の間に記録することとする(図25参照)。サーボバンドは,記録済みのサーボストライプからなる。」

(4)「11.2.2 Servo bursts
Servo bursts are groups of servo stripes. There are four types of servo burst: A burst, B burst, C burst and D burst. There shall be 5 stripes each in A and B bursts. There shall 4 stripes each in C and D bursts. When averaged over the length of one LPOS word, the first transition of the servo stripes within the same servo burst shall be spaced 5,00 μm ± 0,05 μm apart except as noted in servo frame encoding, 11.3.」
「(訳)11.2.2 サーボバースト サーボバーストは,サーボストライプ群のAバースト,Bバースト,Cバースト及びDバーストの4種類とする。Aバースト及びBバーストは,それぞれ5ストライプとし,Cバースト及びDバーストは,それぞれ4ストライプとする。1LPOSワードの長さにわたって平均したとき,同一のサーボバースト内のサーボストライプの第一の反転部は,サーボフレーム符号化(11.3参照)の場合を除き,5.00μm±0.05μm間隔とする。」

(5)「11.2.3 Servo frames
A servo frame shall comprise an A burst, a B burst, a C burst and a D burst. A servo subframe 1 shall comprise an A burst and a B burst. A survo subframe 2 shall comprise a C burst and a D burst. Tolerances on servo frame dimensions are to support interchange and as such include the effects of servo writing and tape dimensional stability. See figure 26.」
「(訳)11.2.3 サーボフレーム サーボフレームは,Aバースト,Bバースト,Cバースト及びDバーストから構成する。サーボサブフレーム1は,Aバースト及びBバーストとし,サーボサブフレーム2は,Cバースト及びDバーストとする。サーボフレーム寸法の許容値は,サーボ書込み及びテープの寸法安定性の影響を含み互換性を保証する(図26参照)。」

(6)「11.3 Servo frame encoding
Information shall be encoded into servo frames to indicate absolute position along the length of the tape, to include manufacturer's data, and to enable identification of servo bands.」
「(訳)11.3 サーボフレーム符号化 サーボフレーム符号化は,テープの長手方向の絶対位置,製造業者のデータ及びサーボバンド識別情報とする。」

(7)「11.3.1 Method of encoding position and manufacturer's data
Information shall be encoded into servo frames by shifting the relative positioning of the stripes in servo subframe 1, see figure 28. Each servo frame shall encode one bit, which is either a ONE or ZERO.」
「(訳)11.3.1 位置及び製造業者データの符号化方法 位置及び製造業者データの符号化方法は,サーボサブフレーム1のストライプの相対位置を移動して,サーボフレームの情報を符号化する(図28参照)。サーボフレームは,“1”又は“0”の一つのビットを符号化する。」

(8)「11.3.2 LPOS word construction
The absolute location down the length of the tape and manufacturers' data shall be recorded within LPOS words. Each LPOS word shall comprise 36 servo frames (7,2mm). LPOS words shall be recorded continuously along the length of the tape. The layout of the LPOS words is shown below. The LPOS value shall be determined by six LPOS symbols of the LPOS word from the base 14 alphabet shown in figure 29 and table 3. THe LPOS value shall take the value:
LPOS value=L0+L1×14+L2×14^(2)+L3×14^(3)+L4×14^(4)+L5×14^(5)」
「(訳)11.3.2 LPOSワードの構成 テープの長手方向の絶対位置及び製造業者データは,LPOSワードに記録する。LPOSワードは,36サーボフレーム(7.2mm)とし,テープの長手方向に連続して記録する。LPOSワードの配置は,図29による。LPOS値は,14基本アルファベットとし(図29及び表3参照),LPOSワードの6個のLPOSシンボルによって決めることとし,次の式による。
LPOS値=L0+L1×14+L2×14^(2)+L3×14^(3)+L4×14^(4)+L5×14^(5)」

(9)「11.3.4 Cross tape identification
The identity of servo band n may be determined by the relative positions down the tape of frames in servo bands n and n+1, reading with the top and bottom servo elements, respectively. The relative shifts of the n+1 servo with respect to the n servo when the tape is moving in the forward direction (BOT to EOT) shall be as listed in table 5.」
「(訳)11.3.4 クロステープ識別 サーボバンドnの識別は,上下サーボエレメントで,サーボバンドn及びサーボバンドn+1のフレームを読み取り,テープ上の相対位置としてもよい。
テープが順方向へ走行する(BOTからEOTへ)とき,サーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量は,表5による。」

上記摘示事項及び図表の記載から以下のことがいえる。

(a)甲第1号証には、「磁気テープ」が記載されている(摘示事項(1))。

(b)テープは,5本のサーボバンドをあらかじめ記録し,それぞれのサーボバンドに複数のサーボ位置を定める。サーボ位置は,カートリッジがカートリッジ装置内で作動中にトラック追随のために用いる。各サーボバンドは,18本のサーボストライプからなるサーボフレームを含む。サーボフレームは,テープの長さに沿って長手方向の位置を表すLPOSワードを符号化する。サーボバンドに沿ってサーボフレームを長手方向に移動することによって,サーボバンドを一意に識別する(摘示事項(2))。

(c)サーボバンドは,記録済みのサーボストライプからなる(摘示事項(3))。

(d)サーボバーストは,サーボストライプ群のAバースト,Bバースト,Cバースト及びDバーストの4種類とする(摘示事項(4))。

(e)サーボフレームは,Aバースト,Bバースト,Cバースト及びDバーストから構成する。サーボサブフレーム1は,Aバースト及びBバーストとし,サーボサブフレーム2は,Cバースト及びDバーストとする(摘示事項(5))。

