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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1353732
審判番号 不服2017-17472  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-27 
確定日 2019-07-23 
事件の表示 特願2014-534694「HEVCにおけるCABACの高スループット符号化」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日国際公開、WO2013/108639、平成27年 2月 5日国内公表、特表2015-504256〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
1 手続の経緯
本件出願は、2013年(平成25年)1月18日(パリ条約による優先権主張2012年1月19日、米国、2012年1月27日、米国、2012年2月2日、米国、2012年4月11日、米国、2012年4月26日、米国、)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成26年 7月17日:特許協力条約第34条補正の翻訳文
平成28年11月 8日:拒絶理由の通知
平成29年 2月13日:手続補正、意見書
平成29年 3月24日:拒絶理由の通知
平成29年 5月31日:意見書
平成29年 7月13日:拒絶査定
平成29年 7月25日:拒絶査定の謄本の送達
平成29年11月27日:拒絶査定不服審判の請求

2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成29年2月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

A: 変換係数と関連するビットストリームを復号するための方法であって、前記方法は、
B: 1)ビットストリームを取得するステップ、および
C: 2)サブブロックの特性に基づいて、第1または第2の復号を用いることによって前記ビットストリームからブロックの前記サブブロックのレベル情報を復号すべきかどうかを判定するステップ、を備え、
D: 前記サブブロックの前記特性が所定の条件を満足する場合には、前記第1の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し、
E: 前記サブブロックの前記特性が前記所定の条件を満足しない場合には、前記第1の復号とは異なる前記第2の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し、
F: 前記第1の復号は、バイパス符号化を備え、前記第2の復号は、レギュラー符号化および前記バイパス符号化を備え、
G: 前記所定の条件が満たされる場合には、その振幅が1以上である前記サブブロックの任意の非ゼロ係数の少なくとも正負およびレベル情報が、前記第1の復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号され、
H: 前記所定の条件が満たされない場合には、前記非ゼロ係数の振幅が1より大きいか否かを示す、第1のフラグ、および、1より大きい前記振幅をもつ前記非ゼロ係数の前記振幅が2より大きいか否かを示す、第2のフラグが、前記第2の復号のレギュラー符号化によってそれぞれ復号され、
I: その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報が、前記第2の復号の前記バイパス符号化によってそれぞれ復号されることをさらに備え、
J: 前記所定の条件は、前記サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数が、プリセットされた閾値以上であるかどうかを示し、
A: 前記方法は、
K: 次のサブブロックの特性に基づいて、前記ビットストリームのブロックの前記次のサブブロックに関する決定を行い、前記次のサブブロックに関する前記決定の結果に基づいて、前記第1の復号または前記第2の復号を用いて前記次のサブブロックのレベル符号化を行うステップ、および
L: 前記ビットストリームのブロックの前記サブブロックのすべてが復号されるまで前記行うステップを繰り返すステップ、
A: をさらに備える、方法。

(A:?L:は、当審で付与した。以下各構成要件を「構成要件A」?「構成要件L」という。)

ここで、構成要件Kについて検討する。
請求項1に係る発明は、構成要件A、Lのようにビットストリームのブロックのすべてのサブブロックを復号するための方法であり、構成要件C?Jのステップでサブブロックを復号する。構成要件Kは、次のサブブロックに関するステップであるから、次のサブブロックの復号についてのステップであると考えられる。
よって、構成要件Kにおける「次のサブブロックのレベル符号化を行う」は、構成要件Cにおける「サブブロックのレベル情報を復号すべきかどうか」、構成要件D及びEにおける「サブブロックのレベル情報を復号し」から明らかなように、「次のサブブロックのレベル情報の復号を行う」の明らかな誤記である(下線は、強調のため当審が付与した。以下同様)。

