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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1353999
審判番号 不服2018-13965  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-22 
確定日 2019-08-08 
事件の表示 特願2014-219226「易重合性化合物の減圧蒸留の方法およびアクリル酸の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月18日出願公開、特開2015-110551〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月28日(優先権主張 平成25年10月29日)の出願であって、平成29年6月1日に手続補正書が提出され、同年12月5日付けで拒絶理由が通知され、平成30年4月10日に意見書および手続補正書が提出され、同年7月20日付けで拒絶査定され、同年10月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
なお、本願に対しては、平成29年7月7日付け、同年10月2日付け、平成30年4月23日付けで刊行物提出書が提出されている。

第2 本願発明
本願の請求項1に記載された発明は、平成30年4月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、

「【請求項1】
プロパン、プロピレン又はアクロレインを原料とする気相接触酸化反応により得られたアクリル酸をスチームエジェクタにより減圧蒸留する工程を含むアクリル酸の製造方法であって、
該減圧蒸留工程が、該スチームエジェクタの外面を加熱する工程を含み、該スチームエジェクタの駆動蒸気の圧力が0.5?2MPaGである、アクリル酸の製造方法。」というものである(以下「本願発明」という。)。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものと認める。

この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献1?5に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1 特開2001-13116号公報
2 特開2000-344688号公報
3 特開2012-7207号公報
4 特開2003-73327号公報
5 特開平10-204030号公報

なお、引用文献2?5は、本願優先日時点の技術常識を示すものである。

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?11に記載された発明に基いて、本願優先日当時の技術常識を有する当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 特開2001-13116号公報
2 特開2000-344688号公報
3 特開2012-7207号公報
4 特開2003-73327号公報
5 特開平10-204030号公報
6 特開2009-249314号公報
7 特開2004-261683号公報
8 特開2003-103105号公報
9 特開2009-149587号公報
10 特開2003-103102号公報
11 特公昭48-32513号公報

なお、刊行物2?11は、本願優先日時点の技術常識を示すものである。

1 引用刊行物の記載
(1)刊行物1:特開2001-13116号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、次の記載がある。
(1a)「【請求項1】出口側にコンデンサーを備えた蒸留塔を用いて易重合性物質含有液を蒸留する方法において、前記コンデンサーのベーパー出口側にさらに少なくとも1基のコンデンサーが直列に備えられ、且つ、上流側のコンデンサーから出たベーパー中に含まれる易重合性物質を下流側のコンデンサーで凝縮させることを特徴とする、易重合性物質含有液の蒸留方法。
・・・
【請求項14】前記易重合性物質が(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1から13までのいずれかに記載の易重合性物質含有液の蒸留方法。」(【特許請求の範囲】)

(1b)「【0005】しかしながら、これらに代表される従来の蒸留方法では、コンデンサーから出てくるベーパーが(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性物質を含有していることから、コンデンサーからエジェクターや真空ポンプに至るまでのラインや、コンデンサーから大気や除害設備に至るライン、エジェクターの出口部分や真空ポンプで重合物が生成してしまい、しばしば装置の停止が必要となるなど、安定運転ができない状況であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】したがって本発明が解決しようとする課題は、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性物質の含有液を蒸留するにあたり、蒸留装置内部における重合を防止できる方法を提供することである。」

(1c)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、蒸留塔の出口に、複数基のコンデンサーを直列に備え、且つ、上流側のコンデンサー出口のベーパーを下流側のコンデンサーに供給すれば、上記課題を解決できることを見つけた。本発明はこのようにして完成された。
【0008】すなわち本発明に係る易重合性物質含有液の蒸留方法は、出口側にコンデンサーを備えた蒸留塔を用いて易重合性物質含有液を蒸留する方法において、前記コンデンサーのベーパー出口側にさらに少なくとも1基のコンデンサーが直列に備えられ、且つ、上流側のコンデンサーから出たベーパー中に含まれる易重合性物質を下流側のコンデンサーで凝縮させることを特徴とする。」

(1d)「【0036】なお、コンデンサー入口のベーパーラインでは、重合防止のために、トレスやジャケット配管で加熱することで重合の要因となるベーパーの凝縮を防ぐ方法や、トレスやジャケット配管で充分冷却し凝縮物の液膜を保持することにより重合を防止する方法や、安定剤を含有する液をシャワーして重合防止する方法などを適用してもよい。この場合の安定剤含有液はコンデンサーの凝縮液とともに回収される。」

(1e)「【0039】
【実施例】以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]図3に示すように、蒸留塔とリボイラと縦型多管式の第1コンデンサーと縦型多管式の第2コンデンサーと蒸気エジェクターからなる蒸留装置を用いて、アクリル酸を含有した液を蒸留塔に供給し、重合防止の酸素含有ガスを蒸留塔底部に投入し、塔頂圧力47hPaで運転を行い、アクリル酸を塔頂から留出させて連続的に精製を行った。運転の温度は蒸留塔ボトムで95℃であった。コンデンスした液に重合防止剤を添加し、第1コンデンサーと第2コンデンサーの管側上部にそれぞれシャワーし、循環させた。第2コンデンサーの伝熱面積は第1コンデンサーの伝熱面積の45%であり、第2コンデンサーにベーパーを上昇流で流した。第2コンデンサーの冷却水入口温度が23℃、出口温度は25℃であった。第2コンデンサー冷却水出口液体と冷却水を混合し、第1コンデンサーの冷却水入口に供給した。第1コンデンサーの冷却水入口温度が24℃、出口温度は36℃であった。その結果60日間問題なく運転できた。停止して点検してみると、第1コンデンサーと第2コンデンサーの配管にも、第2コンデンサーにも、重合体の付着は見られず、また、第2コンデンサーとエジェクターをつなぐ配管にも極少量の重合物の付着しか見られなかった。」

(2)刊行物2:特開2000-344688号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物2には、次の記載がある。

