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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61G
管理番号 1353870
審判番号 不服2018-10034  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-23 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2012-147280号「起立着座移動支援装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年1月20日出願公開、特開2014-8250号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年6月29日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 6月29日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 5日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 2月 9日付け:(最後)拒絶理由通知書
同年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月12日付け:(最後)拒絶理由通知書
同年11月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 4月10日付け:補正却下の決定、拒絶査定
同年 7月23日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2.原査定の概要
原査定(平成30年4月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない

1.特開平11-253508号公報
2.特開平10-216183号公報
3.米国特許第7364555号明細書
4.特開2002-136556号公報

第3.審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
そして、「第4.本願発明」から「第6.対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1及び2に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成30年7月23日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。なお、平成29年11月20日の手続補正は、原審において、平成30年4月10日付けで、決定をもって却下されている。
「 【請求項1】
着座姿勢又は起立姿勢にある被介護者の立ち上がり動作又は腰掛け動作を支援すると共に、前記被介護者が立ち上がった後は該被介護者の移動も支援する起立着座移動支援装置であって、
前記被介護者の上体に対して両斜め前方に水平に配置された一対の板体であり、脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手が置かれて前記被介護者の体重がかかる腕置き板体と、
着座姿勢の被介護者の体躯に対して前方斜め上方に前記腕置き板体を水平に保ったままスライド上昇させて、該腕置き板体にて脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手を押し上げることにより、前記被介護者の上体を起立姿勢まで斜め前方に上昇させる、又は、起立姿勢の被介護者の体躯に対して後方斜め下方に前記腕置き板体を水平に保ったままスライド下降させて、脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手が置かれる腕置き板体を下降させることにより、前記被介護者の上体を着座姿勢まで斜め後方に下降させる、前記腕置き板体の下側に設けられた昇降フレームと、
前記昇降フレームの下側に配置されて前記昇降フレームを支持し、床面との間に車輪が設けられることにより床面上を移動可能な基台と、
を備え、
前記一対の腕置き板体には、被介護者側の下部に各々滑車が設けられ、
前記被介護者の坐骨周辺を包んで支持する帯体、及び、該帯体の長さ方向の両端縁部に設けられた二つの環状紐体を備え、これら各々の環状紐体が前記滑車に各々取り付けられるスリングを有し、
前記スリングは、前記帯体の幅方向に延びる筒体を前記帯体の長さ方向の両端縁部に備え、これら筒体内には環状紐体の一部が摺動可能に挿通され、前記筒体から露出した環状紐体の他部が前記滑車に摺接可能に掛けられ、
前記被介護者の脇の下の部分のうち、胴体側部分、大胸筋側部分及び広背筋側部分に当接して、前記被介護者を脇の下から支持する上面が湾曲凹面の脇支持部が前記腕置き板体に設けられ、
前記基台は平面視でU字形であり、U字形の開口側から前記被介護者の両足を収容することができ、
前記基台のU字形の開口に嵌め込むことができ、立ち上がった被介護者が乗った状態で移動することができるボードを有する、ことを特徴とする起立着座移動支援装置。
【請求項2】
前記一対の腕置き板体の上面には前記被介護者の手にて握ることができる垂直方向に延出する握り棒が各々設けられ、前記被介護者が立ち上がり動作を行う際には、該被介護者が小指側を下にして前記握り棒を握ることにより、該被介護者の肘、尺骨側の前腕及び手が前記腕置き板体に密着してこれらが該腕置き板体の上に固定され、前記被介護者が立ち上がった後は、該被介護者が小指側を下にして前記握り棒を握って任意の移動方向に起立着座移動支援装置を移動させることができることを特徴とする請求項1項に記載の起立着座移動支援装置。」

第5.引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
ア.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。以下同様。

「【請求項1】 フレームと、該フレームの下部に設けた複数の車輪と、上記フレームに挿脱自在に設けられた昇降部材の昇降動作により、使用者の身体を起立位置から着座位置、または着座位置から起立位置まで上下動させる昇降機構と、使用者の下肢を支えるベルトを備え、該ベルトの端部を上記昇降部材の上端に位置する上肢支持部に係止した起立補助装置において、
上記フレームの下部に、使用者が足を乗せるための足乗せ台を設けたことを特徴とする起立補助装置。」

