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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H04L |
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管理番号 | 1353858 |
審判番号 | 不服2018-15848 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-11-29 |
確定日 | 2019-08-20 |
事件の表示 | 特願2017-179390「通信経路制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月27日出願公開,特開2018-207467,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成29年9月19日(優先権主張 平成29年6月2日)の出願であって,平成30年8月28日付け拒絶理由通知に対し,同年10月3日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年10月9日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年11月29日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたところ,平成31年1月22日付けで当該手続補正は却下されるとともに当審から拒絶理由(以下,「当審拒絶理由1」という。)が通知され,これに対し,同年3月28日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたが,さらに,同年4月22日付けで当審から拒絶理由(以下,「当審拒絶理由2」という。)が通知され,令和元年7月3日に意見書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の理由の概要は以下のとおりである。 (進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1ないし14 ・引用文献 AないしD <引用文献等一覧> A.特表2003-530014号公報 B.特開2009-147735号公報 C.特開2008-278357号公報 D.筆谷 光雄,ほか,「パケット解析によるDoS攻撃の検知と識別」,第67回(平成17年)全国大会講演論文集(3) データベースとメディア ネットワーク,情報処理学会,2005年 3月 2日,pp.3-571?3-572 第3 当審拒絶理由の概要 1 当審拒絶理由1について (1) (新規事項)平成30年10月3日付けでした,請求項1における「前記第2通信機器の通信速度の低下を検知」することを含む手続補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2) (サポート要件)本件出願は,請求項1における「前記第2通信機器の通信速度の低下を検知した場合」なる構成が,発明の詳細な説明に記載されたものではないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3) (明確性)本件出願は,請求項1における「前記第2通信機器の通信速度の低下を検知」する構成,「ネットワークの通信性能を評価する通信性能評価部」と「前記第2通信機器の通信速度の低下を検知」との関係が不明であるから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (4) (進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1ないし14 ・引用文献 1ないし4 <引用文献等一覧> 1.特開2009-147735号公報(拒絶査定時の引用文献B) 2.特表2003-530014号公報(拒絶査定時の引用文献A) 3.特開2015-23364号公報 4.再公表特許2009/069636号公報 2 当審拒絶理由2について (明確性)本件出願は,請求項1において,何故,「ネットワークの通信性能」を評価することによって,「第2通信機器の通信性能」の劣化を検知することができるのか,不明であるから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であって,本願発明1は以下のとおりである。 「【請求項1】 第1通信機器が第2通信機器に送信するSYNパケットの個数に基づいてネットワークの通信性能を評価する通信性能評価部と, 前記通信性能評価部が前記第2通信機器の通信性能の劣化を検知した場合に,前記第1通信機器の通信経路を,前記第2通信機器から第3通信機器に変更する経路制御部と,を有する,通信経路制御システム。」 