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 易重合性化合物を含む液を蒸留するに際して、蒸留塔の塔頂蒸気の冷却・凝縮装置を、その凝縮面が鉛直となるように設置し、かつ該凝縮面上に重合禁止剤を存在させることを特徴とする易重合性化合物の精製方法。
【請求項2】 蒸気の冷却・凝縮装置の凝縮面の上部に重合禁止剤を含む液を噴霧することを特徴とする請求項1に記載の易重合性化合物の精製方法。
【請求項3】 蒸気の冷却・凝縮装置を蒸留塔の塔頂直近に設置することを特徴とする請求項1又は2に記載の易重合性化合物の精製方法。
【請求項4】 蒸留塔の塔頂から蒸気の冷却・凝縮装置の入口に至る配管を、蒸気の凝縮温度より高い温度に維持することを特徴とする請求項3に記載の易重合性化合物の精製方法。
【請求項5】 易重合性化合物が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1?4のいずれか1項に記載の易重合性化合物の精製方法。
【請求項6】 重合禁止剤が、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、フェノチアジン及び銅化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1?5のいずれか1項に記載の易重合性化合物の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクリル酸、メタクリル酸(以下この両者をまとめて(メタ)アクリル酸」と記載する)、(メタ)アクリル酸エステルやスチレン等の、分子内に重合性二重結合を有する易重合性化合物を精製する方法に関するものである。詳しくは、易重合性化合物の蒸留を効率的かつ安全に行うための精製方法に関するものである。」

(2b)「【0002】
【従来の技術】分子内に二重結合、特に炭素-炭素二重結合を有する化合物は、一般に反応性に富み、重合しやすい。このような化合物を取り扱うプロセス、特にその精製工程において、重合が起こった場合、製品収率の低下及び重合体の付着やそれに起因する配管等の閉塞等による設備の操業トラブルの原因となる可能性がある。そのため、このような易重合性化合物を蒸留により精製する場合は、重合を防止するために、フェノチアジン、p-メトキシフェノール(通称「メトキシハイドロキノン」、「メトキノン」)、ハイドロキノン及び銅化合物等の種々の金属またはその化合物、或いは酸素または酸素含有ガス等の重合禁止剤を添加して蒸留する方法や、これに加えて処理温度を低くして重合を抑えるため高真空下で蒸留を行う方法などが広く用いられている。
【0003】しかしながら、このような重合禁止剤は一般に蒸気圧が低く、蒸留塔の塔頂の蒸気中には、ほとんど存在しないため、塔頂から留出する蒸気の冷却・凝縮を行う熱交換器や、蒸留塔頂から熱交換器に至る配管内で、易重合性化合物の重合が起こり、連続運転が困難となることがあった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、易重合性化合物の蒸留による精製に際して、この冷却・凝縮部分での重合を防止することにより、精製を効率的かつ安全に行うための方法を提供することである。」

(2c)「【0024】蒸留塔に供給した粗アクリル酸はプロピレンを気相接触酸化して生成したガスを凝縮して得られたアクリル酸水溶液をトルエンを用いて脱水したものを毎時8.0kgの割合で用いた。この粗アクリル酸中には水0.3重量%、酢酸2.3重量%及びトルエン7.0重量%が含まれていた。蒸留により、塔底から酢酸0.1重量%、アクリル酸98.2重量%及び重質分を含有する液を毎時4.9kg、塔頂からは水0.7重量%、酢酸5.4重量%、トルエン17.0重量%を含むアクリル酸を毎時3.3kg、それぞれ得た。この蒸留運転を1週間連続して行った後、運転を停止し熱交換器及びこれに至る配管を点検したが、配管内及び熱交換用チューブとも重合物は見られなかった。」

(3)刊行物3:特開2012-7207号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物3には、次の記載がある。

(3a)「【請求項4】
前記前段側エゼクターには、当該前段側エゼクターの内面を乾燥させるための加温手段が外周の略全体にわたって設けられている、
請求項1?3のうちのいずれかに記載した製鋼用二次精錬における真空脱ガス用の不純物および排ガス処理装置。
【請求項5】
前記加温手段は、前記前段側エゼクターを外側から囲うジャケットを有しており、前記前段側エゼクターとジャケットとの間の空間に蒸気を吹き込むことで加温手段が構成されている、
請求項4に記載した製鋼用二次精錬における真空脱ガス用の不純物および排ガス処理装置」

(3b)「【背景技術】
【0002】
製鋼設備では二次精錬装置として真空脱ガス炉が使用されており、この真空脱ガス炉を使用して溶鋼中のガス状不純物を除去しているが、鋼を低炭素化する脱炭も真空脱ガス炉を使用して行われていることが多い。そして、真空脱ガス炉の排ガスは、一般に、ブースターとして機能する前段側のエゼクターとその下流に設けたコンデンサ(凝縮器)とを有する処理装置で浄化されているが、特に脱炭工程で大量の粉塵が発生してこれが後段側のエゼクターやコンデンサの内面に付着堆積しており、その除去作業に多大の手間がかかるという問題があった。」

(3c)「【0013】
請求項4の発明に係る装置は、請求項1?3において、前記前段側エゼクターには、当該前段側エゼクターの内面を乾燥させるための加温手段が外周の略全体にわたって設けられている。更に請求項5の発明は請求項4の発明を具体化したもので、この発明では、前記加温手段は、前記前段側エゼクターを外側から囲うジャケットを有しており、前記前段側エゼクターとジャケットとの間の空間に蒸気を吹き込むことで加温手段が構成されている。」

(3d)「【0024】
これに対して請求項4のように前段側エゼクターに加温手段を設けると、内面が水で濡れることを防止又は著しく抑制できるため、前段側エゼクターの内面に粉塵が付着することを防止又は著しく抑制できる。従って請求項4の発明によると、脱ガス工程で発生した粉塵を前段側エゼクター(ブースター)に付着させずに第1コンデンサで効率的に補集することができるのであり、その結果、脱ガスに起因して粉塵が付着することも脱炭に起因して粉塵が付着することも、防止または著しく抑制できる。
【0025】
加温手段としては、例えば前段側エゼクターの外面に電熱式や蒸気式のヒータを巻き付けるといったことも可能であるが、請求項5のように前段側エゼクターとジャケットとの間に蒸気を吹き込む方式を採用すると、単純な構造でエゼクターの全体を的確に加温できるため高い加温効果を発揮できて好適である。また、製鋼所には蒸気はふんだんに存在するため、コスト面でも有利である。」

(4)刊行物4:特開2003-73327号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物4には、次の記載がある。

(4a)「【0062】まず、上記蒸気タービン121で過熱蒸気を力学エネルギーとして使用した後の蒸気(排気)は、蒸気配管179から蒸気配管181を通じて配管164に接触気相酸化反応用蒸気として供給され、原料ガスと混合された上で蒸気消費装置である1段目反応器101に供給され、使用される。これは、反応そのものに蒸気が必要であるためであり、例えば、アクリル酸の製造方法では、プロピレンなどの原料ガスは、酸素含有ガスおよび蒸気の存在下で気相・高温度条件下で接触酸化され、1段目の酸化反応でアクロレインに変換され、ついでこのアクロレインが2段目の酸化反応によりアクリル酸になる。」

