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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1353777
審判番号 不服2018-5191  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-16 
確定日 2019-07-26 
事件の表示 特願2014-536657「冷却装置、それに使用される受熱部、沸騰部、その製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日国際公開、WO2014/045714〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25)年7月19日(優先権主張 平成24年9月19日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 7月21日付け:拒絶理由通知書
平成29年 8月14日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年11月14日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成29年12月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 1月18日付け:平成29年12月25日の手続補正書についての補正の却下の決定、拒絶査定
平成30年 4月16日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成29年8月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
発熱体からの熱で液相冷媒を沸騰させて、前記液相冷媒を気相冷媒に相変化させる沸騰部において、
前記発熱体と熱的に接続する底部と、該底部から立設する複数のフィンとを持つ櫛型形状構造体と、
前記櫛型形状構造体のフィン間の底部に設けられ、多数の微粒子で構成されており、微粒子間に小さな孔を多数有する多孔質層と、
を有し、
前記多数の孔は、前記液相冷媒を強制的に薄い液膜化して、前記微粒子間に浸透された前記液相冷媒に熱を伝えて沸騰を促進することが可能なように狭くなっており、
前記複数のフィンの各々の長さは前記多孔質層の厚さより長くなっており、
前記フィンの厚さは前記多孔質層の前記孔の各々の直径以上であり、
前記多孔質層の厚みは前記多孔質層の前記孔の各々の直径以上であり、
前記多孔質層の前記孔の各々の径は、前記液相冷媒の分子の径以上で、隣接するフィンの間隔以下である、
ことを特徴とする沸騰部。」

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1-3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2001-77257号公報
引用文献2.国際公開第2010/058520号
引用文献3.特開2000-49266号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷媒の沸騰及び凝縮作用によって発熱体を冷却する沸騰冷却装置に関するもので、電子機器の冷却、特にCPUなどを含む発熱量の多い高密度実装基板の冷却に用いて好適なものである。」

「【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1および請求項2記載の発明によれば、沸騰冷却装置は発熱体が設けられる受熱壁の内側表面に最も近い表面で、多孔質層により冷媒との接触面積が拡大される。また多孔質層は微細キャビティを有することにより、蒸発し易くなる効果がある。これにより発熱体が設けられる受熱壁の内側表面の広い範囲において冷媒を効率良く蒸発させることができるため、蒸発量が増えて発熱体を設けた部分の過熱度を低減できる。結果的に沸騰冷却装置の冷却性能を向上できる。」

「【0014】本実施形態の沸騰冷却装置1は、図2に示すように、例えばプリント基板5に実装された高発熱のCPU等を含む高密度実装回路からなる発熱体6を冷却するもので、内部に液状の冷媒(例えば、水、アルコール、フロロカーボン、フロン等)を封入した沸騰冷却容器2を含む。この沸騰冷却容器2は受熱壁3を介して発熱体6の熱を受け、沸騰した冷媒蒸気を放熱器9に導入し、外部流体(例えば外気)との熱交換によって液化する。この沸騰冷却容器2と放熱器9は、ろう付けにより一体成型される。また放熱器9へ冷却風を導くため、放熱器9を取り囲むようにダクト10が配置されており、ダクト10の下方から上方へ送風するように設置されることが最も多い。
【0015】沸騰冷却容器2は、熱伝導性に優れる金属材料であるアルミニウムにより板状に設けられ、図1に示すように、略直立した状態で且つ液状の冷媒7に浸かって使用される。なお、発熱体6は、図示しない螺子等で前記受熱壁3の外面で平板状の発熱体取付面3aに接触するよう取り付け固定される。沸騰冷却容器2は、発熱体取付面3aのある受熱壁3と、それと対向配置して圧力容器を構成する放熱壁8とを有し、受熱壁3と放熱壁8との間には、両壁間を所定間隔に保持し、冷媒7が流れる空間を形成するための複数の連結部材3bを設けてある。
【0016】また図3に示すように、沸騰による受熱壁3の内側表面より冷媒7への熱伝達に最も寄与率の高いのは、前記発熱体6及びその近傍に対向する受熱壁3の内側表面の全表面または一部表面が望ましい。具体的には沸騰冷却容器2の発熱体取付面3aに最も近い受熱壁3の内側表面より厚みが2mm以下の範囲であることが解ったため、そこに多孔質層4を配置する。
【0017】多孔質層4は、熱伝導性に優れる金属材料であるアルミニウム合金を、微細な粒状形、粉末、ワイヤー、棒状、金網などをプレスによって圧縮成型した焼結金属、金属繊維、金属メッシュ、または発泡金属等であり、冷媒7との接触面積拡大と微細キャビティとして機能する。
【0018】多孔質層4は、所定の厚みと空孔率を有するように設けられている。図4にアルミニウム合金の多孔質層4とフロン系の冷媒を用いて行った実験結果を示すが、多孔質層4の厚みを変えることで伝熱面の過熱度は変化する。具体的に厚みは2mm以下で、望ましくは0.2mm?1mmとすることで、多孔質層4内で発生した気泡がそこに貯留することによる熱抵抗の増大を抑えることができ、伝熱面の過熱度を低減できる。また空孔率は、伝熱面積の拡大効果を得るため20%以上で、望ましくは50%以上とすることで受熱壁3の熱が冷媒へ効率的に伝達され、伝熱面の過熱度を低減できる。」


