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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02B
管理番号 1353815
審判番号 不服2018-10465  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-01 
確定日 2019-07-31 
事件の表示 特願2014-118570「水中展張膜の係留方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月24日出願公開、特開2015-232202〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月9日に出願された特願2014-118570号であり、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月13日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 5月23日付け:拒絶査定
平成30年 8月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年8月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
水中展張膜の上縁部にフロートを設け、該水中展張膜の下縁部にテンションベルトを設け、該テンションベルトにアンカーワイヤーの一端を固定し、他端を水底に固定することを特徴とする荒悪天候時においてもその形状を保持することができる汚濁水の拡散防止用水中展張膜の係留方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年5月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
水中展張膜の上縁部にフロートを設け、該水中展張膜の下縁部にテンションベルトを設け、該テンションベルトにアンカーワイヤーの一端を固定し、他端を水底に固定することを特徴とする汚濁水等の拡散防止用水中展張膜の係留方法。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「拡散防止用水中展張膜の係留方法」について「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる」ものに限定し、また、拡散を防止する対象物である「汚濁水等」について「汚濁水」に限定するものあって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-159563号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。(下線は、当審決で付した。以下、同様。)
a「【請求項1】
水面に浮かべるためのフロートと、油等の浮遊物が河川、湖、海等の水面上に拡散することを防止するための、フロート下部に取り付けた不透水性のスカートと、からなるオイルフェンスであって、
スカート下端部の延長方向に連続して緊張材を設け、
前記緊張材に係留ロープを取り付けたことを特徴とする、
オイルフェンス。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルフェンスにおいて、
前記緊張材は、繊維からなるベルト材又はロープ材であることを特徴とする、
オイルフェンス。」
b「【技術分野】
【0001】
本発明は油等の浮遊物の拡散を防止するためのオイルフェンスに関する。」
c「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のオイルフェンスには、以下のような問題があった。
<1>現場の水流速度が20cm/秒程度以上になると、スカート下部が流されて捲れ上がって、スカート下端の水深(有効水深)が浅くなり、流出油がスカートの下を潜り抜けてしまい、滞油性を損なうことが多い。
・・・」
d「【発明の効果】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
<1>スカート下端部に設けた緊張材に係留ロープを取り付けることによって、スカート下部が引張力で保持され、スカートが捲れ上がることなく、有効水深が保持され、滞油性が向上する。
・・・」
e「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【実施例】
【0010】
[1]オイルフェンスの構成
本発明のオイルフェンス1は、フロート2と、フロート2下部に取り付けたスカート3とから構成されている。(図1、図2)
