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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1353877 |
審判番号 | 不服2017-18088 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-05 |
確定日 | 2019-08-01 |
事件の表示 | 特願2013- 33036「表面被覆膜の形成方法及び表面被覆膜を有する太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月15日出願公開、特開2014- 90153〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年2月22日(優先権主張 平成24年10月5日)の出願であって、その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。 平成28年 2月10日:出願審査請求書 同年11月10日:拒絶理由通知(11月15日発送) 同年12月19日:手続補正書・意見書の提出 平成29年 4月13日:拒絶理由通知(4月18日発送) 同年 6月16日:手続補正書・意見書の提出 同年 8月28日:補正の却下の決定(9月5日送達) 同年 8月28日;拒絶査定(9月5日送達。以下「原査定」 という。) 同年12月 5日:審判請求書・手続補正書の提出 平成30年10月23日:拒絶理由通知(11月6日発送) 同年12月25日:期間延長請求書の提出 平成31年 2月 5日:手続補正書・意見書の提出 同年 2月19日:拒絶理由通知(2月26日発送) 令和 1年 5月 7日:手続補正書・意見書の提出 第2 令和1年5月7日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和1年5月7日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [補正却下の決定の理由] 1 補正内容 本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成31年2月5日付け手続補正後のもの)について、 「【請求項1】 表面被覆膜形成用化合物成分と有機溶剤成分とを含む表面被覆膜形成用組成物を調製する工程と、前記表面被覆膜形成用組成物を被覆対象母材におけるシリコン基板上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、前記塗布膜を600℃の焼成温度において焼成する焼成工程とを有し、 前記有機溶剤成分がケトン類を含み、 前記表面被覆膜形成用組成物を調製する工程が水を添加すること、酸触媒を添加すること、及び、下記(a)又は(b)を添加することを含む、Si元素とTi元素又はZr元素とを有する表面被覆膜の形成方法。 (a)Si元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物、及びTi元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物であって、SiO_(2)換算とTiO_(2)換算での質量比が1:99?50:50であるもの (b)Si元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物、及びZr元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物であって、SiO_(2)換算とZrO_(2)換算での質量比が1:99?97:3であるもの」とあったものを、 本件補正後の請求項1の 「【請求項1】 表面被覆膜形成用化合物成分と有機溶剤成分とを含む表面被覆膜形成用組成物を調製する工程と、前記表面被覆膜形成用組成物を被覆対象母材におけるシリコン基板上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、前記塗布膜を600℃の焼成温度において焼成する焼成工程とを有し、 前記有機溶剤成分がケトン類を含み、 前記表面被覆膜形成用組成物を調製する工程が水を添加すること、酸触媒を添加すること、及び、下記(a)又は(b)を添加することを含む、Si元素とTi元素又はZr元素とを有し、 前記塗布工程及び前記焼成工程が、前記シリコン基板のp型上及びn型上において行うものであり、 前記表面被覆膜がパッシベーション膜である、表面被覆膜の形成方法。 (a)Si元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物、及び、Ti元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物であってSiO_(2)換算とTiO_(2)換算での質量比が1:99?50:50であるもの (b)Si元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物、及びZr元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物であって、SiO_(2)換算とZrO_(2)換算での質量比が1:99?97:3であるもの」と補正する内容を含むものである(下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。 