図1より、沸騰冷却容器2は、受熱壁3と連結部材3bで櫛型形状構造体を形成し、連結部材3bの長さは、沸騰冷却容器2の受熱壁3に配置された多孔質層4の厚みより長くなっていることが見て取れる。

したがって、上記引用文献1に記載された事項及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所である。)。
「内部に液状の冷媒を封入した沸騰冷却容器2であって、
沸騰冷却容器2は受熱壁3を介して発熱体6の熱を受け、沸騰した冷媒蒸気を放熱器9に導入し(【0014】)、
沸騰冷却容器2は、発熱体取付面3aのある受熱壁3と、それと対向配置して圧力容器を構成する放熱壁8とを有し、受熱壁3と放熱壁8との間には、両壁間を所定間隔に保持し、冷媒7が流れる空間を形成するための複数の連結部材3bを設けてあり(【0015】)、
受熱壁3と連結部材3bで櫛型形状構造体を形成し(図1)、
沸騰冷却容器2の発熱体取付面3aに最も近い受熱壁3の内側表面より、厚みが2mm以下の範囲に、0.2mm?1mmの厚みの多孔質層4を配置し(【0016】、【0018】)、
連結部材3bの長さは多孔質層4の厚みより長くなっており(図1)、
多孔質層4は、微細な粒状形のアルミニウム合金を、プレスによって圧縮成型した焼結金属であり、該多孔質層4と冷媒7との接触面積を拡大しかつ多孔質層4自身が微細キャビティとして機能し、冷媒を効率良く蒸発させることができる(【0007】、【0017】)、
沸騰冷却容器2。」

2 引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、半導体装置および電子機器を冷却するための沸騰冷却装置に関し、特に気液間の相変化現象を利用して冷媒を循環させる沸騰冷却装置に関する。」

「【0022】
[構造の補足説明と製造方法]
次に、本発明の上記の実施形態の沸騰冷却装置の望ましい構造についての補足説明と製造方法の概要説明を行なう。
・・・
沸騰促進フィン14においては、沸騰泡を発生させることが第一の目的であり、常に沸騰を続けるために必要な液体の供給を行いつつ、蒸気の排出を効率的に行う必要がある。有機系の冷媒を用いた場合、一般に水よりも表面張力が小さく、沸騰時に形成する泡の径が1.0mm前後である。このような場合には、沸騰促進フィン14間の距離を極端に狭く泡の径以下にすることは望ましくなく、泡の径程度かそれ以上にすることが望ましい。一方で、沸騰促進フィン14の表面積が広いほど放熱量も大きくできることを考えると、沸騰促進フィン14の間の距離を大きくとりすぎると、形成できる沸騰促進フィン14の数が限定されてしまう。さらに、沸騰促進フィン14の内部を通過する熱量は、沸騰促進フィン14の厚みに依存する。沸騰促進フィン14が厚ければより多くの熱が流れるが、厚くしすぎると放熱面積が限定されてしまう。これらの点を踏まえると、フィン間距離1.0mm、フィン厚み1.0から2.0mm、フィンの高さ1.0から5.0mm程度が最良の沸騰促進フィン14の構造である。・・・」