【0011】
(1)フロート
フロート2は、オイルフェンス1を海面や川面に浮かべるためのものである。フロート2は、袋体の内部に空気や略円柱状の発泡材等の浮体を封入して構成する。
【0012】
(2)スカート
スカート3は、フロート2から水中に垂下し、油等の浮遊物が河川、湖、海等の水面上に拡散することを防止するためのものである。スカート3は、不透水性で可撓性を有する布製の略矩形の部材である。スカート3は、フロート2から垂下するように、縫合等によって取り付ける。スカート3の下端には、延長方向に沿って緊張材4を設ける。フロート2とスカート3の両端部には、オイルフェンス1同士を連結するために、フロート2とスカート3の側面に連続する連結部5を設け、両端の連結部5の互いに対応する位置に、連結穴51を設ける。
【0013】
(3)緊張材
緊張材4(テンションメンバ)は、スカート3の下端の延長方向に沿って連続して配置する部材である。緊張材4は、ポリエステル繊維を編んだベルト状又はロープ状の部材(テンションベルト)であり、スカート3の下部に縫合等によって連続して取り付ける。オイルフェンス1を連結した場合には、緊張材4は連結部5を介して連続する。緊張材4の端部付近には、接続具41を介して係留ロープ6を取り付ける。
【0014】
(4)係留ロープ
係留ロープ6は、オイルフェンス1を係留するための部材であり、ポリプロピレン製のロープ材である。係留ロープ6は、一方の端部を接続具41を介して緊張材4に取り付け、もう一方の端部を船に取り付け、又は地面や水底でアンカーによって固定、又は陸上の杭等に固定する。
オイルフェンス1を複数個連結して使用する場合には、係留ロープ6は連結したオイルフェンス1の両端の接続具41に取り付ける。
【0015】
[2]使用方法
次に、上記したオイルフェンス1の使用方法について説明する。
(1)運搬
オイルフェンス1を、油等の浮遊物の拡散防止及び回収を行う現場まで、車両や船によって運搬する。
スカート3に設ける緊張材4は繊維性であるため、オイルフェンス1は軽量となり、海洋上に限らず、商業地や住宅地にある河川で流出事故が発生した際にも、容易に運搬を行うことができる。
複数のオイルフェンス1を連結する場合には、隣り合うオイルフェンス1の対応する連結穴5を重ね合わせ、ボルト等の結合部材を挿通して、現場で展開する前にあらかじめ連結する。
ジッパーによる連結ではなく、結合部材を連結穴51に挿通することによる連結であるため、ジッパーの破損や開具の位置合わせがなく、また、砂噛みもないため、連結作業の効率が向上する。
【0016】
(2)展開
次に、拡散している油等の浮遊物の範囲に合わせて、オイルフェンス1を展開する。
展開は、流出した油等の浮遊物より下流側の水面上にオイルフェンス1を浮かべ、両端に設けた係留ロープ6を船や人力によって曳行して行う。予め一方の端部を地面や水底にアンカーを取り、一方の端部を曳航してもよい。
オイルフェンス1の緊張材4は繊維製であり、金属製の錘も使用していないため、オイルフェンス1は軽量となり、船体等の他金属との接触による火花の発生を考慮する必要がなく、迅速に展開することができ、事故による被害の拡大を防止することができる。
また、緊張材4は繊維製であるため、作業員の怪我の恐れが大幅に軽減される。
【0017】
(3)緊張
展開したオイルフェンス1は、両端に設けた係留ロープ6によって保持される。
オイルフェンス1は、スカート3が不透水性であるため、フロート2やスカート3に作用する水流による力Fや係留ロープ6の引張力Tによって、緊張した状態で保持される。(図3)
このとき、係留ロープ6は、スカート3下部の緊張材4に取り付けるため、オイルフェンス1は、スカート3の下部を支点として係留される。
【0018】
(4)下部係留の効果
オイルフェンス1には水流による力Fが作用する。スカート3の下部の両端は係留ロープ6で係留されているため、スカート3の下部には端部方向への引張力が作用する。スカート3下部には緊張材4を設けているため、緊張材4が補強材となり、スカート3の強度が増し、引張力が作用しても破損することがない。
係留ロープ6の引張力Tと、スカート3に作用する水流による力F、及び、フロート2の浮力が組み合わさることによって、オイルフェンス1のスカート3の下端は、フロート2より上流側に位置し、スカート3の有効水深は確保される。
スカート3の有効水深が確保されるため、流出した油等の浮遊物がスカート3の下を潜り抜けることがない。
流速が速い現場では、スカート3に作用する力Fが増加することによって、緊張材4及び係留ロープ6に作用する引張力Tが増すが、フロートの浮力により有効水深が確保されることになり、拡散防止性能(滞油性)が落ちることはない。」
f 図面
「【図1】



