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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1353724
審判番号 不服2017-139  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-05 
確定日 2019-07-24 
事件の表示 特願2014-156984「バルク凝固非晶質合金およびその原料ならびにそれらを形成する方法、非晶質製品およびそれを鋳造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月26日出願公開、特開2015- 38243〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年(平成14年)10月 2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2001年10月 3日 米国(US))を国際出願日とする出願である特願2003-532717号の一部を、平成22年10月15日に新たな特許出願とした特願2010-232378号の一部を、更に平成26年 7月31日に新たな特許出願としたものであって、平成26年 8月29日に手続補正書が提出され、平成27年 9月14日付けで拒絶理由が通知され、平成28年 3月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 8月30日付けで拒絶査定がされ、平成29年 1月 5日に審判請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年10月31日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成30年 5月 2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 5月31日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年 9月 4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月31日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成31年 2月 4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?32に係る発明は、平成31年 2月 4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?32に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
バルク凝固非晶質合金を形成する方法であって、
酸素に対して個々に生成熱を有するZrおよびTiのスポンジを含む複数の金属成分を含むバルク凝固非晶質の基本合金を準備する工程と、
酸素に対する合金化金属生成熱が、前記金属成分の中で酸素に対する最も大きな生成熱より大きい付加合金化金属を準備する工程と、
前記基本合金に前記付加合金化金属を添加して前記バルク凝固非晶質合金を形成する添加工程と、
を含み、
前記バルク凝固非晶質合金は、次の分子式で定義され、
(M1_(a)M2_(b)・・・Mn_(c))_(100-x)Q_(x)
前記バルク凝固非晶質合金は、次の式に支配され、
x=k×C(O)
ここで、M1、M2及びMnは、前記基本合金中の前記金属成分であり、nは、前記基本合金中の金属成分の番号であり、a、b及びcは、前記基本合金中の前記金属成分の原子百分率を定義し、Qは、前記付加合金化金属であり、xは、前記バルク凝固非晶質合金中の前記付加合金化金属の原子百分率を定義し、kは、0.5?10の範囲にある定数であり、C(O)は、前記付加合金化金属を添加する前の前記バルク凝固非晶質合金の基本合金を鋳造したままの鋳造品中の酸素の原子百分率であり、
改善が前記バルク凝固非晶質合金を過加熱温度まで過加熱して、前記金属成分の酸素が酸素に対する前記合金化金属生成熱によって破壊されることを含み、
前記基本合金がZr-Ti基であり、
前記付加合金化金属が、La、Y、Ca、Al及びBeからなる群から選択され、
前記過加熱することが、前記バルク凝固非晶質合金の溶融温度より100℃以上高くで行われる、方法。」

第3 当審拒絶理由の概要
平成30年10月31日付けの当審拒絶理由の概要は、本願は、明細書、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号、第6項第2号、第4項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審拒絶理由についての当審の判断
1 発明の詳細な説明の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。
(a)「【0001】
本発明は、改良したバルク凝固非晶質合金組成物、このような組成物を作る方法、及びこのような組成物から作られた鋳造品に関する。
【背景技術】
【0002】
用語「バルク凝固非晶質合金」は、1.0mmまたはそれ以上の厚みを有するが、実質的に非晶質原子構造を維持する物体を作るために、溶融状態から約500K/secまたはそれ以下の速度で冷却されるかもしれない非晶質合金のグループを言う。1.0mmまたはそれ以上の厚みを有する物体を作るためのバルク凝固非晶質合金の能力は、従来の非晶質合金の実質的な改良である。・・・」

(b)「【0005】
バルク凝固非晶質合金の発見、実質的な厚みを有する製品に鋳造することができるこれらの合金の発見は、広範囲な応用のために、バルク形状でこれらの高い弾性限界材料を組み込むことの可能性を与える。そこで、これらの合金の製品を製造するのに実用的でかつ費用効率の高い方法が、特に、複雑で精密な形状の設計を必要とする適用に対して、望まれている。高圧力ダイキャストなどの金属成形鋳造方法は、この方法が高冷却速度を与えるので、これらの材料を鋳造するために使用することができることが判明した。・・・
【0006】
しかしながら、酸素などの付随的な不純物の存在(それらがある濃度以上でこの合金中に存在するとき)は、バルク凝固非晶質合金の過冷却溶液から結晶質の核生成速度を有害なほどに増加させ、それにより、実質的にこれらの材料の臨界冷却速度を増加させることが発見された。例えば、米国特許第5,797,443号は、不純物の存在の結果として、これらの合金は所望の圧形材に鋳造することができないことを開示し、さらに、バルク凝固非晶質合金を鋳造するときに、酸素不純物レベルを制御することの必要性を教示する。酸素などの付随的不純物を制御するための一つの提案される方法は、高純度原材料を使用しかつ処理条件を厳しく制御することである。しかしながら、これらの工程は、バルク凝固非晶質合金から作られる製品の価格を実質的に高くする。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、新しいバルク凝固非晶質合金組成物と、原材料及び処理環境の双方から生じる付随的な不純物とによってもたらされる心配なしに、これらの合金を安価な製品に鋳造するための新しい方法に対する必要性が存在する。」

