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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B 審判 査定不服 特39条先願 取り消して特許、登録 H05B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H05B |
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管理番号 | 1354035 |
審判番号 | 不服2019-1783 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-02-07 |
確定日 | 2019-08-27 |
事件の表示 | 特願2017-128415「有機電界発光素子、有機電界発光素子用材料、並びに、該素子を用いた発光装置、表示装置、照明装置及び該素子に用いられる化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日出願公開、特開2017-199925、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年(平成24年)11月21日(優先権主張平成23年11月22日)を国際出願日とする特願2013-545942号の一部を平成29年6月30日に新たな特許出願としたものであって、同年12月22日付けで拒絶理由が通知され、平成30年4月23日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年9月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年2月7日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 その後、平成31年3月28日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年6月21日に意見書が提出された。 第2 本件発明 本願の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明15」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 基板と、 該基板上に配置され、陽極及び陰極からなる一対の電極と、 該電極間に配置され、発光層を含む少なくとも一層の有機層とを有し、 前記有機層の少なくとも一層に下記一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物を含むことを特徴とする有機電界発光素子。 【化1】 (一般式(10)?(17)中、Y^(A1)はNR^(3)、OまたはSまたはSeを表し、Y^(B1)、Y^(D1)?Y^(H1)はそれぞれ独立にCR^(1)R^(2)、NR^(3)、O、SまたはSeを表し、Y^(C1)はCR^(1)R^(2)、O、SまたはSeを表し、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に置換基を表す。R^(A1)?R^(A15)、R^(B1)?R^(B15)、R^(C1)?R^(C15)、R^(D1)?R^(D15)、R^(E1)?R^(E15)、R^(F1)?R^(F15)、R^(G1)?R^(G15)およびR^(H1)?R^(H15)はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、一般式(11)のY^(B1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(B1)が一緒になって環状構造を形成することはない。また、一般式(15)のY^(F1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(F4)が一緒になって環状構造を形成することはなく、また、R^(3)とR^(F12)が一緒になって環状構造を形成することもない。) 【請求項2】 前記化合物のLUMOの値が、電子密度汎関数法(B3LYP/6-31G(d)レベル)で求めたとき、1.25よりも大きい化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。 【請求項3】 前記化合物が、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、シアノ基およびカルボニル基のうち少なくとも1つを含む置換基を有する化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機電界発光素子。 【請求項4】 前記発光層に燐光発光材料を少なくとも一種含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【請求項5】 前記燐光発光材料が、下記一般式(E-1)で表されるイリジウム錯体であることを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。 【化2】 (一般式(E-1)中、Z^(1)及びZ^(2)はそれぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表す。A^(1)はZ^(1)と窒素原子と共に5又は6員のヘテロ環を形成する原子群を表す。B^(1)はZ^(2)と炭素原子と共に5又は6員環を形成する原子群を表す。(X-Y)はモノアニオン性の二座配位子を表す。n_(E1)は1?3の整数を表す。) 【請求項6】 前記一般式(E-1)で表されるイリジウム錯体が下記一般式(E-2)で表されることを特徴とする請求項5に記載の有機電界発光素子。 【化3】 (一般式(E-2)中、A^(E1)?A^(E8)はそれぞれ独立に、窒素原子又はC-R^(E)を表す。R^(E)は水素原子又は置換基を表す。(X-Y)はモノアニオン性の二座配位子を表す。n_(E2)は1?3の整数を表す。) 