• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1353719
審判番号 不服2018-6926  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-22 
確定日 2019-07-17 
事件の表示 特願2015-231335「声紋による通信方法,装置及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月19日出願公開,特開2017- 17669〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2015年11月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年6月30日(以下,「優先日」という。),中華人民共和国)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年12月20日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月10日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 9月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年 1月10日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 1月16日付け:拒絶査定(原査定)
平成30年 5月22日 :審判請求書,手続補正書の提出


第2 平成30年5月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年5月22日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された(下線部は,補正箇所である。)。

「 サーバに音声情報を送信するとともに、前記サーバから送信された前記音声情報に基づいて生成された標識情報を受信するステップであって、前記標識情報はメッセージダイジェスト5(Message Digest5、MD5)コードであるステップと、
声紋によって検証するように、前記サーバにユーザーアカウント情報及び前記標識情報を送信するステップと、
前記サーバが前記標識情報に基づいて第一情報と第二情報とを関連させて、関連させられた前記第一情報及び前記第二情報に基づいて登録または検証するステップと、
を含み、
前記第一情報は前記ユーザーアカウント情報及び前記音声情報の一方であり、
前記第二情報は前記ユーザーアカウント情報及び前記音声情報の他方である、
ことを特徴とする声紋による通信方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年1月10日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 サーバに音声情報を送信するとともに、前記サーバから送信された前記音声情報に基づいて生成された標識情報を受信するステップと、
声紋によって検証するように、前記サーバにユーザーアカウント情報及び前記標識情報を送信するステップと、
前記サーバが前記標識情報に基づいて第一情報と第二情報とを関連させて、関連させられた前記第一情報及び前記第二情報に基づいて登録または検証するステップと、
を含み、
前記第一情報は前記ユーザーアカウント情報及び前記音声情報の一方であり、
前記第二情報は前記ユーザーアカウント情報及び前記音声情報の他方である、
ことを特徴とする声紋による通信方法。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「標識情報」について,上記のとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2001-249689号公報(平成13年9月14日出願公開。以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある(当審注:下線は重要箇所に対して当審が付与した。)。

「【0019】電子認証システム10は、利用者が認証処理を行う利用者端末装置11、業務提供者が認証処理を行う業務提供装置12、契約者情報を格納する契約者情報格納装置13、業務提供者の電子証明書を格納する電子証明書格納装置14、利用者の音声認証を行う音声認証機関所有の音声認証装置15、契約者の基準音声情報を格納する基準音声情報格納装置16、及び各種情報の伝達を行う電子通信回線17によって構成されている。」

「【0025】次に、電子認証システム10の認証動作について説明する。なお、本形態では、利用者識別情報及び契約者情報は、各契約者に付与された利用者コードを有し、照合音声情報は、パスワード情報となる各契約者の音声によって構成された所定のパスワードであり、基準音声情報は、基準音声パスワード情報となる各契約者の音声によって構成された所定のパスワードであるものとする。ここでのパスワードは、パスワードを構成する言葉が固定された発話内容依存型、アクセスのたびにパスワードを構成する言葉が指定される発話内容指定型、パスワードの言葉に依存せず音声の情報のみをパスワードとする発話内容独立型等、音声の特徴自体をパスワードの構成要素とするものであればどのようなものでもよいが、発話内容独立型を用いた場合には、利用者のパスワード管理が不要になるという利点がある。」