(c)「【0016】
図1に示すように、実施例の工程1では、溶融温度に対するガラス転移温度の比、或いは低減された(reduced)ガラス転移温度Trgが約0.5以上、好ましくは約0.55以上、最も好ましくは0.6以上を有する金属成分M1、M2、M3などを有するバルク凝固非晶質合金「C」が準備される。ここで、バルク凝固非晶質合金の組成物は、M1、M2、M3などで与えられ、添え字a、b、cなどは、それぞれの金属成分M1、M2、M3などの原子パーセントを表わす。
【0017】
上記の説明では、Tgは、図2に示すように標準DSC(示差走査熱量計)により20℃/分の走査でもって決定される。Tgは、ガラス転移の開始温度として定義される。
【0018】
その後、工程2において、各金属成分のH(M)(金属成分Mのうちで最も安定な金属酸化物に対して酸素1原子あたりの「生成熱」の絶対値)が特定され、ここで「最も安定な金属酸化物」は、金属成分Mの競合する酸化物状態の中で一つの酸素原子あたりの生成熱の最も大きな絶対値を有する金属酸化物(M_(x)O_(y))である。このような実施例において、H(M)を特定することにおいて重要な温度は、合金組成物Cの液相線温度である。
【0019】
単一金属酸化物だけが上記で検討されているが、金属酸化物の基本ユニット(M_(x)O_(y))は、1個以上の酸素原子を含んでいてもよい。したがって、酸素1原子あたりの生成熱H(M)を求めるために、基本ユニットの生成熱をこの基本ユニットの酸素原子数で割る。この工程において、H(C)maxを特定することも可能であり、ここでH(C)maxは非晶質合金C(M1a、M2b、M3cなど)の中の最大H(M)maxである。金属酸化物の生成熱は「Handbook of Physics and chemistry」を含む種々の情報源から容易に求められる。
【0020】
工程3において、図1に示すように、M1、M2、M3の基本的な金属成分と異なる「合金化金属」Qは、次の不等式を用いて特定される。すなわち、
H(Q)>H(C)max (1)
【0021】
次に、金属Qが、バルク凝固非晶質合金組成物Cに添加され、新しく改良されたバルク凝固非晶質合金((M1a、M2b、M3c)100_(-x)Q_(x))が生成され、(M1a、M2b、M3c)100_(-x)Q_(x)は、次の式で支配される。
x=k×C(O) (2)
【0022】
ここでkは定数であり約0.5?10の範囲、約0.5?1の好ましい範囲、約3?5の別の好ましい範囲、約5?10のさらに別の好ましい範囲、約1?3のさらに好ましい範囲を有し、xは新しい合金中の「合金化金属」Qの原子パーセントを定義し、C(O)は、バルク凝固非晶質合金「C」の鋳造したままの製品中における酸素の予想される原子パーセントを定義する。理論によって境界をつけることはないとはいえ、酸素は、付随的不純物として存在することが予想される。酸素の供給源は原材料及び溶融坩堝を含む処理環境であり得る。
【0023】
本発明の条件を満たすいずれのバルク凝固非晶質合金組成物も使用されるかもしれないが、バルク凝固非晶質合金の好ましいグループはZr-Ti基合金である。このような合金組成物は、米国特許第5,032,196号、米国特許第5,288,344号、米国特許第5,368,659号、米国特許第5,618,359号、及び米国特許第5,735,975号に開示され、これらの開示は引用により本明細書に合体される。本発明の目的のために、用語「Zr-Ti基」は、これらのバルク凝固非晶質合金組成物を組み込むものとして理解され、ZrとTiとの合計が、目的とする合金組成物中で金属成分の最も高い原子パーセントを含む。・・・
【0024】
さらに、本発明では、適切な特性を有する合金金属を利用することができるが、元素La、Y、Ca、Al及びBeは、Qとしての好ましい「合金化金属」であり、さらに好ましくは、Y(イットリウム)である。単一成分の合金化金属のみが上述されたが、本発明の別の実施例では、一つまたはそれ以上の合金化金属Qが合金化金属Qとして組み合わせて用いられる。」