「【請求項2】足乗せ台をフレームに着脱自在に取り付けたことを特徴とする請求項1記載の起立補助装置。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、下肢機能に障害を持つ人の歩行、起立、着座、移動動作を支援する起立補助装置に係り、特に、起立、着座、移動動作を補助する際の使用者のベルト装着部への圧迫による苦痛を解消できるようにした起立補助装置に関する。」

「【0014】図1は本発明の一実施形態を示す起立補助装置の側面縦断面図、図2はその正面縦断面図であり、図に示す起立補助装置はフレームA(図2参照)を骨組みとして構成される。フレームAは、図1に示す前脚1a、後脚1bを含む左フレーム1と、右フレーム2と、左右フレーム1、2を結ぶセンターフレーム3により構成されている。なお、フレーム構成は、左右フレーム1、2及びセンターフレーム3が一体化されていてもよい。
【0015】図2に示すフレームAには昇降機構Bが設けられており、昇降機構Bは、センターフレーム3に取り付けられたギヤボックス4と、ギヤボックス4に取り付けられたモータ5の回転がギヤボックス4に内蔵されている複数のギヤを介して出力軸6に伝達される。出力軸6は、ギヤボックス4、センターフレーム3を貫通し、かつ両端にピニオン7が取り付けられている。昇降機構Bの昇降部材8は、左右フレーム1、2に挿抜自在に取り付けられ、昇降部材8の一面には、ピニオン7と噛み合うための歯面が形成されている。また、昇降部材8の上部には、使用者の側に略コの字形に開口して使用者の上肢を支える上肢支持部9が設けられ、上肢支持部9の前側には、昇降スイッチ10と、使用者が手で掴まるためのグリップ11が取り付けられている。
【0016】つまり、本起立補助装置は、昇降スイッチ10を操作すると、昇降機構Bのモータ5が作動し、そのモータの回転力がギヤボックス4内の複数のギヤ、出力軸6、ピニオン7、昇降部材8の一面に形成された歯面を介して昇降部材8に伝達され、昇降部材8が左右フレーム1、2に沿って昇降動作する。このような昇降部材8の昇降動作により、使用者の身体を起立位置から着座位置、または着座位置から起立位置まで上下動させる。
【0017】なお、本実施形態では、左右フレーム1、2およびセンターフレーム3は、合成樹脂等からなるカバー12で覆われ、昇降部材8の左右フレーム1、2の外側部分は、伸縮自在の蛇腹13で覆われている。また、昇降スイッチ10やグリップ11については、使用者の使い勝手を優先して、その取付位置は特に限定されない。
【0018】左右フレーム1、2の下部には、図1に示すように移動機構として、前輪14と後輪15が設けられている。この移動機構によって、本起立補助装置では使用者を、起立させた後、使用者を歩行動作させたり、吊り上げた後、介護者が移動させることもできる。
【0019】ベルト16は、中央部に下肢支持部16aを、端部に接続部16bを備えており、下肢支持部16aは使用者の下肢をホールドするための手段として、また、接続部16bはベルト16の端部を昇降部材8の上端に固定された上肢支持部9の端部に係止するための手段として設けている。
【0020】昇降部材8の上端に固定して上肢支持部9が設けられており、上肢支持部9は、図2に示すように左チャンネル部材17、右チャンネル部材18、中央チャンネル部材19を略H形状に組み合わせたベース部材20と、このベース部材20に取り付けられた軟質部材21により構成され、かつ、左右チャンネル部材17、18の前端部が接続部材22を介して昇降部材8の上端部に接続されている。また、左右チャンネル部材17、18の後端部には、ベルト16の接続部16bと係合するベルト係止部23が設けられている。なお、図示は省略するが、軟質部材21は、使用者の側にコの字形に開口している。」

「【0024】図4は、本発明の他の実施形態を示すもので、同図に示す実施形態は、左右フレーム1、2の下部に受け金具26を取り付け、その受け金具26上に足乗せ台24を載置することにより、足乗せ台24を左右フレーム1、2に着脱自在に取り付けたものである。このような構成によっても、ベルト16を用いて使用者を吊り下げた後、移動させる場合には、使用者が足乗せ台24に足を乗せ、これにより使用者の体重を足にも分散できることから、図2に示す実施形態と同様に、ベルト16装着部の過剰な圧迫による苦痛を解消できる。さらに、使用者を起立させさた後、歩行動作させる場合には、足乗せ台24を取り外すことにより、足乗せ台24が歩行の邪魔になることを回避できる。」