「【図3】




図1及び図3から、スカート3とスカート3の上縁部に設けられたフロート2とから構成されたオイルフェンス1が看て取れる。
また、上記a(【請求項1】)や、上記e(【0012】、【0018】等)の記載を参酌すると、図3から、係留ロープ6の一端を、接続具41を介して、水中に垂下されたスカート3に取り付けられた緊張材4に取り付けて、浮遊物である流出油を含む水の拡散を防止する、オイルフェンスの係留方法が看て取れる。

(イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「スカート3と、スカート3の上縁部に設けられたフロート2とから構成されたオイルフェンス1において、スカート3は、不透水性で可撓性を有する布製の略矩形の部材であり、フロート2から垂下しており、スカート下端部の延長方向に連続して緊張材4を設け、緊張材4はテンションベルトであり、係留ロープ6を、一方の端部を接続具41を介してテンションベルトに取り付け、もう一方の端部を水底でアンカーによって固定し、スカート下部が引張力Tで保持され、スカートが捲れ上がることなく、有効水深が保持され、浮遊物である流出油を含む水の拡散を防止する、オイルフェンス1の係留方法。」

イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2001-49648号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、浚渫工事等によって生じる汚濁液の拡散を防止する人工海草による汚濁拡散防止装置に関する。」
b「【0015】
【発明の実施の形態】以下、図によって本発明の人工海草による汚濁拡散防止装置を説明する。図1における、本発明の第1の実施形態である人工海草による汚濁拡散装置1は、フロート2と、フロート2に上部を係留されたフェンス状のシート4と、フロート2およびシート4を所定位置に繋止するアンカーワイヤ7およびアンカーブロック9と、シート4に沿ってその工事側(矢視方向)近傍の水底に植設された人工海草10とで構成されている。
【0016】フロート2は、鋼または発泡樹脂製の浮揚体をロープ等で連結されていて、波浪の上下動および左右動に柔軟に揺動するよう構成され、フロート2に懸垂されるシート4の重量およびアンカーワイヤ7の重量を支える浮力を有している。シート4は、透水性または不透水性のキャンバスで形成され、補強材で補強された上部がフロート2に係留され、重錘用ワイヤ5で下端部をとめられて水中に懸垂されるよう構成されている。アンカーワイヤ7は、一端をフロート2に適宜距離例えば、10mから20mの間隔でシャックルによって両側に、揺・回動自由に繋止されている。また、他端をシャックルによってアンカーブロック9に繋止されている。アンカーブロック9は、アンカーワイヤ7の他端を繋止して波浪によってフロート2およびシート4が流されないよう例えば、0.3から1トンの重量で水底に設置されている。」
c 図面
「【図1】



図1から、アンカーワイヤ7を用いて、汚濁拡散防止装置のフロート2とフェンス状のシート4を、アンカーブロック9を介して水底に固定する点が看て取れる。

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
「汚濁拡散防止装置のフロート2とフェンス状のシート4を水底に固定する連結材としてアンカーワイヤ7を採用すること。」

ウ 引用文献3
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった実願昭49-74575号(実開昭51-4134号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
a「本考案は汚濁防止に使用されるフロートフェンスのカーテン下部の構造に係るものである。」(明細書第1頁13-14行)
b「図面は本考案の一実施例を示すもので浮子(1)を内蔵するフロート(2)の下部に主カーテン(3)を水深半ば迄垂下すると共にこのカーテンの下端に錘りを設け、該主カーテン(3)の下端よりワイヤー(4)によりサブアンカー(5)に係止し、更に前記主カーテン(3)の下端よりやや上部より水底迄十分な余裕を有する補助カーテン(6)を垂下し、該補助カーテン(6)の下端に沿ってチェーン(7)を係止すると共に補助カーテン(6)の下端とサブアンカー(5)とをチェーン(8)等で連結したものである。」(同第2頁4-13行)
c 図面




図面から、ワイヤー(4)を用いて、フロートフェンスを、サブアンカー(5)を介して水底に固定する点が看て取れる。

(イ)上記記載から、引用文献3には、次の技術が記載されていると認められる。
「汚濁防止に使用されるフロートフェンスを水底に固定する連結材としてワイヤー(4)を採用すること。」

エ 引用文献4(周知例)
(ア)本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平11-140856号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
a「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、オイルフェンス、海洋工事汚濁拡散防止膜、導流堤などの海上或いは河川、湖沼等の水域に使用される浮体構造物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この浮体構造物としては、例えば、図3に示すように、浮力体100と膜体101とからなる膜構造浮体の下にテンション部材(以下、ボトムテンション)102を設け、図示外のアンカやロープ109を備えたものが知られている。」
b「【0010】
【発明の実施の形態】以下、この発明の好適な実施例について添付図面を参照しながら説明する。なお、この実施例においてさきの従来例と同一のものには同一の符号を付して重複説明を避ける。図1は、この発明に係る浮体構造物を示すものであり、この実施例の浮体構造物は、浮力体100及び膜体101からなる膜構造体と、テンションメンバ(外部ボトムテンション)107と、海底に打った図示外のアンカ及び係留ロープ109(これらが係留手段を構成する)との他に、(膜構造体と係留手段109との間に設けた)接続手段1を備えている。
【0011】なお、この実施例の浮力体100には発泡材・空気等を中に詰めた固形または袋のものを使用し、膜体101には柔軟性がある布状のものを使用して浮力体100の下側に取りつけてある。また、この膜体101下部には引張強度に十分耐え得る補強部101Aを設けてある。
【0012】この実施例の接続手段1は、外部ボトムテンション107側に固設された伸縮自在のゴム紐11で構成されており、膜体101に対して着脱自在となっている。また、このゴム紐11の先端にはフック(シャックルなどでもよい)12を止め付けている。一方、膜体101下部の補強部101Aには、フック12と同一間隔で止め孔101Bを設けており、この止め孔101Bにフック12を引っかける。このゴム紐の設置間隔は広狭適宜に変更することによって、浮体構造物としての強度を自在に調整できる。なお、この接続手段としては、特にこの実施例のものに限るものではなく、同様の効果を奏するものであればそれでも構わない。
【0013】従って、この実施例によれば、主に波によって生じる外力によって発生する衝撃的な張力は外部ボトムテンション107の伸長作用で吸収することができる。さらに接続手段1のサスペンションの効果により衝撃的な力はさらに緩和される。」
c 図面
「【図1】