「【0036】次に、本発明における第2の実施の形態について説明する。本形態は、第1の実施の形態の応用例であり、利用者の特定を利用者コード、ニックネーム及び氏名によって行う点が第1の実施の形態と異なる。以下では、第1の実施の形態との相違点を中心に説明し、第1の実施の形態と共通する部分については説明を省略する。
【0037】本形態の場合においても、本システムの利用を希望する利用者は、音声認証機関との間で所定の使用契約を結ぶこととなるが、本形態では、その使用契約時に利用者の音声によるパスワード登録の他に、利用者のニックネーム及び氏名の音声登録も行う。ここで、ニックネームとは、契約時に利用者が自由に設定できる名称であり、場合によっては、同一のニックネームが複数の契約者によって登録される場合もあり得る。登録されたニックネーム、氏名は各契約者に関連付けられ、音声認識辞書として契約者情報格納装置13に格納される。
・・・(中略)・・・
【0039】パスワード等の音声登録が行われると、本形態でも第1の実施の形態の場合と同様に、契約を行った契約者に利用者コードが付与される。次に、本形態における電子認証システム10の認証動作について説明する。
・・・(中略)・・・
【0041】まず、電子証明書の確認が終了すると、次に、業務提供装置12は、利用者端末装置11に対し、ニックネームの入力を依頼する。この依頼を受けた利用者は、利用者端末装置11の識別情報入力手段11aを用い、契約時に登録したニックネームを音声入力する。音声入力されたニックネームの音声情報は、利用者情報送信手段11cによって送信され、電子通信回線17を経由し、業務提供装置12の利用者情報受信手段12aに受信される。利用者情報受信手段12aに受信されたニックネームの音声情報は、音声認識された後、契約者情報抽出手段12bに送られ、契約者情報抽出手段12bは、送られたニックネームに適合するニックネームを契約者情報格納装置13に格納された音声認識辞書20のニックネーム認識用辞書21から検索し、検索されたニックネームに対応付けられた氏名認識用辞書22a、22bを抽出する。
【0042】次に、業務提供装置12は、利用者端末装置11に対し、氏名の入力を依頼する。この依頼を受けた利用者は、利用者端末装置11の識別情報入力手段11aを用い、契約時に登録した氏名を音声入力する。音声入力された氏名の音声情報は、利用者情報送信手段11cによって送信され、電子通信回線17を経由し、業務提供装置12の利用者情報受信手段12aに受信される。利用者情報受信手段12aに受信された氏名の音声情報は、音声認識された後、契約者情報抽出手段12bに送られ、契約者情報抽出手段12bは、送られた氏名、及び上記のように契約者情報格納装置13から抽出した氏名認識用辞書22a、22bを用い、契約者の特定を行う。
【0043】契約者が特定されると、その契約者を特定する情報、及び識別情報入力手段11aによって入力された氏名の音声情報は、契約者情報送信手段12cによって送信され、送信されたこれらの情報は、電子通信回線17を介し、音声認証装置15の契約者情報受信手段15aに受信される。契約者情報受信手段15aに受信された契約者を特定する情報、及び識別情報入力手段11aによって入力された氏名の音声情報は、基準音声情報抽出手段15bに送られ、基準音声情報抽出手段15bは、送られた契約者を特定する情報を用い、その契約者の氏名の音声情報を契約者情報格納装置13から抽出する。
【0044】基準音声情報抽出手段15bによって抽出された契約者の氏名の音声情報、及び識別情報入力手段11aによって入力された氏名の音声情報は、音声照合手段15cで照合され、その照合が成立した場合、その照合結果は、照合結果送信手段15dによって、業務提供装置12に送信される。この結果を受け取った業務提供装置12は、利用者端末装置11に対してパスワードの入力指示を与える。」

「【0047】なお、本形態では、入力された氏名の音声情報によって話者照合を行うこととしたが、ニックネームの音声情報によって話者照合を行うこととしてもよく、またニックネーム及び氏名両方の音声情報によって話者照合を行うこととしてもよい。
【0048】また、本形態では、利用者のニックネーム及び氏名を音声入力により入力することとしたが、ニックネーム及び氏名のいずれか一方を音声入力以外の方法で入力することとしてもよい。この場合、話者照合は音声入力が行われたニックネーム及び氏名のいずれか一方によって行うこととなる。」

「【0064】さらに、第1の実施の形態から第3の実施の形態では、音声認証機関が音声認証装置15を所有することとしたが、業務提供者が自ら音声認証装置15を所有し、本人認証を行う構成としてもよい。」