3 引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、容器内において冷媒の蒸発と凝縮の循環ループを形成して発熱体を冷却する沸騰冷却装置に関するもので、CPUなどの半導体集積回路の冷却に用いて好適なものである。」

「【0022】沸騰冷却装置1は、あらゆる姿勢での使用に対応するものであり、有孔金属焼結体6には、どのような姿勢においても容器5内の下部に溜まった冷媒を発熱体取付部近傍6a(発熱体取付部7aから受熱して冷媒を蒸発させる部分)に輸送する高い冷媒輸送能力が要求される。有孔金属焼結体6は、熱伝導性に優れる金属(例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等)により製造された多孔質材で、容器5の下部に溜まった冷媒を毛細管現象によって発熱体取付部近傍6aに運搬するウィックとして機能するものである。
【0023】有孔金属焼結体6は、所定の空孔率と空孔径を有するように設けられている。具体的には、液冷媒を発熱体取付部近傍6aまで運搬する運搬部分が高い毛細管効果を得るために、空孔率が50%以上、空孔径が10?100μmの範囲に設けられることが望ましく、発熱体取付部近傍6aが、発熱体取付部7aの過熱度低減のために、空孔率が20%以上、空孔径が10?100μmの範囲に設けられることが望ましい。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「発熱体6の熱を受け」「液状の冷媒」が「沸騰した冷媒蒸気を放熱器9に導入」する「沸騰冷却容器2」は、本願発明の「発熱体からの熱で液相冷媒を沸騰させて、前記液相冷媒を気相冷媒に相変化させる沸騰部」に相当する。

2 引用発明の「発熱体取付面3aのある受熱壁3」、「受熱壁3と放熱壁8との間」の「両壁間を所定間隔に保持し、冷媒7が流れる空間を形成するための複数の連結部材3b」は、それぞれ、本願発明の「前記発熱体と熱的に接続する底部」、「該底部から立設する複数のフィン」に相当するので、引用発明の「受熱壁3と連結部材3bで」形成された「櫛型形状構造体」は、本願発明の「前記発熱体と熱的に接続する底部と、該底部から立設する複数のフィンとを持つ櫛型形状構造体」に相当する。

3 引用発明の「沸騰冷却容器2の発熱体取付面3aに最も近い受熱壁3の内側表面」に「配置し、」「微細な粒状形のアルミニウム合金を、プレスによって圧縮成型した焼結金属であ」る「多孔質層4」は、本願発明の「前記櫛型形状構造体のフィン間の底部に設けられ、多数の微粒子で構成されており、微粒子間に小さな孔を多数有する多孔質層」に相当する。

4 引用発明の「連結部材3bの長さは多孔質層4の厚みより長くなっており」は、本願発明の「前記複数のフィンの各々の長さは前記多孔質層の厚さより長くなっており」に相当する。

すると、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「発熱体からの熱で液相冷媒を沸騰させて、前記液相冷媒を気相冷媒に相変化させる沸騰部において、
前記発熱体と熱的に接続する底部と、該底部から立設する複数のフィンとを持つ櫛型形状構造体と、
前記櫛型形状構造体のフィン間の底部に設けられ、多数の微粒子で構成されており、微粒子間に小さな孔を多数有する多孔質層と、
を有し、
前記複数のフィンの各々の長さは前記多孔質層の厚さより長くなっている、
沸騰部。」

