• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1353864
審判番号 不服2018-15775  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-28 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2017- 25752「小児の眼の屈折特性を測定する方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日出願公開、特開2017-113587、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)4月29日を国際出願日として出願した特願2016?510942号の一部を、平成29年2月15日に新たに外国語書面出願したものであって、平成29年11月9日付けで拒絶理由が通知され、平成30年2月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月25日付け(同年同月31日送達)で拒絶査定されたところ、同年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年7月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平9-234185号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1、請求項7(補正前の請求項8)から「前記表示装置(36)を前記眼(10)から離れるように移動させること」を削除する補正は、択一的記載の要素を削除する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項1、請求項7(補正前の請求項8)に「前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」という事項を追加する補正は、「第1知覚距離」及び「第2知覚距離」をそれぞれ、具体的な知覚距離として特定する補正であるから、「前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、当該事項は当初明細書の段落【0062】、【0063】に記載されたものであるから、新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-7に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成30年11月28日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項より特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
眼(10)の屈折特性を測定する波面測定装置(32)を備えた、前記眼(10)の屈折特性を測定するシステム(30)であって、該システム(30)は、小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードを有するよう構成され、該システム(30)は、該システム(30)を前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つに切り替えるよう構成された入力装置(34)を有し、該システム(30)は、該システム(30)を前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つに切り替える際に、眼による遠近調節を回避するために固視標(38)を変更するようさらに構成され、該システム(30)は、前記固視標(38)を表示する表示装置(36)を備え、該表示装置(36)は、前記固視標(38)を含む映像を見せるよう構成され、該映像は、1秒間に少なくとも20個の画像の頻度で見せられる一連の画像であり、
該システム(30)は、前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つにおいて、第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され、前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にあることを特徴とするシステム。」

なお、本願発明2-6は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明7は、本願発明1に対応する方法の発明であって、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平09-234185号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付した。)