以上によると、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりであると認められる。

(本願発明)
A: 変換係数と関連するビットストリームを復号するための方法であって、前記方法は、
B: 1)ビットストリームを取得するステップ、および
C: 2)サブブロックの特性に基づいて、第1または第2の復号を用いることによって前記ビットストリームからブロックの前記サブブロックのレベル情報を復号すべきかどうかを判定するステップ、を備え、
D: 前記サブブロックの前記特性が所定の条件を満足する場合には、前記第1の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し、
E: 前記サブブロックの前記特性が前記所定の条件を満足しない場合には、前記第1の復号とは異なる前記第2の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し、
F: 前記第1の復号は、バイパス符号化を備え、前記第2の復号は、レギュラー符号化および前記バイパス符号化を備え、
G: 前記所定の条件が満たされる場合には、その振幅が1以上である前記サブブロックの任意の非ゼロ係数の少なくとも正負およびレベル情報が、前記第1の復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号され、
H: 前記所定の条件が満たされない場合には、前記非ゼロ係数の振幅が1より大きいか否かを示す、第1のフラグ、および、1より大きい前記振幅をもつ前記非ゼロ係数の前記振幅が2より大きいか否かを示す、第2のフラグが、前記第2の復号のレギュラー符号化によってそれぞれ復号され、
I: その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報が、前記第2の復号の前記バイパス符号化によってそれぞれ復号されることをさらに備え、
J: 前記所定の条件は、前記サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数が、プリセットされた閾値以上であるかどうかを示し、
A: 前記方法は、
K: 次のサブブロックの特性に基づいて、前記ビットストリームのブロックの前記次のサブブロックに関する決定を行い、前記次のサブブロックに関する前記決定の結果に基づいて、前記第1の復号または前記第2の復号を用いて前記次のサブブロックのレベル情報の復号を行うステップ、および
L: 前記ビットストリームのブロックの前記サブブロックのすべてが復号されるまで前記行うステップを繰り返すステップ、
A: をさらに備える、方法。

第2 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 本願発明の優先日について
本願は、以下の5つの優先権を主張している。
(a)米国特許出願第13/354272号(2012年1月19日出願)
(b)米国特許出願第13/360615号(2012年1月27日出願)
(c)米国特許出願第13/365215号(2012年2月2日出願)
(d)米国特許出願第13/444710号(2012年4月11日出願)
(e)米国特許出願第13/457272号(2012年4月26日出願)

以下、上記(a)?(e)を、「優先権主張1」?「優先権主張5」という。

優先権主張1には、高スループット2値化モードの条件について以下の記載がされている。

「High throughput binarization mode condition
[0041]In an example, if a characteristic corresponding to a block of image data is greater than a preset threshold, then the high throughput binarization mode condition is met, e.g. the electronic device 421 may set a high throughput binarization mode indicator, e.g. an HTB mode flag, to a value of 1 (which of course may include changing a default value of the HTB mode flag or leaving the HTB mode flag at a default value depending on design preference).
[0042]In an example, the electronic device 421 determines whether a bit rate for a coding is greater than a preset threshold. If the bit rate is greater than the preset threshold, then the high throughput binarization mode condition is met. In an example, the preset bit rate threshold corresponds to QP 16 ; however, a preset threshold corresponding to different QP values may be used.
[0043]In an example, the determination (by the electronic device 421) of whether the high throughput binarization mode condition is met is based on whether the transform unit level of a corresponding block of image data is greater than a preset threshold.
[0044]In an example, the determination (by the electronic device 421) of whether the high throughput binarization mode condition is met is based on whether the slice level of a corresponding block of image data is greater than a preset threshold.」

上記のとおり、優先権主張1には、本願発明の構成要件D及びEに記載されたような、「第1の復号」又は「第2の復号」を選択するための「所定の条件」に対応する「High Throughput Binarization Mode Condition」として、
(ア)「a bit rate for a coding」が、プリセットされた閾値以上であるかどうか([0042])
(イ)「the transform unit level of a corresponding block of image data」が、プリセットされた閾値以上であるかどうか([0043])
(ウ)「the slice level of a corresponding block of image data」が、プリセットされた閾値以上であるかどうか([0044])
は記載されているが、本願発明の構成要件Jに「サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数が、プリセットされた閾値以上であるかどうか」と記載された「所定の条件」については記載も示唆もされていないから、優先権主張1に基づく優先権主張は認められない。