(相違点1)
多孔質層について、本願発明は、「前記多数の孔は、前記液相冷媒を強制的に薄い液膜化して、前記微粒子間に浸透された前記液相冷媒に熱を伝えて沸騰を促進することが可能なように狭くなって」いるのに対して、引用発明は、「該多孔質層4と冷媒7との接触面積を拡大しかつ多孔質層4自身が微細キャビティとして機能し、冷媒を効率良く蒸発させることができる」が、そのような特定はない点。
(相違点2)
本願発明は、「前記フィンの厚さは前記多孔質層の前記孔の各々の直径以上であり、前記多孔質層の厚みは前記多孔質層の前記孔の各々の直径以上であり、前記多孔質層の前記孔の各々の径は、前記液相冷媒の分子の径以上で、隣接するフィンの間隔以下である」のに対して、引用発明は、そのような特定がない点。

第6 判断
1 上記相違点について検討する。
(1)相違点1
引用発明の「多孔質層4」は、「該多孔質層4と冷媒7との接触面積を拡大しかつ多孔質層4自身が微細キャビティとして機能」するのであるから、引用発明は、「冷媒7」が「多孔質層4」内部の小さな孔である「微細キャビティ」に浸透している。
そして、本願発明の「前記液相冷媒を強制的に薄い液膜化」することについて、明細書に「多孔質層140に触れた液相冷媒80は、冷媒が持つ表面張力による毛細管力とその自重によって、多孔質層140の内部まで浸透する。多孔質層140内は小さな孔142aが多数設けられた構造のため、浸透した冷媒は強制的に薄い液膜状となる。」(国際出願における明細書第10頁第9-12行、国際公開第2014/45714号参照)と記載されていることから、引用発明は、本願発明と同様に、「冷媒7」を強制的に薄い液膜化しているといえる。
また、引用文献1には「多孔質層4」の孔の径が記載されておらず、引用発明は、「多孔質層4」の孔の径が不明であるが、引用文献3には、アルミニウム等により製造された多孔質材である有孔金属焼結体6において、空孔径が10?100μmの範囲であることが示されているので(上記「第4 3」)、引用文献3記載の有孔金属焼結体6と同様な製造方法で作成された引用発明の「微細な粒状形のアルミニウム合金を、プレスによって圧縮成型した焼結金属」である「多孔質層4」においても、孔の径を10?100μm程度とすることは、当業者が容易になし得ることである。そして、「多孔質層4」の10?100μm程度である孔は、本願明細書に「最適な大きさを具体的に述べると、多孔質層140の孔142aの径は、1μm?1.5mm程度が望ましい。」(国際出願における明細書第8頁第5-6行、国際公開第2014/45714号参照)と記載されているところの、本願発明における1μm?1.5mm程度に「狭くなって」いる「前記多数の孔」と相違しない。
そして、引用発明の「多孔質層4」は、「該多孔質層4と冷媒7との接触面積を拡大しかつ多孔質層4自身が微細キャビティとして機能し、冷媒を効率良く蒸発させることができる」のであるから、冷媒7に熱を伝えて沸騰を促進しているといえる。
そうすると、引用発明の「多孔質層4」の孔を、本願発明と同様に、冷媒7を強制的に薄い液膜化して、微粒子間に浸透された冷媒7に熱を伝えて沸騰を促進することが可能なように狭くして、上記相違点1に係る本願発明の構成を得ることは、引用発明、引用文献3に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2
引用文献2には、半導体装置および電子機器を冷却するための沸騰冷却装置において、フィン間距離1.0mm、フィン厚み1.0から2.0mmの沸騰促進フィン14の構造が記載されている(上記「第4 2」)。
引用文献3には、半導体集積回路の冷却に用いる沸騰冷却装置において、空孔径が10?100μmの有孔金属焼結体6が記載されている(上記「第4 3」)。
ここで、引用発明の「沸騰冷却容器2」は、電子機器の冷却、特にCPUなどを含む発熱量の多い高密度実装基板の冷却に用いる沸騰冷却装置のものであるから(【0001】)、
引用発明において、隣接する「連結部材3b」の間隔、「連結部材3b」の厚さ、「多孔質層4」の孔の径に、引用発明と同様な用途で使用される沸騰冷却装置である、引用文献2及び3に示されたものと同程度の寸法を採用することは、当業者が適宜なし得る設計的事項であるといえる。
そして、引用文献2及び3と、同様な寸法を採用すると、隣接する「連結部材3b」の間隔は1.0mm、「連結部材3b」の厚さは1.0から2.0mm、「多孔質層4」の孔の径は10?100μmとなる。
また、引用発明は、「多孔質層4」の厚みが0.2mm?1mmであり、かつ、「多孔質層4」は、「冷媒7との接触面積拡大と微細キャビティとして機能し」ているのであるから、「多孔質層4」の孔の径が「冷媒7」の分子の径以上であることは自明なことである。
そうすると、上記相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「[3]本願発明が特許されるべき理由」「(ハ)本願発明と各引用例の対比説明:」において、主に次の主張をしている。
「上述したように、本願発明は、『発熱体が低発熱量時でも、大きな冷却性能を維持すること』ことを目的としています。
これに対して、引用文献1および引用文献5(注:審決における引用文献3)に記載された引用発明1および引用発明3は、上述したように、発熱量の多いCPU等の電子機器を冷却する際の課題を解決しようとしています。
そして、本願発明では、上記目的を達成するために、上記第1の技術的特徴(i)のように、孔(142a)を非常に狭くして、換言すれば、空孔率を小さくして、液相冷媒(80)を強制的に薄い液膜化し、発熱体の低発熱量時での沸騰を促進しています(PCT明細書の第6頁、第5?14行目参照)。
これに対して、引用文献1および引用文献5に記載された引用発明1および引用発明3では、空孔率を50%以上として、換言すれば、孔をできるだけ広くして、受熱壁の熱を冷媒へ効率的に伝達したり、高い毛細管効果を得ています(引用文献1の段落[0018]および引用文献5の段落[0023]参照)。
・・・
上述したように、引用文献1および引用文献5に記載された引用発明1および引用発明3では、発熱量の多いCPU等の電子機器を冷却する際の課題を解決しようとしているのであるから、引用文献1や引用文献5に接した当業者は、発熱体が低発熱量時での課題を認識することはあり得ず、したがって、低発熱量時での沸騰を促進するために、孔(142a)を非常に狭くすること(空孔率を小さくこと)に想到しえないことは明白です。」