(4b)「【0068】さらに、有機酸や有機酸エステルを蒸留、精製する際に、溶剤分離塔や軽沸分離塔・高沸分離塔等の蒸留塔および放散塔への供給原料を加熱するために加熱器が設けられており、該加熱器の熱媒として使用することができるものである。なお。ここでいう加熱器には昇温器、蒸発器などの熱交換器が含まれていてもよい。」

(4c)「【0072】さらに、真空発生装置の駆動用として利用する場合には、蒸気配管の圧力は、通常0.3?2MPa gauge、好ましくは0.5?1MPa gaugeとなるように制御を行う。」

(4d)「【0113】また、本発明の製造方法を適用することのできる有機酸としては、接触気相酸化反応で製造し得る全てのものが適用可能である。有機酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フタル酸、マレイン酸などが挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸である。また、本発明の製造方法では、有機酸をさらにエステル化して有機酸エステルを製造する工程を含むものであってもよい。かかる有機酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のエステル、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシルなどが挙げられる。」

(4e)「【0117】実施例2
図2の形態でアクリル酸を製造した。反応器201へは、原料のプロピレンと酸素含有ガスを供給し、反応器用の熱媒としては、硝酸カリウム-亜硝酸ナトリウムを各50質量%で混合したものを用いた。反応器201は遮蔽板で仕切られ、それぞれの熱媒は混合後、熱媒ボイラ213へ供給され、高圧蒸気を発生させた後、反応器へ循環された。・・・捕集塔塔底の捕集液を酸精製工程内で蒸留の精製し、アクリル酸を得た。酸精製工程では、自然循環式再沸器、加熱器、真空発生装置(スチームエゼクタ)に蒸気が使用された。使用蒸気は0.6MPa gauge(中圧蒸気)および0.2MPa gauge(低圧蒸気)で、蒸気消費量は8.6T/hであった。」

(5)刊行物5:特開平10-204030号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物5には、次の記載がある。

(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (メタ)アクリル酸エステルを含有する混合物を減圧蒸留するに際して、スチームエゼクター又は水エゼクターを用いて減圧することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの精製方法。」

(5b)「【0010】上記「スチームエゼクター」は、高圧の駆動蒸気をノズルから噴出させ、その高圧噴流の吸引、搬送力により2次蒸気を排出することにより、これらに接続された対象物(蒸留缶等)の減圧を行う装置である。」

(5c)「【0024】上記真空発生装置5は、2段ブースタ式4段スチーム形式のスチームエゼクターである。即ち、この装置5は、4つのエゼクター(E_(1 )?E_(4 ))を備えるが、前方に並ぶ2つのエゼクターE_(1 )及びE_(2 )は、いずれもブースターエゼクターである。また、前方から2番目のエゼクターE_(2 )と3番目のエゼクターE_(3 )の間、及び3番目のエゼクターE_(3 )と4番目のエゼクターE_(4) との間には、各々中間コンデンサC_(1) 、C_(2 )が配置されている。これらのエゼクターE_(1 )?E_(4 )は、図2に示す様な構造とされ、駆動蒸気入口81より駆動蒸気(通常1.5?15kg/cm^(2) Gの圧力の蒸気を使用)S_(1)を吸引し、末広がりのノズル82より噴出させる。」

(6)刊行物6:特開2009-249314号公報
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物6には、次の記載がある。

(6a)「【0003】
反応器内の減圧、および反応器内のガスの吸収塔への導入は、通常、エゼクタによって行われる。
エゼクタは、ガスの吸引口を有する吸引室と、吸引室内に挿入されたノズルと、ノズルの軸線方向と同軸的に吸引室に連設され、軸線方向に貫通する流体通路が形成されたディフューザとを具備するものである。エゼクタにおいては、ノズルから噴射される駆動流体(蒸気等。)がディフューザの流体通路を通過することによって、ディフューザ内が負圧になり、ガスが負圧により吸引口から吸引室内に吸引され、ディフューザにて駆動流体と合流し、ディフューザから送出される。
【0004】
エゼクタは、メンテナンスをしやすい点から、軸線が水平になるように設置される。しかし、水平に設置されたエゼクタにおいては、吸引口から吸引室内に吸引されたガスに含まれる原料の(メタ)アクリル酸ならびにエチレンオキサイドおよび目的生成物の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが、凝集した駆動流体(水等。)とともに吸引室内やディフューザ内に滞留しやすい。そして、吸引室内等に滞留した原料の(メタ)アクリル酸ならびにエチレンオキサイドおよび目的生成物の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルは重合しやすいため、吸引室内に重合物が付着しやすい。そのため、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの製造を頻繁に止めて、エゼクタのメンテナンス(清掃等。)を行う必要がある。」

(6b)「【0010】
エゼクタ20は、図2に示すように、ガスの吸引口60を有する吸引室62と、吸引室62内に挿入されたノズル64と、ノズル64の軸線方向と同軸的に吸引室62に連設され、軸線方向に貫通する流体通路66が形成されたディフューザ68と、吸引室62の周囲に設けられた加熱手段70とを具備する。エゼクタ20は、ノズル64の軸線およびディフューザ68の軸線が水平面に対して垂直になるように、かつノズル64がディフューザ68よりも上側になるように設置される。
流体通路66は、内径が最小となる小径部72と、小径部72よりも上流側に形成された、下流方向に進むにしたがって縮径する縮径部74と、小径部72よりも下流側に形成された、下流方向に進むにしたがって拡径する拡径部76とを有する。
加熱手段70としては、蒸気配管、電気ヒータ、温水配管、熱媒配管等が挙げられる。」

(6c)「【0023】
また、以上説明した(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの製造装置10にあっては、エゼクタ20が、吸引室62を加熱する加熱手段を具備しているため、駆動流体(蒸気等。)が吸引室62内に凝集しにくくなる。そのため、吸引口60から吸引室62内に吸引されたガスに含まれる原料の(メタ)アクリル酸ならびにエチレンオキサイドおよび目的生成物の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが、凝集した駆動流体(水等。)とともに吸引室62内やディフューザ68内に滞留しにくい。そのため、吸引室62内等に重合物がさらに付着しにくくなる。」

(7)刊行物7:特開2004-261683号公報
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物7には、次の記載がある。

