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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1353958
審判番号 不服2017-3075  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-01 
確定日 2019-08-07 
事件の表示 特願2014-506726「クロース電子化の製品及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月1日国際公開、WO2012/146066、平成26年10月 9日国内公表、特表2014-527278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月28日(優先権主張外国庁受理 2011年4月29日 中国(CN))に国際出願日として出願したものであって、平成27年12月14日付け拒絶理由通知に対して平成28年6月22日付けで手続補正がなされたが、同年10月25日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成29年3月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正がなされ、平成30年7月25日付け当審の拒絶理由通知に対して平成31年1月31日付けで手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明は、平成31年1月31日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
クロース電子化の方法において、
1つのパッケージ化クロースまたは第1のホットメルト粘着膜を基板とし、
回路板を形成するために、導電エリアまたは少なくとも1つの伝送線を含む少なくとも1つの電子モジュールを前記基板に縫い、接着し、または貼合し、
前記回路板をパッケージ化し、かつ絶縁するように、伝送線を含まない服飾クロースまたは第2のホットメルト粘着膜に縫い、接着し、または加熱固定することを含み、
前記電子モジュールは、前記基板と前記服飾クロースまたは前記第2のホットメルト粘着膜との間に配置され、
該回路板は、前記第1のホットメルト粘着膜と第3のホットメルト粘着膜とを含み、
前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜とは、別の伝送線を有し、
前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜との間に電子モジュールを置き、
前記電子モジュールの導電エリアと前記別の伝送線の導電エリアとを接触させ、
前記別の伝送線と前記電子モジュールとの導通の強度を強化するべく前記回路板を形成するために、前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜を加熱固定し、接着し、貼合し、または縫う、
ことを特徴とするクロース電子化の方法。」

本願発明は、基板として「1つのパッケージ化クロース」または「第1のホットメルト粘着膜」を選択することができる。
ここで、本願発明の後段に係る発明特定事項である「該回路板は、前記第1のホットメルト粘着膜と第3のホットメルト粘着膜とを含み、前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜とは、別の伝送線を有し、前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜との間に電子モジュールを置き、前記電子モジュールの導電エリアと前記別の伝送線の導電エリアとを接触させ、前記別の伝送線と前記電子モジュールとの導通の強度を強化するべく前記回路板を形成するために、前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜を加熱固定し、接着し、貼合し、または縫う」ことは、「第1のホットメルト粘着膜」を構成要件とした上での発明特定事項である。よって、基板として「1つのパッケージ化クロース」を選択した場合には含まれない発明特定事項である。
そうすると、本願発明は、以下のとおり2つの発明に分けることができる。

・基板として「1つのパッケージ化クロース」を選択した場合の本願発明(以下「本願発明A」という。)
「クロース電子化の方法において、
1つのパッケージ化クロースを基板とし、
回路板を形成するために、導電エリアまたは少なくとも1つの伝送線を含む少なくとも1つの電子モジュールを前記基板に縫い、接着し、または貼合し、
前記回路板をパッケージ化し、かつ絶縁するように、伝送線を含まない服飾クロースまたは第2のホットメルト粘着膜に縫い、接着し、または加熱固定することを含み、
前記電子モジュールは、前記基板と前記服飾クロースまたは前記第2のホットメルト粘着膜との間に配置される、
ことを特徴とするクロース電子化の方法。」