(d)「【0026】
本発明は、改良されたバルク凝固非晶質合金組成物の原材料を作る方法にも向けられる。したがって、工程4において、新しく改良されたバルク凝固非晶質合金組成物がQを添加して調製された後で、好ましくは、加熱処理される。
【0027】
合金化金属Qの最大の効果のために好ましい適切な加熱処理の一つの実施例は、合金組成物を次の式にしたがう温度まで加熱することである。
T_(heat)=T_(m)(C)+200℃ (3)
ここでT_(heat)は過加熱温度であり、T_(m)は合金組成物の溶融温度である。したがって、このような実施例では、金属Qが添加された後で、新しい合金(M1a、M2b、M3c)100_(-x)Q_(x)が合金Cの溶融温度以上に過加熱される。ここで、溶融温度は、℃で示す液体温度として理解される。過加熱は、約100℃?300℃または溶融温度以上、好ましくは200℃周辺、或いは代わりに好ましくは300℃またはそれ以上の範囲である。
【0028】
過加熱の間の継続期間は約1分から60分の範囲であり、好ましい継続期間は約5分から10分であり、別の好ましい継続期間は約1分から5分であり、さらに、別の好ましい継続期間は約10から30分である。・・・この加熱処理の目的は、合金化金属の原子種を抽出するために、酸素原子(液体または酸化物)に十分な時間と熱的混合とを与えることである。したがって、原材料からなどの基本金属のいずれの酸化物も、合金化金属の高い生成熱によって破壊することができる。・・・
【0029】
本発明は、本発明の改良された合金組成物を鋳造する方法にも向けられる。このような実施例では、工程5に示すような加熱処理に続いて、新しい合金組成物は所望の形状に鋳造される。好ましい鋳造方法は、高圧力ダイキャスト法などの金属成形鋳造である。選ばれた鋳造方法にかかわらず、この鋳造は、好ましくは、不活性雰囲気または真空中で実施される。
【0030】
上記説明したように、酸素含有量の増加に伴う臨界冷却速度の増加が、バルク凝固非晶質合金があるレベル以上の酸素を含有するバルク(1.0mmまたはそれ以上の厚み)に処理することができない程度までバルク凝固非晶質合金の処理の可能性を制限することが先行技術(米国特許第5,797,443号)で知られている。例えば、Beを含まないZr基合金は、1000ppmを越える酸素含有量ではバルク形状に容易に処理することはできない。数mmまたはそれ以上の断面厚みでは、酸素含有量は、これらのBeを含まないZr基合金では、一般的に500ppmまたはそれ以下に制限する必要がる。同様の関係がBeを含有するZr-Ti基合金でも観察されたが、許容酸素含有量は、Beを含まないZr合金よりも大きくなることが判明した。・・・
【0031】
したがって、本発明の意図は、種々の形状に適用することができる。一つの形状では、比較的多くの不純物を含む原材料を利用することができる。・・・合金化、再溶解、及び鋳造などの処理の間に付随的に入り込む付加的な不純物を考慮すると、基本「スポンジ」材料が投入原材料として使用される場合は、酸素含有量は容易に1000ppmを越える。このような汚染レベルでは、通常のBeを含まないZr基合金は「バルク凝固」非晶質合金としてもはや機能することはできない。バルク凝固非晶質合金を形成する能力を保持するために、より高価な基本「結晶質棒」または高価な処理環境の制御のいずれかが通常は使用される。本発明の材料を用いることによって、例えば、より高価な原材料または高価な処理環境の制御の使用を回避できることが発見された。」

(e)「【0034】
最後に、本発明の合金組成物の改良された特性の結果として、これらの材料は、初期のバルク凝固非晶質合金C(M1a,M2b,M3c・・・)で可能であるよりも遅い冷却速度で鋳造することができる。」

2 判断
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(ア)請求項1においては、式「x=k×C(O)」における「C(O)」が、「付加合金化金属」を添加する前の「バルク凝固非晶質合金の基本合金を鋳造したままの鋳造品」中の「酸素の原子百分率」であることが特定されている。

(イ)ここで、「付加合金化金属」を添加する前の「バルク凝固非晶質合金の基本合金」(以下、「基本合金」という。)は、上記1(c)(【0016】)、(e)によれば、「(M1a,M2b,M3c・・・)」で表され、「M1」、「M2」、「M3」・・・は金属成分を表し、添え字「a」、「b」、「c」・・・は、それぞれの金属成分「M1」、「M2」、「M3」・・・の原子パーセントを表すものであるが、請求項1及び本願明細書の発明の詳細な説明には、「基本合金」を「鋳造したままの鋳造品」中の「酸素の原子百分率」である「C(O)」が、例えば、金属成分「M1」、「M2」、「M3」・・・の原子数の和(すなわち「a」+「b」+「c」+・・・)を100とした場合において、これに対する「酸素の原子百分率」をいうのか、金属成分「M1」、「M2」、「M3」・・・の原子数の和(すなわち「a」+「b」+「c」+・・・)に酸素の原子数を加えたものを100とした場合において、これに対する「酸素の原子百分率」をいうのかが記載されていない。