(7a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
易重合性物質を含む気相が通過する経路の一部を構成する筒体を備えるとともに、前記筒体は、その外周を囲むジャケットを備え、前記ジャケット内には減圧水蒸気を通すようになっている、ことを特徴とする易重合性物質の通過装置。
【請求項2】
前記筒体は、前記経路における、気相の温度分布が2℃以内である部分に設置される筒体である、請求項1に記載の易重合性物質の通過装置。
【請求項3】
前記減圧水蒸気の温度が前記筒体内を通過する気相の温度よりも、0.1?15℃だけ高くなるよう設定されている、請求項1または2に記載の易重合性物質の通過装置。
【請求項4】
前記ジャケット内に生じる蒸気ドレンの排出パイプを有し、この排出パイプは、前記ジャケットの底部から鉛直下方向に伸長し、U字形に反転して立ち上がり、常時開放状態の排出口に繋がっている、請求項1から3までのいずれかに記載の易重合性物質の通過装置。
【請求項5】
蒸留塔と蒸気送り出しラインとコンデンサを用いて易重合性物質を蒸留する方法であって、前記蒸留塔の空塔部分から前記蒸気送り出しラインに掛けての部分の少なくとも一部を構成する筒体を、請求項1から4までのいずれかに記載の易重合性物質の通過装置の筒体で構成してなる、ことを特徴とする易重合性物質の蒸留方法。
【請求項6】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを生成する工程と蒸留する工程とを備え、かつ、前記蒸留する工程が蒸留塔と蒸気送り出しラインとコンデンサを備えて行われる、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法における、前記蒸留する工程である、請求項5に記載の易重合性物質の蒸留方法。」

(7b)「【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる易重合性物質の通過装置とその用途について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
易重合性物質は蒸発して凝縮する際に重合を起こしやすい。すなわち、高温の易重合性物質の蒸気は、放熱等によって冷却・凝縮する際に重合を起こしやすい。したがって、100℃未満の易重合性物質の蒸気は、できるだけ高温に加熱せず、しかも凝縮させずに、低い温度に加熱・保温して、経路内を通過させる必要がある。
【0012】
本発明にかかる易重合性物質の通過装置を用いれば、低い温度で、前記経路内を全体にわたって均一に加熱・保温できるため、易重合性物質を含む気相を通過経路内で凝縮・重合させることなく通過させることができる。減圧水蒸気の温度は、100℃未満に調節するのが容易なため、例えば70?90℃くらいの比較的低い温度にある前記易重合性物質の蒸気を凝縮・重合させることなく、経路を通過させることが出来るのである。」

(7c)「【0024】
本発明にかかる易重合性物質の通過装置は、蒸留塔と蒸気送り出しラインとコンデンサを用いて易重合性物質を蒸留する方法に好ましく適用することが出来る。すなわち、前記蒸留塔の空塔部分から蒸気送り出しラインに掛けての部分の少なくとも一部を構成する筒体を、本発明にかかる易重合性物質の通過装置で構成するのである。
このような蒸留方法を好ましく適用することができる易重合性物質としては、特に限定されるわけではないが、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステルを含む不飽和カルボン酸エステル類、アクリロニトリル、アクリルアミドのようなアクリル化合物、スチレン等の重合性ビニール化合物等が挙げられる。
【0025】
上記本発明の蒸留方法は、好ましくは(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む液の蒸留・精製において、より好ましくはヒドロキシ(メタ)アクリレートの蒸留方法において、適用することが効果的である。
このような理由から、本発明の蒸留方法は、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法に好ましく適用できる。すなわち、この製造方法は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを生成する工程と蒸留する工程とを備え、かつ、前記蒸留する工程が蒸留塔と蒸気送り出しラインとコンデンサを備えて行われる方法であり、前記蒸留する工程において、前記蒸留塔の空塔部分から前記蒸気送り出しラインに掛けての部分の少なくとも一部を構成する筒体を上記易重合性物質の通過装置で構成するのである。
【0026】
このヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法の一例をより具体的に述べれば、触媒存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドをエステル化反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを生成する工程と、反応後の未反応アルキレンオキシドおよび/または未反応(メタ)アクリル酸が残存する反応液中からヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを蒸留する工程からなるのである。
本発明にかかる易重合性物質の通過装置を用いれば、ヒドロキシ(メタ)アクリレートの蒸気を含む気相が、高温に加熱されず、しかもできるだけ凝縮しない低い温度に保たれているために、コンデンサ入口部での重合発生を抑えることができる。そのため、本発明にかかるヒドロキシ(メタ)アクリレートの蒸留方法によれば、縦型の多管式熱交換器などの効率的機器の利用が容易になる。この場合、留出液を循環させて、バロメトリックコンデンサのように蒸気中にシャワーさせて重合防止をはかるのもよい。」

(8)刊行物8:特開2003-103105号公報
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物8には、次の記載がある。

(8a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】蒸留塔にて易重合性物質を蒸留するための蒸留方法であって、塔頂部から易重合性物質を含む蒸気を導管を経て排出するに際して、前記塔頂部および/または前記導管の少なくとも一部を加熱することを特徴とする易重合性物質の蒸留方法。
【請求項2】前記塔頂部および/または前記導管を塔内温度よりも高い温度に加熱する請求項1記載の易重合性物質の蒸留方法。
【請求項3】前記塔頂部および/または前記導管を塔内温度よりも高い温度で、かつ塔内温度から100℃を越えない温度範囲に加熱する請求項1記載の易重合性物質の蒸留方法。
【請求項4】前記易重合性物質がビニル化合物である請求項1?3のいずれかに記載の易重合性物質の蒸留方法。
【請求項5】塔頂部に易重合性物質排出用導管を設けた蒸留装置であって、前記塔頂部および/または前記導管の少なくとも一部に加熱手段を備えたことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の蒸留方法に使用する蒸留装置。
【請求項6】前記加熱手段が、前記塔頂部および/または前記導管の表面に熱媒体を通す加熱ジャケットを設けたものである請求項5記載の蒸留装置。
【請求項7】前記加熱手段が、前記塔頂部および/または前記導管の表面に熱媒体を通すトレース配管を接触させたものである請求項5記載の蒸留装置。」

(8b)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的は、ビニル化合物に代表される易重合性物質の蒸留を行うに際して、重合物の生成を低減し、蒸留塔の連続運転を可能にする蒸留方法を提供することである。本発明の他の目的は、重合物の生成を低減し、蒸留塔の連続運転を可能にする蒸留装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、蒸留塔内で易重合性物質が重合しやすい箇所は、易重合性物質を含む蒸気が凝縮して、重合禁止剤が存在しない状態で液溜まりをつくりやすい部位であることを見出した。そして、塔頂部および/または導管の少なくとも一部を加熱することで、前記易重合性物質を含む蒸気が塔頂部や導管の重合禁止剤を含む液と接触しにくい部位で凝縮しないようにすることにより、蒸留塔内で易重合性物質が重合しやすい箇所の形成を防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