・基板として「第1のホットメルト粘着膜」を選択した場合の本願発明(以下「本願発明B」という。)
「クロース電子化の方法において、
第1のホットメルト粘着膜を基板とし、
回路板を形成するために、導電エリアまたは少なくとも1つの伝送線を含む少なくとも1つの電子モジュールを前記基板に縫い、接着し、または貼合し、
前記回路板をパッケージ化し、かつ絶縁するように、伝送線を含まない服飾クロースまたは第2のホットメルト粘着膜に縫い、接着し、または加熱固定することを含み、
前記電子モジュールは、前記基板と前記服飾クロースまたは前記第2のホットメルト粘着膜との間に配置され、
該回路板は、前記第1のホットメルト粘着膜と第3のホットメルト粘着膜とを含み、
前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜とは、別の伝送線を有し、
前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜との間に電子モジュールを置き、
前記電子モジュールの導電エリアと前記別の伝送線の導電エリアとを接触させ、
前記別の伝送線と前記電子モジュールとの導通の強度を強化するべく前記回路板を形成するために、前記第1のホットメルト粘着膜と前記第3のホットメルト粘着膜を加熱固定し、接着し、貼合し、または縫う、
ことを特徴とするクロース電子化の方法。」


第3 平成30年7月25日付け当審の拒絶理由通知の概要
(理由1)
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。
(理由2)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1について、引用文献1(国際公開第2005/18365号)
・請求項4-11、13-14、17-18について、引用文献1および2(特表2003-512734号公報)


第4 当審の判断
1 サポート要件について
本願発明は、補正前(平成28年6月22日付け手続補正)の特許請求の範囲に記載のなかった「第3のホットメルト粘着膜」が付加された。しかしながら、「第3のホットメルト粘着膜」に関する記載は、出願当初の明細書および図面(以下「明細書等」という。)に直接記載されていない。
そして、「(伝送線を有する)第1のホット粘着膜」を基板とした本願発明Bは、「(伝送線を含まない)第2のホットメルト粘着膜」および「(伝送線を有する)第3のホットメルト粘着膜」を選択し得るが、この場合、電子モジュールは、「基板(第1のホットメルト粘着膜)と第2のホットメルト粘着膜との間に配置」され、「第1のホットメルト粘着膜と第3のホットメルト粘着膜との間に置」かれることから、電子モジュールの一方側に「第1のホットメルト粘着膜」、他方側に「第2のホットメルト粘着膜」および「第3のホットメルト粘着膜」が存在することになる。
しかしながら、明細書等には、電子モジュールを挟んで一方側に「(伝送線を有する)第1のホット粘着膜」(基板)、他方側に「(伝送線を含まない)第2のホットメルト粘着膜」および「(伝送線を有する)第3のホットメルト粘着膜」が存在することは記載されていない(特に、図24ないし図36を参照)。なお、図25cには、3つのホットメルト粘着膜を使用した例が記載されているが、この例は伝送線を有するホットメルト膜が1つしかないし、基板(導電縫い糸のあるホットメルト粘着膜)との間に電子モジュールが置かれていないホットメルト粘着膜(電子モジュールから見て、基板と同じ側にあるホットメルト粘着膜)が存在するので、本願発明Bの構成要件を満たさない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 進歩性について
(1)引用文献1(国際公開第2005/18365号)
引用文献1には、「ファスナー及び同ファスナーを被着した被着体」について、以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付与した。

ア.「[0099] 本実施形態に適用されるIDタグの曲型的な態様としは、識別対象物の識別情報などのデータを格納するメモリを備えた無線ICチップとアンテナとが互いに電気的に接続されて応答回路を構成している。その応答回路として、無線ICチップには、例えば 検出回路、電源回路、制御回路、メモリ回路、変調回路、発振回路等が組み込まれている。」