(f)Aバースト及びCバーストのストライプのテープ幅方向に対する傾斜とBバースト及びDバーストのストライプのテープ幅方向に対する傾斜とは互いに逆である(図26)。

(g)サーボフレーム符号化は,テープの長手方向の絶対位置,製造業者のデータ及びサーボバンド識別情報とする(摘示事項(6))。

(h)位置及び製造業者データは,サーボサブフレーム1のストライプの相対位置を移動して,符号化する(摘示事項(7))。

(i)テープの長手方向の絶対位置及び製造業者データは,LPOSワードに記録する(摘示事項(8))。

(j)サーボバンド識別情報は、サーボフレームに符号化され(摘示事項(6))、サーボバンドnの識別は、上下サーボエレメントで、サーボバンドn及びサーボバンドn+1のフレームを読み取り、テープ上の相対位置により決めることができ、サーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量は、表5に記載される(摘示事項(9))から、「サーボバンド識別情報は、サーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量として符号化する。」といえる。

以上を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認める。

「磁気テープであって、
テープは、5本のサーボバンドをあらかじめ記録し、それぞれのサーボバンドに複数のサーボ位置を定め、
サーボ位置は、カートリッジがカートリッジ装置内で作動中にトラック追随のために用い、
各サーボバンドは、18本のサーボストライプからなるサーボフレームを含み、
サーボフレームは、テープの長さに沿って長手方向の位置を表すLPOSワードを符号化し、
サーボバンドに沿ってサーボフレームを長手方向に移動することによって、サーボバンドを一意に識別し、
サーボバンドは、記録済みのサーボストライプからなり、
サーボバーストは、サーボストライプ群のAバースト、Bバースト、Cバースト及びDバーストの4種類とし、
サーボフレームは、Aバースト、Bバースト、Cバースト及びDバーストから構成し、
サーボサブフレーム1は、Aバースト及びBバーストとし、サーボサブフレーム2は、Cバースト及びDバーストとし、
Aバースト及びCバーストのストライプのテープ幅方向に対する傾斜とBバースト及びDバーストのストライプのテープ幅方向に対する傾斜とは互いに逆であり、
サーボフレーム符号化は、テープの長手方向の絶対位置、製造業者のデータ及びサーボバンド識別情報とし、
位置及び製造業者のデータは、サーボサブフレーム1のストライプの相対位置を移動して、符号化し、
テープの長手方向の絶対位置及び製造業者データは、LPOSワードに記録され、
サーボバンド識別情報は、サーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量として符号化する磁気テープ。」

そして、「サーボバンド識別情報の符号化」については、甲第1号証発明は、「サーボバンド識別情報をサーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量として符号化する」ものである。

甲第2号証(特表2002-502533号公報)には、「サーボ追跡データ記録テープ」について、図面と共に、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。)

(10)「本発明は一般的にテープのサーボ追跡に関する。より詳細には、本発明はサーボトラックへの情報の符号化に関係する。」(8頁5?6行)

(11)「上述の理由および、以下の説明から明らかとなる他の理由によって、付随する困難を解決するためには、上述したような構成に対する代替が必要である。例えばサーボトラックの同定が望まれる。さらに、例えば、テープ座標、BOTインディケータ、ロードインディケータ等の様々なテープ特性に関する情報を具備することが望まれる。」(11頁12?16行)

(12)「本発明によるサーボトラック記録テープがトラックの複数の帯域を具備する。トラックの複数の帯域が、複数のデータトラックを有する少なくもひとつのデータ帯域と、サーボ情報のための専用のサーボ帯域とを備える。サーボ帯域が、テープの長さに沿った既定のサーボ搬送幅を横切ってほぼ一様に、かつ、そこに定義された符号化トラックの少なくも1ピッチを以て書込まれたサーボ情報を有する。符号化トラックピッチの各々がテープの長さに沿った交互の消去および非消去の部分を有し、少なくもひとつのサーボトラックを定義する。少なくもひとつの符号化トラックピッチの交互の消去および非消去の部分が、テープの少なくもひとつの特性を表現する符号化情報を備える。符号化情報は、一以上の消去部分の長さの変化によって具備される。」(11頁21行?12頁2行)

(13)「図2および3に示され、Schwarz et al.への米国特許第5,229,895号「多トラックサーボ記録ヘッドアセンブリー」に記載されるように、そこに示されるサーボトラック構成がヘッドアセンブリー151を用いて書込まれる。図3に示すようなサーボ帯域61を有する磁気テープ60が、ヘッドアセンブリー151に隣接する輸送経路に沿って通過し、サーボ搬送信号63が、サーボ搬送書込み要素154によってサーボ帯域61のほぼ全幅を横切って書込まれる。サーボ搬送信号63の部分がサーボ消去要素152によって消去される。この結果が図3に示すようなサーボトラック構成であり、そこでは、等しい長さの周期的な消去部分および非消去部分が、サーボ帯域61の既定の幅の3本の経路すなわちサーボトラックピッチに沿って具備される。例えば、経路73のような隔たった経路に沿った消去部分62および非消去部分64が等しい長さである。図3に示すサーボトラック構成が、隔たった経路における周期的な消去部分および非消去部分によって定義されるサーボトラック66、67、69の対を備える。サーボトラック66、67、69の各対がサーボトラック情報を具備し、テープ60の逆方向および順方向の輸送の際に利用される。例えば、消去および非消去の部分で形成された対66のサーボトラック70はテープの順方向移動のためであり、サーボトラック68は、テープが逆方向に移動する際にサーボ情報を提供するためである。したがって、サーボトラック対が曖昧さなしに同定され、また輸送の逆方向および順方向が既知であれば、各トラックが曖昧さなく同定される。」(21頁12行?22頁2行)