そうすると、請求項1?3に係る発明に対して特許法第29条を適用する際の判断の基準となる日は、構成要件Jが記載されている優先権主張2の優先日である2012年(平成24年)1月27日となる。

2 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
優先権主張2の優先日より前に公開され、原査定における拒絶の理由に引用された
「Seung-Hwan Kim et al., "Non-CE1: High Throughput Binarization (HTB) method with modified level coding", Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 8th Meeting: San Jose, CA, USA, 1-10 February, 2012, [JCTVC-H0510],(version1 - date 2012-01-21), 」(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
(下線は当審が付与した。各段落の末尾に訳を付した。)

ア 「Title: Non-CE1: High Throughput Binarization (HTB) method with modified level coding」
[訳:タイトル:Non-CE1:改良されたレベル符号化を有する高スループット二値化(HTB)法]

イ 「Abstract
In this contribution, a new efficient high throughput binarization (HTB) method for CABAC is presented. The intention of this approach is to reduce the worst-case complexity of CABAC for low complexity use cases, keeping easy compatibility with the existing CABAC. In addition, the proposed method provides the flexibility between coding performance and throughput efficiency by selectively applying HTB mode for each 4x4 coefficient block. It is reported that the proposed method reduces the number of context adaptively coded bins by 30 % under the common test conditions, and by 60 % in the low QP range (QP1 to 13) where the complexity of CABAC is reportedly more problematic. It is further reported that the proposed approach keep the coding performance loss not significant in high efficiency configurations by 2.2 % (AI_HE), 1.8 % (RA_HE), and 2.1%(LB_HE) in the common test condition.」
[訳:要約
この寄稿において、CABACのための新しい効率的な高スループット二値化(HTB)法が提示される。このアプローチの目的は、既存のCABACとの容易な互換性を維持しつつ、低い複雑さの使用の場合、CABACの最悪ケースの複雑さを低減することである。さらに、提案された方法は、各4x4係数ブロックにHTBモードを選択的に適用することによって、符号化性能とスループット効率との間の柔軟性を提供する。提案された方法は、共通試験条件下で、コンテキストの適応的に符号化されたビンの数を30%減少させ、伝えられるところによればCABACの複雑さがより問題となる低QP範囲(QP1?13)で60%減少すること、が報告されている。提案されたアプローチは、共通試験条件において2.2%(AI_HE)、1.8%(RA_HE)及び2.1%(LB_HE)による高効率設定では、符号化性能損失を重要ではないように維持することがさらに報告されている。]

ウ 「1 Introduction
In HM5, the only entropy coder CABAC provides even better coding efficiency than CAVLC because of its arithmetic coding engine and sophisticated context modeling. However, those efficient coding techniques require large amount of computational complexity and degrade the throughput efficiency especially at higher bitrates condition. It was also noticed that on higher bitrates the portion of transform coefficient data in the generated bitstream has a dominant role. Thus, in order to improve the worst case throughput we need to provide the codec with a higher throughput alternative for low-complexity use cases.」
[訳:1 はじめに
HM5において、エントロピー符号化器CABACは、その算術符号化エンジンおよび精巧なコンテキストモデル化のために、CAVLCよりもさらに良好な符号化効率を提供する。しかしながら、これらの効率的な符号化技術は、多くの計算の複雑さを必要とし、特により高いビットレート条件でスループット効率を低下させる。また、より高いビットレートでは、生成されたビットストリーム中の変換係数データの部分は、支配的な役割を有することが注目された。したがって、最悪のケースのスループットを改善するために、我々は、低い複雑さ使用の場合の代替に、より高いスループットのコーデックを提供することを必要とする。]