イ.「[0103] 図1は本発明の代表的な第1の実施形態であり、スライドファスナーに取着される無線ICチップ及びアンテナとを有するIDタグの配置位置を模式的に示す概略斜視図である。図2は同スライドファスナーの縦断面図を示している。図3は同スライドファスナーに取着される無線ICチップとファスナーテープに形成したアンテナ線または信号線の配置位置を模式的に示す概略斜視図である。
[0104] 図1において、符号1は例えば衣服やカバン等の被着体25に縫製により被着されたスライドファスナーを示しており、ファスナーテープ4には、複数のエレメント2、上止部2、開離嵌挿具15、蝶棒9、箱棒10、スライダー2、引き手3、補強テープ8等が取り付けられている。
[0105] ファスナーテープとしては、例えば合成樹脂繊維を織成又は編成された繊維テープ状の基布、不織布、合成樹脂製シートなどから構成される。ファスナーエレメントとしては、合成樹脂製モノフィラメントをコイル状に巻回してなるコイル状エレメント、平面内に横方向にU字形に屈曲した部分を長手方向に沿って上下交互に連続してジグザグ状に形成したジグザグ状エレメントなどの連続状エレメント等から構成される。このことは、上述のスライダー、上下止具、補強用シート状部材、開離嵌挿具についても同様であり、その太さや材質及び構造なども様々に変更が可能である。
[0106] 被着体25に被着されて被覆されるファスナーテープ4の縁部寄りの部位には、無線ICチップ20が取り付けられている。無線ICチップ20は貼着、接着、溶着或いは射出等の適宜の取り付け手段を用いることによりファスナーテープ4に取り付けることができる。また、無線ICチップ20には図示せぬアンテナが無線ICチップ20と一体に形成されている。
[0107] 図2に示すように無線ICチップ20は、図47に示す外部の読取装置24との間で信号の送受信を行うアンテナとともに、被着体25の縫製ライン26に沿ってスライドファスナー1を縫い付けることで目視できない状態に配置することができる。」

ウ.「[0110] 図3に示すスライドファスナー1では、ファスナーテープ4として、例えば合成樹脂繊維を織成又は編成された繊維テープ状の基布に、織糸又は編み糸として導電性繊維材12を織成又は編成したものである。他の構成は図1における構成と同じであるので図1で用いたと同じ符号を用いることでその説明に代えることとする。
[0111] 図3における導電性繊維材12は、図19-21に示すように導電性繊維材12は織糸又は編糸として、ファスナーテープ4の基布の織成又は編成と同時に織成又は編成することができる。導電性繊維材12は、被着体25に取り付けた図示せぬセンサ等と無線ICチップ20とを連結する信号線として使用することも、無線ICチップ20のアンテナとして使用することもできる。図19-21においては、織目、編目を分かり易くするために誇張して拡大した状態を示しているものである。」

上記イによれば、ファスナーテープは、合成樹脂繊維が織成又は編成された繊維テープ状の基布からなるものである。また、無線ICチップは、貼着、接着によりファスナーテープに取り付けるられるものである。そして、無線ICチップは、衣服やカバン等の被着体の縫製ラインに沿ってスライドファスナー(ファスナーテープ)を縫い付けることで目視できない状態に配置することができるものである。
上記ウによれば、ファスナーテープは、基布に導電性繊維材を織成又は編成したものである。そして、導電性繊維材は、被着体に取り付けたセンサ等と無線ICチップとを連結する信号線として使用されるものである。

上記の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「合成樹脂繊維が織成又は編成された繊維テープ状の基布に導電性繊維材12を織成又は編成したファスナーテープに、無線ICチップを貼着、接着により取り付け、
無線ICチップを目視できない状態に配置するため、衣服やカバン等の被着体の縫製ラインに沿ってファスナーテープを縫い付けた、
ファスナーを被着した被着体。」

(2)本願発明Aと引用発明との対比
a.引用発明の「無線ICチップ」は、回路を含む電子装置といえるから(上記「ア」を参照)、本願発明Aの「電子モジュール」に相当する。また、当該「無線ICチップ」は、導電性繊維材によって被着体に取り付けたセンサ等と連結されるものであるから(上記「ウ」を参照)、当然に導電エリアまたは伝送線を備えたものである。
ここで、本願発明Aの「パッケージ化クロース」とは、本願明細書の段落【0064】を参照すると、「棉布、ナイロン、ライクラ、プラスチック、麻布などの材料」であるから、材料として合成樹脂繊維も含まれるものである。また、当該「パッケージ化クロース」は、電子モジュールが接着、貼合されるものである。そうすると、引用発明の「ファスナーテープ」は、合成樹脂繊維からなり、無線ICチップが貼着、接着されるものであるから、本願発明Aの「パッケージ化クロース」に相当する。
よって、引用発明の「合成樹脂繊維が織成又は編成された繊維テープ状の基布に導電性繊維材12を織成又は編成したファスナーテープに、無線ICチップを貼着、接着により取り付け」ることは、本願発明Aの「1つのパッケージ化クロースを基板とし、回路板を形成するために、導電エリアまたは少なくとも1つの伝送線を含む少なくとも1つの電子モジュールを前記基板に接着し、または貼合」することに相当する。