(14)「複数のサーボ帯域161、162、および163を備えたテープ160を図13に示す。サーボ帯域161ないし163がデータ帯域170によって隔てられてある。サーボ帯域161ないし163が、サーボ帯域自身が他のサーボ帯域から一意に同定され得るような、異なる符号を用いて符号化されても良い。例えばサーボ帯域163が、サーボトラック構成166とは異なったサーボトラック構成165によって横手方向に符号化されており、構成166は、消去部分171および173の異なる長さによって示されるようにサーボトラック165とは異なる方式で符号化されてある。任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備しても良いことが直ちに明らかであろう。図13の例では、サーボ帯域161および162が同一に符号化されてある。しかしこれらのサーボ帯域が、相互に一意に同定されるように符号化されても良い。」(33頁25行?34頁8行)

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(k)甲第2号証には、テープのサーボ追跡、より詳細には、サーボトラックへの情報の符号化に関して(摘示事項(10))、サーボトラックの同定、さらに、テープ座標、BOTインディケータ、ロードインディケータ等の様々なテープ特性に関する情報を具備するために(摘示事項(11))、サーボ帯域が、テープの長さに沿った既定のサーボ搬送幅を横切ってほぼ一様に書込まれたサーボ情報を有し、符号化トラックピッチの各々がテープの長さに沿った交互の消去および非消去の部分を有し、少なくもひとつの符号化トラックピッチの交互の消去および非消去の部分が、テープの少なくもひとつの特性を表現する符号化情報を備え、符号化情報は、一以上の消去部分の長さの変化によって具備されること(摘示事項(12))が記載されている。

(l)甲第2号証には、「磁気テープ」が記載されている(摘示事項(13))。

(m)磁気テープ60はサーボ帯域61を有する。サーボ搬送信号63が、サーボ帯域61のほぼ全幅を横切って書込まれる。サーボ搬送信号63の部分が消去される。この結果得られるサーボトラック構成が、隔たった経路における周期的な消去部分および非消去部分によって定義されるサーボトラック66、67、69の対を備える。サーボトラック66、67、69の各対がサーボトラック情報を具備し、テープ60の逆方向および順方向の輸送の際に利用される(摘示事項(13))。

(n)テープ160は、複数のサーボ帯域161、162、および163を備える。サーボ帯域161ないし163がデータ帯域170によって隔てられてある。サーボ帯域161ないし163が、サーボ帯域自身が他のサーボ帯域から一意に同定され得るような、異なる符号を用いて符号化される。サーボ帯域163が、サーボトラック構成166とは異なったサーボトラック構成165によって横手方向に符号化されており、サーボトラック構成166は、消去部分171および173の異なる長さによって示されるようにサーボトラック構成165とは異なる方式で符号化されてある。任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する(摘示事項(14))。

以上を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認める。

「磁気テープ160であって、
サーボ帯域を有し、サーボ搬送信号が、サーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれ、サーボ搬送信号の部分が消去され、この結果得られるサーボトラック構成が、隔たった経路における周期的な消去部分および非消去部分によって定義されるサーボトラックの対を備え、サーボトラックの各対がサーボトラック情報を具備し、テープの逆方向および順方向の輸送の際に利用され、
複数のサーボ帯域161、162、および163を備え、
サーボ帯域161ないし163がデータ帯域170によって隔てられてあり、
サーボ帯域161ないし163が、サーボ帯域自身が他のサーボ帯域から一意に同定され得るような、異なる符号を用いて符号化され、
サーボ帯域163が、サーボトラック構成166とは異なったサーボトラック構成165によって横手方向に符号化されており、
サーボトラック構成166は、消去部分171および173の異なる長さによって示されるようにサーボトラック構成165とは異なる方式で符号化されてあり、
任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する磁気テープ160。」

そして、甲第2号証発明は、「任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する」ことを特徴とするものである。

2.対比

そこで、本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比する。

(1)磁気テープ
本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「磁気テープ」である点で一致する。

(2)複数のサーボバンド
本件特許の明細書【0024】の「各サーボバンドSB1?SB5には、磁気ヘッドのトラッキング制御をするための所定のサーボ信号S1?S5が書き込まれている。」との記載より、本件特許発明1の「サーボ信号」は、「各サーボバンドに書き込まれている、磁気ヘッドのトラッキング制御をするための所定の信号」を意味すると認められる。
一方、甲第1号証発明は、「テープは、5本のサーボバンドをあらかじめ記録し、それぞれのサーボバンドに複数のサーボ位置を定め、サーボ位置は、カートリッジがカートリッジ装置内で作動中にトラック追随のために用い」るものであるから、甲第1号証発明の「それぞれのサーボバンド」に記録された信号は、本件特許発明1の「サーボ信号」に相当するといえる。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が複数のサーボバンド上にそれぞれ書き込まれた」ものである点で一致する。

(3)サーボ信号の構成
甲第1号証発明は、「各サーボバンドは、18本のサーボストライプからなるサーボフレームを含み、」「サーボバンドは、記録済みのサーボストライプからなり、サーボバーストは、サーボストライプ群のAバースト、Bバースト、Cバースト及びDバーストの4種類とし、サーボフレームは、Aバースト、Bバースト、Cバースト及びDバーストから構成し、」「Aバースト及びCバーストのストライプのテープ幅方向に対する傾斜とBバースト及びDバーストのストライプのテープ幅方向に対する傾斜とは互いに逆であ」るものであるから、甲第1号証発明の「18本のサーボストライプからなるサーボフレーム」は、「非平行な縞からな」る「一つのパターン」といえる。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「前記各サーボ信号は、一つのパターンが非平行な縞からな」るものである点で一致する。