(8c)「【0031】
【発明の効果】本発明によれば、塔頂部と導管に加熱ジャケット、トレース配管等の加熱手段を設けることで塔頂部と導管を塔内温度以上の温度に維持できるため、これらの部位での易重合性物質の凝縮を防止することができ、これにより重合物の生成が低減され、蒸留塔の連続運転が可能になるという効果がある。」

(9)刊行物9:特開2009-149587号公報
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物9には、次の記載がある。

(9a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
易重合性物質を取り扱う装置であって、
装置本体と、該装置本体から突設されたノズルと、該ノズルの開口を封止する蓋体と、前記ノズルの基端から先端までの間を遮断するように設けられ、かつ通気口が形成された金属薄膜と、前記蓋体と前記金属薄膜との間に置換ガスを供給するガス供給手段とを具備する、易重合性物質取扱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易重合性物質を取り扱う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
易重合性物質((メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸等。)を取り扱う装置(反応器、蒸留塔等。)においては、易重合性物質の重合物が発生しやすい。特に、装置本体から突設されたノズルの内壁面およびノズルの開口を封止する蓋体の易重合性物質接触面には、易重合性物質が滞留しやすく、重合物が付着しやすい。そのため、装置の運転を頻繁に止めて、装置のメンテナンス(清掃等。)を行う必要がある。
【0003】
ノズルにおける易重合性物質の滞留および重合物によるノズルの閉塞が抑えられた装置としては、下記の装置が提案されている。
反応器本体と、該反応器から突設されたノズルとを有する酸化反応器において、該ノズル内に不活性ガスを供給する手段およびノズルを加熱する手段を備えた酸化反応器(特許文献1)。
【0004】
しかし、該酸化反応器においては、不活性ガスによるノズル内の雰囲気の置換が不充分なため、ノズル内に易重合性物質が残留し、ノズルの内壁面および蓋体の易重合性物質接触面に易重合性物質が滞留し、重合物が付着しやすい問題がある。そのため、酸化反応器の運転を頻繁に止めて、酸化反応器のメンテナンス(清掃等。)を行う必要がある。」

(9b)「【0017】
以下、本発明の易重合性物質取扱装置の一例として、多管式反応器について説明する。
図1は、多管式反応器におけるラプチャーディスク取り付け用ノズル付近を示す断面図である。多管式反応器10(易重合性物質取扱装置)は、反応器本体12(装置本体)と、反応器本体12の上部チャンネル62から突設されたノズル14と、ノズル14の開口を封止するラプチャーディスク部16と、ラプチャーディスク部16を介してノズル14にボルト18およびナット20によって接続された放出管22と、ノズル14の周囲に設けられたノズル加熱手段24とを具備する。
【0018】
ノズル14は、基端が反応器本体12内に連通して反応器本体12に接合された外管26(ノズル本体)と、外管26内に挿入された内管28とから構成される二重管構造を有する。
内管28は、先端(ラプチャーディスク部16側)に形成されたフランジ30が外管26の先端に係止され、基端(反応器本体12側)が外管26の途中かつ外管26の基端近傍に位置するように設けられる。
外管26と内管28との間には空隙32が形成され、空隙32は、外管26および内管28の基端にて封止材34によって封止される。
【0019】
内管28のフランジ30には、一端がノズル14の外部に設けられたコンプレッサー(図示略)(ガス源)に接続し、他端が空隙32に連通するL字形の第1の貫通孔36が形成されている。
また、内管28の周壁には、一端がノズル14(内管28)の内部に連通し、他端が空隙32に連通する第2の貫通孔38が形成されている。
そして、第1の貫通孔36、空隙32および第2の貫通孔38によって、ガス供給流路が形成され、該ガス供給流路およびコンプレッサー(ガス源)との組み合わせによって、ガス供給手段が構成さる。
【0020】
内管28の基端には、内管28の基端の開口を封止するようにアルミニウム箔40が取り付けられる。これにより、アルミニウム箔40が、ノズル14の途中を遮断するように設けられることになる。
アルミニウム箔40の中央には、通気口42が形成されている。
【0021】
ラプチャーディスク部16は、ノズル14側に向かって膨らむドーム部44を有するラプチャーディスク46(蓋体)と、ラプチャーディスク46の周縁を挟持する2つのホルダ48、50とを具備する。
ラプチャーディスク部16においては、反応器本体12の内部が異常昇圧した際に、ラプチャーディスク46のドーム部44が座屈反転し、ノズル14側とは反対側のホルダ50の内部に設けられた十字形のナイフ52にドーム部44が衝突して、ラプチャーディスク46が破裂、開口する。これにより、反応器本体12の内部の過剰圧力が、放出管22を通って外部に放出される。
【0022】
外管26の先端と内管28のフランジ30との間、該フランジ30とラプチャーディスク部16との間、およびラプチャーディスク部16と放出管22の端部との間には、封止材54(Oリング)が挟持されている。
【0023】
ノズル加熱手段24としては、蒸気配管、電気ヒーター等が挙げられる。ノズル加熱手段24を設けることにより、ノズル14が加熱され、ノズル14の内壁に付着した易重合性物質が気化し、ノズル14内での易重合性物質の滞留が抑えられる。」

(10)刊行物10:特開2003-103102号公報
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物10には、次の記載がある。

(10a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】易重合性物質を還流しながら蒸留するに際して、還流液を加熱することを特徴とする易重合性物質の蒸留方法。
【請求項2】前記還流液の温度が、蒸留塔塔頂部の温度に対して±10℃の範囲になるように加熱する請求項1記載の易重合性物質の蒸留方法。
【請求項3】前記易重合性物質がビニル化合物である請求項1または2記載の易重合性物質の蒸留方法。
【請求項4】還流液を加熱するための加熱手段を還流経路の少なくとも一部に備えたことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の蒸留方法に使用する蒸留装置。
【請求項5】前記加熱手段が、熱交換器である請求項4記載の蒸留装置。」

(10b)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的は、ビニル化合物に代表される易重合性物質の蒸留を行うに際して、重合物の生成を低減し、蒸留塔の連続運転を可能にする蒸留方法を提供することである。本発明の他の目的は、重合物の生成を低減し、蒸留塔の連続運転を可能にする蒸留装置を提供することである。」