エ 「The current CABAC consists of three main coding processes (last position, significance map, level coding) for residual coding. Here, last position coding part dose not require much computational complexity and significant throughput problem even in high bitrate coding. For the significance map, it contributes significantly to the coding performance. Hence, considering the coding performance and throughput efficiency, the level coding part shows room for an improvement. Specifically, current level coding consists of four sub-coding processes Greater_than_1, Greater_than_2, Sign, and Absolute-3 and also requires many context model update for the first two processes (Greater_than_1 and Greater_than_2) in high bitrate coding because many large coefficients are likely to be observed.」
[訳:現在のCABACは、残差符号化のための3つの主な符号化プロセス(最後の位置、有意性マップ、レベル符号化)からなる。ここで、最後の位置符号化部は、高ビットレート符号化においても、多くの計算の複雑さと重大なスループットの問題を要求しない。有意性マップに対して、それは符号化性能に重大に貢献する。したがって、符号化性能およびスループット効率を考慮すると、レベル符号化部は、改善の余地を示す。具体的には、現在のレベル符号化は、多くの大きな係数が観察される可能性が高いため、4つのサブ符号化プロセスGreater_than_1、Greater_than_2、Sign、およびAbsolute-3からなり、高ビットレート符号化における最初の2つのプロセス(Greater_than_1及びGreater_than_2)に対する多くのコンテクストモデル更新を必要とする。」

オ 「Therefore, we introduce a new HTB coding mode with simple structure and only bypass coding mode. In order to improve the cording performance of the level coding, we first combined sign and level information, and generate new level information which is adaptively binarized with 5-VLC tables used in CAVLC. The details will be described in the following section.」
[訳:それ故に、簡単な構造と、バイパス符号化モードのみを有する新しいHTB符号化モードを導入する。レベル符号化の符号化性能を改善するために、まず符号とレベル情報とを組み合わせ、CAVLCに使用される5つのVLCテーブルで適応的に二値化される新たなレベル情報を生成する。詳細については後述する。」

カ 「



キ 「2 High Throughput Binarization Coding Method
The proposed HTB coding structure is the same as those of CABAC in last position coding and significance map coding. For the level coding, two binarization modes such as HTB mode (HTB=1) and conventional coding mode (HTB==0) are selectively employed based on the number of significant coefficients. Specifically, HTB mode is activated based on the following condition.」
[訳:2 高スループット二値化符号化法
提案されたHTBコーディング構造は、最後の位置コーディングおよび有意性マップコーディングにおけるCABACのものと同じである。レベル符号化のためには、HTBモード(HTB=1)と従来の符号化モード(HTB==0)の2つの二値化モードが有意な係数の個数に基づいて選択的に使用される。具体的には、HTBモードは以下の条件に基づいて起動される。]

ク 「
If (Number_of_significant_coeffs < TH)
HTB = 0;
Else HTB= l;

where 'TH' represent a given threshold value. In HTB mode, the detailed binarization process consists of two processes. Firstly, as shown in Fig.2, the 'input' value is generated based on the coefficient level and the corresponding sign information by equation (1)

Input = (abs (cocff[i]-1)<<1 + sign (1)」
[訳:(式略)
ここで、THは所定のしきい値を示す。HTBモードでは、詳細な二値化プロセスは2つのプロセスからなる。まず、図2に示すように、入力値は、係数レベルと対応する符号情報とに基づいて、(1)式により、生成される。
(式略)]

ケ 「Secondly, the 'input' value is binarized through the predefined 5 vlc tables used for level coding in CAVLC. Here, table number 'vlc' is first set to zero and it is monotonically increase based on the following condition;」
[訳:次に、入力値はCAVLCのレベル符号化に使用される予め定義された5つのVLCテーブルを通して二値化される。ここで、テーブル番号vlcは、まず0に設定され、以下の条件に基づいて単調増加する。]

コ 「
. If (input > Table [vlc])vlc++ where Table [vlc] = {3, 5, 13, 27}

Table update is terminated when 'vlc' is equal to four.」
[訳:vlcが4に等しくなると、テーブル更新は終了する。]