(ウ)そして、上記「C(O)」が、金属成分「M1」、「M2」、「M3」・・・の原子数の和を100とした場合において、これに対する「酸素の原子百分率」をいう場合と、金属成分「M1」、「M2」、「M3」・・・の原子数の和に酸素の原子数を加えたものを100とした場合において、これに対する「酸素の原子百分率」をいう場合とで、異なることは明らかであるから、請求項1において、上記「C(O)」が、「付加合金化金属」を添加する前の「バルク凝固非晶質合金の基本合金を鋳造したままの鋳造品」中の「酸素の原子百分率」であることが特定されたとしても、依然として、何の原子数に対する酸素の原子数の百分率を意味するのかが不明であるので、上記「C(O)」が、例えばいかなる計算過程により求められるのかが不明である。

(エ)更に、上記1(c)(【0022】)によれば、「基本合金を鋳造したままの鋳造品」に対する酸素の供給源としては、「原材料」及び「溶融坩堝を含む処理環境」が挙げられるものである。
そして、発明の詳細な説明の記載からは、上記「原材料」及び「溶融坩堝を含む処理環境」から供給される酸素について、上記「C(O)」をどのようにして「予想」できるのかが不明である。
なお、上記1(d)(【0031】)には、合金化、再溶解、及び鋳造などの処理の間に付随的に入り込む付加的な不純物を考慮すると、基本「スポンジ」材料が投入原材料として使用される場合は、酸素含有量は容易に1000ppmを越えることが記載されているが、上記記載は、基本「スポンジ」材料が投入原材料として使用される場合、合金化、再溶解、及び鋳造などの処理の間に酸素含有量は容易に1000ppmを越えることをいうものに過ぎず、上記「C(O)」の「予想」方法を具体的に開示するものではないから、上記「原材料」及び「溶融坩堝を含む処理環境」から供給される酸素について、上記「C(O)」をどのようにして「予想」できるのかを明らかにするものではない。

(オ)上記(ウ)、(エ)によれば、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、請求項1において特定される「C(O)」が、何の原子数に対する酸素の原子数の百分率を意味するのかが依然として不明であり、また、上記「C(O)」をどのようにして「予想」できるのかも不明であるから、本願発明は明確でない。
したがって、そのほかの請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合しない。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア 定数「k」について
(ア)上記1(a)、(b)によれば、本願発明は、新しい「バルク凝固非晶質合金組成物」と、原材料及び処理環境の双方から生じる付随的な不純物とによってもたらされる心配なしに、これらの合金を安価な製品に鋳造するための新しい方法を提供することを課題とするものであり、ここで、「バルク凝固非晶質合金」は、1.0mmまたはそれ以上の厚みを有するが、実質的に非晶質原子構造を維持する物体を作るために、溶融状態から約500K/secまたはそれ以下の速度で冷却されるかもしれない非晶質合金のグループをいうものである。

(イ)上記1(c)?(e)によれば、本願発明は、「工程1」において、溶融温度に対するガラス転移温度の比、或いは低減された(reduced)ガラス転移温度Trgが約0.5以上を有する金属成分「M1」、「M2」、「M3」などを有する「バルク凝固非晶質合金C」が準備され、その後、「工程2」において、各金属成分の「H(M)」(金属成分Mのうちで最も安定な金属酸化物に対して酸素1原子あたりの「生成熱」の絶対値)が特定され、この工程において、「H(C)max」を特定することも可能であり、ここで「H(C)max」は「非晶質合金C」(M1_(a)、M2_(b)、M3_(c)など)の中の最大「H(M)max」であるものである。

(ウ)次に、「工程3」において、「M1」、「M2」、「M3」の基本的な金属成分と異なる「合金化金属Q」が、次の不等式を用いて特定され、
H(Q)>H(C)max (1)
次に、「金属Q」が、「バルク凝固非晶質合金組成物C」に添加され、新しく改良された「バルク凝固非晶質合金((M1_(a)、M2_(b)、M3_(c))_(100-x)Q_(x))」が生成され、「(M1_(a)、M2_(b)、M3_(c))_(100-x)Q_(x)」は、次の式で支配されるものである。
x=k×C(O) (2)
ここで、「k」は定数であり、約0.5?10の範囲、約0.5?1の好ましい範囲、約3?5の別の好ましい範囲、約5?10のさらに別の好ましい範囲、約1?3のさらに好ましい範囲を有し、「x」は、新しい合金中の「合金化金属Q」の原子パーセントを定義し、「C(O)」は、「バルク凝固非晶質合金C」の鋳造したままの製品中における酸素の予想される原子パーセントを定義するものである。
そして、「バルク凝固非晶質合金」の好ましいグループはZr-Ti基合金であり、元素La、Y、Ca、Al及びBeは、「Q」としての好ましい「合金化金属」であり、さらに好ましくは、Y(イットリウム)であるものである。