なお,本願発明2ないし8は,本願発明1を減縮した発明である。 第5 当審拒絶理由についての判断 1 当審拒絶理由1 (1) 特許法第17条の2第3項(新規事項)について 本件補正において,「前記第2通信機器の通信速度の低下を検知」することは,「前記第2通信機器の通信性能の劣化を検知」することに補正されたから,当該拒絶理由は解消された。 (2) 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件補正において,「前記第2通信機器の通信速度の低下を検知」することは,「前記第2通信機器の通信性能の劣化を検知」することに補正されたから,当該拒絶理由は解消された。 (3) 特許法第36条第6項第2号(明確性)について 本件補正において,「前記第2通信機器の通信速度の低下を検知」することは,「前記第2通信機器の通信性能の劣化を検知」することに補正されたから,当該拒絶理由は解消された。 (4) 特許法第29条第2項(進歩性)について ア 引用文献,引用発明等 (ア) 引用文献1について a 引用文献1の記載 当審拒絶理由1で引用された引用文献1(特開2009-147735号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下同じ。)。 (a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ネットワーク,ノード装置,ネットワーク冗長化方法及びネットワーク冗長化プログラムに関し,特に,自律系ネットワークが複数存在する既存ネットワークの障害発生に対処可能なネットワーク,ノード装置,ネットワーク冗長化方法及びネットワーク冗長化プログラムに関するものである。」 (b) 「【発明が解決しようとする課題】 【0018】 しかし,上記特許文献1,2には,自律系ネットワークが複数存在するネットワークに対し,予備ルート専用の自律系追加ネットワークを付加して冗長化する点については何ら記載もその必要性についても示唆されていない。 【0019】 本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,上述した課題である,自律系ネットワークが複数存在するネットワークの障害発生に対処可能なネットワーク,ノード装置,ネットワーク冗長化方法及びネットワーク冗長化プログラムを提供することを目的とする。」 (c) 「【発明を実施するための最良の形態】 ・・・ 【0028】 本実施形態におけるネットワークは,ネットワーク内部で同一のルーティングプロトコルを使用する自律系ネットワーク(AS1?AS6)が複数存在する既存ネットワーク(A)に,予備ルート専用の自律系ネットワーク(ASP)である追加ネットワーク(B)を付加して冗長化し,既存ネットワーク(A)のトラフィックを,追加ネットワーク(B)を使用して伝送することを特徴とする。 ・・・ 【0033】 このように,本実施形態におけるネットワークは,自律系ネットワーク(AS1?AS6)が複数存在する既存ネットワーク(A)に対し,予備ルート専用の追加ネットワーク(B)を付加して冗長化して構成する。なお,本実施形態の自律系ネットワーク内のルーティングプロトコルは,RIP,OSPF,IS-ISなどが適用可能である。また,自律系ネットワーク間のルーティングプロトコルは,EGP,BGP4などが適用可能である。 ・・・ 【0049】 これにより,第2の自律系ネットワーク(AS2)と,第6の自律系ネットワーク(AS6)と,が,第1の自律系ネットワーク(AS1)を経由して通信を行っている状態で,第1の自律系ネットワーク(AS1)に障害が発生した場合には,第2の自律系ネットワーク(AS2)のエッジノード装置(N2_1,N2_2)は,第1の自律系ネットワーク(AS1)との通信経路を,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_1)との通信経路に切り替え,また,第6の自律系ネットワーク(AS6)内のエッジノード装置(N6_1,N6_2)は,第1の自律系ネットワーク(AS1)との通信経路を,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_2)との通信経路に切り替え,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_1,NP_2)は,既存ネットワーク(A)から収集したBGP4情報を基に,既存ネットワーク(A)でのルート(AS2→AS1→AS6)を反映し,第2の自律系ネットワーク(AS2)と第6の自律系ネットワーク(AS6)とのトラフィックを中継することになる(AS2→NP_1→NP_2→AS6)。その結果,本実施形態のネットワークは,第1の自律系ネットワーク(AS1)において障害が発生した場合でも,第2の自律系ネットワーク(AS2)と第6の自律系ネットワーク(AS6)との間の通信を継続させることが可能となる。」 (d) 「【0075】 さらに,本実施形態のネットワークでは,輻輳回避やQOS(Quality Of Service)実現のために,既存ネットワーク(A)を構成する自律系ネットワーク(AS1?AS6)を切り離す場合に,追加ネットワーク(B)を利用することも可能である。」 b 引用発明 上記aによれば,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明) 「ネットワーク内部で同一のルーティングプロトコルを使用する自律系ネットワーク(AS1?AS6)が複数存在する既存ネットワーク(A)に,予備ルート専用の自律系ネットワーク(ASP)である追加ネットワーク(B)を付加して冗長化し,既存ネットワーク(A)のトラフィックを,追加ネットワーク(B)を使用して伝送するネットワークにおいて, 自律系ネットワーク間のルーティングプロトコルは,BGP4が適用可能であり, 第2の自律系ネットワーク(AS2)と,第6の自律系ネットワーク(AS6)とが,第1の自律系ネットワーク(AS1)を経由して通信を行っている状態で,第1の自律系ネットワーク(AS1)に障害が発生した場合には,第2の自律系ネットワーク(AS2)のエッジノード装置(N2_1,N2_2)は,第1の自律系ネットワーク(AS1)との通信経路を,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_1)との通信経路に切り替え,また,第6の自律系ネットワーク(AS6)内のエッジノード装置(N6_1,N6_2)は,第1の自律系ネットワーク(AS1)との通信経路を,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_2)との通信経路に切り替え,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_1,NP_2)は,既存ネットワーク(A)から収集したBGP4情報を基に,既存ネットワーク(A)でのルート(AS2→AS1→AS6)を反映し,第2の自律系ネットワーク(AS2)と第6の自律系ネットワーク(AS6)とのトラフィックを中継することによって(AS2→NP_1→NP_2→AS6),第1の自律系ネットワーク(AS1)において障害が発生した場合でも,第2の自律系ネットワーク(AS2)と第6の自律系ネットワーク(AS6)との間の通信を継続させる ネットワーク。」 (イ) 引用文献2について 当審拒絶理由1で引用された引用文献2(特表2003-530014号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0047】 図11に,パイプが輻輳しているかどうかを判定する方法150のもう1つの実施形態を示す。方法150では,同期化(SYN)パケットを使用する。TCPでは,SYNパケットによって,ホストなどの2つの構成要素の間でのセッションの開始を示すことができる。セッションのパケットが,例えば輻輳に起因してパケットがドロップされたので,その宛先に到達しない時に,構成要素の間で新しいセッションが開始される。したがって,新しいSYNパケットが発行される。したがって,SYNパケットを使用して,パイプ内の輻輳を測定することができる。というのは,SYNパケットを使用して,セッションの開始および再開始の回数を測定できるからである。 【0048】 ステップ152を介して,パイプ内のSYNパケットの数の尺度を判定する。一実施形態では,ステップ152に,パイプを通って移動するパケットの総数に対するSYNパケットのフラクションを判定することが含まれる。このフラクションを,上で述べたPCLとして使用することができる。その後,ステップ154を介して,SYNパケットについて定義された輻輳が存在するかどうかを判定する。一実施形態では,ステップ154に,パケットの総数に対するSYNパケットのフラクションがある閾値より大きいかどうかの判定が含まれる。しかし,SYNパケットを使用する,輻輳の他の統計的測定を使用することができる。閾値を超えないと判定される場合には,ステップ156を介して,パイプが輻輳していないと定義される。閾値を超えると判定される場合には,ステップ158を介して,パイプが輻輳してると定義される。したがって,方法150を使用して,パイプが輻輳しているか否かを判定することができる。」 (ウ) 引用文献3について 当審拒絶理由1で引用された引用文献3(特開2015-23364号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【請求項1】 端末からサーバに送信されたリクエストの数を監視するトラヒック監視部と, 前記リクエストの数に基づいて輻輳を検出する輻輳検出部と, 前記輻輳検出部が前記輻輳を検出した場合に,前記端末に対して前記サーバが送信するレスポンスの代わりとなる代理レスポンスを送信する代理応答部とを備える, 通信制御装置。 