以下の【図1】及び【図4】が示されている。


イ.上記ア.の記載事項から次のことが認定できる。
(ア)【請求項1】及び【請求項2】の「足乗せ台」に関する記載内容から、フレームAの下部に、使用者が足を乗せるための足乗せ台24を着脱自在に取り付けたこと。
(イ)段落【0019】の「接続部16bはベルト16の端部を昇降部材8の上端に固定された上肢支持部9の端部に係止するための手段として設けている。」との記載と、段落【0020】の「左右チャンネル部材17、18の後端部には、ベルト16の接続部16bと係合するベルト係止部23が設けられている。」との記載を併せみると、接続部16bはベルト16の端部を昇降部材8の上端に固定された上肢支持部9の後端部に設けられているベルト係止部23に係止するための手段であること。

したがって、上記ア.の記載事項、上記イ.の認定事項並びに【図1】及び【図4】の図示内容から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「フレームAと、該フレームAの下部に設けた複数の車輪と、前記フレームAに挿脱自在に設けられた昇降部材8の昇降動作により、使用者の身体を起立位置から着座位置、または着座位置から起立位置まで上下動させる昇降機構Bと、使用者の下肢を支えるベルト16を備え、該ベルト16の端部を前記昇降部材8の上端に位置する上肢支持部9に係止した起立補助装置において、
前記フレームAの下部に、使用者が足を乗せるための足乗せ台24を着脱自在に取り付けたものであり、
前記フレームAは、前脚1a、後脚1bを含む左フレーム1と、右フレーム2と、左右フレーム1、2を結ぶセンターフレーム3により構成され、
前記昇降部材8の上部には、使用者の側に略コの字形に開口して使用者の上肢を支える前記上肢支持部9が設けられ、
前記ベルト16は、中央部に下肢支持部16aを、端部に接続部16bを備えており、前記下肢支持部16aは使用者の下肢をホールドするための手段として、また、前記接続部16bは前記ベルト16の端部を前記昇降部材8の上端に固定された前記上肢支持部9の後端部に設けられているベルト係止部23に係止するための手段として設けている、
起立補助装置。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2の特に段落【0023】、段落【0024】の記載、及び【図2】等からみて、引用文献2には、使用者の右腕80、左腕82の肘96,98を支える2つの肘支持手段86,86と、使用者Mの脇部分91,91に挟み込むことで、使用者Mの体を支える脇支持手段84,84を備える歩行補助装置が記載されている。(以下「引用文献2に記載された事項」という。)

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3の特に「1.Field of the Invention」の欄、及び「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION」の欄の記載、並びにFIG.1等からみて、引用文献3には、肩を引っ張って動かす治療装置において、前腕サポート24と、該前腕サポート24の短手方向の両端縁部に結合された二つの二次ロープ22と、該二つの二次ロープ22を支持する二重滑車20と、該二重滑車20の軸を支持するメインロープ16とを有し、該メインロープ16により腕を上げ下げする際に前記二重滑車20及び前記二次ロープ22を介して前記前腕サポート24が動くことで肩への負担を軽減する構成が記載されている。(以下「引用文献3に記載された事項」という。)

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4の段落【0046】?段落【0048】及び段落【0057】?段落【0062】の記載、並びに【図2】及び【図11】等からみて、引用文献4には、補助具50であって、合成樹脂製のパイプ51,52の間に柔軟な素材からなる略長方形状のシート部59を設け、該シート部59の長い方向の両端縁部に前記パイプ51,52が位置するものであり、前記パイプ51,52の片方にロープ56が挿通され該ロープ56の両端がフック部30に掛着し、前記シート部59が患者の肩から腰に当接するよう敷設し、フック部30を上昇させ前記シート部59の片側が上昇することで体位変換を行わせる構成が記載されている。(以下「引用文献4に記載された事項」という。)

第6.対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア.後者は、「使用者の身体を起立位置から着座位置、または着座位置から起立位置まで上下動させる昇降機構B」を備えるものであるところ、引用文献1の段落【0018】の「この移動機構によって、本起立補助装置では使用者を、起立させた後、使用者を歩行動作させたり、吊り上げた後、介護者が移動させることもできる。」との記載を併せみれば、後者の「フレームAと、該フレームAの下部に設けた複数の車輪と、前記フレームAに挿脱自在に設けられた昇降部材8の昇降動作により、使用者の身体を起立位置から着座位置、または着座位置から起立位置まで上下動させる昇降機構Bと、使用者の下肢を支えるベルト16を備え、該ベルト16の端部を前記昇降部材8の上端に位置する上肢支持部9に係止した起立補助装置」は、前者の「着座姿勢又は起立姿勢にある被介護者の立ち上がり動作又は腰掛け動作を支援すると共に、前記被介護者が立ち上がった後は該被介護者の移動も支援する起立着座移動支援装置」に相当する。

イ.後者の「使用者の上肢」は前者の「被介護者の上体」に相当する。
また、後者の「使用者の側に略コの字形に開口して使用者の上肢を支える前記上肢支持部9」は、引用文献1の【図1】を参酌すると、水平に配置される板体であること、脇を閉めた使用者の肘、前腕及び手が置かれて前記使用者の体重がかかることは明らかなことといえる。
そうすると、後者の「上肢支持部9」と、前者の「前記被介護者の上体に対して両斜め前方に水平に配置された一対の板体であり、脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手が置かれて前記被介護者の体重がかかる腕置き板体」とは、「水平に配置された板体であり、脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手が置かれて前記被介護者の体重がかかる腕置き板体」の限度で共通する。

ウ.後者の「昇降部材8の昇降動作により、使用者の身体を起立位置から着座位置、または着座位置から起立位置まで上下動させる昇降機構B」に係る「昇降部材8」は、引用文献1の【図1】に示された昇降動作を参酌すれば、着座姿勢の「使用者」の体躯に対して前方斜め上方に「上肢支持部9」を水平に保ったままスライド上昇させて、該「上肢支持部9」にて脇を閉めた「使用者」の肘、前腕及び手を押し上げることにより、前記「使用者」の上体を起立姿勢まで斜め前方に上昇させることは明らかである。また、「前記昇降部材8の上端に位置する上肢支持部9」との構成から、「昇降部材8」は「上肢支持部9」の下側に設けられているといえる。
そうすると、後者の「昇降部材8」は、前者の「着座姿勢の被介護者の体躯に対して前方斜め上方に前記腕置き板体を水平に保ったままスライド上昇させて、該腕置き板体にて脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手を押し上げることにより、前記被介護者の上体を起立姿勢まで斜め前方に上昇させる、又は、起立姿勢の被介護者の体躯に対して後方斜め下方に前記腕置き板体を水平に保ったままスライド下降させて、脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手が置かれる腕置き板体を下降させることにより、前記被介護者の上体を着座姿勢まで斜め後方に下降させる、前記腕置き板体の下側に設けられた昇降フレーム」に相当する。

エ.後者の「フレームAの下部に」「複数の車輪」を「設けた」構成は、前者の「床面との間に車輪が設けられること」に相当し、後者の「前記フレームAに挿脱自在に設けられた昇降部材8」との構成及び【図1】から、「フレームA」は「昇降部材8」の下側に配置されて前記「昇降部材8」を支持するものといえる。
そうすると、後者の「フレームA」は、前者の「前記昇降フレームの下側に配置されて前記昇降フレームを支持し、床面との間に車輪が設けられることにより床面上を移動可能な基台」に相当する。

オ.後者の「ベルト16」の「使用者の下肢をホールドするための手段として」の「下肢支持部16a」は、前者の「前記被介護者の坐骨周辺を包んで支持する帯体」に相当する。