上記主張について検討する。
(1)空孔率と孔の径の関係について
「空孔率」は、一般的に物質の全体積に占める空間の割合のことであるから、多孔質層の孔の径とは直接的な関係はなく、引用文献1に、空孔率を50%以上とする記載があったとしても、引用発明の「多孔質層4」の孔の径が大きいことにならない。
(2)引用発明の課題と孔の径の関係について
引用文献1に「沸騰冷却装置は発熱体が設けられる受熱壁の内側表面に最も近い表面で、多孔質層により冷媒との接触面積が拡大される。また多孔質層は微細キャビティを有することにより、蒸発し易くなる効果がある。これにより発熱体が設けられる受熱壁の内側表面の広い範囲において冷媒を効率良く蒸発させることができるため、蒸発量が増えて発熱体を設けた部分の過熱度を低減できる。結果的に沸騰冷却装置の冷却性能を向上できる。」(【0007】)と記載されているように、沸騰冷却装置は、多孔質層による冷媒との接触面積の拡大と微細キャビティの機能により、冷媒を効率良く蒸発させ、冷却性能を向上させるものであるから、発熱量の多少に関係なく冷却性能を向上させているといえる。
そうすると、引用発明の「沸騰冷却容器2」は、低発熱量時での課題の認識にかかわらず、「多孔質層4」を用いて冷却性能を向上させているといえる。
そして、上記のように、「空孔率」と孔の径とは直接的な関係はないのであるから、引用発明において、低発熱量時での課題の認識にかかわらず、「多孔質層4」の孔の径を10?100μm程度に(非常に狭く)することが容易になし得たことは、上記「1 (1)相違点1」で検討した通りである。
したがって、上記主張を採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり、 本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶するべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-28 
結審通知日 2019-05-29 
審決日 2019-06-11 
出願番号 特願2014-536657(P2014-536657)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木下 直哉久保田 昌晴庄司 一隆  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 山澤 宏
須原 宏光
発明の名称 冷却装置、それに使用される受熱部、沸騰部、その製造方法  
代理人 池田 憲保  
代理人 佐々木 敬  

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