(エ)次に、「工程4」において、新しく改良された「バルク凝固非晶質合金組成物」が「Q」を添加して調製された後で加熱処理されるものであり、「合金化金属Q」の最大の効果のために好ましい適切な加熱処理の一つの実施例は、「合金組成物」を次の式にしたがう温度まで加熱するものである。
T_(heat)=T_(m)(C)+200℃ (3)
ここで、「T_(heat)」は過加熱温度であり、「T_(m)」は「合金組成物」の溶融温度である。したがって、「工程4」において、「金属Q」が添加された後で、「新しい合金(M1_(a)、M2_(b)、M3_(c))_(100-x)Q_(x)」が「合金C」の溶融温度以上に過加熱されるものであり、上記加熱処理に続いて、「工程5」において、新しい「合金組成物」は所望の形状に鋳造されるものであり、好ましい鋳造方法は、高圧力ダイキャスト法などの金属成形鋳造であるものである。

(オ)そして、本願発明は、本願発明の「合金組成物」の改良された特性の結果として、「合金組成物」の許容酸素含有量は、「Q」を含まない合金よりも大きくなり、より高価な原材料または高価な処理環境の制御の使用を回避できるものであり、また、これらの材料は、初期の「バルク凝固非晶質合金C(M1_(a),M2_(b),M3_(c)…)」で可能であるよりも遅い冷却速度で鋳造することができるものである。

(カ)上記(ア)?(オ)によれば、本願発明は、上記「工程1」?「工程5」を順次行うことにより、「バルク凝固非晶質合金((M1_(a)、M2_(b)、M3_(c))_(100-x)Q_(x))」の許容酸素含有量が「合金化金属Q」を含まない合金よりも大きくなり、より高価な原材料または高価な処理環境の制御の使用を回避できるものであり、初期の「バルク凝固非晶質合金C(M1_(a),M2_(b),M3_(c)…)」で可能であるよりも遅い冷却速度で鋳造することができるものとなるので、新しい「バルク凝固非晶質合金組成物」と、原材料及び処理環境の双方から生じる付随的な不純物とによってもたらされる心配なしに、これらの合金を安価な製品に鋳造するための新しい方法を提供する、という上記(ア)に記載される課題を解決し得るものというべきである。

(キ)ここで、本願発明は、「工程3」において、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」及び「C(O)」から、式「x=k×C(O)」に基づいて、新しい合金中の「合金化金属Q」の原子パーセント「x」を決定し、「合金化金属Q」の原子パーセントが当該「x」となるように、「合金化金属Q」が「バルク凝固非晶質合金C(M1_(a),M2_(b),M3_(c)…)」に添加され、「工程4」において加熱処理を行い、上記加熱処理に続いて、「工程5」において、新しい「合金組成物」が所望の形状に鋳造されることにより、上記課題を解決するものであって、そうであれば、本願発明において、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」は、少なくとも「工程5」で鋳造を行う以前において決定されるべきものである。
すなわち、本願発明の式「x=k×C(O)」における、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」は、少なくとも鋳造を実施する前に、予め決定されるべきものである。

(ク)ところが、発明の詳細な説明には、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」を、少なくとも鋳造を実施する前に、どのようにして決定するのかが具体的に記載されていないし、上記定数「k」を、少なくとも鋳造を実施する前に予め決定できることを示す技術常識も存在しないから、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、鋳造を実施する前には、上記定数「k」を決定できないものである。

イ 「C(O)」について
(ア)発明の詳細な説明の記載を参酌しても、請求項1において特定される「C(O)」が、何の原子数に対する酸素の原子数の百分率を意味するのかが不明であり、また、上記「C(O)」をどのようにして「予想」できるのかも不明であることは、上記(1)(オ)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、請求項1において特定される「C(O)」を求めることができないものである。

ウ 「x」について
(ア)発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、少なくとも鋳造を実施する前に、上記定数「k」を決定できないことは、上記ア(ク)に記載のとおりであり、更に、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、請求項1において特定される「C(O)」を求めることができないことは、上記イ(イ)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、少なくとも鋳造を実施する前に、式「x=k×C(O)」に基づいて、新しい合金中の「合金化金属Q」の原子パーセント「x」を決定できず、「バルク凝固非晶質合金(M1_(a)M2_(b)・・・Mn_(c))_(100-x)Q_(x)」を形成できないので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(ウ)したがって、そのほかの請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定された要件に適合しない。