(10c)「【0024】以上のように、本発明では、前記多管円筒型熱交換器、トレース配管3、加熱ジャケット4等の熱交換器により還流液を加熱し、この還流液の温度を前記範囲に制御する。これにより、還流管周辺や液分配器の表面(特に下側)等の重合禁止剤を含む還流液と接触しにくい部位で、易重合性物質を含む蒸気が凝縮して液溜まりをつくりにくくなるため、これにより重合を抑制することができる。」

(11)刊行物11:特公昭48-32513号公報
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物11には、次の記載がある。

(11a)「<発明の詳細な説明>
この発明は、重合性物質の蒸留方法に関するものである。詳しく述べると、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、アクロレイン、メタアクロレイン、ビニルピリジンなどのような重合性ビニル化合物の蒸留方法に関するものである。・・・蒸留塔の材質表面の粗な部分とかあるいは液が長時間滞留する部分に重合反応が始まり、一度このような状態が現出すると、それが加速度的に起り、ついには蒸留塔の一部がこのような重合物のために閉塞を起し、蒸留が不可能になる場合がしばしば発生する。」(1欄20行?2欄13行)

(11b)「実際の蒸留塔においては、その塔壁をさらに保温材で保温するだけでは、蒸留が室温以上で行われているかぎり、塔液より外部への熱放散がある。このことは、蒸留中に、蒸気の凝縮が塔壁においても起ることであり、この発明の目的からは、このような現象は好ましくない。すなわち、この発明は、重合性ビニル化合物の蒸留に際して、塔壁に適当な加熱装置を有していて塔壁により外部への熱放散がないようにした無堰多孔板塔を用いることにより、蒸留中に重合がまったく起らないようにしたものである。
一般に、蒸留塔において物質を蒸留するに際しては、蒸留塔内の各部分の温度は異なった値を示すために、塔の各部分の外壁における熱の受授を完全にゼロの状態にすることは不可能に近い。したがって、この発明の目的からは、実用的には、塔外壁側の温度が塔内における蒸留される物質の温度より若干高いような状態で操作を行うことにより実施されるものである。この場合、外壁側の温度を蒸留塔内部の温度より著しく高くしないかぎり、精留効果はほとんど減殺されることはない。この際、外壁側の温度と蒸留塔内温との差が30℃以内であることが望ましい。
この外壁の加熱源としては、スチーム、電熱、温風、温水、熱媒体などのような適当熱源を使用しても差支えない。また、加熱方法としては、塔を数節に別けて加熱してもよく、また、全体にわたって加熱してもよい。」(4欄5?29行)

2 刊行物1に記載された発明について
刊行物1には、摘記(1a)によれば、出口側にコンデンサーを備えた蒸留塔を用いて易重合性物質含有液を蒸留する方法において、前記コンデンサーのベーパー出口側にさらに少なくとも1基のコンデンサーが直列に備えられ、且つ、上流側のコンデンサーから出たベーパー中に含まれる易重合性物質を下流側のコンデンサーで凝縮させる易重合性物質含有液の蒸留方法が記載され、易重合性物質が(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルであることが記載され、摘記(1e)には、特許請求の範囲の記載に対応する具体例の記載として、蒸留塔とリボイラと縦型多管式の第1コンデンサーと縦型多管式の第2コンデンサーと蒸気エジェクターからなる蒸留装置を用いて、アクリル酸を含有した液を蒸留塔に供給し、塔頂圧力47hPaで運転を行い、アクリル酸を塔頂から留出させて連続的に精製を行い、コンデンスした液に重合防止剤を添加し、第1コンデンサーと第2コンデンサーの管側上部にそれぞれシャワーし、循環させたことが記載されている。

そうすると、刊行物1には、具体例に係る発明として、
「出口側にコンデンサーを備えた蒸留塔を用いてアクリル酸含有液を蒸留する方法において、前記コンデンサーのベーパー出口側にさらに少なくとも1基のコンデンサーが直列に備えられ、且つ、上流側のコンデンサーから出たベーパー中に含まれる易重合性物質を下流側のコンデンサーで凝縮させるアクリル酸含有液の蒸留方法として、蒸留塔とリボイラと縦型多管式の第1コンデンサーと縦型多管式の第2コンデンサーと蒸気エジェクターからなる蒸留装置を用いて、アクリル酸を含有した液を蒸留塔に供給し、塔頂圧力47hPaで運転を行い、アクリル酸を塔頂から留出させて連続的に精製を行い、コンデンスした液に重合防止剤を添加し、第1コンデンサーと第2コンデンサーの管側上部にそれぞれシャワーし、循環させる方法」(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本願発明と刊行物1発明との対比
刊行物1発明の「アクリル酸を蒸留塔に供給し、塔頂圧力47hPaで運転を行い、アクリル酸を塔頂から留出させて連続的に精製を行」うことは、本願発明の「アクリル酸を」「減圧蒸留する工程」に相当し、刊行物1発明の「蒸気エジェクター」は、本願発明の「スチームエジェクタ」に相当し、刊行物1発明の「蒸気エジェクター」は、真空装置として機能しているものであるから、刊行物1発明の「蒸留塔とリボイラと縦型多管式の第1コンデンサーと縦型多管式の第2コンデンサーと蒸気エジェクターからなる蒸留装置を用いて、アクリル酸を含有した液を蒸留塔に供給し、塔頂圧力47hPaで運転を行い、アクリル酸を塔頂から留出させて連続的に精製を行」うことは、本願発明の「アクリル酸をスチームエジェクタにより減圧蒸留する工程を含むアクリル酸の製造方法」に該当する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、

「アクリル酸をスチームエジェクタにより減圧蒸留する工程を含むアクリル酸の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:アクリル酸の原料と合成反応に関し、本願発明は、「プロパン、プロピレン又はアクロレインを原料とする気相接触酸化反応により得られた」と特定されているのに対して、刊行物1発明では、そのような特定がない点
相違点2:スチームエジェクタの駆動蒸気の圧力に関して、本願発明では、「0.5?2MPaGである」と特定されているのに対して、刊行物1発明では、そのような特定のない点
相違点3:減圧蒸留する工程が、本願発明では、「スチームエジェクタの外面を加熱する工程を含」むことが特定されているのに対して、刊行物1発明では、そのような特定のない点