(引1ア)
「【0056】次に、第2の実施態様について、図4?図7を用いて説明する。
【0057】図4は第2の実施態様の手持ち型の眼科測定装置の測定光学系および固視光学系を示す図、図5は同装置の観察光学系を示す図である。
【0058】図中、1は測定用光源、2は被検眼、3は測定光学系、4は受光部、5は表示モニタ、6'は固視標表示部、7は固視光学系、10はTVカメラ、11はマイクロプロセッサを搭載した基板であるマイコンユニット、12は操作部である。
【0059】TVカメラ10は、測定光学系から分岐された観察光学系中に配置されており、被検眼2の前眼部を被写体として撮影して画像信号を取り込むものである。また、表示モニタ5は、TVカメラ10が取り込んだ画像信号を画像として表示するものである。
【0060】そこで、表示モニタ5には、TVカメラ10が被検眼2の前眼部を撮影して取り込んだ画像信号が、被検眼2の前眼部の画像として表示されるので、測定者は、表示モニタ5の表示内容を見ることで、被検眼2の前眼部の様子を観察することができる。なお、測定者は、測定に先立って、表示モニタ5の表示内容が被検眼2の前眼部となるように、観察光学系の倍率を変更することができる。
【0061】一方、測定光源1の光は、被検眼2に投影され、被検眼2からの反射光が、測定光学系3を介して、受光部4に到達する。受光部4は、測定光学系3を介して到達した反射光を、電気信号に変換してマイクロプロセッサに出力する。
【0062】マイクロプロセッサは、受光部4から出力された電気信号に予め定めた演算を施すことによって、被検眼2の屈折力を測定した測定結果を取得し、取得した測定結果を表示モニタ5に表示する。
【0063】これにより、測定者は、表示モニタ5の表示内容を見ることで、測定結果を知ることができる。
【0064】上述した第1の実施態様においては、従来技術と同様に、固視標表示部6が、眼科測定装置内に設けられている、風景やイラスト等を撮影して現像したスライドを、その後方からランプ等によって投影することで、固視標を表示するものとしているので、固視標は、全ての被検者に共通の内容となっている。
【0065】被検者が乳幼児である場合には、そのような固視標を見せても、注意を引き付ける可能性が低いことから、第2の実施態様は、眼科測定装置が、少なくとも1種類の画像信号を記憶している画像記憶手段と、画像記憶手段が記憶している画像信号を画像として再生する画像再生手段とを備えるようにし、固視標表示部6'が、該画像再生手段が再生した画像を固視標として表示するようにした点を特徴としている。
【0066】ここで、固視標表示部6'は、例えば、液晶表示モニタやビューファインダー等の小型・薄型の表示装置を有する構造であるようにすることができる。
【0067】なお、第2の実施態様においては、被写体を撮影して画像信号を取り込む撮影手段と、該撮影手段が取り込んだ画像信号を前記画像記憶手段に格納する録画手段とをさらに備えるようにしている。
【0068】ただし、本実施態様では、TVカメラ10および表示モニタ5が、上述した観察手段に相当していることを利用して、TVカメラ10を、前記撮影手段として用いるようにしている。すなわち、TVカメラ10が被検眼2以外の被写体を撮影して取り込んだ画像信号を、前記画像記憶手段に格納する録画手段をさらに備えるようにしている。
【0069】そこで、第2の実施態様の手持ち型の眼科測定装置においては、図4および図5に示すように、前記録画手段の動作の開始/停止の指示,前記画像再生手段の動作の開始/停止の指示,前記画像再生手段が再生すべき画像信号の指定を各々受付けるための各スイッチからなる操作部12が設けられている。なお、操作部12が設けられる位置は、図4および図5に示した位置に限るものではない。
【0070】図6は第2の実施態様の特徴に係るブロックの構成図である。
【0071】図中、40は画像入力回路、41は画像記憶媒体、42は画像出力回路、33は録画スイッチ、34は画像再生スイッチ、35は画像選択スイッチ、50はマイクロプロセッサである。
【0072】なお、図6においては、画像入力回路40,画像記憶媒体41,画像出力回路42が、マイクロプロセッサ50と共にマイコンユニット11に搭載されているようにしているが、マイコンユニット11とは別の基板に搭載されているようにしてもよい。
【0073】画像記憶媒体41は、前記画像記憶手段に相当するものである。また、画像入力回路40および画像出力回路42は、マイクロプロセッサ50の制御によってその動作を行うことで、各々、前記録画手段および前記画像再生手段を実現するものである。
【0074】録画スイッチ33は、画像入力回路40の動作の開始/停止の指示を測定者が入力するためのものであり、測定者が録画スイッチ33を押下すると、その旨を示す制御信号がマイクロプロセッサ50に出力されるので、マイクロプロセッサ50は、画像入力回路40が動作を開始するよう制御する。画像入力回路40は、動作を開始すると、TVカメラ10が撮影して取り込んだ画像信号を画像記憶媒体41に格納する。ここで、TVカメラ10が取り込んだ画像信号がアナログ信号である場合には、画像入力回路40は、A/D変換を行うようにする。
【0075】なお、測定者は、録画スイッチ33を再び押下することで、画像入力回路40の動作を停止させることができる。
【0076】また、画像記憶媒体41は、全ての眼科測定装置に共通に用意された画像信号を、予め記憶しているようにすることができる。
【0077】画像再生スイッチ34は、画像出力回路42の動作の開始/停止の指示を測定者が入力するためのものであり、測定者が画像再生スイッチ34を押下すると、その旨を示す制御信号がマイクロプロセッサ50に出力されるので、マイクロプロセッサ50は、画像出力回路42が動作を開始するよう制御する。画像出力回路42は、動作を開始すると、画像記憶媒体41が記憶している画像信号を画像に変換(D/A変換)して固視標表示部6'に出力する。固視標表示部6'は、画像出力回路42から出力された画像を固視標として表示する。
【0078】なお、測定者は、画像再生スイッチ34を再び押下することで、画像出力回路42の動作を停止させることができる。
【0079】また、特に、画像記憶媒体41が記憶している画像信号が2種類以上である場合には、測定者は、画像選択スイッチ35を押下することで、画像として再生すべき画像信号を指定することができる。