(3)請求人の主張について
ア 定数「k」についての主張について
(ア)平成30年 9月 4日付け意見書における、定数「k」についての請求人の主張は、以下のとおりである。
「本発明は、例えば、以下のステップ(1)から(10)により実施することができます。
(1)バルク凝固非晶質合金組成物を、米国特許第5,288,344号、米国特許第5,368,659号、および米国特許第5,735,975号などに基づいて選択する(段落[0023]参照)。
(2)ステップ(1)で選択されたバルク凝固非晶質合金組成物中の金属成分の酸素に対する生成熱、およびLa、Y、Ca、AlおよびBeの酸素に対する合金化金属生成熱を「Handbook of Physics and chemistry」を含む種々の情報源から決定する(段落[0019]参照)。
(3)ステップ(2)の生成熱に基づき、バルク凝固非晶質合金組成物中の金属成分の中で酸素に対する最も大きな生成熱を有する金属成分を決定する。
(4)ステップ(2)の生成熱に基づき、ステップ(3)で決定された金属成分の酸素に対する生成熱より大きい酸素に対する合金化金属生成熱を有する付加合金化金属をLa、Y、Ca、AlおよびBeから選択する。
(5)定数kを0.5から10の範囲から選択する(例えば、仮にkとして0.5を選択する)。
(6)ステップ(4)で選択された付加合金化金属を基本合金に、ステップ(5)で選択されたkを使用して「x=k×C(O)」を満足するように添加する。
(7)付加合金化金属が添加された基本合金を、バルク凝固非晶質合金の溶融温度より100℃以上高い温度で過加熱する。
(8)バルク凝固非晶質合金を鋳造する。
(9)鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる「k」が判明するまで、ステップ(5)から(8)を繰り返す。
(10)ステップ(4)で選択された付加合金化金属を、ステップ(9)で得られた「k」に従う「x」に相当する量で含むバルク凝固非晶質合金を鋳造する。
このように、最終的に鋳造を行うステップ(10)より前に、「k」を求める予備実験を行うことは、本願明細書の記載に基づき、当業者であれば容易に実施できることです。すなわち、定数「k」を、鋳造を行う工程(「工程5」)の前に決定することができます。
また、基本合金に添加され得る付加合金化金属Qの量と関連する定数kは、鋳造したままの物品中に存在し得る酸素の合計原子パーセント(%atO)に依存し、また、定数kの上限および下限は定められています。例えば、鋳造したままの物品中に存在し得る酸素の合計原子パーセントが高い場合、定数kの範囲内で大きい値を選択して、「k」を求めるステップ(5)から(8)を行えばよいことになります。このように、ステップ(5)における定数kの選択の仕方は示唆されていますから、当業者であれば、ステップ(5)から(8)の繰り返しを過度に行うことになりません。すなわち、ステップ(5)から(8)の繰り返しは、当業者にとって過度の試行錯誤とはなり得ません。
したがいまして、本願明細書は、当業者が本発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものです。」(2頁12行?3頁3行)

(イ)平成31年 2月 4日付け意見書における、定数「k」についての請求人の主張は、以下のとおりである。
「(1)『k』を求める予備実験」について
拒絶理由において、「『k』を求める予備実験」についての請求人の主張をみても、本願明細書の記載に接した当業者が、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」を、請求項1ないし32に係る発明における鋳造を行う工程の前に求めることができないので、本願明細書の記載は、当業者が本発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない、とされています。
すなわち、予備実験において「k」を求める際に鋳造を行えば、本発明における鋳造を行う工程の前に「k」を求めるということにならないとされているようです。
まず、予備実験は、本製造を行う前に、大まかな実験を行い、製造条件等を決定するために役立てるものです。予備実験は、あくまでも予備的なものであって、本製造(本発明の実施)ではなく、これは当業者であれば知っていることです。そのため、予備実験において予備鋳造を行ったからといって、本発明における鋳造を行う工程の前に「k」を求めることができないことになりません。また、本発明の実施が原理的に不可能であるかのような技術事項等も存在しません(拒絶理由においてそのような技術事項は示されていません)。
本発明は、本願明細書の記載、技術常識、予備実験(平成30年9月4日付け意見書において示したような予備実験)等に基づいて、当業者であれば実施することができます。
したがいまして、本願明細書は、当業者が本発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものです。」(2頁13行?31行)