(イ)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 電子認証システムは,利用者が認証処理を行う利用者端末装置,業務提供者が認証処理を行う業務提供装置,契約者情報を格納する契約者情報格納装置13,利用者の音声認証を行う音声認証機関所有の音声認証装置等によって構成されている【0019】。

b 利用者端末装置は,業務提供装置からニックネームの入力の依頼を受けると,利用者端末装置の識別情報入力手段を用いて音声入力されたニックネームの音声情報を,業務提供装置に送信する(【0041】)。

c 利用者端末装置は,前記bの処理の後に,業務提供装置から氏名の入力の依頼を受けると,利用者端末装置の識別情報入力手段を用いて音声入力された氏名の音声情報を,業務提供装置に送信する(【0042】)。

d 業務提供装置は,利用者端末装置から送信されたニックネームと氏名を用いて契約者の特定を行い(【0041】,【0042】),当該契約者を特定する情報及び利用者端末装置から送信された氏名の音声情報を音声認証装置に送信する(【0019】,【0043】)。
また,音声認証装置は,業務提供装置から送信された契約者を特定する情報を用いてその契約者の氏名の音声情報を契約者情報格納装置から抽出し(【0037】,【0043】),当該抽出された契約者の氏名の音声情報と,上記利用者端末装置から送信され業務提供装置から送信された氏名の音声情報を照合することで話者照合を行う(【0044】)。

e 前記b及びcにおけるニックネームの入力及び氏名の入力は,ニックネームが音声入力された場合には,氏名は音声入力以外の方法で入力することができるものであり(【0048】),この場合,前記dにおける話者照合は,ニックネームの音声情報によって行うこととなるものである(【0047】,【0048】)。
また,前記dの音声認証装置は,業務提供者が自ら所有してもよいものであり,この場合,前記話者照合を含む本人認証は,業務提供者が認証処理を行う業務提供装置により行われることになる(【0064】)。

f 前記dの話者照合のために行う音声情報の照合は,発話内容独立型の音声情報を用いて行われる(【0025】)。

(ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 利用者端末装置は,
業務提供装置からニックネームの入力の依頼を受けると,業務提供装置にニックネームの音声情報を送信し,
その後,業務提供装置から氏名の入力の依頼を受けると,前記業務提供装置に音声入力以外の方法で入力された氏名を送信し,
前記業務提供装置は,
前記利用者端末装置から送信されたニックネームの音声情報及び前記氏名を用いて契約者の特定を行い,当該契約者を特定する情報を用いて契約者情報格納装置から抽出されたニックネームの音声情報と,前記利用者端末装置から送信されたニックネームの音声情報を照合することで話者照合を行う方法であって,
照合に用いられる音声情報として,発話内容独立型の音声情報を用いる
方法。」

イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,「廣田 一貴ほか,ウェブアプリケーションにおけるセッション固定化脆弱性の検出支援,コンピュータセキュリティシンポジウム2013 (CSS2013) 論文集,[CD-ROM],Vol.2013,No.4,pp.344-351」(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

「1 はじめに
今日のウェブアプリケーションでは,ログイン状態やページ遷移などを保持する際にセッションIDを各ユーザの利用するブラウザに割り振って管理する手法が一般的に用いられている.これによってHTTPのようなステートレスなプロトコルでもユーザのアクセス状態を保つ事が可能となる.ステートレスとは通信を処理単位で切断し前の状態を保持しない仕様である.」(第344頁左欄第1行-同頁右欄第2行)

「4.1.7 認証情報からセッションIDを生成
認証情報を利用してセッションIDを生成し,セッション管理を行っているパターンがある.この場合,他のユーザの認証情報を攻撃者は知らないためセッションIDを生成出来ない.よって他の固定化が可能な条件を満たしていたとしても脆弱性ではない.」(第347頁右欄第17-23行)

(イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 「 ウェブアプリケーションにおいて,ログイン状態やページ遷移などを保持する際にセッションIDをブラウザに割り振る手法が一般的に用いられていること。」

b 「セッションIDを認証情報から生成すること。」

イ 参考文献1
(ア)本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,「小須田 優介ほか,Ajaxを用いたSSHクライアントシステムの提案と実装,情報処理学会論文誌論文誌ジャーナル,[CD-ROM],2009年 1月15日,Vol.50,No.1,pp. 421-429」(以下,「参考文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