【請求項2】 前記トラヒック監視部は,前記サーバから送信された前記レスポンスの数を監視し, 前記輻輳検出部は,前記リクエストの数と前記レスポンスの数との比率に基づいて前記輻輳を検出する, 請求項1に記載の通信制御装置。」 「【0068】 例えば,アプリケーションAのバックグラウンド処理は,代理レスポンスを送信していない場合には,1分間にリクエストが8回発生したが,通信制御装置1によって,代理レスポンスとして,TCPプロトコルのSYN/ACKフラグを送信し,その後,FINフラグを送信した。この結果,1分間のリクエストが3回に軽減された。」 「【0096】 輻輳検出部122は,トラヒック監視部121が集計したリクエストの数,及びリクエスト端末数に基づいてサーバ3の障害に起因する輻輳を検出する。具体的には,輻輳検出部122は,複数の所定期間においてトラヒック監視部121が集計したリクエストの数の変化率を算出する。そして,輻輳検出部122は,当該変化率が閾値を超えた場合,すなわち,リクエストの数が急上昇した場合に,輻輳を検出する。」 (エ) 引用文献4について 当審拒絶理由1で引用された引用文献4(再公表特許2009/069636号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【0101】 障害種類判定部132は,障害検知部131で検知されたリンク障害が一時的な障害であるか,永続的な障害であるかを判定する。障害種類判定部132は,判定した障害の種類の結果を経路制御メッセージ制御部14Bの送信種類判定部141に知らせる。ここで,障害種類判定部132における障害の種類の判定方法は,障害時間の長さによる判定方法(ある閾値以上の時間障害が連続して続いた場合,永続的と判断)や,障害の過去の発生統計(発生頻度,回数などの統計)による判定方法(ある閾値以上の発生間隔や回数であった場合,永続的と判断),検知した障害内容の重要度による判定方法(ルーター故障なのか,リンク切断なのかなどの障害内容を把握できる場合,それらをレベル分けし,あるレベル以上の障害であった場合,永続的と判断)などが考えられ,判定方法はユーザーが任意に決定できる。本実施例では簡単のため,障害時間の長さが閾値を越えるかで,障害が一時的であるか永続的であるかを判定するものとする。」 イ 対比及び判断 (ア) 本願発明1について a 対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 (a) 引用発明の「エッジノード装置(N2_1)」及び「ノード装置(NP_1)」は,本願発明1の「第1通信機器」及び「第3通信機器」に相当する。また,引用発明の「自律系ネットワーク(AS1)」も,エッジノード装置(N2_1)が属する「第2の自律系ネットワーク(AS2)」と同様に,「エッジノード装置」を有していることは明らかであり,当該「エッジノード装置」は,本願発明1の「第2通信機器」に相当するものである。 (b) また,引用発明は,「第2の自律系ネットワーク(AS2)と,第6の自律系ネットワーク(AS6)とが,第1の自律系ネットワーク(AS1)を経由して通信を行っている状態で,第1の自律系ネットワーク(AS1)に障害が発生した場合には,第2の自律系ネットワーク(AS2)のエッジノード装置(N2_1,N2_2)は,第1の自律系ネットワーク(AS1)との通信経路を,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_1)との通信経路に切り替え」るものであるところ,「第1の自律系ネットワーク(AS1)」の「障害が発生した」ことを契機として通信経路を切り替えており,ネットワークの障害は,通信性能の一種であるといえるから,引用発明は,ネットワークの通信性能を評価する手段,すなわち,「通信性能評価部」を有し,ネットワークの通信性能の劣化を検知しているということができ,通信経路を切り替えるために,「経路制御部」を有しているということもできる。 (c) そして,上記(a)及び(b)によれば,引用発明のネットワークは,「通信経路制御システム」を備えているということができる。 そうすると,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「ネットワークの通信性能を評価する通信性能評価部と, 前記通信性能評価部が前記ネットワークの通信性能の劣化を検知した場合に,第1通信機器の通信経路を,第2通信機器から第3通信機器に変更する経路制御部と,を有する,通信経路制御システム。」 (相違点) (相違点1) 「通信性能評価部」について,本願発明1は,「第1通信機器が第2通信機器に送信するSYNパケットの個数」に基づいてネットワークの通信性能を評価しているのに対し,引用発明は,「SYNパケットの個数」に基づくものではない点。 (相違点2) 「経路制御部」について,本願発明1は,「第2通信機器」の通信性能の劣化を検知した場合に,通信経路を変更しているのに対し,引用発明は,「第1の自律系ネットワーク(AS1)に障害が発生した」ことを検知し,通信経路を変更しているものの,「第2通信機器」の通信性能の劣化を検知するものではない点。 b 判断 事案にかんがみて,(相違点2)について判断する。 引用発明は,第1の自律系ネットワーク(AS1)に障害が発生した場合には,第2の自律系ネットワーク(AS2)のエッジノード装置(N2_1,N2_2)は,第1の自律系ネットワーク(AS1)との通信経路を,追加ネットワーク(B)内のノード装置(NP_1)との通信経路に切り替えるものであるところ,上記ア(ア)a(b)のとおり,「自律系ネットワークが複数存在するネットワークの障害発生に対処可能なネットワーク,ノード装置,ネットワーク冗長化方法及びネットワーク冗長化プログラムを提供すること」を目的とするものであるから,引用発明は,ネットワークとして,「第1の自律系ネットワーク(AS1)」の障害を検知できればよく,引用発明において,さらに,「第1の自律系ネットワーク(AS1)」が有する「エッジノード装置」の障害を検知するように構成すること,すなわち,本願発明1の「第2通信機器」の通信性能の劣化を検知するように変更することの動機付けはないし,引用文献2ないし4をみても何ら記載はなく,周知技術であるということもできない。 これに対し,本願発明1は,上記相違点2に係る構成を採用することにより,「ネットワークにおいて,通信機器の通信性能の障害又は通信性能の劣化が検知された場合に,迂回経路へと切り替えることが可能な通信経路制御システムを提供することができる」(本願明細書【0024】)という顕著な効果を奏するものである。 そうすると,相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし4に記載された事項に基づいて,容易に想到し得るものではない。 (イ) 本願発明2ないし8について 上記第4のとおり,本願発明2ないし8は,本願発明1を減縮した発明であって,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし4に記載された事項に基づいて,容易に想到し得るものではない。 ウ まとめ よって,本願発明1ないし8は,当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 したがって,進歩性に関する当審拒絶理由1は解消した。 2 当審拒絶理由2 令和元年7月3日に提出された意見書において,本願の特許請求の範囲の請求項1におけるネットワークは,第1通信機器,第2通信機器及び第3通信機器を含むものであって,通信制御部で,当該ネットワークにおいて,第2通信機器の通信性能の劣化を検知した場合には,経路制御部によって通信経路を変更するものであることが主張されたから,特許法第36条第6項第2号(明確性)に係る拒絶理由は解消した。 3 まとめ 以上のとおり,上記1及び2によれば,当審拒絶理由はすべて解消した。 第6 原査定についての判断 原査定の理由は,上記第2のとおり,平成30年10月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された発明は,引用文献A(引用文献2),引用文献B(引用文献1),引用文献C及び引用文献Dに記載された発明に基づいて,当業者であれば容易に発明できたものである,というものである。 しかしながら,上記第4のとおり,本願の特許請求の範囲は本件補正によって補正されているところ,上記第5の1のとおり,本件補正により付加された上記相違点2に係る構成は,引用文献A(引用文献2)に記載も示唆もされていないし,引用文献B(引用文献1)をみても何ら記載はなく,周知技術であるということもできない。そして,引用文献C及び引用文献Dをみても上記相違点2に係る構成は,何ら記載はないから,本願発明1ないし8は,引用文献AないしDに記載された発明に基づいて当業者であれば容易に発明できたものであるということはできない。 したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-07-29 |
出願番号 | 特願2017-179390(P2017-179390) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04L)
P 1 8・ 537- WY (H04L) P 1 8・ 55- WY (H04L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 玉木 宏治、松崎 孝大、中川 幸洋 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
稲葉 和生 梶尾 誠哉 |
発明の名称 | 通信経路制御システム |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |