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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1353916
審判番号 不服2018-3280  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-06 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2014-13545「内部に流路を設けない複合板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月3日出願公開、特開2015-139800、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月28日の出願であって、平成29年5月15日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年7月3日付けで手続補正がされ、平成29年12月13日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年3月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成31年4月24日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、令和元年6月7日付けで手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献A、B及びEに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.本願請求項2及び3に係る発明は、以下の引用文献AないしC及びEに基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.本願請求項4ないし10に係る発明は、以下の引用文献A、B、D及びEに基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献等一覧
A.特開2010-194545号公報
B.特開2013-39613号公報
C.特開2010-105019号公報
D.特開2002-248584号公報
E.特開平10-249551号公報


第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は次のとおりである。
本願請求項1ないし3に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平10-71478号公報(新たに引用された文献、周知技術を示す文献)
2.特開2007-160370号公報(新たに引用された文献、周知技術を示す文献)
3.特開2013-39613号公報(拒絶査定時の引用文献B、周知技術を示す文献)
4.特開2010-194545号公報(拒絶査定時の引用文献A、周知技術を示す文献)
5.特開2000-202645号公報(新たに引用された文献、周知技術を示す文献)


第4 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、令和元年6月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりである。

「【請求項1】
攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの板状の金属部材を接合する内部に流路を設けない複合板の製造方法であって、
一方の前記金属部材の表面と他方の前記金属部材の裏面とを重ね合わせて重合部を形成する重合部形成工程と、
他方の前記金属部材の表面から前記攪拌ピンを挿入し、一方の前記金属部材の表面と他方の前記金属部材の裏面との重合部に沿って前記回転ツールを相対移動させる本接合工程と、を含み、
前記本接合工程において、他方の前記金属部材の表面から回転した前記攪拌ピンを挿入し、前記攪拌ピンのみを他方の前記金属部材のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行うことを特徴とする内部に流路を設けない複合板の製造方法。
【請求項2】
前記本接合工程の前に、前記重合部を仮接合する仮接合工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の内部に流路を設けない複合板の製造方法。
【請求項3】
前記本接合工程の終了後、前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内部に流路を設けない複合板の製造方法。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献について
(1)引用文献1
当審拒絶理由通知に引用された引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、摩擦攪拌接合法によって接合部材を接合する方法に関し、特に、厚さ方向に重ね合わせた接合部材を、接合部材表面からプローブを挿入して接合を施す方法であって、接合部位の深さが変化する場合に好適な摩擦攪拌接合法に関する。
【0002】
【従来の技術】摩擦攪拌接合法としては以下に述べる方法が例示できる。即ち、図2に示すように、径大の支持体の端部の軸線上に径小のプローブが突出して一体に設けられた接合装置を用い、前記接合装置を高速で回転させつつ、厚さ方向に重ね合わせた2枚の接合部材の一方の表面に前記プローブを突き立てて、接合部位に達するまで前記プローブを挿入し、前記プローブと接合部材との間に発生する摩擦熱によって、プローブ挿入部分周辺の接合部材を軟化させ、かつ、プローブの回転によって軟化部分を攪拌し、軟化した接合部材を再び冷却固化することで、接合部材を接合する方法である。また、前記支持体は、プローブが接合部位に達した状態で支持体の端面が接合部材の表面に当接または近接しており、摩擦攪拌接合法においてプローブによって軟化した接合部材が飛散するのを防止する働きを担うものである。」

引用文献1の図2には、内部に流路が設けられていない2枚の板状の接合部材21、22を摩擦攪拌接合する技術が記載されていると認められる。
引用文献1の図2には、2枚の板状の接合部材21、22の重ね合わせ部に沿って接合装置1を相対移動させる点が記載されていると認められる。
引用文献1の図2には、プローブ11を一方の接合部材と他方の接合部材の両方に接触させた状態で重ね合わせ部の摩擦攪拌を行う点が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「回転によって攪拌を行うプローブ11を備えた高速で回転する接合装置1を用いて2枚の板状の接合部材21、22を接合する内部に流路を設けない接合部材21、22の製造方法であって、
一方の接合部材22の表面と他方の接合部材21の裏面とを重ね合わせる工程と、
他方の前記接合部材21の表面から前記プローブ11を挿入し、一方の前記接合部材22の表面と他方の前記接合部材21の裏面との重ね合わせ部に沿って前記接合装置1を相対移動させる接合工程と、を含み、
他方の前記接合部材21の表面から回転した前記プローブ11を挿入し、前記プローブ11を一方の前記接合部材22と他方の前記接合部材21の両方に接触させた状態で前記重ね合わせ部の摩擦攪拌を行う内部に流路を設けない接合部材21、22の製造方法。」

(2)引用文献2
当審拒絶理由通知に引用された引用文献2の段落【0030】、【0033】の記載から見て、当該引用文献2には、薄手の被接合部材5、5の接合において、ショルダ部1の端面1aを被接合部材5に接触させず、ピン部2、3のみを被接合部材5、5に接触させるという技術的事項が記載されていると認められる。

(3)引用文献3
当審拒絶理由通知に引用された引用文献3の段落【0062】の記載から見て、当該引用文献3には、本接合用回転ツールの連結部F1と金属部材1は離間させて、攪拌ピンF2のみを金属部材1に挿入させるという技術的事項が記載されていると認められる。

(4)国際公開第2006/93125号
国際公開第2006/93125号(以下、「引用文献6」という。)の段落【0023】、【0024】、【0040】ないし【0043】及び第1図、第2図の記載からみて、引用文献6には、バッキングプレート1と金属部材2を接合する際に、上方の金属部材2の表面から回転した回転工具3を挿入し、回転工具3を上方の金属部材2のみに接触させた状態で重合部の摩擦攪拌を行うという技術的事項が記載されていると認められる。


第6.対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「回転によって攪拌を行うプローブ11」、「高速で回転する接合装置1」、「内部に流路を設けない接合部材21、22」は、それぞれ、本願発明1の「攪拌ピン」、「回転ツール」、「内部に流路を設けない複合板」に相当する。
引用発明の「2枚の板状の接合部材21、22」は、本願発明1の「二つの板状の金属部材」と対比すると、「二つの板状の」「部材」に限れば一致する。
引用発明の「重ね合わせる工程」は、重ね合わせた部分が「重合部」であり、重合部を形成する工程であることは明らかであるから、本願発明1の「重ね合わせて重合部を形成する重合部形成工程」と一致する。
引用発明の「重ね合わせ部に沿って接合装置1を相対移動させる接合工程」は、仮接合ではなく、本接合を行うものであることは明らかであるから、本願発明1の「重合部に沿って前記回転ツールを相対移動させる本接合工程」と一致する。
引用発明の「他方の前記接合部材21の表面から回転した前記プローブ11を挿入」することを、本願発明1の「他方の前記金属部材の表面から回転した前記攪拌ピンを挿入」することと対比すると、「他方の」「部材の表面から回転した前記攪拌ピンを挿入」することに限って一致する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの板状の部材を接合する内部に流路を設けない複合板の製造方法であって、
一方の前記部材の表面と他方の前記部材の裏面とを重ね合わせて重合部を形成する重合部形成工程と、
他方の前記部材の表面から前記攪拌ピンを挿入し、一方の前記部材の表面と他方の前記部材の裏面との重合部に沿って前記回転ツールを相対移動させる本接合工程と、を含み、
他方の前記部材の表面から回転した前記攪拌ピンを挿入して、前記重合部の摩擦攪拌を行う内部に流路を設けない複合板の製造方法。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1では、二つの板状の部材が「金属部材」であるのに対し、引用発明では、二つの板状の部材の材質が金属であるか否か不明な点。

(相違点2)本願発明1では、「前記攪拌ピンのみを他方の前記金属部材のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行う」のに対し、引用発明では「前記プローブ11を一方の前記接合部材22と他方の前記接合部材21の両方に接触させた状態で前記重ね合わせ部の摩擦攪拌を行」っていることに加え、プローブ11の基端部を露出させた状態で重合部の摩擦攪拌接合を行っていることに関して特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
上記1.(2)、(3)の引用文献2、3に記載されているとおり、攪拌ピンのみを接合部材に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行うという技術的事項は、本願出願日前において周知技術であったといえる。
そして、摩擦攪拌接合で、接合部材同士を接合するにあたり、接合装置にかかる負荷を軽減することは技術常識にすぎないから、引用発明に上記周知技術を適用し、プローブ11のみを一方の接合部材22と他方の接合部材21の両方に接触させた状態で重合部の摩擦攪拌接合を行うことは、当業者であれば容易になし得たことである。
しかしながら、引用発明においては、プローブ11を一方の接合部材22と他方の接合部材21の両方に接触させた状態で重合部の摩擦攪拌接合を行っているから、例え上記1.(4)の引用文献6に記載された回転工具3を上方の金属部材2のみに接触させた状態で重合部の摩擦攪拌を行うという技術的事項が存在するとしても、引用発明においてプローブ11を他方の接合部材22のみに接触させた状態で重合部の摩擦攪拌接合を行うようにしようとする動機までは存在しない。
また、プローブの基端を露出させた状態で摩擦攪拌接合を行うことも引用発明から容易になし得るものではない。
さらに、本願発明1の「前記攪拌ピンのみを他方の前記金属部材のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行う」点は、原査定における引用文献AないしE及び当審拒絶理由通知の引用文献1ないし5及び上記引用文献6に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2ないし6に記載された技術的事項及び引用文献AないしEに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2及び3について
本願発明2及び3も、本願発明1の「前記攪拌ピンのみを他方の前記金属部材のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行う」という構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし6に記載された技術的事項及び引用文献AないしEに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 原査定についての判断
令和元年6月7日付けの手続補正により、補正後の請求項1ないし3は、「前記攪拌ピンのみを他方の前記金属部材のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行う」という技術的事項を有するものとなった。当該「前記攪拌ピンのみを他方の前記金属部材のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの基端部を露出させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行う」という技術的事項は、上記第6の1.(2)で述べたように、原査定における引用文献AないしEには記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし3は、当業者であっても、原査定における引用文献AないしEに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-05 
出願番号 特願2014-13545(P2014-13545)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 黒石 孝志  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 大山 健
小川 悟史
発明の名称 内部に流路を設けない複合板の製造方法  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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