(4)サーボ信号へのデータの埋め込み
甲第1号証発明は、「サーボフレームは、テープの長さに沿って長手方向の位置を表すLPOSワードを符号化し、サーボバンドに沿ってサーボフレームを長手方向に移動することによって、サーボバンドを一意に識別し、」「サーボサブフレーム1は、Aバースト及びBバーストとし、サーボサブフレーム2は、Cバースト及びDバーストとし、」「サーボフレーム符号化は、テープの長手方向の絶対位置、製造業者のデータ及びサーボバンド識別情報とし、位置及び製造業者のデータは、サーボサブフレーム1のストライプの相対位置を移動して、符号化し、テープの長手方向の絶対位置及び製造業者データは、LPOSワードに記録され、サーボバンド識別情報は、サーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量として符号化する」ものである。
甲第1号証発明の「テープの長手方向の絶対位置、製造業者のデータ」は、「サーボサブフレーム1のストライプの相対位置を移動して、符号化」するものであるから、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、データがそれぞれ埋め込まれ、」「各データは、前記縞を構成する線の位置を、テープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」といえる。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、データがそれぞれ埋め込まれ、」「各データは、前記縞を構成する線の位置を、テープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」点で一致する。
もっとも、本件特許発明1の「各データ」は、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」を指すものと解されるところ、甲第1号証発明の「テープの長手方向の絶対位置、製造業者のデータ」は、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」とはいえない。また、本件特許発明1の「サーボバンド毎にテープ長手方向にずらす」とは、各サーボバンドに互いに異なるデータを埋め込むために、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらす状態を異ならせることを意味するものと解されるところ、甲第1号証発明の「テープの長手方向の絶対位置、製造業者のデータ」は、サーボバンド毎に異なるものではないから、「サーボバンド毎」にテープ長手方向にずらすものであるともいえない。
一方、甲第1号証発明の「サーボバンド識別情報」は、「サーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量として符号化する」ものであって、隣接するサーボバンド上のサーボ信号を比較する必要があるから、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータがそれぞれ埋め込まれ」るものであるとはいえない。また、「各データは、前記縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」ともいえない。
したがって、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号にそれぞれ埋め込まれるデータ」であって、「各データは、前記縞を構成する線の位置を、テープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」ものについて、本件特許発明1は、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」であって、「サーボバンド毎に」テープ長手方向にずらすものであるのに対し、甲第1号証発明は、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」ではなく、「サーボバンド毎に」テープ長手方向にずらすものではない点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が複数のサーボバンド上にそれぞれ書き込まれた磁気テープであって、
各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、データがそれぞれ埋め込まれ、
前記各サーボ信号は、一つのパターンが非平行な縞からなり、各データは、前記縞を構成する線の位置を、テープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている磁気テープ。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号にそれぞれ埋め込まれるデータ」であって、「各データは、各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、テープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」ものについて、本件特許発明1は、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」であって、「サーボバンド毎に」テープ長手方向にずらすものであるのに対し、甲第1号証発明は、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」ではなく、「サーボバンド毎に」テープ長手方向にずらすものではない点。

3.判断

上記相違点について検討する。

請求人は、本件特許発明1は、甲第1号証および甲第2号証に記載されている各発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると主張しているので、甲第2号証発明における「任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する」との技術事項(以下「甲第2号証技術事項」という。)を甲第1号証発明に適用することについて検討する。

甲第1号証発明は、サーボバンド識別情報をサーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量として符号化するものであるが、サーボバンド識別情報をサーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量として符号化することについて、何らかの問題があることを記載ないし示唆する証拠は提示されていないから、甲第1号証発明において、サーボバンド識別情報をサーボバンドnに対するサーボバンドn+1の相対移動量以外のものとして符号化する動機付けがあるとはいえない。

また、甲第1号証発明のサーボバンドはストライプのテープ幅方向に対する傾斜が互いに逆であるサーボストライプ群からなるのに対し、甲第2号証発明のサーボ帯域はサーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれたサーボ搬送信号が部分的に消去されたものであって、両発明が前提とするサーボバンドないしサーボ帯域の形態が異なるから、甲第2号証技術事項をそのまま甲第1号証発明に適用することはできない。
仮に、甲第2号証技術事項を甲第1号証発明に適用するに当たり、甲第2号証技術事項の「消去部分」の「長さ」を甲第1号証発明の「サーボストライプ」の幅に対応させるとしても、任意個数のサーボストライプがサーボバンドごとに変化する幅を備えることで、サーボバンドを一意に同定、つまり一意なサーボバンド符号を具備するものが得られるにとどまり、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」が、「各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」本件特許発明1には到らない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証発明および甲第2号証技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、請求人は、甲第2号証には、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータを埋め込むこと」が開示されている旨主張する(審判請求書32頁)。
しかしながら、甲第2号証発明は、サーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれたサーボ搬送信号が部分的に消去されたサーボ帯域を前提としており、甲第2号証には、「任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する」態様以外に、「サーボ帯域161ないし163が、サーボ帯域自身が他のサーボ帯域から一意に同定され得るような、異なる符号を用いて符号化され」る構成が記載されておらず、「消去部分の長さ」と切り離して上位概念化し、請求人が主張する技術事項の開示を認定することはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第6 本件特許発明1(甲第3号証を主引用例とする場合)について