カ.後者の「前記フレームAは、前脚1a、後脚1bを含む左フレーム1と、右フレーム2と、左右フレーム1、2を結ぶセンターフレーム3により構成され」との事項、「前記フレームAの下部に、使用者が足を乗せる」との事項、及び、引用文献1の【図1】から、後者の「フレームA」は、前者の「前記基台は前記被介護者の両足を収容することができ」ることを充足している。また、後者の「前記フレームAの下部に、使用者が足を乗せるため」に「着脱自在に取り付けた」「足乗せ台24」は、引用文献1の段落【0024】の「左右フレーム1、2の下部に受け金具26を取り付け、その受け金具26上に足乗せ台24を載置することにより、足乗せ台24を左右フレーム1、2に着脱自在に取り付けたものである。このような構成によっても、ベルト16を用いて使用者を吊り下げた後、移動させる場合には、使用者が足乗せ台24に足を乗せ」との記載から、前者の「前記基台のU字形の開口に嵌め込むことができ、立ち上がった被介護者が乗った状態で移動することができるボード」とは、「前記基台に嵌め込むことができ、立ち上がった被介護者が乗った状態で移動することができるボード」の限度で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「着座姿勢又は起立姿勢にある被介護者の立ち上がり動作又は腰掛け動作を支援すると共に、前記被介護者が立ち上がった後は該被介護者の移動も支援する起立着座移動支援装置であって、
水平に配置された板体であり、脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手が置かれて前記被介護者の体重がかかる腕置き板体と、
着座姿勢の被介護者の体躯に対して前方斜め上方に前記腕置き板体を水平に保ったままスライド上昇させて、該腕置き板体にて脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手を押し上げることにより、前記被介護者の上体を起立姿勢まで斜め前方に上昇させる、又は、起立姿勢の被介護者の体躯に対して後方斜め下方に前記腕置き板体を水平に保ったままスライド下降させて、脇を閉めた被介護者の肘、前腕及び手が置かれる腕置き板体を下降させることにより、前記被介護者の上体を着座姿勢まで斜め後方に下降させる、前記腕置き板体の下側に設けられた昇降フレームと、
前記昇降フレームの下側に配置されて前記昇降フレームを支持し、床面との間に車輪が設けられることにより床面上を移動可能な基台と、
を備え、
前記被介護者の坐骨周辺を包んで支持する帯体を有し、
前記基台は前記被介護者の両足を収容することができ、
前記基台に嵌め込むことができ、立ち上がった被介護者が乗った状態で移動することができるボードを有する起立着座移動支援装置。」

(相違点1)
「水平に配置された板体」に関し、
本願発明1は、「前記被介護者の上体に対して両斜め前方に」「配置された一対」のものであるのに対し、
引用発明は、「使用者の側に略コの字形に開口して使用者の上肢を支える」ものである点。

(相違点2)
「帯体」に関連し、
本願発明1は、「前記一対の腕置き板体には、被介護者側の下部に各々滑車が設けられ」るものであり、「該帯体の長さ方向の両端縁部に設けられた二つの環状紐体を備え、これら各々の環状紐体が前記滑車に各々取り付けられるスリングを有し、前記スリングは、前記帯体の幅方向に延びる筒体を前記帯体の長さ方向の両端縁部に備え、これら筒体内には環状紐体の一部が摺動可能に挿通され、前記筒体から露出した環状紐体の他部が前記滑車に摺接可能に掛けられ」ているものであるのに対し、
引用発明は、「前記ベルト16は、中央部に下肢支持部16aを、端部に接続部16bを備えており、前記下肢支持部16aは使用者の下肢をホールドするための手段として、また、前記接続部16bは前記ベルト16の端部を昇降部材8の上端に固定された前記上肢支持部9の後端部に設けられているベルト係止部23に係止するための手段として設けている」点。

(相違点3)
本願発明1は、「前記被介護者の脇の下の部分のうち、胴体側部分、大胸筋側部分及び広背筋側部分に当接して、前記被介護者を脇の下から支持する上面が湾曲凹面の脇支持部が前記腕置き板体に設けられ」る構成であるのに対し、
引用発明は、かかる「脇支持部」が設けられていない点。

(相違点4)
「基台」及び「ボード」に関連し、
本願発明1は、「基台」が「平面視でU字形であり、U字形の開口側から」被介護者の両足を収容することができ、「ボード」が「基台のU字形の開口に」嵌め込むことができるのに対し、
引用発明は、「前記フレームA」が、「前脚1a、後脚1bを含む左フレーム1と、右フレーム2と、左右フレーム1、2を結ぶセンターフレーム3により構成され」、「足乗せ台24」が「前記フレームAの下部に、」「着脱自在に取り付けたものであ」る点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み上記相違点2について検討する。
ア.引用発明は、「接続部16bは前記ベルト16の端部を昇降部材8の上端に固定された前記上肢支持部9の後端部に設けられているベルト係止部23に係止するための手段として設けている」ものであり、「下肢支持部16a」が備える「ベルト16」を「上肢支持部9」に係止する構造として、「接続部16b」及び「ベルト係止部23」を設けるものであり、当該係止する構造に代えて、上記相違点1に係る本願発明1の構成を採用する動機付けは見出されない。