サ 「



(2)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1には、「改良されたレベル符号化を有する高スループット二値化(HTB)法」(タイトル)が記載されている。。

イ 上記(1)イ、カ、キ、クによると、4x4係数ブロック毎に、有意な係数の個数に基づいてHTBモードを用いるか、従来の符号化モードを用いるかを決定している。

ウ 上記(1)キ、クによると、有意な係数の個数がしきい値より小さい場合、従来の符号化モードとなり、それ以外では、HTBモードとなる。

エ 上記(1)オによると、HTB符号化モードはバイパス符号化モードのみである。

オ 上記(1)エによると、現在のCABAC、すなわち従来の符号化モードは、「Greater_than_1」、「Greater_than_2」、「Sign」、「Absolute-3」を符号化する。

カ 上記(1)オによると、HTBモードでは、符号とレベル情報は、バイパス符号化され、上記クによると、入力値は、係数レベルと対応する符号情報により生成される。
上記(1)クの式(1)は、上記(1)サによると、

Input = (abs (cocff[i])-1) <<1 + sign

の誤記(下線部分)と認められる。

キ 上記イによると、HTBを用いるかどうかは、4x4の係数ブロック毎に判断されている。

ク ビデオ符号化技術においては、算術符号化に対応する算術復号が行われることは自明であるから、上記ア?カに対応する復号するための方法も記載されていると認められる。
引用文献1の技術分野において、復号のためにビットストリームを取得することは当然のことである。
また、復号において、4x4係数ブロックの全てが復号されるまで繰り返すことは当然のことである。
さらに、復号においては、「Greater_than_1」、「Greater_than_2」、「Sign」、「Absolute-3」は、従来の符号化モードで復号されるものである。

ケ 以上まとめると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
a: ビットストリームを取得し、
b: 4x4係数ブロック毎に有意な係数の個数に基づいてHTBモードを用いるか、従来の符号化モードを用いるかを決定し、
c: 前記有意な係数の個数がしきい値より小さい場合、従来の符号化モードで復号し、それ以外の場合では、HTBモードで復号し、
d: HTBモードは、バイパス符号化モードのみであり、
e: 上記有意な係数の個数がしきい値より小さい場合には、「Greater_than_1」 及び「Greater_than_2」、「Sign」、「Absolute_3」が、従来の符号化モードで復号され、
f: 上記それ以外の場合は、符号とレベル情報はバイパス符号化されたものであり、ここで、符号とレベル情報のバイパス符号化は、
Input = (abs (cocff[i])-1)<<1 + sign
により生成された入力値(Input)を用いて二値化されたものであり、
g: HTBを用いるかどうかは、4x4の係数ブロック毎に判断され、
h: 4x4の係数ブロックの全てが復号されるまで繰り返す、
i: 復号するための方法。

なお、a:?i:は、構成を識別するために付与した。以下各構成を「構成a」?「構成i」という。

3 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
原査定における拒絶の理由に引用された
「Jani Lainema et al., "Single entropy coder for HEVC with a high throughput binarization mode", Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 7th Meeting: Geneva, CH, 21-30 November, 2011, [JCTVC-G569], (version 4 - date 2011-11-28), whole document, pp.41-45,71,72,149-151,179」(以下「引用文献2」という。)には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

ア 「

」(p.179)

イ 「

」(p.71)

第3 対比
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)構成要件Bと構成aとを対比する。
構成aは、「ビットストリームを取得するステップ」といえ、構成要件Bと一致する。