【0080】すなわち、画像選択スイッチ35は、画像出力回路42が画像として再生すべき画像信号の指定を測定者が入力するためのものであり、測定者が画像選択スイッチ35を押下すると、その旨を示す制御信号がマイクロプロセッサ50に出力されるので、マイクロプロセッサ50は、該制御信号が出力される度に、画像出力回路42が画像に変換すべき画像信号を順次切り替えるよう制御する。
【0081】以上説明したように、第2の実施態様によれば、測定者は、測定時に、固視標表示部6'が予め用意されている画像や録画された画像を固視標として表示することができるようになる。
【0082】固視標表示部6'が固視標として表示した画像は、固視光学系7を介して、被検眼2に到達するので、被検者は、固視標表示部6'が固視標として表示した画像を見ることができる。
【0083】被検者が固視標を見ると、被検眼2の視軸が測定方向に導かれるので、測定結果の精度を高くすることができる。
【0084】そして、特に、被検者が乳幼児である場合に、乳幼児は、従来技術で表示されていた固視標(風景やイラスト等を撮影して現像したスライドをその後方から投影することで表示した固視標)に比べて、固視標表示部6'が固視標として表示した画像を見る可能性が高くなるので、測定者は、精度の高い測定結果を得ることが可能となる。
【0085】なお、固視標表示部6'は、測定時に、全ての被検者に対して固視標として画像を表示する必要があるが、この画像は、被検者が乳幼児でない場合は、風景やイラスト等の画像であってもよいが、被検者が乳幼児である場合には、乳幼児が好む漫画のキャラクター等の画像であるようにすると効果的である。
【0086】また、被検者が乳幼児である場合には、近親者が付き添っていることが一般的であり、近親者の顔が、乳幼児の注意を引き付ける可能性が特に高いことから、測定に先立って、TVカメラ10で近親者の顔を撮影して取り込んだ画像信号を録画しておけば、固視標表示部6'が固視標として表示する画像を、近親者の顔の画像であるようにすることができるので、さらに効果的である。
【0087】また、従来技術で表示されていた固視標(風景やイラスト等を撮影して現像したスライドをその後方から投影することで表示した固視標)では、スライドを後方から投影するためのランプの電球切れが問題となっていたが、第2の実施態様によれば、ランプを用いていないので、そのような問題が生じることはない。
【0088】ところで、第2の実施態様において、固視標表示部6'が固視標として表示する画像は、静止画であっても動画であってもよい。乳幼児の注意を引き付けるためには、アニメーション等の動画を表示する方が効果が大きいと考えられるが、この場合、測定結果の精度を高めるためには、測定時に、表示中の動画を一時停止させるようにすることが好ましい。
【0089】さらに、第2の実施態様においては、2種類以上の画像信号の論理和を取った画像信号を、画像として再生するようにすることもできる。
【0090】すなわち、画像出力回路42が、画像記憶媒体41が記憶している2種類以上の画像信号の論理和を取り、その結果の画像信号を画像にD/A変換して固視標表示部6'に出力するようにすることもできる。
【0091】このようにする場合は、画像出力回路42が画像に変換すべき画像信号が2種類以上あるので、画像選択スイッチ35が、例えば、テンキーのように、複数の画像信号の指定を1度に行うことが可能な構造とする必要がある。このとき、テンキーの各キーと画像信号との対応関係を表示モニタ5に表示すると、操作性が向上する。
【0092】また、このようにする場合は、図7に示すように、操作部12が、論理和を取る旨の指示を測定者が入力するための画像ミックススイッチ36をさらに備えるようにする必要がある。
【0093】さらに、第2の実施態様においては、固視標として表示する画像のサイズを拡大または縮小するようにすることもできる。すなわち、画像出力回路42が、画像記憶媒体41が記憶している画像信号のサイズを拡大または縮小し、その結果の画像信号を画像に変換して固視標表示部6'に出力するようにすることもできる。
【0094】このようにする場合は、図7に示すように、操作部12が、画像サイズの変更の指示を測定者が入力するための画像サイズ変更スイッチ37をさらに備えるようにする必要がある。
【0095】一般に、測定内容が被検眼2の屈折力であるような眼科測定装置においては、固視標を被検眼2に対して前後に移動させて被検眼2に遠近感を与える、いわゆる「雲霧動作」を行うようになっている。
【0096】従来は、眼科測定装置において、固視標を被検眼に見せるための雲霧光学系と、固視標を前後方向に移動させるためのモータを含む駆動機構とを設け、測定者が、実際の測定の前の予備測定によって、被検眼の屈折力に合わせて固視標をピント位置に移動させ、実際の測定の開始直前に、雲霧量と呼ばれる一定量だけピント位置からボケる方向に固視標を移動させることで、雲霧動作を行うようになっている。なお、測定者は、各被検眼につき数回の測定を行うが、各測定前に、直前の測定値によって雲霧量を加減しながら測定を行うようになっている。
【0097】そこで、第2の実施態様においては、固視標として表示する画像のサイズを段階的に拡大したり縮小したりすることで、被検眼2に遠近感を与え、雲霧動作を行ったときと同等の結果を得ることが可能となる。なお、被検眼2に遠近感を与えるためには、特に、画像のサイズを縮小するときに、画像を構成する画素を間引いたり、輪郭を甘くするなどの画像処理を行って、画像をボケさせるようにすることが好ましい。
【0098】このように、第2の実施態様においては、固視標として表示する画像のサイズを段階的に拡大したり縮小したりすることで、従来の眼科測定装置において必要であった、駆動機構の簡素化を図ることができ、雲霧量だけ固視標を移動させる操作を測定者が行う必要がなくなるという効果が生じる。
【0099】さらに、第2の実施態様においては、画像入力回路40が、TVカメラ10が被検眼2以外の被写体を撮影して取り込んだ画像信号を、画像記憶媒体41に格納するようにしているが、被検眼2以外の被写体を撮影して画像信号として取り込む、TVカメラ10とは別のTVカメラを備えるようにしてもよい。このとき、画像入力回路40は、別のTVカメラが取り込んだ画像信号を、画像記憶媒体41に格納することとなる。
【0100】さらに、第2の実施態様においては、画像記憶媒体41が、マイコンユニット11に搭載されたメモリであるようにしているが、画像記憶媒体41を装着可能な装着部を設けるようにした場合には、CD-ROMやビデオテープ等の外部記憶媒体を、画像記憶媒体41として利用することも可能である。従って、他の録画装置を用いて画像信号を格納したビデオテープや、市販のCD-ROMやビデオテープを利用することができる。」