イ.上記第5.3.で述べた引用文献3に記載された事項には、本願発明1の「被介護者の坐骨周辺を包んで支持する帯体」、「滑車」、及び「環状紐体」に対応する、「前腕サポート24」、「二重滑車20」、及び「二次ロープ22」が開示されている。
しかしながら、本願発明1は「起立着座移動支援装置」であり、引用文献3に記載された事項は「肩を引っ張って動かす治療装置」であるから、発明が属する技術分野が異なるものである。そして、上記技術分野の違いから、本願発明1の「被介護者の坐骨周辺を包んで支持する帯体」と引用文献3に記載された事項の「前腕サポート24」とは、上昇又は下降する際の荷重が異なる上に、引用文献3に記載された事項には、「前腕サポート24」の幅方向に延びる筒体を前記「前腕サポート24」の長さ方向の両端縁部に備える構成は開示されていない。また、本願発明1は「帯体の長さ方向の両端縁部に設けられた二つの環状紐体を備え」るのに対し、引用文献3に記載された事項は、前腕サポート24の短手方向の両端縁部に結合さられた二つの二次ロープ22を備えるものである。
そうすると、引用文献3に記載された事項には、上記相違点2に係る本願発明1の「該帯体の長さ方向の両端縁部に設けられた二つの環状紐体を備え、これら各々の環状紐体が前記滑車に各々取り付けられるスリングを有し、前記スリングは、前記帯体の幅方向に延びる筒体を前記帯体の長さ方向の両端縁部に備え、これら筒体内には環状紐体の一部が摺動可能に挿通され、前記筒体から露出した環状紐体の他部が前記滑車に摺接可能に掛けられ」との構成のうち、特に下線部の構成が記載も示唆もされていないものである。

ウ.上記第5.4.で述べた引用文献4に記載された事項には、本願発明1の「被介護者の坐骨周辺を包んで支持する帯体」、「筒体」、及び「環状紐体」に対応する「シート部59」、「合成樹脂パイプ51,52」、及び「ロープ56」を有するものであり、「該シート部59の長い方向の両端縁部に前記パイプ51,52が位置する」構成が開示されている。
しかしながら、本願発明1は「起立着座移動支援装置」であり、引用文献4に記載された事項は、「『寝たきり』状態となった患者の排便あるいは褥瘡(床ずれ)防止あるいは寝返りのための体位の変換を容易ならしむるために用いられる体位変換用リフト装置」及び「補助具」である(引用文献4の段落【0001】を参照。)から、発明が属する技術分野が異なるものである。そして、引用文献4に記載された事項は、「前記パイプ51,52の片方にロープ56が挿通され該ロープ56の両端がフック部30に掛着」されるものであるから、「シート部59」の長さ方向の両端縁部に設けられた二つの「ロープ56」を備えるものではないし、該「ロープ56」は滑車に摺接可能に掛けられているものでもない。
そうすると、引用文献4に記載された事項には、上記相違点2に係る本願発明1の「該帯体の長さ方向の両端縁部に設けられた二つの環状紐体を備え、これら各々の環状紐体が前記滑車に各々取り付けられるスリングを有し、前記スリングは、前記帯体の幅方向に延びる筒体を前記帯体の長さ方向の両端縁部に備え、これら筒体内には環状紐体の一部が摺動可能に挿通され、前記筒体から露出した環状紐体の他部が前記滑車に摺接可能に掛けられ」との構成のうち、特に下線部の構成が記載も示唆もされていないものである。

エ.仮に上記ア.で述べた「係止する構造」において設計変更する余地があるとしても、上記イ.及びウ.で述べたように、引用文献3及び4に記載された事項は、上記相違点2に係る本願発明1の構成を部分的に開示するものに留まるものであって、引用文献3及び4に記載された事項を折衷的に組み合わせる合理的理由はないから、引用発明に引用文献3及び4に記載された事項を適用しても、上記相違点2に係る本願発明1の構成に至るものではない。
また、引用文献2は上記相違点3に関連する文献であり、上記相違点2に係る本願発明1の構成を開示するものではない。

以上のことから、上記相違点1、3及び4について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7.原査定について
本願発明1及び2は、上記第5.1.(1)で述べた相違点1に係る本願発明1の構成を発明特定事項として含むものであるから、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-05 
出願番号 特願2012-147280(P2012-147280)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 島田 信一
一ノ瀬 覚
発明の名称 起立着座移動支援装置  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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