b.引用発明の「衣服やカバン等の被着体」が伝送線を含む旨の記載は特段なく、ファスナーテープに織成又は編成された導電性繊維材が無線ICチップと被着体に取り付けたセンサとを連結するのであるから(上記「ウ」を参照)、引用発明の「被着体」は、伝送線を含まないものと認められ、本願発明Aの「伝送線を含まない服飾クロース」に相当する。
よって、引用発明の「無線ICチップを目視できない状態に配置するため、衣服やカバン等の被着体の縫製ラインに沿ってファスナーテープを縫い付けた」ことは、本願発明Aの「伝送線を含まない服飾クロースに縫い、前記電子モジュールは、前記基板と前記服飾クロースとの間に配置される」ことに相当する。
但し、本願発明Aは「回路板をパッケージ化し、かつ絶縁する」のに対し、引用発明は「目視できない状態にしている」ものの、本願発明Aのような特定がされていない。

c.引用発明の「ファスナーを被着した被着体」は、ファスナーテープと被着体との間に無線ICチップを配置し縫い付けたものであるから、本願発明の「クロース電子化の方法」を備えている。

そうすると、本願発明Aと引用発明とは
「1つのパッケージ化クロースを基板とし、
回路板を形成するために、導電エリアまたは少なくとも1つの伝送線を含む少なくとも1つの電子モジュールを前記基板に接着し、または貼合し、
前記回路板をパッケージ化し、かつ絶縁するように、伝送線を含まない服飾クロースに縫い、
前記電子モジュールは、前記基板と前記服飾クロースとの間に配置される、
クロース電子化の方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明Aは「回路板をパッケージ化し、かつ絶縁する」のに対し、引用発明は「目視できない状態にしている」ものの、本願発明Aのような特定がされていない。

(3)相違点の判断
引用発明は、無線ICチップをファスナーテープと被着体との間に無線チップを取り付けて目視できないようにしているところ、具体的には縫製ライン26に沿って被着体をファスナーテープに縫い付けている(上記「イ」、引用文献1の図2を参照)。ここで、目視できなくするためには、当該ライン26だけではなく、無線ICチップを挟んでライン26と反対側(図2の無線ICチップ20の右側)も合わせて縫い付けても問題はなく、「パッケージ化」することは必要に応じて適宜なし得る事項である。
また、相違点における「絶縁する」とは、本願発明Aによれば、回路板(電子モジュールを基板に縫い付けたもの)に伝送線を含まない服飾クロースを縫い付ければ足りる事項であるから、「無線ICチップをファスナーテープに取り付け、被着体の縫製ラインに沿ってファスナーテープを縫い付けた」引用発明も同様に絶縁するものとなっている。
よって、引用発明において、無線ICチップ20を挟んでライン26と反対側を縫い付けて相違点の構成にすることは、当業者が容易になし得た事項である。

したがって、本願発明Aは、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づき容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-08 
結審通知日 2019-03-12 
審決日 2019-03-25 
出願番号 特願2014-506726(P2014-506726)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H05K)
P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 山澤 宏
酒井 朋広
発明の名称 クロース電子化の製品及び方法  
代理人 恩田 誠  
代理人 廣瀬 隆行  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  

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