(引1イ)図4

(引1ウ)図5

(引1エ)図6

(引1オ)図7


したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「測定内容が被検眼2の屈折力であるような眼科測定装置であって、
該装置は、
液晶表示モニタやビューファインダー等の小型・薄型の表示装置である固視標表示部6'と、
画像出力部42は画像信号を固視標表示部6'に出力し、画像出力部42が画像として再生すべき画像信号の指定を入力するための画像選択スイッチ35とを備えており、
被検者が固視標を見て、被検眼2の視軸を測定方向に導くことにより測定結果の精度を高くし、
ここで、固視標表示部6'が固視標として表示する画像は、動画であってもよく、
また、固視標を被検眼2に対して前後に移動させて被検眼2に遠近感を与える、雲霧動作を行う、
測定内容が被検眼2の屈折力であるような眼科測定装置」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「測定内容が被検眼2の屈折力であるような眼科測定装置」と、本願発明1の「眼(10)の屈折特性を測定する波面測定装置(32)を備えた、前記眼(10)の屈折特性を測定するシステム」とは、「前記眼(10)の屈折特性を測定するシステム」である点で共通する。

イ 引用発明1の「画像出力部42は画像信号を固視標表示部6'に出力し、画像出力部42が画像として再生すべき画像信号の指定を入力するための画像選択スイッチ35」と本願発明1の「該システム(30)を前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つに切り替えるよう構成された入力装置(34)」とは、「入力装置(34)」であることで共通する。

ウ 引用発明1の「固視標を被検眼2に対して前後に移動させて被検眼2に遠近感を与える、雲霧動作を行う」ことにおける「雲霧動作」とは、そもそも屈折検査において、目の調節力の介入を防ぐものであることから、引用発明1の「固視標を被検眼2に対して前後に移動させて被検眼2に遠近感を与える、雲霧動作を行う」ことと、本願発明1の「該システム(30)を前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つに切り替える際に、眼による遠近調節を回避するために固視標(38)を変更するようさらに構成され」ることとは、「眼による遠近調節を回避するために固視標(38)を変更するようさらに構成され」る点で共通する。

エ 引用発明1の「固視標」を「画像」「として表示する」「固視標表示部6'」は、本願発明1の「前記固視標(38)を表示する表示装置(36)」に相当する。

オ 引用発明1の「固視標表示部6'が固視標として表示する画像は、動画であってもよ」いことと、本願発明1の「該表示装置(36)は、前記固視標(38)を含む映像を見せるよう構成され、該映像は、1秒間に少なくとも20個の画像の頻度で見せられる一連の画像であ」ることとは、「該表示装置(36)は、前記固視標(38)を含む映像を見せるよう構成され、該映像は、」「一連の画像であ」る点で共通する。