(2)構成要件Cと構成b、cとを対比する。
構成bの「4x4係数ブロック」は、構成要件Cの「サブブロック」に相当し、構成bの「4x4係数ブロック毎に有意な係数の個数」は、構成要件Cの「サブブロックの特性」に相当する。
構成bの「HTBモード」、「従来の符号化モード」は、構成cにおいて、「HTBモードで復号」、「従来の符号化モードで復号」されること及び、構成d?fを考慮すると、構成要件Cの「第2の復号」、「第1の復号」に相当するといえる。
したがって、構成要件Cと構成bとは、「サブブロックの特性に基づいて、第1または第2の復号を用いることによって前記ビットストリームからブロックの前記サブブロックのレベル情報を復号すべきかどうかを判定するステップ」として一致する。

(3)構成要件D、E、Jと構成cとを対比する。
構成要件Dの「前記サブブロックの前記特性が所定の条件を満足する場合」は、構成要件Jを考慮すると、「前記サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数が、プリセットされた閾値以上である場合」であり、構成要件Eの「前記サブブロックの前記特性が前記所定の条件を満足しない場合」は、構成要件Jを考慮すると、「前記サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数が、プリセットされた閾値以上でない場合」である。
構成cの「前記有意な係数の個数」は、構成要件Jの「前記サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数」に相当し、構成cの「しきい値」は、構成要件Jの「プリセットされた閾値」に相当する。
構成cの「前記有意な係数の個数がしきい値より小さい場合」は、構成要件Eの「前記サブブロックの前記特性が前記所定の条件を満足しない場合」に相当し、構成cの「それ以外の場合」は、構成要件Dの「前記サブブロックの前記特性が所定の条件を満足する場合」に相当する。
構成cの「HTBモードで復号し」、「従来の符号化モードで復号し」は、構成d?fを考慮すると、それぞれ、構成要件Dの「前記第1の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し」、構成要件Eの「前記第1の復号とは異なる前記第2の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し」に相当する。
したがって、構成要件D、E、Jと構成cとは、
「前記サブブロックの前記特性が前記所定の条件を満足しない場合には、前記第1の復号とは異なる前記第2の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し、
前記第1の復号は、バイパス符号化を備え、前記第2の復号は、レギュラー符号化および前記バイパス符号化を備え、
前記所定の条件が満たされる場合には、その振幅が1以上である前記サブブロックの任意の非ゼロ係数の少なくとも正負およびレベル情報が、前記第1の復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号され、
前記所定の条件は、前記サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数が、プリセットされた閾値以上であるかどうかを示し、」
として一致する。

(4)構成要件Fと構成c、dとを対比する。
構成dは、「HTBモードは、バイパス符号化モードのみであ」り、「HTBモード」は、上記(2)のとおり、「第1の復号」といえるから、構成要件Fにおける「前記第1の復号は、バイパス符号化を備え」といえる。
また、構成cにおいて、「従来の符号化モードで復号」し、上記(2)のとおり、「従来の符号化モード」は、「第2の復号」といえる。そして、「従来の符号化モード」は、普通の符号化モードであるから「レギュラー符号化」といえる。
したがって、構成cは、「前記第2の復号は、レギュラー符号化を備え」として、構成要件Fと共通する。
しかしながら、「第2の復号」が、本願発明においては「前記バイパス符号化」を備えているのに対し、引用発明においては、「前記バイパス符号化」を備えていると特定されていない点で相違する。

(5)構成要件Gと構成f、c、dとを対比する。
上記(3)のとおり、構成cの「それ以外の場合」は、構成要件Dの「前記サブブロックの前記特性が所定の条件を満足する場合」に相当するから、構成fの「上記それ以外の場合」は、構成要件Gの「前記所定の条件が満たされる場合」に相当する。
構成fにおいては、「符号とレベル情報はバイパス符号化されたものであり、ここで、符号とレベル情報のバイパス符号化は、
Input = (abs (cocff[i])-1)<<1 + sign
により生成された入力値(Input)を用いて二値化されたものであ」り、構成cにおいて「HTBモードで復号」されるから、「その振幅が1以上である前記サブブロックの任意の非ゼロ係数の少なくとも正負およびレベル情報が、前記第1の復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号され」るといえる。
したがって、構成要件Gと構成f、c、dとは、「前記所定の条件が満たされる場合には、その振幅が1以上である前記サブブロックの任意の非ゼロ係数の少なくとも正負およびレベル情報が、前記第1の復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号され」るとして一致する。