2 補正目的 上記「1」の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「塗布工程及び焼成工程」について、シリコン基板のp型上及びn型上において行うものであることを特定するとともに、「表面被覆膜」について、パッシベーション膜であると特定するものであって、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記「第2 1」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。 (2)引用文献に記載の事項 平成31年2月18日付け拒絶理由通知において引用した特開2003-303984号公報(以下引用文献」という。)には、図とともに、以下の記載がある。 ア 「【請求項1】 pn接合を有するシリコン基板の受光面側および非受光面側の少なくとも一方の面に水素ガスを含む原料ガスによりプラズマ処理を行なう工程と、 前記シリコン基板の受光面側に酸化膜材料を含む塗料を塗布し、乾燥し、焼成して少なくとも一層の酸化膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする太陽電池の製造方法。 【請求項2】 前記酸化膜材料は、450℃?700℃で焼成することを特徴とする請求項1記載の太陽電池の製造方法。 【請求項3】 …… 【請求項6】 前記酸化膜材料は、少なくとも一種類のX-OR(Xは、Li、Be、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbまたはLuを表す。Rは、直鎖状または分枝を有する炭化水素基を表す。)またはX-OHで表される化合物を含むことを特徴とする請求項1または3記載の太陽電池の製造方法。」 イ 「【0018】 【発明の実施の形態】(実施の形態1)本発明の太陽電池の製造方法は、pn接合を有するシリコン基板の受光面側および非受光面側の少なくとも一方の面に、水素ガスを含む原料ガスによりプラズマ処理を行なってから、シリコン基板の受光面側に酸化膜材料を含む塗料を塗布し、乾燥し、焼成して、少なくとも一層の酸化膜を形成することを特徴とする。 【0019】かかる方法により、pn接合を有するシリコン基板の表面および粒界の双方において優れたパッシベーション効果を発揮し、シリコン基板の受光面側に酸化膜が少なくとも1層形成されていることを特徴とする太陽電池を製造することができる。 【0020】 …… 【0029】n={(元素X1の酸化物の屈折率)×(X1-OR+X1-OHの重量)+(元素X2の酸化物の屈折率)×(X2-OR+X2-OHの重量)}÷{(X1-OR+X1-OHの重量)+(X2-OR+X2-OHの重量)} したがって、X-ORやX-OHで表される化合物の配合量を調整することにより、酸化膜の屈折率nを適正値である1.8?2.3となるように設計できる。たとえば、酸化膜材料として、Si(OC_(2)H_(5))_(4)(テトラエトキシシラン)とTi(OCH(CH_(3))_(2))_(4)(チタン酸イソプロピル)を3:7の重量比で配合したものを用いると、500℃で焼成した揚合の屈折率nはSiO_(2)が1.45であり、TiO_(2)が2.2であるから、酸化膜の屈折率nはつぎのようになる。 【0030】 …… 酸化膜材料として配合させる元素は3種類以上でもよいが、取り扱いが複雑になるため、2種類までが好ましい。また、SiO_(2)の屈折率は1.45であるのに対して、他の酸化物の屈折率は2.0?2.4程度であるため、屈折率を大きく変化させるにはXの1つはシリコンであることが好ましい。 【0031】酸化膜材料は、エタノールなどの有機溶剤に配合し、必要に応じて酢酸エチルを加えて、混合し、塗料とする。 【0032】酸化膜材料の乾操は、液体成分、主に有機溶剤を除去するために行ない、80℃?200℃で行なうことが好ましい。 【0033】 …… 【0034】X-OR + HO-X → X-O-X + ROH(蒸発) 酸化膜材料は、450℃以上で焼成すると、この反応はほぼ完了し、X-O-X構造を主体とする酸化膜を形成する。膜中の酸素原子は、シリコン基板表面の未結合手と結合し始め、基板表面のパッシベーション効果が生じるようになる。450℃では、酸素原子とシリコン基板表面の未結合手との結合確率はまだ低く、結合力も弱いため、パッシベーション効果が小さいが、焼成温度を600℃以上にすると、基板表面のパッシベーション効果は著しく向上する。一方、600℃以上で焼成すると、シリコン原子と結合している水素原子がシリコン基板の粒界から離脱し始め、粒界のパッシベーション効果が小さくなる。したがって、焼成温度は700℃以下が好ましく、基板表面のパッシベーション効果をも考慮すると、600℃近傍で焼成するのがより好ましい。 【0040】本実施の形態では、水素プラズマ処理を行なってから、酸化膜を形成し、表面電極および裏面電極を形成したが、水素プラズマ処理を行なってから、酸化膜を形成するならば他の工程の順序は不問であり、たとえば裏面電極を形成してから、水素プラズマ処理を行ない、酸化膜を形成してもよい。 【0041】各製造工程におけるシリコン基板の表面および粒界の分子構造を模式的に図2に示す。 【0042】p型のシリコン基板にn層を形成し、またはn型シリコン基板にp層を形成し、pn接合を形成したとき、基板の表面および粒界には、OHやOで終端している構造や未結合手(図2中の●は、未結合手を示す。)が存在している(図2(a))。未結合手は反応性に富むため、未結合手が多いと受光したときに発生するキャリアが未結合手に捕捉されて、光電変換効率が低下する。 【0043】 …… 【0044】酸化膜材料を含む塗料を塗布しても、基板の表面および粒界における未結合手に変化はない(図2(b)、図2(c))。 