カ 引用発明1の「固視標を被検眼2に対して前後に移動させて被検眼2に遠近感を与える」ことと、本願発明1の「前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つにおいて、第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され、前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にあること」とは、引用発明1の「固視標を被検眼2に対して前後に移動させて被検眼2に遠近感を与える」ことは、本願発明1の「第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せる」ことに対応するから、両者は「第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され」る点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「眼(10)の屈折特性を測定する、前記眼(10)の屈折特性を測定するシステム(30)であって、該システム(30)は、入力装置(34)を有し、該システム(30)は、眼による遠近調節を回避するために固視標(38)を変更するようさらに構成され、該システム(30)は、前記固視標(38)を表示する表示装置(36)を備え、該表示装置(36)は、前記固視標(38)を含む映像を見せるよう構成され、該映像は、一連の画像であり、
該システム(30)は、第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成されることを特徴とするシステム。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1の「眼(10)の屈折特性を測定する波面測定装置(32)を備えた、前記眼(10)の屈折特性を測定するシステム(30」は、「眼(10)の屈折特性を測定する波面測定装置(32)を備え」るのに対して、引用発明1の「測定内容が被検眼2の屈折力であるような眼科測定装置」は、「眼(10)の屈折特性を測定する波面測定装置(32)を備え」るとは特定されていない点。

(相違点2)本願発明1では「小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードを有するよう構成され」ているのに対して、引用発明1には「小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードを有する」とは特定されていない点。

(相違点3)「入力装置(34)」について、本願発明1では「該システム(30)を前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つに切り替えるよう構成され」たものであるのに対して、引用発明1では「画像出力部42は画像信号を固視標表示部6'に出力し、画像出力部42が画像として再生すべき画像信号の指定を行う」ものである点。

(相違点4)「眼による遠近調節を回避するために固視標(38)を変更する」ことが、本願発明1では「該システム(30)を前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つに切り替える際に」行われるのに対して、引用発明1では「該システム(30)を前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つに切り替える際に」行われるとの特定はされていない点。

(相違点5)表示する固視標が、本願発明1では「1秒間に少なくとも20個の画像の頻度で見せられる」のに対して、引用発明1にはそのような特定がされていない点。

(相違点6)「第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せること」が、本願発明1では「前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つにおいて」行われるのに対して、引用発明1では「前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つにおいて」行われるとの特定はされていない点。

(相違点7)「第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され」ることについて、本願発明1では「前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」のに対して、引用発明1では「前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」との特定はされていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み上記相違点7についてまず検討する。
引用発明1には、「固視標を被検眼2に対して前後に移動させて被検眼2に遠近感を与える、雲霧動作を行う」ことのみが特定されているにとどまり、雲霧動作を行う際にどのように固視標が表示されるのか具体的な記載はない。
そして、目の屈折率を測定する際に行われる雲霧動作として、知覚距離の小さい第1知覚距離から知覚距離の大きな第2知覚距離、すなわち被検眼から遠ざかるように固視標の表示を変更し、例えば、短い知覚距離から無限遠へと知覚距離を変更することにより効果的に目の調節介入を防げるというような、第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にあるものとすることが公知の技術事項であるという事情もない。
そうすると、引用発明1に「該システム(30)は、前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つにおいて、第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され、前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」という構成を採用する動機付けはない。
さらに、「該システム(30)は、前記小児に割り当てられた少なくとも1つの測定モードのうち1つにおいて、第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され、前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」という構成により、小児に割り当てられた測定モードにおいて、第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する固視標を表示装置上に見せることにより、小児、特に3歳?10歳の小児の眼の屈折特性の測定において、眼をリラックスさせ、遠近調節を回避するのに役立つという、当業者といえども引用発明1からは予測し得ない顕著な効果を奏する。
したがって、その他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-6について
本願発明2-6も、本願発明1の「第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され」ることについて、「前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明7について
本願発明7は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「第1知覚距離から第2知覚距離へ移動する前記固視標(38)を前記表示装置(36)上に見せることからなる群内の少なくとも1つによって、前記固視標(38)を変更するよう構成され」ることについて、「前記第1知覚距離は前記第2知覚距離よりも小さく、前記第1知覚距離は1ジオプター?4ジオプターの範囲にあり、前記第2知覚距離は0.5ジオプター?0ジオプターの範囲にある」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-7は、当業者が引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-08 
出願番号 特願2017-25752(P2017-25752)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 九鬼 一慶  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 三木 隆
福島 浩司
発明の名称 小児の眼の屈折特性を測定する方法及びシステム  
代理人 杉村 憲司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