【請求項7】 前記発光層が前記化合物を含有することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【請求項8】 前記化合物が前記一般式(11)、(12)、(15)、(16)または(17)で表される化合物である請求項1?7のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【請求項9】 請求項1?8のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いた発光装置。 【請求項10】 請求項1?8のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いた表示装置。 【請求項11】 請求項1?8のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いた照明装置。 【請求項12】 下記一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物。 【化4】 (一般式(10)?(17)中、Y^(A1)はNR^(3)、OまたはSまたはSeを表し、Y^(B1)、Y^(D1)?Y^(H1)はそれぞれ独立にCR^(1)R^(2)、NR^(3)、O、SまたはSeを表し、Y^(C1)はCR^(1)R^(2)、O、SまたはSeを表し、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に置換基を表す。R^(A1)?R^(A15)、R^(B1)?R^(B15)、R^(C1)?R^(C15)、R^(D1)?R^(D15)、R^(E1)?R^(E15)、R^(F1)?R^(F15)、R^(G1)?R^(G15)およびR^(H1)?R^(H15)はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、一般式(11)のY^(B1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(B1)が一緒になって環状構造を形成することはない。また、一般式(15)のY^(F1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(F4)が一緒になって環状構造を形成することはなく、また、R^(3)とR^(F12)が一緒になって環状構造を形成することもない。) 【請求項13】 前記一般式(11)、(12)、(15)、(16)または(17)で表される請求項12に記載の化合物。 【請求項14】 下記一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物からなる有機電界発光素子用材料。 【化5】 (一般式(10)?(17)中、Y^(A1)はNR^(3)、OまたはSまたはSeを表し、Y^(B1)、Y^(D1)?Y^(H1)はそれぞれ独立にCR^(1)R^(2)、NR^(3)、O、SまたはSeを表し、Y^(C1)はCR^(1)R^(2)、O、SまたはSeを表し、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に置換基を表す。R^(A1)?R^(A15)、R^(B1)?R^(B15)、R^(C1)?R^(C15)、R^(D1)?R^(D15)、R^(E1)?R^(E15)、R^(F1)?R^(F15)、R^(G1)?R^(G15)およびR^(H1)?R^(H15)はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、一般式(11)のY^(B1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(B1)が一緒になって環状構造を形成することはない。また、一般式(15)のY^(F1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(F4)が一緒になって環状構造を形成することはなく、また、R^(3)とR^(F12)が一緒になって環状構造を形成することもない。) 【請求項15】 前記化合物が前記一般式(11)、(12)、(15)、(16)または(17)で表される化合物である請求項14に記載の有機電界発光素子用材料。」 第3 原査定の概要 原査定の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 理由1(新規性・進歩性) この出願の請求項1?15に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に、化合物30及び化合物120として記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 また、この出願の請求項12?15に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に、化合物3、化合物6及び化合物7として記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 理由2(進歩性) この出願の請求項1?11に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:国際公開第2011/128017号 引用文献2:Claude Niebel et al,Dibenzo[2,3:5,6]pyrrolizino[1,7-bc]indolo[1,2,3-lm]carbazole:a new electron donor,New journal of Chemistry,2010年,Vol.34,p.1243-1246,化合物3,6-7,2010.5.14 第4 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 (同日出願)本件出願の請求項1?15に係る発明は、同一出願人が同日出願した引用出願1に係る発明と同一と認められるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用出願1:特願2013-545942号 第5 引用発明 1 引用文献1 (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の2011年10月20日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献1(国際公開第2011/128017号)には、以下の記載事項がある。