【0045】酸化膜材料を含む塗料を乾燥し、塗料中の溶媒(ROH)を除去しても、未結合手の状態に変化はない(図2(c)、図2(d))。 【0046】酸化膜材料を焼成すると、基板の粒界では、水素プラズマ処理により基板内部に打ち込まれた水素ラジカルが拡散し、水素ラジカルが未結合手と結合し、パッシベーション効果を示す。一方、基板の表面では、プラズマ処理により表面がダメージを受け、生じた未結合手が酸化膜の酸素により終端し、パッシベーション効果を示す(図2(e))。」 ウ 図2は、以下のものである。 (3)引用文献に記載された発明 ア 上記(2)アの記載からして、引用文献には、 「シリコン基板の受光面側に酸化膜材料を含む塗料を塗布する工程と、 前記塗料を乾燥する工程と、 前記塗料を450℃?700℃で焼成する工程と、 を有する酸化膜の形成方法。」が記載されているものと認められる。 イ 上記(2)イの記載からして、以下のことが理解できる。 (ア)上記アの「シリコン基板」は、p型シリコン基板又はn型シリコン基であってもよいこと。 (イ)上記アの「酸化膜」は、パッシベーション効果を生じること。 (ウ)上記アの「酸化膜材料を含む塗料」は、具体的には、 テトラエトキシシランとチタン酸イソプロピルの配合量を、酸化膜の屈折率が1.8?2.3となるように調製し、エタノールなどの有機溶剤に配合したものであってもよいこと。 (エ)上記アの「乾燥する工程」における乾操は、80℃?200℃で行なうことが好ましいこと。 (オ)上記アの「焼成する工程」における焼成は、600℃近傍で行うことがより好ましいこと。 ウ 上記(2)イの記載を踏まえて、塗布後の状態を示す図2(c)を見ると、水酸基が導入され、メタロキサン結合が形成されていることから、「部分的に加水分解・脱水縮合反応して生成した化合物」がエタノールなどの有機溶剤に溶解していることが理解できる。 また、乾燥後の状態を示す図2(d)を見ると、「部分的に加水分解・脱水縮合反応して生成した化合物」の構造に変化のないことが理解できる。 そして、焼成後の状態を示す図2(e)を見ると、「メタロキサン結合を骨格とするメタロキサンポリマー」が形成されていることが理解できる。 エ 上記アないしウからして、引用文献には、次の「酸化膜の形成方法」が記載とされているものと認められる。 「シリコン基板の受光面側に酸化膜材料を含む塗料を塗布する工程と、 前記塗料を80℃?200℃で乾燥する工程と、 前記塗料を600℃近傍で焼成する工程と、を有するパッシベーション効果を生じる酸化膜の形成方法であって、 前記シリコン基板は、p型シリコン基板又はn型シリコン基板であり、 前記塗料は、 テトラエトキシシランとチタン酸イソプロピルの配合量を酸化膜の屈折率が1.8?2.3となるように調製し、エタノールなどの有機溶剤に配合したものである、パッシベーション効果を生じる酸化膜の形成方法。」 オ 上記エの「酸化膜の形成方法」において、「シリコン基板の受光面側に酸化膜材料を含む塗料を塗布する工程」前に、「酸化膜材料を含む塗料を調製する工程」のあることは、当業者にとって明らかである。 カ 上記アないしオからして、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「酸化膜材料を含む塗料を調製する工程と、 シリコン基板の受光面側に前記塗料を塗布する工程と、 前記塗料を80℃?200℃で乾燥する工程と、 と、を有するパッシベーション効果を生じる酸化膜の形成方法であって、 前記シリコン基板は、p型シリコン基板又はn型シリコン基板であり、 前記塗料は、 テトラエトキシシランとチタン酸イソプロピルの配合量を酸化膜の屈折率が1.8?2.3となるように調製し、エタノールなどの有機溶剤に配合したものである、パッシベーション効果を生じる酸化膜の形成方法。」 (4)対比 ア 本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。 (ア)引用発明の「酸化膜材料を含む塗料」は、「シリコン基板」に塗布され「パッシベーション効果を生じる酸化膜」を形成するものであるから、本願補正発明の「表面被覆膜形成用組成物」であるといえる。 また、引用発明の「テトラエトキシシランとチタン酸イソプロピル」及び「エタノールなどの有機溶剤」は、それぞれ、本願補正発明の「表面被覆膜形成用化合物成分」及び「有機溶剤成分」に相当する。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「表面被覆膜形成用化合物成分と有機溶剤成分とを含む表面被覆膜形成用組成物を調製する工程を有する」点で一致する。 (イ)引用発明の「シリコン基板の受光面側に塗料を塗布する工程」は、本願補正発明の「表面被覆膜形成用組成物を被覆対象母材におけるシリコン基板上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程」に相当する。 (ウ)引用発明の「焼成する工程」は、本願補正発明の「焼成工程」に相当するものであるから、本願補正発明と引用発明とは、「塗布膜を所定の焼成温度において焼成する焼成工程とを有する」点で一致する。 (エ)次に、本願補正発明の「塗布工程及び焼成工程が、シリコン基板のp型上及びn型上において行うものであり」の意味について、本願明細書の記載を参酌して検討する。 a 本願明細書には、以下の記載がある。 「【0037】 〔3〕表面被覆膜の適用先 被覆対象母材としては、樹脂、ガラス、半導体など、様々なものが特に制限なく使用でき、適用される最終製品も様々である。