(2) 相違点の検討
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
まず相違点1について検討する。
アクリル酸の原料と合成反応に関しては、刊行物2摘記(2c)の「蒸留塔に供給した粗アクリル酸はプロピレンを気相接触酸化して生成したガスを凝縮して得られたアクリル酸水溶液をトルエンを用いて脱水したものを毎時8.0kgの割合で用いた。」との記載や、刊行物4摘記(4a)の「例えば、アクリル酸の製造方法では、プロピレンなどの原料ガスは、酸素含有ガスおよび蒸気の存在下で気相・高温度条件下で接触酸化され、1段目の酸化反応でアクロレインに変換され、ついでこのアクロレインが2段目の酸化反応によりアクリル酸になる。」との記載にあるように、アクリル酸がプロピレンやアクロレインを原料とする気相接触酸化反応により得られることは、周知の技術的事項であるのだから、刊行物1発明のアクリル酸の原料と合成反応に関して、少なくとも「プロピレン又はアクロレインを原料とする気相接触酸化反応により得られた」ことを特定することは当業者は容易になし得た技術的事項である。

イ 相違点2について
次に相違点2について検討する。
刊行物1発明の蒸気エジェクターの駆動圧力の記載は刊行物1にはないが、真空装置としてエジェクターを機能させるためには、一定の駆動圧力を必要とすることは自明のことである。
そして、刊行物4摘記(4c)「真空発生装置の駆動用として利用する場合には、蒸気配管の圧力は、通常0.3?2MPa gauge、好ましくは0.5?1MPa gaugeとなるように制御を行う。」との記載や摘記(4e)「アクリル酸を製造した。反応器201へは、原料のプロピレンと酸素含有ガスを供給し、反応器用の熱媒としては、硝酸カリウム-亜硝酸ナトリウムを各50質量%で混合したものを用いた。反応器201は遮蔽板で仕切られ、それぞれの熱媒は混合後、熱媒ボイラ213へ供給され、高圧蒸気を発生させた後、反応器へ循環された。・・・捕集塔塔底の捕集液を酸精製工程内で蒸留の精製し、アクリル酸を得た。酸精製工程では、自然循環式再沸器、加熱器、真空発生装置(スチームエゼクタ)に蒸気が使用された。使用蒸気は0.6MPa gauge(中圧蒸気)および0.2MPa gauge(低圧蒸気)で、蒸気消費量は8.6T/hであった。」との記載、刊行物5摘記(5a)?(5c)の記載にあるように、アクリル酸の製造における蒸気エジェクターの駆動圧力として、本願発明で特定された「0.5?2MPaG」という範囲は通常の範囲である。
したがって、刊行物1発明において、そのようなスチームエジェクタの駆動蒸気の圧力範囲を特定することは当業者が容易になし得た技術的事項である。

ウ 相違点3について
さらに相違点3について検討する。
刊行物1摘記(1b)の「【0005】しかしながら、これらに代表される従来の蒸留方法では、コンデンサーから出てくるベーパーが(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性物質を含有していることから、コンデンサーからエジェクターや真空ポンプに至るまでのラインや、コンデンサーから大気や除害設備に至るライン、エジェクターの出口部分や真空ポンプで重合物が生成してしまい、しばしば装置の停止が必要となるなど、安定運転ができない状況であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】したがって本発明が解決しようとする課題は、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性物質の含有液を蒸留するにあたり、蒸留装置内部における重合を防止できる方法を提供することである。」(下線は当審にて追加。以下同様。)との記載にあるように、刊行物1発明は、コンデンサーから出てくるベーパーがアクリル酸などの易重合性物質を含有していることから、コンデンサーからエジェクターや真空ポンプに至るまでのラインや、コンデンサーから大気や除害設備に至るライン、エジェクターの出口部分や真空ポンプなどさまざまな場所で重合物が生成してしまい、しばしば装置の停止が必要となるなど、安定運転ができない状況であったとの課題認識のもとになされたものであり、摘記(1d)に記載されるとおり、「コンデンサー入口のベーパーラインでは、重合防止のために、トレスやジャケット配管で加熱することで重合の要因となるベーパーの凝縮を防ぐ方法」が、追加の凝縮防止手段として紹介され、本願発明において、エジェクターに対して採られているのと同様の手段の記載ついても存在している。

そして、刊行物3摘記(3a)?(3d)、刊行物6摘記(6a)?(6c)にも記載されるとおり、コンデンサーからのエジェクター内面の付着物質の問題を解決するために、外面を加熱することは、手段として周知の技術的事項であり、特に摘記(6c)の「エゼクタ20が、吸引室62を加熱する加熱手段を具備しているため、駆動流体(蒸気等。)が吸引室62内に凝集しにくくなる。そのため、吸引口60から吸引室62内に吸引されたガスに含まれる原料の(メタ)アクリル酸ならびにエチレンオキサイドおよび目的生成物の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが、凝集した駆動流体(水等。)とともに吸引室62内やディフューザ68内に滞留しにくい。そのため、吸引室62内等に重合物がさらに付着しにくくなる」との記載からも明らかなように、加熱手段によってエジェクター部分の付着物質としての重合物質の付着を抑制できることについても本願優先日時点ですでに認識されている技術的事項である。