請求人は、審判請求書において、図1に示されるように、HTBモードにおけるLevel CodingはSign codingを含んでいない旨主張するが、上記のとおり、引用発明におけるHTBモードは、符号とレベル情報をバイパス符号化により復号するものであるので、請求人の主張は採用できない。

(6)構成要件Hと構成eとを対比する。
上記(3)のとおり、構成cの「有意な係数の個数がしきい値より小さい場合」は、構成要件Eの「前記サブブロックの前記特性が前記所定の条件を満足しない場合」に相当するから、構成eの「上記有意な係数の個数がしきい値より小さい場合」は、構成要件Hの「前記所定の条件が満たされない場合」に相当する。
構成eにおける、「「Greater_than_1」 及び「Greater_than_2」・・・が、従来の符号化モードで復号される」は、「前記非ゼロ係数の振幅が1より大きいか否かを示す、第1のフラグ、および、1より大きい前記振幅をもつ前記非ゼロ係数の前記振幅が2より大きいか否かを示す、第2のフラグが、前記第2の復号のレギュラー符号化によってそれぞれ復号され」るとして、構成要件Hと一致する。
したがって、構成要件Hと構成eとは、「前記所定の条件が満たされない場合には、前記非ゼロ係数の振幅が1より大きいか否かを示す、第1のフラグ、および、1より大きい前記振幅をもつ前記非ゼロ係数の前記振幅が2より大きいか否かを示す、第2のフラグが、前記第2の復号のレギュラー符号化によってそれぞれ復号され、」として一致する。

(7)構成要件Iと構成eとを対比する。
構成eは、「その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報が、前記第2の復号によってそれぞれ復号されることをさらに備え、」として、構成要件Iと共通するものの、「前記第2の復号によってそれぞれ復号される」が、本願発明においては、「前記第2の復号の前記バイパス符号化によってそれぞれ復号される」のに対し、引用発明においては、「前記第2の復号の前記バイパス符号化によってそれぞれ復号される」ものではない点で相違する(下線は強調のため、当審が付与した。)。

(8)構成要件Kと構成gとを対比する。
構成要件Kは、次のサブブロックが構成要件A?Jと同様に処理することを規定したものと認められる。
構成gは、「HTBを用いるかどうかは、4x4の係数ブロック毎に判断され」るものであって、引用発明においても、サブブロックに相当する4x4の係数ブロック毎にHTBを用いるかどうかを判断し、構成a?fの処理を行うものであるから、引用発明も本願発明と同様に、「次のサブブロックの特性に基づいて、前記ビットストリームのブロックの前記次のサブブロックに関する決定を行い、前記次のサブブロックに関する前記決定の結果に基づいて、前記第1の復号または前記第2の復号を用いて前記次のサブブロックのレベル情報の復号を行うステップ」を備えているものといえる。

(9)構成要件Lと構成hとを対比する。
構成hは、「4x4の係数ブロックの全てが復号されるまで繰り返す」ものであって、「前記ビットストリームのブロックの前記サブブロックのすべてが復号されるまで前記行うステップを繰り返すステップ」を備えるとして、構成要件Lと一致する。

(10)構成要件Aと構成iとを対比する。
構成iの「復号するための方法」は、構成a?hをみるに、「変換係数と関連するビットストリームを復号するための方法」といえ、構成要件Aと一致する。