表面被覆膜の使用目的としては、絶縁膜、反射防止膜、半導体のパッシベーション膜としての使用が考えられるが、特に太陽電池の反射防止膜やパッシベーション膜として適用すると有効である。 【0038】 上記太陽電池は、シリコン基板と、シリコン基板の受光面(太陽光が入射する側の表面)上、あるいは、反対面に形成されたSi、TiあるいはZrの元素から選択される2種以上の元素を有するパッシベーション膜とを含む。」 「【0047】 このようにして得られた実施例1の塗布液を、p型の両面にスピンコーターにて4000rpmで塗布し、…312μsであった。また、表面再結合速度Sは99cm/sであった。 【0048】 また、実施例1の塗布液を、n型シリコンウェハーの両面にスピンコーターにて4000rpmで塗布し、…1030μsであった。また、表面再結合速度Sは30cm/sであった。」 「【0068】 表1に示すとおり、p型シリコンウェハー上の評価において、…半導体のパッシベーション膜としての特性に優れることが判明した。 また、表2に示すとおり、n型シリコンウェハー上の評価においては、…特に6:4?8:2の範囲で1000μsを超える値を示した。 したがって、この表面被覆膜を太陽電池のパッシベーション膜として適用した場合には、発電効率の向上を図ることができると期待できる。」 b 上記記載からして、 本願明細書に記載されている「p型」及び「n型」とは、(一枚の)シリコン基板全体の導電型を示す記号であると解される。 そして、本願補正発明は、シリコン基板の表面に、その導電型とは異なる他の導電型領域(p層又はn層)を形成する工程を備えることは特定されていない。 そうすると、本件補正後の請求項1の第2行目に記載された「被覆対象母材におけるシリコン基板」は、p型シリコン基板であっても、n型シリコン基板であってもよいことになる、つまり、上記「塗布工程及び焼成工程が、シリコン基板のp型上及びn型上において行うものであり」とは、本願補正発明の「表面被覆膜の形成方法」が、p型及びn型の両方に適用できることを意味するもの解される。 c よって、本願補正発明と引用発明とは、「塗布工程及び焼成工程が、シリコン基板のp型上及びn型上において行うものである」点で一致する。 イ 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。 <一致点> 「表面被覆膜形成用化合物成分と有機溶剤成分とを含む表面被覆膜形成用組成物を調製する工程と、前記表面被覆膜形成用組成物を被覆対象母材におけるシリコン基板上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、前記塗布膜を所定の焼成温度において焼成する焼成工程とを有し、 前記塗布工程及び前記焼成工程が、前記シリコン基板のp型上及びn型上において行うものであり、 前記表面被覆膜がパッシベーション膜であり、 Si元素とTi元素とを有する表面被覆膜の形成方法。」 ウ 一方、両者は、以下の点で相違する。 <相違点1> 表面被覆膜形成用組成物を調製する工程に関して、 本願補正発明は、 「有機溶剤成分がケトン類を含み」、 「水を添加すること、酸触媒を添加することを含み」、 「下記(a)又は(b)を添加することを含む (a)Si元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物、及びTi元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物であって、SiO_(2)換算とTiO_(2)換算での質量比が1:99?50:50であるもの (b)Si元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物、及びZr元素のアルコラート若しくはアセチルアセトナートの部分加水分解物であって、SiO_(2)換算とZrO_(2)換算での質量比が1:99?97:3であるもの」であるのに対して、 引用発明は、そのようなものであるか否か不明である点。 <相違点2> 所定の焼成温度に関して、 本願補正発明は、「600℃」であるのに対して、 引用発明は、600℃近傍である点。 (5)判断 ア 上記<相違点1>について検討する。 (ア)引用文献には、引用発明の「酸化膜材料を含む塗料」を、具体的にどのような手順(条件)で調製するかは記載されていないものの、引用文献の記載及び図2からして、該「酸化膜材料を含む塗料」には、「部分的に加水分解・脱水縮合反応して生成した化合物」が含まれ、該化合物は、本願発明1の「部分加水分解物」に相当する。 (イ)そして、一般に、複数の金属アルコキシドを含む溶液を調製する際にそれらを別々の反応系(反応容器)で調製した後に混合撹拌することが普通になされている(以下「周知技術」という。)ことを踏まえると、「テトラエトキシシラン」と「チタン酸イソプロピル」を別々の反応系で調製し、その後、例えば、酸化膜の屈折率が2.0程度となるように、両者をSiO_(2)換算とTiO_(2)換算での質量比で4:6に混合撹拌して、「酸化膜材料を含む塗料」とすることは、当業者が容易になし得たことであり、その際、「水、酸触媒及びケトン」を添加することは、反応速度などを勘案して適宜なし得た設計事項である。 必要ならば、下記の文献を参照。 特開2011-82247号公報(【0060】) 特開2009-163228号公報(【0057】、【0076】) 特開2005-179499号公報(【0042】) 特開平10-87329号公報(【0063】ないし【0068】) 特開平9-118543号公報(【0004】ないし【0005】) (ウ)上記(イ)のようにした引用発明の「酸化膜材料を含む塗料を調製する工程」は、上記<相違点1>に係る本願補正発明の構成を備えることになる。 