なお、摘記箇所の行番号は、国際公開公報に付された行番号に基づく。 ア 「 」(第3頁第13行?第6頁第2行) 翻訳文:「本発明は、式(I)の化合物に関し、電子素子、好ましくは、有機エレクトロルミネッセンス素子における使用に関して有利な特性を示す。化合物は、好ましくは、正孔輸送または正孔注入材料として、燐光エミッターのためのマトリックス材料として、または発光材料として、使用される。 したがって、本発明は、以下の式(I)の化合物に関する。 ここで、以下が、出現する記号と添え字に適用される; X は、N、PまたはP=Oであり; Y は、出現毎に同一であるか異なり、C(R^(1))_(2)、C=O、C=NR^(1)、O、S、SO、SO_(2)、PR^(1)、POR^(1)、NAr、NR^(1)または単結合であり; T は、出現毎に同一であるか異なり、C(R^(1))_(2)、C=O、C=NR^(1)、O、S、SO、SO_(2)、PR^(1)、POR^(1)、NAr、NR^(1)または単結合であり; A は、Ar^(3)であるか、X(Ar^(4))_(2)であり、ここで、基Tへの結合は、基Ar^(3)もしくはAr^(4)の芳香族もしくは複素環式芳香族環から出発し、基X(Ar^(4))_(2)の二個の基Ar^(4)は、基Tを介して互いに連結してよく; Ar、Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)、Ar^(4) は、出現毎に同一であるか異なり、1以上の基R^(2)で置換されてよい5?30個の芳香族環原子を有するアリールもしくはヘテロアリール基から選択され; R^(1)、R^(2) は、出現毎に同一であるか異なり、H、D、F、Cl、Br、I、CHO、NAr_(2)、N(R^(3))_(2)、C(=O)R^(3)、P(=O)(R^(3))_(2)、S(=O)R^(3)、S(=O)_(2)R^(3)、CR^(3)=C(R^(3))_(2)、CN、NO_(2)、Si(R^(3))_(3)、B(OR^(3))_(3)、OSO_(2)R^(3)、OH、1?40個のC原子を有する直鎖アルキル、アルコキシもしくはチオアルキル基、3?40個のC原子を有する分岐あるいは環状アルキル、アルコキシもしくはチオアルキル基、2?40個のC原子を有するアルケニルもしくはアルキニル基(夫々は、1以上の基R^(3)により置換されてよく、1以上の隣接しないCH_(2)基は、-R^(3)C=CR^(3)-、-C≡C-、Si(R^(3))_(2)、Ge(R^(3))_(2)、Sn(R^(3))_(2)、C=O、C=S、C=Se、C=NR^(3)、P(=O)(R^(3))、SO、SO_(2)、NR^(3)、-O-、-S-、-COO-もしくは-CONR^(3)-で置き代えられてよく、ここで、1以上のH原子は、D、F、Cl、Br、I、CNもしくはNO_(2)で置き代えられてよい。)、または、各場合に、1以上の基R^(3)により置換されてよい5?60個の芳香族環原子を有する芳香族もしくは複素環式芳香族環構造、または、各場合に、1以上の基R^(3)で置換されてよい5?60個の芳香族環原子を有するアリールオキシもしくはヘテロアリールオキシ基またはこれらの構造の組み合わせであり;ここで、2個以上の基R^(1)およびR^(2)は、たがいに結合してもよく、および環もしくは環構造を形成してよく; R^(3) は、出現毎に同一であるか異なり、H、D、F、Cl、Br、I、CHO、NAr_(2)、N(R^(4))_(2)、C(=O)R^(4)、P(=O)(R^(4))_(2)、S(=O)R^(4)、S(=O)_(2)R^(4)、CR^(4)=C(R^(4))_(2)、CN、NO_(2)、Si(R^(4))_(3)、B(OR^(4))_(3)、OSO_(2)R^(4)、OH、1?40個のC原子を有する直鎖アルキル、アルコキシもしくはチオアルキル基、3?40個のC原子を有する分岐あるいは環状アルキル、アルコキシもしくはチオアルキル基、2?40個のC原子を有するアルケニルもしくはアルキニル基(夫々は、1以上の基R^(4)により置換されてよく、1以上の隣接しないCH_(2)基は、-R^(4)C=CR^(4)-、-C≡C-、Si(R^(4))_(2)、Ge(R^(4))_(2)、Sn(R^(4))_(2)、C=O、C=S、C=Se、C=NR^(4)、P(=O)(R^(4))、SO、SO_(2)、NR^(4)、-O-、-S-、-COO-もしくは-CONR^(4)-で置き代えられてよく、ここで、1以上のH原子は、D、F、Cl、Br、I、CNもしくはNO_(2)で置き代えられてよい。)、または、各場合に、1以上の基R^(4)により置換されてよい5?60個の芳香族環原子を有する芳香族もしくは複素環式芳香族環構造、または、各場合に、1以上の基R^(4)で置換されてよい5?60個の芳香族環原子を有するアリールオキシもしくはヘテロアリールオキシ基またはこれらの構造の組み合わせであり;ここで、2個以上の基R^(3)は、たがいに結合してもよく、および環もしくは環構造を形成してよく; R^(4) は、出現毎に同一であるか異なり、H、D、F、1?20個のC原子を有する脂肪族、芳香族および/または複素環式芳香族有機基であって、さらに、1以上のH原子は、Fで置き代えられてよく;ここで、2個以上の同一か異なる置換基R^(4)は、たがいに結合してもよく、および環もしくは環構造を形成してよく; n は、出現毎に互いに独立して、0または1であり、ただし、nに対する全合計値は1以上であり; m は、出現毎に互いに独立して、0または1であり、ただし、mに対する全合計値は1以上であり; さらに、但し、単結合である少なくとも一つの基Yが、存在しなければばらない。」 イ 「 (中略) 」(第23頁第5?6行、第25頁表中の化合物30、第31頁表中の化合物120) 翻訳文:「本発明の化合物の好ましい態様の例は、以下に示される化合物である。 (中略) 」 (2)引用文献1に記載された発明 ア 引用文献1の上記記載事項イに基づけば、引用文献1には、「化合物30」として、次の発明が記載されている(以下、「引用化合物30発明」という。)。 「 以下の構造式で表される化合物30。 」 イ また、引用文献1には、「化合物120」として、次の発明も記載されている(以下、「引用化合物120発明」という。)。 「 以下の構造式で表される化合物120。 」 2 引用文献2 (1)引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の2010年5月14日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献2(Claude Niebel et al,Dibenzo[2,3:5,6]pyrrolizino[1,7-bc]indolo[1,2,3-lm]carbazole:a new electron donor,New journal of Chemistry,2010年,Vol.34,p.1243-1246)には、以下の記載事項がある。 ア 「Here we report on the preparation and properties of hitherto unknown parent heterocyclic system, dibenzo [2,3:5,6]pyrrolizino-[1,7-bc]indolo[1,2,3-lm]carbazole 3, which can be considered as a planar hybrid of carbazole and p-phenylenediamine.」(第1243頁右欄第5?8行) 翻訳文:「ここで、我々は、これまで知られていなかった、親複素環系であり、カルバゾールとp-フェニレンジアミンの平面複合体である、ジベンゾ[2,3:5,6]ピロリジノ-[1,7-bc]インドロ[1,2,3-lm]カルバゾール3の調整と特性を報告する。」 イ 「Refluxing the perchlorate in acetic acid with or without copper powder afforded a mixture of 3 along with the symmetrical and asymmetrical isomers 6 and 7, from which pure 3 can be isolated in 5-9% yield.」(第1244頁左欄第3?6行) 翻訳文:「銅粉の有無によらず、過塩素酸塩を酢酸中で還流すると、3とともに、その対称及び非対称異性体6及び7の混合物が得られ、純粋な3は収率5?9%で単離された。」 合議体注:化合物3、化合物6、化合物7は、以下に示すとおりである。 ウ 「We conclude that the new heterocyclic system 3 is a thermally stable compound possessing strong electron donor ability close to those of tetra- and pentacene. This compound of its properly substituted derivatives can serve as a promising component for applications involving charge transporting and as the efficient electron donating moiety for fluorescent chromophores including those with strong TPA absorption.」(第1245頁左欄第7?13行) 翻訳文:「我々は、新規の複素環系3が、熱的に安定な化合物であり、テトラ及びペンタセンに近い、強い電子供与性を有すると結論する。この化合物の適切な置換誘導体は、電荷輸送を含む応用に有望な成分として、及び、強い2光子吸収を伴う蛍光発色団を含む蛍光発色団のための効率的な電子供与部位として、役立つ。」 (2)引用文献2に記載された発明 ア 引用文献2の上記記載事項イに基づけば、引用文献2には、「化合物3」として、次の発明が記載されている(以下、「引用化合物3発明」という。)。 「 以下の構造式で表される化合物3。 」 イ また、引用文献2には、化合物6として、次の発明も記載されている(以下、「引用化合物6発明」という。)。 「 以下の構造式で表される化合物6。 」 ウ さらに、引用文献2には、化合物7として次の発明も記載されている(以下、「引用化合物7発明」という。)。 「 以下の構造式で表される化合物7。 」 第6 対比・判断 1 引用化合物30発明 (1)本件発明12 ア 対比 本件発明12と引用化合物30発明とを対比する。 引用化合物30発明の化合物の基本骨格(環の構造)は、本件発明12における一般式(10)と共通する。そして、引用化合物30発明は、本件発明12における一般式(10)において、R^(A1)、R^(A4)?R^(A11)、R^(A15)が水素原子であり、R^(A12)及びR^(A13)が一緒になって環状構造を形成し、R^(A14)が置換基(メチル基)であるという要件を満たすとともに、Y^(A1)が「置換基」である点で共通する。 以上より、本件発明12と引用化合物30発明とは、 「 下記一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物。 【化4】 (一般式(10)?(17)中、Y^(A1)は置換基を表し、Y^(B1)、Y^(D1)?Y^(H1)はそれぞれ独立にCR^(1)R^(2)、NR^(3)、O、SまたはSeを表し、Y^(C1)はCR^(1)R^(2)、O、SまたはSeを表し、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に置換基を表す。