「6.2 性能評価
実装システムについて,ユーザの観点からログインに要する時間,入出力の処理能力の計測を行った.
クライアントのスペックは表3,表4に示すとおりである.それぞれ10回計測した平均を結果として表5に示す.(ア)?(ウ)にそれぞれの計測方法,各計測においてクライアント上で行われる処理の概要を示す.
(ア)ログインの計測
ユーザが図9に示したログイン画面のloginボタンを押下してから図10に示した画面が表示され,コマンド入力が可能になるまでの所要時間を計測した.
ログイン処理では,サーバホスト認証のRSA暗号化演算,セッションID生成のMD5ハッシュ演算などが行われる.」(第427頁左欄第14-24行)

(イ)上記記載から,参考文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 「 セッションIDを,MD5ハッシュ演算により生成すること。」

イ 参考文献2
(ア)本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,「大垣 靖男,PHP 4.2 セッション管理機能に迫る,WEB+DB PRESS,2002年 5月15日,Vol.8,pp.142-152」(以下,「参考文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

「セッションIDの利用
通常Webアプリケーションのセッション管理では,遷移ごとにユーザID/パスワードを送信せず,セッションIDまたはセッション鍵と言われるランダムに生成される使い捨てのID^(注3)が利用されます.
このセッションIDは,WebブラウザからWebサーバへのリクエストとともに送信されます.一方WebアプリケーションはセッションIDが一致するかどうかを確認し,同一のセッションであるかどうかを判断します.セッションIDが推測しやすい場合,簡単にセッションハイジャック^(注4)できるためセッションIDは推測しにくいIDでなければなりません.」(第142頁右欄第22行-第143頁右欄第10行)

「●設定の流れと注意
セッションIDの初期化後に,php.iniのsession.referer_checkに文字列が設定されているかが確認されます.session.referer_checkに文字列が設定され,ブラウザから送信されたHTTP_REFERERにreferer_checkの文字列が含まれない場合,セッションIDは有効に設定されます.最後に有効なセッションIDがない場合,新しいセッションIDがMD5関数を利用して作成されます.」(第145頁右欄第1-9行)


(イ)上記記載から,参考文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 「Webアプリケーションのセッション管理では,通常セッションIDが利用され,当該セッションIDはWebブラウザからサーバへのリクエストとともに送信され,WebアプリケーションはセッションIDの一致によりセッションの同一を判断すること。」

b 「セッションIDを,MD5関数を利用して作成すること。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「業務提供装置」及び「ニックネームの音声情報」は,それぞれ本件補正発明の「サーバ」及び「音声情報」に相当する。
よって,引用発明と本件補正発明とは,「サーバに音声情報を送信する」点において一致するといえる。

(イ)引用発明の「氏名」は,本件補正発明の「ユーザーアカウント情報」に相当する。
また,引用発明の「氏名」は,業務提供装置で話者照合を行うために用いられるものであるから,引用発明における利用者端末装置による氏名の業務提供装置への送信は,「話者照合を行うために」行われるものであるといえる。
さらに,引用発明の「話者照合」は,ニックネームの音声情報を照合することで行われ,当該照合には,発話内容独立型の音声情報が用いられているが,当該発話内容独立型の音声情報として「声紋」が用いられることは本願の優先日前の技術常識に鑑み明らかであるから,引用発明の「話者照合」と本件補正発明の「声紋によって検証」とは,「声紋によって検証」である点において一致する。
よって,「話者照合を行うために,」「前記業務提供装置に」「氏名を送信」するといえる引用発明は,「声紋によって検証するように,前記サーバにユーザーアカウント情報を送信する」点において,本件補正発明と一致するといえる。

(ウ)引用発明の「業務提供装置」は,「前記利用者端末装置から送信されたニックネームの音声情報及び前記氏名を用いて契約者の特定を行い,当該契約者を特定する情報を用いて契約者情報格納装置から抽出されたニックネームの音声情報と,前記利用者端末装置から送信されたニックネームの音声情報を照合することで話者照合を行う」から,「前記利用者端末装置から送信されたニックネームの音声情報及び氏名に基づいて話者照合を行う」ものであるといえる。
また,上記利用者端末装置から送信されたニックネームの音声情報及び氏名は,業務提供装置からのニックネームの入力の依頼及び氏名の入力の依頼といった時系列的に前後する別個の依頼を受けて,それぞれ利用者端末装置から時系列的に前後して業務提供装置に送信されるのであるが,業務提供装置においては,話者照合に用いるために,時系列的に前後して送信される当該ニックネームの音声情報及び氏名の対応関係を把握する必要があるところ,当然に何らかの方法により関連付けを行っているものと解される。
さらに,引用発明の「ニックネームの音声情報」及び「氏名」は,それぞれ本件補正発明の「第一情報」及び「第二情報」にも相当するものである。
よって,引用発明と本件補正発明とは,「前記サーバが」「第一情報と第二情報とを関連させて,関連させられた前記第一情報及び前記第二情報に基づいて登録または検証する」点において一致するといえる。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