(ウ)以下、上記主張について検討すると、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、請求項1において特定される「C(O)」が、何の原子数に対する酸素の原子数の百分率を意味するのかが依然として不明であり、また、上記「C(O)」をどのようにして「予想」できるのかも不明であることは、上記(1)(オ)に記載のとおりであるから、「『k』を求める予備実験」のステップ(5)で仮の定数「k」を定めたとしても、当業者は、「x=k×C(O)」の式から仮の定数「k」に基づく「x」を求めることができないので、そもそも「『k』を求める予備実験」を実施することはできない。
なお、本願発明においては、「バルク凝固非晶質合金((M1_(a),M2_(b),M3_(c))_(100-x)Q_(x))」において、バルク凝固非晶質合金を生成し得る「x」が求められれば課題を解決できることは明らかであって、その場合、ステップ(6)で、定数「k」も「C(O)」も使用せず、直接仮の「x」を決定して、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる「x」を求めれば足りるのであるが、そうすると、定数「k」も「C(O)」も求める必要はなくなるから、そのような方法は本願発明に係るものではない。

(エ)また、「『k』を求める予備実験」のステップ(1)は、本願発明における、「酸素に対して個々に生成熱を有するZrおよびTiのスポンジを含む複数の金属成分を含むバルク凝固非晶質の基本合金を準備する工程」に相当し、ステップ(2)?(4)は、本願発明における、「酸素に対する合金化金属生成熱が、前記金属成分の中で酸素に対する最も大きな生成熱より大きい付加合金化金属を準備する工程」に相当し、ステップ(5)?(6)は、本願発明において、「前記基本合金に前記付加合金化金属を添加して前記バルク凝固非晶質合金を形成する添加工程であって、前記バルク凝固非晶質合金は、次の分子式で定義され、
(M1_(a)M2_(b)・・・Mn_(c))_(100-x)Q_(x)
前記バルク凝固非晶質合金は、次の式に支配され、
x=k×C(O)
ここで、M1、M2及びMnは、前記基本合金中の前記金属成分であり、nは、前記基本合金中の金属成分の番号であり、a、b及びcは、前記基本合金中の前記金属成分の原子百分率を定義し、Qは、前記付加合金化金属であり、xは、前記バルク凝固非晶質合金中の前記付加合金化金属の原子百分率を定義し、kは、0.5?10の範囲にある定数であり、C(O)は、前記付加合金化金属を添加する前の前記バルク凝固非晶質合金の基本合金を鋳造したままの鋳造品中の酸素の原子百分率である」ことに相当する。
また、ステップ(7)は、本願発明において、「バルク凝固非晶質合金を過加熱温度まで過加熱して、前記金属成分の酸素が酸素に対する前記合金化金属生成熱によって破壊されることを含み、
前記基本合金がZr-Ti基であり、
前記付加合金化金属が、La、Y、Ca、Al及びBeからなる群から選択され、
前記過加熱することが、前記バルク凝固非晶質合金の溶融温度より100℃以上高くで行われる」ことに相当する。

(オ)そうすると、「『k』を求める予備実験」のステップ(1)?(7)は、本願発明における「酸素に対して個々に生成熱を有するZrおよびTiのスポンジを含む複数の金属成分を含むバルク凝固非晶質の基本合金を準備する工程」から「前記過加熱することが、前記バルク凝固非晶質合金の溶融温度より100℃以上高くで行われる」ことまでの、全ての工程に係る発明特定事項を備えるものである。
そして、「『k』を求める予備実験」は、ステップ(8)において、バルク凝固非晶質合金を鋳造し、ステップ(9)において、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」が判明するまで、ステップ(5)から(8)を繰り返すものである。

(カ)してみれば、「『k』を求める予備実験」は、本願発明において特定される全ての工程及び鋳造工程を、鋳造後の目的とするバルク凝固非晶質合金が得られるまで繰り返して、鋳造後の目的とするバルク凝固非晶質合金に添加した「合金化金属Q」の量から「x」を決定し、式「x=k×C(O)」に基づいて定数「k」を求めることを開示しているので、定数「k」及び「x」を試行錯誤によって決定しているに過ぎない。
つまり、「『k』を求める予備実験」は、鋳造後の目的とするバルク凝固非晶質合金が得られる「x」を過度の試行錯誤によって求めた後で、式「x=k×C(O)」に基づいて定数「k」を求めるものである可能性を否定するものではない。