R^(A1)?R^(A15)、R^(B1)?R^(B15)、R^(C1)?R^(C15)、R^(D1)?R^(D15)、R^(E1)?R^(E15)、R^(F1)?R^(F15)、R^(G1)?R^(G15)およびR^(H1)?R^(H15)はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、一般式(11)のY^(B1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(B1)が一緒になって環状構造を形成することはない。また、一般式(15)のY^(F1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(F4)が一緒になって環状構造を形成することはなく、また、R^(3)とR^(F12)が一緒になって環状構造を形成することもない。)」の点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1]本件発明12の一般式(10)の化合物は、「Y^(A1)はNR^(3)、OまたはSまたはSe」を表すとされているのに対し、引用化合物30発明は、「Y^(A1)」に対応する部分が「>C(CH_(3))_(2)」である点。 イ 判断 上記[相違点1]について検討する。 引用化合物30発明の化合物は、引用文献1でいう「本発明」の化合物の好ましい態様(具体例)であるところ、引用文献には、その具体例の「>C(CH_(3))_(2)」の部分を「NR^(3)、OまたはSまたはSe」(但し、R^(3)は置換基を表す。)に置き換えることを動機付けるような記載はない。また、引用化合物30発明の化合物において、このような置き換えをすることが、本願優先権主張の日前の当業者における技術常識であったということもできない。 なお、引用化合物30発明の化合物を、その一般式である引用文献1の式(I)に照らし合わせてみると、式(I)には、引用化合物30発明の「>C(CH_(3))_(2)」の部分に対応する「T」の選択肢として、「O」、「S」又は「NR^(1)」が開示されているところである。 しかしながら、引用文献1に記載された式(I)は、(ア)一般式の形式で記載され、(イ)当該一般式が膨大な数の選択肢を有し、かつ、(ウ)当業者が、引用化合物30発明のうち、特に「>C(CH_(3))_(2)」の部分に着目し、これに換わるものとして式(I)の「T」の選択肢のうち「O」、「S」又は「NR^(1)」を積極的あるいは優先的に選択すべき事情があるともいえない。 そうしてみると、引用化合物30発明(主引用発明)に対して、引用文献1に記載された式(I)の「T」を「O」、「S」又は「NR^(1)」とする特定の選択肢に係る技術的思想を抽出することはできず、これを副引用発明と認定することはできないというべきである。 いずれにせよ、たとえ当業者といえども、引用化合物30発明に基づいて、本件発明12の一般式(10)の要件を満たす化合物に到ることができたということはできない。 ウ むすび 以上のとおりであるから、本件発明12は、引用化合物30発明と同一であるということはできない。また、本件発明12は、当業者であっても、引用化合物30発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (2)本件発明1?11、13?15 本件発明1?11は、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を含む有機層を発明特定事項としている。また、本件発明13は、本件発明12について、その選択肢を、一般式(10)を除いた一部のものに限定した発明である。さらに、本件発明14も、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を発明特定事項としている。そして、本件発明15も、本件発明14に対し、本件発明13と同様の限定を行ったものである。 そうすると、本件発明1?11、13?15は、本件発明12と同じ理由により、引用化合物30発明と同一であるということはできない。また、本件発明12と同じ理由により、当業者であっても、引用化合物30発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?15は、引用化合物30発明と同一の発明ではなく、また、当業者であっても、引用化合物30発明に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。 2 引用化合物120発明 (1)本件発明12 ア 対比 本件発明12と引用化合物120発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致している。 [相違点2]本件発明12の一般式(12)の化合物は、「Y^(C1)はCR^(1)R^(2)、O、SまたはSe」(但し、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に置換基)を表すとされているのに対し、引用化合物120発明は、「Y^(C1)」に対応する部分が「>N-フェニル基」である点。 イ 判断 上記[相違点2]について検討する。 引用化合物120発明の化合物は、引用文献1でいう「本発明」の化合物の好ましい態様(具体例)であるところ、引用文献には、その具体例の「>N-フェニル基」の部分を「CR^(1)R^(2)、O、SまたはSe」(但し、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に置換基を表す。)に置き換えることを動機付けるような記載はない。また、引用化合物120発明の化合物において、このような置き換えをすることが、本願優先権主張の日前の当業者における技術常識であったということもできない。 なお、引用化合物120発明の化合物を、その一般式である引用文献1の式(I)に照らし合わせてみると、式(I)には、引用化合物120発明の「>N-フェニル基」の部分に対応する「T」の選択肢として、「C(R^(1))_(2)」、「O」又は「S」が開示されているところである。 しかしながら、既に前記1(1)イに記載したとおり、引用文献1に記載された式(I)は、(ア)一般式の形式で記載され、(イ)当該一般式が膨大な数の選択肢を有する。そして、(ウ)当業者が、引用化合物120発明のうち、特に「>N-フェニル基」の部分に着目し、これに換わるものとして式(I)の「T」の選択肢のうち「C(R^(1))_(2)」、「O」又は「S」を積極的あるいは優先的に選択すべき事情があるともいえない。 