【一致点】
「 サーバに音声情報を送信するステップと,
声紋によって検証するように,前記サーバにユーザーアカウント情報を送信するステップと,
前記サーバが第一情報と第二情報とを関連させて,関連させられた前記第一情報及び前記第二情報に基づいて登録または検証するステップと,
を含み,
前記第一情報は前記ユーザーアカウント情報及び前記音声情報の一方であり,
前記第二情報は前記ユーザーアカウント情報及び前記音声情報の他方である,
ことを特徴とする声紋による通信方法。」

【相違点1】
本件補正発明は,サーバに送信した音声情報に基づいてMD5コードとして生成された標識情報を受信し,ユーザーアカウント情報と上記標識情報をサーバに送信するのに対し,引用発明は,氏名を業務提供装置に送信するものの,そのような標識情報を受信し,氏名と当該標識情報を業務提供装置に送信することは特定がなされていない点。

【相違点2】
第一情報と第二情報とを関連させることを,本件補正発明は,上記標識情報に基づいて行っているのに対し,引用発明は,そのような特定がなされていない点。

(4)判断
以下,上記相違点について検討する。

ア 相違点1及び2について,まとめて検討する。
前記(2)イ-エにおいて検討したとおり,クライアント及びサーバ間で,ログイン状態やページ遷移等を保持しセッションの同一を判断するためにセッションIDを用いる手法は,本願の優先日前において,広く利用された技術であった。そして,当該セッションIDを,認証情報から生成することや,MD5関数を利用して生成することも,それぞれ前記(2)イ,及び前記(2)ウ-エで検討したとおり,本願の優先日において周知技術であった。
引用発明も,クライアントである利用者端末装置とサーバである業務提供装置の間の一連のやりとりにおいて,時系列的に前後して送信されるニックネームの音声情報及び氏名の対応関係を保持する必要があるものであり,また,当該ニックネームの音声情報は,話者照合のために用いられるものであることから認証情報といえるものであるから,引用発明にセッションIDに関する上記周知技術を適用することにより,時系列的に先に送信される認証情報であるニックネームの音声情報からMD5関数を利用してセッションIDを生成し,当該セッションIDを利用者端末装置と業務提供装置の間の一連のやりとりにおいて用いる構成とすることは,当業者が通常の創作能力の発揮により容易になし得たことである。この際,業務提供装置におけるニックネームの音声情報と氏名の関連付けが当該セッションIDに基づいて行われることになることも,当業者には明らかな事項である。

イ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

ウ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2並びに参考文献1-2に記載されたような本願の優先日前の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年5月22日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年1月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし12に係る発明は,本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2001-249689号公報
引用文献2:廣田 一貴ほか,ウェブアプリケーションにおけるセッション固定化脆弱性の検出支援,コンピュータセキュリティシンポジウム2013 (CSS2013) 論文集,[CD-ROM],Vol.2013,No.4,pp.344-351
引用文献3:特表2015-516091号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1並びに2及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の発明特定事項である「標識情報」について,「メッセージダイジェスト5(Message Digest5、MD5)コードである」との限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2並びに参考文献1ないし2に記載された本願の優先日前の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2に記載された本願の優先日前の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-15 
結審通知日 2019-02-19 
審決日 2019-03-04 
出願番号 特願2015-231335(P2015-231335)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04M)
P 1 8・ 575- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸島 弘詩金木 陽一  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 須田 勝巳
▲はま▼中 信行
発明の名称 声紋による通信方法、装置及びシステム  
代理人 桜田 圭  
代理人 木村 満  
代理人 美恵 英樹  
代理人 森川 泰司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