イ 上記<相違点2>について検討する。 引用発明において、焼成温度を「600℃」とすることに何ら困難性は認められない。 ウ 効果 本願補正発明の効果は、引用発明の奏する効果及び上記周知技術の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。 エ 判断のまとめ 本願補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (6)令和1年5月7日に提出の意見書における主張 意見書において、以下のように主張していることから、この点について検討する。 ア 「引用文献には……基板の非受光面側にも酸化膜を形成すること、ないし、p型及びn型の両方に酸化膜を形成することは記載されていません。」(第2頁中段) しかしながら、本願補正発明の「p型上及びn型上」における「p型」及び「n型」とは、本願明細書の記載からして、(一枚の)シリコン基板全体の導電型を示す記号であると解される。 そして、本願補正発明は、シリコン基板の表面に、その導電型とは異なる他の導電型領域(p層又はn層)を形成する工程を備えることは特定されていない。 一方、引用発明の「シリコン基板」は、「p型シリコン基板又n型シリコン基板」であるから、引用発明の「酸化膜の形成方法」は、p型及びn型の両方に酸化膜を形成するものであるといえる。 イ 「本願発明1は、p型及びn型ともにライフタイムを向上できる(実施例)という、引用発明からは容易に想到できない優れた効果を奏します。かかる本願発明1は、……例えば、太陽電池用のp-n接合を有する基板の受光面側とその裏面の両方に表面被覆膜形成用組成物(これは本願実施例のように同一組成物であってもよい。)を塗布し焼成して表面被覆膜(酸化膜)を形成することができるという、引用発明から容易に想到できない、利用価値の高い技術であるものと思料致します。」(第3頁後段) しかしながら、引用発明は、シリコン基板の受光面側に酸化膜を形成するものであるから、ライフタイムが向上することは予測し得ることである。 また、本願補正発明の「被覆対象母材におけるシリコン基板」は、太陽電池を構成する「p-n接合を有する基板」に限定されるものではないが、仮に、「p-n接合を有する基板」であるとしても、本願明細書の【0038】には「上記太陽電池は、シリコン基板と、シリコン基板の受光面(太陽光が入射する側の表面)上、あるいは、反対面に形成されたSi、TiあるいはZrの元素から選択される2種以上の元素を有するパッシベーション膜とを含む。」と記載されており、受光面側とその裏面の両方に(同時に)形成することは記載されていない。 ウ よって、請求人の上記主張は、上記「(5)判断」の判断を左右するものではない。 (7)独立特許要件についてのまとめ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記<相違点1>及び<相違点2>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。 そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測し得る範囲内のものであり、上記<相違点1>及び<相違点2>を総合判断しても、本願補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易になし得たことであるというほかない。 よって、本願補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。 4 補正却下の決定の理由のむすび 上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて、本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。 2 引用文献 引用文献の記載事項は、上記「第2 3(2)及び(3)」に記載したとおりである。 3 対比・判断 (1)本願発明は、上記「第2 2」で検討した本願補正発明から「前記塗布工程及び前記焼成工程が、前記シリコン基板のp型上及びn型上において行うものであり」及び「前記表面被覆膜がパッシベーション膜である」との限定を省いたものである。 (2)そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3(4)及び(5)」で対比・判断したとおり、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4 まとめ よって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-05-30 |
結審通知日 | 2019-06-04 |
審決日 | 2019-06-17 |
出願番号 | 特願2013-33036(P2013-33036) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
WZ
(H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 嵯峨根 多美、森江 健蔵 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 表面被覆膜の形成方法及び表面被覆膜を有する太陽電池 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 正林 真之 |