そうしてみると、引用化合物120発明(主引用発明)に対して、引用文献1に記載された式(I)の「T」を「C(R^(1))_(2)」、「O」又は「S」とする特定の選択肢に係る技術的思想を抽出することはできず、これを副引用発明と認定することはできないというべきである。 いずれにせよ、たとえ当業者といえども、引用化合物120発明に基づいて、本件発明12の一般式(12)の要件を満たす化合物に到ることができたということはできない。 ウ むすび 以上のとおりであるから、本件発明12は、引用化合物120発明と同一であるということはできない。また、本件発明12は、当業者であっても、引用化合物120発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (2)本件発明1?11、13?15 本件発明1?11は、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を含む有機層を発明特定事項としている。また、本件発明13は、本件発明12について、その選択肢を、一般式(12)を含む一部の選択肢に限定した発明である。さらに、本件発明14も、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を発明特定事項としている。そして、本件発明15も、本件発明14に対し、本件発明13と同様の限定を行ったものである。 そうすると、本件発明1?11、13?15は、本件発明12と同じ理由により、引用化合物120発明と同一であるということはできない。また、本件発明12と同じ理由により、当業者であっても、引用化合物120発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?15は、引用化合物120発明と同一の発明ではなく、また、当業者であっても、引用化合物120発明に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。 3 引用化合物3発明 (1)本件発明12 ア 対比 本件発明12と引用化合物3発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致している。 [相違点3]本件発明12の一般式(11)の化合物は、「Y^(B1)がNR^(3)であるとき、R^(3)とR^(B1)が一緒になって環状構造を形成することはない。」(但し、R^(3)は、置換基を表し、R^(B1)は、水素原子または置換基を表す。)とされているのに対し、引用化合物3発明は、「Y^(B1)」に対応する部分が「NR^(3)」であり、R^(3)とR^(B1)が一緒になって環状構造を形成した化合物である点。 イ 判断 上記[相違点3]について検討すると、引用文献2には、化合物3について、「この化合物の適切な置換誘導体は、電荷輸送を含む応用に有望な成分として、及び、強い2光子吸収を伴う蛍光発色団を含む蛍光発色団のための効率的な電子供与部位として、役立つ。」と記載されているだけであり、環状構造を形成しないものとすることについては、何ら示唆されていない。 そうすると、当業者であっても、引用化合物3発明の化学構造を、環状構造を形成しないものに変更し、本件発明12とすることが容易になし得たということはできない。 ウ むすび 以上のとおりであるから、本件発明12は、引用化合物3発明と同一であるということはできない。また、本件発明12は、当業者であっても、引用化合物3発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (2)本件発明1?11、13?15 本件発明1?11は、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を含む有機層を発明特定事項としている。また、本件発明13は、本件発明12について、その選択肢を、一般式(11)を含む一部の選択肢に限定した発明である。さらに、本件発明14も、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を発明特定事項としている。そして、本件発明15も、本件発明14に対し、本件発明13と同様の限定を行ったものである。 そうすると、本件発明1?11、13?15は、本件発明12と同じ理由により、引用化合物3発明と同一であるということはできない。また、本件発明12と同じ理由により、当業者であっても、引用化合物3発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?15は、引用化合物3発明と同一の発明ではなく、また、当業者であっても、引用化合物3発明に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。 4 引用化合物6発明 (1)本件発明12 ア 対比 本件発明12と引用化合物6発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致している。 [相違点4]本件発明12の一般式(15)の化合物は、「R^(3)とR^(F12)が一緒になって環状構造を形成することもない」(但し、R^(3)は、置換基を表し、R^(F12)は、水素原子または置換基を表す。)とされているのに対し、引用化合物6発明は、「Y^(F1)」に対応する部分が「NR^(3)」であり、R^(3)とR^(F12)が一緒になって環状構造を形成した化合物である点。 イ 判断 上記[相違点4]について検討すると、引用文献2には、化合物3の対称異性体である化合物6について、その化学構造を変更することについて何ら示唆されていない。 そうすると、当業者であっても、引用化合物6発明の化学構造を変更し、本件発明12とすることが容易になし得たということはできない。 ウ むすび 以上のとおりであるから、本件発明12は、引用化合物6発明と同一であるということはできない。