1.甲第3、2および4号証

甲第3号証(特開2002-74631号公報)には、「サーボ・システム安定化方法」について、図面と共に、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。)

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はテープ・ドライブのサーボ制御に関するものであり、特に、サーボ・トラックおよびデータ・トラックが長手方向に配置されているテープを利用するカートリッジ式テープ・ドライブのサーボ・システムを安定化させるための技術に関するものである。」

(2)「【0007】従って本発明の目的は、テープ・ドライブとテープ・カートリッジの組み合わせによる不安定要因を取り除いて、サーボ系を安定化させることにある。
【0008】本発明の他の目的は、テープ・ドライブにテープ・カートリッジが挿入されるたびに、フィルタ係数を設定し直すことによってサーボ系を安定化させるための方法および装置を提供することにある。」

(3)「【0019】テープ20上のデータ・トラックおよびサーボ・トラックの配置例を図3に示す。図3において、白の部分がデータ・トラック領域、斜線を付した部分がサーボ・トラック領域である。図示のように、データ・トラックおよびサーボ・トラックはテープ20の長手方向に沿って交互に且つ平行に配置されている。このようなデータ・トラックおよびサーボ・トラックの配置自体は既知であり、例えば、米国特許第5432652号および同第5629813号に開示されている。」

(4)「【0020】サーボ・トラックに記録されているサーボ・パターンの例を図4に示す。図4の(A)は、ハの字形の2種類のパターン(1つは5対、もう1つは4対からなる)が交互に繰り返し現れるものであり、(B)は、くの字形と逆くの字形の組み合わせからなる2種類のパターン(同じく5対と4対のパターン)が交互に繰り返し現れるものである。これらのサーボ・パターンも既知であり、例えば、(A)のパターンは、前掲の米国特許出願第09/370256号に開示されており、(B)のパターンは米国特許第5689384号および同第5930065号に開示されている。これらのサーボ・パターンは前述のタイミング・ベース・サーボの基礎をなすもので、図から明らかなように、非平行の向きに記録された磁気遷移よりなっており、ヘッド・アセンブリ28に含まれる専用のサーボ・ヘッド(図示せず)により読み取られる。」

(5)「【0021】図4(A)のハの字形のサーボ・パターンの読み取りについて、図5を参照して説明する。図4(B)のサーボ・パターンの読み取りも同様である。図5において、一点鎖線60はサーボ・トラックの中心線を示しており、サーボ・ヘッド(図示せず)はこの中心線上に位置決めされているものとする。サーボ・ヘッドは、テープ20の走行に伴い、サーボ・パターンを読み取って、その読み取り信号を、データ・チャネル部54およびデータ・フロー部46を介してMPU38に送る。MPU38は、サーボ・パターン読み取り信号から、所定のクロック(例えば8.25MHz)で走行する2つのカウンタ(AカウンタおよびBカウンタ)を用いて、図5に示すパターン内間隔Aおよびパターン間間隔Bを測定する。間隔Aは、1つの繰り返しパターン内において対になっている非平行ストライプ間の間隔であり、ヘッドがテープ20の幅方向(図では上下方向)に移動すると、それに応じて値が増減する。間隔Bは隣接する2つの繰り返しパターン間の間隔であり、ヘッドがテープ20の幅方向に移動しても、値が変わることはない。前述のタイミング・ベース・サーボは、間隔AおよびBのこのような性質を利用してヘッドの位置決めを行う。」

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)甲第3号証には、テープ・ドライブのサーボ制御、特に、サーボ・トラックおよびデータ・トラックが長手方向に配置されているテープを利用するカートリッジ式テープ・ドライブのサーボ・システムを安定化させるための技術に関して(摘示事項(1))、テープ・ドライブとテープ・カートリッジの組み合わせによる不安定要因を取り除いて、サーボ系を安定化させるために、テープ・ドライブにテープ・カートリッジが挿入されるたびに、フィルタ係数を設定し直す方法および装置(摘示事項(2))について説明する中で、既知のデータ・トラックおよびサーボ・トラックの配置、既知のサーボ・パターンおよび該サーボ・パターンの読み取り(摘示事項(3)ないし(5))について記載されている。

(b)甲第3号証には、「磁気テープ」が記載されている(摘示事項(3)、(4))。

(c)テープ20上のデータ・トラックおよびサーボ・トラックはテープ20の長手方向に沿って交互に且つ平行に配置されている(摘示事項(3))。

(d)サーボ・トラックに記録されているサーボ・パターンは、ハの字形の2種類のパターン(1つは5対、もう1つは4対からなる)が交互に繰り返し現れるもの、もしくは、くの字形と逆くの字形の組み合わせからなる2種類のパターン(同じく5対と4対のパターン)が交互に繰り返し現れるものである。これらのサーボ・パターンは非平行の向きに記録された磁気遷移よりなっている(摘示事項(4))。

(e)1つの繰り返しパターン内において対になっている非平行ストライプ間の間隔、および、隣接する2つの繰り返しパターン間の間隔を利用してヘッドの位置決めを行う(摘示事項(5))。

以上を総合勘案すると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲第3号証発明」という。)が記載されているものと認める。