また、刊行物7の摘記(7b)の「【0012】
本発明にかかる易重合性物質の通過装置を用いれば、低い温度で、前記経路内を全体にわたって均一に加熱・保温できるため、易重合性物質を含む気相を通過経路内で凝縮・重合させることなく通過させることができる。減圧水蒸気の温度は、100℃未満に調節するのが容易なため、例えば70?90℃くらいの比較的低い温度にある前記易重合性物質の蒸気を凝縮・重合させることなく、経路を通過させることが出来る」との記載や、摘記(7c)の「本発明にかかる易重合性物質の通過装置は、蒸留塔と蒸気送り出しラインとコンデンサを用いて易重合性物質を蒸留する方法に好ましく適用することが出来る。すなわち、前記蒸留塔の空塔部分から蒸気送り出しラインに掛けての部分の少なくとも一部を構成する筒体を、本発明にかかる易重合性物質の通過装置で構成するのである。
このような蒸留方法を好ましく適用することができる易重合性物質としては、特に限定されるわけではないが、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸・・・」との記載、刊行物8の摘記(8b)の「ビニル化合物に代表される易重合性物質の蒸留を行うに際して、重合物の生成を低減し、蒸留塔の連続運転を可能にする蒸留方法を提供することである。本発明の他の目的は、重合物の生成を低減し、蒸留塔の連続運転を可能にする蒸留装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、蒸留塔内で易重合性物質が重合しやすい箇所は、易重合性物質を含む蒸気が凝縮して、重合禁止剤が存在しない状態で液溜まりをつくりやすい部位であることを見出した。そして、塔頂部および/または導管の少なくとも一部を加熱することで、前記易重合性物質を含む蒸気が塔頂部や導管の重合禁止剤を含む液と接触しにくい部位で凝縮しないようにすることにより、蒸留塔内で易重合性物質が重合しやすい箇所の形成を防止できる」との記載、刊行物9の摘記(9a)の「易重合性物質((メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸等。)を取り扱う装置(反応器、蒸留塔等。)においては、易重合性物質の重合物が発生しやすい。特に、装置本体から突設されたノズルの内壁面およびノズルの開口を封止する蓋体の易重合性物質接触面には、易重合性物質が滞留しやすく、重合物が付着しやすい。そのため、装置の運転を頻繁に止めて、装置のメンテナンス(清掃等。)を行う必要がある。
【0003】
ノズルにおける易重合性物質の滞留および重合物によるノズルの閉塞が抑えられた装置としては、下記の装置が提案されている。
反応器本体と、該反応器から突設されたノズルとを有する酸化反応器において、該ノズル内に不活性ガスを供給する手段およびノズルを加熱する手段を備えた酸化反応器(特許文献1)。
【0004】
しかし、該酸化反応器においては、不活性ガスによるノズル内の雰囲気の置換が不充分なため、ノズル内に易重合性物質が残留し、ノズルの内壁面および蓋体の易重合性物質接触面に易重合性物質が滞留し、重合物が付着しやすい問題がある。そのため、酸化反応器の運転を頻繁に止めて、酸化反応器のメンテナンス(清掃等。)を行う必要がある」(下線は当審にて追加。以下同様。)との認識のもと、摘記(9b)の「ノズル14の周囲に設けられたノズル加熱手段24とを具備する。・・・ノズル14は、基端が反応器本体12内に連通して反応器本体12に接合された外管26(ノズル本体)と、外管26内に挿入された内管28とから構成される二重管構造を有する。」との解決手段の記載があること、刊行物10の摘記(10a)?摘記(10c)の記載があること、刊行物11の摘記(11a)?摘記(11b)の記載があることをみれば、アクリル酸等の重合性物質の蒸留装置を含めた製造装置全体において、重合性物質の重合による付着物の問題は技術常識といえるものであり、刊行物6?11に記載されるように、重合性物質が含まれた蒸気が存在し凝縮し得る、エジェクターを含めた、蒸気送り出しライン、塔頂部、導管、ノズル、還流管周辺、蒸留塔各部分など種々の場所において、外側から加熱手段を設けて、重合性物質の凝縮、重合を防止していることは周知慣用技術であるといえる。

したがって、刊行物1発明において、エジェクター部分も含めて課題認識されていた重合性物質の凝縮、重合の抑制のため、解決手段として、アクリル酸を含めた重合性物質を製造する際に、外面から加熱するという周知慣用技術を、蒸気(スチーム)エジェクター部分に採用することは、当業者であれば容易になし得た技術的事項であるといえる。

ウ 本願発明の効果について
本願発明の効果について検討する。
本願明細書【0017】や【0057】の記載から本願発明の効果は、易重合性化合物の一つであるアクリル酸の製造方法において、減圧蒸留工程にて、減圧装置としてスチームエジェクタが用いられる際、易重合性化合物の重合によるスチームエジェクタの閉塞を防ぐことができることであり、長期間の運転継続において有効であることにあるといえる。
上記イで検討したとおり、アクリル酸等の重合性物質の、蒸留装置を含めた製造装置全体において、重合性物質の重合による付着物の問題は技術常識といえるものであり、重合性物質が含まれた蒸気が存在し凝縮、重合し得る、エジェクターを含めた種々の場所において、外側から加熱手段を設けて、重合性物質の凝縮、重合を防止していることは周知慣用技術であるといえることから、上記本願発明の効果は、当業者であれば予測可能なものにすぎない。

エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、平成30年4月10日付け意見書3頁において、引用文献1(刊行物1)には、スチームエジェクタの駆動蒸気の圧力について記載も示唆もないので、本願発明の範囲にする動機付けがない旨主張している。
しかしながら、上記イの相違点2において、検討したように、真空装置としてエジェクターを機能させるためには、一定の駆動圧力を必要とすることは自明のことであり、アクリル酸の製造における蒸気エジェクターの駆動圧力として、本願発明で特定された範囲に該当するものが通常の範囲として知られているのであるから、0.5?2MPaG程度の範囲と特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項であり、請求人の上記主張は採用できない。

(イ)また、請求人は、平成30年10月22日付け審判請求書において、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性物質の重合は温度が低下する部位で生じるため、温度が低下する当該部位、すなわち、ラインやエジェクターの出口部分、真空ポンプなどを加熱することが重合防止に有効であるということで、本願発明で加熱する箇所はスチームエジェクタ本体(外面)であり、当該部分はそもそも温度が高いため、そのスチームエジェクタ本体(外面)を加熱してさらに温度を上げようなどとは当業者は考えないし、ましてや、スチームエジェクタ本体(外面)を加熱することで、重合物の発生が抑制されるという効果を予測することもできない旨主張している。
しかしながら、上記イの相違点3で検討のとおり、刊行物6?11に記載されるように、重合性物質が含まれた蒸気が存在し凝縮し得る、エジェクターを含めた、蒸気送り出しライン、塔頂部、導管、ノズル、還流管周辺、蒸留塔各部分など種々の場所において、外側から加熱手段を設けて、重合性物質の凝縮、重合を防止していることは周知慣用技術であり、エジェクター部分は、本願明細書【0055】にあるように、加熱しない場合は、外面温度が40?46℃と重合性物質が場所によって凝縮する可能性のある温度であることは明らかである。そして、刊行物7【0012】や刊行物8【0026】?【0029】にも示されるとおり、70?90℃程度に維持することで、易重合性物質の蒸気の凝縮・重合を抑制していることは、本願発明の【0045】で行っている加熱と何ら変わるとことはないものである。
また、特許請求の範囲においては、スチームエジェクタの加熱場所を限定するような特定をしているわけではなく、出口部分と本体を区別する主張は、特許請求の範囲に基づかない主張でもある。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(ウ)以上のとおり、上記審判請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-10 
結審通知日 2019-06-11 
審決日 2019-06-25 
出願番号 特願2014-219226(P2014-219226)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 齊藤 真由美
瀬良 聡機
発明の名称 易重合性化合物の減圧蒸留の方法およびアクリル酸の製造方法  
代理人 下田 俊明  
代理人 高田 大輔  
代理人 佐貫 伸一  

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