「【図2】



「【図3】




(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「スカート3」は、「不透水性で可撓性を有する布製の略矩形の部材であり、フロート2から垂下して」いるものであるから、本件補正発明の「水中展張膜」に相当する。

(イ)引用発明の「フロート2」は、本件補正発明の「フロート」に相当する。

(ウ)引用発明の「スカート下端部」は、本件補正発明の「水中展張膜の下縁部」に相当する。

(エ)引用発明の「テンションベルト」は、本件補正発明の「テンションベルト」に相当する。

(オ)引用発明の「係留ロープ6」は、本件補正発明の「アンカーワイヤー」とは、「連結材」である点で共通する。

(カ)引用発明の、「テンションベルト」に「係留ロープ6」の「一方の端部を接続具41を介して取り付け」、「もう一方の端部」を「水底でアンカーによって固定した」ことと、本願補正発明の「該テンションベルトにアンカーワイヤーの一端を固定し、他端を水底に固定する」こととは、「テンションベルトに連結材の一端を固定し、他端を水底に固定すること」である点で共通する。

(キ)引用発明の「スカート3」は、浮遊物である流出油を含む水の拡散を防止するのために用いられるものであることから、「スカート3」を設けた「オイルフェンス1」と、本件補正発明の「汚濁水の拡散防止用水中展張膜」とは、少なくとも「拡散防止用水中展張膜」である点で共通する。

(ク)上記(キ)を踏まえると、引用発明の「スカート下部が引張力Tで保持され、スカートが捲れ上がることなく、有効水深が保持され、浮遊物である流出油を含む水の拡散を防止する、オイルフェンス1の係留方法」と、本願補正発明の「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる汚濁水の拡散防止用水中展張膜の係留方法」とは、少なくとも「拡散防止用水中展張膜の係留方法」であるの点で共通する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
水中展張膜の上縁部にフロートを設け、該水中展張膜の下縁部にテンションベルトを設け、該テンションベルトに連結材の一端を固定し、他端を水底に固定する拡散防止用水中展張膜の係留方法。

【相違点1】
テンションベルトに一端を固定し、他端を水底に固定する連結材について、本件補正発明では、「アンカーワイヤー」であるのに対し、引用発明では、「係留ロープ」である点。
【相違点2】
拡散防止用水中展張膜が、本願補正発明では、「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる汚濁水の拡散防止用」のものであるのに対して、引用発明では、「スカート下部が引張力Tで保持され、スカートが捲れ上がることなく、有効水深が保持され、浮遊物である流出油を含む水の拡散を防止する」点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
汚濁水の拡散を防止装置を水底に固定するために用いる連結材としてアンカーワイヤーを採用することは、引用文献2、引用文献3に記載されているとおり、周知技術であるから、引用発明における、テンションベルトに一端を固定し、他端を水底に固定する連結材として、係留ロープに代えて、当該周知技術を採用し、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
(ア)a 本願補正発明の「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる」との点の技術的な意味内容を明らかにするために、本願の明細書をみると、段落【0005】には、荒悪天候時における水中展張膜の形状の保持についての唯一の記載、すなわち「本発明方法の係留方法による水中展張膜装置は、水中展張膜の下縁部にテンションベルトが設けられているので荒悪天候時においてもその形状を保持することができる。」との記載がある。したがって、本願補正発明の上記の点は、「水中展張膜の下縁部にテンションベルトが設け」ることで「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる」ことと理解することができる。
一方、引用発明の構成についてみると、スカート下端部(本願補正発明の「水中展張膜の下縁部」に相当)の延長方向に連続して緊張材(テンションベルト)が設けられている。
そうすると、引用発明は、本願補正発明と同様に、「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる」との点を有しているといえる。
b 加えて、引用発明は、従来のオイルフェンスが、現場の水流速度が20cm/秒程度以上になると、スカート下部が流されて捲れ上がって、スカート下端の水深(有効水深)が浅くなるという課題(上記(2)ア(ア)cを参照)を解決するために、スカート下端部の延長方向に連続して緊張材を設けて、スカート下部が引張力で保持され、スカートが捲れ上がることなく、有効水深が保持されるようにしたものである。よって、引用発明のスカートは、前記の課題の解決のために構成されたものであるから、現場の水流速度が20cm/秒程度以上の場合、すなわち、現場が平穏な場合よりも水流速度が速い場合であってもスカート(水中展張膜)の形状が保持されうるものといえる。
c 上記a及びbから、相違点2における「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる」点は、実質的に相違点とはいえない。