2 一致点、相違点
以上より、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
変換係数と関連するビットストリームを復号するための方法であって、前記方法は、
1)ビットストリームを取得するステップ、および
2)サブブロックの特性に基づいて、第1または第2の復号を用いることによって前記ビットストリームからブロックの前記サブブロックのレベル情報を復号すべきかどうかを判定するステップ、を備え、
前記サブブロックの前記特性が所定の条件を満足する場合には、前記第1の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し、
前記サブブロックの前記特性が前記所定の条件を満足しない場合には、前記第1の復号とは異なる前記第2の復号を用いることによって前記ビットストリームから前記サブブロックのレベル情報を復号し、
前記第1の復号は、バイパス符号化を備え、前記第2の復号は、レギュラー符号化を備え、
前記所定の条件が満たされる場合には、その振幅が1以上である前記サブブロックの任意の非ゼロ係数の少なくとも正負およびレベル情報が、前記第1の復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号され、
前記所定の条件が満たされない場合には、前記非ゼロ係数の振幅が1より大きいか否かを示す、第1のフラグ、および、1より大きい前記振幅をもつ前記非ゼロ係数の前記振幅が2より大きいか否かを示す、第2のフラグが、前記第2の復号のレギュラー符号化によってそれぞれ復号され、
その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報が、前記第2の復号によってそれぞれ復号されることをさらに備え、
前記所定の条件は、前記サブブロックのゼロに等しくない振幅をもつ係数の数が、プリセットされた閾値以上であるかどうかを示し、
前記方法は、
次のサブブロックの特性に基づいて、前記ビットストリームのブロックの前記次のサブブロックに関する決定を行い、前記次のサブブロックに関する前記決定の結果に基づいて、前記第1の復号または前記第2の復号を用いて前記次のサブブロックのレベル情報の復号を行うステップ、および
前記ビットストリームのブロックの前記サブブロックのすべてが復号されるまで前記行うステップを繰り返すステップ、
をさらに備える、方法。

(相違点1)
「第2の復号」が、本願発明においては「前記バイパス符号化」を備えているのに対し、引用発明においては、「前記バイパス符号化」を備えていると特定されていない点

(相違点2)
「その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報が、前記第2の復号によってそれぞれ復号されることをさらに備え、」における「前記第2の復号によってそれぞれ復号される」が、本願発明においては、「前記第2の復号の前記バイパス符号化によってそれぞれ復号される」のに対し、引用発明においては、「前記第2の復号の前記バイパス符号化によってそれぞれ復号される」ものではない点

第4 判断
引用文献2は、引用文献1より前に公開されたCABACについて説明する文献であり、引用文献2のTable 9-46(上記第2の2(1)ア)のcoeff_sign_flag、coeff_abs_level_minus3の欄をみると、coeff_sign_flag、coeff_abs_level_minus3がバイパスによって復号することが開示されており、coeff_sign_flag、coeff_abs_level_minus3は、それぞれ、Sign、Absolute-3に相当する。引用文献1に明記はないが、CABACにおいて、「復号がバイパス符号化を備える」こと、「その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報が、復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号される」ことは、上記引用文献2に記載されているように周知技術と認められる。
よって、引用発明に上記周知技術を適用して、第2の復号がバイパス符号化を備えるようにし、その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報が、前記第2の復号のバイパス符号化によってそれぞれ復号されるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

請求人は、審判請求書において、引用文献2に開示される「coeff_abs_level_minus3」は、変換係数レベルに3を減じた絶対値(the absolute of a transform coefficient level mainus 3)として定義されており、「その振幅が3以上である任意の非ゼロ係数の前記正負およびレベル情報」とは技術的に異なるものである旨主張している。
しかしながら、変換係数レベルは、正、負の数のどちらも取り得るものであり、変換係数レベルから3を減じた数値の絶対値が、技術的に有意なものとは認めらず、CABACにおいては、係数の正負はSignにより表現されていることを勘案すると、引用文献2に開示される「coeff_abs_level_minus3」が、変換係数レベルの絶対値から3を減じたものと解される。
したがって、請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-19 
結審通知日 2019-02-25 
審決日 2019-03-08 
出願番号 特願2014-534694(P2014-534694)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 樫本 剛
小池 正彦
発明の名称 HEVCにおけるCABACの高スループット符号化  
代理人 実広 信哉  
代理人 木内 敬二  

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