「磁気テープであって、
テープ20上のデータ・トラックおよびサーボ・トラックはテープ20の長手方向に沿って交互に且つ平行に配置されており、
サーボ・トラックに記録されているサーボ・パターンは、ハの字形の2種類のパターン(1つは5対、もう1つは4対からなる)が交互に繰り返し現れるもの、もしくは、くの字形と逆くの字形の組み合わせからなる2種類のパターン(同じく5対と4対のパターン)が交互に繰り返し現れるものであり、これらのサーボ・パターンは非平行の向きに記録された磁気遷移よりなっており、
1つの繰り返しパターン内において対になっている非平行ストライプ間の間隔、および、隣接する2つの繰り返しパターン間の間隔を利用してヘッドの位置決めを行う磁気テープ。」

上記「第5 1.」で述べたとおり、甲第2号証には、「甲第2号証発明」が記載されている。

甲第4号証(特開2001-67847号公報)(優先基礎出願:甲第14号証(米国特許第6239939号明細書))には、「データ検出方法」について、図面と共に、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。)

(6)「【0028】図4は、予め記録した補間可能なリニア位置位置決めデータ情報71を備えた、例えば磁気テープ媒体のような記録媒体70を示す図である。上記リニア位置位置決めデータ情報71は、例えば少なくとも1つの長手方向のサーボ・トラックを画定する磁束変化サーボ・パターン中に記録されている。サーボ・トラックのデータは、バースト・パターン74、75の交互のグループの複数のフレーム73から成る。
【0029】本発明の一実施形態によると、各フレームは、リニア位置位置決めデータ71の1ビット76が備えている。サーボ・トラック中のデータは、同期文字77、これに続いて長手方向位置データ71を備えているのが望ましい。そして、例えば媒体メーカーが付与するデータのような他のデータを続けることができる。一例として、同期文字77は、8ビット文字、例えば1個の“1”に7個の“0”が続いたものから構成することができる。同期文字は、リニア位置位置決めデータの各ワードの始めを識別する手段を提供する。」

(7)「【0032】アルブレヒトらの米国特許出願によると、図5(a)および図5(b)は、サーボ・パターン中にデータを符号化すなわち変調することのできるサーボ・パターンの例を示す図である。サーボ位置エラー信号を生成するため、およびデータを符号化するために使うことのできる、1つのフレーム中の変化ストライプの最小数は、変化ストライプのペアがただ1つである。ペアの各変化ストライプは、同じように傾斜した変化ストライプの別々のバースト中に存在する。図示した例では、2グループの「5、4」フレームのうち、5ストライプ・グループの2ペアの変化ストライプを使っている。図5(a)に示すように、“1”は次のようにして符号化する。すなわち、変化ストライプ80と81とを離れるように移動させ、変化ストライプ82と83とを互いに近付くように移動させる。図5(b)に示すように、“0”は次のようにして符号化する。すなわち、変化ストライプ84と85とを互いに近付くように移動させ、変化ストライプ86と87とを離れるように移動させる。ペアの各変化ストライプが移動する距離は同じであるが、方向は逆である。図5(a)および図5(b)では、4ストライプ・グループは、不変であり、データを持たない変化ストライプの普通の間隔を表している。」

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(f)リニア位置位置決めデータ情報71は、少なくとも1つの長手方向のサーボ・トラックを画定する磁束変化サーボ・パターン中に記録されている。サーボ・トラックのデータは、バースト・パターン74、75の交互のグループの複数のフレーム73から成る。各フレームは、リニア位置位置決めデータ71の1ビット76を備えている。サーボ・トラック中のデータは、同期文字77、これに続いて長手方向位置データ71を備えている。そして、媒体メーカーが付与するデータのような他のデータを続ける(摘示事項(6))。

(g)“1”は、変化ストライプ80と81とを離れるように移動させ、変化ストライプ82と83とを互いに近付くように移動させて符号化する。“0”は、変化ストライプ84と85とを互いに近付くように移動させ、変化ストライプ86と87とを離れるように移動させて符号化する(摘示事項(7))。

以上を総合勘案すると、甲第4号証には、次の技術事項(以下「甲第4号証技術事項」という。)が記載されているものと認める。

「リニア位置位置決めデータ情報71は、少なくとも1つの長手方向のサーボ・トラックを画定する磁束変化サーボ・パターン中に記録されており、サーボ・トラックのデータは、バースト・パターン74、75の交互のグループの複数のフレーム73から成り、各フレームは、リニア位置位置決めデータ71の1ビット76を備えており、サーボ・トラック中のデータは、同期文字77、これに続いて長手方向位置データ71を備えており、そして、媒体メーカーが付与するデータのような他のデータを続け、“1”は、変化ストライプ80と81とを離れるように移動させ、変化ストライプ82と83とを互いに近付くように移動させて符号化し、“0”は、変化ストライプ84と85とを互いに近付くように移動させ、変化ストライプ86と87とを離れるように移動させて符号化する。」

2.対比

そこで、本件特許発明1と甲第3号証発明とを対比する。

(1)磁気テープ
本件特許発明1と甲第3号証発明とは、「磁気テープ」である点で一致する。

(2)複数のサーボバンド
本件特許の明細書【0024】の「各サーボバンドSB1?SB5には、磁気ヘッドのトラッキング制御をするための所定のサーボ信号S1?S5が書き込まれている。」との記載より、本件特許発明1の「サーボ信号」は、「各サーボバンドに書き込まれている、磁気ヘッドのトラッキング制御をするための所定の信号」を意味すると認められる。
一方、甲第3号証発明は、「テープ20上のデータ・トラックおよびサーボ・トラックはテープ20の長手方向に沿って交互に且つ平行に配置されており、」「サーボ・トラックに記録されているサーボ・パターンは非平行の向きに記録された磁気遷移よりなっており、」「1つの繰り返しパターン内において対になっている非平行ストライプ間の間隔、および、隣接する2つの繰り返しパターン間の間隔を利用してヘッドの位置決めを行う」ものであるから、甲第3号証発明の「サーボ・トラックに記録されているサーボ・パターン」は、本件特許発明1の「サーボ信号」に相当するといえる。
したがって、本件特許発明1と甲第3号証発明とは、「磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が複数のサーボバンド上にそれぞれ書き込まれた」ものである点で一致する。