(キ)これに対して、本願発明の式「x=k×C(O)」における、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」は、少なくとも鋳造を実施する前に決定されるべきものであることは、上記(2)ア(キ)に記載のとおりであり、このことからみれば、本願発明は、本願発明において特定される全ての工程及び鋳造工程を、鋳造後の目的とするバルク凝固非晶質合金が得られるまで繰り返して、試行錯誤により定数「k」を求める、という技術思想に基づくものではないし、鋳造後の目的とするバルク凝固非晶質合金が得られる「x」を求めた後で、式「x=k×C(O)」に基づいて定数「k」を求める、という技術思想に基づくものでもない。
そうすると、「『k』を求める予備実験」は、試行錯誤を伴うものとして、また、鋳造後の目的とするバルク凝固非晶質合金が得られる「x」を求めた後で、式「x=k×C(O)」に基づいて定数「k」を求めるものとして、本願発明の技術思想と整合するものではない。
そして、発明の詳細な説明には、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」を、少なくとも鋳造を実施する前に、どのようにして決定するのかが具体的に記載されていないし、上記定数「k」を、少なくとも鋳造を実施する前に予め決定できることを示す技術常識も存在しないことは、上記(2)ア(ク)に記載のとおりである。

(ク)上記(カ)及び(キ)によれば、当業者は、本願発明を、本願明細書の記載、技術常識、「『k』を求める予備実験」に基づいて実施できるとはいえないから、請求人の上記(ア)、(イ)の主張は採用できない。

(ケ)更に、「『k』を求める予備実験」が本願発明における全ての工程に係る発明特定事項を備えるものであることは、上記(オ)に記載のとおりであるから、「『k』を求める予備実験」自体が本願発明の実施であるとも考えられる。
一方、「『k』を求める予備実験」は、ステップ(9)において、鋳造してバルク凝固非晶質合金が得られる定数「k」が判明するまで、試行錯誤的にステップ(5)から(8)を繰り返すものであるから、定数「k」が判明する前には、ステップ(9)において、鋳造したときにバルク凝固非晶質合金が得られていないといえる。

(コ)そうすると、本願発明の実施例と考えられる「『k』を求める予備実験」が、鋳造したときにバルク凝固非晶質合金が得られない場合を含むということになり、それは、本願発明が、鋳造したときにバルク凝固非晶質合金が得られない場合を含むものであることにほかならない。

(サ)してみれば、仮に、請求人の主張のように、「『k』を求める予備実験」により上記定数「k」を試行錯誤的に求めることができるとしても、「『k』を求める予備実験」が実施例と考えられる本願発明は、鋳造したときにバルク凝固非晶質合金が得られずに、本願発明の課題を解決しないものも包含するものとなるから、請求人の上記(ア)、(イ)の主張は、本願発明がサポート要件を満足しないことを前提としたものとなるので、この点においても採用できない。

イ 「C(O)」についての主張について
(ア)平成31年 2月 4日付け意見書における、「C(O)」についての請求人の主張は、以下のとおりである。
「4.特許法第36条第6項第2号(明確性要件)
拒絶理由において、請求項1において特定される「C(O)」が、何の原子数に対する酸素の原子数の百分率を意味するのか不明である、とされています。
前記「2.」に示しますように、請求項1、19、および21を補正しましたので、「C(O)」が基本合金を鋳造したままの鋳造品中の酸素の原子百分率であることが明確になりました。」(2頁6行?11行)
「(2)C(O)」について
拒絶理由において、本願明細書に記載された「C(O)」と、請求項1に記載された「C(O)」とが、酸素について異なる原子百分率を意味しており、また、請求項1に記載された「C(O)」が、何の原子数に対する酸素の原子数の百分率を意味するのか不明であるので、本願明細書に接した当業者は、請求項1において特定される「C(O)」を求めることができない、とされています。
前記「2.」に示しますように、請求項1、19、および21を補正しましたので、本願明細書と請求項1、19、および21に記載された酸素についての原子百分率が同じことを意味するようになり、かつ「C(O)」が付加合金化金属を添加する前のバルク凝固非晶質合金の基本合金を鋳造したままの鋳造品中の酸素の原子百分率であることが明確になりましたので、本願明細書に接した当業者は、請求項1、19、および21に記載された「C(O)」を求めることができるようになりました。」(2頁32行?43行)

(イ)ところが、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、請求項1において特定される「C(O)」が、何の原子数に対する酸素の原子数の百分率を意味するのかが依然として不明であり、また、上記「C(O)」をどのようにして「予想」できるのかも不明であるから、本願発明が明確でないことは、上記(1)(オ)に記載のとおりであるので、請求人の上記(ア)の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-28 
結審通知日 2019-03-01 
審決日 2019-03-12 
出願番号 特願2014-156984(P2014-156984)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C22C)
P 1 8・ 537- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 結城 佐織
金 公彦
発明の名称 バルク凝固非晶質合金およびその原料ならびにそれらを形成する方法、非晶質製品およびそれを鋳造する方法  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  
代理人 高柳 司郎  
代理人 下山 治  
代理人 西川 恵雄  
代理人 大塚 康弘  

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