(イ)「汚濁」とは「よごれにごること。」との意味であり、「水質汚濁」とは「水質が人為的な原因によって,水の利用を損なう程度に変ること。鉱山・工場廃水や都市下水、毒物、船の廃油などが原因。」との意味である(いずれも「広辞苑」<第三版>)ことから、汚濁水とは、水質が損なわれた水であると解される。そして、引用発明の「浮遊物である流出油を含む水」は、水質が損なわれた水であるから、汚濁水の概念に含まれるといえる。
そうすると、本願補正発明の「汚濁水」は、拡散を防止する対象物として「浮遊物である流出油を含む水」を排除しているとはいえず、引用発明の「浮遊物である流出油を含む水」の上位概念にあたる事項であるといえる。
したがって、引用発明の「浮遊物である流出油を含む水」は、本願補正発明の「汚濁水」に相当するといえる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、相違点2は、実質的な相違点ではない。
仮に、引用発明が、浮遊物の拡散を防止するものであって、汚濁水の拡散を防止するものではないとしても、汚濁水の拡散を防止することは、引用文献2(【0015】)、引用文献3、引用文献4(【0001】)などに記載されているように周知であるから、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、「まず本願発明の主目的とするところは、水中に汚濁因子を含有するいわゆる汚濁水の拡散防止及び汚濁水中からの汚濁因子の除去を目的とするものであります。・・・本願発明の汚濁水を処理する場合の水中展張膜の長さは、・・・オイルフェンスのスカートに比べて長いのであります。かかる点については当業者であれば自明のことであります。要するに本願発明の水中展張膜はオイルフェンスのスカートに比べて長いために、水中展張膜に強い水圧がかかり、そのために従来の水中展張膜は破損してしまっていたのであります。
・・・、『水中展張膜の長さ』については、本願請求項1の『汚濁水の拡散防止用水中展張膜』の記載からその用途に用いる水中展張膜の長さは当業者であれば充分理解することができるのであります。」と主張している。(審判請求書 2頁下から5行?3頁下から7行)
しかしながら、本願補正発明の拡散を防止する対象物は、上記(4)イ(イ)で説示したとおりの「汚濁水」であって、審判請求人が主張する「水中の汚濁因子を含有する」と限定された「汚濁水」ではない。また、本願補正発明の「水中展張膜」の長さについては、何ら規定はなされていない。したがって、審判請求人の上記主張は、本件補正発明において特定されていない事項に基づく主張であるから、採用することはできない。
また、審判請求人は、「本願補正発明の水中展張膜はオイルフェンスのスカートに比べて長い」及び「水中展張膜の長さは当業者であれば充分理解することができる」とも主張しているが、審判請求書においては、前記主張を裏付ける具体的な根拠が何ら示されていない。一方、例えば、引用文献4において開示された内容をみると、「海洋工事汚濁拡散防止膜」及び「オイルフェンス」の両者の記載があるが、実施例において、膜体の長さにつき「海洋工事汚濁拡散防止膜」の場合は、「オイルフェンス」の場合よりも長くするとの記載や示唆もない。そうすると、審判請求人が主張するように、本願補正発明の水中展張膜が、引用発明のオイルフェンスのスカートに比べて長いと断定できるものではない。
仮に、本願補正発明の水中展張膜が、引用発明のオイルフェンスのスカートに比べて長いものであるとしても、原査定の周知技術の例として示した引用文献2及び引用文献3に開示されている、水面から水底付近までの長さを有するシートないしはカーテン(本願補正発明の「水中展張膜」に相当)に係る事項を参酌すれば、引用発明のスカートを、より長く構成するとともに汚濁水の拡散を防止する膜とすることは、容易に想到しうることである。

ウ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年8月1日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成30年5月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2010-159563号公報
引用文献2:特開2001-49648号公報
引用文献3:実願昭49-74575号(実開昭51-4134号)のマイクロフィルム

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「荒悪天候時においてもその形状を保持することができる」に係る限定事項を削除するとともに、拡散を防止する対象物を「汚濁水」という用語で特定せず、汚濁水を含む「汚濁水等」という用語で特定したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-22 
結審通知日 2019-05-28 
審決日 2019-06-10 
出願番号 特願2014-118570(P2014-118570)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀谷 英樹  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
発明の名称 水中展張膜の係留方法  

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