(3)サーボ信号の構成
甲第3号証発明は、「サーボ・トラックに記録されているサーボ・パターンは、ハの字形の2種類のパターン(1つは5対、もう1つは4対からなる)が交互に繰り返し現れるもの、もしくは、くの字形と逆くの字形の組み合わせからなる2種類のパターン(同じく5対と4対のパターン)が交互に繰り返し現れるものであり、これらのサーボ・パターンは非平行の向きに記録された磁気遷移よりなっている」ものであるから、甲第3号証発明の「サーボ・パターン」は、「一つのパターンが非平行な縞からな」るものといえる。
したがって、本件特許発明1と甲第3号証発明とは、「前記各サーボ信号は、一つのパターンが非平行な縞からな」るものである点で一致する。

(4)サーボ信号へのデータの埋め込み
本件特許発明1は、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータがそれぞれ埋め込まれ、各データは、各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」のに対し、甲第3号証発明は、そのような特定がない点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と甲第3号証発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が複数のサーボバンド上にそれぞれ書き込まれた磁気テープであって、
前記各サーボ信号は、一つのパターンが非平行な縞からなる磁気テープ。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

本件特許発明1は、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータがそれぞれ埋め込まれ、各データは、各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」のに対し、甲第3号証発明は、そのような特定がない点。

3.判断

上記相違点について検討する。

請求人は、本件特許発明1は、甲第3号証、甲第2号証および甲第4号証に記載されている各発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると主張しているので、甲第3号証発明において、甲第4号証技術事項である、「リニア位置位置決めデータ情報71は、少なくとも1つの長手方向のサーボ・トラックを画定する磁束変化サーボ・パターン中に記録されており、サーボ・トラックのデータは、バースト・パターン74、75の交互のグループの複数のフレーム73から成り、各フレームは、リニア位置位置決めデータ71の1ビット76を備えており、サーボ・トラック中のデータは、同期文字77、これに続いて長手方向位置データ71を備えており、そして、媒体メーカーが付与するデータのような他のデータを続け、“1”は、変化ストライプ80と81とを離れるように移動させ、変化ストライプ82と83とを互いに近付くように移動させて符号化し、“0”は、変化ストライプ84と85とを互いに近付くように移動させ、変化ストライプ86と87とを離れるように移動させて符号化する」構成を採用した上で、さらに、甲第2号証技術事項である、「任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する」構成を採用することについて検討する。
甲第3号証発明において、甲第4号証技術事項の構成を採用すること自体は、両者のサーボ・パターンに共通性があるから、当業者が容易に想到し得るといえる。
しかしながら、甲第4号証技術事項の構成を採用した甲第3号証発明のサーボ・トラックに記録されているサーボ・パターンはハの字形の2種類のパターン(1つは5対、もう1つは4対からなる)が交互に繰り返し現れるもの、もしくは、くの字形と逆くの字形の組み合わせからなる2種類のパターン(同じく5対と4対のパターン)が交互に繰り返し現れるものであるのに対し、甲第2号証発明のサーボ帯域はサーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれたサーボ搬送信号が部分的に消去されたものであって、両発明が前提とするサーボ・トラックに記録されているサーボ・パターンないしサーボ帯域の形態が異なるから、甲第2号証技術事項をそのまま甲第4号証技術事項の構成を採用した甲第3号証発明に適用することはできない。
仮に、甲第2号証技術事項を、甲第4号証技術事項の構成を採用した甲第3号証発明に適用するに当たり、甲第2号証技術事項の「消去部分」の「長さ」を甲第4号証技術事項の構成を採用した甲第3号証発明の「ハの字形、もしくは、くの字形と逆くの字形の組み合わせ」の太さに対応させるとしても、任意個数のハの字形、もしくは、くの字形と逆くの字形の組み合わせがサーボ・トラックごとに変化する太さを備えることで、サーボ・トラックを一意に同定、つまり一意なサーボ・トラック符号を具備するものが得られるにとどまり、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」が、「各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」本件特許発明1には到らない。
したがって、甲第3号証発明において、甲第4号証技術事項の構成を採用した上で、甲第2号証技術事項の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

よって、本件特許発明1は、甲第3号証発明、甲第2号証技術事項および甲第4号証技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 本件特許発明1(甲第2号証を主引用例とする場合)について

1.甲第2、4号証および周知技術

上記「第5 1.」で述べたとおり、甲第2号証には、「甲第2号証発明」が記載されている。

上記「第6 1.」で述べたとおり、甲第4号証には、「甲第4号証技術事項」が記載されている。

甲第5ないし12号証には、非平行な磁気遷移からなるサーボ・パターンが記載されている。

2.対比

そこで、本件特許発明1と甲第2号証発明とを対比する。

(1)磁気テープ
本件特許発明1と甲第2号証発明とは、「磁気テープ」である点で一致する。

(2)複数のサーボバンド
本件特許の明細書【0024】の「各サーボバンドSB1?SB5には、磁気ヘッドのトラッキング制御をするための所定のサーボ信号S1?S5が書き込まれている。」との記載より、本件特許発明1の「サーボ信号」は、「各サーボバンドに書き込まれている、磁気ヘッドのトラッキング制御をするための所定の信号」を意味すると認められる。
一方、甲第2号証発明は、「サーボ帯域を有し、サーボ搬送信号が、サーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれ、サーボ搬送信号の部分が消去され、この結果得られるサーボトラック構成が、隔たった経路における周期的な消去部分および非消去部分によって定義されるサーボトラックの対を備え、サーボトラックの各対がサーボトラック情報を具備し、テープの逆方向および順方向の輸送の際に利用され、複数のサーボ帯域161、162、および163を備え」るものであるから、甲第2号証発明の「サーボ帯域」に書込まれた「サーボトラック構成」は、本件特許発明1の「サーボ信号」に相当するといえる。
したがって、本件特許発明1と甲第2号証発明とは、「磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が複数のサーボバンド上にそれぞれ書き込まれた」ものである点で一致する。

(3)サーボ信号の構成
「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号」について、本件特許発明1は、「一つのパターンが非平行な縞からな」るのに対し、甲第2号証発明は、「サーボ搬送信号が、サーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれ、サーボ搬送信号の部分が消去され、この結果得られるサーボトラック構成」である点で相違する。

(4)サーボ信号へのデータの埋め込み
甲第2号証発明は、「サーボ帯域161ないし163が、サーボ帯域自身が他のサーボ帯域から一意に同定され得るような、異なる符号を用いて符号化され」るものであるから、本件特許発明1と甲第2号証発明とは、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータがそれぞれ埋め込まれ」る点で一致する。
もっとも、「サーボ信号へのデータの埋め込み」について、本件特許発明1は、「各データは、各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」のに対し、甲第2号証発明は、「任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する」点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と甲第2号証発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が複数のサーボバンド上にそれぞれ書き込まれた磁気テープであって、
各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号に、複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータがそれぞれ埋め込まれる磁気テープ。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号」について、本件特許発明1は、「一つのパターンが非平行な縞からな」るのに対し、甲第2号証発明は、「サーボ搬送信号が、サーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれ、サーボ搬送信号の部分が消去され、この結果得られるサーボトラック構成」である点。

(2)「サーボ信号へのデータの埋め込み」について、本件特許発明1は、「各データは、各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」のに対し、甲第2号証発明は、「任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する長さを備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備する」点。

3.判断

上記相違点(1)および(2)について検討する。

請求人は、本件特許発明1は、甲第2号証に記載されている発明、甲第4号証に記載されている発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると主張しているので、甲第4号証技術事項および周知技術を甲第2号証発明に適用することについて検討する。
非平行な磁気遷移からなるサーボ・パターンは周知である。
しかしながら、甲第2号証発明のサーボ帯域はサーボ帯域のほぼ全幅を横切って書込まれたサーボ搬送信号が部分的に消去されたものであるのに対し、甲第4号証技術事項および周知技術のサーボ・パターンは、非平行な磁気遷移からなるものであって、甲第2号証発明と甲第4号証技術事項および周知技術とは前提とするサーボ帯域ないしサーボ・パターンの形態が異なるから、甲第4号証技術事項および周知技術をそのまま甲第2号証発明に適用することはできない。
仮に、甲第4号証技術事項を甲第2号証発明に適用するに当たり、甲第4号証技術事項の「ストライプ」の「移動」を甲第2号証発明の「消去部分」の移動に対応させるとしても、任意個数の消去部分がサーボ帯域ごとに変化する移動の状態を備えることで、サーボ帯域を一意に同定、つまり一意なサーボ帯域符号を具備するものが得られるにとどまり、「各サーボバンド内に書き込まれた各サーボ信号」が「一つのパターンが非平行な縞からな」り、かつ、「複数のサーボバンドのうちのそのサーボ信号が位置するサーボバンドを特定するためのデータ」が、「各サーボ信号の縞を構成する線の位置を、サーボバンド毎にテープ長手方向にずらすことにより前記各サーボ信号中に埋め込まれている」本件特許発明1には到らない。

したがって、本件特許発明1は、甲第2号証発明、甲第4号証技術事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第8 本件特許発明6および8について

本件特許の請求項6は請求項1を引用しており、本件特許発明1が上記「第5」ないし「第7」で検討した各発明、各技術事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件特許発明6は、上記「第5」ないし「第7」で検討した各発明、各技術事項、周知技術および甲第5号証に記載された磁気テープの製造方法に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

また、本件特許の請求項8は請求項1を引用しており、本件特許発明1が上記「第5」ないし「第7」で検討した各発明、各技術事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件特許発明8は、上記「第5」ないし「第7」で検討した各発明、各技術事項、周知技術および甲第5号証に記載されたサーボライタに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第9 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件の請求項1、6および8に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第162条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-14 
結審通知日 2017-12-19 
審決日 2018-01-09 
出願番号 特願2003-110504(P2003-110504)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (G11B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 森川 幸俊
関谷 隆一
登録日 2008-07-18 
登録番号 特許第4157412号(P4157412)
発明の名称 磁気テープおよびその製造方法、サーボライタ、ならびにサーボバンドの識別方法および装置  
代理人 中村 閑  
代理人 片山 英二  
代理人 黒田 薫  
代理人 中岡 起代子  
代理人 乾 裕介  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 佐志原 将吾  
代理人 古橋 伸茂  
代理人 小林 浩  
代理人 今井 優仁  
代理人 服部 誠  
代理人 黒川 恵  

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