また、本件発明12は、当業者であっても、引用化合物6発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (2)本件発明1?11、13?15 本件発明1?11は、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を含む有機層を発明特定事項としている。また、本件発明13は、本件発明12について、その選択肢を、一般式(15)を含む一部の選択肢に限定した発明である。さらに、本件発明14も、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を発明特定事項としている。そして、本件発明15も、本件発明14に対し、本件発明13と同様の限定を行ったものである。 そうすると、本件発明1?11、13?15は、本件発明12と同じ理由により、引用化合物6発明と同一であるということはできない。また、本件発明12と同じ理由により、当業者であっても、引用化合物6発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?15は、引用化合物6発明と同一の発明ではなく、また、当業者であっても、引用化合物6発明に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。 5 引用化合物7発明 (1)本件発明12 ア 対比 本件発明12と引用化合物7発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致している。 [相違点5]本件発明12の一般式(12)の化合物は、「Y^(C1)はCR^(1)R^(2)、O、SまたはSe」(但し、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に置換基)を表すとされているのに対し、引用化合物7発明は、「Y^(C1)」に対応する部分がNR^(3)である化合物である点。 [相違点6]本件発明12の一般式(15)の化合物は、「R^(3)とR^(F4)が一緒になって環状構造を形成することはな」い(但し、R^(3)は、置換基を表し、R^(F4)は、水素原子または置換基を表す。)とされているのに対し、引用化合物7発明は、「Y^(F1)」に対応する部分が「NR^(3)」であり、R^(3)とR^(F4)が一緒になって環状構造を形成した化合物である点。 イ 判断 引用化合物7発明について、一般式(12)の「Y^(C1)」に該当する部分構造を、「CR^(1)R^(2)、O、SまたはSe」とすること、あるいは、一般式(15)のR^(3)とR^(F4)が一緒になって環状構造を形成している部分を、環状構造を形成しないものとすることが、当業者にとって容易になし得たことであるかについて検討すると、引用文献2には、化合物3の非対称異性体である化合物7について、その化学構造を変更することについて何ら示唆されていない。 そうすると、当業者であっても、引用化合物7発明の化学構造を変更し、本件発明12とすることが容易になし得たということはできない。 ウ むすび 以上のとおりであるから、本件発明12は、引用化合物7発明と同一であるということはできない。また、本件発明12は、当業者であっても、引用化合物7発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (2)本件発明1?11、13?15 本件発明1?11は、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を含む有機層を発明特定事項としている。また、本件発明13は、本件発明12について、その選択肢を、一般式(12)及び(15)を含む一部の選択肢に限定した発明である。さらに、本件発明14も、本件発明12と同じ「一般式(10)?(17)のいずれかで表される化合物」を発明特定事項としている。そして、本件発明15も、本件発明14に対し、本件発明13と同様の限定を行ったものである。 そうすると、本件発明1?11、13?15は、本件発明12と同じ理由により、引用化合物7発明と同一であるということはできない。また、本件発明12と同じ理由により、当業者であっても、引用化合物7発明に基づいて、容易に発明をすることができたということもできない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?15は、引用化合物7発明と同一の発明ではなく、また、当業者であっても、引用化合物7発明に基づいて、容易に発明をすることができたものでもない。 第7 原査定についての判断 前記第6に記載したとおりであるから、本件補正により補正された本件発明1?15は、引用化合物30発明、引用化合物120発明、引用化合物3発明、引用化合物6発明又は引用化合物7発明のいずれとも同一の発明ではない。また、当業者であっても、引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 第8 当審拒絶理由についての判断 引用出願1は、令和元年6月21日に、出願取下がなされた。 したがって、当審拒絶理由は解消された。 第9 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?15は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえない。 したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-08-14 |
出願番号 | 特願2017-128415(P2017-128415) |
審決分類 |
P
1
8・
4-
WY
(H05B)
P 1 8・ 121- WY (H05B) P 1 8・ 113- WY (H05B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 岩井 好子 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
宮澤 浩 河原 正 |
発明の名称 | 有機電界発光素子、有機電界発光素子用材料、並びに、該素子を用いた発光装置、表示装置、照明装置及び該素子に用いられる化合物 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |